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平成30年度司法書士試験解答解説 三毛猫倶楽部平成30年度 飯島正史著 禁:無断複製ⓒ飯島正史 平成30年度司法書士試験解答解説

平成30年度司法書士試験解答解説 - plala.or.jp-2-記述式 第36問 第1欄 (1) 登記の目的 所有権移転 申登記原因 平成7年4月10日相続 請及びその日付

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平成30年度司法書士試験解答解説

三毛猫倶楽部平成30年度

飯島正史著

禁:無断複製ⓒ飯島正史

平成30年度司法書士試験解答解説

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- Ⅰ -

目次

解答・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

解説

午前の部(択一式) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

午後の部(択一式) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

午後の部(第36問) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53

午後の部(第37問) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

講評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68

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- 1 -

平成30年度司法書士試験解答例

択一式 ※難易度について 「易」=通常の学習によって容易に解答可能

「中」=てこずる場合あり 「難」=正解困難

午前の部 午後の部

問題番号 正解肢 難易度 問題番号 正解肢 難易度

第1問 2 易 第1問 2 易

第2問 3 易 第2問 2 易

第3問 4 中 第3問 2 中

第4問 3 易 第4問 2 易

第5問 3 易 第5問 4 難

第6問 1 易 第6問 2 易

第7問 2 中 第7問 5 易

第8問 5 易 第8問 4 易

第9問 5 易 第9問 5 易

第10問 3 易 第10問 1 易

第11問 4 易 第11問 2 易

第12問 3 易 第12問 3 易

第13問 1 易 第13問 1 易

第14問 5 易 第14問 1 中

第15問 4 中 第15問 1 易

第16問 4 中 第16問 3 易

第17問 5 易 第17問 4 易

第18問 5 易 第18問 5 難

第19問 4 中 第19問 4 易

第20問 3 易 第20問 3 易

第21問 3 易 第21問 4 難

第22問 4 易 第22問 3 中

第23問 4 易 第23問 4 易

第24問 4 易 第24問 4 易

第25問 1 中 第25問 4 中

第26問 5 易 第26問 4 易

第27問 4 易 第27問 4 易

第28問 3 中 第28問 2 易

第29問 2 易 第29問 5 易

第30問 4 中 第30問 4 易

第31問 1 易 第31問 5 易

第32問 5 易 第32問 5 易

第33問 4 中 第33問 4 難

第34問 4 中 第34問 3 易

第35問 5 難 第35問 5 中

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- 2 -

記述式

第36問

第1欄

(1)

登記の目的 所有権移転

申 登記原因 平成7年4月10日相続

請 及びその日付

事 上記以外の 相続人(被相続人 甲山司)

項 申請事項等 持分 6分の3 甲山治子

等 6分の1 甲山一郎

6分の1 亡甲山昭子

上記相続人 甲山治子

6分の1 乙川和子

添付情報 ア、ウ、エ、オ、キ、ク、ケ、コ

(2)

登記の目的 甲山昭子持分全部移転

申 登記原因 平成15年7月15日相続

請 及びその日付

事 上記以外の 相続人(被相続人 甲山昭子)

項 申請事項等 持分 6分の1 甲山治子

添付情報 ウ、エ、キ、ク

第2欄

(1)

登記の目的 共有者全員持分全部移転

申 登記原因 平成30年5月10日売買

請 及びその日付

事 上記以外の 権利者 株式会社カガワソーラー

項 申請事項等 義務者 甲山治子

等 甲山一郎

乙川和子

添付情報 エ、ス、チ、ツ、テ、ヌ、ヒ(民事大介のもの)、ヘ

(2)(X)の欄に記載すべき事実・法律行為

・平成30年4月25日、株式会社カガワソーラーを買主とし、甲山治子、甲山一郎、

乙川和子を売主とする甲土地についての売買契約が締結された。甲山治子は成年被後見

人であるので、成年後見人乙川平太がこれを代理して契約を締結した。

・当該契約には、所有権移転の時期を、買主が売買代金の全額を支払い、売主がこれを

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受領した時とする特約がある。

・上記売買契約について、成年後見人乙川平太に付された成年後見監督人民事大介の同

意は得られている。

・平成30年5月10日、買主が売買代金の全額を支払い、売主がこれを受領した。

・よって、同日、甲土地の所有権が買主である株式会社カガワソーラーに移転した。

第3欄

(1)

登記の目的 地上権設定

申 登記原因 平成30年5月25日設定

請 及びその日付

事 上記以外の 目的 太陽光発電施設所有

項 申請事項等 範囲 東京湾平均海面の上25.50メートルから上3.50メー

等 トルの間

存続期間 252か月

地代 1平方メートル当たり年120円

支払時期 毎年12月末日までに翌年分を前払にて支払う

権利者 株式会社サンエネルギー

義務者 株式会社カガワソーラー

添付情報 セ、ト、ネ、ヒ(株式会社A電力開発のもの)、ヘ、ホ

登録免許税額 金3,700円

(2)

登記の目的 2番地上権根抵当権設定

申 登記原因 平成30年5月25日設定

請 及びその日付

事 上記以外の 極度額 金5,000万円

項 申請事項等 債権の範囲 銀行取引

等 手形債権

小切手債権

債務者 香川市四谷229番地

株式会社サンエネルギー

香川市赤坂29番地

株式会社カガワソーラー

根抵当権者 株式会社B銀行

(取扱店 香川支店)

設定者 株式会社サンエネルギー

添付情報 ソ、ノ、ホ、ム

登録免許税額 金20万円

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第37問

第1欄

【登記の事由】

会社継続

取締役、代表取締役及び監査役の変更

取締役会設置会社の定め設定

監査役会設置会社の定め設定

支配人の選任

【登記すべき事項】

平成30年5月30日会社継続

同日次の者重任

監査役 C

同日次の者就任

取締役 A

取締役 B

取締役 E

東京都港区甲町1番地

代表取締役 A

監査役 F

監査役(社外監査役)D

監査役(社外監査役)G

同日取締役会設置会社の定め設定

同日監査役会設置会社の定め設定

支配人の氏名及び住所

大阪市中央区丙町1番地

支配人を置いた営業所

大阪市中央区北町一丁目1番1号

【登録免許税額】

金10万円

【添付書面の名称及び通数】

株主総会議事録 1通

株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)1通

取締役会議事録 1通

就任承諾書 7通

代表取締役の就任の承諾を証する書面については取締役会議事録の記載を援用する。

印鑑証明書 7通

委任状 1通

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第2欄

【登記の事由】

取締役及び代表取締役の変更

支配人の代理権消滅

株式無償割当て

【登記すべき事項】

平成30年6月20日次の者就任

大阪市中央区丙町1番地

代表取締役 B

平成30年6月26日取締役E死亡

同日次の者就任

取締役 H

平成30年6月20日支配人B辞任

平成30年6月27日変更

発行済株式の総数 700株

【登録免許税額】

金7万円

【添付書面の名称及び通数】

株主総会議事録 1通

株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)1通

取締役会議事録 1通

死亡届 1通

就任承諾書 2通

印鑑証明書 1通

本人確認証明書 1通

委任状 1通

第3欄

株式の譲渡制限に関する規定の廃止

非公開会社が定款を変更して公開会社となる場合、発行可能株式総数は当該定款の変更

が効力を生じた時における発行済株式の総数の4倍を超えることができない。設問会社

の発行可能株式総数は3000株であり、発行済株式の総数(株式無償割当てにより、

定款変更の時点(平成30年6月28日)では700株になっている。)の4倍を超え

ている。したがって、この定款変更は無効であり、登記をすることはできない。

第4欄

発行可能株式総数を、発行済株式の総数の4倍である2800株以下に引き下げる定款

変更

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平成30年度司法書士試験解説

午前の部

午前の部第1問 正解2

ア 正しい。少年法61条が禁止している報道(推知報道)に当たるか否かの判断は、そ

の記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知すること

ができるかどうかを基準にしてするべきである( 判平15.3.14)。

イ 誤り。前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値す

る場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科

等にかかわる事実を実名を使用してノンフィクション作品等の著作物で公表したことが

不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の

歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力に

ついて、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判

断すべきである(「逆転」事件判決、 判平6.2.8)。実名を明らかにすることが

絶対に許されないわけではないから、本肢は誤りである。

ウ 誤り。大学が、外国要人の講演に参加する学生の氏名等を無断で警察に提供した行為

が、学生のプライバシー権の侵害ではないかが問題となった(私立大学と学生の関係で

あるので、直接的には不法行為の問題である。)。 高裁判所は、「氏名、住所、電話等

の個人情報は、プライバシー情報として法的保護に値し、本人の同意なく無断で警察に

提供することはプライバシー侵害による不法行為になる」と判示した( 判平15.9.

12)。

エ 誤り。市町村が住民の情報を住基ネットに提供した行為に対して、住基ネットはデー

タマッチングや名寄せにより住民のプライバシー権の侵害の具体的危険を発生させると

して住民が提供の差止め又は国家賠償を求めた。 高裁判所は、「プライバシー権の具

体的危険が発生しているとは言えない」と判示した( 判平20.3.6。住基ネット

事件判決)。

オ 正しい。外国人が指紋押捺を強制され拒んだため制裁を受けた際、そもそも指紋押捺

を強制した外国人登録法はプライバシー権の侵害ではないかが問題となった。 高裁判

所は、「指紋押捺は、採取された指紋の利用方法次第では、プライバシーが侵害される

危険性がある。指紋押捺を強制されない自由は外国人にも及ぶ。しかしながら、公共の

福祉のため必要がある場合には相当の制限を受ける。指紋押捺を義務づけた外国人登録

法は合憲である」と判示した( 判平7.12.15)。制限を受けるにしても指紋押

捺を強制されない自由は外国人にも及ぶから、本肢は正しい。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★判例問題(プライバシー権)。難易度:易。全部の判例を知らなくとも、イウエ又はウ

エオの判例を知っていれば正解可能である。

午前の部第2問 正解3

ア 誤り。憲法14条1項は、基本原則である平等原則の宣言であり、同項に基づいて具

体的に金銭の給付を求めることは認められない。

イ 正しい。憲法14条1項の「法の下の平等」の「平等」は絶対的平等ではなく、事柄

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の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いを許容する相対的平等である。

ウ 正しい。憲法14条1項の「信条」とは、宗教的信条を意味するにとどまらず、広く

思想上、政治上の信条を含む( 判昭30.11.22)。

エ 誤り。憲法14条1項の「人種……又は門地」は、限定的ではなく、例示的に列挙し

たものである。

オ 誤り。憲法14条1項の社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位を

いうものと解されるから、高齢であるということは、同項の社会的身分には当らない

( 判昭39.5.27)。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★判例問題(法の下の平等)。難易度:易。アイエの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第3問 正解4

ア 「目的」が入る。上乗せ条例(法律よりも重く処罰する条例)、横出し条例(法律が

処罰しない行為を処罰する条例)が、「法律の範囲内」と言えるかが問題となる。 高

裁判所は、「条例が国の法令に違反するかどうかは、競合する条例と法律の趣旨、目的、

内容、効果を比較し、両者に矛盾抵触があるかどうかによって決せられる」とする(

判昭50.9.10)。

イ 「いかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨」が入る。 高裁判所は、

「横出し条例は、法律における処罰規定の欠如が当該事項についていかなる規制をも施

すことなく放置すべきものとする趣旨であれば法令に違反する」とする( 判昭50.

9.10)。

ウ 「全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨」が入る。 高裁判所は、「上乗せ条例

は、条例の規制目的が競合する法律と異なる場合は法令に違反せず、規制目的が同じ

でも法律が全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方

公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨

であればやはり法令に違反しない」とする( 判昭50.9.10)。

エ 「地方の実情に応じて別段の規制を施すことを容認する趣旨」が入る。ウ参照。

オ 「相当な程度に具体的であり、限定されておれば足りると解される」が入る。条例で

罰則を定めることが、憲法31条との関係で問題となる。 高裁判所は、「憲法31条

は、必ずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものではな

く、法律の授権によって法律以下の法令(条例を含む。)によって定めることができる

と解すべきで、このことは、憲法73条6号(政令には法律の委任がなければ罰則を設

けることはできない。)からも明らかである」とし、「条例は、法律以下の法令といっ

ても、公選議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自主立法

であって法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授

権が相当な程度に具体的であり、限定されておれば足りると解される」と判示した(限

定的法律授権説。 判昭37.5.30)。

よって、語句の組合せとして も適切なものは4であり、4が正解となる。

★判例問題(条例制定権)。難易度:中。問われている判例は重要判例である。1~5ま

での各肢に、ア~オの語句の候補が二個ずつある。それを比較して選択していけば正解

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は容易である。

午前の部第4問 正解3

ア 正しい。被保佐人が、不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為

をすることは保佐人の同意を要する行為である(民法13条1項3号)。したがって、

被保佐人が保佐人の同意を得ないでその所有する土地を第三者に売却した場合、被保佐

人又は保佐人は、当該売却行為を取り消すことができる。被保佐人が取り消すことので

きる行為を取り消す場合、保佐人の同意を要しない。

イ 誤り。詐欺による法律行為は取り消すことができる。しかし、本肢の売買代金債権の

譲渡は、法定追認事由(取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一

部の譲渡)にあたる。したがって、Aは、詐欺を理由として甲土地の売買契約を取り消

すことはできない。

ウ 誤り。強迫による法律行為は取り消すことができる。法律行為を取り消すと、遡って

法律行為はなかったことになるから、本肢のBは無権利者となり、無権利者から承継し

たCも無権利者となる。強迫の場合は詐欺の場合のような第三者保護規定はないから、

Cが登記を得ていても、Aは甲土地の売買契約を取り消して、Cに対して甲土地の返還

を請求することができる。

エ 正しい。意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効である(民法95

条本文)。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主

張することができない(民法95条但書)。その場合であっても、相手方が表意者に錯

誤があることにつき悪意である場合は、これを保護する必要はないから、表意者は、重

過失があっても無効を主張することができる(95条但書の適用はない。判例通説。内

田第四版P69、四宮第四版P178)。

オ 正しい。本肢のAB間の甲土地の売買契約は虚偽表示である。虚偽表示によってなさ

れた意思表示は、無効である(民法94条1項)。ただし、虚偽表示で無効となった場

合に、善意の第三者が現れた場合は、虚偽表示をした者は、無効であることをもって当

該第三者に対抗することはできない(2項)。したがって、本肢のAは、善意の第三者

Cに対して、虚偽表示を理由に甲土地の返還を請求することができない。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文問題(民法総則・意思表示)。難易度:易。アイウの正誤の判断で、正解が可能で

ある。

午前の部第5問 正解3

ア 誤り。本人について破産手続開始の決定があったことは、代理権の消滅原因ではない

が委任契約の終了原因である。委任契約が終了すると、委任による代理権は消滅するか

ら、本肢の場合、結局Bの代理権は消滅することとなる。

イ 正しい。復代理権は、原代理権を基礎としているから、本肢の場合、原代理人Bの代

理権が消滅すると、Cの復代理権は消滅する。

ウ 誤り。本肢の代理行為は双方代理にあたり、無効である。無効な代理行為は追認する

ことができる。

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エ 誤り。代理人が権限を濫用(代理人が代理権の範囲内で、自己又は第三者を利する意

図で代理行為をすること。本肢はこれにあたる。)した場合、判例は、心裡留保の規定

を類推適用し、相手方が代理人の真意を知り又は知り得べき場合(悪意又は有過失)は

代理行為は無効であり、本人に履行を請求することはできない、とした( 判昭42.

4.20)。したがって、本肢のCに過失があった場合は代理行為は無効であるから本

肢は誤りである。

オ 正しい。意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと

若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合(善

意無過失を要件とする即時取得の成否はこの場合にあたる。)には、その事実の有無は、

代理人について決せられる(代理人が基準となる。民法101条1項)。ただし、特定

の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行

為をしたときは(本肢はこの場合にあたる。)、本人は、自ら知っていた事情について

代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかっ

た事情についても、同様である(本人が基準となる。民法101条2項)。したがって、

本肢のAが善意無過失でなければAは乙絵画を即時取得することはできない。

よって、正しい肢はイとオであり、3が正解となる。

★条文判例問題(民法総則・代理)。難易度:易。基本を問うアイの正誤の判断で、正解

が可能である。

午前の部第6問 正解1

ア 誤り。相続財産(本肢の貸金債務は相続財産である。)に関しては、相続人が確定し

た時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から6か月を経過する

までの間は、時効は、完成しない(民法160条)。遺産分割から6か月ではない。

イ 正しい。売主が代金の支払期限が到来したので催告をした場合、これは時効の中断事

由たる催告にあたる。自己の債務の履行をしていなくとも同じである。ただし、催告か

ら6か月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しく

は家事事件手続法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、

差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない(民法153

条)。本肢の場合、催告から6か月以内に支払督促の申立てをしているから、売買代金

支払債務の消滅時効は中断する。

ウ 誤り。承認は、時効の中断事由である。時効の中断効を生ずべき承認をするには、相

手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない(民法156

条)。したがって、被保佐人は、保佐人の同意なく、中断事由たる承認をすることがで

きる。この点、時効の利益の放棄と異なる。しかし、管理能力(権限)は要するから、

例えば、未成年者が法定代理人の同意なくしてした承認は取り消すことができ、取り消

されると、中断効は失効する(大判大13.2.4)。

エ 正しい。共同不法行為者は不真正連帯債務を負う。不真正連帯債務者の一人について

生じた事由は弁済等を除いては他方に影響しないから、被害者(債権者)Cが共同不法

行為の一人であるAに対して裁判上の請求をしてCA間の損害賠償債権の消滅時効が中

断しても、CB間の損害賠償債権の消滅時効は中断しない。

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平成30年度司法書士試験解答解説

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オ 正しい。取得時効は、占有者が任意にその占有を中止し、又は他人によってその占有

を奪われたときは、中断する(民法164条)。ただし、占有を奪われた場合に占有回

収の訴えを提起し、占有を回復すれば、中断はなかったこととなる。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文判例問題(民法総則・時効の中断)。難易度:易。アウの正誤の判断で、正解が可

能である。ウについて被保佐人と未成年者を混同した場合は、アエの正誤の判断で、正

解が可能である。

午前の部第7問 正解2

ア 正しい。土地所有権に基づく物権的請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求す

る場合において、建物の現実の所有者と登記名義人が異なる場合、請求の相手方となる

のは原則として現実の所有者だが、自らの意思で所有権登記を経由した者は現所有者で

なくても相手方となる( 判平6.2.8)。本肢のCは、自己名義の登記について承

諾をしているが「自らの意思で所有権登記を経由した者」にはあたらないから、Aは、

Cに対して建物収去・土地明渡しの請求をすることはできない。

イ 誤り。本肢の所有権登記名義人Bは、「自らの意思で所有権登記を経由した者」には

あたらないから、Aは、Bに対して建物収去・土地明渡しの請求をすることはできない。

ウ 誤り。増築部分が建物の構成部分になった場合は、当該増築部分の撤去を求めること

はできない。

エ 正しい。物権的請求権の相手方は、現に占有等によってその侵害又はそのおそれを生

じさせている者であり、その者に責任能力があることは要件ではない(この点、不法行

為による損害賠償請求とは異なる。)。したがって、本肢のBは、Aに対して、予防措

置を請求することができる(妨害予防請求権(物権的請求権の一種)を行使することが

できる。)。

オ 誤り。譲渡担保の設定者(本肢のA)は、不法占拠者(C)に対して建物収去・土地

明渡しを請求することができる( 判昭57.9.28。設定者に所有権が留保される

とする担保的構成の帰結である。)。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★判例問題(民法物権・物権的請求権)。難易度:中。アのCが「自らの意思で所有権登

記を経由した者」にあたるか否かで悩んだ受験生がいたかもしれない。オの譲渡担保に

関する判例を知っていればウエオの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第8問 正解5

ア 誤り。即時取得の要件の一つは、取得者が平穏・公然と動産の占有を始めた者であり、

かつ、善意無過失であることである。この要件は、取得者が占有を開始したとき(引渡

しを受けたとき)に備わっていなければならない。

イ 誤り。本来、平穏、公然、善意、無過失は即時取得者が立証責任を負うべきである。

しかし、占有は平穏、公然、善意であると推定され(民法186条1項)。また、占有

者は権利者であると推定されるから(民法188条)、その者と取引をした者の無過失

も推定される( 判昭41.6.9)。したがって、これらの要件の立証責任は、即時

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平成30年度司法書士試験解答解説

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取得によって権利を失う者が負う。

ウ 誤り。即時取得は、取引の安全を図るための制度であるから、取引による取得である

ことが要件である。取引自体は、有効な瑕疵のないものでなければならない。錯誤によ

る無効な取引、制限行為能力や詐欺・強迫により取り消された取引、無権代理のため無

効な取引の相手方は、即時取得で保護されない。

エ 正しい。意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと

若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合(善

意無過失を要件とする即時取得の成否はこの場合にあたる。)には、その事実の有無は、

代理人について決せられる(代理人が基準となる。民法101条1項)。本肢の場合、

代理人Cが善意有過失であれば、Cに代理権を与えた代表取締役Bが善意無過失であっ

たとしても、即時取得は成立しない。

オ 正しい。即時取得できる権利は所有権と質権である。動産について権利を有しない者

が当該動産に質権を設定した場合において、債権者が善意無過失で引渡しを受ければ当

該債権者は質権を取得する。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文判例問題(民法物権・即時取得)。難易度:易。アイの正誤の判断で、正解が可能

である。

午前の部第9問 正解5

1 誤り。所有者が、囲繞地通行権を主張するために登記を経ている必要はない( 判昭

47.4.14)。対抗問題ではないからである。

2 誤り。分割(共有物分割)によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の

所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場

合においては、償金を支払うことを要しない(民法213条1項)。

3 誤り。自動車による通行を前提とする囲繞地通行権の成否及びその具体的内容は、他

の土地(通行されることとなる土地)について自動車による通行を認める必要性、周辺

の土地の状況、自動車による通行を前提とする囲繞地通行権が認められることにより他

の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである( 判平18.

