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平成 23 年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 報 告 書 平成 24 年 3 月 北 海 道 森 林 管 理 局

平成23年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事 …...平成23年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 報 告 書 平成24年3月 北 海 道

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平成 23 年度

くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業

報 告 書

平成 24 年 3 月

北 海 道 森 林 管 理 局

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くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 報告書

目 次

1.事業の背景と目的 ・・・1 (1)目的 (2)本事業で明らかとする内容 2.捕獲手法 ・・・2 (1)事業実施箇所と実施箇所数 (2)本事業で使用したワナの種類 (3)捕獲個体の処理について (4)実施体制について (5)設置場所の考え方 (6)捕獲のための餌付け (7)捕獲事業地における希少猛禽類調査 3.結果 ・・・18 (1)捕獲状況 ①捕獲概要 ②発生した主な不具合 (2)自動撮影装置による観察結果 ①ワナを忌避する個体 ②捕獲された個体と他の個体の様子

(3)捕獲個体の損傷状況 (4)有効利用について (5)餌付けの効果 (6)猛禽類調査の結果 4.連絡協議会 ・・・33 (1)第 1 回連絡協議会 (2)第 2 回連絡協議会 5.まとめ ・・・38 (1)くくりワナの長所と短所 (2)北海道の冬期におけるくくりワナの利用可能性

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①冬期利用のために考えられる主な改良点 ②冬期に設置するために便利な装備品 ③止め射しの手法 ④森林施業との組み合わせ

(3)今後の課題

巻末資料 資料 1 自動撮影装置の結果 資料 2 作業の状況

資料 3 平成 23 年度 猛禽類の調査結果 調査野帳及び飛翔図

資料 4 くくりワナに装着した標識

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くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業

報告書

1.本事業の背景と目的

(1)目的

北海道におけるエゾシカ生息個体数の増加を踏まえ、これまでも北海道や地元市町村

等では様々な取り組みを行ってきたが、

①銃器による強い捕獲圧が継続されたことにより警戒心が高まり逃避行動をとるよ

うになったこと。

②狩猟者の減少と高齢化等により、銃猟のみでは個体数調整が困難であること。

③捕獲後の残滓処理問題の増加

等により、駆除方法や体制についての見直しが求められている。

このため、個体数調整の一環として平成 21 年度から実施している「囲いワナ」に加え

「くくりワナ」を利用した捕獲事業を行い、安全で効率的な捕獲方法の実証実験等を行

い、有効なエゾシカの個体数調整に資する方法等の検討を目的とする。

(2)本事業で明らかとする内容

くくりワナは、これまで冬期の利用はあまり行われてこなかった。この理由として、

冬期は積雪の上にワナを仕掛けるので地面がやわらかくワナ設置に不向き、凍結等によ

る誤作動が起こりやすい、ワナの上に雪が積もることによる不具合等が指摘され、「くく

りワナは秋まで」と一般的によく言われていた。一部のハンターの間では、北海道にお

ける冬期でもくくりワナを実施してきたが、系統立った試用と不具合等の取りまとめは、

あまりなされてこなかった。

さらにくくりワナは捕獲されてから個体が暴れることから、その後の食肉としての有

効活用には不向きといわれることが多い。また、捕獲されてから止め射しをされるまで

に時間がかかることから、動物福祉上、いたずらに捕獲個体を傷付けるという点でも課

題がある。

一方、北海道立総合研究機構の南野らは、函館地域においてくくりワナを冬期に実施

し、食肉として利用している事例を平成 23 年度の哺乳類学会において発表した。もしも

冬期にくくりワナを利用して、食肉等としての有効活用が期待できるならば、本手法は

今後の個体数管理手法にとって大きな期待が持てる。

その他にも、冬期にくくりワナを利用することで、①越冬地のようにエゾシカが過密

に利用する場所において集中的に設置することで高い捕獲効率が望めること、②冬期に

利用することで、ヒグマの錯誤捕獲や、捕獲されたエゾシカをヒグマが捕食する等の弊

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害をある程度減らすことができる、といったことが考えられる。さらに、止め射しの作

