25
2-44 2.6 鉄鋼スラグ 鉄鋼スラグは、炉の種類や冷却方法の違いにより、高炉スラグ(高炉徐冷スラグ、高炉 水砕スラグ)、製鋼スラグ(転炉スラグ、電気炉スラグ)といった性状の異なるものが製 造されるため、使用するスラグの品質とコンクリート用材、舗装用材、地盤改良材、裏込 材等用途毎に異なる要求品質を勘案して適切に利用しなければならない。 なお、鉄鋼スラグの利用に際しては、溶出水のpH及び有害物質の溶出に留意すること。 鉄鋼スラグは製鉄業から発生する高温の溶融スラグが冷えて固化したもので、炉の違 いにより幾つかの種類のスラグに分類される。鉄鋼スラグは鉄鋼1トンの生産に対して約 320kg 産出される。平成14年度の生成量は3,600 万トンであった。 なお、製鉄業及び製鋼・圧延業は「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効 利用促進法)において特定省資源業種に指定され、スラグの利用促進等に取り組むこと が求められている。 2.6.1 鉄鋼スラグの生成と分類 鉄鋼スラグは製鉄業から大量に発生する副産物である。その製造フローを 図2.6.1に示 す。また、鉄鋼スラグは 図2.6.2のように分類される。 2.6.1 鉄鋼スラグの製造フロー [出典:鐵鋼スラグ協会資料]

2.6 鉄鋼スラグ - mlit.go.jp · 間、製造ロット間のばらつきが存在する。 ① 化学組成 表2.6.1に高炉スラグの化学成分分析結果の一例を示す。

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2-44

2.6 鉄鋼スラグ

鉄鋼スラグは、炉の種類や冷却方法の違いにより、高炉スラグ(高炉徐冷スラグ、高炉

水砕スラグ)、製鋼スラグ(転炉スラグ、電気炉スラグ)といった性状の異なるものが製

造されるため、使用するスラグの品質とコンクリート用材、舗装用材、地盤改良材、裏込

材等用途毎に異なる要求品質を勘案して適切に利用しなければならない。

なお、鉄鋼スラグの利用に際しては、溶出水のpH及び有害物質の溶出に留意すること。

鉄鋼スラグは製鉄業から発生する高温の溶融スラグが冷えて固化したもので、炉の違

いにより幾つかの種類のスラグに分類される。鉄鋼スラグは鉄鋼1トンの生産に対して約

320kg 産出される。平成14年度の生成量は3,600万トンであった。

なお、製鉄業及び製鋼・圧延業は「資源の有効な利用の促進に関する法律」(資源有効

利用促進法)において特定省資源業種に指定され、スラグの利用促進等に取り組むこと

が求められている。

2.6.1 鉄鋼スラグの生成と分類

鉄鋼スラグは製鉄業から大量に発生する副産物である。その製造フローを図2.6.1に示

す。また、鉄鋼スラグは図2.6.2のように分類される。

図2.6.1 鉄鋼スラグの製造フロー

[出典:鐵鋼スラグ協会資料]

