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NTT技術ジャーナル 2015.10 48 情報化社会の到来と NTTの取り組み 1989年以降に普及し始めた一般家 庭向けのインターネット接続サービス は当初,加入者回線を利用したダイヤ ルアップ接続によって提供されていま した.しかし2000年前後からADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line)による常時接続サービスが開 始され,一気にインターネットが普及 し始めました.しかし,映像,音声等 の大容量データを扱うためには電話線 (メタル)を媒体とした通信には限界 があり次世代通信方法を考える必要が ありました.そこで登場したのが FTTH(Fiber To The Home)をベー スとした高速インターネット接続サー ビスとなります (1) NTTにおいては,1975年に光ファ イバの基礎研究を開始し,1978年に 初めて光ファイバケーブルを使った商 用レベルでの現場試験(唐ヶ崎─浜町 間)を実施しました.さらに,より広 帯域,大容量の伝送方式として日本縦 貫光ファイバケーブル伝送路(旭川─ 鹿児島間)を構築しました.その後, 目線は加入者光ファイバケーブルの開 発へと移行していきます.そして加入 者光ファイバケーブルとして最初に FTTHトライアルを実施したのが 1984年となります.ただ採算性から 導入はなかなか難しく,足踏みをする 期間が続いていました.しかし,1990 年に提唱されたVI&P構想に基づきア クセス網の光化を推し進め,多心高密 度光ケーブルの導入等により低コスト 化を実現しました.そして一気に光 ファイバを媒体とする通信方式が普及 していくことになります (2) 光ケーブル開発の推移 1985年の民営化前の段階ですでに 光ケーブルは商用化されており,GI (Graded Index)型の広帯域専用線お よび加入者光ファイバケーブル等が 存在していました.民営化後は加入者 光ファイバケーブルの普及を目指し て,SM(Single Mode)型を中心と して地下,架空ともにケーブル構造の 改善や,周辺物品を含め多岐にわたる 開発が進められました.これら民営化 後に開発された光ファイバケーブルを 歴史に沿って紹介します (3) ■地下光ファイバケーブル (1) SM型光ファイバケーブルへの 転換,および非ガス保守による ケーブル止水技術の確立 光ファイバのテープ化による高密度 化技術, 5 心一括融着接続技術が確立 されたことがきっかけで1986年テー プ心線スロット型を採用した高密度 GI型光ファイバケーブルを導入しま した(図1).当時はGI型が主流であり, 製造メーカも技術的完成度が高いGI 型光ファイバを継続して開発していく ことを推奨していましたが,NTTは, SM型のほうが低損失,広帯域特性に 加えて将来的な経済性で利点がある 点,および融着接続やコネクタで多心 一括接続を実現できるという技術的洞 察からSM型を主流に据える決断を下 しました. また同時に,止水対策としてガス保 守に切り替わる新たな技術として止水 テープ技術を確立させ,合わせて浸水 検知モジュールを開発しました.それ らの技術を組み合わせ1989年にSM型 光ファイバWB(WB: Water Block- ing)ケーブルを開発しました. さらに,1991年には心数系列を300 心まで拡大し,多心中継光ファイバ ケーブルで用いられていたマルチス ロットロッド構造の長尺布設を図り 300心までをシングルスロットロッド 構造とするWBS(S:シングルスロッ トロッド)ケーブルを開発しました. しかし,加入者光ファイバケーブルに 民営化30周年記念 NTT民営化後30年が経過しましたが,これまでさまざまな地下・架空光ケーブルが開 発されてきました.民営化直後は加入者光ファイバケーブルへの適用拡大を目指し,そ の後多心化や細径高密度化を図り,さらなる経済化を達成しました.それらの光ケーブ ル開発の歴史を紹介します. えんどう ようへい /中 なかがわ /加 たけあき /鉄 てつたに しげかつ /尾 きよし NTTアクセスサービスシステム研究所 30周年 細径高密度化技術 光ケーブル 世界に誇れる研究開発成果 光ケーブル開発の歴史