業を除き、銃を用いた捕獲ではないので、周辺の森林施業への安全配慮、希少猛禽類の

繁殖への配慮、といったことも優れた点であると考えられる。

そこで本事業では、実際に冬期の道東地域においてくくりワナによる捕獲を実施し、

①冬期のくくりワナの設置手法の事例蓄積

②発生する不具合

③冬期の利用に適したワナ

④食肉等としての有効活用に向けた課題

⑤止め射しの手法

⑥森林施業との組み合わせ

等について整理し、今後の国有林や北海道内における、冬期のくくりワナ利用のため

の資料とする。

2.捕獲手法

(1)事業実施箇所と実施箇所数

本事業でくくりワナを設置した上足寄(ハヤトの沢林道)と中陸別(取布朱林道)の

位置図を図-2.1、図-2.2 に示す。以下、各実施箇所を「足寄地区」「陸別地区」と称する。

くくりワナの設置は月曜日~金曜日までワナを開放し(5 日間)、土日はワナを閉鎖し、

これを 2 週間実施して「1 クール」として、ワナの位置を変更した。

また、当初、ワナは 10 基を一組とし、これを林道脇 100m 以内の範囲内に 1「地点」

に「集中的」または「ライン状」に設置した。この「地点」は、事業の初期はワナを新

規に設置する前の週の水曜日までに十勝東部森林管理署に申請を行うこととした。その

後、ワナ設置の自由度を向上させるため、前の週の木曜日までに「エリア」で申請する

ことに変更された。

設置ワナ数は、当初は 30 基(足寄 20 基、陸別 10 基)で開始したが、冬期の悪天候の

こともあり、計画通りにはワナが設置できないことが続いた。このため、本事業の仕様

で定められている 1500 ワナ・日(ここで「ワナ・日」とは、「設置ワナ数×日数」を示

す)を満たすため、平成 24 年 1 月 16 日より 40 基(足寄 20 基+陸別 20 基)に変更し

た。また、2 月 27 日からは 30 ワナ(足寄 15 基、陸別 15 基。3 月 1 日より足寄 20 基、

陸別 10 基)とした。

足寄及び陸別地区における各クールの工程表と設置位置を表-2.1、図-2.3 及び図-2.4 に

示す。

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上足寄ハヤトの沢林道

図-2.1 上足寄 ハヤトの沢林道 位置図

取布朱林道

至:本

岐→

←至

:陸別

市街

中陸別

図-2.2 中陸別 取布朱林道 位置図

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表-2.1 各クールの工程表

第1クール

第2クール

第3クール

第4クール

第5クール

第6クール

第1クール

第2クール

第3クール

第4クール

第5クール

第6クール

 ・1クールは2週間(平日5日間)とする。 ・年末年始(12月28日~1月8日)はワナを閉鎖した。

足寄

陸別

作 業 工 程

12月 1月 2月 3月地 区

9 20

10 20 10 20 10 20 10 20

23 3

6 17

20 2

22 13

19 28

16 27

30 10

13 24

5 7

27 2

5 7

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図-2.3 足寄地区のクール別 設置箇所一覧

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図-2.4 陸別地区のクール別 設置箇所一覧

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(2)本事業で使用したワナの種類

事業実施に当たり、数種類のワナの操作性等をチェックし、最終的に 3 種類のワナを

選択した。操作性のチェックを行ったワナを表-2.2 に示す。

表-2.2 本事業で操作性をチェックしたワナ

本事業では、操作性、ワナの作動速度、その他総合的に判断し、K 式、S 式、W 式を

利用することとした。それぞれのワナの写真を図-2.5~2.7 に示す。

会社名 品版(名) 使用したワナ

2 N社 K式ワナS型

OM-1

OM-21

OM-22

OM-2

S式

S式大型用 ○

W式 ○

W式 アルミ製

S社

O社

5

4

W社

1

3

M社 K式ワナ

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図-2.5 K 式ワナ

図-2.6 W 式ワナ

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(3)捕獲個体の処理について

本事業で捕獲された個体は、陸別の食肉加工場「北日本ドゥリームハント」に搬送し

有償で処分等を依頼した。捕獲した個体は、損傷の激しい部分以外は一部食肉とし、食

味等について検討を行った。

一般に、くくりワナによって捕獲された個体は血が回って食味が悪く、食肉に不向き

であると言われる。ただ、今後、くくりワナを用いた個体数調整を検討するのであれば、

有効活用の一環として、食肉としての利用可能性を検討しておく必要があると考える。

このため、捕獲個体の外部損傷の状況、解剖時の内出血の状況を記録し、前述の食味試

験等を合わせて行うこととした。

図-2.7 S 式

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(4)実施体制について

本事業では、表-2.3 に示すような体制で実施した。平日の見回りとメンテナンスに要す

る人数は 2 名であるが、適切にワナを設置するために月曜日は 2 名 1 チームで 2 チーム

を準備する必要があった。

表-2.3 本事業の実施体制

捕獲個体については、本章(3)に述べたように、北日本ドゥリームハントに搬送す

る体制とした。作業の流れを、以下の図-2.8~2.13 に示す。

曜 日 作業内容 人数等

月曜日 ワナ移設もしくは開放 4 名 車両 2 台

火曜日~金曜日 見回り、メンテナンス 2 名+ハンター1 名 車両 1 台

図-2.8 K 式ワナ設置作業風景

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図-2.9 W 式ワナ設置風景

図-2.10 S 式ワナ設置風景

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図-2.11 自動撮影装置の設置風景

図-2.12 見回り風景

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図-2.13 北日本ドゥリームハントにおける解体作業

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(5)設置場所の考え方

くくりワナの設置方法は、一般的にはエゾシカの通り道に設置することとされている

(狩猟読本等による)。これに対して、くくりワナを多く利用するハンターはそれぞれ独

特の手法を工夫しており、周辺の環境や状況に合わせて臨機応変に設置しているため、

理論通り進まないのが現実である。くくりワナで好成績を得ているハンターで共通する

のは、エゾシカの習性をよく理解し、歩くルート、動き等を予測し、この予測に基づい

て戦略を立て、くくりワナをひとつひとつ丁寧に設置していることである。こうした考

えなしに設置しても、思ったような捕獲効率を得られない。図-2.14 及び図-2.15 に、ワ

