19
文部科学白書 2009 47 10,000 10,500 11,000 11,500 12,000 12,500(億円) 22年度 21年度 20年度 19年度 18年度 17年度 16年度 図表1-2-41 国立大学法人運営費交付金 (出典)文部科学省調べ ▲98億円(▲0.8%) ▲98億円(▲0.8%) ▲103億円(▲0.8%) ▲103億円(▲0.8%) ▲171億円(▲1.4%) ▲171億円(▲1.4%) ▲230億円(▲1.9%) ▲230億円(▲1.9%) ▲118億円(▲1.0%) ▲118億円(▲1.0%) ▲110億円(▲0.9%) ▲110億円(▲0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円 1兆1,695億円 1兆1,585億円 3 大学 (1) 大学の基盤的経費の充実 大学が,学術の多様性を維持するとともに,優れた人材を社会に輩出し続けることを可能にするた めには,その活動を支える基盤となる経費が十分に確保されることが必要です。一方で,近年,大学 の活動を支える基盤的経費は減少傾向にあります。 平成 16 年度に国立大学が法人化されてから,基盤的財源として政府から交付される国立大学法人 運営費交付金は年々減少し, 16 年度から 22 年度までの7年間で約 830 億円が減額となっています。(表 1-2-41)。しかし,他の研究費補助金や外部資金,寄付金の増加等により大学全体の教育・研究経 費を含めた大学全体の事業費は一貫して増加していますが(図表 1-2-42),各大学における安定的・ 継続的な教育研究活動の実施を今後も続けていくためにも,国立大学の日常的な教育研究活動に最低 限必要な経費である運営費交付金の充実は必要不可欠です。 また,国立大学法人等施設整備費は,近年,当初予算が減少傾向にある中,補正予算により緊急を 要する整備に対応してきた結果「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成 18 ~ 22 年度)の 整備目標の86%を達成する見込みです(図表 1-2-43 図表 1-2-44)。一方,今後,施設全体の約3 割を占めている未改修の老朽施設をはじめ,大学等が抱える整備需要に対応した整備を重点的・計画 的にすすめていくことが必要です。 (注)競争的資金及び外部資金獲得による収益:補助金等収益,受託研究等収益等,寄附金収益,研究関連収益及び その他自己収入の合計額 (出典)文部科学省調べ 図表1-2-42 国立大学法人等における教育研究診療活動規模(経常収益)の状況 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 (単位:億円) 平成20年度 平成19年度 平成18年度 平成17年度 平成16年度 11,318 11,395 11,425 11,451 11,654 3,393 3,093 2,606 2,252 1,936 3,495 3,554 3,604 3,643 3,560 7,470 7,098 6,662 6,514 6,245 1,173 1,190 1,178 1,103 1,059 26,849 26,330 25,475 24,963 24,454 運営費交付金 競争的資金及び外部資金等 学生納付金 附属病院 その他

3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

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Page 1: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 47

10,000 10,500 11,000 11,500 12,000 12,500(億円)

22年度

21年度

20年度

19年度

18年度

17年度

16年度

図表1-2-41 国立大学法人運営費交付金

(出典)文部科学省調べ

▲98億円(▲0.8%)▲98億円(▲0.8%)

▲103億円(▲0.8%)▲103億円(▲0.8%)

▲171億円(▲1.4%)▲171億円(▲1.4%)

▲230億円(▲1.9%)▲230億円(▲1.9%)

▲118億円(▲1.0%)▲118億円(▲1.0%)

▲110億円(▲0.9%)▲110億円(▲0.9%)

1兆2,415億円

1兆2,317億円

1兆2,214億円

1兆2,043億円

1兆1,813億円

1兆1,695億円

1兆1,585億円

3 大学(1) 大学の基盤的経費の充実 大学が,学術の多様性を維持するとともに,優れた人材を社会に輩出し続けることを可能にするためには,その活動を支える基盤となる経費が十分に確保されることが必要です。一方で,近年,大学の活動を支える基盤的経費は減少傾向にあります。 平成 16 年度に国立大学が法人化されてから,基盤的財源として政府から交付される国立大学法人運営費交付金は年々減少し,16年度から22年度までの7年間で約830 億円が減額となっています。(図表1-2-41)。しかし,他の研究費補助金や外部資金,寄付金の増加等により大学全体の教育・研究経費を含めた大学全体の事業費は一貫して増加していますが(図表 1-2-42),各大学における安定的・継続的な教育研究活動の実施を今後も続けていくためにも,国立大学の日常的な教育研究活動に最低限必要な経費である運営費交付金の充実は必要不可欠です。 また,国立大学法人等施設整備費は,近年,当初予算が減少傾向にある中,補正予算により緊急を要する整備に対応してきた結果「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成 18 ~ 22 年度)の整備目標の 86%を達成する見込みです(図表 1-2-43~図表 1-2-44)。一方,今後,施設全体の約3割を占めている未改修の老朽施設をはじめ,大学等が抱える整備需要に対応した整備を重点的・計画的にすすめていくことが必要です。

(注)競争的資金及び外部資金獲得による収益:補助金等収益,受託研究等収益等,寄附金収益,研究関連収益及び                      その他自己収入の合計額

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-42 国立大学法人等における教育研究診療活動規模(経常収益)の状況

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000

(単位:億円)

平成20年度

平成19年度

平成18年度

平成17年度

平成16年度

11,318

11,395

11,425

11,451

11,654

3,393

3,093

2,606

2,252

1,936

3,495

3,554

3,604

3,643

3,560

7,470

7,098

6,662

6,514

6,245

1,173

1,190

1,178

1,103

1,059

26,849

26,330

25,475

24,963

24,454

運営費交付金 競争的資金及び外部資金等 学生納付金 附属病院 その他

Page 2: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

48 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

 さらに,私立大学への補助金も減少傾向にあります。政府が交付する私立大学等経常費補助は,平成 19 年度から 21 年度までの3年間で約 95 億円が削減されました。私立大学に対する国の補助については,国会において,できるだけ速やかに二分の一とするよう努めることとされていますが,経常的経費の増加に伴って昭和 55 年度の補助率約 30%をピークに減少傾向にあり,現在は約 11%にとどまっています(図表1-2-45)。

