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20081100 社会情報学会 collective_intelligence_cultureindustry

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集合知と文化産業―ウィキペディアからの示唆

渡辺智暁国際大学 GLOCOM 研究員

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ねらい

ウィキペディアを事例としつつ以下のリサーチ・クエスチョンを扱う。

RQ1. 集合知の仕組みはどのようなものかRQ2. アマチュアによる創作・流通活動が文

化産業に与える影響はどのようなものかRQ3. 同じく、文化に与える影響はどのよ

うなものか

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集合知の仕組み

RQ1. 集合知の仕組みはどのようなものか

A. ウィキペディアの品質評価B. 品質確保の課題と仕組み参加者の確保、落書き対策、荒らし対策、

論争対策、・・・(ウィキペディアを中心に、適宜他の UGC

との比較を織り交ぜつつ)

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品質についての調査Nature 誌 (2005) Encyclopaedia Britannica と英語版を比較 自

然科学分野The Independent 紙 (2006) 多分野Rosenzweig(2006) 英語版と各種百科事典を比較 歴史分野Chesney (2006)  英語版の評価 多分野Rector(2008)  英語版と各種百科事典を比較 歴史分野他、ドイツ語圏で調査有

Chesney (2006). An empirical examination of Wikipedia’s credibility. First Monday, v.11, n.11 URL: http://firstmonday.org/issues/issue11_11/chesney/index.html

Giles (2005) Special Report: Internet encyclopaedias go head to head, Nature, v.438, pp.900-901 (15 December 2005)

Hickman , Martin and Roberts, Geneviève (2006). Wikipedia under the microscope over accuracy. The Independent, February 13, 2006

Rector(2008). Comparison of Wikipedia and other encyclopedias for accuracy, breadth, and depth in historical articles” Reference Services Review v.36 n.1 pp.7-22.

Rosenzweig, Roy (2006). Can history be open source? Wikipedia and the future of the past. The Journal of American History, v.93, n.1 pp.117-46. URL: http://chnm.gmu.edu/resources/essays/d/42

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調査結果の総括

・文章が拙いものが散見される・正確さは調査により市販の百科事典並み

またはそれにやや劣る。・大規模サンプルによる評価は行われてい

ない・「案外正しい」・自然科学と歴史分野の項目が中心

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ウィキペディアの規模

規模の上では一人前エンカルタ 2007 :約 3 万 6 千項目、 4 千万字世界大百科事典:約 8 万 3 千項目、 7 千万字日本大百科全書:約 13 万項目、 ( 字数不明 )ウィキペディア日本語版:約 50 万項目、 3 億字(2008 年 5 月統計 )

Encyclopaedia Britannica:   50 万項目、 4 千万語ウィキペディア英語版 :   140 万項目、 6 億語(2006 年 9 月統計 )

(各社ウェブサイト等より)

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ウィキペディア参加者の動機様々な動機の参加者がいる

・気軽な貢献の動機 (ちょっと書きたい、直したい) ・利他的・社会貢献的な動機 (役に立ちたい)

・人づきあいの動機 (他の参加者とつきあうのが楽しい) ・アイデンティティーに関わる動機 (自分の価値を確かめたい)

・利害関係から来る動機 (自分に都合のいいものを) ・信念に関わる動機 (自分が納得できる内容を)

プロジェクトにとって有益な参加者かどうかが、動機によって左右される部分もある。

見方によっては、多数の参加者がいるということ自体が驚き。

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ウィキペディア参加者の動機

気軽な貢献の動機類・「これについての説明があってしかるべ

き」だから書く ・お試し・明らかなミス、欠落が気になって直す

※気軽に参加しやすい仕組みがある。

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ウィキペディア参加者の動機

利他的・社会貢献的な動機・他人の役に立つのが嬉しい・志が高い点に共感する

※長期に渡って情報が持続・蓄積される、検索エンジンで上位に来るので

※読者からのコメントなどがほとんどなく、個々の書き手の名前も認識されていないようである点はマイナスに働いている

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ウィキペディア参加者の動機

対人関係にまつわる動機・他のメンバーからの賞賛・感謝が得られる・コラボレーションが起こりやすいアイデンティティにまつわる動機・人気サイトでありながら自分が作成できる・実社会とは違った評価が得られる(不遇を解消できる・違った面の評価が得られる)

