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阪神・淡路大震災からの教訓と、兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科での教育研究について
兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科
教授 青田良介1
2018年1月16日「防災塾・だるま」との意見交換会
お話の内容
1.阪神・淡路大震災からの教訓
• 震災から23年が経過し、数多くの教訓が得られましたが、今回は当
大学院の特色であるガバナンスの視点で、説明させていただきます
(中身は自論で恐縮です)。
2.兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科の説明
• 阪神・淡路大震災をはじめとする教訓を後世に継承すべく、どのよ
うな人災育成に取り組むのかをご説明します。
2
阪神・淡路大震災を振り返って(意義を考える)
1.この震災を機に、社会全体で災害に対する緊張感が変わった。
• 1959年の伊勢湾台風被害以来の巨大災害で、水害はある程度克服した、ましてや、関西に地震は来ないといった過信があった。
• 世界的にも稀な都市直下型災害として、その恐ろしさを世に知らしめた。
• その後も地震災害が続き、東日本大震災の発生により、今後の巨大災害がより現実的なものとして捉えられるようになった。
2.災害への備え、応急対応、復旧、復興等に対する基本的な姿勢や方策等が形成された。
• 行政の災害対策を検討する上での出発点となった。
• NPO/NGO、コミュニティレベル等でも、普段からの備えや被災地支援が活発に行われるようになった。 3
阪神・淡路大震災を振り返る3.社会が潜在的に抱えていた問題が表面化した。
• 孤独な高齢者や希薄なコミュニティ等が問題となった。
• 災害対応の領域を超えた社会のあらゆる部門で課題が噴出し、長期化、複雑化した。
• 元に戻す復旧を超えた創造的復興に取り組んだ。
4.サードセクターが台頭した。
• 行政が鳥瞰的に課題を捉え対策を講じるのに対し、個々の被災者に向き合う、寄り添う支援が注目された。
• 避難所や仮設住宅での支援に止まらず、復興期にも及んだ。
• 福祉、保健、生業、まちづくり、他の被災地への支援、社会への提言へと拡がっていった。
• 「自助」「共助」「公助」の考え方が形成されていった。
5.被災地兵庫では災害文化が醸成された。
• 防災活動に対する理解が得られやすい(例:当大学院の開設)。
• 災害が発生すると支援するのが当たり前のことと捉えられる(例:2015年ネパール支援「チームひょうご」の結成)。 4
阪神・淡路大震災 -復興10年総括検証・提言報告の全体像-
(復興体制・計画・推進・資金)
(医療看護福祉・こころのケア・被災者・コミュニティ・住まい・ユニバーサルデザイン)
(参画と協働・学校防災・文化活動・男女協働・青少年・国際交流)
(中小企業・ツーリズム・新産業・企業立地・雇用・食料・都市農村交流)
(自治体防災力・広域体制・人材育成・コミュニティ・耐震化・国際協力)
(市街地整備・新都市核・景観・自然環境・循環社会インフラ)
総 括
健康福祉
社会・文化
産業雇用
防 災
まちづくり
安全・安心
まちづくり
共生社会の
実現
地方主体の
復興と分権
参画と協働
の推進
危機管理体
制の構築
応急救助、生
活・住宅再建
災害弱者へ
の対応
地域の活力と
にぎわい
文化や街並
み・景観
地域間の連
携・交流
国際防災協
力 震災の経験と
継承・発信
【阪神・淡路大震災「復興10年総括検証・提言報告】・ 阪神・淡路大震災復興10年の取り組みを兵庫県が検証・ 縦軸:「総括」「健康福祉」「社会・文化」「産業雇用」「防災」「まちづくり」の6分野54テーマ・横軸:12の基調提言
阪神・淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)(自助・共助・公助による協働、「復興10年総括検証・提言報告」を下に分析)
阪神・淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)提言基調 自助・共助の役割 公助の役割
1. 安全・安心なまちづくり① 災害に強いまちづくりに向けた基盤整備② コミュニティの育成と「防災協働社会」
の構築③ ハード・ソフト両面にわたる「安全・安
心なまちづくり」の総合的推進
• 企業によるハード整備• コミュニティの育成• 高齢者・障がい者に配慮したソフト面での先導的取組み(例:コレクティブハウジング)
• インフラ、公営、住宅、公共施設等ハード面での整備
