14
19. 都土木技術センター年報 ISSN 1882-2657 Annual Report C.E.C., TMG 2007 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例 Causes and Measures to Deformations of Retaining Walls in 2006. 技術調査課 廣島実、佐々木俊平、住吉卓、春日井哲夫、石坂弘司 1. はじめに 建設局では道路、公園、宅地造成などの切土、盛 土部また橋りょうの橋台や河川護岸など様々な用途 の擁壁を多数管理している。こうした擁壁がなんら かの原因で変位・破損などの変状した場合、その原 因を早急かつ適切に判断し、必要に応じて有効な対 策工を実施しなくてはならない。 本報告は、平成 18年度に当センターが実施した技 術支援の一環として、擁壁の変状原因と対策につい て検討した事例のうち、3 例を紹介する。 2. 橋りょう取付道路 L 型擁壁の変状事例 2.1 経緯 ここで紹介する事例は、東京都管理の河川に架か る橋りょう取付道路(区道)の盛土を支える直接基 礎形式の RC 製 L 型擁壁(高さ約 4m)が前面側に変状 したケースである(写真-1、図-1)。 この擁壁は、平成4~8 年の橋架替え工事と同時に 築造され、平成 13 年に隣接した杭基礎擁壁(L0)に 対して直接基礎擁壁(L1) が前面側に 55mm(擁壁天 端)変位していることが判明した。その後、変状計 測を開始し平成 18 年 11 月までに更に 13mm(計 68mm) 変位が進行した。 2.2 地盤概要 当該箇所は東京東部低地の軟弱な沖積層が堆積す る埋没段丘である。地質層序は、上位から N 値 10 以 下の緩い有楽町層砂層、下位に N 値 5 以下の軟弱な 粘性土が GL-20m程度まで堆積している。その下位 は礫を中心とした N 値 50 以上の洪積層である。 図- 2 に擁壁直近のボーリング柱状図を示す。 2.3 変状の状況 L1 平成 13(2001)年 5 月 17 日から平成 18(2006)年 11 月までの変状計測結果(傾斜角は平成 15(2003) 年 8 月から計測開始。計測位置は図-3)と平成 18 年 11 月 16 日に実施した目視による現地調査結果を以 下に示す。 L1 L2 L3 L0 高さ約4m 民地 道路 写真-1 L 型擁壁全景 沈下量29mm 水平変位量 68mm 500 3330 300 3930 2200 100 100 1700 250 4770 BB212B 傾斜勾配 3602 砂質シルト N=0 シルト混じ り砂 N=5 埋土(Bs1) 細砂N=5 盛土(Bs) 土質不明 孔内水位 AP+ 2.30m AP+ 2.35m AP+3.55m シルト混じり砂 N=5 AP+ 1.25m AP+ 0.45m AP- 0.75m AP+4.95m AP+7.46m 粘土 N=6 1.4m 1.2m 1.1m 0.8m 1.2m 2.4m 道路 民地 図-1 擁壁の形状と変状状況

22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

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Page 1: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

平 19. 都土木技術センター年報 ISSN 1882-2657

Annual Report

C.E.C., TMG 2007

22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例

Causes and Measures to Deformations of Retaining Walls in 2006.

技術調査課 廣島実、佐々木俊平、住吉卓、春日井哲夫、石坂弘司

1. はじめに

建設局では道路、公園、宅地造成などの切土、盛

土部また橋りょうの橋台や河川護岸など様々な用途

の擁壁を多数管理している。こうした擁壁がなんら

かの原因で変位・破損などの変状した場合、その原

因を早急かつ適切に判断し、必要に応じて有効な対

策工を実施しなくてはならない。

本報告は、平成 18 年度に当センターが実施した技

術支援の一環として、擁壁の変状原因と対策につい

て検討した事例のうち、3 例を紹介する。

2. 橋りょう取付道路 L 型擁壁の変状事例

2.1 経緯

ここで紹介する事例は、東京都管理の河川に架か

る橋りょう取付道路(区道)の盛土を支える直接基

礎形式の RC製 L型擁壁(高さ約 4m)が前面側に変状

したケースである(写真-1、図-1)。

この擁壁は、平成 4~8 年の橋架替え工事と同時に

築造され、平成 13 年に隣接した杭基礎擁壁(L0)に

対して直接基礎擁壁(L1) が前面側に 55mm(擁壁天

端)変位していることが判明した。その後、変状計

測を開始し平成18年 11月までに更に13mm(計68mm)

変位が進行した。

2.2 地盤概要

当該箇所は東京東部低地の軟弱な沖積層が堆積す

る埋没段丘である。地質層序は、上位から N 値 10 以

下の緩い有楽町層砂層、下位に N 値 5 以下の軟弱な

粘性土が GL-20m程度まで堆積している。その下位

は礫を中心とした N値 50 以上の洪積層である。図-

2 に擁壁直近のボーリング柱状図を示す。

2.3 変状の状況

L1 平成 13(2001)年 5 月 17 日から平成 18(2006)年

11 月までの変状計測結果(傾斜角は平成 15(2003)

年 8 月から計測開始。計測位置は図-3)と平成 18 年

11 月 16 日に実施した目視による現地調査結果を以

下に示す。

L1L2

L3

L0

高さ約4m

民地

道路

写真-1 L 型擁壁全景

沈下量29mm

水平変位量68mm

500

33

30

300

3930

2200

10

0

1 00

1700250

4770

BB212B

傾斜

勾配

3602

砂質シルト

 N=0

シルト混じ

り砂 N=5

埋土(Bs1)

細砂主体  N=5

盛土(Bs)

土質不明

孔内水位AP+ 2 .30m

AP+ 2.35m

AP+3.55m

シルト混じり砂

N=5

AP+ 1.25m

AP+ 0.45m

AP- 0.75m

AP+4.95m

AP+7.46m

粘土

N=6

1.4

m1.2

m1.1

m0.8

m1.2

m2

.4m

道路

民地

図-1 擁壁の形状と変状状況

Page 2: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

2.3.1 擁壁天端の水平移動量と沈下量の経時

変化

A 地点の水平移動量、沈下量、間隔、B地点の水平

移動量の計測位置を図-3 の平面図に示す。A 地点の

水平移動量は、L0 擁壁に対する L1 擁壁天端の前面

側への変位量であり、計測開始時には既に 55mm 前面

側に変位していた。同様に A 地点の沈下量は L0 擁壁

に対する L1 擁壁天端の沈下量であり計測開始時に

は既に 22mm 沈下していた。また、A 地点の間隔は、

計測開始時に L0、L1 擁壁の天端に 100mm 間隔(初期

値)でマークした印の変位量であり、L1 擁壁が L0 擁

壁から離れる方向を正とした。B 地点の水平移動量

は、擁壁 L1、L2 擁壁の天端に計測開始時に 100mm 間

隔(初期値)でマークした印の変位量である。

図-4 に各計測地点の経時変化を示す(初期値を

0mm)。この結果、A 地点水平移動量は 13mm 前面側へ

変状が進行し、累積の移動量は 68mm(初期値 55mm)