ナの設置風景を示す。また、図-2.16 には、くくりワナを設置する場所の概念図を示す。

さらに表-2.4 にはワナを設置する場所やテクニックを取りまとめる。

ワナ

誘導用の障害物

図-2.14 くくりワナの設置場所 その 1

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ワナ

想定しているシカのルート

ワナワナ

想定しているシカのルート

図-2.15 くくりワナの設置場所 その 2

法面など段差を利用ここにしか足を着く場所がない

倒木などを利用して障害物とする

倒木などを利用してルートを制限する

休み場所・シカ道の交差点 など

雪を掘り返してササなどを出す

・・・ワナのイメージ

シカ道

図-2.16 くくりワナの設置場所 概念図

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表-2.4 くくりワナを設置する場所やテクニック

項 目 内 容

休憩場所に設置 針葉樹の樹冠下の休憩場所となっている箇所に 1~3基ずつ

設置。

通り道に設置 休憩場所と休憩場所をつなぐ回廊状の場所や餌場に続く道

に設置。

所 採食場所に設置 ササが露出している場所等に設置。弱度の除雪を行い、サ

サを露出させるという工夫もある。

障害物を利用①

落枝の立てかけ

足跡が Y 字に延びる場合は、太目の落枝を行かせたくない

方向に立てかけて障害物とする。

障害物を利用②

シカ道の幅を狭める

シカ道の幅が広い場合は、落枝をシカ道の上に平行に置き、

枝と枝の間だけ踏めるように工夫する。

障害物を利用③

枝を股がせる

シカ道に直角に太目の枝を置く。シカはこれを跨ぐように

して歩くが、この際、足が着きそうな場所に設置。

段差を利用 階段状の地形の場合、どのように歩いてくるかを想像し、

必ず足を着く段差の中央部に設置。

等 硬い積雪箇所に設置 やわらかい雪(さらさらした雪)の上では、ワナの底面が

安定しない。積雪深が極端に薄い箇所も不向き。

(6)捕獲のための餌付け

本事業では、2 月からワナ周辺に餌を少量撒き、エゾシカを誘引した上で捕獲を試み

た。使用した餌はビートパルプペレットと圧片トウモロコシである。これらを選んだ

理由は、ビートパルプペレットは多くの捕獲で一般的に使われており実績が高いこと、

また、圧片トウモロコシはエゾシカにとって魅力的であり有引力が強く、ヒグマが基

本的に冬眠している季節であるため利用可能と判断したからである(図-2.17)。

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3.結果

(1)捕獲状況

①捕獲概要

本事業の捕獲状況を表-3.1 に示す。本事業を通して、合計 17 頭を捕獲した。設置し

たワナ数は 1800 ワナ・日で、全体の捕獲効率は 0.94%であった。このうち、オス成獣

は 2 頭、メス・仔は 15 頭であり、メス・仔の比率が高い状況であった。

捕獲作業を開始した 12 月 19 日から 2 月 8 日まで、捕獲が得られなかった。その一

方、2 月 9 日以降、1 週間に 3~5 頭というペースで捕獲された。これは、1 つには積

雪が増加、安定し、シカ道や休息場所が固定してきたという季節的な要因と、作業員

のスキルが向上したという人的な要因があるものと思われる。作業員はこれまでエゾ

シカの捕獲に何度も従事した経験者であったが、本事業で地元のベテランハンターと

組み合わせて日々共に巡回し、どのような場所をエゾシカが利用するか、あるいは、

どのようにワナをかけるか、といった知識や技術を学んだ。こうした条件が重なり、2

月からの捕獲効率が急速に向上したものと思われる。以下、捕獲された個体の例を示

す(図-3.1 及び図-3.2)。

表-3.1 捕獲の状況

捕獲数 オス メス・仔 処理

2月9日 1 1 一部食味試験2月14日 1 1 廃棄2月15日 1 1 一部食味試験2月17日 1 1 一部食味試験2月21日 2 1 1 廃棄2月24日 4 4 一部食味試験2月28日 1 1 廃棄3月2日 3 1 2 一部食味試験3月6日 2 2 一部食味試験3月7日 1 1 一部食味試験

17 2 15

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図-3.1 捕獲個体の例(1 頭目 2 月 9 日)

図-3.2 くくられた足の様子

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地域と捕獲数の間には顕著な差は見られなかった。足寄は合計 10 頭(1005 ワナ・

日設置:1.00%)、陸別は 7 頭(795 ワナ・日設置:0.88%)であった。

また、ワナの種類と捕獲効率についてもほとんど差は見られなかった。ワナ別の成

績結果を表-3.2 に示し、ワナ別の捕獲率等については表-3.3 に示す。

捕獲数は S 式が件数は少なかったが、1 ワナ・日あたりの捕獲効率(捕獲頭数/ワナ・

日)は最も高く約 1.6%であった。ただし誤作動率も S 式は最も高かった(2.0%)。た

だし、全体的に顕著に高い値や突出した値を示しているわけではない。これから考え

ると本事業で用いたワナは、おおよそ捕獲効率に差がないものと思われた。

表-3.2 ワナ別 成績

メス成獣

オス成獣

メス仔 オス仔シカ合計

錯誤捕獲

捕獲合計

空落ち 凍結誤作動合計

K式 3 0 0 1 4 1 5 3 1 4 9 604

S式 2 1 0 1 4 0 4 5 0 5 9 255

W式 5 0 2 1 8 0 8 11 2 13 21 941

合計 10 1 2 3 16 1 17 19 3 22 39 1800

作動回数=捕獲合計+誤作動合計

注:表中の数字は「回数」を示す

作動回数

ワナ・日事業全体

捕獲 誤作動

表-3.3 捕獲率等の各種値

事業全体 シカ捕獲率 錯誤割合 空落ち率 凍結率 誤作動率 稼働率

K式 0.7 0.2 0.5 0.2 0.7 1.5

S式 1.6 0.0 2.0 0.0 2.0 3.5

W式 0.9 0.0 1.2 0.2 1.4 2.2

合計 0.9 0.1 1.1 0.2 1.2 2.2

シカ捕獲率=捕獲頭数/ワナ・日 注:値は全て % で表示

錯誤割合=錯誤捕獲/ワナ・日

空落ち率=空落ち回数/ワナ・日

凍結率=凍結発生数/ワナ・日

誤作動率=(空落ち回数+凍結回数)/ワナ・日

稼働率=(捕獲頭数+空落ち回数+凍結回数)/ワナ・日

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②発生した主な不具合

本事業で発生した主な不具合を以下に示す。

<ワナの破損による取り逃がし>

図-3.3 は、ワナのワイヤーの留め金が緩み、ワイヤーが抜けることで捕獲した個体を

取り逃がした例である。捕獲された個体は、くくりワナごと逃走し、立木に固定した

ワイヤーだけが残されていた。

くくりワナを利用する場合は、しばしば同様の不具合が発生するが、動物福祉的な

観点からもこうした事故は可能な限り排除する必要がある。本件が発生したのは 2 月

15 日であった。直ちに本事業の担当官に報告すると共に、同型式のワナの全ての金具

のチェックを行い、かつ、留め金を二重にするという措置を講じ、その後はトラブル

は発生していない。ワイヤーに図-3.3 のような留め金を使用するワナについては増し締

めを徹底する等の処置が極めて重要である。

留め金

図-3.3 ワナの留め金が外れ、取り逃がした例(赤円内は適正な留め金)

