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2018年度実施事業からの報告 - KIIS · 2018年度実施事業からの報告 1 1. 事業の趣旨 サイバーセキュリティ分野において企業や団体が抱

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2018年度実施事業からの報告

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1. 事業の趣旨

 サイバーセキュリティ分野において企業や団体が抱

える大きな不安は、具体的にどのような攻撃が行われ

ているか、またそれに対しどういった対策が取られて

いるかという最新情報が得られないことである。とり

わけ、首都圏以外の地域においては、最新の技術や事

例、政策等に関する情報が得にくい状況である。

 また一般に、企業におけるセキュリティ担当者は

「孤軍奮闘」していると言われる。攻撃者が次々と新

たな武器を生み出し、絶え間なく侵入を試みるのを水

石橋 裕基(事業推進グループ マネジャー・主席研究員)

KIISサイバーセキュリティ研究会2018年度活動報告

 標的型攻撃やランサムウェア、それにビジネスメール詐欺など、サイバーセキュリティは今や企業の

ビジネスに直結する大きなリスクとなっている。昨今では、企業の取引関係や製品に内蔵された部品に

潜む脅威、いわゆるサプライチェーンリスクも顕在化している。

 そういった中で、KIIS では2015年度より「サイバーセキュリティ研究会」を実施している。参加メ

ンバー企業等による情報交換や事例研究を行うとともに、関係各機関とも連携し、最新のサイバーセキュ

リティ情報を共有することで、地域全体のセキュリティレベルを向上させることを目的とするものであ

る。本稿では研究会の趣旨及び活動概要を報告するとともに、研究会の活動も契機となって発足した「関

西サイバーセキュリティ・ネットワーク」の取り組みも含め、今年度以降の活動方針について説明する。

図 -1 KIIS サイバーセキュリティ研究会 事業概要

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2018年度実施事業からの報告

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際で防ぐ役割を担っている。その中で、何も事故が起

きなければ誰からも特に気にされず、逆に不幸にして

ひとたび事故等が発生した場合には、様々な対応に追

われる。このようなセキュリティ担当者が孤独な状態

に陥らないためには、企業や団体の枠を越えて担当者

同士が情報交換できる「コミュニティ」の存在が重要

である。

 こういった考え方のもと、2018年度は、前年度に引

き続き、企業等への最新のセキュリティ情報の提供、

高度なセキュリティ研修、それに関係者コミュニティ

の醸成のための各種取り組みを重点的に実施した。

 これらの取り組みを推進するため、本研究会座長と

しては引き続き 森井 昌克 教授(神戸大学)に就任い

ただくとともに、各団体・有識者等とのネットワーク

を駆使し事業を展開した。

<協力機関>(順不同)

・内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)

・(独)情報処理推進機構(IPA)

・(一社)JPCERTコーディネーションセンター

・NTTセキュアプラットフォーム研究所

・(株)ラック 等

<共催団体>

・大阪商工会議所

・(一社)組込みシステム技術協会近畿支部

2. 2018年度研究会の枠組みと実施状況

 2018年度事業の枠組み、及び各事業の実施状況は

以下の通りである。

(1) 無料セミナー及びメールマガジンの発行

最新のセキュリティ技術、制度、ソリューション等に

関する情報を広く提供する、一般向けの普及啓発活動

である。またEメール等により、最新の技術情報や

制度情報、イベント情報等を定期・不定期に配信した。

セミナーの実施にあたっては、関連する各団体と積極

的に連携し、共催セミナーの形をとることで普及啓発

範囲の拡大を図った。

サイバーセキュリティセミナー in 神戸

(セキュリティ・ミニキャンプ in 近畿2018(神戸))

※兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科、セキュリ

ティ・キャンプ実施協議会、独立行政法人情報処理推

進機構との共催事業

(一般講座2018/5/18)

基調講演1:株式会社スプラウト 代表取締役社長

高野 聖玄 氏

政策講演1:経済産業省近畿経済産業局 地域経済部

 次世代産業・情報政策課 課長補佐  有馬 貴博 氏

政策講演2:総務省近畿総合通信局 情報通信部

 電気通信事業課 課長        吉田 丈夫 氏

政策講演3:兵庫県警察本部 生活安全部

 サイバー犯罪対策課 サイバー犯罪防犯センター長

 南澤 英志 氏

活動紹介1:一般社団法人セキュリティ・キャンプ協議会

活動紹介2:一般財団法人関西情報センター

基調講演2:NTTコミュニケーションズ株式会社 情報

セキュリティ部(NTT Com-SIRT)部長 小山 覚 氏

参加128名

(専門講座2018/5/19)

オープニング:セキュリティ・キャンプ協議会ステア

 リングコミッティ 地域連携グループ リーダー/

 株式会社セキュアスカイ・テクノロジー

 はせがわ ようすけ氏

ハンズオン講義:セキュリティ・キャンプ講師/

 株式会社セキュアスカイ・テクノロジー

はせがわ ようすけ氏

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2018年度実施事業からの報告

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ハンズオン講義:セキュリティ・キャンプ全国大会 

 2016修了生             酒井 蓮耀氏

参加 24名

サイバーセキュリティセミナー(2018/9/26)

テーマ:「企業における個人情報保護とGDPR(EU

一般データ保護規則)対応について」

講演:PwCコンサルティング合同会社  松浦 大 氏

講演:ANAシステムズ株式会社 品質・セキュリティ

 管理部 エグゼクティブマネージャー 

 ANA情報セキュリティセンター ASY-CSIRT

阿部 恭一 氏

講演:大阪経済大学 経営学部 准教授   金子 啓子氏

ディスカッション:神戸大学大学院工学研究科 教授

 森井 昌克 氏

フリーディスカッション・交流会

参加45名

セキュリティ連携セミナー(2018/10/30)

テーマ:「SIP/ 重要インフラ等におけるサイバーセ

キュリティの確保シンポジウム2018大阪~世界で最

も安心・安全な社会基盤の確立を目指して~」

※内閣府、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術

総合開発機構(NEDO)との共催事業

講演:内閣府SIPプログラムディレクター/

 情報セキュリティ大学院大学 学長  後藤 厚宏 氏

ライトニングトーク:SIP「重要インフラ等における

サイバーセキュリティの確保」各テーマリーダー

講演:内閣府SIPサブ・プログラムディレクター/

 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任教授

 手塚 悟 氏

ミニ講演:SIP「重要インフラ等におけるサイバーセ

キュリティの確保」各テーマリーダー11名

ポスター・デモンストレーション展示11テーマ

参加160名

セキュリティ連携セミナー(2019/2/8)

テーマ:「平成30年度情報セキュリティ&危機管理セ

ミナー」

※近畿総合通信局、近畿経済産業局、一般社団法人テ

レコムサービス協会近畿支部、近畿情報通信協議会と

の共催事業

講演:総務省 サイバーセキュリティ統括官室

 参事官補佐              相川 航 氏

講演:近畿経済産業局 地域経済部長   奥山 剛 氏

講演:独立行政法人情報処理推進機構

 産業サイバーセキュリティセンター 副センター長

田辺 雄史 氏

講演:国立研究開発法人情報通信研究機構 サイバー

 セキュリティ研究所 サイバーセキュリティ研究室

 主任研究員              津田 侑 氏

講演:大阪府警察本部 生活安全部

 サイバー犯罪対策課 管理官      田岡 創 氏

参加90名

セキュリティ最新動向アカデミックセミナー

(2019/3/25)

講演:立命館大学 理工学部電子情報工学科 教授

藤野 毅 氏

講演:関西大学大学院 総合情報学研究科 准教授

小林 孝史 氏

講演:神戸大学大学院 工学研究科 准教授

白石善明 氏

ディスカッション:神戸大学大学院工学研究科 教授

森井 昌克 氏

交流会

参加27名

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2018年度実施事業からの報告

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メールマガジンの発行

 25通(2018/4~2019/3)

(2) セキュリティ最新情報解説サロン

 第一線のコンサルタント、ホワイトハッカー等セ

キュリティ専門家を招聘し、最新の技術動向や事故事

例等に関する解説、情報共有を行うサロン活動を実施

した。限られたメンバーが「この場限り」のルールの

もとで、講師からのコアな情報提供や会員同士の密な

意見交換等を行うものとして推進した。

第10回:2018年6月29日(金) 17:00~20:00

テーマ:「リスクマネジメントと危機管理のための

データ復旧~サイバーテロ(実演)、社内不正、デー

タ消失事故災害~」

ゲスト:大阪データ復旧株式会社 代表取締役

 下垣内 太 氏

第11回:2018年8月29日(水) 17:00~20:00

テーマ:「FinTechと仮想通貨の現状とサイバーセキュ

リティの課題」

ゲスト:京都大学公共政策大学院 教授 岩下 直行 氏

第12回:2018年10月18日(木) 10:00~20:00

サロン特別編:イスラエルのサイバーセキュリティ訓

練を 集中的に学ぶ~体験型実践演習トライアル~

第13回:2019年3月26日(火) 17:30~20:30

テーマ:「戦いの歴史から学ぶこれからのサイバーセ

キュリティ」

ゲスト:ファイア・アイ株式会社 CTO 伊東 寛 氏

(3) セキュリティ人材育成プログラム

 企業等におけるセキュリティ担当人材、およびマネ

ジメント人材の育成のため、各界の有名講師を招聘

し、必要な技術や制度等に関する研修講座を開講し

た。主に企業等でセキュリティ関連事業に従事する担

表-1 平成30年度人材育成プログラム カリキュラム

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2018年度実施事業からの報告

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当者を対象とした「セキュリティ担当人材向けコー

ス」と、そういった部門を取りまとめる「マネジメン

ト人材向けコース」の2種類を設け、それぞれ10回の

講座を1セットとして講座を開講した。

 セキュリティ担当人材向けのコースでは、普段のセ

キュリティチェックやインシデント発生時の技術的対

応等を学ぶこととした。一部の講義ではPCを用いた

ハンズオン演習を取り入れ、実際にWebサーバ脆弱

性診断の手順等を体験した。またマネジメント人材向

けコースでは監査や運用、組織マネジメント等につい

て学ぶものとし、グループディスカッション等の演習

を取り入れることで理解を深めた。

 なお本講座については、2018年度からは経済産業

省「第四次産業革命スキル習得講座」の認定を、また

2019年度からは厚生労働省「専門実践教育訓練給付

金制度」の認定を受けている。

3. 関西サイバーセキュリティ・ネットワークの発足

 本年6月に開催されたG20大阪サミットにおいても、

「デジタル経済への対応」は主要な議題の一つとして

取り上げられたところである。デジタル化が進む中で

必要となるサイバーセキュリティへの取り組みは、首

都圏のみならず地方においてもますます重要となって

いる。また、「サプライチェーンリスク」と言われる

ように、製品開発やビジネス推進において、大企業で

あっても1社単独で完結して行なわれることがほぼな

い昨今、それらを支える中堅・中小企業におけるセ

キュリティの取り組みが求められる。ただでさえ不足

していると言われるサイバーセキュリティ人材をいか

に地方において確保するか、地域全体としての意識改

革が重要である。

 そのような中で、関西地域においては、経済産業省

近畿経済産業局、総務省近畿総合通信局、それに一般

財団法人関西情報センターが事務局となり、2018年

10月に「関西サイバーセキュリティ・ネットワーク」

が発足した。これは関西を拠点とする様々な主体の連

携により、(1)関西地域でのサイバーセキュリティ人

材の発掘・育成、(2)サイバーセキュリティに対する

取り組み機運の醸成、(3)地方や中小企業における対

策強化を主要な柱として各種の取り組みを進めるゆる

やかなネットワークである。まさに産(企業)・官(行

政)・学(大学や研究機関等)・民(コミュニティ)が

幅広く連携し、相互協力のもとで関西全体のサイバー

セキュリティを盛り上げていこうというものである。

 活動の初年度である2018年度においては、主に以

下の取り組みを推進し、ネットワークの幅を広げる活

動を行った。なお本ネットワークについては2019年

度以降もその活動の範囲を拡充し、引き続き取り組み

を進める予定である。

関西サイバーセキュリティ・ネットワークキックオフ

フォーラム(2018/11/12)

 本ネットワークのキックオフイベントとして、以下

のようなシンポジウムを開催した。

主催:経済産業省近畿経済産業局、総務省近畿総合通

信局 、一般財団法人関西情報センター

主催者挨拶:経済産業省 近畿経済産業局長 森 清 氏

基調講演:総務省 近畿総合通信局長  大橋 秀行 氏

特別講演:ファイア・アイ株式会社 CTO

         伊東 寛 氏

パネルディスカッション:サイバーセキュリティの普

及と人材の発掘・育成について

コーディネータ:神戸大学大学院 工学研究科 教授 

森井 昌克 氏

パネリスト:兵庫県立大学大学院 

 応用情報科学研究科 教授       申 吉浩 氏

立命館大学 情報理工学部 教授    上原 哲太郎 氏

西日本電信電話株式会社 代表取締役副社長 

黒田 吉広 氏

パナソニック株式会社 製品セキュリティセンター

 製品セキュリティ行政部 部長    吉村 宏之 氏

経済産業省 近畿経済産業局 地域経済部長 

奥山 剛 氏

参加者:222名

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2018年度実施事業からの報告

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企業担当者向け(初級)サイバーセキュリティ・リレー

講座 ~サイバーセキュリティの専門性を高めるに当

たっての心得~(2018/11~2019/1)

 ビジネスの現場でセキュリティ業務に携わる担当者

等にとって、セキュリティ関連の知識や技術の習得は

重要である。しかし、実社会で発生する予測不可能な

インシデント等に対しては、原理・原則に立ち返り、

問題の本質を見極めながら現実的な解決策を導く能力

も求められる。最先端の技術や知識だけでなく、セ

キュリティ分野で仕事をする上でのセンスを身につ

け、専門性を高めていくことを目的とした講座を、関

西圏の大学等研究者の協力によりリレー形式で実施し

た。参加者の関心は極めて高く、原則全回出席の条件

であるにもかかわらず、40名の定員がすぐに埋まる盛

況ぶりであった。

 講師及び各回のテーマ

第1回 11/29(木)16:30~18:00

「AIとサイバーセキュリティ」

申 吉浩 氏(兵庫県立大学大学院 応用情報科学研究科

応用情報科学専攻 高信頼情報科学コース 教授)

