57
-93- ④伐採実験地における調査方法(提案) 1)植生調査 10m×10m の方形区を“241 た”24 個、“241 19 個、総計 33 個設置する(図 8)。 【高木性樹種】 10m×10m の方形区あたり 当年生以上樹高 2m 未満の稚樹 1m×1m×3 カ所(図 9 中の青色) 樹高 2m 以上胸高直径 3cm 未満の稚樹:5m×5m×1 カ所(図 9 中の水色) 胸高直径 3cm 以上の稚樹 10m×10m×1 カ所 ※他に、胸高直径 3cm 以上(もしくは 5cm 以上)の稚樹を対象に、伐採実験地全体(例 えば、200m×100m)の調査を行えば、残存人工林と伐採地を含めた森林としての回復過 程を評価することが可能(特に“241 た”林小班)。 【維管束植物種全体】 10m×10m の方形区あたり 植物社会学的調査および動物摂食率調査:5m×5m ×1 カ所 (図 9 中の水色) ニホンジカによる摂食拡大が危惧されるため、動 物防護柵内外(自然林から 50m地点;図 8 の黄色 の地点)の摂食率、種組成の違いを比較する。 【環境条件】 10m×10m の方形区の中心部において、全天空撮影による光環境の測定。 2)ほ乳類 各環境(自然林、20m 帯状皆伐区、40m 帯状皆伐区、間伐区(1 伐2 残);図 8 の①~⑧) においてセンサーカメラを 2 個、総計 8 台設置し、個体数・種組成を伐採前後で比較する。 調査頻度は、春、夏、秋、冬の 4 シーズンに約 30 日程度設置することが望ましい。 3)鳥類調査 自然林、帯状伐採(20m、40m幅)、間伐の 4 つの環境において、2 地点ずつ調査地点を 設置し、スポットセンサス法を用いた調査を実施する。調査頻度は、繁殖期(6-7 月)と 越冬期(12-2 月)にそれぞれ 3 回程度、早朝に実施することが望ましい。 4.引用文献 環境省北海道地方環境事務所釧路自然環境事務所. 2006. 釧路湿原達古武地域自然再生事 業実施計画. 山浦悠一. 2007. 広葉樹林の分断化が鳥類に及ぼす影響の緩和-人工林マトリックス管理の 提案-. 日本森林学会誌 89: 416-430. 図9.調査地配置例

3cm 10m 1 3cm 10m 5m 1 9...10m×10m の方形区を“241 た”24 個、“241 る1”9 個、総計33 個設置する(図8)。 【高木性樹種】 10m×10m の方形区あたり

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Page 1: 3cm 10m 1 3cm 10m 5m 1 9...10m×10m の方形区を“241 た”24 個、“241 る1”9 個、総計33 個設置する(図8)。 【高木性樹種】 10m×10m の方形区あたり

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④伐採実験地における調査方法(提案) 1)植生調査 10m×10m の方形区を“241 た”24 個、“241 る 1”9 個、総計 33 個設置する(図 8)。 【高木性樹種】 10m×10m の方形区あたり

当年生以上樹高 2m 未満の稚樹 :1m×1m×3 カ所(図 9 中の青色) 樹高 2m 以上胸高直径 3cm 未満の稚樹:5m×5m×1 カ所(図 9 中の水色) 胸高直径 3cm 以上の稚樹 :10m×10m×1 カ所 ※他に、胸高直径 3cm 以上(もしくは 5cm 以上)の稚樹を対象に、伐採実験地全体(例

えば、200m×100m)の調査を行えば、残存人工林と伐採地を含めた森林としての回復過

程を評価することが可能(特に“241 た”林小班)。

【維管束植物種全体】 10m×10m の方形区あたり 植物社会学的調査および動物摂食率調査:5m×5m

×1 カ所 (図 9 中の水色) ニホンジカによる摂食拡大が危惧されるため、動

物防護柵内外(自然林から 50m地点;図 8 の黄色

の地点)の摂食率、種組成の違いを比較する。

【環境条件】

10m×10m の方形区の中心部において、全天空撮影による光環境の測定。

2)ほ乳類

各環境(自然林、20m 帯状皆伐区、40m 帯状皆伐区、間伐区(1 伐 2 残);図 8 の①~⑧)

においてセンサーカメラを 2 個、総計 8 台設置し、個体数・種組成を伐採前後で比較する。

調査頻度は、春、夏、秋、冬の 4シーズンに約 30 日程度設置することが望ましい。

3)鳥類調査

自然林、帯状伐採(20m、40m幅)、間伐の 4つの環境において、2 地点ずつ調査地点を

設置し、スポットセンサス法を用いた調査を実施する。調査頻度は、繁殖期(6-7 月)と

越冬期(12-2 月)にそれぞれ 3 回程度、早朝に実施することが望ましい。 4.引用文献

環境省北海道地方環境事務所釧路自然環境事務所. 2006. 釧路湿原達古武地域自然再生事

業実施計画.

山浦悠一. 2007. 広葉樹林の分断化が鳥類に及ぼす影響の緩和-人工林マトリックス管理の

提案-. 日本森林学会誌 89: 416-430.

