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1 東京理科大学部化学研究部 2012 年度秋輪講書 化学発光 金曜班 Haruki.K (2OK), Takahiro.I (2K), Nami.O (2K), Keisuke.I (2K), Kouhei.F (2K), Yuuta.I(2K) Nobuyuki.W (1K),Kazuki.Y (1K),Yuho.F (1K),Miho.H (1K),Hiroki.T (1OK),Takumi.O (1OK) Maki.O (1OK),Keisuke.K (1OK),Takanori.S (1C),Kohei.O (1C) 1. 目的 化学反応の結果生じる発光を計測することで,反応基質そのものや発光反応に関与す る成分を分析することのできる化学発光計測法が現在,高感度な分析の手段として注目 されている. この化学発光法は,実験の結果で得られる発光の強度が大きいほど,測定の対象とな る発光物質と発光に関与する成分をより高感度に検出することができる.そのため,本実 験ではどのような条件下の時により強い発光かつ優れた発光効率を有する反応を起こす ことができるかを追求していくことを目指す. 2. 背景 化学発光を行うものの中で,最も有名なものがルミノールである. 現在,ルミノールは警察の科学捜査に欠かせない物質である.鑑識捜査の場合,ルミノ ールが励起状態から基底状態に戻る際の発光を利用することで血痕を検出していて,こ の際に血液中のヘモグロビンが触媒となっている.他の用途としても,特有の発光を生か して,医療現場での免疫測定や防犯用カラーボール,化学の演示実験などにも用いられ ている. しかし,鑑識捜査の場合の例を考えてみても,現在は鉄が存在するかどうかの定性分 析が主な使用目的となっており,どのくらいの量が存在するのかという定量分析のため には使われてはいない.そこで定量分析を行うことで,今後の日常生活に化学発光をより 役立てられるようにするということで,今回の実験を行った.

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東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2012年度秋輪講書

化学発光

金曜班

Haruki.K (2OK), Takahiro.I (2K), Nami.O (2K), Keisuke.I (2K), Kouhei.F (2K), Yuuta.I(2K)

Nobuyuki.W (1K),Kazuki.Y (1K),Yuho.F (1K),Miho.H (1K),Hiroki.T (1OK),Takumi.O (1OK)

Maki.O (1OK),Keisuke.K (1OK),Takanori.S (1C),Kohei.O (1C)

1. 目的

化学反応の結果生じる発光を計測することで,反応基質そのものや発光反応に関与す

る成分を分析することのできる化学発光計測法が現在,高感度な分析の手段として注目

されている.

この化学発光法は,実験の結果で得られる発光の強度が大きいほど,測定の対象とな

る発光物質と発光に関与する成分をより高感度に検出することができる.そのため,本実

験ではどのような条件下の時により強い発光かつ優れた発光効率を有する反応を起こす

ことができるかを追求していくことを目指す.

2. 背景

化学発光を行うものの中で,最も有名なものがルミノールである.

現在,ルミノールは警察の科学捜査に欠かせない物質である.鑑識捜査の場合,ルミノ

ールが励起状態から基底状態に戻る際の発光を利用することで血痕を検出していて,こ

の際に血液中のヘモグロビンが触媒となっている.他の用途としても,特有の発光を生か

して,医療現場での免疫測定や防犯用カラーボール,化学の演示実験などにも用いられ

ている.

しかし,鑑識捜査の場合の例を考えてみても,現在は鉄が存在するかどうかの定性分

析が主な使用目的となっており,どのくらいの量が存在するのかという定量分析のため

には使われてはいない.そこで定量分析を行うことで,今後の日常生活に化学発光をより

役立てられるようにするということで,今回の実験を行った.

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3.原理

3.1.化学発光

化学発光は,簡単にいうと“化学反応により分子が励起されて励起状態となり,そこ

から基底状態にもどる際に光を放つ現象”である.化学反応において基底状態の分子が

起こす反応は熱反応であるため光の放出は見られないが,化学発光においては基底状

態の分子が反応して,光エネルギーを吸収して生じるのと同じような励起状態の分子

を生成できるため光の放出がみられる.

化学発光は,普通,高くても 300℃前後,またしばしば 100℃以下でも認められるの

で,直接反応のエネルギーが分子の電子エネルギーに変換されると考えられる.

化学発光における化学反応はほとんどの場合が酸化反応である.つまり分子が酸化さ

れることにより励起状態になり,光を放出して基底状態になるが,実際に光っている

ものは種類によって違う.

