35
1 2009 年度 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 一般公募研究 最終報告書 在宅緩和ケア継続を可能にする条件に関する調査研究 ――患者・家族の不安・スピリチュアルペインをめぐってーー 研究代表者 相澤 所属 医療法人社団 爽秋会 所属機関所在地 宮城県名取市植松 1-1-24 共同研究者 岡部 医療法人社団 爽秋会 理事長 田代 志門 東京大学大学院 医学系研究科 特任助教 諸岡 了介 島根大学 教育学部 准教授 藤本 穣彦 島根県中山間地域研究センター 客員研究員 照井 隆弘 医療法人社団 爽秋会 岡部医院 院長

2009 年度 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 一般公募 …調査は無記で、プライバシーの保護 かじめ調査対象から除外したのは、爽秋会系診療所のご遺族の4

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

1

2009 年度 公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

一般公募研究

最終報告書

在宅緩和ケア継続を可能にする条件に関する調査研究

――患者・家族の不安・スピリチュアルペインをめぐってーー

研究代表者 相澤 出

所属 医療法人社団 爽秋会

所属機関所在地 宮城県名取市植松 1-1-24

共同研究者

岡部 健

医療法人社団 爽秋会 理事長

田代 志門

東京大学大学院 医学系研究科 特任助教

諸岡 了介

島根大学 教育学部 准教授

藤本 穣彦

島根県中山間地域研究センター 客員研究員

照井 隆弘

医療法人社団 爽秋会 岡部医院 院長

2

1 はじめに

本稿は勇美記念財団の 2009 年度在宅医療助成(一般公募)より研究助成をいただい

て行われた研究の報告書である。助成をいただいた本研究のテーマは、「在宅緩和ケア

継続を可能にする条件に関する調査研究」である。まず本研究計画が企画された背景と、

本研究を支える問題意識について述べたい。

2006 年にがん対策基本法の成立、在宅療養支援診療所の制度化がなされ、政策上で

もがんの療養、さらには看取りの主要な場としての位置づけが与えられた。これを受け

る形で社会的にも在宅ケアへの関心が高まり、医療・福祉の領域から新たな参入者が現

れ、在宅緩和ケアをめぐる研究も増え始めた。本研究もまた、よりよい在宅緩和ケアの

実現のための一助たらんとするものであるが、本研究を企画するにあたり我々が注目し

たのは、在宅で最期まで患者と家族が療養生活を安心して、不安なくおくるにはいかな

る対応、支援が必要か、ということである。すなわち、在宅における看取りを支える上

で、患者・家族がいだく看取りの不安への対応をいかに進めるか、不安の所在はどこに

あるのかを明らかにすることである。

病院から在宅への移行の後も、在宅での療養生活中に患者・家族が感じる各種の不安

によって、再入院(在宅の中断・断念)するケースが多々見られる。ここで取り上げる

中断・断念は、がん以外の疾患であり、かつ治療可能な疾患を治すための一時的な入院

ではなく、そもそも在宅緩和ケアの療養生活の断念である。在宅の看取りをサポートす

る緩和ケアの実践にとって、この新たな問題を避けて通ることは出来ない。この問題に

向き合い、将来の在宅緩和ケアの一層の充実をはかるためにも、より多くのご遺族の経

験や声を集め、患者・家族が療養生活中にいかなる不安に直面しているのかを明らかに

していかねばならない。この各種の不安の解析によって、在宅の断念という選択がなさ

れないような、患者・家族の不安へのきめ細かい対応を組み込んだケアへの展望も拓け

る。本研究はそのための手始めの作業として、不安の傾向の把握、不安の所在の確認を

実証的に行おうとするものである。

病院から在宅への移行とその阻害要因についての研究は、この数年の間、社会的必要

から各方面で活発に進められている。在宅が療養と看取りの場として重要性を認められ

た今、この論点の重要性が確認され、病院から在宅への移行や退院調整に関する研究が

盛んになるのは当然と言えよう。しかし、これからは在宅への移行、退院調整にとどま

らず、その先の問い、すなわち在宅移行後の患者の再入院、在宅の断念が何ゆえに生じ

るか、という問題に向き合わねばならない。在宅医療・看護、とりわけ緩和ケアの水準

はこの数年で目覚ましい上昇を遂げている。それにもかかわらず在宅での療養が断念さ

れるとしたら、それは何故生じるのであろうか。ケアの現場で医師、看護師や介護職、

ケアマネージャーなどのスタッフが、患者家族から在宅を継続することへの不安を打ち

明けられ、どうすべきかの相談をうけることも珍しくない。こうした現場で表れつつあ

3

るこの問題に向き合い、患者・家族が在宅療養中に感じる看取りの不安の解析に進むべ

く、その基礎資料となるご遺族調査・研究を実施しようと考えた。

病院中心から在宅重視という政策上の移行とそれに伴う変化にまきこまれ、患者・家

族のかかえる不安は小さくなく、しかも複合的である。今回企画した調査は、前回の遺

族調査(2006 年度に在宅医療助成 勇美記念財団より研究助成をうけ実施)とその後

に行われた遺族への聞き取り調査の結果、調査結果の検討を踏まえ、ご遺族の声や経験

を集める形でデータを継続的に蓄積しつつ、変化の行方を観測する試みである。この観

測を通して得られるデータの提供によって、現代日本社会における在宅緩和ケアのなか

で必要とされる、患者・家族のかかえる複合的不安への対応のための足場づくりに貢献

したい。

2 調査の概要

今回の調査は、宮城県と福島県で在宅緩和ケアを手掛けている主要な在宅療養支援診

療所 6 か所の協力のもとに行われた。調査にご協力いただいたのは以下の診療所である

(診療所名五十音順)。

・医療法人社団 良仁会 ウィメンズクリニック金上(宮城県角田市)

・登米市立 上沼診療所(宮城県登米市)

・医療法人社団 爽秋会 岡部医院(宮城県名取市)

・医療法人社団 爽秋会 緩和ケアクリニック仙台(宮城県仙台市)

・医療法人社団 爽秋会 ふくしま在宅緩和ケアクリニック(福島県福島市)

・医療法人社団 心の郷 穂波の郷クリニック(宮城県大崎市)

今回の研究計画は、2006 年度に実施された遺族調査の継続研究である1。以上の診療

所の提供する在宅緩和ケアを利用された患者のご遺族が調査対象者であり、今回は

2007 年 1 月 1 日から 2009 年 12 月 31 日の間に亡くなられた患者のご遺族を調査対象

とした。ご遺族の悲嘆を考慮し、調査対象者は没後 1 年間をおいている方に限った2。

1 前回の遺族調査に関する報告書は勇美記念財団より研究助成を受け実施された。同財団の

ホームページ(http://www.zaitakuiryo-yuumizaidan.com/)にて公開されている。 2 本調査は前回同様に全数調査である。今回の場合は、各診療所の在宅緩和ケアを一度でも