図表1-2-43 国立大学法人等施設整備費予算額の推移

(出典)文部科学省調べ

8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22予算(年度)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000億円

1,082

453

397

1,932億円

848

453

1,301億円

749

468

3,616

4,833億円

414

468

1,407

2,289億円

330

496

1,676

2,502億円

545

468

3,957

4,970億円

996

468

1,163

2,627億円

1,027

377

1,404億円

623

451

3591,433億円

465

436

666

1,567億円

471

425

1,208

2,104億円

466

440

889

1,795億円

468

453

897

1,818億円

457

377

565

1,399億円

519

388

907億円当初予算額(財政融資資金)当初予算額(施設整備費補助金等)

補正予算額等

図表1-2-44 第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

※[ ]内の数字は整備目標,( )内の数字は目標に対する整備実績の割合を示す

(出典)文部科学省調べ:平成22年度予算反映後

463 77

62

13

0 100 200 300 400 500 600

老朽再生整備

大学附属病院の再生

狭隘解消整備

合計

(万㎡)

整備目標400

[80]

[60]

[540]

334(83%)

(86%)

66

67(84%)

(104%)

整備実績 整備目標と整備実績の差

Page 3: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 49

(出典)文部科学省調べ

図表1-2-45 私立大学等における経常的経費と経常費補助金額の推移

45 464748 49 50 515253 54 55 56 5758 59 60 616263 元 2 3 4 5 6 7 8 9 1011 12 13 141516 17 18 192021 22(年度)

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

0

35,000(億円)

50

45

40

35

30

25

20

15

10

5

0

(%)

29.5

10.9

7.2

補助割合

補助金

経常的経費

 このようななか,我が国の高等教育機関への公財政支出は対 GDP比では 0.5%にとどまり,OECD諸国のうち最下位という現状です(図表 1-2-46)。今後の知的基盤社会において,大学の役割はますます重要になっていきます。大学の質を向上させる取組を行うとともに,必要な基盤的経費を充実することが重要な課題となっています。

図表1-2-46 高等教育機関に対する公財政支出の対GDP比のOECD各国比較

(出典)OECD「Education at a Glance(2009)」より作成

0.5

OECD各国平均1.0% 

2006年

0.0

0.5

1.0

1.5%

アイルランド

チェコ

フィンランド

韓国

カナダ

ドイツ

スウェーデン

ベルギー

フランス

スイス

ポーランド

デンマーク

スロバキア

メキシコ

スペイン

ポルトガル

オランダ

ハンガリー

オーストリア

ノルウェー

日本

イタリア

アイスランド

ニュージーランド

アメリカ合衆国

英国

オーストラリア

トルコ

Page 4: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

50 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

(2) 高等教育の機会確保 意欲と能力のある人が誰でも高等教育を受けられるようにすることは,公正で活力ある社会の形成に必要不可欠であり,このため次のような課題の解決など,更なる施策の展開が必要となっています。

①今後の量的規模の方向性 近年,我が国の 18 歳人口が減少傾向にある一方,4年制大学の数は増加しています(図表1-2-47)。この影響もあって大学や短大への進学率は年々上昇し,平成 17 年には 50%を超えました(図表 1-2-48)。しかし,アジア・オセアニア諸国で見ても,例えばオーストラリア(88%)や韓国(61%),タイ(55%)などは,我が国より大学進学率は高い状況であり,国際的にみれば我が国の大学進学率は決して高くはありません(図表1-2-49)。

図表1-2-47 18歳人口,大学・短大の数の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」    国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より作成

250

1,200

1,000

800

600

400

200

0S40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63H元2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 2053

200

150

100

50

0

万人

短大・私立

18歳人口(万人)

大学・私立

短大・公立

大学・公立

短大・国立

大学・国立

図表1-2-48 大学・短大への進学率の推移

(出典)文部科学省「学校基本調査」    国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」より作成

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100(%)

35 37 39 41 43 45 47 49 51 53 55 57 59 61 63 2 4 6 8 10 12 14 16 18 2021

進学率 = 当該年度の大学・短大の入学者数

(18歳人口のうち,当該年度に大学・短大への入学者数の割合として算出)

18歳人口進学率(大学+短大)

大学:50.2%短大: 6.0%

(年度)

H21年 56.2%

大学:44.2%短大: 7.3%

H17年 51.5%

Page 5: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 51

図表1-2-49 大学進学率の国際比較

平均:51%

0

100

80

60

40

20

88

73

6155

4745

34

26

1714

80767067

525151464140

28

747371716660

575655

484644403431

14

62

55

4540

32

アジア・オセアニア・中東 中央・東ヨーロッパ 西ヨーロッパ アメリカ

オーストラリア

ニュージーランド

韓国タイ日本

ヨルダン

チュニジア

マレーシア

インドネシア

中国ルーマニア

ポーランド

スロバキア

ロシアハンガリー

チェコリトアニア

スロベニア

マケドニア

クロアチア

ブルガリア

エストニア

トルコポルトガル

アイスランド

フィンランド

スウェーデン

ノルウェー

オランダ

デンマーク

イスラエル

英国イタリア

ギリシャ

スペイン

アイルランド

オーストリア

スイスドイツ

ベルギー

キプロス

アメリカ

アルゼンチン

ウルグアイ

チリメキシコ

78

38

59

49

(出典)UNESCO Institute for Statistics “Global Education Digest 2009 Comparing Education Statistics Across the World”     Table 7を基に作成(ISCED 5Aの値)    上記のほか,シンガポール23.8%(ポリテクを加えると65.0%),台湾87.7%となっている(いずれも各国政府の公表    数値)。

