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21 佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ・ワークショップ 2018 9 19 日(水)~21 日(金) 佐賀大学 所属 精神神経科 氏名 國武 裕 [email protected]

19 日(水)~21 日(金) 佐賀大学 所属 精神神経科 氏名 國武 裕 · えている。 【図1生活と仕事と幸せの関係】 2.1. 自分自身の物事の捉え方に気づく

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第 21 回 佐賀大学 ティーチング・ポートフォリオ・ワークショップ 2018 年 9 月 19 日(水)~21 日(金)

佐賀大学 所属 精神神経科

氏名 國武 裕

[email protected]

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内容

1. 教育の責任 .................................................................................................................... 1

1.1. 学生講義 ............................................................................................................ 1

1.2. 緩和ケア研修会での講義「気持ちのつらさ・せん妄・不眠」「コミュニケー

ション」 ...................................................................................................................... 2

1.3. その他の教育活動 ............................................................................................. 2

臨床実習でのマンツーマンの教育 .............................................................................. 2

臨床実習でのミニレクチャー講義 .............................................................................. 2

若手精神科医への指導 ................................................................................................ 2

2. 教育の理念 .................................................................................................................... 3

2.1. 自分自身の物事の捉え方に気づく .................................................................... 3

2.2. 自分の体調(疲労)に気づき、コントロールする ........................................... 4

3. 教育の方法 .................................................................................................................... 5

3.1. 自分自身の物事の捉え方に気づく .................................................................... 5

3.2. 自分の体調(疲労)に気づき、コントロールする ........................................... 6

4. 教育の成果・評価.......................................................................................................... 7

4.1. U9(気分障害の講義)の学生評価 ................................................................... 7

4.2. 医療人キャリアデザインの学生評価(レポート) ........................................... 7

5. 今後の目標 .................................................................................................................... 8

5.1. 短期目標 ............................................................................................................ 8

5.2. 長期目標 ............................................................................................................ 9

6. 添付資料・参考資料 .................................................................................................... 10

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1. 教育の責任

医学科教育における私の担当分野は、主に精神医学の中の「気分障害」の講義(2コ

マ)とグループディスカッションの授業(1コマ)を行うことである。対象は医学科4

年生であり、臨床実習に出る前に基本的な知識を習得することが第一の目標であるが、

授業の全行程の半分近くの時間を模擬症例に対するグループディスカッションに充て

ている。これは、知識だけを伝えるのが目的ではなく、模擬症例を通して疾患と疾患を

抱える患者全体に対する視野や疾患に対する深い興味を育むためである。

看護科教育における私の担当は、精神医学の中の「気分障害」(1コマ)である。こ

れは臨床実習に出る前の、疾患に対する基本的な知識を取得するのを目的としている。

医療人キャリアデザインの1コマとして「精神医学の魅力」について昨年度と今年度

講義を担当した。これは、医学科と看護科の1年を対象としている。学生が専門課程を

勉強する前に、精神科を含め小児科や救急科など様々な科の医師から、その科を選んだ

動機や医師になってから経験したことを聞き、医療人になる動機を再確認し、学生が医

療人として自分が働くことを具体的に想像し、高いモチベーションを作る目的がある。

1.1. 学生講義

授業科目名 コマ

開講年度 対象 人数 特徴

精神・神経ユ

ニット 9

2 2016-2018 医学科 4 年 100 講義形式

「気分障害」を担当

精神・神経ユ

ニット 9

1 2016-2018 医学科 4 年 100 グループワーク

「神経症」か「気分

障害」を担当

医療人キャリ

アデザイン

1 2017-2018 医学科 1 年

看護科 1 年

220 「人間って何だ」と

いう題で精神科の魅

力を講義

精神看護学概

1 2016-2018 医師会立看

護学校 2 年

60 「睡眠障害、摂食障

害、知的・発達障

害、パーソナリティ

障害」の講義

【添付資料(1)参照】

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1.2. 緩和ケア研修会での講義「気持ちのつらさ・せん妄・不眠」「コミュニケー