利用された患者のご遺族である。しかし、患者が亡くなられた後にケアを提供した診療所

との関わりを強く拒絶されたご遺族などは、各診療所に調査事前に問い合わせ、あらかじ

め調査対象から外している。さらに、病院に転院されて亡くなられた患者のご遺族につい

ては、転院先あるいはご遺族から患者の死去に関する連絡があった方に限っている。あら

4

調査対象に関して前回の遺族調査と大きく異なる点は、① 調査対象者を爽秋会岡部医

院以外の在宅療養支援診療所の在宅緩和ケアを利用されたご遺族にも拡大した点、②

前回は調査対象としなかった、在宅療養を中断し、再入院され、そのまま亡くなった患

者ご遺族をも対象者に含む点である。

前回の遺族調査・研究に対して、あくまで爽秋会岡部医院の診療圏(名取市、岩沼市、

仙台市周辺)に限った話であって、調査結果の一般性、あるいは地域的な広がりに対す

る疑問や批判がよせられることがあった。そこで今回は、前回よりも調査対象の範囲を

拡げるよう努めた。その結果、爽秋会と定期的に勉強会・意見交換会を実施し、在宅緩

和ケアの普及に努めている前掲の各診療所からご協力をいただくことができた。爽秋会

についても、2008 年に福島市に診療所を新たに開設しており、これにより今回は、福

島市周辺のご遺族に対しても調査が可能となった。

加えて、今回の調査は再入院された患者ご遺族にも調査対象を拡大した。患者・家族

が再入院、在宅の断念という選択をされる事態は増加傾向にある。こうした在宅を断念

された方々の経験や声には、既存の在宅緩和ケアの問題点や今後のケアの改善の方向性

や問題提起が少なからず入ってくるものと考えられる。そこで今回は、これらのご遺族

も調査対象とした。

調査対象者は先ほども述べたように、2007 年以降の 3 年間に亡くなられた、各診療

所の在宅緩和ケアを利用された患者ご遺族である。在宅療養を中断した後に転院して後

亡くなられた患者のご遺族については、転院先の病院からの連絡、あるいはご遺族から

直接患者の死去についての連絡があった方には質問紙を郵送した3。調査対象者は総数

で 1389 件であり、実際に質問紙を郵送したのは、1279 件である4。質問紙の配布・回

収期間は 2011 年 1 月 23 日~2 月 28 日である5。調査は無記名で、プライバシーの保護

かじめ調査対象から除外したのは、爽秋会系診療所のご遺族の 4 件のみである。 3 今回こうした手法をとったのは、質問紙の設問のなかに自由記述部分も含まれているた

めである。この自由記述に現れる質的・非数量的データは一件ごとに患者、家族の個別具

体的な体験を示す貴重な資料である。数量的なデータに表れにくい部分には、ご遺族の声

のなかでも意義深いものが多くあり、かつケア従事者や看取りを未だ経験したことのない

人にも多くのことを教えるものである。そのため、ご遺族の手による自由記述を一つでも

多く集めるべく、全数調査という手法をとった。

4 なお、内訳は以下のとおりである。ウィメンズクリニック金上、50 件。上沼診療所、62

件。穂波の郷クリニック、123 件。爽秋会系三診療所の合計 1154 件。なお、爽秋会の各診

療所の場合、訪問開始に際してあらかじめ研究・教育にご協力をお願いすることがある、

との説明を行っていること、共同研究者のなかに爽秋会のスタッフが入っていることから、

質問紙を直接郵送した。しかし、それ以外の診療所の場合は、個人情報の保護を徹底する

必要上、調査の事前にそれぞれの診療所からご遺族へ調査協力依頼状をお送りし、その上

で同意をいただくことができたご遺族にのみ、研究会事務局より質問紙を郵送した。

5 ただし調査協力先の都合、さらにはその後の震災の影響から、一部締め切りが 3 月末日に

なったところもある。

5

に配慮しつつ、社会調査倫理規定を踏まえる形で行った。調査票の回収状況であるが、

回収数は 575 票、転居等なんらかの理由のため、郵送したものの行き当たらなかった

ものが 88 件あった。回収率は 48.3%であった。悲しいご記憶にふれる調査であり、か

つ郵送での調査であったにもかかわらず、多くのご遺族からご協力を賜ることができた。

改めて感謝したい。

3 調査結果

以下では設問順にしたがって調査結果を紹介していく。

3-1 回答者の属性について

質問紙へ回答して下さった方々に関する設問である。ここでは性別、年齢(2011 年

1 月 1 日時点の満年齢)、配偶者の有無、患者(故人)との関係、生活歴についてうか

がった。

まず回答者の性別である。男性が 154 人(26.8%)、女性が 417 人(72.5%)、無回答

が 4 人(0.7%)であった(n=575)。

6

回答者の年齢は、20~29 歳が 2 人(0.3%)、30~39 歳が 21 人(3.7%)、40~49 歳

が 44 人(7.7%)、50~59 歳が 121 人(21.0%)、60~69 歳が 206 人(35.8%)、70~

79 歳が 133 人(23.1%)、80~89 歳が 41 人(7.1%)、90~99 歳が 3 人(0.5%)、無回

答が 4 人(0.7%)であった。回答者の平均年齢は 63.2 歳であった。

回答者の

年齢

20~29歳 2 (0.3%)

30~39歳 21 (3.7%)

40~49歳 44 (7.7%)

50~59歳 121 (21.0%)

60~69歳 206 (35.8%)

70~79歳 133 (23.1%)

80~89歳 41 (7.1%)

90~99歳 3 (0.5%)

未回答 4 (0.7%)

総計 575 (100.0%)

