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弁護士 澤田将史 平成30年著作権法改正について 2018年12月13日 1 自己紹介 略歴 2008年 早稲田大学法学部卒業 2011年 早稲田大学大学院法務研究科修了 2012年 弁護士登録(第一東京弁護士会) 長島・大野・常松法律事務所入所 2016年 文化庁長官官房著作権課(当時)に出向 立案担当者として今般の平成30年著作権法改正に携わったほか、著作権法改正の 企画立案を中心に担当 澤田 将史(さわだ まさし) 弁護士・文化庁 著作権課 著作権調査官 ※注意 本資料の記載事項及び本日の説明は、個人的な見解であり、 所属する組織の見解ではありません

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弁護士 澤田将史

平成30年著作権法改正について

2018年12月13日

1

自己紹介

略歴2008年 早稲田大学法学部卒業2011年 早稲田大学大学院法務研究科修了2012年 弁護士登録(第一東京弁護士会)

長島・大野・常松法律事務所入所2016年 文化庁長官官房著作権課(当時)に出向

立案担当者として今般の平成30年著作権法改正に携わったほか、著作権法改正の企画立案を中心に担当

澤田 将史(さわだ まさし)弁護士・文化庁 著作権課 著作権調査官

※注意本資料の記載事項及び本日の説明は、個人的な見解であり、所属する組織の見解ではありません

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①著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)

④学校教育法等の一部を改正する法律(平成30年法律第39号)

②環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律【TPP11整備法】(平成30年法律第70号)

③民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成30年法律第72号)

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平成30年第196回国会における著作権法改正

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著作権法の一部を改正する法律

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②に係る改正事項については、公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日

・ 著作物の市場に悪影響を及ぼさないビッグデータを活用したサービス等のための著作物の利用について、許諾なく行えるようにする

・ イノベーションの創出を促進するため、情報通信技術の進展に伴い将来新たな著作物の利用方法が生まれた場合にも柔軟に対応できるよう、ある程度抽象的に定めた規定を整備する

・ ICTの活用により教育の質の向上等を図るため、学校等の授業や予習・復習用に、教師が他人の著作物を用いて作成した教材をネットワークを通じて生徒の端末に送信する行為等について、許諾なく行えるようにする

②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備

・ マラケシュ条約の締結に向けて、現在視覚障害者等が対象となっている規定を見直し、肢体不自由等により書籍を持てない者のために録音図書の作成等を許諾なく行えるようにする

③障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備

・ 美術館等の展示作品の解説・紹介用資料をデジタル方式で作成し、タブレット端末等で閲覧可能にすること等を許諾なく行えるようにする

・ 国及び地方公共団体等が裁定制度を利用する際、補償金の供託を不要とする・ 国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送付を許諾無く行えるようにする

④アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定等の整備

施行期日 平成31年1月1日

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著作権法の一部を改正する法律①デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備

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①デジタル化・ネットワーク化に対応した柔軟性のある権利制限規定の整備

環境変化に対応した著作物利用の円滑化を図り、新しいイノベーションを促進するため、柔軟な権利制限規定を整備「柔軟な権利制限規定」権利制限規定の柔軟性が高いとは、ある行為に権利制限規定が適用されるか否かについて解釈の余地が大きいことを意味する*米国のフェアユース規定は、①利用の目的及び性質、②著作物の性質、③利用される分量及び実質性、④著作物の潜在的市場又は価値に対する利用の影響等を考慮して、公正(フェア)であれば無許諾で利用できる、というもので、柔軟性が高い

○IoT・ビッグデータ・人工知能などの技術革新による「第4次産業革命」は我が国の生産性向上の鍵と位置づけられ、これらの技術を活用し著作物を含む大量の情報の集積・組合せ・解析により付加価値を生み出すイノベーションの創出が期待されている

○ しかし、現在の著作権法は、著作権者の許諾なく利用できる場合に関する規定(権利制限規定)を利用の目的や場面ごとに一定程度具体的に規定している

○ このため、類似の行為でも条文上明記されていなければ、形式的には違法となり、利用の萎縮が生じているとの指摘や、技術革新を背景とした新たな著作物の利用ニーズへの対応が困難との指摘がある

問題の所在

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審議会における検討結果○企業や団体の意識大半の企業や団体は高い法令順守意識と訴訟への抵抗感から、規定の柔軟性より明確性を重視

○国民の著作権法の理解著作権に対する理解が十分に浸透していないことなどから、柔軟性の高い規定を整備した場合、過失等による権利侵害が助長されるおそれ一般的・包括的な権利制限規定の創設では、「公正な利用」の促進効果はそれほど期待できない一方で、「不公正な利用」を助長する可能性が高まる

○訴訟制度の問題法定損害賠償制度や弁護士費用の敗訴者負担制度もないため、訴訟しても費用倒れになることが多い

○立法と司法の役割分担公益に関わる事項や政治的対立のある事項については、司法府ではなく、民主的正統性を有する立法府において権利者の利益との調整が行われることが適当