図表1-2-50 大学型高等教育機関への25歳以上(社会人)の入学者の割合

(出典)OECD教育データベース(2007年)。ただし,日本の数値については,「学校基本調査」及び文部科学省調べによる社会人入学生数

アイスランド

ニュージーランド

ポルトガル

スウェーデン

ノルウェー

デンマーク

スイス

オーストラリア

スロバキア

アメリカ

フィンランド

ハンガリー

ギリシア

英国

チェコ

スペイン

ドイツ

オーストリア

トルコ

メキシコ

オランダ

ポーランド

イタリア

アイルランド

韓国

日本

0%

10%

20%

30%

40%

37.3%

34.2%33.6%31.4%

27.8%27.2%26.5% 25.7%25.0%23.5%23.3%23.2%22.4%

20.2%19.8%17.9%

14.4%14.2%14.0%13.5%12.8%12.6%12.2%10.1%10.0%

1.8%

OECD平均:21.3%

 我が国の大学進学率が国際的に見て高くはない状況の原因として考えられることの一つに,社会人の入学者が少ないことが挙げられます。入学者に占める 25 歳以上の割合を見てみると,OECD諸国平均が 21.3%であるのに比べ,我が国は 1.8%に留まっています(図表1-2-50)。 一方,我が国における大学新入学生の 80%は 19 歳未満となっています。これはOECD加盟国の中で最も低年齢であり,18 歳人口からの高等教育への進学者が入学者の多数を占めているといえます。 さらに,我が国の大学進学率を全国平均ではなく都道府県毎にみてみると(図表 1-2-51)。大学進学率は大都市部においては,東京都が 70%を超えるなど極めて高い一方,30%台の県が多い状況です。

Page 6: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

52 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

図表1-2-51 大学進学率(都道府県別)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

沖縄県

鹿児島県

宮崎県

大分県

熊本県

長崎県

佐賀県

福岡県

高知県

愛媛県

香川県

徳島県

山口県

広島県

岡山県

島根県

鳥取県

和歌山県

奈良県

兵庫県

大阪府

京都府

滋賀県

三重県

愛知県

静岡県

岐阜県

長野県

山梨県

福井県

石川県

富山県

新潟県

神奈川県

東京都

千葉県

埼玉県

群馬県

栃木県

茨城県

福島県

山形県

秋田県

宮城県

岩手県

青森県

北海道

4年制大学への進学率(都道府県別,平成 20年度)(%)

平均:49.1%

71.0%

32.2%

(出典)学校基本調査 ※図表1-2-49とは調査年,算出方法が異なるため数値は一致しない

図表1-2-52 大学の分布状況

(出典)学校基本調査

 知識基盤社会の到来にあっては,大学教育により教養を備えた専門的な人材を多数育成し,社会全体の人的資本を高めることで,イノベーションの創出,産業の生産性の向上を図ることが必要です。しかし,地域によっては大学進学率が各国の平均を大きく下回っており,また,社会人の受入れは極めて少ない状況です。若者だけではなく,社会人も含めた国民全体が大学で学べる機会を全国的に充実するとともに,社会の要請に応える教育の質の維持・向上のための環境整備が求められます。

②地域における大学の役割 我が国の大学の多くが大都市に集中していますが(図表1-2-52),一方で,地方(三大都市圏以外)の大学に,学生全体の約3割が在籍しています(図表1-2-53)。

Page 7: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 53

図表1-2-54 地方国立大学の地域経済への効果

(出典)「地方大学が地域に及ぼす経済効果分析」(平成19年3月 財団法人日本経済研究所)注1:各大学における「教育・研究活動による効果」(教科書,研究資材等の購入費など),「教職員・学生の消費による効果」,「その他の活動による効果」(外部からの来訪者の消費など)および「施設整備にかかる効果」

より経済波及効果を計算注2:上図は中国地方中規模大学(学生数:約1万1千人,役員・教職員数:約4千人)の例

県経済全体への効果:667億円

地方国立大学

農林水産業稲作など食料品

食品加工業,酒造業など

不動産住宅賃貸,不動産仲介業など

化学製品医薬品メーカーなど

対個人サービス

飲食店,ホテル,映画館や劇場,クリーニング店,理美容室など

運輸バス,タクシー,トラック運送,鉄道など

建設建築,建物補修など

商業卸売,小売店やスーパー等の小売業 90億円

52億円

30億円

44億円67億円

115億円

28億円

University

40億円

これらの主な産業以外に,「通信・放送」,建物維持管理サービスなどの「対事業所サービス」,「金融・保険」,「精密機械」,コンピュータなどの「電子機械」の産業等で201億円の生産誘発効果がある。

 このように,地方の大学は,都市部への大学進学が困難な学生にとって貴重な進学機会を提供しています。また,地域への人材供給や社会人の学び直しなど生涯学習の場としての機能とともに,知識が社会・経済の発展を駆動する基本的な要素となりつつあるなか,大学は各地域の知的インフラとして,その教育研究活動の成果を活用し,産業を創出する基盤ともなっています。 諸外国においては,カリフォルニア大学サンディエゴ校による先端的な研究が大きな役割を果たした米国サンディエゴのバイオテクノロジー産業の発展や,産学連携の重要性を認識したケンブリッジ大学の取組によりハイテク企業の集積が加速した英国ケンブリッジ地域,有機デバイス産業の発展等を目指してドレスデン大学(ドイツ)やフィリップス(オランダ)など 10 社・7大学・7研究機関が連携した「OLLAプロジェクト」,といった事例がみられますが,我が国においても次に述べるような取組が見られ,成長の原動力としての役割がますます増しています。さらに,地方国立大学は,人々の経済活動の場として,その所在する地域に大きな経済効果をもたらすとの調査結果もあり(図表1-2-54),地域の活性化に貢献しています。 このような機能が発揮される上でも,各大学がそれぞれの教育機能を効果的に発揮するため大学間の戦略的な連携等を進めつつ,それぞれの地域の「知的プラットフォーム」としての役割を果たしていく必要があります。