平均 63.2歳

標準偏差 11.6

7

回答者の配偶者の有無などについてうかがったところ次のようであった。「死別」が

291 人(50.6%)と最も多く、次に「配偶者あり」との回答が 225 人(39.1%)、「非婚」

が 35 人(6.1%)、「離別」が 20 人(3.5%)、無回答が 4 人(0.7%)であった。

回答者と患者(故人)との関係についてうかがったところ、以下のような回答であっ

た。「子供(実子)」との回答は 161 人(28.0%)、このうち男性は 63 人、女性は 98 人

であった。「配偶者」との回答は 274 人(47.7%)であり、このうち男性は 68 人、女性

は 206 人であった。このほかに「婿・嫁」との回答は 80 人(13.9%)、このうち男性が

3 人、女性は 77 人であった。このほか「親」が 14 人(男性、3 人、女性 11 人)、「兄

弟姉妹」が 6 人(男性、3 人、女性、3 人)、「その他」が 10 人(男性、4 人、女性、6

人)、無回答が 30 人であった。

最も多かったのは「配偶者」の女性、206 人であり、全体の 35.8%を占めている。次

いで「子供(実子)」の女性、98 人が多く、17.0%である。これに次ぐのが「婿・嫁」

の女性で 77 人、13.4%であった。

さらに、「子供」と回答した方(161 人)を対象に「兄弟姉妹」の数と「現在健在な

兄弟姉妹」の人数についてうかがった。まず、「兄弟姉妹の数」で最も多かったのは「二

人」67 人であり、次いで「三人」43 人、「一人」21 人、「四人」15 人となっている。

そのうち「現在健在な兄弟姉妹」の数は、最も多かったのが「二人」の 70 人、次いで

「三人」が 37 人、「一人」が 21 人であった。

8

回答者の故人との関係

男性 女性 未回答 合計

配偶者 68 206 274

子供 63 98 161

婿・嫁 3 77 80

親 3 11 14

兄弟姉妹 3 3 6

その他 4 6 10

未回答 10 16 4 30

合計 154 417 4 575

回答者の故人との関係

単位:%

男性 女性 未回答 合計

配偶者 11.8 35.8 47.7

子供 11.0 17.0 28.0

婿・嫁 0.5 13.4 13.9

親 0.5 1.9 2.4

兄弟姉妹 0.5 0.5 1.0

その他 0.7 1.0 1.7

未回答 1.7 2.8 0.7 5.2

合計 26.8 72.5 0.7 100.0

n=575

9

生活歴、とくに「親との同居」をしたことがあるか、をうかがったところ、次のよう

な回答が得られた。「一年以上、親と別世帯で暮らしたことがある」との回答者が 64.7%

を占めた。「ずっと親と暮らしていた」は 17.6%、無回答が 17.7%であった。

3-2 在宅療養生活中の回答者の状況について

続けて、患者(故人)が亡くなった当時の、回答者の置かれていた状況についてうか

がった。

まず、住居や家族の居住形態についてである。回答者の住居について「当時のあなた

のお住まいは次のうちのどれにあたりますか」とうかがった。最も多かったのは「持ち

家(一戸建て)」で 497 人、次いで「持ち家(マンション等)」が 35 人、「賃貸住宅(一

戸建て)」が 13 人、「賃貸住宅(マンション等)」が 24 人、「その他」4 人、無回答は 2

人であった。

持ち家(一戸建て) 497

持ち家(マンション等) 35

賃貸住宅(一戸建て) 13

賃貸住宅(マンション等) 24

その他 4

無回答 2

総計 575

10

この問いに続いて、家族の同居人数についてうかがった。「当時、あなたといっしょ

に住んでいた方は、あなたや亡くなられた患者さまを含めて全部で何人でしたか」との

質問をした。そうしたところ、以下の回答があった。最多であったのは「2 人」の 169

人(29.4%)、「3 人」が 144 人(25.0%)、「4 人」が 95 人(16.5%)、「5 人」が 59 人(10.3%)、

「6 人」が 47 人(8.2%)、「7 人」が 33 人(5.7%)であった。平均人数は 3.6 人であ

った。

同居者人数

1人 14 (2.4%)

2人 169 (29.4%)

3人 144 (25.0%)

4人 95 (16.5%)

5人 59 (10.3%)

6人 47 (8.2%)

7人 33 (5.7%)

8人 7 (1.2%)

9人 4 (0.7%)

10人 1 (0.2%)

無回答 2 (0.3%)

計 575 (100.0%)

平均 3.6人

(2074/573)

次に回答者の就労状況についてうかがった。「当時あなたはお仕事をされていました

か。仕事をされていた方は、どのような立場なのかも教えてください」との質問をした。

最も多かった回答は「無職」で 301 人(52.3%)と半数以上を占めた。「無職」が多く

なったのは、回答者の年齢に依存している可能性が高い。次に多かった回答は「常勤の

被雇用者」の 90 人(15.7%)であり、次いで「契約・パートタイム被雇用者」の 57 人

(9.9%)、「自営業主(農業以外)」の 56 人(9.7%)、「主として農業」の 40 人(7.0%)

が続いた。

11

職業

自営業主(農業以外) 56 (9.7%)

主として農業 40 (7.0%)

家業(農業以外)の手伝い 20 (3.5%)

常勤の被雇用者 90 (15.7%)

契約・パートタイム非雇用者 57 (9.9%)

無職 301 (52.3%)

無回答 11 (1.9%)

計 575 (100.0%)

患者が在宅での療養時に同居していたかどうかをうかがった。「同居していた」が 527

人で 91.7%を占めた。「同居していない」は 36 人、全体の 6.3%にとどまった。

「同居していない」と回答した 36 人の方には、「患者さまのご自宅まで片道どのくら

いの時間がかかりましたか(交通手段は問わない)」と質問した。この問いには「10 分

以内」が 17 人、「30 分以内」が 8 人、「30 分~1 時間以内」が 2 人、「1 時間以上」が

6 人との回答があった。

自宅療養時の同居

同居していた 527 (91.7%)

同居していない 36 (6.3%)

無回答など 12 (2.1%)

総計 575 (100.0%)

12

患者の在宅療養中に「介護サービス(ヘルパー等)を利用していましたか」ともうか

がった。介護サービスの利用状況については、432 人が利用していた、とこたえた。こ

れは全体の 75.1%である。利用していないとの回答は 127 人で、22.1%であった。回答

者のうち四分の三は、ヘルパーなど何らかの介護サービスを利用していたことが明らか

となった。周知のように、介護負担の大きさ、とりわけ同居家族にかかる負担の大きさ

は、在宅での療養・介護において長年問題とされてきたことである。この問題点に対応

するに当たり、在宅緩和ケアの利用者の多くが外部の介護サービスを利用し、家族介護

の負担を減らす工夫をしていたことがうかがわれる。

続けて、介護をめぐる状況についてうかがう質問をした。質問したのは、患者の在宅

療養中に「家族や親族、知人のなかで、患者さまの付き添いや介護を代わってくれる人

はいましたか」という点である。「いた」は 350 人で 60.9%、「いなかった」は 161 人

で 28.0%、無回答は 64 人(11.1%)だった。在宅での療養にあたり、家族のなかでも

主介護者に大きな負担がかかることはよく見られることである。この主介護者の負担の

軽減には、先ほどもふれた外部の介護サービスの利用というやり方がある。しかし、そ

れ以外にも、親族等のなかから、主介護者を支える人手を確保する、あるいは有力な準

主介護者というべき人手を確保するというやり方が現実には多くみられる。今回の調査

結果をみると、親族などから介護の面で有力なサポートを得ることができた、という回

答が 6 割に上った。親族などのサポートが在宅緩和ケアの介護面を支える有力な柱とな

っている現状がうかがわれる。

13

「いた」と回答した方には次の質問にこたえていただいた。「患者さまが亡くなる直

前、ご本人以外で介護に協力してくださった家族や親族は何人いましたか」との問いで

ある。「1 人」が最も多く 94 人、「2 人」がこれに並んで 93 人、これに「3 人」の 78

人、「4 人」の 38 人、「5 人」の 18 人と続いている。

14

3-3 患者(故人)について

これまでは回答者である主介護者に関する質問であったが、ここからは患者について

の質問についてである。

まず、患者(故人)の年齢と性別など基本的な事柄についてうかがった。まず年齢で

ある。最も多かったのは「70~79 歳」であり 162 人であった。これは全体の 28.2%で

ある(n=575)。これに並ぶのが「80~89 歳」の 152 人で、26.4%を占めた。次いで

多いのが「60~69 歳」の 119 人(20.7%)であった。以下、多い順にみていくと「90

~99 歳」の 66 人(11.5%)、「50~59 歳」の 46 人(8.0%)となっている。患者の平均

年齢は 74.6 歳であった。

故人の年

29歳以下 5 (0.9%)

30~39歳 6 (1.0%)

40~49歳 9 (1.6%)

50~59歳 46 (8.0%)

60~69歳 119 (20.7%)

70~79歳 162 (28.2%)

80~89歳 152 (26.4%)

90~99歳 66 (11.5%)

100~109

歳 6 (1.0%)

無回答 4 (0.7%)

総計 575 (100.0%)

平均 74.6歳

標準偏差 14.0

15

患者の性別についてうかがったところ、「男性」との回答が 319 人であった。「女性」

は 248 人で、今回の回答者の場合、患者は「男性」のほうが多かった。

次にたずねたのは、患者の生活歴のなかでも居住歴についてである。質問は「患者さ

まの一番長く住まわれていた場所はどこでしたか」というものである。この問いに対し

ては、以下のような回答がみられた。最も多かったのは「仙台市」の 259 人(45.0%)

であった。「宮城県(仙台市を除く)」は 227 人(39.5%)であった。

患者の居住地

仙台市

259 (45.0%)

