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場所打ち杭鉄筋かごの無溶接工法 に関する研究について 本澤 太志 1 ・渡辺 海 2 1 高田河川国道事務所 工務第二課 (〒9430847 上越市南新町3562 高田河川国道事務所 工務第二課 (〒9430847 上越市南新町356. 20123月に道路橋示方書・同解説が改訂されたことに伴い,場所打ち杭の鉄筋かご組立に無 溶接金具が用いられるようになった.しかし,無溶接金具の使用方法については明確な指針が なく,施工箇所によって.無溶接金具の配置や使用個数の考え方にばらつきが生じている. 本研究では,無溶接金具を用いた場所打ち杭の施工方法について,一般国道253号上越三和道 路における無溶接工法の施工実績を基に,最適な配置等の考察と今後の課題について報告する ものである. キーワード 場所打ち杭,無溶接金具,新技術 1. はじめに (1) 場所打ち杭と道路橋示方書の改訂 場所打ち杭工法は,掘削した孔の中に鉄筋かごを建て 込み,コンクリートを流し込むことによって,コンクリ ートの杭を築造する工法である. この場所打ち杭を築造するために必要となる鉄筋かご の組立てについては,これまで溶接による仮止めが行わ れることが多かったが,20123月に道路橋示方書・同 解説(以下 道路橋示方書)が改訂され、「鉄筋の組立 てにおいては,組立て上の形状保持などのため,溶接を 行ってはならない.」という記述が追加されたことに伴 い,溶接を行わない無溶接工法が採用されることが多く なった.(-1 参照) -1 道路橋示方書(2012 3 月改定版より抜粋) (2) 無溶接工法の概要 無溶接工法は,-2 に示すように、金具を用いて鉄 筋かごを組み立てる工法である.無溶接工法に用いられ る無溶接金具は,鉄筋かごの施工時に溶接を行わないよ うに開発され,複数のメーカーから、主筋の重ね継手や, 主筋と組立筋を結合するための金具など,多種多様なタ イプの金具が市場に出回っている. 無溶接金具の配置箇所や個数の考え方については,決 まった考え方が存在しない.そのため、配置や個数はメ ーカーの考え方に則り決めている事例が多い.しかし, メーカーによっては,主筋の重ね継手の製造はなく,な まし鉄線で対応している例など,各メーカーで考え方に ばらつきがある. - 2 無溶接金具説明図

150616 【工二 渡辺】場所打ち杭鉄筋かごの無溶接 …場所打ち杭鉄筋かごの無溶接工法 に関する研究について 本澤 太志1・渡辺 海2 1高田河川国道事

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場所打ち杭鉄筋かごの無溶接工法 に関する研究について

本澤 太志1・渡辺 海2

1高田河川国道事務所 工務第二課 (〒943-0847 上越市南新町3-56)

2高田河川国道事務所 工務第二課 (〒943-0847 上越市南新町3-56)

.

2012年3月に道路橋示方書・同解説が改訂されたことに伴い,場所打ち杭の鉄筋かご組立に無

溶接金具が用いられるようになった.しかし,無溶接金具の使用方法については明確な指針が

なく,施工箇所によって.無溶接金具の配置や使用個数の考え方にばらつきが生じている. 本研究では,無溶接金具を用いた場所打ち杭の施工方法について,一般国道253号上越三和道

路における無溶接工法の施工実績を基に,最適な配置等の考察と今後の課題について報告する

ものである.

キーワード 場所打ち杭,無溶接金具,新技術

1. はじめに

(1) 場所打ち杭と道路橋示方書の改訂 場所打ち杭工法は,掘削した孔の中に鉄筋かごを建て

込み,コンクリートを流し込むことによって,コンクリ

ートの杭を築造する工法である.

この場所打ち杭を築造するために必要となる鉄筋かご

の組立てについては,これまで溶接による仮止めが行わ

れることが多かったが,2012年3月に道路橋示方書・同

解説(以下 道路橋示方書)が改訂され、「鉄筋の組立

てにおいては,組立て上の形状保持などのため,溶接を

行ってはならない.」という記述が追加されたことに伴

い,溶接を行わない無溶接工法が採用されることが多く

なった.(図-1 参照)

図-1 道路橋示方書(2012年3月改定版より抜粋)

(2) 無溶接工法の概要 無溶接工法は,図-2 に示すように、金具を用いて鉄

筋かごを組み立てる工法である.無溶接工法に用いられ

る無溶接金具は,鉄筋かごの施工時に溶接を行わないよ

うに開発され,複数のメーカーから、主筋の重ね継手や,

主筋と組立筋を結合するための金具など,多種多様なタ

イプの金具が市場に出回っている.