である。A 地点沈下量は 7mm 変状が進行し、累積の

沈下量は 29mm(初期値 22mm)である。また、A 地点の

間隔は、計測開始時から 7.5mm 拡がっており、B 地

点の水平移動量は、3.5mm 拡がった。

2.3.2 擁壁背面の離隔の経時変化

図-3 の鳥瞰図に L1 擁壁天端背面の歩車道境界か

らの離隔の計測位置を示す。図-5 は、平成 16(2004)

年 6 月の計測開始時からの各側線の経時変化を示す。

この図から測線①A-A’で 8mm、測線②B-A’で 9mm、

測線③B-B’で 5mm、L1 擁壁の前面側へ離隔が増加し

ている。

2.3.3 擁壁傾斜角の分布

L1 擁壁の傾斜角の計測位置を図-3 鳥瞰図に、擁壁

全体の計測位置を図-3 の立面図に示す。図-6 は擁

標高(m) AP

5

0

-5

-10

-15

-20

-25

-30

Dep.=32.19m

N  値0 10 20 30 40 50

+3.55

-0.75

+2.35

+1.25

+0.45

+4.95

+7.46

-2.05

-18.15

-19.00

-20.45

-22.30

埋土(Bs1)細砂礫粘性土塊混じり N=5

シルト混じり砂 N=5

砂質シルト N=0

粘土 N=6

シルト混じり砂 N=5

細砂 N=6

砂質シルト N=0~4

シルト N=0

砂質シルト N=3~9

シルト  N=6

粘土 N=8

砂礫  N=50

粘土 N=15

砂礫 N=50

盛土(Bs)土質不明

-16.95

-12.85

-6.85

孔内水位+2.30m

図-2 ボーリング柱状図

計測項目2)擁壁とL型の離隔 ① 、② 、③計測項目3)擁壁の傾斜   ①'、②'、③'

(鳥瞰図)

傾斜角計測箇所

3,470 10.000 10,000

3,9

30 3,6

00

2,6

60

940

重力式擁壁 L=20.000m

G1 G2L2 L3L1L0

L型擁壁 L=23.470m

AP+2.671AP+4.245

AP+5.173AP+6.173

AP+7.455AP+7.129

10,00010,000

L型擁壁(杭基礎)

L2擁壁(南) L3擁壁(南) L3擁壁(北) G1擁壁(南)

(擁壁立面図)

河川流下方向

 計測項目1)擁壁の水平移動量(A,B地点)および沈下量(A地点)

水平移動量

B地点

A地点

(歩道)

(平面図)

歩車道境界目地の開き

区道(車道)

L0擁壁

(A地点沈下量)

沈下量

L1擁壁

L0擁壁(杭基礎)

L2擁壁

L1擁壁

(B地点水平変位)

L2擁壁

L1擁壁

初期値100mm

水平移動量

初期値22mm

(A地点水平変位)

L1擁壁L0擁壁

初期値55mm水平移動量

初期値100mm

印間隔

C地点

河川流下方向

A

L2擁壁

A’

BB’

②③

①’

②’③’

3,555mm

3,081mm

2,716mm

区道(車道)

民地側

(歩道)

C

L1擁壁

L0擁壁

(杭基礎)

L1擁壁B地点

C地点

A地点

図-3 擁壁計測位置

Page 3: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

壁傾斜角の分布の計測結果である。L1 から G1 擁壁

の全体の傾斜角の分布を見てみると、C地点3%が

大で、重力式擁壁 G1 に向かって徐々に小さくなる。

そして、擁壁 G1 ではほとんど傾斜していない。

2.3.4 目視調査による変状状況

現場調査(平成18年 11月 16日実施)による主な変

状状況は以下のとおりである。

(1)擁壁前面側の状況

①L1 擁壁は、L0 擁壁(杭基礎)に対して、前面側に

大きく変位している(写真-2)。その変位は擁壁

天端で も大きく下部で小さい。

②L型擁壁全体の表面には目立ったひび割れ・劣化

等はないが、水抜き孔がない(写真-1)。

③L1 と L2 擁壁間目地の亀裂が擁壁下部まで連続し

ており、目地の下部から雨水が浸出した痕跡が認

められる(写真-3)。

(2)擁壁背面の変状状況

①L1擁壁背面上部の歩道がやや沈下しており、歩

車道境界の L 型排水溝の目地に数ミリ開きがある。

②L1 擁壁背面車道部のセンターライン付近に縦断

方向の亀裂と、L0(杭基礎)と L1 擁壁の境界の背面

付近に横断方向の亀裂も認められ、L1 擁壁背面の

電柱が擁壁側に傾斜している。

2.4 変状原因の推定

2.4.1 想定される変状原因

L型RC擁壁の考えられる変状要因を図-7に示す。

計測結果や現場目視調査結果から、擁壁表面には目

立ったひび割れ・劣化等もなく躯体構造や材料特性

が原因ではないものと推察される。また、平成 11 年

に施工された擁壁前面のマンホール設置工事による

受働土圧の低減が懸念されたが、L1 擁壁から離れた

位置であり、L1 擁壁変状の主要因ではない。以上か

ら、懸念される主な変状原因を以下に示す。

① 擁壁背面上部は舗装されており背面盛土内への

雨水等の流入が少ないと判断し、水抜き孔を設置

していないものと推察されるが、舗装の目地や亀

裂等からの雨水の浸透や河川水の背面盛土内への

浸透と、それに伴う背面水位上昇による土水圧の

L1擁壁

L0擁壁

(杭基礎)

L1擁壁L0擁壁(杭基礎)

約 7cm

写真-2 L1 擁壁の変状

L1擁壁

L2擁壁

写真-3 目地からの浸出の痕跡

0

2

4

68

10

12

14

16

2001

(H13)

/05/

17

200

1/0

8/15

200

1/1

1/15

2002

(H14)

/02/

14

200

2/0

5/15

200

2/0

8/16

200

2/1

1/19

2003

(H15)

/02/

14

200

3/0

5/19

200

3/0

8/20

200

3/1

1/18

2004

(H16)

/02/

16

200

4/0

5/16

200

4/0

8/16

200

4/1

1/16

2005

(H17)

/02/

15

200

5/0

5/16

200

5/0

8/19

200

5/1

1/25

2006

(H18)

/02/

23

2006

/05

/

200

6/0

8/24

200

6/1

1/16

計測年月日

変位㎜

A地点水平移動量(mm)A地点沈下量(mm)B地点水平移動量(mm)A地点間隔(mm)

初期値55mm:最大13mm

初期値22mm:最大7mm

最大3.5mm計測開始2001/5/17

最大7.5mm

図-4 L1 擁壁天端部変状の経時変化

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

A地点

(3.555

下が

り)

C地点

(3.081

下が

り)

B地点

(2.716

下が

り)

L2擁

壁(南

)

L3擁

壁(南

)

L4擁

壁(北

)

G2擁壁

(南)

測定位置

傾斜

(%)

