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2009年上場会社PBRと配当率 による時価推計試算 2010年度統計関連学会連合大会 平成22年9月6日(月) 統計研修所 伊原

2009年上場会社PBRと配当率 - Stat...種別平均PBRを相場率として、純資産額に乗じ ることにより時価総額をある程度推計すること が可能である。(参照)

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2009年上場会社PBRと配当率による時価推計試算

2010年度統計関連学会連合大会平成22年9月6日(月)

統計研修所 伊原 一

法人企業や会社の経済規模を表す数値として、資本金、総資産、純資産、時価総額などがよく用いられる。

しかし、資本金については会社の規模が大きくなっても増資を行わなければ金額が変わらないため、大企業だからといって資本金が大きいとは限らない。

また、総資産は負債によって見掛け上の大きさが膨らむ可能性があるので、会社規模を過大に評価してしまうおそれがある。

そういった意味で、会社の経済規模を最もよく表す数値は時価総額か純資産であると考えられる。

時価総額は、すなわちその会社を買い上げるのに必要な市場価格ということになるが、市場で時価が形成されるためにはその会社が証券取引所に上場されて株式が売買されていることが必要となる。

ところが、金融保険業を除く法人企業数約280万のうち、証券取引所に上場されている会社はわずか3700社程度にとどまっており、それ

以外の大部分の非上場企業は上場されていないため時価を把握することができない。

会社の企業価値として、時価を推計する方法には様々なものがあるが、証券分析では類似企業に着目する方法や、利回りによる将来見積もりに着目して理論株価を計算する配当割引モデル(DDM)、残余利益モデル(RIM)等が用いられる。

本稿では、2009年末に主要な証券取引所に上場している上場会社3714社(債務超過、監

理銘柄、外国銘柄等を除く)について、有価証券報告書に記載されている純資産額、1株当たり配当額、発行済株式数(普通株式)などを照合し、時価推計試算を行って実際の時価総額と比較を行うことで、時価総額の推計方法について検証を行った。

<主な計算式の定義>

時価総額 = 株価終値 × 発行済株式数

配当総額 = 1株当たり配当額× 発行済株式数

PBR = 時価総額 / 純資産額

1.株式分割の調整

時価推計を行うにあたって、2009年末の上

場会社について調べてみると、有価証券報告書の決算期間後に株式分割を行った上場会社があることがわかる。

1.株式分割の調整

株式分割について、証券会社等が公表している株式分割銘柄一覧で確認してみると、2009年に株式分割を行った上場会社71社のうち、49社が有価証券報告書の決算期間後に株式分割を行っている。

2009年12月末日の株価の終値は、株式分割

を反映した値となっていることから、該当する49社については株式分割の調整を行う。

1.株式分割の調整

時価総額 = 終値 × 発行済株式数

× 分割数

株式分割調整の結果、証券取引所ごとの株式分割調整済の時価総額は表1となる。

表1.株式分割調整済の時価総額(2009年期末)

取引所 対象会社数

純資産額(百億円)

時価総額(百億円)

分割調整済時価総額(百億円)

除外会社数

債務超過 廃止等

実 数 3,714 23,570 31,522 34,393 17 14

合計(延べ) 4,717 53,156 74,272 80,036 17 15

東 証 2,300 22,455 30,527 33,173 5 5

大 証 960 14,219 19,520 19,533 0 4

名 証 370 8,729 12,071 14,985 1 5

福 証 135 4,007 6,143 6,143 0 0

札 証 73 3,056 5,181 5,181 1 0

JASDAQ 879 690 830 1,021 10 1

2.業種別平均PBRと配当総額

上場会社の時価推計については、業種ごとに業種別平均PBRが大きく異なることから、業種別平均PBRを相場率として、純資産額に乗じ

ることにより時価総額をある程度推計することが可能である。

(参照)2009年上場会社PBRと法人企業時価推計エストレーラ2010年5月号

2.業種別平均PBRと配当総額

業種別平均PBRが、業種ごとに大きく異なる

原因については、業種ごとの配当利回りの違いが相場率に大きく影響していると考えられる。

法人企業統計の結果を見てみると、業種別平均PBRと純資産に対する配当額の率を表す

純資産配当率は連動(図1)していることがわかる。

図1.業種別平均PBRと純資産配当率

3.配当及びPBRと時価総額

そこで、上場会社を配当の有無により有配当と無配当にグループ分けし、さらに有配当についてはPBRを用いて、

(1) PBR1.0以上の有配当利回り型(2) PBR1.0未満の有配当純資産型(3) 無配当型

に分けて、それぞれ純資産額及び配当総額と、時価総額との比較を行った。

(1) 有配当利回り型(有配当でPBR1.0以上)