宮城県(仙台市除く) 227 (39.5%)

内・名取市 (36)

内・大崎市 (31)

内・登米市 (20)

福島県

44 (7.7%)

その他の東北地方 15 (2.6%)

関東地

方 13 (2.3%)

その他の地域 8 (1.4%)

不明・無回答 9 (1.6%)

総計 575 (100.0%)

16

3-4 在宅療養の開始や継続・断念について

前述したように、今回の調査で力点を置いたのが、「在宅療養の選択について継続の

理由や断念の理由に関して」うかがうという点であった。

まず、患者本人が在宅をどのくらい希望していたかをうかがった。

最も多かったのは「とても望んでいた」の 228 人(39.7%)であった。次に多かった

のが「それなりに望んでいた」の 199 人(34.6%)であった。「どちらでもなかった」

は 89 人(15.5%)、「あまり望んでいなかった」は 34 人(5.9%)、「まったく望んでい

なかった」は 6 人(1.0%)であった。「とても望んでいた」「それなりに望んでいた」

を合わせると 74.3%と、全体の 7 割を占める結果となった。「あまり望んでいなかった」

「まったく望んでいなかった」との否定的な回答は、合計しても 6.9%に止まった。今

回の調査の回答のなかでは、患者本人の意向としては、自宅での療養を前向きに希望し

ていたとするものが多かった。

17

これに対して、患者と同居し、場合によっては介護の担い手となる家族や親族は、在

宅という選択肢をどの程度希望していたかをたずねた。

最も多かった回答は「それなりに望んでいた」の 237 人(41.2%)であった。次に多

かったのは「とても望んでいた」の 237 人(33.6%)であった。「どちらでもなかった」

は 74 人(12.9%)、「あまり望んでいなかった」は 42 人(7.3%)、「まったく望んでい

なかった」は 5 人(0.9%)であった。これも先ほどの患者本人の自宅での療養への希

望と同様の結果が出た。「とても望んでいた」「それなりに望んでいた」という在宅への

前向きな態度が 74.8%である。ただし、「それなりに望んでいた」が最多であったとこ

ろに、患者本人の意向と同居家族の意向との若干の違いが見出された。

さらに、在宅療養の開始にあたり、同居をしていなかった家族や親族が、在宅という

選択肢をどの程度希望していたかも併せてたずねた。

最も多く選ばれたのは、「それなりに望んでいた」の 202 人(35.1%)、これに次ぐの

が「どちらでもなかった」の 167 人(29.0%)であった。多い順に見ていくと以下、「と

ても望んでいた」96 人(16.7%)、「無回答」67 人(11.7%)、「あまり望んでいなかっ

た」30 人(5.2%)、「まったく望んでいなかった」13 人(2.3%)となった。自宅療養

18

への前向きな姿勢「とても望んでいた」「それなりに望んでいた」は 51.8%に止まった。

自宅での療養という選択がなされるにあたり、患者本人と同居家族の場合、いずれも

「とても望んでいた」「それなりに望んでいた」の合計が全体の 7 割を超えるという、

肯定的な態度をとっていたことが確認された。それに対して、同居をしていない親族の

場合、最も多かった回答が「どちらでもなかった」の 29.0%であった。なお患者本人、

同居家族の場合と比べて、無回答が一割に達したのも、非同居家族に関する回答の特徴

である。否定的な態度については、「あまり望んでいなかった」「まったく望んでいなか

った」を合わせても 7.5%に止まり、特に患者本人、同居家族の場合と比べて特徴はな

い。在宅を選択した当初は、非同居の親族の場合、それなりに肯定的な反応を示すか、

あるいは患者本人と同居家族とに選択を任せているものと推察される。

次に患者が亡くなられた場所についてうかがった。今回調査に応じてくださった方が

たから寄せられた回答をみたところ、以下のようであった。まず、最も多かったのは「患

者本人の自宅」であった。これは 475 人(82.6%)であり、八割以上が自宅での看取り

となったとの回答が得られた。これ以外はといえば、以下、見ていくと「近親者の家」

17 人(3.0%)、「福祉施設」15 人(2.6%)、「ホスピス・緩和ケア病棟」30 人(5.2%)、

「一般病棟」32 人(5.6%)、「無回答」6 人(1.0%)であった。患者の自宅、近親者の

家とを合計すると 85.6%になった。今回の遺族調査にご協力いただいた各診療所のケア

19

の利用者のうち、回答していただいた方々の多くは病院の外での看取りを経験されたこ

とがうかがわれる。

亡くなった場所

患者本人の家 475 (82.6%)

近親者の家 17 (3.0%)

福祉施設 15 (2.6%)

ホスピス・緩和ケア病

棟 30 (5.2%)

一般病棟 32 (5.6%)

無回答 6 (1.0%)

計 575 (100.0%)

