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平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書 平成27年3月 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構 平成26年度 経済産業省委託事業

平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

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平成26 年度

製造基盤技術実態等調査事業

-通信放送衛星の市場動向調査-

調査報告書

平成27年3月

一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

平成26年度 経済産業省委託事業

Page 2: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

はじめに

通信放送衛星は、平成 25 年 1 月に策定された宇宙基本計画において宇宙利用の拡大

と自律性の確保を実現する社会インフラの一つとして認識されており、我が国の宇宙開

発政策にとって重要なものとなっている。新たな宇宙基本計画においても、『通信・放

送衛星に関する技術革新を進め、最先端の技術を獲得・保有していくことは、我が国の

安全保障及び宇宙産業の国際競争力の強化の双方の観点から重要である。このため、今

後の情報通信技術の動向やニーズを把握した上で我が国として開発すべきミッション

技術や衛星バス技術等を明確化し、技術試験衛星の打ち上げから国際展開に至るロード

マップ、国際競争力に関する目標設定や今後の技術開発の在り方について検討を行い、

平成 27 年度中に結論を得る。これを踏まえた新たな技術試験衛星を平成 33 年度めどに

打ち上げることを目指す』とされており、産業・価格技術基盤の維持強化という観点か

ら技術試験衛星の必要性が述べられている。

こうした通信放送衛星に関する政府内での基本方針を踏まえ、今回、経済産業省殿が、

政府として必要な社会インフラの効果的・効率的な維持・充実を図るため、国際競争力

のある次世代の通信放送衛星のあり方、必要な要素技術、各国の動向、安全保障を含め

た我が国における将来ニーズ、及び次世代の通信放送衛星の開発・実証へ向けた実施ス

キームの調査、検討を実施されることは、まさに時宜を得たものと考えます。

こうした環境のもと、経済産業省殿が総務省他、関係省庁と共に、本年度(2014 年)

11 月以降これまで 7 回にわたり有識者を中心に検討を重ね、今後の技術試験衛星の打ち

上げに向けた検討を進め、政府が取り組むべき具体的方向性を取りまとめられたものと

認識している。

本活動において、私ども「一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構(以下、当機

構)」は、経済産業省殿の活動をご支援させていただいており、本調査報告書に上記支

援活動の成果をまとさせていただいた。

本調査検討を通じて、「我が国における通信放送衛星のあるべき方向性」の設定等、

経済産業省殿の推進される宇宙産業振興政策の実現に向けて、必要な業務支援を確実に

実施する所存であります。

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調 査 報 告 書 目 次

Ⅰ. 事業の目的・内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1. 事業の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

2. 事業の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

3. 事業の実施体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

4. 事業のスケジュール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

Ⅱ. 成果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅲ. 調査の内容・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

1. 調査・分析結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

1.1 通信放送衛星等の市場の動向調査・分析・・・・・・・・・・・・・・ 10

1.1.1 世界の宇宙産業の売上高・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

1.1.2 商業市場における宇宙産業の動向・・・・・・・・・・・・・・・ 11

1.1.2.1 商業市場における宇宙産業の動向

1.1.2.2 運用衛星の利用別分布

1.1.2.3 衛星サービス

1.1.2.4 衛星製造

1.1.2.5 将来予測

1.1.2.6 商業静止衛星の技術動向

1.1.3 我が国の静止衛星システムのニーズ動向及び調査・・・・・・・・ 20

1.1.3.1 実用準天頂衛星システム

1.1.3.2 気象衛星(ひまわり)

1.1.3.3 Xバンド通信衛星

1.1.3.4 データ中継衛星

1.1.3.5 放送衛星

1.2 商業市場における競合国の動向調査・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

1.2.1 衛星サービス事業者の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

1.2.1.1 衛星サービス事業者の動向

1.2.1.2 各国の衛星サービスの動向

1.2.2 宇宙開発関連企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44

1.2.3 主要衛星バスの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

1.2.4 我が国との競争力の比較・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46

1.2.4.1 衛星通信放送

1.2.4.2 衛星バス技術

1.3 国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・分析 50

1.3.1 主な国際競争力支援プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

1.3.2 ARTESプログラム概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

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1.3.3 ESAテレコミュニケーション及び統合アプリケーション総局・・・ 53

1.3.4 ARTES要素プログラム概観・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

1.4 我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況調査・分析 86

1.4.1 我が国の衛星産業基盤の状況・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86

1.4.2 国際競争力を有する静止衛星開発に向けた産業基盤の在り方・・・ 87

1.5 通信衛星分野において我が国が狙うべき方向性及びその実現に向けて

クリアすべき課題の調査・分析・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88

1.6 効果的・効率的な政府の支援のあり方の検討・・・・・・・・・・・ 88

2. 検討会支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

2.1 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

2.2 検討会実績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

3. 欧州調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90

3.1 欧州調査概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90

3.2 個別調査結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92

3.2.1 インマルサット・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 92

3.2.2 SSTL・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 94

3.2.3 Avanti・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97

3.2.4 タレスアレニア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100

3.2.5 ユーテルサット・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 103

3.2.6 ESA/ESTEC・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 107

3.3 調査の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111

3.3.1 欧州における協力関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 111

3.3.2 通信衛星プログラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 113

3.3.3 協力スキームによる相互メリット・・・・・・・・・・・・・・ 114

3.3.4 ARTESにおけるPPPプログラム・・・・・・・・・・・・・・・ 115

Ⅳ. まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117

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Ⅰ.事業の目的・内容

1

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I.事業の目的・内容

1. 事業の目的

通信放送衛星は、宇宙基本計画(平成 25 年 1 月 25 日宇宙開発戦略本部決定)におい

て、我が国において宇宙利用の拡大と自律性の確保を実現するために不可欠な 4 つの社

会インフラの一つとして位置づけられており、政府内でも特に安全保障や災害対応等の

目的で実利用されている。

また、通信放送衛星は、民間を中心とする利用が進んでいることから、安定的な需要

が見込まれる国際マーケットが確立している。今後、近年の先進各国の通信需要の増加、

新興国による旺盛なインフラ整備計画、高速通信技術の発展などを受け、同マーケット

は更に拡大することが見込まれている。

欧州では、宇宙産業の生産基盤を維持・発展させる目的で、官民が連携する形で、上

記のマーケットにおける域内企業の国際競争力向上に資する次世代技術の開発・実証が

取り組まれている。他方、我が国宇宙産業の通信放送衛星は、JAXA が 10 年以上前に開

発・実証した技術試験衛星Ⅷ型により獲得した技術により、一定程度の海外需要や民間

需要を獲得したものの、これを最後に新たな技術開発が行われておらず、我が国宇宙産

業の競争力が相対的に低下しつつあるとの指摘がある。今後、我が国宇宙産業が再び国

際競争力を取り戻し、より一層の外需・民需を獲得するために、産業界からは次世代技

術実証衛星プロジェクトの実施が要望されている。

一般に、通信放送衛星では、宇宙基本計画が重視する4つの社会インフラのうち、宇

宙輸送システムを除く測位衛星、及びリモートセンシング衛星における気象衛星と技術

的に共通する静止衛星バスが用いられている。このため、通信放送衛星について国際競

争力のある技術を獲得し、海外や民間の需要を取り込むことは、我が国の安全保障・社

会基盤である衛星開発技術そのものを支えるという観点からも重要な意味を持つ。

こうした通信放送衛星に関する政府内での認識を踏まえ、今後、政府として必要な社

会インフラの効果的・効率的な維持・充実を図るため、国際競争力のある次世代の通信

放送衛星のあり方、必要な要素技術、各国の動向、安全保障を含めた我が国における将

来ニーズ、及び次世代の通信放送衛星の開発・実証へ向けた実施スキームの調査・検討

を実施する。

2

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2. 事業の内容

2.1 調査・分析項目

(1) 通信放送衛星等の市場の動向調査・分析

通信衛星の市場動向、及びニーズ動向について調査・分析を行う。この際、先進

国(日本含む)/新興国、顧客の属性、衛星重量、用途等に応じて現状の市場の状況

や今後の見通しについて整理、分析を行うこと。

また、商業通信放送衛星以外の国の静止衛星システム(実用準天頂衛星、X バン

ド通信衛星、気象衛星等)のニーズについても調査を行い、整理・分析を行う。 必

要があれば国内の関係府省(4 機関程度)へのヒアリング調査を実施する。

(2) 商業市場における競合国の動向調査・分析

欧米における競合企業の衛星の特徴、今後の方向性、及び現状の競争力(我が国

宇宙産業との競争力の比較等)について可能な限り定量的に整理、分析を行うこと。

(3) 国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・分析

欧州宇宙機構(ESA)が実施する ARTES(Advanced Research in Telecommunications

Systems)プログラム等の、海外における通信静止衛星の産業競争力強化へ向けた

支援プログラムについて、内容、技術的特徴、実施スキーム(官民の責任分担、費

用分担、契約枠組み、課題等)について可能な限りの詳細な整理、分析を行う。必

要があれば欧州の関係機関、関係企業等に対するヒアリング調査を実施する。

(4) 我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況調査・分析

我が国が静止衛星システム等の人工衛星の産業基盤について、産業の特性(どの

ようなサプライチェーンを踏まえ、生産設備や人材、技術を維持する必要があるの

か)、産業基盤に関する状況・課題、必要なあり方について調査を行い、整理・分

析を行う。必要があれば産業界等へのヒアリング調査を実施する。

(5) 通信衛星分野において我が国が狙うべき方向性及びその実現に向けてクリアすべ

き課題の調査・分析

(1) ~ (4)を踏まえ、通信衛星分野において我が国宇宙産業が狙うべき方向性を

検討する。また、その実現に向けて解決すべき課題(システム面での課題、各要素

技術における技術開発課題など)を整理する。

(6) 効果的・効率的な政府の支援のあり方の検討

(1) ~ (5)を踏まえ、効果的・効率的な政府の支援のあり方について検討を行う。

具体的には、仮に我が国において次期技術試験衛星を開発・実証するとした場合、

どのようなものにすべきか、どのようなスキーム(例: 政府内での連携スキーム

3

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や官民連携によるスキーム等)があり得るか、検討を行う。

2.2 調査方法

上述の項目について調査・分析・検討するにあたっては、総務省との連携により、

有識者による委員会が開催され、その場における討議を実施いただいた。上述の3.

(1)~(5)については、委員会におけるコメントを踏まえつつ、公開情報や既存

の調査情報、ヒアリング等により、分析、評価を行った。

(委員会の開催要領)

① 構成

委員会は、経済産業省、及び関係府省(内閣府宇宙戦略室、総務省、文部科学省)、

関係機関(宇宙航空研究開発機構、情報通信研究機構等)、産業界、及び学界の有

識者により構成された。

なお、委員会の下に調査検討会が開催され、実施された。

② 開催回数

最大4回程度(各2時間程度) を予定していたところ、契約期間内に5回の調査検

討会が実施され、支援を行った。

③ 開催場所

受託者会議室又は経済産業省会議室を予定していたが、総務省会議室にて開催され

た。

3. 事業の実施体制

3.1 事業実施体制

委託

一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

(J-spacesystems)

・調査業務実施場所:事務所(東京)

経済産業省

4

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3.2 管理体制

一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

理 事 長 副 理 事 長 専 務 理 事

事務局

事務管理本部

総務部

(総務業務担当)

(人事、給与、発注、調達等) 経理部

(経理業務担当)

(予算、決算、出納、契約等) 情報管理室

(情報管理担当)

(情報セキュリティ等)

戦略企画室 (企画、立案、調整等)

技術開発本部 システム開発部

(システム開発担当)

(衛星システム開発等) ミッション開発部

(ミッション開発担当)

(観測システム開発等) 基盤技術開発部

(基盤技術開発担当)

(基盤技術、コンポーネント開発等)

利用技術本部

利用研究部

(衛星リモートセンシング利用技術等)

地上データシステム部 (地上データシステム運用等)

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4. 事業のスケジュール

項目 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月

3.1(1)

通信放送衛星等

3.1(2)

商業市場調査

3.1(3)

国際競争力強化

3.1(4)

我が国の静止衛星

3.1(5)

通信衛星分野

3.1(6)

効果的・効率的

調査検討会

△ △

報告書の作成

欧州調査

6

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Ⅱ.成果の概要

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Ⅱ.成果の概要

本調査では、通信放送衛星に関する関連府省、関連機関、関連企業の認識、検討状況

を踏まえ、今後、我が国として必要な社会インフラの効果的・効率的な維持・充実のた

めに、国際競争力のある次世代の通信放送衛星のあり方、必要な要素技術、各国の動向、

我が国における将来ニーズ、並びに次世代の通信放送衛星の開発・実証へ向けた実施ス

キームの調査・検討状況の整理を実施した。

本調査に当たっては、以下の調査、分析項目ごとに検討を行った。

(1) 通信放送衛星等の市場の動向調査・分析

(2) 商業市場における競合国の動向調査・分析

(3) 国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・分析

(4) 我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況調査・分析

(5) 通信衛星分野において我が国が狙うべき方向性及びその実現に向けてクリアすべ

き課題の調査・分析

(6) 効果的・効率的な政府の支援のあり方の検討

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Ⅲ.調査の内容

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Ⅲ. 調査の内容

1. 調査・分析結果

通信放送衛星等の市場の動向、商業市場における競合国の動向、欧州の通信放送衛星

における国際競争力強化に向けた支援プログラム、我が国の静止衛星等に係る産業基盤

の状況、通信放送衛星分野において我が国が狙うべき方向性・課題について調査・分析

を行った。

1.1 通信放送衛星等の市場の動向調査・分析

1.1.1 世界の宇宙産業の売上高

世界の宇宙産業の市場規模は 2013 年に 3,140 億ドル(約 34.5 兆円)で、2012 年の売

上高(3,022 億ドル)から 4.0%増加した。2008 年~2013 年の年平均増加率 4.9%よりわ

ずかに下回り、やや鈍化が見られる。2013 年度の部門別売り上げは、「商業宇宙製品・

サービス」が 1,226 億ドル(39%)、「商業インフラおよび関連産業」1,175 億ドル(37%)、

「米国政府宇宙予算」412.6 億ドル(13%)、「非米国政府宇宙予算」328.4 億ドル(11%)

で、商業宇宙活動が全体の約 76%を占める。米国軍事予算の削減により、相対的に商

業宇宙活動の占める割合が約 2%増加している。

図 1.1-1 売上高推移(2008 年~2013 年)

〔出典:米国スペース財団 : Space Report 2014 より〕

2478.22586.5

2748.32904.4

3022.23141.7

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

2008 2009 2010 2011 2012 2013

(億ドル)

売上

10

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図 1.1-2 部門別売上高・比率(2013 年)

〔出典:米国スペース財団 :

Space Report 2014 より〕

1.1.2 商業市場における宇宙産業の動向

1.1.2.1 商業市場における宇宙産業の動向

衛星産業(民需)全体で見ると 2013 年売上は 1,952 億ドル。その内訳は「衛星サー

ビス」が全体の 61%(1186 億ドル)、「衛星製造」が 8%(157 億ドル)、「打ち上げ

産業」が 3%(54 億ドル)、「地上機器」28%(560 億ドル)で、商業衛星サービスが

全体の牽引役を果たしている。

図 1.1-3 商業市場における衛星産業(全体)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

各産業の比率は、衛星サービスが微増、地上機器は微減の傾向は見られるものの

11

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2008 年~2013 年でほとんど変化していない(図 1.1-4 (a))。どの分野も増加傾向に

あるものの(ただし衛星製造・打上産業は年度によってかなりばらつきがある)、

成長率は鈍化してきており、2013 年度で 3.4%である(図 1.1-4 (b))。

図 1.1-4 (a) 衛星産業(分野別比率) 図 1.1-4 (b) 衛星産業(成長率)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

これを米国と米国以外の国々で対比したのが図 1.1-5 である。ここ 6 年間では、全体

における米国の比率は 43%~45%でほぼ変化がない。2013 年の米国の売上高は(全体

売上 1952 億ドルのうち)859 億ドルに上る。成長率は、ここ 2 年間(2012 年、2013 年)

では米国が上回り(2013 年の全体成長率 3%、米国成長率 5%、非米国成長率 2%)、

米国産業が全体を牽引する傾向にある。

0

10

20

30

40

50

60

70

2008 2009 2010 2011 2012 2013

衛星サービス

衛星製造

打上産業

地上機器

売上

比率

(%)

2008 2009 2010 2011 2012 2013衛星サービス 58 58 59 61 60 61衛星製造 7 8 7 7 8 8打上産業 3 3 3 3 3 3地上機器 32 31 31 29 29 28

比率

年号

-25.0

-15.0

-5.0

5.0

15.0

25.0

2008 2009 2010 2011 2012 2013

衛星サービス

衛星製造

打上産業

地上機器

総計

2008 2009 2010 2011 2012 2013衛星サービス 10.3 6.9 8.7 5.3 4.5衛星製造 27.6 -20.1 11.2 22.7 7.5打上産業 20.5 -6.4 9.1 20.8 -6.9地上機器 8.7 4.0 0.0 5.8 1.8総計 11.4 4.5 5.6 6.4 3.4

増加率

年号

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図 1.1-5 商業市場における衛星産業(米国 vs 非米国)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

1.1.2.2 運用衛星の利用別分布

2013 年末時点で軌道上運用している衛星数は 1,167 機で、50 カ国強の国が 1 機以上

の衛星を運用している。その幾つかは地域共同事業体の一員としての運用である。

その利用は、図 1.1-6 に示すように、商用通信衛星 40%、政府系通信衛星 13%で、

半分以上が通信用途である。残りの利用用途は、リモート・センシング 13%、R&D 12%、

航法 8%、軍事偵察 7%、科学観測・実験 5%、気象 3%となっている。

図 1.1-6 運用衛星の利用別分布(2013 年)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

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1.1.2.3 衛星サービス

2013 年時点での衛星サービスの売上高は 1,186 億ドル。その内訳は、一般放送・通

信サービス(TV・ラジオ放送、衛星ブロードバンド)が 82.7%(981 億ドル)、固定

衛星通信サービスが 13.8%(164 億ドル)、移動体通信サービスが 2.2%(26 億ドル)、

リモートセンシング・サービスが 1.3%(15 億円)で、殆どが通信・放送分野であり民間

事業者がサービスを提供している。対政府売上は軍事利用がほとんどである。2012 年

度からの増加は 5%で、成長が急激に鈍化する傾向が見られる。米国が全体売上の 41%

を占めている。

図 1.1-7 衛星サービスの売上高(2008 年~2013 年)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

1.1.2.4 衛星製造

2013 年の衛星製造分野の売上高は 157 億ドル。米国による衛星製造が全体売上の約

70%を占め、以下、欧州が 17%、中国 5%、ロシアと日本が 3%と続く。米国企業は 2013

合計数字は丸め誤差により正確でない。

1)DTH 衛星 TV プラットフォームの通信容量も含む。 2)VSAT ネットワークを含む。

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年に打上げられた衛星の約 27%を製造している。米国の衛星製造売上の 75%は、米国

政府との契約に因るものである。

図 1.1-8 衛星製造の売上高(2008 年~2013 年)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

図 1.1-9 2013 年に打上げられた衛星の製造業者の国・地域別分布

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

2013 年に打上げられた衛星は 107 機で、2012 年の 81 機から 32%増加している。そ

れらの利用分野別の衛星数、売上高の分布を図 1.1-10 に示す。

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図 1.1-10 2013 年に打上げられた衛星の利用分野別の衛星数・売上高分布

(a) 衛星数 (b) 売上高

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

衛星数で見ると、商用通信用途 23%、政府/軍事通信用途 21%、R&D 18%、リモー

ト・センシング 17%、科学観測・実験 10%、軍事偵察 6%、航法 5%、気象 1%となっ

ている。売上高で見ると、商用通信用途 29%、政府/軍事通信用途 18%、R&D 2%、

リモート・センシング 10%、8%が科学観測・実験 8%、軍事偵察 30%、航法 4%,、気

象 1%未満となっている。全売上げの 47%が通信衛星である。R&D 用途で衛星数に対

して売上高比率が極端に低いのは、R&D 衛星の殆どがキューブサットで、売上げでは

1%未満に留まっているためである。

2013 年の商業静止衛星の受注数は 23 機で 2012 年より 5 機増加している。そのうち

米国の衛星製造業者によるものは 15 機(シェア 65%)で、過去のピークである 2012

年に迫るものになっている。以下、欧州 5 機(同 22%)、中国 2 機(同 9%)、ロシア

1 機(同 4%)。

図 1.1-11 商業静止衛星受注数(2013 年)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) :

State of Satellite Industry レポートより〕

16

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図 1.1-12 商業静止衛星受注数と米国・欧州・その他のシェア(2007 年~2013 年)

〔出典:米国衛星産業協会(SIA) : State of Satellite Industry レポートより〕

1.1.2.5 将来予測

2023 年までの静止軌道上での衛星数および静止衛星打上数の予測を図 1.1-13 に示す。

今後の商用静止衛星数は、2015, 2016 年に多少増加するもののその後は比較的安定して

年に 22~23 機で推移、また打上数も同様に 2015, 2016 年に多少増加しその後は安定し

て年間 15~17 機と予測されている。

図 1.1-13 静止衛星(衛星数、打上数)実績と今後 10 年間の予測

〔出典:FAA : 2014 Commercial Space Transportation Forecasts より〕

17

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また静止軌道上での衛星重量別に分類したものを図 1.1-14に示す。分類は表 1.1-1

に示すように 4 分類:(a) 2.5 t 未満(Medium)、(b) 2.5t ~ 4.2t(Intermediate)、(c)