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<すり抜け>

エゾシカがワナを踏んでワナが作動したにも係わらず、何らかの理由で足が抜けて

逃走したと思われる事例を「すり抜け」とする。すり抜けは、本事業の中で大変多い

頻度で発生した(図-3.4)。

発生の原因としては、ワナが作動した後に捕獲個体が暴れた際に抜けることが考え

られる。その他、つま先の片方の爪だけがくくられた、あるいは締め付けられた際、

締め付け防止金具のため口径が足の太さに対して大きかった等が考えられる。

締め付け防止金具は法律によって定められている。ワナが作動した際、最小となる

口径を適切な大きさとなるように工夫する必要がある。

図-3.4 すり抜けが発生したワナ

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<ワナの縁を踏まれることによる誤作動>

すり抜けとは異なり、ワナの縁を踏まれることによって発生する空落ちである。発

生頻度は少なく、また予防するということは大変難しいが、どのルートをエゾシカが

歩くのか、という予測を適切に行う必要がある(図-3.5)。

<凍結による誤作動>

冬期に発生しがちと思われる誤作動に凍結があるが、一概に凍結といっても様々で

ある。ワナと上部の積雪が完全に凍結して、ワナの中心を踏まれたにも係わらず全く

ワナが作動しないという例も見られた(図-3.6)。また、K 式や W 式のようなアームが

「立ち上がる」ような動きをするワナでは、可動部分が凍結し、動作が鈍くなること

で、誤作動が生じた(図-3.7)。

主な対策として以下のような項目が考えられた。

対策1:気温が上がった日には、全てのワナの可動部の動作を点検し、水滴等がつ

いていると判断すればスプレー式の潤滑油を塗布する。この際、臭いが気

になるが、本事業では、明らかにこの臭いを忌避している様子は観察され

踏まれたと思われた場所

図-3.5 ワナの縁を踏まれた事

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ていない。

対策2:偽装用の雪を少なくするために、ティッシュペーパーやキッチンペーパー

をワナの上面に設置し、少量の雪を被せる等した。なお、これらのペーパ

ー類は、「すり抜け」の原因ともなるので、様子を見ながら使用する。

対策3:ワナの上の偽装用の雪は、必要以上に置かない。偽装用の雪は、気温に合

わせて多くしたり少なくしたりと調節する。

ワナの外周

ワナの中心近くを踏まれているが作動せず

足跡

図-3.6 ワナ中心部を踏まれたにも係わらず作動せず

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<錯誤捕獲>

本事業では 1 例の錯誤捕獲があった。2 月 27 日にタヌキが錯誤捕獲された。両手を

縛られた状況で発見されたため、ワナから魅力的な臭いが出ていたか、誘引用に設置

した餌を採食したものと想像された。締め付け防止金具が作動していたので、現場で

リリースした。

くくりワナに限らず、ワナを使用していると錯誤捕獲の可能性が排除できない。錯

誤捕獲を避けるには、誘引用の餌を変更すること等が考えられる。また、見回りの頻

度を上げることで、捕獲された動物をいたずらに傷付けることがないと考える。

<ワイヤーの破損>

くくりワナには「よりもどし」が装着されており、そのままではワイヤーが絡まる

ようなことは発生しないが、捕獲された個体が暴れることにより、ワイヤーが木に絡

まる等して「よりもどし」が作動しなくなると、ワイヤーがよじれるトラブルが発生

する(図-3.8)。本事業内では、2 例見られたが、幸いにワイヤーを切断して逃走する

には至らなかった。対策として、確実に「よりもどし」が作動するように確認しなが

らワナを設置することが重要であることと、周辺の立木密度等に配慮して設置するこ

と等が考えられる。

図-3.7 赤丸で囲った部分の可動部が凍結し、誤作動が発生

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図-3.8 ワイヤーのよじれ。捕獲個体が暴れることにより発生

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(2)自動撮影装置による観察結果

①ワナを忌避する個体

くくりワナを設置した箇所の前で立ち止まり、明らかに気配等を察知して引き返す

という事例が見られた(図-3.9)。

図-3.9 に示すような行動が、ワナに気づいて立ち止まっているのか、あるいはその他

の何らかの気配に気づいて立ち止まっているのかは明らかでない。ただ、不自然なワ

ナのかけ方をしていると、その箇所を忌避することがしばしば観察された。例えば、

ワナの上を明らかにそれて歩く足跡等が見られている。くくりワナを設置するには、

「自然な偽装」の技術が極めて重要であると言える。

②捕獲された個体と他の個体の様子

自動撮影装置による観察で、2 例だけ捕獲の瞬間を撮影することに成功した。この

撮影記録を仔細に観察すると、捕獲の瞬間に個体は飛び跳ねて逃げようとし、かな

り暴れている様子が確認された。しばらく暴れた後、しばしば静かになるものの、

時折激しく暴れて逃げようとしている様子が伺えた。さらにある程度経つと、ほと

んどの個体は消耗するのか座り込んでしまい、他の個体が近づいてもあまり動かな

くなる(図-3.10)。

捕獲された個体以外の個体は、捕獲の瞬間は逃げるが、数時間すると戻ってくる

こともあり、平然と周辺で餌等を採食している様子が見受けられた。

その夜

図‐3.9 設置したワナの場所を忌避する様子(赤円がワナの位置)

ワナの前で立ち止まり、後退した。

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捕獲された個体に他の個体が近づくことは、2 例共に見られた。1 地点には数個のワ

ナが設置してあるため、近づいてきた個体がさらに捕獲されるということもまれにあ

り得る。本事業の中では、1 例だけ、同地点で 2 頭の捕獲があった(図-3.11)。

図-3.10 捕獲から約 10 時間後の記録映像。画面中央(赤円内)に捕獲さ

れた個体がいるが暴れず、画面右(緑円内)に別の 2 頭が平然と近づく。

図-3.11 同地点で 2 頭を捕獲した例

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(3)捕獲個体の損傷状況

捕獲された個体について、個体を引き取っていただいた食肉処理施設の協力のもと、

可能な限り解体作業に立会い、損傷や内出血の状況を記録した。

全ての個体において、実際にくくられた足は内出血が著しく、その足については食用

は一見して不可能と思われた(図-3.12)。

くくられた箇所はワイヤーが深く肉や骨に食い込むので内出血を起こすが、それ以

外の部位にも内出血が見られる(図-3.13 及び図-3.14)。

図-3.12 くくられた足(左)と、その箇所の内出血(右)

図-3.13 左:くくられた足のかかとの部分における内出血

右:くくられた足のすねに当たる部分に見られる内出血

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また、目立った外傷としては、くくられた部分の皮膚が破れることによる出血が最も

多く、ほとんどの場合で見られた。

また、オス個体で 1 例のみ、開放骨折が見られた。くくられた足ではなく、反対側の

足が骨折しており、無理に逃亡しようとしたものと思われた(図-3.15)。

図-3.14 内モモ部分まで見られる内出血。斑点状に出血している。

図-3.15 オス成獣で見られた開放骨折の例

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捕獲された 17 件の事例をまとめると、くくられた足は基本的に自家用でも食用にでき

