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1 一般財団法人 日本建設情報総合センター 研究助成事業報告書 助成番号第 2016-06 3 次元形状測定技術【ステレオ写真による出来形計測技術の研究 (ドローン)】 平成 29 年8月 ダットジャパン株式会社 研究開発部 部長 小山 一人

29 - JACIC(2)ドローンの取り扱いに関する留意事項 ・ドローンの飛行には、航空法、国土交通省令にしたがう必要がある。具体的には、夜間や、飛行禁止区

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一般財団法人 日本建設情報総合センター

研究助成事業報告書

助成番号第 2016-06号

3次元形状測定技術【ステレオ写真による出来形計測技術の研究

(ドローン)】

平成 29年8月

ダットジャパン株式会社

研究開発部 部長 小山 一人

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研究報告

1. はじめに .................................................................................................................................... 4

1.1. 研究の目的 ......................................................................................................................... 4

1.2. 研究の方針 ......................................................................................................................... 5

2. 研究の課題 ................................................................................................................................ 7

2.1. スマートフォンによるステレオカメラの構築について .................................................... 7

2.2. ステレオ写真測定の精度 ................................................................................................... 7

2.3. 誤差量の考察 ..................................................................................................................... 8

2.3.1. 基本的要因から生じる誤差量 ..................................................................................... 8

2.3.2. 基本的要因から生じる iPhone6での理論誤差量 ...................................................... 9

2.4. カメラキャリブレーション.............................................................................................. 10

2.4.1. カメラ単独のキャリブレーション ............................................................................ 11

2.4.2. ステレオカメラのキャリブレーション ..................................................................... 11

2.5. 地上でのステレオ写真測定の実測結果 ........................................................................... 12

2.6. ドローンに設置した状態でのステレオ写真測定での実施方法 ....................................... 14

2.6.1. 写真計測プログラムの画面 ...................................................................................... 14

2.7. ドローン搭載用ステーの製作 .......................................................................................... 15

2.7.1. 撮影と制御についてのソフトウェア概要構成 ......................................................... 15

2.8. ドローンに搭載した状態でのステレオ写真測定の実測結果 .......................................... 16

2.9. 計測結果についてのまとめ.............................................................................................. 18

3. 飛行性能の研究 ....................................................................................................................... 19

3.1. 研究用ドローンの仕様 ..................................................................................................... 19

3.2. 試験状況 ........................................................................................................................... 20

3.3. 試験時の飛行条件 ............................................................................................................ 21

3.4. 飛行性能についてのまとめ.............................................................................................. 21

4. 伝送された写真からの出来形情報抽出機能の研究 ................................................................ 23

4.1. 計測のフロー ................................................................................................................... 23

4.2. 結果について ................................................................................................................... 24

4.3. 検討課題について ............................................................................................................ 25

5. 出来形帳票の自動作成機能の研究 .......................................................................................... 26

6. 工事写真管理ソフトへの自動仕分け整理機能の研究 ............................................................. 27

7. まとめと今後の課題 ................................................................................................................ 28

7.1. まとめ .............................................................................................................................. 28

7.2. 今後の課題 ....................................................................................................................... 28

8. 参考文献 .................................................................................................................................. 29