4.2t ~ 5.4t(Heavy)、(d) 5.4t 超(Extra Heavy)でなされている。

表 1.1-1 静止衛星の重量別分類

図 1.1-14 重量別に見た静止衛星数の実績と今後 10 年間の予測

〔出典:FAA : 2014 Commercial Space Transportation Forecasts より〕

これも 2015, 2016 年に多少の変動があるものの、2017 年以降は、(a) 2.5 t 未満:3

機、(b) 2.5t ~4.2t:7 機、(c) 4.2t ~5.4t:7 機、(d) 5.4t 超:8 機、と予測されている。

現在に比べ、4.2t ~5.4t および 4t 超の衛星の比率が高くなる傾向にあり、衛星の大

型化は進む事が予測される。表 1.1-2 に 2014 年~2016 年打上予定の各々の重量別

の商業通信衛星名を示す。

18

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表 1.1-2 2014 年~2016 年打上予定の各々の重量別の商業通信衛星名

1.1.2.6 商業静止衛星の技術動向

通信放送衛星の需要については、静止衛星が主で、多チャネルかつ長寿命(10~15 年)

の要求を受けてより大型・高電力化する傾向にある。特に大型衛星バス(5.4t 超)の増加

が見込まれている。

したがって技術的観点からすると、衛星の (1) 高性能・高効率化、(2) 利用要望に対

する柔軟な運用形態の提供、(3) 軽量化、が目標となる。その概念化が高回線容量衛星

(HTS;High Throughput Satellite)や全電化衛星である。通信系の一層の小型・軽量化、

トランスポンダ数の増加、大容量伝送が可能な Ka 帯の利用、光通信を含む衛星間通信

技術、需要に柔軟かつ細かく対処できるマルチビーム化・DBF 技術・リコンフィギュ

アラブル技術、IP プラットフォーム化、電気推進系の採用、を取り入れていく傾向に

ある。

19

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1.1.3 我が国の静止衛星システムのニーズ動向及び調査

現在、我が国政府の静止衛星システムとして、実用準天頂衛星を先駆けた準天頂衛

星、世界気象機構(WMO)と国際科学会議(ICSU)が共同で行なっている地球大気観測計

画(GARP)で国際貢献している気象衛星(ひまわり)と X バンド通信衛星がある。

更に、我が国政府を広義に解釈した場合、放送衛星や我が国政府の非静止衛星と連

携するデータ中継衛星も含まれる(図 1.1-15 参照)。

以下に、これら静止衛星システムの現状とニーズ動向を示す。

図 1.1-15 静止通信放送システムの概念図

1.1.3.1 実用準天頂衛星システム

(1) システム概要

準天頂衛星「みちびき」の成果を引継ぎ、「実用準天頂衛星システム事業の推進

の基本的な考え方」(平成 23 年 9 月 30 日閣議決定)において、2010 年代後半を目

途にまずは 4 機体制を整備される。そして、将来的には、持続測位が可能となる 7

機体制を目指すことになっている。

実用準天頂衛星システムの機能は次の通りである。

20

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【機能 1】GPS の補完

○衛星測位の利用可能場所・時間の拡大

上空視界の限られた都市部を中心に改善が図られる。

【機能 2】GPS の補強

○衛星測位の精度及び信頼性の向上

GPS のみ :精度(約 10m)、信頼性の保証がない

GPS+補強 :精度(2m/数 cm)、信頼性の確保

【機能 3】安否確認・避難誘導等機能

○簡易メッセージ送信機能

○メッセージ通信機能

実用準天頂衛星システムを整備する意義は下記の通りである。

① 高度な機器やサービスの市場の創出と我が国の幅広い産業の競争力強化に

資する(日本とアジア地域における 2020 年の経済効果:約 4 兆円)

② 測位、ナビゲーション及び時刻参照の分野における産業、生活、行政の高度化・

効率化に寄与する。

③ アジア・オセアニア地域にも左記の機能が展開可能であることから当該地域へ

の貢献と我が国の国際プレゼンスの向上に寄与する。

④ 測位衛星分野における日米協力の強化。

⑤ 発災直後の安否確認・避難誘導、救援・被災地状況の把握、復旧・復興等の各

段階において、我が国の災害対応能力の向上等広義の安全保障に資する。

図 1.1-16 に実用準天頂衛星システムの概念図を示す。

(2) 現状とニーズ動向

平成 24 年度に衛星の開発・整備と地上システムの整備・運用に着手された(図

1.1-17 参照)。

① 3機分の衛星の開発・整備は、国が直接実施 (委託先:三菱電機(株))

② 地上システムの整備・運用は、民間資金を活用した PFI 事業として実施(実施

者:準天頂衛星システムサービス(株))

21

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図 1.1-16 実用準天頂衛星システム概念図

図 1.1-17 実用準天頂衛星システムの整備スケジュールと特徴

今日、測位衛星の利用は様々な省庁(所管産業界等を含む。)で広く行われてお

り、実用準天頂衛星システムが整備されれば益々利用の拡大が図られる(図 1.1-18

参照)。

22

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図 1.1-18 測位衛星の利用動向

(3) 運営体制

実用準天頂衛星システムは、PFI 事業として準天頂衛星システムサービス(株)が

運用主体であるが、国家プロジェクトであることを鑑み、関係府省、有識者、JAXA

との連携体制が構築されている(図 1.1-19 参照)。

このうち、宇宙開発利用の推進に関する関係府省等連絡調整会議の衛星測位 WG

は内閣官房、宇宙戦略室、内閣府科技・イノベーション担当、内閣府防災担当、警

察庁、総務省、法務省、 外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交

通省、国土地理院、環境省、防衛省府省の課室長級で構成され、本会議(議長:内

閣府事務次官)は局長級となっている。

図 1.1-19 実用準天頂衛星システムの運営体制

出典:準天頂衛星システムの推進と利活用について(平成 26 年7月:内閣府宇宙戦

略室)

23

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(4) 海外類似衛星

衛星測位システムは、複数の衛星からの信号をもとに地上の受信端末の 3 次元的

な位置と時刻を取得可能なシステムである。全世界に対してグローバルにサービス

を提供するグローバルシステムと特定の地域に対してサービスを提供するリージ

ョナルシステムがある。

① グローバル衛星測位システム

米国の GPS は、6 軌道面に各 4 機の計 24 機と軌道上予備の衛星で構成されてお

り、2013 年 4 月現在、31 機が運用されている。米空軍が運用し、軍及び民間が利

用する衛星測位システムであり、民生用信号は世界に無料開放している。GPS は世

代交代を行いながら新しい民生用信号の追加等の機能強化がなされている。現行は

第 3 民生信号(L5)が導入された Block IIF 衛星が打ち上げられつつあるとともに、

その後継機となる Block III 衛星を開発中である。

ロシアの GLONASS は、3 軌道面に各 8 機の計 24 機の衛星で構成されており、

2013 年 4 月現在、29 機が運用され、うち利用可能な衛星は 23 機となっている。ロ

シア軍が運用し、軍及び民間が利用する衛星測位システムで、次世代機である

GLONASS-K シリーズへの移行を検討しており、従来の FDMA 信号に加え、GPS

/Galileo 等と互換の CDMA 信号を導入することが予定されている。

欧州の Galileo は、3 軌道面に各 10 機の計 30 機の衛星で構成されている。2005

年 12 月に 1 機目、2008 年 4 月の 2 機目の試験衛星を打ち上げ、さらに 2011 年 10

月に 1/2 号機を打ち上げた。全体システムの整備完了は 2016~2019 年の予定であ

る。Galileo は欧州委員会(European Commission:EC)が所有する民生システムで

あり、一般向けの位置情報を提供する無料サービス、高精度の位置情報を提供する

有料サービス、運輸事業用の有料サービス、政府機関向けの暗号化サービス、人命

捜査・救助の国際サービスを提供予定である。

中国の北斗は、静止衛星 5 機、地球同期軌道衛星 3 機、中高度軌道衛星 27 機(3

軌道面に各 9 機)の計 35 機で構成される。2012 年 11 月現在で 16 機の衛星が運用

され、中国及び太平洋地域へのサービスが開始されている。世界中をカバーする全

体システムの完成は 2020 年の予定である。全世界向けには無料サービスと許可さ

れたユーザ向けの高精度サービスさらに地域限定サービスとして軌道情報誤差や

遅延等の補正情報を提供して測位精度を向上するサービスがある。特徴的なサービ

スとしては漢字 120 文字を上限とするショートメッセージサービスを提供する。

24

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② リージョナル衛星測位システム

実用準天頂衛星システム QZSS(Quasi-Zenith Satellite System)の他に、インドの

IRNSS(Indian Regional Navigation Satellite System)の整備が計画されている。

インドの IRNSS は、静止衛星 3 機、地球同期軌道衛星 4 機の計 7 機で構成され

る。インド周辺の地域をカバーし、2014 年までに全体システムを整備予定である。

GPS と同じ L5 帯と独自の S 帯の測位信号の提供を予定している。さらに GAGAN

と呼ばれる航空用衛星航法補強システムを整備中である(図 1.1-20 参照)〔出典:

情報通信審議会 情報通信技術分科会衛星通信システム委員会報告(案)〕。

図 1.1-20 QZSS と IRNSS の軌道配置図

表 1.1-3 グローバル衛星測位システムの主要諸元

25

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表 1.1-4 リージョナル衛星測位システムの主要諸元

(5) 静止軌道位置

グローバル衛星測位システムの GPS などは中軌道(MEO:medium earth orbit)で

あるために、静止軌道を確保する必要がない。一方、リージョナル衛星測位システ

ムは 24 時間見えるのが特長であり、対地静止軌道(GEO: geostationary earth orbit)

が採用されている。

日本の実用準天頂衛星システムは、楕円軌道の 3 機と静止軌道の 1 機で構成され

るため、静止軌道 1 機の静止位置を確保する必要がある。

インドの IRNSS は静止軌道の 3 機と傾斜角を有する軌道の 4 機で構成されるた

め、静止軌道 3 機の静止位置を確保する必要がある。

実用準天頂衛星システムを想定して、表 1.1-5 に示す 6 衛星網の国際調整手続き

が行われている。

表 1.1-5 実用準天頂衛星システムを想定した 6 衛星網

軌道

位置 東経 90.5 度 東経 123 度 東経 127 度 東経 137 度 東経 168 度 非静止

衛星

網名 QZSS-GS1 QZSS-GS3 QZSS-GS 4 QZSS-GS 5 QZSS-GS 8 QZSS

ITU

状況

C C C C C

- CHN ITS-90.5Eと競合

CYP(先行)と RUS / IK と競合

UAE(先行)と競合

F、ISR、LUX(共に先行)と競合

多くの国並びに N-STAと競合

ITU 状況 “C”:ITU への登録(Advanced Publication Information)は済んでおり、

次フェーズ(Coordination)を意味する。

26

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これらの衛星網は、事前公表資料が平成 24 年 4 月に ITU へ送付され、平成 24

年 6 月に公表されている。調整資料は平成 24 年 12 月に ITU へ送付され、平成 25

年 4 月に公表されている。

調整資料公表後、調整対象である 16 主管庁等のうち、平成 25 年 11 月現在、3

主管庁から同意が得られている。

また L 帯の無線航行衛星業務については、二国間での国際調整に加えて WRC 決

議第609に基づく無線航行衛星システムに関するコンサルテーション会合等の多国

間の場においても調整が行われている。

1.1.3.2 気象衛星(ひまわり)

(1) システム概要

気象衛星(ひまわり)は、気象観測を行うことが困難な海洋や砂漠・山岳地帯を

含む広い地域の雲、水蒸気、海氷等の分布を一様に観測することができるため、大

気、海洋、雪氷等の全球的な監視に大変有効である。特に洋上の台風監視において

はとても有効な観測手段となっている。

世界気象機関(WMO)は、世界気象監視(WWW)計画の重要な柱の一つとし

て、複数の静止気象衛星と極軌道気象衛星からなる世界気象衛星観測網(図 1.1-21

参照)を提唱しており、我が国は 1977 年(昭和 52 年)以来、静止気象衛星を配置

して運用し、その一翼を担っている。

交替 気象衛星8号

図 1.1-21 世界気象衛星観測網

27

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図 1.1-22 気象衛星 8・9 号の通信概念図

(2) 現状とニーズ動向

気象庁は、平成 21 年度から設計寿命となる気象衛星 7 号機の後継機として気象

衛星 8・9 号機の開発事業に着手された。

① 衛星の開発(平成 21~27 年度) :委託

② 地上設備の整備・運用(平成 21~42 年度):民間資金を活用した PFI 事業

気象衛星 8・9 号においては観測データの高度化などが行われている(図 1.1-23

参照)。

・観測分解能の向上(従来の 1/2)

・可視のカラー化(1 波長から 3 波長)

・近赤外の追加

一方、画像配信を従来の衛星配信から地上配信に切り替えられた。

気象衛星 8 号・9 号は、世界気象衛星観測網を継承し、我が国及び東アジア・西

太平洋域内の各国における天気予報はもとより、台風・集中豪雨、気候変動などの

監視・予測、船舶や航空機の運航の安全確保に活躍することが期待されている。

さらに気象衛星 8 号・9 号は、新たなセンサー(近赤外)を搭載することにより、

地球環境の監視に役立つことも期待されている(図 1.1-23 参照)。

気象衛星通信所

気象情報など

データ収集システム(DCS:Data Collection System)」

Kaバンド(18.1-18.4GHz)

一次業務で気象衛星業務(宇宙から地球)にも分配し、静止衛星による使用に

限る。

28

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図 1.1-23 気象衛星 8 号・9 号機の整備スケジュールと特徴

(3) 運営体制

気象庁は、気象衛星の開発(設計・製造・試験)並びに打上げと観測データの処

理を担当し、地上設備の整備と衛星の運用並びに地上設備の維持管理を PFI 法で民

間事業者が担当することになった。

(4) 海外類似衛星

①静止気象衛星

世界気象衛星観測網は、日本の気象衛星「ひまわり」の他に、米国 GOES(2 機)、

欧州 METEOSAT、ロシア GOMS/KALPANA、インド INSAT と中国 FY-2 で構成さ

れている。

日本の気象衛星 8・9 号で観測データの高度化を行うように、他の気象衛星も観

測データの高度化が計画されている。表 1.1-6 に観測機能の比較を示す。

②周回気象衛星

NOAA(米国)、METOP(欧州)と FY-1(中国)が周回気象衛星として稼働し

ている。

気象観測の他に、①周回気象衛星群で現在稼働していないが COSPAS(ロシア)

と NOAA(米国)、METOP(欧州)と②静止気象衛星群の GOES(米国)、MSG

(EU)、Electro(ロシア)と INSAT(インド)に捜索救難(SAR: Search and Rescue)

機器を搭載して、捜索救難システムを構築している。

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 H31 H32 H33 H34 H35 H36 H37 H38 H39 H40 H41

6号

7号

8号

9号

地上設備

観測 待機

待機 観測 待機

観測 待機

待機 観測

設計・製造・試験

設計・製造・試験

整備 運用・設備の維持管理(~H42)

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表 1.1-6 気象衛星の観測機能比較

(5) 静止軌道位置

気象衛星(ひまわり)は世界気象機関(WMO)の世界気象衛星観測網として貢

献しており、静止軌道位置(予備機を含め)は確保されている。

1.1.3.3 Xバンド通信衛星

(1) システム概要

X バンド(周波数帯 7GHz 及び 8GHz)は軍用に配分された通信衛星専用の帯域

である。通信システムは、使用される周波数帯が異なるだけで一般に利用されてい

るシステム概念と同じである。

(2) 現状とニーズ動向

従来、民間通信事業衛星に周波数帯 7GHz 及び 8GHz の通信機器が搭載されてお

り、この通信機器を個別に使用されてきた。平成 24 年度より 2 機の X バンド通信

衛星の開発(設計・製造・試験)と地上設備(統合的管理システム)の整備に着手

されている。地上設備の整備・運用は、PFI 方式で民間事業者が実施することにな

った。統合的管理システムになることで、より一層の利用拡大が図られる。

(3) 運営体制

X バンド通信衛星の地上設備の整備・運用は、PFI 方式で選定された民間会社が

行う。

(4) 海外類似衛星

各国の軍関係も同様に X バンドを用いた通信衛星の利用を行っている。X バンド

と Ka バンドを使用した米国の WGB (Wideband Global SATCOM system)の状況を参

考に示す(表 1.1-7 参照)。

30

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c. 運営体制

図 1.1-24 X バンド通信衛星整備スケジュールと統合的管理システムの特長

表 1.1-7 WGB の状況

USA-195 USA-204 USA-211 USA-233 USA-243 USA-244 USA-

WGS-1 WGS-2 WGS-3 WGS-4 WGS-5 WGS-6 WGS-7

11 Oct. 2007 4 April 2009 6 Dec. 2009 20 Jan. 2012 25 May

2013

8 Aug. 2013 July 2015(?)

14 years 14 years 14 years 14 years 14 years 14 years 14 years

5,987 kg 5,987 kg 5,987 kg 5,987 kg 5,987 kg 5,987 kg 5,987 kg

174.8° east 60° east 12° west 88.5°west 52.5°west 104° east

X-band X-band X-band X-band X-band X-band X-band

Ka-band Ka-band Ka-band Ka-band Ka-band Ka-band Ka-band

Australia-fu

nded

(5) 静止軌道位置

現在実施されているXバンド通信衛星(2機)ともう一つのXバンド通信衛星は、

従来の通信衛星を継承するもの静止軌道位置は確保されている。なお、将来利用領

域の拡張を想定して事前公表が既にされている模様である。

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 H31 H32 H33 H34 H35 H36 H37 H38 H39 H40 H41

B2

B2後継機

C2

D

D後継機

地上設備

運用(H12.2.18打上げ、15年以上)

運用(H12.10.6打上げ、15年以上)

運用(H20.8.15打上げ、15年以上)

H27年上期打上げ予定、15年以上

H27年上期打上げ予定、15年以上

設計・製造・試験

設計・製造・試験

統合的管理システム(~H43)整備

統合的管理システム

31

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1.1.3.4 データ中継衛星

(1) システム概要

データ中継衛星(静止軌道)により、

① 中低高度周回衛星等の追跡管制:運用・観測範囲の拡大

② 観測データ等の取得:観測データ(実時間・蓄積)の大容量対応

が可能となる。データ中継衛星システムの概念図を図 1.1-25 に示す〔出典:科学

技術・学術審議会研究計画・評価分科会宇宙開発利用部会 資料 17-3〕。

図 1.1-25 データ中継衛星システムの概念図

(2) 現状とニーズ動向

JAXA は、平成 14 年 9 月 10 日に打ち上げられたデータ中継衛星(DRTS)を地

球観測衛星の観測データの取得などで運用しているが、設計寿命をはるかに超えて

おり後継機が必要となっている。さらに観測データ等が高速化(240Mbps から

1.8Gbps)することを想定して、光データ中継衛星を平成 31 年打上げ予定で計画さ

れている。

(3) 運営体制

DRTSは JAXAが運用しており、光データ中継衛星も同様に行われる模様である。

(4) 海外類似衛星

データ中継衛星を実用化したのは米国の TDRS システムである。TDRS の開発段

階では、Ku バンドが衛星間通信に配分されていて優先的に Ku バンドを使用できた。

一方、日本等の後続のデータ中継衛星では、Ku バンドは使用できず Ka バンドの

ⒸJAXA

32

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ため高速データ中継では不適合であったが、TDRS にも Ka バンドを搭載するよう

になった。TDRS の概念図を図 1.1-26、主要諸元を表 1.1-8 に示す。

(5) 静止軌道位置

光データ中継衛星は、DRTS 後継機であることから静止軌道位置の確保は可能で

ある。特に、DRTS の静止軌道位置に事前公表されていない。

図 1.1-26 TDRS の外観図

表 1.1-8 TDRS の主要諸元

33

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1.1.3.5 放送衛星

ここでは、放送衛星専用に限って記述する。

まず、放送衛星を実証するために「実験用中型放送衛星「ゆり」(BS)」が 1978

年 4 月 8 日に打上げられた。この頃は、衛星バスの電源系(特にバッテリー)の能力

等から毎年春と秋の各 1 ヵ月半程度の食期間は運用停止する設計であった。放送衛星

も地上波と同様に深夜 0 時でも放送できるように、放送衛星の食を遅らせるために東

経 110 度の静止軌道が選択された。その結果、地上受信機の仰角が低くなるために雨

等に弱い面もあった。

「放送衛星」では、数 100W 級の高出力進行波管増幅器(TWTA)の故障で中断す

る等を克服して、

放送衛星2号‐a(BS-2a):(1984 年 1 月 23 日)

放送衛星2号‐b(BS-2b):(1986 年 2 月 12 日)

放送衛星3号‐a(BS-3a):(1990 年 8 月 28 日)

放送衛星3号‐b(BS-3b):(1991 年 8 月 25 日)

