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福沢諭吉の哲学 精神の転回と 実学の職分 思想哲学研究会 第11福沢諭吉の哲学 プレゼンター 蔭木 達也 201010311

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福沢諭吉の哲学精神の転回と

実学の職分思想哲学研究会第11回

福沢諭吉の哲学

プレゼンター 蔭木 達也

2010年10月31日

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目次

• 福沢諭吉はどんな人か

• 精神の転回

• これからの「学問のすゝめ」

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福沢諭吉 ‏(1835-1901)

• 日本の武士(中津藩士)幕臣・旗本(外国方翻訳局、外国奉行支配調役次席翻訳御用)、文人、蘭学者、著述家、自然科学者、『国家独立』を志向した啓蒙思想家、新聞時事新報の創刊・発行者、教育者、明六社発起人、興亜会(亜細亜協会)顧問、適塾第十代塾頭、慶應義塾創設者。

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時代と人物

• 同世代の思想家を挙げると、橋本左内とは同年代、坂本龍馬は一つ年下、高杉晋作は五つ年下、吉田松陰で四つ年上。

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1853 ペリー来航 1873 徴兵令

1859 横浜開港 1877 西南戦争

1863 新撰組ができる 1883 新聞紙条例改正

1867 大政奉還 1889 大日本帝国憲法発布

1868 明治改元 1894 日清戦争

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現代の福沢観

• 実学の祖、一身一国の独立を謳う国粋的啓蒙思想家、一万円の人

• 最近の文献研究から、福沢が国権論者であるとか拝金主義者であるという指摘が適当でないと考えられるようになっている*。

• *『時事新報』論説をめぐって(1) ~論説執筆者認定論争~ 都倉武之 http://www.keio-

up.co.jp/kup/webonly/ko/jijisinpou/9.html

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福沢諭吉の思想とは

• 実学=稼ぐための学問をしろ→×

▫ 古学・陽明学・水戸学の頃から強くあった考え方 朱子学者「一木一草の理を極める」

• 国権主義=他国を見下していた→×

▫ 「理のためにはアフリカの黒奴にも恐れ入り……

• 急進的啓蒙主義・個人主義→×

▫ 学問等々の前提が人々との交流と論じている

▫ 「すこしづゝにても……」

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福沢前後で何が変わったのか

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アンシャンレジューム期(江戸時代以前)

精神の転回明治以降

福沢諭吉の新しい思想

道教、儒教を中心とした東洋的思想 ?

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目次

• 福沢諭吉はどんな人か

• 精神の転回

• これからの「学問のすゝめ」

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福沢の問題提起

• 西洋にあって東洋にないものは物理学と独立心▫ ”物理学”という言葉の意味とは? 唯物論? むしろ精神について強く論じている→×

学問を人文科学から自然科学へ? その前から自然学や形而上学が東洋にもある→×

• 福沢は「物理学を生み出す考え方」を指摘▫ それまでの考え方とは?

▫ 物理学を生み出すような考え方とは?

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アンシャンレジューム期の東洋思想

• 倫理的精神(「道」の思想)