(学歴や資格を問わない場であるため)

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利害関係から来る動機・自分に都合のよい記述を加える(宣伝

等)・自分に都合の悪い記述を省く

信念から来る動機・自分の信念に合致する記述に加工する

(政治もあれば、愛着を持つ人・作品のこともある)

・人々が知っているべきだと信じる情報を提供する

ウィキペディア参加者の動機

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ウィキペディアの行方と動機事情

・対人関係が楽しみたければ、今は SNS がある。

・参加者の増大と共に、「ひとづきあい」が希薄になっている感もある。

・利害関係者や、信念に合った記述にしようとする参加者、「ちょっと試してみたい」という人の割合は増え、志に共感する人の割合は減っている。→ 優れた投稿・編集者の割合、事後監視

に注力する人の割合は減る。

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UGC系の動機事情

副産物利用も多い・ Amazon :購買記録など「副産物情報の利用」

・ソーシャル ブックマーク:ブックマーク保存・の副産物でありつつ、投票化している。

( SMO も登場し、「ブックマークが多いサイト」が多くの人がブックマークしておきたいサイトであるとは限らなくなった。)

・ Google検索:リンクとキーワードの副産物情報利用。

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UGC系の動機事情

・ブログのように公衆一般や専門家からの注目、評価が重要な動機たりえているらしい例も

・ウィキペディアは動機面で例外的なプロジェクトのようでもある(公衆や専門家の注目が少ない)、(副産物利用ではない)、(金銭収入が期待できない)

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ウィキペディアの品質管理

技術上の仕組み:最後 /最新の編集者が全面的な編集権限を持

つ→最終編集者の善意と見識に依存するため、非常に脆弱に見える

→事後監視が品質管理に果たす役目が大きいそのための技術や制度が存在する。

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ウィキペディアのアルゴリズム

原則:・誰でも執筆、編集、サイトの運営に参加でき

る・投稿されたものは即公開される主な代案など:・「パトロール」「 Validation 」方式(審査)・品質指標提示(編集回数、閲覧回数)その他・「優秀記事」(事前審査)

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集合知の仕組み 監視・発見

技術的・制度的な事後監視のツール・投稿履歴(差分)・ページの編集履歴(差分)・最新の編集(白紙化、増減量)・ウォッチリスト・ノートページ、会話ページ、井戸端ページ、コメント依頼など

・ IRC 、メールなど非公開系チャンネル・信頼されている参加者のネットワーク

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集合知の仕組み いたずら

・いたずら書きをする人よりも、それを消す人の方が多い

・書き換えが非常に簡単  - 参加性・簡単に監視と事後調査が可能  - 透明性・いたずらとそうでないものの区別は比較

的容易→大きな問題にはならない

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集合知の仕組み 荒らし

発見・判別コストが高く、取り組む人が少ない。・長期的にいたずら投稿を繰り返す→投稿の取り消し処理機能などがあるので低コストで対処可能

・マナーに反した投稿を繰り返す(政治的偏向、無礼、など)→発見・判別コストが高い

・議論が昂じて喧嘩になる・微妙な表現をめぐる糾弾合戦→事実関係を把握するコストが高い

・マイナーな分野での問題発生→気が付かない

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集合知の仕組み 事実誤認

・発見できる人が少ない件も多い・修正を第三者が見て、修正前と修正後のど

ちらが正しいのか、判断がつきにくいことがある→出典明示の義務付けによる間接的アプ

ローチ:低コストだが全員の参加コストが高騰→投稿者の投稿履歴や言動からの間接的ア

プローチ:コスト高、誤差が大きい手法

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集合知の仕組み 偏った記述

偏った記述・発見しづらい・論争があった場合、第三者からどちらが偏っているのかが判断しづらい

・「両論併記」で収まらない類の対立は特に扱いが難しい

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UGC とアルゴリズム

Web 2.0 に多いのは数打ち+投票型・ソーシャル・ブックマーク:投票(+討議)・ PageRank :加重投票的統計処理」・予測市場:オークション方式・ Amazon などのレコメンデーション・エンジ

ン・ YouTube のランキング典型的な学術系の著作:事前審査ウィキペディア:事後監視と洗練

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集約アルゴリズム研究

集約アルゴリズムにまつわる説・研究など・ Page “The Difference” – 多様な参加者のイン

プットの中にはよい解決策が含まれている可能性が高い(数理モデルによる議論)

