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ケプラーの法則 (Kepler’s law)� �第 1法則 太陽系の惑星が描く軌道は楕円である.第 2法則 惑星の運行において,その面積速度は変わらない.第 3 法則 惑星の公転周期 T と軌道を与える楕円の半長軸 a は,T 2 ∝ a3 という関係にある*1.� �
問題 1 第 1法則を仮定して,第 2法則を導いてみよう.
まず,多くの高校生には馴染みのないことを紹介する.それは,ベクトル積と言って,既に数学 Bで習っているであろうベクトルとベクトルの間に定義される内積とはまた違った演算規則のことである.
内積のことも,本当はスカラー積と呼び,ベクトル積ときれいな対応(?)を付けた方が良くて,内積という呼び方をするなら
ば,ベクトル積の別名としては外積という言葉もある.更に,私自身は記号をそのまま読んで「ドット積(スカラー積)」,「クロス
積(ベクトル積)」と名付けている.
ここで新たに,ベクトル積の表記とその結果として何が得られるかだけを記しておく.
bababababababababababababababababababab
a⃗,b⃗を 3次元空間における数ベクトル*2 とする.
c⃗ = a⃗ × b⃗ = |⃗a × b⃗| · e⃗
を a⃗と b⃗の「ベクトル積」と呼ぶ*3.
但し,e⃗は a⃗と b⃗によって作られる平面に直交する単位ベクトルで,方向は a⃗,b⃗,e⃗がそれぞれ右手の親指,人差し指,中指にそれぞれ対応するような位置関係である*4.
ここで,ベクトル積の性質として重要なものを挙げておこう.
ベクトル積の性質� �1. ベクトル積 a⃗× b⃗は,a⃗と b⃗の入れ替えに対して反対称(=符号が変わってしまう)2. ベクトル積 a⃗× b⃗の大きさ |⃗a× b⃗|は,⃗aと b⃗が隣り合う辺をなす平行四辺形の面積 |⃗a||⃗b| sin θに等しい (但し,θ は a⃗と b⃗のなす角度).� �
性質 1は,ベクトル積の方向を決める e⃗がどちらを向くかということを考えれば明らかで,右手の親指と人差し指の位置関係のみを逆転させることはできないということと対応している.
1
性質 2は,ベクトル積 a⃗× b⃗は,もし a⃗と b⃗が同じ方向を指すベクトルであれば零ベクトルになるということを意味している.平行四辺形の一つの角の大きさを小さくしていって 0に近付ければ,面積も同様に 0に近付く.こうして作られた新しい量もまたベクトルであるという点に注意しよう.
さて,ここで面積速度が一定であることをどう示すかが問題になる.
まず,ベクトル積なんか知らなくても,面積速度が |r⃗||v⃗| sin θと表されることは分かる.でもベクトル積の定義を見てみると,これは r⃗× v⃗ というベクトルの大きさであることが分かるので,面積速度が一定であるということを示すには r⃗ × v⃗ というベクトルが向きも含めて一定であることを言えば十分である.
又,惑星の公転系なので,面積速度は,太陽から惑星に伸びる位置ベクトルを r⃗ とし,それだけで表現することが出来る.何故ならば,速度ベクトル v⃗ は位置ベクトル r⃗ の時間微分で与えられるからだ*5.よって,このベクトルは
r⃗ × v⃗ = r⃗ × dr⃗
dt(1)
という形に書かれる.
示したいのは,これが一定であることだ.何に対して一定かというと時間なので,ここで得られた式をもう一度 tで微分すれば良い.
積の微分法則は,ベクトル積に対しても等しく成立するので
d
dt(r⃗ × v⃗) =
d
dt
(r⃗ × dr⃗
dt
)(2)
=dr⃗
dt× dr⃗
dt+ r⃗ × d2r⃗
dt2(3)
= v⃗ × v⃗ + r⃗ × a⃗ (4)
= 0⃗ (5)
但し,a⃗は加速度ベクトルで,速度ベクトル v⃗ の時間微分で与えられる.ここで,r⃗と a⃗が逆方向*6であることに注意した.
*1 x ∝ y と書いて「xは y に比例する」という意味.*2 量ベクトルでも可.何を言っているのかというと,数ベクトルとは純粋数学の中の幾何学などにおいて,「ニュートン」とか「ファラッド」とか「ウェーバー」などの単位を持たない無次元の成分で構成されるベクトルのことで,量ベクトルとはすなわち,力や電磁場,運動量などの物理的な次元を持つベクトルをも含めて指す言葉である.
