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1 15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke (脳卒中後嚥下障害と誤嚥) Robert Teasell MD, Norine Foley MSc, Rosemary Martino, PhD, Sanjit Bhogal MSc, Mark Speechley PhD Key Points 急性期の脳卒中後には嚥下障害や誤嚥は高い確率で発生する VMBS 研究は嚥下障害と誤嚥を診断する唯一の確かな手段である 急性期脳卒中後の不顕性誤嚥(Silent Aspiration)の確率は高い 脳卒中後の肺炎のリスクは,誤嚥の重症度と関係している すべての脳卒中後患者は,訓練された評価者が嚥下能力を評価するまで絶食すべきである. スクリーニングに失敗した場合,言語聴覚士への紹介によって,さらなる評価と治療がなされるべ きである 食事援助は,リスクが低い食事方法であり,訓練された人が供給すべきである.嚥下障害患者はで きる限り自分で摂食すべきである. 嚥下食は,固形食と肥厚性の流動食を混ぜ合わせ調整したテクスチャーから構成され,それらは, 誤嚥性肺炎の発症率を減尐させることに役立つ ニフェジピン(Nifedipin)TMS,頭部回旋法は嚥下メカニズムを改善することが可能である.一 方,感覚刺激法では改善しない. 脳卒中患者が口からの栄養摂取が困難な場合,経管栄養は必要となるだろう.死や不良転機が経鼻 管栄養や胃癆の使用と関連しているかについて,相異はなかった. 電気刺激が脳卒中後の嚥下機能を改善させるかどうかは不明確である.

15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke(脳卒中後嚥下 …a.matsuo/pdf/a15.pdf · 4 15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke (脳卒中後の嚥下障害と誤嚥性肺炎)

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15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke(脳卒中後嚥下障害と誤嚥)

Robert Teasell MD, Norine Foley MSc, Rosemary Martino, PhD, Sanjit Bhogal MSc, Mark Speechley PhD

Key Points

急性期の脳卒中後には嚥下障害や誤嚥は高い確率で発生する

VMBS 研究は嚥下障害と誤嚥を診断する唯一の確かな手段である

急性期脳卒中後の不顕性誤嚥(Silent Aspiration)の確率は高い

脳卒中後の肺炎のリスクは,誤嚥の重症度と関係している

すべての脳卒中後患者は,訓練された評価者が嚥下能力を評価するまで絶食すべきである.

スクリーニングに失敗した場合,言語聴覚士への紹介によって,さらなる評価と治療がなされるべ

きである

食事援助は,リスクが低い食事方法であり,訓練された人が供給すべきである.嚥下障害患者はで

きる限り自分で摂食すべきである.

嚥下食は,固形食と肥厚性の流動食を混ぜ合わせ調整したテクスチャーから構成され,それらは,

誤嚥性肺炎の発症率を減尐させることに役立つ

ニフェジピン(Nifedipin)や TMS,頭部回旋法は嚥下メカニズムを改善することが可能である.一

方,感覚刺激法では改善しない.

脳卒中患者が口からの栄養摂取が困難な場合,経管栄養は必要となるだろう.死や不良転機が経鼻

管栄養や胃癆の使用と関連しているかについて,相異はなかった.

電気刺激が脳卒中後の嚥下機能を改善させるかどうかは不明確である.

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Table of Contents

Key Points ..……..………………..……………………………………………………………….1

15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke ...………………………………………………3

15.1 Normal Swallowing ...………………………….……………………………………….…….…..3

15.2 Pathophysiology of Dysphagia ..………………..……….…………………….………….…...5

15.3 Aspiration Associated with Dysphagia …………….…………………………..…………….6

15.3.1 Silent Aspiration Post Stroke ...……………………………………………........................................6

15.4 Incidence of Dysphagia Post Stroke …...…………………………………………….………7

15.4.1 Acute Phase of Stroke …...……………………….……………………………………………….……7

15.4.2 Incidence of Aspiration Following Stroke …….………………………………………………….……9

15.4.3 The Prevalence of Dysphagia in the Rehabilitation Stage Post Stroke …………………….……12

15.5 Pneumonia and Aspiration Post Stroke …………………………………...…………….…14

15.5.1 Defining Aspiration Pneumonia …………………………………………….……...…...……..……..15

15.5.2 Relationship Between Pneumonia and Dysphagia/Aspiration …………………..…..…...….……15

15.6 Non-Instrumental Methods for Screening and Assessment of Dysphagia Following

Stroke ………………………………………………………………………………………………..…17

15.6.1 Clinical Screening Methods ……………………………………………….….……………...…..……18

15.6.2 The Water Swallowing Test ………………………………………………….……………...……...…22

15.6.3 Swallowing Provocation Test (SPT) ……………………………………………………………….…24

15.6.4 The Bedside Clinical Examination for Assessment of Dysphagia ……...………...……..…..……25

15.6.5 Other Methods .…...…………………………………………………………..…….………….………26

15.7 Instrumental Methods Used in the Detection of Dysphagia/Aspiration ……….…..…27

15.7.1 VMBS Examination ….……………………………………………………….….……....................…27

15.7.2 Flexible Endoscopic Evaluation of Swallowing (FEES) ………………….…………..................…28

15.7.3 Pulse Oximetry …………………………………………………………………………………....……29

15.8 Management of Aspiration Post Stroke ……………………………………………....……31

15.8.1 Management Strategies for Dysphagia ………………………………………………………...……32

15.8.2 Best Practice Guidelines for Managing Dysphagia ………………………………..……….………32

15.8.3 Dysphagia Screening Protocols ………………………………………………..…………….………34

15.8.4 Low-Risk Feeding Strategies for Dysphagia ……………………………………..………….……...35

15.9 Specific Interventions to Manage Dysphagia …………………………………..…………36

15.9.1 Dietary Modifications ………………………………………………………….………………….……37

15.9.2 Swallowing Treatment Programs …………………………………………….……….......................41

15.9.3 Non-Oral Feedings ………………………………………………………….……………………....…43

15.9.4 Selection of Feeding Tubes ………………………………………………….……........................…47

3

15.9.5 Transcutaneous Electrical Stimulation ……………………………………………………….…...…51

15.9.6 Alternative Interventions ………………………………………………………………………………54

15.10 Summary …………………………………………………………….....................................60

References …………………………………………………………………………………………….62

4

15. Dysphagia and Aspiration Post Stroke (脳卒中後の嚥下障害と誤嚥性肺炎)

嚥下障害は嚥下が困難である状態と定義されており,一般的に脳卒中の合併症である.発症率は,急性期の

脳卒中患者において 29-67%の割合で報告されている(Martino et al.2005).発症率のばらつきは嚥下評価のタ

イミングや評価法の相違が関与しており,嚥下障害は医学的試験や X 線試験,または,その両方を根拠とし

て決定される.

脳卒中後患者における嚥下障害は死亡率や栄養失調や脱水,pulmonary compromise の罹患率を増加させると

報告されている(Smithard et al. 1996, Barer 1989, Kidd et al. 1995, Finestone et al. 1995, Teasell et al. 1994,

Gordon et al. 1987, Schmit et al. 1994, Sharma et al. 2001).急性期の脳卒中患者において,嚥下障害を発見

し管理することは肺炎のリスクや入院期間,最終的な医療費を減尐させるというエビデンスがある(Smithard

et al.1996).

脳卒中後の誤嚥は,そのほとんどが医学的に重大な嚥下障害の兆候であるが,肺炎や敗血症,死亡につなが

る.Silver ら(1984)と Bounds ら(1981)は,急性期の脳卒中患者において,肺炎は 2 番目に多い死亡原因であ

ると報告しており,誤嚥性肺炎となってから 1 年の間に,脳卒中に関連する嚥下障害となった患者の 20%以

上が死亡している(Schmidt et al.1988).Steele(2002)は嚥下が困難な人の多くは長期間の入院を要することを

報告している.不顕性誤嚥や顕性誤嚥の発見,およびその後の管理戦略は肺炎予防に重要であると考えられ

ている(Horner and Massey 1988a, Horner et al. 1988b, Logemann 1983, Teassell et al.1996, Tobin 1986,

Veis and Logemann 1985).嚥下障害の管理は脳卒中後誤嚥の回避に焦点が絞られている.

15.1 Normal Swallowing(正常嚥下)

嚥下は 4 つの協調的な相から成る:口腔準備相,口腔推進相,咽頭相と食道相である.それぞれの相は以下

に記載する.

Oral Preparatory Phase.

この相において,口腔中の食物は嚥下の準備段階として調整し咀嚼される.舌の背面は咽頭内に食物が落ち

ないように,食物の位置をコントロールする(Jean et al.2001).

Oral Propulsive Phase.

口腔推進相では,舌が食物の塊を咽頭へ移動させ咽頭嚥下のトリガーとなる.

Pharyngeal Phase.