2004年10月

2005年10月

2006年11月

L1擁壁C地点で最大傾斜3%

図-6 擁壁傾斜の分布

0

2

4

6

8

10

12

200

1(H

13)

/05/1

7

2001

/08/1

5

2001

/11/1

5

200

2(H

14)

/02/1

4

2002

/05/1

5

2002

/08/1

6

2002

/11/1

9

200

3(H

15)

/02/1

4

2003

/05/1

9

2003

/08/2

0

2003

/11/1

8

200

4(H

16)

/02/1

6

2004

/05/1

6

2004

/08/1

6

2004

/11/1

6

200

5(H

17)

/02/1

5

2005

/05/1

6

2005

/08/1

9

2005

/11/2

5

200

6(H

18)

/02/2

3

2006

/05

/

2006

/08/2

4

2006

/11/1

6

計測年月日

離隔の変化量㎜

①A-A'(mm)

②B-A'(mm)

③B-B'(mm)最大8mm

最大9mm

最大5mm計測開始2003/8/20

図-5 L1 擁壁背面離隔の経時変化

Page 4: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

増加。

② 直接基礎の支持地盤が N 値=5 の比較的軟弱な

シルト混じり砂層であることから、支持力不足等

の擁壁の安定性が損なわれたことによる不等沈下。

③ 基礎下部は軟弱な粘性土と砂層の互層となって

おり、擁壁築造時に約2m程度拡幅していること

から、新たな盛土と擁壁重量増による圧密沈下。

2.4.2 降水量・河川水位と変状の関係

図-8 は現場上流側の気象庁観測点(練馬)の月

合計降水量・各月日 大降水量と A 地点水平変位・

沈下量の経時変化を示したものである。この図から、

毎年降水量が多い 6~8 月の雨期(梅雨)に変状が進

んでいる傾向が認められ、目地からの浸出の痕跡な

どから判断し、降雨による背面上部道路から盛土内

への浸透・流入による背面水圧上昇が擁壁変状原因

の一つと考えられる。ただし、必ずしも降水量が多

い月に変状が進むという明確な相関関係はなく、降

雨の影響以外にも変状の主要因があるものと推定さ

れる。

図-9は検討箇所下流側の河川水位変動を示したも

のである。この図から水位変動は降水量との相関が

認められるものの、水防災総合情報システムの水位

計による 高水位は AP+3m付近であり、擁壁基礎

(AP+3.23m)より下位となる。したがって河川水の

擁壁背面への供給はないものと判断できる。

2.4.3 擁壁安定性の検討

「道路土工擁壁工指針」1) および「道路橋示方書・

下部構造編」2)に基づき、L1 擁壁の安定性(転倒、滑

外力の増加(変化)

擁壁の材料特性(鉄筋コンクリート)

L型RC擁壁(直接基礎)の変状要因

施工時の影響

下部粘性土層の圧密沈下

交通荷重

掘削等による周辺工事の影響

基礎の支持力不足

乾燥収縮

クリープ変形

熱膨張

締固め不足など施工不良

今回検討した項目

背面土水圧の増加

図-7 L 型擁壁の変状要因

325299358

432

783

123108151 139 148208

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

2001年

5月

2001年

8月

2001年

11月

2002年

2月

2002年

5月

2002年

8月

2002年

11月

2003年

2月

2003年

5月

2003年

8月

2003年

11月

200

4年

2月

2004年

5月

2004年

8月

2004年

11月

2005年

2月

2005年

5月

2005年

8月

2005年

11月

2006年

2月

2006年

5月

2006年

8月

年月

降水

量(m

m)

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

10.0

12.0

14.0

16.0

変位

(mm

)

月合計降水量 各月日最大降水量(mm)

A地点沈下量(mm) A地点水平移動(mm)

1.0mm

3.0mm 2.0mm

2.0mm

3.0mm

平成16年豪雨2.0mm

1.0mm

1.0mm 2.0mm

2.0mm

1.0mm 月合計降水量300mm

日最大降水量100mm

図-8 A 地点の変位量と降水量の関係

2.572.52

2.553.03

-0.32-0.32

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

1000

2001年

5月

2001年

8月

2001年

11月

2002年

2月

2002年

5月

2002年

8月

2002年

11月

2003年

2月

2003年

5月

2003年

8月

2003年

11月

200

4年

2月

2004年

5月

2004年

8月

2004年

11月

2005年

2月

2005年

5月

2005年

8月

2005年

11月

2006年

2月

2006年

5月

2006年

8月

2006年

11月

年月

降水

量(m

m)

-2

-1

0

1

2

3

4

5

水位

 A

P+(m

)

月合計降水量 各月日最大降水量(mm)

月最高水位AP+m 月最低水位AP+m水位の変動AP+3.03m~AP-0.32m

図-9 河川水位の変動と降水量の関係

Page 5: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

動、支持力)について照査をおこなった。

(1) 土圧の算定

図-10にクーロン土圧の計算断面と計算式を示す。

なお、擁壁背面土のせん断抵抗角は、砂質土の裏込

め土のφ=30°1)を使用した。この結果、主働土圧係

数 Ka=0.33、主働土圧 Pa=6.04(t/m)、土圧作用位

置は、底版下端から 1.51mとなった。

(2) 転倒に対する照査

上記の土圧を用いて転倒に対する照査を行った

(図-11)。この結果、直接基礎底面に作用する荷重の

位置は、底版幅B=2.2mの核内(Bの1/3以内)になく、

常時における転倒の安定性は不足している(表-1)。

(3) 滑動に対する照査

滑動に対する照査の結果、安全率 Fs=1.6(1.2 以上)

となり、滑動の安定性は確保されている。なお、底版と地

盤との摩擦係数μ=0.6、粘着力 CB=02)とした。

(4) 支持力に対する照査

文献 3)に基づき、偏心を考慮した極限支持力の算定

をおこなった。支持層は N 値=5 の軟弱なシルト混じり

砂層であり、せん断抵抗角φは、東京の地盤データから

求めたφ=√(20×N)+15(大崎の式)3)から算出し、φ

=25°となった(粘着力 C=0)。この結果算出された tan

θ=0.37 を用いて文献 2)のグラフから各支持力係数(Nc、

Nq、Nγ)を読み取り、下式 2)により極限支持力を計算し

た結果、安全率 Fs=0.27 となり、常時(Fs≧3)に対して支

持力が不足している結果となった。

果に関する補正係数:支持力係数の寸法効  

た支持力係数:荷重の傾斜を考慮し  

割増し係数:根入れ効果に対する     

:基礎の形状係数    

さ:基礎の有効根入れ深    

:荷重の偏心量    

:基礎幅    

       