我が国において最も望ましい「柔軟性のある権利制限規定」の整備については、明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによる「多層的」な対応(権利者に及び得る不利益の度合いに応じて分類した3つの層について、それぞれ適切な柔軟性を確保した規定の整備)を行うことが適当

[第1層]権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類型

権利者の利益を不当に害する領域

社会的意義・

公益性等

著作物を享受(鑑賞等)する目的で利用しな

い場合等

<例>○コンピューターの内部処理のみに供されるコピー等

○セキュリティ確保のためのソフトウェアの調査解析等

新たな情報・知見を創出するサービスの提供に付随して、著作物を軽微な形で利用する場合

<例>〇所在検索サービス〇情報解析サービス

【柔軟な権利制限規定を整備】著作物の表現を享受しない行為や、情報処理技術を用いて新たな知見や情報を生み出し付加価値を創出するサービスにおいて、付随的に軽微な形で著作物を利用する行為を広く可能に。⇒ AI、IoT、ビッグデータを活用したイノベーションを創出しやすい環境を整備し、「第4次産業革命」を加速。

権利者に及ぶ不利益

権利者の利益を不当に害する領域

障害者教育

報道

・・・

アーカイブ

・・・

引用図書館

・・・・・・

・・・

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多層的な対応のイメージ[第2層]権利者に及び得る不利益が軽微な行為類型

[第3層]著作物の市場と衝突する場合があるが、公益的政策実現等のために著作物の利用の促進が期待される行為類型

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現行第47条の6

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柔軟な権利制限規定の整備のイメージ○現行規定の整理・統合

第1層・第2層のコンセプトが妥当する現行規定が複数存在していることから、現行規定を包含する形で柔軟な権利制限規定を整備することとしている

○現行規定の権利制限の範囲との関係・ 現行規定を整理・統合するに当たって、現行規定の技術的な限定や方式の限定などを一部削除しており、権利制限の対象が明示的に拡大している例:情報解析の手法

現行第30条の4

現行第47条の7

新第30条の4

現行第47条の8 …

新第47条の5第1号 第2号 第3号

第1層 第1層 第2層

権利制限の趣旨(コンセプト)ごとに規定がまとまっている* 30条の4、47条の4との構造の違いは後述

現行第47条の4

新第47条の4

第1項 第2項

・包括的な規定を設けるに当たって、権利者の利益を不当に害する場合はこの限りでないとのただし書を設けるなどしており、見かけ上は権利制限の範囲が狭くなっているように見える部分もあるが、現行規定が権利制限の対象として想定していた行為は引き続き権利制限の対象となる(この点については附帯決議・国会審議において明示的に確認されている)

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新第30条の4の立法趣旨

対価の支払

著作物が有する経済的価値は、通常、市場において、映画や音楽の鑑賞など著作物の視聴等をする者が著作物に表現された思想又は感情を享受するための対価の支払により現実化著作権法は、この著作物が有する経済的価値を保護するために著作権を与えている

スピーカーの音質をチェックするために音楽を流す

AIによる情報解析に用いるために著作物をコピーする

これらの行為は、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的とするものではなく、上記の著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害するものではない

新第30条の4では、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為について幅広く権利制限の対象とすることとした

ポイントは、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としているか否か

新旧12頁

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新第30条の4で権利制限の対象となる行為のイメージ

○情報解析・AI開発・ 情報解析に供する目的で著作物を大量に蓄積する【第2号】・ 情報解析に供する目的で画像データにタグをつけるために画像データをコピーする【第2号】

・ 深層学習(ディープラーニング)に供する目的で著作物を複製する【第2号】・ 大量に蓄積されたデータを、AI開発の目的で他の事業者に共有する【第2号】

○システムのバックエンドにおける複製=人が表現を認識することなく行われるコンピュータ内部での著作物の利用【第3号】

○技術開発等の試験のための利用・ スピーカーの開発の過程で音質を確かめるための著作物の演奏【第1号】・ 録画機器の開発の過程で録画ができているかを確かめるための複製【第1号】・ 基礎研究の試験素材としての著作物の利用【柱書】

○リバース・エンジニアリング=プログラムの調査・解析のための著作物の利用【柱書】

*下線は改正により新たに対象となるもの

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新第30条の4の骨子要 件 説明

著作物は、 著作物の種類について限定なし

次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合には、

その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる

著作物の利用の種類について限定なし=複製、譲渡、公衆送信はもちろん、翻案などの二次的著作物の創作、これにより創作された二次的著作物の利用も全て可能

ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない

著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的市場を阻害するかという観点から判断

①技術開発試験

(現行第30条の4)

②情報解析(現行第47条の7)

③表現の認識を伴わない

(新設)

著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない場合

例示

1号~3号の場合

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「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」

ある行為が「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目的とするものか否かは、著作物等の視聴等を通じて視聴者等の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ること

に向けられた行為であるか否かという観点から判断される

立法趣旨や享受の語義を踏まえると…

【非享受目的と判断されるか】・美術品の複製に適したカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製してみる行為・複製に適した和紙を開発するために、和紙に印刷をしたり、金箔を貼ったりして試験的に複製を作る行為・家電量販店などで視聴覚機器の展示の際に映像や音楽を流す行為・手本とすべき著名な漫画を模写する行為

