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基底細胞癌(BCC)は顔面に好発し,高い局所侵襲 性を有する.その臨床診断においては近年ダーモスコ ピーが導入され,診断精度の向上に寄与している.治 療にあたってはまず再発リスクの評価と,それに基づ く症例のリスク分類が必要となる.BCCの治療の第一 選択は手術療法であるが,放射線療法をはじめとする 非手術的治療についても数多くのエビデンスが示され ている.2007 年には,evidence-based medicine のプロ セスに則った本邦独自の BCC 診療ガイドラインが作 成,公開されている. はじめに 基底細胞癌(basalcellcarcinoma;BCC)は最も罹患 数の多い皮膚癌であり,本邦でも人口の高齢化に伴っ て増加傾向にある .日本癌治療学会ならびに日本皮膚 科学会の要請に基づき,日本皮膚悪性腫瘍学会のメン バ ー が 中 心 と な っ て,evidence-based medicine (EBM)の手法に則った皮膚悪性腫瘍診療ガイドライ ンが2007年に作成された.本稿では教科書的な記述は 最小限とし,公開されたBCC診療ガイドラインに 沿った形で,臨床現場における BCC の取り扱いの考 え方を述べる. BCC の臨床診断 1.臨床像 BCCの臨床像は,その形状からいくつかの病型に分 けられる 1)結節潰瘍型 BCC の大半はこの病型に属し,顔面に好発する.表 面に蝋様光沢を伴う黒色調の丘疹,結節で,拡張血管 が透見される.増大とともに中央が陥凹し,黒色小結 節が辺縁を取り囲むようになり,潰瘍形成と出血を伴 う.悪性黒色腫のように表面全体が真黒色を呈するの とは異なり,黒色部分は島状~分葉状で腫瘍の辺縁に は正常皮膚色を残すことが鑑別点となる(図1). 2)表在型 体幹に好発する.比較的境界明瞭な淡紅色斑で,辺 縁に黒色小丘疹ないし黒点が数珠状に配列する.臨床 的にはボーエン病との鑑別が困難な場合がある. 3)斑状強皮症型 顔面に好発し,モルフェアに類似した萎縮性の瘢痕 状外観を呈する.黒色調を欠くため患者本人のみなら ず医師からも見逃されることがある. 2.ダーモスコピーによる診断 白人の BCC では 90% が無色素性であるのに対し て日本人の BCC は逆に 90% が色素を有するため,鑑 別診断におけるダーモスコピーの利用価値は高い.現 在国際的に統一された BCC のダーモスコピー診断基 準では,大前提として pigment network を欠き,① ar- borizing vessels(拡 張・蛇 行 し た 樹 枝 状 血 管),② large blue-gray ovoid nests ! ③ multiple blue-gray grobules(集簇する黒色~灰青色の大小結節状構造), ④ spoke wheel areas! ⑤ leaf-like areas(辺縁部にみら れる松葉状~大葉状構造),⑥ulceration(潰瘍形成)の 6 項目所見の内いずれか 1 項目を満たせば BCC と診 断される (図 2).この診断基準を用いた色素性 BCC の診断感度は 93%,悪性黒色腫と良性色素性病変を対 照とした診断特異度はそれぞれ 89%,92% と報告さ れている .ダーモスコープはもはや色素性病変の鑑別 診断において全ての皮膚科医が習得すべき必須の診断 器具であるが,診断精度を高めるにはある程度のト レーニングを要する .ダーモスコピーによる診断は基 本的にはパターン認識であるが,個々の所見が生じる 病態生理を組織所見と結び付けて捉えていかないと理 解が深まらず,応用が利かない.本邦では優れたダー モスコピーの教科書が既に出版されているので,ぜひ それらを参照されたい )~BCC の組織診断 1BCC に皮膚生検は必要か? BCC においてはダーモスコピーを用いることに よって 90% に及ぶ診断感度と特異度が得られている 2.基底細胞癌 竹之内辰也(新潟県立がんセンター) 日皮会誌:118(7),1219―1225,2008(平20)