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助成研究者紹介

小山こ や ま

一人かずひと

ダットジャパン株式会社 研究開発室 室長

共同研究者

柿崎かきざき

保生や す お

ダットジャパン株式会社 ビジネスソリューション事業部 執行役員

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1. はじめに

1.1. 研究の目的

国土交通省による3次元データを活用した i-construction の展開が進んできている。これに必

要となる3次元データ計測について、従来はマクロ的手法として航空レーザ計測が、ミクロ的手

法として地上型レーザ測量が導入されてきたが、平成 28年 3月に、国土交通省より「空中写真測

量(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)」が公開されたことにより、空中写真

測量に基づく出来形管理が今後普及するものと考えられる。

一方で現在想定されている手法は、事前に 3 次元設計データの準備が必要であることや、撮影

後に点群処理ソフトウェアによる処理が必要になることから、リアルタイムでの出来形計測が出

来ないため、是正措置が遅れるという欠点がある。また、機材操作、データの取り扱い方法も難

しく費用も掛かることから、小規模業者、小規模工事での展開が難しいと言う問題もある。

そこで、低コストかつ簡便な情報取得を目指し、「スマートフォンカメラ等による空中ステレオ

画像及び情報の取得、リアルタイム情報送受信機能及び情報管理機能の開発」を行う。ステレオ

写真解析技術による出来形形状取得を行うことで、事前の 3 次元データ作成が不要となるほか、

画像情報からの直接計測が出来るため視覚的にも解りやすく且つリアルタイム計測が可能となり

是正がすぐに行えるというメリットが得られると考えられる。

更に、本研究の成果により出来形管理帳票の自動作成及び空撮した写真データのデジタル工事

写真電子納品要領に基づく自動仕分け整理、登録が可能となり、従来方法と比べ、低コストで且

つ短期間での作業が実現し業務効率が向上するはずである。 合わせて、河川の氾濫や土砂崩れ等

の災害発生時等にも本研究成果により、リアルタイムな被害情報の取得が容易となるなど、副次

的なメリットも得られる。

本研究では、現状で出来ることに力点を置き、容易に手に入る機材や当社の保有するプログラ

ム、また試験的に開発したプログラム等を組み合わせることにより、新たな 3 次元計測技術の確

認及び帳票作成等の自動化等を図ることを目的として実施した。図 1-1は本研究の概要を示す。

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図 1-1 本研究の概要

1.2. 研究の方針

(1) 研究に関する留意事項

・テーマに合致した内容の研究を行うこととする

・JACIC側担当者との連絡を密にし、判断に迷う場合には必ず相談する

・顧客情報などの機密情報漏洩には細心の注意をはらう

・将来を見据えて、発展性を持った成果になるよう努力する

・透明性をもった資金管理を行う

・研究報告書は、出来るだけ平易な言葉を使用しわかりやすいものを心掛ける

・その他については JACIC 研究助成要綱にしたがうこととする

(2)ドローンの取り扱いに関する留意事項

・ドローンの飛行には、航空法、国土交通省令にしたがう必要がある。具体的には、夜間や、飛行禁止区

域での飛行、150m以上の高度で飛行することは禁止されている。また、人口密集地での飛行には、必ず

監督省庁(国土交通省)の事前許可を取得する。

・落下による事故等を未然に防止するとともに、損害賠償保険、機体の保険に加入する。

・ローターによる怪我等を防止するため、操縦は無線航空従事者の資格保持者がこれにあたることとし、

それ以外の人や物からは 30m以上の距離を置くこととする。

・風が強い場合は、飛行を見合わせるなどの措置をとる

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・使用するリチウムポリマーバッテリーは、発火の危険があるため、移動や保管には細心の注意をはらう。

・必ず上空にある GPS衛星の数を確認する。GPS衛星の数が不足している場合は、自動飛行の際に誤

動作する可能性があるため飛行しない。

・ドローンを加工する場合には、感電、ショートによる火災等を防止するための必要な措置を講じ、万一に

備えることとする。

・一般に利用できる電波法の範囲での研究とする。

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2. 研究の課題

2.1. スマートフォンによるステレオカメラの構築について

本研究では、スマートフォン 2台を用いて手軽にステレオカメラを構築することを想定してい

る。そのためには、まずは地上において適切なステレオカメラによる撮影および計測が行える必

要がある。そこで、手近な素材を利用し、図 2-1、図 2-2のようにステレオ写真撮影が可能かどう

かの実験を重ねて行った。

図 2-1

図 2-2

2.2. ステレオ写真測定の精度

ステレオカメラについてはすでに市販されているものがあり、それらはハード的に完成されて

いるのが普通であり、光軸のズレ等については特別に意識する必要は無いが、本研究ではスマー

トフォンを用いることが前提のため、適切で計測可能なステレオ写真撮影を可能にするためには、

図 2-3にある測定精度に影響する要因を十分に考慮して制作する必要があった。

図 2-3 測定精度に影響する要因

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2.3. 誤差量の考察

2.3.1. 基本的要因から生じる誤差量

基本的要因から生じる誤差量(の理論値)は次式で算出される

ΔX,Y = k ×(H/f)×σ

ΔZ = k ×(H/B)×(H/f)× σ

定義

ΔX:X方向の誤差量

ΔZ:Z方向の誤差量

σ:分解能

※出展:https://meijin.survey.ne.jp/faq/dc_seido.pdf アジア航測株式会社より

ここで、

k はサブピクセル計測実施時の経験的な係数(k:1.00)

(H/B)は計測三角形の形態強度(写真測量では B/H を BH 比と呼ぶ)

