4
3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車における 航続距離延長のための最適姿勢の設計法の提案 Proposal of Method of Designing Optimum Attitude for Range Extention Control for Electrical Vehicle that poses Front and Rear Active Steering 俊宏(東京大学) 藤本 博志(東京大学) Toshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba In this paper, a method of designing front and rear steering pattern is proposed. Front and Rear active steering enable vehicle to be controlled by lateral force and side slip angle independently. Thus, researches have been done to decrease cornering resistance for each seconds. However, those methods can not completely realise the minimum energ consumption y in total. Therefore, a method of designing the optimal heading angle pattern under trajectory patterns and a control to realise the optimal heading pattern sre proposed. The effectiveness of proposed method is verified by simulations and experiments. Key Words : electric vehicle, front/rear active steer, range extension control system 1 はじめに 地球温暖化問題や化石燃料枯渇問題への対策として,電気自 動車 (Electric VehicleEV) が国内外で大きく注目されている. 環境面以外にも,モータを駆動力に利用する EV は既存の内燃機 関自動車と比べ以下の点で優位性を持つ [1] 1. エンジンと比べてトルク応答が 2 桁速い. 2. 小型高出力なインホイールモータを用いれば分散配置がで き,各輪を独立に制御できる. 3. モータに流れる電流から,モータに生じているトルクが正確 に測定可能である. これらのような利点を生かして,トラクション制御 [2] や姿勢・走 行安定化制御 [3, 4] などの研究が数多く発表されている. 一方,電気自動車の短所として一充電走行距離の短さが挙げら れ,電気自動車の普及を妨げている.そこで,直進時の加速を含 む車両の走行パターンを制御によって変更することにより,車両 の走行におけるエネルギ消費を抑える手法が複数提案されている [5, 6] .また,複数のモータを搭載した車両において,旋回中のエ ネルギー消費を抑える手法が複数提案されている [7, 8] 特に著者らの研究グループでは一充電走行距離の問題に対し航 続距離延長制御システム(Range Extension Control System: RECS)を提案した [9, 10] .このシステムはソフトウェアのみに よって成り立ちハードウェアの改造を必要としない.特に,文献 [10] では定常旋回時において,左右のモータ出力に差をつけるこ とで消費エネルギを抑える手法を提案している.しかし,定常で はない旋回を含む経路では経路全体での消費エネルギーの低減に 関する研究は行われてこなかった. また,近年自動車の自動運転技術の開発が盛んに行われてい る.電気自動車はその制御性の高さから自動運転に適しており, 今後の自動運転技術の適用が期待される.このことから特に危険 回避の分野では最短回避時間を実現する経路設計および制御の研 究が多く行われている [11] そこで本稿でも,危険回避と同様に車両の姿勢設計について提 案する.ただし,回避時間ではなく消費エネルギーを最小化す る.前後輪アクティブステアを有する車両においては,車体横滑 り角とヨーレートが独立に制御できる.そのため,同一の軌跡上 の走行でも向首角に自由度を持つ.このことを利用して定常では ない旋回を含む軌跡において,走行時の消費エネルギーが最小と なる車両姿勢を設計し,実車を用いた実験により提案手法の有効 性を確認する. Fig.1 FPEV2-Kanon Table.1 Parametres of FPEV2-Kanon Vehicle Massm803 kg Yaw Moment of InertiaI 617.0 kg · m 2 Wheelbasel1.7 m Distance from CGl f 0.999 m to Front/Rear Axlel r 0.701 m Front Cornering Stiffness (C f ) 12500 N/rad Rear Cornering Stiffness (Cr ) 29200 N/rad 2 実験車両 実験車両として著者らの研究グループが製作し,本稿で使用し た電気自動車「FPEV2-Kanon」を図 1 に示す.本車両には東洋 電機製造製アウターロータ型インホイールモータを 4 輪全てに 搭載している.また,前後輪アクティブ操舵が可能である.この 車両の電気回路はバッテリ,チョッパ,インバータ及びモータか らなり,チョッパの出力電圧を V dc , インバータの入力電流を I dc として消費電力の測定が可能である.FPEV2-Kanon の各パラ メータの値を表 1 に示す. 3 車両の運動と消費エネルギー 本稿において車両速度 V は一定とする.走行中の消費電力 P は駆動用モータの出力 P m ,前後輪のアクティブステアの消費電 P sf ,Psr の和によって表される. P = Pm + P sf + Psr (1) ただし,ここで駆動用モータおよびインバータにおける損失は無 視している. 駆動用モータの出力 P m を求める.走行中の 2 輪車両モデル より,以下の式が成り立つ.ただし、Fy は横力,m は車両質量, β は車体横滑り角,C f ,C r は前後輪コーナリングスティフネス, l f ,l r は車両重心点と前後車軸間の距離,α f r は前後輪車輪 横滑り角, Mz はヨーモーメント, I は車両慣性モーメント, θ 1