)た基礎の有効載荷幅(:荷重の偏心を考慮し    

中単位重量を用いる。、地下水位以下では水       ただし

入れ地盤の単位重量 :支持地盤および根   

):有効載荷面積(    

㎡)で、:上載荷重 (    

:地盤の粘着力    

の極限支持力

考慮した地盤持力係数の寸法効果を:荷重の偏心傾斜、支ここに 

γ

γ

βα

γγ

γ

γγβγα

SqScS

NqNcN

k

mfD

mB

e

mB

BeBeB

mB

mkN

meA

fDqq

mkNc

kN

uQ

SNBSkqNSkcNAQ eqccsu

,,

,,

,

)(

)(

)(

2

e

)3/(2,1

2

2kN/

)2/(

)(

1q 21

−=

=

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧ ++=

500

3330

300

2200

100

L1擁壁 断面図

1700250

477

BB212B

AP+7.46m

1.4

m1.2

m1.1

m0.8

m1.2

シルト混じり砂(S1)N=5

砂質シルト(C1)

粘土(C2)N=6

シルト混じり砂(S2) N=5

AP+ 2.35m

AP+ 1.25m

AP+ 0.45m

AP- 0.75m

孔内水位AP+ 2.30m

3930

P

R

W

φ

δ

L

P

H

α

( ) ( ) ( ) ( )( ) ( )

)N/m(

(m)

-coscos-sinsin1sccos

)(cos21

3

A

2

2

2

o

kの単位体積重量    γ:裏込め土

:主働土圧係数    

:土圧が作用する壁高    

:主働土圧ここに 

KHP

K

HKP

A

A

AA

⎭⎬⎫

⎩⎨⎧

⋅+⋅+

+⋅+⋅+

−=

⋅⋅=

δαδαδφδφδαδα

αφ

γ

図-10 クーロン土圧の算定 3)

L1擁壁 断面図

Df=

620

500

3330

300

1510

100

1700250

477

BB212B

AP+7.46m

1.4

m1.2

m1.1

m0.8

m1.2

m

シルト混じり砂(S1)N=5

砂質シルト(C1) N=0

粘土(C2)N=6

シルト混じり砂(S2) N=5

AP+ 2.35m

AP+ 1.25m

AP+ 0.45m

AP- 0.75m

孔内水位AP+ 2.30m

3930

PW1

W2

W3

R

e

1t/m

O

AP+3.85m

2200

100

d

( )( )

( )( )

( )( )( )mHb

mkNHma

mkNmkNv

mmkNMmmkNM

VbHaV

VMM

d

jj

j

ii

i

o

r

i

jjiior

らの高さの作用点の擁壁底版か:    

の水平直成分:擁壁に作用する荷重    

 の作用点との水平距離:擁壁底版つま先と    

の鉛直成分:擁壁に作用する荷重    

 直荷重底版下面における全鉛    

の転倒モーメント:擁壁底版つま先回り    

の抵抗モーメント:擁壁底版つま先回りここに 

3

3

/V

/V/:

//

∑∑∑

∑∑ ∑

∑∑ ∑

⋅−⋅=

−=

図-11 転倒・滑動に対する照査断面 3)

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図-12 は当該条件(tanθ=0.37)におけるせん断抵抗

角φと極限支持力の関係である。この図から、必要な安

全率を確保するためには支持地盤のせん断抵抗角φ

は約 43°(N 値≒40)以上必要であることがわかる。

以上の検討から、当該擁壁の転倒に対する安定性お

よび支持力が不足している結果となり、擁壁変状の主要

因である可能性が高いものと推定された。

2.4.4 過去の工事履歴(盛土)と圧密沈下の検

図-13 に示した既存ボーリングデータによる圧密

降伏応力と有効土被り圧の関係から、AP-6~7m付近

から上層は正規圧密状態に近い(OCR≒1.0)。したが

って、擁壁築造工事に伴う盛土の拡幅、嵩上げある

いは擁壁の新設による上載荷重の増加によって、圧

密による沈下の可能性がある。このため過去の盛土

履歴と圧密沈下量の推定をおこなった。

(1)過去の盛土履歴

過去の工事記録等を見ると、橋架替え時に護岸を

約 1.2m嵩上げしており、現橋の高さまで盛土で摺

りつけている。よって当該擁壁背面の盛土高さは約

1.2m高くなったものと推定された。また、旧道路台

帳の平面図から、擁壁箇所は約 2m程度拡幅してい

る。図-14に圧密検討地盤と想定した旧盛土を示す。

(2) 圧密沈下量の算定方法

圧密検討の対象とする層は、図-14 に示す正規圧

密状態の範囲内(AP-6m 以浅)の粘性土層 C1、C2、C3

層とした。ここで、C1 (砂質シルト)層の含水比 Wn

500

2830

300

3930

2200

100

100

1700250

477

BB212B

AP+7.46m

埋土(Bs1)細砂主体で上部礫混じり、粘性土塊混じり

シルト混じり砂(S1)N=5

砂質シルト(C1)

粘土(C2)N=6

シルト混じり砂(S2) N=5

細砂(S3)N=6

1.4

m1.2

m1.1

m0.8

m1.2

m1.3

2.6

3.7

盛土(Bs)土質不明

AP+4.95m

AP+ 1.25m

AP+ 0.45m

AP+3.55m

AP- 0.75m

AP- 2.05m

ボーリングNo.21の高さ

孔内水位AP+ 2.30m

約1.2m盛土

約2.0m拡幅

砂質シルト(C3)N=0~4

4.8

AP- 6.85m

4.5

5.7

7.0

mAP- 6.00m

正規

圧密

状態

AP

-6.0

m過

圧密

状態

GL-6.0

m以 深

AP+6.26m

圧密層

圧密層

圧密層

旧盛土

図-14 圧密検討地盤

0

20

40

60

80

100

120

20 25 30 35 40 45 50

せん断抵抗角φ(°)

極限

支持

力qu(

t/㎡

N=5

許容支持力qa=65.3(Fs=3)

地盤反力度q1=21.783(Fs=1)

φ≒43°N≧40

tanθ=0.37

図-12 せん断抵抗角と極限支持力の関係

(tanθ=0.37)

表-2 照査結果

転倒 滑動 支持力

Pa(t) 作用高さH(m)6.04 1.51

NG OK NG

土圧の算定(クーロン土圧)

有効土被圧

AP±0.0m

-10.0m

-20.0m

-30.0m

+6.0m0 1 2 3 4 5

応力(kg/cm2)

深 度

(

m

)

圧密降伏応力Py

AP-6.0m

過圧密状態 OCR>1.0

正規圧密状態 OCR≒1.0

図-13 圧密降伏応力と有効土被圧

表-1 転倒に対する照査結果

転倒に対する安定照査鉛直荷重による転倒モーメントの計算

b(m) h(m) γ(t/m3) W(t) L(m) M(t・m)=W*LW1 1.70 3.33 1.70 9.62 1.35 12.99W2 1.70 0.50 2.40 2.04 1.35 2.75W3 0.50 3.93 2.40 4.72 0.25 1.18