咽頭相では,舌や咽頭構成物の複雑な,強調的な動きが食塊を咽頭から食道へ移動させる.声帯閉鎖や喉頭

蓋の背面への動きが食物や液体を気管に侵入するのを防ぐ.

Esophageal Phase.

食道相では,食道筋の強調的な収縮が食塊を食道から胃へ移動させる.

5

15.2 Pathophysiology of Dysphagia(嚥下障害の病態)

脳卒中後の嚥下障害は,喉頭筋の機能不全と非協調性が原因であると考えられており,次に,中枢神経シス

テムのコントロール不全であると言われている.嚥下障害のサインや徴候を以下にしめす:食事で息を詰ら

せる,食事中に咳をする,口からよだれや食物をこぼす,頬に食物を溜めこむ,ゆっくりと努力による飲み

込みをする,薬を飲むのが困難となる,食物や流動性のものを避ける,のどに食物が詰まると訴える,飲み

込みに問題がある,逆流や胸やけなどである(Schmidt et al.1994).Table 15.1 は病態生理学を評価した研究結

果を要約したものである.

Conclusions Regarding the Pathophysiology of Dysphagia (嚥下障害の病態に関する結論)

脳卒中後嚥下障害は咽頭期における遅延と機能低下が特徴である.嚥下障害の発生率は脳幹や両側性の脳卒

中後により大きくなるが,片側性の脳卒中後でも嚥下障害はしばしば発生する.

嚥下障害は咽頭筋の協調性を低下させるという特徴がある.

6

15.3 Aspiration Associated with Dysphagia(嚥下障害に関連する誤嚥)

誤嚥は“声帯レベル下の気管から物体が侵入した状態”と定義されている.嚥下障害を合併している多くの

脳卒中患者が誤嚥しない理由として,2 つの要因(嚥下障害と脳卒中)は密接した関係にあるが,同じではな

いと言われている.誤嚥の診断は,脳卒中患者が以下のような状態の時に疑うべきである:嚥下のトラブル

の主観的な訴え,異常なレントゲン画像,つまったような声質,自発的な嚥下反射開始の遅延や嚥下中や嚥

下後の咳などがあげられる(Honer et al 1988b).診断は,最初に一杯や数杯のティースプーンの水を導入する

ような口腔部の運動機能を含む医学的な評価をもってなされる.もし,患者がこのような最小限の量の液体

を正しく嚥下できたならば,尐量の水を注意深く導入する.完全な評価は他の方法で実施される(Smithard et

al. 1996).一方,すべての脳卒中患者は誤嚥の可能性があり,誤嚥の可能性が非常に高いとして理解するこ

とが,特定可能なリスク要因である.このような医学的なリスク要因は Table 15.2.にまとめている.

15.3.1 Silent Aspiration Post Stroke(脳卒中後不顕性誤嚥)

のどのつまり感や咳などのような誤嚥の徴候に付加して,多大な数の患者が不顕性誤嚥を経験しており,

VMBS を使用した研究の有用性が注目されている.“Silent Aspiration(不顕性誤嚥)”は“声帯以下への食物

の侵入であり,咳や外部の徴候がない”と定義されている(Linden and Siebens 1983).医学的嚥下評価の詳

細は,診断後に示されるが,このような誤嚥のケースは見落とされることが多い(Horner and Massey 1988a,

Horner et al. 1988b, Splaingard et al. 1988b, Terre & Mearin 2006).特に,Gag 反射の有無は,脳卒中後嚥下

障害患者ではない人から嚥下障害患者を区別することを誤らせる (Horner and Massey 1988a,Horner et

al.1988b,Splaingard et al.1988).不顕性誤嚥は合併症リスクを増加させると考えられている.不顕性誤嚥と

診断されなければ,誤嚥リスクを減尐させるための予防策はない.下部気道障害や慢性的な感染症,低い熱

発や白血球増加症を伴うような脳卒中患者では,不顕性誤嚥は疑うべきである(Muller-Lissner et al.1982).不

顕性誤嚥の医学的マーカーは,嚥下後の声や咳の弱化,嗄声が含まれる.

7

15.4 Incidence of Dysphagia Post Stroke

15.4.1 Acute Phase of Stroke

Table 15.3 は,急性期とリハビリテーション期脳卒中患者の嚥下障害を評価する医学的方法として使用され

た様々な研究をまとめている.

8

9

医学的および VMBS (Videofluoroscopic modified barium swallow)の両方を使用した急性期脳卒中における嚥

下の status 評価は上記にまとめられている.この研究では,嚥下障害の発症率は 19%-65%の幅がある.

Conclusion Regarding the Incidence of Dysphagia(Acute)(急性期嚥下障害の発症率に関する結論)

嚥下障害の発症率は,急性期の脳卒中後に 1/3-2/3 の割合で,非常に高い確率で現れ,それらは,症例検討や

評価法を使用に基づいている.

15.4.2 Incidence of Aspiration Following Stroke(脳卒中後誤嚥の発症率)

医学的および X 線技術を併せた方法を用いて脳卒中後の誤嚥と不顕性誤嚥の発生率が算出されている研究が

いくつか報告されている(see Table 15.4).

急性期脳卒中後の嚥下障害は高い発生率である.

10

11

12

Discussion

誤嚥は急性期脳卒中の評価にて,VMBS を使用して決定される.また,発生率は 30%-51%である.不顕性誤

嚥については,5 研究が報告している.不顕性誤嚥の発生率は,8% (Kidd et al.1995)-27% (Horner et al.1988b)

まで幅がある.

Conclusions Regarding the Incidence of Aspiration Using VMBS(VMBS による誤嚥発症率に関する結論)

誤嚥の発生は急性期脳卒中患者において 30%-51%まで幅がある.

Conclusion Regarding Silent Aspiration(不顕性誤嚥に関する結論)

9-27%の急性期脳卒中患者が不顕性誤嚥で,VMBS のみによって発見される.誤嚥患者の 1/3-1/2 の間が不顕

性誤嚥であると考えられる.

15.4.3 The Prevalence of Dysphagia in the Rehabilitation Stage Post Stroke. (脳卒中後嚥下障害の予防)

脳卒中急性期を過ぎても持続している嚥下障害の有病率を調査した研究は尐ない.リハビリテーション期に

焦点を当てた 5 研究の結果を Table15.5 にまとめている.

脳卒中後の誤嚥は一般的である.脳卒中後の不顕性誤嚥の発生率は高い.

13

Discussion

脳卒中リハビリテーションに参加しているが採用されなかった5標本では,異なる評価技術を使用した結果,

嚥下障害の有病率は 28-59%であった.もし,脳幹梗塞から回復している人々を患者選択として制限している

研究であれば,有病率の割合は有意に高くなるだろう (Chua et al. 1996-40%, Teasell et al. 2002-55%, Meng

et al. 2000-81%).

14

Conclusions Regarding the Prevalence of Dysphagia in the Rehabilitation Stage of Stroke(リハビリテ

ーション期における嚥下障害予防に関する結論)

高い割合の患者が持続する嚥下障害を伴った状態でリハビリテーションを目的として入院している.

15.5 Pneumonia and Aspiration Post Stroke(脳卒中後肺炎と誤嚥)

VMBS を基に,食塊のテストの 10%以上誤嚥する患者や重度の口腔・咽頭の運動性に問題がある患者は肺炎

の危険性が高いと考えられている(Logemann 1983, Milazzo et al. 1989).多くのケースで,食塊が 10%もし

くはそれ以上誤嚥しているかどうかを実践的に評価することは難しい.それでもなお,VMBS から考えられ

る誤嚥の程度は患者治療の重大な決定因子となる.患者が誤嚥後,肺炎に進行するのかどうかを予見するこ

とは,ある程度ではあるが,脳卒中後の免疫状態やジェネラルヘルスのような他要因に依存している.Sellars

ら(2007)は 412 人の脳卒中患者を発症後 3 ヶ月間前向きに評価した.結果として,160 人の患者が肺炎と診

断されるか,もしくは疑われた.肺炎の独立した予期要因としては,65 歳以上で,構音障害があるか失語に

よる発語困難,Modified Rankin Scale が 4 以上,Abbreviated Mental Test score が 8 以下,そして,水飲み

テストを失敗するような人である.このような危険要因が 2 つ以上あると感度 90.9%,特異度 75.6%の確率

で肺炎に進行する.

脳卒中後誤嚥の診断と治療で重要性は,誤嚥と肺炎の因果関係によって導かれる(Brown and Classenberg

1973, Hanning et al. 1989, Holas et al. 1994, Johnson et al. 1993).事実,脳卒中後の肺炎による死亡率は始

めの 3 ヶ月で 3%であり(Kidd et al.1995),1 年では 6%程度であると報告されている(Hanning et al. 1989).

さらに,誤嚥性肺炎は罹患率と死亡率と深く関係しているため,重要であると考えられている(Arms et al.