• 企業・地域団体・NGO / NPO等との連携
2. 「共生」社会の実現① コミュニティや地域団体等の再評価・活
性化② 様々な主体が支え合い、ともに生きる社
会づくり③ 持続可能な「共生」社会の実現
• コミュニティの役割を重視した復旧・復興
• NPO/NGO等共助の仕組み• ソフト面でのノーマライゼーション、ユニバーサルデザイン
• 自助や共助による活動を制度面や財政面で後方支援
• ハード面でのノーマライゼーション、ユニバーサルデザイン
3. 地方主体の復興と地方分権の推進① 地方主体の復興とその課題② 「地方主体の復興」を支える制度的・財
政的保障③ 自律的・独創的な地域づくりに向けた、
地方主体の復興と地方分権の推進
• アウトリーチによる被災者のニーズ把握、県事業へのフィードバック
• 復興基金を使った共助の推進
• 主に行政の領域(「公助」中心)
提言基調 自助・共助の役割 公助の役割
4.参画と協働の推進① 自律的市民社会を支える仕組みの萌芽② 「新しい公」と参画と協働の地域づくり③ 県民と県民、県民と行政のパートナーシップ
による参画と協働
• 被災者に対する直接的な支援活動
• 自律的な市民社会を支えるための場作りや人材の提供
• 参画と協働の活動
• 自律的な市民社会を支えるための場作りや人材の提供
• ボランティア、NPO/NGO、地域団体等による支援活動を支援
• 参画と協働を促す条例構築• 参画と協働の活動
5.実践的な危機管理体制の構築① 震災教訓とした危機管理体制の構築② 実戦的かつ広域的な危機管理体制の構築③ 真に実効性ある危機管理体制に向けた取組の
推進
• NPO やボランティアによる災害支援
• 防災施設・防災体制の整備、防災関係機関間の連携・調整
• NPO やボランティアを支援する枠組み
6.応急救助や生活・住宅再建支援の仕組みの充実
① 震災を契機にした新たな生活・住宅再建支援の仕組みづくり
② 大規模災害に備えた「自助」「共助」「公助」の仕組みの充実
③ 成熟社会における応急救助や生活・住宅再建支援の仕組みの構築
• 生活再建支援(ソフト)• まちづくり専門家の活躍
• 貸付制度の充実• 兵庫県住宅再建共済制度(フェニックス共済)の創設
阪神・淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)
提言基調 自助・共助の役割 公助の役割
7.高齢者等の「災害弱者」への対応① 災害弱者へのきめ細やかな対応や新たな
取り組みの展開② 震災を契機にした先導的な取り組みの充
実③ 高齢者等生きがいを持って暮らせる新た
な仕組みの構築
• 仮設住宅や災害公営復興住宅等での高齢者、障がい者等へのきめ細やかな取り組みを開拓し先導的に実施
• 「共助」による先導的な新たな取り組みを仕組みとして整備する
8.地域の活力とにぎわいづくり① 震災を契機とした新たな取り組みの展開② 産業復興の仕組みづくりと産業構造改革③ 地域の個性や資源を生かした地域づくり
• 商店街等地域のにぎわいの場づくり
• 産業開発や観光開発のための体制づくり
• 条例や組織等の整備• 資金面で支援する制度• 産業開発や観光開発のための体制づくり
9.文化や街並み・景観を生かした個性豊かなまちづくり① 震災からの文化や街並み等の再生② 震災の教訓を生かした取り組みの発展③ 文化や街並み・景観を生かした個性豊か
なまちづくりの推進
• 地域や被災者、専門家が一体となった個性豊かなまちづくり
• 文化施設の整備(例:兵庫県立芸術文化センター)
• まちなみ景観にかかる助成金
阪神・淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)
提言基調 自助・共助の役割 公助の役割
10. 地域間の連携・交流① 全国的な連携・ネットワークの広がり、被災
地の支援ネットワークの展開② 危機管理の視点にも立った連携・交流の仕組
みの定着③ 地域間の連携・交流の着実な推進
• ボランティアのコーディネート
• 従来からの行政同士による地域連携
11. 国際防災協力の推進① 国際的な防災協力・連携の広がり② 震災の教訓を踏まえた防災協力の仕組みづく
り③ 国際社会が連携した国際防災協力の推進
• 海外の被災地支援• 防災協力研修への協力
• 海外の被災地支援• 国際防災協力機関の誘致
• 国際防災協力研修への協力
12. 震災の経験と教訓の継承・発信① 「災害文化」の醸成② 震災の経験と教訓の活用③ 「1月17日は忘れない」ための取組の継続
• 災害文化の醸成や風化を防ぐ取り組み
• 検証作業
• 災害文化の醸成や風化を防ぐ取り組み
• 防災展示施設(人と防災未来センター)
• 検証作業