30周年 細径高密度化技術 光ケーブル 世界に誇れる研 …¦,SM(Single Mode)型を中心と して地下,架空ともにケーブル構造の 改善や,周辺物品を含め多岐にわたる

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NTT技術ジャーナル 2015.1048

情報化社会の到来と NTTの取り組み

1989年以降に普及し始めた一般家庭向けのインターネット接続サービスは当初,加入者回線を利用したダイヤルアップ接続によって提供されていました.しかし2000年前後からADSL

(Asymmetric Digital Subscriber Line)による常時接続サービスが開始され,一気にインターネットが普及し始めました.しかし,映像,音声等の大容量データを扱うためには電話線

(メタル)を媒体とした通信には限界があり次世代通信方法を考える必要がありました.そこで登場したのがFTTH(Fiber To The Home)をベースとした高速インターネット接続サービスとなります(1).

NTTにおいては,1975年に光ファイバの基礎研究を開始し,1978年に初めて光ファイバケーブルを使った商用レベルでの現場試験(唐ヶ崎─浜町間)を実施しました.さらに,より広帯域,大容量の伝送方式として日本縦貫光ファイバケーブル伝送路(旭川─鹿児島間)を構築しました.その後,目線は加入者光ファイバケーブルの開発へと移行していきます.そして加入

者光ファイバケーブルとして最初にFTTHトライアルを実施したのが1984年となります.ただ採算性から導入はなかなか難しく,足踏みをする期間が続いていました.しかし,1990年に提唱されたVI&P構想に基づきアクセス網の光化を推し進め,多心高密度光ケーブルの導入等により低コスト化を実現しました.そして一気に光ファイバを媒体とする通信方式が普及していくことになります(2).

光ケーブル開発の推移

1985年の民営化前の段階ですでに光ケーブルは商用化されており,GI

(Graded Index)型の広帯域専用線および加入者光ファイバケーブル等が存在していました.民営化後は加入者光ファイバケーブルの普及を目指して,SM(Single Mode)型を中心として地下,架空ともにケーブル構造の改善や,周辺物品を含め多岐にわたる開発が進められました.これら民営化後に開発された光ファイバケーブルを歴史に沿って紹介します(3).■地下光ファイバケーブル

(1)  SM型光ファイバケーブルへの転換,および非ガス保守によるケーブル止水技術の確立

光ファイバのテープ化による高密度化技術, 5 心一括融着接続技術が確立されたことがきっかけで1986年テープ心線スロット型を採用した高密度GI型光ファイバケーブルを導入しました(図1).当時はGI型が主流であり,製造メーカも技術的完成度が高いGI型光ファイバを継続して開発していくことを推奨していましたが,NTTは,SM型のほうが低損失,広帯域特性に加えて将来的な経済性で利点がある点,および融着接続やコネクタで多心一括接続を実現できるという技術的洞察からSM型を主流に据える決断を下しました.

また同時に,止水対策としてガス保守に切り替わる新たな技術として止水テープ技術を確立させ,合わせて浸水検知モジュールを開発しました.それらの技術を組み合わせ1989年にSM型光ファイバWB(WB: Water Block­ing)ケーブルを開発しました.

さらに,1991年には心数系列を300心まで拡大し,多心中継光ファイバケーブルで用いられていたマルチスロットロッド構造の長尺布設を図り300心までをシングルスロットロッド構造とするWBS(S:シングルスロットロッド)ケーブルを開発しました.しかし,加入者光ファイバケーブルに

民営化30周年記念

 NTT民営化後30年が経過しましたが,これまでさまざまな地下・架空光ケーブルが開発されてきました.民営化直後は加入者光ファイバケーブルへの適用拡大を目指し,その後多心化や細径高密度化を図り,さらなる経済化を達成しました.それらの光ケーブル開発の歴史を紹介します.