3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車に …hflab.k.u-tokyo.ac.jp/papers/2013/Translog2013_yone.pdfToshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo,

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車に …hflab.k.u-tokyo.ac.jp/papers/2013/Translog2013_yone.pdfToshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo,

3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車における航続距離延長のための最適姿勢の設計法の提案

Proposal of Method of Designing Optimum Attitude for Range Extention Control

for Electrical Vehicle that poses Front and Rear Active Steering

⃝米 俊宏(東京大学) 藤本 博志(東京大学)

Toshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto

The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba

In this paper, a method of designing front and rear steering pattern is proposed. Front and Rear active steering enable vehicle to

be controlled by lateral force and side slip angle independently. Thus, researches have been done to decrease cornering resistance

for each seconds. However, those methods can not completely realise the minimum energ consumption y in total. Therefore, a

method of designing the optimal heading angle pattern under trajectory patterns and a control to realise the optimal heading

pattern sre proposed. The effectiveness of proposed method is verified by simulations and experiments.

Key Words: electric vehicle, front/rear active steer, range extension control system

1 はじめに

地球温暖化問題や化石燃料枯渇問題への対策として,電気自動車 (Electric Vehicle:EV)が国内外で大きく注目されている.環境面以外にも,モータを駆動力に利用する EVは既存の内燃機関自動車と比べ以下の点で優位性を持つ [1].1. エンジンと比べてトルク応答が 2桁速い.2. 小型高出力なインホイールモータを用いれば分散配置ができ,各輪を独立に制御できる.

3. モータに流れる電流から,モータに生じているトルクが正確に測定可能である.

これらのような利点を生かして,トラクション制御 [2] や姿勢・走行安定化制御 [3, 4] などの研究が数多く発表されている.一方,電気自動車の短所として一充電走行距離の短さが挙げられ,電気自動車の普及を妨げている.そこで,直進時の加速を含む車両の走行パターンを制御によって変更することにより,車両の走行におけるエネルギ消費を抑える手法が複数提案されている[5, 6].また,複数のモータを搭載した車両において,旋回中のエネルギー消費を抑える手法が複数提案されている [7, 8].特に著者らの研究グループでは一充電走行距離の問題に対し航続距離延長制御システム(Range Extension Control System:

RECS)を提案した [9, 10].このシステムはソフトウェアのみによって成り立ちハードウェアの改造を必要としない.特に,文献[10]では定常旋回時において,左右のモータ出力に差をつけることで消費エネルギを抑える手法を提案している.しかし,定常ではない旋回を含む経路では経路全体での消費エネルギーの低減に関する研究は行われてこなかった.また,近年自動車の自動運転技術の開発が盛んに行われている.電気自動車はその制御性の高さから自動運転に適しており,今後の自動運転技術の適用が期待される.このことから特に危険回避の分野では最短回避時間を実現する経路設計および制御の研究が多く行われている [11].そこで本稿でも,危険回避と同様に車両の姿勢設計について提案する.ただし,回避時間ではなく消費エネルギーを最小化する.前後輪アクティブステアを有する車両においては,車体横滑り角とヨーレートが独立に制御できる.そのため,同一の軌跡上の走行でも向首角に自由度を持つ.このことを利用して定常ではない旋回を含む軌跡において,走行時の消費エネルギーが最小となる車両姿勢を設計し,実車を用いた実験により提案手法の有効性を確認する.

Fig.1 FPEV2-Kanon

Table.1 Parametres of FPEV2-KanonVehicle Mass(m) 803 kg

Yaw Moment of Inertia(I) 617.0 kg ·m2

Wheelbase(l) 1.7 mDistance from CG(lf) 0.999 mto Front/Rear Axle(lr) 0.701 m

Front Cornering Stiffness (Cf ) 12500 N/radRear Cornering Stiffness (Cr) 29200 N/rad

2 実験車両

実験車両として著者らの研究グループが製作し,本稿で使用した電気自動車「FPEV2-Kanon」を図 1に示す.本車両には東洋電機製造製アウターロータ型インホイールモータを 4 輪全てに搭載している.また,前後輪アクティブ操舵が可能である.この車両の電気回路はバッテリ,チョッパ,インバータ及びモータからなり,チョッパの出力電圧を Vdc,インバータの入力電流を Idcとして消費電力の測定が可能である.FPEV2-Kanon の各パラメータの値を表 1に示す.