(H/f)は撮影スケール

上式は、カメラ間距離(B),対象までの距離(H),カメラレンズ焦点距離(f)、さらに

カメラ CCD 素子間隔(σ)の誤差量への関係を示している。

B、f、σ は撮影時には決定されているため、図 2-4 のように撮影対象までの距離を要求制度に応

じて撮影時に決定することになる。

図 2-4撮影間距離

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2.3.2. 基本的要因から生じる iPhone6での理論誤差量

本研究では APPLE社製の iPhone6を 2台利用する。iPhone6の諸元は以下のとおりである。

・焦点距離 f=2.2mm

・分解能 σ=1.4μm

・画像サイズ 3264×2448ピクセル

国土交通省における TSを用いた出来形管理の計測精度の指針では、±5mmの誤差までが許容さ

れている。(図 2-5)また、空中写真測量(無人航空機)を用いた 出来形管理要領(土工編) (案)

(図 2-6)では、測定精度は±5cm以内と定められているため、今回は高い精度を求められる TS

を用いた出来形管理と同等の精度を目標とした。

図 2-5 TSを用いた出来形管理要領(土工編)より

図 2-6 空中写真測量(無人航空機)を用いた 出来形管理要領(土工編)より

従って、iPhone6を用いた写真計測においても10mの撮影距離にて3.6mmの精度を確保できる。

よって国土交通省 TSを用いた出来形管理要領にて規定される測定精度±5mmを保つには、対象

との距離を 10m程度にすればよいと判断できる。

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前述の式に iPhone6の諸元データから導き出された誤差量は(表 2-1)のとおりとなる。

※ 形態強度 H/B=1.67 で計算

表 2-1 iPhone6での推定誤差量

2.4. カメラキャリブレーション

カメラ内部定位の測定精度への影響を除去するため、キャリブレーション(校正)を実施した。

そのため、以下の 2種類のキャリブレーションプログラムを作成した。

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2.4.1. カメラ単独のキャリブレーション

図 2-7 のキャリブレーションパターンを写した複数のビューから,カメラの内部・外部パラメー

タを算出。

図 2-7 キャリブレーションパターン

2.4.2. ステレオカメラのキャリブレーション

キャリブレーションパターン上の点群座標の異なるビュー上の座標から、図 2-8 のようにステレ

オペアを構成する 2つのカメラ間の変換を推定した。

図 2-8 キャリブレーションパターンによる変換の推定

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2.5. 地上でのステレオ写真測定の実測結果

キャリブレーションを実行したスマートフォン 2台によるステレオ撮影を実施した。(図 2-9)

2.5メートル離れた測定対象を撮影し、230mm部分を計測し、18の計測結果を記録したものが

表 2-2と表 2-3である。測定結果の平均を求めると 230.37mmとなった。

図 2-9ステレオ写真からの計測試験状況

理論誤差量は 0.9mmであり、理論値におさまる実測結果となった。ただし、サンプル#2、#3で

は 1.69mmという理論値を上回る誤差があり、測定値全体も標準偏差 0.65というばらつきであっ

た。

この実験により、カメラキャリブレーションによる内部定位の影響の補正と、ステレオキャリブ

レーションによる 2台のスマートフォンの位置把握を精度を保って行えば、少々のばらつきを伴

いながらではあるが、理論誤差量に近い計測がスマートフォンでできることが確認できた。

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# 計測値(230mmを計測した結果) 誤差(mm)

1 230.41 +0.41

2 231.69 +1.69

3 231.69 +1.69

4 230.16 +0.16

5 230.05 +0.05

6 230.63 +0.63

7 230.63 +0.63

8 229.79 -0.21

9 230.74 +0.74

10 230.27 +0.27

11 230.39 +0.39

12 230.23 +0.23

13 229.91 -0.09

14 229.49 -0.51

15 229.86 -0.14

16 230.19 +0.19

17 229.36 -0.64

18 229.31 -0.69

平均 230.27 0.27

最大 231.69 1.69

最小 229.31 -0.69

標準偏差 0.65 0.65

表 2-2写真計測 5回の結果

表 2-3 度数表

-1.00

-0.50

+0.00

+0.50

+1.00

+1.50

+2.00

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

誤差(mm)

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2.6. ドローンに設置した状態でのステレオ写真測定での実施方法

