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2.3 pn 接合の整流作用 c©大豆生田利章 2015 1
2.3 pn 接合の整流作用
2.2節では外部から電圧を加えないときの pn 接合について述べた.ここでは,外部か
らバイアス電圧を加えるとどのようにして電流が流れるかを電子の移動を中心に説明す
る.
2.2節では熱エネルギーの存在を考慮していなかったが,実際には半導体のキャリアは
周囲から熱エネルギーを受け取る。その結果、半導体のキャリヤのエネルギーは一定でな
くなり、エネルギーの大小が存在するようになる.エネルギーが大きいキャリアは数が少
なく,エネルギーの小さいキャリアは数が多くなる。以下で説明するように、このキャリ
アの持つエネルギーの違いが pn 接合の電圧電流特性に影響を与える。
図 2.7 にゼロバイアス状態,すなわち外部からバイアス電圧を加えないときの pn 接合のエネルギー帯図を示す。図 2.7 ではエネルギーによるキャリヤ数の変化も示してあ
る ∗10.図 2.7 に示すように pn 接合の拡散電位により生じるエネルギー障壁 qφD を超え
る電子が n 形半導体から p 形半導体へ移動する.一方で、p 形半導体中にも少数キャリア
として電子が存在し、p 形半導体から n 形半導体へ移動する。これらの逆方向に移動する
電子の数が等しいため,ゼロバイアス状態では電流は流れない。
図 2.7: ゼロバイアス状態の pn 接合のエネルギー帯図
順バイアス電圧 V を加えたときの pn 接合のエネルギー帯図を図 2.8 に示す ∗11。 順
バイアス電圧により p 形半導体のエネルギーが減少し,n 形半導体のエネルギーが増加す
る。この結果,n 形半導体と p 形半導体の障壁の高さは q(φD − V ) に減少する.このた
め,n 形半導体から p 形半導体へ移動できる電子の量が増加し,全体として n 形半導体中
から p 形半導体へ電子が移動する。正孔に対して同様に,p 形半導体中から n 形半導体へ
電子が移動する。
∗10 キャリア数の変化の仕方は厳密ではない.∗11 空乏層をキャリヤが移動しているときのフェルミエネルギーは厳密には定義できないので,空乏層中の
フェルミエネルギーの描写は行なっていない.
2 c©大豆生田利章 2015
図 2.8: 順バイアス電圧印加時の pn 接合のエネルギー帯図
図 2.9 は逆バイアス電圧 V を加えたときのエネルギー帯図であり,p 形半導体のエネ
ルギーが増加し,n 形半導体のエネルギーは減少する.この結果,n 形半導体と p 形半導
体の障壁の高さは q(φD + V ) に増加するため、キャリアの移動が減少する。これにより、
逆バイアス電圧印加時はほとんど電流が流れず、pn 接合が整流特性を示すことになる。
図 2.9: 逆バイアス電圧印加時の pn 接合のエネルギー帯図
[補足]B 以上の説明で述べたように,pn 接合ダイオードにおいてバイアス電圧を変えると電流が変化する
のはバイアス電圧により p 形半導体と n 形半導体の間の障壁の高さが変化することで、キャリアの移動量が変
化するためである.これに対して,金属や単独の n 形半導体あるいは p 形半導体などにおける電圧と電流の関
係は,式 (1.24) に示したように電圧により生じる電界により電子の速度が変化することで生じる. C
次に、順バイアス印加時にどのようにして電流が流れるかを説明する。順バイアスを加
えた pn 接合では電子が n 形半導体から移動してくることにより p 形半導体中の少数キャ
2.3 pn 接合の整流作用 c©大豆生田利章 2015 3
リアである電子が増加し,正孔が p 形半導体から移動してくることにより n 形半導体中
の少数キャリアである正孔が増加する.ここで、pn 接合の少数キャリアの状態を示した
ものが図 2.10 である。n 形半導体から p 形半導体へ移動した電子は、p 形半導体の多数
キャリアである正孔と再結合することにより減少していく。これにより、p 形半導体中の
電子密度は空乏層付近では高くなり、空乏層から離れると低くなる。再結合による電子の
減少分と n 形半導体から移動してくる電子の増加分がつりあったところで、安定した状態
になる。n 形半導体中の正孔の状態も同様である。
図 2.10: pn 接合の少数キャリアの状態
図 2.10 のように p 形半導体中において生じた電子密度の差により電子の拡散が発生す
ることになる。同様に、n 形半導体中では正孔の拡散が発生する。この拡散によるキャリ
アの移動により pn 接合に電流が流れることになる。このようなキャリヤの拡散が原因と
なり発生する電流を拡散電流とよぶ.アノード電極では再結合で消滅した p 形半導体中
の正孔が外部の電源から補充される ∗12。同様にカソード電極では再結合で消滅した n 形
半導体中の電子が外部の電源から補充される。このキャリアの補充が外部から観測される
電流になる。
拡散電流に対して,電界によるキャリヤの移動により発生する電流をドリフト電流と呼
び,単独の n 形半導体または p 形半導体だけを流れる電流はドリフト電流が主流になる.