遠えんどう

藤 洋ようへい

平 /中なかがわ

川 直な お き

樹 /加か と う

藤 丈たけあき

明 /鉄てつたに

谷 成しげかつ

且 /尾お も と

本  清きよし

NTTアクセスサービスシステム研究所

30周年 細径高密度化技術 光ケーブル

世界に誇れる研究開発成果光ケーブル開発の歴史

NTT技術ジャーナル 2015.10 49

世界に誇れる研究開発成果

関してはマルチスロットロッド構造を採用しているため識別を容易にする必要がありWBSとWBM(M:マルチスロットロッド)と 2 種類に区別しました.

(2)  構造見直しによる細径化そして1995年にはテープ被膜を0.3

mm厚にする光ファイバ製造技術の向上とスロッド内における積層テープ数の多層化により,細径軽量化されたWBA(A: Access)ケーブルが開発されました.それにより1000心ケーブルの外径が40 mmから30 mmに細径化されました.その後,ケーブル許容張力の見直しを図りテンションメンバの細径化,およびスロットロッド製造技術の向上から標準外径,概算質量を低減させたWBB(B:Aの後継という意味でAの次アルファベット)ケーブルを開発しました.またコスト削減のため心数系列の見直しを図り600,800心を品目から削除しました.

(3)  設備基盤コスト削減に向けたさらなる細径高密度化

2008年には,基盤設備を有効活用し投資抑制を図るという観点から 1 管路3000心収容を目指した細径高密度ケーブルHD­WB(HD: High Den si­ty)ケーブル(1000心)を開発しました.さらなる細径化のため実装光ファイ バ にR15フ ァ イ バ 同 等 のMFD

(Mode Field Diameter)を持たせつつ,製造性能を落とさないために機械特性(プルーフ試験,曲げ特性)まではR15ファイバに準拠しない特徴的なSM型光ファイバ「S」を用い,また保守用心線に関してはそれまでの浸水検知技術との整合性を取るためにR30ファイバのままとしました.これにより標準外径を23 mmまで細径化することができました.

そして2014年には今後のビルマイグレーションに向けて,さらなる基盤設備の有効活用を目指し, 1 管最大

6000心収容まで可能とするWBZ(Z:アルファベットの最後 ※最終形)ケーブル(2000心)を開発しました.HD­WBと同じ23 mmという外径を担保しつつ,収容心線数を 2 倍にするため,高密度化に適している間欠接着型テープ構造を採用しました.

また,一括融着作業性とケーブルの製造性を考慮し, 2 心をテープ被膜化した光ファイバを横に 4 つ並べ,間欠的に接合した 8 心間欠接着型光ファイバテープを新たに開発しました.ほかにも2000心ケーブルに対応したクロージャと間欠テープ(R15ファイバ)に対応した浸水検知モジュールも開発し,実用化ケーブルでは世界最高密度

(2015年 8 月時点)の光ファイバケーブルが誕生しました(4),(5).■架空光ファイバケーブル

(1) 架空への光ケーブル適用拡大従来,光ケーブルは地下への適用が

主であり,光アクセス網の拡大のため

図 1  地下光ファイバケーブル変遷

ファイバ種別

GISM テープ化

薄肉化 0.5 mm単心線

8心間欠接着型光ファイバテープ

テープ化0.9 mm単心

0.9 mm単心0.4 mm厚 4心テープ 0.3 mm厚4/8心テープ8心テープの追加

(散在需要への対応)