ドローンに iPhone6を 2台、光軸が平行になるようにカメラレンズ間距離 560mmとし、レン

ズが真下を向くように設置した。実験では図 2-10に示す機材構成となる。

図 2-10 実験用器材構成

2.6.1. 写真計測プログラムの画面

本研究のために、図 2-11 のステレオ写真による計測プログラムを開発した。本プログラムは、

左右写真を同時に表示し、始点⇔終点間の距離を算出するために利用するものである。

図 2-11 写真測量プログラムの画面

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2.7. ドローン搭載用ステーの製作

ドローンに iPhone を 2 台搭載するためのステーを制作した。ドローン本体の基盤にアルミの C

チャンを加工し、防振シートを挟んだ上で、捻じれが無いようボルトで設置を行った。

図 2-12 はドローン本体の基盤、図 2-13 は設置後のテスト飛行の様子である。尚、テスト飛行の

実施場所は、北海道江別市豊幌の河川敷地であり、飛行禁止区域ではない。

図 2-12 ドローン本体の裏面 図 2-13 テスト飛行の風景

2.7.1. 撮影と制御についてのソフトウェア概要構成

本研究のため、図 2-10のようにドローンに搭載したスマートフォンを遠隔操作にて写真撮影を

行うプログラムの開発を行った。撮影と制御についてのソフトウェア概要構成は、図 2-14のよう

になる。

図 2-14 ソフトウェア概要構成

ドローンに搭載した iPhone6を 2台に同時にシャッター命令を REST APIで送信し、全く同じ

タイミングで左右の画像撮影を実現した。尚、LTEや3G回線を用いた通信も検討したが、この

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方法は電波法に触れることが判明したため、SIMを抜いた iPhone6を用いている。

※電波法第 4条(無線局の開設)

携帯電話やスマートフォンは、電波法令上の種類は陸上移動局となっており、空中での利用は電

波法第 4条に違反する。

2.8. ドローンに搭載した状態でのステレオ写真測定の実測結果

図 2-15 はドローンに搭載した iPhone6 にて、高度3mで撮影をしたステレオ写真である。撮

影された写真には動体歪み(ローリングシャッター歪み)が表れている。

図 2-15 歪んで撮影されたステレオ写真

これは、飛行するドローンの振動が直に iPhone に伝わり、CMOS 撮像素子全体の信号読出し

中に撮像素子自体が移動してしまい歪みが発生したものである。また、ドローンのブレードによ

るダウンウオッシュ(後方乱気流)が、搭載した 2 台の iPhone に当たってしまうことによる振

動も影響していると考えられる。したがって、歪みの無い撮影を行うには、iPhone にドローンの

振動が伝わらないようにする工夫が更に必要であることが分かった。

図 2-16は、高度5mにて撮影したステレオ写真から計測を行ったものである。歪みがあるため、

正確な計測はできないが、比較的歪みの少ない画像にて 1000mm の部分を計測ソフトで計ると、

1067.96mmとなり理論値より大きな誤差となった。。

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(図 2-16)ドローンにて撮影したステレオ写真からの計測結果

