21
2.4 移植 移植適地を選定した上で、中間育成施設内で育てたサンゴを移植する。また、移植した サンゴの成長や生残率を高めるため、定期的に育成管理を行う。 【解説】 サンゴ面的増殖技術の移植は、移植場所 がサンゴの育成に適した場所であること、 移植したサンゴが産卵し、幼生が広範囲の サンゴ礁に着生してサンゴ礁の修復・再生 につながることが求められる。そのため、 サンゴの移植適地を現地調査や数値シミュ レーション技術を活用して選定する。 また、移植後は、サンゴが産卵可能なサ イズに成長するまでを目安にモニタリング を行い、移植したサンゴの成長と育成環境、 作業効率等を把握し、課題や改善点がある 場合には、順応的に移植方法の見直すなど の対応を行う。さらに、藻類除去等の定期的なメンテナンスを行い、移植したサンゴの 育成管理を行う。これらの移植作業のフローは、図Ⅱ.2-52 に示すとおりである。 2.4.1 移植適地の選定 移植するサンゴが、健全な状態で成長するとともに、その後産卵によって幼生が広範囲 のサンゴ礁に着生し、サンゴ礁の修復・再生につながる場所を適地として選定する。 【解説】 サンゴの育成適地の選定は、図Ⅱ.2-53 のフローによ り行う。 (1)~(3)の工程における調査・検討にあたっては、表 Ⅱ.2-12 に関する項目を調査しておく必要がある。 図Ⅱ.2-52 移植の作業フロー 2.4.1 移植適地の選定 2.4.2 移植 2.4.3 育成管理 (5)移植場所の選定 (3)サンゴ幼生の供給源として 望ましい箇所の検討 図Ⅱ.2-53 移植適地選定フロー (4)移植適地の選定 (1)サンゴ分布図の作成 (2)サンゴの育成に影響を及ぼ す環境要素の検討 環境条件の調査・整理

2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

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2.4 移植

移植適地を選定した上で、中間育成施設内で育てたサンゴを移植する。また、移植した

サンゴの成長や生残率を高めるため、定期的に育成管理を行う。

【解説】

サンゴ面的増殖技術の移植は、移植場所

がサンゴの育成に適した場所であること、

移植したサンゴが産卵し、幼生が広範囲の

サンゴ礁に着生してサンゴ礁の修復・再生

につながることが求められる。そのため、

サンゴの移植適地を現地調査や数値シミュ

レーション技術を活用して選定する。

また、移植後は、サンゴが産卵可能なサ

イズに成長するまでを目安にモニタリング

を行い、移植したサンゴの成長と育成環境、

作業効率等を把握し、課題や改善点がある

場合には、順応的に移植方法の見直すなど

の対応を行う。さらに、藻類除去等の定期的なメンテナンスを行い、移植したサンゴの

育成管理を行う。これらの移植作業のフローは、図Ⅱ.2-52 に示すとおりである。

2.4.1 移植適地の選定

移植するサンゴが、健全な状態で成長するとともに、その後産卵によって幼生が広範囲

のサンゴ礁に着生し、サンゴ礁の修復・再生につながる場所を適地として選定する。

【解説】

サンゴの育成適地の選定は、図Ⅱ.2-53 のフローによ

り行う。

(1)~(3)の工程における調査・検討にあたっては、表

Ⅱ.2-12 に関する項目を調査しておく必要がある。

図Ⅱ.2-52 移植の作業フロー

2.4.1 移植適地の選定

2.4.2 移植

2.4.3 育成管理

移植手法の

順応的管理

ハビタットマップ

(5)移植場所の選定

(3)サンゴ幼生の供給源として

望ましい箇所の検討

図Ⅱ.2-53 移植適地選定フロー

(4)移植適地の選定

(1)サンゴ分布図の作成

(2)サンゴの育成に影響を及ぼ

す環境要素の検討

環境条件の調査・整理

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表Ⅱ.2-12 遠隔離島におけるサンゴの適地選定に関係する調査・解析項目