図9.調査地配置例

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e. 人工林を自然林に誘導するための間伐方法の検討

1.目的

赤谷プロジェクトは、生物多様性保全のために、人工林の約2/3(約2000ha)を自然林に誘導する

ことを目指して2010年度樹立の赤谷の森管理経営計画書(別冊)において、従来あった施業群を変更

し生物多様性復元施業群を新たに設定した。しかし、計画書の中では生物多様性保全のための配慮事

項についての記述はあるものの、具体的な施業方法(選木方法)は定めていない。そこで、本報告書

では人工林を自然林に誘導するための間伐方法の検討を行い、今後、この施業群における間伐施業に

反映させる基礎資料とする。また、木材生産を行う人工林整備型長伐期施業群についても、生物多様

性を低下させない手法が必要とされているため、この施業群の間伐についても検討した。

2.間伐施業が与える森林生態系への影響

間伐施業が与える森林生態系への影響について、既存の主要な知見をまとめると以下のようにな

る。

① 間伐により林内への光環境が改善され、林床へ到達する光量の増加に伴い、林床植生の発達が

促される。冷温帯域において鳥類が好む樹種を人工林内に増やすためには、散光透過率20%を

目安として10~30%で維持するような管理が必要であり、列状間伐を用いて、散光透過率20%

を維持させるためには、1列伐採よりも2列伐採の方がよい(石塚 2008)。赤谷プロジェクトエ

リアにおける人工林内に進入した広葉樹の稚樹の分布を調べた結果、1伐2残よりも2伐4残の方

が稚樹の本数が多い傾向が認められた(平田ら 2010; 平田ら 2011)。

② 赤谷プロジェクトエリアのスギ人工林(41年生)に天然更新した広葉樹(ミズキ、ハルニレ)

の成長を調べた結果、時間経過とともに成長量が減退していく個体が増え、現状のままでは天

然更新した広葉樹の自然状態での旺盛な成長は期待できない(長池ら2011)

(参考)

◇ 関東森林管理局作成の「人工林における間伐等の手引き」及び「赤谷の森管理経営計画書(別

冊)」における“人工林を自然林に誘導するための間伐方法”に関する記述の評価

【人工林における間伐等の手引き】

① 間伐の目安を示し、想定できる間伐の方法等を一般化し、森林の機能類型ごとの取扱いを基

準に考えて作成されている。

② 生物多様性の復元に資する選木方法との記載はないが、間伐で対応できる範囲での生物多様

性の向上を意識したものとして作成されている。

【赤谷の森管理経営計画書(別冊)】

① 目指すべき森林の姿に応じ間伐の方法を記述している。

② ただし「列状間伐を採用」、「積極的に林内空間を確保」等の記述に止まり、伐採列(1伐

又は2伐)又は伐採幅、残し幅、想定している林内空間がどういうものか等、具体的な記述が欠如

している(選木方法等を固定しないで、幅のある中で実行出来るという応用を重視した利点も高い

ところであるが、現場で活用しにくいという面もある)。

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③ 赤谷プロジェクトエリアのスギ人工林(244へ3林小班)において、伐採幅を2列・3列と変えた

伐採実験を行い伐採後6年目の結果から、2列伐採の方が樹高が高く、個体数も多く、更新が良

好に行われていた。しかし、2列伐採では光環境が伐採前の水準に近づきつつあった。どちらの

伐採幅も、伐り捨て間伐より収穫間伐の方が自然林復元には効果的であった(塚田ら2011)。

④ 国内外における間伐などの施業が繁殖鳥類群集に与える影響を報告した論文を検討した結果、

施業が鳥類群集に対して悪影響を与えたという報告例は少なく、場合によっては密度・多様性

が増加することがあった(由井 2008)。

⑤ 北上山地のアカマツ林の列状間伐(幅5~9mの伐採列)によって、ノウサギが増加するが3年目

には施業前の水準に戻った(石間ほか 2007)。

⑥ クマタカがハンティングに利用しやすい場所の森林構造の特徴として、亜高木層以上の本数が

少なく、亜高木層の植被率が低い林ほど利用されやすい傾向がある(日本鳥類保護連盟 2002; 山

家 2009)。間伐によって、林内空間が確保されることによりクマタカなどを含む猛禽類が林内

での移動が容易となり、ハンティングに利用されやすくなるなど間伐がプラスの効果を与える

かもしれない。

以上のことから、間伐によって急激な森林の変化は想定されないが、「目指すべき森林の姿」

や各エリアの目標や復元すべき生態系などを総合的に判断し具体的な選木方法等を検討する必

要がある。また、人工林を自然林に復元するために、自然進入木の稚樹の本数や成長を促進さ

せるためには、できる限り林床に光が届くように伐採面積を確保することが望ましい。

3.間伐方法の検討(赤谷の森管理経営計画書(別冊)より一部引用)

以上の知見を踏まえて、各施業群における間伐方法についての提案を行う。なお、具体的な

施業を行うための間伐指針を作成する際は、植生WGや猛禽類WG、モニタリング会議などを

通じて改めて検討する必要がある。

A 生物多様性復元施業群

当面、生物多様性保全機能が高いと考えられる自然林への誘導を念頭に置きつつ、主として

間伐を実施します。この場合、伐採率は材積比35%以内とします。間伐方法は、立地条件や水

土保全機能の維持に配慮し、下層植生の発達しやすい光環境を形成するため、列状間伐を積極

的に採用します。

伐採率は、風害等を受けるおそれのある場合を除き、できる限り高めに設定します。

伐採にあたっては、生物多様性保全機能の発揮を念頭に次の点を考慮します。

① 林内に生育している高木性の自然木は、伐採作業の支障とならない範囲で、積極的に保残

します。

② クマタカ等の樹木に営巣する猛禽類の営巣適木(枝張りのよい大径木等)鳥類や小動物の

営巣木となるような樹洞のある木等は、伐採作業の支障とならない範囲で、積極的に保残

します。

(赤谷の森管理経営計画書(別冊)より引用)