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2.9. 計測結果についてのまとめ

地上で撮影したステレオ写真ではまずまずの測定結果であったが、ドローン搭載により撮影し

たステレオ写真では、理論値に対し実測値とは大きな差がでる結果となった。スマートフォン 2

台の組付け精度や、振動や風圧の影響による動体歪みが発生したためと考えられる。

・本研究の方式の有効性と制約

利点

・特殊なステレオカメラではなく、身近にあるスマートフォンなどの機材でステレオ写

真の撮影や計測操作できる

・地上に固定されたステレオカメラによる距離計測では、理論上の精度に近い計測がで

きた。

欠点

・身近な機材を活用するので自らキャリブレーションを行う必要がある

→簡便なキャリブレーション手段と組付精度の確保が必要である。

・ドローンに搭載する場合には、充分な振動対策と、取り付け場所としてダウンウオッ

シュの当たらない位置の確保が課題となる。

・同一メーカー、同一機種でなければならない。

・2台のスマホを遠隔操作にて同時シャッターを切るアプリが必要となる。

・電波法の第4条にて、ドローンに搭載したスマートフォンによるモバイルデータ通信

は禁止されているため、機能をフルに活かせない。

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3. 飛行性能の研究

3.1. 研究用ドローンの仕様

加工の容易さや、スマートフォン 2台搭載が可能であることを考慮し、独製の機種を選定した。

ドローン本体をはじめ研究用として用意したものは以下の通りである。

・ドローン本体

メーカー名:MikroCopter

機種名 :MK-4 XLカスタマイズ機

連続飛行時間:15分~25分

※ドローン本体には技適マークが無いが、搭載されている無線設備が技術基準適合証明を受

けている。

・.現地での自律飛行及び計測用 PCの架台

・SLIK GX6400

・SLIK A6015スリック台

・.無線 LANアンテナ

・Xbee PRO S2Bモジュール×2 技術基準適合証明番号:201WW10215062

・電源電圧:2.7

・シリアルインタフェース:3.3V(CMOS UART)~3.6 V

・シリアル通信速度:1200bps~1Mbps

・デジタル入出力:10ピン

・アナログ入力:10ビット×4入力

・使用周波数帯:2.5Ghz(ISMバンド)

・送信電波強度:最大 10mW(+10dBm)最大 1.5kmの屋外見通し距離

・受信電波感度:-102dBm

・アンテナ:基板上パターンアンテナ

・アドバンストメッシュネットワークと低出力モード対応

・128ビットAES暗号化

・周波数アジリティ

・リモートコンフィグレーション(無線でのモジュール設定)

・送信機

・FUTABA 10J

(10ch-2.4GHz T-FHSS AIRモデル)

・電池:単 3乾電池駆動

・レシーバをドローン側へ搭載

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・バッテリー及び充電器

・バッテリー:ZIPPY5000 ×8

・充電器:HITEC Multicharger X2 AC Plus

・スマートフォン

・iPhone6 8GB ×2(SIM無し)

・その他購入関係

・風速計(ドローン飛行環境チェック用)

3.2. 試験状況

安全に試験を実施するには、航空法第 132条で規定する無人航空機の飛行禁止空域ではない場

所で行う必要がある。そのため、実際の工事現場ではなく、会場として提供していただいた農用

地での試験を行った。

地図1 国土地理院電子国土MAPでの位置表示(飛行禁止区域ではない)

日時:平成 29年 7月 29日午後 14時~16時 30分

場所:北海道岩見沢市北村字豊正 合同会社高橋ファーミング圃場内

操縦者:ダットジャパン柿崎(無人航空従事者試験 3級)LID:JA000032006715

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3.3. 試験時の飛行条件

試験当日の天候は次の通りであった。

天候:晴れ

気温:26℃

風速:3m/s~5m/s

日差しが強い日で、ドローンの飛行そのものには大きな問題は無かったが、現場計測用のPCの

画面が日光に販社し視にくい状況であった。視認性を良くするためには、PC上面を覆うカバー

等の設置が必要である。

3.4. 飛行性能についてのまとめ

ステレオ撮影用 iPhone6 を 2 台搭載した本実験用ドローンの飛行性能については、風速 5m/s

程度の風では飛行そのものへの大きな支障にはならなかった。(図 3-1)

ただし、表面積が大きくなっていることから、標準のカメラ搭載時よりも風の影響を受けている

と考えられるため、風の強い場合の飛行には注意が必要である。(図 3-2)

図 3-1 飛行中の模様 図 3-2 ステレオカメラを搭載した状態

自律飛行による計測ポイントへの移動については、計測範囲が小さな領域の場合は、事前の

WayPoint の指定が非常にシビアであることが分かった。自律飛行プログラム(図 3-3、図 3-4)

にて撮影ポイントを指定するが、一般的な空撮の場合は20m~といった高い位置からの撮影と

なるが、本研究においては、具体的な構造物の写真を撮影する必要があり、写真に映る範囲を考

慮すると、2m~5mといった低高度での撮影が必要となる。そのため、自律飛行プログラムに

読み込ませたマップデータの衛星写真も詳細である必要があるが、現実的にはそれほど高い解像

度では無いため、指定位置がアバウトとなり、自律飛行のみにより計測ポイント上空へ向かうの

は GPS 情報だけでは不可能である。(図 3-5)また、自律飛行によりその直上にて静止するのは

かなり難しいため、本研究では、手動で離陸し自律飛行へ切り替えて飛行、目標地点で再び手動

操縦へ切り替えることにより実施した。

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図 3-3 自律飛行プログラム 図 3-4 自律飛行プログラムの画面