環境条件 調査・解析項目

(1)サンゴ分布図の作成

サンゴ分布 サンゴ被度、種構成。

(2)サンゴの育成に影響を及ぼす環境要素の検討

地形・基盤 サンゴ礁内の水深及び基盤の有無。

水温 代表地点における高水温期の水深別水温変化。

波浪・流況や砂礫の移動 サンゴ礁内の波浪・流況状況や砂礫の移動。

食害動物 サンゴ礁内の食害動物(オニヒトデ、貝類、魚類)の状況。

(3)サンゴ幼生の供給源として望ましい箇所の検討

サンゴ供給源 流況や拡散の状況から発生したサンゴ幼生が、サンゴ礁外への

流出よりもサンゴ礁内により多く着生できる箇所。

(1)サンゴ分布図の作成

サンゴ分布図の作成は、対象海域のサンゴ被度と種構成を整理する。

作成したサンゴ分布図から、対象海域の中で被度が比較的高い場所や低い場所の位置と、

移植対象種が分布する場所を確認する必要がある。

サンゴ被度の把握にあたっては、衛星画像や航空写真の画像解析により広域のサンゴ被

度を把握する手法(片山ほか 2014)(第Ⅲ編 技術ノート 2 衛星画像によるサンゴ被度分析解析手

法を参照)と、熟練ダイバーが潜水目視観察により代表地点※の被度を把握する手法がある。

次に、サンゴの種構成の把握は、代表地点の潜水目視観察により行う。

画像解析による手法は、サンゴの種類や詳細な地形情報等が得られないものの、潜水目

視観察よりもサンゴ被度を面的に把握することが可能である。さらに、古い年代の画像を

解析することにより、サンゴ分布の変遷を把握することも可能である。

潜水目視観測による手法は、熟練ダイバーが、潜水調査によりベルトトランセクト調査、

またはスポットのコドラート調査を複数地点で実施する手法がある(第Ⅰ編 2.3 現況把握を参

照)。潜水調査は、未測領域が生じるものの、調査箇所については、サンゴの被度や種構

成、食害の有無、海藻類の繁茂状況等の情報を詳細に取得することが可能である。

以前はサンゴが高密度で分布していた場所で、分布したサンゴが移植対象種である場合、

サンゴ分布が衰退した要因を解決できれば、移植適地となる可能性が高い。よって、サン

ゴ分布や生息種に関する過去の潜水目視観察結果や地元漁業者等のヒアリング情報、衛星

画像解析による分布域の変遷を解析することで、移植適地や移植種を検討する上で有効な

情報を得ることができる。

沖ノ鳥島の事例では、衛星画像解析と潜水目視観察を実施し、図Ⅱ.2-54 に示すとおり、

サンゴ被度は、礁内中央部で 20%を超える高被度となっており、次いで礁内東側が高被度

となっている。本事業の移植対照であるミドリイシ属は、礁内中央部に多く、礁内西側、

東側も分布していることを確認している。

※代表地点は、対象海域の広さ、サンゴ分布を参考に、サンゴが多い箇所・少ない箇所、海域の調査地点

の偏りが極端にならない箇所を数地点設定する。代表地点は、後述するサンゴの育成に影響を及ぼす環

境要素の特性やその違いに応じて、地点数を設定する。

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図Ⅱ.2-54 衛星画像解析と潜水調査より作成したサンゴ分布図(沖ノ鳥島)

表Ⅱ.2-13 サンゴ被度の目安

被度

0%

被度

<5%

被度

5~25%

サンゴは

無い

サンゴは

極くまば

サンゴはま

ばら

被度

25~50%

被度

50~75%

被度

>75%

サンゴよ

り海底面

の方が多

海底面よ

りサンゴ

の方が多

海底面がほ

とんど見え

ない

(基図に海上保安庁 海図 W49使用)

キクメイシ科

84%

ハマサンゴ科

8%

ミドリイシ科

5%

その他

3%

キクメイシ科

79%

ハマサンゴ科

10%

ミドリイシ科

8%

その他

3%

キクメイシ科

50%

ハマサンゴ科

47%

その他

3%

キクメイシ科

86%

ミドリイシ科

10%

ハマサンゴ科

3%

その他

1%

東側:高被度の箇所が散見 西側:礁縁部が高被度で礁内は比較的低被度

中央:高被度

キクメイシ科

74%

ヒラフキサンゴ科

5%

ハナヤサイサンゴ科

9%

ハマサンゴ科

9%

ミドリイシ科

3%

キクメイシ科

78%

ハマサンゴ科

9%

ミドリイシ科

5%

サザナミサンゴ科

6%

その他

2%

キクメイシ科

41%

ハマサンゴ科

33%

ミドリイシ科

24%

その他

2%

キクメイシ科

64%

ハマサンゴ科

30%

ミドリイシ科

4%

その他

2%

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(2)サンゴの育成に影響を及ぼす環境要素の検討

遠隔離島において検討する必要があるサンゴの育成に影響を及ぼす環境要素の調査方法

と絞り込みの考え方について解説する。

① 地形

地形は、サンゴ礁内の水深について把握する。

取得したデータから、対象海域におけるサンゴの移植が可能なノルと、移植対象サンゴ

の好適水深帯の有無を把握する。

水深は、一般的に、日本水路協会発行の海図やその他機関の水深図等の既存資料を入手

して利用する。沖縄沿岸では、縮尺の大きな海図も存在し、ノルの分布も把握できるため

利用可能である。既存資料が存在しない場合には深浅測量や航空写真測量、航空レーザー

測量等のリモートセンシング技術による計測を行う(図Ⅱ.2-55 参照)。

適地の判断については、移植可能な水深とノルの有無から判断するが、ミドリイシ属の

サンゴは、砂礫の移動や濁りの影響、水温や光量の影響を受けやすいため、移植ノルは、

現地のサンゴ分布水深を確認の上、砂礫移動の影響を受けにくい高さを有し、かつ、水温

や光量の影響を低減できる低潮時の海水面下から 1m 以下の水深を有する箇所を選択する

ことが望ましい。

図Ⅱ.2-55 地形の把握を行う図面の事例

② 水温

サンゴは海水温が 30℃を超える状態が数週間続くと白化現象を起こす等、水温が育成状

況に影響を与えることから、水温情報は必要である。対象海域で天然サンゴが健全に生育

している水温を把握し、移植条件の判断材料とする。

縮尺の大きな海図の事例

(海上保安庁 海図 W1285 使用)

0m 1000m

リモートセンシングにより詳細な地形を

把握した事例

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水温は、高水温になる時期を中心に対象海域の代表地点で、水深別に水温連続観測を実