2-45

図2.6.2 鉄鋼スラグの分類

(1) 高炉スラグ

高炉スラグは銑鉄製造工程で発生する。高炉内に鉄鉱石、コークス、石灰石などの原

料を装入し熱風を送ると、鉄鉱石は還元されて、溶銑および溶融スラグとなっていずれ

も炉底に溜まる。これを比重差(溶銑:7、溶融スラグ:2.6~2.7)によって分離、回収

したものが高炉スラグであり、溶銑1tに対し約300㎏のスラグが発生する。

高炉スラグは、冷却方法によって、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグの2種類に分類さ

れる。

(2) 製鋼スラグ

製鋼スラグは製鋼工程において発生し、その製鋼方法(炉)の種類により、転炉スラ

グと電気炉スラグに分類される。

① 転炉スラグ

転炉スラグは、転炉を用いた製鋼工程で発生する。

高炉で生成された銑鉄は、C、Si、Mn、P 等の不純物を4~5%含むために硬くてもろい。

そこで靭性のある鋼を製造するために、生石灰などの副原料を混入して転炉内の溶融銑

鉄に純酸素(99.5%以上)を吹き付けて、溶銑に含まれる炭素等の不要成分を酸化燃焼さ

せる。このとき、生成された酸化物は投入した副原料と結合してスラグを形成する。こ

のスラグは鉄との比重差によって分離、回収される。このようにして生成されたスラグ

が転炉スラグであり、粗鋼1tに対して100~150㎏程度発生する。

また、近年の製鋼工程の技術革新に伴い、従来、転炉で行っていた P、Si、S 等の鋼に

とって不要となる成分を除去する「溶銑予備処理」が多くの製鉄所で実施されている。

この結果、予備処理工程においてもスラグが生成するが、その精錬プロセスから転炉ス

ラグに分類している。

転炉スラグは一般に徐冷処理により冷却される。

鉄鋼スラグ

高炉スラグ

製鋼スラグ

徐冷スラグ

水砕スラグ

転炉スラグ

電気炉スラグ

酸化スラグ

還元スラグ

2-46

② 電気炉スラグ

電気炉においては転炉と異なり、主原料である鉄くずに外部から熱を加えて溶解し精

錬する。電気炉スラグの特徴は炉内雰囲気を酸化性、還元性に自由に変えることができ

ることであり、それぞれの過程で発生するスラグを酸化スラグ、還元スラグという。

酸化スラグとは、溶鋼を攪拌しながら酸素を吹き込み、鋼中の炭素と反応させて一酸

化炭素の気泡を作り、その作用によって不要成分を酸化する酸化精錬時に生成するスラ

グをいう。また、還元スラグとは、酸化精錬後、酸化スラグを排出し、新たに還元剤、

石灰等を装入し、溶鋼中の酸素を除去する還元精錬時に生成するスラグをいう。酸化ス

ラグの発生量は粗鋼1t当たり約70kg、還元スラグの発生量は同じく約50kg である。

2.6.2 鉄鋼スラグの品質と利用用途

(1) 高炉徐冷スラグ

1) スラグの製造

高炉で生成された溶融スラグをドライピットあるいは畑と呼ばれる冷却ヤードに流し

込み、自然放冷と適度の散水によって冷却すると、結晶質の岩石状のスラグとなる。

これを、破砕・ふるい分けをすることによって、コンクリート用や路盤用等の製品と

して利用される。図2.6.3に高炉徐冷スラグの破砕・ふるい分け工程例を示す。

2) 品質

徐冷したスラグの外観は、表面は粗面、気孔があり、角張っている。粒子密度は天然

砕石よりもやや小さい(絶乾密度:2.2~2.6g/cm3)。これは凝固の過程で発生するガスが

逃げ切れずスラグ中に残ってしまうためであり、空隙を多く含み吸水率はやや高い。高

炉徐冷スラグは溶融状態のスラグを冷却ヤードなどに放流する際の層厚や散水などによ

る冷却方法によって密度や吸水率などの物理特性が変化するため、一定の範囲で製鉄所

間、製造ロット間のばらつきが存在する。

① 化学組成

表2.6.1に高炉スラグの化学成分分析結果の一例を示す。

高炉徐冷スラグの化学組成は一般に、石灰(CaO)およびシリカ(SiO2)の2成分を主

成分としている。特に自然界の土や石の成分に比べ石灰の含有が多く、その他にはアル

ミナ(Al2O3)、マグネシア(MgO)、などが含まれる。

2-47

表2.6.1 高炉スラグの化学成分例 (%)

SiO2 33.8

CaO 42.0

Al2O3 14.4

T-Fe 0.3

MgO 6.7

S 0.8

MnO 0.3

TiO2 1.0

※T-Fe は FeOとして

図2.6.3 高炉徐冷スラグの破砕・ふるい分け工程例

[出典:鐵鋼スラグ協会資料]

[出典:鐵鋼スラグ協会資料]

2-48

② 単位体積重量

40-0mm、25-0mm の高炉徐冷スラグ路盤材の単位体積重量は、15.4~18.0kN/m3の範囲に

ある。

(高炉スラグ路盤材設計施工指針:鐵鋼スラグ協会)

③ 吸水率

高炉徐冷スラグの吸水率は、1.0~6.0%程度であり、天然の砕石よりやや大きい。

④ 水硬性

スラグが水と接触すると微量の石灰(CaO)やシリカ(SiO2)が解け出し、スラグ表面

に緻密な水和物を形成し、さらにアルカリ性の雰囲気のもとでは、アルミナ(Al2O3)も

加わった水和物を形成し、これがスラグ粒子をつなぐ結合材となって固結する。

2-49

・JI S A5011-1 「 コンクリート用スラグ骨材」・高炉スラグ骨材コンクリート設計施工指針; 土木学会

 JI S規格で品質が規定さ れており、試し 練りによりコンクリート の品質を確認の上、利用が可能。 粒子の内部空隙が大きいため、寒冷地の使用には十分な検討が必要。

-

△ 単味、もしくは高炉水砕スラグや砂と 混合して、ケーソン等の中詰材に利用実績がある。天然の砂利と 比較して単位体積重量がやや小さい点に留意する必要がある。

△  過去には利用実績があったが、現在ではあまり適用されていない。

・JI S A5015 「 道路用鉄鋼スラグ」・高炉スラグ路盤設計施工指針; 鉄鋼スラグ協会

 上層路盤、下層路盤、路床等に適用する。 但し、水硬性を有しているため、路盤としての性能に対し有利に働くが、補修や撤去時の掘り起こし作業等に、注意を要する。

△  砕石ド レーンに適用できると思われるが、現在まで技術開発はほとんど行われていない。

△  施工実績有り。 強固に締固まり、固結する場合もあるため、後に杭や矢板を施工する場合には、注意を要する。

-

○  載荷盛土のプレロード 材としての利用実績あり。天然の砂利と比較して単位体積重量がやや小さい点に留意する必要がある。

凡 例  

× : 現段階では利用は難しいと考えられるもの。- : 用途対象外。

規格・基準類及び適用主な利用用途

◎ : すでに当該用途を想定した品質基準が設けられ等、利用が可能。

○+: 利用実績が多いもの又は○に加えて利用マニュアル案等が整備されているもの。

サンド コンパクションパイル

捨石、被覆石等

中詰材

コンクリート用材( 粗骨材)

舗装用材

裏込材

バーチカルド レーン

深層混合処理

盛土、覆土

○ : 標準材料と同等、または利用実績や実証実験などで確認され利用可能性の高いもの。 △ : 利用可能性はあるが、既存資料からは判定できず、今後の検討を要するもの。

3) 適用用途

高炉徐冷スラグの適用用途については表2.6.2に示すとおりであり、コンクリート用の

粗骨材や路盤用の材料として JIS 化されている。その他にケーソンの中詰材やプレロー

ド材としての利用実績がある。

表2.6.2 高炉徐冷スラグの港湾・空港等工事への適用

2-50

4) 周辺環境への影響

① 黄濁水の溶出

石炭(コークス)その他の原料中に含まれている微量の硫黄(S)により、高炉徐冷ス

ラグ中には、1%程度の硫黄が硫化カルシウム(CaS)の形態で存在する。このため、高

炉徐冷スラグを水中に浸漬すると、硫化カルシウムが加水分解し、さらに逐次反応が進

行して多硫化イオン(Sx2-)を生成することによって、溶液は黄色を呈し、温泉臭を発す

るようになる。しかし、この多硫化イオンは不安定な中間形態であり、大気中の酸素に

よってチオ硫酸イオン(S2O32-)や硫酸イオン(SO4

2-)へと酸化されたり、炭酸ガスで中

性化されて安定化し、溶液の色や臭気は消失する。

この黄濁水の溶出を抑制するためには、エージングと呼ばれる事前安定処理を行うこ

とが必要である。

② pH

高炉徐冷スラグのpHは一般に高く、環境庁告示の方法で得た検液のpHは11.3~

12.5である。(「リサイクル環境保全ハンドブック」環境庁)