【留意点】・ 「享受」の目的がないことが要件なので、例えば主たる目的が「享受」以外にあるものの、同時に「享受」の目的もあるような場合には適用はない・ 「目的」の認定に当たっては、行為者の主観に関する主張のほか、利用行為の態様や利用に至る経緯等の客観的・外形的な状況も含めて総合的に考慮される・著作物は本来享受目的で利用されるもので、著作物を視聴等しているケースは享受目的の利用と認定される場合が多いことから、非享受目的と認定されるには特殊な目的が必要

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情報解析に関する利用について現行第47条の7(情報解析のための複製等)を新第30条の4に整理・統合するに当たって、その利用の範囲を拡大している→これにより、AI開発等の情報解析に関して著作物を利用できる範囲が広くなった○ 利用場面・ 現行法では、情報解析を「多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の統計的な解析を行うこと」と定義していたが、「統計的な」 との限定を削除→これによりディープラーニング(深層学習)などが明確に対象になった

・ 現行法では「電子計算機による(情報解析)」との限定があったが、当該限定を削除

○ 利用行為「いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」=複製・翻案に限らず、譲渡・公衆送信や二次的著作物の創作・利用を含め全ての利用行為が対象→これにより、情報解析用データを集める者と情報解析を行う者が別の場合(協業の場合)が明確に対象になった。また、情報解析用のデータセットの販売などが対象になった

○(柱書の)ただし書との関係現行法のただし書の対象として規定されている行為(情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物の複製等)は、著作権者の著作物の利用市場と衝突し、権利者の利益を不当に害するものであるため、改正後のただし書の対象となる

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リバース・エンジニアリングについて○プログラムの著作物の特殊性・プログラムの著作物については、対価回収の機会が保障されるべき利用は、プログラムの実行などによるプログラムの機能の享受に向けられた利用行為であると考えられる・ プログラムの著作物は表現と機能の複合的な性格を有していることから、新第30条の4柱書との関係では、プログラムの著作物に「表現された思想又は感情」とは、「プログラムの機能」を意味するものと考えることができ、その「享受」とは当該プログラムを実行等することによりその機能を「享受」することを意味すると考えられる

リバース・エンジニアリングが新第30条の4柱書に当たり得ることについては、第196回国会衆議院文部科学委員会(第5号・平成30年4月6日)における小林茂樹委員に対する中岡政府参考人の回答も参照

○リバース・エンジニアリングの扱いプログラムの実行等によってその機能を享受することを目的としない行為については、新第30条の4柱書によって権利制限の対象となるものと解される→リバース・エンジニアリングもプログラムの実行等によってプログラムの機能を享受することを目的としないものであれば、新第30条の4柱書によって権利制限の対象となるものと解される*相互運用性の確保、障害発見などの目的の限定(平成21年著作権分科会報告書)はなし

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新第47条の4の立法趣旨

メイン ミラー

コピー

アップロード

アップロード

コピー コピー コピー

送信を円滑に行うための付随的利用

利用できる状態を維持・回復するための補完的利用

これらの行為は、「主たる著作物の利用行為」の補助的・補完的な行為に過ぎず、「主たる著作物の利用行為」とは別に独立した経済的重要性を有さない→これらの行為は、著作権法が保護しようとしている著作権者の利益を通常害さない

新第47条の4では、電子計算機における利用に供される著作物について、当該利用を円滑又は効率的に行うための付随的な利用に供することを目的とする場合(第1項)や、電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合(第2項)を幅広く権利制限の対象とすることとした

ミラーリング

バックアップ

新旧17頁

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権利制限の対象となる行為のイメージ■第1項(円滑化・効率化のための付随的利用)○ インターネット上のウェブページ(著作物)を視聴する際にブラウザで効率的に著作物を表示するために、利用者のコンピュータにおいてキャッシュを作成する行為【第1号】

○ メインサーバーにおいて送信可能化されている著作物の送信を円滑に行うために、ミラーサーバーに著作物を複製する行為【第2号】

○ 動画共有サイトにおける著作物の送信を効率的に行うために、ファイル形式を統一化するための複製や各種ファイルの圧縮をする行為【第3号】

○ インターネット上にアップロードされているデータ(著作物)の送信を円滑に行う目的でプロバイダが行うウイルスや有害情報等のフィルタリングのための複製【柱書】

○ グリッドコンピューティング等の分散処理のための著作物の公衆送信【柱書】

■第2項(利用可能な状態を維持・回復するための利用)○ 著作物が記録されたハードディスクを内蔵するパソコンを修理する際に、著作物の利用を行うことができる状態を維持する目的で、一時的に他のハードディスクに著作物を移すために複製する行為、また、修理の完了後、パソコン内のハードディスクにデータを戻すために複製する行為【第1号】

