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※ ホームページ等で公表します
立 教 コ ミ 福 - 企 画 Ⅰ - 報 告
立教大学コミュニティ福祉研究所学術研究推進資金
企画研究プロジェクトⅠ (教員自由企画型 ) 201 4 年度研究成果報告書
研究代表者
所属・職名 氏 名
コミュニティ福祉学部教授 藤井敦史
研究課題名 コ ミ ュ ニ テ ィ 開 発 に 従 事 す る 英 国 社 会 的 企 業 に お け る イ ン タ ー ン シ ッ プ ・コー
スの開発
研究期間 2014 年度
研究経費 100 千円
【 研究の概要 】
本プロジェクトでは、2014 年 9 月上旬に、労働者協同組合アカウント 3 を受け皿とし
て、コミュニティ・スタディを中心としたゼミの有志 5 人と共に、 10 日程度のインター
ンシップを試行的に実施することができた。そして、アカウント 3 を介して、我々は、
若者支援の社会的企業である Renaissance Foundation、織物を通しての女性の就労支援
を行っている HEBA 等を含む複数の現場での活動に参加しながら、アカウント 3 による
ハウジング・アソシエーションなども巻き込んだコミュニティ開発のあり方、また、貧
困問題に直面している移民女性の社会的・経済的エンパワーメントのプロセスについて
学ぶことができた。また、インターンシップ・コースには、移民向けの英語教育の時間
も組み込んでおり、参加学生たちの英語を使ったコミュニケーション能力の向上に非常
に役立った。このように、企画研究プロジェクトは、2015 年度からの正課での東ロンド
ン・インターンシップ・コースの設置にとって大きな助けとなった。ここに改めて感謝
の意を表したい。なお、参加型システム研究所の機関誌に今回のトライアル・インターンシップでの学びにつ
いて書かせて頂いたので、以下に引用したい。 「英国労働者協同組合アカウント 3 から学ぶコミュニティ開発」
昨年、英国の東ロンドン、タワーハムレッツ区にある労働者協同組合アカウント 3 に
お世話になり、立教大学コミュニティ福祉学部の学生を連れて 2 週間程度の海外インタ
ーンシップを実施した。アカウント 3 は、現代表のトニー・メレデュー氏を含む女性リ
ーダー 3 人によって 1991 年に設立された非営利の労働者協同組合であり、バングラディ
ッシュやソマリア等、多様な背景を持つ移民の女性たちの社会的・経済的エンパワーメ
ントのために、英語を含む基礎的なスキルの教育、職業訓練・紹介、起業支援、福祉相
談、保育サービスの提供といった多様な事業を展開している。我々は、以上のようなア
カウント 3 で、ソマリア人で自らも SIT という女性グループを率いるサフィア先生から
移民向けの英語クラスで指導を受けながら、アカウント 3 が地域で共に活動している多
様なコミュニティ組織(女性グループや若者グループ)の訪問、ソマリアの子供たちと
の交流、ガザの人々を支援するためのファンドレージングのイベントへの参加等、様々
なことを経験した。 我々がアカウント 3 で学んだことを煎じ詰めて語るとすれば、恐らく、成功している
社会的企業の基盤には豊かな連帯経済が形成されているということだと言えるだろう。
たとえば、アカウント 3 は、地域のチャリティ団体、セツルメント、社会運動団体、貧
困者向けの公営住宅を管理するハウジング・アソシエーション、協同組合振興機関や中
間支援組織等、多様な地域団体とのネットワークを構築しながら、マイクロ・クレジッ
トを含む多くの事業をジョイント・ビジネスやコンソーシアムといった形で開発し、展
開してきた。また、アカウント3は、これまでに多くの当事者によるセルフ・ヘルプ組
織の組織化や起業をサポートしてきたが、支援対象団体が起業すれば関係が切れるので
はなく、サーバーへのアクセスを提供し、管理業務を継続的にサポートしながら、ネッ
トワーク全体として、共に資源をシェアし、コストを削減しながらジョイント・ビジネ
スを展開してきている。以上のような市民社会のネットワークは、取引関係としても重
要な意味合いも持つ。キャメロン政権下、公的資金の流れが弱まる中で、アカウント 3にとっては、とりわけハウジング・アソシエーションとの委託契約が、財政的な持続可
能性にとって重要な基盤となってきた。このように、アカウント 3 は、豊富なネットワ
ークのハブとして、ソーシャル・キャピタルを含む多様な資源をシェアし、相互に助け
合うことが可能な連帯経済を生み出してきたと言えるだろう。 そして、もう一つ見えてきたことは、以上のような連帯経済を生み出すためには、個
人の成長を継続的に支えるエンパワーメントのプロセスを作り出すことが重要な意味を
持っているということである。アカウント 3 では、多様な事業構成をとることで、多層
的で有機的なエンパワーメントのプロセスを作り出してきたが、それだけでなく、多世
代を対象とした事業を展開することで、被支援者との継続的な関係が築かれ、被支援者
が成長して、やがて支援する側に回るという循環が見られる。つまり、連帯経済を可能
にする人々の参加を生み出すためには、彼らの学びを継続的に支え、自己効力感を上昇
させるエンパワーメント(主体形成)のプロセスが決定的に重要なのである。 以上、アカウント 3 で我々が学んできたことについて簡単に説明してきた。こうしたア
カウント 3 の営為は、英国におけるコミュニティ開発の真髄と言ってもいいものだろう。
コミュニティ開発とは、一言でいえば、地域社会において、何らかの社会問題にぶつか
った人々が、問題を共有化し、相互に学習を深め、集団化・組織化(場合によっては事
業化)していくプロセスを促進していくことで、当事者の心理的・社会的・経済的・政
治的エンパワーメントを図っていく営為を意味している。最近、日本でも、米国のオバ
マ大統領がコミュニティ・オーガナイザーだったことに触発されて、コミュニティ・オ
ーガナイジングが紹介されるようになってきたが、コミュニティ・オーガナイジングも
コミュニティ開発の中の一つの類型と言えるだろう。そして、とりわけ日本の NPO や協
同組合が学ぶべきことは、同質的な結合を越えて、異質な組織や機関との連携を作り出
していくことが重視されている点にある。多様な移民が暮らす東ロンドンで活動するア
カウント 3 も、正に、多様で異質なものをつなぎ合わせることでコミュニティ開発をし
てきた。その秘訣が何なのかは、まだまだ見えてきていないが、今後も、インターンシ
ップで学生たちと一緒に学び続けようと思う。