1974, Gordon et al. 1987, Hanning et al. 1989, Johnson et al. 1993, Logemann et al. 1983, Silcer et al. 1984,

Veis and Logemann. 1985).

誤嚥のみでは肺炎の原因として不十分である.睡眠中の尐量の唾液誤嚥は,正常人でもほとんど半分が起こ

りうる(Finegold 1991, Huxley et al. 1978).過度の,有毒性のある胃の内容物が気管に侵入し,局所的な感染,

もしくは,化学性肺炎の原因となり,誤嚥性肺炎は,肺の生理的な防御作用の限界を超えた結果として起こ

ると考えられている.誤嚥性肺炎のリスクが増加する要因を示す:嚥下障害は脳卒中と関連しており,意識

レベルの減尐や気管開口術,胃反射や嘔吐,鼻腔栄養,免疫システム(Finegold, 1991)も同様である.しかし

ながら,どの程度口腔咽頭の内容物の誤嚥が肺炎と関係するのかははっきりとはわかっていない(Langdon et

al. 2009).

15

15.5.1 Defining Aspiration Pneumonia(誤嚥性肺炎の定義)

誤嚥性肺炎の医学的基準はさまざまであることがわかっている(Table 15.7).

研究における誤嚥の発生率は様々であり,肺炎診断のための採用基準は異なっていることが原因であると説

明されている.

15.5.2 Relationship Between Pneumonia and Dysphagia/Aspiration (肺炎と嚥下障害/誤嚥の関係)

肺炎と嚥下障害/誤嚥の関係はかなりあやふやである.Nakajoh ら(2004)は減弱した咳嗽反射が患者の肺炎リ

スクを増加させると報告している.嚥下障害による肺炎の発症率は,脳卒中後の寝たきりの患者で尐なくと

も 6 カ月が経過している人の 9/14(63%)に起こっている.嚥下反応の潜時は,EMG と観察から認められ

るが,20 秒以上を要する.対比して,嚥下反応潜時は嚥下障害のない患者では 4 秒以下である.肺炎と嚥下

障害,誤嚥の関係については多くの研究でオッズ比を用いて議論されている.Table15.8 と 15.9,そして図

15.1 と 15.2 が,その結果を示している.すべての症例において,Figure15.2 & 15.3 の結果から判断すると,

16

嚥下障害および誤嚥のある患者の肺炎発症率は高い.誤嚥があれば,4.5 倍の肺炎リスクを呈することがわか

っており,一方,嚥下障害では肺炎リスクは 3 倍となる.

Conclusions Regarding the Relationship Between Aspiration and Pneumonia(誤嚥と肺炎の関係に関す

る結論)

嚥下障害と誤嚥は共に肺炎への進行のオッズを増加させる.肺炎進行のリスクは誤嚥の重症度と比例してい

ることが明らかとなった.

脳卒中後肺炎に進行するリスクは,誤嚥の重症度に比例する

17

15.6 Non-Instrumental Methods for Screening and Assessment of Dysphagia Following Stroke(脳

卒中後嚥下障害のスクリーニングや評価に対する計測機器を使用しない方法)

脳卒中患者は急性期の脳卒中と診断された場合,可及的迅速に嚥下障害のスクリーニングテストをすべきで

あり,経口摂取を許可する前に,応急処置をする必要がある.理想的には,スクリーニングは脳卒中患者が

覚醒後すぐに実施すべきである.スクリーニングをパスした脳卒中患者は,有意に嚥下困難なものとはこと

なっており,嚥下障害による合併症のリスクは非常に小さい.スクリーニングで問題があった人は検査され

るまで絶食を維持し,可能であれば脳卒中発症後 3 日以内に絶食すべきである.一方,障害の詳細について

判定するようなスクリーニングは,嚥下の問題の重症度を決定し,最適な治療戦略を確認することができる.

評価は,ベッドサイドの試験や VF のような機器を使用した検査が含まれる(Heart and Stroke Foundation of

Ontario 2002).嚥下障害のためのスクリーニングや評価の一般的な方法は,以下のセクションで述べる.

18

15.6.1 Clinical Screening Methods(医学的スクリーニング法)

Healthcare Research and Qualityは“Evidence Report/Technology Assessment on Diagnosis and Treatment of

Swallowing Disorders in Acute-Care Stroke Patinets”を 1999 年に出版した.このグループが出した結論のひ

とつは,正確に嚥下障害患者を発見できるような優れたスクリーニングはないということである.それにも

関わらず,数多くのスクリーニングツールが作成されている.このようなスクリーニングテストのほとんど

は 2 つの(もしくはそれ以上の)要因を含んでいる.一般的に,嚥下試行にはいくつかの形式が存在し,そ

れらはアンケートや事前検査によって先行される.このようなツールの最も知られている説明は Table15.10

に示されている.

19

20

21

他要因のテストにつけ加えて,独立した試験は嚥下障害のスクリーニングとして使用されている.我々は下

に上げた表のような 2 つの飲水試験を議論する.

22

15.6.2 The Water Swallowing Test(水飲み試験)

水飲みテストは大規模で調査されている.水飲みテストは,独立したスクリーニング法として,そして医学

的嚥下試験や評価として使用されている.一方,オリジナルテストは患者に 3 オンス(90ml)の水を飲み込む

ことを要求し,飲み込む水の量が尐ない方法も存在する.研究結果から,この検査法の評価については,

Table15.11 に詳細が記されている.

23

24

15.6.3 Swallowing Provocation Test (SPT)(嚥下誘発試験)

嚥下誘発試験(SPT)は,2 つのステージからなるスクリーニング試験であり,0.4ml から 2.0ml の蒸留水を小

さな鼻腔カテーテル(直径 0.5mm)を通して喉頭上部へ注入する方法である.この方法は自発的ではない

(involuntary)嚥下を誘導する.水を注入してから嚥下が始まるまでの時間を潜在時間とし,それらは特異的な

咽頭運動として視覚的に同定され,ストップウォッチで測定された.SPT の反応は,注水から嚥下反射の誘発

によって,正常と異常に組分けられる.次に時間は正常と異常を区別するカットオフポイントとして適用さ

れる.

我々は嚥下障害や誤嚥を発見する援助として,様々な技術やツールを持っている.患者がスクリーニングテ

ストで失敗し,問題があると決定されると,一般的にはより包括的な評価が行われる.

医学的に有益性のためには,スクリーニングテストは有効であり,信頼性があり,簡易であり,非侵襲的であ

り,短時間(15-20 分)で評価でき,そして,患者にリスクがないことが条件である.多くのスクリーニング

ツールは開発されているが,これらスクリーニングツールで,どれくらいの数が公共機関で使用されている

25

のかははっきりとはしない.公共機関の多くは,非公式ではあるが,SLP により評価が完了するまではすべ

ての飲食物は禁止されている.我々が調査したツールにおいて,広範囲の感度であった(0%-100%).常に,

感度が増加すれば,特異度は減尐し,すなわち誤って嚥下障害と診断される患者の数が増加する.一般的に

スクリーニングツールの感度,特異度は 80%以上であり,この数字が妥当で医学的有用であると考えられて

いる.主要なツールは上記基準に合致している.

Martino ら(2000)のシステマティックレビューによると,口腔咽頭期嚥下障害に対する 49 の医学的スクリー

ニング検査の正確性について調査し,2 つの検査法を支持する根拠が示された:異常な咽頭感覚と 50ml 飲水

テストである.この 2 つの検査法は誤嚥の有無のみ評価できる.スクリーニングの利点について制限された

根拠があり,肺炎や入院期間,職員や患者の負担の減尐が報告されている.

15.6.4 The Bedside Clinical Examination for Assessment of Dysphagia(嚥下障害の評価に対するベッド

サイド試験)

医学的な,もしくはベッドサイドでの嚥下評価はいくつかの形式があり,スクリーニングや評価を目的とし

て記載されている.これらのいくつかは特異的な機能や課題に焦点が当てられており,一方,他はより包括

的な手法を使って嚥下能力を評価している.このような方法には,水飲み試験が含まれる場合もあり,また

含まれない場合もある.このような方法の多くは明らかにスクリーニングの区分として記載されており,一

般的な評価法と共通している(Table 15.13).

26

15.6.5 Other Methods(他の方法)

伝統的な評価法に追加して,Tracheal PH monitoring もまた pH の下降によって判定するもので,実験的に使

用され,誤嚥を診断する.Claytonら(2006)は 32人中 9人の患者が調査され,酸性食物の経口摂取後にTracheal

pH が下降することを報告した.Tracheal pH はセンサーによってモニターされ,輪状甲状膜に Tracheal を挿

入する.すべての患者は経口摂取後調査され,VMBS 試験を基に安全であると確認された.

他の医学的な評価法は,誤嚥の有無の判定に使用されている.近年,Ryu ら(2004)は 93 人の患者に対してゴ

ールドスタンダード診断である VFS を使用し,喉頭侵入を予見する手段として声質分析を調査している.5

つの声質パラメーター(average fundamental frequency, relative average perturbation, shimmer percentage,

noise-to-harmonic ratio, and voice turbulence index)が調査され, relative average perturbation が最も正確に

誤嚥を予見した.