施する。

高水温による白化現象の指標値として、NOAA(米国海洋大気庁)が、衛星によって得ら

れた海面水温データから、白化の警告予報値(DHW)を提案している(【コラム】白化指標と

しての DHW(週積算高水

温)の評価を参照)。

沖ノ鳥島の事例で

は、礁内中央から西側

で 30℃を上回る頻度

が高い地点が多く、水

深別では表層が底層よ

り高温であることを確

認した(図Ⅱ.2-56)。

③波浪・流況と砂礫の

移動

波浪・流況と砂礫の移動は、代表地点の潜水目視観察による海底面の観察から砂礫の移

動を推察する手法や、代表地点の波浪・流況観測や面的な数値シミュレーション結果から、

波高や流速、シールズ数(注等を把握することにより確認する。これらからサンゴに破損・

ストレスを与える条件や、サンゴの生息に適した条件を検討することができる。

サンゴを破損する波浪・流況やそれに伴う砂礫の移動を把握するためには、まず、潜水

士により直接海底の状況を把握する簡易の手法が挙げられる。現地の海底面がなめらかな

場合は、砂礫移動が高頻度に発生し海底面を削っている可能性が考えられる。

次に、高波浪時の代表地点における波浪・流況の現地観測結果から波浪・流況を把握す

るか、現地観測結果と数値シミュレーションを用いて面的な波浪場を推算し、波浪・流況

を把握する必要がある。これらの結果から最大流速やシールズ数を把握し、サンゴを破損

する波浪・流況やそれに伴う砂礫の移動の程度を確認する。サンゴへの影響の程度は、現

地のサンゴ被度に対する最大流速やシールズ数の分布の関係を相対的に確認して適正な場

所を判断する。以下に、波浪場の数値シミュレーション手法(表Ⅱ.2-14)とシールズ数の

計算方法について示す。

注:シールズ数:土砂移動のし易さを表す無次元パラメータであり、本来サンゴ礫の移動を表すものでは

ないが、サンゴ礫は土砂と類似した移動をするものとして、シールズ数を指標として用いた。

表Ⅱ.2-14 波浪場の数値シミュレーション手法の例

概要 必要データ 再現性 考慮する条件

対象海域の特性によ

りモデルを選定す

る。エネルギー平衡

方程式による波浪場

の予測が一般的。

地形(日本水路協会

発行の海図やその他

機関の水深図)、沖波

(気象庁 GPV データ、

現地観測結果)

波浪の現地観

測結果との比

較等により確

認。

サンゴを破損する波浪条件では、高

波浪時の波浪条件を利用する。

サンゴの生息に適した波浪条件で

は、平常時(通年の有義波エネルギ

ー平均等)の波浪条件を利用する。

注)GPV データ :Grid Point Value データ

図Ⅱ.2-56 沖ノ鳥島における水温分布の例

(2007~2013 年の水温 30℃を超えた日数の年平均値) (基図に海上保安庁 海図 W49 使用)

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沖ノ鳥島の事例では、1年確率波におけるシールズ数の分布状況は、図Ⅱ.2-57に示すと

おりである。礁嶺部や礁内西側は、砂礫移動による影響が特に大きい可能性が考えられる。

図Ⅱ.2-57 沖ノ鳥島における砂礫の移動(シールズ数)の影響分布図の事例

計算条件:1 年確率波(沖波 5~7m)、底質粒径 1mm

(基図に海上保安庁 海図 W49 使用)

一方、サンゴの生息に適した波浪・流況を把握するためには、平常時の代表地点におけ

る現地観測結果から流速を把握するか、現地観測結果と数値シミュレーションを用いて面

的な流動場や波浪場を推算し、流速を把握する必要がある。これらの結果から平均流や軌

道流速※を把握し、サンゴの生息状況との関係から、サンゴの生息に適した波浪・流況の

分布域を判断する。以下に、軌道流速の計算方法を示す。移植サンゴが高被度な地点の軌

道流速と同程度の軌道流速の地点は、移植サンゴの生残・成長が良好となることが期待で

きる(青田ほか 2004、新保ほか 2013)。

※軌道流速 :波により発生する水中の往復流

シールズ数:ψ=

一般的に、シールズ数(ψ)と底質移動の関係は、以下の傾向が見られる。

ψ<0.1:移動しない、0.1<ψ<0.2:掃流移動、0.2<ψ<0.5:浮遊移動、0.5<ψ:シートフロー

τb:底面せん断力 ρ:海水密度 R:底質の水中比重

g :重力加速度 D:底質の粒径

礁内西側はシールズ数の高い範

囲が広く、シートフローが発生し

やすいことから、砂礫の移動によ

るサンゴの影響を受けやすい。

礁内中央から東側の中央部

は、シールズ数の値が低くこ

とから、砂礫の移動によるサ

ンゴへの影響が少ない。

軌道流速:

H:波高 T:周期 h:水深

k:波数(2π/L) L:波長

RgD

b

)2sinh( LhkT

Hu

L

hT

gL

2tanh

2

2

Page 7: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

沖ノ鳥島の事例では、有義波エネルギー平均の軌道流速の分布状況とサンゴ分布図を重

ね合わせると、軌道流速が 0.3~0.5m/sを呈する範囲にサンゴが高被度で分布し、0.5m/s

以上の礁縁部や、0.3m/s 以下の礁内東側中央部では、サンゴ被度は比較的低くなる傾向が

うかがえる(図Ⅱ.2-58)。

図Ⅱ.2-58 沖ノ鳥島における水深1mの流速分布図の事例

計算条件:軌道流速(有義波エネルギー平均)

(基図に海上保安庁 海図 W49 使用)