3.16)。このように、自動車による通行を前提とする囲繞地通行権は成立する余地

があるから、本肢は誤りである。

4 誤り。隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除

させることができる(民法233条1項)。自ら切り取ることができるわけではないか

ら、本肢は誤りである。

5 正しい。土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕

するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる(民法209条1項本文)。

よって、正しい肢は5であり、5が正解となる。

★条文判例問題(民法物権・相隣関係)。難易度:易。択一問題であるが、相隣関係に関

する重要ポイントを問うものであり、解答は容易である。

午前の部第10問 正解3

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平成30年度司法書士試験解答解説

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ア 誤り。各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(処分を含む。)

を加えることができない(民法251条)。変更(処分)以外の共有物の管理に関する

事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各

共有者がすることができる(民法252条)。共有物の賃貸契約の解除は、処分行為で

はなく管理行為であり、共有者全員ですることを要さず、持分価格の過半数で決するこ

とができる( 判昭39.2.25)。

イ 正しい。各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する

負担を負う(民法253条1項)。共有者の一人が共有物について他の共有者に対して

有する債権は、その特定承継人に対しても行使することができる(民法254条)。例

えば、他の共有者が負担すべき管理費用を立て替えた場合は、当該他の共有者から持分

を譲り受けた者に対して、償還請求をすることができる。本肢の場合、Bが持分に応じ

て負担すべき管理費用をAが立て替えたのであるから、AはBに対し立替金の償還請求

権を有し、この請求権はBの承継人であるDに対して行使することができる。

ウ 正しい。各共有者は、自己の持分の処分(譲渡、担保権設定等)を自由にすることが

できる。

エ 誤り。共有物に対する不法行為による損害賠償請求権は、各共有者が自己の持分につ

いてのみ行使することができ、各共有者が全損害額の賠償を請求することはできない(

判昭41.3.3、 判昭51.9.7)。単独でも自己の持分については行使するこ

とができるから、「単独では、損害賠償を求めることができない」とする本肢は誤りで

ある。

オ 誤り。共有者の一部が他の共有者の同意を得ることなく共有物に変更を加える行為(共

有山林の伐採行為は、変更行為の例である。)をしている場合には、他の共有者は、各

自の持分権に基づいて、当該行為の全部の禁止(宅地造成や伐採の禁止等)を求めるこ

とができ、さらに、共有物を原状に復することが不能であるなどの特段の事情がある場

合を除き、当該行為により生じた結果を除去して共有物を原状に復させること(畑に戻

すこと等)を求めることができる( 判平10.3.24)。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文判例問題(民法物権・共有)。難易度:易。共有に関する重要ポイントを問う出題

である。アイウの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第11問 正解4

ア 正しい。地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によっ

て消滅する(民法293条)。

イ 誤り。地役権の対価について、民法に規定はないが、判例は、地役権は無償に限る、

としている(大判昭12.3.10)。

ウ 正しい。土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、

これを取得する(民法284条1項)。

エ 誤り。地役権は、要役地の所有権(要役地の用益権者が地役権者である場合は当該用

益権。以下、同じ。)に従たるものとして(付従性)、その所有権とともに移転し、又

は要役地について存する他の権利の目的となる(随伴性。民法281条1項本文)。し

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平成30年度司法書士試験解答解説

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たがって、要役地の所有権が移転すると、随伴性を排する特約がある場合を除き(但書)、

地役権もともに移転する。この場合の地役権移転の対抗要件は、要役地の所有権移転登

記である(大判大13.3.17)。地役権の移転登記をすることはできない。

オ 正しい。地役権に対する侵害に対しては、物権的請求権(妨害排除請求権と妨害予防

請求権)を行使することができるが、占有する権利ではないので、返還請求権はない。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(民法物権・地役権)。難易度:易。地役権に関する重要ポイントを問う

出題である。アイウの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第12問 正解3

ア 誤り。民法の規定する担保物権の中で留置的効力を有するのは、留置権と質権である。

イ 正しい。民法の規定する約定担保物権は質権と抵当権であり、いずれも優先弁済的効

力を有する。

ウ 誤り。一般の先取特権も、担保物権の不可分性を有する。

エ 正しい。動産上の先取特権(一般の先取特権と動産の先取特権)は、債務者がその目

的である動産をその第三取得者に引き渡した後は(第三者対抗要件がとられた後は)、

その動産について行使することができない(民法333条)。すなわち、第三者への譲

渡+引渡しで先取特権は消滅する。

オ 誤り。担保物権の成立における付従性からいえば、被担保債権の成立前に抵当権が成

立することはないはずだが、成立における付従性は緩和されており、被担保債権より先

に抵当権が成立することもありうる。例えば、被担保債権の成立が、抵当権設定よりも

3か月、4か月先であっても抵当権は有効たりうる(大判昭5.11.19)。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文判例問題(民法担保物権・担保物権の性質)。難易度:易。担保物権の性質に関す

る基本を問う出題である。アイエの正誤の判断で、正解が可能である。エの「対抗要件」

が「引渡し」をさすのか迷った場合であっても、アイオの正誤の判断で、正解が可能で

ある。

午前の部第13問 正解1

ア 正しい。留置権者は、債務者(債務者と所有者が異なる場合は所有者)の承諾を得な

ければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物

の保存に必要な使用をすることは、この限りでない(民法298条2項)。留置権者は、

留置物から生ずる果実(債務者の承諾を得て賃貸した場合の賃料を含む。)を収取し、

他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる(民法297

条1項)。

イ 正しい。留置権者が債務者の承諾を得ないで留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供

じた場合、債務者(所有者)は、留置権の消滅を請求することができる(民法298条

3項)。

ウ 誤り。留置権は、占有が要件であり、占有を失うと消滅するから(民法302条)、

占有を奪われた場合は留置権に基づく返還請求はできず、占有回収の訴えが提起できる

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平成30年度司法書士試験解答解説

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のみである(道垣内第2版P35)。

エ 誤り。留置物の所有者からの返還請求訴訟において留置権を主張した場合、当該主張

は、留置権の被担保債権についての催告としての効力を有し、この催告の効力は訴訟手

続中継続し、裁判が終了してから6か月以内に訴えの提起等をすることによって、時効

の中断効を維持することができる。

オ 誤り。留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさ

せることができる(民法299条1項)。価格の増加の有無は関係ない。なお、留置権

者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合

に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。

ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与すること

ができる(民法299条2項)。

よって、正しい肢はアとイであり、1が正解となる。

★条文問題(民法担保物権・留置権)。難易度:易。留置権に関する基本的な条文知識を

問うアイの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第14問 正解5

ア 誤り。抵当権者は、詐害的転貸等賃借人(転貸人)を所有者と同視しうる場合を除き、

転貸料債権に対して物上代位をすることはできない( 判平12.4.14)。

イ 誤り。抵当権の効力が及ぶ目的物の範囲(物理的範囲)は、抵当不動産に付加して一

体となっている物(付加一体物)である。付合物は付加一体物である。ただし、権原に

よって付合させた付合物の所有権が付合させた者に留保された場合は、(少なくとも所

有権留保について対抗要件を備えていれば)その後に設定された抵当権の効力は当該付

合物には及ばない。本肢の場合、付合(ガラス戸の設置)よりも先に抵当権設定登記が

なされているから、Cは所有権留保をもって抵当権者Aに対抗することはできない。そ

もそも、雨戸、ガラス戸のような建物内外を遮断する物は抵当建物の一部であって独立

性を有していないから、所有権の留保の対象にはならない。

ウ 正しい。取り外すことのできる庭石、石灯籠、畳、ガソリンスタンドの地下タンク・

洗車機等は、抵当権の目的である土地・建物の従物である。抵当権設定当時の従物には、

抵当権の効力が及ぶ( 判昭44.3.28)。抵当権の効力が及んでいる物が不法に

搬出されようとしている場合、抵当権者は、搬出禁止を請求することができる(大判昭

6.10.21)。

エ 誤り。抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた

抵当不動産の果実(賃料を含む。)に及ぶ(民法371条)。したがって、抵当権者は

当該果実に対して担保不動産収益執行又は物上代位をすることができる。しかし、設定

者(B)はこれらの実行方法がとられる前であれば賃料を受領することができ、受領し

た賃料は不当利得とはならない。

オ 正しい。抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当建物の使用又は収益を

する者であって次に掲げるもの(抵当建物使用者)は、その建物の競売における買受人

の買受けの時から6か月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しな

い。

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①競売手続の開始前から使用又は収益をする者

②強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により

使用又は収益をする者

本肢のBC間の賃貸借は抵当権者に対抗できないものであり、賃借人Cは①に該当す

るから、買受けの時から6か月を経過するまでCの買受人Dに対する引渡しは猶予され

る。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★判例問題(民法担保物権・抵当権の効力)。難易度:易。抵当権に関する重要判例の知

識を問うアイの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第15問 正解4

ア 誤り。動産譲渡担保が同一の目的物に重複して設定されている場合において、後順位

譲渡担保権者は、譲渡担保を実行(私的実行)をすることはできない(所有権を主張し

て引渡しを請求することはできない。 判平18.7.20)。

イ 正しい。集合動産譲渡担保の設定者が、目的動産につき、通常の営業の範囲を超える

売却処分をした場合は、処分された動産が当該譲渡担保の目的である集合物から離脱し

たと認められない限り、処分の相手方は目的物の所有権を取得することはできない(

判平18.7.20)。本肢の場合、Cに対する売却処分は通常の営業の範囲を超えて

おらず、売却された鋼材はCの管理倉庫に搬入されている(集合物から離脱したとみる

ことができる)から、Cは当該鋼材の所有権を取得し、Aは、これに対して譲渡担保権

を実行することはできない。

ウ 誤り。本肢のBは、甲倉庫内の商品全部につきAのために集合動産譲渡担保を設定し、

設定当初にAへの占有改定による引渡しをしていた。この場合において、CがBに動産

を売却すると、Cは当該動産の売却代金につき動産売買の先取特権を取得するが、当該

動産が甲倉庫に入庫した時点でAの譲渡担保の目的となり、引渡し(占有改定)をした

ことにもなるので、当該先取特権は消滅する(譲渡+引渡し=動産上の先取特権消滅)。

Cが先取特権に基づき当該動産について競売の申立てをしたときは、Aは、特段の事情

がない限り第三者異議の訴えを提起することができる( 判昭62.11.10)。

エ 正しい。譲渡担保が担保する被担保債権の利息については、抵当権のような制限(満

期となった 後の2年分に限る。)はない。

オ 誤り。譲渡担保権者が譲渡担保の目的物を被担保債権の弁済期後に第三者に譲渡した

場合、債務者(設定者)は、目的物を受け戻すことはできない。弁済期後は、譲渡担保

権者は処分権限を取得し有効に処分することができ、処分(譲渡)した場合、譲受人は

確定的に所有権を取得する( 判平6.2.22)。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★判例問題(民法担保物権・譲渡担保)。難易度:中。譲渡担保に関する重要判例からの

出題である。譲渡担保に関する学習をきっちりしていれば、アイウの正誤の判断で、正

解が可能である。

午前の部第16問 正解4

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ア 誤り。被保全債権が詐害行為前に成立した債権であることは、詐害行為取消権の要件

の一つである。被保全債権の成立時期が詐害行為前であれば、履行期が到来しているか

否かは関係ない( 判昭46.9.21。債権者代位権と異なる。)。

イ 誤り。特定物債権が詐害行為取消権の被保全債権になるかについて、 高裁判所は、

「特定物引渡債権と言えどもその目的物を債務者が処分することにより無資力となった

場合には、当該特定物債権者は当該処分行為を詐害行為として取り消すことができるも

のと解することを相当とする。けだし、かかる債権も、究極において損害賠償債権に変

じうるのであるから、債務者の一般財産により担保されなければならないことは、金銭

債権と同様だからである」と判示している。したがって、詐害行為がなされた時点では

特定物債権は金銭債権である必要はないが、詐害行為取消権を行使する時点では特定物

債権は金銭債権に変じていなければならない(内田第3版P303)。

ウ 正しい。詐害行為取消権の行使のためには、詐害行為取消しの訴えの被告である受益

者又は転得者が悪意(債権者を害することを知っていること)でなければならない(民

法424条1項但書)。転得者が現れている場合において、受益者が悪意で、転得者が

善意の場合、債権者は、転得者に対して詐害行為取消権を行使して財産の返還を請求す

ることはできない。受益者に対して詐害行為取消権を行使して財産の価額の償還(価額

賠償)を請求することができる(大判明44.3.24)。

エ 正しい。詐害行為取消権の法的性質について、判例は折衷説をとっている。折衷説に

おいては、詐害行為取消権による取消しの効果は相対的であり(総則の取消しとは異な

る。)、債務者にとっては無効ではない。したがって、債務者は、取消しを前提とする

請求をすることはできない。

オ 誤り。一部の債権者に対する弁済は、プラス・マイナスがゼロだから、詐害行為と言

えるかが問題となる。判例は、原則として詐害行為とならないが、債務者が一部の債権

者と通謀して他の債権者を害する意思で弁済したときは詐害行為となる、としている(

判昭33.9.26)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★判例問題(民法債権総論・詐害行為取消権)。難易度:中。イの正誤の判断は困難であ

ったかもしれない。また、エ(詐害行為取消権の効果は相対的無効)については、詐害

行為取消権の法的性質についてしっかり学習をしていなければ解答は困難であったかも

しれない。それでもウオの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第17問 正解5

ア 正しい。外国の通貨で債権額を指定したときであっても、債務者は、履行地における

為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる(民法403条)。

イ 正しい。当事者が反対の意思表示(特約)をした場合は、利害関係の有無にかかわら

ず、第三者の弁済は禁止される(民法474条1項但書)。なお、その場合と債務の性

質が許されない場合以外の場合は、利害関係人ある第三者は債務者の意思に反しても弁

済することができる。

ウ 誤り。債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをす

べき時の現状でその物を引き渡さなければならない(民法483条)。

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エ 誤り。債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、債権発生の時に

その物が存在した場所において、弁済(引渡し)をしなければならない(民法484条)。

オ 正しい。弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負

担となる(民法485条本文)。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁

済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担となる(但書)。

よって、誤っている肢はウとエであり、5が正解となる。

★条文問題(民法債権総論・弁済)。難易度:易。基礎的な条文問題である。アイの正誤

の判断で、正解が可能である。

午前の部第18問 正解5

ア 誤り。解除の意思表示には、条件や期限を付すことができない。しかし、「催告期間

内に履行がないときは契約を解除する」旨の条件は許される(大判明43.12.9)。

イ 誤り。付随的債務の不履行によっては、原則として解除権は発生しない。

ウ 誤り。売買の目的である不動産について登記をした賃貸借があった場合において、買

主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、

買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることが

できないときは、損害賠償の請求のみをすることができる(民法566条2項、1項)。

契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければな

らない(3項)。引渡しを受けた時からではないから、本肢は誤りである。

エ 正しい。当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全

員に対してのみ、することができる(民法544条1項)。この場合において、解除権

が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する(2項)。

また、解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷

し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれ

を他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する(民法548条1項)。したがっ

て、買主の一人の過失によって売買の目的物を返還することができなくなった場合は、

その買主のみならず、他の買主の解除権も消滅する。

オ 正しい。他人物売買において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転するこ

とができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契

約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求を

することができない(民法561条)。また、売買契約が解除された場合に、目的物の

引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用し

たことによる利益(使用利益)を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、

他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転するこ

とができず、民法561条の規定により該契約が解除された場合についても同様であ

る( 判昭51.2.13)。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文判例問題(民法債権各論・契約の解除)。難易度:易。正解肢であるエにはややて

こずるかもしれない。オにはかなり手こずるかも知れないが、基本的な知識を問うア

イの正誤の判断で、正解が可能である。

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午前の部第19問 正解4

ア いずれの場合であっても正しいことにならない。委任契約は、各当事者がいつでも

その解除をすることができる(民法651条1項)。ただし、当事者の一方が相手方に

不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しな

ければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない(2項)。

このように、委任契約の当事者は、相手方にとって不利な時期であっても損害賠償をす

ればやむを得ない事由がなくとも解除することができるから、本肢は委任契約にはあて

はまらない。また、請負契約の当事者でいつでも契約を解除することができるのは注

文者に限られる(請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償し

て契約の解除をすることができる。民法641条)。しがって、本肢は請負契約にもあ

てはまらない。

イ いずれの場合であっても正しいことにならない。委任契約も請負契約も、書面です

る必要はない。

ウ 委任契約である場合に正しいことになる。委任契約は、有償契約のもの(委任者が

報酬を支払うもの)と、無償契約(委任者が報酬を支払わないもの)がある。これに

対し、請負契約は、当事者の一方(請負人)がある仕事を完成することを約し、相手

方(注文者)がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって成

立する契約であって(民法632条)、注文者は必ず報酬を支払うから、有償契約に限

られる。

エ 委任契約である場合に正しいことになる。委任契約の解除には遡及効はない(65

2条、620条)。これに対し、請負契約の解除について遡及効を否定した規定はない。

オ いずれの場合であっても正しいことにならない。委任契約の受任者が後見開始の審

判を受けると委任契約は終了するが(民法653条)、委任者が後見開始の審判を受け

ても委任契約は終了しない。また、請負契約においては、当事者のいずれが後見開始

の審判を受けても請負契約は終了しない。

よって、委任契約である場合に正しいことになる肢はウエであって、4が正解となる。

★条文問題(民法債権各論・委任と請負)。難易度:中。アについて、相手方の不利な時

期に委任契約を解除するには損害賠償を要するということを、やむを得ない事由を要

すると誤解すると正解が困難となる。アを切ることができればイは簡単に切れるから、

後はエオの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第20問 正解3

ア 誤り。夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記を

しなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない(民法756条)。

イ 正しい。夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すこ

とができる(撤回することができる。民法754条本文)。ただし、夫婦関係破綻中に

した契約、及び、破綻する前にした契約であっても破綻した後は、取り消すことはでき

ない(大判昭19.10.5、 判昭42.2.2)。

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平成30年度司法書士試験解答解説

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ウ 誤り。夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特

有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)となる(民法762条1項、夫婦別

産制)。夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定さ

れる(2項)。夫婦の一方が相続によって取得した財産は、当該相続人に属することが

明らかであるから、共有とは推定されない。

エ 正しい。夫婦は、日常の家事に関して、互いに代理権(一種の法定代理権)を有する

( 判昭44.12.18)。日常家事に関して夫婦が連帯責任を負う(民法716条

本文)のはそのためである。

オ 誤り。夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を

分担する(民法760条)。夫婦が別居し、又は夫婦関係が破綻していても、婚姻関係

が継続している限り費用分担義務はなくならない(東京高判昭53.12.14)。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

★条文判例問題(民法家族法・夫婦の財産関係)。難易度:易。基本的な知識を問うアイ

の正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第21問 正解3

ア 誤り。父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の

承諾を得なければならない(民法783条1項)。

イ 正しい。子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実(無効)を主張すること

ができる(民法786条)。

ウ 正しい。成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない(民法7

82条)。

エ 誤り。認知者は、民法786条に規定する利害関係人(イ参照)に当たり、自らし

た認知の無効を主張することができる。この理は、認知者が血縁上の父子関係がない

ことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない( 判平26.1.

14)。

オ 誤り。婚姻中父母が認知した子は、嫡出子の身分を取得する(認知準正。民法78

9条2項)。認知準正の効力発生時期については、説が分かれる。条文は、「認知の時

から」とするが、婚姻の時に準正の効力を生じさせるのが戸籍実務である(昭42.3.

8民甲373号)。いずれにせよ、「子の出生のときに遡って」とする本肢は誤りであ

る。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文判例問題(民法家族法・認知)。難易度:易。基本的な知識を問うアイウの正誤の

判断で、正解が可能である。

午前の部第22問 正解4

ア 誤り。共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他

の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受ける(取り戻す)

ことができる(民法905条1項)。相続分の取戻しは、相続分の譲渡から1か月以内

にしなければならない(2項)。本肢は「遺産の分割が終了するまでの間であればいつ

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平成30年度司法書士試験解答解説

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でも」とするから誤りである。

イ 誤り。相続財産である現金は、遺産分割まで共同相続人の共有に属するのであり、相

続人に当然には分割帰属しない。したがって、当該現金を保管している共同相続人の一

人に対して、他の共同相続人は、自己の分の支払いを求めることはできない( 判平4.