図 3-5 マップ(衛星写真)上でのWaypointの設定画面

また、飛行時間については、気温や風速等の影響やバッテリーの劣化等に左右されてしまうが、

長時間の飛行による計測作業を必要とするのであれば、ドローンへの電力供給を有線にて行うこ

とにより、飛行時間制限の無い計測作業が可能となる。

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4. 伝送された写真からの出来形情報抽出機能の研究

平成 29年3月 1日より利用が認められた「電子小黒板」に対応した当社の工事写真撮影アプリ「現

場 DEカメラ」にて実装している情報記録ルールに基づき、Exifのユーザコメント領域(IFDタ

グ0X9286)に測定数値を遠隔入力することを想定し研究を行った。これにより、撮影されたス

テレオ写真のから出来形情報(項目名、記号、設計値、実測値、単位といった一連の出来形管理

写真に必要な情報を言う)の抽出が可能となる。

4.1. 計測のフロー

試験計測は次のフローで実施した。

手動飛行開始

自律飛行により計測ポイントへ移動

手動にて撮影位置の調整

撮影アプリ側で目標を視認

撮影アプリから撮影指示を送信

ステレオ写真撮影

撮影されたステレオ写真の転送

計測アプリでステレオ写真から計測の実施

計測値を Exifへ記述

出発点へ帰還

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4.2. 結果について

現場での実証試験により次の結果が得られた。

・スマートフォン 2台にリモートシャッターアプリを実装し、Wi-fiで接続した PCからシャッタ

ー命令を送ることで、ステレオ画像を取得し、即計測処理をすることができた。

・ドローンの飛行時間は長くても 20分程度であるため、次々と計測ポイントに移動する必要があ

り、実際に計測作業を行う際にはすでに次の撮影ポイントへ移動している場合がある。

・計測作業に手間取ってしまうと、ドローンをその場で待機させなければならず、1回のフライ

トで測定作業が完了出来ない可能性が生じる

・転送される写真が左右の2枚となり、計測用 PCの画面に表示されるまでのタイムラグが

若干あった

・ドローンの操縦者と計測担当者の息を合わせる必要があり、合わないとスムーズな計測操作が

出来ない

・屋外での操作となるため太陽の位置によっては、計測用 PC のモニター画面が太陽光によって

極めて視にくくなった

・Exif に書き込まれた施工管理値情報は、当社の工事写真管理システムを介することによって、

同じく当社の出来形管理システムへ反映させることが出来た(図 4-1)

図 4-1 出来形管理ソフトへ反映した画面

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4.3. 検討課題について

電子小黒板の運用ルールでは、Exif への情報の書き込みに関しては特に制約が無いため、撮影

後に測定値を書き込んでも特に問題は無い。ただし、電子小黒板そのものを用いて撮影をするこ

とについては、その手法や必要性の検討を要する。特に、小黒板上に黒板イメージに実測値を記

載するには、撮影前に設計値及び実測値の入力を完了させておかなければならないため、実現性

の再検討が必要と思われる。出来形計測用写真としては、立会検査等においてはリアルタイムな

計測が必要となるが、ステレオ写真を撮影した後に PC の画面にて計測を行うといった運用でも

問題は無いと思われる。ただしこの場合は、黒板の無い写真となってしまうため、成果品として

の電子納品データになりえるのかどうか、その扱い方を検討する必要が生じると思われる。

また、Exifに埋め込む情報については、左右それぞれの写真に埋め込むことも出来るが、左右

のどちらか一方に記録するだけでも運用には問題が無いと思われる。その場合、左右どちらの写

真であるかを判別できるようにする必要性も検討すべきと思われる。

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5. 出来形帳票の自動作成機能の研究

撮影した写真の EXIF に記述された測定値を元に、出来形管理帳票の作成が出来ることを目標

に実装を行った。(図 5-1)出来形管理ツール上にて計測値を取り込むことにより、指定した様式

にて出来形管理帳票を出力することが出来る。(図 5-2)

図 5-1 出来形管理ソフトと写真管理ソフトを連携利用

図 5-2 作成した帳票(国土交通省様式 31で出力した例)

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6. 工事写真管理ソフトへの自動仕分け整理機能の研究

工事写真では、以前より EXIFに埋め込んだ写真情報による自動仕分け整理は実現していたが

本研究によるステレオ写真でも同様に仕分け整理を可能とした。(図 6-1、図 6-2)