④食害動物

移植適地の選定に際しては、サンゴに影響を与えるオニヒトデや魚類等の分布と天然サ

ンゴの食害状況を把握することが必要である。

潜水目視観察により、代表地点の天然サンゴの食害状況を把握し、移植条件の判断材料

とする。

サンゴに影響を与える代表的な食害動物は、表Ⅱ.2-15 に示すとおりであり、オニヒト

デ、シロレイシガイダマシ属、ブダイ類などが挙げられる。

沖ノ鳥島では、オニヒトデやシロレイシガイダマシ属等の魚類以外の食害動物の分布は

確認されなかった。一方、ブダイ等のサンゴをかじる種や、チョウチョウウオ科の分布は

偏り無く広く確認されたため、移植時の食害防止対策を実施することとした。

なお、沖ノ鳥島での移植後のビデオ撮影では、ハクセイハギが移植サンゴをかじってい

る様子が撮影されている。

0.3~0.5m/s 程度の範囲にサンゴ高被

度の場所確認

Page 8: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

表Ⅱ.2-15 代表的なサンゴに影響を与える魚類やその他動物

注)かじる種とは、岩礁の藻類等を食べる行動の中で、サンゴもかじり取ることが知られている種である。

出典:岩尾(2010)、神田(1996)、西平(1995)

(3)サンゴ幼生の供給源として望ましい箇所の検討

サンゴ幼生の供給源として望ましい箇所の検討においては、対象海域にサンゴ幼生が止

まる率が高くなる場所を選定する。

選定は、移植したサンゴがその後産卵し、幼生がどのように流れて分散し対流するか数

値シミュレーションを用い予測する。その方法は、表Ⅱ.2-16 に示す流動モデルにより海

域の流動を再現した上で、オイラー・ラグランジュ法に乱数を用いて拡散効果を考慮した

幼生拡散モデルで幼生の移動を予測する手法を用いる。

予測条件は以下のものが参考にできる。

計算 0日目の幼生(仮想粒子の初期配置)は、サンゴが分布する場所から放出する。

幼生が着底行動を起こす 4~5日目の間の対象海域内に存在する幼生を確認する。

サンゴ影響 サンゴ影響魚類 イソギンポ科チョウウチョウオ科 セダカギンポ サンゴ食イッテンチョウチョウウオ サンゴ食 ブダイ科ウミズキチョウチョウウオ サンゴ食 アミメブダイ かじる種スミツキトノサマダイ サンゴ食 カンムリブダイ かじる種、サンゴ食トノサマダイ サンゴ食 ブダイ類 かじる種ハナグロチョウチョウウオ サンゴ食 モンガラカワハギ科ミカドチョウチョウウオ サンゴ食 ゴマモンガラ かじる種ミスジチョウチョウウオ サンゴ食 クマドリ かじる種、サンゴ食ミナミハタタテダイ サンゴ食 キヘリモンガラ かじる種ヤリカタギ サンゴ食 カワハギ科アケボノチョウチョウウオ サンゴ食 ハクセイハギ かじる種、サンゴ食アミチョウチョウウオ サンゴ食 アミメウマヅラハギ かじる種、サンゴ食ゴマチョウチョウウオ サンゴ食 テングカワハギ サンゴ食スダレチョウチョウウオ サンゴ食 ニザダイ科セグロチョウチョウウオ サンゴ食 ニセカンランハギ かじる種チョウチョウウオ サンゴ食 モンツキハギ かじる種トゲチョウチョウウオ サンゴ食 クログチニザ かじる種フウライチョウチョウウオ サンゴ食 サザナミハギ かじる種ミゾレチョウチョウウオ サンゴ食 フグ科

スズメダイ科 サザナミフグ かじる種、サンゴ食アツクチスズメダイ サンゴ食 ミゾレフグ かじる種、サンゴ食イシガキスズメダイ サンゴ食 コクテンフグ かじる種、サンゴ食ルリメイシガキスズメダイ サンゴ食 ワモンフグ かじる種、サンゴ食

イシダイ科 モヨウフグ かじる種、サンゴ食イシガキダイ かじる種 ゴマフキンチャクフグ かじる種、サンゴ食

ベラ科カンムリベラ かじる種 その他食害動物クロベラ サンゴ食 オニヒトデ サンゴ食大型ベラ類 かじる種 シロレイシガイダマシ属 サンゴ食

ハゼ科 ヒメシロレイシガイダマシ サンゴ食コバンハゼ サンゴ食 トゲレイシガイダマシ サンゴ食

和名和名

チョウチョウウオ科

Page 9: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

表Ⅱ.2-16 サンゴ幼生の流れる方向を試算する方法の例

モデル 概要 必要データ 再現性 考慮する条件

流動

モデル

対象海域の特性に

よりモデルを選定

する。潮汐流、海流、

波浪流、吹送流等を

加味したモデルが

一般的。

地形(日本水路協会

発行の海図やその

他機関の水深図)、

風況(気象庁アメダ

ス、現地観測結果)、

潮位(気象庁、現地

観測結果)