4.10)。

ウ 正しい。共同相続した賃貸不動産の相続開始から遺産分割までの賃料債権は、各相続

人が相続分に応じて確定的に取得し、当該不動産の遺産分割によっても影響は受けない

(遡及しない。 判平17.9.8)。

エ 正しい。特定の遺産の持分の譲渡を受けた第三者と他の相続人との共有関係は物権共

有であり、その分割方法は遺産分割ではなく共有物分割である。したがって、裁判所に

分割を請求する場合は、通常裁判所に共有物分割の請求をしなければならない。

オ 誤り。被保佐人が遺産分割をする場合は、保佐人の同意を得なければならない(民法

13条1項6号)。

よって、正しい肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(民法家族法・共同相続)。難易度:易。基本的な知識を問うアイウの正

誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第23問 正解4

1 誤り。相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人となる(擬制され

る。民法951条)。法人の成立時期は、被相続人死亡の時である(基本コンメ第四版

P153)。

2 誤り。相続人のあることが明らかになったときは、相続財産法人は、成立しなかった

ものとみなされる。ただし、相続財産管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない

(民法955条)。したがって、本肢の売買の効力は妨げられず、相続人は買主に対し

て返還請求をすることはできない。

3 誤り。相続人捜索公告で定めた期間内に相続人としての権利を主張する者がないとき

は、相続人並びに相続財産管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を

行使することができない(失権する。民法95条の2)。したがって、本肢の債権者は

失権するから、相続財産管理人はこれに弁済をすることを要しない。

4 正しい。相続財産全部の包括受遺者がある場合は、相続人不存在とはならない( 判

平9.9.12)。

5 誤り。本肢の相続人は失権するから(3参照)、残余財産を相続することはできない。

よって、正しい肢は4であり、4が正解となる。

★条文判例問題(民法家族法・相続人不存在)。難易度:易。4の判例は是非知っていて

ほしいものである(三毛猫倶楽部では講義している。)。これを知らない場合でも4以

外の肢が誤っていることは容易に判断できるから、正解は容易である。

午前の部第24問 正解4

ア 誤り。本名以外の名前を使用した場合において、人格の同一性が認められる場合は偽

造ではないが、同一性を偽れば偽造となる( 判昭59.2.17)。本肢の場合は同

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平成30年度司法書士試験解答解説

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一性を偽った場合であり、私文書偽造罪が成立する。

イ 正しい。同姓同名の弁護士の名義を使用した場合、一部の人たちの間だけで人格の同

一性が認められる場合であっても偽造である( 決昭56.12.22)。

ウ 誤り。偽造文書行使罪の「行使」は、偽造文書を真正文書又は内容真実な文書として

使用することをいう(大判大3.10.6)。偽造された運転免許証を提示して閲覧で

きる状態においた行為は行使にあたるが、携帯だけでは行使にはあたらない( 判昭4

4.6.18)。

エ 正しい。学校法人Bを代表する権限のないAが、「学校法人B代表 A」の名義で文

書を作成した場合、「学校法人B」名義の冒用であり、偽造にあたる( 判昭45.9.

4)。

オ 誤り。虚偽の氏名、生年月日、住所、経歴等を記載し、被告人の顔写真を貼り付けた

押印のある履歴書および雇用契約書等を作成して提出した場合、表示された名義人は作

成者とは別人格の者であることが明らかであり、名義人と作成者との人格の同一性が認

められないから私文書偽造・行使罪が成立する( 決平11.12.20)。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★判例問題(刑法・文書偽造の罪)。難易度:易。アの判例を知らなくとも、必ず学習し

ておかなければならない判例の知識を問うイウ又はイエの正誤の判断で、正解が可能で

ある。

午前の部第25問 正解1

ア 正しい。自首とは、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自己の犯罪事実を申告す

ることである。刑の任意的減軽事由である(任意的減軽。刑法42条1項)。「捜査機

関に発覚する前」とは、犯罪又は犯人が発覚していないことをいう。捜査機関の取調べ

に応じて自己の犯罪事実を申告しても自首にはならない(大判昭10.5.13。大塚

P479)。

イ 誤り。自首は刑の任意的減軽事由である(ア参照)。免除事由ではないから、本肢は

誤りである。

ウ 正しい。犯人が発覚しているが所在不明である場合は自首にはならない。

エ 誤り。捜査機関に申告したのでなければ自首にはあたらない。本肢のAは、区役所の

担当職員に申告したのであって捜査機関に申告したのではないから、自首は成立しない。

オ 誤り。捜査機関に発覚する前であれば、多数の目撃者がいたとしても自首が成立する。

よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文判例問題(刑法・自首)。難易度:中。自首は「捜査機関に発覚する前」に成立す

ることをよく理解していれば解答可能であるが、学習が薄い分野であったかもしれない。

午前の部第26問 正解5

ア 誤り。殺人罪の客体は人である。人の意義は、民法では全部露出説であるが、刑法で

は一部露出説である。したがって、母体から一部露出した胎児を攻撃し死亡させた行為

については殺人罪が成立する。

イ 誤り。追死の意思がないのに、被害者を欺いて被告人も追死するものと誤信させて自

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平成30年度司法書士試験解答解説

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殺させた場合、被害者自身を道具として利用する間接正犯による殺人罪が成立する(

判昭33.11.21)。

ウ 正しい。逮捕・監禁罪を犯した者が、被害者を死傷させた場合、逮捕・監禁致死傷罪

が成立する。本罪は逮捕・監禁罪の結果的加重犯であり、逮捕・監禁行為と死傷との間

に因果関係が必要である。したがって、監禁の際に日頃の恨みをはらすために傷害を加

えた場合は監禁罪と傷害罪の併合罪となる(前田第五版P121)。外傷後ストレス障

害(PTSD)を負わせることは傷害にあたる。また、本肢の傷害は監禁の手段から生

じたものであり、監禁と傷害との間に因果関係が認められる。したがって、監禁致傷罪

が成立する。

エ 誤り。傷害罪は、故意犯(傷害の故意がある場合)のほか、暴行罪の結果的加重犯で

もある。したがって、暴行の故意で暴行を加えて傷害させた行為については、傷害罪が

成立する。

オ 正しい。業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた行為については業務上過失

致死傷罪が成立する。本罪の業務は次の三つの要件を満たしたものである。

①社会生活上の地位に基づくものであること

②反復継続性があること

③人の生命身体に対して危険を及ぼす行為であること

以上の要件を満たした場合は、娯楽目的であっても「業務」となる。例えば、狩猟も

「業務となる( 判昭33.4.18)。

よって、正しい肢はウとオであり、5が正解となる。

★判例問題(刑法・人の生命・身体に対する罪)。難易度:易。必ず学習する論点を問う

アウの正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第27問 正解4

ア 誤り。株式会社の成立後に設立無効判決が確定すると、株式会社の設立は将来に向か

って無効となり、株式会社は清算手続に入る。発起人は、設立時募集株式の引受人に対

して払込金の返還義務を負わない。なお、設立登記に至らなかった場合(株式会社が不

成立の場合)は、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその

責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担するから(会社法56条)、

発起人は設立時募集株式の引受人に対して払込金の返還義務を負うこととなる。

イ 正しい。現物出資財産及び財産引受けに係る財産(現物出資財産等)について定款に

記載(記録)された価額の総額が500万円を超えない場合は、現物出資財産等に関す

る事項につき検査役の調査を要しない(少額財産の特例)。この特例を受けるためには、

現物出資財産等の合計額(現物出資が複数ある場合はその合計額、現物出資と財産引受

けがある場合はその合計額)が500万円を超えない場合でなければならない。本肢の

場合は、現物出資財産と財産引受けに係る財産の合計額が500万円を超えているから、

甲土地について監査法人の証明及び不動産鑑定士の鑑定評価によって検査役の調査を要

しなくなったとしても、乙建物については検査役の調査を要する。

ウ 誤り。募集設立の場合は、創立総会において、その決議により、発行可能株式総数の

変更を含む定款の変更をすることができる(会社法96条。30条2項の不適用)。反

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面、発起人は、設立時募集株式の払込期日又は払込期間の初日のうち も早い日以後(設

立時募集株式の払込み着手後)は、発起設立の場合に全員の同意ですることのできた定

款変更(発行可能株式総数の変更等)をすることができない(会社法95条。33条9

項、37条1項、2項の不適用)。

エ 正しい。銀行又は信託会社等に払込金の保管証明義務が課されるのは募集設立の場合

だけである。したがって、発起設立の場合、発起人は、会社成立前に払込金の払戻しを

受けることができる。

オ 誤り。 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受けな

ければならない(会社法25条2項)。発起人のうち出資の履行をしていないものがあ

る場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、そ

の期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない(会社

法36条1項)。この通知は、その期日の2週間前までにしなければならない(2項)。

この通知を受けた発起人は、その期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履

行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う。ただし、発起人でなくな

るわけではない。したがって、失権により発起人のうちある者が1株も引き受けないこ

ととなった場合は、設立無効原因となる。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文問題(商法・株式会社の設立)。難易度:易。アで手こずったとしても、他の肢は

必ず学習しなければならない事項についての出題である。イウ又はイエの正誤の判断で、

正解が可能である。

午前の部第28問 正解3

ア 誤り。譲渡制限株式の「譲渡」には相続は含まれない。したがって、相続によって譲

渡制限株式を取得した者は、株式会社に対して譲渡等承認請求をすることを要しない。

イ 正しい。株式の譲渡制限は、譲渡人以外の株主の利益を保護するためのものであるか

ら、譲渡人以外の株主全員が譲渡を承認していたときは、株式会社の承認がなくとも譲

渡は株式会社に対する関係においても有効である( 判平5.3.30参照)。

ウ 正しい。譲渡制限株式の譲渡等承認請求は、取得者からすることができるが、その場

合は、原則として譲渡人と共同でする。ただし、一定の場合は取得者が単独ですること

ができる。株式取得者が株券を提示して請求をする場合は、その場合の一つである。

エ 誤り。株式会社が譲渡制限株式の譲渡等承認請求に対して不承認の決定をした場合に

おいて、譲渡等承認請求者が不承認の場合の買取等を請求しており、株式会社自体が買

い取る場合は、株主総会の特別決議において、買い取る旨、買い取る株式の(種類ごと

の)数を決定しなければならない。

オ 誤り。エの場合は、株式会社は、譲渡等承認請求者に対して買取通知をしなければな

らない。株式会社は、買取通知をしようとするときは、本店所在地の供託所に金銭(1

株あたりの純資産額×対象株式数)を供託して譲渡等承認請求者に供託を証する書面を

交付しなければならない。供託を要するのは売買価格について協議が調わない場合に限

らないから本肢は誤りである。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

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★条文判例問題(商法・譲渡制限株式の譲渡)。難易度:中。イが選択肢の一つであるこ

とは容易に判断できるから、ポイントはウオである。ウについては学習が及んでいない

かもしれない(三毛猫倶楽部では講義している)。オは譲渡制限株式の譲渡等承認請求

があった場合の手続の流れをきちんとおさえていれば正誤の判断は可能であるがうろ覚

えでは判断に手こずったかもしれない。

午前の部第29問 正解2

ア 正しい。株式会社が新株予約権を募集しようとする場合は、新株予約権の内容として、

新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法を定めなければなら

ない。これを無償とすることはできない。なお、募集時の払込みは無償とすることがで

きる。

イ 誤り。公開会社における募集新株予約権の募集事項の決定は取締役会でするのが原則

である。ただし、有利発行(無償であること又は払込金額が引受人にとって特に有利な

発行)の場合は、非公開会社と同様となり、募集事項の決定は、株主総会の特別決議で

するか、又は株主総会の特別決議による委任を受けた取締役会ですることとなる。かな

らず株主総会の特別決議でよらなければならないわけではないから、本肢は誤りである。

ウ 誤り。新株予約権が二人以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該新株予約権

についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通

知しなければ、当該新株予約権についての権利を行使することができない。ただし、株

式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない(会社法237条)。

エ 誤り。新株予約権の行使の差止請求については、会社法には規定がない。なお、募集

新株予約権の発行等の差止めについては会社法に規定がある(会社法247条)。

オ 正しい。新株予約権付社債の新株予約権又は社債の一方のみを譲渡することはできな

い。ただし、他方が消滅している場合は残る一方のみを譲渡することができる(会社法

254条2項、3項)。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文問題(商法・新株予約権)。難易度:易。疑問のある肢があったとしても、アオの

正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第30問 正解4

ア 正しい。取締役会設置会社が取締役から負担のない贈与を受ける場合、当該会社にな

んらの不利益もないから利益相反取引とはならず、取締役会の承認は要しない。

イ 誤り。特別取締役の議決で決定できる事項は、次の事項に限られる。

①重要な財産の処分及び譲受け

②多額の借財

利益相反取引についての承認を特別取締役による議決ですることはできない。

ウ 正しい。取締役が利益相反取引(本肢の取引)を行って、株式会社に損害が生じた場

合において、利益相反取引につき株式会社の承認を受けなければならない取締役等は、

任務を怠った(=過失がある)と推定される(会社法423条3項)。また、自己のた

めに(第三者を代理、代表した場合が除かれる。)、直接取引(間接取引は除かれる。)

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をした当事者たる取締役の責任は、無過失責任である(会社法428条1項)。

エ 誤り。取締役の任務懈怠責任は、自己のために取締役会設置会社から貸付けを受けた

取締役を含めて、総株主の同意により免除することができる。したがって、本肢は誤り

である。なお、無過失責任を負う者(自己のために取締役会設置会社から貸付けを受け

た取締役が含まれる。)については、株主総会の特別決議によってその責任の一部を免

除することは許されない。

オ 正しい。指名委員会等設置会社以外の取締役会設置会社においては、取引をした取締

役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなけ

ればならない(会社法365条2項)。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文判例問題(商法・利益相反取引)。難易度:中。イが正解肢の一つであることは明

らかである。問題はウエである。正確に条文を覚えていなければ判断が困難であったと

思われる。

午前の部第31問 正解1

ア 正しい。監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の

職務の執行を監査する(会社法381条1項前段)。

イ 誤り。取締役が監査役選任議案を株主総会に提出するには、監査役(会計監査権限の

みの監査役も含まれる(会社法コンメ7P343)。二人以上ある場合は過半数。監査

役会設置会社の場合は監査役会)の同意を得なければならない(会社法343条1項、

3項)。

ウ 正しい。会計監査人の解任は、本来は株主総会の決議でするが、会社法所定の解任事

由がある場合は、監査役(監査役会設置会社にあっては監査役会、監査等委員会設置会

社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)が会計監査

人を解任することができる(会社法340条1項、4項乃至6項)。この解任は、監査

役、監査等委員、監査委員が二人以上ある場合には、その全員の同意によって行わなけ

ればならない(2項、4項乃至6項)。

エ 誤り。監査役会は、各監査役が招集する。取締役会とパラレルである。ただし、取締

役会と異なり、招集権者を限定することはできない(=特別取締役による取締役会・監

査等委員会・指名委員会等。会社法391条)。

オ 誤り。株式会社が取締役、執行役、清算人に対し、又はこれらの者が株式会社に対し

て訴えを提起する場合に株式会社を代表する者は、監査役設置会社の場合は監査役であ

る。会計監査人に対して訴えを提起する場合は、通常どおり代表取締役が株式会社を代

表する。

よって、正しい肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文問題(商法・監査役設置会社の監査役)。難易度:易(中)。会計参与は取締役と

共同で計算書類を作成するから、監査役の監査の対象となることに思いが至れば、アウ

の正誤の判断で、正解が可能である。

午前の部第32問 正解5

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1 誤り。持分会社の定款には、公証人の認証を要しない。

2 誤り。破産手続開始の決定は、社員の退社事由であるが、定款で退社事由としないこ

とができる。合同会社であっても同じである。

3 誤り。社員の持分譲渡には、他の社員の全員の承諾を要する(定款で別段の定め可)。

ただし、業務を執行しない有限責任社員の持分譲渡は、業務執行社員の全員の承諾を要

する(定款で別段の定め可)。合名会社の社員は、その全員が有限責任社員であるから、

その持分譲渡には他の社員の全員の承諾を要する。

4 誤り。合名会社又は合資会社の資本金の額の減少に対しては、債権者は異議を述べる

ことはできない。なお、合同会社の資本金の額の減少に対しては、債権者は異議を述べ

ることができる。

5 正しい。持分会社の成立後に加入した社員は、その加入前に生じた持分会社の債務に

ついても、これを弁済する責任を負う(会社法605条)。

よって、正しい肢は5であり、5が正解となる。

★条文問題(商法・持分会社)。難易度:易。全肢とも持分会社に関する基本的事項を問

うものであり、択一であったとしても正解は容易である。

午前の部第33問 正解4

ア 誤り。会社は、社債を発行する場合には、社債管理者を定め、社債権者のために、弁

済の受領、債権の保全その他の社債の管理を行うことを委託しなければならない(会社

法702条本文)。社債管理者を定めるのは会社であるから、本肢は誤りである。

イ 正しい。社債発行会社は、次の各場合は、社債管理者を設置することを要しない(会

社法702条但書)。

①各社債の金額が1億円以上である場合

②ある種類の社債の総額を当該種類の各社債の金額の 低額で除して得た数が50を

下回る場合(会社法施行規則169条)

ウ 誤り。社債管理者は、社債権者のために社債に係る債権の弁済を受け、又は社債に係

る債権の実現を保全するために必要な一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有す

る(会社法705条1項)。一定の行為については社債権者集会の決議を要するが、社

債の償還請求は、社債権者集会の決議を経ずにすることができる(新基本コンメ3P1

70)。

エ 誤り。社債管理者は、社債権者に対し、善良な管理者の注意をもって社債の管理を行

わなければならない(会社法704条2項)。社債管理委託契約によってこの注意義務

を免除することは許されない(新基本コンメP166)。

オ 正しい。社債発行会社に対して貸付債権を有していることは、社債管理者となること

の妨げにはならない。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(商法・社債管理者)。難易度:中。イが正解肢の一つであることは容易に判

断がつくが、エオの正誤の判断には手こずったかもしれない。

午前の部第34問 正解4

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平成30年度司法書士試験解答解説

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ア 正しい。承継資産に吸収合併存続株式会社の自己株式が含まれている場合は、吸収

合併存続株式会社の取締役は、吸収合併契約の承認を受ける株主総会において、当該

株式に関する事項について説明をしなければならない(会社法795条3項)。

イ 正しい。吸収合併において、当事会社の一方が他方の特別支配会社である場合、支

配されている会社の株主総会の決議が不要となる(略式手続)。略式手続は、株主総会

の決議が不要となること以外は通常の手続と同様である。株式買取請求に係る手続、

新株予約権買取請求に係る手続、債権者保護手続は、通常通り行う。

ウ 誤り。吸収合併存続株式会社が種類株式発行会社であり、合併対価が吸収合併存続

株式会社の譲渡制限株式である場合、吸収合併は、当該譲渡制限株式を有する種類株

主を構成員とする種類株主総会の特別決議がなければ、効力が生じない。この場合は、

募集株式たる譲渡制限株式の発行等とパラレルだからである(会社法795条4項本

文)。ただし、募集株式たる譲渡制限株式の発行等に種類株主総会の決議を要しない旨

の定款の規定がある場合、及び、当該種類株主総会において議決権を行使することが

できる株主が存しない場合は、この種類株主総会の決議は要しない(但書)。

エ 誤り。吸収合併消滅株式会社が種類株式発行会社である場合は、合併対価の割当て

に関する事項は、株式の種類に応じて異なる定めをすることができる。しかし、吸収

合併消滅株式会社の株主ごとに異なる定めをすることは許されない。

オ 正しい。吸収合併消滅株式会社の解散は、吸収合併の登記(商業登記)の後でなけ

れば第三者に対抗することができない(吸収合併の登記がない限り、吸収合併存続会

社による吸収合併消滅株式会社の不動産等の承継を、第三者に対してその善意悪意を

問わず対抗することができない。)。つまり、吸収合併の登記は、合併の対抗要件であ

る(会社法750条2項、752条2項)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文問題(商法・吸収合併)。難易度:中。吸収合併に関する若干細かい知識を問う出

題である。細部まで学習していなければ解答に手間取ったかもしれない。ウが誤ってい

ること(正解肢の一つであること)は判断がつくとして、後はアエである。アは細部の

学習をしていれば判断がつくし、エは株主平等原則に思いが至れば判断可能である。

午前の部第35問 正解5

ア 正しい。旅店、飲食店、浴場その他客の来集を目的とする場屋の主人は、客より寄託

を受けた物品(貨幣、有価証券その他の高価品を除く。)の滅失又は毀損につき、その

不可抗力によることを証明しなければ、損害賠償の責任を免れることはできない(商法

594条1項)。

イ 正しい。客が特に寄託してない物品であっても、場屋中に携帯した物品(貨幣、有価

証券その他の高価品を除く。)が場屋の主人又はその使用人の不注意によって滅失又は

毀損したときは、場屋の主人は損害賠償の責任を負う(商法594条2項)。

ウ 誤り。客の携帯品につき責任を負わない旨を告示した場合であっても、場屋の主人は

アイの責任を免れることはできない(商法594条3項)。

エ 正しい。貨幣、有価証券その他の高価品については、客がその種類及び価額を明告し

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平成30年度司法書士試験解答解説

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てこれを場屋の主人に寄託したのでなければ、その場屋の主人はその物品の滅失又は毀