23ページの補足で述べたように pn 接合では空乏層に電界が集中するが,空乏層にはキャリ
ヤはほとんどないのでドリフト電流は流れず,pn 接合を流れる電流は拡散電流が主流
になる.
[補足]B ダイオードに加わる電圧が大きくなると,p 形半導体と n 形半導体の間の障壁が小さくなり,ダ
イオードを構成している半導体自身の抵抗の影響によりダイオードを流れる電流が決まるようになる.図 2.11
は半導体の抵抗も考慮してダイオードの電圧電流特性を計算したものである.実破線が理想的な電圧電流特性,
実線が抵抗を考慮したな電圧電流特性を示している.実点線は抵抗を考慮した電圧電流特性を折れ線で近似した
∗12 正確にはアノード電極から外部に電子が引き抜かれることにより正孔が発生する。
4 c©大豆生田利章 2015
ものである. C
図 2.11: 半導体の抵抗を考慮したダイオードの電圧電流特性
2.4 ダイオードの電圧電流特性
本節では第 2.1で説明した pn 接合の電圧電流特性を表す式を求める。
2.4.1 ダイオードを流れる電流の電圧依存性
まず,バイアス電圧 V を加えたときに,電子の移動により pn 接合を流れる電流 In(V )
を考える.In(V ) には n 形半導体から p 形半導体へ移動する電子によるもの In→pn (V ) と
p 形半導体から n 形半導体へ移動する電子によるもの Ip→nn (V ) がある.Ip→n
n (V ) は p
形半導体中の少数キャリヤである電子により生じ,In→pn (V ) は n 形半導体中の電子のう
ち pn 接合面に存在する障壁を超えるエネルギーを持つ電子により生じる.電子が障壁を
超えるためのエネルギーは熱エネルギーにより生じる。このとき,エネルギーが U より
大きいキャリヤの数は exp(−U/kT ) に比例することが知られている ∗13.つまり,エネ
ルギーの大きいものほど指数関数的に数が少なくなる.
図 2.12 (a) に示したように.拡散電位により生じるエネルギー障壁 qφD よりも大き
なエネルギーをもつ電子が存在するため,ゼロバイアス時でも電子の移動は 0 にはなら
ないが,ゼロバイアス時にはダイオード外部には電流は流れないことから,Ip→nn (0) と
In→pn (0) は等しくなる.そこで,
In0 = Ip→nn (0) = In→p
n (0) (2.4)
∗13 理由は統計力学を学ぶと分かる.
2.4 ダイオードの電圧電流特性 c©大豆生田利章 2015 5
と定数 In0 を定める ∗14.
図 2.12: pn 接合における電子の移動量
順バイアス電圧 V を加えると,図 2.12 (b) に示したように,n 形半導体から p 形半
導体へ移動できる電子の量が増加する。n 形半導体中の伝導電子でゼロバイアス時に拡
散電位 qφD による障壁を超えるエネルギーを持つ電子の数は exp(−qφD/kT ) に比例し,
バイアス電圧 V を加えたときに障壁 q(φD − V ) を超えるエネルギーをもつ電子の数は
exp(−q(φD − V ))/kT ) に比例するので,n 形半導体から p 形半導体へ移動できる電子の
量が増加する割合は
exp [−q(φD − V )/kT ]exp [−qφD/kT ]
(2.5)
で与えられる.これより,
In→pn (V ) = In0
exp [−q(φD − V )/kT ]exp (−qφD/kT )
= In0 exp(
qV
kT
)(2.6)
となる.p 形半導体から n 形半導体に電子が移動するときは障壁がないので,Ip→nn は
In0 のままである.