ション」

開催年度 場所 対象 人数 時間 特徴

2017 好生館 医師・看護師 30 3 ロールプレイ

2017 唐津医療センター 医師・看護師 30 5 講義・ロールプレイ

2017 佐賀大学 医師・看護師 60 3 ロールプレイ

2017 嬉野医療センター 医師・看護師 30 5 講義・ロールプレイ

2018 唐津医療センター 医師・看護師 30 2 講義

主に研修医に対して緩和ケア領域での「気持ちのつらさ・せん妄・不眠」の講義、「コ

ミュニケーション」のロールプレイを行った。講義では知識の前に症例を提示し、隣同

士で話し合う時間を設け、講義をより積極的に聞けるように心掛けた。「コミュニケー

ション」のロールプレイは、難治な癌であることの説明を患者の立場となって受ける、

医師の立場になって説明することを行った。ロールプレイでの振り返りがスムーズに進

むよう実際ロールプレイのやり取りを見た後に、コメントを伝えた。

1.3. その他の教育活動

その他に臨床実習で学生にマンツーマン形式で教育を行ったり、ミニレクチャーを行

った。また若手精神科医への教育を行った。

臨床実習でのマンツーマンの教育 入院患者を一人あて、学生の診察(面接)方法や疾患、患者固有の特徴や問題をカル

テの確認・添削を通して直接対話しながら指導していく。また外来診察の見学も行わせ、

診察の過程を見学した後で、患者や疾患の振り返りをその場で行う。

臨床実習でのミニレクチャー講義 精神科の臨床実習を回っている学生 5 名に対して、60 分講義を行った。内容は「向

精神薬概説」であるが、教科書的な内容ではなく、精神科以外の医師になっても臨床に

役立つような知識・考え方を中心に伝えた。

若手精神科医への指導 病棟医長、指導医として精神科での入院治療の指導を通して、若手精神科医を教育、

指導した。(2016 年度:3 人、2017 年度:3 人、2018 年度:4 人)

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2. 教育の理念

私が精神医学の教育を通して医学科・看護科の学生に伝えたい理念は、「幸せな人生

を送ってほしい」である。幸せな人生の定義は難しいが、ここでは「夢や目標をもち、

仕事や生活に活き活きと取り組む人生」としたい。仕事と生活はお互いに影響しあって

いる。どちらかがうまくいかなくても全体に大きな影響を与え、車の両輪のような関係

といえる。それぞれに活き活きと取り組むことができるとより幸せになり、幸せになる

と車へガソリンが十分行きわたるように、更に仕事と生活に活き活きと取り組むように

なるという好循環が生まれる。生活や仕事の取り組み方に影響を与えるものは様々ある

が、その中でも私は①物事の捉え方(解釈)と②体調(疲労)が与える影響が大きいと

考えている。(図 1)

私は学生に精神医学の教育を通して、①自分自身の物事の捉え方に気づき、②体調(疲

労)をコントロールすることの大事さを伝えたい。それにより仕事や生活に活き活きと

取り組む幸せな人生を送りやすくなる。結果として良い医療人を実現しやすくなると考

えている。

【図1生活と仕事と幸せの関係】

2.1. 自分自身の物事の捉え方に気づく 何か嫌なことがあった時、普段は自分が出来事をどう捉えているか自覚せずに、単に

「ストレスがある」とだけ自覚していることが多い。「ストレス」とはそれだけで存在

するのではなく、出来事とそれに対する捉え方からなっている。例えば、砂漠でさまよ

っていて水が全くない時に、コップ半分の水を見つけた場面を考えてほしい。「たった

半分か。これでは意味がない」と感じるか、「半分の水があった。これで助かる」と感

じるか。同じ「コップ半分の水を見つける」という出来事であるが、とらえ方により大

きな違いがでる。(図2)

学生は、これから生活でも仕事でもストレスの元になりうる様々な出来事を経験する

だろう。特に強く落ち込んだり腹が立ったりしたときは、出来事と捉え方を分けて見つ

めなおすことを思い出してほしいと思っている。

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2.2. 自分の体調(疲労)に気づき、コントロールする 体調に影響を与えるものとして、睡眠、食事、運動があるが、その中でも最も大きな

影響を与えるものが睡眠である。睡眠不足であれば、イライラしたり、ミスを起こしや

すくなる。それ自体大きな問題であるが、物事の捉え方に影響を与え、通常よりも悪い

ように捉えてしまうことがさらに大きな問題である。また、それらは互いに悪影響を与

える。また慢性的な睡眠不足が続くと、それに慣れてしまい睡眠不足で疲労状態に陥っ

ていることに気づきにくくなる。そのため、いつもよりイライラしやすいなどの感情の

変化や肩こりや頭痛、朝の倦怠感などの身体情報などに注意を向け、早めに気づく必要

がある。

以下に私が、上記の理念を持つに至った根拠を述べる。それは精神科医になる前の経

験となってからの経験による。

(精神科医になる前の経験)