上場会社3714社のうち、有配当でPBR1.0以上の有配当利回り型の上場会社1048社につ

いて見てみると、時価総額と配当総額の相関係数は0.967を示しており、時価総額は配当総額と強い相関を示すことがわかる。

有配当利回り型の平均配当利回りは、約2.16%となっており、有配当利回り型の上場会

社の時価総額は、主に配当総額と配当利回りによって決定されていると見ることができる。

図2.有配当PBR1.0以上の時価総額と配当総額

平均比率 0.0216回帰係数 0.0281相関係数 0.9673

(2) 有配当純資産型(有配当でPBR1.0未満)

有配当でPBR1.0未満の有配当純資産型の上場会社1921社を見てみると、純資産額と時価総額の相関係数は0.988となっており、時価

総額は純資産額と強い相関を示すことがわかる。

有配当純資産型の平均PBRは0.687で、平均配当利回りは2.62%となっている。

図3.有配当PBR1.0未満の純資産額と時価総額

平均比率 0.6866回帰係数 0.6876相関係数 0.9881

(3) 無配当型

無配当の上場会社について見てみると、純資産額と時価総額の相関係数は0.724となっており、相関はそれほど高くない。

無配当型の平均PBRは0.884となっている。

図4.無配当の純資産額と時価総額

4.配当及び純資産による時価推計

以上から、2009年上場会社の時価総額は、

有配当の場合については配当額から利回りが2.16%程度となる値で市場価格が形成されているが、PBRが1.0を下回る場合は純資産額の0.687倍程度が下限となる。

無配当の場合は、時価総額は純資産額の0.884倍程度となっている。

4.配当及び純資産による時価推計

そこで、上場会社3714社の純資産及び配当

から、この市価形成条件を用いて個々の会社の時価推計を行い、実際の時価総額と比較を行ってみることにした。

推計手順

①有配当の場合は、配当総額から配当利回りが2.16%となるように時価計算を行う。

時価推計値 = ( 1株当たり配当額

× 発行済株式数 )/ 0.0216

推計手順

②ただし、純資産額に対する時価推計の比率が0.687を下回る場合は、純資産額の0.687倍を下限とする。

時価推計下限値 = 純資産額 × 0.687

推計手順

③無配当の場合は、純資産額の0.884倍を時価推計値とする。

時価推計値 = 純資産額 × 0.884

以上の推計手順で求めた時価推計値と時価総額を比較(図5)してみたところ、相関係数は0.966を示すことから、推計値として十分に意味のある結果が得られることがわかる。

図5.配当と純資産による時価推計

平均比率 1.0639回帰係数 1.2994相関係数 0.9664

5.まとめ

本稿における時価総額の推計方法は、市場相場による配当率を用いて計算を行うことから、配当相場モデル(Dividend Quotation Model)と呼ぶことができる。

結果として、有配当PBR1.0 以上の上場会社の平均配当率(配当利回り)は2.16%となってお

り、時価総額と配当総額に強い相関が観察される。

5.まとめ

このことから、時価総額は単に会社の経済規模を表しているのではなく、株価変動による時価総額と配当率の相対変化によって時価が上がれば配当率が下がり、時価が下がれば配当率が上がることで、価格調節が機能していると考えられる。

5.まとめ

これは、上場会社の株式が証券市場で取引される金融商品であることから、利回りが高ければ市価が上昇し、利回りが低ければ市価が下落することで利回りが市場平均(市場相場)に近づくように価格が調節されることを示唆している。

5.まとめ

このように株価の変動が主に配当利回りで説明できるのであれば、時価総額は配当総額と配当利回りによって計算できることになる。

また、株価の変動が主に配当利回りで説明できるのであれば、株価が他市場の金融商品の価格変動と相互に影響する理由は容易に説明できる。

5.まとめ

すなわち、会社企業の時価総額は、配当額と利回りによって個々に価格が調節されるだけでなく、株式市場以外の市場利回りとの差異によって資本が市場間を移動し、より利回りが高い市場の金融商品に資金が流れることで市場間の価格調節が機能していると考えられる。

5.まとめ

一方、株式市場の利回りは配当利回りと株価上昇による利回りがあり、株価上昇による利回りが株価変動に強く影響している場合は、株価の非線形モデル等が必要になる。

5.まとめ

時価総額については、経済規模にかかわらず配当を増やすことによって大きく膨らむ場合があることから、経済規模を表す数値としては必ずしも適切とはいえないということになる。

会社の経済規模を表すには、時価総額よりも純資産額の方が適していると考えられる。

注)本稿の見解等は、筆者の個人的な意見によるものである。

参考文献伊原一(2010)「2009 年上場会社PBR と法人企業時価推計」エストレーラ2010年5月号