逆バイアス電圧を加えたときは、図 2.12 (c) に示したようになり、順バイアス電圧を加
えたときと同様にして,
In→pn (−V ) = In0
exp [−q(φD + V )/kT ]exp (−qφD/kT )
= In0 exp(−qV
kT
)(2.7)
となり, Ip→nn は In0 のままである.
以上より,電子の移動により pn 接合を流れる電流 In(V ) は,電流の向きとバイアス電
圧の符号に注意して,
In(V ) = In→pn (V ) − Ip→n
n (V ) = In0 exp(
qV
kT
)− In0 = In0 ·
[exp
(qV
kT
)− 1
](2.8)
となる.
正孔の移動により pn 接合を流れる電流 Ip(V ) は In(V ) と同様の考察により,
Ip(V ) = Ip→np (V ) + In→p
p (V ) = Ip0 exp(
qV
kT
)− Ip0 = Ip0 ·
[exp
(qV
kT
)− 1
](2.9)
∗14 In0 は??節で求める.
6 c©大豆生田利章 2015
と求まる.これより,全電流 I は
I = In(V ) + Ip(V ) = (In0 + Ip0) ·[exp
(qV
kT
)− 1
]= I0 ·
[exp
(qV
kT
)− 1
](2.10)
となり,式 (??) に示した以下の電圧電流特性を得る.
I = I0 ·[exp
(qV
kT
)− 1
](2.11)
実際のダイオードでは空乏層中で電子と正孔の再結合が起こるので,再結合により発生
する電流である再結合電流を考慮しなければならない.おおざっぱな考え方として,再結
合が空乏層のちょうど真ん中で起こるとし,キャリヤは全体の半分しか移動しないのでバ
イアス電圧が半分になったのと等価であると考える. このように考えると再結合電流 Ir
は
Ir = Ir0 exp(
qV
2kT
)(2.12)
となる ∗15.実際のダイオードに対しては理想係数または n 値とよばれる係数 n を用い
て ∗16,
I = I0 ·[exp
(qV
nkT
)− 1
](2.13)
とした電圧電流特性と,実際に測定した電圧電流特性が一致するように n を決定する.n
は 1 から 2 の間の値を取り,n が 1 のときは拡散電流だけの場合,n が 2 のときは再結合
電流だけの場合となる.シリコン pn 接合ダイオードでは n ; 1.03 となる.
2.4.2 ダイオードの逆方向飽和電流
逆方向飽和電流 I0 は少数キャリア、つまり p 形半導体中の電子および n 形半導体中の
正孔の拡散を調べることにより求めることができる。
図 2.13 に pn 接合ダイオードに順バイアスを加えたときの電子密度の位置による変化
を示す.nn は n 形半導体中の電子密度,np は p 形半導体中の電子密度,nn0 はゼロバイ
アス時の n 形半導体中の電子密度,np0 はゼロバイアス時の p 形半導体中の電子密度を表
す.n 形半導体中の電子密度 nn はほとんど変化しない ∗17.p 形半導体中の空乏層端で
はバイアスを加えることで n 形半導体中から来た電子の分だけ電子密度 np が np0 から
np0 exp(qV/kT ) に増加している ∗18.このバイアス電圧の無いときよりも増加したキャ
∗15 途中でキャリヤが消滅するので逆方向からやってくるキャリヤは考えなくてよい.∗16 電子密度の n と混同しないようにする.∗17 厳密には電気的中性条件を保つため,p 形半導体から来た正孔の分だけ電子が増加するが,この増加量は
割合としては小さい.∗18 式 (2.5) 参照.
2.4 ダイオードの電圧電流特性 c©大豆生田利章 2015 7
リヤを過剰キャリヤと呼ぶ.過剰キャリヤの分だけ増加した電子は p 形半導体中を拡散
していく.拡散の途中で電子は多数キャリヤの正孔と再結合をして減少していくが,電子
の減少分は n 形半導体から補われる.n 形半導体から来る電子の増加と再結合による電子
の減少が釣り合って,電子密度の分布は図 2.13 のようになる.p 形半導体中の正孔も再
結合により減少するが,正孔の減少分は電極を通して外部の電源から補われ,これにより
電源から流れてくる電流が発生する.