第2回 12/3(月)16:30~18:00

「フォレンジック技術」

上原 哲太郎 氏(立命館大学 情報理工学部セキュリ

ティネットワークコース 教授)

第3回 12/5(水)16:30~18:00

「暗号技術に基づくサイバーセキュリティ」

五十部 孝典 氏(兵庫県立大学大学院 応用情報科学研

究科応用情報科学専攻 高信頼情報科学コース 准教授)

第4回 12/21(金)16:30~18:00

「ネットワーク運用とそのセキュリティ対策」

川橋 裕 氏(和歌山大学 学術情報センター 講師)

第5回 1/10(木)16:30~18:00

「サイバーフィジカルシステムにおけるセキュリティ」

森 彰 氏(産業技術総合研究所情報技術研究部門ソフ

トウェアアナリティクス研究グループ長)

第6回 1/22(火)16:30~18:00

「サイバーセキュリティマネジメント」

金子 啓子 氏(大阪経済大学 経営学部ビジネス法学科

准教授)

第7回 1/28(月)16:30~18:00

「無線LANおよびLPWAにおけるセキュリティ及

び総括」

森井 昌克 氏(神戸大学大学院 工学研究科電気電子工

学専攻 教授)

図 -2 関西サイバーセキュリティ・ネットワークのイメージ

(出典:経済産業省近畿経済産業局資料)

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2018年度実施事業からの報告

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4. 2019年度以降の展開

 2018年度は前年度事業を継続展開するとともに、

行政の取り組みとも連動し、大幅に事業の幅を拡大し

た。セミナー等における関連各団体との共催フレーム

は前年度以降本格的に機能しつつあり、関西地域にお

けるセキュリティ情報発信機能について一定の役割を

担えるようになったと考えている。

 この結果を受け、2019年度は、基本的な事業フレー

ムは踏襲した上で、さらにネットワークを拡大した形

で活動を展開したい。「人材育成プログラム」につい

ては、すでに経済産業省及び厚生労働省から高度かつ

専門的な知識習得に資する講座である旨の認定を取得

しており、さらに積極的に推進する。また大阪商工会

議所等各種団体とも連携をさらに密にし、様々な規模

や業種の企業グループを対象とした情報提供を行う。

セキュリティ・キャンプ協議会が主催する「セキュリ

ティ・ミニキャンプ」についても、既に2017・2018

年度事業として各団体との連携のもと実施したところ

である。こういった社会人だけでなく学生(大学生、

大学院生、高専生など)を含めた若手技術者への情報

発信を活性化させる一環として実施するものである。

 また、関西サイバーセキュリティ・ネットワークの

活動で示されるように、関西圏における産官学民のサ

イバーセキュリティ活動ネットワークのハブとしての

活動についても、引き続き推進していくことが重要で

ある。経済産業省や総務省における各種施策の受け皿

として活動することで、研究会において主に行ってい

る普及啓発・コミュニティ醸成や人材育成の取り組み

を越え、さらに地域のセキュリティレベルアップに向

けた活動が展開できると考えている。

5. 今後に向けて

 KIISサイバーセキュリティ研究会立ち上げ後も、

サイバー攻撃による被害が後を絶たないどころか、ま

すます深刻化していると言える。昨今では、仮想通貨

やスマートフォン決済において大規模な経済的被害を

もたらす事案なども頻発している。サイバーセキュリ

ティに対する国民の意識は、皮肉にもこういった事

件・事案が起こることで高まりつつあると言えるが、

まだまだ隅々まで取り組みが行き届いているとは言い

難い。

 それを代表するのが、先にも述べたサプライチェー

ンリスクである。1社での被害が甚大となる大手企業

や重要インフラ企業ばかりが課題を抱えているわけで

はない。それらの企業と下請取引等を行っている地域

の中小企業等は、セキュリティ対策が大幅に遅れてい

ることは想像に難くない。規模が小さいからといって

被害を受けないということには決してならず、大企業

との取引の中で「踏み台」となって結果的にサイバー

攻撃の加害者になってしまう恐れすらある。

 一昨年4月、経済産業省が独立行政法人情報処理推

進機構(IPA)内に立ち上げた「産業サイバーセキュ

リティセンター」では、この6月に第2期のカリキュラ

ムが終了し、70名超が卒業した。こういった専門人材

育成機関は今後も継続的に活動するとはいえ、全国で

叫ばれているセキュリティ人材の不足をすぐに解消で

きるものではない。各地域で自発的にセキュリティ人

材を確保し、育てていくことが重要であると考えられ

るが、そのためには今後は産業界としても大学等教育

機関との連携も重要になるものと考えられる。

 KIISではサイバーセキュリティ研究会の活動を通

じ、関西圏の情報系・理工系大学や工業高等専門学校

(高専)とのネットワークを強化し、産業界との連携

を図っていきたいと考えている。関西地域における企

業・団体のセキュリティレベル向上に向けて、人材育

成をはじめとする様々な事業を展開していく。

 引続き会員企業のみなさまのご参加、ご協力をいた

だきたい。

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2018年度実施事業からの報告

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業務経歴

石橋 裕基(事業推進グループ マネジャー・主席研究員)・電子自治体の構築に向けた課題についての調査研究(2002)

・ NIRA 型ベンチマーク・モデルを活用した政策評価システムおよび行政改善への提案に関する研究(2003~)

・ 滋賀県データセンター機能構築基本調査(2003)・ 自治体における電子申請システムに関する調査研究(2003)

・ 利用者の視点に立った電子自治体エージェントシステム実現に向けた調査研究(2004)

・ 共同利用型自治体版CRM実現に向けた研究会(2004)

・ 地域再生計画認定制度等の事後評価に関する調査(2005)

・ 近畿地域産業クラスター計画「関西フロントランナープロジェクト『ネオクラスター』」事業(2006~2008)

・ 近畿地域イノベーション創出共同体形成事業(2008~2009)

・ 未来型情報家電分野における川上・川下ネットワーク構築事業(2009)

・ e-Kansai レポート(2010~)・ 次世代電子・エネルギー技術産業ナンバーワン戦略プロジェクト(プロジェクトNEXT)(2010)

・ 東大阪市内企業の環境ビジネス参入に向けた調査(2010)

・ 情報家電系組込み産業振興ネットワーク活性化事業(2011~2012)

・ 関西新エネルギービジネス創出ネットワーク事業(2011)

・ 地域主権時代における現代版井戸端会議導入によるコミュニティマネジメントの実証研究・研究会支援業務(2012~2014)

・ IT 融合ビジネスパートナーズ事業(2013~2014)・ 四国地域情報セキュリティ人材育成推進事業(2013)・ オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム(2014~)

・ IoT/IoE のビジネス環境とその発想を促す試行的ワークショップによる産業育成方策に関する調査(2014)

・ KIIS サイバーセキュリティ研究会(2015~)・ IT 分野における先進的知財アイデア(新 IT 知財)応用商品事業化促進調査(2015)

・ ビッグデータの関西地域機械産業への活用方策に関する調査(2015)

・ IT 分野における先進的知財アイデア(新 IT 知財)応用商品事業化促進調査(2016)

・ 関西のサービス業の生産性・付加価値向上に関する調査(2017)

・ IoT 等導入による中堅・中小製造業の複数社間データ連携支援スキーム構築に向けたモデル調査(2017)

・ 平成30年度地域中核企業創出・支援事業(関西中堅・中小企業 IoT ソリューション創出支援事業)(2018)

・ 関西サイバーセキュリティ・ネットワーク(2018)・ AI 活用研究会(2018)

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2018年度実施事業からの報告

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1.社会インフラ老朽化という社会課題と研究会の目的・構成・活動

 橋梁等の社会インフラは、日本においては1960年代

を中心とする高度経済成長期に建設が急増しており、

図1のように築後50年を超える老朽化が急速に進展す

ることになる。また、安全確保のため5年に1度の近接

目視点検が平成26年度より義務づけられた。少子高齢

化や財政悪化の状況から、予防保全による長寿命化、

点検・維持管理費用の削減、熟練者不足の支援策が喫

緊の問題となってきおり、その対策として、IoTセン

サ ・ロボット・AIや BIM/CIM1) が盛んに取組まれて

きている。

 特に多数の橋梁の維持管理の責任がありながら、予

算不足・熟練者不足に悩まされている自治体 (特に市

町村 )が多く、維持管理情報のデジタル化による維持

管理の適正化かつ効率化に資するエコシステムの実現

を目指し、平成27年度から活動をはじめた。

1) Building Information Model/Management、Construction Information Model/Management、建設情報モデル /管理

 土木分野での ICT活用を研究する土木情報学を専

門とし、BIM/CIMの研究と普及推進をしている大阪

大学大学院工学研究科矢吹信喜教授の座長のもとで、

大学・研究機関・土木学会、土木業界企業、センサメー

カ、システムベンダをメンバに、国・自治体等の行政

や施設管理者をオブザーバの体制となっている。また、

関連した活動を行っている、スマート IoT推進フォー

ラム /技術・標準化分科会 /インフラモニタリングタ

スクフォースへ参画し、先行してセンサ利用の標準化

ガイドラインやセンサポータルを試行した土木学会土

木情報委員会と連携しアドバイザリボードを設置して

いる。

 2018年度は、センサコードの仕様と、そのセンサ

コードにより紐づけされたリレーショナルなデータ

ベース(図3)を検討し、そのプロトタイプ作成を行っ

た。このスマートインフラ IoTプラットフォームを中

心に、センサ開発・選定・設置・維持や研究での利用

シーン実現 ( 図4)を目指している。

事業推進グループ マネジャー 澤田 雅彦

スマートインフラセンサ利用研究会センサコードによるインフラ維持管理プラットフォーム構築を目指して

 橋梁やトンネルなどの土木インフラ構造物は高度成長期に多く作られたが(図1)、50年余が経過し経

年劣化が進んでいる。自然災害も多発しており、インフラ構造物の維持管理の重要性が大きく増してい

る。さらに、少子高齢化に伴う労働人口の減少、熟練者の高齢化で、維持管理の負荷の増大に悩まされ

始めている。特に、日本の全橋梁の92%を管理している地方自治体で深刻さを増している。

 このような状況下においては、予算や人材のより効率的な運用を図り、センサや IoT、ロボットを活

用したインフラ構造物の点検・維持管理の生産性向上を実現する技術と仕組み作りが喫緊の社会課題と

なっている。

 KIISは、マルチステークホルダによる研究会を2015年度に立上げ、土木インフラ構造物用センサ(以

下スマートインフラセンサ)の活用を促進する目的で、各種情報・データの共同利用を可能にするイン

フラ維持管理 IoTプラットフォーム(以下、スマートインフラ IoTプラットフォーム)およびセンサポー

タルの構築を目指し、そのために必要なセンサコード付与とリレーショナルデータモデル検討をWG活

動で進めてきた。2018年度は、その仕様検討とプロトタイプ作成を行った。さらに、一般財団法人日本

建設情報総合センター(以下JACIC)からの研究助成金を得て、センサ設置しモニタリングデータをデー

タベースに取込む実証実験を通じ、データベースのメリット整理と検証を行った。その活動状況を述べる。

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2018年度実施事業からの報告

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図 1a.建設後 50年以上を経過する橋梁の割合 図 1b.道路道路管理者別

出展:国土交通省

92%

TN

背景社会インフラの老朽化

図2.スマートインフラセンサ利用研究会の目的と推進体制

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2018年度実施事業からの報告

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2.センサポータルサイトの検討 仕様検討したセンサ型名 IDを暫定付与した。付与

のフローを図5に示す。まず、センサメーカへベンダ

IDを付与し、個々のセンサ型名に対応するアイテム

IDは、センサメーカが付与管理し届出てもらう流れ

を想定している。

2019年7月現在、122社331個のセンサを登録してい

る。センサタイプと計測対象別の内訳を図6に示す。

3.センサ設置したモニタリング実証実験 さらに、一般財団法人日本建設情報総合センター

(以下、JACIC) からの研究助成金を受けて、実際の

橋梁へのセンサを設置したモニタリング実証実験を実

施する機会を得た。

 具体的には、図7のとおり、 「構造物診断のための

図3.センサコードとリレーショナルデータモデル

ビッグデータセンサコード管理センター(新設)

センサ開発 センサ選定 センサ設置 維持管理 研 究

センサー1

センサー3

ドローン11

センサー2モニタリングデータ

センサメーカ、設計コンサル 設計コンサル、施設管理者 施設管理者 大学・研究者

(2)スマートインフラIoTプラットフォームと利用シーン リレーショナルデータベース

(1)全体システム構成

登録・更新検索

登録・更新・検索GIS表示

センサデータ取込・出力

登録・AR表示調書出力

分析

センサコード管理センター(新設)橋梁

土木センサの製品情報 設置センサの型名・位置・時期の情報 センサ毎の時系列データ インフラ毎の点検情報(画像含む)