また、高炉徐冷スラグ路盤材の圧縮強度試験体を透過した水のpHと、圧縮強度後そ

の供試体を重量比10倍の純水に6時間浸漬した水のpHの測定結果を図2.6.4に示す。

これによると透過水の初期値は10前後であったが材令1年のものは8.5前後に低下し

た。水中浸漬では、初期値は11前後であったが材令1年では8.5~10.5となった。

アルカリ性を有した透過水は、水質や土壌に影響を与えることが懸念されるが、我が

国の土壌は一般に酸性土壌であり、アルカリ成分を吸着中和する能力を有している。し

かし、スラグに接して高pHとなった水を排水する場合は、中和等の措置が必要である。

(透水試験装置によるpH値) (水中浸漬によるpH値)

図2.6.4 高炉徐冷スラグのpH測定結果

[出典:高炉スラグ路盤設計施工指針、鐵鋼スラグ協会]

2-51

③ 有害物質の溶出

高炉徐冷スラグを製造している各製鉄所において、表2.6.3に示す項目について溶出試

験を実施しており、これによると、各項目とも検出限界以下となっている。(高炉スラグ

路盤設計施工指針;鐵鋼スラグ協会)

有害物質の溶出については、使用を予定している製鉄所から溶出試験等の材料試験結

果を取り寄せるなどして安全性を確認することが望ましい。

(2) 高炉水砕スラグ

1) スラグの製造

高炉水砕スラグの製造は、通常、図2.6.5に示すように溶融スラグの流下時点で吹製装

置から高圧水を噴射させると、スラグが急冷され砂状になる。水と混ざってスラリー化

した高炉水砕スラグをポンプで脱水槽に送り、固液分離を行い、分離されたスラグが搬

出される。

表 2.6.3 高炉徐冷スラグの溶出試験結果(海洋汚染防止法水底土砂基準)

0.0020.1以下〃〃セレン又はその化合物0.042以下〃〃クロム又はその化合物

0.0010.1以下〃〃ベンゼン0.012.5以下〃〃ベリリウム又はその化合物

0.0010.2以下〃〃チオペンカルブ0.00050.1以下〃〃テトラクロロエチレン

0.00030.03以下〃〃シマジン0.0020.3以下不検出〃トリクロロエチレン

0.0005

0.0002

0.0006

0.0005

0.004

0.002

0.0004

0.0002

0.002

4

0.1

0.01

定量限界

0.06以下

0.02以下

0.06以下

3以下

0.4以下

0.2以下

0.04以下

0.02以下

0.2以下

40以下

1.5以下

1.2以下

判定基準

〃〃チウラム

〃〃1.3-ジクロロプロペン

〃〃1.1.2トリクロロエタン

〃〃1.1.1トリクロロエタン

〃〃シス-1.2-ジクロロエチレン

〃〃1.1ジクロロエチレン

〃〃1.2-ジクロロエタン  

〃〃四塩化炭素

〃mg/lジクロロメタン

〃mg/kg有機塩素化合物

〃〃バナジウム又はその化合物

不検出

計量値

mg/l

単位

ニッケル又はその化合物

試験項目

0.0050.1以下〃〃鉛又はその化合物

0.0053以下〃〃銅又はその化合物

0.015以下〃〃亜鉛又はその化合物

0.115以下0.3〃ふっ化物

mg/l

単位

0.003以下

1以下

0.1以下

0.5以下

1以下

0.1以下

0.005以下

検出されないこと

判定基準

0.0005〃PCB

0.1〃シアン化合物

0.005〃砒素又はその化合物

0.4〃六価クロム化合物

0.1〃有機りん又はその化合物

0.001〃カドミウム又はその化合物

0.0005〃水銀又はその化合物

0.0005不検出アルキル水銀化合物

定量限界

計量値試験項目

0.0020.1以下〃〃セレン又はその化合物0.042以下〃〃クロム又はその化合物

0.0010.1以下〃〃ベンゼン0.012.5以下〃〃ベリリウム又はその化合物

0.0010.2以下〃〃チオペンカルブ0.00050.1以下〃〃テトラクロロエチレン

0.00030.03以下〃〃シマジン0.0020.3以下不検出〃トリクロロエチレン

0.0005

0.0002

0.0006

0.0005

0.004

0.002

0.0004

0.0002

0.002

4

0.1

0.01

定量限界

0.06以下

0.02以下

0.06以下

3以下

0.4以下

0.2以下

0.04以下

0.02以下

0.2以下

40以下

1.5以下

1.2以下

判定基準

〃〃チウラム

〃〃1.3-ジクロロプロペン

〃〃1.1.2トリクロロエタン

〃〃1.1.1トリクロロエタン

〃〃シス-1.2-ジクロロエチレン

〃〃1.1ジクロロエチレン

〃〃1.2-ジクロロエタン  

〃〃四塩化炭素

〃mg/lジクロロメタン

〃mg/kg有機塩素化合物

〃〃バナジウム又はその化合物

不検出

計量値

mg/l

単位

ニッケル又はその化合物

試験項目

0.0050.1以下〃〃鉛又はその化合物

0.0053以下〃〃銅又はその化合物

0.015以下〃〃亜鉛又はその化合物

0.115以下0.3〃ふっ化物

mg/l

単位

0.003以下

1以下

0.1以下

0.5以下

1以下

0.1以下

0.005以下

検出されないこと

判定基準

0.0005〃PCB

0.1〃シアン化合物

0.005〃砒素又はその化合物

0.4〃六価クロム化合物

0.1〃有機りん又はその化合物

0.001〃カドミウム又はその化合物

0.0005〃水銀又はその化合物

0.0005不検出アルキル水銀化合物

定量限界

計量値試験項目

[出典:高炉スラグ路盤設計施工指針、鐵鋼スラグ協会]

※ダイオキシン溶出量については、2事業所で測定した結果、値は TEQ 換算で0であった

2-52

2) 品質

高炉水砕スラグの粒子はガラス質であり、形状も凹凸が激しく角張った形状をしてい

る。また、密度等の物性はスラグ温度、冷却水量、水圧をコントロールすることにより、

軟質で軽いものと、硬質で重いものを造り分けることができる。

硬質のものはコンクリート用細骨材として用いられるのが一般的であり、土工用には

軟質のものが用いられる。ここでは、軟質の高炉水砕スラグについて述べる。

① 化学組成

高炉水砕スラグの化学組成は、高炉徐冷スラグと同様である。(2.6.2 (1) 2)①参照)