患者が亡くなられた場所についてうかがった後、自宅での療養を途中で中断したか、

あるいは患者が亡くなられる最期まで継続したかをうかがった。なお、ここでいう中断

とは在宅療養そのものの断念を意味する。そのため、検査入院や緊急入院等、一時的な

入院は除いた。

在宅から病院、施設への療養場所の切り替えをしたかしないかをたずねたところ、切

り替えたことがあるかどうかに対して「はい(ある)」との回答は 81 人(14.1%)、「い

いえ(なし)」との回答は 83.8%、無回答は 12 人(2.1%)であった。

20

これらの項目への回答をみたところ、自宅での療養を中断したとする回答は、当初想

定したよりもかなり少なかった。在宅療養生活の断念、中断により、患者の亡くなった

場所として病院、ホスピス病棟がかなりの数が出てくるかと考えられたが、今回の調査

では患者の亡くなった場所としては、患者の自宅と近親者の家が 85.6%を占めた。ただ

し今回の調査では、福祉施設からの調査協力が得られなかったところが多かったため、

福祉施設の利用、福祉施設での看取りについて把握できていない部分があるため、その

点を考慮する必要がある。それでも、全体をみても 8 割以上の回答者が、最期まで自宅

での療養生活を継続できたとの結果が出てきた。調査に参加した各診療所での在宅緩和

ケアは、かなり患者の自宅での看取りにまでいたるものであった。

先の問いに、「はい」と答えていただいた方(n=81)には、この問いに続けて、自

宅での療養を断念し、病院や福祉施設に移動する時、患者本人が移動をどの程度望んで

いたかをうかがった。回答は以下のようであった。「とても望んでいた」が19人(23.5%)、

「どちらかといえば望んでいた」が 23 人(28.4%)、「どちらでもなかった」が 15 人

(18.5%)、「あまり望んでいなかった」が 13 人(16.0%)、「まったく望んでいなかっ

た」が 7 人(8.6%)であった。自宅での療養の中断に対して「とても望んでいた」「ど

ちらかといえば望んでいた」は合わせると 51.9%である。それに対して、「まったく望

んでいなかった」「あまり望んでいなかった」は 24.6%と全体の四分の一を占めた。

21

次に、これも「はい」と答えた方への問いであるが、患者ではなく同居していた家族

や親族が、病院や福祉施設への移動をどの程度希望していたかをうかがった。この質問

に対する回答は以下のようになった。回答中最多であったのは「どちらかといえば望ん

でいた」29 人(35.8%)であった。これに続いて「とても望んでいた」22 人(27.2%)、

「どちらでもなかった」9 人(11.1%)、「あまり望んでいなかった」7 人(8.6%)とな

った。自宅での療養の中断に対して「とても望んでいた」「どちらかといえば望んでい

た」は合わせると 63.0%になった。対して「まったく望んでいなかった」「あまり望ん

でいなかった」は 13.5%であった。

22

さらに続けて、患者と同居をしていなかった家族や親族が、病院や福祉施設への希望

をどの程度希望していたかをうかがった。回答の中で最も多かったのは「どちらでもな

かった」の 25 人(30.9%)であった。これに次いで多かったのが「どちらかといえば

望んでいた」の 24 人(29.6%)であり、「とても望んでいた」の 16 人(19.8%)が続

いている。「あまり望んではいなかった」は 4 人(4.9%)、「まったく望んでいなかった」

は 3 人(3.7%)であった。自宅での療養の中断に対して「とても望んでいた」「どちら

かといえば望んでいた」は合わせたところ 49.4%、これに対して「まったく望んでいな

かった」「あまり望んでいなかった」は合計すると 8.6%に止まり、全体の一割にも満た

なかった。

自宅での療養の中断、断念を決断するにあたり、患者本人、同居家族、非同居の親族

等を比較すると、同居家族が自宅での療養の中断を望むケースが多いことがうかがわれ

た。同居家族の場合、在宅の中断を決定するにあたり、態度が定まらないケース(「ど

ちらでもない」が 11.1%)が、患者本人の「どちらでもない」(18.5%)、非同居親族の

それ(30.9%)に比べると少ないことも注目できよう。

このほかにも患者本人の場合、中断を望んだという回答が半数を占めたものの、自宅

での療養の継続を志向するところも最も多く、24.6%に上った。自宅での療養の中断に

ついて、継続の志向が最も小さいのは非同居の親族であり、8.6%であった。

23

では、自宅での療養を中断し、病院や福祉施設に療養の場を移した理由はなんだった

のであろうか。そこで以下、いくつかの設問をおこない、そのなかで当てはまるものを

選んで回答してもらった。回答は「そう思っていた」「ややそう思っていた」「どちらで

もない」「あまり思っていなかった」「そう思っていなかった」との程度ごとに分けた 5

つの選択肢のうち、回答者の考えや思いに最も近いものを選択するかたちで行っていた

だいた。

A. 「本人が病院のほうが安心だとかんがえたため」

そう思っていた・・・34 人(42.0%)

ややそう思っていた・・・11 人(13.6%)

どちらでもない・・・13 人(16.1%)

あまり思っていなかった・・・6 人(7.4%)

そう思っていなかった・・・6 人(7.4%)

この質問への回答なし・・・11 人(13.6%)

(n=81)

この質問に対して最も多かった回答は「そう思っていた」の 34 人(42.0%)であっ

た。次に多かったのが「ややそう思っていた」の 11 人(13.6%)であった。この両者

をあわせると、55.6%を占めた。

B.「本人が自宅にいると家族に迷惑をかけると考えたため」

そう思っていた・・・5 人(6.2%)

ややそう思っていた・・・19 人(23.5%)

どちらでもない・・・18 人(22.2%)

あまり思っていなかった・・・12 人(14.8%)

そう思っていなかった・・・15 人(18.5%)

この質問への回答なし・・・12 人(14.8%)

この質問に対して最も多かった回答は「ややそう思っていた」の 19 人(23.5%)で

あり、これと並ぶのが「どちらでもない」の 18 人(22.2%)であった。「そう思ってい

た」「ややそう思っていた」はあわせて 29.7%、「そう思っていなかった」「あまりそう

思っていなかった」はあわせると 33.4%であった。

24

C.「予約していたホスピス病棟等の利用の順が回ってきたため」

そう思っていた・・・14 人(17.3%)

ややそう思っていた・・・6 人(7.4%)

どちらでもない・・・22 人(27.2%)

あまり思っていなかった・・・2 人(2.5%)

そう思っていなかった・・・11 人(13.6%)

この質問への回答なし・・・26 人(32.1%)

この問いに対して最も多く選択されたのは「どちらでもない」の 22 人(27.2%)で

あった。選択肢ではないが、「回答なし」の 25 人(32.1%)の多さが目立つ。

D.「介護者の精神的・体力的な負担が大きくなってきたため」

そう思っていた・・・19 人(23.5%)

ややそう思っていた・・・16 人(19.8%)

どちらでもない・・・13 人(16.0%)

あまり思っていなかった・・・9 人(11.1%)

そう思っていなかった・・・10 人(12.3%)

この質問への回答なし・・・14 人(17.3%)

自宅での療養となると問題点として注目される介護負担についてうかがった質問で

ある。この問いに対しては「そう思っていた」が 19 人(23.5%)、「ややそう思ってい

た」が 16 人(19.8%)、これらをあわせると全体の 43.3%であった。「そう思っていな

かった」が 10 人(12.3%)、「あまり思っていなかった」が 9 人(11.1%)で、これを

あわせたところ 23.4%となった。

E.「経済的に継続が難しくなってきたため」

そう思っていた・・・3 人(3.7%)

ややそう思っていた・・・1 人(1.2%)

どちらでもない・・・13 人(16.0%)

あまり思っていなかった・・・16 人(19.8%)

そう思っていなかった・・・29 人(35.8%)

この質問への回答なし・・・19 人(23.5%)

この設問に対しては最も多かった回答が「そう思っていなかった」で 29 人(35.8%)、

25

次いで多かったのが「あまり思っていなかった」の 16 人(19.8%)であった。これに

対して「そう思っていた」「ややそう思っていた」はあわせても 4.9%に止まった。

F.「介護に関して職場の理解や協力が得られなかったため」

そう思っていた・・・1 人(1.2%)

ややそう思っていた・・・2 人(2.5%)

どちらでもない・・・15 人(18.5%)

あまり思っていなかった・・・6 人(7.4%)

そう思っていなかった・・・32 人(39.5%)

この質問への回答なし・・・25 人(30.9%)

この問いに対しては、「そう思っていなかった」が 32 人(39.5%)、「あまりそう思っ

ていなかった」が 6 人(7.4%)であった。さらに「回答なし」が 24 人(23.5%)、「ど

ちらでもない」が 15 人(18.5%)であった。これに対して「そう思っていた」「ややそ

う思っていた」は合計しても 3.7%に止まった。

G.「緊急の時に、医師や看護師が駆けつけるのに時間がかかるため」

そう思っていた・・・21 人(25.9%)

ややそう思っていた・・・11 人(13.6%)

どちらでもない・・・11 人(13.6%)

あまり思っていなかった・・・6 人(7.4%)

そう思っていなかった・・・13 人(16.0%)

この質問への回答なし・・・19 人(23.5%)

在宅緩和ケアの現場で時折、患者や家族から不満が出てくるのがこの問題である。こ

の問いに対しては「そう思っていた」が 21 人(25.9%)と全体の四分の一を占める回

答があった。さらに「ややそう思っていた」が 11 人(13.6%)であり、「そう思ってい

た」と合わせると 39.5%に上った。これに対して「そう思っていなかった」「あまり思

っていなかった」は合計して 23.5%であった。

H.「患者の容態をみていて不安が大きくなったため」

そう思っていた・・・38 人(46.9%)

ややそう思っていた・・・12 人(14.8%)

26

どちらでもない・・・5 人(6.2%)

あまり思っていなかった・・・3 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・7 人(8.6%)

この質問への回答なし・・・16 人(19.8%)