1つは,励起分子のエネルギーを他の共存する蛍光分子に移行することにより蛍光物

質が励起されそれからの光が放出される“間接放出型“である.祭りなどでよく使うケミ

カルライトが主な例として挙げられる.

一方,分子が酸化されることにより励起状態となり光を放出して基底状態になるが,

反応で生成した励起分子から直接可視光として放出される“直接放出型”がある.これは

今回の研究で題材とするルミノール反応が主な例である.

Fig.1 直接放出型,間接放出型の違い

・直接放出型

酸化

発光!

蛍光

・関接放出型

酸化

エネルギー

蛍光

発光!

蛍光分子

励起分子 蛍光分子

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また,光,X線,γ線,陰極線,α線,などの放射線の刺激や,電気的刺激,化学変

化によって発光が起こるものがあり,これらは総じてルミネッセンスと呼ばれる.

ルミネッセンスは光に熱を伴わないため,冷光とも呼ばれる.

また,ルミネッセンスは蛍光,燐光と大きく二つに分けられる.

刺激を受けている間だけ発光を続け,刺激がなくなればすぐに発光を停止するもの

を蛍光という.このように蛍光を発する物質を蛍光物質という.

刺激エネルギーを除いても,数分から数時間にわたって発行を続けるものを燐光と

いい,光を吸収して蓄え,それを徐々に放出する性質を持ち,長残光性蛍光体や,蓄

光性材料ともいわれている.

3.2.様々な化学発光

3.2.1.ルミノール

アルカリ性の水溶液中,ルミノールは過酸化水素 と反応して 460 nm に強い紫青

色の発光を示す.この反応は銅,コバルトなどの遷移金属およびその錯体(ヘキサシ

アノ鉄 (III) 酸カリウム K3[Fe(CN)6]

など),ある種の酵素によって触媒さ

れる.これを利用して過酸化水素およ

び触媒となる金属種の微量定量・定性

試験を行う.ヘミン・ヘモグロビンある

いは血液は発光反応の触媒になるの

で,血液の鑑識に古くから用いられて

いる.この反応をルミノール反応とい

う.

塩基水溶液中におけるルミノール

の反応機構は広く研究されている.ル

ミノールの化学発光は種々の物質で

触媒されることが知られている.オゾ

ン,ハロゲン,ヘモグロビン,ヘミン,

過流酸塩,鉄錯体,遷移金属などが主な Fig.2 ルミノール反応経路

例である.発光機構は条件によりそれぞれ異なるが,主なものとして,ジアザキノン

中間体を経て 6 員環ペルオキシド状態を形成しこれが分解して窒素ガスとフタル酸

ジアニオンの励起状態が生じこれから光が放出される機構が考えられる.いずれにし

ても,最終生成物の 2-アミノフタル酸のジアニオンが発光体である.

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ルミノール反応のエネルギー準位図は,図 3のようになる.

Fig.3 ルミノール反応エネルギー準位図

3.2.2.ケミカルライト(サイリウム)

シュウ酸ジフェニルと蛍光色素の混合物に過酸化水素を混ぜることで,シ

ュウ酸ジフェニルが過酸化水素によって酸化されながら分解し,2分子のフ

ェノールと 1分子の過シュウ酸エステルが生じる.過シュウ酸エステルは更に

酸化をして 1,2-ジオキセタンジオンとなり,自発的に分解をして 2分子の二

酸化炭素となった時に

蛍光色素にエネルギー

を与え励起をさせ,基底

状態になった時に発光

が起こる.

発熱せず,引火性がな

いため屋内でも使用す

ることができ,酸素も Fig.4 ケミカルライト発光反応式

必要としない.緑,赤,黄色,白,青,赤外線などのタイプがあり,通常 6–8

エネルギー

反応の経過

ルミノー

中間体

2 - アミノフタル酸ジアニオン

発熱,発光

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時間,長いもので 10時間以上発光する.また,数分間(5分~15分)しか発

光しないかわりに高い照度と輝度を有するものもあり,このタイプで代表的

なものがウルトラオレンジ(UO)である.

3.3.発光のエネルギー1

化学発光は,反応のエネルギーが直接分子の電子エネルギーの励起に用いられる

ので,普通,1個の分子の反応によって1個の励起分子が生成することとなる.

この励起生成物は,1個の光量子を放出する.つまり,1つの光量子は1つの分子

の消失に対応すると考えられる.