② 潜在水硬性

高炉水砕スラグはガラス質であるため、活性が強く、アルカリ性水溶液のもとでは水

和物を生成して硬化する性質がある。これを潜在水硬性といい、高炉水砕スラグの大き

な特徴となっている。高炉水砕スラグでは、溶融スラグが急激に冷却され、結晶を生成

する時間的な余裕がないため、図2.6.6(b)に示すようなガラス構造となっている。

図 2.6.5 高炉水砕スラグ製造工程例

[出典:港湾工事用水砕スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

図2.6.6 高炉水砕スラグの網目構造

[出典:港湾工事用水砕スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

2-53

ここにアルカリ刺激が存在すると、網目構造が切断され、網目構造中に包含されてい

た CaO、MgO 等のアルカリ性物質が溶出した結果、さらにその雰囲気がアルカリ性に保た

れ、網目構造の切断およびガラスの水への溶出が進む。溶出した CaO、SiO2、Al2O3など

により、ポルトランドセメントと同様の水和反応が起こって、CaO-SiO2-H2O 系および

CaO-Al2O3-H2O 系の水和物が生じて固結する。これが潜在水硬性である。高炉水砕スラグ

単体で固結するためには、次のような条件が揃うことが必要とされている。

・ 高炉水砕スラグ層に適度の水分が存在する。

・ 高炉水砕スラグ層がある程度の密度に保たれている。

・ 高炉水砕スラグ層の間隙水がアルカリ性(pH11程度)に保たれている。

一般に粒子がガラス質の場合では、塩基度(CaO / SiO2)が大きいほど水硬性が高い。

高炉水砕スラグの固結状況の調査例を表2.6.4に示す。

表2.6.4 土木用に用いた水砕スラグの固結状況調査例

[出典:港湾工事用水砕スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

2-54

③ 単位体積重量

湿潤単位体積重量は天然砂に比べて小さく、製鉄所間で8~13kN/m3の範囲の差異が見

られ、製鉄所内では±1kN/m3程度のばらつきの範囲にある。

岸壁や護岸等の裏込めの設計に用いる湿潤単位体積重量(γt)は「港湾工事用水砕ス

ラグ利用手引書」によると、安全側の値として、13kN/m3を標準としている。

(水中単位体積重量γ’=7kN/m3)

しかし、実際に施工された高炉水砕スラグの単位体積重量を調査した事例(港湾技研

資料 No.915「水砕スラグの力学特性の経時変化」)では、図2.6.7に示すとおり、湿潤単

位体積重量は14~19kN/m3の範囲にある。なお、図中のA現場では沖合いの埋め立ての際

に築堤材として使用され、B現場では岸壁背後の裏込材として使用されている。

図2.6.7 湿潤単位体積重量の深度分布(施工後9~13年)

[出典:港湾技研資料 No.915「水砕スラグの力学特性の経時変化」]

2-55

④ 粒度分布

標準的な高炉水砕スラグの粒径は4.75mm以下の砂状であり、細粒分は極めて少ない。

幾つかの製鉄所で実施した粒度試験結果は図2.6.8に示すとおりである。

図2.6.8 高炉水砕スラグの粒度分布

[出典:港湾工事用水砕スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

⑤ 透水性

一般に透水係数は締固めの度合い(間隙比)によって異なるが、ジッギング法により

締固めた試料の試験結果から、「港湾工事用水砕スラグ利用手引書(平成元年8月)」で

は1×100~1×10-1cm/s の範囲としている。

また、潜在水硬性により 固結した高炉水砕スラグの透水係数は低下する。最近の現地

調査結果では、土工用に用いられた高炉水砕スラグで、施工後 6~10年経ったものの透

水係数が1×10-3cm/s 程度であったことが、港湾技研資料 No.915「水砕スラグの力学特

性の経時変化」で報告されている。

⑥ 内部摩擦角

水砕スラグの内部摩擦角は、深度20m程度までの使用を想定し、側圧100kN/m2(1kgf/cm2)

の三軸圧縮試験結果(CD)より、設計に用いる値を35゜としている。(「港湾工事用水

砕スラグ利用手引書」)また、内部摩擦角は拘束圧が大きくなると、せん断時にスラグ粒

子が破砕されるため、低下する傾向にある。図2.6.9に水砕スラグの三軸圧縮試験結果例

を示す。

最近の調査結果では、土工用に用いられた高炉水砕スラグで、施工後6~10年経ったも

のについて、残留強度時の内部摩擦角が37°以上あったことが確認されている。

2-56

図2.6.9 三軸圧縮試験結果例(CD)

[出典:港湾工事用水砕スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

●;σ3=100kN/m2

▲;σ3= 50kN/m2

■;σ3=200kN/m2 ;σ3=400kN/m2

2-57

3) 適用用途

高炉水砕スラグの適用用途については表2.6.5に示すとおりである。

護岸の裏込やバーチカルドレーン、軽量盛土、覆土材として利用実績があり多岐にわ

たり利用可能なリサイクル材料である。

表2.6.5 高炉水砕スラグの港湾・空港等工事への適用

・JI S A5011-1 「 コンクリート用スラグ骨材」・高炉スラグ骨材コンクリート設計施工指針; 土木学会

 JI S規格で品質が規定されており、試し練りによりコンクリート の品質を確認の上、利用が可能。 粒子の内部空隙が大きいため、寒冷地の使用には十分な検討が必要。

-

△ 高炉徐冷スラグと 混合して、ケーソン等の中詰に利用実績有り。 高炉水砕スラグ単品では天然砂に比べ単位体積重量が小さいことから、他の材料と 混合、重量調整をして利用することになる。

◎ 護岸等の裏込に利用実績有り。 高炉水砕スラグは単位体積重量が小さく、内部摩擦角も大きいことから土圧軽減効果が期待できる。また、潜在水硬性による固結が期待されるため、液状化対策に利用できる可能性がある。