図4.センサのコード付与・リレーショナルデータモデルによるプラットフォームと利用シーン

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2018年度実施事業からの報告

12

IoT最先端通信技術(LPWA2))導入に向けた調査

研究」 をテーマに実施した。実施期間は2017年9月か

ら2018年10月であり、橋梁にセンサ (亀裂変位計 )を

設置し、4種のLPWAでモニタリングデータを収集し、

クラウド上のサーバのスマートインフラ IoTプラット

フォームに取り込むものである。なお、本研究を実施

2) LPWA(Low Power Wide Area)、IoT用の低消費電力動作、広

範囲をカバーする通信規格とサービス

するに当たっては、センサデバイス・通信・フィール

ドや3D計測・3Dモデリングなどについて、研究会

のメンバを中心に多大なる協力をいただいた。

 この実験で4種のLPWAの特徴についての知見が

得られるとともに、モニタリングデータについても、

主桁の伸縮における温度依存性を機械学習で除いた加

工を行うことで、変位が上昇すれば温度以外の原因で

あることが容易に検出できることになる。

 さらに、実証実験での各種の情報(例えば、センサ

の設置橋梁 /部材 /方法 /時期等の情報、点検情報 ・

損傷種類 /個所 /程度など)をデータベースに登録す

ることで、スマートインフラ IoTプラットフォームで

得られるメリットの実証検証を行うデータ作成を行え

た。メリット検証の内容については次章で述べる。

図5.センサポータルとセンサコード付与のフロー

図6.センサ製品情報データベースの登録センサの内訳

図7.研究概要

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2018年度実施事業からの報告

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4.センサコードによるリレーショナルデータベースがもたらすメリットの検証

 本章では、データを登録したスマートインフラ IoT

プラットフォームにより、図4に示した利用シーン

で得られるであろうメリット (図8) を具体的にデータ

ベースを検索するイメージで検証評価したことについ

て述べる。また、表1に整理する。

4.1 長期間モニタリングの管理を可能にする。 

   (施設管理者の維持管理におけるニーズ)

[課題]担当者の代替わりや設置されたセンサの取替

更新時に、どこにどういうセンサがどのように設置さ

れているか分からない。

[クエリ検索]所管の橋梁にはどんなセンサがいつか

らどういう目的で設置されているか、

さらに、そのセンサの用途・機能性能・メーカ名は何

か。

[メリット]検索で以下の情報入手できる。

・橋梁Aの第4径間の主桁の下面に、2013年5月22

日にメーカA型名KG-2Aを橋軸方向に接着して

いる。

・橋梁Bの ・・・

4.2 センサの初期選定・更新時の管理を可能にする。

(設計コンサルのインフラ設計時のニーズ)

[課題]初期選定時、必要な機能 /仕様を満たすセン

サがどのメーカからどういう製品名で

出ているか分からない。使用実績情報を参考にしたい

が入手できない。

 さらに、長期間行われれるセンサが故障した際に、

同じ型名のセンサの製品が

生産中止で入手できず、同等の機能性能をもつセンサ

を素早く適正に探したい。

[クエリ検索]

ひずみ計にはどういう製品があって、どの橋梁のどこ

に設置されているか。

機能・性能・用途等を比較表示する。

[結果]

橋梁のひずみ計測には、メーカAの型名KG-2A、メー

カBの ・・・がある。

・メーカAのKG-2Aは、橋梁Aの部材 ・・・ に2013

年○月○日から設置されている

・メーカBの○○は、・・・・

(ひずみ計の製品で相当品と思われるものを選択して)

メーカAの○○、メーカBの□□

・メーカCの△△の機能・性能・用途等を比較表示

4.3 劣化 /変状の把握と分析を可能とする。

   (大学・研究機関での研究ニーズ)

[課題]所管のある橋梁の点検結果で損傷が見つかっ

たが、他の橋梁の同様の損傷の状況や、そのモニタリ

ングデータを検索し、要因分析したりすることは困難

である。

[クエリ検索]

所管のある橋梁の主桁に定期点検によりクラックが発

見された。同様な損傷が発生している橋梁の損傷状況

およびモニタリングデータを把握して参考にしたい。

[結果]

前回の点検時のクラックは損傷程度がAであった。(急

激に変状が進んでいる)

同様な損傷は、橋梁P(程度A)、橋梁Q( 程度B)、橋

梁R(程度A)で発生していて、その写真とモニタリン

グデータを検索取得し、分析検討を行った。

4.4 フィールドデータを基礎データとしてセンサ開

発に活かせる。(センサメーカの開発時のニーズ)

[課題]所管のある橋梁の点検結果で損傷が見つかっ

たが、他の橋梁の同様の損傷の状況や、そのモニタリ

ングデータを検索し、要因分析したりすることは困難

である。

図8.メリット

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2018年度実施事業からの報告

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[クエリ検索]所管のある橋梁の主桁に定期点検によ

りクラックが発見された。同様な損傷が発生している

橋梁の損傷状況およびモニタリングデータを把握して

参考にしたい。

[結果]前回の点検時のクラックは損傷程度がAであっ

た。(急激に変状が進んでいるようで、要因推定の参

考情報を得るため)同様な損傷は、橋梁P(程度A)、

橋梁Q(程度B)、橋梁R(程度A)で発生していて、そ

の写真とモニタリングデータを検索取得し、分析検討

を行った。

4.5 点検現場の効率化を図る。

(施設管理者 ・設計コンサルの点検時ニーズ)

これは、データベースのクエリ検索ではなく、

AR(MR)/VR3)技術を利用する形で研究を進めている。

[現状]点検時に現場での前回の点検結果の比較を行

3) AR(Augmented Reality、拡張現実 )、MR(Mixed Reality、複合現

実 )、VR(Virtual Reality、仮想現実 )

うには、紙の設計資料を持参する必要がある。点検調

書作成に写真整理等で時間を要す。また、点検計画や

関連する規制検討などについて現場で交通規制の制約

の中で検討するので時間かかる。

[改善メリット]点検現場にて、この④点検情報デー

タベースの点検情報や損傷を点検対象のインフラ構造

物の画像に重ねて表示することがAR(MR) 技術を使っ

て可能になるので、前回の点検結果を現在の状況と重

ねて視認でき、劣化や変状の進展度合い (例えば、ク

ラック0.2mm幅が主桁の中央部に入っていたが、それ

が今回0.4mm幅と進展している)を確認しやすくなる。

現在、試行の実証実験を行った段階で、重ね合わせ精

度や対象物との距離制限等の課題もあり実用化を目指

して研究開発を進めているところである。

 また、点検計画を立案する上で、現場に出向かなく

ても、インフラ構造物の3Dモデルを活用して、周辺

の安全や交通規制を含めた点検計画が立案でき、大幅

な時間短縮を図ることが可能である。

表1.スマートインフラ IoT プラットフォーム活用によるメリット整理

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2018年度実施事業からの報告

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5.まとめと今後の進め方

以上、今年度の研究会の活動においては、

①センサコード付与とそれにより紐づけされたリレー

ショナルデータベースで構成されたスマートインフラ

IoTプラットフォームを検討し、具体的なコード仕様

とデータベースを検討しプロトタイプを試作。

②コードを付与したセンサの製品情報をセンサポータ

ルのベースとなるセンサ製品情報データベースに登録。

③また、センサを設置した実証実験を行い、モニタリ

ングデータをこのデータベースへの取込み。

④さらに、実証実験で得たセンサ設置情報、点検情報、

インフラ構造情報をデータベースに登録し、メリット

整理し検索イメージの提示。

等が実施できた。

今後、センサコードを付与管理とセンサポータルサイ

ト運営を行う「センサコード管理センター」の設立を

目指し、さらには、インフラ維持管理でコストや人材

面での効率化適正化ニーズが高い地方自治体への維持

管理プラットフォームの提案検討を鋭意進めていく。

業務経歴

澤田 雅彦(事業推進グループ マネジャー)2014年4月に当財団にメーカーより出向。

スマートインフラセンサ利用研究会主担当(平成26

~)。社会インフラ構造物の長寿命化に資する予防保

全や、点検効率化のためのセンサ活用・コード化に

ついてステークホルダによる研究を行う。

オープンデータ /ビッグデータ活用推進フォーラム

にてデも Kan(データでもうかる Kansai)研究会の

立上運営を行う(2014~2017)。

破壊的イノベーションによるデジタル社会研究会担

当(2016~)2030年の未来社会の予測。

AI 活用研究会 (2018~ ) AI 社会実装を推進するセミ

ナーと研究会。

出向元企業においては、シミュレーション技術を活

用した LSI 設計や組込み機器関連の設計技術開発に

従事し、そのビジネス化・ベンチャー会社立上運営

を行う。

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2018年度実施事業からの報告

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1.事業の背景

(1) 社会的背景

 人工知能(AI)は、近年ではビッグデータの活用

の進展を背景に認知度が高まり、その適用領域が拡大

している。同じく普及が進んでいる IoT(モノのイン

ターネット)と合わせると、IoTで様々なデータを収

集して「現状の見える化」を図り、各種データを多面

的かつ時系列で蓄積(ビッグデータ化)し、これらの

膨大なデータについてAIを活用しながら処理・分析

等を行うことで将来を予測する、という関係性が成り

立つ。現実社会においては、業務等様々な場面での効

率化、高速化、安全・安心確保などの実現につながり、

新たな価値を生み出す可能性を有している。具体的に

は企業の業務効率化(プロセス・イノベーション)、

潜在需要を喚起する新商品・サービスの開発・提供

(プロダクト・イノベーション)、商品・サービスの

デザイン・販売(マーケティングイノベーション)、

業務慣行・組織編成(組織イノベーション)、さらに

は社会的課題への対応(ソーシャル・イノベーショ

ン)といった様々なイノベーション形態の実現も可能

となる。

 一般に、AIの実用化において得意分野であるとさ

れているのは、以下のような領域である(総務省「平

成28年度情報通信白書」より)。

 これらを考慮すると、現実のビジネスの現場におい

て、多くの業務フローでAIによる高度化の可能性が

あると言える。

 一方、企業がAIの導入にあたって課題と感じてい

ることを見てみると、「AIの分析結果を担保できな

い」、「有用な結果が得られるか不明」等、AIの導入

石橋 裕基(事業推進グループ マネジャー・主席研究員)

AI利用研究会2018年度活動報告

 今後の ICTの変化は、ネットワークの高度化とビッグデータの充実を背景に発展した人工知能(AI)

を中心に進展すると考えられる。すでに多くの企業等がビジネスにおいてAIの活用を進めており、具

体的な成果を生み出している事例も増えてきた。一方で、中小企業やユーザ企業を中心として、実際に

AIの利活用に一歩踏み出したいと考えている企業において、「何から手をつけていいかがわからない」

という意見も多く聞かれる。技術的な素養もさることながら、ビジネスにおいてAI化を進める上での「勘

所」とも言えるノウハウや情報が不足していることが要因であると考えられる。

 このような背景から、KIIS では、2018年度に「AI 利用研究会」の活動をスタートさせた。初年度で

ある2018年度においては、企業においてこれからAI活用を進めていきたいと考えている担当者等が、

まず第一歩として取り組むべき基礎理論やツールの使い方、ビジネス実践ノウハウ等を共有するための

「リレーセミナー」として運営した。本稿では2018年度の活動内容について報告するとともに、今年度

以降の活動計画や方針について説明する。

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2018年度実施事業からの報告

17

による効果が不透明であるとの回答率が高くなってい

る。この点については、市場全体でみるとAIの普及

が未だ黎明期であることが背景として挙げられる。加

えて、前述の IoTと同様に、日本企業においては、「AI

の導入を先導する組織・人材の不足」の回答率が諸外

国と比較して高くなっているという特徴がある(同

「平成30年度情報通信白書」)。とりわけ、関西圏にも

多く所在する中小企業においてはこういった傾向が高

いと考えられ、関心はあるものの第一歩を踏み出せな

いところも多いと思われる。

(2) 技術的背景

 先に述べたような識別や予測、実行等の各種処理を

AIを活用して実施する上では、人間の脳神経システ

ムを模したニューラルネットワーク及びそれを多層に

組み合わせたディープラーニングを用いることが主流

である。このディープラーニングを取り扱う上で、言

語として「Python」が用いられることが圧倒的に多い。

 その理由として、Python がそもそも科学技術計算

分野で取り扱われることを想定しており、各種の数値

計算ライブラリ(ツール)等を備えていたことが挙げ

られる。これらのツールは昨今のディープラーニング

ブームにおいてますます充実しており、他の言語が追

随できない状況である。

 今後のビジネスにおいてAIの取り組みを進める上

では、Python に対する知識やノウハウを有している

ことが必須条件であると言っても過言ではない。

2.2018年度活動の枠組みと実施状況

(1) 開催趣旨

 こういった背景から、KIISでは、2018年度に「AI

活用研究会」の活動をスタートさせた。初年度である

2018年度においては、企業においてこれからAI活用

を進めていきたいと考えている担当者等が、まず第一

歩として取り組むべき基礎理論やツールの使い方、ビ

ジネス実践ノウハウ等を共有するための「リレーセミ

ナー」として運営した。

 リレーセミナーの企画実施に際しては、全面的に兵

庫県立大学大学院応用情報科学研究科・申吉浩教授ほ

かの協力を得た。

(2) 実施概要

 2018年度におけるリレーセミナー実施状況は表1の

通りである。

開催期間:2018年11月22日(木)~12月20日(木)

いずれも15:00~ないし15:30~の3時間講義

受講者数:各回15~20名程度参加

 リレーセミナーは大きく「総論編」「ツール習得

編」「応用編」と分類した。総論編においては人工

知能研究の歴史を踏まえ、現在のニューラルネット

ワーク・ディープラーニング全盛に至る経緯につい

て学んだ。またツール習得編においては、セミナー

会場でPython のコーディングができるサーバ環境

(JupyterHub)を構築し、各自がサンプルプログラ

ムを稼働させながら実践的に習得した。応用編では、

AIを活用した時系列データの分析方法や、サイバー

セキュリティへの応用事例等、それにものづくり現場

でのAI実装に関する具体的な手法や考え方、注意点

等について学んだ。

 いずれの回も極めて充実した内容で、受講者アン

ケートにおいても高評価を得られた(図1~3)。

3. 2019年度以降の展開

 2018年度受講者へのアンケート結果が示すように、

前回開催のリレーセミナーについては全般的には概ね

高評価を得られた一方で、ハンズオン実習をもっと増

やした方がよい、という意見も多く聞かれた。これに

ついては、Python 等具体的な技術を学ぶ講座の時間

帯や内容をさらに充実させるとともに、実際のビジネ

スの現場においていかに実践できるかというポイント

が指摘されているものと思料する。

 ビジネスへの実装という観点からは、理論的な内容

把握もさることながら、昨年度開催した「ものづくり

現場でのAI実装の勘どころ」の回において議論した

ような具体的な取り組み手順なども重要であると思わ

れる。

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2018年度実施事業からの報告

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表1.2018年度企業実践的AI(人工知能)利用研究会 リレーセミナープログラム