3 車両の運動と消費エネルギー

本稿において車両速度 V は一定とする.走行中の消費電力 P

は駆動用モータの出力 Pm,前後輪のアクティブステアの消費電力 Psf , Psr の和によって表される.

P = Pm + Psf + Psr (1)

ただし,ここで駆動用モータおよびインバータにおける損失は無視している.駆動用モータの出力 Pm を求める.走行中の 2 輪車両モデルより,以下の式が成り立つ.ただし、Fy は横力,mは車両質量,β は車体横滑り角,Cf , Cr は前後輪コーナリングスティフネス,lf , lr は車両重心点と前後車軸間の距離,αf , αr は前後輪車輪横滑り角,Mz はヨーモーメント,I は車両慣性モーメント,θは

1

Page 2: 3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車に …hflab.k.u-tokyo.ac.jp/papers/2013/Translog2013_yone.pdfToshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo,

向首角である.

Fy = mV (β + θ) = −2Cfαf − 2Crαr (2)

Mz = Iθ = −2Cf lfαf + 2Crlrαr (3)

本稿においては,駆動用モータ出力およびステアリングの消費電力のみを考慮する.駆動用モータ出力 Pm は走行抵抗 Fr および車両速度 V によって以下のように表される.

Pm = FrV (4)

走行抵抗 Fr は転がり摩擦,空気抵抗,コーナリング抵抗などにより発生するが,本稿ではコーナリング抵抗のみを考慮する.走行抵抗は以下の式で表せる.

Fr = 2Cfα2f + 2Crα

2r (5)

これに式(2)と式(3)から αf , αr を求めて代入すると以下の式となる.[

αf

αr

]=

1

2

[−Cf −Cr

−Cf lf Crlr

]−1 [Fy

Mz

](6)

これを式(4)に代入するとモータ出力 Pm は以下のようになる.ただし,lはホイールベースであり,l = lf + lr をみたす.

Pm = FrV =V

2l2

{(1

Cf+

1

Cr

)(Iθ)2

+2

(lfCr

− lrCf

)IθFy +

(l2rCf

+l2fCr

)F 2y

}(7)

次にアクティブステアにおける消費電力 Psf , Psr を求める.前後輪のアクティブステアはモータ駆動である.ステアリングの駆動に必要なトルク Tsi は,舵角速度が十分に小さいためセルフアライニングトルクと一致し,ニューマチックトレール ξi とタイヤに発生する横力 Fyi によって下記のように表される.添字 i

は f または r であり,それぞれ前輪,後輪の意である.

Tsi = 2ξiFyi (8)

ステアリングに働く摩擦,ステアリングのインバータ損失およびモータの銅損を無視すると,ステアリングの駆動の消費電力 Psi

は舵角速度 δi を用いて以下のように表される.

Psi = Tsiδi = −2ξiCiαi cos δi · δi≃ −2ξiCiαiδi (9)

ただし,舵角 δi は小さいとして近似した.舵角 δf , δr は以下の関係を満たすため,舵角速度は以下の式の時間微分で求めた.

δf = β +lfVθ − αf (10)

δr = β − lrVθ − αr (11)

ここで,式(9)に式(6),式(10),式(11)を代入すると,ステアリング消費電力 Psi が横力 Fy と向首角 θ によって表現される.

Psf = ξf

(lrlFy +

I

)·(

1

mVFy +

lr2Cf l

Fy − θ +lfVθ +

I

2Cf l

...θ

)(12)

Psr = ξr

(lflFy − I

)·(

1

mVFy +

lr2Crl

Fy − θ − lfVθ − I

2Crl

...θ

)(13)

Fig.2 Target Trajectory

4 目標軌跡

車両の目標軌跡は車両横滑り角 β が十分に小さいと仮定したうえで,横力の時間関数 Fy(t),初期条件および車両速度によって与える.この車両の時刻 t における座標及び向首角を(X(t), Y (t), θ(t)) と表現する.車両は,時刻 t = 0 において,地上に固定した座標平面上の原点に向首角 θ(0) = 0,速度V = const.で走行しているものとする.時刻 te における終端条件として向首角 θ(te)を以下のように定める.これらの条件を図2に表す.