ΣV 16.38 ΣMi 16.92水平荷重による転倒モーメントの計算

H(t) L(m) M(t・m)=W*LPa 5.78 1.50608 8.71ΣH 5.78 ΣMo 8.71

転倒判定d(m) 0.50B(m) 2.20e(m) 0.60B/6(m) 0.372B/6(m) 0.73転倒判定 -(B/6)≦e≦(B/6) 常時NG

q2q1

R

e

B

B/3

常時 NG

C.L

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は、N 値=0の軟弱層であることから、圧縮性を安全

側で考え、自然含水比 Wn=80%と仮定し、圧縮指数

Cc を経験式 Cc=0.00782・Wn1.07で求め 7)、体積圧縮係

数mv をmv=Cc/{2.3・(1+e0)p0}により算出 7)した。ま

た C2(粘土)層については、N 値=6 と比較的硬質な

粘土であり、Wn=50%と仮定した。C3(砂質シルト)

層については、近傍の地盤データ(当センター地盤

情報データ)から含水比 Wn=77.2%を使用した。

図-15 は盛土による荷重増加分を簡略化したモデ

ルを、図-16 に検討手順を示す。

図-13 は上載荷重を受けない堤外地での地質調査

結果である。一方、擁壁は堤内地であり築造前に旧

橋取付道路の盛土による荷重履歴を受けているため、

地質調査位置での高さを基準として、 初に旧盛土

築造分の上載荷重(図-15 の①)による圧密沈下量を

算定し、その後、新擁壁の擁壁部分(図-15 の③)と

背面盛土部分(図-15 の②④)に分けてそれぞれの沈

下量を算出した。

(3) 終圧密沈下量の計算結果

図-17 に沈下量の計算結果を示す。この結果、旧

盛土による沈下量は 0.31 ㎝であり、その後の新擁壁

築造による沈下量は、擁壁部で 0.68 ㎝、盛土嵩上げ

部で 0.48 ㎝となった。したがって、擁壁築造による

圧密の不等沈下量は 0.2cm(2mm)となり、圧密沈下の

影響は少ない結果となった。

2.5 擁壁変状原因に関する考察とまとめ

以上の検討結果をまとめると以下のとおりである。

① 降雨と擁壁変状の関連性については明確な相関

が認められなかったが、降雨時期に変状が進む傾向

があることや現場調査で亀裂からの浸出の痕跡が確

認されていること、また擁壁安定性照査による支持

力不足等を勘案して、降雨による背面水圧の上昇が

擁壁変状を進行させた可能性が高い。

② 支持地盤の支持力照査結果から、所要の安全率の

確保が確認できなかった。このため支持地盤の支持

力不足が擁壁変状の主要因の可能性が高い。擁壁の

転倒に対する安定性照査結果から不安定な状態と推

定された。滑動に対する照査結果から、滑動の安定

旧盛土①による圧密沈下量S1の算出

新擁壁築造時の上載荷重Δσ2(擁壁部)Δσ3(盛土部)の算出。

新擁壁築造時の圧密沈下量S2(擁壁部)S3(盛土部)の算出※mvの算出に使用する有効上載荷重Poは、旧盛土築造時の有効上載荷重Po2を使用する。

旧盛土①の上載荷重Δσ1の算出

旧盛土と新擁壁築造時の圧密沈下量との差分の算出。→(今回の圧密沈下量)

圧密沈下量の検討

図-16 検討手順

旧盛土時

0.312㎝

0.679㎝

新擁壁部 新盛土部

0.478㎝

0.7

90㎝

0.9

91㎝

0 .201㎝

沈下量S1沈下量S3

沈下量S2

図-17 最終圧密沈下量

100

300

3930

2200

1700250

477

BB212BAP+3.23m

AP+7.46m

圧密検討基準高さボーリング位置AP+4.95m

AP+6.26m 旧橋の盛土高

新橋の盛土高

AP+6.26m

2200

1310

AP+4.95m

2200

Δσ1

(①)=0.24kg/cm2

沈下量S

500 1700

Δσ2(③)

=1.02kg/cm2

4230

5001700

800

3430

AP+7.46m

AP+3.23m

Δσ3(②+

④)=0.81kg/cm2④

沈下量S2沈下量S3

図-15 上載荷重のモデル化

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性は確保されている。

③ AP-6mより上位の粘性土層は、正規圧密状態に

ある可能性があり、擁壁築造による 終圧密沈下量

の検討をおこなった結果、相対沈下量で 0.2mm とな

り、圧密沈下の影響は少ないと推定された。

2.6 対策工等の提案

2.6.1 応急対応

擁壁天端や背面上部沈下等の変状状況を勘案す

れば、次節に示すような抜本的な対策が望ましい

が、急激な変状の進行はない状況から判断し、当

面の対応として、①現在の変状計測を継続しておこ

なうこと、特に降雨時(時間降雨強度 50mm 以上程度

の豪雨時の前後)には計測頻度を多くする。②この

結果、降雨時に変状が進行するようであれば、水抜

き孔の設置等を検討することを提案した。

2.6.2 対策案

支持地盤を N 値=5 の砂質土として支持力等の照

査をおこなったが、土質データが少ないことや支持

層の検討地盤がシルト混じり砂層の中間土であるこ

とから、対策工検討に当たっては、事前に平板載荷

試験、ベーン試験等の現位置試験により支持力の確

認をおこない、擁壁の安定性照査を再度実施する。

対策工の選定に当たっては、上記変状計測、支持

地盤の支持力確認の結果を踏まえ①支持力不足等の

解消②変状の起動力となる土圧、背面水位の低減③

施工条件(道路側施工など)④施工性、経済性等を考

慮するように助言をおこない、いくつかの対策案を

提示した。

図-19 は提案した対策案の 1 例である。この案

は、背面土圧の低減と車道部への施工の影響を低

減するための自立式鋼矢板の打設と擁壁背面の排

水に配慮した軽量盛土による置換工法を併用した

案である。なおグラウンドアンカー工、タイロッド

工、補強土工法等については、適切な定着層が浅部

にないこと、反対側擁壁に定着部が取れないこと、

施工性などの条件から提案した対策工には採用して

いない。

3.駐車場盛土石積擁壁の変状事例

3.1 概要

この事例は、都営駐車場(区部)の石積擁壁の変

状に関し地震時の安定性と対策について、駐車場主

管部から当センターに調査依頼があったものである。

石積擁壁は区道に面しており(図-20)、下り勾配

の区道に沿ったA壁とB壁が接する隅角部 C 点が

も高い(高さ約 5.5 m)。この C 点付近にクラックや石

材の浮き上がりなどの変状が集中しており、地震時

などに崩落が懸念されるとして、駐車場を管理する

指定管理者から、施設基盤を所管する東京都に対応

を求めてきたものである。

3.2 経緯

3.2.1 石積擁壁について

当該石積擁壁の概観を写真-4 に示す。擁壁は既設

部分の上部約 1.5mは嵩上げされている。主管部の資

料によると、擁壁が設置されてからの主な経緯は以

下のとおりである。

①擁壁は昭和 17 年に設置され、以降大きな改変は

行われていないようである。

②台帳には昭和 30 年代以降は大規模な改築がなさ

れた記録がないので、嵩上げの時期は昭和 30 年代

以前であったと思われる。

③石材の仕様、裏込め土の種類等は不明である。

④ 当地は旧海軍軍楽隊庁舎跡である。

⑤ 区教育委員会事務局によると、A壁の矩形石材

は江戸時代のもので、他所から移設して積み直し

500

3330

300

3930

2200

100

100

L1擁壁 断面図

1700250

477

BB212B

AP+7.455m

盛土、埋土

シルト混じり砂N=5

砂質シルトN=0

粘土N=6

シルト混じり砂N=5

細砂N=6

砂質シルトN=0~4

1.4

m1.2

m1.1

m0.8

m1.2

m1.3

m8m

鋼矢板打設(残置)