ステレオ写真は、左右2枚の写真で構成されるが、それらの写真を電子納品する場合の規定が無

いため、必ずしも左右セットで格納する必要は無く、左右いずれかの写真が格納されていればよ

いと判断したが、左右セットでの格納も可能である。今後ステレオ写真による出来形計測等が普

及するのであれば、格納ルールの策定が必要になるものと思われる。

図 6-1 振り分け整理確認のメッセージダイアログ

図 6-2 格納すると写真情報の施工管理値欄へ自動的に記述される

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7. まとめと今後の課題

7.1. まとめ

本研究では、2台のスマートフォンを用いたステレオ写真を用いての計測技術の研究を行った

が、地上試験では実用レベルの精度を出せることが確認できた。ドローン搭載時には、残念なが

ら精度確保が出来なかったが、今後も更なる研究を継続することにより、空中写真でも実用レベ

ルの精度を出せるようにしていきたい。当初より振動によるズレや捻じれ等が発生しない剛性の

ある設置方法の確立が最も重要であることを認識していたが、実際に研究を行ったことにより、

ローリングシャッター特有の画像の歪みが発生したり、ダウンウオッシュの影響を受けたりする

ことが判明した。この対策としては極限までブレを吸収可能な搭載方法やスタビライザー等の開

発が有効であるほか、2台のスマートフォンをブレードに被らない位置への搭載が必要である。

しかし、ドローン本体の大きさにも限界があることから、最適な基線長(レンズ間の長さ)を検

討すること等により、理論値まで高めることが可能と思われる。また、このステレオ写真から得

られた計測データを出来形管理帳票や写真管理ソフト等へ自動的に反映させることにより、建設

現場の生産性向上にも大きく寄与することが可能となる。

ドローンに搭載したステレオ写真による計測技術は、人が容易に近づけない場所において大き

なメリットがある。本研究結果を踏まえ、計測精度を更に高める方法の研究を継続して進めてい

きたい。

7.2. 今後の課題

今後も継続してリアルタイム計測した内容を写真へ自動的に記述する手法を研究していきたい。

また、写真からの計測には、ステレオ写真のほか、キャリブレーションのファイルが必ずセット

である必要があるが、キャリブレーションファイルは測定者が自由に作成できるため、信憑性の

確保は運用上の大きな課題となる。精度を担保するには、事前に手動計測または TS(トータルス

テーション)による計測を行い、その結果の照合を行う方法もあるが、それでは簡易的なものと

は言えず、利用するメリットも無くなってしまう。あくまでも簡易的なシステムで手軽に利用で

きることを目指すべきであり、本研究で判明した事実をベースに最適化の解を求め、出来るだけ

早期に製品としてリリースしていきたい。計測精度の向上を図り、実運用レベルでステレオ写真

による計測が簡単に行えるようにシステム全体の完成を目指していく。

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8. 参考文献

1)最新ドローン空撮入門 インプレス 2016年 6月 13日発行

2)ドローンの教科書 標準テキスト 3級 ドローン検定協会 2016年 11月 23日発行

3)ドローンビジネス情報 Vol 1 RCファン増刊号 2016年 9月 8日発行

4)CIM入門 矢吹信喜 2016年 1月 15日発行

5)トータルステーションを用いた出来形管理 http://www.nilim.go.jp/ts/std.html

6)I-Construction推進コンソーシアム http://www.mlit.go.jp/tec/tec_mn_000008.html

7)高橋 洋司,近津 博文,近接デジタル写真測量におけるカメラ付き携帯電話の精度検証

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsprs/48/5/48_5_299/_pdf

8)デジタルカメラを使用した場合の計測精度に影響を与える要因とその誤差量、及び対策に関

して https://meijin.survey.ne.jp/faq/dc_seido.pdf

9)松岡 龍治,ステレオ写真による3次元計測の期待精度

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsprs/50/5/50_302/_pdf

10) 高橋 洋司,近津 博文,近接デジタル写真測量における民生用デジタルカメラの精度評

価 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsprs/49/4/49_4_260/_pdf

11) 近接デジタル写真測量における精度要因と精度評価

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsprs/50/1/50_1_4/_pdf

12) アジア航測株式会社 デジタルカメラを使用した場合の計測精度に影響を与える要因と

その誤差量、及び対策に関して https://meijin.survey.ne.jp/faq/dc_seido.pdf

13) 国土交通省 空中写真測量(無人航空機)を用いた 出来形管理要領(土工編) (案)

https://www.mlit.go.jp/common/001179704.pdf