損によって生じた損害を賠償する責任を負わない(商法595条)。

オ 誤り。アイエの責任は、場屋の主人が寄託物を返還し又は客が携帯品を持ち去った後

1年を経過したときは時効によって消滅する(商法596条1項)。この消滅時効期間

は、物品の全部滅失の場合においては、客が場屋を去った時から起算する(2項)。本

肢は起算点が誤っている。

よって、誤っている肢はウとオであり、5が正解となる。

★条文問題(商法・寄託)。難易度:難。商行為の中でも超マイナー分野からの出題であ

る。これは捨て問にしてよい。

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平成30年度司法書士試験解答解説

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午後の部(択一式)

午後の部第1問 正解2

ア 正しい。当事者が死亡した場合、訴訟は中断し、相続人、相続財産管理人その他法令

により訴訟を続行すべき者がこれを受け継ぐ(民事訴訟法124条1項)。ただし、相

続人は、相続放棄をすることができる間は、受継できない(3項)。

イ 誤り。訴訟引受けの申立ては、口頭弁論終結後(=上級審)は許されない( 決昭4

7.10.12、新堂P741)。

ウ 誤り。訴訟引受けの申立てを却下する決定に対しては、申立人は抗告をすることがで

きる(民事訴訟法328条)。これに対し、申立てを認容して出された引受決定に対し

ては、これは中間的裁判であるから、独立の不服申立ては許されない(新堂P741)。

エ 誤り。通常の独立当事者参加の参加人は、従前の当事者のいずれからも由来しない独

立の地位で訴訟を遂行するが、参加承継の場合は、承継までに生じた前主の訴訟上の地

位を有利不利を問わず引き継ぐ(新堂P740)。そのため、その参加は、訴訟の係属

の初めに遡って時効の中断又は法律上の期間の遵守の効力を生ずる(民事訴訟法49

条)。

オ 正しい。権利の譲受人が参加承継をした場合は、譲渡人は、相手方の同意を得て訴訟

から脱退することができる。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文判例問題(民事訴訟法・訴訟の承継)。難易度:易。アが正解肢であることは容易

に判断できる。問題はウオであるが、ウの判断が困難であったとしても、オは基本的な

条文知識で解けるから、正解は可能である。このように、正誤の判断にとまどう肢があ

っても正解は可能である。

午後の部第2問 正解2

ア 誤り。特定の財産が被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えには、訴えの利

益がある。当該訴えは、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にある

ことの確認を求めるものであって、その原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の

対象たる財産であることを既判力をもって確定し、遺産分割手続において当該財産の遺

産帰属性を争うことを許さず、もって原告の意思によりかなった紛争の解決を図ること

ができるからである( 判昭61.3.13)。

イ 正しい。具体的相続分の確認の訴えには、訴えの利益はない。具体的相続分は、遺

産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に

対する割合を意味するものであって、それ自体を実体法上の権利関係であるというこ

とはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事

件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、そう

した事件を離れて、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接か

つ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない( 判平12.2.2

4)。

ウ 正しい。確認対象は、「権利又は法律関係の存否」でなければならない。単なる事実

関係の確認は許されない。本肢の場合に債務不存在確認の訴えを提起することは許され

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る。

エ 正しい。支払請求の本訴に対して債務不存在確認の反訴を提起することは、二重起訴

禁止に触れ、許されない。しかし、債務不存在確認の本訴に対して、支払請求の反訴は

許される。この場合、本訴被告は本訴に勝訴しても執行力を得ることができないからで

ある。この場合、本訴の方が確認の利益がないとして却下される( 判平16.3.2

5)。

オ 誤り。建物賃貸借契約継続中に賃借人が賃貸人に対し敷金返還請求権の存在確認を求

める訴えは、訴えの内容が賃貸借契約終了後建物の明渡しがされた時においてそれまで

に生じた敷金の被担保債権を控除しなお残額があることを条件とする確認請求であり、

賃貸人が賃借人の敷金交付の事実を争い敷金返還義務を負わないと主張しているときは

確認の利益がある( 判平11.1.21)。

よって、誤っている肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文判例問題(民事訴訟法・確認の訴え)。難易度:易。どの肢も確認の訴えに関する

重要な判例等を問うものである。アウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第3問 正解2

ア 正しい。公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官

庁又は公署に照会をすることができる(民事訴訟法228条3項)。

イ 誤り。私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立した

ものと推定される(民事訴訟法228条4項)。署名又は押印のいずれかがあれば推定

されるから本肢は誤りである。

ウ 正しい。訴訟の当事者は、他の訴訟の証人尋問の口頭弁論調書について、訴訟の申出

をすることができる。

エ 誤り。裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書

の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がない

と認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部

分を除いて、提出を命ずることができる(民事訴訟法223条1項)。

オ 誤り。文書提出命令の申立てについての決定に対しては、(申立ての認容、却下のい

ずれに対しても)即時抗告をすることができる(民事訴訟法223条7項)。ただし、

第三者に対する文書提出命令に対して、申立人の相手方当事者は即時抗告をすること

はできない( 決平12.12.14)。

よって、正しい肢はアとウであり、2が正解となる。

★条文判例問題(民事訴訟法・文書の証拠調べ)。難易度:中。書証についてやや細かい

知識・判例を問う出題であった。イが誤っていることは明らかであり、オ(この判例に

ついては三毛猫倶楽部では講義をしている)が誤っていることが分かればそれだけで正

解は可能であった。

午後の部第4問 正解2

ア 正しい。簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるとき

は、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所

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に移送することができる(民事訴訟法18条)。

イ 誤り。簡易裁判所においては、訴え(反訴を含む。)は、口頭で提起することができ

る(民事訴訟法271条)。

ウ 誤り。簡易裁判所における証拠調べは、即時に取り調べることができる証拠に限らな

い。なお、簡易裁判所における少額訴訟においては、証拠調べは、即時に取り調べるこ

とができる証拠に限られる。

エ 正しい。簡易裁判所において、判決書に事実及び理由を記載するには、請求の趣旨及

び原因の要旨、その原因の有無並びに請求を排斥する理由である抗弁の要旨を表示すれ

ば足りる(民事訴訟法280条)。

オ 誤り。簡易裁判所は、必要があると認めるときは、和解を試みるについて司法委員に

補助をさせ、又は司法委員を審理に立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができ

る(民事訴訟法279条1項)。

よって、正しい肢はアとエであり、2が正解となる。

★条文問題(民事訴訟法・簡易裁判所の訴訟手続)。難易度:易。ほとんどの肢は基本的

な知識を問うものである。ウについて少額訴訟と混同さえしなければ、アウの正誤の判

断で、正解が可能である。

午後の部第5問 正解4

ア 誤り。再審の訴えは、当事者が判決の確定した後再審の事由を知った日から30日の

不変期間内に提起しなければならない。判決が確定した日(再審の事由が判決の確定し

た後に生じた場合にあっては、その事由が発生した日)から5年を経過したときは、再

審の訴えを提起することができない(民事訴訟法342条1項、2項)。ただし、代理

権欠缺又は既判力抵触(本肢)の場合は、上記期間制限に服さない(3項)。

イ 正しい。再審の訴えを提起した当事者は、不服の理由を変更することができる(民事

訴訟法344条)。

ウ 誤り。裁判所は、再審の事由があるとして再審開始の決定をする場合は、相手方を審

尋しなければならない(民事訴訟法346条1項、2項)。

エ 正しい。即時抗告をもって不服を申し立てることができる決定又は命令で確定したも

のに対しては、再審の申立てをすることができる(民事訴訟法349条1項)。訴状却

下命令に対しては即時抗告をすることができるから(137条2項)、確定した訴状却

下命令に対しては再審の申立てをすることができる。

オ 誤り。裁判所は、再審開始の決定が確定した場合には、不服申立ての限度で、本案の

審理及び裁判をする(民事訴訟法348条1項)。この場合において、裁判所は、判決

を正当とするときは、再審の請求を棄却しなければならない(2項)。本肢は「却下」

とするから誤りである。

よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文問題(民事訴訟法・再審)。難易度:難。再審に関する条文をきっちりと読み込ん

でいればイウ又はイエの正誤の判断で、正解が可能であるが、学習が薄くなりがちな分

野での出題であり、判断に苦慮した受験生が多かったのではないだろうか。

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午後の部第6問 正解2

ア 正しい。保全命令(仮差押命令を含む。)事件は、次のいずれかの裁判所が管轄する。

①本案の管轄裁判所

②仮に差し押さえるべき物若しくは係争物の所在地を管轄する地方裁判所

イ 誤り。占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義

に基づき、次に掲げる者に対し、係争物の引渡し又は明渡しの強制執行をすることがで

きる(民事保全法62条1項)。

①当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って(悪意)当該係争物を

占有した者(占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者は、悪意

が推定される(2項)。)

②当該占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該

係争物について債務者の占有を承継した者(債務者の占有を承継した者は、善意でも引

渡しの強制執行をされてしまう、という意味である。)

このように、悪意は「みなされる」のではなく「推定される」のであるから、本肢は

誤りである。

ウ 誤り。保全命令の申立ては、次の事項を明らかにして、書面でこれをしなければなら

ない(民事保全法13条1項、民事保全規則1条1号)。

①保全命令の趣旨

②保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性

申立人は、②を疎明しなければならない(民事保全法13条2項)。疎明に代えて担

保を提供することはできない。

エ 誤り。保全執行は、申立てによって、裁判所又は執行官が行う。職権で行われること

はない。保全執行の内容によっては改めて執行申立書を提出する必要がないものがある

が、これは職権で執行するものではない。

オ 正しい。保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であっても、これをすること

ができる(民事保全法43条3項)。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文問題(民事保全法・民事保全全般)。難易度:易。民事保全に関する基本的な条文

知識を問う出題である。アウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第7問 正解5

ア 誤り。執行文は、申立てにより、執行証書以外の債務名義については事件の記録の存

する裁判所の裁判所書記官が、執行証書についてはその原本を保存する公証人が付与す

る(民事執行法26条1項)。

イ 誤り。請求が確定期限の到来にかかっている場合、条件成就執行文を要しない(期限

到来前でも執行文が付与される。)。すなわち、確定期限の到来は、強制執行の開始の

要件である。

ウ 正しい。請求が停止条件の成就にかかっている場合においては、執行文は、債権者が

その事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる(条

件成就執行文。民事執行法27条1項)。

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エ 正しい。執行文は、債権の完全な弁済を得るため執行文の付された債務名義の正本が

数通必要であるとき、又はこれが滅失したときに限り、更に付与することができる(民

事執行法28条1項)。

オ 誤り。執行文の付与の申立てに関する処分に対しては、裁判所書記官の処分にあって

はその裁判所書記官の所属する裁判所に、公証人の処分にあってはその公証人の役場の

所在地を管轄する地方裁判所に異議を申し立てることができる(民事執行法32条1

項)。

よって、正しい肢はウとエであり、5が正解となる。

★条文問題(民事執行法・執行文)。難易度:易。執行文に関する基本的な条文知識を問

う出題である。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第8問 正解4

ア 誤り。司法書士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその司法書士法人の業務

の範囲に属する業務を行い、又は他の司法書士法人の社員となってはならない(司法書

士法42条1項)。他の社員全員の承諾があっても同じである。

イ 正しい。司法書士法人の社員又は使用人である司法書士としてその業務に従事してい

た期間内に、当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて裁判書類作成業務を行った事件

であって、自らこれに関与したものについては、司法書士は、業務を行うことはできな

い。法人が受任中であると法人の業務終了後であると、社員又は使用人が法人在職中で

あると法人離職後であるとを問わない(注釈司法書士法P239の表)。

ウ 誤り。司法書士法人の社員は、すべて一般的業務を執行する権利を有し、義務を負う

(司法書士法36条1項)。持分会社と異なり、業務執行権を定款で制限することはで

きない。

エ 誤り。司法書士法人の社員が当該司法書士法人の業務執行に際して司法書士法に違反

する行為をした場合は、社員である司法書士に対する懲戒処分とは別に、当該司法書士

法人に対しても懲戒処分が科せられる(司法書士法48条1項、注釈司法書士法P45

8)。

オ 正しい。司法書士法人は定款で定めるところにより「法令等に基づきすべての司法書

士が行うことができるものとして法務省令(司法書士法施行規則31条)で定める業務

又は一部」を行うことができる(司法書士法29条1項1号)。当該業務には、当事者

その他関係人の依頼又は官公署の委嘱により、管財人、管理人その他これらに類する地

位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの

業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務が含まれる。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(司法書士法・司法書士又は司法書士法人の業務)。難易度:易。基本的な条

文知識を問う出題である。アイエの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第9問 正解5

ア 正しい。供託書、供託通知書、代供託請求書、附属供託請求書、供託有価証券払渡請

求書又は供託有価証券利札請求書に記載した供託金額、有価証券の枚数及び総額面又は

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請求利札の枚数については、訂正、加入又は削除をしてはならない(供託規則6条6項)。

イ 正しい。供託書には、供託者が法人(代表者又は管理人の定めのある法人格なき社団

(財団)を含む。)であるときは、その名称、主たる事務所及び代表者又は管理人の氏

名を記載しなければならない。

ウ 正しい。供託カードの交付を受けた者が、当該供託カードを提示して、当該継続的給

付について供託をしようとするときは、供託書には、本来記載しなければならない事項

の多くの記載を省略することができる。供託の原因たる事実については、供託カードの

交付の申出をした際に供託書に記載した事項と同一でない事項のみを記載すれば足り

る。

エ 誤り。OCR用供託書が二葉以上にわたるときは、作成者は、当該供託書の所定の欄

に枚数及び丁数を記載しなければならない(供託規則13条5項)。契印は不要である。

オ 誤り。同一の供託所に対して同時に数個の供託をする場合において、供託書の添付書

類に内容の同一のものがあるときは、1個の供託書に1通を添付すれば足りる(供託規

則15条)。

よって、誤っている肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(供託法・供託の申請手続)。難易度:易。全肢が基本的な知識を問うもので

ある。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第10問 正解1

ア 誤り。二重譲受人のための各譲渡通知が確定日付のある証書でなされた場合において、

譲渡通知が同時に到達した場合は債権者不確知にあたらない。この場合は、いずれの譲

受人も債務者に弁済を請求することができ、債務者は、いずれか先に請求した方に弁済

すれば免責されるからである。

イ 誤り。譲渡禁止特約付債権について転付命令が発せられたことは、債権者不確知には

あたらない。転付債権者の善意悪意を問わず転付命令は有効であり、転付債権者が債権

者だからである(昭45.10.21民甲4425号)。

ウ 正しい。債権者が死亡して相続が開始したが、その相続人がまったく不明の場合、債

権者不確知にあたる。この場合、相続人の有無や相続放棄の有無について供託者が調査

をしたか否かは関係ない(昭37.7.9民甲1909号)。

エ 正しい。債権者が契約そのものを否定する等弁済を受領しない意思が明確と認められ

る場合は、債務者は、口頭の提供すらしなくても債務不履行責任を免れる( 判昭32.

6.5)。この場合は、口頭の提供をすることなく、供託することができる(昭37.

5.31民甲1485号)。ただし、家屋の明渡請求があり、予め受領を拒絶した程度

では、供託するためには、なお弁済の提供を必要とする(昭38.2.4民甲351号)。

「明渡請求があり、目下係争中」の場合は(本肢は、その場合にあたる。)、受領拒否

が明確であり、口頭の提供をすることなく、供託することができる。

オ 正しい。利息付債権の債務者が期限の利益を放棄して弁済の提供をしたが拒否された

ので供託する場合は、提供額(=供託額)は、元金に提供時から弁済期までの利息を付

した額でなければならない。債務者は期限の利益を放棄することができるが、債権者の

利益を害することはできず、中間利息を支払わなければならないからである(民法13

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6条2項)。この金額を提供して拒否されたのであれば、受領拒否を供託原因として供

託することができる(昭39.2.3民四43号)。

よって、誤っている肢はアとイであり、1が正解となる。

★判例先例問題(供託法・弁済供託)。難易度:易。供託に関する重要な判例・先例をと

う出題である。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第11問 正解2

ア 正しい。裁判上の保証供託をする場合は(仮執行免脱のための供託は、裁判上の保証

供託である。)、金銭のほか、裁判所が相当と認めた有価証券(振替債を含む。)を供託

することができる(民事保全法4条1項)。

イ 誤り。訴訟費用の担保が提供された場合において、民事訴訟法77条は、「被告は、

訴訟費用に関し、原告が供託した金銭又は有価証券について、他の債権者に先立ち弁済

を受ける権利を有する」と定め、この規定が他の裁判上の担保に準用されている。すな

わち、損害を被った被供託者は、供託物につき優先権を有し、還付を受ける権利を有す

ることを証する書面を添付して直接供託所に還付請求をすることができる(平9.12.

19民四2247号)。

ウ 誤り。事業者以外の第三者による営業保証供託は認められない。営業保証供託は、事

業者の信用力のチェックの意味もあるからである。

エ 誤り。保証として金銭を供託した場合には、担保の効力は供託金利息には及んでいな

いので、供託者は、毎年、供託した月に応当する月の末日後(翌月1日以降)に、同日

までの供託金利息の払渡しを請求することができる(供託規則34条2項)。

オ 正しい。保管替えは、従前の管轄供託所からみれば供託物の取戻しにあたるから、通

常の取戻しと同様、供託物取戻請求権の譲渡、差押え等がある場合は、認められない。

よって、正しい肢はアとオであり、2が正解となる。

★条文先例問題(供託法・担保供託)。難易度:易。イ以外は、必ず学習する知識を問う

出題である。アウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第12問 正解3

ア 登記をすることができる。内縁関係の解消の際の財産分与は可能である。したがって、

元内縁夫婦間において、財産分割を登記原因とする所有権移転登記をすることができる。

イ 登記をすることはできない。買戻特約の売買代金を増額変更することは許されない。

したがって、売買代金の増額する買戻権の変更登記はすることができない。

ウ 登記をすることができない。工場財団の賃借権の登記は認められていない(新訂精義

下二P1357)。

エ 登記をすることができる。工事請負契約と同時に、当該請負契約に基づく請負代金債

権を被担保債権とする抵当権の設定契約をして、その設定登記をすることができる。

オ 登記をすることができる。共有ではない所有権の割合的一部を目的とする処分禁止仮

処分の登記は許される。所有権の一部(例えば、2分の1)の帰属が争われ、所有権一

部移転登記請求権を保全する必要がある場合があるからである(昭30.4.20民甲

695号)。

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平成30年度司法書士試験解答解説

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よって、登記をすることができない肢はイとウであり、3が正解となる。

★先例判例問題(不動産登記法・登記の可否)。難易度:易。アは実体関係の理解がなけ

れば判断に手こずったであろう。ウは通常の学習の範囲ではない。それでも、イオ(通

常の学習で正誤の判断可能)の判断で、正解が可能である。

午後の部第13問 正解1

ア 登記事項とはならない。仮処分の登記の効力として、仮処分登記後になされた登記

は、仮処分債権者がその抹消を申請することができる。この場合の登記原因は「仮処

分による失効」であり、日付は要しない。

イ 登記事項となる。相続による共有持分移転登記の結果、同一の不動産につき、住所

を同じくする同名異人の共有者が併存することとなるような場合において、住所、氏

名のほか生年月日を申請情報として登記を申請した場合、生年月日が登記される(昭

45.4.11民甲1426号)。

ウ 登記事項となる。権利の保存、設定、移転登記(これらの登記においては、新たに

登記名義人が登記される。ただし、根質権、根抵当権、信託登記を除く。)を申請する

場合において、登記名義人となる者が二人以上であるときは、登記名義人ごとの持分

を申請情報として提供し(不動産登記令3条9号)、当該持分は登記される。賃借権の

設定登記においても例外ではない。

エ 登記事項とはならない。相続財産管理人は代理人であるから、相続人不存在による所

有権登記名義人氏名変更登記においてその氏名は登記されない。

オ 登記事項となる。代位申請(嘱託)による登記においては、代位原因と代位者が登記

される。

よって、登記事項とはならない肢はアとエであり、1が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・登記事項)。難易度:易。イの生年月日の登記の可否に

ついては知らない受験生がほとんどであろうが、それでも基本的な知識を問うアエの判

断で、正解が可能である。

午後の部第14問 正解1

ア 誤り。オンライン申請の場合の補正は、オンラインでする。なお、特例方式により

提出した書面の補正方法は、書面申請の場合と同様、書面ですることができる。

イ 正しい。本来、事前通知がされる場合であっても、登記申請が、登記申請の代理を

業とすることができる代理人(資格者代理人)によってされた場合であって、登記官が

当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が登記義務者等であることを

確認するために必要な情報(本人確認情報)の提供を受け、かつ、その内容を相当と認

めるときは、事前通知は省略される。この場合は、当該資格者代理人が登記の申請の代

理を業とすることができる者であることを証する情報を併せて提供しなければならない

(不動産登記規則72条3項)。資格者代理人が司法書士の場合は、司法書士であるこ

とを証する情報を提供しなければならない。個人の司法書士がオンラインで申請する場

合、この情報は電子証明書である。

ウ 誤り。共同根抵当権の追加設定登記を申請する場合において、前登記に他の登記所の

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平成30年度司法書士試験解答解説

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管轄物件(管轄外物件)がある場合は、必ず、前登記証明情報を提供しなければならな