○ 著作物が記録されたメモリを内蔵するスマートフォンを新しいスマートフォンに交換する際に、著作物の利用を行うことができる状態を維持することを目的として、古いスマートフォンのメモリから新しいスマートフォンのメモリにデータを移行させるために、古いスマートフォンのメモリからデータを削除しつつ複製する行為【第2号】

○ サーバーに記録された著作物が滅失してしまう事態に備えて、直ちに著作物を利用することができる状態に回復することを目的として、サーバーのハードディスクのデータのバックアップコピーを作成する行為【第3号】

○ コンピュータに記録された音楽ファイルや映像ファイルなどの著作物のバックアップコピーを作成する行為【柱書】

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新第47条の4のポイント

・ 柱書において、各号に掲げる場合と同様に電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該利用に付随する利用に供することを目的とする場合を幅広く権利制限・ 第2号で定めるミラーリングについて、現行第47条の5第1項第1号では、「求めが集中することによる」送信の遅滞や「装置の故障による」障害といった形で原因を限定していたが、そのような限定を削除

○第1項

○第2項・ 柱書において、各号に掲げる場合と同様に電子計算機における利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復することを目的とする場合を幅広く権利制限

主たる利用

主たる利用

バックアップデータを作成する場合

バックアップデータから復元する場合

柱書で技術や方式の限定なく趣旨が当てはまるものを幅広く権利制限の対象としつつ、各号についても理由や原因の限定などを削除して使いやすい規定に

・ 第2号で定める機器交換の場合について、現行第47条の4第2項では、「製造上の欠陥又は販売に至るまでの過程において生じた故障があるため」と交換の理由を限定していたが、そのような限定を削除交換後の機器を「同種の機器」としていたが、「同様の機能を有する機器」に変更

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第47条の4と現行規定との関係

改正法の内容 現行規定の有無

第1項

柱書 著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うための付随的な利用 新設

第1号 著作物をPCで利用する際のキャッシュのための複製 第47条の8

第2号 サーバー管理者による送信障害防止のためのミラーリングやフォワードキャッシュのための複製

第47条の5第1項第1号+同条第2項

第3号 ネットワークでの情報提供準備に必要な情報処理のための複製等 第47条の9

第2項

柱書電子計算機において著作物の利用を行うことができる状態を維持し、又は当該状態に回復するための利用

新設

第1号 PC等の保守・修理のための一時的複製 第47条の4第1項第2号 携帯電話等の交換のための一時的複製 第47条の4第2項

第3号 サーバーの滅失等に備えたバックアップのための複製 第47条の5第1項第2号

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新第47条の5の立法趣旨検索結果の提供タイトル、著者名…

検索

本文の一部分の提供

コピー

書籍検索サービス

解析 解析結果の提供剽窃の有無、剽窃率…

本文の一部分の提供

剽窃検証サービス

コピー

○ これらのサービスでは、電子計算機を用いた情報処理によって新たな知見又は情報を提供しており、社会的意義が認められる

○ 著作物の利用は付随的なものであり、その利用の程度を軽微なものにとどめれば、基本的に著作権者が当該著作物を通じて対価の獲得を期待している本来的な販売市場等に影響を与えず、ライセンス使用料に係る不利益についても、その度合は小さなものにとどまる

○ 新たな知見又は情報の質を高めるには、多くの場合大量の著作物が必要で、契約による対応は困難新第47条の5では、電子計算機による情報処理により新たな知見や情報を創出する一定の行為について、その結果の提供の際、著作物の一部を軽微な形で提供できることとする(第1項)とともに、当該行為の準備のために複製等を行うことができる(第2項)

新旧19頁

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権利制限の対象となる行為のイメージ<情報検索サービスの例>【第1号】○インターネット検索サービス(キーワードに関連するインターネット上の情報の所在(URL)を検索し、その結果提供に付随してウェブページ等の一部分を提供するサービス)○書籍検索サービス(書籍の中に存在する単語などの情報を検索し、その結果提供に付随して書籍の本文の一部分を提供するサービス)○テレビ番組検索サービス(自分の関心のあるキーワードが放送されたテレビやラジオ番組を検索し、その結果提供に付随して番組の一部分を提供するサービス)○楽曲検索サービス(利用者が録音した音声に含まれる楽曲を検索し、その結果提供に付随して楽曲の一部分を提供するサービス)

<情報分析サービスの例>【第2号】○論文剽窃検出サービス(検索対象の論文について、剽窃の可能性を検出し、その結果提供に付随してその論文と同じ記述を有する他の論文の一部分を提供するサービス)○評判情報分析サービス(特定の情報についての評判に関する情報について、ブログや新聞、雑誌等で掲載されているのか等を検索し、その結果提供に付随してブログ等の一部分を提供するサービス)○電車遅延情報サービス(SNSの投稿等から、電車の遅延情報をリアルタイムで収集し遅延状況を分析し、その結果提供に付随して投稿の一部分を提供するサービス)○医療支援サービス(過去の症例、治療方法、薬効等に関する様々な情報から最適な治療方法を分析し、その結果提供に付随して文献の一部分を提供するサービス)