そこで,仮に全ての分子の反応が発光に対応したとし,(この場合を量子収率が1

であるという)波長 𝜆 の光が放出したとすると,1モルの分子の反応によって得ら

れる光のエネルギー 𝐸 は次式のようになる.

𝐸 = 𝑛ℎ𝑐/𝜆

𝑛(光量子の数)= 6.02 × 1023 ,ℎ(プランク定数)= 6.62 × 10−27 [ erg・s ],

𝑐 = 3.0 × 1010 [ cm / s ] である.

3.4.蛍光測定装置

照度計は,光源から出た光がフォトレジスタやフォトダイオードからなる受光部に

検知されることで光電効果が起こり,その際に流れる電流を電子回路に流すことで光

の強さを測定する.単位は lx(ルクス)で,これは単位面積あたりどれだけ光束がふり

そそいでるかを示している.照度は,距離の二乗に反比例するので,光源自体の明るさ

を求めたい場合には,光源からどの程度の光束を発しているかを調べられる光度計を

用いるのが良い.

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4. 実験方法 2)

4.1.使用器具

ストップウォッチ,照度計,試験管,200mLビーカー 2つ,400mLビーカー 1つ,

撹拌棒,200mLメスシリンダー,安全メガネ,保護手袋,温度計

4.2.使用試薬

○10% 水酸化ナトリウム水溶液

○3.0% 過酸化水素水

○蒸留水

○ルミノール

窒素含有複素環式化合物の1種で,塩基性水溶液に可溶.

ルミノール反応時に,窒素ガスが発生するので注意が必要である.

○ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム

K3[Fe(CN)6]

赤血塩,プルシアンレッドともよばれる赤色結晶性粉末.

光によって配位子の1部が解離し,微量のシアン化物イオンが生じ,毒性

を持つようになるので注意が必要である.

4.3.実験操作 3)

4.3.1.触媒量の変化による照度の変化

1. 電子天秤を用いて,水酸化ナトリウムを 1 g量り取った.

2. メスシリンダーで水を 100ml量った.

3. 水 100 mlを 200 mlビーカーに移し,水酸化ナトリウムを 1 gビーカーに移し,

かき混ぜて溶かした.

4. 操作 3で調製した水酸化ナトリウム水溶液に電子天秤で量り取った 0.1 gのル

ミノールを加えて,溶解させ,メスピペットで 30 mlとり,3つの 100 mlビ

ーカーに分けた.

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5. 次に,メスシリンダーで 35%過酸化水素水を 10倍に希釈し,3つの 100 mlビ

ーカーにそれぞれ 10 ml,15 ml,20 ml移した.

6. 電子天秤でヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム 0.1 g を 3 回分量り取り,操作 5 で

作った 3つの 100 mlビーカーにそれぞれ加えて,かき混ぜ溶かした.

7. 操作 6で作った溶液をメスピペットで 10 ml量りとり,33つの試験管に分け

た.

8. 照度計の照度が 0の状態から測定を行なうという条件を満たすために,まず実

験室の明かりを消し,段ボール箱で照度計と 100 mlビーカーを被い,照度計

とビーカーを決められた位置に置き,その中で試験管の中の溶液をビーカー

に加えて,測定を行なった(図 1).

9. ストップウォッチと照度計を用いて,照度が 0であることを確認してから,試

験管の中の溶液を 100 mlビーカーに加えて,最大発光照度と時間を測定した.

10.ヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウムの濃度を変えながら上記の手順と同様に実験をし

た.

4.3.2.過酸化水素の濃度の変化による照度の変化

1. 電子天秤を用いて,水酸化ナトリウムを 1 g量り取った.

2. メスシリンダーで水を 100 ml量った.

3. 水 100 mlを 200 mlビーカーに移し,水酸化ナトリウムを 1 gビーカーに移し,

かき混ぜて溶かした.

4. 操作 3で調製した水酸化ナトリウム水溶液に電子天秤で量り取った 0.1 gのル

ミノールを加えて,溶解させ,メスピペットで 30 mlとり,3つの 100 mlビ

ーカーに分けた.

5. 次に,メスシリンダーで 35%過酸化水素水を 5 倍,10 倍,15 倍に希釈し,3

つの 100 mlビーカーにそれぞれ 10 mlずつ移した.

6. 電子天秤でヘキサシアノ鉄(Ⅲ)酸カリウム 0.1 g を 3 回分量り取り,操作 5 で

作った 3つの 100 mlビーカーにそれぞれ加えて,かき混ぜ溶かした.