ない損傷を受けていた。また、その他の部位まで内出血している事例も見られた(モモ

やロースの部位まで)。しかし、全頭が激しい損傷を受けていたということはなく、仔の

ように小さな個体であれば、見た目はあまり損傷を受けていないように見られる個体も

あった。

捕獲個体の損傷は、くくられた部位の出血や内出血と、それ以外の部位の内出血や外

傷に大きく 2 分される。個体サイズが小さい場合は、見た目の損傷はかなり小さなもの

であったが、商品として食肉利用を考えるならば、見回りを 1 日 2 回以上等の対策が必

要であると考える。こうすることで、肉の損傷は最小限に抑えられ、また、動物福祉に

も配慮した捕獲ができるものと思われる。そのためには、見回るワナの配置、体制、ワ

ナの数等の調節が必要なると思われる。

(4)有効利用について

本業務では捕獲した個体は食肉処理業者へと引き渡すことが定められていたが、許可

捕獲の範囲では「有効利用後に廃棄」とされていたので、この範囲で、職員による食味

試験を行った(図-3.16)。

図-3.16 作成された調理例

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4.連絡協議会

本業務における 2 回の連絡協議会は、別業務である「平成 23 年度 エゾシカの生体捕獲

による食肉等としての有効活用事業」の連絡協議会と合同で実施した。有識者委員メンバ

ーについて、表-4.4 に示す。この表以外に、第 1 回会議では足寄町、陸別町、及び北日本

ドゥリームハントの代表が参加した。

(1)第 1 回連絡協議会

①実施概要

平成 23 年度連絡協議会の第 1 回会議は平成 23 年 12 月 21 日に上足寄ハヤトの沢林

道において現地を見学し、その後、十勝東部森林管理署において室内討議を実施した。

主な議題は以下の通りである。

・平成 23 年度実施場所

・使用する主なくくりワナ

・本年度の狙い(冬期にくくりワナを利用する点について)

・わな設置の考え方等

表-4.4 連絡協議会の委員及びオブザーバー

氏名 所属

座長近藤 誠司

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター  教授

梶 光一 東京農工大学 教授

井田 宏之 社団法人 エゾシカ協会  事務局長

稲富 佳洋地方独立行政法人 北海道立総合研究機構環境科学研究センター自然環境部 道東地区野生生物室   研究職員

松浦 友紀子 独立行政法人 森林総合研究所北海道支所  主任研究員

新井田 利光 財団法人 前田一歩園財団  常務理事

曽我部 喜市 北泉開発株式会社   代表取締役

宮津 直倫 北海道庁 環境生活部 環境局 エゾシカ対策室

富沢昌章 釧路総合振興局 環境生活課 自然環境係

渡辺 洋之 環境省釧路自然環境事務所 野生生物課

委員

オブザーバー

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②議事概要

<安全性について>

発言者 内 容

環境省 最後の止め射しについてですが、銃を使う際に希少猛禽類の調査を

するのか→実施予定です(事務局)。

委 員 止め射しの手法について。銃器を選んだ理由は?

→様々な手法を試行したほうが良いとは思っているが、素早く確実

にということで選択した。他の手法としては、電気ショック等が考

えられるが、技術的にも相談させてほしい(事務局)。

委 員 安全性が懸念されるが、対策や規制はあるか。

→注意喚起看板等を設置して実施する。また法的には 1 従事者 30

基まで、というような縛りがある(事務局)。

<事業実施箇所について>

委 員 今回可猟区で実施するが、一般ハンターとの住み分けはどうするか。

→足寄も陸別も役場が猟友会の事務局である。ここに話をしており、

基本的に了解を得ている。

委 員 可猟区に今回の事業の場所を選んでいるため、位置づけが難しい。

普通ならば人の入らないところでやると、エゾシカも集まってきや

すいと思うが、ある程度理由付けが必要と思う。

十勝東部森

林管理署

署 長

あの場所はかつて狩猟禁止にしたこともある。これは職員の安全確

保が理由であった。そこで、くくりワナであれば止め射しで銃は使

うが職員の危険性は少ない。

陸別町 それを実施してもらうと、地元としても大変助かる。

委 員 とは言ってもやはりある程度捕獲をせねばならないのであれば、今

回の実施場所は整合性が取れないのではないか。

十勝東部森

林管理署

署 長

足寄のあの場所では、1 月から 2 月末まで造材作業があるので、一

般狩猟は閉鎖となる。

委 員 そうした作業の際に作られる土場にエゾシカが集まってきたりする

こともある。そうした場合は、設置場所をフレキシブルに変えてい

く必要があるだろう。造材されるのは良い機会なので、色々と試し

てみるのが良いだろう。

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<冬期のくくりワナの有効性>

発言者 内 容

委 員 今回指導をしてくれるハンターさんは、冬期もくくりワナを使用し

ているのか。→使用している。12 月頃は雪が柔らかいので向かない

と言われている。

委 員 長野県でやられている事例では、ずらりとワナを並べて勢子で追い

立てて獲る方法等がある。

事務局 冬期の囲いワナについては蓄積された経験が少ないので、携帯する

道具ひとつにしても手探り。どのような道具が必要で、どうした問

題が出る、というようなことを取りまとめたい。

<くくりワナと有効活用>

発言者 内 容

委 員 くくりワナで捕獲された個体は、かなり内出血等する。

委 員 食肉としての有効活用を考えた場合は、1 日1回の見回りは少ない。

また、解体してみると内出血していたということも多々あるので、

ある程度解体して損傷を記録したほうが良いだろう。

→捕獲された個体は、可能な限り解体して損傷を記録したい

(事務局)。

足寄町 本事業で捕獲されたエゾシカの処分はどうするのか。

北日本ドゥリ

ームハント

小平町で肥料にする試験を実施していて、数年前から実施されてい

る。そこで、内臓も全て凍った状態で小平町に送っている。

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(2)第 2 回連絡協議会

①実施概要

平成 23 年度の第 2 回連絡協議会は、平成 24 年 2 月 22 日に、北海道森林管理局 4

階中会議室において実施した。第 2 回会議も「平成 23 年度 エゾシカの生体捕獲によ

る食肉等としての有効活用事業」との合同開催とした。会議では、くくりワナによる

捕獲の進捗状況を説明した後、囲いワナを含めて、今後の方針等の総合的な議論を行

った。

<捕獲の進捗状況について>

発言者 内 容

委 員 これまでに捕獲された性別と、各ワナの成績はどうか。

→オスは 1 頭だけで、それ以外はすべてメス。ワナは均等に捕獲さ

れている(事務局)。

委 員 雪のあるところで考えられる不具合は何か。

→凍結と柔らかい地面での動作不良(事務局)。

委 員 冬期にくくりワナを選択した理由は?