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2018年度実施事業からの報告

19

 よって、2019年度については、リレーセミナーの

内容をより充実させる方向として、ビジネスへの実装

を踏まえたワークショップを講座の中に盛り込むこと

とし、全体として10回コースのプログラムとする方向

で企画を進めている(図4)。これまでの講師陣及びプ

ログラムは維持または内容をさらに充実させるととも

に、新たなプログラムを追加することにより、受講者

がよりビジネスの場ですぐにノウハウを活用できるよ

う工夫したい。

 また、リレーセミナーの開催とともに、当財団で実

施している e-Kansai レポートや各種受託調査から得

られた情報等をもとに、AI利活用に関する様々な知

見を蓄積し、研究会活動として企画を進めたい。研究

会の形態等は未定であるが、引き続き賛助会員各位の

参加をお願いしたい。

図1

図2

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2018年度実施事業からの報告

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業務経歴石橋 裕基(事業推進グループ マネジャー・主席研究員)

-前掲-

図3

図4

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2018年度実施事業からの報告

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1.研究会の概要

1.1 実施の背景と目的

 人工知能(AI)、ロボット、IoT(Internet of Things)、

自動運転、ブロックチェーン等の技術やシェアリング

エコノミー等、産業構造を大きく転換する可能性があ

る革新技術、破壊的イノベーションが出現し始めてお

り、今後ますますビジネス、そして社会全体がデジタ

ル化し大きな変革が起こることが予想されている。

 こういった状況の中で、各事業者は新規事業開発や

ビジネスモデル転換を迫られている。この転換をチャ

ンスととらえ、変革を推進するためには、柔軟な発想

力や視点に加え、企業の枠組みを超えた取り組みや、

これまでの企業文化を変えていく必要がある。また、

これらを推進する人材の育成も必要となっている。

 来るべき大きな変革の波を乗り越えるとともに、新

しいプロダクトやサービスを生み出していくために、

①企業の枠組みを超えたメンバー同士が、②現状の革

新的技術・社会的トレンドの把握・情報収集を積極的

に行い、③生活者の視点で、家・家庭・個人にフォー

カスした未来社会を展望し議論しあうという活動を通

して、企業の枠組みや企業文化にとらわれない形でメ

ンバー同士が相互に交流し、柔軟な発想力と視点を養

いつつ、各社における新規事業開発のヒントを得る場

を提供することが必要である。

 KIISがそういった場を提供することで、関西経済

ひいては日本経済の活性化に資する取り組みとする。

1.2 研究会参加メンバー

 神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻 教授

 塚本昌彦氏を座長とし、関西の大手企業に所属する

若手社員を中心に構成。KIISからも委員として1名が

参加している。

1.3 研究会の進め方

 本研究会では、2030年の生活者視点での未来社会

を展望することをテーマに活動している。現在の革新

的技術や社会トレンドの調査と、それに基づくフォア

キャストでの予測と、メンバーたち自身が「こうあっ

てほしい」というバックキャストでの展望の両面から

未来社会のイメージづくりを行っている。現在の革新

的技術や社会トレンドの調査にあたっては、有識者を

ゲストスピーカーとして招き情報提供を受けてのディ

スカッション、2030年の未来社会につながる芽が現在

に出てきているかを把握することを目的として話題性

のあるキーワードにもとづくメンバー間でディスカッ

ション、さらには文献等の調査といった活動を中心に

行っている。

 特に話題性のあるキーワードについては、その中で

もとくに重要であると思われるものを研究会のメン

事業推進グループ 研究員 長尾 卓範

破壊的イノベーションがもたらすデジタル社会研究会

 AIや IoTの技術は、社会、産業、ビジネス、生活などに急速かつ多大な影響を与えるようになってき

ており、将来社会を俯瞰するには、これまでとは異なった発想が求められるようになってきています。

KIISでは関西の大手企業6社の若手中堅社員をメンバーとして、未来社会のありたい姿を描く「破壊的

イノベーションがもたらすデジタル研究会」(座長:神戸大学大学院教授 塚本 昌彦 氏)を開催して

います。ここでは、2年間の活動とその成果物である中間報告書の紹介を行います。

表1.研究会参加メンバー

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2018年度実施事業からの報告

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バー間で選定し、2018年の重要ワードという形で取

りまとめを行った。

また、未来社会イメージの展望については、生活者視

点での展望を意識し、移動・旅行、健康・ライフサイ

エンス、家事、街・住空間、買い物、娯楽・スポーツ

等のテーマにおいて担当を決め、それぞれのテーマご

とに未来社会イメージを描き、座長によるコーチング

とメンバー同士のディスカッションを通して未来社会

イメージを作り上げていくという活動を行った。

2.活動実績 2017年2月にキックオフし、その後現在まで活動を

継続している。

3.中間報告書

 本研究会の2年間の活動のとりまとめとして、中間

報告書を作成した。中間報告書には、2018年を象徴

する重要キーワード、各メンバーが描く個別テーマご

図1.研究会におけるテーマと考え方

図2.研究会の進め方

表2.活動実績

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2018年度実施事業からの報告

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との未来社会イメージが掲載されている。以下では、

それぞれの概要について述べる。

3.1 重要ワード2018

 現状の社会トレンドや技術動向を把握することを目

的として、2018年における IT系重要ワード30と一般

系重要ワード30を選定した。 IT系の重要キーワード

は、2018年に顕著に表れた IT系の技術やサービス、

商品などを対象とし、重要性、革新性、新規性(2018

年性)の三つの観点から評価して選定した。現状の

ITトレンドを象徴するようなキーワードが選ばれて

いる。一般の重要キーワードは、IT系への影響も考

慮して広く社会の動向をとらえるために選定した。選

択基準は、多様性、困惑性、新規性(2018年性)の

三つで、IT系の重要キーワードとは異なり、正の面、

負の面両面からの社会への影響の大きさを重視した。

表3. は選定された IT系、一般それぞれの重要ワード

30の一覧である。

 IT系1位に選ばれたTikTok は、スマホ利用を前提

とした15秒程度のショートムービーをだれでも作成・

共有できる仕組みが提供されており、空き時間に手軽

に見やすい、動画制作のハードルが大幅に下がった

等の要因により面白いアイディアや生活の知恵を端的

に表現しやすい点がポイントであり、新しい動画コン

テンツの利用スタイルを確立したものとみなせる。

TikTok に限らず、Youtube、e-sports など、これまで

は「遊び」として職業になりえなかったことが多く

の人に拡散できるようになったことで支持者を集めた

いかを得る職業として認知されるというのは、デジタ

ル社会がもたらした変化であろう。今後、より大量の

データが瞬時に共有拡散できるようになることで、将

来的には味覚・触覚・嗅覚などを共有できるようなコ

ンテンツが出始め、今遊びや日常と思われているもの

も映像に加えて売れる新たなコンテンツとして成長す

る可能性がある。

 一般の1位には「大阪・関西万博」が選ばれた。

2025年に近未来をテーマに開催される大阪万博はま

さに2030 年のくらしを描くものになるだろう。本万

博の開催に向けて、大企業では万博に関係する領域で

のビジネスの立案や、健康・医療、人工知能、さらに

は訪日外国人や国内からの来場者に向けた様々なサー

ビスに係るベンチャー企業を育成・支援しようとする

動きが始まりつつあり、万博を起爆剤に関西経済を盛

り上げていくという機運が高まっている。また、大

阪・関西以外でも、万博をきっかけに来場した訪日外

国人が地方へ分散していくことも考えられるため、全

国規模で万博を意識したサービスの登場が予想され、

今後ますますこの流れが大きくなる可能性がある。

 このように、選定された単語は未来社会を見据える

ヒントになるキーワードが含まれている。紙面の都合

上、全項目に関する解説を本稿に記載することは控え

るが、2位以下の単語に関する解説は本研究会の中間

報告書に記載されているので、そちらを参照いただき

たい。以下には選定された単語の一覧表を示す。

3.2 未来社会イメージ

 本セクションでは、中間報告書に記載されている

「移動・旅行」、「健康・ライフサイエンス」、「家事」、

「街・住空間」、「買い物」、「娯楽・スポーツ」につい

ての未来像についての要約を記載する。詳細について

表3.2018年重要ワード一覧

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2018年度実施事業からの報告

24

は、以下のURLに中間報告書が掲載されているため、

そちらを参照されたい。

3.2.1 移動・旅行の未来

 “MaaS”(Mobility as a Service)の発展によって、

利便性の向上に加え、渋滞の緩和や環境問題の改善、

地方においても自家用車なしで安価に自由に移動でき

る社会が到来し、オーバーツーリズム問題の解決や、

ベストシーズンにおける観光地の混雑緩和が実現する

可能性がある。

 シェアリングサービスも、2030年には今以上に一般

化している。自家用車を持つ人がマイノリティになっ

ているかもしれない。さらに、自動運転のレベル5(完

全自動運転)が実現し、運転手が不要で車内の座席レ

イアウトが現在と大きく異なる快適な移動空間が実現

しているだろう。自動車だけではなく、自転車につい

てもシェアリングが一般化し、MaaSの動きと合わせ

て新たな交通手段の一つとして機能する可能性がある。

 旅行先での情報収集に関しては、現在でもガイド

ブックやインターネット上の情報を見ながら旅をする

ことができるが、よりリアルタイムな情報や、自分の

バイタルデータや旅行の行程をインプットして最適で

快適な旅が実現できるであろう。リアルタイムの混雑

状況も把握できるようになることで、オーバーツーリ

ズム問題の解決にもつながるだろう。

 海外旅行に関しては、音声翻訳機が現在でも登場し

ているが、これがより高精度かつ安価になっていく

ことで、海外でも言語の壁を感じることなくコミュニ

ケーションをとることができるようになる。その結果、

個人旅行のハードルが下がり、個人旅行者が増え人々

はより自分の趣向にあった旅を楽しむようになる。

 旅行を自分の好きなタイミングで快適に楽しむにあ

たっては、休暇の取得も含めた働き方改革に加え、技

術面では様々な情報がオープンデータ化され、かつ、

データ連携利活用を推進していくことが必要である。

3.2.2 健康・ライフサイエンスの未来

 平均寿命は今後も伸び続け、いよいよ2030年には

「人生100年時代」となっている。その際に問題とな

るのが平均寿命と健康寿命の差である。家族への負担

の観点や、医療保険等の観点で考えると、平均寿命だ

けを伸ばすのではなく、健康寿命を延ばし、平均寿命

との差を縮めていくことが求められる。平均寿命だけ

が延びていった際に顕在化する課題は、「認知症」で

あろう。これまで人間は認知症を発症する前に死を迎

えていたが、脳が機能低下した後も臓器の機能低下・

不全による死を免れるようになったため、認知症の患

者数が今後も増え、社会的に大きな課題となる。そし

て、この認知症問題へのソリューション創出が加速

し、病状によっては根治させる薬の開発や、早期かつ

簡易に発見するサービスが開発されていくだろう。そ

の際に重要な役割を担う技術がAIや IoTである。セ

ンサの高度化によってさまざまな場所で様々なデータ

が取得でき、それに基づいてAIが本人にアドバイス

をフィードバックするというサービスが普及するだろ

う。現在でもAIはレントゲン、CT、MRI 等の画像

からの腫瘍の発見に活用されているし、IoTはバイタ

ルデータをウェアラブル端末等で取得する際に活用さ

れている。今後はこれらの技術がさらに進展していく

ことで、病院に行かない時間(その人の日常生活)に

データを取得し、より詳細に様々な症状を把握するよ

うになる。結果として健康診断や人間ドックを受診す

るという行為がなくなるかもしれない。デジタル技術

以外にも、2030年には iPS細胞をはじめとする再生

医療の研究が世界中で大きく進展し、一部が実用され

ているだろう。高齢化に伴う膝関節の病気、神経変性

疾患、歯の治療、心不全、糖尿病などの根本的治癒が

一部でも実現している可能性がある。このようにして、

人々の健康寿命は延びていくだろう。そして健康寿命

が延びることにより、消費が引き上げられ、国家財政

の健全化が実現されている。

3.2.3 家事の未来

 電気、ガス、水道といったインフラ、便利な家電、

長期間保存できる食材の登場など、テクノロジーの発

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2018年度実施事業からの報告

25

展によって家庭ではいつでも簡単に高品質な家事を行

うことができるようになった。しかし、このテクノロ

ジーの発展はこれまで外部に依存していた行為を家庭

で容易にできるようにし、かえって家事を増やした。

また、例えば洗濯1回の行為は圧倒的に省力化された

が、それによって衣服は常に清潔であるべきというこ

とが常識となり、毎日のように洗濯を行うようにな

り、これまたかえって家事の時間が増えた。こういっ

た状況もあってか、最近では家事代行サービスやそも

そも家電を持たず、家で洗濯や掃除をしなくて済むよ

うな生活スタイルをとる人々も現れ始めている。

 2030年にかけても、家事は増え続けていくことが

予想される。これまで家庭で行われていなかったこと

を家庭で簡単に行えるようになるからだ。例えば衣服

を作る、簡単な野菜を栽培する、調味料を作るといっ

た具合に。しかしその一方で、これらの家事に対して

も様々な家電が開発され、家庭の中に浸透していく。

そして、その気になればすべての家事を自動的に行う