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第47条の5第1項の骨子要 件 説 明

電子計算機を用いた情報処理により新たな知見又は情報を創出することによって著作物の利用の促進に資する次の各号に掲げる行為を行う者

(当該行為を政令で定める基準に従って行う者に限る。)は、

現行法でインターネット検索エンジンについて情報収集を禁止する措置が講じられている場合などについての取扱いが定められており、その内容や第47条の5第1項の立法趣旨を踏まえて定められる予定

公衆への提供又は提示(送信可能化を含む。)が行われた著作物(公衆提供提示著作物)(公表された著作物又は送信可能化された著作物に限る。)について、

対象となる著作物は、公表された著作物又は送信可能化された著作物*著作権法上、公表されたといえるためには、権利者やその許諾を得た者等によって公衆に提供又は提示されていることが必要(著作権法第4条参照)

1号~3号の行為

①情報検索 ②情報解析 ③新たな情報処理

各号に掲げる行為を行う者に限られる=限定列挙

ニーズが把握された場合には、政令で迅速に追加

現行第47条の6を包含(インターネット検索サービス)

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第47条の5第1項の骨子要 件 説 明

情報処理の結果の提供等の目的上必要と認められる限度において、

各号の目的に照らして必要と認められる範囲内かどうか例えば、サービス利用者が情報処理の結果が自己の関心に沿うものであるか否かを確認できるようにしたり、その信憑性・信頼性を証明したりする上で必要と認められる範囲内かどうか

情報処理の結果の提供等に付随して情報処理の結果の提供と併せて著作物の提供を行っており、前者が「主」で後者が「従」という関係があること=コンテンツの提供自体がサービスの主たる目的ではないこと

いずれの方法によるかを問わず、利用(…軽微なものに限る。)を行うことができる

①その利用に供される部分の占める割合例)楽曲であれば全体の演奏時間のうち何%に当たる時間が

利用されているか

②その利用に供される部分の量例)小説であればどの程度の文字数が利用されているか

③その利用に供される際の表示の精度例)画像データであればどの程度の画素数で利用されているか

④その他の要素紙媒体における「表示の大きさ」(施行規則4条の2参照)など例: 写真の紙面への掲載であれば何平方センチメートルの大きさ

で利用されているか

ただし、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない

著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、将来における著作物の潜在的市場を阻害するかという観点から判断

利用目的の公共性等に左右されない

外形的な要素に照らし判断

これらの要件によって、コンテンツ提供サービスと評価されるような場合(コンテンツの提供を主たる目的とし、視聴者の視聴欲求を満足させるような場合)には、権利制限の対象とならないことを確保

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第47条の5第2項について○第2項の意義第47条の5第1項の軽微利用を行うためには、その前提となる検索対象のデータや解析対象のデータの作成が必要となる。そのため、第2項では、軽微利用の準備のための著作物の利用行為(書籍のPDF化、PDFからのテキストデータ化など)を権利制限の対象としている

*情報を検索したり、解析したりする目的での著作物の利用は、非享受目的の利用として第30条の4で適法になるのでは?→最終的に軽微利用に供することを目的として著作物を利用している場合は、非享受目的には当たらず、第30条の4の対象とはならないと考えられるため、第47条の5第2項が必要

○第2項の特徴・第1項各号の行為を行う者自身が準備をする場合だけでなく、他の者が準備を行うことも想定している

・ 複製(書籍のPDF化、PDFからのテキストデータ化など)だけでなく、データ提供のための公衆送信(サーバーを通じてデータを送るなど)や複製物の頒布(データを記録したHDDの譲渡・貸与など)も権利制限の対象としている*第47条の6第1項第1号によって、翻訳・変形・編曲・翻案も権利制限の対象

・ 第2項は、準備段階の行為であるため、軽微な範囲への限定はない(例えば、全文のテキストデータ化やウェブページ全文のクローリングも可能)

・ 対象著作物は公衆に提供・提示された著作物又は送信可能化された著作物であり、第1項と異なり、公表されたとの限定はない

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柔軟な権利制限規定とガイドライン○関係者の意見・ 「享受」、「軽微」、ただし書といった抽象性の高い要件について、立法趣旨を超えた解釈がなされるおそれがあることから、権利者からガイドラインの策定を求める要望がある・ 他方、利用者側からはガイドラインの策定の要望はあまり聞こえてこない

○ガイドラインのメリット・デメリット

○規定の解釈指針やブラックリストを作れば、立法趣旨を逸脱した運用がなされづらくなる

○ホワイトリストを作れば、利用の萎縮が生じにくくなる

メリット

○ガイドラインに記載された利用以外の利用が行いづらくなり、柔軟性のある規定を設けた趣旨が没却されるおそれがある

デメリット

○ガイドライン策定への行政庁の関わり(国会における答弁内容)・ 関係者のニーズ等に応じて、その要否や策定主体、策定プロセス、策定内容等について判断されることが望ましい・ 関係者のニーズや国に期待される役割等を踏まえて、ガイドラインの整備に向けて取り組む