頸部聴診や頸側部の軟部組織のレントゲン写真,咽頭や食道の圧力は嚥下障害の診断法として使用されてい

る(Ramsey et al. 2003 のレビュー).

一方,ベッドサイドの評価や他の非侵傷法は簡単に実施できるが,これらの方法は不顕性誤嚥の存在を予見

できないことがわかっている.Smith ら(2000)は,誤嚥はベッドサイドの評価を用いて咽頭侵入とは区別でき

ないと報告しており,結果として,誤嚥を過剰に診断してしまい,症例によっては,不必要な食事制限をす

27

ることとなる.その上,機器による評価は嚥下のメカニズムを観察するために使用されている.

Conclusions Regarding Dysphagia Screening and Non-instrumental Assessment Techniques(嚥下障

害のスクリーニングと機器を使用しない評価法に関する結論)

多種のスクリーニングや評価法は有効であるが,嚥下障害を正確に判定するために,条件を満たすほどの感

度や特異性があるものはない.

15.7 Instrumental Methods Used in the Detection of Dysphagia / Aspiration(嚥下障害や誤嚥を判定

する機器を使用した方法)

15.7.1 VMBS Examination(VMBS 試験)

誤嚥が疑われるとき,診断の確定には,VMBS の実施がゴールドスタンダードとして考えられている

(Splaingard et al. 1988).VMBS は嚥下の口腔や咽頭相に対して実施される.患者は認知機能が十分あり,

テストを実行するにあたっての身体機能があることが必要とされる(Bach et al. 1989).被検者は椅座位にて,

いつもの食事姿勢をシミュレートされる.X 線不透過性のさまざまな物質が評価される:バリウムをまぜた

液体,プリン,パン,クッキーが一般的に使用されている.口腔,咽頭や喉頭を含むさまざまな側面から X

線写真の評価を通じて調査される.気管支内へ誤嚥した場合,VMBS は胸部 X 線によってバリウムが記録さ

れる.VMBS は誤嚥の存在と進行を発見するだけでなく,嚥下の障害メカニズムを明らかにする.誤嚥は,

ほとんどの場合,喉頭閉鎖や咽頭感覚の減尐に関連する咽頭相の機能不全が原因である.VMBS は以下のよ

うなケースで推奨されている.適切な水分や栄養が維持されているが明らかに問題のある患者や,食事中咳

をする人,もしくは呼吸器感染症が再発した人である.他の要因としては,認知機能や脳卒中の再発,鬱状

態,免疫不全,そして肺疾患などが考えられる.VMBS が必要かどうかを決定する明確な基準は系統的かつ

科学的な基準に従い決定される.反復した VMBS は患者の進行や予後に基づいて,SLP や MD により実施さ

れる.標準的な再評価のスケジュールはない.

28

VMBS は嚥下中の解剖学的構成体を分析したり,不顕性誤嚥を判定する点において有益であるが,いくつか

の欠点が存在する:i)機器が複雑で,時間を消費する;ii)尐ない量の被爆がある;iii)直立の椅座位が困難

な患者に対しては適切なテストではない等である.テストの結果は,解釈するのが難しく,評価者個人によ

って有意な多様性が存在する(Ramsay et al. 2003).

15.7.2 Flexible Endoscopic Evaluation of Swallowing (FEES)

VMBS は誤嚥を判定するゴールドスタンダードであると考えられているが,他の医学的評価で,侵襲が尐な

く,簡単で費用がかからない方法が現在使用されている.Flexible endoscopic examination of swallowin

(FEES)は,fiber を使用した嚥下評価法であり,嚥下機能と誤嚥の客観的評価ツールとして認識されている.

検査方法については,安全であり耐容性良好であると報告されている(Warneke et al. 2009).FEES は,嚥

下機能を直接見ることができる方法である.この方法は非常に細くて柔らかいチューブを嚥下中の喉を直接

観察するために鼻から通過させる.FEES は口から喉へと食塊が通過中に,嚥下機能のすべての評価が可能

である.FEES は,起こる可能性のある機能異常を判定することが可能である.また,FEES は安全な肢位や

食事のテクスチャーを決定するための“嚥下練習”として行われており,誤嚥や安全ではない嚥下のリスクを取

り除く.

嚥下の運動要素の評価に追加して,上咽頭神経によって支配されている粘膜に空気パルスを吹きかけること

で,FEES は感覚試験を実施することができる.この評価法は,FEESST (Flexible endoscopic examination of

swallowing with sensory testing)として周知されている.FEESST は,500 人の被検者を対象とした嚥下機能

評価において,安全な手法であることが認められている.鼻からの出血が 3 件発生したが,気道を傷つける

ような出来事はなかった.この手法は,一般的に軽度の不快感があることがわかっている(Aviv ら,2000).

29

Aviv ら(2000)は VMBS と FEES を実施した患者で,1 年間の肺炎の発症率を比較した.脳卒中患者では,

FEESST を実施したほうが,肺炎の発症率は有意に低かった.筆者らは,発症率が低い理由の一つとして,

FEES には VMBS にはない感覚テストが含まれており,より効果的な情報が得られることが原因であると仮

説を立てた.

Leder & Espinosa (2002)は,VMBS と FEES の間で,嚥下の異常性の評価精度を比較しようとするよりは,

誤嚥について 6 項目(発生困難,構音障害,異常な Gag 反射,異常な自発性の咳,嚥下後の咳,嚥下後の声

質変化)を比較した.また彼らは,FEES を用いて脳卒中後の誤嚥リスクの予測に対する精度を調査した.

結果は,誤嚥のリスクを正確に決定するテストとしては良好ではなく,医学的な基準として使用することが

できなかった.ゴールドスタンダードとしての FEES を使用した 2 つの研究があり,誤嚥を判定するのに水

飲みテストとパルスオキシメーターを評価している(Lim et al. 2001, Chong et al. 2003).

15.7.3 Pulse Oximetry(パルスオキシメーター)

パルスオキシメーターは誤嚥を発見する手段として報告されており,気道への食物誤嚥は気管支痙攣や気道

閉塞を引き起こし,酸素飽和量を低下させるという原理に基づいている.この方法は,非侵傷的で,患者に

協力を必要とせず,簡単に実施できる.しかしながら,誤嚥を判定するという点で,パルスオキシメーター

の精度は良く分かっておらず,また,酸素量低下が誤嚥を予見できるかどうかはいまだにわからない.Wang

ら(2005)は,VFS 検査にて,60 人の嚥下障害患者(脳卒中後や鼻咽頭がん後)を対象に調査し,酸素飽和量

の減尐と誤嚥との間に有意な関連性はなかったと報告している.一方,Collins と Bakheit (1997)によると,

パルスオキシメーターは VMBS によって誤嚥している患者を高い割合で判定できたと報告している.

30

年齢は,酸素飽和度を予見するひとつの要因である.Rowat ら(2000)は,脳卒中患者の酸素飽和度が基準値

であれば口から食べることが安全であると考えられており,入院中の高齢者と若い健常人と比較して酸素飽

和度は有意に低い(95.7 vs. 96.7 vs. 97.9%, p<0.001).

31

パルスオキシメーターは脳卒中後の誤嚥を判定するための迅速で,非侵傷的な方法であるが,酸素の脱飽和

状態が何を意味しているのか結論はでていない.前述したように,一般的にパルスオキシメーターは VMBS

と異なり感度・特異度が低いが,将来的に証明されるだろう.

15.8 Management of Aspiration Post Stroke(脳卒中後誤嚥の管理)

前述の通り,誤嚥の診断に対して VMBS は“gold standard”として考えられている.高容量の低濃度飲料を飲

むことが難しい患者は,誤嚥リスクは軽度-中等度と考えられている.このようなケースでは,経口摂取は妥

当である.患者の経口摂取が可能かを判断するまえに,誤嚥の量やタイプに基づいた気道クリアランスを第

一に考慮すべきである(Bach et al. 1989).10%以上の食塊の誤嚥は,一般的に非経口摂取(例,経鼻胃,胃

瘻,空腸造瘻チューブ)が支持される;しかしながら,このようなグループの患者が経口摂取するのに伴う

実際のリスクは,完全に確立されているわけではない.科学的ではないが,前述したように,10%以上,も

しくは 10%以下の食塊を誤嚥するかどうかで決定される.

32

Conclusions Regarding Instrumental Methods to Detect Dysphagia Post Stroke(脳卒中後嚥下障害に対

する機器を使用した方法に関する結論)

VMBS は,不顕性誤嚥を判定するためのゴールドスタンダードとして考えられている.FEES やパルスオキ

シメーターのような他の方法もまた実施されている.