ことができるようになる。ところが、高度に自動化が

進むと、今度はあえて人々は人手をかけて家事を行う

ことに価値を見出すようになる。自分の特性や興味に

合わせて、自動化された家事の一部を切り出して楽し

んで行うようになる。こうして家事は労働から娯楽へ

と昇華する。そして、その娯楽となった家事を楽しむ

人々の行程や成果を家庭に浸透している家電が観察

し、高精度にデータ化できるようになる。そして、そ

のデータを基にほかの場所でもある人の家事を再現で

きるようになる。他の人が行った家事を別の人が別の

場所でデータに基づいて再現できるようになるのであ

る。そしてこのデータを流通させるプラットフォーム

が登場し、人々は自分の苦手な家事のデータは買い取

りロボットに家事を任せ、得意な家事を楽しみながら

突き詰めて行うことで外部に販売し、インセンティブ

を得るようになるだろう。

3.2.4 街・住空間の未来

 これからの住宅に関しては、単に住むだけの住宅は

価値をなくし、借り手や買い手にとって欲しいサー

ビスやあったらうれしい機能を持つ住宅のニーズが高

まっていくだろう。テレワーク等が今以上に進み、仕

事場というものが限定された場所でなくなる、また、

複数の会社に属すことができるようになるといった働

き方改革等の影響もあり、職場に近いという条件は住

居を構える理由にならなくなると考えられる。しかし、

安心・便利・快適であることは住宅を選ぶ理由として

大きな要因であることは変わらず、今後も都市部の人

気は変化しないだろう。

 街の在り方としては、コンセプトタウンのようなも

のが広がっているだろう。サイクリングが趣味の人

が集まる街、ダイビングが趣味の人が集まる町など、

通勤を考慮しなくてよくなるからこそ、週末や仕事

終わりに趣味に没頭しやすい環境であることも街選

びの一つの尺度となるだろう。現在も様々な自治体で

コンパクトシティの取組が進められているが、今後は

テーマを持ったコンパクトシティが登場することにな

るだろう。また、現在介護が社会課題として取り上げ

られることが多いが、今後は外国人労働者や定年以降

のNEXTキャリア人材の受け入れ、介護サービスに

対しての社会保障・高付加価値化が進むことで介護を

テーマにしたコンセプトタウンも出てくるだろう。

 街を構成する重要な要素としてエネルギー等のライ

フラインを含むインフラがある。現在は価格がある

程度固定されているが、今後はこれらのサービスが変

動的に変わるようになると考えられる。また、エネル

ギー以外にもセキュリティや住宅といったものもコ

ミュニティの中でシェアしながらサービスを受ける契

約形態が出てくるだろう。

 住宅に関しては、今後はますます賃貸が主流になっ

ていくだろう。賃貸もただ建物・部屋を借りるだけで

はなく、自分の好きな家電や衣服、セキュリティ、料

理付きなどのサービスを持つ家を契約するスタイルに

変わっていくだろう。コンセプトシティが登場すると

述べたが、そこで借りられる家にはその趣味に必要な

設備が標準で備え付けられているということも考えら

れる。

 家の中に関しては、AI、IoTによって常に快適な温

度や湿度、明るさといった環境を手に入れることがで

きるようになるだろう。

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2018年度実施事業からの報告

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3.2.5 買い物の未来

 人口が減少していく傾向にあることから、販売員の

減少等の影響で実店舗の運営は厳しくなっていくだ

ろう。加えて輸送技術の進展により配送業務は高度化

され、全自動倉庫、自動運転によるトラックの運用、

ドローンを活用した個人宅への配送など人力でない方

法が実用化されていく。消費の傾向に関しては、若い

世代を中心にものを買わない生活に変化していくだろ

う。現在でもフリマサイトやオークションサイトの影

響で中古品市場は増大したが、2030年には中古で購入

することもせず、消耗品を除きあらゆるものをレンタ

ルするようになるだろう。特に都市部に今後も人口が

集中し、居住スペースの賃料が上がることでスペース

が確保できずものが持てないということが多くなり、

モノを持たないで生活する流れが加速する。また、例

えばスポーツ用品であれば、自らの趣味趣向や用途、

レベル等に合わせたウェアや道具を一括して借りるこ

とのできる包括レンタルサービスが普及するだろう。

 モノそのものについても、汎用品から専用品への切

り替えが進むと考えられる。大量生産によって作られ

た均一的な既製品を購入するスタイルから、欲しいも

のは自分で作るようになるだろう。作るにあたっては

街中に無人の工房のようなものができ、そこに作りた

いもののデータを入れるだけで自動的に目的のものを

作る環境が整う。人々は作りたいもののデータを購入

し、自分なりのアレンジを加えてオリジナルな自分だ

けのモノを手に入れるようになるだろう。

 生鮮食品に関しては、購買履歴や献立の履歴から趣

味趣向をAIが把握し、最適な献立を提案するもしく

は調理済みの料理が自動的に送られてくるサービスが

登場し、多くの過程でこれを使うようになるだろう。

 これらの買い物に付随する決済に関しては、当面は

クレジットカード決済の比率が大きい状況が続くだろ

う。QRコード決済等は2030年のころにはまだマイノ

リティの可能性もあるが若い世代を中心に徐々に手軽

な電子決済にシフトしていくだろう。

3.2.6 娯楽・スポーツの未来

※娯楽・スポーツの未来に関しては、登山を趣味に持

つA氏の経験をもとに未来のイメージを記載している。

 スポーツについては登山を基に進めていきたい。A

氏は形から入るタイプなので、趣味を始めるときはモ

ノに拘る。ただ、快適に登山を遂行しようとすると初

期投資として登山靴やウエア、リュックにストックな

ど専用品が多く必要となるが、お金も保管場所も節約

したい。だから、登山分野でのレンタルが充実し、必

要なときに必要なモノだけを借りられるようになって

欲しい。このようなニーズから現在では初心者向けの

低価格品しかレンタルできないが、登山レベルに応じ

て高機能で専用的なモノを使いたいとか、買うのは勇

気がいるようなデザインやカラーリングのものを着て

写真を撮ってSNSで共有したいなどのニーズにより

レンタルが普及し、購入するよりもリーズナブルにレ

ンタルできるようになるだろう。

 事前準備としては、用品の他に現地の地図や天気、

登山口までのアプローチや行動食など、考えて行けば

キリが無いほどの確認事項がある。デジタルデータで

取れる天気や登山道の情報くらいは、現在でも簡単に

検索できているが、目的に応じて必要なデータが提供

されるサービスが普及するだろう。

また、登山のシミュレーションというべき、登山道で

の危険な箇所や、絶景ポイントを事前に確認できるよ

うにVRを利用するようになる。他にも、地方の特産

品を交えた登山食や、調理法なども気軽に検索しVR

により予習することが可能になるだろう。 

移動に関してはどうか。登山が出来る山というのは登

山道入り口までのアプローチや登山道自体も整備され

ていることが多い。現在ではマイカーやバスを利用し

て行くのが一般的だが、A氏は月々の維持費が勿体な

くてクルマを手放したため、毎回レンタカーを予約し

ていかなければならない。また、バスは事前予約や時

間縛りがキツく、同乗者のマナーにより目的地に到着

する前にテンションが下がってしまうこともあるので

あまり利用しない。しかし、安価であるためやむなく

使うときがある。

都市部に住んでいて地方への移動に困る人は増えてい

るように思うが、これを解消するためにネット予約を

利用した乗合の仕組みが増えるのではないだろうか。

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2018年度実施事業からの報告

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 また、登山に一緒に行く仲間は、ライフステージの

変化により減少していて、今は一人で行っている事が

多くなった。家族からは危険なので単独行動は止めて

欲しいといわれているが一緒に行く人がいないから仕

方ない。そこで、マッチングアプリ的に、同じ趣味嗜

好や価値観を持ったコミュニティを利用して、現在の

ように一緒に現地へ行って、一緒に行動するのではな

く、更に進化して、現地で仲間を見つけて必要なとき

に必要なだけ協力しながら登山を楽しむことが出来る

ようになるのではないか。更に言えば、自分の行動を

リアルタイムにVRで配信することで、友人と会話し

ながら現地に関する情報や登山以外の状況も共有する

ことができるし、自宅にいながら登山者と一緒にその

景色や状況を楽しむことが出来るようになると思う。

 

3.3 中間報告シンポジウム

 本報告書の内容を周知するためのシンポジウムを開

催した。以下に詳細を示す。

・開催日時

 2019年6月6日13:30~17:00

・来場者数

 100名

・会場

 ツイン21 MIDタワー貸し会議室20階

・当日プログラム

 ~基調講演~

「2030年の未来社会~明るい未来ありたい未来像~」

塚本 昌彦 氏

神戸大学大学院工学研究科

電気電子工学専攻教授

破壊的イノベーションがもたらすデジタル社会研究会

座長~パネルディスカッション~

「2030年の未来社会と、そこに暮らす人々の生活」

-モデレータ

塚本 昌彦 氏

(神戸大学大学院 教授、本研究会座長)

-パネリスト

青木 一将(パナソニック株式会社)

篠原 隆史(株式会社NTTドコモ)

細木原 昭聡(住友電気工業株式会社)

長尾 卓範(一般財団法人関西情報センター)

~招待講演~

「未来を創るイノベーション事業化への挑戦」

岩佐 琢磨 氏

株式会社Shiftall 代表取締役CEO

4.今後の取り組み

2019年度は、2025大阪・関西万博開催決定を契機に

高まりつつある「未来社会のイメージ作り」への貢献

を目指し、2030年以降、2050年ごろまでの未来社会

のイメージ作りを進めていく。

業務経歴

長尾 卓範(事業推進グループ 研究員) 2017年 7 月入所

- サイバーセキュリティ研究会 担当

(2017~)

- ビジネス・イノベーションセミナー 担当

(2017年~)

- 平成29年度近畿経済産業局委託事業

関西のサービス業の生産性・付加価値向上に関する

調査 担当

(2017年)

- 平成30年度 地域中核企業創出支援事業

(関西中堅・中小企業 IoT ソリューション創出支援

事業) 担当

 (2018年)

- 令和元年度 地域中核企業ローカル

イノベーション支援事業

(関西 IoT イノベーション創出支援事業) 担当

(2019年~)

- 破壊的イノベーションがもたらす

デジタル社会研究会 担当

(2018年~)

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2018年度実施事業からの報告

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1. 本事業の概要

 様々な新しい技術が次々と出てくる中、企業にとっ

ては最新の情報を効率よく収集し、事業に反映して

いくことが求められます。KIISではこれまで培って

きたネットワークとノウハウ、さらには新しいネット

ワークの開拓を通して最新の情報を入手しつつ、関西

地域における普及啓発を積極的に行っています。特に

ニーズの高いテーマとして、サイバーセキュリティ関

連、ブロックチェーン関連を中心に、AI、IoT、ソフ

トウェアエンジニアリング等のテーマを厳選して実施

しています。

2.セミナー開催実績

 2018年度は合計10件のセミナーを開催しました。

内訳としては、サイバーセキュリティ関連4件、ブロッ

クチェーン関連3件、システムエンジニアリング関連1

件、IoT関連1件、ビジネスマッチング1件であり、全

イベントの延べ来場者数は790名です。表1. に本事業

で2018年度に開催したセミナーの一覧を示します。

3.今後の取組

 今年度以降も継続して、様々な領域の様々なテーマ

の最新情報をタイムリーに提供してまいります。特に

来場者も多く、情報提供のニーズが高いと考えられる

サイバーセキュリティ、ブロックチェーンといった経

営の基盤となる領域やこれから新しいビジネスが創出

されるであろう領域を中心にセミナーを開催してまい

ります。また、ソフトウェアエンジニアリング、AI、

IoT、ビジネス創出・マッチング関連のセミナーに関

しても、常に情報収集とネットワーク構築を行いなが

ら実施してまいります。

 なお、今年度事業において、特に反響の大きかった

ブロックチェーン関連のイベントについては、昨年度

同様にブロックチェーンMeetUp OSAKAの継続開催

により、ビジネスサイドでの活用事例や最新動向の情

報提供を実施し、ブロックチェーンを活用したビジネ

ス・ビジネスへのブロックチェーン活用の機運を高め

る取り組みをしてまいります。

 また、昨年度のイベント時のアンケートを踏まえ

新しい取り組みをしてまいります。昨年度3回実施し

たブロックチェーンのイベントの参加者アンケートで

は、次のような結果が得られました。

 こういった結果を踏まえ、新しい取り組みとして、

エンジニア等を対象にしたオフラインでの基礎技術

勉強会等の開催を予定しています。ブロックチェーン

事業推進グループ 研究員 長尾 卓範

ビジネス・イノベーションセミナー

経営環境の変化が激しい中で、様々な企業における IT戦略の再構築や新ビジネス展開に資するための

情報提供活動として、KIISではサイバーセキュリティ関連情報、AI・IoT利活用事例、ブロックチェー

ン関連、ソフトウェアエンジニアリングの動向、中小・ベンチャー企業等の有望技術シーズ・ビジネス

モデルなど、タイムリーな話題を随時紹介しています。ここでは、その活動について紹介します。

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2018年度実施事業からの報告

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MeetUp OSAKAでの情報提供に加え、技術勉強会で

のエンジニアの育成・情報提供を通してビジネスサイ

ド、テクノロジーサイドの両面でブロックチェーンに

関する情報提供を行ってまいります。

 特に実施にあたっては、KIIS単独ではなく、他団

体、学術機関、さらにはローカルコミュニティ等との

連携を強化することで、より広範囲の内容をカバーし

つつ、より深い情報を高頻度に提供してまいります。

 ここではブロックチェーンについて主に触れました

が、それ以外のAI、IoT、ビッグデータ等をはじめと

する様々な実施テーマのご要望等も随時お待ちしてお

ります。

業務経歴長尾 卓範(事業推進グループ 研究員)