ケーブル防水 ガス保守

撚り集合

GI型光ファイバケーブルの導入

GI型光ファイバケーブルの導入

SM型光ファイバケーブルの導入 300心シングル

スロットの導入1000心シングルスロットの導入

SM型光ファイバケーブルの導入

中継系の全SM化

非ガス保守化

24心GI型光ファイバユニットケーブル

介在対削減(10対⇒ 4対)による細径軽量化

・テープ心線による高密度化技術の確立・ 5心一括融着接続技術の確立

・偏心の小さいSM型光ファイバ技術の確立・低損失で簡易なSMファイバ多心一括接続技術の確立

中継系光ファイバケーブル技術の切出し

テープ心線スロット構造(加入者系技術)の採用

・防水テープ技術の確立・浸水センサモジュールの開発

0.3 mm厚光ファイバテープ技術

布設工法見直しによるテンションメンバ細径化

・テープ厚薄肉化・R15 mmファイバ採用による細径化

間欠テープ適用による細径高密度化

配線区間へ0.5 mm単心線を用いることによるCAPEX/OPEX削減

100心SM型IF光ファイバケーブル

300心SM型光ファイバIFSケーブル

8心加入細径SM型光ファイバWBSケーブル

24心GI型光ファイバケーブル

100心加入者光ファイバユニットケーブル(GI)

200心高密度GI型光ファイバケーブル

100心SM型光ファイバWBケーブル

1000心SM型光ファイバWBMケーブル

1000心SM型光ファイバWBAケーブル

1000心SM型光ファイバWBBケーブル 1000心SM型光ファイバ

HD-WBケーブル2000心SM型光ファイバ

WBZケーブル

300心SM型光ファイバWBSケーブル

300心SM型光ファイバWBAケーブル

300心SM型光ファイバWBBケーブル

40心単心SM型光ファイバWB-Nケーブル

100心単心SM型光ファイバWB-Sケーブル

マルチスロットロッドシングルスロットロッド

非ガス保守

ケーブル構造

ケーブル構造

加入

中継

1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

NTT技術ジャーナル 2015.1050

には架空への展開が必要でした.しかし架空ではダンシング(強風による共振現象)が光ファイバに与える影響が無視できない以上,困難とされていました.そこでケーブル構造をプレハンガ型構造にすることでこの問題を解決することにしました.プレハンガ構造は一定間隔ごとにケーブル部と支持線を固定しており,固定部以外はケーブル部と支持線との間に空間をつくることで風を上手く逃がすことが可能となります.この構造を適用し,架空展開を可能にしたのが1988年に開発されたSM型 光 フ ァ イ バSS(Self Sup­port)ケーブルです(図 2 ).その後,1990年に支持線を自己支持型メタリックケーブルの吊線(CR)と同一規格としてSSR(R:CR吊線の使用)ケーブルと名称変更した後,1992年に160心まで心数系列を拡大しまし

た.このほか,この時代に加入者光ファイバの拡大を目指し提唱されたCT/RT方式やINSサービスの提供地域拡大に伴い,次第に散在需要への対応が必要となってきたことから,より経済的,かつ迅速に対応可能なケーブルとして1993年に開発されたのが加入細径ケーブルとなります.

その後各地で加入者光ファイバ布設が進む中,寒冷 ・ 強風地域において断線事例などが発生しました.この要因としては温度差による心線移動力の発生と振動による摩擦力増加と考えられ,これに対応するためSZ撚り構造,およびダルマ型構造を採用したケーブルが開発されました.これが1997年に導入されたSSD(D: Dalma)ケーブルであり,200心まで心数系列を拡大しました.SZ撚りスロットロッド構造はケーブルコア ・ 心線間の摩擦力

が従来のS撚りスロットロッド構造に比べて遥かに高くなるため心線移動の予防が可能であり,また心線余長を長く確保できるためクロージャの後分岐設置も可能となりました.さらに弛みと窓あきを確保しつつ一体成型することで製造工程を減らすことができました.

1999年にはさらなるアクセス網の光化を目指し,光による局ビル─加入者間のトータル設備を低コストで提供するためSSW(W: Window)ケーブルが開発されました.FTTHをメタリック並コストで実現するため,心数系列を見直し,経済化の観点から少心系(24心,40心)はノンスロット構造を採用,多心系に関してもスロットリブの構造を改良することで,細径高密度化できました.