15.8.1 Management Strategies for Dysphagia(嚥下障害のための管理戦略)

The Heart and Stroke Foundation Dysphagia Guidelines では,十分に協議されたケアプランは嚥下障害の合

併症を最小限にとどめることができ,急性期の滞在期間を短縮することや特化したリハビリテーションセン

ターへの転院を迅速することが可能であると報告している.嚥下障害治療は,以下の目的がある.

●脳卒中後患者の必要な栄養と水分を満たすこと.

●誤嚥に関連する合併症を予防する

●可能な限り嚥下機能を維持,および改善させる

嚥下障害の治療戦略は以下である.

●経口摂取の安全性を増加させるため調整された食事や液体

●誤嚥や息詰まりのような合併症を予防するためにリスクが低い食事の実践と訓練

●脱水を予防するため経口摂取をモニターする

●適切な栄養分を維持するため食事の供給

●嚥下できない患者のために経腸栄養法を実施

●特異的な生理学的嚥下機能障害の再建のための嚥下治療の実行

言語聴覚士は適切な治療戦略を保障するために,嚥下障害患者の状態を常に監視すべきである(Heart and

Stroke Foundation of Ontario 2002).

15.8.2 Best Practice Guidelines for Managing Dysphagia(嚥下障害に対する最良の治療ガイドライン)

嚥下障害に対する最良の治療ガイドラインは the Heart and Stroke Foundation of Onratio (2002)により作成さ

れた.これは Table 15,17 にまとめられている.

33

Table 15.17 Best Practice Guidelines for Managing Dysphagia Post-Stroke (HSFO 2002)

Conclusions Based on Best Practice Guidelines for Managing Dysphagia(嚥下障害治療に対する最良の

実践ガイドラインの結論)

急性期脳卒中患者は嚥下能力が評価されるまでは絶食にすべきであるという一致した見解がある(Level 3).

訓練された評価者が嚥下が困難なすべての急性期脳卒中患者に対して,可及的迅速に,スクリーニング試験

をすべきであるという一致した見解がある(Level 3).

言語聴覚士は嚥下のスクリーニングテストで失敗したり,適切な治療方針が決定されたすべての脳卒中患者

を評価すべきであるという一致した見解がある(Level 3)).

低リスクの食事で訓練している患者は,食事の補助や監視がなされるべきであるという一致した見解がある

(Level 3).

栄養士は,嚥下スクリーニング試験を失敗した脳卒中患者のすべてに対して,栄養と水分の状態を評価すべ

きであるという一致した見解がある(Level 3).

すべての脳卒中患者は訓練された評価者が嚥下能力を評価するまでは絶食にすべきである.

低リスクの食事をしている患者に対して,食事介助はすべきである.

34

15.8.3 Dysphagia Screening Protocols(嚥下障害のスクリーニング)

嚥下障害スクリーニングの実施が結果として肺炎の発症率を低下させるかどうかについて,2 つの研究で調査

されている.ひとつはヒストリカル・コントロール(過去に実施された試験成績を比較の対照とすること)

で,もうひとつは,同時対照研究である(Table 15.18).

スクリーニング試験にて問題があると判断された場合,すべての患者は言語聴覚士によって評価され,適

切な治療計画を始めるべきでる.

35

嚥下障害スクリーニングプログラムが肺炎の発症率を低下させ,診断と,その後の嚥下困難に対する治療を

早めることができる.Lakshminarayanら(2010)の研究における選別されていない患者は,選別され

た患者と比較して,肺炎のリスクがより低かったが,失敗したという事実は,脳卒中の重症度が,

スクリーニングで選択される患者を決定する要因であることを示唆する(つまり,明らかに機能障

害のある患者が,嚥下障害があるとみなされスクリーニングされない).著者らは,臨床的判断は

適切でなく,決まった嚥下障害のスクリーニングの実施が支持されないということを示唆した.

Couclusions Regarding the Benefits of Dysphagia Screening Protocols(嚥下障害に対するスクリーニ

ングに関する結論)

嚥下障害のスクリーニングは肺炎の発症率を低下させるという制限されたエビデンスがある(Level 2).

15.8.4 Low-Risk Feeding Strategies for Dysphagia(嚥下障害のための低リスク食の供給戦略)

The Heart and Stroke Foundation Dysphagia Guidelines は,“脳卒中患者は自分自身で食事する事を促し,

援助すべきであると記されている.食事を食べさされている嚥下障害患者は,自分自身で食事をする嚥下障

害患者よりも肺炎になる可能性が 20 倍ある(Langmore et al. 1998).その上,嚥下障害患者が自分で食事を

摂取できない場合,目の高さから手を交互に動かした介助をすべきである.もし,食事が全介助の状態であ

れば,低リスクな食事を使用すべきである.習慣化されている低リスク食の使用は,重大な健康問題を予防

し,食事の質を改善させる.嚥下障害患者に関連するすべての医療専門家は,食事中に発生する可能性があ

る緊急事態に対応できるようすべきである.”

低リスク食での嚥下訓練のガイドラインは Table15.19 に要約している.

Table 15.19 Heart and Stroke Foundation of Ontario Guidelines for low-risk feeding practice (2002)

36

Conclusions Regarding Feeding Strategies in Dysphagia(嚥下障害に対する食事戦略に関する結論)

嚥下障害患者は誤嚥のリスクを減尐させるために,自ら食事すべきであるという制限されたエビデンス

(Level 2)がある.

食事介助が必要な患者に対しては,低リスク食による嚥下練習には,トレーニングした人材を配置すべきで

あるというコンセンサス(Level 3)がある.

15.9 Specific Interventions to Manage Dysphagia(嚥下治療の特異的介入)

Previous Reviews

コクランレビュー(Bath et al. 1999)によると脳卒中後の嚥下障害に対して,異なる治療戦略が有効である

と評価している.このレビューには,6 の研究が紹介され,概要と公表されていないデータが含まれており,

どのようにいつ食べるのか,経口摂取か,どのようにいつ治療するかについて評価されている.有効な研究

はほとんどないが,以下の結論が示されている.

嚥下障害患者は可能な限り自分で食事摂取すべきである.できない場合は,低リスク食が必要となる.

37

近年のシステマティックレビュー(Foley et al. 2008)では,嚥下障害治療は広範囲の効果が評価されている:

質感,一般的な嚥下治療,経管栄養,投薬,身体や臭覚刺激である.このレビューでは,15 の RCTs が確認

されている.一方,コクランレビューでは,経鼻管栄養は経皮的胃瘻と比較して死のリスクが高いとは言え

ないという根拠がある.一般的な嚥下治療は,急性期脳卒中の肺炎リスクを減尐させることを目的としてい

る.

15.9.1 Dietary Modifications(嚥下食の変更)

嚥下食には 3 つの目的がある:1)誤嚥リスクを減尐させる,2)適切な栄養と液体を判定する,3)嚥下機能の改

善や悪化に基づき,食物摂取の先進的なアプローチを判定することである(Bach et al. 1989).単なる嚥下食

は存在しない.食事には,調整された食物や液体が含まれる(HSFO, 2002).特別な食事には異なる 4 つ硬さ

がある:濃い液体,ピューレ,すり身と軟らかい大きめのみじん切りである.嚥下障害のための軟らかい食

事は,いろいろな硬さや小ささ,繊維のある食物が含まれる(Bach et al. 1989).軟食には,3 つの硬さの肉が

ある;軟らかい切り身,ミンチや挽いて粉末にしたものである.ピューレ食には,プリンが含まれ,一般的

には通常の食事よりも簡単に飲み込める(Veis and Logemann, 1985).しかしながら,ピューレ食の誤嚥リス

クは,近年,Perlman らによって報告されている(2004).204 人の脳卒中患者は,咽頭喉頭感覚テストの結果

に基づいて 6 のグループに分けられ,flexible endoscopic evaluation によって評価した.感覚と咽頭収縮が正

常な患者でピューレ食を誤嚥したものはいなかった.中等度の感覚低下があり,運動機能が障害されている

患者では,誤嚥の割合は 67%以上であった.研究の結果より,筋力増強が誤嚥を予見するには感覚障害より

も重要であることがわかった.

38

その後,特に初期脳卒中後において,食事の変更は患者の嚥下障害を改善させ,誤嚥のリスクを減尐するこ

とができる.患者が不顕性誤嚥である場合を除いて,進行は医学的嚥下評価によって決定できる.不顕性誤

嚥については VMBS のみで判定可能であり,このようなケースでは,医学的評価は信頼できない.反復した

VMBS は治療を実施するために不顕性誤嚥に対して必要である.代償的な head and neck postures

(Logemann, 1983),二重嚥下や,嚥下後の咳(Horner et al. 1988b)のような特別なテクニックが実施されて

いる.多くの脳卒中患者は,特に右半球損傷の患者であるが,非常に衝動的で,とても早く飲み込んだり食

べたりしようとする.Finestone ら(1998)は,気管閉塞で死亡した脳卒中患者は食塊を詰まらせたことが原因

であることを報告している.その上,緻密な管理がこのような患者には必要となる(Milazzo et al. 1989).濃

い液体のような食物の制限があれば,すべてのさらさらな液体は禁止できる.代わりに,ゼリー状の水や液

体が必要となる可能性がある.食事の様式が呼吸器感染の割合に対してどれほど影響しているかについて,

決定的ではないが,食物の硬さを調整することで誤嚥性肺炎の発症率を低下することができるといういくつ

かの根拠がある(Groher, 1987).