が打上げられた。

これらを引継ぎ、株式会社放送衛星システム(B-SAT:Broadcasting Satellite System

Corporation:設立:1993 年 4 月 13 日)は、これまで 8 機が打ち上げられ(うち 1 機失

敗)いずれも軌道位置は東経 110 度で運用されている。

BSAT-1a の 1997年 4月 17日打上げから、現在BSAT-3a(2007年 8月 14日/運用中)、

BSAT-3b(2010 年 10 月 28 日/運用中)、BSAT-3c(2011 年 8 月 6 日/運用中)と運用さ

れている。

BSAT シリーズ共通の特徴として、実験放送衛星ゆりシリーズでは毎年春と秋の各 1

ヵ月半ずつ程度存在した、食の時期における放送休止(主に深夜)が解消され、完全

24 時間放送に対応している点が挙げられる。

(1) システム概要

放送衛星の概念図を図 1.1-27 に示す。

(2) 現状とニーズ動向

現在は 8 局(8 波)に放送局免許が認可されている。将来、BSAT-3a が設計寿命

に達する 2020 年を目標に、日本の Ku 帯 BS 放送に認められている 12 波すべてを

同時送信できる放送衛星を打ち上げる計画がある。

34

Page 39: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

放送衛星

14GHz 帯

12GHz帯

一般家庭

衛星オペレータ

図 1.1-27 放送衛星の概念図

(3) 運営体制

株式会社放送衛星システムが運用している。

(4) 海外類似衛星

各国で放送衛星システムを構築している。

(5) 静止軌道位置

日本としては、継続して東経 110 度を確保している。

35

Page 40: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

1.2 商業市場における競合国の動向調査

1.2.1 衛星サービス事業者の動向

1.2.1.1 衛星サービス事業者の動向

衛星サービスは通信・放送関連サービスがほとんどで、民間事業者が行っている。

通信放送衛星システムの主な役割は、①災害発生等通信途絶時の代替通信手段、②地

上インフラ未整備の地域での主要通信手段、③救急活動等緊急性が要求される現場で

の活用、④航空機・船舶・衛星等移動体との通信である。

(1) 衛星サービス事業者の動向

2013 年の衛星サービス事業者のランキングを図 1.2-1 に示す。上位 5 事業者で主

要部分を占める。主要衛星サービス事業者の概要は以下の通りである。

第 1 位:インテルサット社; 2013 年売上 26.4 億ドル。2012 年からの成長率 1.1%。

本社はルクセンブルクにあるが実質的には米国企業。歴史が長く、国際機

関から民間企業に変化している。2013 年までに 81 機打上げている。

第 2 位:SES 社; 2013 年売上 25.6 億ドル。2012 年からの成長率 6.2%。ルクセン

ブルクの放送衛星企業。2013 年までに 23 機のアストラ衛星を打上げてい

る。

第 3 位:ユーテルサット社; 2013 年売上 17.9 億ドル。2012 年からの成長率 7.8%。

1985 年に欧州電気通信衛星機構として発足したが民営化され、フランスと

スペインが 25%ずつ株式を保有。2013 年までに 35 機の衛星を打上げてい

る。

第 4 位:テレサット社: 2013 年売上 8.39 億ドル。2012 年からの成長率 -0.9%。カ

ナダ企業。アニク衛星とニミク衛星を合わせて、2013 年までに 21 機を打

上げている。

第 5 位:スカパーJSAT 社:2013 年売上 5.95 億ドル。2012 年からの成長率 -9.8%。

日本企業。2013 年までに 21 機の JCSAT, スーパーバード衛星を打上げ。

東日本大震災後に緊急時通信用需要が拡大している。

この他に、インマルサット等、幾つかの国あるいは国際機関で衛星打上げ・運用

を行う例もある。

36

Page 41: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

〔出典:Space News July 7, 2014 より〕

図 1.2-1 衛星サービス事業者ランキング(2013 年)

2014 年時点での各衛星サービス事業者の動向を表 1.2-1 に示す。

(2) HTSに対する主要衛星サービス事業者の戦略

HTS に関しては 20 運用事業者が投資している(市場提供済が 11、今後 4 年間に

HTS 衛星/ペイロード打上予定が 9)。ユーテルサット社は専用 HTS システムと

して開発しており、2010 年に KA-SAT を打ち上げた。SES 社はマルチ・ミッショ

ン衛星上に HT ペイロード搭載する方向で開発を行っている。欧州地域では衛星 4

機の 2 つの Ka-バンド・ビームを統合し、アジア地域では SES-12 で HTS Ku-, Ka-

バンド・スポートビームを計画している。インテルサット社はエピック衛星を開発

(2012 年 2 機、2013 年 5 機受注)した。この衛星は、スループット 25~60 Gbps

(KA-SAT の約半分)で、周波数再使用技術を C-, Ku-バンドに適用して企業・政府

向けのメガビット・コストの引き下げを図っている。

0

5

10

15

20

25

30

2012売上

2013売上

売上

億ドル

順位 会社名 国 2012売上 2013売上 1位との比率 増加率(%)1 インテルサット ルクセンブルク 26.1 26.4 100% 1.1%2 SES ルクセンブルク 24.1 25.6 97% 6.2%3 ユーテルサット フランス 16.6 17.9 68% 7.8%4 テレサット カナダ 8.5 8.4 32% -0.9%5 スカパーJSAT 日本 6.6 5.9 23% -9.8%6 アラブサット サウジアラビア 3.0 3.4 13% 13.5%7 スター・ワン ブラジル 3.2 3.3 13% 4.8%8 SingTel Optus オーストラリア 3.4 2.8 11% -17.6%9 ヒスパサット スペイン 2.6 2.8 11% 4.9%10 タイコム タイ 2.4 2.5 9% 2.5%11 中国衛星通信集団公司 中国 2.1 2.3 9% 12.2%12 アジアサット 香港 2.4 1.9 7% -20.5%13 ナイルサット エジプト 1.7 1.8 7% 9.1%14 ロシア衛星通信 ロシア 2.1 1.8 7% -15.4%15 インド宇宙研究機関 インド 1.6 1.7 6% 6.3%16 テレノア衛星放送 ノルウェイ 1.8 1.6 6% -9.6%17 APT衛星ホールディング 香港 1.2 1.5 6% 26.3%18 サトメックス メキシコ 1.4 1.4 5% 0.4%19 ミーアサット マレーシア 1.2 1.3 5% 8.3%20 ABS バーミューダ 1.1 1.2 4% 6.5%

37

Page 42: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

表1.

2-1

2014

年時点での各衛星サービス事業者の動向

(1/

3)

順位

会社

名国

運用

衛星

数受

注数

2 0 

1 4 

年 

時 

点 

で 

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ルサ

ット

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2015年

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空、

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打上

げが

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され

てい

る。

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クセ

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ルク

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メリ

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イル

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3b K

a-バ

ンド

中型

地球

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衛星

コン

ステ

レー

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ンの

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げが

2014年

夏と

2015年

初頭

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3ユ

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ルサ

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衛星

市場

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ンド

ブロ

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る。

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ット

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2012年

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ンド

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星用

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ール

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日本

163

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た。

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る。

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ラブ

サッ

トサ

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アラ

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61

衛星

製造

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への

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星入

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この

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はア

ラブ

サッ

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所有

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星上

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ルサ

ット

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ンド

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リシ

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衛星

運用

事業

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ロッ

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って

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てい

る。

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ラジ

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2

2013年

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値は

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この

企業

のホ

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・マ

ーケ

ット

(ブ

ラジ

ル)

は衛

星の

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提供

にと

って

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クな

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てい

る。

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売却

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3は、

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てい

る。

Ka-バ

ンド

ブロ

ード

バン

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Co.

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ブロ

ード

バン

ド・

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ニー

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契約

によ

り、

2015年

から

衛星

打上

げが

開始

れる

38

Page 43: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

表1.

2-1

2014

年時点での各衛星サービス事業者の動向

(2/

3)

順位

会社

名国

運用

衛星

数受

注数

2 0 

1 4 

年 

時 

点 

で 

の 

動 

9ヒ

スパ

サッ

トス

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2

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リカ

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星は

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ード

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ンド

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る。

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ジア

サッ

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いる

。1月

打上

げの

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icom

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増加

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下期

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げを

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国衛

星通

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国11

2

売上

数値

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業側

は、

2013年

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述べ

てい

る。

業は

2013年

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争」

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てい

る、

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べて

いる

12ア

ジア

サッ

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3企

業側

は、

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して

、競

争の

増加

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及し

てい

る。

2014年

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asat

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げを

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13ナ

イル

サッ

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ジプ

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政治

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国際

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てい

る。

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7度で

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テル

サッ

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衛星

通信

ロシ

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4ロ

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星を

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てい

る。

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ンド

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ンド

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衛星

市場

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に反

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る。

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ンド

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a-バ

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2014年

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tar

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衛星

通信

集団

公司

に譲

渡さ

れた

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Tは

市場

権利

の一

部を

保持

して

いる

39

Page 44: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

表1.

2-1

2014

年時点での各衛星サービス事業者の動向

(3/

3) 〔出典:

Spac

e N

ews

Jul.

7, 2

014 より〕

順位

会社

名国

運用

衛星

数受

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2 0 

1 4 

年 

時 

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で 

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18サ

トメ

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キシ

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サッ

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42

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数値

は推

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電化

衛星

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から

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され

る。

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衛星

シス

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ンド

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部門

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いる

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る。

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ラエ

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ジア

まで

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この

企業

は18機

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Spac

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ター

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エコ

ース

ター

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hとの

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ルコ

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ンド

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は20

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ンド

ネシ

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てい

が、

衛星

通信

政策

が不

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で、

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衛星

を発

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り、

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いる

26ア

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中継

星を

購入

し、

2014年

度に

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売上

増を

見込

んで

いる

40

Page 45: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

これらは、典型的には 1 つの垂直市場あるいは特別なアンカー・カスタマの特別

な要求(ビーム当たり最大のスループット、専用プラットフォーム等)に合致する

ように設計され、そのほとんどが Ka-バンドを使用している。例えば Hispasat(南

アメリカ)や Yahsat(ナイジェリア)など熱帯気候(多雨)で伝播減衰が大きい地

域さえそうなのである(例外として、タイコム・INSAT・インテルサットは Ku-バ

ンドを使用している)。またステア可能なビームに投資している。

1.2.1.2 各国の衛星サービスの動向

表 1.2-2 に各国の衛星サービスの動向を示す。一般 TV 放送が最大のユーザで、国際

間通信は海底ケーブル敷設等で相対的に減少傾向にある。地上インフラが整備されて

いる先進国では需要が減ってきており、国土が広大でインフラが整っていない新興

国・開発途上国で応用が広がっている。具体的には遠隔教育・遠隔医療などへの応用

で、インドが好例であり今後アフリカ諸国にも波及することが予測される。

41

Page 46: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

表1.

2-2

各国の衛星サービスの動向

(201

4年

) (1/

2)

No.

国 

名動

 

  

 

  

  

  向

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宇宙

勢力

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争力

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つ;

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は短

期間

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第3,

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る。

42

Page 47: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

表1.

2-2

各国の衛星サービスの動向

(201

4年

) (2/

2)

〔出典:

Fut

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s 20

14 S

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Com

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No.

国 

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43

Page 48: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

1.2.2 宇宙開発関連企業

2011 年の宇宙開発関連企業の売り上げランキングを図 1.2-2 に示す。上位 5 企業で主

要部分を占める。図中、黄色の網掛けをした企業が衛星製造メーカである。

図 1.2-2 宇宙開発関連企業ランキング

〔出典: Space News July 30, 2012 より〕

主要国の衛星製造企業の動向は、

①米国:ロッキード・マーチン社、ボーイング社、スペースシステムズ/ロラール社、

オービタル・サイエンス社の 4 社で世界の商業通信衛星シェアの約 50%を占める。

小型~大型バスまで各種の衛星バスを製造している。

②欧州:EADS 社、タレス・アレーニア・スペース社で世界シェア約 30%を占める。

小型~大型バスまで各種の衛星バスを製造している。

③ロシア:レシェトネフ社、クルニチェフ社および RSC Energia 社で世界シェア約 10%

を占める。外国からの受注実績あり。自国では静止衛星・モルニア軌道衛星として

利用している。

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

2010売上

2011売上

売上

億ドル

順位 会社名 国 2010売上 2011売上 1位との比率 増加率(%)1 ロッキード・マーチン 米国 110.4 114.4 100% 3.7%2 ボーイング 米国 94.6 86.7 76% -8.3%3 EADS 欧州 64.8 64.3 56% -0.8%4 ノースロップ・グラマン 米国 53.2 50.1 44% -5.8%5 レイセオン 米国 44.6 46.3 40% 3.7%6 ガーミン 米国 26.9 27.6 24% 2.6%7 タレス・アレーニア・スペース フランス 26.5 26.8 23% 1.1%8 L3コミュニケーションズ 米国 18.0 18.0 16% 0.0%9 エコースター 米国 18.2 16.7 15% -8.0%10 トリンブル 米国 12.9 16.4 14% 27.0%11 ゼネラル・ダイナミックス 米国 17.5 15.2 13% -13.0%12 ハリス 米国 9.9 14.9 13% 49.8%13 ATK 米国 14.2 13.5 12% -5.3%14 オービタル・サイエンス 米国 13.0 13.5 12% 3.9%15 アリアンスペース フランス 11.6 13.1 11% 12.9%16 スペースシステムズ/ロラール 米国 11.7 11.1 10% -4.9%17 ユナイテッド・テクノロジーズ 米国 11.0 10.0 9% -9.1%18 サフラン フランス 5.4 9.5 8% 76.7%19 三菱電機 日本 9.3 9.3 8% 0.0%20 BAEシステムズ 英国 8.1 7.8 7% -4.4%

44

Page 49: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

④中国:大型衛星の開発・製造技術を保有している。資源外交政策(アフリカ諸国)

の一環として宇宙技術を用いており、ナイジェリア、ベネズエラ等から通信衛星等

を受注している。

⑤インド:中型衛星の開発・製造技術を保有している。大型衛星を開発中。ユーテル

サット向け衛星を受注。

⑥カナダ:要素技術を有するものの、衛星バスといえるシステムは確立していない。

2010 年の世界の商用静止衛星受注数を国別シェアで見ると、米国 40 機(全体の 49%)、

欧州 23 機(28%)、ロシア系 11 機(14%)、その他(中国、日本、カナダ、イスラエル)

8 機(12%)で、欧米が全体の 3/4 を占める。企業別で見ると、(1)米国:Space Systems

Loral(18 機)、Orbital Sciences(10 機)、Boeing Satellite Systems(9 機)、Lockheed Martin

Commercial Space Systems(3 機)、(2)欧州:EADS Astrium(現 ADS:Airbus Defence and

Space)(15 機)、Thales Alenia Space(TAS)(7 機)、OHB Sciences(1 機) 、(3)ロシア系:

Reshetnev Company(9 機)、Khrunichev(2 機)、(4)その他:Chinese Academy of Space

Technology(CAST)(5 機)、三菱電機、MDA、Israel Aircraft Industries(各 1 機)、となって

いる(SJAC H23 年度宇宙産業データブックより)。

1.2.3 主要衛星バスの特徴

全体として大型(5~6t 級)が多くなりつつある。また ITAR 規制等の理由により、

欧州メーカが優位に立ちつつある。後述するように、技術レベルは、米国 > 欧州 > 日

本・中国 > ロシア、の順と評価される。

表 1.2-3 主要な衛星バスの特徴

〔出典:(独)科学技術振興機構:世界の宇宙技術力比較(2013 年)より〕

国 名 企業名 バス型式名打上げ時

質量

最大

電力

設計

寿命

受注

実績

米 国

ロッキードマーチン(LM) A2100A系 3~6t 18kW 15年 70

ボーイング BSS702系 5~6t 17kW 15年 52

スペースシステムズ/ロラール(SSL) LS1300 系 6~7t 25kW 15年 115

オービタルサイエンシズ(OSC) Geostar-1/-2 2~4t 5kW 15年 40

欧 州エアバス(旧EADSアストリウム) Eurostar-3000 系 5~6t 18kW 15年 46

ターレス・アレニア・スペース(TAS) Spacebus-4000 系 5~6t 15kW 15年 28

ロシア ISS レシェトネフ Ekspress-2000 型 3~4t N/A 15年 4

日 本 三菱電機(株) DS-2000 型 3~5t 14kW 15年 15

中 国 中国空間技術研究院(CAST) 東方紅4 型 5t 18kW 15年 19

インド インド宇宙研究機関(ISRO) I-3000 型、4000 型 2~3t N/A 10年 9

45

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世界の主要な衛星バスの特徴を表 1.2-3 に示す。LS-1300 バスは、米国スペースシス

テムズ/ロラール社(SSL)が開発した衛星バスで、移動体通信用に大型アンテナを搭載

しており、技術的に高いレベルにある。アルファバスは、欧州の ARTES プログラムの

中で PPP(public-private partnership)の形態でインマルサット社・エアバス社(ABS)(旧

EADS アストリウム社)・タレス・アレーニア・スペース社(TAS)が共同開発している。

高電力通信衛星ペイロードを搭載した多目的プラットフォームである。東方紅 4型は、

中国空間技術研究院(CAST)が開発したもので。ボリビア、ラオスの通信衛星を受注

している。Ekspress-2000 バスは、ロシアのレシェトネフ社が開発したもので、確立さ

れた要素技術を組み合わせて独自の開発・製造を行っている。

1.2.4 我が国との競争力の比較

1.2.4.1 衛星通信放送

表 1.2-4 に、衛星通信放送に関する世界の技術力を、技術、ミッション、企業評価の

面から比較、採点したものを示す。ランクは、米国 > 欧州 > 日本 > 中国、カナダ >

ロシア > インド、の順で、日本は第 3 位と評価されている。

表 1.2-4 世界の技術力の比較: 衛星通信放送

〔出典:(独)科学技術振興機構:世界の宇宙技術力比較(2013 年)より〕

(1) 技術

衛星のラインアップは拡大しており(大型化、小型化)、トラポン数も増大して

いる。Ka-バンド等の新周波数帯域の利用、大型アンテナ技術(移動通信向け)の

採用、アクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナによるマルチビーム化、伝送容

量拡大、衛星間通信(光通信を含む)、リコンフィギュアラブル技術(長寿命化・

ユーザニーズに柔軟に対応)を採用しつつある。

米国は技術的に成熟している。NASA は 1990 年代に TDRS(データ中継衛星)

を開発した。ボーイング社は民間向け/DoD 向けに先進技術を開発し、その防衛通

項 目 米国 欧州 ロシア 日本 中国 インド カナダ 備考

技術 9 9 1 5 1 0 0 10点満点中

ミッション 4 2 2 3 2 3 3 5点満点中

企業評価 4 5 2 3 3 1 3 5点満点中

合 計 17 16 5 10 6 4 6 20点満点中

46

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信技術を民間転用している。

日本は近年、技術開発が途絶えて技術優位性を下げている。JAXA は「かけはし」

(COMETS:通信技術)、「こだま」(DRTS:データ中継衛星)、「きらり」(OICETS:

衛星間光通信技術)、「きく 8 号」(ETS-8:衛星標準バス、大型展開アンテナ)、

「きずな」(WINDS:超高速インターネット回線)を開発して以降、技術開発が

途絶え、技術的アドバンスを失いつつある。

欧州は、多国籍化し、各国連携で大量生産体制を構築している。ESA は ARTES

プログラム(後述)を推進しており、また O3b ネットワ-クス社の O3b は、高度

8,000km に 16 機の通信衛星コンステレーションを構成し、低コストのインターネッ

ト接続環境の提供を計画している。

中国は、China Satcom が東方紅 4 型バス開発。天連 1 号、1C 号(データ中継衛

星)も所有、運用している。

ロシア・インド・カナダは、新規開発はしておらず、確立された要素技術を組み

合わせて独自の通信放送衛星を開発している。

(2) ミッション

TV 放送が最大ユーザである。固定通信(国際間通信等)の割合は光ケーブル敷

設に伴い減少している。先進国は地上インフラが充実していて、衛星通信の価値が

低い。一方、新興国/開発途上国では衛星通信が通信インフラとなっている。特に

遠隔教育や遠隔医療に利用されている。安全保障の面からは、国防専用の通信衛星

保有が重要とされている。移動通信対応、ブロードバンド対応の環境が充実してい

るかどうかが鍵。

インドは遠隔教育の分野で最も進んでおり、国レベルで小学校の授業に利用して

いる。遠隔医療への応用も潜在的に高い。

日本は、防衛省は専用通信衛星を保有せず、民間事業者から専用回線をリースし

ている。

(3) 企業評価

衛星通信サービス事業者の数、売上で評価する。「1.2.1.1 衛星サービス事業者の

動向」の項を参照の事。

我が国の衛星製造メーカの国際競争力は低く、衛星受注事例は極めて少ない。三

菱電機の国内 1 機(Superbird C2)、海外 5 機(ST-2、TurkSat -4A、同 4B、Optus-2、

エスヘイル 2(カタール))の 6 機のみである。近年の増加は官民挙げてのインフ

ラ輸出攻勢が効奏した結果である。スカパーJSAT 社は 10 機以上の静止通信衛星を

運用して、世界第 5 位の売上げ実績を持つ。

47

Page 52: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

1.2.4.2 衛星バス技術

表 1.2-5 に、衛星バス技術に関する世界の技術力を、静止衛星用標準バスとその信頼

度、部品等の面から比較、採点したものを示す。ランクは、米国 > 欧州 > 日本 > 中

国 > ロシア > インド > カナダ、の順で、日本は第 3 位と評価されている。

表 1.2-5 世界の技術力の比較: 衛星バス技術

〔出典:(独)科学技術振興機構:世界の宇宙技術力比較(2013年)より〕

(1) 静止衛星用バス技術

「1.2.3 主要衛星バスの特徴」で述べたように、大型化(5~6 t 級)が進んでいる。

これは静止軌道上スロットを有効利用するためである。過去は米国が優位だったが、

ITAR 制約から欧州優位に移行しつつある。

欧州は ARTES プログラムの一環として「アルファ・バス(ARTES-8)」を開発し、

2013 年にインマルサットⅣ-A F4 として打上げた。

米国 スペースシステムズ/ロラール社の「LS-1300」バスは移動体通信用の大

型アンテナを搭載している。

中国 中国宇宙技術研究院の「東方紅 4 型」バスの受注は増加(ボリビア、ラオ

ス等)している。

日本は、三菱電機の「DS-2000 型」バスがトルコ衛星 2 機(Turksat-4A/4B)、カタ

ール衛星 1 機(エスヘイル 2)を受注している。

ロシアは欧州の技術を取り入れて、イスラエル、インドネシアから受注している。

インドはユーテルサット向け衛星バスを受注している。

(2) 静止衛星用バス技術の信頼度

軌道上での衛星の物的損害(機器の故障、機能の喪失、寿命の短縮等)の程度を

評価している。

(3) 部品/要素部技術・コンポーネント

部品は米国依存度が高いため、それを回避すべく各国とも独自の施策を採用して

項 目 米国 欧州 ロシア 日本 中国 インド カナダ 備考

標準バス 10 9 6 7 7 4 0 10点満点中

同 信頼度 5 5 2 5 3 2 0 5点満点中

部品等 10 10 3 6 3 2 2 10点満点中

合 計 25 24 11 18 13 8 2 25点満点中

48

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いる。欧州は単一ソースに依存するリスクを回避するため ITAR フリー衛星の開発