(X(0), Y (0), θ(0)) = (0, 0, 0) (14)

θ(te) = θend (15)

また,旋回開始前及び終了後に車両は直進するものとし,下記の条件を定める.

θ(0) = 0, θ(te) = 0 (16)

β(0) = 0, β(te) = 0 (17)

これらの条件を満たす,横力の時間関数 Fy(t) を時刻 t から teにおいて以下のように与えた.

Fy(t) = mVAt(te − t)  (18)

ただし,Aは横力 Fy(t)の平均値が速度 V でヨーレートが θendte

の定常円旋回を行う際の横力と一致するよう以下のように定めた.

A := 6θendte3

(19)

5 消費エネルギーの最小化

時刻 t = 0 から t = te における消費エネルギーの最小化を行う.式(1)で表現される消費電力 P に式(7)で示した駆動用モータ出力 Pm と式(12),(13)で示したアクティブステアの消費電力 Psf , Psr を代入すると消費電力 P は横力 Fy(t)と向首角θ(t) の関数となる.よって,消費エネルギー E は以下の積分によって表される.

E =

∫ te

0

P (θ(t), Fy(t))dt (20)

消費エネルギー E の最小化は上の積分の変分問題となる.

∂P

∂θ− d

dt

∂P

∂θ+

d2

dt2∂P

∂θ− d3

dt3∂P

∂...θ

= 0 (21)

式(18)を代入し,計算を行うと向首角の最適経路 θopt(t)は式(22)を満たす多項式となる.ただし,前後輪のニューマチックトレールは前後輪で等しいとし,ξf = ξr = ξ とおいた.{

2ξI

V+

V

l2

(1

Cf+

1

Cr

)}....θ opt

+ξFy +V

l2

(lrCf

− lfCr

)Fy = 0  (22)

2

Page 3: 3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車に …hflab.k.u-tokyo.ac.jp/papers/2013/Translog2013_yone.pdfToshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo,

Fig.3 Block Diagram of Control System

ここで横力 Fy(t)が 2次関数であることから,式(22)に式(20)を代入し,その解の係数を以下のように書き換える.

....θ opt(t) = at+ b (23)

ただし,a, bは以下に示す.

a :=2AmV

2ξIV

+ Vl2

(1

Cf+ 1

Cr

) (24)

b :=

{2Vl2

(lrCf

− lfCr

)}− ξte

2ξIV

+ Vl2

(1

Cf+ 1

Cr

) AmV (25)

初期及び終端条件の式(15)∼(17)を用いて微分方程式を解くと以下のようになり,これが消費エネルギーを最小化する向首角の時間関数である.

θopt =a

120t5 +

b

24t4 − 1

6

(12

t3eθend +

3a

20t2e +

b

2te

)t3

+1

2

(6

t2eθend +

a

30t3e +

b

12t2e

)t2 (26)

また,横力は式(18)の通リ Fy(t) = mV (β + θ) であるため,車体横滑り角 β(t)も以下のように定まる.

β(t) =

∫ t

0

Fy(t)

mVdt− θopt(t) (27)

6 制御系設計

提案法および後述の従来法において同一の制御系を利用する.制御系のブロック図を図 3に示す.車両横滑り角制御に対してラテラルフォースオブザーバ (LFO) を設計し,ヨーレート制御にはヨーモーメントオブザーバ (YMO)を用いた車両制御法 [12] を利用する.ただし,車体横滑り角は横滑り角オブザーバ (SAO)

を用いて取得する [13].オブザーバを用いて舵角決定方法をプラントに含めてノミナル化することによりヨーレートと車体横滑り角は非干渉化され,外乱やパラメータ誤差に強くなる.そのうえで,2 自由度制御を組み,ヨーレートと横滑り角を制御する.逆システムをプロパーにするため用いたローパスフィルタGβ(s), Gγ(s)のカットオフ周波数は 10 rad/sである.2自由度制御により得られた横力指令値 F ∗

y およびヨーモーメント指令値M∗

z を式(6),式(10),式(11)によって,前後輪舵角指令値 δ∗f , δr∗ に変換する.ただし,横滑り角 β,車体速度V,ヨーレート γ にはいずれも目標軌跡から求めた指令値を用いた.また,−1 rad/s に極配置した PI 制御器によって車体速度を制御した.