阪神・淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)
阪神淡路大震災からの教訓に学ぶ(復旧・復興)
10年検証の考察:
「自助」「共助」「公助」による役割分担
1. 制度等の仕組みやハード面の整備は、「公助」
の役割が多い。
2. 高齢者支援やまちづくりなど被災者に身近なソ
フト面での取り組みは、「共助」が先導的な役
割を果たした。それを「公助」で制度的に位置
づけたり、資金的に支援したりした。
3. 「自助」や「共助」が関与しない分野はないし、
反対に「公助」による支援なしで「自助」や
「共助」の取り組みを持続させるのは難しい。
4. 「共生社会」や「参画と協働」のもと、「公
助」による枠組みを使って「自助」「共助」を
後方支援する形で三者の連携を強化する姿勢が
見られる。
「ガバメント」から「ガバナンス」へ
1. 阪神・淡路大震災以後の教訓として、一人行政だけで災害に対応する、災害に強い社会を構築するのは困難なことが明らかになった。
2. 多様な「主体」とその関わりに着目し、協働して災害に強い社会を構築する「ガバナンス」が必要である。
3. 主体:政府、自治体、企業、NPO、大学、コミュニティ、ボランティア等社会を構成する様々なアクターを指す。
4. それぞれが有するニーズや資源を共有し、相乗効果を発揮できるよう、連携、協働することが必要である(=「協治」の考え方)。協治は自律と協働の上に成り立つ。
被災者支援にかかる官民協働の考え方
11官民の役割分担と協働の考え方
ハードの整備
ソフトの整備
制度構築
一 人 ひと り への対応
「民」のアプローチ
「官」のアプローチ
官民連携
1.「官」が優先せざるを得ないのは、制度の構築や最大公約数的な支援(=マクロの支援)。
2.公益に資するハードの整備も「官」の仕事。
3.「民」は目の前にいる一人ひとりの被災者を助けるところから支援が始まる(=ミクロの支援)。
4.「民」の支援は被災者のプライバシーに立ち入ることもある(私有財産・営利活動)。
5.両者のクロスするところに、「官民連携」「中間支援」が生まれる。
6.官民協働を推進する協治のガバナンスが必要である。
被災地主導による減災復興研究(自身の研究)
「①被災者」と「②被災地」に見合った復興
国、地域、文化によって復興は異なる(画一的な手法には限界がある)
② 地方自治体の裁量で実施する復興① 自助・共助・公助が連携した復興
① 中間支援組織 ② 復興基金
着目
【背景】
公的活動
Public-public官による公的活動
=公助
Private-public
民間による公的活動=共助、新しい公共
国
地方
12+
13
ガバナンスと政府/自治体の責務
市民
政府/
自治体
NPO/
NGO
企業
ボランティア
被災者
専門家
中間支援組織
(官民連携)
「ガバメント」から「ガバナンス」へ
政府/自治体の責務
市民
NPO/NGO 専門家
ボランティア 企業
被災者
政府/
自治体
減災復興政策研究科設置の趣旨
1.背景
(1)阪神・淡路大震災をはじめとする過去の災害からの教訓を発信する。
① 震災では、現代社会が潜在的に抱える課題を浮き彫りにした。
・道路・鉄道等のインフラ
・工場・商業施設等のハード施設
・希薄になったコミュニティ
・取り残される高齢者等社会的弱者
② 災害直後に囚われない長期に渡る復興を経験した。
・1か月、1年、5年、10年、20年というスパンで対策を講じてきた。
・復興の対象は、狭義の防災にとどまらず、住宅、産業、インフラ、教育、文化、医療、福祉等様々な分野に及んだ。
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減災復興政策研究科設置の趣旨
(2)災害に強い社会をつくる人材を育成する必要がある。
① 教訓を学問的に体系化し、教育研究面で社会に貢献する。
② 「行政」だけでない、「企業」「大学」「NPO」「コミュニティ」「ボランティア」等様々な担い手(=以下「主体」という)を育成する。➡ガバナンス(協治)の考え方
③ 過去の災害からの教訓や経験を踏まえ、より実践的な学問的知見を備えた人材を育成する。
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減災復興政策研究科設置の趣旨2.特色
(1)「減災」と「復興」を一体化させる。
① 災害を防ぐというよりは、可能な限り被害を軽減する「減災」の考え方を重視する。
② 阪神・淡路大震災の「復興」の過程から「減災」が生まれた。両者は表裏一体の関係にある。
(2)減災復興政策を教育研究の対象とする。
① 政府・自治体が行う公共政策
② 企業が取り組むBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)、経営戦略