い(不動産登記令別表56添付情報欄ロ)。前登記証明情報は、各不動産ごとの登記事項

証明書を提供するのが原則だが、他の登記所ごとに共同担保目録付の登記事項証明書を1

通提供すれば足りる(不動産登記事務取扱手続準則112条)。オンラインで登記を申請

する場合において、登記事項証明書を併せて提供しなければならないものとされている

ときは、法務大臣の定めるところに従い、登記事項証明書の提供に代えて、登記官が登

記情報の送信を指定法人から受けるために必要な情報(照会番号)を送信しなければな

らない(不動産登記令11条)。不動産番号の提供によってこれに代えることはできない。

エ 正しい。オンラインで申請した場合は、登記識別情報の通知はオンラインでなされる

のが原則であるが、当面の間、申請人は、オンラインによる通知と登記識別情報通知書

の交付による通知を選択できる。また、任意代理人が登記識別情報の通知を受けるため

の特別の委任を受けた場合は、登記識別情報の通知は、当該代理人に対してなされる。

したがって、任意代理人が登記識別情報の通知を受けるための特別の委任を受けた場合

は、当該任意代理人の住所を送付先とすることができる。

オ 正しい。同一の登記所に対して同時に二つ以上の申請をする場合において、各申請に

共通する添付情報があるときは、当該添付情報は、一つの申請の申請情報と併せて提供

することで足りる(援用することができる。不動産登記規則37条1項)。添付情報を

援用する場合は、当該添付情報を一つの申請の申請情報と併せて提供した旨を他の申請

の申請情報の内容として提供しなければならない(援用した旨を申請情報として提供し

なければならない。2項)。

よって、誤っている肢はアとウであり、1が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・オンライン申請)。難易度:中。イについては、司法書士の

電子証明書を司法書士であることを証する情報として提供することの理解がなければ正

誤の判断にとまどったかもしれない。また、ウについては、不動産番号と照会番号を混

同した受験生がいたかもしれない。したがって、難易度を「中」とした。

午後の部第15問 正解1

ア 誤り。抵当権登記名義人が所有権登記名義人に代位して抵当権の債務者の住所変更登

記を申請することはできない。抵当権の債務者の住所変更登記は、抵当権登記名義人が

登記権利者となり、所有権登記名義人が登記義務者となって申請するから、抵当権登記

名義人が所有権登記名義人を代位することは登記権利者が登記義務者に代位することと

なり、これは認められないからである。

イ 正しい。抵当権の実行による差押登記のある不動産につき、抵当権者が所有権登記名

義人(買主)に代位して買戻権者と共同して買戻特約登記の抹消(買戻権抹消)を申請

することができる(平8.7.29民三1368号)。

ウ 誤り。信託財産を処分して得た財産も信託財産となる(信託法16条)。例えば、委

託者Cが金銭を受託者Aに信託した場合において、受託者Aが信託財産である金銭でB

から買った不動産は、信託財産になる。この場合にすべき登記は、次のとおりである。

①所有権移転(登記原因は平成○年○月○日売買)

②信託財産の処分による信託(以上、記録例520)

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平成30年度司法書士試験解答解説

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このうち、①の登記はAが登記権利者となり、Bが登記義務者となって共同で申請す

るが、②の信託の登記は受託者Aの単独申請による。ただし、信託登記は委託者又は受

益者が受託者に代位して申請することができるから、本問では、委託者Cが受託者Aに

代位して申請することができる。これは、信託の登記について単独申請人であるAに委

託者Cが代位するものであり、第三者Bは、信託の登記については申請人にはならない。

本肢は、CがAに代位してBと共同で信託財産の処分による信託の登記を申請するとあ

るから誤りである。しかし、ウと組み合わせられた肢で誤っているものはない。疑問で

ある。

エ 誤り。根抵当権者の確定請求によって根抵当権の元本が確定した場合の根抵当権の元

本確定登記は根抵当権者が単独で申請することができる。しかし、本肢のように設定者

が元本確定請求をして元本が確定した場合は、根抵当権者による単独申請は認められて

いない。

オ 正しい。詐害行為取消しによる抵当権の抹消登記手続を命ずる判決が確定した場合は、

勝訴した原告(債権者)が所有権登記名義人に代位して、判決正本を提供して単独で抵

当権の抹消登記を申請することができる。他に訴訟係属中の債権者がいることはその妨

げにならない。

よって、誤っている肢はアウエであり、ウと組み合わされた肢はいずれも正しいから、ア

エの組合せの1が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・代位申請)。難易度:易。重要論点を問うアエの正誤の

判断で、正解が可能である。ウには疑義があるし、オが問うていることは聞き慣れなか

ったかもしれないが、その判断を要せずに正解が可能である。

午後の部第16問 正解3

ア 誤り。利息制限法違反の利息の定めのある抵当権設定登記の申請は、申請に係る登

記が民法その他の法令の規定により無効とされることが申請情報若しくは添付情報又

は登記記録から明らかであるとき(不動産登記法25条13号、不動産登記令20条

8号)に該当し、却下される(昭29.6.2民甲1144号他)。

イ 正しい。インクを消すことができるボールペンを使用した登記の申請は、申請情報

又はその提供の方法が法令の規定により定められた方式に適合しないとき(不動産登

記法25条5号)に該当し、却下される。

ウ 誤り。印鑑証明書を提供しないでする所有権保存登記の抹消申請は、申請情報と併

せて提供しなければならないものとされている情報(添付情報)が提供されないとき

(不動産登記法25条9号)に該当し、却下される。

エ 正しい。民法組合を登記名義人とする登記の申請は、申請に係る登記をすることに

よって表題部所有者又は登記名義人となる者が権利能力を有しないとき(不動産登記

法25条13号、不動産登記令20条2号)に該当し、却下される。

オ 誤り。相続による債務者変更登記を経ないでする指名債務者の合意の登記の申請は、

申請が不動産登記法92条の規定により登記することができないとき(不動産登記法

25条13号、不動産登記令20条3号)に該当し、却下される。

よって、正しい肢はイとエであり、3が正解となる。

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平成30年度司法書士試験解答解説

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★条文先例問題(不動産登記法・却下事由)。難易度:易。却下されるか否かの学習はし

ていても、却下事由については普段気にかけていなかったかもしれない(三毛猫倶楽

部のテキストでは十分カヴァーしている。)。それでもイの正誤の判断は容易であった

ろうし、後はアエであるが、その正誤の判断は常識的に可能であったものと思われる

ので、難易度を「易」とした。

午後の部第17問 正解4

ア 誤り。持分の更正登記が完了した場合、新たに登記名義人となる者がいないから登

記識別情報は通知されない。その点は正しい。登記完了証は、登記権利者側と登記義

務者側に各1通が交付される。本肢の場合、Bが登記権利者となり、Aが登記義務者

となるから、それぞれに1通ずつ交付され、その通数は2通となる。

イ 正しい。本肢の登記は、Dが登記権利者となり、ABが登記義務者となって申請し、

Dが登記名義人となる。したがって、登記識別情報はDに通知され(通数は1通)、登

記完了証は、Dに1通、ABに併せて1通交付され、その通数は2通となる。

ウ 誤り。本肢の登記は、Eが登記権利者となり、Aが登記義務者となるが、確定判決

によりEが単独で申請し、Eが登記名義人となる。したがって、登記識別情報はEに

通知され(通数は1通)、登記完了証はEにのみ交付される(通数は1通)。Aは申請

人ではないから登記完了証はAへは交付されない。

エ 誤り。本肢の登記は、F及びGが申請人(登記権利者)となって申請し、F及びG

が登記名義人となる。したがって、登記識別情報はFGに1通ずつ通知され(通数は

2通)、登記完了証は、いずれも登記権利者であるから併せて1通交付される。

オ 正しい。本肢の登記は、A及びBが登記権利者となり、Cが登記義務者となって申

請し、新たに登記名義人となる者はいない。したがって、登記識別情報は通知されず、

登記完了証は、ABに併せて1通、Cに1通交付され、その通数は2通となる。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・登記識別情報と登記完了証)。難易度:易。基本的な理解が

あればイ以外の肢の正誤の判断は容易である。信託がからむイについてまごついたと

しても、それ以外の肢の正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第18問 正解5

ア 誤り。共有物分割禁止の特約を登記する所有権変更登記は、共有者全員が登記権利

者兼登記義務者となって申請し、申請人全員の印鑑証明書を提供しなければならない。

イ 誤り。仮登記の抹消は、利害関係人が、仮登記名義人の承諾書を提供して、単独で

申請することができる。この承諾書には仮登記名義人が実印で押印し、その印鑑証明

書を提供しなければならない。この印鑑証明書は申請情報の添付情報欄に表示するも

のではないが、印鑑証明書の添付には違いないので本肢は誤りである。

ウ 誤り。所有権について、雇用関係の先取特権(一般の先取特権)の保存登記を申請

する場合は、先取特権者が登記権利者となり、債務者(使用者)が登記義務者となる。

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、その印鑑証明書を提供しなけ

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ればならない。

エ 正しい。信託が終了して信託財産である不動産が受託者(自己信託の場合は、委託

者=受託者である。)の固有財産となった場合は、受託者(=委託者)が登記権利者と

なり、受益者が登記義務者となって、共同で所有権の変更登記を申請する。受益者が登

記義務者となる場合は、その印鑑証明書の提供は要しない。

オ 正しい。官公署がする登記の嘱託は、当該官公署が単独で行う。官公署が登記を嘱託

する場合は、本来印鑑証明書を提供すべき場合であっても印鑑証明書は不要とされてい

る(不動産登記令16条4項、18条4項)。本肢の場合は、官公署が登記権利者(官

公署でなくとも印鑑証明書の提供は不要)であるから、なおさら印鑑証明書の提供は要

しない。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・印鑑証明書)。難易度:難。アウが誤っていることは明らか

である。イが誤っていることが分かればアイウの正誤の判断で、正解が可能である。し

かし、イの正誤の判断は、承諾書の押印に関する印鑑証明書は添付情報欄に記載しない

ことからてこずったかもしれない。その場合はエの判断を要するが、エは難問である。

したがって、難易度を難とした。

午後の部第19問 正解4

ア 誤り。破産管財人が、破産財団に属する不動産について、裁判所の許可証明情報を提

供して登記を申請する場合は、登記義務者となるべき場合であっても登記識別情報の提

供は要しない。

イ 正しい。単有を共有とする所有権保存登記の更正登記が完了すると、新たに共有者と

して登記された者に対して登記識別情報が通知される。その後、共有者全員が登記義務

者となって登記を申請する場合は、当初単独所有者として登記された者については所有

権保存登記の際の登記識別情報を提供し、更正登記によって共有者として登記された者

については所有権更正登記の際の登記識別情報を提供することとなる。

ウ 誤り。財産分与による所有権移転登記を、判決又は判決と同一の効力を有するものを

登記原因証明情報として提供する場合は登記権利者が単独で申請することができる。登

記手続をする旨が記載された公正証書は判決と同一の効力を有するものにはあたらない

から、これを登記原因証明情報として提供する場合、登記権利者と登記義務者が共同で

申請しなければならない。したがって、登記義務者の登記識別情報を提供しなければな

らない。

エ 正しい。甲区2番と甲区3番で持分取得の登記を受けて単有の所有権登記名義人とな

った者が登記義務者として登記を申請する場合において、その登記が甲区2番で登記し

た持分のみを目的とするものである場合は、甲区2番の登記の際の登記識別情報のみを

提供すれば足り、甲区3番の登記の際のものの提供は要しない。

オ 誤り。担保権の順位変更の登記は、順位が上下する担保権者及びそれに挟まれた担保

権者が申請人となり、その全員の登記識別情報を提供しなければならない。したがって、

本肢の場合、ABCが申請人となり、その全員の登記識別情報を提供しなければならな

い。

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よって、正しい肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・登記識別情報の提供)。難易度:易。登記識別情報に関する

重要知識を問う出題である。アイウ又はアイエの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第20問 正解3

ア 正しい。表題部所有者に一般承継(相続・合併)があった場合、一般承継人(相続人、

権利を承継した法人=存続会社、設立会社等)が自己名義の所有権保存登記を申請する

ことができる。表題部所有者が共有で、その全員が死亡した場合、相続人名義、相続人

と被相続人名義、被相続人名義の所有権保存登記を相続人全員又はそのうちの一人から

申請することができる(昭36.9.18民甲2323号)。

イ 誤り。死因贈与は、所有権保存登記を承継人名義ですることができる一般承継(ア参

照)にはあたらない。

ウ 正しい。不動産登記法74条1項2号(判決による所有権保存登記。本肢の登記が該

当する。)又は3号による所有権保存登記は、表題登記のない不動産(未登記不動産)

についても申請することができる(不動産登記法75条)。この場合は、登記官が職権

で表題登記をする。表題登記のない不動産につき不動産登記法74条1項2号、3号

により申請する場合、土地所在図等(建物の場合は建物図面と各階平面図)を提供す

る。

エ 正しい。表題部所有者Aが死亡した場合、その相続人が、当該相続人名義の所有権

保存登記ではなく、亡A名義の所有権保存登記を申請することもできる(一般承継人に

よる登記申請)。例えば、表題部所有者Aが不動産をBに売却したが、所有権保存登記

が未了のうちに死亡した場合は、Aの相続人は、自己名義ではなく、A名義の所有権保

存登記を申請することができる(昭32.10.18民甲1953号、登研750号、

登研484号、750号)。

オ 誤り。表題部所有者の持分に錯誤ではなく「変更」があったということは、表題部の

登記の後に持分の移転があったということである。この場合は、変更後の持分で所有権

保存登記をすることはできず、いったん、変更前の持分で所有権保存登記をした後で、

持分移転登記をすべきである。なお、持分に錯誤があった場合は、表題部所有者自体に

錯誤があった場合と同様、表題部の更正登記をしてから所有権保存登記をすべきである。

いずれにせよ、変更後の(あるいは正しい)持分でいきなり所有権保存登記をすること

は許されない。

よって、誤っている肢はイとオであり、3が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・所有権保存)。難易度:易。司法書士の受験勉強をする

者であるなら常識と言ってよい知識を問うアイの正誤の判断で、正解が可能である。オ

は、問題文の「変更」「更正」に疑問を感じるが、この肢の判断なしに正解が可能であ

る。

午後の部第21問 正解4

ア 誤り。相続登記の抹消の申請は、登記権利者と登記義務者が共同でしなければならな

い。相続登記を申請した代位債権者が相続放棄申述受理証明書を提供して単独で申請す

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平成30年度司法書士試験解答解説

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ることはできない。

イ 誤り。遺産分割の代償として相続人固有の不動産を他の相続人に移転する場合の登記

原因は、有償であれば「遺産分割による売買」、無償であれば「遺産分割による贈与」

であり、「遺産分割による代償譲渡」は認められない(平21.3.13民二646号、

登研740号。可能だとした 高裁の判決を受けての判断である。)。

ウ 正しい。登記申請の際に判決書を提供する場合において、判決理由から相続人全員が

被告となっていることが明らかな場合は、相続を証する情報の提供は不要である(一般

承継証明情報に関して登研548号)。

エ 誤り。限定承認をした共同相続人の中から家庭裁判所の職権により選任された相続

財産管理人が、相続人を代理して相続財産の売買を登記原因とする所有権移転登記を

申請した場合において、相続人全員の委任を受けていなかった場合、当該申請は、却

下される(平8.3.22民三598号)。競売によらない処分(任意売却)が有効で

あるとしても、相続財産管理人には任意売却による所有権移転登記申請の代理権はな

い。したがって、申請代理のためには相続人全員の委任状が必要である。

オ 正しい。相続人間で相続分の譲渡をした場合の登記の申請においては、登記原因が相

続か相続分の売買等であるかを問わず、農地法の許可証明情報の提供は不要である(登

研645号)。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

★先例問題(不動産登記法・相続登記)。難易度:難。イについては「そんな登記原因が

あったかな」と迷った受験生がいたかもしれない。これをクリアーすればアイが含まれ

る肢を切って、後はウエの判断となる。エについては先例があるが、あまりポピュラー

なものではない。ウについては、一般承継証明情報に関する実例を登記原因証明情報(相

続登記における相続を証する情報は登記原因証明情報である。)に関する問題に置き換

えて出題しているところに若干の疑義があるが、一般承継証明情報について言えること

は基本的に相続登記の相続を証する情報についても言えるから、そのように考えれば正

解に到達する。しかし、多くの受験生は判断に苦慮したであろうから難易度は難とした。

午後の部第22問 正解3

ア 正しい。事業用定期借地権の登記未了の間に所有権移転登記があった場合の賃借権

設定登記(賃借人は未登記だから新所有者に対抗できないが新所有者が承認すれば登

記可能である。)の原因日付は、当初の契約の日付である(平17.7.28民二16

90号、登研695号)。

イ 誤り。借地権以外の賃借権は、賃貸人が賃借権の共有者に加わることはできないが、

賃貸人(土地所有者)が、賃借権(借地権でなくてもよい)の一部を取得して賃借権の

共有者に加わることは許される(混同は生じない。昭38.6.18民甲1733号)。

本肢はそうした場合であり、賃借権は消滅しないから抹消登記をすることはできない。

ウ 誤り。用益権の地代等(賃借権の場合は賃料)を、複数の不動産につき一括して定め

て登記することはできない。各不動産ごとに定めるべきである。

エ 正しい。民法が定めた期間を超えない賃貸借(短期賃貸借)であれば、処分能力(権

限)がなくても管理能力(権限)があれば締結できるが、短期賃貸借の期間を超える賃

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平成30年度司法書士試験解答解説

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貸借については、処分能力(権限)がなければ締結できない。賃貸人が、そうした処分

能力(権限)がない者である場合(例えば、賃貸人が不在者の財産管理人である等)は、

その旨が登記事項となり(相対的登記事項)、申請情報となる(相対的申請情報。なお、

民法の短期賃貸借の規律は賃貸及び賃借のいずれにも適用があるが、不動産登記法にお

いては、処分能力(権限)を有しない旨が登記事項(申請情報)となるのは、賃貸人に

ついてのみである。)。

オ 正しい。賃借権に対しては滞納処分による差押登記の嘱託をすることができる。た

だし、賃借権の譲渡又は転貸を許す旨の登記がされていない場合は、賃貸人の承諾証

明情報を提供しなければならない(昭32.8.8民甲1431号)。

よって、誤っている肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・賃借権の登記)。難易度:中。イが誤っていること(正

解肢の一つであること)はすぐに分かるだろう。後はアイの判断である。それぞれ先

例知識を問うものであり深く学習していれば正誤の判断はつくが(三毛猫倶楽部では

いずれの先例も紹介している。)、とまどった受験生もいたであろうから、難易度は中

とした。

午後の部第23問 正解4

ア 正しい。不動産の使用又は収益をする権利について保全仮登記がされた後、当該保

全仮登記に係る仮処分の債権者が本登記を申請する場合においては、当該債権者は、所

有権以外の不動産の使用若しくは収益をする権利又は当該権利を目的とする権利に関す

る登記であって当該保全仮登記とともにした処分禁止の登記に後れるものの抹消を単独

で申請することができる(不動産登記法113条)。使用収益しない旨の定めのない質権

は、これらに係る保全仮登記がされている場合に後順位の用益権を抹消することができ

る。なお、使用収益しない旨の定めのない質権が後順位で登記されている場合に抹消さ

れることはない(基本通達)。

イ 正しい。質権は、抵当権と異なり、違約金を担保するから、違約金に関する定めがあ

る場合は、登記事項(申請情報)となる。

ウ 誤り。賃借権は、譲渡可能であれば、質権の目的となる。したがって、譲渡又は転貸

ができる旨の特約の登記がある賃借権を目的として質権設定登記をすることができるし

(昭30.5.16民甲929号)、当該特約の登記がなくても、賃貸人の承諾証明情

報を提供して申請すれば、やはり、賃借権を目的として質権設定登記をすることができ

る(精義P519)。譲渡又は転貸ができる旨の特約の登記があれば、賃貸人の承諾証

明情報は不要であるから、本肢は誤りである。

エ 誤り。本肢の変更は質権者に利益となる変更であるから、質権登記名義人Bが登記権

利者となり、所有権登記名義人Aが登記義務者となる。

オ 正しい。休眠担保権の抹消(本肢の抹消がこれに該当する。)を申請する場合は、供

託をしたことを証する情報を提供しなければならない。供託したことを証する情報は、

登記記録に登記されている債権、利息及び損害金の全額に相当する金銭の供託をしたこ

とを証するものでなければならない(昭63.7.1民三3456号)。供託すべき利

息又は損害金の額は、利息も損害金も登記されていない場合は、年6分の割合によるも

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平成30年度司法書士試験解答解説

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のでなければならない(昭63.7.1民三3499号)。

よって、誤っている肢はウとエであり、4が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・質権の登記)。難易度:易。正解肢であるウエは、是非