図 2  架空光ファイバケーブル変遷

薄肉化

テープ心線の単心運用技術の確立

単心線集合ケーブル

4心間欠接着型光ファイバテープ

支持線にCR採用

・SZ撚り構造採用による引通し箇所へのクロージャ後設置・一体シース構造によるコスト削減・多心化

多心化

材料見直しによる細径化

少心に適した構造の採用

テープドロップ構造による経済化

スロットレス化によるコスト削減

一束化工法に適用

0.5 mm心線の採用

0.5 mm心線の採用

一束化工法に適用 間欠テープ適用による

細径高密度化

間欠テープ適用による細径高密度化

ケーブル弛み付き構造採用によるクロージャ後設置可能

・ルーラルエリアにおける簡易布設工法の確立・間欠テープ適用

0.4 mm厚 4心テープ 0.3 mm厚 4心テープ 0.25 mm単心線

0.5 mm単心線

太径化

プレハンガ型S撚りスロット構造

プレハンガ型S撚りスロット構造

プレハンガ型S撚りスロット構造

ダルマ型SZ撚りスロット構造

SZ撚りスロット構造

ダルマ型SZ/S撚りノンスロット構造

200心SM型光ファイバSSZケーブル

200心SM型光ファイバANSZケーブル

24心SM型光ファイバSSZ/ANSZケーブル

24心単心SM型光ファイバSSケーブル

24心SM型光ファイバDZケーブル

ケーブル構造

多心

少心

1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014

ファイバ種別

ケーブル構造

S撚りスロットロッド・SS型 SZ撚りスロットロッド・SS型スロットレス・SS型 スロットレス・丸型

単心

SZ撚りスロットロッド・丸型

100心SM型光ファイバSSケーブル

100心SM型光ファイバSS-Rケーブル

160心SM型光ファイバSS-Rケーブル

200心SM型光ファイバSSDケーブル

200心SM型光ファイバSSWケーブル

24心SM型光ファイバSSWケーブル

24心SM型光ファイバANSケーブル

ダルマ型スロットレス構造

ダルマ型スロットレス構造(単心)

スロットレス構造

プレハンガ型S撚りスロット構造

8心SM型光ファイバSSケーブル

8心SM型光ファイバDSケーブル

8心SM型光ファイバDRケーブル

8心SM型光ファイバDSケーブル〈0.5〉

8 心SM型加入細径ケーブル

8心SM型光ファイバDFケーブル

(散在需要への対応)(クロージャ先行設置を前提)

200心SM型光ファイバANSケーブル

NTT技術ジャーナル 2015.10 51

世界に誇れる研究開発成果

(2)  Bフレッツ提供拡大に伴う,ケーブルラインアップの追加

Bフレッツの本格提供を受け,架空設備一束化工法を導入するために支持線 を 取 り 除 い たANS(Aerial Non Self supporting)ケーブルを2002年に開発しました.これは,当面光を既設メタルにオーバーレイ構成で構築することを前提として,デマンドに即応した光化展開を図ることを目的としています.また翌2003年には散在する光需要に対して経済的に配線するため,DS(Distribution Single)ケーブルとDR(Distribution Ribbon)ケーブルを開発しました.DS,DRケーブルともに光ファイバどうしに撚りを入れずに集合させた構造となっており,構造は各種特性を満足しつつ,布設性,コスト面,作業性で優れていたタイト型構造を採用しています.DSケーブルは単心線,DRケーブルはテープ心線であり,DSケーブルに限っては心線識別性,施工性向上の観点から2005年に0.25 mmから0.5 mmの単心線に変更しました.また同時期に0.5 mm単心線を適用した単心SSケーブルも開発導入しました.単心SSケーブルは,開通工事の即応化やコストダウンを図るため,SSWケーブルの少心系を基本構造としています.配線区間に適用されてきたDS,DRケーブルは,支持線部とケーブル部が一体化した簡易な構造となっており,架設と同時にAOE(Aerial Optical E:Dの継承という意味)クロージャを設置する必要がありました.AOEクロージャは需要が発生するまで使用されず,非効率な投資となるうえ,需要予測が外れ,近隣にクロージャが存在しない場合はドロップケーブルのスパン架渉が必要となります.そこでこれらの問題を解決するために,クロージャを任意な場所に後から設置可能とするDF(Dis­tri bution Flexible)ケーブルを2006年に開発しました.DFケーブルはDSケーブルに弛みを付けたものであり,弛み技術自体はSSWケーブル技術を転用しています.