③ NPO、学校、コミュニティが取り組む行動計画
④ 被災地の復興に向けた実践的な活動 16
減災復興政策研究科設置の趣旨
(3)人文、社会科学を中心にした分野に重点を置く。
① 「行政学」「経済学」「都市計画学」「建築学」「社会学」「心理学」「教育
学」「情報学」「法学」「看護学」「福祉学」等を横断的に組み合わせる。
② 専門的知識と実践的対応の双方を修得する。
③ 「減災復興に関する施策の立案や実施」、「危機管理の実践」、「防災教育」、
「多様な主体間のコーディネート」等で貢献する人材を育成する。
(4)社会人教育も行う。
① 自治体職員、小中高教員、企業関係者等を対象に高度な教育を提供する。
② 職場復帰後は、即戦力として災害に強い社会づくりに貢献していただく。17
教育上の理念・目的
1.災害に強い社会をつくるためのリーダーを育成する。
(1)「公助」だけでなく、「自助」「共助」にも留意する。
(2)それぞれの「主体」において中核となる人材を養成する。
①地方自治体:減災復興に関する多様な知識や経験を備えた人材
②企業:事業継続や被災地貢献に精通した人材
③コミュニティ、NPO、ボランティア:地域の防災力向上に貢献する人材
④学校:災害時の対応、教育の再開、被災地支援に精通した人材
(3)多様な「主体」間の連携、補完、協力が円滑に行えるようコーディネートする人材
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教育上の理念・目的
2.教育を展開する柱となる領域
(1)人文、社会科学に重点を置く
(2)ハード面だけでない、ソフト面での対策の重要性を認識する。
(例)組織や人の行動、災害時の制度・対策、防災訓練・教育
(3)コンセプト:
「リスクを正しく認識」し、
→「それに対処する人間や組織のあり方を考察」し、
→「多様な主体が協働」することにより、
→「災害に強い社会が実現」する。
教育を展開する柱となる4つの領域
減災復興ガバナンス領域
「主体」や「関わり」に着目
減災復興コミュニケーション領域「人間」に着目
減災復興アセスメント領域
「リスク」に着目
減災復興
マネジメント領域
「組織」に着目
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教育方法:カリキュラム体系
修士(学術)の学位取得
特別演習Ⅰ・2単位(必修)
専門科目 4科目・8単位(選択必修)、3科目・6単位(選択)
減災復興アセスメント:(例)自然災害史論、生活環境アセスメント論、防災情報・地理空間情報論
減災復興コミュニケーション:(例) 社会心理学論、防災教育と心のケア論、避難生活支援論
減災復興マネジメント:(例) 災害対応マネジメント論、減災復興都市計画論、地域産業復興政策論
減災復興ガバナンス:(例)国家防災戦略論、自治体防災行政論、被災者支援政策論
特別研究Ⅰ4単位
(必修)
学位論文審査
特別演習Ⅱ・2単位(必修)
特別研究Ⅱ4単位
(必修)
基礎科目 4科目・6単位(必修)
減災復興政策特論Ⅰ・Ⅱ減災復興フィールドワークⅠ・Ⅱ
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学部の防災教育で補完も可能
研究上の目的・目標
1.「兵庫」が有する経験や教訓を研究リソースとして活用する。
①自治体、民間団体等が培った阪神・淡路大震災からの復興に関する研究
②東日本大震災や熊本地震等他の被災地への支援に関する研究
③南海トラフ地震等将来の災害への備えに関する研究
2.多様な「主体」が蓄積した経験や教訓を整理し、体系化する。
3.神戸東部新都心に立地する防災関係機関との協力、連携を進める。(例:人と防災未来センター、国連関係機関)
①共同研究・共同プロジェクト
②インターンシップ 21
大学院生1.求める人材像
・出身学部において身に着けた基礎的素養をベースに減災復興を学修する意欲のある者
・職場での経験を踏まえ減災復興に関する理論と実践を学修したい者
①本研究科の理念と教育(目標・内容)を十分に理解している人
②次代を担う、社会に貢献する等の目的意識を持って、自らの能力を伸長しようとする勉学意欲にあふれた人
③論理的思考や表現力など、志望する専門分野にふさわしい適性を有する人
2.入学者(第1期生)は13名、他に研究生1名
(1)学部からの進級者
(2)公務員派遣者
(3)その他社会人
3.平成31年度を目標に博士後期課程を設置し、「減災復興研究をリードする研究者」、「行政等実践部門での専門家」、「国際防災協力の担い手」を育成する。 22
行政、企業、学校、NPO、コミュニティ等の場で、防災をリードする人材