*3 勿論,|⃗a× b⃗|はこうして定義された新たなベクトルの大きさのことである.*4 フレミングの左手の法則の形を右手で作ってみれば良い.親指から人差し指の方向にねじを回せば中指の方向に進むという点で,右ねじの法則と等価だ.
*5 一般的な物理学の世界では,基本となる量の種類を最小限に抑え,そこから様々な物理量を導くという考え方が主流なので,古典力学の世界においても,速度ベクトルや加速度ベクトルは二次的な量で,むしろ運動質点の質量を含むという点では運動量ベクトル p⃗の方が支配的だったりする.
*6 同方向の 2つのベクトルは平行であるが,このような向きだけが逆の 2つの平行なベクトルの関係を反平行と言う.
2
こうして,r⃗ × v⃗ の時間微分が 0⃗になることが分かった.これに再び dtを掛けて積分すれば r⃗ × v⃗ が得られるのだから,r⃗ × v⃗ は時間によらない定ベクトルということになる.
以上,面積速度一定の法則をベクトル積の考え方を使って示すことが出来た.
物理法則がある意味で「正しい」ことを示すのには,こうして言い換えや微分・積分が多用される.物理学の世界では時間以外に
も空間座標のパラメータもあるので,そういった変数での微分にも耐えるためには,物理量は基本的に多変数関数でなければなら
ない.そのあたりの話は今後紹介していこうと思う.
問題 2 第 1法則と第 2法則を仮定して,第 3法則を導いてみよう.
2次元の直交座標系では,半長軸が a,半短軸が bの楕円を
(xa
)2
+(yb
)2
= 1 (6)
と書けるが,x = r cosφ,y = r sinφなどを用いて極座標系に変換すれば,
r =l
1 + ϵ cosφ(7)
という形のシンプルな表式が得られる(但し,l :=b2
a,ϵ :=
c
a,c :=
√a2 − b2)*7*8.
以上は第 1法則の仮定に基づく.更に,この楕円の面積が
S = πab (8)
で与えられることと,第 2法則の仮定より面積速度が一定であることを利用する.
適当に面積速度を Aとおけば,公転周期 T と面積 S の間には
AT = S (9)
なる関係があることに着目する.もっと砕けた言い方をすれば,次のように書かれる.
T ∝ S (10)
結局,T 2 ∝ a3 を示すためには,S2 ∝ a3 を言えば十分だと分かる.実際に計算してみると
*7 これらはそれぞれ半直弦,離心率,焦点距離と呼ばれる.焦点距離に関しては,本当は 2c = 2√
a2 − b2 のことだが,式自体は変わらない.
*8 因みに,座標変換の表式を式 (1) にそのまま代入しても,式 (2) の形にはならない.2 つの焦点と楕円上の適当な点を結ぶ3角形上で,焦点の一方から楕円上の点に引いた線分と x軸のなす角度を φとおき,余弦定理を適用すれば自然に式 (2)が出てくる.これら 2通りで表式は異なるが,表す図形は同じ楕円なので,是非両方とも確かめてみて欲しい.こういう計算は自分の手を動かしてやってこそ身に付くものである.
3
S2 = (πab)2
(11)
= π2a2b2 (12)
= π2
(l
1− ϵ2
)2 (l√
1− ϵ2
)2
(13)
=π2l4
(1− ϵ2)3 (14)
= π2la3 (15)
となり,π は明らかな普遍定数,l は軌道の形を決めるだけのパラメータ*9なので,S2 ∝ a3 という関係が導かれた.ここで,式 (6)から式 (7)への変形には
a =b2
a
a2
b2=
b2
a
a2
a2 − c2=
b2
a
1
1− ϵ2=
l
1− ϵ2(16)
b =b2
a
a
b=
b2
a
√a2
a2 − c2=
b2
a
1√1− ϵ2
=l√
1− ϵ2(17)
を用いた.以上から T 2 ∝ a3 も言えたが,今後のために敢えて次のように書き換えておく.
T 2 = ka3 (18)
これは,円運動との類似で,万有引力が距離の 2乗に反比例し,質量に比例することを示すのに便利な形である.
*9 l = b2/2 = (a2 − c2)/a = a(1− ϵ2)という関係から,半長軸 aを決めれば離心率 ϵと 1対 1に対応する.
4