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■選木方法および選木の際に検討すべき事項について

◇ 単木で選木する場合

① 傾斜が急で土砂の流出、落石、雪崩などの発生するおそれが高い林分。

② 植栽木以外の自然木が多数生育しており、列状間伐を行うことによって相当数の自然木が消滅

し、列状間伐による林床植生の発達効果以上に自然林誘導への損失が大きい林分。

◇ 列状で選木する場合

① 土砂の流出や雪崩の影響が少なく、林木の生長の良い林分においては、2列伐採や2列伐採と

単木間伐との組合せ(例えば2伐4残、2伐5残、2伐6残及び残し幅の単木間伐)を検討す

ること。

※「人工林における間伐等の手引き」では、2伐4残の4残内の間伐効果は少ないとしている

が、下層植生の発達の促進と生物多様性復元の効果が期待される。

〈伐採率35%の場合〉

【2伐5残・単木組合せ例】 【2伐6残・単木組合せ例】

○●●○○○○○●●○○●○○● ○●●○●○○○○●●○○●○○○●

○●●○○●○○●●○○○○○● ○●●○○○●○○●●○○○○○○●

○●●○○○○○●●○○○○○● ○●●○○○○○○●●○○○○●○●

○●●○○○○○●●○○●○○● ○●●○●○○○○●●○○●○○○●

○●●○○●○○●●○○○○○● ○●●○○○●○○●●○○○○○○●

○●●○○○○○●●○○○○○● ○●●○○○○○○●●○○○●○○●

○●●○○○○○●●○○●○○● ○●●○●○○○○●●○●○○○○●

○●●○○●○○●●○○○○○● ○●●○○○●○○●●○○○●○○●

○:保残木 ●伐採木

② 林木の生長がやや劣り2列伐採では概ね5年後に樹冠の閉鎖(樹冠疎密度が10分の8に回復)

が望めない場合は、1伐2残又は1伐3残と単木間伐との組合せを検討すること。

〈伐採率35%の場合〉

【1伐2残例】 【1伐3残・単木組合せ例】

○●○○●○○●○○●○○ ●○○○●○●○●○○○●○●○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○●○●○○○●○●○●○○○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○○○●○○○●○○○●○○○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○○○●○●○●○○○●○●○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○●○●○○○●○●○●○○○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○○○●○○○●○○○●○○○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○○○●○●○●○○○●○●○●

○●○○●○○●○○●○○ ●○●○●○○○●○●○●○○○●

③ 局所的な地形の変化(例えば下部は緩斜面であるが、上部が急激に急斜面となる場合など)等

により、一律に列状間伐を採用することが好ましくない林分、又は部分的に自然木の進入度合

いが高く列状によると自然木の消滅が多くなる場合等は、列状と単木の組合せ等を検討する。

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〈伐採率35%の場合〉

【1伐2残と単木組合せ例】

○●○○●○○○●○●○○●○○○

○○●○●○○●○○●○○○●○●

●○○●○○●○○●○●○○●○○

○●○○●○○●○○●○○●○○●

○●○○●○○●○○●○○●○○●

○●○○●○○●○○●○○●○○●

○●○○●○○●○○●○○●○○●

○●○○●○○●○○●○○●○○●

④ 過去に列状間伐を実施した林分で、2回目以降の列状間伐は、概ね5年後に樹冠の閉鎖が見込め

る場合には実施可能。

【1伐2残で実施した箇所で更に1伐2残の実施例:斜めに交差】

○▲●○▲●○▲●○▲●○▲●○▲

●▲○●▲○●▲○●▲○●▲○●▲

○▲○○▲○○▲○○▲○○▲○○▲

○▲●○▲●○▲●○▲●○▲●○▲

●▲○●▲○●▲○●▲○●▲○●▲

○▲○○▲○○▲○○▲○○▲○○▲

○▲●○▲●○▲●○▲●○▲●○▲

●▲○●▲○●▲○●▲○●▲○●▲

○保残木 ▲伐採済 ●伐採木

【2伐4残で実施した箇所の例示;搬出を重視した場合】

○▲▲○●○○▲▲○●○○▲

○▲▲○●○○▲▲○●●○▲

○▲▲○●○○▲▲○●●○▲

○▲▲○●●○▲▲○●○○▲

○▲▲○●●○▲▲○●○○▲

○▲▲○●○○▲▲○●○○▲

※自然性のギャップに近い形として2本×2本の群状伐採と、列状間伐の組み合わせ

今後の検討課題

・単木で選木する場合と、列状で選木する場合のおおまかな目安の検討。

・林分によって下層植生や広葉樹の更新状況が多様であることを踏まえ、それらを事前に把握して、

自然林に誘導する難易度を判定してそれに見合った施業法を選択する手法の確立。

・列状伐採後の2回目の間伐手法(例えば、前回の列状間伐後の列は、搬出路として使うのが望まし

いのか(搬出路として使った場合その場所の自然進入木を残すことができるか)

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B 人工林整備型長伐期施業群

人工林の密度管理を目的として実施するものとし、伐採率は、材積比35%以内で風水害を受

けるおそれのある場合を除き、できる限り高めに設定します。

木材の効率的な搬出や猛禽類のハンティング環境、獲物となる動物の生息環境の改善等に配

慮して、残存木の配置や樹冠の閉鎖に支障のない範囲で出来る限り列状間伐を採用します。

伐採にあたっては、人工林内に生育している高木性の自然木、樹木に営巣する猛禽類の営巣

適木(枝張りのよい大径木等)、鳥類や小動物の営巣木となるような樹洞のある木、大径の枯

立木等は、伐採作業の支障とならない範囲で、積極的に保残します。

特に、あらかじめ保護樹帯設定箇所として予測できる場合は、間伐の段階から生物多様性復

元施業群への編入を念頭に、自然木の進入を促す光環境をつくるような選木を行います。

(赤谷の森管理経営計画書(別冊)より引用)