患者と同居する家族にとって、患者の状態は気になるところである。ことに終末期の

場合、患者の衰え、容態の変化は家族に大きな精神的負担となる。そこでこの問いを設

けたところ、以下のような回答状況であった。最も多かったのが「そう思っていた」の

38 人(46.9%)、これに次ぐのが「ややそう思っていた」の 12 人(14.8%)であり、こ

れらを合わせると 61.7%にのぼった。これに対して「そう思っていなかった」「あまり

思っていなかった」は合わせても 12.3%と少なかった。

I.「周囲の人々が在宅の継続に反対し、入院させるように主張したため」

そう思っていた・・・5 人(6.2%)

ややそう思っていた・・・6 人(7.4%)

どちらでもない・・・21 人(25.9%)

あまり思っていなかった・・・3 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・28 人(34.6%)

この質問への回答なし・・・18 人(22.2%)

時折、在宅緩和ケアの現場でみられるのは、同居していない親族、周囲の人々が自宅

での療養に反対し、同居家族ともめるケースである。こうした周囲とのあつれきについ

てうかがう設問もおこなった。これについて最も多かったのは「そう思っていなかった」

の 28 人(34.6%)であった。「そう思っていた」「ややそう思っていた」は合わせて 13.6%

に止まった。

J.「医師や看護師からの強い勧めがあったため」

そう思っていた・・・11 人(13.6%)

ややそう思っていた・・・3 人(3.7%)

どちらでもない・・・26 人(32.1%)

あまり思っていなかった・・・3 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・28 人(22.2%)

この質問への回答なし・・・20 人(24.7%)

27

この設問に対して最も多かった回答は「どちらでもない」の 26 人(32.1%)であっ

た。「そう思っていた」「ややそう思っていた」は合わせて 17.3%、これに対して「そう

思っていなかった」「あまり思っていなかった」は合計すると 25.9%であった。

そう思っていたややそう思ってい

たどちらでもない

あまり思っていなかった

そう思っていなかった

無回答 計

患者の容態をみていて不安が大きくなったため 46.9% 14.8% 6.2% 3.7% 8.6% 19.8% 100.0%本人が病院の方が安心と考えたため 42.0% 13.6% 16.0% 7.4% 7.4% 13.6% 100.0%緊急の時に、医師や看護師が駆けつけるのに時間がかかるため

25.9% 13.6% 13.6% 7.4% 16.0% 23.5% 100.0%

介護者の精神的・体力的な負担が大きくなったため 23.5% 19.8% 16.0% 11.1% 12.3% 17.3% 100.0%予約していたホスピス病棟等の利用順が回ってきたため

17.3% 7.4% 27.2% 2.5% 13.6% 32.1% 100.0%医師や看護師からの強い勧めがあったため 13.6% 3.7% 32.1% 3.7% 22.2% 24.7% 100.0%本人が自宅にいると家族に迷惑をかけると考えたため 6.2% 23.5% 22.2% 14.8% 18.5% 14.8% 100.0%周囲の人々が在宅の継続に反対し、入院させるように主張したため

6.2% 7.4% 25.9% 3.7% 34.6% 22.2% 100.0%

経済的に継続が難しくなったため 3.7% 1.2% 16.0% 19.8% 35.8% 23.5% 100.0%介護に関して職場の理解や協力が得られなかったため

1.2% 2.5% 18.5% 7.4% 39.5% 30.9% 100.0%

各項とも n=81

在宅から病院・施設への切り替えの理由

以上、A から J にわたる回答状況をみてきた。ここで気付かれた点をいくつかあげた

い。中断の要因として大きいのは「患者の容態をみていて不安が大きくなったため」と

「本人が病院の方が安心と考えたため」であった。半数を超える人が、自宅での療養の

中断、断念の要因としてこれを選択していた。在宅緩和ケアの利用者である患者には、

終末期のがん患者が多い。そのため、患者はもちろんだが、見守る家族もまた大きな精

神的な不安を抱えている。とくに病状の進行が見られるようになると、その不安がより

大きくなるのは想像に難くない。病状の進行とともに、介護負担も急激に増す場合がほ

とんどである。不安が大きくなる時期は、同時に介護負担が大きくなる時でもある。こ

の時期に不安をかかえ、その負担に耐えがたい重みを感じた方々が、在宅での療養の中

断、断念という選択をしているものと考えられる。介護負担の大きさをあげた人もかな

りいたものの、それ以上に大きかったのは精神的な面での負担、不安感であった。特に、

同居家族がこの不安の大きさに耐えられないケースが多そうである。これはがんという

病気の経過、とりわけ終末期における経過の特徴によるものと考えられる。

自宅での療養生活をめぐる不安感に関する問いとしては「緊急の時に、医師や看護師

28

がかけつけるのに時間がかかるため」を設けたが、これも「そう思っていた」「ややそ

う思っていた」を合わせると、ほぼ 4 割になった。自宅での療養の中断、断念において、

精神的な負担、不安の問題はかなり大きいことがうかがわれる。

注目されたのは、経済的な問題が当初想定していたよりも、中断の要因としてはかな

り小さいという点であった。これは今回の調査結果のなかでも顕著な傾向が見出された

ものとなった。在宅緩和ケアに関する情報不足、在宅の療養生活に関する情報不足から、

在宅に対する経済的な不安を感じるとの声はよく聞くところである。しかし、実際に在

宅でのケアを体験することによって、そうした不安はむしろ払拭されているように考え

られる。介護負担に関わる設問「介護に関して職場の理解や協力が得られなかったため」

については中断、断念の要因として挙げる人が少なかった。ここからは回答者の平均年

齢の高さ、在宅緩和ケアの主介護者に配偶者が多い点からも、「老老介護」的な状況で

ケアをしている実態が反映されているものと思われる。

今回の調査にあたり、一つの仮説として、周囲の人々、同居していない親族と患者本

人、同居家族とのあいだに、在宅緩和ケアの継続をめぐって摩擦が生じ、中断、断念が

なされているケースも多いのではないか、と考えていた。調査結果を見たところ、そう

したケースは一定程度存在はするものの、当初予想したほどは多くはないようであった。

周囲の親族が介入し、在宅での療養に反対するケースは、時にその反対が非常に激しく

なるために、そのケースの存在感が非常に大きくなる。そのため、こうしたケースの生

じる数以上に、一つ一つのケースの存在感の大きさが働いているのかもしれない。

次に、自宅での療養を中断・断念せず、療養場所の切り替えを行わなかった方への質

問を設けた。うかがったのは、自宅での療養を継続できたのはなぜか、という点である。

そこで、継続できた理由としてあてはまるものを選んでもらった。これらの質問も、「そ

う思っていた」「ややそう思っていた」「どちらでもない」「あまり思っていなかった」

「そう思っていなかった」との程度ごとに分けた 5 つの選択肢のうち、回答者の考えや

思いに最も近いものを選択するかたちで回答していただいた。

A.「本人が自宅でも十分な医療を受けられると思ったため」

そう思っていた・・・231 人(47.9%)

ややそう思っていた・・・107 人(22.2%)

どちらでもない・・・73 人(15.1%)

あまり思っていなかった・・・27 人(5.6%)

そう思っていなかった・・・16 人(3.3%)

この質問への回答なし・・・28 人(5.8%) (n=482)