-前掲-

表1.ビジネス・イノベーションセミナー開催実績

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2018年度実施事業からの報告

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1.調査趣旨

 少子高齢化社会や人口減少社会の到来が叫ばれる

中、商品やサービスの高付加価値化と働き方の見直し

は、日本企業における喫緊の課題となっている。また、

世界的な潮流として、「第4次産業革命」が進展する中、

日本企業がグローバル競争に打ち勝つためには、AI

や IoT、ロボティクスを活用し、ビジネスに絶え間な

くイノベーションを生み出すことが求められている。

 2018年度からの「e-Kansai レポート」では、今後

の調査の方向性として、「関西地域における新たなビ

ジネス創出プラットフォーム実現に向けて」を主たる

テーマとして設定した。イノベーションを生み出す共

通基盤としてのあるべき姿や機能を見出し、提言へと

繋げていくものである。2017年度までの調査では、

データ利活用状況等を経年で把握する「データ利活用

状況及び今後の取組みへの課題に関する調査」、企業

におけるサイバーセキュリティ対策状況を把握する

「企業のサイバーセキュリティ対策に関する調査」を

それぞれ実施してきたが、それらに加え、2018年度

からの新たな取り組みとして「ビジネス創出支援機関

等の活動に関する調査」を実施した。

 2018年度は、次年度以降に本格的に調査を実施す

るための基礎調査として、関西地域において新たなビ

ジネス創出支援やインキュベーション活動等に取り組

む企業、団体、グループ等(以下、ビジネス創出支援

機関と称す)を対象に、各機関の取り組みや活動上の

課題等について調査を行った。これらの調査結果をも

とに、企業・自治体等をメンバーとする「e-Kansai レ

ポート委員会」(主査:原田勉・神戸大学大学院経営

学研究科教授)において議論を行い、本調査報告書を

とりまとめた。

梶谷 良徳(事業推進グループ 研究員)

2018年度実施事業からの報告e-Kansaiレポート2019

~関西地域における新たなビジネス創出プラットフォーム実現に向けて~調査結果概要

 一般財団法人関西情報センターでは、2005年度より、関西地域における情報化の動向を多角的に捉

え分析することで、関西の情報化の問題点や課題を明らかにし、その解決策を提案する調査研究事業

「e-Kansai レポート」を実施している。

 2018年度からは、「関西地域における新たなビジネス創出プラットフォーム実現に向けて」を主たる

テーマとして設定しており、イノベーションを生み出す共通基盤としてのあるべき姿や機能を見出し、

提言へと繋げていくこととした。調査初年度である2018年度は、関西地域において新たなビジネス創出

支援やインキュベーション活動等に取り組む支援機関等を対象としたアンケート調査及びヒアリング調

査を実施した。本稿ではその調査結果概要を紹介する。

主査 神戸大学大学院 経営学研究科 教授 原田  勉

副主査 近畿大学 経営学部 准教授布施 匡章

委員 一般財団法人日本情報経済社会推進協会 常務理事         坂下 哲也

神戸市企画調整局 政策企画部 ICT連携担当部長      松崎 太亮

株式会社日本総合研究所 関西経済研究センター長 石川 智久

住友電気工業株式会社 執行役員                奈良橋 三郎

事務局 一般財団法人関西情報センター  事業推進グループ

表1 2018年度 e-Kansai レポート調査委員会 委員(敬称略・順不同、役職等は2019年3月末時点)

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2018年度実施事業からの報告

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2. 調査結果

2.1 データ利活用状況及び今後の取組みへの課題に

関する調査

2.1.1 アンケート調査

 企業におけるデータ利活用については、企業経営に

大きなインパクトを与え、大幅な業務の効率化や新事

業・新産業の創出に寄与すると期待されている。既に

欧米の IT系大企業等を中心にビッグデータを利活用

した新たなビジネス創出の事例がメディア等で多数紹

介されているが、中堅・中小企業における際立った成

功事例や、多様な業種における取り組み等に関する情

報は十分であるとは言いがたい。またこういったデー

タ利活用に取り組むにあたっての課題や障害に対する

分析、対策の検討も必要である。そこで、関西地域の

中堅・中小企業を中心とするデータ利活用状況につい

て実態を把握し、効果や課題等を分析することを目的

にアンケート調査を実施した。

対象:関西地域(2府5県)及び関東地域(1都3県)

に本社を置く従業員50名以上の企業5,283社

※いずれも東京商工リサーチ企業データベースから抽出

送付日:2018年11月

回収期間:2018年11月~12月

回収数:346社(回収率 6.5%)

①企業におけるデータ利活用状況

 はじめに、企業が保有しているデータを何らかの形

で「利活用」し、ビジネス推進面での成果が得られて

いるかどうかを尋ねた。2017年度の調査結果と比較

すると、企業におけるデータ利活用の程度が進展して

いることが明らかとなった。

 また、回答企業の企業規模別での分類では、大企業

と中堅企業・中小企業の間で意識の差が顕著であっ

た。さらに、地域別で見たとき、関東では約3割の企

業がデータ利活用を実施しているのに対し、関西での

実施割合は関東の約半数にとどまるなど、大きな格差

が生じていることがわかる。

 なお、業種別で見た場合、製造業やサービス業に比

べ、流通業における取り組み状況が先行している結果

となった。

図1 企業におけるデータ利活用状況(2017年度、2018年度の比較)

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2018年度実施事業からの報告

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②データ利活用の成果

 次に、データ利活用について取り組みを進めた(あ

るいは、進めつつある)結果として得られた成果につ

いて、当初の期待と比べてどの程度満足度が得られて

いるかを調査した。回答企業を企業規模別に見たとき、

大企業において満足度が低い結果となった。一方で、

期待以上の成果を感じている企業の割合も大企業が最

も高いという結果となっている。

③外部データの利活用等

 設問では、自社のビジネスを推進する上で、外部の

どのようなデータを利活用したいかを尋ねた。最も

高い割合を占めるのは同業他社が持つ業務関連データ

であった。また、他社に提供可能なデータの有無を尋

ねたところ、半数を超える企業が「有償・無償に関わ

らずデータを提供するつもりがない」ことが明らかと

なっている。

図2 企業におけるデータ利活用状況(企業規模別)

図3 企業におけるデータ利活用状況(地域別)

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2018年度実施事業からの報告

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 なお、回答企業の企業規模別の分類では、大企業が

他社に提供可能なデータを最も多く保有しており、ま

た、大企業と中堅企業・中小企業の間には格差が生じ

ている。また、業種別に見たとき、製造業やサービス

業と比べて、流通業がデータ提供に対してやや前向き

である結果となった。

④データ利活用の進め方

 データ利活用の進め方について尋ねたところ、社

長、役員、部長クラスにより、トップダウンで推進さ

れていることがわかった。また、回答企業を業種別に

見たとき、業種を問わずトップダウンで推進される割

合が高いものの、製造業においてその割合が比較的高

い結果となった。

 また、データ利活用を進める、あるいは今後取り組

みを行う際の相談先について尋ねたところ、最も割

合が高いのはシステムベンダ、次いでコンサルティン

グ会社であった。なお、回答企業を業種別に見ると、

業種によって相談先に差異が見られることが明らかと

なった。各業種ともシステムベンダ、コンサルティン

グ会社を挙げる割合が高いものの、流通業において

ITコーディネーター、サービス業において学術研究

機関を挙げる割合が相対的に高くなっていることが特

筆される。

④ ITを活用した「働き方改革」

 「働き方改革」に向けて ITを活用した取り組みを推

進しているかを尋ねた。結果として、半数を超える企

業において、ITを活用した働き方改革にすでに取り

組んでいる結果となった。なお、回答企業を企業規模

別に見ると大企業において、業種別に見るとサービス

業において取り組み状況が先行している。

 AI・IoT・ロボット等が働き方改革に与える影響や

効果については、AI・IoT・ロボット等の導入による

生産性向上を約4割が前向きに捉えており、雇用喪失

など負のイメージを有する割合が昨年度調査時より減

少している。回答企業を企業規模別に見ると大企業が、

業種別だと流通業が、生産性向上に大きな期待を寄せ

ていることが明らかとなった。

⑤支援機関に最も期待する役割

 最後に、データ利活用に取り組む際に、支援機関に

最も期待する役割について尋ねたところ、事例紹介や

最新情報の発信など情報提供であり、約6割を占める

結果となった。

2.1.2 ヒアリング調査

 前述のアンケート調査の回答から、データ利活用状

況が先進している、もしくは、外部とのデータ連携等

に積極的な企業7社を抽出し、ヒアリング調査を実施

した。(表2)

 本調査はこれまでも経年で同テーマでのヒアリング

調査を実施している。これまでの調査結果のエッセン

スは、おおむね以下の7点に整理できるが、5年目とな

る今回のヒアリング調査でも同様の声が聞かれ、これ

までの結果を裏づけることができた。

① 明確な目的のもとでのデータ利活用の必要性

② 明確な目的の背景にある、高い問題意識や危機感

③ トップとミドルの望ましいコンビネーション

④ 戦略的 IT部門(攻めの IT)の重要性

⑤ ITを活用した「働き方改革」の着実な進展

⑥ データ利活用を担う人材不足と様々な対応方法

⑦ 支援機関に期待する成功事例の情報提供

①明確な目的のもとでのデータ利活用の必要性

 成果をあげている企業は、データを利活用して何を

解決するのか、その目的を明確に設定して取り組んで

いる例が多く見られた。別の言い方をすると、AI・

IoTという流行語に決してあおられることなく、課題

解決の一つの手段であるとの明確な認識をもって臨ん

でいる。

②明確な目的の背景にある、高い問題意識や危機感

 課題の発見や明確な目的設定は、トップを中心とし

た高い問題意識や危機感から生まれている。ここでい

う問題意識とは、日常業務における強い不便・不都合

や、従来の商習慣における不合理性などで、そこに着

眼し、解決手段として ITやデータをうまく活用して

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2018年度実施事業からの報告

34

いる。

 なお、企業の枠を越えたデータ連携について、貴重

な情報資産であることや個人情報保護による制約など

により、外部に出すことを躊躇する企業はいまだに多

いが、この壁を破るのトップの危機感であるとの指摘

が複数聞かれた。

③トップとミドルの望ましいコンビネーション

 経営トップの問題意識や危機感を共有しながら、ミ

ドルの IT担当がデータ利活用に取り組んでいること

である。トップが自らの問題意識を戦略に落とし、そ

のリーダーシップのもとに権限を委譲されたミドルが

戦術を練り、節目節目で戦略から外れていないかを検

証するというコンビネーションが重要である。データ

利活用で成果を上げている企業は、このトップとミド

ルのコンビネーションが上手く働いている。

④戦略的 IT部門(攻めの IT)の重要性

 成果を上げている企業は、トップから権限を委譲さ

れ実践する部署として、戦略的 IT部門、ないしは、

それに該当する部門(「攻めの IT部門」)を新設して

いる。

 「攻めの IT部門」は、従来の情報システム部門のよ

うな「守りの IT部門」と発想や業務に臨む姿勢がまっ

No. ヒアリング先 事業内容

1 株式会社シナプスイノベーション

プロセス系生産管理システムやERP等を提供するシステムインテグレーター。営業活動の強化と、新製品開発などのプロジェクト管理の品質向上を目的にデータ利活用を行う。また、データサイエンティストの確保が課題となっており、社内にデータサイエンティストが育つまでは、データ分析の専門会社への外部委託を行っている。

2 DSP五協フード&ケミカル株式会社

食品素材事業、化粧品原料事業、医薬品原料事業、電子薬剤事業、コーティング材料・工業薬品事業の5つの事業を展開する。様々な営業・マーケティング活動を連動させて、データ活用を積極的に推進。オウンドメディア(自社保有メディア)を運営し、顧客や見込み客へのアプローチに活用するほか、業務効率化のためにファイル検索ソフトの導入等に取り組む。

3 田辺三菱製薬株式会社 医療政策部・イノベーション企画グループ

情報システム部門とは別に、ビジネスでAI、IoT活用を推進する部門を新設し、ビッグデータの解析やAIの活用を始めているほか、希望する社員にはスマートウォッチを支給して個人データを収集し、データ解析を行っている。

4 岩瀬コスファ株式会社 化粧品や機能性食品の原材料を取り扱う老舗商社。営業活動や社内業務の効率化にAIを活用するため、AI・IoT推進室を新設し、データ活用や将来のAI・IoT導入に向けた準備を開始。

5 日本ユニシス株式会社

過去のシステム開発のプロセスに関する膨大なデータを統計解析し、開発がスムーズに進捗する類型や、問題が生じやすい傾向を把握。新たに進めている開発のプロセスを、逐次、過去のスムーズな類型とマッチングさせて問題発生の予兆や原因をとらえ、事前に対策を講じている。あるいは、問題の発生しやすい傾向をもとに、開発時の留意ポイントを契約条件に反映させている。

6 有限会社ゑびや (株式会社EBILAB)

創業100年の歴史を誇る観光客向け食堂の老舗。データ活用・AI活用を進め、従業員1人あたりの売上高を6年間で約4倍にまで拡大させることに成功し、大幅な業績拡大を実現。また、同店で成果をあげたAIを活用したデータ解析ツールを、同業の飲食業者にクラウドサービスで提供するため、株式会社EBILABを設立。