おさえておいてほしい知識を問うものである。

午後の部第24問 正解4

ア 正しい。登記原因証明情報は、登記義務者が法人である場合は、当該法人の代表者又

はこれに代わるべき者が作成したものでなければならない。「これに代わるべき者」に

は、支配人登記のされている支店長等(=法律上は支配人)のほか、支配人登記を受け

ていない支店長等も含まれる。なお、そのような者が作成する場合は、その「権限があ

ることを証する情報」(業務権限証明書。これは、代表者又は支配人登記のされている

支店長等が作成する。)を併せて提供する(登研688号、689号。業務権限証明書

については、登研730号実務の視点P119~参照。)。

イ 正しい。同順位の抵当権者間で、抵当権の譲渡の登記を申請することができる。本肢

の場合の登記の目的は、「1番(あ)抵当権の1番(い)抵当権への順位譲渡」である。

ウ 誤り。根抵当権の分割譲渡の登記を申請する場合において、極度額については、分割

譲渡する根抵当権の極度額と原根抵当権の極度額を申請情報として提供しなければなら

ない(後者は括弧書き)。

エ 正しい。共同根抵当権の追加設定登記を申請する場合において、債務者の住所等に変

更が生じている場合は、前提として、前登記の変更登記をしなければならない。ただし、

債務者の住所が行政区画の変更等により変更された場合(区制施行による変更を含む。)

は、前提登記は不要である。債務者の住所変更登記を経ることなく、共同根抵当権の追

加設定登記を申請することができる(平22.11.1民二2759号、登研755号、

748号P48)。

オ 誤り。共同担保権に関する登記は、管轄登記所と登記の目的が同一であれば同一の申

請情報で申請することができる。本肢の場合のように、共同根抵当権の極度額の変更登

記を申請する場合において、各不動産の登記原因の日付が異なる場合(それぞれ利害関

係人の承諾日が原因日付となる。)でも同じである。

よって、誤っている肢はウとオであり、4が正解となる。

★条文先例問題(不動産登記法・抵当権又は根抵当権の登記)。難易度:易。アイエにつ

いての判断にとまどったとしても、正解肢であるウオは、記述式の学習をきちんとして

おれば容易に判断できるものである(三毛猫倶楽部でも答練の記述式で出題している。)。

午後の部第25問 正解4

ア 正しい。所有権登記名義人Aが、Bに対して負担する債務を担保するため、(債権者

のBではなく)C(受託者)のために抵当権を設定(信託)した場合は(セキュリティ

・トラストの直接設定方式)、債権者のために受託者が抵当権者となり、債権者の利益

のため、抵当権を管理する。したがって、受託者は抵当権者であり、受益者は債権者で

ある。債権者と抵当権者が分離する(登研716号)。これは可能であり、抵当権設定

登記と信託登記を申請することができる。

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平成30年度司法書士試験解答解説

Page 47: 平成30年度司法書士試験解答解説 - plala.or.jp-2-記述式 第36問 第1欄 (1) 登記の目的 所有権移転 申登記原因 平成7年4月10日相続 請及びその日付

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イ 誤り。職権や嘱託によって変更登記がなされる場合のほか、信託登記の登記事項につ

いて変更があったときは、遅滞なく、信託変更登記を申請しなければならない(不動産

登記法103条1項)。これは、受託者の単独申請である(同項)。

ウ 正しい。信託財産である不動産を第三者に売却したので所有権移転登記と信託登記の

抹消を申請する場合の所有権移転登記の登記原因は「売買」であり、信託登記抹消の登

記原因は「信託財産の処分」である。

エ 誤り。受託者の任務終了によって、登記された信託財産に関する権利を新受託者が承

継した場合は、新受託者への権利の移転登記をする。この登記は、新受託者が登記権利

者となり、旧受託者が登記義務者となって、共同で申請するの原則である。ただし、

任務終了事由により新受託者の単独申請が可能な場合がある。受託者が後見開始の審判

を受けた場合は単独申請が可能な場合であるから、新受託者が単独で申請することがで

きる。

オ 正しい。受益者の定めのない信託であるときは、その旨が信託登記の登記事項となり、

信託目録に記録されるから、信託目録に記録すべき情報として提供しなければならない。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・信託登記)。難易度:中。正解肢の一つであるイの判断は、

信託登記をきちんと学習していれば容易である。後はウエである。ウについては、書式

精義では信託登記抹消の登記原因を申請情報としていないから判断が困難であったと思

う。しかし、エを読めば(信託登記をきちんと学習していれば)間違った肢であること

の判断は容易である。

午後の部第26問 正解4

ア 正しい。所有権移転仮登記の名義人は、(所有権移転請求権仮登記の名義人と異なり)

所有者であるから、抵当権の設定予約をすることができ、抵当権設定請求権の仮登記を

することができる。

イ 誤り。所有権移転請求権の一部移転登記がされている場合、すなわち、請求権が共有

の場合は、各共有者のための本登記は同時に申請しなければならない(昭35.5.1

0民三328号)。本登記をするための余白は一つしかないからである。したがって、

本肢の仮登記の本登記は、BCが登記権利者となり、Aが登記義務者となって共同で申

請しなければならない。

ウ 正しい。仮登記の本登記がされた場合において、本登記の原因に錯誤がある場合は、

本登記のみの抹消を申請することができる。この登記は、前所有権登記名義人Aが登記

権利者となり、抹消の対象である本登記の名義人Bが登記義務者となって共同で申請し

なければならない。

エ 誤り。仮登記に基づく本登記を仮処分によって禁止することは許されない(昭30.

8.25民甲1721号)。したがって、本肢の場合、仮登記に基づく本登記を申請す

る場合にCの承諾証明情報の提供は要しない。

オ 正しい。抵当権設定(請求権)仮登記に基づく本登記を申請する場合において、所有

権移転登記がされている場合の登記義務者は、当初の仮登記義務者でも、現在の所有権

登記名義人でもどちらでもよい(昭37.2.13民三75号、精義P111)。した

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平成30年度司法書士試験解答解説

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がって、本肢の本登記の申請は、登記権利者はBであり、登記義務者はACのいずれで

もよい。

よって、誤っている肢はイとエであり、4が正解となる。

★先例問題(不動産登記法・仮登記)。難易度:易。イの先例(三毛猫倶楽部では紹介し

ている。)を知っていればアイウの正誤の判断で、正解が可能である。イの判断がつか

なくともアウの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第27問 正解4

ア 正しい。更正登記の登録免許税額は、不動産1個について1,000円である(登録

免許税法別表第一、一(十四))。ただし、一部移転登記を全部移転登記に更正する場

合の登録免許税額は、実質的な一部移転登記であるので、更正登記によって実質的に移

転する持分の価格に移転登記の税率を乗じた額となる。本肢の場合、実質的に移転する

持分の価格は50万円であり、地上権の贈与による移転登記の税率は1,000分の1

0であるから、登録免許税額は5,000円である。

イ 正しい。抵当権の債権質入の登記は、付記登記で実行される。他の税区分に該当しな

い付記登記の登録免許税は、不動産の個数1個につき1,000円である(登録免許税

法別表第一、一(十四))。

ウ 誤り。国又は別表第二に掲げる者がこれらの者以外の者に代位してする登記は非課税

である(登録免許税法5条1号)。

エ 正しい。登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が

同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗するこ

とができる(民法387条1項)。この登記の登録免許税額は、賃借権及び抵当権の件

数1件につき1,000円(登録免許税別表第一、一(九))である。不動産の個数が

課税標準となるのではない。本肢の場合、賃借権と抵当権が1個ずつであるから2,

000円である。

オ 誤り。地上権、永小作権、賃借権若しくは採石権の設定の登記がされている土地又

は賃借権の設定の登記がされている建物について、その土地又は建物に係るこれらの権

利の登記名義人がその土地又は建物の取得に伴いその所有権の移転の登記を受けるとき

は、当該登記に係る登録免許税の税率は、所有権移転登記の税率に100分の50を乗

じて計算した割合となる(登録免許税法17条4項)。売買による所有権移転登記の税

率は1,000分の20であるから、本肢の登録免許税額は、100万円×(1,00

0分の20×100分の50)=1万円となる。

よって、誤っている肢はウとオであり、4が正解となる。

★条文問題(不動産登記法・登録免許税)。難易度:易。通常の学習をしていれば、正誤

の判断にとまどう可能性があるのはイのみである。ウオの正誤の判断で、正解が可能で

ある。

午後の部第28問 正解2

ア 正しい。支配人の登記は営業主が申請するので、支配人の登記を申請する場合は予

め営業主が印鑑を提出しなければならない。支配人を選任した営業主が個人商人であ

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平成30年度司法書士試験解答解説

Page 49: 平成30年度司法書士試験解答解説 - plala.or.jp-2-記述式 第36問 第1欄 (1) 登記の目的 所有権移転 申登記原因 平成7年4月10日相続 請及びその日付

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り、当該商人が印鑑を提出する場合は、印鑑届出書に個人の実印で押印し、当該押印

に関する市町村長作成した印鑑証明書で作成後3か月以内のものを添付しなければな

らない。なお、本肢は支配人を選任した個人商人の印鑑の提出について問うものであ

り、支配人の印鑑の提出ではない。

イ 誤り。本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地への印鑑提出も、本

店移転登記の申請と同様旧所在地を経由してしなければならない。

ウ 正しい。印鑑の提出は、代理権限証書を添付して、代理人によってすることができる。

エ 誤り。外国人は、印鑑を提出することができるが、申請のつど本国官憲の署名証明

を添付することで印鑑の提出に代えることができる(昭48.1.29民四821号)。

署名を予め提出することはできない。

オ 誤り。印鑑の提出が必要な登記をオンラインで申請する場合に、印鑑届出書の提出

に代えて印鑑の印影に係る情報を送信することはできない。その場合は、印鑑届書を

管轄登記所の窓口に提出又は送付しなければならない。この場合、印鑑届書には、どの

オンライン登記申請とともに提出されたものであるか確認する必要があるため申請番号

又は受付番号を余白に記載しなければならない(法務省HP)。

よって、正しい肢はアとウであり、2が正解となる。

★条文先例問題(商業登記法・印鑑の提出)。難易度:易。オの正誤の判断がつかなかっ

たとしても、アウの正誤の判断で、正解が可能である。ただし、アの肢を支配人の印鑑

の提出と混同すると正解が困難になったかもしれない。

午後の部第29問 正解5

ア 誤り。発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数は、定款で定めていなければ、発

起人の全員の同意で定めるべき事項である。この数は、払込みに係る金銭の額に応じて

割り当てられていなくとも差し支えない(ハンドブック第3版P67)。

イ 誤り。株式会社の設立登記の申請書に添付する払込みがあったことを証する書面は、

発起人の預金口座に振り込まれたことを証する書面だが、設立時代表取締役(設立時代

表執行役)の預金口座でもよい。本肢の場合、発起人はA株式会社及びB株式会社であ

り(Cではない。)、Cは、設立する株式会社の設立時取締役ではないから、その口座

に振り込まれたことを証する書面は払込みがあったことを証する書面として不適格であ

る。

ウ 誤り。募集設立の場合、創立総会において、原則として定款のどの部分であっても変

更することができる。監査役設置会社である旨を追加する定款変更をすることもできる。

しかし、発起人の全員の同意でそうした定款変更をすることはできない。なお、設立時

募集株式の払込期日又は払込期間の初日のうち も早い日前は、発起設立の場合と同様、

発起人全員の同意で発行可能株式総数の設定等の定款変更をすることができる(その場

合も監査役設置会社である旨を追加する定款変更をすることはできない。)。

エ 正しい。募集設立において、議決権制限株式を引き受けた設立時株主は、株主総会に

おいて議決権を行使することができる事項に相当する事項に限り、創立総会において議

決権を行使することができる(会社法72条2項)。創立総会のみなし決議も株主総会

のみなし決議とパラレルであり、発起人が創立総会の目的である事項について提案をし

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平成30年度司法書士試験解答解説

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た場合において、当該提案につき設立時株主(当該事項について議決権を行使すること

ができるものに限る。)の全員が書面(電磁的記録)により同意の意思表示をしたとき

は、当該提案を可決する旨の創立総会の決議があったものとみなされる(会社法82条

1項)。本肢の場合、みなし決議に議決権制限株式を有する設立時株主の同意は不要で

あるから、普通株式の設立時株主全員の同意があれば、そのことを証する書面を添付し

て、設立登記を申請することができる。

オ 正しい。同一商号同一本店の登記をすることはできない。既存の登記が休眠会社であ

っても同じである。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文先例問題(商業登記法・株式会社の設立登記)。難易度:易。アイの正誤の判断に

とまどったとしても、実体法である会社法の知識を問うウエの正誤の判断で、正解が可

能である。

午後の部第30問 正解4

ア 誤り。現物出資がある場合であっても、現物出資財産について定めた価額が相当であ

ることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の

証明(現物出資財産が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定

評価)を受けた場合は、当該証明を受けた現物出資財産の価額につき検査役の調査を要

さず、弁護士等の証明書等を添付して募集株式の発行による変更登記を申請することが

できる。しかし、証明をする者については欠格事由がある。発行会社の監査役であるこ

とは欠格事由の一つである。

イ 誤り。現物出資者に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えな

い場合は、現物出資財産の価額につき検査役の調査を要しない。本肢はその場合にあた

るから、募集株式の発行による変更登記の申請書に検査役の調査報告書の添付を要しな

い。

ウ 正しい。現物出資財産について定められた価額の総額が500万円を超えない場合は、

現物出資財産の価額につき検査役の調査を要さず、募集株式の発行による変更登記の申

請書に検査役の調査報告書の添付を要しない。

エ 誤り。現物出資財産のうち、市場価格のある有価証券について定められた価額が、当

該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場

合は、当該有価証券についての現物出資財産の価額につき検査役の調査を要しない。「当

該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるもの」とは、価

額決定日における当該有価証券を取引する市場における 終の価格(当該価額決定日

に売買取引がない場合又は当該価額決定日が当該市場の休業日に当たる場合にあって

は、その後 初になされた売買取引の成立価格)である。価額決定日において当該有

価証券が公開買付け等の対象であるときは、上記価格と、価額決定日における公開買

付け等の価格のうち、いずれか高い額である。本肢は「当該有価証券を当該会社に給

付した日」とあるから誤りである。

オ 正しい。現物出資がある場合であっても、現物出資財産について定めた価額が相当

であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法

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平成30年度司法書士試験解答解説

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人の証明(現物出資財産が不動産(不動産賃借権、地上権、地役権、採石権等を含む。)

である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合は、当該

証明を受けた現物出資財産の価額につき検査役の調査を要しない。本肢は、現物出資財

産が不動産賃借権であるから、税理士の証明書及び不動産鑑定士の鑑定評価書並びにこ

れらの附属書類を添付して、募集株式の発行による変更登記を申請することができる。

よって、正しい肢はウとオであり、4が正解となる。

★条文問題(商業登記法・募集株式の発行(現物出資))。難易度:易。現物出資がある

場合に検査役の調査を省略することができる場合は商法・商業登記法の学習において必

須項目である。オの不動産賃借権にとまどうとしても、アイウの正誤の判断で、正解が

可能である。

午後の部第31問 正解5

ア 誤り。非公開会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、議決権の行使に関し、株主ご

とに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる(属人的定め。会社法109条

2項)。属人的定めがある場合の株主の有する株式は種類株式とみなされるが、当該定

めは登記事項ではない。

イ 誤り。取得請求権付株式の取得の効力は取得請求をした時に生じるが、登記は毎月

末日現在で一括してすることができる。

ウ 正しい。発行済株式の総数及び発行済各種の株式の数は登記上1セットであるから、

その一部に変更が生じた場合は、変更がないものも含めてあらためて登記しなければ

ならない。

エ 正しい。種類株式発行会社が取得条項付株式の内容を設定・変更(廃止を除く。)す

る場合は取得条項を付す(付された)種類株式を有する種類株主全員の同意を要し、変

更登記の申請書にはその同意書の添付を要する。

オ 誤り。指名委員会等設置会社及び公開会社は、取締役等選解任権付株式を発行するこ

とはできない。本肢の株式会社は公開会社であるから(A種種類株式は譲渡自由であ

る。)、取締役等選解任権付株式を発行することはできず、その登記をすることはでき

ない。

よって、正しい肢はウとエであり、5が正解となる。

★条文問題(商業登記法・種類株式の登記)。難易度:易。通常の学習で正解可能である。

アイの正誤の判断で、正解が可能である。ただし、アの定めを属人的定めではなく真正

の種類株式であると勘違いした場合は正解が困難であったろう。

午後の部第32問 正解5

ア 登記の申請をすることができる。株式会社は、清算中であっても募集新株予約権を発

行し、その登記をすることができる。

イ 登記の申請をすることができる。株式会社は、清算中であっても、監査役の監査の範

囲を会計に関するものに限定する定款の定めを設けて、その登記をすることができる。

ウ 登記の申請をすることはできない。清算中は、会社法が定める監査役の任期に関する

規定の適用がなくなるから、定款で任期を定めた場合を除き、監査役の任期満了による

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平成30年度司法書士試験解答解説

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退任登記をすることはできない。

エ 登記の申請をすることはできない。株式会社は、清算中は、計数の変更(資本金の額

の減少等)をすることができず、その登記をすることはできない。

オ 登記の申請をすることができる。会社は、清算中は、吸収合併存続会社となる吸収合

併をすることはできない。吸収合併消滅会社となる吸収合併をすることはでき、その登

記をすることができる。

よって、登記の申請をすることができない肢はウとエであり、5が正解となる。

★条文問題(商業登記法・清算中の株式会社の登記)。難易度:易。清算中の株式会社が

できることできないことを問うものであり、商法の問題といってもよい出題である。イ

の判断で多少悩んだとしても正解肢であるウエの判断は容易である。

午後の部第33問 正解4

ア 誤り。吸収合併の効力発生日は、吸収合併存続株式会社と吸収合併消滅株式会社の合

意で変更することができる。その場合は、吸収合併による吸収合併存続株式会社の変更

登記の申請書には、「契約書」(合意を証する書面)及び吸収合併存続株式会社の「取

締役会議事録」(取締役会設置会社の場合)を添付しなければならない。吸収合併消滅

株式会社の取締役会議事録は不要であるから、本肢は誤りである。

イ 正しい。吸収合併に際して吸収合併存続株式会社が増資をする場合の吸収合併存続株

式会社の吸収合併による変更登記の登録免許税額は、増資額に1,000分の1.5を

乗じた額であり(ただし、吸収合併消滅会社の合併直前の資本金の額として財務省令で

定めるものを超過する額に対応する部分の税率は1,000分の7である。これによっ

て計算した税額が3万円に満たないときは申請件数1件につき3万円である。登録免許

税法別表第一、24(1)ヘ)、別途商号変更等がある場合はその他変更として申請1

件につき3万円を別途納付する(ツ)。しかし、増資がない場合は、吸収合併による変

更はその他変更の税区分に該当するので、商号変更等がある場合はそれと併せて申請1

件につき3万円となる。

ウ 誤り。新株予約権を発行する際、合併等の組織再編において消滅会社等の新株予約権

と引換えに存続会社等の新株予約権を交付することとする場合(新株予約権が承継され

ると定める場合)は、その旨及びその条件を新株予約権の内容として定めることができ

る。しかし、そうした定めの有無に関係なく、合併契約において、新株予約権の承継を

定めることができ、本肢のような書面は添付書面にはならない。

エ 誤り。吸収合併消滅株式会社が株券発行会社であって現実に株券を発行していた場合

は、吸収合併の手続において株券提供公告を要し、吸収合併存続株式会社の吸収合併に

よる変更登記の申請書には吸収合併消滅株式会社が株券提供公告をしたことを証する書

面を添付しなければならない。吸収合併消滅株式会社が吸収合併存続株式会社の完全子

会社であっても同じである。

オ 正しい。吸収合併存続株式会社が吸収合併消滅株式会社の特別支配会社である場合

は、吸収合併消滅株式会社において、吸収合併契約の承認についての株主総会の決議

を要さず、吸収合併存続株式会社の吸収合併による変更登記の申請書には吸収合併消

滅株式会社の株主総会議事録の添付を要しない。ただし、合併対価が譲渡制限株式で

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ある場合であって、吸収合併消滅株式会社が公開会社かつ単一株式発行会社である場