潮流調査に基づく

潮流楕円や JCOPE

データ等との比較

等により確認。

移植対象種の産卵

時期に合わせた流

動 条 件 と す る 。

Acropora tenuis で

あれば、5~6 月頃

の風況条件を考慮

する。

幼生

拡散

モデル

オイラー・ラグラン

ジュ法に乱数を用

いて拡散の効果を

考慮した手法。幼生

が着底行動を起こ

す期間までを経時

的に追跡すること

ができる。

海底基質の分布情

報(日本水路協会発

行の海図や現地調

査結果等)、サンゴ

の被度、サンゴ幼生

の大きさ、密度条件

幼生の移動調査、幼

生加入量調査によ

る。

放卵放精型サンゴ

は、産卵後数日間浮

遊後、プラヌラ幼生

となり着底するた

め、モデルでは、着

底行動を起こす期

間の位置を確認す

る。

プラヌラ幼生を放

出する保育型の場

合は、産卵直後から

位置を確認する。

注)JCOPE :Japan Coastal Predictability Experiment

沖ノ鳥島の事例では、図Ⅱ.2-59 に示すとおり、礁内東側から発生する幼生ほど礁内に

残る可能性が高いと予測されている。吹送流や潮流の影響により、ほとんどの幼生が礁外

へ流出するが、一部の幼生が礁内東側を中心に残留することが窺える。また、このような

計算では、海域で代表される海流や吹送流の異なる複数の条件を考慮して、幼生の残留状

況を確認している(白木ほか 2014)。

計算 0 日目:サンゴの分布上に

仮想粒子(幼生)を配置

計算 4 日目:仮想粒子(幼生)の分布状況

図Ⅱ.2-59 幼生拡散モデルの計算事例(沖ノ鳥島)

Page 10: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

また、図Ⅱ.2-60 は、礁内 5 地点から幼生を放出・拡散させた場合の地点別におけるサ

ンゴ幼生の礁内存在率をピンクの円で示したものである。この結果から、青点線で示す礁

内東側から幼生を放出させるほど、幼生が礁内に留まる可能性が期待できることから、サ

ンゴ幼生の供給源としては東側が適地であることが窺える。

図Ⅱ.2-60 沖ノ鳥島における各地点の産卵 4~5 日目に礁内に存在する幼生の割合

(基図に海上保安庁 海図 W49 使用)

(4)移植適地の選定

作成した「サンゴ分布図」、「サンゴの育成に影響を及ぼす環境要素」、「サンゴ幼生

の供給源として望ましい箇所」を重ね合わせ、移植適地(ゾーン)を絞り込む。重ね合わ

せの要素は、対象海域の特性や移植の目的を踏まえ、環境要素の適否を総合的に勘案しな

がらスクリーニングし、適地を選定する。

図Ⅱ.2-61 の沖ノ鳥島の事例では、第 1 段階のスクリーニングとして、「サンゴ分布」

と「地形・基盤」を重ね合わせた。ここで、サンゴが比較的高被度で、移植に適した基盤

と水深帯が多い地点を絞り込んだ。その結果、礁内中央のサンゴ被度が最も高く基盤も多

く、次いで、東側のサンゴ被度が高く、基盤も散在していた。よって、礁内中央から東側

に絞り込んだ。

第 2 段階のスクリーニングとして、上記で絞り込んだゾーンに、「水温」、「波浪・流

況や砂礫の移動」、「食害動物」等の環境要素を必要に応じて考慮した。なお、「サンゴ

分布」と「サンゴの育成に適した環境要素」を考慮した図面は、サンゴのハビタットマッ

プと言われている。砂礫の移動は、前述のシールズ数から礁嶺部と礁内西側においてサン

ゴへの影響が大きいことが示唆され、サンゴの育成に適した波浪・流況も礁内中央~東側

に比較的広く分布していた。よって、第 2 段階のスクリーニングも礁内の中央~東側とな

った。

第 3 段階のスクリーニングとして、上記で絞り込んだゾーンに、「サンゴ幼生の供給源

として望ましい箇所」の条件を用いて絞り込んだ。これにより、サンゴの育成が可能で、

移植後の再生産も期待できる移植適地が絞り込まれる。サンゴ幼生の供給源としては、礁

内東側から発生する幼生が礁内に留まる可能性が高いため、移植適地としては、礁内中央

から東側と定めた。ただし、礁内中央の一部は、移植しなくても自然にサンゴの生息・再

生産が期待されるゾーンと判断し、サンゴを保護するゾーンとした(図Ⅱ.2-62)。

1日目 2日目 3日目 4日目 5日目

粒子投入

4~5日目のうち、一瞬でも礁内

に存在した粒子をカウント

(二重カウントはしない)

Page 11: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

図Ⅱ.2-61 移植適地の絞り込み概念図

図Ⅱ.2-62 移植適地選定結果(沖ノ鳥島)(片山ほか 2014)

(基図に海上保安庁 海図 W49 使用)

サンゴ幼生の供給源と

して望ましい箇所

サンゴのハビタットマップ

移植適地

第1段階スクリーニング

第2段階スクリーニング

第3段階スクリーニング

◎移植範囲の選定結果

保護ゾーン

Page 12: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

(5)移植場所の選定

移植場所の選定は、移植適地の選定において絞り込んだ海域(範囲)より、実際に移植

可能な移植場所と移植可能な面積を検討する。

移植を行う場所(ノル)の選定では、サンゴ被度分布とノルの有無を考慮しながら移植

場所候補を抽出する。その上で、その移植場所候補に対して、現地調査を実施し、具体的

な情報を取得する。移植場所の選定の考え方は以下に示す通りである。

移植可能なスペースが存在する基盤(ノル)を選定する。(2)①地形・基質で述べた

ように、砂礫移動の影響を受ける海底面直上と低潮時の海面直下(海面から 1m)はサ

ンゴの移植に適さないため、その範囲を除外した部分で移植スペースを確保する必要

がある。また、他の付着生物が多く分布していない場所であれば移植面積を多く確保

できる(図Ⅱ.2-63)。なお、遠隔離島の沖ノ鳥島では海底面から 1m 以下は、砂礫の

移動が大きな箇所として移植をしていない。

天然サンゴの被度が極端に低い場所や、対象種が生息していない場所は避ける。これ

により、移植サンゴの生残も期待できる。

なお、移植可能面積は、以下で概算できる。

移植可能面積 = 移植面の横幅×移植可能高さ×(1-天然サンゴの被度/100)