7 シミュレーション

提案法のシミュレーションを行い,2通リ比較対象に対し,軌跡と消費エネルギーの比較を行う.比較対象 1 は,前輪操舵のみによって車両を提案法と同一の軌跡を走行させたものとする.

Table.2 Milage per 1 kWh (Simulation)Battery Capacity Proposed Beta 0 Front

1 kWh 38.35 km 38.34 km 38.34 km5 kWh 191.8 km 191.7 km 191.7 km

16 kWh 613.7 km 613.4 km 613.4km

Table.3 Milage per 1 kwh (Experiment)Battery Capacity Proposed Beta 0 Front

1 kWh 25.03 km 27.01 km 27.15 km5 kWh 125.2 km 135.0 km 135.8 km

16 kWh 400.5 km 432.1 km 434.4 km

比較対象 2 は横力を提案法と一致させたうえで,車体横滑り角β = 0となるように制御する.車両速度を V = 15 km/h,終端時刻は te = 1.44π s,終端向首角を θend = π

5rad とした.この結果を図 4 に示す.図 4(e)

より車輪横滑り角が減少していることがわかる.このことと式(5)よりコーナリング抵抗が減少することから,消費エネルギーが 0.1 %減少している.一方,車体横滑り角は大きく増加している.これに伴い,提案法における前後輪操舵の角度が大きくなっている.この結果を図 4(i)に示したうえで,バッテリ容量あたりに換算したものが表 2であり,1 kWhあたり 10 m多く走れる.ただし,図 4(i)では消費出力のうち転がり抵抗によって消費されるエネルギーである 1.7 kWsを棒グラフの基準としている.

8 実  験

学内の電気自動車実験場において,2章で述べた車両を用いて実験を行った.シミュレーションと同様,速度は V = 15 km/h,終端時刻は te = 1.44π s,終端向首角は θend = π

5rad とした.

その結果を図 5 に示す.消費エネルギーに関しては比較対象 1・2・提案法いずれも 7回走行し,その平均と分散を図 5(i)示す.図 5(h) より提案法が比較対象より小さい旋回半径で走行している.また,図 5(g) より,提案法が比較対象より終端向首角が大きい.これらのことから,図 5(i) に示された消費出力は 7 %

ほど増加している.一方で,図 5(a) において提案法によって舵角が大きく減少していること,また,図 5(c),5(d)において提案法によってタイヤの横滑り角が大きく減少していることから,提案法において,消費出力から車両の運動への変換効率は上昇したと考えられる.

9 まとめ

本稿では,前後輪アクティブステアを用いた航続距離延長のための最適姿勢の設計法を提案した.この設計法により,車両の経路が与えられた場合において,車両の向首角の変化の仕方で消費エネルギーが減少することを実験で示した.向首角の動きが人間に受け入れられるかは不明だが,自動運転技術との親和性は高いと考えられる.今後の課題としては,定常円旋回において効果の大きい駆動力差モーメントの導入や,実際の道路の形状および走行速度に合わせた経路における最適化や,加減速のあるの走行での最適化などが挙げられる.

謝  辞

最後に本研究の一部は NEDO 産業技術研究助成 (プロジェクト ID:05A48701d),および文部科学省科学研究費補助金(基盤研究 A課題番号:22246057)によって行われたことを付記する.

参考文献

[1] Y. Hori: “Future vehicle driven by electricity and control —

research on four-wheel-motored “UOT Electric March II””,

IEEE Trans. on Industrial Electronics, Vol.51, No.5(2004),

pp.954–962

[2] 小竹元基, 大島紀明, 永井正夫: ”駆動性向上を目指した超小型電気自動車の車輪速度制御”, 日本機械学會論文集 C 編, Vol.70,

No.694(2004), pp.1680-1686

3

Page 4: 3306 前後輪アクティブステアを有する電気自動車に …hflab.k.u-tokyo.ac.jp/papers/2013/Translog2013_yone.pdfToshihiro Yone, Hiroshi Fujimoto The University of Tokyo,

0 1 2 3 4 5

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

Time [s]

Ste

erin

g an

gle

(Fro

nt)

[rad

]

PropBeta0Front

(a) Steering Angle (Front)

0 1 2 3 4 5

−0.1

−0.05

0

0.05

0.1

Time [s]

Ste

erin

g an

gle

(Rea

r) [r

ad]

PropBeta0Front

(b) Steering Angle (Rear)

0 1 2 3 4 5−0.02

−0.015

−0.01

−0.005

0

0.005

0.01

Time [s]