合(株主総会の特殊決議を要する場合)は、略式手続は認められない。本肢はその場

合に該当するから吸収合併消滅株式会社において株主総会の承認決議を要し、その株

主総会の議事録が添付書面となる。

よって、正しい肢はイとオであり、4が正解となる。

★条文問題(商業登記法・吸収合併の登記)。難易度:難。吸収合併に関する登記に関す

るかなり高度な知識を問う出題である。オが正解肢であることが判断できれば後はイ

エの判断であり、それができれば正解肢に到達しただろう。

午後の部第34問 正解3

ア 誤り。特例有限会社においては、監査役を置いた場合であっても、監査役設置会社で

ある旨は登記されない。

イ 正しい。特例有限会社は取締役会を置くことができない。したがって、役員変更の添

付書面は非取締役会設置会社の規律に服する。したがって、就任承諾書の押印に関する

印鑑証明書は、代表取締役ではなく取締役について添付する。

ウ 正しい。特例有限会社に限らず、本来、役員の任期満了退任登記や重任登記を申請す

る場合は申請書に定款を添付しなければならないが、改選に関する定時株主総会議事録

に役員が任期満了退任する旨の記載がある場合は定款の添付を要しない。

エ 誤り。定款で定めた代表取締役の解職は、定款変更の方法によって行う。定款変更は

株主総会の特別決議でするが、特例有限会社の特別決議は、通常の株式会社の場合と異

なり、特例有限会社の株主総会の特別決議については、株式会社の場合よりも決議要件

が加重され、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、そ

の割合以上)であって、当該株主の議決権の4分の3以上に当たる多数をもってする(整

備法14条3項、有限会社法48条1項参照)。

オ 誤り。特例有限会社においては、代表取締役の氏名は、特例有限会社を代表しない取

締役がある場合に限って登記される。したがって、代表取締役のみになった場合は、会

社を代表しない取締役がいなくなるから、代表取締役の氏名の登記は抹消しなければな

らない(代表取締役の氏名抹消)。この場合の登記原因は、代表取締役1名の特例有限

会社の代表取締役でない取締役が退任し、取締役が1名となった場合は「取締役が1名

となったため抹消」であり、取締役の全員が代表取締役となった場合は、「会社を代表

しない取締役の不存在により抹消」である(記載例)。本肢は前者の場合であるから、

登記原因を後者とする本肢は誤りである。

よって、正しい肢はイとウであり、3が正解となる。

★条文先例問題(商業登記法・特例有限会社の登記)。難易度:易。オ以外は、特例有限

会社に関する基本知識を問う出題である。アイの正誤の判断で、正解が可能である。

午後の部第35問 正解5

ア 誤り。社員が退社したことにより持分会社が解散した場合は、解散登記及び清算人の

登記のほかに、社員の退社の登記も申請しなければならない(ハンドブック第3版P7

01参照)。しかし、これらの登記を同時に申請しなければならない旨の規定はないか

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ら、本肢は誤りである。

イ 誤り。合資会社は、その定款を変更して、無限責任社員を有限責任社員とし、又は、

有限責任社員を無限責任社員とすることができる。定款変更には原則として総社員の同

意を要するから、変更登記の申請書には、総社員の同意書を添付しなければならない。

ウ 誤り。持分会社の設立登記又は社員若しくは代表社員の変更登記の申請においては、

株式会社と異なり、就任承諾書の押印に関する印鑑証明書を添付する旨の規定はない。

なお、互選された代表社員の就任承諾書を添付しなければならない点は正しい。

エ 正しい。持分会社の設立に際しての資本金の額の決定は、業務執行社員の過半数の一

致でする。業務執行社員が法人の場合は、その意思表示は、業務執行社員たる法人が選

任すべき職務執行者ではなく、当該法人の代表者(代表者が法人の場合はその職務執行

者)が行う(ハンドブック第3版P617)。したがって、本肢の場合、業務執行社員

である合同会社Bの意思表示は、合同会社Bの代表社員であるC株式会社の職務執行者

Dが行うから、資本金の額の決定を証する書面は、Dと自然人たる業務執行社員Aの一

致があったことを証する書面となる。

オ 正しい。持分会社における社員の加入の効力発生は、原則として、加入に係る定款変

更をしたときに生じるが(会社法604条2項)、合同会社においては、定款変更と出

資の履行のうちいずれか遅い時に加入の効力が発生する(3項)。本肢の場合、定款変

更のための総社員の同意の後に履行がなされているから、履行がなされた平成30年6

月28日を変更日として、業務執行社員加入及び資本金の額の変更登記を申請する。

よって、正しい肢はエとオであり、5が正解となる。

★条文先例問題(商業登記法・合資会社又は合同会社の登記)。難易度:中。イウの正誤

の判断で、正解が可能である。だが、アの「同時申請」にひっかかったり、エにとまど

ったりする可能性がるので、難易度を中とした。

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平成30年度司法書士試験解答解説

Page 55: 平成30年度司法書士試験解答解説 - plala.or.jp-2-記述式 第36問 第1欄 (1) 登記の目的 所有権移転 申登記原因 平成7年4月10日相続 請及びその日付

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午後の部第36問解説

1相続について

1)第一の相続

甲土地の所有権登記名義人である甲山司が死亡した(事実関係1)。甲山司死亡によっ

て開始した相続を、以下「第一の相続」という。その相続人は、配偶者甲山治子、子甲山

一郎、子甲山昭子(第一の相続開始時には存命)、子乙川和子である(事実関係3、別紙

3)。その相続分は、配偶者が2分の1で、残りの2分の1を三人の子で分け合うから、

甲山治子6分の3、甲山一郎6分の1、甲山昭子6分の1、乙川和子6分の1である。遺

言も遺産分割もないから(事実関係10)、甲土地は、相続人4名がこの相続分に応じて

承継したこととなる。

2)第二の相続

その後、甲山昭子が死亡した(事実関係2)。配偶者及び子はいないから(事実関係3、

別紙3)、相続人は直系尊属である甲山治子である。遺言はないから(事実関係10)、

甲土地の甲山昭子の持分は、甲山治子が承継したこととなる。

以上により、甲土地は、甲山治子(持分は当初の持分と甲山昭子から承継した持分とを

併せた6分の4)、甲山一郎(持分6分の1)、乙川和子(持分6分の1)の共有に属し

たこととなる。

3)すべき登記

所有権登記名義人について相続が開始した場合は、相続を登記原因とする所有権移転登

記(相続登記)をする。数次相続の場合、中間相続人が1名であれば直接 終相続人名義

の相続登記をすることができるが、本問では、中間相続人が1名ではないから、第一の相

続による相続登記をしてから第二の相続による相続登記をする。

4)第一の相続による相続登記(第1欄の(1))

a.登記の目的

「所有権移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成7年4月10日相続」である。日付は、被相続人甲山司の死亡日である。

c.申請事項等(申請人)

相続人甲山治子、甲山一郎、甲山昭子、乙川和子を記載する。「相続人」と表示する。

被相続人甲山司を括弧書きする。登記名義人となる者が複数であるから、持分(本問で

は、相続分と等しい)を記載する。甲山昭子は申請時において死亡しているから、その

相続人(甲山治子)が代わりに相続人となる(一般承継人による登記申請)。したがっ

て、甲山昭子に「亡」を冠記し、「上記相続人 甲山治子」を記載する。甲山治子は成

年被後見人であるため、成年後見人の乙川平太が甲山治子の法定代理人となって申請す

るが(司法書士法務直子は復代理である。)、代理人の氏名等は申請人欄には記載しな

い。

d.添付情報

a)登記識別情報(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、登記識別情報の提供は要しない。

b)登記原因証明情報

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平成30年度司法書士試験解答解説

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甲山司の相続人を特定することができる戸籍事項証明書(ア)を添付する。また、

被相続人の同一性を証する情報として、本籍の記載のある甲山司の住民票の除票の写

し(オ)を添付する。

c)印鑑証明書(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、印鑑証明書の提供は要しない。

d)住所証明情報

所有権移転登記の申請であるから、登記名義人となる者の住所証明情報を提供する。

具体的には、甲山治子の住民票の写し(ク)、甲山一郎の住民票の写し(ケ)、甲山

昭子の住民票の除票の写し(キ)、乙川和子の住民票の写し(コ)を提供する。

e)代理権限証明情報

乙川平太が甲山治子の成年後見人(法定代理人)であることを証する甲山治子に係

る登記事項証明書(エ)提供する。また、司法書士法務直子の代理権を証するため、

申請人及びその法定代理人の各委任状を提供する(添付情報一覧にないので記載不

要)。

f)一般承継証明情報

一般承継人による登記申請(甲山治子が甲山昭子を承継する。)であるから、甲山

昭子の相続人を特定することができる戸籍事項証明書(ウ)を添付する。

5)第二の相続による相続登記(第1欄の(2))

a.登記の目的

「甲山昭子持分全部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成15年7月15日相続」である。日付は、被相続人甲山昭子の死亡日である。

c.申請事項等(申請人)

相続人甲山治子を記載する。「相続人」と表示する。被相続人甲山昭子を括弧書きす

る。所有権の一部の移転であるから、持分(6分の1)を記載する。甲山治子は成年被

後見人であるため、成年後見人の乙川平太が甲山治子の法定代理人となって申請するが

(司法書士法務直子は復代理である。)、代理人の氏名等は申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記識別情報(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、登記識別情報の提供は要しない。

b)登記原因証明情報

甲山昭子の相続人を特定することができる戸籍事項証明書(ウ)を添付する。また、

被相続人の同一性を証する情報として、本籍の記載のある甲山昭子の住民票の除票の

写し(キ)を添付する。

c)印鑑証明書(不要)

単独申請であり、特段の規定もないから、印鑑証明書の提供は要しない。

d)住所証明情報

所有権(の持分の)移転登記の申請であるから、登記名義人となる者の住所証明情

報を提供する。具体的には、甲山治子の住民票の写し(ク)を提供する。

e)代理権限証明情報

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平成30年度司法書士試験解答解説

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乙川平太が甲山治子の成年後見人(法定代理人)であることを証する甲山治子に係

る登記事項証明書(エ)提供する。また、司法書士法務直子の代理権を証するため、

申請人の法定代理人乙川平太の委任状を提供する(添付情報一覧にないので記載不

要)。

2株式会社カガワソーラーへの売却

1)実体関係

甲土地を 終的に取得した相続人全員(甲山治子、甲山一郎、乙川和子。これらは相続

登記により所有権登記名義人となっている。)が、甲土地を株式会社カガワソーラーに売

り渡している(事実関係12、別紙5)。

相続人中、甲山治子は成年被後見人であるから、売買契約は成年後見人である乙川平太

がこれを代理してする(事実関係4、別紙4)。また、成年後見人乙川平太には成年後見

監督人民事大介が付されているから、不動産の売買にはその同意を要するところ、「必要

な同意を得た」とあるから(事実関係13)、民事大介の同意があったこととなる。

この売買契約において、所有権移転時期を売買代金が支払われ、売主がこれを受領した

時とする特約が付されているから、甲土地の所有権は、売買代金を売主が受領した平成3

0年5月10日(事実関係14)に買主の株式会社カガワソーラーに移転したこととなる。

2)すべき登記

株式会社カガワソーラーへの共有者全員持分全部移転登記を申請する。

3)申請情報(第2欄の(1))

a.登記の目的

「共有者全員持分全部移転」である。

b.登記原因及びその日付

「平成30年5月10日売買」である。日付は、代金が受領された日である(上記)。

c.申請人

株式会社カガワソーラーが登記権利者となり、甲山治子、甲山一郎、乙川和子が登記

義務者となって、共同で申請する。甲山治子は成年被後見人であるため、成年後見人の

乙川平太が甲山治子の法定代理人となって申請するが(司法書士法務直子は復代理であ

る。)、代理人の氏名等は申請人欄には記載しない。

d.添付情報

a)登記識別情報

登記義務者甲山治子、甲山一郎、乙川和子に対して相続登記(平成30年4月16

日申請)の際に通知される登記識別情報(ス)を提供する。甲山治子は二回の相続登

記のいずれについても登記識別情報の通知を受けており、それを全部提供するが、そ

の申請日は同一日であるから、解答的には「ス」のみである。

b)登記原因証明情報

本件売買は、所有権移転日が代金受領日であるから、売買契約書(別紙5)のみで

は足りず、代金受領を証する情報も必要となるが、添付情報一覧にそれがないから、

登記申請用に作成した登記原因証明情報(事実関係16、別紙6)(ヌ)を提供する。

c)同意証明情報

登記原因(売買)について、成年後見人乙川平太が成年被後見人甲山治子を代理す

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るには成年後見監督人民事大介の同意を要するので、その同意があったことを証する

情報(印鑑証明書付き。ヒ(民事大介のもの))を提供する。

d)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者甲山治子の法定

代理人乙川平太の印鑑証明書(テ)、登記義務者甲山一郎の印鑑証明書(チ)、登記

義務者乙川和子の印鑑証明書(ツ)を提供する。

e)住所証明情報

所有権の移転登記を申請する場合は、登記名義人となる者の住所証明情報を提供す

る。登記権利者株式会社カガワソーラーの住所を証する情報はその登記事項証明書で

あるが、同社の会社法人等番号を提供するからその提供を省略することができる。法

令の規定により省略できる場合でも添付情報一覧にあればそれを解答するが(答案作

成に当たっての注意事項2(2))、添付情報一覧にないので、解答は要しない。

f)会社法人等番号

会社法人等番号を有する法人が登記を申請する場合は、会社法人等番号を提供する

から、株式会社カガワソーラーの会社法人等番号(ヘ)を提供する。これは本来申請

情報であるが、添付情報欄に「会社法人等番号」と記載することになっている。本問

でもこれを解答する旨の指示があるから(答案作成に当たっての注意事項2(7))、

「ヘ」を記載する。

g)代理権限証明情報

乙川平太が甲山治子の成年後見人(法定代理人)であることを証する甲山治子に係

る登記事項証明書(エ)提供する。また、司法書士法務直子の代理権を証するため、

申請人又はその法定代理人又はその代表者の各委任状を提供する(添付情報一覧にな

いので記載不要)。

4)登記原因証明情報の内容(第2欄の(2))

登記原因証明情報は、売買等の債権行為のみならず、物権変動をも証するものでなけれ

ばならない。したがって、平成30年4月25日に売買契約が締結されたことのほか、所

有権移転時期についての特約があり、甲土地の所有権が当該特約により代金が支払われた

平成30年5月10日に移転した旨の記載を要する。また、法律行為及び物権変動が有効

に行われたことを証するものでなければならないので、売主の甲山治子の成年後見人乙川

平太が成年後見監督人民事大介の同意を得て売買契約をした旨の記載も必要である。具体

的な内容は、解答例参照。

3区分地上権の設定

1)実体関係

甲土地の所有者となった株式会社カガワソーラーが、株式会社サンエネルギーのために

地上権を設定している(事実関係18、別紙7)。上下の範囲を定めているから、これは

区分地上権である(民法269条の2第1項本文)。区分地上権は、第三者が土地の使用

又は収益をする権利を有する場合でも、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべ

ての者の承諾があれば設定することができる(2項)。本問では、甲土地を目的とする地

役権が設定されているから、地役権者である株式会社A電力開発(要役地(別紙2)の所

有権登記名義人)の承諾を要するところ、「地役権者の承諾を得て」とあるから(事実関

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平成30年度司法書士試験解答解説

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係18)、株式会社A電力開発の承諾を得て、区分地上権を設定したこととなる。

2)すべき登記

株式会社サンエネルギーのための区分地上権の設定登記を申請する。この登記は、甲土

地の乙区2番で実行される。

3)申請情報(第2欄の(1))

a.登記の目的

「地上権設定」である。

b.登記原因及びその日付

「平成30年5月25日設定」である。日付は設定契約日である。

c.申請事項等

設定の目的として「目的 太陽光発電施設所有」と記載する。

上下の範囲として「範囲 東京湾平均海面の上25.50メートルから上3.50メ

ートルの間」と記載する。

存続期間を「存続期間 252か月」と記載する。

地代を「地代 1平方メートル当たり年120円」と記載する。

地代の支払時期を「支払時期 毎年12月末日までに翌年分を前払にて支払う」と記

載する。

申請人を「権利者 株式会社サンエネルギー」「義務者 株式会社カガワソーラー」

と記載する。

d.添付情報

a)登記識別情報

登記義務者株式会社カガワソーラーに対して所有権移転登記(平成30年5月10

日申請)の際に通知される登記識別情報(セ)を提供する。

b)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、地上権設定契約書(別紙7)(ネ)を提供する。

c)承諾証明情報

登記原因(区分地上権設定)について、先順位の地役権者である株式会社A電力開

発の承諾を要するので、その承諾があったことを証する情報(印鑑証明書付き。ヒ(株

式会社A電力開発のもの))を提供する。

d)印鑑証明書

所有権登記名義人が登記義務者となる場合であるから、登記義務者株式会社カガワ

ソーラーの印鑑証明書(ト)を提供する。

e)会社法人等番号

会社法人等番号を有する法人が登記を申請する場合は、会社法人等番号を提供する

から、株式会社カガワソーラーの会社法人等番号(ヘ)と株式会社サンエネルギーの

会社法人等番号(ホ)を提供する。これは本来申請情報であるが、添付情報欄に「会

社法人等番号」と記載することになっている。本問でもこれを解答する旨の指示があ

るから(答案作成に当たっての注意事項2(7))、「ヘ」「ホ」を記載する。

f)代理権限証明情報

司法書士法務直子の代理権を証するため、申請人の代表者の各委任状を提供する(添

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付情報一覧にないので記載不要)。

e.登録免許税

用益権の設定登記の登録免許税額は、不動産の価額(課税価格。下三桁切捨て)に、

1,000分の10を乗じた額(下二桁切捨て)である(登録免許税法別表第一、一(三)

イ)。本申請の場合は「金3,700円」である。

4根抵当権の設定

1)実体関係

甲土地に設定された区分地上権を目的とする根抵当権が設定されている(事実関係19、

別紙8)。この契約は、根抵当権者となる株式会社B銀行と、甲土地の区分地上権者であ

る株式会社サンエネルギーが当事者となって締結したものである。

2)すべき登記

株式会社B銀行のための根抵当権設定登記を申請する。

3)申請情報(第3欄の(2))

a.登記の目的

「2番地上権根抵当権設定」である。根抵当権の目的である地上権を順位番号で特定

する。

b.登記原因及びその日付

「平成30年5月25日設定」である。日付は設定契約日である。

c.申請事項等

極度額として「極度額 金5,000万円」と記載する。

被担保債権の範囲として「債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権」と記載す

る。

債務者として「債務者 香川市四谷229番地 株式会社サンエネルギー 香川市赤

坂29番地 株式会社カガワソーラー」と記載する。住所の記載を要しないのは申請人

についてであるところ(答案作成に当たっての注意事項1(2))、債務者は申請人で

はないから、その住所を記載する。

申請人たる登記権利者を「根抵当権者 株式会社B銀行」と記載する。(根)抵当権

の登記においては銀行の取扱店を登記することができるから「(取扱店 香川支店)」

と付記する。

申請人たる登記義務者を「設定者 株式会社サンエネルギー」と記載する。

d.添付情報

a)登記識別情報

登記義務者株式会社サンエネルギーが、区分地上権の設定登記(平成30年5月2

5日申請)の際に通知される登記識別情報(ソ)を提供すべきだが、連件申請の前件

で登記名義人となった者が後件で登記義務者となる場合であるから、登記識別情報は

提供したものとみなされ、現実には提供を要しない。その場合でも解答欄に記載する

から(答案作成に当たっての注意事項2(2))、「ソ」と記載する。

b)登記原因証明情報

登記原因証明情報として、根抵当権設定契約書(別紙8)(ノ)を提供する。

c)印鑑証明書(不要)

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登記義務者が所有権登記名義人ではなく、登記義務者の登記識別情報を提供するか

ら、登記義務者の印鑑証明書の提供は要しない。

d)会社法人等番号

会社法人等番号を有する法人が登記を申請する場合は、会社法人等番号を提供する

から、株式会社サンエネルギーの会社法人等番号(ホ)と株式会社B銀行の会社法人

等番号(ム)を提供する。これは本来申請情報であるが、添付情報欄に「会社法人等

番号」と記載することになっている。本問でもこれを解答する旨の指示があるから(答

案作成に当たっての注意事項2(7))、「ホ」「ム」を記載する。

e)代理権限証明情報

司法書士法務直子の代理権を証するため、申請人の代表者の各委任状を提供する(添

付情報一覧にないので記載不要)。

e.登録免許税

根抵当権の設定登記の登録免許税額は、極度額に1,000分の4を乗じた額である

(登録免許税法別表第一、一(五))。本申請の場合は「金20万円」である。

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午後の部第37問解説

1前提

エース株式会社(以下、「設問会社」という。)は株主総会の決議によって解散し、現

在清算中である。単一株式発行会社であり、株式の譲渡制限に関する規定のある非公開会

社である。監査役設置会社であり監査役Cが在任中である。

2継続

設問会社の臨時株主総会で、会社の継続が決議されている(別紙3の第1号議案)。解

散(自律的解散(存続期間満了による解散を含む。)又は休眠解散に限る。)した会社は、

清算結了まで(休眠解散の場合は、清算結了と解散から3年を経過する日のいずれか早い

日まで)、株主総会の特別決議で会社を継続することができる。設問会社においては、解

散してからまだ3年は経過していない。また、議決権を有する株主が全員出席したうえで

の(別紙8の3)満場一致であるから特別決議の要件を満たしている。したがって、設問

会社は、継続の決議のあった平成30年5月30日に会社を継続したので、その旨の登記

を申請する。

【添付書面】

「株主総会議事録」※継続の決議を証するために添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※株主総会