The Heart and Stroke Dysphagia Guidelines は“しかしながら,食事の質感調整は食事の楽しみを減尐させる

ことになり,結果として,経口摂取が減尐する.これが原因で早期に脱水になり,最終的には栄養不良状態

に陥る可能性がある.また,でんぷんベースの食事は炭水化物摂取が多くなり,食事を注意深く監視しない

とバランスの悪い栄養状態を引き起こす可能性がある.調整された炭水化物の食事は,特に糖尿病患者に対

して重要となってくる.さらに,栄養士が調整された食事が栄養学的に適切であると説明していることに対

して批判的である.そして,脳卒中患者や代わりの decision-maker が調整された食事として魅力的であると

いうことに対して批判的である”と記している(Heart and Stroke Foundation of Ontario, 2002).

濃度の低い飲料を避けたり,注意することは一般的な食事調整であり,このような食事の稠度は最も誤嚥し

易い.濃度の低い液体は,口から咽頭への輸送時にコントロールが困難である.数人の嚥下障害患者は,は

じめは経腸栄養によって管理され,経口摂取の再実施で治療が進む.一般的にはピューレ食から開始される.

患者が誤嚥なしに嚥下することができれば,最終的に,患者は濃度の低い飲料を摂取することが許される.

大規模多施設研究は実施され,結果は出版されていないが,現在のところ,このような調整された食事が結

果に影響を及ぼすかどうかを調査した RCT はない(Dennis, 1997).

とろみのある液体は誤嚥のリスクと罹患率を減尐させる可能性があり,Finestone ら(2001)は,とろみ食を制

限されている患者は,彼らにとって必要な水分や脱水のリスクに対して十分な量を飲んでいないと報告して

いる.嚥下食を摂取している患者は,脳卒中発症後 21 日間を通じて必要な水分量のたった 43%しか摂取し

ていない.食事の変更は特別なことではないが,Churchill ら(2004)は,嚥下障害患者は脱水になるリスクが

非常に高く,血中尿素窒素の値が 45 以上と定義されている.脱水を呈するオッズ比は,入院している脳卒中

患者内で 4.2 であり,誤嚥している患者の割合は高く,VF を通じて診断される.また,稠度を変更した食事

から仮定され(OR: 7.2; 95% CI 3.6-14.3),利尿剤の使用についてリスクが議論されている;誤嚥している患

者は,高血圧やうっ血性の心不全の管理のために利尿剤を服用しているが,20 回以上脱水を経験する可能性

が高い(OR 19.8, 95% CI 3.0-21.1).

39

先行研究では,Diniz ら(2009)が,稠度の低い飲料とプリン様の食物を摂取後に誤嚥の徴候があった 61 人の

急性期脳卒中患者を鼻腔内視鏡を使用して調査した.誤嚥が認められたのは,スプーン一杯分の稠度の高い

食物でたった3人であったのに対して,液体では21名だった(relative risk= 0.13; 95% CI= 0.04-0.39; P<.001).

プリン上の液体で喉頭侵入の症状があったひとはいなかった.この研究に参加した患者はすべて栄養管を使

用していた.しかしながら,Leder & Suiter (2009)は,経鼻胃チューブの設置は液体やピューレ状食の誤嚥を

増加させないと報告している.この研究では,多くの原因によって嚥下障害になった患者が参加しており,

その中に脳卒中も含まれている.サンプルサイズは大きく,1260 人である.

食事の管理は VMBS の結果によって方針が決定する.稠度を調整した液体の効果について,調査された研究

は Table 15.21 にまとめている.

40

Conclusions Regarding Dietary Modifications(食事変更に関する結論)

経口摂取が安全であると考えられている脳卒中後嚥下障害患者は,調整された食物や液体を摂取する必要が

あることについて,統一された見解がある(Level 3).食事の調整は誤嚥や脳卒中後の影響を減尐させること

ができるが,これら調整された食事を使用することを指示する根拠はない.この領域において,さらなる研

究が必要である.

41

嚥下食は誤嚥性肺炎を減尐させるという制限されたエビデンス(Level 2)がある.

脳卒中後嚥下障害患者に対して,稠度の高い液体は,稠度の低い液体と比較して,誤嚥や喉頭侵入の発生率

が尐ないという中等度のエビデンス(Level 1b)がある.

15.9.2 Swallowing Treatment Programs(嚥下治療プログラム)

様々な評価項目によって,一般的な嚥下障害治療の効果を調査している研究は 4 つある.嚥下治療は常にコ

ンビネーションアプローチが実施され,筋力増強を目的とする訓練や動きや協調性の改善を目的としている.

実施が見込まれる訓練法は,Mendelsohn 法やマサコ法,シャキア法,gargling などである.他のストラテジ

ーについては,姿勢代償法(head turn and chin tuck postures)や複数回嚥下である.このような治療法は,調

整食物が付加して使用される.

DePippo ら(1994)は RCT を実施し,一般的な嚥下治療の効果はないことを報告している.しかしながら,2

週間の治療期間では,有意差が出現するには短すぎるだろう.Carnaby ら(2005)は,2 つのレベルの嚥下治療

プログラム(低強度と高強度)の効果について調査し,嚥下食の必要性について統計学的有意差を発見して

いる.通常治療と比較して,代償的嚥下法や嚥下食による再評価が指導されている患者は,6 ヶ月後には通常

食に戻る可能性が高い.

Odderson ら(1995)は,後ろ向き研究において,嚥下治療を含む脳卒中プログラムが嚥下障害に関連する評価

項目を改善させることを報告している.Lin ら(2003)らもまた,さまざまな栄養学的パラメーターや咳の頻度

において,嚥下訓練に参加している患者の改善を報告している.

脳卒中後嚥下障害患者に対しては,栄養士による相談後,適切な稠度の食物を提供すべきである

42

43

Conclusions Regarding Dysphagia Therapy(嚥下治療に関する結論)

短期間の嚥下治療は医学的価値のある変化を起こせないという中等度のエビデンス(Level 1b)がある.

1 ヶ月間の嚥下治療は,6 ヶ月後通常食まで回復することができないが,肺の感染症や死,入院を減尐させる

という中等度のエビデンス(Level 1b)がある.

15.9.3 Non-Oral Feedings(非経口食)

Non-oral もしくは経管栄養は,神経性誤嚥に起因し,一般的なリハビリテーションとして定着している.The

Heart and Stroke Dysphagia Guidelines は“経管腸栄養は,嚥下評価において高リスクの嚥下障害や経口摂取

では必要な栄養がみたすことが出来ない場合に推奨されている.経管腸栄養は脳卒中患者が絶食となって 48

時間後に,また,3-4 日以内に実施することを考慮すべきである.もし,嚥下障害が重度で,6 ヶ月以上持続

短期間の嚥下治療は医学的価値のある変化を起こせない.

44

することが想定されるのであれば,胃瘻造設や空腸造瘻術が薦められる”,(Heart and Stroke Foundation of

Ontario, 2002).経管腸栄養は,適切な栄養と水分を脳卒中患者に供給できることがわかっているが,幾つか

の合併症,特に誤嚥性肺炎と関係している(Finestone et al. 1995, 2001, James, 1998).しかしながら,経管

腸栄養とその後の肺炎との関係についてははっきりとしておらず,経管栄養は,肺炎の予防とリスク要因の

双方について認識する必要がある.Table 15.23 には 2 つの研究がまとめられており,この関係性について調

査されている.

45

46

Dziewas ら(2004)は,経鼻管により栄養補給している 100 人の脳卒中後嚥下障害患者において,非常に高い

割合の肺炎の発症を報告している.ほとんどの患者は,脳卒中後 2-3 日(median 2 days, range 0-9 days)で肺

炎を発症する.また,経管栄養は胃減圧を目的として使用されているものの,数症例では,経管栄養は口腔

の分泌物が定着ことから守ることができない事実について注目している.肺炎の進行についてもっとも予測

できる要因は,意識レベルの低下と顔面のけいれんである.最近になって,同じ著者(Dziewas et al. 2008)が,

正しい場所の NG チューブの設置は嚥下運動には干渉せず,誤嚥のリスクも増加しないことを報告している.

その上,NG チューブが肺炎の進行について高いリスクを呈するかどうかは明確ではないが,想定されるメカ

ニズムの生理的根拠は良く分かっていない.おそらく,寝たきりや老化,合併症のような他の要因が,関係

性を複雑にしている.