現地調査では、移植場所において潜水士による潜水目視観察や水中ビデオ画像によるサ

ンゴ自動判読(第Ⅲ編 技術ノート 3 水中ビデオ画像によるサンゴ自動判読手法を参照)により具

体的な情報を得ることが効率的である。観察項目は表Ⅱ.2-17に示すとおりである。

表Ⅱ.2-17 移植場所の選定に関する調査項目

項目 概 要 調査方法

移植基盤の諸元 位置、水深(m)、東西・南北の長さ、

高さ(m)、基盤の形状。

潜水目視観察、水中ビデオ判読(全

項目)、ハビタットマップ(位置、

東西・南北の長さ)

サンゴやその他

生 物 の 種 ・ 被

度・個体数

東西南北の面と天端面のサンゴの被

度、群体数、サイズ、白化の状況。海

藻や食害動物の種、被度、個体数。

潜水目視観察、水中ビデオ判読

沖ノ鳥島の事例では、ノル全体のサンゴ被度が 10~20%で、東西・南北の長さが約 10

~50m、高さが 3~4.5m の 3箇所のノルを移植場所として選定した。

Page 13: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

図Ⅱ.2-63 移植場所選定のイメージ

L.W.L.(=D.L.)±0m

【側面】 移植上端:水深-1.0m

○移植の上端は干潮位

から水深-1mを確

保する。

移植可

能高さ

東西距離

移植下端:砂礫移動の影響が少ない高さ

○移植の下端は、天然サ

ンゴの分布から砂礫の

影響が見られない高さ

を判断する。

【平面】

南北距離

凡例 移植エリア(北面)

移植エリア(南面)

移植面の横幅

移植可能面積=移植面の横幅×移植可能高さ×(1-天然サンゴの被度/100)

天然のサンゴ被度

移植可能面積

Page 14: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

2.4.2 移植

中間育成施設で育てたサンゴから移植に適したサイズまで育成したサンゴを取外し、移

植場所へ運搬し、植え付けを行う。

【解説】

1)中間育成施設からの取外し

中間育成施設からの取り外しは、移植するサンゴの「(1)移植サンゴ選定・目印付け」を

行った上で、「(2)移植サンゴの取外し及び運搬」を行う。

表Ⅱ.2-18 中間育成施設からの取外しに必要な資材・機材リスト

項 目 資 材 ・ 機 材

移植サンゴの選定・目

印付け

水中カメラ、野帳・筆記具、目印リボン

移植サンゴの取外し 手袋、スクレーパー、ハンマー、運搬容器、結束バンド

運搬 コンテナ容器、遮光ネット、散水用バケツ、ブラシ

(1)移植サンゴの選定・目印付け

移植サンゴは群体長径が 5cm以上で白化等をしていない健全なサンゴを選定し、移植目

標のサンゴ群体数の有無を確認した上で、移植サンゴに目印(リボン等)を取り付ける。

移植サンゴの選定・目印付けの作業に際しては、移植サンゴが中間育成施設の何処に何

群体あるか野帳に記録しておく事により、移植サンゴの取り外し作業を効率的に行うこと

ができる。

沖ノ鳥島の事例では、移植サンゴの選定・目印付け作業を、約 250群体/人日の作業効率

で実施している。

また、沖ノ鳥島では、5cm 以上のサンゴを移植することで、1 年後の生残が 70%以上に

維持されている(図Ⅱ.2-65)。

図Ⅱ.2-64 移植サンゴの選定・目印付け作業状況

移植サンゴの選定・目印付け

長径 5cm 以上

移植サンゴの選定・目印付け

複数群体ある場合は、基盤自体にリボンを取り付ける。

リボンを着床具付近に結ぶ。

Page 15: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

図Ⅱ.2-65 移植サンゴの長径と翌年の死亡の関係(沖ノ鳥島の事例)