の決議を要する場合は株主リストを添付する。

3機関設計

設問会社は、継続を決定した株主総会において、取締役会と監査役会を置く旨の定款変

更をしている。定款変更は株主総会の特別決議でするところ、議決権を有する株主が全員

出席したうえでの(別紙8の3)満場一致であるから特別決議の要件を満たしている。し

たがって、設問会社は、定款変更の決議のあった平成30年5月30日に、取締役会設置

会社の定め及び監査役会設置会社の定めを設定したので、その旨の登記を申請する。監査

役設置会社であることについては、解散前、清算中、継続後を通じて変わりはないから、

監査役設置会社の定め設定の登記の申請は要しない。

【添付書面】

「株主総会議事録」※定款変更の決議を証するために添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※株主総会

の決議を要する場合は株主リストを添付する。

4役員の選任

会社が解散すると、取締役は退任し、取締役の登記は職権で抹消されるから、継続する

ときは、取締役を選任しなければならない。設問会社は取締役会設置会社(取締役は三人

以上必要)となったから、取締役を三人以上選任しなければならない。また、株式会社が

継続されると、監査役の任期が復活する。監査役の法定任期は、選任後4年以内に終了す

る事業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の終結の時までであるが、非公開会社

は定款で上記任期規定の「4年」を「10年」と読み替えたところまで監査役の任期を伸

長することができ、設問会社においては、監査役の任期を選任後10年以内に終了する事

業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする定めがあった(別紙

3の第19条)。この任期の定めによれば、設問会社の監査役Cは継続の時点で任期中で

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平成30年度司法書士試験解答解説

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あった。しかし、上記臨時株主総会において、監査役の任期を選任後4年以内に終了する

事業年度のうち 終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする定款変更がなされ

ている。特別決議の要件は満たしている。役員の任期が変更された場合、在任中の役員に

も変更後の任期規定が適用される。すると監査役Cの任期は既に満了していたこととなる。

この場合は遡って任期が満了するのではなく、任期規定が変更された時に任期が満了する。

したがって、監査役Cは、定款変更の決議のあった平成30年5月30日に任期満了退任

したことなる。設問会社は監査役会設置会社になった。監査役会設置会社においては、監

査役は三人以上で、そのうち半数以上が社外監査役でなければならない(会社法335条

3項)。したがって、設問会社は、監査役三人以上(その半数以上が社外監査役)を選任

しなければならない。

そこで、上記臨時株主総会において、取締役ABEと監査役CDFGを選任したのであ

る。被選任者は選任された日のうちに就任を承諾している(答案作成にあたっての注意事

項5)。監査役Cは、任期満了退任した後ただちに再任しているから重任である。ここで、

選任された監査役CDFGの中に社外監査役の要件を満たす者が半数以上いるかが問題と

なる。Cは、社外監査役の要件の一つである「その就任の前10年内のいずれかの時にお

いて当該株式会社又はその子会社の監査役であったことがある者にあっては、当該監査役

への就任の前10年間当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人

であるときは、職務執行者)若しくは執行役又は支配人その他の使用人であったことがな

いこと」を満たさないので、社外監査役ではない。Dは、かつて設問会社の取締役であっ

たが、それは10年以上前のことであり、直前に設問会社の清算人であったがこれは社外

監査役の要件には関係ないから社外監査役の要件を満たしている。Fは、設問会社の親会

社であるクローバー株式会社(別紙5参照)の取締役であり、「当該株式会社の親会社等

(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役、監査役若しくは執行役若しくは支

配人その他の使用人でないこと」を満たさないので、社外監査役ではない。Gは、親会社

であるクローバー株式会社の会計参与であり、このことは、社外監査役の要件を満たさな

くするものではない。しかし、そもそも親会社の会計参与は子会社の監査役と兼任するこ

とができない。すると、社外監査役かどうかの前にそもそもGは設問会社の監査役に就任

できるのかが問題となる。この点については、役員が兼任が禁止されている地位に就くこ

とを承諾した場合は、従前の役員の地位を辞任する意思を表示したものと解されている(ハ

ンドブック第3版P436)。また、この場合は従前の地位については資格喪失するとす

る説もある(論点解説P377)。いずれにせよ、Gは親会社の会計参与を退任すること

となるので、設問会社の社外監査役に就任することができる。以上により、社外監査役と

して選任されたのはDGであることとなる。

以上により、選任及び就任承諾のあった平成30年5月30日に次の者が就任又は重任

したので、その登記を申請する。

取締役A就任

取締役B就任

取締役E就任

監査役C重任

監査役F就任

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平成30年度司法書士試験解答解説

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監査役(社外監査役)D就任

監査役(社外監査役)G就任

【添付書面】

「株主総会議事録」※取締役及び監査役の選任決議を証するため、また、監査役の任期

規定の変更(定款変更)を証し、もって監査役Dの任期が満了したことを証するために

添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※株主総会

の決議を要する場合は株主リストを添付する。

「就任承諾書」※選任に係る株主総会議事録に「被選任者は席上就任を承諾した」旨の

記載がないから就任の承諾を証する書面として当該議事録の記載を援用することはでき

ず、現実に就任承諾書を人数分(7通)添付する。

「本人確認証明書」(不要)※取締役、監査役、執行役の就任登記を申請する場合は、

再任の場合又は印鑑証明書を添付する場合を除き、その本人確認証明書を添付しなけれ

ばならない。本問では、取締役及び監査役の全員の印鑑証明書を添付するから(後記)、

その本人確認証明書の添付は要しない(監査役Cは再任であるから、その意味でも本人

確認証明書の添付を要しない。)。

5代表取締役の選定

設問会社は、継続の際に取締役会設置会社となった。取締役会設置会社は、必ず、取締

役会の決議で代表取締役を選定しなければならない。そこで、取締役会で代表取締役Aを

選定している(別紙4の第1号議案)。被選定者は席上就任を承諾した(同)。よって、

取締役会のあった平成30年5月30日、代表取締役Aが就任したので、その旨の登記を

申請する。

【添付書面】

「取締役会議事録」※代表取締役の選定決議を証するために添付する。

「就任の承諾を証する書面」※選定に係る取締役会議事録に被選定者が席上就任を承諾

した旨の記載があるから、当該記載を援用する。

「就任承諾書の押印に関する印鑑証明書」※取締役会設置会社においては、代表取締役

の就任(再任を除く。)による変更登記を申請する際、就任承諾書の押印に関する印鑑

証明書を添付しなければならない。再任の場合は省略することができるが、継続の場合、

代表取締役の前に存在したのは代表清算人であり代表取締役の再任はあり得ないから印

鑑証明書の添付を省略することはできない。したがって、代表取締役Aの就任の承諾を

証する書面(取締役会議事録)の押印に関する印鑑証明書を添付する。

「議事録等の押印に関する印鑑証明書」※取締役会設置会社においては、変更前の代表

取締役が届出印で押印している場合を除き、代表取締役の選定に関する取締役会議事録

の押印に関する印鑑証明書を添付しなければならない。継続の場合、直前に存在するの

は代表清算人であり「変更前の代表取締役」はあり得ないから、印鑑証明書の添付を省

略することはできない。したがって、取締役会議事録の出席取締役3名及び出席監査役

4名の押印に関する印鑑証明書7通(Aの印鑑証明書は、就任承諾書の押印に関する印

鑑証明書でもある。)を添付する。

6支配人選任

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設問会社の取締役会で支店に置く支配人が選任されている(別紙4の第2号議案)。支

配人選任は、取締役会設置会社においては取締役会の専決事項である。したがって、支配

人選任の登記を申請することとなる。

【添付書面】

「取締役会議事録」

7登記申請手続(平成30年6月1日申請分)

1)すべき登記

継続、取締役、代表取締役及び監査役の就任(重任)、取締役会設置会社の定め設定、

監査役会設置会社の定め設定、支配人選任の各登記を申請する。

2)登記の事由

「会社継続

取締役、代表取締役及び監査役の変更

取締役会設置会社の定め設定

監査役会設置会社の定め設定

支配人の選任」である。

3)登記すべき事項

登記すべき事項を区ごとにまとめて、次のとおり記載する。なお、支配人の選任登記に

おいては、支配人の氏名及び住所、支配人を置いた営業所を登記し、「就任」やその日付

は登記しない。

「平成30年5月30日会社継続

(※会社履歴区に記録すべき事項である。)

同日次の者重任

監査役 C

同日次の者就任

取締役 A

取締役 B

取締役 E

東京都港区甲町1番地

代表取締役 A

監査役 F

監査役(社外監査役)D

監査役(社外監査役)G

(※以上が、役員区に記録すべき事項である。)

同日取締役会設置会社の定め設定

同日監査役会設置会社の定め設定

(※以上が、会社状態区に記録すべき事項である。)

支配人の氏名及び住所

大阪市中央区丙町1番地

支配人を置いた営業所

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大阪市中央区北町一丁目1番1号

(※支配人区に記録すべき事項である。)」

4)登録免許税

取締役、代表取締役及び監査役の変更登記の登録免許税は、役員変更の税区分に該当し、

申請1件につき3万円であるが、資本金の額が1億円以下の場合は1万円である(登録免

許税別表第一、24(1)カ)。本問では、1万円である。継続登記の登録免許税は、申

請1件につき3万円である((1)ソ)。取締役会設置会社の定め設定登記と監査役会設

置会社の定め設定登記の登録免許税は、申請1件につき3万円である(ワ)。支配人選任

の登録免許税は、申請1件につき3万円である(ヨ)。以上の合計額の「金10万円」が

登録免許税額である。

5)添付書面

a.株主総会議事録

継続の決定及び定款変更を証するため、1通添付する。

b.株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)

株主総会の決議を要する場合であるから、株主リストを1通添付する。

c.取締役会議事録

代表取締役の選定と支配人の選任を証するため、1通添付する。

d.就任承諾書

取締役及び監査役の就任承諾書を各1通計7通添付する。代表取締役の就任の承諾を

証する書面については、取締役会議事録の記載を援用するから、その旨を記載する。

e.印鑑証明書

7通添付する(上記参照)。

f.委任状

司法書士法務道子の代理権を証するために、1通添付する。

8代表取締役の選定と支配人の代理権消滅

1回目の登記が完了した後、設問会社は、取締役会の決議で、代表取締役Bを選定して

いる(別紙6の第2号議案)。Bは設問会社の支配人である。支配人は取締役と兼任する

ことはできるが、代表取締役と兼任することは許されず、支配人が代表取締役への就任を

承諾した場合は、支配人を辞任する意思表示が含まれているとみなされる(ハンドブック

第3版P209)。Bは選定された日のうちに就任を承諾しているから(答案作成にあた

っての注意事項5)、取締役会のあった平成30年6月20日、代表取締役Bが就任し、

支配人Bが辞任したので、その旨の登記を申請する。

【添付書面】

「取締役会議事録」※代表取締役の選定決議を証するために添付する。

「就任承諾書」※選定に係る取締役会議事録に被選定者が席上就任を承諾した旨の記載

がないから、現実に代表取締役Bの就任承諾書を添付する。

「就任承諾書の押印に関する印鑑証明書」※取締役会設置会社においては、代表取締役

の就任(再任を除く。)による変更登記を申請する際、就任承諾書の押印に関する印鑑

証明書を添付しなければならない。代表取締役Bは再任ではないから、代表取締役Bの

就任承諾書の押印に関する印鑑証明書を添付する。

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「議事録等の押印に関する印鑑証明書」※取締役会設置会社においては、変更前の代表

取締役が届出印で押印している場合を除き、代表取締役の選定に関する取締役会議事録

の押印に関する印鑑証明書を添付しなければならない。本問では、変更前の代表取締役

Aが届出印で押印しているから(別紙9の1)、取締役会議事録の押印に関する印鑑証

明書の添付は要しない。

以上により、印鑑証明書はBのものを1通添付する。

9取締役の死亡と取締役の就任

設問会社の取締役Eが死亡した(別紙9の2)。これによって、取締役会設置会社(取

締役は三人以上必要)である設問会社の取締役は二人になり、欠員が生じたこととなる。

ところで、先の臨時株主総会において、補欠取締役が選任され(別紙3の第5号議案)、

就任を承諾していた(答案作成にあたっての注意事項5)。欠員となった場合に備えて補

欠取締役を予選することは可能であり、その予選の効力は、予選の決議後 初に開催する

定時株主総会の開始の時までである。補欠取締役が欠員が生じる前に就任を承諾していた

場合は、欠員が生じたときに取締役に就任する。したがって、予選の際に第1順位とされ

たHが、欠員が生じた時(=Eが死亡した時)に取締役に就任したこととなり、取締役E

の死亡登記と取締役Hの就任登記を申請する。

【添付書面】

「株主総会議事録」※取締役の予選決議を証するために添付する。

「株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)」※株主総会

の決議を要する場合は株主リストを添付する。

「就任承諾書」※Hの就任承諾書を添付する。

「本人確認証明書」※取締役、監査役、執行役の就任登記を申請する場合は、再任の場

合又は印鑑証明書を添付する場合を除き、その本人確認証明書を添付しなければならな

い。Hは再任ではなく、その印鑑証明書を添付しないから、その本人確認証明書を添付

する。

10株式無償割当て

設問会社の取締役会で、株式無償割当てを決定している(別紙6の第1号議案)。設問

会社のような取締役会設置会社の株式無償割当ては、定款に別段の定めがある場合を除き、

取締役会で決定する。

株式無償割当てにおいては、株式の分割と異なり、新株のほか自己株式を交付すること

ができるが、本問では、交付する株式はすべて新株である。

割当ての割合は、株式1株につき0.5株である。株式無償割当ては自己株式に対して

はなされないから(株式の分割と異なる。)、本問では、発行済株式の総数500株のう

ち自己株式100株(別紙5)を除いた400株に対して200株が無償で交付されるこ

ととなる(端数は生じない。)。交付する株式はすべて新株であるから、新株200株が

発行されたこととなる。

よって、効力発生日(平成30年6月27日)、発行済株式の総数は200株増加して

700株となった。発行済株式の総数は発行可能株式総数の枠内である。したがって、株

式無償割当てによる変更登記を申請することとなる。

【添付書面】

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「取締役会議事録」※株式無償割当ての決定を証するために添付する。

11株式の譲渡制限に関する規定の廃止

設問会社の臨時株主総会において、株式の譲渡制限に関する規定を廃止する定款変更を

している(別紙7の第1号議案)。議決権を有する株主が全員出席したうえでの(別紙9

の3)満場一致であるから特別決議の要件を満たしている。しかし、非公開会社が定款を

変更して公開会社となる場合、発行可能株式総数は当該定款の変更が効力を生じた時にお

ける発行済株式の総数の4倍を超えることができない(会社法113条3項2号)。設問

会社の発行可能株式総数は3000株であり、発行済株式の総数(株式無償割当てにより、

定款変更の時点(平成30年6月28日)では700株になっている。)の4倍を超えて

いる。したがって、この定款変更は無効であり、登記をすることはできない。この旨を第

3欄に記載する。この定款変更の効力を生じさせるためには、定款を変更して、発行可能

株式総数を、発行済株式の総数の4倍である2800株以下に引き下げればよい。したが

って、第4欄に記載すべき事項は、「発行可能株式総数を、発行済株式の総数の4倍であ

る2800株以下に引き下げる定款変更」である。

12登記申請手続(平成30年7月2日申請分)

1)すべき登記

代表取締役の就任、取締役の死亡及び就任、支配人の代理権が辞任によって消滅した旨、

株式無償割当ての各登記を申請する。

2)登記の事由

「取締役及び代表取締役の変更

支配人の代理権消滅

株式無償割当て」である。

3)登記すべき事項

登記すべき事項を区ごとにまとめて、次のとおり記載する。

「平成30年6月20日次の者就任

大阪市中央区丙町1番地

代表取締役 B

平成30年6月26日取締役E死亡

同日次の者就任

取締役 H

(※以上が、役員区に記録すべき事項である。)

平成30年6月20日支配人B辞任

(※支配人区に記録すべき事項である。)

平成30年6月27日変更

発行済株式の総数 700株

(※株式資本区に記録すべき事項である。)」

4)登録免許税

取締役及び代表取締役の変更登記の登録免許税は、役員変更の税区分に該当し、申請1

件につき3万円であるが、資本金の額が1億円以下の場合は1万円である(登録免許税別

表第一、24(1)カ)。本問では、1万円である。支配人の代理権消滅(辞任)の登録

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免許税は、申請1件につき3万円である(ヨ)。株式無償割当てによる変更登記の登録免

許税は、その他変更として申請1件につき3万円である(ツ)。以上の合計額の「金7万

円」が登録免許税額である。

5)添付書面

a.株主総会議事録

取締役の予選を証するため、1通添付する。

b.株主の氏名又は名称、住所及び議決権数等を証する書面(株主リスト)

株主総会の決議を要する場合であるから、株主リストを1通添付する。

c.取締役会議事録

株式無償割当ての決定と代表取締役の選定を証するため、1通添付する。

d.死亡届

取締役Eの死亡を証するため、1通添付する。

e.就任承諾書

取締役Hと代表取締役Bの就任承諾書を、各1通計2通添付する。

f.印鑑証明書

代表取締役Bの印鑑証明書を、1通添付する。

g.本人確認証明書

取締役Hの本人確認証明書を、1通添付する。

h.委任状

司法書士法務道子の代理権を証するために、1通添付する。

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平成30年度司法書士試験講評

●午前の部

○憲法全般 難易度:易

通常の受験勉強によって解答可能なものであった。すべての肢の正誤の判断がつかなく

とも、肢のからみで十分正解にたどりつけるものであった。第3問は、出題形式が通常

と異なるためあわてた受験生がいたかもしれないが、落ち着いて挑めば十分解答可能な

ものであった。

○民法全般 難易度:易(難易度下落)

民法全問が、基本的な知識や、おさえておかなければならない重要ポイントを問うもの

であり、通常の受験勉強によって解答可能なものであった。「どうにもならない問題」

はなかったものと思われる。例年よりかなり容易化した出題であった。

○刑法全般 難易度:易(中)(難易度上昇)

通常の受験勉強によっておさえておかなければならない論点が多く出題されたので、見

知らぬ判例が問われたとしても正解は可能であったものと思われる。ただし、例年出題

されていた財産罪が出題されず、その分、他の分野から出題されたから、学習が追いつ

いていなかった受験生がいたかもしれない。

○商法全般 難易度:中(難易度上昇)

昨年度は、条文そのままではなく実務的な知識を問う問題(商業登記法的視点にたった

問題)も出題されたが、本年度は概ね条文知識を問うものであった。それでも、かなり

細部の知識を問うものが目立ったし、捨て問と言ってよい問題(第35問)もあり、難

易度は若干上昇したものと思われる。

●午後の部

○民事訴訟法全般 難易度:中(難易度上昇)

条文知識を問うものであっても、出題範囲が例年と若干異なったため、苦戦した受験生

がいたかもしれない。

○民事保全法・民事執行法 難易度:易

基本的な条文知識を問うものばかりであり、昨年同様、解答は容易であった。

○司法書士法 難易度:易

基本的な条文知識を問うものばかりであり、解答は容易であった。

○供託法全般 難易度:易

通常の学習によって確実に得点できる出題であった。

○不動産登記法(択一式)全般 難易度:中(難易度上昇)

普段あまり目にしないような事項を問う肢も目立った。例えば、信託に登記については、

いよいよ細部について問われるようになった。だが、そうした肢を含む問題の多くは肢

を切ることで正解が可能であるものがほとんであった。したがって、予想外の問いにパ

ニックにならなければ、合格点に達したであろう。

○商業登記法(択一式)全般 難易度:易(中)(難易度上昇)

第33問を除いては、通常の受験勉強によって解答可能なものであったが、問題文をし

っかり読み込まずに誤解をしてしまうと思わぬ減点につながる出題であった。

○不動産登記法(記述式) 難易度:易(難易度下落)

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問題の情報量が多い点は例年と同様であるが、今回は、問われている内容自体は大変シ

ンプルであり、素直な出題であった。粛々と申請書を書けば合格点到達が可能な出題であ

った。

○商業登記法(記述式) 難易度:易(難易度下落)

代表取締役就任による支配人の辞任がフェイントであった。また、取締役の死亡により、

予選されていた補欠取締役が就任する点も、フェイントといえばフェイントであるが、議

事録の予選を見て予測していれば解答は十分可能である。株式無償割当ては自己株式に対

してはなされないため、株式の譲渡制限に関する規定の廃止により発行可能株式総数が発

行済株式の総数の4倍を超えてしまう点は、おなじみの論点である。ということで、通常

の学習により、十分合格点到達が可能な出題であった。

●全体の講評

午前の部は、民法が容易化した反面、刑法と商法の難易度が上昇したから、全体として

は昨年と同レベルであると思われる。これに対し、午後の部の択一式については、難易度

が上昇した科目が多く、全体としても難化したものと思われる。記述式は、分量は例年並

みであったが、不動産登記法も商業登記法もシンプルな出題であり(昨年もそういう傾向

であったが、今年はその傾向が一層顕著であった)、例年と比べて「より書けた」受験生

が多かったものと思われる。したがって、例年以上に択一の比重が高まったものと思われ

る。

なお、解説の執筆においては、択一式については三毛猫倶楽部のテキストからの引用、

記述式については三毛猫倶楽部の答練の解説からの引用でほとんど間に合った。したがっ

て、三毛猫倶楽部のテキストや答練をきっちりやることが合格につながることをあらため

て再確認した次第である(例年通り)。

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