29

この問いに対して最も多かった回答は「そう思っていた」は 231 人(47.9%)、次い

で多かったのは「ややそう思っていた」の 107 人(22.2%)であった。これらの回答を

合わせると 70.1%になった。これに対して「そう思ってなかった」は 27 人(5.6%)、「そ

う思っていなかった」は 16 人(3.3%)に止まり、これらを合わせても 8.9%であった。

B.「家族にとっても、本人が自宅にいる事が良いと考えたため」

そう思っていた・・・354 人(73.4%)

ややそう思っていた・・・70 人(14.5%)

どちらでもない・・・21 人(4.4%)

あまり思っていなかった・・・7 人(1.5%)

そう思っていなかった・・・6 人(1.2%)

この質問への回答なし・・・24 人(5.0%)

この設問に対しては 7 割を超える人が「そう思っていた」(73.4%)と回答していた。

次いで「ややそう思っていた」が 70 人(14.5%)であった。この両者を合計すると、

87.9%にまでなった。

C.「希望していたホスピス病棟等に空きがなかったため」

そう思っていた・・・37 人(7.7%)

ややそう思っていた・・・16 人(3.3%)

どちらでもない・・・71 人(14.7%)

あまり思っていなかった・・・18 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・224 人(46.5%)

この質問への回答なし・・・116 人(24.1%)

ホスピス病棟の順番を待つために、その間に在宅緩和ケアを利用する方も少なくない。

そこで、意に反して順番待ちのうちに患者がなくなるというケースが考えられた。そこ

でこの問いを設けたところ、最も多かった回答は「そう思っていなかった」が 224 人

(46.5%)であった。「そう思っていた」「ややそう思っていた」は合計したところ 11.0%

であった。

D.「介護者の精神的・体力的負担が、それほど大きくなかったため」

そう思っていた・・・123 人(25.5%)

30

ややそう思っていた・・・90 人(18.7%)

どちらでもない・・・93 人(19.3%)

あまり思っていなかった・・・52 人(10.8%)

そう思っていなかった・・・72 人(14.9%)

この質問への回答なし・・・52 人(10.8%)

介護負担をめぐっての設問に対する回答は以下のようになった。最多であった答えは

「そう思っていた」の 123 人(25.5%)であり、全体の四分の一を占めた。「ややそう

思っていた」の 90 人(18.7%)と合わせると 44.2%になった。これに対して負担感を

感じたとの回答は「そう思っていなかった」の 72 人(14.9%)、「あまりそう思ってい

なかった」の 52 人(10.8%)であり、両者を合計すると 25.7%であった。この他、中

間に位置する回答「どちらでもない」は 93 人(19.3%)であった。

E.「経済的な問題が特になかったため」

そう思っていた・・・170 人(35.3%)

ややそう思っていた・・・60 人(12.4%)

どちらでもない・・・127 人(26.3%)

あまり思っていなかった・・・25 人(5.2%)

そう思っていなかった・・・38 人(7.9%)

この質問への回答なし・・・62 人(12.9%)

経済的な問題についてうかがったところ、回答は以下のようであった。経済的な問題

があったと感じていた回答(「そう思っていなかった」「あまり思っていなかった」)は

合わせても 13.1%に止まった。これに対して問題はなかったと感じられたとの回答(「そ

う思っていた」「ややそう思っていた」)は合計すると 47.4%と、全体のほぼ半数を占め

た。

F.「介護に関して職場の理解や協力が得られたため」

そう思っていた・・・85 人(17.6%)

ややそう思っていた・・・30 人(6.2%)

どちらでもない・・・144 人(29.9%)

あまり思っていなかった・・・12 人(2.5%)

そう思っていなかった・・・48 人(10.0%)

この質問への回答なし・・・163 人(33.8%)

31

この質問に対して最も多かった回答は、「どちらでもない」の 144 人(29.9%)であ

った。ここで注目されるのは「回答なし」の 163 人(33.8%)の多さである。この問題

については、やはり主介護者の平均年齢の高さが反映しているように思われる。すなわ

ち、高齢の専業主婦的な女性の多くが介護を担っているという現状が反映されていると

推測される。

G.「緊急の時に、医師や看護師がすぐに駆けつけてくれるから」

そう思っていた・・・326 人(67.6%)

ややそう思っていた・・・80 人(16.6%)

どちらでもない・・・32 人(6.6%)

あまり思っていなかった・・・10 人(2.1%)

そう思っていなかった・・・4 人(0.8%)

この質問への回答なし・・・30 人(6.2%)

患者の急変時などに医師や看護師など医療スタッフが迅速に対応してくれたと思わ

れたかどうかをうかがった。この問いに対しては、最も多かった回答は「そう思ってい

た」の 326 人(67.6%)であり、全体の三分の二を占めた。この点についてはむしろ不

安の方が大きいと当初は予想していたが、これに反して、むしろ全体の三分の二を占め

る回答者がこの点で満足感を感じていた。次に多かったのも肯定的な回答である「やや

そう思っていた」の 80 人(16.6%)であった。否定的な回答(「そう思っていなかった」

「あまり思っていなかった」)は合計しても 2.9%に過ぎず、かなり少なかった。

H.「患者の容体が落ち着いていたから」

そう思っていた・・・171 人(35.5%)

ややそう思っていた・・・94 人(19.5%)

どちらでもない・・・88 人(18.3%)

あまり思っていなかった・・・19 人(3.9%)

そう思っていなかった・・・52 人(10.8%)

この質問への回答なし・・・58 人(12.0%)

この設問に対して最も多かった回答は「そう思っていた」の 171 人(35.5%)で、全

体の三分の一を占めた。これと「ややそう思っていた」の 94 人(19.5%)とを合わせ

ると 55%と全体の半数以上となった。

32

I.「周囲の人々から在宅療養の継続に理解が得られたため」

そう思っていた・・・159 人(33.0%)

ややそう思っていた・・・62 人(12.9%)

どちらでもない・・・140 人(29.0%)

あまり思っていなかった・・・17 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・25 人(5.2%)

この質問への回答なし・・・79 人(16.4%)

この問いに対する回答で最も多かったのは「そう思っていた」の 159 人(33.0%)で、

全体の三分の一を占める結果となった。この回答と「ややそう思っていた」の 62 人

(12.9%)を合わせると 45.9%となった。最多の「そう思っていた」と並んで多かった

のは「どちらでもない」の 140 人(29.0%)であった。自宅療養に対する周囲の人々の

賛否については、継続した人の回答をみたところ、半数近い人が継続を後押しした要因

として挙げていた。周囲の理解、承認は自宅療養する患者や家族を後援しているものと

思われる。在宅を中断したケースとは異なる傾向が見出される結果となった。「どちら

でもない」「回答なし」もほぼ同じ(45.4%)割合であった。周囲の人々の肯定的態度、

あるいは無関心さは積極、消極の違いはあれ、終末期の患者を間近で見守る家族の不安

や精神的な負担を支える、少なくとも大きくしないという点で、在宅の療養を継続させ

るものとして働いているように思われる。

J.「医師や看護師からの強い勧めがあったため」

そう思っていた・・・99 人(20.5%)

ややそう思っていた・・・79 人(16.4%)

どちらでもない・・・160 人(33.2%)

あまり思っていなかった・・・18 人(3.7%)

そう思っていなかった・・・59 人(12.2%)

この質問への回答なし・・・67 人(13.9%)