三大都市圏

国立 公立 私立 全体

37%169,131人

45%51,702人

78%1,520,326人

69%1,741,159人

63%285,522人

55%62,426人

22%431,486人

31%779,434人

その他の地域

図表1-2-53 学部学生の地域別の状況

(出典)学校基本調査(平成20年度)

※三大都市圏は,東京圏(埼玉県,千葉県,神奈川県,東京都),中京圏(岐阜県,愛知県,三重県),近畿圏(滋賀県,京都府,大阪府,兵庫県,奈良県,和歌山県)を指す。

Page 8: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

54 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

【地域の産業創出に資する大学の取組の例】○京都市と(財)大学コンソーシアム京都の連携(「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」) 京都市は,現在 37 の大学・短期大学が集積するとともに,京都市の人口 147 万人の約1割に当たる約 14 万人の学生が在籍するなど「大学のまち」として知られており,「(財)大学コンソーシアム京都」(平成 10 年に,京都地域の 45 の国公私立大学と4つの経済団体及び京都市により設立した,我が国初めての産学公連携による大学コンソーシアム組織)の設立や,「大学のまち京都・学生のまち京都」のシンボル施設である「京都市大学のまち交流センター(キャンパスプラザ京都)」の設置など,先駆的な取り組みが進められてきました。 平成 21 年度には,京都市が,平成 4年度から策定・推進してきた大学政策に関する総合的ビジョンを改訂し,(財)大学コンソーシアム京都との協働により,「大学のまち京都・学生のまち京都推進計画」が策定されました。 計画においては,①大学の集積による学術研究,芸術文化,新産業創出などによる都市格の向上や,②産学公連携による産業科学技術の振興の促進や先端産業の育成,伝統産業と先端技能・技法との融合など多様な個性ある大学からなる京都ならでは産業の振興の実現,といった大学の活動の意義を踏まえて,今後推進する施策が掲げられています。(産学公連携による経済活性化の施策例) ・ 大学等の研究機関を核に地域内外の企業等も参画して,「京都環境ナノクラスター」の形成による環境分野の技術革新を創出し,京都経済の活性化を推進

 ・ 伝統産業と先端産業の技術を結集し,技法,技能の共有と融合を図り,新たな「京都ブランド」の創出と技術者の養成を行う「知恵産業融合センター」の創設など,京都ならではのものづくり産業を振興

 ・ 芸術系大学が集積する京都の特性を活かし,伝統産業界との連携により,地場産業・伝統産業などの技術の後継者養成を実施

○県が進める「世界最先端のシステム LSI* 23 開発拠点形成」への貢献(九州大学,九州工業大学等) 福岡県では,世界の半導体の5割以上が生産・消費されるアジア地域における「世界最先端のシステム LSI 開発拠点の形成」を目指した「シリコンシーベルト福岡構想」を推進しており,この地域にある九州大学,九州工業大学をはじめとした福岡県の大学群は,その実現に大きな貢献を果たしてきています。 具体的には,当該地域の大学群により,近年エレクトロニクス化が進む自動車や今後成長が見込まれるロボット等に用いられるシステム LSI の開発が精力的に進められ,商品化や産業化が見込まれる優れた研究成果が数々創出されるとともに,福岡県産業・科学技術振興財団との連携により,地域企業との共同研究・開発による新商品やベンチャー企業も創出しています。 また,福岡県が企業技術者の育成を目的に開校した「福岡システム LSI カレッジ」の立ち上げから運営に際しては,九州大学システム LSI 研究センターや九州工業大学を中心とした教員が多数参加するとともに,寄附講座を設置するなどして,当該地域のシステム LSI 関連人材の育成に大きく貢献しています。 さらに,アジアをはじめとした研究機関等との国際共同研究開発の実施等,地域間の連携強化を図り,海外から招聘した数多くの研究者との地域内での国際共同研究や,最先端の情報交換等の実施を通じて,世界的な拠点形成を目指した取組を進めています。 これらの取組等により,システム LSI 開発拠点としての国際的な認知度が向上するとともに,そ

* 23 システム LSI 特定のシステムをひとつのチップに組み込んだ高機能 LSI(大規模集積回路)

Page 9: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 55

れに伴う研究人材の集積も進み,福岡県では,システム LSI 関連企業の集積が毎年増大してきています。

○ 北海道地域の農業に関する高度専門職業人の養成(酪農学園大学,北海道大学,帯広畜産大学) 食の安心・安全への社会の要請が高まる中,北海道農業を基盤として個々に研究を進めてきた3大学が連携し,食の安心・安全に関する学問領域を統合するとともに,農村地域での実践を踏まえたフィールドワークを加え,高度専門職業人の養成と営農改善に関する指導や,地場食品の開発等による地域農業振興を推進しています。

③大学院 我が国の大学院在学者数は,この 20 年で約3倍に増えていますが,それでも韓国の三分の一,アメリカ,英国,フランスの四分の一以下に留まるなど,国際的にはまだ少ない状況です(図表1-2-55~図表1-2-56)。

フィールドワークの様子

 これを,修士課程,博士課程それぞれについて,主要国における人口 100 万人当たりの学位取得者で見ても,少ないことがわかります(図表 1-2-57~図表 1-2-58)。まず修士課程については,修士号取得者が主要国に比べて半数以下という状況ですが,その内訳を見ると,理工農系の場合,他国と遜色ない水準である一方,人社系の場合,非常に少ないことが読み取れます。我が国は世界的に見て必ずしも「高学歴社会」とは呼べない状況になっていますが,修士課程は高度専門職業人の養成や,知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成などの重要な役割を担っており,多様な社会のニーズに対応した教育課程の編成を更に進めていく必要があります。