無溶接金具の配置箇所や個数の考え方については,決

まった考え方が存在しない.そのため、配置や個数はメ

ーカーの考え方に則り決めている事例が多い.しかし,

メーカーによっては,主筋の重ね継手の製造はなく,な

まし鉄線で対応している例など,各メーカーで考え方に

ばらつきがある.

図- 2 無溶接金具説明図

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(3) 無溶接工法による場所打ち杭の施工について 前述の通り,無溶接工法による場所打ち杭の施工につ

いては明確な施工指針等がなく,メーカー毎に算出した

数量を基に施工を行っている.

そのため,無溶接工法は使用するメーカーの違いなど

で,配置や個数に大きなばらつきが出ることが多い.

また,指針等で最低限の数量が示されている訳ではな

いため,コストを抑えるために無溶接金具の個数を少な

くして施工することで,鉄筋が座屈してしまう事例が全

国的に発生している.(写真-1 参照)

写真- 1 鉄筋かごが座屈した様子

設計段階において,無溶接金具のメーカーを指定する

ことはできないため,金具の配置や個数については,工

事発注後に受発注者間の協議で決めた後でないと設計額

を算定することはできない.

無溶接金具のメーカーにより,配置や個数が大きく変

わることから増工額が読みづらく,また施工する杭が長

尺や大口径の杭となれば,使用する無溶接金具の個数が

多くなり,無溶接工法の施工費が大幅に増額してしまう

事があり得る.

そこで,受発注者間での協議の際に,無溶接金具の配

置等の考え方にある程度の目安があれば,受注者・発注

者にとってより良い施工が可能になると考えられる.

高田河川国道事務所管内では,2013~2014年度におい

て,上越三和道路事業で3件の無溶接金具を用いた場所

打ち杭の施工を行っている。

本論文では,無溶接金具を用いた場所打ち杭の施工方

法について,上越三和道路における3件の施工実績から

考察した配置の考え方と今後の課題について報告する。

2. 上越三和道路における施工実績

(1) 上越三和道路の概要 国道253号上越三和道路は、地域高規格道路「上越魚

沼地域振興快速道路」の一部,上越市寺~上越市三和区

本郷間の約7km区間を構成する道路である。

また,広域的に地域の連携を強化するとともに,上越

地域における救命救急センター60 分圏域の拡大や日常

活 30 分圏域などの地域社会生活を担う道路として,現

在整備を進めている.

上越三和道路が通過する高田平野は,地表面より第四

紀完新世の沖積層が厚く分布しており,沖積層の基底深

度は概ね55~60m前後となっている.(図-4 参照)

図-3 上越三和道路位置図

図- 4 上越三和道路 土質縦断図

(2) 上越三和道路における無溶接金具の施工事例

2013~2014年度に場所打ち杭を施工した3件の工事は,

同じメーカーの無溶接金具を用いて鉄筋かごの組立を行

っている.また,いずれも50mを超える長尺の杭の施工

であり,1本あたりの無溶接金具の使用数が多いことが

特徴である.(表-1 参照)

3件の工事を比較すると,杭径,杭長といった条件が

ほとんど同じにもかかわらず,無溶接金具の使用個数に

ばらつきが生じている.特に,主鉄筋と帯鉄筋の固定に

ついては,鶴町IC橋下部工事では設置していないが,他

の2件については設置しているため,大きく差が開いて

いる.

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表- 1 上越三和道路における無溶接工法の比較

鶴町IC橋下部工事の場所打ち杭の施工が始まった2013年度は,まだ無溶接工法の考え方がまとめ切れていない

時期であり,主鉄筋と帯鉄筋についてはなまし鉄線で結

束する事例が多かったことから,鶴町IC橋下部工事では

なまし鉄線を用いて施工している.