この問いについて最も多かった回答は「どちらでもない」の 160 人(33.2%)であっ

た。医師・看護師が在宅緩和ケアの継続にあたり励ましとなったとの回答は「そう思っ

ていた」99 人(20.5%)、「ややそう思っていた」79 人(16.4%)であり、これを合わ

せると 36.9%となった。在宅の継続を継続するか否かを判断するにあたり、医師、看護

師からのはげまし、勧めが継続の後押しとなったというケースは、全体の三分の一を占

33

めた。患者、家族の不安に対して、医師、看護師の後押しや励ましというサポートがあ

って、これが在宅療養の継続につながるケースも少なくなかったことが推察される。

そう思っていたややそう思っていた

どちらでもないあまり思っていなかった

そう思っていなかった

無回答 計

家族にとっても、本人が自宅にいる事が良いと考えたため

73.4% 14.5% 4.4% 1.5% 1.2% 5.0% 100.0%

緊急の時に、医師や看護師がすぐに駆けつけてくれるから

67.6% 16.6% 6.6% 2.1% 0.8% 6.2% 100.0%

本人が自宅でも十分な医療を受けられると思ったため

47.9% 22.2% 15.1% 5.6% 3.3% 5.8% 100.0%

患者の容態が落ち着いていたから 35.5% 19.5% 18.3% 3.9% 10.8% 12.0% 100.0%経済的な問題が特に無かったため 35.3% 12.4% 26.3% 5.2% 7.9% 12.9% 100.0%周囲の人々から在宅療養の継続に理解が得られたため

33.0% 12.9% 29.0% 3.5% 5.2% 16.4% 100.0%

介護者の精神的・体力的な負担が、それほど大きくなかったため

25.5% 18.7% 19.3% 10.8% 14.9% 10.8% 100.0%

医師や看護師からの強い勧めがあったため

20.5% 16.4% 33.2% 3.7% 12.2% 13.9% 100.0%

介護に関して職場の理解や協力が得られなかったため

17.6% 6.2% 29.9% 2.5% 10.0% 33.8% 100.0%

希望していたホスピス病棟等に空きがなかったため

7.7% 3.3% 14.7% 3.7% 46.5% 24.1% 100.0%

各項とも n=482

自宅での療養継続の要因

以上の A から J の質問への回答を概観し、中断要因に関する調査結果等と突き合わ

せると、いくつかの点が明らかになってきた。自宅での療養生活を継続できた要因とし

て多く挙げられたのは、まず「家族にとっても、本人が自宅にいる事がよいと考えられ

たため」であった。このように感じていた回答者は 9 割近くいた。患者と同居している

家族が在宅での療養生活をどのように評価しているか、安心感を感じているかどうか、

が在宅緩和ケアの継続を左右している模様である。これと関係するのが「緊急の時に、

医師や看護師がすぐに駆けつけてくれるから」「患者の容態が落ち着いていたから」の

問いである。これも前者において「そう思っていた」「ややそう思っていた」の合計が

全体の 8 割を占めるなどかなり大きい。後者についても、そのように感じていた人は

55%と半数を超えていた。同居家族が患者の看取りをするにあたり、抱え込む不安、精

神的な負担が過重にならなかった場合、在宅の継続は可能になっているものと考えられ

た。

自宅での療養の場合、どうしても家族の介護負担の問題は無視できない。継続できた

34

人たちの場合の、介護負担の問題の現れ方はといえば、介護をしている時の身体的、精

神的負担感の大きさは感じられているようであった。ただ、この問題に関しては、介護

サービスを利用したとの回答の多さから、家族が介護の負担を抱え込むのではなく、負

担が大きくなった時に、外部の介護サービスの利用による対応ができつつあることをも

うかがわせている。

4 まとめと今後の課題

今回の調査研究は、在宅緩和ケアを利用した患者と家族とが、自宅での療養の継続、

あるいは中断を決断する際、どのような要因が働いているのかを重点的に調べるもので

あった。その調査結果からいくつかの点が明らかになってきたと考えられる。

今回の調査にあたり、在宅の継続・中断には同居していない親族など周囲の人々が与

える影響が大きいとの仮説をもって臨んだ。在宅療養の中断、在宅継続の際の混乱に関

して現場の医師、看護師、メディカルソーシャルワーカーにたずねたところ、周囲の親

族の反対があるケース、同意が得られず患者や家族が悩むケースが多いとの経験談をき

くことが多かったからである。

しかし、今回の調査結果からうかがわれたのは、大半のケースでは、周辺の親族など

は、基本的には患者と家族がどこを療養生活の場として選択するか、という点には強い

関心を示すことはそれほど多くはない、という傾向である。もちろん、周囲の同意や後

押しを得られなかったために在宅が中断されるケースは見られる。同居していない親族

や周囲の人々の激しい反対が生じ、在宅の継続が困難に感じられたケースが与える印象

の強さはあるものの、全体的にはそれほど多く確認できる中断要因ではなさそうである。

経済的な不安は、在宅の継続、中断を左右する要因ではなさそうである、という点も

調査結果からは示唆された。これは中断したと回答した側、継続した側双方で見られた

ところであった。実際に在宅緩和ケアを利用した利用者からすれば、経済的な負担感の

大きさが問題になるということは少ないと考えられた。

在宅の継続、中断を左右する要因として大きいのは、家族が直面する不安、とりわけ

患者の病状の進行を目の当たりにして感じる不安感であった。患者本人の不安の大きさ

もさることながら、家族の不安感の問題の大きさが明確に出ていた。これが耐えがたい

ものになった場合に在宅の中断がなされている模様であった。経済的な問題や制度面で

の問題よりも、家族の不安感に対していかなるサポートがなされたかが、最期まで自宅

での療養が可能になるか否かを左右しているようである。在宅緩和ケアの今後の展開に

際して、自宅での看取りまでも視野に入れたケアの在り方をよしとするならば、家族の

直面する不安感にどう対応するかが無視しえない課題となってくる。

35

この不安感の内容については、質問紙の詳細な分析を続けるとともに、自由記述を利

用し、場合によってはインタヴューを行うなどして、さらに踏み込んだ検討を加えてい

く必要性を痛感した。本研究の今後の課題の一つとしては、自宅に戻り療養生活をおく

るなかで患者と家族が抱える不安の内容に対する、さらなる解析があげられよう。併せ

て、中断の要因として挙げられていた点に関して、各診療所の医療、介護スタッフがい

かに対応しているか、という点も補充調査するべきであろうと思われた。

今回の調査研究では、未だ本格的な調査、研究が行われていない在宅療養の継続、中

断の要因といった問題にアプローチするものであり、以上で述べてきたような知見を得

ることができた。今後の展開については、得られた調査結果のより深く踏み込んだ、多

角的な分析を進めつつ、さらにデータの蓄積を図ることが考えられている。自由記述等

の活用も重要である。今回の調査研究をもとに、在宅での看取りの支援が可能になる条

件の模索をさらに進めていきたいと思う。

最後に、本報告書の提出は、研究責任者である相澤出が、今年二月に病気により入院、

加療が必要な身となってしまったこと、加えて東日本大震災の発生により、大幅に遅れ

ることになってしまった。責任者の入院という当研究グループの特殊事情で生じた遅れ

に加え、宮城県内に置かれた共同研究の拠点の被災により、報告書の仕上げ作業は当初

の予定からはるかに遅いものとなってしまった。しかし、勇美記念財団の一方ならぬ御

厚意と御高配によって、なんとか本報告書の仕上げにまで漕ぎつけることができた。こ

こに多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びするとともに、あらためて勇美記念財

団に心より御礼を申し上げる次第である。

※本研究は、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団より研究助成をうけ

て行われた。