◎  高炉水砕スラグは、単味で路盤に用いられることはないが、高炉徐冷及び製鋼スラグとの混合物である水硬性粒度調整鉄鋼スラグ( HMS)として利用される。

 サンドド レーン材としての利用実績有り。 但し、固結することによる透水性の低下や、杭部の応力集中等の未確認事項があるため、利用に関する検討について、平成15年度より、(財)沿岸開発技術研究センターと鐵鋼スラグ協会との共同研究が実施されている。

△  平成12年度より( 財)沿岸開発技術研究センターと 鐵鋼スラグ協会との共同研究が実施されている。

-

◎  軟弱な地盤のト ラフィカビリティ 確保のための覆土材として利用実績がある。 また、沈下対策としての盛土材としても有利な材料である。

○  海底覆砂材として利用実績有り。硫化水素の発生抑制を目的にしている。

凡 例  

- : 用途対象外。× : 現段階では利用は難しいと考えられるもの。

◎ : すでに当該用途を想定した品質基準が設けられ等、利用が可能。

○+: 利用実績が多いもの又は○に加えて利用マニュアル案等が整備されているもの。○ : 標準材料と同等、または利用実績や実証実験などで確認され利用可能性の高いもの。 △ : 利用可能性はあるが、既存資料からは判定できず、今後の検討を要するもの。

覆砂

深層混合処理

盛土、覆土

コンクリート用材( 細骨材)

裏込材

バーチカルド レーン

サンド コンパクションパイル

捨石、被覆石等

中詰材

規格・基準類及び適用主な利用用途

舗装用材

2-58

4) 周辺環境への影響

① pH

高炉水砕スラグのpHは、表2.6.6に示す環境庁告示46号の方法に準じた溶出試験では、

イオン交換水の場合10.4と高炉徐冷スラグに比べて低い値であった。また、海水養生の

場合には、8.26とイオン交換水に比べて約2程度小さい値となる。

表2.6.6 環境庁告示46号法によるスラグ溶出水のpHの測定結果

高炉徐冷 スラグ

高炉水砕 スラグ

製鋼スラグ 電炉酸化 スラグ

電炉還元 スラグ

イオン交換水 11.59 10.39 12.60 11.60 11.70

海水 9.83 8.26 - - -

[出典:スラグ溶出水のpH特性、2001年春季シンポジウム論文集、(社)日本鉄鋼協会]

また、高炉水砕スラグを岸壁裏込材・裏埋材として直接海中に投入した場合における

周辺海域のpH測定結果を図2.6.10に示す。本測定結果によれば、高炉水砕スラグを海域

に利用しても一般海域(BG)に比べて施工部近傍の No.1においても0.1~0.2程度しか

上昇せず、高炉水砕スラグの使用における周辺海域へのpHの影響はほとんどない。

測定値(pH) 測定日/天候 作業内容 状況 No.1 No.2 No.3 No.4 BG

H12.3.1 晴 水砕スラグ投入 投入終了後 8.4 8.1 8.3 8.2 8.3 H12.3.3 晴 水砕スラグ投入 投入作業中 8.5 8.3 8.4 8.4 8.3 H12.3.6 晴 水砕スラグ投入 投入作業中 8.4 8.3 8.3 8.3 8.3 H12.3.7 晴 水砕スラグ投入 投入作業中 8.3 8.3 8.3 8.3 8.3

●No.1

◎ B.G

●No.3 ●No.2

汚濁防止膜

ケ-ソン

水砕スラグ施工場所

既設護岸

既設護岸

●No.4

埋立部

[出典:平成 11 年度 岸壁におけるリサイクル材料開発調査、

運輸省第二港湾建設局横浜調査設計事務所(現:国土交通省関東地方整備局横浜港湾空港技術調査所) ]

図 2.6.10 水砕スラグ裏込め・裏埋め材施工時の pH の測定位置と測定結果例

2-59

② 有害物質の溶出

高炉水砕スラグを製造している各製鉄所において、表2.6.7に示す項目について溶出試

験を実施しており、これによると、各項目とも検出限界以下となっている。

なお、高炉徐冷スラグの項で述べているようにスラグには微量のフッ素を含有するも

のがあるため適用に際しては留意する必要がある。

有害物質の溶出については、使用を予定している製鉄所から溶出試験等の材料試験結

果を取り寄せるなどして安全性を確認することが望ましい。

表2.6.7 高炉水砕スラグの溶出試験結果(海洋汚染防止法水底土砂基準)

[出典:鐵鋼スラグ協会調べ]