(今後の検討課題等)

◇ 単木選木、列状選木の考え方は、生物多様性復元施業群と同様。

◇ 高齢級の人工林については、過去にも間伐を実施しており、立木密度が低いことと併せて成長が

劣ってくるため、一律に伐採率35%で列状間伐を実施すると樹冠の閉鎖が見込めない場合があるの

で、単木間伐で伐採率も低くするなど、林分状況を勘案し選木方法を検討すること。

◇ 将来植栽木を活かすための葉群管理につながる間伐手法を検討すること。

◇ 尾根筋での風害の回避、沢筋での土砂流出の回避など地形や気象条件等を把握し、保護樹帯の設

定についても配慮しつつ一律に列状間伐を採用するのではなく、単木間伐との組合せを検討するこ

と。

◇ 猛禽類のハンティング環境、獲物となる動物の生息環境の改善については、当面、間伐を実施す

ることである程度の効果が期待できると考えているが、猛禽類WG、ほ乳類WGのモニタリング調査等

により、間伐におけるより効果的な森林空間の創出方法等が提案されれば、その選木方法を検討す

ること。

C 特別な取扱いが必要な森林

当面は、集水域と想定される林分において、湿地への土砂流入に留意しつつ、自然林への誘

導をめざした間伐を行います。

(赤谷の森管理経営計画書(別冊)より引用)

(今後の検討課題等)

◇ 単木選木、列状選木の考え方は、生物多様性復元施業群と同様。ただし、湿地の水源かん養機能

の維持に配慮し、地表の乾燥化を抑制する観点から列状間伐においては、1列伐採とし2列伐採

は行わないこととする。

◇ 湿地へ土砂が流入する直接の要因は、列状間伐(路網を含む)により伐採された直線の連続が湿

地に到達しており、集中豪雨等により一時的に多量の表流水が伐採地を流路となり、一気に流れ込

む場合などが想定される。

このため、湿地に隣接する林分では、人工林整備型長伐期施業群の保護樹帯の設定の基準に準じ、

湿地から幅50mを保護樹帯的に保残することが望ましい。なお、保残すべき林分が過密状態であり、

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間伐の緊急性がある場合には、林分の健全性が保てる必要最小限の伐採率をもって単木間伐により

実施し、搬出路の作設についても、湿地との傾斜方向に対して垂直方向を避けるなど配慮すること。

4.引用文献

平田晶子、酒井武、高橋和規、杉田久志、佐藤保、田中浩、田内裕之. 2010. スギ人工林における

広葉樹の更新に森林管理が与える影響. 第 122 回日本森林学会大会講演要旨

平田晶子、酒井武、高橋和規、杉田久志、佐藤保、田中浩、田内裕之.2011. スギ人工林における

広葉樹の更新に森林管理が与える影響. 第 122 回日本森林学会大会講演要旨

石間ほか. 2007. ニホンイヌワシの採餌環境創出を目指した列状間伐の効果. 保全生態学研究 12:

118-125.

石塚森吉. 2008. 林分の管理について-林内の光環境管理-. 関東森林管理局(編), オオタカの営巣

地における森林施業2, 97-120. 日本森林技術協会, 東京.

長池卓男ほか. 2010. 並木植されたスギ人工林に天然更新した広葉樹の生長パターン. 関東森

林管理局(編), 三国山地/赤谷川・生物多様性復元計画(赤谷プロジェクト)推進事業平

成21年度報告書,日本自然保護協会, 東京.

塚田夢人ほか. 2010. 人工林を自然林に復元するための伐採試験地における植生調査の結果. 関

東森林管理局(編), 三国山地/赤谷川・生物多様性復元計画(赤谷プロジェクト)推進事

業平成21年度報告書,日本自然保護協会, 東京.

由井正敏. 2008. オオタカの餌となる鳥類の生息量と森林施業による効果. 関東森林管理局(編), オ

オタカの営巣地における森林施業2, 54-77. 日本森林技術協会, 東京.

山家英視. 2009. クマタカ成鳥雌雄の環境利用特性及びラジオテレメと目視調査との比較. 2009 年

日本鳥学会自由集会(札幌).

財団法人日本鳥類保護連盟. 2002. 平成13年度希少猛禽類生息環境調査(植生調査)報告書.

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猛禽類モニタリング調査 1.はじめに イヌワシ、クマタカは共に、わが国の森林生態系における食物連鎖の上位に位置する種