→越冬で生息密度が高いこと、ヒグマが基本的に寝ていることが理

由(事務局)。

釧路町 釧路市では鳥獣保護区が多いので、ここで実施している。効果は高

い。4 人のハンターが年間実施していて、120~130 頭捕獲している。

能力的にはもっと捕獲できると思う。止め射しは銃を用いている。

ハンターのスキルの話があったが、これを伝承していくことも重要

だ。

委 員 同じ地点で 2 頭かかること等はあるか。

→ある。一度だけ 1 地点で 2 頭かかった。

森林管理局

次 長

止め射しを刃物で行う場合は、エゾシカが向かってくるような危険

性は無いか。

→襲ってくるということはほとんど無いが、オスの場合は角がある

ので不慮の事故に万全の注意が必要(事務局)。

→角以外にも蹴爪が危険である。十分注意が必要(委員)。

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<これまでの事業の取りまとめ>

(「平成 23 年度エゾシカの生体捕獲による食肉等としての有効活用事業」と総合的に議論)

発言者 内 容

委 員 北海道には食肉処理場が 61 箇所(H22 年度)あり、外部からの個体を引き取るか

は別として、ほとんどの地域をカバーしている。また、持ち込まれる個体の食肉と

しての価値は 1 万円程度だと聞いている。学校給食等は養鹿して放血したものを使

用しているので、生体捕獲についてはコスト的には見合っていないのが現状であ

る。

委 員 大切なことは、国有林が自らの管理エリアで高密度のところを、いかに速やかに中

密度か低密度に持っていくかということだろう。また、重要なこととして、コンス

タントに獲り続けることである。囲いワナ、くくりワナ、シャープシューティング

等、それぞれの方法でシナリオを作ることが重要。シナリオがないと、それぞれバ

ラバラでやられているといて目的が分からなくなる。

委 員 有効活用という出口は重要であるが、何百頭もいっぺんに捕獲されたらどうなるか

という問題がある。しかし、これは別問題であり、頭数を減らさねばならないとい

う現状とは別の話だ。

委 員 今はそれぞれ試験的に実施されているが、今後、どのような体制で実施されるのか。

予算なしに対策を講じれないということを念頭に戦略を練るべきだろう。国有林の

中でどのように捕獲し、処理していく体制を作るのか、という観点でまとめていっ

てほしい。

計画部長 今回は囲いワナやくくりワナを実証的に実施して課題を抽出するということが目

的。今後、国有林としてどのような戦略で望んでいくかということについては、北

海道庁や関係機関と相談しながら進めて行き、中長期的な課題としたい。

委 員 一歩園財団は最初は自らの森林を守るために捕獲を行っていたが、阿寒地域でどの

ような対策をとるか、ということが重要であると考えるようになった。例えば阿寒

地域では、一歩園財団の役割、国有林の役割、観光地域の役割といった形で地域が

連携しながら話をしていく必要があると考える。

委 員 日本の林学には狩猟という観点が無くなっていることが言われるが、伐採で木を切

るということはシカに餌をやっているということになるので、伐採現場で櫓を組ん

でおいて同時に入ってきたシカを獲るという考え方もできる。北海道はヨーロッパ

の景観に近いので、中・低密度にすることは十分できるのではないか。

委 員 囲いワナについてはこの 3 年間でコストの面でも改良できたと思う。くくりワナに

ついては、スキルが上がればある程度の捕獲を期待できそうである。ただ、ここで

は囲いを、あそこではくくりワナをやってください、というのではなく、はっきり

したコンセプトを出していくべきだ。

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5.まとめ

(1)くくりワナの長所と短所

くくりワナは、大型囲いワナと比較すると機動性が高いという点が長所といえる。周

囲の痕跡の状況を見ながら、より濃厚な痕跡の箇所にワナを移動することができるのは

大きなメリットである。また、ワナ 1 基の値段が安価である点もメリットといえる。銃

器を用いた捕獲と異なり、夜間の捕獲が可能である点や、免許が銃猟よりも手軽である

という点も長所といえる。さらに、止め射しで銃器を用いることはあるが、基本的には

対人的な事故が少ない捕獲手法であると言える。仮に人間が長靴で踏んだとしてもかか

とを少しくくられる程度で怪我はほとんどない。止め射しは銃器を用いる以外でも手法

はあるので、森林施業との組み合わせも銃猟より容易である。

一方、ワナの設置にはある程度のスキルを要する点は短所と言える。くくりワナも囲

いワナも銃猟も、それぞれにスキルが必要ではあるが、くくりワナの設置は独特の考え

方と技術を要すると思われた。エゾシカの動きを読み、ストーリーを組み立ててワナを

設置し、1 つ 1 つ丁寧に偽装していく。この作業は極めて根気を要する作業であり、従事

者の資質を問われる。また、くくりワナを熟知した指導役も重要な役割を担う。こうし

た体制が取れるかどうかが、事業の成否を左右すると思われた。また、ワナを見回る労

力もかなり大きいものであった。本事業では、従事者 2 名で、ワナ 40 基を見回るのが限

界であり、もう少し少ないほうが作業効率は良いのではないかとも考えられた。

くくりワナの長所を活かすため、本事業では当初の計画の変更を申し入れ、ワナ設置

の考え方に自由度を持たせた(図-5.1)。

次回捕獲予定地を、前の週の水曜日までに「点」で管理署に伝える。

当初予定 変更後

次回捕獲予定地を、前の週の木曜日までにある程度の「区域」で管理署に伝える。

1地点10箇所を基本とする 1地点における設置数に自由度

を持たせることを可能とした

1地点設置すれば原則10日

間設置10日間の期間中でも、上記申

請の「区域」内であれば移設可能

図-5.1 本事業内で当初予定を変更した点

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初期の予定は、くくりワナをかける場所を前の週の半ばにピンポイントで伝える必要