0.0020.1以下〃〃セレン又はその化合物0.042以下〃〃クロム又はその化合物

0.0010.1以下〃〃ベンゼン0.012.5以下〃〃ベリリウム又はその化合物

0.0010.2以下〃〃チオペンカルブ0.00050.1以下〃〃テトラクロロエチレン

0.00030.03以下〃〃シマジン0.0020.3以下不検出〃トリクロロエチレン

0.0005

0.0002

0.0006

0.0005

0.004

0.002

0.0004

0.0002

0.002

4

0.1

0.01

定量

限界

0.06以下

0.02以下

0.06以下

3以下

0.4以下

0.2以下

0.04以下

0.02以下

0.2以下

40以下

1.5以下

1.2以下

判定

基準

〃〃チウラム

〃〃1.3-ジクロロプロペン

〃〃1.1.2トリクロロエタン

〃〃1.1.1トリクロロエタン

〃〃シス-1.2-ジクロロエチレン

〃〃1.1ジクロロエチレン

〃〃1.2-ジクロロエタン  

〃〃四塩化炭素

〃mg/lジクロロメタン

〃mg/kg有機塩素化合物

〃〃バナジウム又はその化合物

不検出

計量値

mg/l

単位

ニッケル又はその化合物

試験項目

0.0050.1以下〃〃鉛又はその化合物

0.0053以下〃〃銅又はその化合物

0.015以下〃〃亜鉛又はその化合物

0.115以下0.26〃ふっ化物

mg/l

単位

0.003以下

1以下

0.1以下

0.5以下

1以下

0.1以下

0.005以下

検出され

ないこと

判定

基準

0.0005〃PCB

0.1〃シアン化合物

0.005〃砒素又はその化合物

0.4〃六価クロム化合物

0.1〃有機りん又はその化合物

0.001〃カドミウム又はその化合物

0.0005〃水銀又はその化合物

0.0005不検出アルキル水銀化合物

定量

限界

計量値試験項目

0.0020.1以下〃〃セレン又はその化合物0.042以下〃〃クロム又はその化合物

0.0010.1以下〃〃ベンゼン0.012.5以下〃〃ベリリウム又はその化合物

0.0010.2以下〃〃チオペンカルブ0.00050.1以下〃〃テトラクロロエチレン

0.00030.03以下〃〃シマジン0.0020.3以下不検出〃トリクロロエチレン

0.0005

0.0002

0.0006

0.0005

0.004

0.002

0.0004

0.0002

0.002

4

0.1

0.01

定量

限界

0.06以下

0.02以下

0.06以下

3以下

0.4以下

0.2以下

0.04以下

0.02以下

0.2以下

40以下

1.5以下

1.2以下

判定

基準

〃〃チウラム

〃〃1.3-ジクロロプロペン

〃〃1.1.2トリクロロエタン

〃〃1.1.1トリクロロエタン

〃〃シス-1.2-ジクロロエチレン

〃〃1.1ジクロロエチレン

〃〃1.2-ジクロロエタン  

〃〃四塩化炭素

〃mg/lジクロロメタン

〃mg/kg有機塩素化合物

〃〃バナジウム又はその化合物

不検出

計量値

mg/l

単位

ニッケル又はその化合物

試験項目

0.0050.1以下〃〃鉛又はその化合物

0.0053以下〃〃銅又はその化合物

0.015以下〃〃亜鉛又はその化合物

0.115以下0.26〃ふっ化物

mg/l

単位

0.003以下

1以下

0.1以下

0.5以下

1以下

0.1以下

0.005以下

検出され

ないこと

判定

基準

0.0005〃PCB

0.1〃シアン化合物

0.005〃砒素又はその化合物

0.4〃六価クロム化合物

0.1〃有機りん又はその化合物

0.001〃カドミウム又はその化合物

0.0005〃水銀又はその化合物

0.0005不検出アルキル水銀化合物

定量

限界

計量値試験項目

※現在の所、ダイオキシンの溶出量データは無いが、高炉徐冷スラグと同様、高炉で 1,500℃以上の溶融状態から生成さため、高炉水砕スラグも基準内の低い値と推定される。

2-60

(3) 製鋼スラグ

1) スラグの製造

製鋼スラグは、銑鉄、スクラップ等を精錬し、鋼を製造する際同時に生成するスラグ

であり、精錬炉の種類により転炉スラグと電気炉スラグに大別される。また、この他に

製鋼工程の予備処理を実施する場合があり、その際に生成する予備処理スラグがある。

予備処理スラグには、脱燐スラグ、脱珪スラグなどがあり、それぞれ品質が異なる。

ヤードまたはドライピットで徐冷された製鋼スラグは、ブルドーザ等で掘り起こされ、

破砕、整粒工程にかけられ、用途に応じた粒度に調整される。図2.6.11に転炉スラグの破

砕・ふるい分け工程例を示す。

図2.6.11 転炉スラグの破砕・ふるい分け工程例

[出典:鐵鋼スラグ協会資料]

2-61

2) 品質

製鋼スラグは、高炉スラグや天然砂利に比べて密度が大きい。また、遊離石灰を含有

するため、水と反応して膨張する性質がある。

製鋼スラグは、製鉄所毎の違いのみならず、製鉄所内においても、精錬工程の違いに

よって、密度や膨張量などの品質に差異が認められる。

① 化学組成

一般に製鋼スラグは石灰(CaO)およびシリカ(SiO2)の2成分を主成分としている。

転炉スラグは、以上の他にマグネシア(MgO)酸化マンガン(MnO)などが含まれている。

表2.6.8に製鋼スラグの化学成分の分析結果例を示す。

表2.6.8 製鋼スラグの化学成分の分析例 (単位:%)

電気炉スラグ

転炉スラグ

酸化スラグ 還元スラグ

SiO2 13.8 17.7 27.0

CaO 44.3 26.2 51.0

Al2O3 1.5 12.2 9.0

T-Fe 17.5 21.2 1.5

MgO 6.4 5.3 7.0

S 0.1 0.1 0.5

MnO 5.3 7.9 1.0

TiO2 1.5 0.7 0.7

予備処理スラグ

SiO2 15

CaO 34

Al2O3 4

T-Fe 18

MgO 2

S 0.2

P2O5 5

② 製鋼スラグの膨張性と安定化

銑鉄を鋼に精錬するときに、鋼として不要な成分であるケイ素、リン、硫黄等を除去

するために生石灰を添加する。この生石灰は、精錬に十分な熱と時間をかけて精錬すれ

ば溶解される。しかし、精錬に要する時間は短時間であるため、生石灰は一部そのまま

[出典:鐵鋼スラグ協会資料]

[出典:港湾技研資料 No.990「鉄鋼スラグを用いた固化体の基礎的性状 および港湾構造物への適用性に関する研究」]

2-62

の状態で製鋼スラグ中に残存する。この生石灰は遊離石灰(Free-CaO)と呼ばれ、水と

接すると水和反応(CaO+H2O→Ca(OH)2)し、約2倍の体積膨張をする。

製鋼スラグの表面もしくは表面近くにある遊離石灰は水と反応しやすく、膨張する。

その際、スラグ粒子も亀裂を生じながら膨張し同時に細粒化する。一方、製鋼スラグの

内部に遊離石灰が存在する場合には、水と反応することがないため膨張することはでき

ない。

一般に遊離石灰量が多い製鋼スラグの膨張性は大きいが、遊離石灰の粒子の大きさ、

存在状況、他の化学成分の量によっても膨張量は異なるため、遊離石灰量だけで製鋼ス

ラグの膨張量を予測することは困難である。製鋼スラグの膨張安定化機構の模式図を図

2.6.12に示す。

図2.6.12 粒子断面と膨張による安定化機構

生成直後の製鋼スラグは遊離石灰を数パーセント含むが、屋外で養生すると雨水等に

より水和反応が促成されるため、その後の膨張量は減少する。このように安定化させる

ことをエージングといい、屋外で長期間養生する方法を通常エージング、蒸気を用いて

短期間に安定化させる方法を蒸気エージングという。

③ 水硬性

製鋼スラグは、高炉徐冷スラグと同様に水硬性があるが、その程度は弱く、水硬性の

発現は一様ではない。

④ 粒度分布

出荷される製鋼スラグは、一般に40mm 以下に破砕・整粒されたものである。幾つかの

製鉄所における製鋼スラグの粒度を図2.6.13に示す。

遊離石灰

H2O

● ●

遊離石灰

● ●

2-63

0

20

40

60

80

100

0.01 0.1 1 10 100粒径(mm)