に力を入れている。中国は独自の生産スキームを確立している。一方、日本は部品

製造業者が撤退傾向にあり、競争力が低下している。

また要素技術、コンポーネントについては、各国とも優位性確保に努めている。

日本は、太陽電池パネル、リチウムイオン電池など競争力の高いアイテムを多数保

有している。カナダはロボットアーム技術が優れている。

49

Page 54: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

1.3 国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・分析

本節では欧州宇宙機構(ESA)が実施する ARTES(Advanced Research in

Telecommunications Systems)プログラム等の、海外における通信静止衛星の産業競争

力強化へ向けた支援プログラムについて、内容、技術的特徴、実施スキーム(官民の

責任分担、費用分担、契約枠組み、課題等)について詳細な整理、分析を行う。

1.3.1 主な国際競争力支援プログラム

欧米で実施されている国際競争力支援プログラムとして以下があげられる。

1.3.1.1 欧州

官(EU)/民(衛星通信に関わる欧州企業、通信オペレータ等)一体での ARTES プ

ログラムにおいて、通信放送に関わる調査・検討、次世代衛星通信技術・通信衛星の

開発・実証を継続的に実施している。

欧州の官民連携により開発された次世代通信衛星として「Alphasat」が挙げられる。

1.3.1.2 米国

防衛プログラムにより開発された技術成果を商用衛星に転用している。開発対象と

して、高速通信、Ka バンド、X バンド機器、大型プラットフォーム等がある。

米国防衛通信衛星の例としては、AEHF (Advanced Extremely High Frequency)が挙げら

れる。

1.3.2 ARTESプログラム概観

http://www.esa.int/Our_Activities/Telecommunications_

Integrated_Applications/ARTES/ARTES_programme_o

verview

ESA の電気通信システムにおける先端研究(ARTES)プログラムは研究開発投資を

成功した商用製品へ変換する。これは、世界中の衛星通信市場で欧州とカナダの未来

を確保するのに役立つ。

ARTES の成功は、参加加盟国の民間部門と公共部門の意思決定者との間の継続的協

力の結果である。

ARTES を通じて、ESA は全ての加盟国からの専門知識をプールし、その知識を共有

する独自の機能を提供している。これは競争の激化に直面して開いたグローバルな商

業市場で競争力のある製品を提供し、業界の維持・開発に役立つ。

ARTES は、商業的成熟度の異なるレベルのプロジェクトに対して、様々な度合いの

支援を提供している。リスクの高いまたはより革新的なプロジェクトでは、ESA はよ

50

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り多くのサポートを提供することができる。市場に近ければ近いほど、業界はより多

く共同投資しなければならない。ESA のメンバーと協力国の事業者は - 小規模か大規

模、新規か経験豊富かどうかにかかわらず - ARTES プログラムに提案を提出すること

ができる。

さまざまな ARTES 要素は、完全なバリューチェーン全体の活動のための柔軟なフレ

ームワークを形成しており、民間と公共のパートナーに高く評価されている。すべて

の ARTES 要素は、資金調達の枠組みが含まれており、参加を希望する衛星通信会社に

よって満たされなければならない一定の基準に従っている。

ARTES 1(戦略):戦略的分析、市場分析、技術、システム可能性調査、新たな衛星通

信規格の開発とサポート

ARTES 3-4(製品):製品の開発・認定及び実証。ここで製品とは衛星バスまたはペイ

ロードの機器の一部であっても良く、ユーザ端末またはその宇宙セ

グメントをネットワークに統合する完全な通信システム全てとする

こともできる。電気通信アプリケーションもこの要素の条件の下で

行うことができる。

ARTES 5(技術):ESA あるいは衛星通信業界主導による長期的な技術開発の推進

ARTES 7(EDRS):欧州データ中継衛星のシステムの開発と実装。データ中継衛星は、

他の方法では永久にデータの送受信ができない、非静止衛星、宇宙

船、他の乗物及び固定地球局からまたはそれへの情報を中継するた

めに静止軌道に配置された人工衛星である。

ARTES 8(Alphabus、Alphasat):Inmarsat との官民パートナーシップによる開発と

Alphasat1-XL の展開。エアバスとタレス·アレニア·スペースによって

共同で開発された Alphabus の最初のユニットを組み込む。

Alphasat1-XL は、革新的なオンボード処理技術を搭載し、ユーザサー

ビスの開発を促進する。

ARTES 10(IRIS):EUROCONTROL と欧州航空コミュニティによって、EU SESAR

プログラムの下で開発されている航空交通管理システムの将来世代

を補完する衛星ベースの通信システムの開発。

ARTES 11(SmallGEO):商用通信市場において重要な役割演ずる機会を欧州産業界に

与える SmallGEO バス(汎用小型静止衛星バス)の開発と実装。バス

は、官民パートナーシップを通じて開発されている。産業界のパー

トナーは、開発コストのかなりの部分を融資しながら、ESA は

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ARTES11 を通じて研究開発活動への支援に注力している。

ARTES14(NEOSAT):次世代衛星バスの開発、認定及び実証の支援。3-6 トンの打ち

上げセグメントを既に確立した、欧州プライム衛星インテグレータ

は衛星オペレータの将来のニーズに対応できるようになる。

ARTES 20(IAP) :統合アプリケーションの開発、実装、および実証運用。電気通信、

地球観測衛星とナビゲーション等の異なる種類を組み合わせた宇宙シ

ステムのアプリケーションである。統合アプリケーションプロジェク

トは、安全な交通システムから緊急/災害管理システム迄の範囲の開発

の解決策を提供する。

ARTES 21 (SAT-AIS) :自動識別装置(AIS)は、現在船舶上で使用される短距離の沿

岸追跡システムである。これは、船舶及び海岸局への識別および位置

情報を提供するために開発された。宇宙ベースの AIS または SAT-AIS

は、追跡装置を装備した航海船の検出を可能にする様、衛星を介して

AIS データを提供する。

ARTES 33 (Partner) :業界で生成された官民パートナーシップを通じ市場に革新的な製品

やシステムをもたらすための効率的なフレームワークを SATCOM 産

業へ提供する。Electra と呼ばれる最初のパートナー-提案されたプロジ

ェクトでは、打上質量 3 トンのフル電気推進の通信衛星の開発、打上、

軌道上検証を通じて欧州の衛星産業を支援する。

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1.3.3 ESAテレコミュニケーション及び統合アプリケーション総局

https://artes.esa.int/about-tia

ESA テレコミュニケーション及び統合アプリケーション(TIA)総局は、衛星電気通

信における技術革新のコーディネート・形成・支援を担当している。また、宇宙ベー

スの通信と地球観測とナビゲーションシステムとの併用を伴うアプリケーションの推

進を担当している。

研究開発活動を容易にすることにより、業界内のパートナーシップを鍛造すること

により、世界クラスの製品やサービスを開発するための高度な技術と概念の生産で欧

州やカナダの産業を支援することにより、TIA は欧州やカナダの産業の発展に貢献し

ている。

TIA はまた、新衛星システムの開発と展開に貢献する官民パートナーシップを支援

することにより、将来のサービスのデモと検証を可能にすることにより、投資の役割

を果たしている。

TIA 総局の作業には以下が含まれる。

•業界、衛星放送事業者や欧州の機関のニーズを把握し、プログラムや、それらのニ

ーズを解決するための開発を提案。

•新衛星システム、機器及びサービスの開発、テストと軌道上実証の引受。

•新技術が正常に、サービスプロバイダやアプリケーション開発者が使用することが

できる製品やサービスになっていることの確認。

•欧州とカナダのシステムの相互運用性の利点を確保するための標準の促進。

•欧州市民や社会のニーズに対する解決策を提供する宇宙ベース大型アプリケーショ

ンの開発。

TIA は他の公共団体と連携して、とりわけ欧州連合、欧州航空航法安全機構及び欧

州防衛機関等と連携して活動する。

宇宙に関する欧州戦略の枠組みでは、衛星通信事業は、開発先導の重要な構成要素

である。例えば、総局の IRIS プログラムの一環として、TIA は、将来の航空交通管理

システムの衛星ベースの構成要素の開発において、欧州航空航法安全機構・欧州民間

航空当局と協力している。

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他の重要なアプリケーションでは、さまざまな EC の総局との協力が予見されている。

国家機関と ESA の協力は、国内及び欧州のプロジェクト間の相乗効果を促進する。

以下のプロジェクトは、「欧州化(国主導での開発機会)」の有用性を実証してい

る。

CNES と実施した Alphabus、

CDTI と実施した AmerHIS/ REDSAT

BNSC と実施した HYLAS

DLR と実施した smallGEO

1.3.3.1 衛星市場

衛星通信業界は、群を抜いて、欧州で衛星活動の 60%以上に相当する、欧州の衛星

製造業のための最も重要な宇宙部門である。

グローバル衛星通信市場の健全性は、欧州宇宙産業の持続可能性と継続性によって

決定される。これは、確立された事実の数から明らかである:

•2008 年末までにアリアン-5 が立ち上げた 82 機の衛星のうち、62 機は、通信衛星であ

った。実際に、2005 年 1 月と 2008 年 12 月の間、アリアン-5 が軌道上で 40 機の通信

衛星とのみ 2 機の非通信ペイロードを投入した。

•アリアン-4 運用期間に正常打上げられた 155 機の衛星の、139 機は電気通信衛星だっ

た。

•約 8400 台の FSS と DBS(36 MHz と同等)の軌道上トランスポンダのリースで計上さ

れた年間収益は、88 億ドル(約 68.5 億ユーロ)以上である。モバイル衛星システムに

よって生成収入 1500 万ユーロを超えている。

•1990 年代には通信衛星の平均年間打上数は 23 機だったが、21 世紀の最初の十年の推定

平均は約 20 機である。

この数字は、衛星メーカーと打ち上げプロバイダーの売上高の数字に反映されてい

る。

•欧州の宇宙産業の売上高の 60%(50 億ユーロ)は、通信衛星の製造と打ち上げに由来

する。

•地上セグメント業界は 300 億ドルの売上高を持っている。

•衛星主導型のサービスによる下流の生産収益は 600 億ドルを超えている。

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1.3.3.2 市場展望

最近の数年間、主衛星オペレータのトランスポンダ占有率は大幅に改善しており、

新しい衛星の発注の増加を引き起こしている。2006年には、27機の衛星が発注された。

2007 年に 20 機の発注が続いた。2008 年にはこの数字が 25 機に達した。新しい容量の

三分の二は、動作寿命の終わりに達する衛星を置き換えるために供される。

残りの三分の一は、既存のサービスの成長と新システムの出現を構成している。

欧州の産業界は、宇宙セグメントの約 40%の市場シェアを維持することに成功した。

しかし、米国のメーカーや新しい宇宙の力の両方から技術的および商業的圧力が能

力と技術革新をハイレベルに維持することを欧州産業に義務付けている。

固定及び放送衛星サービスのための比較的成熟した市場に加えて、他の衛星通信サ

ービスは、非常に迅速に進化している。

モバイル衛星サービスは、一定の進化である。Inmarsat は、2008 年の Inmarsat IV F3

の打ち上げ成功で第四世代衛星の配備を完了した。このシステムは、ESA サポート

Alphasat 衛星の配置により補完・拡張される。他の先進的地域システムも、モバイル分

野での大幅な成長の展望を強調して、米国で発表されている。

いくつかのシステムは、車載受信機或いは携帯デバイスにラジオやテレビを衛星か

ら直接放送するために開発されている。XM-シリウスの組合せ運用は約 20 万人の加入

者を誇っている。

EC が S バンドでのサービスの認可を譲歩した結果、欧州ではいくつかのシステムが

実施される。

衛星によるインターネット•アクセスを提供するために新しいブロードバンドシス

テムが計画されている。これは主にテレビを放送するように設計された汎用 Ku 帯トラ

ンスポンダを使用して、すでに可能である。

しかし、新世代のマルチスポット Ka バンド衛星は遥かに効率的な配信をもたらし、

価格性能を一桁から二桁向上させ、とはるかに大きい容量をもっている。

現在、2 機の Ka 帯システム(WildBlue と Spaceway)が米国で運用されているが、

欧州の他の二つの Ka 帯システム(ユーテルサットの KaSat と avanti の HYLAS)は開

発の進んだ段階にある。

同時に、ユーザ端末のコストは減少しており、競合する地上システムと同範囲の価

格と性能の、サービス提供を可能にしている。

55

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1.3.3.3 制度部門

TIA ARTES プログラムは、SATCOM ソリューションの利点を積極的に促進し、アプ

リケーションの潜在的な領域を特定し、我々の社会のニーズと我々の機関の要件とに

合致するように、これらのアプリケーションを持続可能なソリューションに如何に変

換できるかを実証する。

この文脈において、ESA は、将来の計画された航空交通管理システムの地上進化を

補完する衛星ベースのシステムを設計し実証するため、航空航法安全機構とシングル

欧州スカイ ATM 研究プログラム(SESAR)コンソーシアムと協力している。

さらに TIA は、準リアルタイムで収集されたデータの配信を可能にすることにより

地球観測システムの性能を向上させる欧州データ中継衛星システムの実装を予測する。

最後に、宇宙資源のいくつかのセットを統合する広い範囲のアプリケーションが、

社会に非常に重要ないくつもの領域に取り組むことができるようになる。健康、安全、

交通、エネルギー及び開発が、統合アプリケーションイニシアティブの下で実施され

1.3.3.4 実績

衛星通信部門では、継続的な商業的成功は、技術革新への恒久的な強圧なしで維持

することができない。

TIA ARTES プログラムが欧州産業界の電気通信研究開発努力の主力となっている。

現状では、このサポートは、これまで以上に必要とされている。

Inmarsat IV、Skyplex と AmerHis 等に搭載されているオンボードプロセッサの開発に

ESA は貢献してきた。

またにあり、を対象としています

HYLAS システムの中心であり、カバレッジエリアにわたり変化するトラフィックパ

ターンに直面せざるを得ない任意の将来のオペレータを対象とする、新しい柔軟なペ

イロード技術の開発に ESA は貢献してきた。

ESA はまた、競争力のある代替サプライヤーをユーザに提供する DVB ファミリー規

格の様なオープン標準の開発を有利にすることにより、地上及びユーザセグメント業

界に支援を提供してきました。

ESA はまた Inmarsat BGAN のサービスのための携帯端末の開発を支援してきました。

また、Artemis の正常な回復の後、4 つのペイロードの通常利用を可能にした、優れ

た結果を報告することが重要である。

56

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最初の主要な欧州の衛星通信事業者の一つであるユーテルサットは、ESA のイニシ

アチブで設立された。さらに、ESA の先駆的なイニシアチブは、両主契約者と下請け

業者の方の技術力を統合し、欧州産業界はによる通信衛星の世界市場の 40%を獲得に

つなげました。

ESA は、高度なモバイル衛星システム、すなわち Marecs、EMS と Inmarsat-IV に対

する業界の位置取りに尽力している。

宇宙通信の分野で ESA が提供する支援は、欧州の能力を方向付けし支援するための

資金の最も重要な制度的源である。

ARTES3-4 における共同資金調達メカニズムを通じて、R&D 産業資金の大部分が、

ESA の活動で、結成された。

1.3.3.5 EUとの関係

「欧州を強化し、国民の利益のため」欧州連合(EU)と ESA は、共通の目的を共有

している。

彼らは独立した組織があるが、それらはますます共通の目標に向けて協力している。

ESA が運用するファンドの約 20%が現在、EU 予算から拠出されている。

EU は超国家的であるのに対し、ESA は、政府間組織である。

2 機関は実際に異なる範囲の力量を持ち、異なる加盟国の、異なるルールや手続きに

よって統治される。

しかし、近年、欧州の社会的、政治的、経済政策における宇宙が果たす役割の増大

により両機関間の連携は強化されてきた。

EU / ESA の協力のための法的根拠は、2004 年 5 月に発効した枠組み協定により提供

されている。

この協定に基づき、欧州委員会と ESA が共同事務局、EC の管理者の小さなチーム

とESAの幹部を通じて両機関の行動を調整する。ハイレベル宇宙政策グループ(HSPG)

の加盟国の代表が準備した、EU/ESA 協議会の付随会合である宇宙協議会で、両機関の

加盟国は、閣僚レベルで顔を合わせる。

ESA は欧州の機関との関係を容易にするためにブリュッセルに連絡事務所を維持し

ている。

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1.3.4 ARTES要素プログラム概観

1.3.4.1 ARTES1戦略 概観

https://artes.esa.int/artes-1/overview

ARTES 1 は以下に重点を置いている。

市場機会の定義、規制障壁、規格、将来の周波数スペクトルのニーズ。

将来の衛星通信事業コンセプトと革新的な電気通信サービスの開発における欧州と

カナダの産業を支援する技術の開発に関連する経済やビジネスの問題。

これは、以下のカギとなる目的を追求することによって達成される。

•電気通信の分野での ESA の中長期プログラムを準備し、継続的に更新するため、ミッ

ション、システム、一般的な構成の研究やその他の活動を実行する。

•通信プログラムの実行とそのタイミングのために必要な技術開発を定義し、技術プロ

グラムの定義のための入力は ARTES の他の要素で行われるように、これらの要求を提

供する。

通信プログラムの実行に必要な技術開発及びそのタイミングを定義する。

ARTES の他の要素で行われる様、技術プログラム定義への入力として、これらの要

求を提供する。

ARTES1 でカバーされる活動の範囲は、以下の通りである。

将来の電気通信およびデータ中継システムミッションに関連する市場調査と経済分

析。

ミッションと軌道上試験要求の定義。

技術ギャップと、新しいプログラムの識別。

国際周波数スペクトルの問題や規格開発への貢献。

欧州の将来の電気通信制度的インフラを構築する上で衛星が演じることのできる役

割を定義するための欧州委員会への支援。

モデリング及びシミュレーションツールを使用したシステムの概念の開発。

1.3.4.1.1 資金調達

ARTES1 内の活動は完全に ESA によって資金を供給されている。

1.3.4.1.2 誰が参加できるか?

ARTES1の下の活動はARTESに参加しているすべての加盟国の産業界に開かれてい

る。

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参加加盟国は、次の通り。

•オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、

ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポーラ

ンド、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、カナ

1.3.4.1.3 委任承認

参加している加盟国の国家委任の認可は ARTES1 に参加するための前提条件ではな

い。

1.3.4.1.4 実装

ARTES1 の活動は、年次作業計画に基づいて実装されています。この作業計画は、

参加する加盟国の衛星産業、衛星オペレータ、サービスプロバイダ、大学や研究セン

タに開かれている年次アイディア募集の結果に基づいて確立されている。入札参加招

請(ITT)は、年次作業計画に基づいて発行される。

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1.3.4.2 ARTES 3-4製品 概観

https://artes.esa.int/artes-3-4/overview

製品の開発・認定及び実証。ここで製品とは衛星バスまたはペイロードの機器の一

部であっても良く、ユーザ端末またはその宇宙セグメントをネットワークに統合する

完全な通信システム全てとすることもできる。

契約は、将来の開拓のための製品の開発のための産業界による提言に基づいて裁定

される。製品は、任意のハードウェア、ソフトウェア、サービスまたはアプリケーシ

ョンであると定義される。

提案公募は、このプログラムのために発行された。これは、AO /1-5891 の下 ESA 電

子入札システム(EMITS)に掲載されている。

1.3.4.2.1 資格要件

ARTES3-4 の提案を提出するには、次の資格要件を満たす必要がある。

(1)提案は、衛星通信を属性としていなければならない。これは、ユーザ端末またはゲ

ートウェイ装置といった衛星地上セグメント製品の改良や開発でも良い。宇宙セグ

メントでは、衛星バス、姿勢・軌道制御サブシステム、ペイロード、アンプ及び他

の衛星機器を改善・開発が考えられる。

(2)ESA は、– 主契約者・下請にかかわらず - 次のいずれかの国に居住する企業や団体

から来る提案だけを評価のため受け付ける:

オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、ド

イツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガ

ル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、カナダ

(3)企業(主契約者・下請の両方)が提案した活動を実行するためには、自国国家代表

からの正式な承認を得ることが必須である。(連絡先情報は ARTES3-4 計画庁が要

求に応じて提供する)。研究提案においては、国家代表団による承認に、全開発を

支援する意思の宣言が含まれている必要がある。ARTES3-4 は、提案のテーマ別募集

も行うことがある(例:S バンドイニシアティブ)。この場合、TIA は ITTS を発行

する

1.3.4.2.2 資金調達

ESA は、提案活動の総費用の 50%まで出資する。

60

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1.3.4.3 Artes 5.1技術 概観

https://artes.esa.int/overview-artes-51

ARTES5.1 は、ESA の主導に基づく通信衛星産業の長期的な技術開発に取り組んで

おり、将来型または進化型通信衛星システムのための電気通信衛星、地上およびユー

ザ機器の新技術やテクニックの研究開発に焦点を当てている。

ARTES5.1 は、年間作業計画に基づいて実装されている「競争力のある作業計画」の

活動で構成されている。

この作業計画は、参加国の衛星産業、衛星オペレータ、サービスプロバイダ、大学

や研究センタ、国の宇宙機関と ESA の従業員へのアイデア年次公募の結果に基づいて

確立されている。

1.3.4.3.1 資金調達

ARTES5.1 活動は、ESA が 100%出資する。

1.3.4.3.2 資格要件

ARTES5.1 の下での活動は、この要素に参加する加盟国の産業にのみ開かれている。

ARTES5.1 活動に参加している加盟国は次の通りである

オーストリア、ベルギー、チェコ共和国、デンマーク、フィンランド、フランス、

ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルト

ガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、カナダ

参加している加盟国の国家代表からの認可が必要である。

61

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1.3.4.4 Artes 5.2技術 概観

https://artes.esa.int/artes-52/overview

ARTES5.2 は、共同出資を通じて、新しい SATCOM 技術、技術やシステムの概念の

開発をサポートする非競合、業界主導のプログラムです。

活動は常設の提案公募を介して業界によって同定・提案されている。メカニズムに

よりいつでも一つまたはいくつかの提案を業界が提出することが出来る。

アウトライン提案は、ARTES5.2 活動を完了し、後続の製品開発の計画を含まなけれ

ばならない。ARTES5.2 活動は最大レベルで 75%の資金を ESA が供給している。アウ

トライン提案は、入札者が計画された活動の内容について、ARTES5.2 テクノロジープ

ログラムオフィスとの対話を開始するための手段である。入札者は、全提案を提出す

る前に、下の 5.2 プログラムラインにアウトライン提案を提出することが必須である。

このアプローチは、ARTES5.2 プログラムラインの下で提案されたアイデアの適格性

の明確化だけでなく、入札者が全提案の準備を開始する前に完全な提案の技術および

ビジネスの部分のコンテンツに関する早期のフィードバックを可能にすることが出来

る。

アウトライン提案の推奨サイズは 10〜12 ページで、入札者はテキスト情報をサポー

トするために、必要に応じて図、グラフ、表などの可視化補助情報を含めることが奨

励される

1.3.4.4.1 資格要件

ARTES5.2 の下での活動は、この要素に参加する加盟国の産業にのみ開かれている。

活動に参加している加盟国は次の通りである

オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、アイル

ランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニ

ア、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、カナダ

参加している加盟国の国家代表からの認可が必要である。

62

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1.3.4.5 ARTES 7 EDRS概観

https://artes.esa.int/artes-7/overview

ARTES 7 EDRS は欧州データ中継衛星のシステムの開発及び実装に専念する。デー

タ中継衛星は、他の方法では永久にデータの送受信が出来ない、非静止衛星、宇宙船、

他の乗物及び固定地球局からまたはそれへの情報を中継するために静止軌道に配置さ

れた人工衛星である。

EDRS は、大量データ送信の時間遅延を減少させる、独立した欧州の衛星システムと

なる。

EDRS は、高速で信頼性が高く、シームレスである通信ネットワークに貢献する。そ

れにより欧州の自立を高める。

EDRS は、適切なタイミングで適切な場所でオンデマンドデータを利用出来る様にす

る。

1.3.4.5.1 なぜそれが今必要なのか?