(3)  施工費,物品費の低減に向けた細径高密度化

2012年には,さらなる経済化を求めSSZ,ANSZケーブルを開発しました.高密度実装に適した新構造の間欠接着型光ファイバテープならびに曲げによる光損失増加を改善したR15光ファイバを用いることで,従来と同等の伝送特性や機械特性を確保しつつ光ケーブル内の光ファイバ実装密度を極限まで高めた世界最高密度の光ケーブルです.間欠接着型テープは隣接する光ファイバどうしが接合していない部分に歯ブラシを挿入し,長手方向にスライドさせることで容易に単心分離ができる構造となっており,これまで使用していた単心分離工具を用いた単心分離と比較して作業性が大幅に向上しました.また翌年にはさらなる設備構築,運用コストの削減を目指し,ルーラルエリアへの経済的な光化展開を目的としてDZケーブルが開発されました.DZケーブルは簡易布設技術に適用できるようにケーブルの細径軽量化,およびドラムが軽量化しています(6),(7).

今後の展開

民営化後30年で開発してきた代表的なケーブルを紹介しました.

現在,これまでのケーブル開発で培った知見を積み重ね,架空,地下光ケーブルともに高密度化実装を追求したWBZ,SSZ(ANSZ),DZケーブルの導入に至っています.これらのケーブルは従来型の約 6 倍まで高密度化し,さらなるコストダウンを実現しており,1900万加入まで普及拡大したフレッツ光の提供に大きく貢献しました.今後も,これら積み上げた知見を継承しつつ,事業動向に即した技術提供を行うことで,引き続きネットワークの高度化 ・ 経済化に貢献していきます.

■参考文献(1) NTT技術予測研究会:“2030年の情報通信技

術 生活者の未来像,” NTT出版,2015.

(2) 特集:“光ブロードバンド加入 1 千万突破を記念して,” 電気通信,Vol.71,No.735,pp.14­42,2008.

(3) NTTネットワークシステム開発センタ 線路システムプロジェクトグループ:“加入者SM型光ファイバケーブル及び関連物品の現場技術調査結果報告,” 技開資,1990.

(4) 高島:“光ファイバケーブルによる加入者網の高度化と保守 ・ 運用に関する研究,” 1995.

(5) NTTネットワークシステム開発センタ 線路システムプロジェクトグループ:“SM型光ファイバWBケーブル現場技術調査結果,” 1991.

(6) NTTユーザシステム部 線路システムプロジェクグループ 光ケーブルプロジェクト:“加入細径ケーブル及び多心架空光ケーブルの検討結果,” 技開資,1993.

(7) NTT電気通信研究所 線路研究所 加入者線路研究所:“自己支持型光ファイバケーブル仕様書技術資料,” 1986.

(後列左から) 加藤 丈明/ 遠藤 洋平/ 中川 直樹

(前列左から) 尾本  清/ 鉄谷 成且

 光ファイバケーブルの商用開始以降,光サービスの展開に合わせて開発を進めてきました.これからもさまざまなサービス提供を可能とし事業貢献ができる,性能 ・施工性に優れたケーブルを開発していきます.

◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 光アクセス網プロジェクト TEL 029-868-6370 FAX 029-868-6400 E-mail endo.yohei lab.ntt.co.jp