私が精神科になった理由の一つに、高校 2 年生の時に、うつ状態に近い状態になった

経験がある。きっかけは夏休みに体育祭の準備で忙しく、体調を壊して熱を出し、夏休

み明けのテストを休んだことと思われる。テストを休んだことで周囲からどう思われる

かと過剰に気にした。また自分が休む直前に、体育祭の準備を一緒に行っていた同級生

が何度も準備を休むことを他の友人と一緒に責めていたことで、自分自身が休んだこと

に対して更に自責的になった。その後、不眠・食欲低下が続き、登校するのがやっとの

状態が1ヵ月程続いた。勉強はほとんど手につかず、周囲の雰囲気もなんだが違って見

えた。幸い 2、3 カ月で睡眠、食欲は次第に回復し、再び元のように勉強に取り組める

ようになった。この不調の時期は、勉強しても全く頭に入らずに初めて赤点をとり、回

復したら成績ももとに戻った。この経験から、不眠などの不調が続くと普段の能力が全

く発揮されないことを実感できた。

図 3 ストレスを出来事と

捉え方に分けた場合

図 2 ストレスを出来事と

捉え方に分けない場合

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(精神科医としての経験)

精神科になった後では、人のいつもと違う精神状態(例えばうつ状態)を様々な角度か

ら学ぶ経験をした。その経験を通して、疲労やうつ状態がいかに、気分や意欲に影響を

与えるかを実感してきた。疲労から抑うつ気分が続くと、物事を悪いほうに解釈し、い

つもなら大して影響がない出来事(小さなミスや相手のささいな言葉)をひどい出来事

ととらえてしまう。また、パフォーマンスも落ちているため、簡単な仕事も大変な仕事

に思え、仕事がいつもよりはかどらず、更に気分が落ち込むという悪循環に陥ってしま

う。

患者がそのような状態になった時に、中等症から重症では休養や薬物療法を中心に回

復を図るが、軽症や回復期では対話(精神療法)が重要になる。そこでは、主に患者が

つらい状況や気持ちを話す過程で、自分の考えを患者自身が見つめなおす(メタ認知)

ことが起こる。それまでは、状況と自分の捉え方や気持ちが混ざり合ってて一つのスト

レス状態として認識されていることが多いが、ストレスの元(出来事)と自分の捉え方

(認知)を分けて考えるようになっていく。

この二つの経験から、このようなことは精神科の患者だけに起こるのではなく、程度

の差はあれ、すべての人に、起こっていると思うようになった。しかし、自分自身の経

験や患者の経験を通してみて、その状態に陥っていることに気づかないことが多い。そ

のため学生に伝える必要があると考えた。

3. 教育の方法

講義では知識だけを伝えるのではなく、上記の理念も伝わることように工夫した。ス

ライド上で文字が多すぎると、教員も学生もそれを読むのに必死になり、知識の裏側に

ある理念が伝わりにくくなる。そのため、講義ではスライドの文字の量を少なくし、文

字の大きさををなるべく大きくした。具体的には文字だけのスライドでは3行以内とし、

文字をなるべく大きく(60 フォント以上)し、写真や図の量を増やした。

【添付資料(2)参照】

3.1. 自分自身の物事の捉え方に気づく (講義)

「気分障害」の講義の中で、うつ病の発症過程の説明する際に、患者の問題としてだ

けでなく、自分自身にも起こりうることとして考えるように伝えている。また治療の中

の精神療法(主に認知療法)が自分自身の物事の捉え方に気づく方法として利用できる

ことを伝えている。具体的には①出来事(上司に挨拶したが返事がない)、②考え(嫌

われている)、③気分(落ち込む)など、患者だけでなく、自分にも当てはまる例を使

っている。

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「医療人キャリアデザイン」の講義では、錯視(人によってドレスの色が 2 パターン

に違って見える)の写真を実際にスライドで見せ、見える色を学生に挙手してもらい、

自分と隣の人が同じ写真をみているのに、違う色に見えていることを体感できるように

した。それを当たり前としてきた自分の捉え方を当たり前ではないことに気づいてもら

った。

【①青と黒、②白と金色に見える錯視】

(臨床実習)