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柔軟な権利制限規定のポイント(私見)○AI開発などの情報解析に関して自由に利用できる範囲が広がった・解析手法の限定がなくなった・解析用データの共有・販売ができる・解析結果の提供に付随して著作物を一部分提供できる

○ミラーリング、キャッシング、バックアップなどのコンピュータ・ネットワークにおける著作物の利用を円滑又は効率的に行うための付随的な利用等についての技術の限定や場面の限定がなくなった(第47条の4)

○検索や解析などの結果提供に付随して著作物を一部分提供する新たなサービスが生まれる可能性(第47条の5)→オリジナルコンテンツの利用が増加し、権利者の利益につながる可能性も*いずれの規定についてもコンテンツ提供を主目的としたサービスを認めるものではなく、コンテンツ提供サービスを行うには引き続き許諾が必要

○いずれの規定も著作権者の著作物の利用市場とバッティングするような利用はNG

○柔軟な権利制限規定が本当に「柔軟な」ものになるかは、これからのビジネスにおける使い方次第

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複製その他の公衆送信全て

(現行第35条第1項)

権利制限なし(許諾を得て利用)

対面授業で使用する資料として印刷・配布

対面授業の予習・復習用の資料をメールで送信

オンデマンド授業で講義映像や資料を送信今回の改正範囲

同時中継

対面授業で使用した資料や講義映像を遠隔合同授業(同時中継)で他の会場に送信(現行第35条第2項)

遠隔合同授業のための公衆送信

遠隔地の会場同時中継

スタジオ型のリアルタイム配信授業

権利制限あり(無許諾・無償)

権利制限あり(無許諾・無償)

遠隔地の会場

現行著作権法における学校等の授業の過程における著作物の利用の取扱い

○ 教育機関の授業の過程における著作物の利用は、①対面授業のために複製することや、②対面授業で複製等したものを同時中継の遠隔合同授業のために公衆送信することは、著作権の権利制限規定(第35条)により、無許諾で可能

○ その他の公衆送信は権利者の許諾が必要となっており、教育関係者から、権利処理の煩雑さなどから、学校等におけるICTを活用した教育において教育上必要な著作物が円滑に利用できていないとして、著作権制度等の見直しを求める声があった

26

②教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備問題の所在

新旧13頁

集中管理団体※例えば年1回の支払い学生一人当たり○円(包括制)

権利者

権利者

補償金徴収分配団体 権利者

現行法での利用一定の補償金(※)を支払えば、著作物を許諾なしに利用可能

利用の都度、許諾や対価を支払う必要

改正後での利用

一元化

学校

学校

改正の概要

現在 ・ 複製・遠隔合同授業のための公衆送信を無償で行うことができる

改正後・ eラーニングや予習・復習のための教材のオンデマンド配信等、教育機関の授業の過程における著作物の公衆送信については、補償金を支払って(有償で)行うことができる・ 複製・遠隔合同授業のための公衆送信・公の伝達を無償で行うことができる

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③障害者の情報アクセス機会の充実に関する規定の整備現行第37条第3項は、図書館等の一定の主体が、視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者の用に供するために、公表された著作物を複製・自動公衆送信する行為を権利制限の対象としている○受益者の拡大・マラケシュ条約(※)締結のために必要な規定の整備として、受益者の範囲を拡大し、肢体不自由のために書籍を保持したりページをめくれない人など、障害によって書籍を読むことが困難な者を広く対象とする。

(※)マラケシュ条約 : 視覚障害者や判読に障害のある者のための著作権の制限及び例外等について国際的な法的枠組みを構築し、視覚障害者等による発行された著作物の利用機会を促進することを目的とする条約。(平成28年9月発効)

○権利制限の対象となる行為の拡大・関係者の要望を受けて、現行法上権利制限の対象となっていないメールやファックスの送信サービス(※)についても権利制限の対象とする

現在 視覚障害者その他視覚による表現の認識に障害のある者改正後 視覚障害その他の障害により視覚による表現の認識が困難な者

現在 自動公衆送信(送信可能化を含む。)

改正後 公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)

障害の種類を問わない

新旧14頁

(※)メールやファックスの送信サービスのような手動送信かつ異時受信の送信は、著作権法上、公衆送信のうち、放送・有線放送・自動公衆送信のいずれにも当たらないもの(その他の公衆送信)と整理されている

○作品の展示に伴う美術・写真の著作物の利用(第47条)

○著作権者不明等著作物の裁定制度の見直し(第67条等)

○国立国会図書館による外国の図書館への絶版等資料の送信(第31条)

裁定制度= 著作権者が不明である等の理由により、権利者と連絡することができない場合に、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託することで、著作物を適法に利用することができる制度