2.基底細胞癌drmtl.org/data/118071219j.pdf1220 皮膚科セミナリウム 第38回 皮膚悪性腫瘍の診療の考え方 図1 基底細胞癌の臨床像 図2 基底細胞癌のダーモスコピー所見

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要 旨

基底細胞癌(BCC)は顔面に好発し,高い局所侵襲性を有する.その臨床診断においては近年ダーモスコピーが導入され,診断精度の向上に寄与している.治療にあたってはまず再発リスクの評価と,それに基づく症例のリスク分類が必要となる.BCC の治療の第一選択は手術療法であるが,放射線療法をはじめとする非手術的治療についても数多くのエビデンスが示されている.2007 年には,evidence-based medicine のプロセスに則った本邦独自の BCC 診療ガイドラインが作成,公開されている.

はじめに

基底細胞癌(basal cell carcinoma;BCC)は最も罹患数の多い皮膚癌であり,本邦でも人口の高齢化に伴って増加傾向にある1).日本癌治療学会ならびに日本皮膚科学会の要請に基づき,日本皮膚悪性腫瘍学会のメンバ ー が 中 心 と な っ て,evidence-based medicine(EBM)の手法に則った皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインが 2007 年に作成された.本稿では教科書的な記述は最小限とし,公開された BCC 診療ガイドラインに沿った形で,臨床現場における BCC の取り扱いの考え方を述べる.

BCCの臨床診断

1.臨床像BCC の臨床像は,その形状からいくつかの病型に分

けられる2).1)結節潰瘍型BCC の大半はこの病型に属し,顔面に好発する.表

面に蝋様光沢を伴う黒色調の丘疹,結節で,拡張血管が透見される.増大とともに中央が陥凹し,黒色小結節が辺縁を取り囲むようになり,潰瘍形成と出血を伴う.悪性黒色腫のように表面全体が真黒色を呈するのとは異なり,黒色部分は島状~分葉状で腫瘍の辺縁には正常皮膚色を残すことが鑑別点となる(図 1).

2)表在型体幹に好発する.比較的境界明瞭な淡紅色斑で,辺

縁に黒色小丘疹ないし黒点が数珠状に配列する.臨床的にはボーエン病との鑑別が困難な場合がある.

3)斑状強皮症型顔面に好発し,モルフェアに類似した萎縮性の瘢痕

状外観を呈する.黒色調を欠くため患者本人のみならず医師からも見逃されることがある.

2.ダーモスコピーによる診断白人の BCC では 90% が無色素性であるのに対し

て日本人の BCC は逆に 90% が色素を有するため,鑑別診断におけるダーモスコピーの利用価値は高い.現在国際的に統一された BCC のダーモスコピー診断基準では,大前提として pigment network を欠き,① ar-borizing vessels(拡張・蛇行した樹枝状血管),②large blue-gray ovoid nests�③ multiple blue-graygrobules(集簇する黒色~灰青色の大小結節状構造),④ spoke wheel areas�⑤ leaf-like areas(辺縁部にみられる松葉状~大葉状構造),⑥ ulceration(潰瘍形成)の6 項目所見の内いずれか 1 項目を満たせば BCC と診断される3)(図 2).この診断基準を用いた色素性 BCCの診断感度は 93%,悪性黒色腫と良性色素性病変を対照とした診断特異度はそれぞれ 89%,92% と報告されている4).ダーモスコープはもはや色素性病変の鑑別診断において全ての皮膚科医が習得すべき必須の診断器具であるが,診断精度を高めるにはある程度のトレーニングを要する5).ダーモスコピーによる診断は基本的にはパターン認識であるが,個々の所見が生じる病態生理を組織所見と結び付けて捉えていかないと理解が深まらず,応用が利かない.本邦では優れたダーモスコピーの教科書が既に出版されているので,ぜひそれらを参照されたい6)~8).