があったり、設置個数が指定されていたり、日数が定められていたりした。こういった

項目は、くくりワナの長所である機動性を阻害する。エゾシカの痕跡は日々変化するの

で、次の週になれば全く痕跡がなくなるといったことも多々あるので、可能な限り自由

度を高めることとした。その結果、エゾシカの痕跡の多い箇所に柔軟に対応できるよう

になった。この変更は 2 月初旬頃に依頼したが、その後エゾシカの捕獲効率が上がった

ため、ある程度の効果があったものと考えている。

(2)北海道の冬期におけるくくりワナの利用可能性

本事業を実施した結果、特に 2 月の高い捕獲効率を鑑みて、北海道の足寄や陸別のよ

うな低温多雪地帯であっても、設置場所を適切に選択して丁寧に設置すれば、くくりワ

ナは十分冬期に利用できると考える。くくりワナの長所である機動性の高さや、捕獲時

間に制限の無い点等を活かし、他の捕獲手法と組み合わせることで、さらに高い捕獲効

率が得られるものと期待される。

ただ、無積雪期の使用のために開発されたワナでは、そのまま使用すると不具合が生

じる。そこで、本事業で得られた知見から、以下に改良点等について述べる。

①冬期利用のために考えられる主な改良点

図-5.2 には K 式のくくりワナの模式図を示し、それぞれについて述べる。

図-5.2 冬期利用のための改良点

ガイド

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ア:K 式ワナや W 式ワナのようなタイプでは、蝶番のようにガイドが立ち上がって、

動物の足のできるだけ高い位置をくくるようになっている。a の部分が可動部にあ

たるが、この部位が凍結しやすい。スプレー式の機械油等を十分に塗布する。ま

たは、気温の上がった日等には動作確認を行う。さらに、雪がこの部分に不必要

にかぶらないように設置する。ある程度凍結しても動作可能なように、接続部分

は「遊び」が大きくなるように改良する等。

イ:K 式の場合、イの部分が凍結してガイドが立ち上がらないというトラブルが発

生した。対策はアと同様である。また、イの部分が黒く、雪の中で非常に目立つ。

例えばこの部分を白く塗装し、雪の上に置いても目立たなくする改良等を行った。

色については W 式も同様のことが言える。

ウ:塩ビ管の中にコイルスプリングが収納されている。これをセットする際には、

塩ビ管の何倍もの長さのコイルスプリングを体重をかけて圧縮せねばならない。

慣れればこの作業も 1 人で可能になるが、斜度のある現場で引っ張るためにはあ

る程度スペースが必要になり、急斜面で行うのは時として困難である。人によっ

ては、ねじりバネ(安全ピンのバネ部のような構造)の方が扱いやすいという従

事者もいる。凍結等による動作不良はコイルスプリングもねじりバネも共に発生

しない。本事業で使用した S 式ワナはねじりバネを採用しているが、これは非常

に強い力が必要であった。

エ:この部位は「踏みしろ」と言える。K 式は 4cm 程度しか踏みしろが無く、この

点は改良の余地があった。元来、ガイド部分が立ち上がって足の高い位置をくく

る設計であるので、踏みしろはあまり必要なく、その分設置が楽であるという構

造になっている。ただ、凹凸が大きく、また、地面ほど安定していない積雪上に

設置するには、5m 程度の踏みしろがあっても良いのではないかと思われた。実際

に、従事者は K 式ワナを設置するために雪をある程度深く掘り、その上で設置し

ていた。この点は本事業で利用した W 式も同様の改良が望まれた。

次に、本事業で利用した S 式のワナについて述べる。図-5.3 に、S 式ワナの模式図を

示す。

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ア:設置時には、かなりの深さまで雪や地面を掘らねばならない。1 基あたりの設置

に要する所要時間は K 式や W 式の 3 倍ほど必要である。設置をスムーズに行うた

めの補助的な道具(スコップ等)を準備して、効率よく設置する必要がある。ま

た、アの部分には木の杭を刺す必要があるが、これも予め作っておいて持ってく

るほうが作業効率は高いと考える。

イ及びウ:ワナが作動すると、基本的にこれらのパーツが脱落して、場合によって

は飛散することがある。作動ごとにこれらが行方不明にならないような工夫が必

要である。

②冬期に設置するために便利な装備品

冬期にくくりワナを設置するには、以下のような装備品を携帯すると便利である。

<スプレー式潤滑油>

凍結防止用に可動部に塗布する。香りが気になるが、本事業ではこれを極端に忌

避するという行動は見られず、潤滑油の香りが忌避要因になるかは不明であったが、

潤滑油を塗布したものでも捕獲はされていた。

<移植小手>

雪を掘る際に使用する。発掘現場で使用するピッケル様の工具等も、氷を砕く際

に重宝する。

<鋸>

落枝等を切断してワナ方向へとエゾシカを誘導する工作を行う際に使用する。

図-5.3 S 式ワナの模式図

設置時

作動時

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<ティッシュ等>

ワナを偽装する際に使用する。ワナの上面に多くの雪を置くと誤作動の原因にな

るため、こういった白いものを上面において薄っすらと雪を被せることで、ワナを

偽装する。素材はティッシュ以外のものではキッチンペーパー等を利用したが、厚

くごわついた素材では「すり抜け」が生じる原因ともなるので、最適なものを選択

する。厳寒期で乾燥していれば問題なく作動するが、この紙が濡れて凍結すると作

動不良を引き起こすので、こまめなチェックが必須となる。

<ナイフ>

場合によって止め刺しや放血する際に使用する。必須の道具。

③止め射しの手法

本事業では止め射しは銃器によって行うことを指定されていた(図-5.4)。一方、技

術開発的に他の手法についても熟練ハンターの指導の下、試行した(図-5.5)。

図-5.4 銃器による止め射しの様子

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銃器による止め射しでは、至近距離から頭部等の急所を狙って止める。食肉等として