図表1-2-55 大学院在学者数の推移

(出典)学校基本調査

図表1-2-56 人口1,000人当たりの大学院学生数

(出典)文部科学省調べ 日本は2005年,アメリカは2005年,英国は2006年, フランスは2005年,韓国は2006年の統計より

学部

大学院

米国

29人

9人

英国

30人

9人

仏国

14人

9人

韓国

40人

6人

日本

20人

2人

Page 10: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

56 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

人文科学 社会科学 理学 工学 農学 保健 教育・教員養成 その他理学・工学・農学(韓国,フランスについては,理学・工学・農学の3分野をまとめた数値である。)

注)フランス及び韓国は,統計上,理学,工学,農学の区分がなされていない。

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

図表1-2-57主要国における人口100万人当たりの専攻分野別修士号取得者(2005年)

(出典)博士号取得者数については,文部科学省「教育指標の国際比較」(平成20,21年版),及び人口については,OECD“Main Science and Technology Indicators Vol 2009/2 ”を基に文部科学省にて作成

人文科学 社会科学 理学 工学 農学 保健 教育・教員養成 その他

注)フランス及び韓国は,統計上,理学,工学,農学の区分がなされていない。

0 50 100 150 200 250 300 350

理学・工学・農学(韓国,フランスについては,理学・工学・農学の3分野をまとめた数値である。)

図表1-2-58主要国における人口100万人当たりの専攻分野別博士号取得者(2005年)

(出典)博士号取得者数については,文部科学省「教育指標の国際比較」(平成20,21年版),及び人口については,OECD“Main Science and Technology Indicators Vol 2009/2 ”を基に文部科学省にて作成

図表1-2-59 主要国における自然科学分野の博士号取得者の推移

インド

韓国

日本英国

中国

ドイツ

米国(外国人)米国(市民)

米国

(千人)

(年)0

5

10

15

20

25

20070503019997951993

注:本データには保健分野が含まれていない。(出典)NSF“Science and Engineering Indicators 2010” Figure 0-9を基に作成

 一方,博士課程については,主要国における自然科学分野の博士号取得者数の推移を見ると,多くの国で増加傾向にありますが,特に中国をはじめとするアジア諸国の伸びが大きくなっています(図表1-2-59)。 我が国において博士号取得者数が伸び悩んでいることについて,理工系大学院の修士課程在籍者に対して実施した意識調査結果を見てみると,博士課程進学を検討する際に重要な条件として,「博士課程在籍者に関する経済的支援の充実」と「民間企業などにおける博士課程修了者の雇用の増加」の2点が多く挙げられており,博士課程修了後のキャリアが不明確なことが博士課程進学を検討する際の懸念材料と考えられています(図表1-2-60)。

Page 11: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 57

図表1-2-60 博士課程進学を検討する際に重要と考える条件

(出典)「日本の理工系修士学生の進路決定に関する意識調査」(科学技術政策研究所)0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600

(回答数)

進学や編入学が容易になる

当てはまるものはない

自分の研究に直接関連しない学内業務が少ない

インターンシップや共同研究を通じて企業等とのつながりを持つ

国際学会への参加や留学など国際的な経験を積む機会が多い

博士課程に優秀な学生が集まる

産業界で幅広く活躍できるようなスキルが身に付く

研究や実験設備などの研究環境が充実する

任期制が見直されるなど,若手を対象としたアカデミックポストの雇用条件が改善する

博士課程修了者がアカデミックポストへ就職する可能性が広がる

賃金や昇進が優遇されるなど,博士課程修了者の民間企業などにおける雇用条件が改善する

民間企業などにおける博士課程修了者の雇用が増加する

博士課程在籍者に対する経済的支援が拡充する

1番重要 2番重要 3番重要

 博士課程修了者の就職率を見てみると,全体平均で約 64%となっており(平成 21 年3月卒),特に人社系分野が他の分野よりも低くなっています(図表 1-2-61)。博士課程修了者については,学部や修士とは就職活動形態が異なり随時就職先が決まっていく者が多いこと,帰国する留学生が相当数いることなどから,大学がデータを捕捉できていない事例が多いため,アルバイトやパート等の一時的な仕事に就いた者や非就職者,進路不明者が実態よりも多く計上される傾向にあるものの,一定割合で就職していない者が存在すると考えられます。

図表1-2-61 博士課程修了者の就職率の推移(分野別)

(出典)文部科学省「学校基本調査」

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

H21H20H19H18H17H16H15H14H13H12H3

79.577.077.376.175.971.672.274.772.171.9

79.3

60.865.0

52.551.6

50.249.148.052.349.847.1

61.972.4

69.0

59.159.357.759.455.456.058.659.4

71.6

59.861.253.9

48.0

51.952.5

48.050.0

51.4

46.251.5

46.842.541.341.342.0

47.443.042.643.3

47.253.7

32.330.833.028.329.629.829.128.2

35.627.5

40.4 人文科学

(%) (各年3月末修了者)

社会科学理学農学

工学保健

 また,博士課程修了者の企業における採用実績についても,博士号取得者を研究開発者として採用する企業の採用実績は,ここ数年大きな変化が見られず,ほぼ毎年採用と回答した企業が約 10%存在する程度であり,産学のマッチングの推進も含め,大学院を修了した後に活躍の場が広く開かれているか,という観点から,キャリアパスの支援を進める必要があります(図表1-2-62)。

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58 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

0 20 40 60 80 100

平成 19年度調査 (884)

平成 18年度調査 (836)

平成 17年度調査 (789)