通過質量百分率(%)

図2.6.13 製鋼スラグの粒度分布

[出典:港湾工事用製鋼スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

⑤ 粒子密度

製鋼スラグの粒子密度は図2.6.14に示すとおり概ね3.2~3.6g/cm3の範囲である。なお、

径5mm 以下の粒子はこれより若干小さくなる傾向にある。

0

2

4

6

8

10

3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0

密度(g/cm3)

頻度

N=27

図2.6.14 製鋼スラグ粒子の密度

[出典:港湾工事用製鋼スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

⑥ 単位体積重量

製鋼スラグは締固めの程度によって密度が異なる。「港湾工事用製鋼スラグ利用手引

書」では湿潤単位体積重量をついて、密な状態で23.0kN/m3、ゆるい状態で21.0kN/m3を標

準としている。

2-64

⑦ 内部摩擦角

製鋼スラグは一般の粒状材料と同様に、相対密度が小さいと内部摩擦角は小さくなる

傾向を示しているが、最小値でもφ=39.6°であり、ほぼ40°を示していることから、「港

湾工事用製鋼スラグ利用手引書」では設計に用いる内部摩擦角は安全をみて35゜を標準

としている。

図2.6.15は、国内15製造所の製鋼スラグ(最大粒径40mm)の、三軸圧縮試験(CD)結

果である。

図2.6.15 製鋼スラグの相対密度と内部摩擦角

[出典:港湾工事用製鋼スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

⑧ 透水性

製鋼スラグ(転炉系スラグ)の透水係数は経時的に低下する傾向がある。室内試験に

おいて、締固めた製鋼スラグの透水係数が、当初10-1~10-3cm/s であったものが、6ヶ月

の水中養生後に10-5~10-6cm/s にまで低下した。ただし、電気炉酸化スラグは透水係数の

低下はほとんど見られない。

35

40

45

50

55

60

20 40 60 80 100

相対密度 Dr (%)

内部

摩擦

角φ

(°)

2-65

3) 適用用途

製鋼スラグの適用用途については表2.6.9に示すとおりであり、路盤材として JIS 化さ

れており、その他にサンドコンパクションパイル材として利用されている。

また、FSコンクリートの細骨材としての利用実績もある。

表 2.6.9 製鋼スラグの港湾・空港等工事への適用

○+ 製鋼スラグと石炭灰( フライアッシュ( 石炭灰))を混合して砂の代替えとしたFSコンクリート が開発され、防波堤の上部工やブロック用のコンクリ ートとして利用されている。 「 FSコンクリート 利用手引書」が発刊さ れている。

○+ 製鋼スラグと高炉スラグ( および石炭灰)を組み合わせ、セメント・ 砂などの通常材を全く使用しない固化体が開発され、「鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル:(財)沿岸開発技術研究センター」が発刊されている。

-

△  鋼板セルの中詰試験施工有り。また、クリンカーアッシュ( 石炭灰)と 混合してケーソンの中詰を想定した室内試験を実施しているが、現段階の技術は開発途上である。

・JI S A5015「 道路用鉄鋼スラグ」・製鋼スラグ路盤設計施工指針; 鐵鋼スラグ協会

 上層路盤、下層路盤等に適用する。 但し、水硬性を有しているため、路盤としての性能に対し有利に働くが、補修や撤去時の掘り起こし作業等に、注意を要する。

◎  多くの試験施工を経て、「 港湾工事用製鋼スラグ利用手引書」が作成され、利用実績も多い。

-

○  プレロード 材としての利用実績あり。

凡 例  

- : 用途対象外。× : 現段階では利用は難しいと考えられるもの。

◎ : すでに当該用途を想定した品質基準が設けられ等、利用が可能。

○+: 利用実績が多いもの又は○に加えて利用マニュアル案等が整備されているもの。○ : 標準材料と同等、または利用実績や実証実験などで確認され利用可能性の高いもの。 △ : 利用可能性はあるが、既存資料からは判定できず、今後の検討を要するもの。

深層混合処理

盛土、覆土

裏込材

バーチカルド レーン

サンド コンパクションパイル

規格・基準類及び適用主な利用用途

捨石、被覆石等

中詰材

舗装用材

コンクリート用材( 細骨材、粗骨材)

2-66

(参考)製鋼スラグを用いた固化体について

港湾技術研究所(現国土技術政策総合研究所及び独立行政法人港湾空港技術研究所)

では、鉄鋼メーカーとの共同研究により鉄鋼スラグを用いた固化体の基礎的性状および

港湾構造物への適用について研究が行われている。(港研資料 No.990「鉄鋼スラグを用い

た固化体の基礎的性状および港湾構造物への適用性に関する研究」)

固化体は製鋼スラグと高炉スラグ微粉末を組み合わせたもので(さらにフライアッシ

ュの混合も可能)、セメント、砂利、および砂を全く使用しない新たな材料である。

この固化体は、セメントコンクリートと同等の強度を持ち、密度が大きく、組織が緻

密であるためすり減り抵抗性は大きい。また、海水に暴露した場合、周辺の海水のpH

上昇は普通コンクリートと比べて小さく、無筋ブロック系の港湾構造物への適用は可能

と考えられている。

スラグ固化体の圧縮強度は、図2.6.16に示すとおり初期強度は小さいものの、長期的

な伸びが大きく材齢91日の圧縮強度は材齢28日の約1.3倍になっている。

また、曲げ、せん断強度は同じ圧縮強度のセメントコンクリートと同様の値を示すが、

弾性係数は小さい傾向にある。

図2.6.16 材齢と圧縮強度

[出典:港湾技研資料 No.990「鉄鋼スラグを用いた固化体の基礎的性状および港湾構造物への適用性に関する研究」]