(2)移植サンゴの取外し及び運搬

中間育成施設から移植サンゴを着床具とともに取外し、運搬を行う(図Ⅱ.2-66)。

試験基盤に固定されているサンゴは、試験基盤からスクレーパー等の工具を用いて着床

具ごと取外し、運搬容器に固定する。着床具ごと取外したサンゴは、運搬時にサンゴ群体

の転倒や破損を防ぐため、緩衝剤を敷いた運搬容器等に固定する。

次に、ボートに海水を満たしたコンテナ容器を準備し、サンゴ群体を固定した運搬容器

をコンテナ容器に浸漬させる。船上に引き上げた容器や基盤は、水温上昇を避ける遮光ネ

ットで覆い、散水しながら可能な限り短時間で運搬し、移植場所に到着後速やかに海底に

仮置きする。

移植サンゴの取外し及び運搬時の留意事項は以下に示すとおりである。

取外しに際しては、体温の伝達によるサンゴへのストレス低減のため、手袋を必ず着

用する。

作業は細心の注意を払って実施するものとし、サンゴ群体の落下や破損を防ぐよう 2

名体制を基本とする。

着床具取外しにおける工具による衝撃は、群体にストレスを与えるので、衝撃や大き

な損傷を与えないよう注意する。

移植サンゴの入った運搬容器をボートに上げてから、移植場所へと移動するまでの時

間を極力短くし、サンゴへのストレスを最低限に抑える必要がある。

19%26%

13% 9%

35%12%

6% 9%

10%

5%

10%6%

35%

57%71% 76%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

n=31 n=122 n=78 n=34

0~2cm 2~5cm 5~8cm 8cm~

移植サンゴの長径と翌年の死亡の関係

死亡 消失 不明 生残

長径

Page 16: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

移植サンゴの取外し

運搬容器への移植サンゴの固定

コンテナ容器への浸漬状況

運搬中の散水

図Ⅱ.2-66 移植サンゴの取外し及び運搬作業状況

沖ノ鳥島の事例では、移植サンゴの取外し及び運搬作業を、約 420群体/人日の作業効率

で実施している。

2)植え付け

サンゴ群体の植え付けは、表Ⅱ.2-19 の事項について現状確認を行った上で、植え付け

作業に移行する。

表Ⅱ.2-19 現状確認を行う項目

確認項目 確 認 内 容

地形、底質等の

物理環境

・台風等高波浪やそれに伴う砂礫移動により大規模な地形変化やサンゴ

の破壊が生じている可能性があるため、選定時の地形、底質性状との変

化の有無

基盤競合種の分

布状況

・サンゴ育成の阻害要因となりうる海藻等の繁茂の有無

・新たに加入した天然サンゴの有無

食害対象種の分

布状況

・サンゴ食性魚類やオニヒトデ等の捕食圧の有無

(食害対象種は表Ⅱ.2-15 を参照)

コンテナ容器に遮光ネット

を掛けて散水しながら移動

Page 17: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

植え付けは、スクレーパー等により藻類等の付着物を除去した後の岩盤露出面に行う。

植え付けを行う水深は、高水温による白化リスクが高まる海面直下や高波浪時の砂礫等

の移動によるサンゴの破壊のリスクが高まる海底面直上を避け、海面下 1m~砂礫移動の

影響を受けない高さより上の範囲に行う。

植え付け間隔は、サンゴ群体が成長後、産卵時の受精率を高めるために、再生産可能と

なる移植 3~4 年後に、同種のサンゴ群体が 1m2当たり 1群体以上生残し、かつ、成長して

も移植サンゴ同士が重なり合わない距離に移植する。沖ノ鳥島で移植した Acropora tenuis

は、長径 30cm 前後まで成長する群体が多いことから、1m2当たり 5 群体前後の密度を目安

とするのが良いものと考えられる。

着床具の固定は、水中エポキシ樹脂接着剤により行う。固定時は出来るだけサンゴの一

部が移植基盤に接触するように固定し、成長して基盤にサンゴが活着しやすいよう留意す

る。また、水中エポキシ樹脂接着剤を出来るだけサンゴに付着させないことに留意する。

固定終了後、モニタリングのための識別番号をつけた名札を取り付ける。

なお、サンゴ群体の長径が 10cmより小さなものは食害の可能性が高いため、食害防止カ

ゴ(沖ノ鳥島では目合い 6cm 使用)を設置する。水中エポキシ樹脂接着剤と針金等で食害

防止カゴをノルに固定する。

以上の作業の終了後、植え付け状況のカメラ撮影、観察記録(作業日時、サンゴ群体の

長径・短径・高さ、活性状況、植え付け位置等)を行う。

遠隔離島は、現地作業期間が限定されるため、各工程の作業時間を適宜確認して、作業

効率を改善するよう努めることが重要である。

植え付け時の留意事項は以下に示すとおりである。

移植後の成長を考慮しオーバーハングした日陰箇所は移植しない。

複数年にわたって移植を行う場合、移植したサンゴが死亡して空いたスペースが多い

場合には、再度移植を行い産卵時の受精効率を高めるよう留意する。

食害防止カゴは、1 群体毎に設置するより、複数の移植サンゴをまとめて覆う食害防

止カゴ(沖ノ鳥島では 30cm×1m程度)を使用することで、作業効率を向上させること

が可能である。

表Ⅱ.2-20 植え付けに必要な資材・機材リスト

項 目 資 材 ・ 機 材

移植場所の

現状確認

GPS、目印ブイ、水中カメラ、野帳・筆記具、過年度データ

植え付け スクレーパー、水中エポキシ樹脂接着剤、針金、食害防止カゴ、仮置き固定

用おもり及びロープ、識別用名札、手袋、水中カメラ、野帳と筆記具、定規

Page 18: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

移植位置 植え付け 植え付けたサンゴ

食害防止カゴ(遠景) 食害防止カゴ(拡大)

図Ⅱ.2-67 植え付け作業状況

沖ノ鳥島の事例では、植え付け作業(藻類除去、接着剤によるサンゴ固定、食害防止カ

ゴ設置)を、約 18群体/人日の作業効率で実施している。

2.4.3 育成管理

移植サンゴのモニタリングを行い、必要に応じて育成管理を行う。

【解説】

1)モニタリング

モニタリングは、移植サンゴの生残、成長状況を把握するとともに、移植サンゴの生残、

成長状況に支障が生じた際の要因分析に必要となる、天然サンゴの増減や水温等の移植箇

所周辺の状況を把握する。

沖ノ鳥島の事例では、1年に 1 回の頻度でモニタリングを実施している。

(1)移植サンゴの生残、成長状況に関するモニタリング

移植サンゴの生残、成長状況に関するモニタリング項目は、表Ⅱ.2-21 に示すとおりで

ある。これらの状況を経年的に確認し、どのような環境条件で、より生残、成長するかを

確認し、以降の移植手法等に反映していくことが重要である。

また、定期的に同一視点より移植サンゴの写真撮影を行うと、生残、成長状況を視覚的

にも把握することができる。その際には、移植サンゴだけでなく、周辺 1m×1m 程度が

入る俯瞰写真を撮影し、周辺の藻類などの阻害要因も含めた確認ができるようにする。

移植を大規模に実施する場合、全移植群体を確認することは多大な労力を必要とするた

め、サンプル調査とする必要がある。移植サンゴの種類や移植位置のバラツキを考慮する

と、1回当り 100群体程度のモニタリングを産卵サイズになるまで行うことが望ましい。

複数の移植サンゴをまとめて覆う食害防止カゴ

上端は海面下.-1.0m 以下

砂礫移動の影響を

受けない高さ以上

移植対象のサンゴが生残している方角に移植

サンゴは基盤に接触させて固定

Page 19: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

モニタリング時の留意事項は以下に示すとおりである。

表Ⅱ.2-21 移植サンゴの生残、成長状況に関するモニタリング項目

項目・内容 方法

① 移植サンゴの識別と位置情報の記録(移植時の記録)