平成 16年度調査 (898)

平成 15年度調査 (892)

平成 14年度調査(1,031)

平成 13年度調査 (988)

平成 12年度調査(1,052)

4.9

4.3

4.6

5.2

5.4

3.7

5.1

4.6

6.3

6.2

5.3

5.7

4.8

6.2

6.3

5.6

29.1

30.7

31.9

34.7

32.8

31.0

26.1

26.9

17.8

25.6

21.8

23.9

22.8

21.2

21.6

18.1

42.0

33.1

36.4

30.4

34.2

37.8

41.0

44.9

図表1-2-62 博士号取得者の研究開発者としての企業採用実績

(出典)文部科学省「平成19年度民間企業の研究活動に関する調査報告」(平成21年1月)

毎年必ず採用している

括弧内の数字は有効回答数 有効回答に対する割合[%]

ほぼ毎年採用している 採用する年もある ほとんど採用していない 全く採用していない

 今後,我が国の競争力を維持するためにも,世界に伍する大学院レベルの高度な知的人材の育成が重要です。このため,的確に社会の変化に対応し,社会が求める新たな価値を創造できる人材を育む場として,大学院の質・量両面からの充実を図るとともに,世界から優秀な学生を集めるよう努める必要があります。 同時に,知識基盤社会の到来の中,社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材層や高度専門職業人の養成が求められており,学部新卒の人だけでなく,社会人など様々な人が大学院に入学しやすくなるような社会環境の整備が必要です。経済情勢の悪化から企業の教育訓練への投資が伸び悩む中,例えば,企業に勤務している者の国内留学の充実など,リカレント教育における企業と大学院の連携を促進することが我が国全体の人材養成にとって重要といえます。社会にとって大学院が真に魅力ある教育機関となるよう,大学院教育の一層の質の向上や環境の整備が必要です。

④教育費負担をめぐる課題 我が国の高等教育支出の内訳をみてみると,家計負担の割合が 50%を超え,その他の負担と合わせると私費負担が 67.8%にものぼります。これはOECD平均の 27.4%を著しく上回ります(図表1-2-63)。また,諸外国と比較して,私費負担のうち,家計負担以外の私費負担(個人や企業からの寄付など)が占める割合は低くなっています。 このように家計負担が多くなっているのとは逆に,高等教育に対する公財政支出の状況を見ると(図表 1-2-64),そもそも公財政支出全体の規模が諸外国と比べて小さい上に,そのうちの家計への補助に充てられている部分を見ると,給付による補助が少なく,大半が貸与によるものであることが特徴となっています。 このような状況の下で,経済的な事情により大学への進学をあきらめざるを得ない人が少なからずいる可能性があることは,第1章でみた通りであり,それは国や社会にとっても損失となります。 高等教育段階における家計の負担が大きいという現状を考えれば,給付型の経済的支援を充実させて負担を軽減していくことが課題となっています。そのため,貸与制奨学金事業の充実とともに,実質的給付型支援として,各大学が実施する授業料減免の拡大への支援や,大学院生に対するTA・RA雇用などの取組を進めることとしています。

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特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 59

(3) 就職支援についての課題 文部科学省及び厚生労働省では,平成 22 年3月に大学等卒業予定の学生の2月1日現在の就職内定状況調査結果を3月 12 日に公表しました。2月1日現在の内定率は,大学生は昨年同期を 6.3 ポイント下回る 80.0%,短期大学生は 8.5 ポイント下回る 67.3%となっており,学生をとりまく状況は厳しいものとなっています(図表1-2-65)。 また,就職をしても3人に1人が3年以内に辞めてしまう,いわゆる早期離職者の問題や,非正規雇用割合の増加など,産業構造・社会構造の変革や学生の多様化が進む中で,卒業後の社会生活・職業生活への移行支援の必要性が高まっています(図表1-2-66)。 こうした状況を踏まえ,全ての大学が,教育課程の内外を通じて,社会的・職業的自立に関する指導等に取り組むよう,大学設置基準等の改正を行いました。さらに,平成 22 年度から「大学生の就業力育成支援事業」を行うなど,就業力育成に向けた総合的な取組(就業力育成5カ年プラン(仮称))を実施していきます。

図表1-2-63 (再掲)教育支出の公私比負担割合(高等教育)

(出典)OECD「Education at a Glance(2009)」より作成

公費負担割合

家計負担割合

その他私費負担割合

※ドイツと平均については 家計負担割合が不明

私費負担総計

高等教育段階

OECD平均

ドイツ

フランス

英国

アメリカ

日本

0% 20% 40% 60% 80% 100%

32.2 51.4

67.8

16.4

34 29.736.3

64.9 26.6 8.5

83.7 10.1 6.2

85 15

72.6 27.4

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

OECD平均

日本

81% 10% 9%

76% 23%1%

図表1-2-64 高等教育に対する支出の内訳とGDPに占める割合

(出典)OECD「Education at a Glance(2009)」より作成GDPに占める割合(%)

教育機関への支出 家計への給与補助 家計への貸与補助

図表1-2-65 大学卒業予定者の就職内定状況調査(各年2月1日現在)

(出典)厚生労働省・文部科学省「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」

74

(%)