である。そのため、もともと生息数が少ない上に、近年、全国的に生息数の減少や繁殖成

功率の低下が確認されていることから、絶滅危惧種(ⅠB 類:環境省版レッドリスト)およ

び希少野生動植物種に指定されている。 両種が食物連鎖の上位に位置するということは、両種の生息場所(ハビタット)の保全

を図ることがその傘下に生息する多くの生物種の保全にもつながることを意味し、両種は

自然環境保全におけるアンブレラ種として位置づけられている。さらに両種が共に安定的

に生息し、繁殖活動を維持できるということは、その生態系が生物多様性に富むとともに、

生産性の豊かさを有していることの根拠ともなる。 これまでの調査で、赤谷プロジェクトエリアには、イヌワシの繁殖ペアが1ペア、クマ

タカの繁殖ペアが5ペア(プロジェクト・エリアの隣接ペアを含む)の生息が確認されて

いる。この2種の生息場所利用や個体群動態を把握することによって、プロジェクトエリ

アの自然特性の把握およびプロジェクトが進める生物多様性復元事業の効果を客観的に評

価することができるものと期待されている。 本年度は、日本イヌワシ研究会との協力により、既知のイヌワシ AK ペアの行動圏と生

息場所利用(特にハンティング場所)を明らかにすることを 重要課題として調査を実施

した。また、これまでのモニタリング成果をふまえて、森林施業と猛禽類の生息環境につ

いて考察を行い、赤谷の森・管理経営計画書へどのように反映するか検討を行った。

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2.モニタリング調査 赤谷プロジェクトエリアに隣接するエリアも含め、既知のイヌワシ2ペアとクマタカ5

ペアを対象として、繁殖状況、行動圏、生息場所利用(特にハンティング場所)、生息分布

を把握するための目視観察調査およびクマタカの食性調査を行った。各調査は、ボランテ

ィアと連携した調査チーム(ASTR:Akaya Special Team for Raptors)を組織して実施し

た。 2-1.目視観察調査 (1)調査目的と方法 1)イヌワシ ・繁殖状況調査 イヌワシの繁殖成功率は、その生息場所の質に大きく左右されるため、赤谷プロジェ

クトエリアがイヌワシの生息環境としてどのような状態にあるのかを評価する上で重要

なモニタリング項目である。 繁殖期間中、定期的に営巣地が見渡せる観察地点から、既知の営巣場所への巣材の持

ち込み状況や抱卵行動など、繁殖活動の進行状況を記録した。繁殖活動が中断した場合

には、その原因を推定するのに必要なデータを可能な限り記録した。

・イヌワシ特設調査(行動圏および生息場所利用調査) 赤谷プロジェクトエリアに営巣地をもつ AK ペアの行動圏は、北側と西側に広がって

いることが確認されているものの、その範囲は不明確な状態であった。また、昨年度の

特設調査により、赤谷プロジェクトエリアの東側に隣接する繁殖ペアの存在が明らかに

なっている。 猛禽類モニタリングWGでは、AK ペアの行動圏を明らかにした上で、季節別のハンテ

ィング場所が、プロジェクトエリア内のどのような場所(地形・植生)に存在するのか

を明らかにすることを目標としており、今年度は、9月と 11 月に日本イヌワシ研究会の

協力を得て、赤谷プロジェクトエリア外も含めた広域の調査範囲を設定し、大規模な調

査を実施した。 ・隣接ペアの生息分布調査 昨年度のイヌワシ特設調査の結果から、赤谷プロジェクトエリアの周囲に、AK ペアと

は別のイヌワシ成鳥が確認されたことから、新たな繁殖ペアの存在を確認するための情

報収集を行った。

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2)クマタカ ・繁殖状況調査 クマタカの繁殖成功率は、森林を中心とした生息場所の質に大きく左右されるため、

赤谷プロジェクトエリアの森林がクマタカの生息環境としてどのような状態にあるのか

を評価する上で重要なモニタリング項目である。 繁殖期間中、定期的に営巣地が見渡せる観察地点から、既知の営巣場所への巣材の持

ち込み状況や抱卵行動など、繁殖活動の進行状況を記録した。繁殖活動が中断した場合

には、その原因を推定するのに必要なデータを可能な限り記録した。 ・生息場所利用調査 クマタカは、自然林に限らず、様々な植生の成熟した森林や林縁部等で、様々な種類

の野生動物を捕食していることから(日本自然保護協会 2009)、特に人工林において、

どのような森林(場所、林内構造等)をハンティング場所として利用しているかについ

て、情報を蓄積することに努めた。鈴鹿山脈におけるクマタカのラジオトラッキング調

査の結果から、クマタカが林内に消失した場合および林内から出現した場合、98%の割

合において、その場所から移動すること無く、その場所およびその周辺に滞在しており、

ハンティング場所として利用されていることが多い(山﨑 私信)ことから、クマタカが、

林内から出現および林内に消失した地点について、その環境(植生、林況、地形)を記

録した。 ・隣接ペアの生息分布調査 プロジェクトエリアの隣接地で、新たな繁殖ペアの存在を把握するための調査につい

ても実施した。これまでの調査から、プロジェクトエリアの南側に繁殖ペアの存在が示

唆されている。 ・食性調査 クマタカは森林内でハンティングすることも多く、実際に獲物を捕食している場面を

観察することはきわめて稀である。従って、食性を明らかにすることによって、どのよ

う環境を利用してハンティングを行なっているかを推測することは重要である。 今年度、抱卵に至ったペアについて、営巣木の下に落下している獲物の残骸や、ペレ

ット等の回収を実施した。

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(2)調査実施状況

2010 年 1 月~12 月の調査実施状況および調査の概要(表○)は次の通りである。AS

TRでは、日本自然保護協会(NACS-J)が主催する ASTR 合同調査と、各メンバーが

個別に実施する ASTR 自主調査を組み合わせて調査を行っている。 今年度、イヌワシについては、9 月と 11 月に日本イヌワシ研究会との特設調査を設定

して、大規模な調査を行った。クマタカについては、行動範囲に人工林が比較的多く含

まれる KS ペアが繁殖成功したことから、このペアを重点的に調査した。 表1.ASTR調査実施状況

調査対象 ASTR 合同調査 日数

ASTR 自主調査 日数

イヌワシ特設調査 *日本イヌワシ研究会の協力により実施

8 0

イヌワシAKペア 5 7 イヌワシTGペア 1 7 イヌワシ(その他のエリア) 0 2

クマタカ KS ペア 5 14 クマタカ AM ペア 6 10 クマタカ HS ペア 3 4 クマタカ SG ペア 5 12 クマタカ SK ペア 2 6 クマタカ(その他のエリア) 1 3