・レイモンド「伽藍とバザール」 – 参加型の方が解決策の発見が高速、高品質( OSS 事例)

・スロウィッキー「みんなの意見は案外正しい」 –事例多数だがアルゴリズムは多様。オークション、平均、組み合わせ等

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UGC とアルゴリズム

参加型のサイトから面白いものが出てくる仕組みは多様。

ウィキペディアがうまく行くかどうかと、はてなブックマークがうまく行くかどうかは、アルゴリズムが違う以上、かなり別の問題という面もある。

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Knol 対ウィキペディア

Knol  市民ジャーナリズム的アプローチ :

・ウィキ的一点集約方式も採用可能(書き手の指定により)

・”数打ち”式は暗黙の前提(同一主題を扱う複数項目の並存が可能)

・金銭的インセンティブも皆無ではない・集約方式では管理・運営コストを書き手が負担することに(主要な限界)

・金銭報酬有の場合の共同執筆者の動機問題

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集合知と開放性

・自由参加にするとスパム、荒らし、トンデモ、投票操作などが増える

・インターネットは個人を特定できない(匿名性;単一 IP に複数のユーザー+単一ユーザーに複数 IP )

・ Digg 、 Google AdSense のように非公開アルゴリズム+非公開手続きでふるい分ける例も

・予測市場、 eBay の取引相手評価等、持っている動機でうまく限定できる例も

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小まとめ 1

RQ1. 集合知の仕組みはどのようなものか

仕組みは多様。情報の採取の仕方、参加者・情報提供者の動機も様々。

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2 コンテンツ産業への影響

RQ2. 文化産業に与える影響はどのようなものか

A.百科事典は衰退するのかB.ウィキペディアは発展を続けるのかC.UGC は市場を縮小させるのか

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百科事典は衰退するのか?

・ウィキペディア以外の理由による衰退

影響があると思われる部分もある・イミダス、知恵蔵などの休刊・エンカルタは投稿を受け付ける仕組みに・ブリタニカの無料開放化(撤回)

だが、ウィキペディアが順調に成長するとは限らない。

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ウィキペディアの得意分野

ウィキペディアで項目の成長が早い分野・事実の記述が中心である・定説が確立している・ウェブ上で豊富な参考資料がある・多くの人の興味・関心の対象である・小さな作業に分解できる歴史、数学、制度などは成長が早い。学説の展望や概念の歴史などは遅い。小さな

作業の積み上げではできない部分も。

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ウィキペディアの行方と動機事情

・対人関係が楽しみたければ、今は SNS がある。

・参加者の増大と共に、「ひとづきあい」が希薄になっている感もある。

・利害関係者や、信念に合った記述にしようとする参加者、「ちょっと試してみたい」という人の割合は増え、志に共感する人の割合は減っている。→ 優れた投稿・編集者の割合、事後監視

に注力する人の割合は減る。

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品質管理の課題

悲観材料・荒らしや偏向記述などの割合は増える・誰の判断を信用できるかについての間接的な感触は、参加者が増えると、誤差が出る。

・結果として、品質管理の負荷が増える。但し・・・・ツールによるエンパワーメントは増強してきて

いる。・大胆な方針変更もウィキペディアにはありうる

ので断定はできない。

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参加型文化と市場経済

Web 2.0 やフリーカルチャーと市場経済の関係には諸説ある。定説はない。

・市場経済に取って代わる新たな圏域( Toffler )・市場の大変動、適応すべき事態(米新聞業界)・ PR 、 CSR 、製品開発、クリエイター発掘など、事業

の一手段・マイクロペイメントが成功しない限り持続不可能・専門家作品の市場と共存・棲み分け

( Benkler 、 Bollier )

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非参加型文化への依存性

・ブログにおける報道機関の取材記事への依存・ p2p におけるメジャー商業作品の流通・動画共有サイトにおけるメジャー作品の流通・ウィキペディアにおける既存資料への典拠・オープンソース・ソフトウェアにおける既存