76

78

80

82

84

86

88

90

20102009200820072006200520042003200220012000

81.682.3

82.983.5

82.1 82.6

85.8

87.788.7

86.3

80.0

Page 14: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

60 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

(4) 医療人養成等についての課題 日本の人口当たり臨床医数は,「OECD Health Data 2009」の調査時点では,OECD30 カ国単純平均3.1 人(加重平均 2.6 人)に対して,わが国は 2.1 人となっており,諸外国に比べて低い水準となっています。また,医師の絶対数は全体として毎年 3,500 人から 4,500 人程度増加している一方,近年,研究など臨床以外に従事する医師の数が減少しています。 文部科学省では,平成 20 年度以降,医学部の入学定員を増員しており,平成 22 年度には,地域の医師確保や研究医養成,歯学部から医学部への定員の振替措置として,対前年度 360 人増(平成 31 年度までの 10 年間)の 8,846 人まで増員を行いました。今後の更なる増員については,ライフ・イノベーションを担う医師について,厚生労働省の需給見通しや,地域や診療科ごとの医師の充足状況等を踏まえ検討するとともに,質の高い医師を養成するための医学教育の改善・充実が必要です。(図表1-2-67~図表1-2-68)。 また,研究・診療・教育を一体として行う大学附属病院は,地域の中核的医療機関としてだけでなく,高度医療機関として新たな医療技術の開発から実用化までを行う場として,その役割はますます重要になっています。大学病院の持つ機能を十分に発揮できるよう,就業環境の改善やより高い専門医療人材の養成機能強化などの支援などを行うことが必要です。

0

10

20

30

40

50

60

70(%)

19 年18年17年16年15年14年13年12年11年10年9年

大学卒

8年7年6年5年4年3年2年元年63年62年3月卒

1年目

2年目

3年目

図表1-2-66 早期離職率

(出典)厚生労働省職業安定局集計(注)3年目までの離職率は四捨五入の関係で,合計と一致しないことがある

14.615.015.115.315.015.215.713.912.913.814.112.210.79.49.59.910.310.711.411.1

10.911.811.811.010.811.311.611.39.810.411.010.6

8.87.87.68.28.89.09.49.1

9.19.79.48.98.99.29.19.38.38.59.18.4

7.16.66.87.48.08.68.3

12.9

12.9

25.5

35.936.635.834.735.436.534.332.032.533.632.0

27.924.323.725.026.527.629.328.4

Page 15: 3 大学171億円( 1.4%) 230億円( 1.9%) 118億円( 1.0%) 110億円( 0.9%) 1兆2,415億円 1兆2,317億円 1兆2,214億円 1兆2,043億円 1兆1,813億円

特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 61

図表1-2-67 人口1,000人あたりの臨床医師数

0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0トルコ韓国

メキシコ日本※1カナダ

ポーランドニュージーランドアメリカ合衆国

英国OECD(加重平均)

ハンガリーオーストラリア※1ルクセンブルクフィンランド※1アイルランド

OECD(単純平均)スロバキア※2デンマーク※1フランスドイツ

ポルトガルチェコ

スウェーデン※1イタリアスペイン

アイスランドオーストリア

スイスノルウェーオランダベルギーギリシャ※1

1.51.7

2.02.12.22.22.32.42.52.62.82.82.93.03.03.13.13.23.43.53.53.63.63.73.73.73.83.93.93.94.0

5.4

※1 2006 年 ※2 2004 年 その他は 2007 年注1 単純平均とは,各国の人口当たり医師数の合計を国数で割った数のこと。注2 加重平均とは,全医師数を全人口で割った数のこと。注 3 一部の国では,臨床医数ではなく総医師数を用いている。

(出典)OECD Health Data 2009(平成21年)より

(5) 高等教育段階の施設整備の状況と課題 国立大学法人などは,我が国の学術研究と研究者等の人材養成の中核を担ってきたほか,全国的に均衡のとれた配置により,地域の教育,文化,産業の基盤を支え,進学機会を提供するなど,重要な役割を果たしてきています。この役割を果たす上で,国立大学法人などの施設は,優れた人材の養成や創造的・先端的な研究開発,高度先進医療の推進などに不可欠な基盤であり,次代を担う豊かな人づくりの礎となるものです。このため,「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」(平成 18 ~ 22

(出典)平成20年医師・歯科医師・薬剤師調査

図表1-2-68 大学等で教育研究等に従事する医師数の推移

5,100

5,150

5,200

5,250

5,300

5,350

5,400

5,450(人)

5,426

255,792

286,699

5,223

240,000

245,000

250,000

255,000

260,000

265,000

270,000

275,000

280,000

285,000

290,000

2000 2002 2004 2006 2008

医師総数

大学等の教育研究機関で臨床以外に従事する医師数

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62 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

年度)に基づいて,重点的・計画的整備を支援してきました。結果,22 年度中には整備目標の8割を達成する見込みです。しかし,依然として,未改修の老朽施設が全体の約3割存在しており,耐震性などの安全面,設備の老朽化や陳腐化といった機能面,非効率なエネルギー消費などの環境面において早急に改善すべき様々な問題を抱えています(図表1-2-69~図表1-2-71)。

図表1-2-70 国立大学法人等施設の経年別保有面積

0

100

200

300

400

500

S34以前 S35~S39 S40~S44 S45~S49 S50~S54 S55~S59 S60~S64/H1 H2~H6 H7~H11 H12~H16 H17~

面積(万㎡) (平成21年5月1日現在)

(出典)文部科学省調べ

・国立大学法人等の施設は約2,599万㎡・経年25年以上の老朽施設は約1,509万㎡(約58%) うち,未改修の老朽施設は約733万㎡(保有面積の約3割弱)

未改修の老朽施設

改修済

経年25年未満

図表1-2-69 (再掲)第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の進捗状況

※[ ]内の数字は整備目標,( )内の数字は目標に対する整備実績の割合を示す

(出典)文部科学省調べ:平成22年度予算反映後

463 77

62

13

0 100 200 300 400 500 600

老朽再生整備

大学附属病院の再生

狭隘解消整備

合計

(万㎡)

整備目標400

[80]

[60]

[540]

334(83%)

(86%)

66

67(84%)

(104%)

整備実績 整備目標と整備実績の差

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特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 63

図表1-2-71 (再掲)業務部門業種別エネルギー消費量の推移

(出典)(財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー・経済統計要覧」,資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」により推計(注)「総合エネルギー統計」では、1990年度以降,数値の算出方法が変更されている。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