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④アーカイブの利活用に関する権利制限規定等の整備

現在 国立国会図書館は、絶版等の理由で入手困難な著作物を、日本各地の公共図書館等に当該資料を送信することが可能

改正後 国立国会図書館は、外国の図書館にも絶版等資料を送信することが可能に

現在 裁定制度の利用者は全て事前に補償金を供託しなければならない

改正後 補償金の支払を確実に行うことが期待できる国や地方公共団体等については事前の供託を不要とする

現在 美術・写真の著作物を展示する者は、観覧者のために、作品の解説・紹介をするための小冊子に展示著作物を掲載することができる

改正後①美術・写真の著作物を展示する者は、観覧者に作品の解説・紹介をするためにタブレット端末のような電子機器に展示著作物を掲載することができる

②美術・写真の著作物を展示する者等は、作品の情報をインターネット等で紹介するため、展示著作物のサムネイル画像を併せて提供することができる

新旧16頁

新旧27頁

新旧13頁

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30

TPP11整備法

31

TPP11整備法

H28.2 H28.12 H29.1 H30.3 H30.6~7 H30.12.30

以下の事項について改正①著作物等の保護期間の延長

②著作権等侵害罪の一部非親告罪化

③アクセスコントロールの回避等に関する措置

④配信音源の二次使用に対する使用料請求権の付与

⑤損害賠償に関する規定の見直し

【施行日】TPP12協定の発効日

TPP12整備法施行(TPP12協定の発効)の見込みがなくなった…

・TPP12整備法の名称を変更

・TPP12整備法の施行日を【TPP12協定の発効日】

から【TPP11協定の発効日】

に変更

TPP11協定が発効した時点で、①~⑤の改正

が施行される

TPP12整備法 TPP11整備法

【発効日】協定の署名国のうち6又は少なくとも半数のいずれか少ない方の国が国内法上の手続を完了した旨を書面により寄託者に通報した日の後60日

TPP12協定署名

TPP12整備法成立・公布

米国がTPP離脱を表明

TPP11協定署名

TPP11整備法成立・公布

TPP11協定発効……

平成30年12月30日

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TPP11協定においては、TPP12協定の内容のうち保護期間の延長、アクセスコントロールについては、凍結項目とされているため、これらの事項について制度整備等を行う国際的な義務を負っていないそれにもかかわらず、今回のTPP11整備法は、TPP12整備法の凍結項目に係る部分についてもTPP11協定の発効により施行することとしている【政府の説明】① 日本はTPP11協定交渉においてTPP12協定のハイスタンダードな内容を維持するとの立場で臨み、限定された数の凍結項目でまとめたという実績があること、

② TPP11協定交渉を主導してきた我が国としてTPP12協定のハイスタンダードを維持するとの交渉中の立場を一貫して具体的に実践することにより、凍結項目の解除等を11か国で議論する際においても、日本が国内整備済であることを背景に議論が主導しやすくなるという効果が期待されること、

③ 凍結項目について各国の判断で実施することが禁じられたわけではなく、実施するか否かはあくまでも各国の自主的な判断に委ねられていること、

から、あくまで自主的な判断として、TPP11協定発効を機に全ての凍結項目を含むTPP12協定の内容について、日本において実施することとした

第196回国会衆議院内閣委員会(第16号・平成30年5月16日)

澁谷政府参考人答弁

TPP11協定におけるいわゆる凍結項目について

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以下のとおり、著作物等の保護期間を50年から70年に延長する

種類 現行 改正後

著作物

原則 著作者の死後50年 著作者の死後70年

無名・変名 公表後50年 公表後70年

団体名義 公表後50年 公表後70年

映画 公表後70年 公表後70年

実演 実演が行われた後50年 実演が行われた後70年

レコード レコードの発行後50年 レコードの発行後70年

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①著作物等の保護期間の延長(第51条第2項等) 新旧2頁等

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TPP11が平成30年内に発行しなければ、1968年に亡くなった者が創作した個人名義の著作物は、保護期間が満了していたはずだった

*保護期間の計算は暦年主義(第57条)

34

保護期間延長の影響を受ける著作物について

しかし、今回平成30年12月30日にTPP協定が発効するため、1968年に亡くなった者が創作した個人名義の著作物についても保護期間延長の効果を受けることとなり、保護期間は満了せず、70年になる

1968年没の著名人藤田嗣治(カフェ)、村岡花子(「赤毛のアン」の翻訳)、

下母澤寛(勝海舟)…

【参考】TPP12整備法の経過措置(附則第7条第1項)(保護期間延長の規定は)施行日の前日において現に旧著作権法による著作権等が存する著作物等について適用し、同日において旧著作権法による著作権等が消滅している著作物等については、なお従前の例による

*シェーン事件最高裁判決を踏まえ、「この法律の施行の際現に」とは規定しなかった

現在親告罪とされている著作権等侵害罪について、以下のすべての要件を満たす場合に限り、非親告罪の対象とする

①対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること②有償著作物等(※)について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること③有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害されること

非親告罪となる侵害行為の例 親告罪のままとなる行為の例

販売中の漫画や小説本の海賊版を販売する行為 漫画等の同人誌をコミケで販売する行為

映画の海賊版をネット配信する行為 漫画のパロディをブログに投稿する行為

(※)有償で公衆に提供又は提示されている著作物等

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②著作権等侵害罪の一部非親告罪化(第123条第2項等)