のソフトウェアカテゴリーの模倣・ eBay におけるメジャーブランドの信用

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参加型文化と市場経済

(前頁:カラオケ的文化)←→   CGM発作品のメジャーデビュー、ブログによる

アジェンダ・セッティング効果など非参加型文化への影響も見られる

←→ 商用写真、現場目撃系ジャーナリズムなどプロのクリエイターの市場が消失する領域もある。競争の激化はより多くの市場について見られる

※リミックスの威力は市場消失には今のところ余り関わっていない。数打ち式の威力が大きい

※フリーソフトウェアは、プロによるボランティアもあり、上記の枠組みのいずれにも納まらない要素を持つ

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フリーカルチャーと市場の衰退

無料で、自由に利用でき、品質の高い作品が豊富に出回ると、ビジネスは対抗し切れない→サポート、利活用事業市場まで境界が後退・新聞のように価値の減衰が早い分野は強い・マルチメディアのように制作費の高いもの

は強い→が、動画共有サイトやブログなど数の力に押されている

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リミックス文化の持つ意味

・数打ち式 対 リミックス式「優れたアマチュア」や「素人の偶然」対 「コラボレーションの成功」

→コンテンツ産業・市場に更に大きな影響→今のところリミックス文化の成功は限ら

れている。

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リミックスの成功する土壌

・リテラシーとツール・受け手と近い、人の集まるプラットフォーム

(張り合い・にぎわいがある場)・ゴールの共有しやすさ(芸術性より実用性)

・大規模プロジェクトは新規性のないジャンルの 2番煎じ的作品の制作で成功しやすい

・独自のテイストやノリを形成したコミュニティーは芸術性を発揮できる

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リミックスの成功例

フリーソフトウェアは、リテラシーが高く、ツールのある参加者と、共有しやすいゴールで成功した。

文章の編集はツール( Wiki )とリテラシーが揃って成功。百科事典は芸術的創造性が少なく、ゴールが共有しやすかった。

2ch の「コピペ」やアスキーアートは芸術的創造性も多分に含んだもので、かつ、独自ジャンル → 「独自ノリ」の強味

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リミックスの今後

写真や動画、音声や音楽の加工、組み合わせなどはリテラシー上もツール上も難しい。(質感が統一できない、リテラシー教育が乏しい)

※Vocaloid は有望なツール。未踏ソフトも注目。初音ミクをめぐる盛り上がり-声優・アニメキャラ・アニソンなどの共有文化を背景に成立

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メガヒットのない文化

(リミックスを経た魅力的な作品の創出とは別の可能性)

SNS などの特定少数、不特定少数の流通チャンネルが発達する;マイニング技術が発達する

多くの人にはわからない価値観の表現、内輪ネタや身近な題材についての表現などがそのチャンネルに乗る→地産地消的な文化が充実することに

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小まとめ 2

・ウィキペディアは、影響力を持っているようだが、将来を楽観できるわけではない。

・ UGC の現状は数打ち式の成功が多く、リミックス式は少ない

・リミックス文化の成功は、コンテンツ産業を変容させる潜在力がありそう

・リミックスはツールとリテラシーがネックになって成功しづらい

・少数向け流通チャンネル、マイニングなどが洗練されれば、メガヒットのない文化がかなり人気を得る可能性も

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3 文化への影響

RQ3. アマチュアによる創作・流通活動が文化に与える影響はどのようなものか

(アドルノの文化産業論を手がかりとした考察)

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アドルノの文化産業論

注目した理由・ファシズムから逃れてやって来た資本主義社会に抑圧を

見ている。・大衆文化への批判を込めて、「文化産業」と呼んだ・参加型文化は「資本主義の抑圧」から自由か? 何か積極的に評価できるものになっているのか?

主な参照文献・『啓蒙の弁証法』(ホルクハイマーとの共著) 4 章「文化産業ー大衆欺瞞

としての啓蒙」・「文化産業再考」・ M ・ジェイ『アドルノ』 4 章「操作としての文化、救済としての文化」

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ウィキペディアや UGC の特徴

・フリーカルチャーは著作権や私有財産、資本主義に反対するので共産主義だ、と言われることもある

・大衆文化が抑圧の道具であるとして、大衆が文化を創造・制作する側に回ると解放されるのか?