外来診療の見学では、一人の学生が外来での診察(対話によるやり取り)を直接すぐ

そばでみている。診察を通して明らかになった患者の出来事の捉え方に対し、患者の問

題だけでなく、自分たちにも当てはまる部分があることを振り返って伝えるようにして

いる。

3.2. 自分の体調(疲労)に気づき、コントロールする (講義)

「気分障害」の講義の中で、気分や気持ちに身体状態(特に睡眠)が与える影響を説

明している。その際に、睡眠不足は患者だけの問題ではなく、われわれ日本人全般に影

響を与えていること、慢性睡眠不足に気づかないことがあることを伝えている。それら

を自身の体験交えて学生が自分の問題として考えられるように伝えている。例えば「不

眠や過労で疲れがたまると、簡単な書類が大変なことに思えてくる。そういうときは、

肩こりがあったり、ひどいときは腰痛がでる。それによって疲労に気づくこともある」

などである。

(臨床実習)

外来診療の見学を通じて、一人ひとりの身体情報(痛み、倦怠感や疲労感など)の感

じ方に違いがあることに気づかせる。それは患者だけはなく、われわれ全員が疲労感な

どの感じ方が違うことを伝えている。また同じ人でも時期によって感じ方が違うことに

気づいてもらい、疲労の見落としがある可能性について伝えている。

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4. 教育の成果・評価

4.1. U9(気分障害の講義)の学生評価

評価項目 評価 U9の平均

講義内容は分かりやすかったか 4.84 4.84

興味を引く講義だった 4.85 4.84

シラバスがまとまっていた 4.82 4.81

話し方が適切であった 4.84 4.83

講義内容量は適切であった 4.85 4.84

総合的にこの講義に満足できる 4.84 4.84

【添付資料(3)参照】

どの項目もほぼ平均である。

自由記載で「ありがとうございました」のコメントがあり、学生が講義によって何かし

らプラスの感情をもった可能性があるが、意図した理念が伝わったかは、はっきりしな

い。

4.2. 医療人キャリアデザインの学生評価(レポート) 学生評価は「講義の要旨」と「講義から感じたこと・考えたこと」の自由記載となって

いる。(2018 年レポート)「感じたこと・考えたこと」から学生が何がどれくらい伝わ

ったかを見てみる。記載内容を量と中身に分けて示す。

(量)

だいたい 4 行以内で空白が目立つものを量が少ないとし、5 行以上を多いと判断した。

医学科は 87 人中 57 人とおよそ 3 分の 2 で量が多かった。このことから医学部生の 3

人に 2 人は講義に興味を持ち、様々な感想や意見をもったと解釈できる。看護科では 64

人中 36 人と約半分で量が多かった。看護学生の 2 人に 1 人は講義に十分に興味をもっ

たといえる。

(レポート記述の例)

【添付資料(4)参照】

(看護科生)(2018 年度前期)

「自分でも気づかないうちに感じてしまうストレスが最も怖いものであると思いまし

た。(中略)自分なりにストレスを回避したり、ため過ぎないこと、頑張り過ぎないこ

とが大切だと感じました。また私たちが今、見ているこの世界が「当たり前で」で「真

実であるとは限らず、各々の人たちが住んで、目にしている世界の解釈を否定すること

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から入るのではなく、認めることが重要であると考えました」

(医学科生)(2018 年度前期)

「(前略)また、自分がどう考えているかだけではなく、自分がなぜそう考えるのか、

問題をどう捉えているのかということも振り返るようにしていきたいと思います。」

上記の感想から、ストレスに気づくこと、それぞれの見え方、考え方が異なることに

気づき、自分の考えを見つめなおす視点(メタ認知)の大事さは伝わったと思う。

5. 今後の目標

学生に「幸せな人生を送ってほしい」という理念を伝えるためには、自分が幸せな人生

を送ることが必要と考えている。なぜなら、学生に教えるときにまず教員が実践してそ

の姿を見せることが大事であるからである。また、幸せは人から人に伝わるものである

からである。理念で説明したように「幸せな人生」を「夢や目標をもち、仕事や生活に

活き活きと取り組む人生」とすると、自分自身が仕事だけではなく生活(私の場合は主

に家庭)にも活き活きと取り組む必要がある。その際に、出来事に対する捉え方を振り

返り(メタ認知)睡眠不足・疲労などの体調に気を配ることが重要となってくる。

仕事では教育だけが大学教員の役割ではないため、幸せな人生を送るという観点から

は、教育・研究・臨床のすべての面にどれも活き活きと取り組む必要がある。振り返っ

て活き活きと取り組めてないのは、教育よりも研究であるが、ここでは TP の観点から

教育に対し主に目標を掲げ、研究にも少し言及する。

5.1. 短期目標 【仕事】

(教育)