しかし,なまし鉄線での施工は,全国的に鉄筋かごが

座屈する事例が多かった.そこで,無溶接金具のメーカ

ーから,各工事現場にあった無溶接金具の数量算出要領

(案)が提示されるようになった.その数量を判断材料

に協議を行い施工数量を決めるようになったことで、考

え方の統一化が図られるようになった.

3.最適な無溶接工法の検討

(1) 座屈に対する照査

無溶接工法における金具の配置や個数の最適化を図る

上で,座屈しないための金具の配置について,照査を行

う.

鉄筋かごが座屈するケースは幾つか考える事ができる

が,ここでは全国的にも座屈例の多い,鉄筋かごの主鉄

筋に座屈荷重以上の荷重が作用した場合の座屈ケースに

焦点を当てる.

主鉄筋の座屈荷重は,鉄筋が固定されている間隔(座

屈長)で決まってくる.場所打ち杭の場合,主鉄筋と帯

鉄筋の結束が十分に行われていれば,帯鉄筋の間隔を座

屈長として考える事ができ,以下のオイラーの座屈式で

座屈荷重を算出することができる.(表-2 参照)

=

E:鉄筋のヤング係数(N mm⁄ ) I:鉄筋の断面二次モー メント( 4)l:座屈長(mm)

ここで,杭長が50mの長尺の杭と杭長が20mの比較的短い

杭における座屈荷重と,座屈に作用する鉄筋とコンクリー

トの荷重を考慮して,条件を満たしているか検討する.

(表-3 参照)

300 252011 651

500 90724 234

800 35439 92

座屈応力度 :p(N/mm2)

鉄筋径:d(mm)

断面積:A(mm2)

ヤング係数:E(N/mm2)

断面二次モーメント:I

(mm4)

座屈長:l(mm)

座屈荷重:P(N)

22 387.1 200000 11502

図- 5 本道跨道橋オフランプ下部工事における帯鉄筋の配置

表- 2 オイラーの座屈式による座屈荷重の算定

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(2) 考察

表-3の結果より,座屈長が300mmを満足していれば,

鉄筋+生コンの荷重に対して十分な座屈強度を有して

いることが証明されたが,座屈長が500mm以上になる

と,50mの長杭は十分な座屈強度を有していない.

対して短尺については,座屈長が500mmになっても,

計算上座屈は生じない.座屈長は,主筋と帯鉄筋が十分

に結束されている事を前提としているため,その結束が

不十分であると,座屈の可能性が高まることが考察され

る.

特に,上越三和道路のような長尺の杭や大口径の杭を

施工する際には,杭の自重が増すため,主鉄筋と帯鉄筋

を堅固に結束することのできる無溶接金具を設置するこ

とによって,座屈の可能性を減らすことができると考え

られる.

また,鉄筋かごの自重が軽い短尺(概ね20m以下)の

杭については,主鉄筋と帯鉄筋の結束箇所が少なくても,

長尺と比較して,座屈長に余裕があるため,無溶接金具

の個数を減らすことや,なまし鉄線等での施工でも座屈

に対応できる事が考えられる.

4.まとめ

(1) 考察結果

杭鉄筋かごの無溶接工法について,長尺の場所打ち杭

の施工においては,主鉄筋と帯鉄筋の結束を強固にする

必要があるため,無溶接金具を用いた結束を行うべきで

あるという結論が得られた.

ただし,短尺の場所打ち杭については,座屈長が大き

くなっても,長尺ほど座屈しにくいため,金具の個数を

減らす等のコスト削減を図ることができると考えられる.

(2) 今後の課題

今回の研究では,鉄筋かごが座屈しないための無溶接

金具の配置について,主鉄筋と帯鉄筋の結束に着眼して

考察を進めたが,今後の課題としては次の内容等が考え

られる.

a) 鉄筋の結束において,金具となまし鉄線の使い分け.

b) 当初から設計に反映できるような,一般的な無溶接

工法の考え方.

c) 重ね継手や底部筋の固定と言った,メーカー毎でも

考え方に違いのある金具個数の適正化.

(3) 最後に

本研究では,上越三和道路で用いられているような長

尺の杭について,座屈を生じさないための金具の配置と

いった限定的な事例のみの考察となった.

今後,無溶接金具の適正な工法について研究が進み,

一般的な考え方が広がることを期待する.

表-3 座屈荷重と重量の関係