掘削

埋戻し(軽量盛土材)透水性の高いスーパーソル等粒状土

排水溝設置

水抜き孔設置(有孔塩ビ

2.6

3.7

4.5

5.7

正規

圧密

状態

GL

-9.0

~10.0

図-19 対策案1(軽量盛土と鋼矢板打設)

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たようである。なお、この部分は補修工事をして

もよいが現在の形態を維持して欲しいとの要求が

ある。

3.2.2 既往の変状調査と対策 平成 5 年に当センターの前身である土木技術研究

所が石積擁壁の現地調査を行い、その結果を報告し

ている。当時は、擁壁自体の安定性に緊急の危険性

はないと判断したが、裏込め土への雨水浸透の防止

対策や樹木への対策などについて次のような提案を

している。

①車止めブロックを必要 小限の延長だけ残し、他

は撤去する。

②東側(B壁沿い)U型側溝の蓋をグレーチング蓋

に取り替える。

③北側(A壁沿い)端部に東方向への横断排水のた

めの側溝を設ける。

④北東隅角部の も低い箇所(写真-4 のC(上)

周辺)にオーバーレイをするなどして敷地高を上

げる。

⑤樹木の伐採(樹根が石材の浮き上がりの原因とな

っていた)、及び金網の外の土の部分(当時)を

コンクリートですべて被う。

⑥石材間などに生じている隙間へのモルタル注入。

また、当時問題となった北東隅角部(C(上)周

辺)の舗装の亀裂については、排水が不十分であっ

たことが一因であると考察した(雨水が嵩上げ擁壁

部の盛土に浸透し沈下を招いた)。

3.2.3 対策にあたっての条件

主管部から提示された対策検討で考慮する条件は

以下のとおりである。

① 北側(A壁沿い)の区道を5年程度以内に拡幅

する事業計画があり、石積擁壁の一部を撤去する可

能性がある。このため、拡幅工事までの安全性を確

保できる暫定対策とする。

② A壁を含めた土地約 270 ㎡は、都が国有地を借

りているため、大規模な対策工事をできるだけ避け

る。

3.3 現地調査

平成 18 年 4 月 18 日に実施した現地調査の結果、

擁壁の変状は、C(下)から 3m 程度以内の範囲、

特に嵩上げ擁壁部に集中していた(写真-7,9)。変

状状況の詳細は以下のとおりである。

(1)A壁正面方向から見た状況

①笠コン部背後に樹根があり、樹根の成長により笠

コンが押出され、浮いている状態である(写真-5)。

②樹根の切断面からは芽が吹いており、樹根は現在

も成長中である。

③嵩上げ擁壁部に幅の大きい縦クラックが 2 箇所

50.

150

13,55014,90038,400

7,000

22,8

30

11,

220

38,1

00

15,700 13,500

21,7

00

300

50,1

50

[ : 単位 mm]

A 壁

B壁

C : 点 擁壁高さ最大( ) H≒5.5 m

三田駐車場

石積擁壁

区道勾配

区道勾配

50.

150

13,55014,90038,400

7,000

22,8

30

11,

220

38,1

00

15,700 13,500

21,7

00

300

50,1

50

[ : 単位 mm]

A 壁

B壁

C : 点 擁壁高さ最大( ) H≒5.5 m

三田駐車場

石積擁壁

区道勾配

区道勾配

図-20 都営駐車場平面図

C( ) 下

A 壁

C( ) 上 駐車場

区道

B 壁 既設

嵩上げ

(A ) 壁正面

C( ) 上

C( ) 下

B 壁 A 壁

区道

区道

(A,B ) 両壁 (B ) 壁正面

B 壁

C( ) 上

C( ) 下

A 壁

区道

既設

嵩上げ

C( ) 下

A 壁

C( ) 上 駐車場

区道

B 壁 既設

嵩上げ

(A ) 壁正面

C( ) 上

C( ) 下

B 壁 A 壁

区道

区道

(A,B ) 両壁 (B ) 壁正面

B 壁

C( ) 上

C( ) 下

A 壁

区道

既設

嵩上げ

写真-4 石積擁壁の概観

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で発生し、樹根の成長で押し出されている状況で

ある。また右側のクラックは擁壁下部まで連続し

ている(写真-7)。

(2)B壁正面方向から見た状況

①A 壁同様笠コン部背後の樹根の成長により笠コ

ンが押出され、浮いている状態である(写真-9)。

②丸石間の目地にはモルタル補修跡があり、随所に

クラックがある(写真-8、9)。

③擁壁全体のクラック(写真-9)は C(下)から約 2.8

m の範囲内に集中しており、全体的に C(下)の方

向に向いている。

(3)駐車場の状況(図-21、写真-10,11)

①擁壁上部の地表面(駐車場)の勾配は、C(上)

付近が も低い。特に排水桝及び側溝コーナー部

周辺は表面沈下が大きい。

③表層コンはC(上)付近から A,B 壁とも約 1.8m

の位置にクラックが生じている。その他、樹根の

位置や側溝内にもクラックが生じている。

(4)調査結果のまとめ

調査結果をまとめると以下のとおりである。

①A壁及びB壁におけるクラック全体の発生形状

から、C(下)を頂点とする楔形状(逆三角錐)

の土塊がすべるようなずれが生じている。

②擁壁天端の付近では樹根の成長による笠コンの

変位や嵩上げ部擁壁の大きなクラックが生じてい

る。

③擁壁背面の駐車場の表面排水は、C(上)付近の排

水枡に集水する勾配となっているうえ、その付近

は表面沈下しており、クラックも多い。

3.4 考察

以上の調査結果から推定された主な変状要因は以

下のとおりである。

①過去の擁壁嵩上げによる裏込め土の土圧増加や、

駐車車両による上載荷重の増加。

②樹根の成長による擁壁・笠コン部への侵入。

③裏込め部分への長期に渡る雨水浸透及び擁壁背

面に溜まった水の排水不良。

(1)石積擁壁の全体の安定性

擁壁 C 点は、擁壁高さが も高く隅角部で構造的

に不利なうえ、背面上部駐車場の排水勾配も C 点方

向となっている。このことに加え樹根の成長が駐車

場表層コンや排水枡にクラックを生じさせ、背面盛

A 壁

B 壁

C( ) 上 笠コンの浮き

幅が大きいクラック

樹根

樹根

既設

嵩上げ

表層コンのクラック(a)

A 壁

B 壁

C( ) 上 笠コンの浮き

幅が大きいクラック

樹根

樹根

既設

嵩上げ

表層コンのクラック(a)