学生に伝えたい理念を講義でより明確に伝える。

授業前後で理念に関するミニアンケートを行い、理念が伝わったか確認する。

授業後にミニテストを行い、重要事項の習熟度を確認する。

自分の講義を客観的に振り返り、現在気づいてない改善点に気づく。そのために

ビデオカメラで講義を録画し、それを見る。ビデオカメラ撮影は医局事務員に協

力してもらう。

臨床実習での講義内容を「向精神薬概論」から「医師自身のメンタルヘルス」に

変更する。

学生や若手医師への指導を振り返ると、こちらの知識や考えを短時間で一方的に

伝える作業が主になっていた。相手が自分自身の考えに気づくために、議論や知

識の伝授より対話を意識する。具体的には、まず相手の考えを聞き、それを尊重

し、自分の考えを保留する。こちらから質問することで相手に考えを深めてもら

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う。また相手の考え、態度で褒める事ができる点を具体的に伝える。意見を伝え

る場合は、最低限として最後に伝える。

臨床実習の学生で対話を意識した指導を行うためには、ある程度の時間が必要で

ある。まとまった時間がとりやすい1週目の水曜日に少なくとも 30 分は時間を

かけて指導を行う。

(研究)

現在投稿中の英語論文「オキシトシンと認知機能に関するコホート研究」を完成

させる

小さな研究でよいので、自分で立案した研究を施行し、論文として発表する。例

えばレトロスペクティブな研究でもよい。

【家庭】

現在は主に子育て(現在小学 2 年と幼稚園年長)と妻との関係が家庭における大きな要

因である。

子供を信じて観察、対話を行い、それを通して相手の考え、興味を把握しそれを

伸ばすようにサポートしていく。例えば長男が嫌がっている習い事(水泳)をや

めてよいと考え、他に興味をもって取り組めることを一緒に探す。

子供・妻と話すときになるべく対話を心掛け、議論や意見の押し付けにならない

ように意識する。

5.2. 長期目標 【仕事】

(教育)

医学部は,佐賀大学キャリアガイダンス実施方針により、学生が卒業後自らの資質を

向上させ,社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を培うことを目的として,キ

ャリアガイダンス(社会的・職業的自立に関する指導等)を実施している。その主題科

目が私も精神科医として講義した「医療人キャリアデザイン」である。しかし、医療人

として自分自身の出来事への捉え方を振り返り、体調を管理していくことの重要性(医

師自身ののメンタルヘルス)についての講義はない。全国の臨床研修病院 250 施設で、

2011 年採用の研修医 1,753 名に対し行った研究【添付資料(5)参照】では、研修開始 3

カ月後に約 3 割がうつ状態に陥っていると報告されている。学生は卒業直後に超過勤

務、様々な研修科を回るなど、大きな負担がかかる。そのため自らの精神・身体状態に

気づくことの重要性を学生のうちに知っておくことが必要と思う。

今後精神科医として、学生に対する医師自身のメンタルヘルスを主とする講義の必要

性を、医学部の教育プログラム作成を担当している卒後研修センターや総合診療に伝え

ていきたい。最終的な目標としては医師のメンタルヘルスに関する講義を行うことで、

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医師の燃え尽きやうつ状態を減らし、幸せな人生を送ってもらうことの手伝いをするこ

とが目標である。

(研究)

興味を持っている「幸せ」につながる研究を行う。

(家庭)

子育てを通して自分自身が成長すること。その過程で妻との良好な関係を続けること。

6. 添付資料・参考資料

(1) 講義シラバス

(2) 講義スライド(U9)

(3) 学生評価(U9)

(4) 学生レポート(医療人キャリアデザイン)

(5) 初期研修における研修医のうつ状態とストレス要因, 緩和要因に関す

る全国調査:―必修化開始直後との比較― 瀬尾 恵美子、 小川 良子、 伊藤 慎、

讃岐 勝、前野 貴美、前野 哲博 医学教育 48(2), 71-77, 2017