7. 操作 6で作った溶液をメスピペットで 10 ml量りとり,3つの試験管に分けた.

8. 照度計の照度が 0の状態から測定を行なうという条件を満たすために,まず実

験室の明かりを消し,段ボール箱で照度計と 100 mlビーカーを被い,照度計

とビーカーを決められた位置に置き,その中で試験管の中の溶液をビーカー

に加えて,測定を行なった.

9. ストップウォッチと照度計を用いて,照度が 0であることを確認してから,試

験管の中の溶液を 100 mlビーカーに加えて,最大発光照度と時間を測定した.

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5.実験結果

5.1. 触媒量の変化による照度の変化

フェリシアン化カリウム 0.1 g/10 mlを 1倍濃縮とし,また実験日を変えて同じ実験を

繰り返したところ,結果は次のようなった.

Table.5 触媒の各濃縮率による照度 [lx]

希釈率 1倍 1.5倍 2倍 3倍 4倍 5倍

1回目 12.9 19.3 23.8

2回目 9.2 14.2 20.6

3回目 8 11.7 15.9

4回目 9.1

16.2 24.8 26.4 28

5回目 8.5 16.4 25 27 30.4

また,これらをグラフに直すと次のようになった.

0

5

10

15

20

25

30

0 0.5 1 1.5 2 2.5

照度

[l

x]

各濃縮率

Fig.6 各濃縮率と照度の値(1回目~3回目)

1回目

2回目

3回目

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また,実験 1回目,4回目における経過時間―照度の曲線のグラフを作ると次のよう

になった.

0

5

10

15

20

25

30

35

0 1 2 3 4 5 6

照度

[l

x]

濃縮率

Fig.7 各濃縮率と照度の値(4~5回目)

4回目

5回目

0

5

10

15

20

25

0 0.5 1 1.5 2 2.5

照度

[l

x]

経過時間 [s]

Fig.8 経過時間ー照度グラフ(1回目)

2倍濃縮

1.5倍濃縮

1倍濃縮

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2回目,3回目のグラフは図 8と,また 5回目のグラフは図 9とそれぞれ同じ形の曲

線を描いた.

5.2. 過酸化水素の濃度の変化による照度の変化

35%過酸化水素を 1倍希釈としたとき,結果は次のようになった.

Table.10 過酸化水素の各希釈率による照度 [lx]

希釈率 1倍 5倍 10倍 15倍

照度 [lx] 10.5 10.6 10.3 10

6.考察

6.1.触媒量の変化による照度の変化

表 5 より,過酸化水素中の触媒量が増減することで,照度も増減をすることが分か

った.

これについて,次のような要因が考えられる.

・触媒の量が増えることで,ビーカー中のルミノールと万遍なく酸化反応が起こった

ビーカーは構造上全体的に混ざりにくく,触媒がすべてのルミノールと反応がで

きなく,触媒量を増やすことで触媒と反応するルミノールが増え照度が上がったと

いうことが考えられるが,次の理由が最も大きいものだと考えられる.

0

5

10

15

20

25

30

0 0.5 1 1.5 2 2.5

照度

[l

x]

経過時間 [s]

Fig.9 経過時間ー照度グラフ(4回目)

1倍濃縮

2倍濃縮

3倍濃縮 4倍濃縮

5倍濃縮

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・触媒量が増えることで酸化反応の反応速度が増し,照度が増した

(Fig.8,Fig.9)を見ると,触媒量の違いにより最大発光照度に達するまでの曲線の

傾きが急になっている.つまり,反応速度が増したということで,照度に関係を及ぼ

したと考えられる 4).これは,酵素反応と非常に似ており,酵素反応も触媒量によっ

て反応速度が異なる 5).酵素反応の場合,酵素は活性中心を一つしか持たないので反

応を起こす頻度が少なく,触媒濃度を高め,その少ない活性中心を触媒が取り合う

ことで反応速度が高まるのだが,ルミノールの酸化反応も同様なことが起こってい

るのだと考えられる.

つまり,ルミノールは,触媒と反応する部位が構造上限られ,触媒との反応を起

こす頻度が少ないが,触媒濃度を高めることで,ルミノールの活性部位を触媒が取

り合い,反応速度が上昇するのだと考えられる.