現在の通信機能にもかかわらず、ユーザへのタイムクリティカルなデータの配信を

遅らせる多くの制限が残っている。

ESA/欧州委員会共同コペルニクスプログラムの実装では、欧州宇宙通信基盤が宇宙

から地上に毎日 6 テラバイトのデータを送信する必要があると推定されている。

我々の現在の通信インフラは、大きな遅延なくこのような大量のデータを配信する

ために挑戦され、従来の通信手段は、地球観測データのユーザが要求するサービス品

質を満たすのに十分でないかもしれない。また欧州は、地球観測衛星からのデータを

受信するために、非欧州地上局アンテナの利用可能性に現在依存している。これらの

重要な宇宙資産が効果的に欧州の管理下にないかもしれず、それは欧州の戦略的独立

性への潜在的脅威をもたらす。 EDRS は、上記問題に対する解決策を提供する。

1.3.4.5.2 それはどのように行われるか?

EDRS 社会基盤は、2 機の静止ペイロード並びに衛星制御センタ、ミッションオペレ

ーションセンタ、ペイロード制御センタからなる地上システム、及び地上局アンテナ

の専用ネットワークからなる。

ユーザデータは EDRS ペイロードのいずれかに低軌道衛星から送信され、フィーダ

リンクに中継され、ユーザに提供されるデータ地上局に中継される。

63

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1.3.4.5.3 EDRSペイロード

光衛星間リンクと Ka バンド衛星間リンクを含む EDRS ペイロード初号機である

EDRS-A は、EUROSAT9B として知らユーテルサット(仏)が運営するホスト衛星に

搭載される。予想される打上日は 2015 年第一四半期であり、軌道位置は東経 9 度であ

る。

また、光衛星間リンクの含む EDRS ペイロード二号機である EDRS-C は、ARTES プ

ログラムの一環として ESA と OHB(独)との間の官民パートナーシップ(PPP)方式

として始まった SmallGEO バスに基づいて開発中のホスト衛星に搭載される。 OHB は

2016 年に衛星を打ち上げると見込まれており、その軌道位置は東経 31 度である。

EDRS-C のミッションは、avanti コミュニケーションズ(英)が開発した商用ペイロ

ード Hylas-3 を、運ぶ。この構成により、衛星資源と打上げコストが共有される。ホス

テッドペイロードに低コストでの宇宙アクセスを提供しながら、EDRS プログラムの資

金調達に貢献している。

Avanti と ESA は、2010 年に Hylas-1 衛星を打ち上げるため、以前一緒に働いた。

Hylas-3 は、EDRS とは独立した法人顧客及び商業顧客 avanti の顧客のための通信を

提供するための操縦可能なマルチビームアンテナを含む。

静止軌道上に静止されると、2 衛星はデータ中継のバックボーンとして機能する。

衛星間通信端末(光及び Ka バンドの衛星間リンク)は 1.8Gbit/s 迄の(光学)及び

300Mbits/s 迄の(Ka バンド)速度を提供し、一方 Ka バンドフィーダリンクは地上に

300Mbit/s の速度を提供する。

データは EDRS 専用地上局または(将来において潜在的に)データへの直接アクセ

スを提供するユーザ地上局のいずれかで受信される。EDRS 地上局は全て、欧州に設置

される。

衛星間サービスの中で最も革新的な部分は、レーザ通信端末である。これは、ドイ

ツ航空宇宙センタ(独)との契約の下 TESAT Spacecom(独)によって開発された。新

端末は、TerraSAR-X 衛星(独)と NFIRE 衛星(米)に搭載され、軌道上で検証されて

いる。

これら二衛星間の最初の光学衛星間リンクは、2008 年に試験され、5000 キロ迄の距

離で、データ速度 5.6 Gbit/s での伝送であった。より新しい第二世代の端末は、1.8 Gbit/s

のデータ速度で 45000km 迄の距離を送信することが出来る。

光学と Ka バンドの両方の衛星間サービスは、システムを介してルーティングされた

データに対して透過的です。データはオンボードで保存されない。しかし暗号化サー

ビスは、ユーザのリクエストに応じて利用出来る。

64

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1.3.4.5.4 EDRS地上サービス

商業ベースでデータ中継サービスを提供することは複雑であり、地上サービスへの

かなりの投資を必要とする。

EDRS ミッション運用センタは、オットブルンにあり、バックアップをルデュ(白)

置く。計画の詳細は、ユーザによって異なるが、基本的にサービス要求には、通信す

る衛星の軌道位置、リンクの予定期間及び地上でのデータの取り扱いに関する情報が

含まれている。

このような情報及び EDRS システム及びユーザ衛星の計画上の制約により、全体的

なサービス·スケジュールが定義される。

上記の情報に基き、ミッションオペレーションセンタは、EDRS-A または EDRS-C

に対応する地上セグメント要素のどちらかを割り当てる。

ダウンロードに対する 1.8Gbit/s と高いデータレート要求のため、Ka バンドの周波数

がフィーダリンク用に使用され、EDRS(99.6%のアップタイム)の信頼性を必要とし、

システムは、データの統合ネットワークを備えている。

EDRS データ受信局に加えて、ユーザはそれに直接アクセスする独自の地上局でデー

タを受信することを選択することができる。

1.3.4.5.5 誰がそれを実装するか?

コスト効率の良い EDRS プログラムを実現し、ESA の投資と運用コストを最小限に

抑えるために、EDRSは、ESAのARTESプログラムを通じて官民パートナーシップ(PPP)

として実装されている。

Airbus Defense and Space(旧 Astrium)(独)は、主契約者として提供している。Airbus

Defense and Space は 2010 年に発行された競争入札で落札した宇宙セグメント(打ち上

げを含む)及び地上セグメントの実装に関する全体的な責任を持つ。

Airbus は、特にコペルニクスプログラムの、EDRS を 15 年間運用して ESA にサービ

スを提供することを確約している。Sentinel-1A(2014 年 4 月打上)と Sentinel-2A は、2

機の主要なコペルニクスのユーザになる。

1.3.4.5.6 利点は何か?

EDRS は以下を提供する:

•地球観測データへのリアルタイムアクセス

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•高データ·レート

•暗号化データ下り回線

•高速コマンド能力

このシステムの基盤権の恩恵を最初から受ける重要なサービスが数多くあります:

•タイムクリティカルなサービスの多数を支援する地球観測用途、例えば地表面の動

きのリスク、森林火災、洪水や海氷域のモニタリング

•コペルニクス等の重要な欧州宇宙システムからの画像を必要とする政府及びセキュ

リティサービス。

•被災地域内の地球観測データを必要とする救助隊

•地球観測衛星、航空機や無人観測機にリアルタイムでシステム再設定データを送信

する治安部隊

•通信サポートを必要とするカットオフ領域で作戦行動する救援部隊

1.3.4.5.7 今後の予定は?

ESA とパートナーの Airbus Defense and Space は、静止衛星を追加により、サービス

に機能を追加し、システムを拡張することを既に計画している。

Globnet と呼ばれる拡張プログラムの最初のステップでは、おそらくホストテッドペ

イロードとして衛星を追加する、

計画は 2015/16 に完成されるが、二つのレーザ通信端末と二つの Ka-衛星間リンク端

末を含める必要がある。打上は 2020 年が想定されている。

増加したセキュリティ要求、増加する冗長化要求及び無人航空機にサービスを提供

する要求の需要をサービスが検討する。

オプションとして二機の静止衛星間での光リンクの可能性も検討されている。

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1.3.4.6 ARTES 8 Alphabus/Alphasat概観

https://artes.esa.int/artes-8/overview

Alphasat は打ち上げ質量で 6.6t を超え、欧州最大の通信衛星である。 幅 40 メートル

に及ぶその太陽電池アレイは、12kW 以上の電力を生成する。 ARTES8 Alphasat プロ

グラムは、この画期的な静止衛星の開発と展開に専念している。

1.3.4.6.1 Alphasat

Alphasat は、Alphabus の軌道上検証、4 件の技術実証ペイロードへの飛行機会の提供

及び新ペイロード技術の支援を目的とした、史上最も洗練された商用通信衛星である。

これは、ESA と Inmarsat の間の官民パートナーシップ(PPP)を使って EADS-Astrium

により設計・製造された。

Alphasat の先進静止移動体通信ペイロードは、拡張 L バンド周波数帯へのアクセス

を提供し、欧州、アジア、アフリカ、中東全体の航空、陸上、海上ユーザのための、

広範囲での高データレートサービスを可能にする。

Alphasat は、この帯域で 750 以上の移動体通信チャネルを処理することが期待されて

おり、特に衛星電話ユーザの信号品質を向上させる。

その革新的なペイロードは EADS-Astrium によって開発された高度なデジタル集積

プロセッサを含み、デジタルチャネライザとビームフォーミングを通じ、L バンドにお

ける容量の前例のない柔軟な配分を可能にする。

Alphasat は軌道上寿命 15 年で設計されている。

打上と初期軌道フェーズの運用はトゥールーズの EADS-Astrium 衛星コントロール

センタから行われる。

1.3.4.6.2 Alphabus

Alphasat は、新たな欧州高電力通信衛星バスである Alphabus に基づいている。

Alphabus で欧州の業界は、以前のバス能力を顕著に超えて、電気通信衛星の範囲を

拡張した。

ペイロード電力最大 22kW、ペイロード最大質量 1400kg までのミッションに対応す

る拡張バージョンが商業市場で提供されている。

1.3.4.6.3 技術実証ペイロード

大型で強力なコミュニケーションペイロードに加えて、Alphasat はホステッドペイロ

ードを搭載している。

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4 機の技術実証機は、ESA の ARTES プログラムを通じて開発された、或いは宇宙で

の新技術認定のため DLR 独宇宙センタから提供された。

その総質量は約 140kg であり、600 W の総電力を必要とする

それらは、次の通り。

光通信と Ka バンドダウンリンク:1064nm での GEO-LEO 間通信リンクを実証する

ための先進レーザー通信端末(顧客取付品として DLR が提供)

Q / V バンド通信と伝播:将来の商用利用のために QV 帯の実現可能性を評価する

QV バンド通信実験、

スタートラッカ:アクティブピクセル検出器を使用した高度なスタートラッカ

環境試験及び放射線センサ:GEO の放射線環境、電子部品およびセンサへの影響を

監視する環境影響設備

1.3.4.6.4 パートナーシップ

Alphasat は ESA と Inmarsat との間の官民パートナーシップ(PPP)を介して主契約

者として、EADS-Astrium によって製造された。 Alphasat で使用された Alphabus 衛星

バスは、ESA と仏 CNES の宇宙機関との共同契約の下、EADS-Astrium と TAS(Tales

Alenia Space)によって開発された。

1.3.4.6.5 市場

Alphabus は、直接送信テレビ放送、デジタル音声放送、ブロードバンドアクセス、

モバイルサービスに向けた大きな電気通信ペイロードのための世界的な市場の需要に

対応して開発された。Alphabus(6t 以上)世界市場セグメントの上部を標的とする。そ

れは世界のGEO通信市場の全範囲をカバーするために利用可能な欧州のバスの範囲を

完了する。

1.3.4.6.6 打上

Alphasat はクールーの欧州宇宙港、仏領ギアナから 2013 年 7 月 25 日に Ariane5 で成

功裏に打ち上げられた。

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1.3.4.7 ARTES 10 IRIS概観

https://artes.esa.int/artes-10/overview

ARTES10 は、欧州の航空交通管理(ATM)用の衛星ベースの通信システムの開発を

支援する欧州宇宙機関プログラムである。

IRIS プログラムは以下の点で ESA にとって新しい型の主導形態である。

宇宙機器が、はるかに大きいシステムの機器の一つである

外部パートナーの需要に合わせて調整される

エンドユーザが必ずしも衛星技術に精通していない

このため、長期段階的アプローチが必要である。

IRIS は既存および計画されたシステムを補完し、世界中の航空交通の成長を支える。

IRISの前駆サービスの展開は2018年と予測され、IRISは2028年に全面運用となる。

IRIS は、安全で信頼性の高いサービスとして、大陸と海洋の両方の空域のために、

衛星を介して 4D 軌道管理を可能にします。

通信は、堅牢なデータリンクを介して行われ、究極的には航空機の大部分で使用さ

れ、パイロットと管制官との間の従来の音声通信で補完される。

この目標を達成するために IRIS は、世界のあらゆる地域での ATM に適用出来る衛

星通信の新標準を開発・検証する。

IRIS は、航空交通の管理方法を近代化するより広範な努力の一部であり、

EUROCONTROLと欧州連合が2006年に立ち上げたSESAR共同事業との緊密な協力関

係にある。

新通信システムは、欧州民間航空機器機関(EUROCAE)と国際民間航空機関(ICAO)

によって標準化される。

1.3.4.7.1 SESARとは何か

欧州の ATM を近代化する必要性を認識し、欧州委員会は、Single European Sky 政策

を開始した。

政策の一部には、その技術の柱:Single European Sky ATM 研究プログラム(SESAR)

が含まれている。

SESAR プログラムは、航空輸送の安全と環境に配慮した開発を可能にする高性能な

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ATM システムの開発を目指している。

SESAR プログラムは、このシステムに並列に使用される 2 つの異なる通信技術を定

義・評価している。

地上アンテナでの新地上データリンク、および衛星ベースのサービス。このマルチ

リンクは、明日の ATM システムのための安全性要求と容量要求を提供する。

ESA は衛星機器を開発・検証するために、2007 年に IRIS·プログラムを開始した。

1.3.4.7.2 EUROCONTROLとは何か

EUROCONTROL は、国際組織であり、1960 年に設立された。EUROCONTROL は、

2002 年にメンバーとなった欧州共同体を含め、欧州地域からの、加盟国で構成されて

いる。EUROCONTROL は、欧州の航空交通管理のあらゆる側面に関与している。

1.3.4.7.3 国際民間航空機関とは何か

国際民間航空機関は、国連の機関である。ICAO は、国際航空航法の原則と技術を体

系化し、国際的な航空輸送の安全で秩序ある成長を確保するための計画と開発を促進

する。

1.3.4.7.4 なぜ衛星ベースの航空交通管理が必要か

航空交通は現在、数十年前の VHF 無線システムによって管理されている。VHF 無線

システムでは、航空管制担当者とパイロット間の全ての通信は、発話形である。

システムは機能しているが、特に欧州の様に航空交通が混雑している密な地域で、

その限界を有する。

2020 年に予測される 40,000 便以上運航毎日では、欧州の ATM システムは、この交

通量に効率的方法で対応出来ない。さらに、欧州の ATM は非常に断片化されている。

60 以上のセクタで構成されており、全てが個別に管理されている。これは、効率を低

下させ、飛行のコストを増大させる。

1.3.4.7.5 課題は何か

航空世界は全地球ベースで運用するので、全ての新 ATM 解決策が、世界的に支持・

調整される必要がある。

航空機の製造計画が何年も前に設定されているため、変更には時間がかかる。

これは、既存の船隊が経済的に実行可能な方法で、新システムを後付け出来る様に、

段階的に行わなければならない。

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航空会社の事業の狭い利益率を考えると、コストを最小限に抑えることが必要があ

る。

航空はデジタルに切り替える必要性を受け入れているし、実際にいくつかの衛星サ

ービスは、すでに使用されている。

航空機の場合、ユーザ端末は、低コストで、小型アンテナで、航空機における低電

力要求で必要がある。

衛星システム基盤は、モジュール方式である必要があるので、さまざまなサービス

プロバイダからの相互運用可能なサービスを世界中に展開することができる。

1.3.4.7.6 利点は何か。

欧州の空域における航空機は、安全規制を満たすために平均的に余分な 42 キロを飛

び、不必要なコストと CO2 排出量を招く。航空機と地上間のデータリンクを介した航

空機の四次元(4D)軌道は航空機の正確なトラッキング可能にすし、飛行計画の取消

や遅延の少い一層効率的な飛行経路の管理を可能にする。

自動追跡の主な利点は、不測の事態を管理することである。

天候条件または緊急事態のため航空機が急にコースを変更することがあるが、リア

ルタイムかつリスクなしでそうすることが出来、その結果、より安全な空の旅となる。

航空機内での衛星通信は、長年にわたって乗客の通信に使用されてきたが、それら

は、安全通信の主な手段として使用出来ない。

SESAR で開発された根本的に新しい概念は、飛行のほとんどの段階で、新欧州 ATM

システムの不可欠な部分として、衛星通信が使用することである。

航空機は、巡航高度での経路設定中だけでなく、離着陸時・空港へ接近する機動中

に通信出来る様になる。

これは基本的に衛星通信の今日の使用とは異なる - 今までは - 既存の技術と互換

性がない。

今後の改善計画を通じ、SESAR は飛行あたり 8〜14 分節約するだけでなく、平均し

て最大 500kg の燃料及び最大 1575kg の CO2 を節約する目的を持っている。SESAR は

ATM 関連コストを半分に低減することも計画している。

ATM 通信規格を定義し、これらの新安全サービスを最初に展開することにより、新

たな機会の開発と世界の他地域への輸出において、欧州の衛星産業は最高の配置をさ

れる。

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1.3.4.7.7 ESAの貢献は何か。

ESA の目的は、複数の関係者によって供給された全地球的サービスを航空当局が展

開することを支援することである。

ESA 活動は、衛星技術領域に属している。 SESAR 共同事業は、最終的な展開の前

に、運用サービス検証のためにこの技術を使用する

この規模の近代化は、長期的な段階的なアプローチが求められる。

SESAR プログラムと内容及び時間で整合させるために、IRIS·プログラムは、性能レ

ベルの加増によって特徴付けられる段階的なアプローチでの、航空生命安全性衛星通

信技術の開発を提案している。

前駆 IRIS、第 1 段階は、Inmarsat の SwiftBroadband Safety に基づいている。

それは、航空交通管理の近代化、究極的にはデータリンクが通信の主な手段とする

ことの、重要なマイルストーンとなる。

前駆 IRIS は、初期 4D 飛行経路制御を可能とする短中期 ATM 航空地上通信サービ

スを支援する技術を提供する。

最初の焦点は欧州であろうが、開発された機能は、航空交通の成長が地上 VHF ネッ

トワークに負担をかけている北米やその他の地域での展開のための機会あたえる。

対象サービスの厳しい性能と安全要求が満たすために SwiftBroadband ネットワーク

に必要な更新事項は、事前調査 THAUMAS によりで同定された。

長期 IRIS、第二段階では、将来の ATM サービスの究極の通信ニーズを満たす、IRIS

システムの完全な実装になる。

長期 IRIS は ANTARES から学んだ教訓を考慮し、技術サービス提供の継続性を保証

するために、前駆 IRIS の進化に基づいて行われる。長期 IRIS は、世界通信標準に基づ

いた全世界相互運用性を提供する。今日 ANTARES で起草されたこの標準は、標準端

末を装備した航空機が互換衛星システムを経由してどこでも通信できるようになるこ

とを保証する。

長期 IRIS は、他の新地上データリンクと共同でマルチリンク機能を実装するアプリ

ケーションを可能とする専用技術の開発を包含する。実際には、システムは、パイロ

ットとコントローラに対して透過的になる。運航乗務員は、飛行管理施設への情報ま

たは飛行管理施設からの情報を継目なく送受信する。

システムは、航空機に装備するため及び通信処理の進行中のサービスのための両方

の低コスト化を確実にするように設計される。

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1.3.4.7.8 IRISの現在の状態は?