Tyr

e S

ide−

slip

Ang

le (

Fro

nt)

[rad

]

PropBeta0Front

(c) Tyre Side-slp Angle

(Front)

0 1 2 3 4 5

−10

−5

0

5

Time [s]

Sid

e−sl

ip A

ngle

(R

ear)

[mra

d]

PropBeta0Front

(d) Tyre Side-slip Angle

(Rear)

0 1 2 3 4 5−0.1

−0.08

−0.06

−0.04

−0.02

0

0.02

0.04

Time [s]

Sid

e−sl

ip a

ngle

[rad

]

PropBeta0Front

(e) Side-slip Angle

0 1 2 3 4 5−0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

Time [s]

Yaw

−ra

te [r

ad/s

]

PropBeta0Front

(f) Yaw-rate

0 1 2 3 4 5−0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

Time [s]

Hea

ding

Ang

le [r

ad]

PropBeta0Front

(g) Heading Angle

0 5 10 15 20−1

0

1

2

3

4

5

6

X [m]

Y [m

]

PropBeta0Front

(h) Locus of C.G.

Proposed Beta0 Front1.7

1.72

1.74

1.76

1.78

1.8

Tot

al E

lect

ricity

Con

sum

ptio

n [k

Ws]

(i) Energy Consumption

Fig.4 Simulation Result

(a) Steering Angle (Front) (b) Steering Angle (Rear) (c) Tyre Side-slip Angle

(Front)

(d) Tyre Side-slip Angle

(Rear)

(e) Side-slip Angle

(f) Yaw-rate (g) Heading Angle (h) Locus of C.G. (i) Energy Consumption

Fig.5 Experimental Result

[3] 森淳, 芝端康二: ”四輪駆動力自在制御システムの開発”, 自動車技術会学術講演会前刷集, No.76-05 (2005), pp.19-24

[4] 岩野治雄, 正木信男, 平暁子, 鎌田崇義, 永井正夫: ”電気自動車のタイヤ稼働率を用いた車両運動制御の研究:第 2報,インホイールモータ用稼働率制御の車両運動性能試験的検討”,日本機械学會論文集 C編, Vol.74, No.745(2008), pp.2214-2220

[5] 井上馨,小方健司,加藤利次”変分法による最適トルクを用いた誘導電動機の高効率電力回生・駆動法”電気学会論文誌 D(産業応用部門誌), Vol.128(9)(2009), pp.1098-1105

[6] 今西啓之,高田洋吾,脇坂知行:”電気モータ駆動車における消費電力を抑えた加速制御アルゴリズム”日本機械学会論文集 C 編,Vol.68, No.669(2001),pp.1512-1517

[7] 中嶋玲二,吉村達矢,狩野芳郎,安部正人:”タイヤ力最適配分がタイヤ消費エネルギに及ぼす効果”自動車技術会学術講演会前刷集No.37-12(2012),pp.23-26

[8] 松本大樹,西原修:”操舵と制駆動力配分により旋回する電気自動車の低消費電力化”日本機械学会交通・物流部門大会 TRANSLOG

講演論文集,Vol.20,No.1315 (2011)

[9] Hiroshi Fujimoto, Sho Egami, Jun Sato and Kazuaki Handa,

”Range Extension Control System for Electric Vehicle Based

on Searching Algorithm of Optimal Front and Rear Driv-

ing Force Distribution”, in Proc. 38th Annual Conference of

the IEEE Industrial Electronics Society , Montreal,Canada

(2012). pp.4244-4249,

[10] 角谷勇人,藤本博志:”前後輪横滑り角と左右トルク配分に基づく電気自動車の航続距離延長制御システム”, 電気学会論文誌 D(産業応用部門誌), Vol.131, No.3(2012), pp308-314

[11] 大室明, 服部義和, ”障害物回避のための車両の最適軌道制御(車

体合成力の最大値最小化の問題)”, 日本機械学会論文集 C 編,

VOL.76,No.772(2010) pp.405-412

[12] 山内雄哉, 藤本博志, ”電気自動車におけるヨーモーメントオブザーバとラテラルフォースオブザーバを用いた車両姿勢制御法”, 電気学会論文誌 D(産業応用部門誌), Vol.130, No.8 (2010), pp.939-944

[13] 青木良文,堀洋一:”電気自動車における車体すべり角オブザーバのロバスト化と実車データによる検証”,電気学会論文誌 D(産業応用部門誌), Vol.125(5)(2005), pp.467-472

4