新旧8頁

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・著作物等の利用を管理する効果的な技術的手段(いわゆるアクセスコントロール)を権限なく回避する行為については、アクセスコントロールにより著作権者等が確保しようとする対価の回収を困難にする点において著作権者等の保護されるべき経済的利益を害する行為であることから、著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き、著作権等を侵害する行為とみなす(刑事罰はなし)・また、アクセスコントロールの回避を行う装置の販売等の行為について刑事罰の対象とする

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③アクセスコントロールの回避等に関する措置(第2条第1項第21号等)

電磁的方法により著作物の視聴(プログラムの実行を含む)を制限する手段であって、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が【信号型】特定の反応をする信号を

著作物とともに記録媒体に記録又は送信する方式

又は【暗号型】特定の変換を必要するよう

著作物等を変換して記録媒体に記録又は送信する方式

例: 放送コンテンツのB-CAS方式正規のゲームソフトに付された信号がゲーム機側で照合されることにより、当該正規のゲームソフトの実行を可能とする技術

アクセスコントロール(技術的利用制限手段)の定義

新旧1頁等

・放送事業者等がCD等の商業用レコードを用いて放送又は有線放送を行う際に、実演家及びレコード製作者に認められている使用料請求権について、対象を拡大し、配信音源を用いて放送又は有線放送を行う場合についても、使用料請求権を付与する

・侵害された著作権等が著作権等管理事業者により管理されている場合は、著作権者等は、当該著作権等管理事業者の使用料規程により算出した額(複数ある場合は最も高い額)を使用料相当額として賠償を請求することができる

⑤損害賠償に関する規定の見直し(第114条第4項)

【現行の損害額に関する規定】・侵害物の数量×正規品の利益額・侵害者利益・使用料相当額

使用料規程により算出した額を使用料相当額とすることができる(例)カラオケ施設が、使用料規程において1曲1回あたり120円が使用料とされている演奏を無断で1日30曲、1,000営業日行った場合:120円/回×30回/日×1,000日= 360万円を請求可

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④配信音源の二次使用に対する報酬請求権の付与(第95条第1項)

新旧3頁

新旧5頁

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38

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

○著作権法に関する改正の概要・ 民法において、第三者の取引の安全を確保する観点から、相続による権利の承継のうち法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を具備しなければ第三者に対抗することができない旨が規定されることとなった(民法第899条の2第1項)・著作権法においては、民法の不動産の取扱いと平仄を合わせる形で改正を行った

○施行日平成31年7月1日

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民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

遺産分割 相続分の指定 相続させる旨の遺言 会社分割等の一般承継

現在 常に①が優先(77条1項1号等:相続その他の一般承継は登録なくして対抗できる)

改正後 ①と②の優劣は登録の先後による(77条1項1号等:相続その他の一般承継も含め、権利の移転は登録がなければ対抗できない)

・第三者の取引の安全を害する・不動産の場合との不整合

被相続人 債権者

子A 子B

金銭債権

①法定相続分を超える処分(遺産分割・相続分の指定・相続させる旨の遺言)

②法定相続分での差押え

会社A 会社B①会社分割による著作権の移転

個人②同一の著作権の譲渡

著著

①の処分の内容

*法定相続分を超えない部分についてはそもそも対抗問題にならないので、登録は不要

新旧49頁

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学校教育法等の一部を改正する法律

○改正の概要教育の情報化に対応し、平成32年度から実施される新学習指導要領を踏まえた「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善や、障害等により教科書を使用して学習することが困難な児童生徒の学習上の支援のため、必要に応じて「デジタル教科書」を通常の紙の教科書に代えて使用することができるよう、学校教育法の改正を行う

「デジタル教科書」 =紙の教科書と同一の内容の教材

これと併せて、著作権法において、「デジタル教科書」への著作物の掲載・利用について紙の教科書と同様に(※)補償金付きの権利制限規定(第33条の2)を設ける○施行日平成31年4月1日

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学校教育法等の一部を改正する法律 新旧40頁

(※)紙の教科書への著作物の掲載については、補償金付きの権利制限規定(第33条)が設けられている

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著作権法の一部を改正する法律についての参考文献○立案担当者による改正の概要解説・澤田将史「著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)の概要」

知財ぷりずむ 2018年10月号(193号)1頁・秋山卓也「柔軟な権利制限規定の整備(平成30年著作権法改正)」

ジュリスト 2018年11月号(1525号)38頁

○文化庁著作権課の公式見解・改正の概要(内容は全て同じ)NBL 1130号4頁Law & Technology 81号47頁月刊日本行政 551号(下記URLからアクセス可能)https://www.gyosei.or.jp/about/publication/back-number.html

・著作権課長による講演水田功「著作権行政をめぐる最新の動向について」

コピライト 2018年11月号(691号)2頁・著作権課による改正の解説コピライト 2018年12月号(692号)に掲載予定

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ご清聴ありがとうございました連絡先

弁護士 澤田将史

電話:03-5253-4111(内線:4826)メールアドレス:[email protected]