比較群はないが,問題を引き起こす肺炎の高い発症率は,高リスク患者において肺炎を予防するという経管

栄養の効果に関係している.Marum & Lim (2005)らもまた高齢者の誤嚥性肺炎と死の高い発症率は NG チュ

ーブが原因であると報告している.経鼻管栄養を実施している患者は,経口摂取している患者と比較してよ

り認知的に,機能的に障害されているという事実があるために,結果は混乱している.しかしながら,サブ

グループ分析によると,肺炎の発症率は,経鼻管栄養を拒絶している患者と比較して経鼻管栄養を受け入れ

ている患者で依然として高い.これら 2 つの研究に対して,Nakajoh ら(2004)は,73 人の脳卒中後嚥下障害

患者のうち,経口摂取している群(n=35)は,経口摂取していない群と比較すると,肺炎の発症率は 4.1 倍であ

ることを報告している.筆者は,この保護効果は長期臥床中ではない患者に制限されるとも報告している.

このような報告とは対照的に,Landon ら(2009)は,肺炎発症率についてリスクが増加することは経管栄養が

関連していると報告している.脳卒中と診断後 2-4 日経過し,経管栄養を実施している患者で呼吸器の感染

がある 73% (22/30)に有意な時間事象の影響がある.また,脳卒中後 7 日経過した患者で感染がある 76%

(39/51)にも同様に時間事象の影響がある.筆者は,脳卒中急性期では感染しやすい時期であると報告してい

る.肺炎は,細胞性免疫反応が抑制されたような状態を表現する言葉であり,動物実験により証明されてい

る.

47

Conclusions Regarding the Use of Non-Oral Feeding(非経口食利用に関する結論)

経管腸栄養は嚥下障害があり,誤嚥のリスクが高い患者に対して,もしくは,経口摂取ができない患者に対

して実施するという一致した意見(Level 3)がある.経管腸栄養は,脳卒中患者が 48 時間絶食した後に考慮

すべきである.

脳卒中後嚥下障害に対する経管腸栄養は広く実践されているが,経鼻管が肺炎リスクを減尐させるという根

拠については,相反する意見(Level 4)がある.

15.9.4 Section of Feeding Tubes(経管栄養)

経管栄養は短期期間,もしくは持続的な期間必要とされ,最も一般的に嚥下障害の処置として使用されてい

る.結果として,経管栄養の選択は,大部分で,長期間の嚥下障害が想起された場合に決定される.Broadley

ら(2003)は長期化する嚥下障害をいくつか発見しており,初発の脳卒中の重症度,失語症と脳イメージング

での島や前頭葉の関与が示されている.しかしながら,医学的には,経管栄養が必要とする期間を正確に予

測する試みが行われている.栄養チューブは2つのカテゴリーに分類され,短期間の使用が目的である経鼻

胃チューブと,経皮的に,観血的に,直接胃か小腸へ入れるものがある.一般的には,gastro-entric tubes は

長期間の補給に使用される.双方共のチューブには利点と欠点がある.経鼻胃チューブは,経口摂取を長期

間必要としない患者にとっては,胃癆と比較して副作用が尐ないことがわかっている(Hull et al. 1993, Park et

al. 1992).しかしながら,死亡率や罹患率はPEGのような侵傷的な栄養チューブで有意に高い(Anderson et al.

2004).Anderson ら(2004)は脳卒中患者に使用する NG チューブの適切な位置を報告しており,チューブの

除去やその後の再挿入を予防し,チューブを安全な位置に固定するための nasal loop technique を使用する.

Table 15.24 は経鼻胃チューブや経皮的に設置したチューブを評価したいくつかの研究結果を表示している.

経管腸栄養は誤嚥リスクのある脳卒中患者に対して考慮すべきである.

48

49

Discussion

1. Death or Poor Outcome(死,もしくは不良転帰)

死のリスクを評価した 3 つの研究では,経管栄養の種類と関連づけている(Norton et al. 1996, FOOD 2005,

Kostadima et al. 2005).The FOOD Trial (2005)もまた死や不良転機を合わせたリスクを評価している

(Modified Rankin Scale で 4-5 を定義)結果は,共有することが困難であり,研究によって患者の人数やフ

ォローアップの期間に差異があることを解釈することが難しかった.結果については,Table 15.25 に要約さ

れている.一方, NG チューブが死亡リスクを増加させるという 2 つの研究が報告されているが,個別の研

究結果ではなく,統計学的有意ではなかった.この発見が示しているのは,経管栄養が死のリスクを増加さ

せないということである.大規模な,重要な研究の結果を Figure 15.4 に示している.

50

2. Pneumonia(肺炎)

2 つの RCT が実施され,肺炎の発症率が経管栄養のタイプによって影響されることが示されており(FOOD

2005, Kostadima et al. 2005),著者は群間の肺炎を発症した患者の割合に相異はないが,不幸にも Food trail

のデータは報告されていない.しかしながら,Kostadima ら(2005)は,NG チューブを設置された患者で 3 週

間以内に肺炎になった割合は,ICU に入棟し即座に胃瘻を設置した人より有意に高い.本研究に採用された

患者のすべてではないが,その大部分は脳卒中で,全員が人工呼吸が必要な状態になっている.両群ともに,

ベースラインの特徴や医学的治療は類似していた.著者は,NG チューブを設置された患者が増加する理由を

以下に推察している:誤嚥を予防する咽頭声門反射の不安定化や上下部食道括約筋の機能障害. 上記のよう

な結果がチューブを設置されていない人に対して推定されるかどうかはよくわかっていない.

Conclusions Regarding Choice of Feeding Tube(経管栄養選択に関する結論)

嚥下障害が重度で,6 ヶ月以上の持続が予測できれば,胃癆設置が薦められるという一致した意見がある

(Level 3).

2 つの“Good”な RCTs の結果より,胃内への経管栄養は,経鼻管栄養と比較して機械的な失敗が尐ないとい

う強いエビデンス(Level1a)がある.

1 つの大規模な国際試験より,チューブ形式(経鼻管栄養や胃癆)が死に対するオッズ,もしくは,死や機

能低下の結果を併せたオッズには影響を与えないと言う中等度のエビデンス(Level 1b)がある.

肺炎に進行するリスクは経管栄養されている患者の中でも,胃癆と比較して経鼻管栄養の人が高いという中

等度のエビデンス(Level 1b)がある.

経鼻チューブの設置がチューブ除去の数を減尐させ,患者が必要となる栄養量が増加するという中等度のエ

ビデンス(Level1b)がある.

経管栄養は,脳卒中患者が傾向摂取に失敗する場合,必要となるかもしれない.胃癆や空腸造瘻術は,28日

以上経口摂取ができずに介助を要する嚥下障害患者に対して,栄養や水分を供給する経鼻管栄養よりも好まれ

る.

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15.9.5 Transcutaneous Electrical Stimulation(経皮的電気刺激)

電気刺激は,皮膚に貼付した電極を通じて嚥下に関与する筋を小さな電流で管理する.電気刺激は常に,伝

統的な嚥下治療に付加的に実施される.

電気刺激はアメリカでは臨床的に広範囲で使用されているが,エビデンスは欠如している.近年のメタアナ

リシス(Carnaby-Man & Crary, 2007)では,7 研究からの結果を考慮し,治療に対するエフェクトサイズを報

告している.研究参加者は,様々な病気が原因で嚥下障害となっており,脳卒中も含まれている.3 試験の結

果からは,電気刺激の効果は伝統的な嚥下訓練と比較した場合,なかったとしている.

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5 の RCT では,嚥下リハビリテーションにおいて電気刺激は潜在的に効果があると報告されている.治療の

対比は様々である:電気刺激対シャム,電気刺激対伝統的な嚥下治療対電気刺激と伝統的治療の併用,およ

び伝統的治療,伝統的治療対電気刺激のみ.大規模研究によると(Xia et al. 2011),嚥下機能は他の二つの治

療法と比較して改善している.

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Conclusions Regarding the Use of Electrical Stimulation(電気刺激に関する結論)

電気刺激が脳卒中後嚥下機能を改善させるという相反するエビデンスがある(Level 4).

15.9.6 Alternative Interventions(代替治療)

食事のテクスチャーの調整や非経口摂取に追加して,様々な小規模研究が効果について評価されており,そ

の中には,感覚刺激,経穴,降圧剤,消化管の汚染除去がある.様々な嚥下障害治療の手段の評価は,Table

15.27 に示している.

