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過去の人種差別
南部の人種隔離法「ジム・クロウ」制度
• プレッシー対ファーガソン最高裁判決(1896)「分離すれども平等」(separate but equal)と述
べ、公共施設で人種別に隔離することは合憲と判断
経緯
• ホーマー・プレッシー:靴屋で働く男性(30歳)
8分の7が白人の血、8分の1が黒人の血
⇒容貌≠黒人
• 1892年、鉄道の白人車両に座ったため逮捕
• 1896年、最高裁は、州が鉄道車両を含む公共施設で人種隔離することは合憲と判断
⇒「ホワイト・オンリー」、「カラード」表記の氾濫
「ジム・クロウ」制度の実例 (ンディアイ 2010)
• ジョージア州アトランタ、エレベーターを白人と黒人用に
• オクラホマ州、電話ボックスを白人用と黒人用に
• ルイジアナ州、動物園や映画館、白人用と黒人用の切符売り場を7.5メートル以上離して設置することと規定
• ノースカロライナ州とフロリダ州、共同で使う学校の教科書を白人の生徒用と黒人の生徒用で別々に保管
「ジム・クロウ」制度の実例 (ンディアイ 2010)
• プール、水が汚れるという理由で、黒人は一週間に一日、清掃前の日にしか入れないところも
• テネシー州メンフィス(1927):自動車を運転し
ていた白人女性が事故で負傷、現場に駆け付けた救急隊員が黒人男性で、白人女性に触れることが禁じられていたため、適切な処置ができずに白人女性は死亡
「ジム・クロウ」制度の実例 (ンディアイ 2010)
• 赤十字社(1942まで)、白人の血と黒人
の血を分けて保存、輸血の際も、白人には白人の血、黒人には黒人の血を使用
⇒このように、明確な「人種」区分が用いられているが、そもそも「白人」や「黒人」とは誰のことを指すのだろうか。
異人種間結婚禁止法 (堀西 2004, 山田 2006, フックス 2010)
• 植民地時代の1660年代に施行、1800年までに10州で制定、1913年に41州が制定、1960年代以降廃止傾向に、1998年サウスカロライナ、最後に残ったアラバマ州が2000年に廃止
例:「ウィルソン対アラバマ州訴訟」(1924年)
• 被告サラ・ウィルソンについての証言
• 「私はあの家[サラの住まいのこと]にいつも黒
人の女性たちがいるのを見ましたし、彼女は通りで黒人と一緒でした。あるときには彼女と別の黒人女性が、二人の黒人男性と一緒に彼女の家から出てくるのを見たんです」
⇒サラの出自ではなく社会的行為自体が人種判定の材料に
逆に「白人」とは?
• 「ウェーヴァー対アラバマ州訴訟」(1928年)
• 白人との付き合いがあり、みすぼらしい生活をしておらず、十分に道徳的である人物と規定
⇒主観的判断によって決定されていた「人種」
国勢調査における住民の分類基準(青柳 2010)
①1790年~1840年:自由人と奴隷の区分
世帯主の名前のみ記入、各世帯員については、自由白人男性(16歳以上、もしくは15歳以下)、
自由白人女性、その他すべての自由人、奴隷に分類して各々の人数のみを記入
②1850年~1860年:奴隷に対しては自由人とは別の調査票を使用
自由人すべての名前が記載、各人について年齢、性別、カラー(ホワイト、ブラック、ムラート)の記載、自由人と奴隷とはそれぞれ別の調査票を使用(奴隷用調査票には、奴隷所有者が各奴隷の年齢、性、カラー(ブラック、ムラート)、身体障害の程度などを記入、奴隷は番号によって表示され、名前の記入は不要
③1870年~1880年:奴隷解放宣言を受け自由人と奴隷区分が廃止
1863年のリンカーンによる奴隷解放宣言を受け、
自由人と奴隷を区分する項目や、奴隷用の調査票は廃止、カラーの欄にはこれまでのホワイト、ブラック、ムラートに加えて、中国人とインディアンの選択肢を導入
④1890年~1920年:人種の詳細な区分
1890年には混血の割合によりムラート(3/8から5/8までのブラックの血を持つ者)、クアドルーン(quadroon)、オクトルーン(octoroon)を使用
⑥ 1970年~1990年:人種の自己認定開始
• 従来は調査員が戸別訪問し手引書に従って被調査者の人種を判定して記入
• 1960年からは回答者の自己認定も併用、1970年以降は完全な自己認定へ(調査者による訂正は禁止)
⑦2000年~現在 :人種の複数選択
• これまではただ一つの人種を選択するよう指示されていたが、2000年以降、人種の複数選択が可能に
• 2010年:白人75.1%、黒人12.3%、ヒスパニック12.5%、アジア系3.6%、アメリカ先住民0.9%
人種分離撤廃の度合いによるスポーツ種目の分類(川島 2004)
①最も撤廃が進んだ種目