2014 年の時点で、前駆 IRIS のための調達が主契約者として、Inmarsat で開始した。

来たる 2014 閣僚理事会では、ESA は長期 IRIS のための資金を要求している。

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1.3.4.8 ARTES 11 SmallGEO概観

https://artes.esa.int/artes-11/overview

SmallGEO は、商用通信市場で重要な役割を演ずる機会を欧州産業界に与える汎用の

小型の静止衛星バスである。

衛星バスは、官民パートナーシップを通じて開発されている。

産業界のパートナーは開発コストのかなりの部分を投資し、ESA は ARTES11 を通

じて研究開発活動への支援に注力している。

コンソーシアムには、OHB 子会社の LuxSpace、OHB スウェーデン(旧スウェーデ

ン宇宙公社)、及び RUAG Space スイスが含まれている。

このコア·チームは、衛星バスを商品化する。

1.3.4.8.1 Hispasat AG-1

Hispasat AG1 は、再構成可能な Redsat ペイロードを通じて、スペイン、ポルトガル、

カナリア諸島、米州に高速マルチメディアサービスを提供する。Redsat ペイロードは

高信号品質と柔軟な地上覆域を提供する。

高度な Ka 及び Ku バンド送信機を使用した伝統的商業ペイロードと共に、Redsat は

高い伝送速度を可能にする。

Hispasat は、既存の静止通信衛星船隊に Hispasat AG1 を統合する。

OHB は、人工衛星の組立、軌道上試験の実施及び衛星初期運用を担当する。

1.3.4.8.2 SmallGEO延長契約

延長契約で追加された機能は、Hispasat AG1 ミッションの先の、数ある別の商業衛

星サービスのために SmallGEO バスを最適化する。

SmallGEO の機能を拡張することにより、衛星バス全体のコスト並びに製造及びプロ

セスコストが削減される。

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1.3.4.9 ARTES 14 NEOSAT概観

https://artes.esa.int/artes-14/overview

ARTES14 は欧州衛星産業が Neosat として知られている「次世代衛星バス」の開発す

ることを支援する ESA プログラムである。

プログラムは、産業界と協力して 3t から 6t の静止衛星用の新たな衛星バス製品ライ

ンを具体的に開発・軌道上実証することを目的とする。

1.3.4.9.1 なぜそれが必要か?

ESA はすでに ARTES の要素プログラム SmallGEO と Alphabus において、小型及び

大型衛星セグメントの開発を支援している。

Neosat プロジェクトは、中型衛星市場開発への支援の必要性を満たし、欧州の衛星

産業の競争力を支え、これらのプログラムを補完する。

市場のこの中型セグメントで競争力を維持するには、かなりの技術・生産革新が必

要である。

1.3.4.9.2 市場

中型衛星市場は、全衛星の市場価値の約 80%を構成する。

静止通信衛星市場は、欧州衛星産業の輸出売上高の 80%以上を構成する。

1.3.4.9.3 要素プログラム

Neosat プログラムは、2010 年までには、軌道上受渡し容量で 30%の競争力の増加の

達成を目指している。

この目的を達成するために、欧州衛星メーカーアストリウムとタレス·アレーニア·

スペースは力を合わせており、Neosat 製品ラインを設計開発する主要な努力に携わっ

ている。

プログラムは、ESA と仏宇宙機関 CNES 間の協力に基づいている。

1.3.4.9.4 何が含まれるか。

プログラムは以下を含む:

(1) プロトフライトモデルレベルまでの主要な革新的要素、機器及び衛星バスの開発製

造を含む次世代製品ライン及び対応する技術の開発。目標は、2018 年 Neosat 製品

ラインの飛行実証である。

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(2) 補完的な技術開発ラインは、高度技術の導入を通じ、Neosat 製品ラインの改善を

可能にする。

1.3.4.9.5 課題は何か。

Neosat プログラムの目的を達成するための重要なステップは、コストを最適化し、

衛星の定刻納入を保証するサプライチェーンを構築することである。

これを成功させるためには、取引先から高い産業技術性能を獲得することが必要に

なる。また、共通インタフェース及び高効率の調達・検証要求の確立が必要になる。

1.3.4.9.6 利点は何か。

ARTES 参加国が通信衛星市場での位置を維持し、衛星主契約者が衛星を納入し、バ

ス機器メーカが効率的に工業製品を納入するためには、Neosat イニシアティブが不可

欠である。

活動の大部分が欧州製通信衛星の契約にあるため、通信ペイロード機器サプライヤ

ーとインテグレータにとってもこれは大きな利益となる。

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1.3.4.10 ARTES20統合アプリケーションプロモーション(IAP)

https://artes.esa.int/artes-20/overview

ARTES20 IAP プログラムは統合アプリケーションの開発、実装、および実証運用に

専念している。

これは、衛星通信、地球観測、衛星ナビゲーション、有人宇宙飛行技術等の既存の

異なる宇宙資産からのデータを少なくとも 2 件を結合(または '統合')したアプリケー

ションである。

ARTES20 統合アプリケーションプロジェクトは、フィージビリティ·スタディと実証

プロジェクトをカバーしている。

どのような組織でも、新たな商業的に有望な宇宙ベースのアプリケーションやサー

ビスの開発を提案出来る。

例えば、利用者連合、営利企業、公共団体または非政府組織であってもよい。

1.3.4.10.1 ARTES 3-4 衛星通信アプリケーション (SATCOM-APPS)

ARTES3-4 衛星通信アプリケーションプログラムは、衛星通信アプリケーションの

分野での開発・実証活動を支援することを目指している。

完全使用可能な自立したソリューションに導くことで、ARTES3-4 衛星通信アプリ

ケーションは、業界の優秀さに基づき、具体的なユーザのニーズを満たす宇宙ベース

のコンポーネントとサービスの利用に取組んでいる。

ARTES3-4 衛星通信プリケーションのプロジェクトは、新人への取り組み、衛星通

信アプリケーションプロジェクトと研究活動をカバーしている。

これらのプロジェクトは、業界の技術的及び商業的リスクを縮小する。そうでなけ

れば、新しい製品やサービスの開発を妨げる可能性がある。

ARTES3-4 の場合、欧州及びカナダの衛星通信業界のメンバーは、衛星通信アプリケ

ーションの開発を提案することが出来る。

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1.3.4.10.2 ARTES 21 SAT-AIS概観

https://artes.esa.int/artes-21/overview

自動識別装置(AIS)は、現在船舶に使用されている短距離沿岸追跡システムである。

これは、船舶と海岸局の両方に識別・位置決め情報を提供するために開発された。

国際航海する 300総トン以上の船舶、地元の海で航行する 500総トン以上の貨物船、

大きさに関係なく全ての旅客船は、AIS 機器の搭載が国際海事機関(IMO)により義務

付けられている。

AIS トランスポンダは、自動的に一定の間隔で情報をブロードキャストする。

航行状態データは、船舶の活動に応じて、2 から 180 秒毎に送信される。

また、航海関連データは 6 分毎に放送される。

これらの信号は、他の船舶または地上ベースのシステムに設置された AIS トランス

ポンダで受信される。

AIS 信号は、約 40 海里(74 キロ)の水平方向の範囲を持っている。AIS の交通情報

が沿岸域または船舶対船舶海域でのみ利用可能であることを意味する。

AIS 通信は 25 kHz の帯域幅で、2 つの VHF 周波数、161.975 MHz 及び 162.025 MHz

を使用して行われる。

1 つの無線チャンネルのみが必須であるが、干渉問題を回避するため、及び通信を損

失することなく船舶間でチャネル交換が出来る様にするため、2 つの無線チャネルを介

して各局が送受信する。

1.3.4.10.3 SAT-AISとは何か?

宇宙ベースの AIS(SAT-AIS)を使用することで、AIS 追跡装置が装備した航海船舶

を、沿岸海域を越えて追跡出来る様になる。

SAT AIS は、地球上の任意の領域に対して AIS サービスを提供する可能性があり、

地上覆域制限を克服するための有望な解決策である。

ESA は欧州海上保安機関(EMSA)と共同で、欧州ベースの SAT-AIS システムを推

進している。

1.3.4.10.4 EMSAは何か?

EMSA は、他のいくつかの主要な欧州の海上の安全への取り組みと一緒に、1990 年

代後半に設立された欧州の規制当局である。これは、海上保安サービスの分野で欧州

委員会と加盟国を支援している、例えば船舶からの汚染防止。その後の改正は、その

任務を洗練・拡大してきた。EMSA は現在、下記と関連する EU の法律の実施を監視す

78

Page 83: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

ることによる欧州委員会の支援を任務とされている

船の建設と計画的な保守、

船舶検査と EU 港での船の廃棄物の受取、

舶用機器の認証、船舶保安

非 EU 諸国の船員の訓練。

EMSA はまた、以下の様な EU レベルのサポート·プログラムの役に立つ。

船舶や危険な貨物を追跡するために AIS を使用する SafeSeaNet(SSN)システム、

世界的に EU 船籍の船舶の識別と追跡を確保する EU LRIT データセンタ

SAT-AIS は SafeSeaNet 等のプログラムの覆域と有効性を大いに増加させる。

1.3.4.10.5 誰が SAT-AISを使用するか?

以下のユーザグループが同定されている。

•海事セキュリティサービス:セキュリティ操作の支援

•法執行サービス:反海賊行為、違法漁業、国際/国内規制の施行、執行業務の支援

•捜索救助(SAR)サービス

•海上監視サービス:慎重を要する海域での船舶の監視、麻薬密輸、国境管理

•環境サービス:危険な貨物の監視、船舶による汚染の防止、汚染対応

•海上安全サービス:船舶交通/ナビゲーション監視、船舶交通管理、安全操作の支援

•商用ユーザ(運送会社や船主)のための船団管理支援

1.3.4.10.6 ESAの SAT-AISイニシアティブ

SAT-AIS は 3 つの ESA ARTES 要素プログラムを通じて開発されている:

•ARTES5 - アンテナの小型化、受信機の開発、およびエンドツーエンドシミュレー

タの形の性能テストベッドを含む特定の技術開発前活動。

•ARTES20 - SafeSeaNet サービスへの完全なデータ統合のための「宇宙ノード」とし

てのデータ処理センタの実装と検証。これは EMSA との密接な協力と共同出資で実

施された。

•ARTES21 フェーズ 1 - 下記を含むシステム設計初期段階と実装。

運用実証ミッション(ODEM)の費用便益分析を用いた経済的潜在力の推定、

システム設計研究、

性能の比較評価、

79

Page 84: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

欧州 SAT-AIS 運用システムに適用可能な官民パートナーシップ(PPP)の実装方式

の調査。

•ARTES 21 フェーズ 2 -

SAT-AIS のマイクロサテライトとペイロードの詳細設計と実装、革新的な SAT-AIS

アプリケーションとサービスの開発をカバーする。

予備研究で行ったシステム定義とトレードオフ分析の通り、いわゆるマイクロサテ

ライトのコンステレーションは、SAT-AIS サービスを提供し、その生存能力を維持

するための最も費用対効果の高い解決策として保持されている。

E-SAIL と呼ばれるこの商業的に指向のプロジェクトでは、LuxSpace は、産業主契

約者となる。

並行して、追加の科学的ペイロード2機も搭載する今後のノルウェーの NORSAT-1

ミッションに、ESA は SAT-AIS ペイロードを開発している。

Kongsberg Seatex は、新 SAT-AIS レシーバ(NAIS)の技術的なシステム要求定義、

開発、製造、組立、試験及び認定を担当する主契約者である。

ノルウェー宇宙センタ(NSC)が NORSAT-1 衛星のオペレータになります。NSC は、

トップレベルのミッション要求に責任がある。

1.3.4.10.7 何が ESAの SAT-AISイニシアティブの第一段階の間に達成されたか?

イニシアティブの第一段階は(2011 - 2013)、システムの設計活動と技術の事前の開

発を包含し。

これらには、以下が含まれる:

•技術

- ESA が特許を持つ高度なアルゴリズム

- 受信機とアルゴリズムの開発

- アンテナの小型化の開発

- SAT-AIS のテストベッド

- 提案された解決策のブラインド·テストを実行する比較性能評価、

•システム設計要素:アーキテクチャのトレードオフ並びに SAT-AIS システム要求を統合

することを目的とした SAT-AIS システム設計に対処する二つの平行した設計研究。

•SAT-AIS メッセージ、海上コミュニティへ強化されたデータサービスを生成・配信するた

めの付帯情報及び補助情報を収集するデータ処理センタ。

•例えば EMSA 青帯プロジェクトへの支援といった、関心のある分野のために SAT-AIS を

80

Page 85: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

使用した実証プロジェクト。

•民間と公共の SAT-AIS 資産統合を解決するためのビジネスモデル評価を含む民間公共パ

ートナーシップモデル。

また、ITU-R M.1371 で定義された AIS 規格はもともと海岸局への船舶からの送信のために

考案された。

衛星からの AIS 信号の検出は、元の AIS 規格において考慮されなかった技術的な課題に直

面している。例えば、異なる SOTDMA セルから送信する船舶からの衝突メッセージ及び

低い信号対雑音比。

これらの問題は、特別な注意が必要であり、ESA は技術やシステム概念を改善する目的で、

内部及び外部の活動を開始し実施した。

これらの活動の成果の一つは、ESA が提案する特許「SAT-AIS 検出のための高度な受信機

の設計」である。高度なアンテナの概念と組み合わせることで、この特許により高トラフ

ィック海域の船舶検出を著しく向上させることが出来る。

1.3.4.10.8 何が第二段階のために計画されているか。

第二段階の間(2013 - 2019)に、革新的な SAT-AIS のマイクロサテライトとペイロ

ードが開発され、PPP 類似基準で打上げられ、新たなアプリケーションやサービスが

作成される。

第二段階のさまざまな導入プロジェクトは、次のとおりです。

•新規 SAT-AIS レシーバ - これはナノ及びマイクロサテライト向けに、低消費電力化、

小型で高度な信号処理に主として焦点を当てた、第三世代の新SAT-AIS受信機(NAIS)

の開発に関する。それは、ナノ及びマイクロサテライト用として適した SAT-AIS 受

信機の設計、開発、製造、組立、検査、認定を包含する。ノルウェー宇宙センタは、

衛星オペレータとなる。衛星の国有 NORSAT-1 衛星への新受信機の統合だけでなく、

打上と運用を担当する。

•マイクロサテライト(E-SAIL) - これは、延長アンテナ及び生データ処理能力を有す

る改良された SAT-AIS の性能に向かってこれらの宇宙船の次世代の段階的な進化に

焦点を当て、SAT-AIS マイクロサテライトの開発に関する。これにはいくつかの革新

的 SAT-AIS マイクロ衛星の設計、開発、製造、組み立て、テスト、認定が含まれる。

これらは、商業 AIS 市場向けとは異なる価格/性能ポイントを目標としている。

•プラズマ - これは、エンドユーザ組織及び営利企業に SAT-AIS データの付加価値情

報サービスを提供するサービスフレームワークの設計、開発、試運転 に関する。

それは、地上と宇宙ベースのソースからの AIS メッセージを収集、検証し、以下を

81

Page 86: 平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放 …平成26 年度 製造基盤技術実態等調査事業 -通信放送衛星の市場動向調査- 調査報告書

生成するために処理する:

AIS メッセージの正確性メタデータで強化し、検証/強化された SAT-AIS メッセージ

不審なまたは異常な船舶行動の警告。

プラットフォームは、プロジェクト(EMSA、SAMSA、BlueFinger)に関与するエンド

ユーザとの緊密な協力で設計・開発され、最終的に、実証期間中に以下を目的として

エンドユーザにデモンストレーションされる。

(i) サービスをさらに微調整するためのフィードバックを収集するため、

(ii) プロジェクト完了後、開発されたサービスの提供ををユーザが受容れ易くするた

め、これらの共同出資された活動には、最新技術及び耐久性強化された既製要素に

基づく費用対効果の高いデザインの認定に必要となる、全てのプロトタイプ及びモ

デルが含まれている。

アプリケーション及びサービスに関しては、衛星ベースの AIS データ及び、恐らく

個々の AIS メッセージに関連する追加データ(ドップラーシフト測定、タイムスタン

プ、電力レベル等)を利用する新アプリケーション及びサービスの設計、開発、統合、

展開、実行、検証が ARTES21 第二フェーズに含まれる。

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1.3.4.11 ARTES 33 Partner概観

https://artes.esa.int/artes-33/overview

ARTES33 パートナーは、業界が生成した官民パートナーシップを通じて、革新的な

製品やシステムを市場にもたらすための効率的なフレームワークを衛星通信産業を提

供するための新しい要素プログラムである。

ESA は Amerhis、Alphasat、SmallGEO、Hylas-1、EDRS 含む ARTES プログラムを通

じて、いくつかの PPP を実施した。

これらのプログラムは、通信部門長期計画として導入された ESA プログラムの下記

衛星通信領域戦略目標を達成するのに PPP モデルが適していることを実証してきた。

今後の定期的な開発のために可能な限り最高の影響力を持つ革新的な技術を導入し、

欧州及びカナダの衛星通信産業の競争力を育成し、他の方法では提供されない新たな

付加価値サービスを作成し、社会的利益を提供する。

ARTES33 は、民間パートナーと一緒に ESA の戦略目標に沿った革新的な衛星通信

システムや製品を開発するのに役立つ。

パートナーは、運用、サービス提供及び他の産業界パートナーとの必要なシステム

の構築を管理する。

ESA は、ESA 加盟国内及びカナダ国内の民間団体に、潜在的な PPP を提案する機会

を提供している。

興味がある企業は、ESA TIA の理事に連絡することが出来る。コンタクトリンク参

照。

1.3.4.11.1 Electra

Electra は ARTES33 の下で開発された最初の PPP プログラムである。

これは、50 機以上の衛星からなるグローバル衛星群で世界をリードする電気通信衛

星オペレータの 1 つである SES と共同で行われている。

83

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1.3.4.12 Electra

https://artes.esa.int/news/electra

Electra は ARTES33 の下で開発された最初の PPP プログラムである。

これは、50 機以上の衛星からなるグローバル衛星群で世界をリードする電気通信衛

星オペレータの 1 つである SES と共同で行われている。

全電気推進を GEO へ軌道投入するためだけでなく、軌道保持のためにも使用する革

新的衛星バスに基づく打上 3 トン以下の通信衛星システムを、開発、打上、軌道上で

確認することを目標としている。

近年、電気エンジンが軌道保持のために科学衛星や通信衛星に搭載されているが、

全世界の業界では、意図する静止軌道に衛星を投入すること向けて、この傾向を拡張

しようとしている。

ESA Artemis 通信衛星は、その目標軌道に衛星投入するために電気スラスタを欧州で

初めて実験使用した。

Artemis の電気スラスタは、従来の化学推進と同じタスクが、しかも燃料消費量を最

大 90%節約して、実行することが可能であることを証明した。

Electra は小型打上機に対し十分低い打上質量を維持したまま、大きめの中型衛星に

よって提供されるものに等しい消費電力と通信機能を提供することが出来る。または

同じ発射質量に一緒に大きなペイロードを入れることが出来る。両方のケースとも有

意な経済的利益に翻訳される。

1.3.4.12.1 どのように実装されているか

Electra は、新衛星バスの能力を検証・利用するミッションを提案している SES との

PPP の仕組みのおかげで、商業的代表環境で新製品を開発・検証するユニークな機会

を参加する欧州産業界に提供している。

Electra プログラムは、SES との提携で、衛星バスの開発とミッションの実装の両方

を包含する。

プログラムは

•欧州の「完全な電気推進」小型静止衛星能力を実現するために協調努力を許可する。

•新しい衛星バス製品が市場での受入を獲得するために不可欠であり、故に、将来の

定期的な開発につながる、代表的な通信衛星ミッションにおける衛星バスと関連す

る新技術の、飛行実績と軌道上実証を提供する。

予期される打上げは 2017 年に予定されている。

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1.3.4.12.2 期待される利益

エレクトラは、欧州加盟国の競争力を高め、他の衛星バス市場セグメント内の既存

のヨーロッパの提供を補完する。需要が存在する能力を提供し、最も信頼性と代表的

な環境で飛行実績を構築する。

1.3.4.12.3 現在の状態

システム要求審査を完了した後、衛星主契約者 OHB-System GmbH は、彼らのシス

テム概念を統合し、衛星バス製品ラインのためだけでなく、ペイロードのためのベー

スラインサプライヤーのリストを選択するタスクを実行した。このすべてが、衛星バ

ス基本設計審査のベース及び衛星主契約者と協力して SES が準備しているフェーズ

B2/C/D/E1 のための提案を構成することになる。

衛星バス予備設計審査は 2014 年 12 月 17 日に成功裏に開始された。SES と ESA の

併置は、2015 年 1 月末より前に実施される。

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1.4 我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況調査・分析

本節では我が国が実用準天頂衛星や通信放送衛星、気象衛星といった人工衛星によ

る宇宙利用を継続・発展させていくうえで必要な産業基盤(サプライチェーン、生産

設備、技術、人材等)を特定のうえ、現状の状況課題、必要なあり方について調査を

行い、整理・分析を行う。

1.4.1 我が国の衛星産業基盤の状況

以下に、我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況を記す。

1.4.1.1 サプライチェーン

1.4.1.1.1 コンポーネント調達

国内で主要コンポーネントの製造実績はあるが、軌道上運用実績・輸出実績に乏し

く、海外調達品の利用が多い。

海外調達先としては米国メーカの利用が多いが、ITAR 問題があり、納期の長期化・

輸出先制限等の問題が発生している。

1.4.1.1.2 部品・素材調達

宇宙機器に用いられる部品・素材は、少量生産かつ特殊であり、国内メーカへの供

給のみでは採算性確保が困難であることから、事業から撤退する会社が増えている。

(この 5 年間でロケット関連メーカ 54 社が撤退)