利用したい場合はその上で放血の作業を行う。

ナイフによって止め射しする場合は、足を固定して不動化した上で心臓を突くか、延

髄を切断するかによって止める。この手法では、エゾシカに接近する必要があるので、

ある程度の保定が必要であり、また、苦しませずに速やかに止めるには熟練が必要にな

る。一方、ナイフを使用して円滑に止め射しを行った場合、銃声や悲鳴のような音はほ

とんど発生せず、場もあまり荒らさずに止め射しすることができることも分かった。訓

練は必要ではあるが、希少種の生息域や森林施業の現場近く等では有効な手段であると

言える。

その他、電気ショックによる手法等が考えられる。動物福祉の問題に配慮した手法に

ついては、専門の研究や堵殺事業者等の手法を参考に、どのような手法が現場で可能で

あるのかといった観点から、更なる技術の開発が必要である。止め射しに銃器を用いる

ことは、その体制をとれれば問題は無いが、常に銃猟ハンターと共に行動する必要が出

る。ある程度訓練すれば誰でも実施可能な、効果的で速やかな止め射し手法については、

今後も検討する必要がある。

図-5.5 ナイフによる止め射し

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④森林施業との組み合わせ

一般の銃猟とは異なり人身事故がほぼ発生しにくいため、冬期の森林施業実施箇所

において捕獲できる点がくくりワナのメリットである。第1回の連絡協議会の結果、

森林施業箇所の近傍において実施するという方針が言われたため、上足寄 77 林班にお

いて 2 月下旬から森林施業箇所において捕獲作業を実施し1頭を捕獲した(図-5.6)。

伐採作業中の作業員に聞くと、落枝を食べるために、伐採作業中でも横まで来て採

食しているという話であった。これまでも伐採作業中の場所には多くのエゾシカが寄

るので、そういった箇所で捕獲を行うべきだという指摘は多くなされてきた。その捕

獲手法については現在様々試行中であるが、1 つの選択肢としてくくりワナが提案でき

る具体的な事例であった。

図-5.6 森林施業(伐採)箇所における捕獲個体の例(3 月 1 日)

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(3)今後の課題

本業務では、12月 19日からワナを設置し始めたものの、2月 8日まで捕獲がなかった。

この要因として、12 月期の積雪が足寄、陸別共に大変少なかったこと、そのためエゾシ

カの生息場所が定まらなかったこと、また、従事者のくくりワナに関するノウハウの蓄

積が十分でなかったこと等が考えられる。また、5 章(1)でも述べたように、本業務で

はくくりワナで捕獲を行うことがはじめてであるため、くくりワナ設置のルール(事前

の告知や設置個数等)の問題点の洗い出しや調整を 1 月に行っていたこともある。

本業務の結果からは、2 月期の捕獲効率はある程度高くなることは示唆された。生息密

度が高くなる越冬地において集中的にくくりワナを設置する方式で成果を得ることがで

きると期待される。一方、12 月や 1 月の捕獲効率については、今年度だけの結果では単

純に評価することはできないと考える。さらなる事例を収集して、冬期間全体の捕獲効

率等を精査する必要があると考える。

技術開発的な側面で考えると、本業務の中で、北海道の冬期に適したワナの仕様はあ

る程度提案できた。可能であればこうしたワナを制作し、使用と改良を重ねて、北海道

仕様の製品を開発すること等も 1 つの目標となるかもしれない。さらに、今年度は止め

射し手法については銃器を用いることが基本であったが、これではハンターを同行する

体制を取らねばならなくなり、制限が増える。今後、動物福祉の観点から適した、銃を

用いない手法についても検討するべきと考える。近年、ワナ猟狩猟免許所持者は第一種

銃猟狩猟免許が減少する一方で増加傾向にある。こうした背景から考えても、銃器を用

いない適切な止め射しの手法の開発が望まれる。

ところで今回は森林施業(伐採作業)との連携を試行し、伐採現場周辺での捕獲に成

功した。これは事例としては大変興味深く、今後の事業展開でも、伐採作業と積極的に

連携を図ることも捕獲効率の向上の側面と、森林生態系管理の側面から重要であると言

える。

今後、くくりワナによる捕獲技術を開発しつつ、希少種の生息する国立公園の特別保

護地区やその他保護区、また、森林管理の現場における、くくりワナの活用方法の確立

が望まれる。

以上のことを考慮し、今後、くくりワナによる捕獲事業を実施する際には、以下のよ

うな点に注意しつつ実施することが望ましい。

①森林施業との連携

・ 冬期に実施される造材作業等の森林施業現場の近傍でワナを設置する。

・ 造材業者等と相談し、くくりワナを設置しても良いと言われた場所で捕獲を実施

し、課題等を整理する。

②止めさしの手法の検討

・ 安全で、作業性の良い止め射し手法をテーマに試行する。

Page 49: 平成23年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事 …...平成23年度 くくりワナを利用したエゾシカ捕獲事業 報 告 書 平成24年3月 北 海 道

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・ 動物福祉の観点から適した手法を選択する。このためには有識者からアドバイス

を受ける必要がある。

③捕獲実施に関する自由度の確保

・ 捕獲場所を事前に周知する際には、500m 程度の範囲で自由度を持たせる方が良

い。ピンポイントの地点ではなく、「○○林班の林道沿い 100m の範囲」という

ようにしておくと、エゾシカの痕跡に合わせてワナを移動することができる。

・ 1 箇所に設置するワナ個数についてもある程度の自由度を持たせる。1 箇所にか

ならず 10 個かける、ということではなく、5 個ずつ 2 箇所に分けること等も捕

獲効率の向上につながる。

・ 本事業では 2 名体制で最大 40 基のワナを使用したが、メンテナンスや見回りの

作業に大きな労力が必要で、丁寧な作業を行う時間が少なかった。従事者人数に

対する最も効率の良いワナ数について、さらに検討する必要がある。

④冬期における捕獲効率の変化の解析

・ 本業務では、12 月~1 月にはエゾシカが捕獲されなかった。今後の事業の中でさ

らに実施し、12 月~1 月の捕獲効率と、2 月以降の捕獲効率に差があるか、とい

った点を評価する必要がある。

・ 雪の降り始めの季節である 12 月や 1 月において発生する不具合と、それを解決

する工夫等を検討する。

⑤他の捕獲手法との組み合わせの検討

・ 他の事業での囲いワナや銃猟、あるいは、これまで囲いワナを実施した結果捕獲

効率が落ちた場所等において、これらの他の手法と連携した使用を検討する。く

くりワナは夜間でも捕獲できるので、こうした利点を最大限に活かす組み合わせ

を検討する。

⑥冬期の北海道に特化したワナの開発

・ 積雪期や厳冬期に北海道で利用する際に適したワナのデザインを提案する。

・ 捕獲した個体をいたずらに傷付けないワナの構造を検討する。