BCCの組織診断

1.BCCに皮膚生検は必要か?BCC においてはダーモスコピーを用いることに

よって 90% に及ぶ診断感度と特異度が得られている

2.基底細胞癌

竹之内辰也(新潟県立がんセンター)

日皮会誌:118(7),1219―1225,2008(平20)

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皮膚科セミナリウム 第 38 回 皮膚悪性腫瘍の診療の考え方1220

図1 基底細胞癌の臨床像 図2 基底細胞癌のダーモスコピー所見Multiple blue-gray globules(↑),arborizing vessels(▲)を認める.

訳であるから,ただ単に確定診断を目的とした皮膚生検は要しない場合が多い.今回のガイドラインにおいても,‘詳細な臨床的評価とダーモスコピーによってもBCC と診断を確定できない場合’に生検を推奨している.しかし,BCC において生検を行う目的は診断確定のみではなく,後述の高リスク症例を定義する上で必要な組織型分類と神経周囲浸潤の評価の意味を含む.臨床的に結節潰瘍型であっても,皮疹の境界が不明瞭であったり潰瘍形成が著しい場合には,生検を行って組織学的な再発リスク因子の評価を行う必要がある.

2.病理組織像BCC の基本的な病理組織像は,基底細胞類似の腫瘍

細胞による胞巣形成とその周囲の腫瘍間質によって構成される.腫瘍胞巣の辺縁の柵状配列,胞巣と間質との裂隙形成などを特徴とするが,後述の aggressivegroup の組織型ではこれらの所見は乏しいことが多い.組織学的に鑑別を要する腫瘍としては毛芽腫が最も重要であり,両者はいずれも follicular germinativecell に由来する腫瘍と考えられている.鑑別点としては裂隙形成の位置が最も重要とされる9).

3.組織型分類BCC の組織型分類に関しては多くの報告者により

様々な分類法が提唱されており,統一が成されていない.臨床に反映する上においては予後との関連がエビデンスとして示されていなければ分類の意義が乏しく,その点では Sexton らの提唱した増殖パターンに

基づいた分類法10)が優れている(図 3).Nodular typeは境界明瞭な腫瘍巣で辺縁の柵状配列や裂隙形成が比較的良く認められるもの,superficial type は表皮から直接連続する浅在性の腫瘍巣を多中心性に認めるもので,この 2 者を non-aggressive group とする.Infiltra-tive type は胞巣の辺縁形態が不規則で鋸歯状や棘状を呈し,morpheic type は不規則な柵状の胞巣が主体で間質の強い線維化を伴うもの,micronodular typeは径 0.15mm 未満ないし毛球と同程度までの大きさの胞巣が主体を成すものとし,この 3 者は subclinical ex-tension が大きく再発リスクが高いことより,aggres-sive group として取り扱う.実際にはこれらの混合型が多いが,その場合は腫瘍辺縁部での増殖形態を重視して取り扱いを決める.

BCCの治療

1.再発リスクの評価治療に入る前に,個々の症例についての再発リスク

を評価する必要がある.今回のガイドラインでは,エビデンスに基づいた BCC の再発リスク因子として発生部位,腫瘍径,再発歴,組織型,神経周囲浸潤の 5項目を挙げ,それらの組み合わせによって高リスク症例を表のように定義した.リスク分類によって治療アルゴリズムの選択肢が分かれ,切除マージンの設定や再建法の選択にも影響する.

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2.基底細胞癌 1221

表 基底細胞癌の高リスク症例

高リスク部位(頬・前額以外の顔,外陰,手,足)で6mm以上部位/腫瘍径 中リスク部位(頬,前額,頭,頚部)で10mm以上

低リスク部位(体幹,四肢)で20mm以上

あり再発歴

Infiltrative,Morpheic,Micronodular組織型

あり神経周囲浸潤

図3 基底細胞癌の組織型分類文献10より引用.