7 A社 運輸業(※レポート非掲載)

表2 「データ利活用状況及び今後の取組みへの課題に関する調査」ヒアリング企業一覧

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2018年度実施事業からの報告

35

たく異なるため、新たに「攻めの IT部門」を設立す

るケースが多く見られた。あるいは、「守りの IT部門」

である既存の情報システム部門が引き続き、技術的な

サポートをしながら、データ活用を専門に行うマーケ

ティング部門を新設するケースも見られた。

⑤ ITを活用した「働き方改革」の着実な進展

 「働き方改革」については、2017年度の時点では一

部で、AIは将来、人の仕事を奪うのではないかとの

ネガティブな議論がなされていたが、今年度調査で

は、どの企業も ITおよびAIの活用をポジティブに

とらえ、「働き方改革」が着実に進んでいることがわ

かった。ここ2年ほどでAI活用に対する評価が大き

く転換したことになる。

⑥データ利活用を担う人材不足と様々な対応方法

 人材不足は毎年、ヒアリング先の多くの企業から聞

かれる。データを扱うデータサイエンティストに求め

られるスキルは、従来のシステムエンジニアと異なる

ため、新規に採用・育成することが必要となるが、ま

だ充足できていないという企業が大半を占める。

 その一方で、人材不足を課題に挙げながらも、中途

採用や人材育成など、様々な施策を実施し始めている

企業が多く見られた。AI・IoT・ビッグデータの活用

がバズワードの時代が過ぎて定着し始め、人材調達も

具体的に進みだしたものと思われる。

⑦支援機関に期待される成功事例等の情報提供

 顕著な特徴として、支援機関には多くの企業から他

社の成功事例・失敗事例の情報提供が求められている

ことが挙げられる。既存の情報システムと異なり、所

与の目的や期待される成果が明確でなく、あらかじめ

ゴールも手法も定まっていないことから、他社事例が

求められているものと思われる。

2.2 ビジネス創出支援機関等の活動に関する調査

 「ビジネス創出支援機関等の活動に関する調査」で

は、次年度以降に本格的に調査を実施するための基礎

調査として、関西地域に所在する「ビジネス創出支援

機関」256機関を抽出し、各機関の取り組みや活動上

の課題等についてアンケート調査を実施した。

対象:関西地域(2府5県)に所在する、新たなビジ

ネス創出支援やインキュベーション活動等に取り組む

256機関 ※いずれも検索エンジン等により抽出

送付日:2018年11月

回収期間:2018年11月~12月

回収数:54機関(回収率 20.7%)

 また、アンケート調査の回答内容等を踏まえて8機

関を選定し、ヒアリング調査を実施するとともに、関

西のビジネス創出支援機関の現状と課題について、調

査委員会委員である石川智久氏(株式会社日本総合研

究所 調査部 関西経済研究センター長)への意見聴

取を行った。(表3)

一連の調査から得られた知見の概略は、以下の7点に

整理される。

① 共通するキーワードの一つは「地域」

② 重要な役割を果たす「リアルな場所」での人的交流

③ 支援機関同士連携するための連携プラットフォー

ムの必要性

④ サポート体制を担う専門家やコーディネーターの

不足

⑤ 支援事業単独で運営するのは、採算面で厳しいこ

とが多い

⑥ 行政の補助金などが起業時に偏っている

⑦ 成功する起業家の特徴は「課題発見型」「謙虚さ」

「巻き込み力」

①共通するキーワードの一つは「地域」

 ビジネス創出支援機関が成果を上げ、事業を発展さ

せるためには、「地域」を意識した事業、また、「地域」

に根ざした事業であることが一つの要件となっている。

②重要な役割を果たす「リアルな場所」での人的交流

 大半の支援機関が、物理的な空間やハード機器の提

供以上に、人的交流の促進が本質的な支援であると位

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2018年度実施事業からの報告

36

置づけている。新たなビジネスやイノベーションは、

人的交流から生まれる偶発性(セレンディピティ)が

発端になると考えられているためである。

③支援機関同士連携するための連携プラットフォーム

の必要性

 さらに充実した支援を幅広く提供するために、他の

機関と連携しようとする動きが共通して見られた。特

定の支援を専門的に行なっている機関は、専門性を強

化しながら、他の支援機関と連携して役割分担するこ

とで、支援の幅の拡大、支援の質の向上を目指してい

た。 

 一方、総合的な支援メニューを備えた機関であって

も、さらに支援を充実するために、他の機関との連携

強化を進めていた。この動きを "制度化”するために、

連携のためのプラットフォームの構築が必要とされて

いるものと考えられる。

④サポート体制を担う専門家やコーディネーターの不

 支援機関に必要な人材として、経営面で起業家に伴

走する専門家と、相談を受けた際に相談内容と専門家

をマッチングさせるコーディネーターが求められてい

るが、複数の公的機関で、それぞれ人材不足の声が聞

かれた。

⑤支援事業単独で運営するのは、採算面で厳しいこと

が多い

 不動産事業等を主たる事業の一環として支援事業に

取り組む機関では、資金的には主たる事業に支えられ

て運営されており、単独事業では採算面の厳しさが伺

える。

⑥行政の補助金などが起業時に偏っているとの指摘

 行政の補助金やファンドによる資金支援は、起業の

タイミングでの支援は手厚いが、その前後が手薄で、

偏りがあるとの指摘が見られた。

⑦成功する起業家の特徴は「課題発見型」「謙虚さ」「巻

き込み力」

 成功する起業家のタイプは、下記のような共通タイ

プに整理することができる。

・机上でビジネスモデルの完成形を追求するのでは

なく、完成度が高くなくても行動を開始するタイ

・行動を起こしてからは、揺るぎない芯を持ちなが

らも、まわりの意見に謙虚に耳を傾け、大きく変

化していけるタイプ

・人を巻き込む力、人を惹きつける魅力があり、ま

わりから応援してもらえるタイプ

 また、支援機関から見たベンチャー起業家の課題と

して、大きな組織に属した経験のない人が多いため

に、大企業の文化や習慣になじまず、大企業とのコ

ミュニケーションや協業が円滑に進まないケースがあ

るという声が多く聞かれた。

 ベンチャー起業家が大企業の文化、習慣を学ぶこと

も必要であり、大企業側にもビジネスモデルだけに注

目するのではなく、ベンチャー起業家を理解しようと

する努力を求めたいとの声が伺えた。また、当然なが

ら、両者の「通訳」をして仲介することこそ、ビジネ

ス創出支援機関の大きな役割であるとの認識が確認で

きた。

3. 調査委員会での議論

 アンケート調査及びヒアリング調査と並行して、

e-Kansai レポート調査委員会の場等において委員から

の意見聴取を行った。データ利活用及びビジネス創出

支援プラットフォームに関する議論の一部を抜粋して

以下に掲載する。

原田主査(神戸大学大学院)の意見

・ 業務のオペレーションでデータ利活用を行うのは

当たり前になりつつある。オペレーションやロジ

スティクス、生産等で ITを使わないことは考え

られない。しかし、業務の改善、革新にデータを

利活用できているところは少ないのではないか。

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2018年度実施事業からの報告

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表3 「ビジネス創出支援機関等の活動に関する調査」ヒアリング機関一覧

No. ヒアリング先 事業内容

1 公益財団法人ふくい産業支援センターIT 系ビジネスの創業支援を専門に行う「創業・E ビジネス支援グループ」では、創業マネージャーのコンサルティングの他、セミナーや講義、ピッチなど起業者に総合的な支援を提供。専門人員の不足が課題となっており、これまでの創業事例をもとに課題を類型化し、データベース化を進めることで対応。

2 The DECK

コワーキングスペース、ファブスペース、貸し会議室を備え、コミュニケーションとモノづくりが連動する場となっている。また、スタートアップ企業のためのレンタルオフィスもあり、起業や法人設立の相談にも応じている。

3 阪急阪神不動産株式会社 開発事業本部 都市マネジメント事業部 梅田事業創造グループ GVH#5

スタートアップ段階の起業家を対象としたコワーキングスペースを運営。ネットワークを活かしたビジネスサポートや出会いの場づくりなど、会員への支援環境を提供。

4 株式会社Darma Tech Labs (Makers Boot Camp)

ハードウェアスタートアップが「量産化の壁」を乗り越えるのを支援するために設立。ハードウェアスタートアップにおける量産化試作とそれに必要な資金調達の支援に加え、試作コンサルティングやコワーキングスペース「KYOTOMAKERS GARAGE」を開設。

5 株式会社Kaeru (オオサカンスペース)

関西におけるコワーキングスペースの老舗。スペースを貸して利用料を徴収するという収益モデルだが、コワーキングのための環境づくり、コミュニティづくりを目的として運営し、同業態では珍しく、順調に黒字経営を継続。会員同士の交流やコミュニティの活性化に重点を置いており、会員同士の協業率が高く、スペース内で新しいビジネスの創出も行われている。

6 近畿大学アカデミックシアター

5棟の建物から構成される施設で、図書スペースや領域横断型プロジェクトの活動空間等を備えている、オープンイノベーションの拠点である。イノベーションは偶発性から生まれることも多いため、明確なテーマや目的のない「玉石混淆」の様々な相談や課題を受け入れている。

7 独立行政法人中小企業基盤整備機構 近畿本部

起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、成長ステージに合わせて幅広く中小企業を支援する、国の中小企業政策の中核的な実施機関。起業・創業支援として、インキュベーション施設の賃貸やインキュベーションマネージャーによる創業サポート、ビジネスマッチングなどを実施。

8 公益財団法人ソフトピアジャパン

IT・IoT人材の育成や企業のIT・IoT化支援等を行う。企業への普及啓発を目的としたセミナーの開催や、企業毎に異なるニーズに対応するための個別相談対応・専門家派遣等の支援を提供。

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2018年度実施事業からの報告

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・ データ利活用やビジネス創出を進展させるには、

課題発見型(Discover-Driven)人材が求められ

る。一方、大企業では緻密さやプランニング力が

重視され、このような人材は社内での評価が得ら

れていないことが多い。

・ データ利活用を会社のアウトプットに変えるため

には、トップダウンがポイントの一つとなる。

布施副主査(近畿大学)の意見

・ データ利活用で結果が出ない原因は、ターゲティ

ングができていないため。

・ データ利活用を行っている企業、行っていない企

業とも、データ分析人材の不足をデータ利活用の

阻害要因として挙げている。つまり、データ分析

人材が社内に存在するからと言ってデータ分析を

行っているわけではない。

松崎委員(神戸市)の意見

・ データ利活用を進めるに当たり、支援機関には人

材育成や成功事例の輩出、データの整備が求めら

れている。

・ 神戸市と、姉妹都市のバルセロナ市では、オープ

ンデータの利用状況の観点から非常に大きな活用

差が生じている。行政は課題設定、シナリオ分析

を行い、企業や研究機関から見てマーケタブルな

データを公開しているためである。

坂下委員(JIPDEC)の意見

・ 人間の歴史は、古代から処理と概念とデータから

語ることができる。企業では処理、データ、概念

を戦略、戦術、作戦の中でどう組み立てているの

か。

石川委員(日本総合研究所)の意見

・ 関西の各都市において、ベンチャー企業やイノ

ベーション創出のプラットフォームが充実しつつ

ある。しかし、独立して運営されており、横串が

通せていない。緩やかな連携が求められており、

情報連携だけでも取り組めないか。

奈良橋委員(住友電気工業)の意見

・ データ利活用は次世代の必須課題であり、課題を

解決できていなくても、来るべき時代に備えて何

をしないといけないのかを考えていることに価値

がある。

3. 結論、今後の調査の方向性

 アンケート調査、ヒアリング調査及び調査委員会で

の議論を経て、今後、イノベーションを生み出すプ

ラットフォームのあるべき姿や機能を見出し、将来的

な提言へと繋げていく中で、今年度の調査結果を以下

に整理する。

 企業におけるデータ利活用状況は、昨年度調査より

も進展している。最近では、業務のオペレーションや

ロジスティクス、生産管理等で ITを活用しないこと

は考えられず、データ利活用でも成果を出している企

業は多い。しかしながら、業務の改善や革新にまで活

かすことができている企業は少数である。業務の改善

や革新でデータ利活用を進展させるには、課題発見型

人材、すなわち「走りながら考えることができる」人

材が求められる。一般に、大企業では緻密さ、プラン

ニング力が評価されることが多く、実験重視でネット

ワーキング力に強みを持つ課題発見型人材は社内での

評価を得られていない場合が多いとされる。データ利

活用を進展させるにあたって、大企業では育成が難し

い課題発見型人材を獲得し、育成するにはどうすれば

良いのだろうか。

 今回、調査対象としたビジネス創出支援機関は単な

る支援の場に限らず、起業家など、意欲の高い課題発

見型人材が集積する機能も有している。データ利活用

を推進したい大企業の社内人員に支援機関の活用を促

し、交流等を通して課題発見型人材に必要とされるマ

インドセットや考え方を習得させることで、これらの

人材の育成を実現できるのではないだろうか。

 一方、データ利活用人材の育成に貢献しうるビジネ

ス創出支援機関は、以下のような課題も抱えているこ

とが明らかとなっている。

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2018年度実施事業からの報告

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①運営資金面での課題

 ビジネス創出支援機関には様々な業態が存在する

が、ビジネス創出支援事業単独で採算をとることが難

しいとの声が、ヒアリング調査で多く聞かれた。アン

ケート調査においても、自主財源で運営している機関

は半数に過ぎない結果となっている。また、活動上の

課題として資金不足を挙げる機関が約6割に達してい

る。

②支援人材面での課題

 ビジネス創出支援機関では、活動資金不足に次ぐ課

題として、コーディネーター等の専門人材の不足が挙

げられている。

③行政機関の支援の在り方に関する課題

 関西の公的支援機関では様々なビジネス創出支援施

策が実施されているが、行政区域を跨いでの広域で

の連携が実現できていない。このことは経済のグロー

バル化が進展し、都市間競争が激化する中、競争を勝

ち抜く際の障害となり得る。関西における各都市の支

援機関同士が連携し、各支援機関が得意とする分野や

ネットワークを活かした施策を打ち立て、連携先も互

いに参画し合うことで、効率化と支援可能領域の拡大

を図ることができ、前述した人員や資金の不足に対す

る一つの解となり得るように思われる。

 また、官民が協力してスタートアップ支援の取り組

みを進める際には、官に対して、場所・資金等の取り

組みが期待されていることが明らかとなっている。

 関西の各都市において、ベンチャー・スタートアッ

プ企業支援やイノベーション創出のプラットフォー

ムが充実してきており、着実に成果を挙げつつある。

しかしながら、それぞれのプラットフォームは基本的

に独立して運営されている。それぞれが独立に運営さ

れると、活動資金や専門人材の不足等により、取り組

みの限界点に達するため、継続的な支援体制を敷くた

めにもプラットフォーム同士が有機的につながること

が望ましい。実際、他の支援機関や商工会議所、地域

の起業家や経営者、府県内企業をつなぐ連携プラット

フォームを形成することで、支援を強化しようとする

動きも見られている。

 上記を踏まえると、ビジネス創出支援支援機関に横

串を通す、新たなプラットフォームを形成する必要性

が認められる。(図5)前述した「行政区域の壁」のよ

うに、支援機関のプラットフォームの実現には様々な

壁に直面することが想像される。しかし、まずは支援

機関間の情報連携のような、緩やかな結びつきから開

始することが望ましく思われる。

 今年度調査では、ビジネス創出支援支援機関に横串

を通す、新たなプラットフォーム /エコシステムを形

成する必要性が明らかとなった。次年度以降の調査で

図5 新たな支援機関プラットフォームのイメージ

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2018年度実施事業からの報告

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は、このプラットフォームに求められる、具体的な機

能や施策等についての掘り下げを行っていきたい。 

 