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表2.イヌワシの目視観察調査・実施実績と観察された行動 ○:観察された行動、*ASTR 合同調査

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注)イヌワシ特設調査は、9 月 17 日~20 日、11 月 12 日~15 日のそれぞれ4日間を計画

したが、9 月 20 日、11 月 15 日は天候悪化のため調査を中止した。9 月 20 日と 11 月 15日は、表1の調査日数にはカウントしたが、(表2)には掲載していない。

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表3.イヌワシの目視観察調査・実施実績と観察された行動 ○:観察された行動、*ASTR 合同調査

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(3)調査結果 1)イヌワシ特設調査 日本イヌワシ研究会との協力によるイヌワシ特設調査は、9 月 17 日~20 日、11 月 12

日~15 日の計8日間、延べ 106 人日の調査が行われ、以下の観察記録が得られた。

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[ハンティング場所] ・夏緑広葉樹の展葉期(9月)の探餌およびハンティング場所は、ササ原等の樹木に覆

われない開放的な環境(オープンスペース)に限られていた。 ・県境稜線部にはササ原等の同様の環境が広がっているが、実際に獲物をハンティング

する行動(ササ原内に突っ込む行動/FH4、追い出し行動/FH5、特定の場所を何度

も旋廻/FH6、空中で獲物を捕獲/FH7)が観察された場所は、限られた特定の場所

であった。観察記録は以下の通り。(表4) ・空中でカケスに対するハンティング行動が観察された。 ・ササ原内に何度も飛び込むのが観察されたが、そこでどのような獲物を狙っていたの

かは不明である。 ・非繁殖期(9月)にもペアでハンティングを行っており、終日ペアで行動をしていた。 ・9月および 11 月における県境稜線での調査において、調査者が登山道でノウサギの糞

を見つけることはなかった。 表4.イヌワシ特設調査で観察されたハンティング行動

日付 時間 ペア名 植生 行動 メモ

9 月 18 日 10:19 AK 飛翔中 FH7 ペア/カケスの群れ

9 月 18 日 10:19 AK 飛翔中 FH7 ペア/カケスの群れ

9 月 18 日 10:34 AK ササ原 FH4/6 ペア

9 月 18 日 11:31 AK 草地 FH4 ペア

9 月 18 日 11:58 AK ササ原 FH4/5 ペア

9 月 18 日 12:13 AK ササ原 FH4/6 ペア

9 月 18 日 14:00 AK ササ原 FH4/6 ペア/同じ場所に4回

9 月 19 日 9:52 AK ササ原 FH4 ♀

11 月 12 日 14:02 TG ササ原 FH4 単独

11 月 13 日 14:12 AK 崖地 FH4 ペア

11 月 13 日 13:13 TG ササ疎林 FH5/6 単独/♀

11 月 14 日 14:01 AK ササ原 FH5 ペア

11 月 14 日 13:33 TG ササ原 FH5 ペア

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[行動圏・隣接ペア] ・AK ペアの行動圏は、赤谷プロジェクトエリアを中心として、北西側と北側の県境を越

えて広がっていた。北西側と北側の県境を越えた行動圏の範囲は概ね県境尾根から 1km以内であった。

・また、西側、東側、南側の広がりに関する情報についても新たな情報を得ることがで

きた。 ・赤谷ペアとは異なるイヌワシ成鳥 1 羽がプロジェクトエリア西側で5回観察された。 ・赤谷プロジェクトエリア東側に隣接するイヌワシペアの行動圏について、新たな情報

を得る事ができた。 [移動ルート] ・移動ルートおよびパターンには一定の傾向が見られた。

[その他] ・赤谷川本流上流部で、これまでに確認されていなかった巣材搬入先(キタゴヨウマツ)

が確認された。 2)イヌワシの繁殖状況 ①2010 年度の AK ペアの繁殖行動

繁殖期間に営巣地と既知の巣(N1~4)を中心に観察を続けたが抱卵は確認されず、6月以降の幼鳥の出現も確認されなかった。このことから繁殖失敗と判定した。

表5.1991 年以降のイヌワシ AK ペアの繁殖成績

(○:繁殖成功、×:繁殖失敗、-:不明) 1991 1992 1993 1994 1995

― ― (○N1) (○N2) ○ N2

1996 1997 1998 1999 2000

× × × × ×

2001 2002 2003 2004 2005

× × ○ N1 × ×

2006 2007 2008 2009 2010

○ - ○ - × ○ N4 ×

※“○”の後は利用した巣、括弧は状況からの推定 ※2009 年の幼鳥は巣立ち後、7 月中に落鳥したものと思われる

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②2010 年度の TG ペア(東側の隣接ペア)の繁殖行動 2009 年 11 月に実施した調査から、新たな繁殖ペアの存在が示唆された。その後の継

続的な調査により、2010 年 3 月 20 日に岩棚で抱卵(もしくは抱雛)していることを確

認し、営巣場所を発見した。その後、4 月 4 日に、巣内に出入りする雌雄が観察され、繁

殖活動を継続していることが確認されているが、5 月 4 日には育雛行動が観察されず、6月 5 日にも繁殖活動は観察されなかった。また、その後の観察において、巣立ち雛も確