図 2.13: pn 接合ダイオードの電子密度分布
電子密度の増加分 np − np0 は空乏層端からの位置 x に対して指数関数的に変化す
る ∗19.よって,p 形半導体中の電子密度 np は以下の式で表される ∗20.
np − np0 = np0 ·[exp
(qV
kT
)− 1
]· exp
(x
Ln
)(2.14)
ここで,Ln は電子の拡散長と呼ばれる定数であり,再結合で消滅するまでに電子が p 形
半導体中を移動する距離の平均である.式 (2.14) は Ln だけ距離が離れると電子密度の
増加分 np − np0 が 1/e,すなわち約 0.37 に減少することを示している.
一般に位置 x での電子密度が n であるとき,移動方向に垂直な断面を拡散により通過
する電子の移動量は電子密度の微分に比例し,単位面積・単位時間当たり
−Dndn
dx(2.15)
で表される ∗21.ここで,Dn は拡散定数と呼ばれる定数であり,単位は [m2/s](平方メー
トル毎秒)となる.p 形半導体中の電子の拡散電流密度 Jn は電子の電荷が −q である
ので,
Jn = −q ×(−Dn
dnp
dx
)= qDn
dnp
dx(2.16)
∗19 196ページの式 (9.74) を参照.∗20 p 形半導体中では x は負であることに注意する.∗21 拡散は密度の大きいほうから小さいほうへ向かうので負号が付く.
8 c©大豆生田利章 2015
となる.式 (2.16) に式 (2.14) を代入すると
Jn = qDnnp0 · [exp (qV /kT ) − 1]
Lnexp
(x
Ln
)(2.17)
が得られる.この結果は Jn は位置 x で変化するということを示しているが,p 形半導体
中の正孔の移動による電流も考慮すると,全電流密度は場所によらず一定になる.特に
x = 0 での Jn の値は
Jn =qDnnp0
Ln·[exp
(qV
kT
)− 1
](2.18)
となる.式 (2.18) を式 (2.8) と比較することで,以下のように,In0 が決定される.
In0 =qDnnp0
Ln× S (2.19)
ただし,S を pn 接合の断面積とした.
[補足]B p 形半導体中において再結合で消滅していく電子の平均移動距離は Ln で,平均寿命は Ln2/Dn
で与えられる ∗22.C
なお,正孔に関しても同様の説明が成立する.n 型半導体中の空乏層端を原点とする
と,n 形半導体中の正孔密度 pn は以下の式で表され,
pn − pn0 = pn0 ·[exp
(qV
kT
)− 1
]· exp
(− x
Lp
)(2.20)
n 形半導体中の正孔の拡散電流密度 Jp は以下の式で表される.
Jp = −qDpdpn
dx(2.21)
この結果,
Ip0 =qDppn0
Lp× S (2.22)
となる.
以上で述べたことをすべて考慮した pn 接合ダイオードの電圧電流特性を以下に示す.
I = qS
[Dnnp0
Ln+
Dppn0
Lp
]·[exp
(qV
kT
)− 1
](2.23)
[補足]B p 形半導体中のアクセプタ密度を NA,n 形半導体中のドナー密度を ND とすると,逆方向飽和
電流 I0 は
I0 = qS
»
Dnnp0
Ln+
Dppn0
Lp
–
= qSni2
»
Dn
LnNA+
Dp
LpND
–
(2.24)
∗22 導出過程は付録 Iに載せる.
2.4 ダイオードの電圧電流特性 c©大豆生田利章 2015 9
と表わされる.真性キャリヤ密度 ni の温度 T による変化は禁制帯幅を Eg として,
ni2 ∝ exp
„
−Eg
kT
«
(2.25)
と指数関数的であるので ∗23,逆方向飽和電流の温度変化に関しては真性キャリヤ密度の影響が一番大きくなり,
I0 ∝ exp
„
−Eg
kT
«
(2.26)
と考えてよい. C
∗23 ??ページの式 (??) を参照.