2.手術療法1)切除範囲設定の考え方手術療法は,腫瘍の臨床的辺縁からある程度の切除

マージンをとって en bloc に切除する外科的切除とMohs 手術とに分けられ,本邦では前者が主流となっている.後者は腫瘍を平面状に切り出していって断端確認をしながら追加切除を繰り返すという手法であり,欧米では皮膚癌の手術療法として確立しているが,手術時間の延長,専任の技師が必要などの問題があるため皮膚癌罹患数の少ない本邦では普及していない.外科的切除における切除マージンというのは図 4 に示す如く,臨床的腫瘍辺縁と組織学的腫瘍辺縁の差であ

る subclinical extension を全て含むための,あくまで見込みとしての皮膚切開線の設定なので,その数字を厳密に規定する意味はない.若干広めに切除しても再建後の機能面,整容面にさほど支障がないのであれば余裕を持って切除マージンを設定すればよいし,少しでも欠損を小さくしたいということであれば,術中迅速病理診断を併用するか二期的手術にして断端確認を行った上で再建をすればよい.実際には,切除マージンは前述のリスク分類で低リスク症例であれば 3~4mm,高リスク症例は subclinical extension が大きいので最低 5mm 以上を目安とし,後者の場合は断端確認を行ってから再建することが望ましい.なお,臨床的腫瘍辺縁の評価に際しては十分に触診を行い,黒色調

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皮膚科セミナリウム 第 38 回 皮膚悪性腫瘍の診療の考え方1222

図4 基底細胞癌における切除マージン

を呈する部分の周囲に硬結・浸潤を触れればその外側縁を臨床的辺縁と捉えて,そこを起点に切除マージンを設定する.

深部方向の切除範囲設定に関しては基準とすべき腫瘍境界が分からないため,水平方向の切除マージンと同じような考え方はできない.超音波検査による深部境界の評価もある程度は有用である.実際には,低リスク症例であれば脂肪織を十分含める深さでの切除によって多くの例で治癒切除が得られるが,高リスク症例においては脂肪織全層,またはさらに深部の組織をも含めた切除を要する場合がある11)12).

2)再建法の選択についての考え方BCC の切除後はサイズが小さければ単純縫縮が可

能であるが,多くは植皮か皮弁による再建を要する.BCC は 8 割以上が顔面に発生することより整容性は決して無視できず,その意味では局所皮弁の適応が高い(図 5).しかし,その場合には厚みのある組織で被覆するために術後の局所所見が把握しにくいという欠点はある.高リスク症例,とくに morpheic type のように深部再発リスクの高い場合は植皮による再建が望ましい.

3)切除断端が陽性であった場合の対応術中迅速病理検査の併用もしくは断端確認後の再建

を前提とした二期的手術の場合には,切除断端が陽性であれば追加切除をするのは当然であるが,一期的に切除再建を行った結果として断端に腫瘍が残存した場合の取り扱いが問題となる.不完全切除例の再発率は30~40% と報告されており13)14),側方断端に比べ深部

断端陽性例において再発率が高いとされる.全例が再発する訳でないとはいえ,一度再発した BCC の治療の困難さを考えると,やはり不完全切除 BCC に対しては断端陰性になるように再切除を行うことが望ましい.しかし,再手術が困難な患者に対しては,放射線治療も選択肢となる.

3.手術以外の治療法BCC の治療の第一選択は手術療法であることは疑

いの余地はない.本邦でもほぼ 100% 近く手術療法のみが行われているのが現状であるが,欧米では手術以外の治療法についても評価に耐え得るだけのエビデンスが数多く蓄積されている15)16).今回のガイドラインで取り上げたおもな治療法について解説する.