認されなかった。このことから、TGペアは繁殖活動を途中で放棄し、繁殖失敗したと

判定した。

2010 ×N1

※“×”の後は利用した巣 3)クマタカの生息場所利用 今年度、観察された林内への消失又は林内から出現の回数と、その地点の植生および林

況は(表6)の通りである。合計 18 地点の観察記録が得られ、そのうち、人工林は HSペアについて1地点、KS ペアの3地点の計4地点であった。 表6.2010 年度観察された林内への消失又は林内からの出現行動

観察日 調査対象 回数

植生(林況)

1 月 16 日 SK ペア 2 自然林(-)

1 月 31 日 HS ペア 2 カラマツ人工林(壮齢林)/自然林(壮齢林)

1 月 31 日 AM ペア 1 自然林(壮齢林)

1 月 31 日 SG ペア 1 自然林(壮齢林)

3 月 27 日 AM ペア 1 自然林(-)

6 月 15 日 AM ペア 1 自然林(壮齢林)

7 月 18 日 KS ペア 1 カラマツ・アカマツの混じった林(-)

7 月 19 日

KS ペア

3 自然林(-)/自然林(-)

/広葉樹林化した人工林(-)

12 月 7 日 KS ペア 2 スギ林(壮齢林)/アカマツ林(-)

12 月 7 日 AM ペア 1 自然林(-)

12 月 14 日 HS ペア 3 自然林(-)

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4)クマタカの繁殖状況

クマタカ KS ペアは、3 月 21 日に既知の営巣木(N1)への出入りが観察され、その後、

順調に雛が成育し、巣立ちを確認した。AM ペアは 1 月以降、営巣地周辺でペアの行動が

観察されていたが、抱卵は確認されず、その後、巣立ち雛の出現も確認されなかった。

HS ペアは 2009 年生まれの幼鳥が 3 月中旬頃まで営巣地周辺で観察され、その後、抱卵

も、幼鳥の出現も確認されなかった。SG ペアは 4 月 18 日に既知の営巣木(N3)での抱

卵が確認された。その後、5 月 18 日まで抱卵を継続していることが確認されていたが、5月 28 日は、観察時間中(8 時間 45 分間)、巣内で成鳥の姿を確認できなかった。その後

も巣内で成鳥は観察されず、夏以降に巣立ち雛の出現も確認されなかった。 以上のことから、KS ペアは繁殖に成功し、AM・HS・SK ペアは繁殖に失敗、SG ペ

アは繁殖を途中で放棄し繁殖に失敗、と判定した。 表7.2004 年以降のクマタカ 5 ペアの繁殖成績 (○:繁殖成功、×:繁殖失敗、-:不明)

ペア名 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

SG (○-) × ○N2 × ○N3 × ×N3

AM (○N1) × × ○N1 ○N1 × ×

HS × × ○N2 × × ○N3 ×

KS (○N1) × ○N1 × ○N1 × ○N1

SK ― (○N1) × ○N1 × △N1 ×

※“○”の後は利用した巣、括弧は状況から推定 ※“△”:巣立ち直前の雛がなんらかの原因で落鳥したと思われる場合

2-2.クマタカの食性調査

クマタカの食性に関するデータを収集するため、今年度、抱卵に至ったペアについて、

営巣木の下に落下している獲物の残骸やペレット等の回収を実施した。この調査にあたっ

ては、クマタカの繁殖ペアおよび巣立ち雛に悪影響を与えないよう、巣立ち雛が十分な飛

翔能力を得ていること、もしくは繁殖を放棄してから十分な時間が経過していることを確

認したうえで実施した。調査当日は、クマタカに悪影響を与える兆候が見られた場合は、

速やかに中止できる体制の下で行なった。

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(1)クマタカ KS ペア(N1)

11 月 5 日に営巣木(N1)の下の残渣調査を実施した。採集物は表 8 に示す通りである。 表8.クマタカ KS ペアの営巣木下で採集残渣 No. 採集物 備考 KS1 ペレットの一部と思われる物

*3 つに分かれて近くに散在 クリーム色の羽毛(あるいは獣毛)が多く

含まれる。 KS 2 ペレットの一部と思われる物 白とグレーの羽毛(あるいは獣毛)が含ま

れる。 KS 3 ペレットの一部と思われる物 白い羽毛(あるいは獣毛)が含まれる KS 4 ペレットの一部と思われる物 白い羽毛(あるいは獣毛)が含まれる KS 5 羽軸 種不明 KS 6 羽毛 種不明 KS 7 卵殻 クマタカと思われる

(2)クマタカ SG ペア

11 月 25 日に営巣木(N3)の下の残渣調査を実施した。採集物は表 9 に示す通りである。 表9.クマタカ SG ペアの営巣木下で採集した残渣 No. 回収物 備考 SG1 卵殻 種不明

3.考察 -森林施業と猛禽類の生息環境について- 3-1.これまでに明らかになったこと (1)イヌワシ AK ペア [ハンティング場所] ・AK ペアは、過去6年間(2005~2010 年)で、3回繁殖に成功していることから、現状

において、繁殖活動を維持するための 低限のハンティング場所は確保されているもの

と考えられる。 ・夏緑広葉樹の展葉期の行動圏(非繁殖年)は、プロジェクトエリアの北部、北西部へ広

がっていることが確認されたが、ハンティング行動が観察されたのは、プロジェクトエ

リア内であり、その植生は、ササ原、草地などのオープンスペースに限られていた。 ・2010 年度のイヌワシ特設調査の期間中(9月と 11 月で計6日間)、そのうの膨らみや実