▫ 倫理(道理)、儒教的規範、仏教的階層、足るを知る…

• 自然のヒエラルキーと一体となった社会▫ 自然の空間・生態系的上下=人間身分の上下=「倫理」

「人間は生まれながらにして不平等」の根拠

▫ 「倫理」から導かれた「規範」に基づくことで安定した社会を達成 与えられた環境だけで満足できることが至上命題

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明治以降の物理的精神

• 道や神という先天的妥当性の根拠を徹底的に排除し、観察・実証可能な事象のみから理論が構築される「物理」▫ ⇔「倫理」

• 普遍的に観察・モデル化できる「法則」のみが正しい▫ ⇔「規則」

• ∴人間は先天的に平等・独立

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欧州のアンシャンレジューム期

• 全ての理論はキリスト教に通ず▫ 中世「スコラ学」 キリスト教の教義を学問的に根拠づけようとした アリストテレス〜トマス・アクイナス

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欧州での物理的精神の萌芽

• デカルト 「我思う、故に我在り」▫ 先天的規律を全て排した

• コペルニクス地動説・ニュートン力学▫ 魔法からの解放 ∴神にすがる必要がない

• ニーチェ 「神は死んだ」

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明治・大正期の物理学精神の到達

• 世界の全ては物理の法則によって規定しうる▫ 実験により実証可能でありそれに矛盾しない理論

• 物理法則以外の規則は人為的に作られたもの▫ 物理的には人間は平等▫ ∴人為的に作られた規則で平等に反するものは排するべき

▫ ∴平等を害し自らに不当な規則には排すために独立し声をあげなければならない

▫ ≠ただし学問の意義は「理論の万力」ではなく、相互理解のためのツール

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精神の転回と生活への影響

• アンシャンレジューム期▫ 身分、分限は受動的に決定される▫ 階層的職分の中で相互に依存しながら、自分の身分の中で足るを知る(満足する)生活

• 物理的精神による社会では▫ 理論と予測により、自律的に生を切り開いていく▫ 個人個人が独立し、社会に対して自分自身の生に責任を持つことで安楽が達成される生活

▫ 責任とは、他人の自由を妨げないこと 自由の範囲は他人に迷惑をかけない限り

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精神の転回と学問への影響

• 倫理的精神の中での学問▫ 理論に傾きすぎず、常に現実に起きていることが真理と考える

▫ 学問は現実の現象、状態によって「倫理」を裏付け、強化するためのもの

• 物理的精神の中での学問▫ 実証可能なことから導き出せる理論が真理

▫ 学問は想像力を働かせることで、知られざる未来を切り開くことができる

• ⇒どんな理論も現実の物理から出発している以上は誰しもに受け入れられ、思想は無限の可能性を持つ

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学問の形の比較

• 倫理的学問▫ 経験 蓄積(予測不可)

偶然(検証不可)

一回限り(再現不可)

• 物理的学問▫ 実験 予測と計量

普遍的

伝播性

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独立の意義

• 倫理的社会▫ 倫理(道義)が軸 絶えず自らを社会に適合させていこうとする

• 物理的社会▫ (物理的)原理原則が軸 自主的に予測し選択、行動する

⇒不平等なことを受け入れずに済む

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物理学精神の学問的意義

• 全ては物理の法則によって規定しうる▫ 実験により実証可能でありそれに矛盾しない理論

▫ =物理学的世界ではだれもが受け入れることができる

▫ ∴人類共通のルール、すべての人が納得し満足できる

• 物理学精神の非客観性▫ カント:客観的世界は主観で作られる

▫ 物理学:粒子と波の二重性

• ⇒物理的原理原則が絶対的に1つに定まるわけではない(むしろ物理学自身がそれを否定している)

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福沢の哲学

• 前提:物理学は普遍的なものである

• 前提:価値判断は相対的なものである 自分の環境に照らし合わせてより良いものとより悪いもの、より美しいものとより醜いものとの間の選択を、より客観的に行うための判断基準、あるいはそのツールを手に入れる、まさにそのことのために学問は為されるべきである。

• ⇒実学をし、自ら世界を切り開くべき

▫ すべての人がこれを行えば、皆が自由で安楽な生活を送ることができる

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まとめ

• 福沢的学問の職分▫ それぞれが相互に理解しあい助け合って自立した生活を送るには学問が必要 ∵学問により各々が納得し不平不満なく安楽に暮らすことが可能

• 福沢的人間の職分▫ Goal:皆が安楽に生活する▫ 安楽のために自由を手に入れる▫ 自由を手に入れるために独立する▫ 独立するために学問をする▫ Start:生の安楽を手に入れるために独立する

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現代に照らし合わせて

• 東洋的学問の再発見

▫ 偶然の蓄積に西洋科学が未だ到達しない便利な現象がある⇒漢方・整体・ヨガなど

▫ 経験による予測が行える⇒言い伝えなど

• 物理学的社会の虚しさ▫ 自由の獲得が成されたか?

▫ 目標が消える≒足るを知る生活へ後戻り

▫ 物理的に正しければなにをしてもよい風潮

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考察

• 福沢的成長のサイクル:最終的には生の充足に到達▫ どこから始めてもよい 目標を達成するためには自由が必要 自由を獲得するためには独立が必要 独立のためには学問が必要 学問をするには目標が必要

• 現代の日本人の学問的問題▫ 金銭的自由や精神的目標がないと不平を洩らす▫ ⇒まず学問をし、一身独立すべし 逆にいえば、学問をすることが不平から脱却できる唯一のチャンス

学問に必ずしも金は必要なく、必要なのは計画性

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残った問題

• 福沢のいう物理的精神による社会が達成されつつある ∵物理学的成功(工業化)が世界を席巻

▫ But. 倫理的規則ではなく物理的法則でもなく経済的原則が人を縛る

• 物理的精神に則っていれば非人道的なこともなされかねない

• 充足した安楽な社会が、福沢の意に反して人的交流を仮想的に断つことで達成されつつある

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感想

物理学が今日世界を席巻し、福沢がそれを支持した理由

▫ 物理学が一番能く未来を予測するから

• 多様な宗教も元は未来予測≒不安からの解放によって普及した

次に来る宗教はなにか

▫ 今日の不安は経済的貧困である

• ∴次の宗教は経済学である

• 宗教とは、すべての学問の頂点に立ちその前提となるものなのではないだろうか

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ご清聴ありがとうございました

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