 2025年大阪・関西万博の開催が決定し、新たなイノ

ベーションの創出への期待が高まる中、本報告書の成

果が関西地域の企業・自治体のイノベーション創出、

情報化施策推進に少しでも貢献できれば幸いである。

業務経歴

梶谷 良徳(事業推進グループ 研究員)・「e-Kansai レポート」担当(2018~)

・「サイバーセキュリティ研究会」担当(2018~)

・「VR・AR等の先進的コンテンツを活用した取組実

態及び知的財産権活用に関する調査」担当(2019~)

・「令和元年度 地域中核企業ローカルイノベーショ

ン支援事業」(関西 IoT イノベーション創出支援事業)

担当(2019~)

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2018年度実施事業からの報告

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1.経緯

 当財団では東日本大震災を受け、2012年頃から災

害への対応を研究テーマの一部として活動を行ってお

り、シンポジウムやセミナー等を開催してきた。

 各企業の災害にともなうニーズを詳細に把握するた

めに、2018年度から当財団の賛助会員である企業に

災害時の情報ニーズや自社での通信手段などについて

ヒアリング調査を行った。そのうえでヒアリング先企

業と、災害時の情報供給に関係する行政機関を対象と

した「災害情報共有研究会」を組織した。ヒアリング

先は下記の通り。近鉄、関西電力、阪急、大阪ガス、

JR西日本、NTT西日本、損保ジャパン、竹中工務店

(実施順、企業名は略称)。

2.災害情報共有システムとは

 ヒアリングを通して、企業は災害時には下記の情報

ニーズを有していることがわかった。

①大枠での被災状況を早く知りたいが、広範囲の被

災では情報収集に時間がかかる

②自社の監視システムによる状況把握に加えて被災

現場を現地で確認したい

③被災状況の確認には、写真が最適

 こうしたニーズをふまえて、企業各社では下記の取

り組みを行っている。

・行政からの情報提供を待つだけでなく、企業間で

協定を結ぶなど、積極的な情報収集を行う(例え

ば電力・通信事業者は、復旧早期化をめざし情報

共有の協定を結んでいる)

・道路の被災状況を早期に確認し、自社施設の健全

性を現地で確認したうえで必要な復旧を行う(自

社の監視システムでの被災状況確認に加えて、社

員による現地確認が必要と考える企業は多く、被

災地へのアクセスの確認が重視されている)

・ドローンやヘリを活用した自社設備調査を試行す

る(大規模な設備を有するインフラ系企業など

で、ドローン活用の動きが盛んである)

 上記をふまえて、当財団として主として企業間で被

災地域情報を共有し、各社の事業活動の早期復旧を促

平山 健次郎(新事業開発グループ マネジャー)

「災害情報共有システムについて」

 当財団では近い将来発生が見込まれる「南海トラフ巨大地震」等を見据え、発災直後に共通に必要と

される情報を企業間で共有化し社会インフラを含む事業活動の早期復旧に役立つ、低コストで効果的な

「災害情報共有システム」の構築をめざし調査・研究を進めている。

 本報告では、当財団が取り組んでいる「災害情報共有研究会」での議論の内容と、今後の「災害情報

共有システム」事業化に向けた論点をご紹介する。

図1 災害情報共有システムのサービス概要案

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2018年度実施事業からの報告

42

進する「災害情報共有システム」の検討を行うことに

なった。

 本研究会で検討する災害情報共有システムとは、発

災直後に共通に必要とされる被害状況を収集して企業

などの組織間で情報共有を行うシステムであり、特に

被災地へのアクセス道路の健全性などの情報を空撮し

て地図上に張り合わせた形での提供をめざすものであ

る。

3.「災害情報共有研究会」の議論のご紹介

 以上をふまえて「災害情報共有研究会」を組織した。

現在までに開催した研究会の内容を以下に紹介する。

【第1回研究会(3月11日開催)】

 当研究会座長である畑山満則 京都大学防災研究所

教授から、GIS(地理情報システム)を用いた災害対

応の有用性についての紹介があった。地図上に情報を

表現することは、テキストデータなどに比して視認

性・わかりやすさの面で格段に優れる。また空間分析

による計画づくりなどに応用しやすく、災害時の避難

シミュレーションなどに適する。さらにはドローンな

どによって撮影された被害状況を地図上で表すことが

できれば、家屋の損傷などの情報が面的に把握できる。

 また近畿総合通信局から防災・減災のための ICT

を活用した取組事例が紹介された。市町村からの発信

情報を多様なメディアに一斉配信するLアラートは

効率的に住民に避難指示や避難勧告などの災害関連情

報を伝える手段として活用され、今後は地図情報の配

信が検討されている。

【特別回研究会(4月17日開催)】

 国全体での災害情報の認識を統一して的確な対応を

行うべく府省庁間で横断的な情報共有をはかるシステ

ム開発を進める防災科学技術研究所から、基盤的防災

情報流通ネットワークSIP4Dの説明を受けた。

 SIP4Dは情報提供側と利活用側の間での仲介役を

果たし、すべての災害対応の現場に標準化された災害

情報を流すことを目的としている。内閣府は防災科学

技術研究所とともに災害時情報集約支援チーム ISUT

を組織して、災害現場で多様な情報(道路健全性、避

難所、断水・給水、入浴支援箇所、等)を集約して地

図情報に落とし込んでSIP4Dに集約し、関係機関に

配信している。2019年度からSIP4Dは本格運用が始

まっており、災害情報の範囲拡大や情報のさらなる活

用が目指されている。

【第2回研究会(7月23日開催)】

 下記の二つのテーマを企画した。

・空中写真の災害利用(ドローン空撮写真の共有シ

ステム事例紹介)

・道路の防災施策とインフラ企業への影響

 前者はドローン空撮を行う企業が増えるなか、災害

時の情報収集に特化して自治体とともに、斜め方向か

らの撮影で建物の損壊状況を明確化し、地理情報シス

テムへの連携と災害対策本部での活用をめざす事例紹

介である。

 後者は、道路の災害対応に関する政策が相次いで検

討、実施されており、一部の重要道路での電柱撤去な

どが行われる方向であり、電力や通信などのインフラ

企業への影響が予想され、今後検討する災害情報共有

システムと密接に関わる。

4.災害情報共有の事業化に向けて

 企業各社は災害情報ニーズを満たす取り組みを補完

するものとして災害情報共有の事業化を提案するうえ

では、下記のような条件を満たすのが必要と考えられ

る。

①迅速に提供されること(復旧対策の早期検討に資

するため) 

②なるべく広範囲の情報であること(大括りでの状

況把握が第一に求められているため)

③画像情報であること

④行政と連携して情報を得ること 

⑤発災時における情報受発信のオペレーションが少

なくてすむこと

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2018年度実施事業からの報告

43

 今後、本年度中にあと4回の研究会開催を通して各

分野の専門家の最新の知見を得ながら、災害情報共有

システムの構築、運用に関する議論を行っていく。

図2 災害情報共有システムのイメージ案

業務経歴

平山 健次郎(新事業開発グループ マネジャー)2018年度に当財団に着任し、

・災害情報共有研究会

・防災の標準化に関する調査 などを担当。

前勤務先である地球環境関西フォーラム(2018年解

散)では、

・関西における持続可能なまちづくり

・環境面に配慮したアジアの成長への関西の関わり

・社会教育施設での環境教育促進

などについて、研究会事務局や提言作成に携わった。

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2018年度実施事業からの報告

44

1.現在の地区防災計画

 わが国におけるこれまでの防災計画は、国レベルの

総合的かつ長期的な計画である防災基本計画と、地方

レベルの都道府県及び市町村の地域防災計画を定めて

きた。しかし、阪神淡路大震災(1995)や東日本大

震災(2011)において、公助の限界が明らかになり、

自助、共助及び公助が連携することによって大規模広

域災害後の災害対策が効果的に機能することが強く認

識された。

 その教訓を踏まえて、平成25年(2013)の災害対

策基本法では、自助及び共助に関する規定がいくつか

追加された。その際、地域コミュニティにおける共助

による防災活動の推進の観点から、市町村内の一定の

地区の居住者及び事業者(地区居住者等)が行う自発

的な防災活動に関する地区防災計画制度が新たに創設

された(平成26年4月1日施行)。

2.地区防災計画の取り組み事例

 滋賀県草津市では、地域コミュニティ活動が活発化

する中で、近年みられた熊本地震、九州北部豪雨など

により住民の防災意識が高まり、草津市の各地区にお

いて住民の防災力の向上のために地区の防災マップづ

くりや防災学習・防災訓練の実施など取り組みが進め

られるようになった。

 これらを踏まえ、平成30年度(2018)より草津市

笠縫東学区(地域コミュニティ)において、それぞれ

の町内会の特性を踏まえた自主的な防災活動を促進す

ることを目的として地区防災計画を策定することに

なった。

 草津市笠縫東学区における地区防災計画策定の進め

方として、学区内の各町内会長をメンバーとする地区

防災計画策定委員会(以下、「委員会」)を発足させ地

域の災害発生時における課題について検討した。

 その課題は下記の通りである。

・防災意識が低い

・発災時の初動が不明確

・安否確認をどうするか

・要配慮者の支援が不明確

 上記に挙げた課題を解決するため委員会で検討を

行った結果、大規模災害時、草津市笠縫東学区災害対

策本部(以下、「対策本部」)を設置(組織)して学区

内の各町内会の被害状況、避難所の避難状況を本部に

集約し①対応方針を調整・決定すること、②学区内に

ある応援の資源(ひと、モノ、情報)を上手く融通す

坊農 豊彦(新事業開発グループ リーダー・主任研究員)

「地域コミュニティが行う地区防災計画のすすめ」

 地域防災力の向上を目指す地区防災計画は、市町村内の一定の地区の居住者及び事業者(地区居住者

等)が主体となって、地域の特性に応じた計画を作成するとともに、計画に基づく防災活動を実践し、

継続していくことによって、効果的に地域全体の防災力向上を目指すものである。

 当財団は、この地区防災計画に創生期からかかわりを持ち、地域における防災・減災力向上のための

地区防災計画策定支援を行っている。本編では地域コミュニティが取り組んでいる地区防災計画策定事

例を紹介し、ICTを取り入れた有効な地区防災計画を説明する。

 図1 地区防災計画と地域防災計画の関係図

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2018年度実施事業からの報告

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ること、③草津市と被害情報の共有・調整を行うこと

とした。このように本学区内にある資源(ひと、モノ、

情報)を上手く融通するための組織体制を編成するこ

とから進め、平成31年3月に地区防災計画書としてま

とめた。

3.地域における災害情報共有

災害時における迅速な情報共有は、地域コミュニ

ティの減災に重要な役割を果たすことになる。地区防

災計画でも災害時における被害情報、避難所への避難

誘導、安否確認等の情報収集・把握が大変重要である。

平成28年に当財団では、災害時にインターネット、電

話回線や携帯電話回線等が途絶した場合を想定して、

NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)が開発

したワイヤレスメッシュネットワーク(NerveNet)

と NTTアドバンステクノロジ㈱が開発した ICTユ

ニット(専用ケース型ポータブル IP-PBX)を用いた

災害時コミュニケーションツールの実証実験を鳴門市

で行い有効性を検証した。

 図3は災害時の通話ツールの活用例を示したもので

ある。各拠点に「NerveNet」+「ICTユニット」を

組み合わせたノード局を開設して拠点間を繋ぎ、一定

の範囲でPC・スマホなどにより画像やテキストなど

のデータ通信が可能(※音声も可)としている。また

「NerveNet」+「ICTユニット」に衛星電話を接続

することによりインターネット、電話回線や携帯電話

回線等が途絶していても外部との通信が可能としてい

る。

 図3に示したNerveNet 等のツール類を活用するこ

とで、災害時でも地域コミュニティで情報共有をする

ための情報共有手段を得ることが出来る。

当財団では、これまで培ってきた ICTスキルと地区

防災計画策定のノウハウを駆使し、地区防災計画の策

定を展開していくものである。

図2  草津市笠縫東学区 地区防災計画書

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2018年度実施事業からの報告

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参考文献・西澤 雅道、筒井 智士『地区防災計画制度入門―内閣府「地区防災計画ガイドライン」の解説とQ&A―』2014年10月、NTT出版

・内閣府「みんなでつくる地区防災計画」http://www.bousai.go.jp/kyoiku/chikubousai/、2019年7月

・田中行男『地区防災計画における ICTの役割について―自助・共助のための災害情報共有システムの実現モデルの検討―』

2016年1月、地区防災計画学会梗概集誌 第1号業務経歴

坊農 豊彦(新事業開発グループ リーダー・主任研究員)・公共向けASP施設予約システム業務等(2006~)

・地域における自発的な防災活動に関するガイドラ

 イン案作成等の業務(2013)

・地区防災計画の全国展開に関する調査業(2014~

 2016)

・草津市地区防災計画策定支援業務(2016~)

・自然災害時における中小企業の事業継続に関する

 調査事業 (2017)

・防災の標準化に関する調査業務(2018~2019)

図3 災害時コミュニケーションツールの活用例

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