・多くの UGC サイトは無料であり、参加者は無償で情報や労力を提供する。ウィキペディアは非営利プロジェクトである。

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アドルノの文化産業論

・大衆を操作して、偽りの満足を与える・現実・体制に対する肯定をもたらし、真

の幸福の追求を抑圧する・文化は真理(理想)の追求であることを

やめ、満足や快楽といった効果を与える手段になる。

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ウィキペディアの目標の保守性

「作品」として真理(理想)を追求・表現しようという方針はない。

・まっとうな百科事典が目標・実用的な価値を重視・特定の政治的・その他の主張は禁止・主張の説明を、対立意見等と共に併記する・逸脱の主な動き:「自分の利害に沿った記述の変更」「オタクネタの充実」など

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ウィキペディアの目標の保守性

・学術的な真理の探究をする場でもない。・主流派の考え方や定説をそれとして解説

し、少数意見はそれ相応の扱いをすることが理想とされる。

・定説の間違いがある場合は、その間違いを受け入れることになる。

・学術的な言説の政治について、現状肯定的な傍観者の立場・態度をとる。

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ウィキペディアと個性

・誰のものでもない共有資源・投稿した文章は投稿者の「所有物」ではない・個人的な見解の開陳の場ではない・文体や構成、内容などに独創性は期待されな

い。

→没個性的なコンテンツがよい( cf M.シャドソンの「客観的ジャーナリズム」成立

論)

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ウィキペディアの利用可能性

・私家版百科事典を作成する際の土台として使ってよい(フリーコンテンツである)

・書き手の間の論争、記述の一貫性の欠如が、手がかりを提供することはある

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ウィキペディアの人気の含意

中立性や典拠重視の方針が支持される基盤・誰にでも使いやすい、便利で、無料な情報源

であることが重宝がられている(学生や学者が調べものをする際にも重宝がら

れている)・特定の政治的、審美的主張は歓迎されない。・ウィキのようなオープンな場で覇権争いをや

ると収集がつかず、プロジェクトが不安定に。( cf. ネットニュースとの対比)

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ウィキペディアの人気の含意

非営利プロジェクトであり、ボランティアによって成り立っているが、やはりアドルノの考えるような理想の追求は起こっていない。

※百科事典が「作品」として芸術性・思想性を帯びないのは当たり前だと考えることもできる。

→2 ちゃんねるやニコ動はどうか? (個性や理想の追求はないが、現実批判はあるといったところか)

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UGC と文化産業

人気のあるコンテンツを機械的(アルゴリズム的)に抽出するタイプの UGC は、ランキングやお薦めといった「作品」ではない情報を生み出している。→文化産業と大差ない但し、それが政治運動に使われることもあ

る。( ex Digg における HD-DVD クラックコード騒動など)

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小まとめ 3

RQ3. アマチュアによる創作・流通活動が文化に与える影響はどのようなものか

ウィキペディアは、実用性を重視しているため、社会的に信頼されている情報源を典拠として、没個性的に作成される。

それは便利な情報源を求める人々のニーズに支えられてもいる。→「文化産業」と大して変わるところがない。

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小まとめ 3

2 ちゃんねるやニコニコ動画には「現実批判」もある。だが、リミックス文化が現実批判と必然的に結びつくということはなさそう。

ウィキペディアにせよ、他の UGC にせよ、強力な社会批判を生み出すようなものではなく、「資本主義の支配」に対決するような勢力ではない。

大衆が創り手になっても、解放が起こるとは限らない。

→多くの人は「真実」や「解放」を追及していない

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総括

ウィキペディアは、選別ではなく洗練を基本とする点で他の多くの UGC と異なる。

ウィキペディアの品質は意外と悪くないが、もっと調査が必要。

ウィキペディアの将来は楽観できるとは限らない。マンパワー不足を補うツールがひとつの鍵。(ウィキペディアが「質・量共に最高の百科事典」のようなものになる可能性も、たぶんある)

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総括

百科事典類の市場に影響は与えているかも知れない。他の UGC も、市場への影響を持つ場合がある。非営利・フリーライセンスではあるが、資本主義

に基づく文化へのインパクトは、乏しい。他の UGC も、商業作品に依存しているケースが

散見される。→新しい文化の理念や、創造の力はないままに、現在のコンテンツ産業を衰退させる可能性がある。

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するために、利用許諾に関する注意書きを以下に記します。

・ この発表資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセンスされています。

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参考までに、本作品のタイトルは集合知と文化産業―ウィキペディアからの示唆 」で、原著作者は渡辺智暁です。本作品に係る著作権表示はなく、許諾者が本作品に添付するよう指定した URI もありません。