写真-5 嵩上げ部拡大(A 壁) 写真-6 既設部クラック(A 壁)

既設

嵩上げ

笠コンの浮きと樹根

2.4 m

A 壁

C( ) 上

B 壁 幅が大きいクラック

上下繋がるクラック

C( ) 下

1.1 m

1.7 m

既設

嵩上げ

笠コンの浮きと樹根

2.4 m

A 壁

C( ) 上

B 壁 幅が大きいクラック

上下繋がるクラック

C( ) 下

1.1 m

1.7 m

写真-7 A 壁全体の変状

写真-8 既設部のクラック(B 壁)

B 壁

C( ) 上

A 壁既設

嵩上げ

C( ) 下

この辺凹んで見える

2.8 m

笠コンの押し下げ

( 駐車場からの)雨水排水管

クラック

(樹根 芽が)吹いている

笠コンの浮き

B 壁

C( ) 上

A 壁既設

嵩上げ

C( ) 下

この辺凹んで見える

2.8 m

笠コンの押し下げ

( 駐車場からの)雨水排水管

クラック

(樹根 芽が)吹いている

笠コンの浮き

写真-9 B 壁全体の変状

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土内への雨水等の流入・浸透を誘発した可能性があ

る。これにより、C 点背面で楔状の変形が生じたも

のと推察できる。したがって対策の基本的な考え方

は起動力となる擁壁上部荷重の除去と、盛土内への

排水対策が基本である。しかし、台帳の記載に昭和

30 年代以降に崩壊した記録はないこと、また現地調

査時の目視確認でも直ちに崩壊するような兆候は見

受けられないこと。また、昭和 17 年に当該擁壁が構

築されて以降、震度 5 以上(大手町震度)の地震を

1 回経験(1992 年)しているが、昭和 30 年代以降には

大きな変状もなく安定を保っていたことなどを勘案

し、応急的には、豪雨時等の巡回・点検、嵩上げ部

からの落石対策や樹根の伐採、雨水排水対策が必要

であるものと考えられる。 (2)嵩上げ部以高の安全性について

嵩上げ擁壁部のクラック、笠コンの浮き上がり・

傾き等の変状は樹根の成長による押出しが原因と推

察される。したがって今後の樹根の成長も勘案すれ

ば、豪雨や地震によって、笠コンの浮き上がり部・

嵩上げ部擁壁の区道への落下等による事故の恐れも

ある。したがって擁壁天端の笠コンに対しては早急

に応急対策が必要と考えられる。

3.5 対策案

ここで提案した対策案は駐車場の利用条件や工事

費等に応じて選択可能なように以下のとおりとした。 (1)応急対策案 擁壁天端付近の笠コン・表層コンの撤去と豪雨や

地震時の巡回・点検(表-3 点検項目の事例 1))の

実施 (2)暫定対策案 ①上部背面盛土部の撤去(図-22 に例示) ②上部背面盛土撤去部(図-21 の部分) を軽量盛土

図-21 駐車場 C(上)付近の状況

C( ) 上

B 壁笠

コン

表層

コン

フェンス

車止めブロック

U 型側溝( ) グレーチング蓋

ガードレール

排水桝

ポール( ) 照明・監視カメラ用

排水管

A 壁

表層コン

笠コン

~排水桝 側溝コーナー部近辺は特に表面沈下が大きかった

C( ) 上

B 壁

≒1.

7 m

クラック(a)

クラック

桝内外で目地の開き

クラック(b)

≒4

m

A 壁

≒0.5 m

≒1.8 m

≒4 m

表層割れ

側溝内にクラック

1 m

(側溝の曲がり 延長1 m)に対し線形のずれ8 cm

側溝内に落ち葉等の積もり

(1) 排水工の設置状況等 (2) 変状状況

C( ) 上

B 壁笠

コン

表層

コン

フェンス

車止めブロック

U 型側溝( ) グレーチング蓋

ガードレール

排水桝

ポール( ) 照明・監視カメラ用

排水管

A 壁

表層コン

笠コン

~排水桝 側溝コーナー部近辺は特に表面沈下が大きかった

C( ) 上

B 壁

≒1.

7 m

クラック(a)

クラック

桝内外で目地の開き

クラック(b)

≒4

m

A 壁

≒0.5 m

≒1.8 m

≒4 m

表層割れ

側溝内にクラック

1 m

(側溝の曲がり 延長1 m)に対し線形のずれ8 cm

側溝内に落ち葉等の積もり

(1) 排水工の設置状況等 (2) 変状状況

目地の開き

溜まり水

駐車中の自動車

割れ

目地の開き

溜まり水

駐車中の自動車

割れ

クラック(b)

樹根

C( ) 上

笠コン

( ) クラック(b)周辺

排水管

クラック(a)

表層コン補修跡

樹根

( ) クラック(a)周辺

笠コンの破損( ) またはハツリ 跡

クラック(b)

樹根

C( ) 上

笠コン

( ) クラック(b)周辺

排水管

クラック(a)

表層コン補修跡

樹根

( ) クラック(a)周辺

笠コンの破損( ) またはハツリ 跡

(1) (2)

写真-10 排水枡の状況 写真-11 表層コンのクラック

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等で置換 なお、駐車場台数の確保などの理由で、上部駐車

場面積を減少させないようEPS工法による上記②

の工法で対策が実施された。

4.公園用地内 RC 擁壁の変状事例

4.1 概要

後の事例は、公園用地内(多摩部)擁壁の変状に

関し、変状原因と対策についての公園緑地事務所か

ら当センターに調査依頼があったものである。 擁壁は公園用地と民地との用地境界線に設置され

た、高さ約 80cm の RC 製擁壁である。擁壁の前面側

が官民境界となっており、延長約 9mにわたって民

地側(建売分譲住宅地)に 大約 40cm はらみ出し、

一部は分譲住宅の給湯器に接していた(写真-12,13)。 当センターでは、平成 18 年 6 月 5日に行った現地

調査を踏まえ、変状の原因と対策について検討をお

こなった。

4.2 経緯

擁壁が変状するまでの経緯は以下のとおりである

官民境界(擁壁)

擁壁はらみ出し

最大約40cm

写真-13 擁壁の変状状

擁壁下部の露部(≒10~15c

塀ブロック部(≒30cm)

コンクリート擁壁部(≒40cm)

写真‐14 擁壁前面側

の状況

擁壁下部からの土砂の流出(一部背面側上部に繁茂していたと思われる草の流出している)

写真-15 擁壁下部の

土砂流出状況

B 壁

C( ) 上

A 壁

C( ) 上

:(~

1 1.5

1.8

5 %程度

3 m (~ )≒2 2.3 m

(~ )≒5 5.3 m

3 m

(~)

≒2

2.

3 m

(~)

≒5

5.

3 m

既設擁壁

嵩上げ擁壁B 壁 コンクリートまたはモルタル

排水工

B 壁

C( ) 上

A 壁

C( ) 上

:(~

1 1.5

1.8

5 %程度

3 m (~ )≒2 2.3 m

(~ )≒5 5.3 m

3 m

(~)

≒2

2.