国内製造コンポーネントに使用される EEE 部品(電気、電子、電気機械部品)の多

くは米国製であり、部品においても ITAR 問題がある。

1.4.1.2 製造・試験設備

国内2大メーカ(日本電気株式会社、三菱電機株式会社)ともに大型熱真空試験設

備等を保有しており、さらに JAXA 筑波宇宙センターの設備も商用衛星製造・試験に

利用できる状況にある。

1.4.1.3 技術

ETS-VIII、WINDS 等の JAXA 衛星の開発により、欧米各社に比類する技術を獲得し

たが、その後の新規開発衛星の打上が途絶えているため、新規開発を積極的に実施し

ている欧米に対し相対的に陳腐化しつつある。

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1.4.1.4 人材

宇宙機器産業の売上は、1990 年代後半には 3500 億円を超えていたが、現在、約 2600

億円となりピーク時と比べ 25%程度減少した。売上の 9 割以上を研究開発中心の国内

の政府需要に依存する構造(欧州は政府需要と民間需要が半分ずつ)であり、そのた

め政府需要の制約に大きく経営が左右される構造であり、宇宙産業を支える人員も

1990 年代は 10000 人近くであったが、現在は 7000 人程度で推移している。

1.4.2 国際競争力を有する静止衛星開発に向けた産業基盤の在り方

1.4.2.1 宇宙産業の課題

宇宙産業の特長を捉える為に、参考として「防衛生産・技術基盤研究会の最終報告(平

成 24 年 6 月)」を参照し、衛星通信事業に合致する部分を集約し、宇宙産業の課題の整

理を行った。

1.4.2.2 自国産での静止衛星(通信)が必要な理由

宇宙基本法に記載されている衛星は、安全保障の面で活用する通信衛星が海外に依

存する形態になっており、我が国としては対策を講じなければならない。まずミッシ

ョン機器の高度化を自国産で図る必要があり、またバスも大型化、大電力、軽量化の

開発を進めなければならない。

同時に通信衛星を安定的に途絶える事無く製造する機会が必要な事と、同時に高度

化するニーズに耐えうる国内技術開発と軌道上実証が必要である。

1.4.2.3 静止衛星(通信)の産業基盤の調査

部品の調査においては、国内に通信衛星の需要が少ない為、更に海外での通信衛星

の価格競争の観点から、軌道上実績を有し低価格な部品の採用が必要になる。国内で

は主要部品の殆どを調達できない為、部材の海外調達比率が年々増加しており、衛星

の種類にもよるが、現在 40%弱を海外に依存している状況である。

87

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1.5 通信衛星分野において我が国が狙うべき方向性及びその実現に向けてクリアすべき

課題の調査・分析

総務省に設置された「次期技術試験衛星(通信放送分野)に関する検討会」に聴衆

者として参加した。

上記の検討会において、①我が国宇宙産業の方向性、②現状で実現困難な具体的課

題、③解決に必要な技術的課題などについて検討・議論され報告書(案)にまとめら

れた。

1.6 効果的・効率的な政府の支援のあり方の検討

宇宙基本法第 15 条において、

『国は、人工衛星等の開発、打上げ、追跡及び運用を自立的に行う能力を我

が国が有することの重要性にかんがみ、これらに必要な機器(部品を含む。)、

技術等の研究開発の推進及び設備、施設等の整備、我が国が宇宙開発利用に関

し使用できる周波数の確保その他の必要な施策を講ずるものとする。』

と定められている。

これを基本にして、1.5 項と同様、①科学技術政策としての優先度、②ICT 政策とし

ての優先度などについて検討・議論され報告書(案)にまとめられた。

88

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2. 検討会支援

2.1 概要

総務省主催の次期技術試験衛星(通信放送分野)に関する検討会の支援として、会

議開催時の準備の一部及び議事録案の作成支援を行った。この作業は、第 2 回検討会

から第 6 回検討会まで行った。

2.2 検討会実績

各検討会の日時、場所、主な議事は表 2 の通りである。

表 2 次期技術試験衛星(通信放送分野)に関する検討会実績

No. 日にち 会議 場所 主な議事

1

H26.12.18

第 2 回

総務省

11F

会議室

・関係機関(三菱電機、NEC、スカパーJSAT)

プレゼンテーション

・衛星関連の国際周波数割り当て状況

2

H27. 1.20

第 3 回

総務省

10F

第 1 会議室

・関係機関(JAXA、NiCT、NTT コミュニケー

ションズ、KDDI)プレゼンテーション

・意見交換

3

H27. 2. 3

第 4 回

総務省

10F

第 1 会議室

・関係機関(ソフトバンクサテライトプラニン

グ)プレゼンテーション

・論点整理

・欧州 ARTES プログラムに関する現地調査計

4

H27. 2.23

第 5 回

総務省 8F

第 1 特別

会議室

・HTS 衛星に関する動向調査報告

・前回までの関係機関プレゼンテーションを踏

まえた論点整理

5 H27. 3.17

第 6 回 JA 共済

ビル 1F

カンファレ

ンス

ホール A

・欧州出張報告

・検討会報告書(案)の整理

89

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3. 欧州調査結果

3.1 欧州調査概要

3.1.1 業務の目的

本資料は、平成26年度製造基盤技術実態等調査(通信放送衛星の市場動向調査)

実施計画書(3)国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・

分析 における欧州各機関調査をまとめたものである。

<注記>

(3)国際競争力強化を目的とした欧米における支援プログラムの調査・分析

欧州宇宙機構( ESA )が実施する ARTES ( Advanced Research in

Telecommunications Systems)プログラム等の、海外における通信静止衛星

の産業競争力強化へ向けた支援プログラムについて、内容、技術的特徴、

実施スキーム(官民の責任分担、費用分担、契約枠組み、課題等)につい

て可能な限りの詳細な整理、分析を行う。必要があれば欧州の関係機関、

関係企業等に対するヒアリング調査を実施する。

3.1.2 日程

今回の欧州調査は、平成 27 年 2 月 16 日から 20 日の 5 日間に実施した。

3.1.3 出張者

経済産業省 宇宙産業室から加持補佐、J-spacesystems からは、佐藤、前川の 3 名

が欧州に出張し、関係機関に対して調査を実施した。

3.1.4 訪問先

訪問先の一覧を以下に示す。

訪問先 訪問日 所在地 個別テーマ

Inmarsat 2月 16日 英国ロンドン Alphasat, ARTES スキーム

Avanti 2月 16日 英国ロンドン Hylas, ARTES スキーム

SSTL 2月 16日 英国サリー Quantm, 小型衛星、サイトツアー

TalesArenia 2月 18日 仏国ツールーズ ARTESスキーム、サイトツアー

Eutelsat 2月 19日 仏国パリ ARTESスキーム、Quantm, 衛星管制室見学

JAXA パリ駐 2月 19日 仏国パリ 表敬訪問

ESA・ESTEC 2月 20日 蘭国ライデン ARTES詳細

90

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3.1.5 主な調査項目

各調査対象機関毎に、質問状を作成し、個別テーマに関してヒアリング、及び討

議を行った。個別の質問状は添付に示す。

共通的な質疑に関しては、以下の2項目を主要な調査テーマとした。

ESA が実施する ARTES プログラムについて、内容、技術的特徴、実施スキーム

(官民の責任分担、費用分担、契約枠組み、課題等)の調査

将来、日本政府が通信静止衛星の産業競争力強化へ向けた支援プログラムを実施

した場合の参加の可能性、及び参加のための条件をヒアリング

91

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3.2 個別調査結果

3.2.1 インマルサット

3.2.1.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 16 日(月曜日) 10 時から 12 時

○場所:イギリス、ロンドン市内

3.2.1.2 打ち合わせ内容

欧州調査の最初の訪問先として欧州オペレータの代表である Inmarsat を訪問し、通

信衛星オペレータ代表としての Inmarsat に対してヒアリングを行った。事前に質問状

をインプットしていたこともあり、各質問に沿った確認を行うこととなり、其々の項

目毎に Inmarsat からコメントが示され、関連した情報交換を行った。

最近の衛星通信の動向として特徴的なものは、UAE による YAHSAT、イギリスでは

Avanti の活動が目覚ましい。

米国での Space-X によるコンステレーションシステムの開発動向には関心をもって

みている。多数の衛星を管制する地上系開発にブレークスルーが必要となる。

欧州域内の衛星通信コミュニティのネットワーク構築が進んでいる。ESA、各国宇

宙機関、オペレータ、衛星メーカ、コンサルがいろいろな会合で集まり、コミュニケ

ーションを深めている。

Alphsat については、ESA が Alphabus として技術開発をリードし、ノンリカリングを

担当している。Inmarsat は、衛星事業者として開発成果をもとに、リカリングを担当し

た。同時に、デジタル信号処理などの通信機器については、エアバスと共に Inmarsat

も開発に関与した。ESA が開発リスクを、Inmarsat が運用リスクを分担したとも言える。

Inmarsat の軌道上実証評価(3 か月間)の運用費用は Inmarsat が負担し、ESA からの資

金提供は受けていない。打ち上げ費用は、Inmarsat が負担し、ESA の要請により Arian

ロケットを採用した。衛星システムはエアバスに発注し、タレスはアビオニクス等の

機器を担当している。

ESA は、Alphsat に続いて中型衛星をターゲットとする Neosat を開発しており、タレ

スが主導していると見ている。

打上げロケットとしては、最近、Falcon 9 が出てきて打上げ低コストロケットの選択

肢が増えてきた。日本の MHI 新型基幹も有望とみている。

オール電化衛星については、ハイブリッドを含めて可能性があると考える。

日本の衛星メーカとして、NEC、MELCO の実績は評価している。MHI のロケット

92

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と組み合わせて最適なシステムを検討してはどうか。

衛星通信周波数としては、当面は Ka、Ku のニーズが続くと思うが、次世代の衛星

通信周波数としては、Q/V バンドのニーズが出てくるものとみている。光通信につい

ては、Alphasat で実証実験を行うが地上設備との連接が課題となる。

図 3.2-1 インマルサット社本社

(ロンドン市内)

〔補足〕

図 3.2-2 インマルサット衛星(I4)のカバレージ

93

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3.2.2 SSTL

3.2.2.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 16 日(月曜日) 15:30 から 18:30

○場所:イギリス、ギルフォード(ロンドン郊外)

図 3.2-4 SSTL 本社(ギルフォード) 図 3.2-5 衛星工場(Kepler Bldg.)

3.2.2.2 打ち合わせ内容

(1) 概要

SSTL 本社はロンドン郊外のギルフォードにある。

冒頭に SSTL の概要説明を受けた。1985 年に設立以来 25 人でスタートした SSTL

は、これまで 43 衛星を開発し打ち上げた実績を有する。現在、20 衛星、27 ペイロ

ードを開発している。社員数は 550 名。現在は Galileo 対応で一時的な追加要員が

ありノミナル 450 人の規模となっている。売上は年間 160 億円の開発規模。エアバ

ス社が 99%の資本を保有している。

現在、光学センサの自動製造ラインを整備中である。ノンリカ製品であれば 80%

以上の製造コストを削減可能との事。製造期間も 3 カ月から1週間へ短縮である。

日本市場への参入のため、兼松との合弁会社の設立を計画している。小型衛星関

連のパートナーを募集おり、日英協力にて小型衛星のコンステレーション開発も想

定している。

衛星バス・システムとしては、設立当時の 50 kg 級衛星から、現在は 100 kg 級、

200kkg 級、300 kg 級のシリーズを有している。最近は静止通信衛星(Quantum GEO)

の 3 t クラスの中型衛星を開発している。

(2) 静止通信衛星

SSTL として初めての静止通信衛星 GMP-T を開発中である。電力 5 kW、重量 3.5t

で 2015 から開発に着手し 3 年間の開発期間を予定している。SSTL が製造した

Galileo の実証衛星(GIOVE)が軌道上(MEO)で 9 年間の長期間運用を継続しており、

94

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静止衛星としても問題ないとの判断で静止通信衛星の市場に参入した。電源系、ス

タートラッカーなどは SSTL の開発機器を採用しているが、大半の静止コンポーネ

ントは購入品である。日本製はなし。

Quantum GEO 開発においては UKSA と ESA が連携し、ARTES34 を活用した。

通信ペイロードに onboard computer を搭載した帯域可変式トランスポンダーを採用

することとなり、ARTES を活用した Hylas プログラムでのエアバス社の開発実績の

適用が不可欠となった。従ってエアバス社の主契約での契約となり、その中で衛星

バスが SSTL 受注となった。

ARTES34 では、EQM までは 50 %分担であるが、ものによって 50 %、75%、100%

ESA が負担するケースもあり、個々のネゴとなる。ペイロード関連の開発は

ARTES33 を活用した。SSTL の強みはトレーニング(キャパシティ・ビルディング)

が得意であること。部品は、通信衛星であることから、欧州標準部品(ESS)を採用

した。

ARTES は、日本が実施していた ETS シリーズを参考に欧州が通信衛星ニーズに

特化して設置したものと聞いている。欧州が宇宙分野に対して公的資金を投入する

理由としては、知的労働者の雇用を確保し、案敵的な納税をさせることが一つの目

的である。

電気推進系を搭載し、化学推進系とのハイブリッド構成を計画している。将来は、

静止軌道へのダイレクト投入方式を採用し、通信ミッション開始までの期間短縮を

計画している。

図 3.2-6 Quantum 静止通信衛星

3.2.2.3 サイトツアー

2008 年に整備された衛星工場(The Kepler Building)を視察した。SSTL は大学出身

のベンチャーであるが、衛星製造には大学生は参加していない。ピーク時にはエアバ

ス社より応援があり、資本提携のメリットが生かされている。

95

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チェンバーは 8 m。小型衛星、LEO 衛星としては十分の大きさであるが、静止通信

衛星には使用できない。インテグレーションルームはかなり広く、小型衛星なら同時

に 8 から 10 機程度の組立は可能である。現在、Galileo 衛星の組立も実施しているとの

ことだが、欧州市民以外は見ることが許可されていないとの事。

SSTLでは光学センサ以外も開発しており、最近では小型衛星搭載用SARを開発し、

NovaSAR を開発している。

衛星バス機器としては原子時計を開発済み。スイスのベンチャー RAFS 社と連携し、

米国以外の ITAR 非該当製品となっている。

〔補足〕

図 3.2-7 SSTL の衛星バスラインアップ

96

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3.2.3 Avanti

3.2.3.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 16 日(月曜日) 12:30 から 14:30

○場所:イギリス、ロンドン市内

○出席者:

・Avanti:クマール(事業開発部長)、フライ

・経済産業省:加持補佐

・J-spacesystems:佐藤、前川

3.2.3.2 打ち合わせ内容

Avanti は、新興国を主なサービス対象とした Ka バンド衛星通信サービスを主体に運

営している 100 %民間事業者である。Hylas 衛星シリーズを開発調達し、Ka バンド衛星

通信サービスを展開している。2010 年 11 月には Hylas-1 衛星が打ち上げに成功し、Ka

バンドと Ku バンドによる衛星通信の運用を開始している。

図 3.2-10 Avanti 本社(ロンドン市内)

Hylas-1はESAとAvanti社とのPPP事業であり、ARTESプロジェクトの一環である。

Avanti としては、ゼロから衛星通信事業を立ち上げ成功した。研究開発フェーズでは、

ESA、UKSA の支援を得ている。政府から 50 %の開発支援を受け、残りは自社投資を

行った。続いて Hylas-2 衛星の開発を行い、これは Avanti の民間事業として実施した。

次の Hylas-3 衛星は、PPP 事業の形態に戻った。欧州データ中継衛星(EDRS)のホスティ

ッド・ペイロード(HP)として Ka バンドペイロードを搭載した。ファイナンスがポイン

トとなった。2014 年には、Hylas-4 衛星開発を民間事業として開始しており、衛星開発、

打上げ共に、米国のオービタルサイエンス社に発注した。現在、Hylas-5 の開発検討を

97

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進めているところである。電気推進を含めたハイブリッドシステムを計画している。

衛星通信事業の発注先の選定ポイントは 3 つあると考えている。それは、①価格、

②支払計画、③開発リスクミニマムで、最近では SpaceX 社が Falcon 9 の開発リスクを

説明しきれなかったため、打ち上げロケットをアリアン社に変更した。最近は MHI の

H-II は打上げ成功記録が伸びており、信頼性が高いものと評価している。開発中の新

型基幹ロケットには注目している。

ESA と ARTES 等の共同開発を行うとファイナンス支援を受けるメリットは大きい

が、文書が多い等のデメリットもある。欧州では民間もリスクを負うが、日本は政府

が全てのリスクを取っている。

日本とのコラボレーションは可能性がある。日本衛星メーカの製品は良く知ってお

り、新型基幹ロケットには注目をしている。

欧州ではデータ中継衛星、光通信実証が始まっており、日本との連携の可能性があ

る。JEM 曝露部に実験機器を搭載してみるのも面白いのではないかと思う。

〔補足〕

図 3.2-11 Hylas-1 図 3.2-12 Hylas-1 の通信範囲

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図 3.2-13 Hylas-2

図 3.2-14 Hylas-2 の通信範囲

99

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3.2.4 タレスアレニア

3.2.4.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 18 日(水曜日) 9:00 ~ 14:40

○場所:仏ツールーズ、タレスアレニア工場

3.2.4.2 打ち合わせ内容

ブルー衛星地上技術部長から、TAS(タレスアレニア)の宇宙活動全般の最新活動

概況および通信衛星概要が説明された。

TAS は仏 Thales 社 67%、伊 Finmeccanica 社 33%の出資となっている。ちなみに

Telespazio 社はこの比率が逆で、33%:67%となっている。事業概要としては衛星通信、

リモセン、測位の他、地上装置、サービス提供等。ただし衛星通信事業は 45 %を占め

ている。2014 年は 20 億 EUR 以上の売上。従業員数約 7500 人、12 か所の拠点(通信

放送衛星の製造の中心はツールーズとカンヌ)。フランスとイタリアの共同事業や軍

事目的の G-G 間協力等が進められている。

衛星通信は Defence(Syracuse、Yahsat 等)と Civil(Iridium Next 等)の両者を扱っ

ている。コンステレーションシリーズに関しては世界 No.1 のシェアを誇る。ただし

GEO 通信はペイロード・シェアが No.1(Alphabus、NEOSAT といったバス開発の動き

に繋がると理解)。2014 年の契約受注実績は、KTSAT-7、KTSAT-5A、TELKOM-3S、

(以上、Ku と Ka 帯サービス)、EuropaSAT(S バンドの Digital Channelizer により周

波数の柔軟性を高める)。

更に、事前に日本から送っていた質問状に対応して質問項目ごとの質疑応答を行い、

特に Alpasat、ARTES プログラムに関する討議を行った。

TAS は、ESA のもとエアバス社とともに Alphabus 開発に参加した。Alphasat 1 号機

は、インマルサット社の意向によりエアバス社への発注となった(この経緯の説明は

嫌々の様子)。TAS は現在、自社標準バス開発として Alpabus 開発の経験も生かし、

新たに Sacebus NEO を進めている。100、200,300 のシリーズに分け、それぞれ、搭載

ミッション機器重量でサイジングをしている。TAS の標準 GEO 衛星バスは以下の通り

である。

・Spacebus

TAS 社のこれまでの GEO バス主流

電力 4k-14kW、ペイロード質量 200kg-1000kg の範囲で 3 つのシリーズを有する。

搭載バス機器は 10N スラスタ、CSS(粗太陽センサ)、STT×2、PLASMA THR

100

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・Alphabus

ARTESプログラムの中でESA/CNES主導のもとAirbusと共に開発がすすめられた標

準大型 GEO バス。この開発が先行し、これに Inmarsat がミッションを応募して PPP

として製造されたのが Alphasat。

搭載機器の EM 開発は実施するものの、システム PFM は Inmarsat 側にそのまま引き

渡されている。

・Spacebus NEO

最大電力容量 20kW の静止衛星バス。ペイロード質量 2t 級を目指す。

電力範囲:3kW-20kW、ペイロード質量範囲:200kg-2000kg

推進系は、全化学推進系、全電気推進系、あるいはこれらの Hybrid が選択可能。

軌道上での運用柔軟性についての技術開発例

Spectrum Flexibility:周波数配置の切り替えや中心周波数の変更

Coverage Flexibility:主鏡/副鏡の駆動やズーミングによる通信領域とゲインの変更

Power Flexibility:マルチポートアンプ(出力の効率的な使用)や TWTA 出力可変

機能(3dB)

主要な RF 機器・ミッションペイロード技術開発として、SSPA、スイッチ、デジタ

ルプロセッサ、チャネライザーなどに注力している。L 帯から Q/V 帯の周波数に対応

するラインアップを有す。Q/V 帯のアップリンク(地上→衛星の上り回線)機器を出

荷済み。衛星システム内部で Ka 帯にダウンコンバートして信号処理している。将来的

な研究開発として、アップコンバータ、TWTA 等のダウンリンク系も開発中であるが、

高周波化に伴い回路構成が細密化するため容易には進んでいない印象を受けた。L/S/X

帯のアンプに関しても、SSPA から TWTA に移行して電力効率を高める方向との事。

通信コンステレーションとして、現在、以下のシリーズを受注し開発している。

Globalstar 2: 軌道高度 1,414km(MEO)に 24 基

O3b Networks: 軌道高度 8,069km(MEO)に 12 基

Iridium Next: 軌道高度 780km(LEO)に 81 基

衛星通信としては、安全保障向けの通信機器を開発している。価格帯としては、特

段、高額なものではない。

欧州には ARTES 以外にも多くの衛星通信に関する研究開発関連プロジェクトがあ

り、多面的に活用している。欧州の長期開発事業として EU による H2020 があり、欧

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州防衛機関(EDA)の研究開発をスタートしている。ESA は ARTES 以外に GSTP,TRP