a.識別名 移植時設置の識別札の確認

目視観察

b.移植年月日 移植年月日の記録

c.移植ノル 移植場所(ノル)の記録

d.サンゴ種類 移植サンゴの種類

e.移植水深 水面から移植位置までの深さ(m)

f.海底からの高さ 海底面から移植位置までの高さ(m)

g.ノル中心からの移植方向

ノル中心からの移植方向(東西南北、天端)

② 生存・死亡状態の観察(群体の生残状況の把握)

a.生存 群体全体が生存している

目視観察 b.一部分死亡 群体のうち、生存している部分(被度)が 70%以上

c.大部分死亡 群体のうち、生存している部分が 1~69%

d.全部分死亡 白化して骨格のみ、骨格が消失

③ 群体サイズの計測(成長量の把握)

a.短径、長径、高さ 生きた部分の長さ 現地計測

④ 育成状態の観察(群体の健全度の把握)

a.健全 正常な外観色、粘液なし、触手を伸長

目視観察 b.弱っている 外観色が薄い、粘液あり、群体の一部に藻類の付着あり

c.死亡 *)②生存・死亡状態の死亡と同じ

⑤ 基盤への固着

a.基盤への固着 サンゴの基質への固着の有無の確認 目視観察

⑥ 食害状況の観察(食害防止ネットの効果の確認)

a.魚類 骨格が齧られた、折られた痕跡

目視観察 b.貝類 共肉部が消失した痕跡、周辺に貝類確認

c.ヒトデ類 同上

⑦ 藻類の被覆状況の観察(競合生物からの保護対策の検討)

a.被覆なし 藻類被覆なし

目視観察 b.一部分被覆 着床具の 20%以下被覆

c.大部分被覆 着床具の 21~90%程度被覆

d.全部分被覆 全被覆

⑧ カゴ設置状況の確認

a.食害防止カゴの設置状況

食害防止カゴの設置状況の確認 目視観察

⑨ 水温の確認

a.水温 水温変動(特に夏季の高水温期)確認 機器連続観測

Page 20: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

モニタリングにより得られたデータをもとに、植え付けや育成管理の手法に対し必要に

応じて改善を加えていく。

モニタリングにより得られたデータの解析例を以下に示す。

移植サンゴの種類と生残率・成長量の関係について

移植場所と生残率・成長量の関係について

移植水深と生残率・成長量の関係について

食害状況と対策(食害防止カゴの有無等)の関係について

藻類の被覆状況と生残率・成長量の関係について

水温と生残率・成長量の関係について

(2)周辺海域のモニタリング

周辺海域のモニタリング調査に関しては、「第Ⅱ編 2.3.4 育成管理 1)モニタリング

(2)周辺海域のモニタリング調査」を参照する。

2)移植サンゴの育成管理

サンゴ群体の植え付け後、時間経過に伴いサンゴ群体は徐々に成長していくが、藻類等

の競合生物も繁殖するため、定期的な「藻類等除去」を行う。移植サンゴ周辺 30cm程度の

範囲の藻類等の付着生物や堆積する浮泥をブラシやスクレーパーを用いて除去する。また、

移植サンゴや食害防止カゴの固定状況を確認し、緩みが確認された場合は、水中エポキシ

樹脂接着剤等により再度固定する。

また、サンゴ群体の成長に伴って、食害防止カゴがサンゴの成長を抑制するため、移植

サンゴが食害の影響を受けにくくなる長径 10cm 以上を目安に、食害防止カゴを取り外す。

なお、対象海域によって食害の影響程度が異なるため、食害防止カゴの撤去のタイミング

は、食害の程度により決定する必要がある。沖ノ鳥島の場合、魚類による捕食圧が比較的

大きいため、長径 20cm 程度に成長するまで食害防止カゴを設置している。食害防止カゴを

取外し、半日から 1 日後に食害の有無を確認し、取外しの可否を判断することが望ましい。

なお、沖ノ鳥島の事例では、1 年に 1 回の頻度で育成管理を行った。

表Ⅱ.2-22 移植サンゴの育成管理に必要な資材・機材リスト

項 目 資 材 ・ 機 材

藻類除去 ブラシ、スクレーパー

サンゴ及び食害防止カ

ゴの再固定

水中エポキシ樹脂接着剤、針金

食害防止カゴ取外し ハンマー、スクレーパー、ニッパー等

Page 21: 2.4 移植 · 2020. 6. 24. · 3% HsHtH HnHx&É 79% H H HwH HvH &É 10% H H H H HnHx&É 8% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 50% H H HwH HvH &É 47% FíFþ Ú 3% HsHtH HnHx&É 86% H H

藻類除去作業 カゴの撤去が必要となったサンゴ

図Ⅱ.2-68 移植サンゴの育成管理の状況