実証試験実施状況

① 5t 消波ブロック、4t 漁礁ブロック、および被覆石(平成 11 年 12 月、A 製鉄所)

② 被覆石(1000 トン、平成 12 年 7 月、B 製鉄所)

③ 根固め石(14 万トン、平成 12 年 9 月~、A 製鉄所)

PT:予備処理スラグ

BFS:高炉スラグ微粉末

FA:フライアッシュ

2-67

4) 周辺環境への影響

① pH

製鋼スラグの石灰(CaO)は、水と反応して消石灰となり、これが Ca+とOH-として海水

中に溶解してpHは高くなる。環境庁告示の方法で得た検液のpHは表2.6.10に示すとお

りである。

表2.6.10 製鋼スラグ溶出水のpH

電気炉 溶媒 転炉

酸化 還元

純水 12.8~13.2 10.1~12.5 9.5~12.7

人工海水 10.2~10.3 8.6~11.9 8.9~12.4

[出典:リサイクル環境保全ハンドブック、環境庁]

港湾工事用製鋼スラグ利用手引書によると「海域で利用した場合には、海水成分によ

る緩衝作用および希釈により周辺海域のpHの上昇はほとんどない。」とされている。

② 有害物質の溶出

海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律による溶出試験を実施した結果を表2.6.11

に示すが、これによるとすべての項目で基準値以下である。

しかし、ごく一部の製鋼スラグには、重金属などの溶出量が基準値を超えるものがあ

る。これについて「港湾工事用製鋼スラグ利用手引書」では、「これら溶出の恐れのある

スラグは、生成条件などが明らかになっており、製造所において分別して管理がされて

いるので、建設資材として一般に流通することはない。」とされている。

なお、環境基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準が平成11年に、同じく土壌の汚染

に係る環境基準が平成13年にそれぞれ改正され、フッ素及びホウ素の基準項目が新たに

追加されている。ただし、本基準に係る中央環境審議会の答申(平成12年12月26日)に

よると、スラグ等の再利用物への適用に関して「道路用等の路盤材や土木用地盤改良材

等として利用される場合には、再利用物自体は周辺の土壌と区別できることから(フッ

素及びホウ素に関する土壌環境基準は)適用しない」「通常、海域に隣接した地域で施工

されている土木用地盤改良材の利用については軟弱地盤に施工されているスラグのサン

ドパイル全体を囲む改良地盤部分を、それぞれ一体としてとらえ、周辺土壌とは区別す

るものとする」とされている。

なお、同審議会土壌農薬部会土壌専門委員会における議事のなかでスラグの中には環

境基準を超えるフッ素を含有しているものがあること、スラグをサンドパイルに使用す

2-68

る場合、地下水と接して溶出する場合があり得ること等が指摘されている。このことか

ら特に内陸部等での使用に際しては使用方法及び水源位置、地下水位等に留意する必要

がある。

これらについての詳細は、使用を予定している製鉄所に問い合わせて安全性を確認し、

必要に応じて試験を行うことが望ましい。

試験項目 単位 計量値 判定基準 定量限界 備考

アルキル水銀化合物 mg/l 不検出 検出されないこと 0.0005水銀又はその化合物 〃 〃 0.005以下 0.0005 ・検定方法

カドミウム又はその化合物 〃 〃 0.1以下 0.001鉛又はその化合物 〃 〃 0.1以下 0.005

有機りん又はその化合物 〃 〃 1以下 0.1六価クロム化合物 〃 〃 0.5以下 0.04

ひ素又はその化合物 〃 〃 0.1以下 0.005シアン化合物 〃 〃 1以下 0.1

PCB 〃 〃 0.003以下 0.0005銅又はその化合物 〃 〃 3以下 0.005

亜鉛又はその化合物 〃 〃 5以下 0.01 ・判定基準ふっ化物 〃 0~4.4 15以下 0.1

トリクロロエチレン 〃 不検出 0.3以下 0.002テトラクロロエチレン 〃 〃 0.1以下 0.0005

ベリリウム又はその化合物 〃 〃 2.5以下 0.01クロム又はその化合物 〃 〃 2以下 0.04

ニッケル又はその化合物 〃 〃 1.2以下 0.01バナジウム又はその化合物 〃 〃 1.5以下 0.1

有機塩素化合物 mg/kg 〃 40以下 4ジクロロメタン mg/l 〃 0.2以下 0.002四塩化炭素 〃 〃 0.02以下 0.0002

1,2-ジクロロエタン 〃 〃 0.04以下 0.00041.1-ジクロロエチレン 〃 〃 0.2以下 0.002シス-1,2-ジクロロエチレン 〃 〃 0.4以下 0.0041,1,1-トリクロロエタン 〃 〃 3以下 0.00051,1,2-トリクロロエタン 〃 〃 0.06以下 0.00061,3-ジクロロプロペン 〃 〃 0.02以下 0.0002

チウラム 〃 〃 0.06以下 0.0005シマジン 〃 〃 0.03以下 0.0003

チオベンカルプ 〃 〃 0.2以下 0.001ベンゼン 〃 〃 0.1以下 0.001

セレン又はその化合物 〃 〃 0.1以下 0.002

表2.6.11 製綱スラグの溶出試験結果(海洋汚染防止法水底土砂基準)

[出典:港湾工事用製綱スラグ利用手引書、(財)沿岸開発技術研究センター、鐵鋼スラグ協会]

 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令第5条第1項に規定する埋立場所等に排出しようとする廃棄物に含まれる金属等の検出方法(昭48環告14)による。

 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令第5条第1項に規定する埋立場所等に排出しようとする金属などを含む廃棄物に係る判定基準を定める総

理府令(昭48総令6)による。

・現在のところ、ダイオキシンの溶出量データは無いが、高炉スラグと同様、1,500℃以上の溶融状態から生成されるため、製綱スラグも基準内の低い値と推定される。

・”不検出”とは、定量限界を下回ること。

・計量値は11製造所のものである。