また,(Fig.8,Fig.9)を見ると,最大発光照度が高い曲線ほど,照度が落ちるまでの

時間が早くなっている.このことから,描く曲線の総面積は一定であると考えられる.こ

こで,L(t)を時間 t における照度とすると,同条件下であれば次の式が成り立つと考え

られる.

∫ 𝐿(𝑡) 𝑑𝑡 = 𝑐𝑜𝑛𝑠𝑡∞

0

上式からも,反応速度が上がると最大発光照度が高くなる理由が求められる.

また,(Fig.6,Fig.7)からこの実験から各触媒量と最大発光照度がほぼ比例的であり,

発光照度の上限へ近づくにつれてゆるやかに漸近値へ近づくことが分かったので,同

実験条件化で各触媒量ごとの最大発光照度についての検量線を作ることで,触媒量が

分からない状態でも最大発光照度から触媒の量を大体求められることができる.

6.2.過酸化水素の濃度の変化による照度の変化

(Table.10)より,過酸化水素の濃度による照度の変化はなく,照度の違いは誤差の範

囲と考えられる.理由として,考察(a)に挙げたとおり照度の変化には触媒が関係してお

り,照度は酸化剤の濃度の変化に左右されないことが分かる.

6.3.ルミノールの溶媒に水酸化ナトリウムを使う理由

ルミノールは,酸化反応過程において 3-アミノフタル酸という中間体(Fig.2 の 4)

を持つ.ルミノールの反応機構は諸説あるが,この 3-アミノフタル酸の一重項励起状態

が発光種であるという点は諸説で共通している.よって,3-アミノフタル酸のカルボン

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酸のカルボン酸 2つともがアニオンになる必要があるため,強い塩基性が必要であり,

今回は水酸化ナトリウムを用いた.炭酸ナトリウムなどの弱塩基では,3-アミノフタル

酸が励起せず,発光ができないと思われる.

6.4.実験回ごとに誤差が生まれる理由

触媒量,過酸化水素濃度が同じでも実験回ごとによって誤差が生まれた.

理由として,実験日ごとに違う温度,またルミノール溶液を調製する際に pHに微弱

ながら違いが生まれてしまったことが原因だと考える.特に,pHの違いは考察(c)で述べ

たとおり,ルミノールの発光に大きくかかわる所なので,主な原因だと考えられる.

また,今回の実験の計測法として照度計を用いているので,照度計と測定物の距離

を厳密に一定に保たなければ誤差が出てしまう 6).実験では目印を決めて距離を照度計

とビーカーの距離を一定にできるよう努めたが,人的操作であったので多少の誤差は

出てしまったと考えられる.

7.まとめ

今回,金曜班が一年を通してルミノールについての実験を行った結果,ルミノールを

用いて触媒の量分析が行えることが分かった.が,まだ精度は低く,検量線を作らなけれ

ばいけないところや,実験日の温度や溶媒の pHなど照度の変化に関係のある項目につい

ては調べることができなかったので,これからの課題として取り組みたい.更に,今回の

発光の測定には照度計を用いたので,より精度が高い光度計を用いた測定のほうも行っ

ていきたいと思う.

ルミノールの実験を進め,触媒の定量分析を行うことができれば,鑑識捜査や医療分

野等,様々な分野での進歩に大いに貢献する事がだがしかし,その分定量分析行えるよ

うになるのは難しく,新しい分野を開拓していくことの難しさを認識させられた.

8.参考文献

1) 神谷 功 講談社現代の化学シリーズ 8 化学発光 p7~29

2) 川 暹 化学フロンティア 新エネルギー最前線 p46~48

3) 今井 一洋 廣川書店 生物発光と化学発光 基礎と実験 p57~59,77~83

4) 戸嶋直樹・尾方一郎・大野尚典訳 丸善株式会社 化学実験とゲーテ p142~145

5) 風元 大三郎 ブルーバックス 酵素反応のしくみ_現代化学の最大の謎を探る

p1~40

6) ヒカリの素 ヒカリ工房 http://homepage2.nifty.com/hikarikon/hikarijiten.htm

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9.メンバー

チーフ 2OK 金丸 明樹

サブチーフ 2K 岩佐 崇弘

会計 2K 大橋 奈実

班員 2K 井口 裕太

2K 伊藤 憲佑

2K 藤崎 康平

1K 渡辺 延幸

1K 吉田 一貴

1K 傳 優峰

1K 沖野 蒔

1OK 田邊 紘基

1OK 大場 匠

1OK 河野 啓介

1K 祝 実穂

1C 大滝 康平

1C 砂生 貴紀