3 m

(~)

≒5

5.

3 m

既設擁壁

嵩上げ擁壁B 壁 コンクリートまたはモルタル

排水工

図-22 嵩上げ擁壁及び裏込め土の一部撤去

表-3 着眼すべき変状の項目とチェックリスト 1)

隣接擁壁部(健全部)の下部

掘削前の民地側高さ(土の痕跡)

約30cm

宅地造成工事で掘り下げた可能性あり

写真-16 隣接擁壁(健

全部)の下部

公園用地

建売分譲地(民地)

官民境界(擁壁)

変状範囲約9m

写真-12 現場概況

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①擁壁部分を含めた当該公園用地は、平成 17 年度

に用地買収を行った。 ② 用地買収当時は、民地側は空き地であり、擁壁

の変状は無かった。 ③ 用地買収後、擁壁上部のブロック塀の撤去、擁

壁背面側の木杭による柵の設置、公園用地側の除

草シート設置を行った(現況の形)。 ④ 用地買収後、民地側で建売分譲住宅の造成およ

び住宅建設が行われた。 ⑤ 建売分譲住宅は、平成 18 年 5 月に完成し、販

売を開始した。 ⑥平成 18 年 5 月 24 日に、東京で豪雨があり(練

馬で時間降雨強度 100 ミリ以上)、数日後に分譲

住宅販売会社(民地側所有者)から、所管事務所

に擁壁変状の報告と擁壁の補修の要望があった。

4.3 現地調査

平成18年 6月5日に現地調査を実施した結果は以

下のとおりである。 ①擁壁は、延長約 9m にわたり、そのほぼ中央部で

大約 40cm 民地側にはらみだしていた(写真

-12,13)。

擁壁の構造は、下部約 40cm の高さにコンクリート

擁壁(壁厚 14cm)、その上部に高さ 30cm の塀ブ

ロック(厚さ約 10cm)1 段が乗っている構造であ

る(写真-14)。 ② 擁壁が変状した区間は、擁壁躯体下の地盤が約

10~15cm 露出しており、露出部から民地側に土砂

が流出していた(写真-14)。 ③ はらみだした擁壁背面の土は、大きく沈下して

いた(写真-15)。 ④ 隣接した擁壁は、基礎部分が根入れされており、

はらみだしのような変状は認められなかった。ま

た、隣接した擁壁の下部に現民地高さから約

30cm の高さまで、土に埋まっていた痕跡が認め

られた(写真-16)。

4.4 擁壁変状原因の推定

現場調査と過去の経緯から擁壁変状の過程を推察

すると以下のとおりである(図-23)。 ① 用地買収時の擁壁は、擁壁を背面土圧に対して、

根入部の抵抗土圧と擁壁底面の支持力が確保され

た安定した状態であり、通常の擁壁として機能し

ていた(図-23(1))。

⑥擁壁下部の土砂流出に伴う背面土砂の崩壊

⑤雨水浸透による土砂流出

除草シート

木杭

⑦背面土水圧の増加と下部土砂流出による支持力不足による擁壁前面側への変状

塀ブロック

コンクリート擁壁部

木杭

背面側土圧

擁壁自重W

擁壁底面摩擦抵抗

根入れ部の抵抗土圧

擁壁が動こうとする方向

除草シート

擁壁底面の支持力

背面側土圧に対して、根入れ部抵抗土圧と底面支持力により安定した状態

塀ブロック

コンクリート擁壁部

官民境界

木杭

背面土の自立性と擁壁底面の支持力で辛うじて持ちこたえている状態(不安定な状態)

民地側掘削による抵抗土圧の喪失

民地側掘削による支持力低下

塀ブロック

コンクリート擁壁部

木杭

①平成18年5月24日の豪雨(練馬で時間降雨強度100ミリ超)

②除草シートの遮水効果により表面流水の擁壁部への集中

③擁壁背面への雨水浸透

④擁壁下部露出部への雨水流出

(1)当初(安定) (2)民地側掘下げ(不安定)

(3)降雨による雨水浸透と土砂流出 (4)擁壁の変状と背面地盤の崩壊

官民境界官民境界

官民境界

除草シート

図-23 推定した擁壁変状過程

Page 14: 22. 既設擁壁の変状原因と対策に関する検討事例11月までの変状計測結果(傾斜角は平成15(2003) 年8月から計測開始。計測位置は図-3)と平成18年

② その後、民地側で宅地造成工事が行われ、写真

-16に見られるように、約 30cm 掘下げられたもの

と推定できる。これにより、擁壁は根入れ部の抵

抗土圧と底面支持力が期待できない状態になり、

背面土の自立性にだけ期待した不安定な状態にな

った(図-23(2))。 ③ 平成 18 年 5 月 24 日に、当該用地の近傍である

練馬区で時間降雨強度 100 ミリ超の豪雨があった。

また、公園用地側には除草のためのシートが全面

に敷かれており、降雨が用地全体に浸透せず、用

地端部の擁壁側に集中的に流出した。この雨水は

擁壁背面の地盤と擁壁の間に浸透・流入し、擁壁

下部の土の露出部から、土砂とともに流出した(図

-23(3))。 ④ 擁壁は、支持力を失うとともに、擁壁背面の土

水圧の増加で前面側(民地側)に大きく変位した

(図-23(4))。

4.5 対策案

当時は梅雨入りの時期でもあり、降雨等により更

に民地側への土砂の流出することが懸念されたため、

擁壁・背面土砂の除去、排水溝の設置、土砂流出防

止のための土嚢積(図-24)を迅速に実施するよう提

案した。

5. おわりに

本報で紹介した検討事例は、いずれも擁壁の種類、

形状、変状形態等が異なり、推定された原因に応じ

て提案した対策工も異なっている。

擁壁は、用地境界の段差などに設けられることが

多いため、擁壁の変状が隣接地とのトラブルの原因

や、崩壊による歩行者等への第三者被害に直結する。

このため、変状原因の究明については可能な限り客

観的におこなうこと、また、その原因に応じ適切か

つ迅速な対策工を実施する必要がある。本報告で紹

介した事例が今後の擁壁の維持管理あるいは設計す

る際の一助になれば幸いである。

参 考 文 献

1) (社)日本道路協会(1998):「道路土工 擁壁工指針」平成 11 年 3月

2) (社)日本道路協会(2001):「道路橋示方書・同解説 Ⅳ下部構造編」平成 14 年 3月

3) (社)日本建築学会(2001):「建築基礎構造設計指針」平成 14 年 10 月 1 日

4) (社)地盤工学会(1997):「N 値と Cとφの活用法」平成 10 年 4月 10 日

5) 石原研而(2000):「土質力学(第二版)」,丸善

官民境界

遮水シート

土嚢積みによる土砂・雨水等の流出防止

法面勾配(1:1.5~1.8)

土嚢積

排水溝の設置(排水先の検討要)

図-24 応急対策案