陸上、ボクシング、野球(95年MLB黒人選手の割合19%)、アメリカン・フットボール(94年NFL黒人選手の割合68%)、バスケットボール(94年NBA黒人選手の割合8割強)
【共通項】:比較的低コストで練習を積むことのできる競技、巨額の資本に支えられて発展した大規模なスペクテータースポーツ
肌の色<能力重視⇒利潤の追求
③現在なお白人が圧倒的多数を占める種目:水泳、アーチェリー、バドミントン、カヌー・カヤック、サイクリング、乗馬、ヨット、フィールドホッケーなど
【共通項】:これらの種目のオリンピック代表はアメリカ史を通じてほぼ白人
スタッキング(stacking)を巡る問題
• スタッキングとは:ポジションの固定化
• 「白人は、専門知識が豊富で的確な状況判断ができて統率力に優れている。一方、黒人は、ボールを持って走ったり、ボールを遠くに飛ばしたり、ダンクシュートを決めたりするのに適した身体的能力を有している」といった遺伝的特性を強調する言説(平井 2004)
スタッキングの例
• バスケットボール:黒人の占有率が高いため、2、30年前に消滅
• 野球:白人に比べて黒人のピッチャーやキャッチャーが極端に少ない
• フットボール:圧倒的に少ない黒人のクォーターバックやポイントガード
スタッキング問題の移行 (選手⇒管理職)
• 引退した黒人選手が経営や管理職部門に昇進する可能性が白人に比べて極めて低い
• 1995年時点で三大プロスポーツにおける有色人種のチーム・オーナーは一人のみ
「人種操舵」(racial steering)
• 有色人が人種的に統合された住宅地を望んでも、あの手この手を使って同じ人種が住む地域へ追いやること
• 2010年国勢調査:デトロイト市住民の82.7%
が黒人、フォード高速道路を隔てたディアボーン郊外の住民は黒人4%、白人86%以上(バーダマン 2011)
サブプライム・ローン問題 (Powell 2009, ワイズ 2011)
• 信用度の低い顧客に高い金利で貸し出す融資 優良客(プライム層)よりも下位の層
• 2006年までの統計でラティーノと黒人の住宅
ローンがサブプライム・ローンになる率は白人の2.5倍~3倍
ニューヨーク市の例
• 年収6万8000㌦以上の黒人世帯がサブプライ
ム・ローンへ回された率は、年収が同じかそれ以下の白人世帯の5倍。これが意味するのは、35万㌦中期ローンでいうと、ローン完済までに黒人世帯は白人世帯より25万ドル以上余分に利払いする必要性
黒人団体が、大手銀行ウェルズファーゴに対して訴訟を起こした裁判(2010年)
• 元ウェルズファーゴ社員による宣誓供述書の証言
• 貸付担当者たちが黒人顧客を習慣的に「人間の滓(mud people)」と呼んでいたこと、黒人
に販売したローンを「ゲットー・ローン」と呼んでいたこと、そして黒人顧客をうまくサブプライム・ローンへ誘導した貸付担当者にはボーナスが支給されていたことが明らかに
ウェルズファーゴでサブプライム・ローン販売成績トップだった元社員の証言
• 低利のプライム融資を受ける資格がある顧客でも、それが黒人であると、銀行はあの手この手で高利のサブプライム・ローンへ誘導
• 貸付担当者は黒人顧客の信用度情報を改ざん。信用度が低い申し入れ者の情報をコンピューターで切り取って、それを信用度が高い黒人申込者の情報欄に張りつけ、その人をプライム・ローンからサブプライム・ローンへとランク下げ
アファーマティブ・アクション(Affirmative Action)
• 「積極的差別是正措置」
• 当初はマイノリティの差別を撤廃し、なおかつ彼らの社会参画の促進を通じて多様性を実現する方策として導入・展開
• A.A.の起源
1960年代に民主党のケネディ、ジョンソン両大統領が発布した大統領行政命令
ジョンソン大統領の演説(1965年6月)
100ヤード競走で1人が足枷をつけ、もう1人が足枷のない状況を想像してみよう。足枷をはめた人が10ヤード走ったとき、他の走者は50ヤードまで行っていた。この状況をどう是正するのか。足枷をはずすだけでレースを続行させるのか。足枷をはずすことで「平等の機会」がもどったといえるかもしれない。しかし、40ヤード先に走者がいるのだ。足枷をつけていた走者を40ヤード進ませるのが公正というものではないのか。これが平等に向けてのアファーマティブ・アクションであろう。
「機会の平等」⇒「結果の平等」へ
1964年公民権法
• 公共施設、公的教育機関での人種差別の禁止、職場における人種・肌の色・出身国に基づく雇用差別の禁止
⇒「機会の平等」の実現
しかし、社会に残存する過去の差別の影響
⇒「結果の平等」による教育、雇用、契約の分野における差別是正
グラッツ対ボリンジャー訴訟(Gratz v. Bollinger 2003)