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Discussion

嚥下機能を改善させるために薬物を使用することについては,3 つの小規模 RCT で実施されている(Perez et

al. 1988,Kobayashi et al. 1996,Arai et al. 2003).Perez らの報告によれば,ニフェジピン(血管拡張剤)

や Ca2+ブロッカーが咽頭輸送時間と嚥下遅延を改善させるとしている.筆者らはカルシウムチャネルに対す

るジヒドロピリジン系の作用によって食道スパズムの減尐が関与していると推察しているが,そのメカニズ

ムについては良く分かっていない.Kobayashi ら(1996)は,levadopa の効果について小規模クロスオーバー

試験にて反応潜時の改善を報告している.Arai ら(2003)は,ドパミン拮抗剤や cabergoline の効果について調

査しており,levadopa や amantadine, より副作用が尐ないことや,脳卒中後正常血圧の患者で不顕性誤嚥の

発症率が,投薬なしの対照群と比較して有意に低下したことを報告している.高血圧の患者間において,コ

ントロール群と比較して ACE 阻害薬もまた不顕性誤嚥の発症率を低下させる.Shimizu ら(2008)もまた ACE

阻害剤の効果について,小数の高齢脳卒中患者で評価している.ACE 阻害薬を使用することで,口腔期輸送

時間が減尐する.ACE 阻害剤は,血清サブスタンス P を増加させる効果があると考えられている.嚥下機能

のパラメーターが改善するかどうかについて,薬物の使用を調査した研究はすべて小規模である.

Rosenbeck らによる 2 つの研究(1991, 1998)が寒冷刺激の効果について報告しており,嚥下メカニズムの特

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異的な側面が改善するようである.初期の研究で評価された 7 名の患者はクロスオーバー試験において,治

療効果があるという有意差は認められなかった.次に,大規模研究に於いて,4 つの異なる頻度の tactile

thermal application の効果について調査された.この研究には対照群は設置されなかった.結果は,ひとつの

治療頻度による効果が認められた.対象群が設置されていないために,この治療法の効果に関する結論はわ

かっていない.脳卒中患者の消化管に対する,バクテリアを減尐させる抗菌剤の使用は,誤嚥性肺炎の発症

率を減尐させりょうという目的で実施され,その効果についてひとつの RCT で評価されている(Gosney et al.

2006).抗菌ジェルを用いた治療では,さまざまな好気性グラム陰性菌の存在を除去し,結果的に,敗血症や

肺炎の発症率を減尐させる.

Ebihara ら(2007)は,ブラックペッパーオイルの吸引が誤嚥性肺炎の進行を予防できるという予備的な

evidence を報告している.著者らは島が嚥下障害と食欲刺激に関与しており,ブラックペッパーオイルがこ

のエリアの食欲刺激と血流量を増加させるために,嚥下障害治療の効果的な手段となりうることを推察して

いる.

代替手段として評価している RCT 研究の結果は Table 15.28 に示している.

Conclusions Regarding Alternative Interventions in Dysphagia(嚥下障害に対する代替治療の結論)

TMS が脳卒中後嚥下障害の機能を回復させるという強いエビデンス(Level 1a)がある.

Nifedipine とブラックペッパーオイルの使用が脳卒中後嚥下の特異的な側面を改善させるという中等度のエ

ビデンスがある(Level 1b).

消化管に対する選択的な汚染除去が肺炎の発症率を減尐させるという中等度のエビデンス(Level 1b)がある.

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温熱刺激が脳卒中後の嚥下のメカニズムを改善させないという強いエビデンス(Level 1a)がある.

頭部回旋や舌運動,EMG 治療は脳卒中後嚥下機能を改善させるという制限されたエビデンス(Level2)がある.

様々な代替治療は脳卒中後嚥下機能を改善させるために使用することができる

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15.10 Summary(要旨)

1. 嚥下障害の発症率は,急性期の脳卒中後に 1/3-2/3 の割合で,非常に高い確率で現れる.

2. VMBS は嚥下障害と誤嚥を判定するゴールドスタンダードである.

3. 急性期の脳卒中において,誤嚥のリスクは 21-42%で変動する.そして,脳卒中後 3 ヶ月までに 12%未

満に減尐する.脳卒中後に誤嚥する患者の 1/3 から 1/2 は,不顕性誤嚥である.

4. 誤嚥は,肺炎のリスクの増加と関連し,肺炎に発展するリスクは,誤嚥の重症度と比例する.

5. 嚥下障害のスクリーニングは肺炎の発症率を低下させるという制限されたエビデンスがある(Level 2).

6. 急性期脳卒中患者は嚥下能力が評価されるまでは絶食にすべきであるという一致した見解がある(Level

3).

7. 訓練された評価者が嚥下が困難なすべての急性期脳卒中患者に対して,スクリーニング試験をすべきで

あるという一致した見解がある(Level 3).

8. 言語聴覚士は嚥下のスクリーニングテストで失敗したり,適切な治療方針が決定されたすべての脳卒中

患者を評価すべきであるという一致した見解がある(Level 3)).

9. 低リスクの食事で訓練している全ての脳卒中後患者に対し,食事の補助や監視がなされるべきであると

いう一致した見解がある(Level 3).

10. 栄養士は,嚥下スクリーニング試験を失敗した脳卒中患者のすべてに対して,栄養と水分の状態を評価

すべきであるという一致した見解がある(Level 3).

11. 脳卒中後嚥下障害患者は,一般的に調整された食物や液体を摂取する必要があることについて,統一さ

れた見解がある(Level 3).

12. 食事介助が必要な患者に対しては,低リスク食による嚥下練習には,トレーニングした人材を配置すべ

きであるというコンセンサスがある(Level 3).

13. 栄養士が調整された食事が患者にとって栄養学的に適切であることを保証すべきである.そして,可能

な限り魅力的な食事であることを確かにするために,脳卒中者や代わりの意思決定者に意見を求めるべ

きである.という一致した意見がある(Level 3).

14. 嚥下食は誤嚥性肺炎を減尐させるという制限されたエビデンスがある(Level 2).脳卒中後嚥下障害患者

に対して,稠度の高い液体は,稠度の低い液体と比較して,誤嚥や喉頭侵入の発生率が尐ないという中

等度のエビデンスがある(Level 1b).

15. とろみのある液体を含む粘度を変更された食事を必要としている患者が,肺炎リスクを増すことなく食

事間に水分を安全に摂取することができるという限られた証拠がある(Level 2).

16. Nifedipine の使用が脳卒中後の嚥下機能の特異的な側面を改善させるという中等度のエビデンスがある

(Level 1b).

17. 頭部回旋は,延髄外側の脳卒中後における嚥下機能を改善させるという制限されたエビデンスがある

(Level2).

18. 温熱刺激が脳卒中後の嚥下のメカニズムを改善させないという強いエビデンスがある(Level 1a).

19. 短期間の嚥下治療は医学的価値のある変化を起こせないという中等度のエビデンスがある(Level 1b).

一つの RCT の結果に基づくと,一ヶ月間の嚥下治療は,6 ヶ月後通常食まで回復することができないと

いう中等度のエビデンスがある(Level 1b).しかしながら,そのようなプログラムは,肺の感染症や死,

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入院を減尐させる可能性があるという中等度のエビデンスがある(Level 1b).

20. 経管腸栄養は,誤嚥のリスクが高い患者に対して,もしくは,経口摂取ができない患者に対して実施す

るという一致した意見がある(Level 3).経管腸栄養は,脳卒中患者が 48 時間絶食した後に考慮すべき

である.

21. 嚥下障害が重度で,6 ヶ月以上の持続が予測できれば,胃癆設置が薦められるという一致した意見があ

る(Level 3).

22. 経管腸栄養は,適切な栄養と水分を脳卒中患者に供給できるという制限されたエビデンスがある(Level

2).

23. 胃内への経管栄養は,経鼻管栄養と比較して機械的な失敗が尐ないという強いエビデンスがある

(Level1a).

24. 脳卒中後嚥下障害に対する経管腸栄養は広く実践されているが,肺炎リスクを減尐させるという中等度

のエビデンスのみである(Level 1b).経鼻管が肺炎リスクを減尐させるという根拠については,相反す

る意見がある(Level 4).肺炎に進行するリスクは経管栄養されている患者の中でも,胃癆と比較して経

鼻管栄養の人が高いという中等度のエビデンスがある(Level 1b).

25. 1 つの大規模な国際試験より,チューブ形式(経鼻管栄養や胃癆)が死に対するオッズ,もしくは,死

や機能低下の結果を併せたオッズには影響を与えないと言う中等度のエビデンスがある(Level 1b).

26. 経鼻チューブの設置がチューブ除去の数を減尐させ,患者が必要となる栄養量が増加するという中等度

のエビデンスがある(Level1b).

27. Nifedipine とブラックペッパーオイルの使用が脳卒中後嚥下の特異的な側面を改善させるという中等度

のエビデンスがある(Level 1b).

28. TMS が脳卒中後嚥下障害の機能を回復させるという強いエビデンスがある(Level 1a).

29. 消化管に対する選択的な汚染除去が肺炎の発症率を減尐させるという中等度のエビデンスがある(Level

1b).

30. 温熱刺激が脳卒中後の嚥下機能を改善させないという強いエビデンスがある(Level 1a).

31. 電気刺激により,脳卒中後嚥下機能が改善するという相反するエビデンスがある(Level 4).

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