1)放射線療法BCC に対しては電子線を用いた放射線療法が中心

であり,適応としては腫瘍径が大きいために根治切除が困難な症例や切除による整容的・機能的障害が大きい症例,さらには手術が困難な高齢者が対象となる.手術療法に比し再発率が高いとする臨床試験報告もあるが17),その他の治療法との比較では同等かそれ以上の治療成績が得られている18)19).放射線療法は,BCCに対する治療法の一つとして有力な選択肢となり得る

(図 6).2)局所化学療法BCC に対する局所化学療法としては,5-FU の外用

療法が古くから行われている.表在型 BCC に対しては高い奏効率が得られる一方,結節型においては効果が乏しい20).適応症例を選別し,刺激反応等の副作用も考慮して選択すべき治療法である.

3)凍結療法安価で簡便な治療法であり,2 回以上の凍結融解サ

イクルによるスプレー法が推奨されている.低リスク症例に対して凍結療法は比較的高い奏効率を示すが,再発率は高く,手術不能例において選択を検討すべき治療法である21).

4)搔爬・電気凝固術(curettage & electrodessica-

tion)本邦では馴染みが少ないが,欧米では古くから行わ

れており大規模な症例データベースも蓄積されている.低リスク症例に限定すれば高い奏効率が得られる22).

5)光線力学的療法(photodynamic therapy;PDT)皮膚腫瘍に対する PDT は,光線感受性物質として

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2.基底細胞癌 1223

図5 基底細胞癌に対する手術療法例a.切除線と両側前進皮弁をデザイン.b.1年後.

a b

図6 基底細胞癌に対する放射線療法例a.放射線療法を計画.b.電子線48Gy照射3カ月後.その後も再発を認めず.

a b

5-aminolevulinic acid(ALA),もしくはそれをメチルエステル化した methyl aminolevulinate(MAL)の外用投与が主に用いられ,後者の方が腫瘍選択性と浸透性に優れるとされる.2007 年に発表された欧米のコンセンサスによる PDT ガイドライン23)では,表在型BCC に対する完全奏効率は 90~100% とされ,結節型に対しては MAL-PDT に限って高いグレードの推奨が出されている.

6)イミキモド(imiquimod)外用イミキモドは免疫調節作用を有する外用剤であり,

米国食品医薬品局(FDA)から尖圭コンジローマ,日

光角化症,表在型 BCC の 3 疾患を対象に認可されている24). BCC に対する臨床試験は多数行われており,表在型 BCC では高い奏効率が得られるものの,結節型では効果が劣る16).本邦では尖圭コンジローマを適応症として 2007 年末に発売され,日光角化症に対する国内臨床試験の計画も進行中である.

BCC診療ガイドライン

今回策定された BCC 診療ガイドラインは,予防,診断,治療,経過観察のカテゴリーから成る 19 項目のクリニカルクエスチョンとその解説によって構成されて

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図7 基底細胞癌の診療アルゴリズム

いる.その手引きとなる診療アルゴリズムを図 7 に示す.ガイドラインは,‘特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるように支援する目的で体系的に作成された文書’であり,決して臨床医の裁量範囲を奪うものではない.また,ガイドラインはユーザーである医師,患者によって育てられてゆくものでもあり,

そのためには現場からのフィードバックが今後は必要となる.謝辞:BCC 診療ガイドラインの作成にあたって共同作

業を行った神谷秀喜(岐阜大学),師井洋一(九州大学)両先生に謝意を表する.

文 献

1)石原和之:皮膚科悪性腫瘍の治療の進歩.発生頻度増加の要因,癌と化学療法,33 : 1380―1385, 2006.

2)小野友道,萱島研一,若杉正司:基底細胞癌,玉置邦彦編:最新皮膚科学大系,12,中山書店,東京,2002,82―98.

3)Argenziano G, Soyer HP, Chimenti S, et al: Der-moscopy of pigmented skin lesions: Results of aconsensus meeting via the Internet, J Am AcadDermatol, 48: 679―693, 2003.

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7)大原國章:基底細胞癌,大原國章,田中 勝編:ダーモスコピー・ハンドブック,秀潤社,東京,2005,134―142.

8)斎田俊明:ダーモスコピーの診かた・考え方,医学書院,東京,2007.

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2.基底細胞癌 1225

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