を用意している。CNES は自国の研究開発支援を行うとともに、イタリア、スペインと

の共同開発を実施している。仏蘭西の政府開発として、THD-S(Q/V バンド開発)、

FLIPS(フレキシビリティ)を実施している。仏防衛省(DGA)は PEA(将来 SIRACURE

防衛通信衛星開発)を実施。アカデミックでは、ANR 開発を実施している。

通信衛星の技術開発は ARTES が中心であるが、上記の様々なフレームを組み合わせ

て、公的な支援をうけつつ、開発を進めている。

〔補足〕

図 3.2-15 TAS 社の資本

図 3.2-16 TAS 社のサイト

102

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3.2.5 ユーテルサット

3.2.5.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 19 日(木曜日) 10:20 ~ 12:50

○場所:仏パリ、ユーテルサット本社

3.2.5.2 衛星管制センター視察

衛星管制副センター長により、パリ本社 1 階に設置されているユーテルサット衛星

管制センターSCC を紹介頂いた。30 年以上の歴史を有するユーテルサットは、現在 34

機の通信衛星を運用しており、グローバルに配置している受信アンテナからのコマン

ド、テレメトリを本社パリの SCC にて、365 日、24 時間、継続して統合運用している。

パリ郊外のランブイエにバックアップ設備があり、衛星管制データは常時同期が取

られ、パリ SCC が万が一、自然災害などの異常時(火災、地震、水害等)に被った場

合に対応している。さらにパリ本社の SCC においても冗長系が用意されている。セキ

ュリティシステムが万全であり、運用者には個々にデジタル認証がなされ、許可され

た要員のみが SCC に入室でき、コマンド運用を操作できる。ユーテルサットが保有し

ている複数の衛星タイプ(欧州製、米国製、ロシア製、インド製など 8 種類)をグル

ープ化して端末を分けて運用しており、異なった通信衛星の運用を効率良く同時に運

用できる衛星管制システムとなっている。運用者の国籍も多岐にわたり、32 カ国の運

用要員を確保している。衛星管制運用は、基本的には全て自動化されており、通常は

一衛星 2 名で運用中。異常時対応として技術分野ごとに専門家が待機しており、総員

は 60 名程度の体制をとっている。

3.2.5.3 打ち合わせ

事前に日本から送っていた質問状に対応して質問項目ごとの質疑応答を行い、我々

のために用意頂いたユーテルサット Quantum プロジェクトの説明をいただいた。

ユーテルサットは世界第 3 位のグローバルオペレータであり、元々は欧州に設立さ

れた国際機関であり、ソ連の参加を得て欧州域内だけでなくグローバルサービスを展

開している。2015 年度は、欧州初のオール電化衛星を含む新規衛星 5 機打ち上げを予

定しており、積極的に通信衛星の配備を進めている。

サービス地域としては、これまでの欧州、北米、ロシア、中近東に加え、ラテンア

メリカ(メキシコ等)とアジア太平洋地域(日本含む)を重要視している。サービス

分野としては、大半(67 %)をビデオ(TV 放送、衛星画像配信)が占め、ついでデー

タ配信(21 %)、政府通信(12 %、安全保障含む)。特に TV 画像は 2013 年よりウル

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トラ高画像(4 k)サービスを開始している。

運用周波数としては現在は C, Ku, Ka が主流であるが、次世代の周波数帯域として、

さらに高周波である Q/V バンド(40 GHz 帯)の利用が検討されているとのこと。Q

/V バンドは元々、安全保障利用の周波数であったが、現在はシビルユースでの利用

が検討されている。

今後のユーテルサットの成長のキーは、コア事業の TV 配信における高画像(4 k)、

高速データ配信を実現する HTS 衛星、成長地域(ラテンアメリカとアジア)での市場

拡大が主である。将来の通信衛星としてキーとなる技術要素開発は、HTS による効率

の良い周波数利用、セキュリティ(干渉回避、ジャミング)、フィレキシビリティ(軌

道上ペイロード再構成)に重点をおいている。ユーテルサットは、オール電化衛星の

必要性を認識して衛星開発を進め、間も無く欧州としては初めて、オール電化衛星を

打ち上げ、実用化を予定している。

日本市場は、現状では米 DoD を介して日本米軍基地での通信利用が主体となってい

る。今後は力を入れていきたいとの事。昨年は福島復興事業のイベントにユーテルサ

ットも参加した。

ユーテルサットは、積極的に、コミュニティ構築、ネットワーキングを進めている。

特に ESA や衛星メーカとは通信衛星に限定せず、測位、気象を含め広範囲な利用分野

に関して日頃から意見交換を行っている。フランス政府、CNES、EU、欧州の各宇宙

機関(ASI、DLR、UKSA 等)など域内に加え、米国では NASA、DoD、周波数調整の

ITU、アフリカ政府機関などと定常的なコンタクトを持っている。

ARTES に関する包括的な説明をいただいた。通信衛星の対象である ARTES- 8,11,14

に加え、関連する ARTES-1, 3-4, 5.1-5.2, 20, 33 のそれぞれの個別説明を得た。また、ユ

ーテルサットが主体的に推進する Quantumプロジェクトの説明をいただいた。Quantum

はユーテルサット、ESA、UKSA、エアバス社(SSTL)の共同プロジェクトであり、

ユーテルサットが主体的に推進し ESA に開発を要請し、UKSA のサポートを受けるこ

ととなった。契約形態としては、ESA からユーテルサットが受託した形を取っている。

基本スキームは、Alphasat とほぼ同様との事。ユーテルサットが開発リスクをおして

Quantum 開発を推進している理由としては、公的資金投入により低予算にて高機能開

発を実現することができ、新たな技術開発リスク、マネージメントを ESA に委ねるこ

とができるからとの事。また域内の開発であり ARTES の中で十分な情報共有が可能と

なる。もしも米国企業に同様な技術開発を発注した場合には、開発リスクを含め同様

の成果は期待できない。

ARTES の新たな小型通信衛星開発である NEOSAT に対しても、ユーテルサットは

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興味をもっている。NEOSAT は低コストで共通的な基盤コンポーネントの整備を実現

するプロジェクトであり、有意義であると考えている。

日本との PPP 事業については積極的に対応したい。日本で Alphasat のような事業が

実現し日欧の共同開発となれば、例えば日本側が衛星プラットフォーム(バス)を開

発し、欧州側が通信ペイロードを担当するスキームの可能性があろう。ここでオペレ

ータとして参加する場合、運用カバレージがキーとなる。

105

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〔補足〕

図 3.2-20 グローバル・カバレージの提供

図 3.2-21

106

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3.2.6 ESA/ESTEC

3.2.6.1 訪問先

○日時:2015 年 2 月 20 日(金曜日) 14:15 ~ 18:00

○場所:オランダ・ライデン、ESA/ESTEC

3.2.6.2 ESTECプレゼンテーション&質疑応答

ESA/ESTEC の活動概要の説明を受けた。

主要課題に関しては 3 年毎に開催される閣僚級理事会で決定される。通信衛星関連

では、最近では Quantum, Neosat 等の案件が審議されている。

ESA 活動は、全ての参加国が参加する義務的活動(宇宙科学など)と参加国の意思

によるオプショナル活動に分けられるが、通衛衛星はオプショナルであり参加に際し

ては参加国による予算の拠出が必要となる。通信衛星は宇宙産業の柱であり、アリア

ン社打ち上げの 80 %が通信衛星を占める。通信衛星は世界市場で戦っており、通信衛

星サービスはバリューチェーンの最重要を占め宇宙技術開発を牽引する。

ESA は ARTES プログラムによって通信衛星関連の開発投資を行い、世界市場に対

して商用製品・サービスを投入する。ARTES 活動は ESA の TIA 部門が責任を担う。

TIA は約 150 人の組織であり、パリ、イギリス、ツールーズ等の支局を有し、ESTEC

(ライデン)が本部として統括している。

TIAによるARTES活動は多岐にわたるが、産業力強化施策、Alphasat 等の PPP事業、

応用・キャパビルにより構成される。産業力強化施策としては、TRL0-5 までの要素技

術開発支援として ESA が主導して ARTES-1, 5.1, 5.2 を中心に実施し、ESA の出資比率

も 75-100 %と高く、研究開発~プロトタイプ開発、軌道上実証までを ESA が担う。TRL6

以上は市場に近く、ビジネス展開として ARTES-3~4, ATLAS 等を産業界が責任を持つ

として ESA の出資は 50 %に抑えられる。ARTES の通信衛星 PPP 事業は、ESA が主導

するもの (a) と、産業界が主導するもの (b) に分けられる。

(a)ESA 主導事業方式: ESA が資産を提供してオペレータ(またはサービス事業

者)に事業展開を促すケース

(b)産業界主導方式:オペレータ(またはサービス事業者)が ESA に相談して通信

事業を立ち上げる際のリスク(大半は技術開発リスク)の低減を要請するケース

ARTES の主な PPP 事業は以下の通りである。Alphabus がクラシックなモデルとして

適用され、現在は多様な事業形態にて衛星通信事業を中心に関連事業が展開されてい

107

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る。

・Alphabus(Alphasat): タイプ a、ARTES 8

・Hylas-1: タイプ b

・SmallGEO(Hispasat): タイプ a、ARTES 11

・EDRS: タイプ a, b、ARTES 7

・Iris: タイプ b、ARTES 10

・Electra: タイプ b

・Neosat: タイプ a、ARTES 14

・SAT-AIS: タイプ b、ARTES 21

・Quntum: タイプ b

Alphasat プラットフォームを活用して HP(ホステッドペイロード)によって新規開

発機器の軌道上実証を実施した。ESA には全体で 19 種の提案があり、以下の 4 機器が

採用された。

・光レーザ通信端末

・Q/V バンド通信トラポン

・スタートラッカー

・宇宙環境計測装置

光衛星通信に関して、DLR とテレコンでつなぎ個別セッションを実施した。センチ

ネル衛星に搭載された LEO 軌道での光通信端末と Alphasat 衛星に搭載された GEO 軌

道での光レーザ端末との間で光通信を実施した。Alphasat 衛星と地上間では Ka バンド

通信を実施した。なお、JAXA では平成 27 年度から光データ中継衛星開発がスタート

する。以前のアルテミス-OICETS での連携協力を踏まえ、次世代として可能性のある

光通信技術の開発に関して日欧の連携協力を進めることが有効となる。

Alphsat モデルは、オペレータ(インマルサット社)とってはミッション(事業全体)

コストが削減され、ESA にとっては新規開発ペイロードの軌道上実証を最適なコスト

で実現出来た、という観点から、成功であったと評価している。

3.2.6.3 打ち合わせ

今回の欧州での最終打ち合わせとして、質問状に沿って集大成の確認を行った。

Alphabus と Alphasat の関係や予算分担につき ESA/ESTEC のコメントをいただき、添付

のように整理がされた。

108

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ESA は、ARTES のスキームを使って、Alphabus として、衛星バスシステム(機器含

む)と一部の通信機器を開発し、PFM までの開発を ESA が担当し、その後、オペレー

タ(Inmarsat)が纏める Alphasat へ ESA 開発機器(バス、通信)を引き渡すという効

率の良い開発を行っていることが分かった。

Alphabus:ARTES8-1

Alphasat:ARTES8-2-1

軌道上実証機器開発:ARTES8-2-2

通信機器開発:ARTES21、34

なぜ、ESA が産業界のために、ARTES を実施しているのかについては、通信衛星開

発が宇宙全体の 2/3 を占める重要な活動であり、欧州産業界が世界市場で競争力を有す

るように技術優位性を確保するのが ESA の役割であると考えるからである。

アメリカは、防衛分野で通信衛星の先端的な開発を進めており、その成果を民間の

通信衛星に適用して市場協力を確保している。

衛星メーカに自己投資を要求する理由は、企業のコミットメントを求めるものであ

る。但し、量的には大したことはない。

ARTES は成功したプログラムであり、オペレータや衛星メーカなどのパートナーと

信頼関係を構築できたことが成功要因であったと考える。

109

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〔補足〕

図 3.2-28 ESA 予算(2013 年)

図 3.2-29 ARTES プログラム

110

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3.3 調査の分析

今回の調査にて欧州における通信衛星の競争力強化の概要を把握することができた。

この成果を国内の次期通信衛星開発への参考となるように、入手した情報内容の分析、

検討を行った。以下に現状の分析検討の結果を示す。

3.3.1 欧州における協力関係

欧州では、欧州宇宙機関(ESA)における衛星通信分野の研究開発プログラムとし

て、先進通信衛星技術研究:ARTES(Advanced Research in Telecommunication Systems)

が実施されている。通信放送分野は世界市場における衛星産業の約8割の産業規模を

占めることから、ESA は、通信衛星分野の需要確保を産業振興のための重要課題と位

置付けており、ARTES プログラムを通じて、通信衛星分野における欧州各国の宇宙産

業の国際競争力強化を推進し、産業界活動を支援している。

欧州の通信衛星コミュニティは、政府機関である ESA、国家宇宙機関と通信衛星を

製造する衛星メーカ、及び通信オペレータがステークホルダーとなり、連携協力のも

と、産業力強化を進めている。以下にこうした欧州におけるステークホルダーの協力

関係の構図を図示する。

図 3.3-1 欧州におけるステークホルダーの協力関係

111

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欧州の通信衛星ステークホルダー間の連携協力は、ESA の展開する ARTES プログ

ラムにおける PPP プログラムによって、実現していった。その原型は、ESA が主体的

に展開された ASPHABUS プログラムによって、連携協力が実施された。以下に、

ASPHABUS の実施スキームの概念図を整理した。

図 3.3-2 ASPHABUS の実施スキームの概念図

欧州の通信衛星プログラムの実施スキームの基本モデルとなったAlphasatは 2002年、

ESA 及び CNES により検討が着手された。ESA は、プライムメーカとして、エアバス

及びタレスアレニアスペースを選定し、両社の自社投資も加え、大電力静止バス

「ALPHABUS」の開発を実施した。

並行して ESA は、ALPHABUS のプロトフライトモデルを、衛星運用ビジネスで活

用するパートナーを公募し、2007 年、通信オペレータとしてインマルサット社を選定

した。ESA はインマルサットとの PPP に基づき、ALPHABUS プログラムで製造した衛

星バスのプロトフライトモデルをインマルサットへ提供し、一方、インマルサットは、

エアバスを衛星システム製造のプライムメーカとして選定のうえ、ESA から提供を受

けた衛星バスを活用し、商業通信ペイロードと、別途 ESA が選定した技術実証ペイロ

ードを搭載した「ALPHASAT(別名:インマルサット 15 号)」を調達した。

ALPHASAT は、2013 年に打上げられ、インマルサットが所有・運用している。イ

ンマルサットのビジネスにおいて活用されているほか、打上げ後三年間、技術データ

112

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を ESA 側へ無償で提供している。

以下に、ASPHABUS の実施スキームの概念図を示す。

図 3.3-3 ASPHABUS の実施スキームの概念図

3.3.2 通信衛星プログラム

こうした活動は、ESA の通信・統合利用本部:TIA(Telecommunications and Integrated

Applications)が各国の宇宙機関などと連携し、ARTES 活動を推進している。

ARTESは、複数のプログラムを包含する研究開発フレームワークとして、戦略検討、

要素技術開発、衛星システム開発及び軌道上実証、アプリケーション開発までの通信

衛星分野に関するあらゆるフェーズの活動をカバーしている。このうち、通信衛星シ

ステムの技術開発及び実証プログラムは、大型クラスを AlphaBus、中型衛星を Neosat、

小型衛星を SmallGEO として実施している。以下に、3プログラムの特徴を示す。本

プログラムは、ESA、衛星メーカ、衛星運用事業者による官民連携:PPP(Public and Private

Partnership)により、効率的に実施されている。

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図 3.3-4 通信衛星3プログラムの特徴

3.3.3 協力スキームによる相互メリット

本スキームは、ESA、衛星運用事業者、衛星メーカそれぞれにメリットがある構図

を実現している。

ESA は、全額公的資金による開発ではなく、先端技術の研究開発費を参加衛星企業

と分担し、リスクのある軌道上実証コストを衛星運用事業者に負担させている。

この結果、最小の公的資金により、ESA が参加加盟国から求められている産業競争

力強化という公的ミッションを効率良く実施できている。

衛星運用事業者は、軌道上における技術リスクが内在するものの、公的資金による

補助を受けた上で、市場競争力を有する先進的な高性能衛星を調達することが可能と

なる。国際市場における競争力を低コストかつ開発リスクを回避しつつ、市場競争力

を強化することができる。

衛星メーカは、一部自己投資を伴いつつも、ESA の公的資金や衛星運用事業者の参

画を活用して、先進高性能通信衛星のシステム技術開発を実現できるのと同時に、宇

宙実証の機会を確保し、自社の産業競争力を効率的に強化することができる。

ASPHABUS、ASPHASAT のスキームにおける資金分担の概略を以下に整理する。

ESA が主導して開発した ASPHABUS(バス、及びコンポーネント)と別途 ARTES

プログラムにて開発した通信機器をベースに、通信オペレータが調達する商用衛星

ASPHASAT へ、効率の良い開発が進められている。

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図 3.3-5 ASPHABUS、ASPHASAT のスキームにおける資金分担

3.3.4 ARTESにおける PPPプログラム

Alphasat のスキームは、その後、同じ通信衛星プログラムである Neosat、SmallGEO

で活用されている。このほか ARTES では、衛星運用事業者であるユーテルサット社が

主導し、先進的な通信ペイロードの技術開発・実証を行う Quantum、SES 社が主導し、

OHB の SMALL GEO でオール電化衛星を開発する Electra、静止衛星による衛星インタ

ーネットビジネスを展開する Avanti Communication 社の hosteded payload によりコスト

を抑える欧州データ中継衛星EDRSなど、様々なPPP形態が創出され実施されており、

通信衛星市場における機器産業及びアプリケーション産業の競争力強化プログラムが

継続的に実施されている。以下に、ESA が ARTES にて実施している代表的な PPP プ

ログラムを示す。

表 3.3-1 ARTES における代表的な PPP プログラム

プロジェクト名称 ARTES項目 実施年度 分類 オペレータ 開発(衛星)企業 特徴

ALPHABUS/SAT ARTES8,21,34Alphasat:2013

打上げESA主導 Inmarsat Airbus、TAS

ESA-CNES-Airbus-TASの共同事業としてAlphabusを開発。その成果を活用してInmarsatがAirbusにAlphasatを発注。

Hylas-1 ARTES3-42005-20092010打上げ

産業界主導 Avanti ISRO-Airbus Kaバンドサービス、UKSA資金支援

SmallGEO/Hispasat-1 ARTES11 ESA主導 Hispasat OHB 小型静止通信衛星

EDRS ARTES7EDRS-A:2015EDRS-C:2016

ESA主導・産業界主導

EutelsatAvanti

AsirbusOHB

EDRS-Aは静止通信衛星HP、EDRS-CはHylas-3ペイロードとしてSmallGEOに搭載

Iris ARTES10 産業界主導 SESAR 航空管制ELECTRA ARTES33 2019 産業界主導 電気推進システム、3t衛星Neosat ARTES14 ESA主導 TAS 中型静止通信衛星(3-6t)SAT-AIS ARTES21 産業界主導 海洋監視Quntum ARTES33 産業界主導 EUTELSAT Airbus/SSTL フレキシビリティを実現する先進通信衛星

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Ⅳ.まとめ

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Ⅳ.まとめ

本調査では、通信放送衛星に関する関連府省、関連機関、関連企業の認識、検討状況

を踏まえ、今後、我が国として必要な社会インフラの効果的・効率的な維持・充実のた

めに、国際競争力のある次世代の通信放送衛星のあり方、必要な要素技術、各国の動向、

安全保障を含めた我が国における将来ニーズ、並びに次世代の通信放送衛星の開発・実

証へ向けた実施スキームの調査・検討状況の整理を実施した。

特に、欧州における宇宙産業の生産基盤を維持・発展させる目的の官民連携のスキー

ムに関して、経済産業省殿を補佐し、欧州各機関に対する現地調査を実施し、その結果

を整理した。

今回の調査を通して、我が国における国際競争力のある次世代の通信放送衛星の実現

に向けた産業化政策の必要性を浮き彫りとすることができた。欧米、特に欧州では、国

家戦略の下に長期計画を設定し、宇宙産業の大半を占める通信衛星産業の強化に向けて、

継続的活動を通して取り組んでいることを具体的に再認識することができた。

当機構としては、引き続き、通信放送衛星に関して、国内、海外の状況を的確に把握

し、継続的に実現可能な提言を行うことにより、我が国の宇宙産業の国際的競争力強化

と産業振興の実現に貢献していきたい。

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(様式2)

頁 図表番号

Ⅲ.1.1

該当図表

Ⅲ.1.4

該当図表

Ⅲ.1.5

該当図表

Ⅲ.1.6

該当図表

Ⅲ.3

該当図表

Ⅲ. 作業の内容3. 欧州調査結果における欧州各機関からのヒアリング情報

Ⅲ. 作業の内容1. 調査・分析結果1.5 通信衛星分野において我が国が担うべき方向性及びその実現に向けてにおける関連省庁が参加した検討会内

Ⅲ. 作業の内容1. 調査・分析結果1.6 効果的・効率的な政府の支援のあり方の検討における関連省庁が参加した検討会内

二次利用不可リスト

委託事業名 平成26年度製造基盤技術実態等調査(通信放送衛星の市場動向調査)

報告書の題名 平成26年度 製造基盤技術実態等調査事業 通信放送衛星の市場動向調査⁷ 報告書

受注事業者名 一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構

タイトルⅢ. 作業の内容1. 調査・分析結果1.1 通信放送衛星等の市場の動向調査・分析におけるユーロコンサル出典情報

Ⅲ. 作業の内容1. 調査・分析結果1.4 我が国の静止衛星システム等の人工衛星に係る産業基盤の状況調査・分析における産業界からのヒアリング情報