• ミシガン大学学部のA.A.を巡る訴訟
• 「多岐にわたる」(miscellaneous)区分
【十分に代表されていないマイノリティ集団の構成員か否か、マイノリティが圧倒的多数を占める高校に通っているか否かという基準】これを満たした場合には、20点を自動的に付与
⇒2003年、最高裁は、学部入学者選抜時において施行されていたA.A.を違憲
グラッター対ボリンジャー訴訟(Grutter v. Bollinger 2003)
• 裁判の争点:十分に代表されていないマイノリティ学生を「必要不可欠な数」(critical mass)入学させるという目標の正当性
• 多様性の重要性を説いた最高裁とその理由
• 1)大学にとっての「教育的恩恵」
• 2)企業にとっての「非理論的ではあるが現実的な恩恵」
⇒法科大学院のA.A.を合憲とした最高裁判決
企業による「多様性」擁護論
企業による法廷助言書(法的根拠を述べた請願書)
• 2000年7月17日:GMによる法廷助言書
• フォーチュン500社に数えられる全米の大企業33社による法廷助言書(2001年5月31日)
⇒ミシガン大学学部・大学院双方において施行されていたA.A.に支持を表明
A.A.を支持した背景
1. 企業のイメージ戦略
助言書を提出した大企業33社のうち4分の1以上が人種差別関連訴訟を提起されていた
⇒A.A.関連訴訟においてA.A.擁護の姿勢を見
せることによって、企業は低コストでイメージを回復させようとした(Anonymous 2001, June 22)。
2. 多様性を確保することによって経済的発展を成し遂げようとする思惑
• 大企業33社による助言書:「多様な環境で教
育を受けた様々な背景を持つ個々人」が、「世界市場における法廷助言者[大企業33社]の継続的な成功にとって欠かせない」。
(傍点原文、Brief of 3M, et al. 2001)
⇒経済的観点から多様性を希求する声は、
他の多くの企業にも共有
• 職場における多様性とは「人事の域をはるかに超えた問題であり、それはまた***良い商売のためでもある」(***原文)
• 「同僚が持つ背景や能力の多様性は競争上の優位性を意味すると考える。それ故、多様性に傾倒することは日常的な責務なのである」(Brief of General Motors Corporation 2001)
⇒多様性の確保は企業国家アメリカにとって至上命題
大学に多様な人材の輩出を要請する企業
• ミシガン大学アナーバー校工学研究科長スティーブン・W・ディレクター(Stephen W. Director)の言説(Schmidt 2000)
• 「我が研究科のみならず全ての大学は、多様性を増大させるようにという産業界の圧力のもとにある。我々が四六時中企業から言われることと言ったら、これまで多様性を増大してきたことに対する感謝と、今後はこれまで以上に多様性を増大して欲しいとの要求である」。
• ⇒ミシガン大学工学研究科だけで、マイノリティ学生用の奨学金やプログラムのために企業が提供する支援金の額は年額80万ドル(5年前の1995年より180%以上の増加)
• さらに、1999年度工学研究科が受け取った企業献金は総額560万ドル、その他にも企業か
らは無制限の支援が提供。これら支援はマイノリティの卒業生を何名輩出したかという実績に基づいて算出(Schmidt 2000)
主要参考文献
• ジェームス・M・バーダマン(水谷八也訳)(2007)『黒人差別とアメリカ公民権運動』集英社。
• ティム・ワイズ (脇浜義明訳)(2011)『アメリカ人種問題のジレンマ―オバマのカラー・ブラインド戦略のゆくえ』明石書店。
• パップ・ンディアイ(明石紀雄監修)(2010)『アメリカ黒人の歴史―自由と平和への長い道のり』、創元社。
主要参考文献
• 青柳まちこ(2010)『国勢調査から考える人種・民族・国籍―オバマはなぜ「黒人」大統領と呼ばれるのか』、明石書店。
• 川島浩平(2004)「スポーツと人種」、明石紀雄監修(2004)『21世紀アメリカ社会を知るための67章』、明石書店、123-6頁。
• 上坂昇(1992)『増補アメリカ黒人のジレンマ「逆差別」という新しい人種関係』明石書店。
2. 異人種間結婚関連訴訟で行われた人種の判定法として間違っているのはどれでしょう。
①家族の人種から被告の人種を判定
②人間関係から被告の人種を判定
③採血の結果から被告の人種を判定
④外見的特徴から被告の人種を判定
4. 最も人種分離撤廃の進んだスポーツ種目の組み合わせとして正しいのはどれでしょう。
①水泳、アーチェリー、サイクリング
②乗馬、テニス、ゴルフ
③陸上、ボクシング、バスケット・ボール
④カヌー・カヤック、ヨット、フィールドホッケー