08050095908580757065

2,9202,995

2,712

2,375

2,024

1,1941,0901,004

684335

(年度)

(1015J)

学 校

卸・小売業

飲食店

その他サービス

病 院

劇場・娯楽場

ホテル・旅館

デパート

事務所・ビル

 さらに,科学技術政策研究所などの調査によれば,ポストドクターなどの若手研究者が増加傾向にある一方,国立大学法人などの6割以上で若手研究者のための研究スペースが不足しています。優れた人材の育成や科学技術・イノベーションを目指すためにも,十分な研究スペースを確保することが必要です(図表1-2-72~図表1-2-73)。 以上みてきた課題の他にも,国際化や地域医療・先端医療への対応など,様々な政策的課題や社会的要請への対応等の課題が顕在化しています。今後,こうした政策的課題等への対応も踏まえ,国立大学法人などの新たな施設整備計画を策定し,多様な外部資金等も活用しながら,教育研究等の活性化に資する教育研究環境を戦略的に整備し,優れた人材を養成する魅力あふれるキャンパスにしていくことが課題です。

図表1-2-73 研究スペースの確保状況

(出典)科学技術政策研究所「科学技術人材に関する調査(2009年3月)」より作成

新たに採用した人材に対する支援(独立した研究スペース)ポストドクター・研究員クラス

大学(N=361)

国立大学(N=181)

公立大学(N=25)

私立大学(N=150)

独立行政法人・政府研究機関(N=101)

10平方m以上

0% 20% 40% 60% 80% 100%

5.8%

7.7%4.0%

3.3%

13.9%

13.6%

12.7%

28.0%

12.0%

20.8%

13.3%

14.4%

11.3%

32.7%

2.8%

4.0%

4.0%

64.5%

63.0%

60.0%

69.3%

8.0%

2.2%

0.0%

5~10平方m程度 2~5平方m程度 1平方m程度 なし

28.7%

図表1-2-72 ポストドクター等の数の推移

(出典)「大学・公的研究機関等におけるポストドクター等の    雇用状況調査」文部科学省(2008)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

2004 2005 2006年 度

6,2977,196

8,033

192165

1991,468

1,574

1,867

527

627

644

人数

国立大学

公立大学

私立大学

大学共同

近年,若手研究者等は増加の一途

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64 文部科学白書 2009

第1部 我が国の教育水準と教育費

お わ り に~我が国の未来を拓く教育の充実に向けて~

 これまで,教育費や教育投資の現状と課題について,教育の水準や機会に関わる問題との

関わりについて概観してきました。

 第1章で見たように,我が国では,国際的に見ても,家計の教育費負担が大きく,それに

比べて公財政支出が少ないという状況がうかがえます。家庭の経済状況が進学に影響がある

可能性があり,経済的な格差が教育の格差にも影響し,それがまた格差の固定化や世代間の

連鎖につながりかねません。

 また,第2章で取り上げたように,質の高い教育を実現するため,また,教育の機会を確

保するためには,教育への投資の充実が重要です。例えば,小中学校では,教員や専門的ス

タッフの充実など教育現場の環境整備が必要になっています。大学が学術の多様性を維持す

るとともに,優れた人材を社会に輩出し続けることを可能にするためには,その活動を支え

る基盤となる経費の充実が重要となっています。

 これからの我が国の成長を牽引し,新たな未来を切り拓くのは,国民一人一人の力によっ

ています。我が国を取り巻く世界全体が大きく変化し,厳しい状況にある中で,まさに人材

への投資である教育に,社会全体として十分な資源を振り向けて取り組むことが喫緊の課題

となっています。

 このような中,平成 22 年度からは「高校実質無償化」の制度が始まりました。全ての意志

ある高校生が,教育にかかる費用を心配することなく,安心して勉強に打ち込むことができ

るよう,高校生の子を持つ家庭だけでなく,社会全体で支えていくことになりました。

 平成 22 年度予算において,この「高校実質無償化」などにより,国は文教関係予算を対前

年度比 8.1%増加させ,過去 30 年で最高の伸び率となりました。今後もさらに,教育の充実

に向けた環境整備を進めていくための一層の取組が求められます。

 また,教育の充実は国と地方の適切な役割分担と協力の下に進められなければなりません。

特に義務教育段階においては地方が教育費の8割を負担するなど,その役割は大きなものと

なっています。我が国全体の教育の発展と人材の育成のためには,国だけでなく,各地方公

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特集1

我が国の教育水準と教育費

文部科学白書 2009 65

共団体が挙って地域の子どもたちの学びを支援することが不可欠です。

 例えば,全国学力・学習状況調査で過去3年間上位となっている秋田県では,全国に先駆

けて国の水準を上回る少人数学級を導入するなど,地域における教育の振興のため積極的に

取り組む地方公共団体も見られます。「高校実質無償化」の制度開始にあわせて,更に手厚い

支援を行い始めた都道府県もあります。このように,社会全体で教育を支える取組は着実に

拡がりつつあります。

 折しも平成 22 年度より,「子ども手当て」の制度も新たに始まりました。本制度が子ども

達の未来を創る教育のために有効に活用されることが強く期待されるところです。

 最後に,人材への投資である教育に,社会全体として大きな資源を振り向けるためには,

財源確保のあり方も含めて,十分な国民的な議論が必要でしょう。これまでのように行政だ

けではなく,市民,NPO,企業などが積極的に公共的な分野で活躍していく「新しい公共」を

実現することが求められているなか,社会の一人ひとりが教育の担い手として当事者意識を

持って関わり,良い教育,良い社会を創るという市民文化を醸成し,多くの当事者がこの問

題について熟慮し,討議を重ねていくことが,社会全体で教育を支える基盤となると考えま

す。