際に獲物を捕獲する場面は確認されなかった。このことから、当該ペアのハンティング

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成功率はあまり高くないのではないかと思われた。 ・非繁殖期(9 月)においても、ペアでハンティング行動を行い、終日ペアで行動していた。 ・AK ペアの行動範囲であるプロジェクトエリア区分1~3において、1993 年から 1995年まで、イヌワシがハンティング場所として利用できる伐採跡地および若齢の人工林が

存在し、その分布は限られていたものの、その当時には、ハンティングとして利用され

ていた可能性がある。しかし、現時点で赤谷プロジェクトエリア内に AK ペアがハンテ

ィング場所として利用できる伐採地や若齢の人工林は存在していない(日本自然保護協

会 2009)。 ・1993~2008 年の AK ペアのハンティング場所を季節別に比較した結果、広葉樹の展葉期

は高標高地のオープンスペースの利用が見られ、落葉期は壮齢な夏緑広葉樹林を利用し

ている傾向が見られた。しかし、成熟した人工林でのハンティング行動は確認されてい

ない(日本自然保護協会 2008)。 ・1993 年から現在まで、継続的にハンティング行動が観察されている場所の一部は、営巣

地から近く、営巣地よりも標高の高い場所に位置しており、重要なハンティング場所で

ある可能性がある(日本自然保護協会 2008)。 [営巣環境] ・イヌワシ AK ペアが繁殖成功した巣は、すべて赤谷川上流部に位置し、上昇気流の発生

しやすい切り立った断崖の岩場である。同様の場所は、赤谷川上流域に限られており、

プロジェクトエリア内に代替の場所が無い、きわめて重要な場所である(日本自然保護

協会 2009)。 [獲物となる動物を生産する環境] ・これまで、AK ペアについて確認された獲物の種類はノウサギ、ヘビ類、カケスである。

先行研究において、ノウサギ、ヤマドリ、ヘビ類が重要な獲物である(環境省 2004)と

されていることから、AK ペアについても同様であると考えられる。 ・AK ペアは、過去6年間(2005~2010 年)で、3回繁殖に成功していることから、現時

点において、少なくとも 低限の獲物が生産される環境は確保されていると考えられる。

しかし、夏緑広葉樹林の落葉期および積雪期、さらに繁殖成功年の AK ペアのハンティ

ング場所について十分な情報が得られていないこと、並びに AK ペアの行動圏が県境尾

根部を越えて外部に広がっていたことから、赤谷プロジェクトエリア内において、一年

を通じて繁殖に必要な獲物が充足されているかどうかは不明である。

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[分布及び行動圏] ・AK ペアは、プロジェクトエリアの北側、北西側に 1km 以内で行動圏を広げていた。 ・プロジェクトエリアの東側に、イヌワシの繁殖ペア(TG ペア)の存在が確認された。 ・プロジェクトエリアの西側で、AK ペアとは異なるイヌワシ成鳥が観察された。 (2)クマタカ5ペア(SG、AM、KS、HS、SK) [ハンティング場所] ・クマタカは林内空間がある森林(主に老齢林)や林縁などをハンティング環境として利

用する傾向がある(日本鳥類保護連盟 2002;山家 2009)。赤谷においても、調査地点数

が少ないものの同様の傾向が確認された。

・SG ペアを対象とした調査によると、特定の植生に偏ってハンティングを行っているとは

いえなかったが、70 年生以上の自然林においてハンティング行動(林内への消失と林内

からの出現)が も多く確認された。コアエリア内においても、すべての場所が一様に

ハンティング場所として利用されているのではなく、利用されていない森林も存在して

いた(日本自然保護協会 2009)。

・5ペアの営巣木から半径 1.5km 範囲の植生構成は様々であり(日本自然保護協会 2008)、

その大部分を人工林が占めるペアもいる。また、人工林においてもハンティング行動が

確認されていることから、ハンティング場所として、必ずしも自然林だけが適している

とはいえなかった。

・クマタカ5ペアの繁殖成績は比較的良好であり、現時点において、少なくとも繁殖活動

を維持するのに 低限のハンティング場所は確保されているものと考えられる。

[営巣環境] ・クマタカ5ペアの営巣木の胸高直径は平均95cmであり、すべて大径木であった。胸高直

径については、福井県若狭地方では38~83cm(平均63.5cm)、鈴鹿山脈では38~103cm、

広島県西部では60~75(平均64.3cm)などの例(環境省,1996)があり、クマタカの大

きな巣は、太い枝を有する大径木でなければ、架巣できないと考えられる(日本自然保

護協会 2008 2009)。

・クマタカ5ペアで確認された営巣木の樹種は、7本中5本をモミが占めていた(日本自

然保護協会 2008 2009)。

・クマタカ5ペアで確認された営巣場所7箇所の内、5箇所は、伐採規制が厳重であるこ

とから大径木が多く残存する、土砂流出防備保安林(プロジェクトエリアの9.7%)内に

位置していた(日本自然保護協会 2008 2009)。

・クマタカの営巣に適した地形(斜面角度)の分布を、50m メッシュ単位に解析(日本全

国のクマタカの巣の位置データから共通する条件を抽出した解析/いであ株式会社 技

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術提供)したところ、プロジェクトエリアの全域に分布していた(日本自然保護協会 2009)。

・クマタカ1ペアについて、コアエリアで地形的な営巣適地(傾斜及び相対的な標高)と、

営巣に適した大径木の分布について、両方の条件を満たす範囲を抽出したところ、コア

エリアの約6%に限られていた。人工林の割合が高いエリアに分布するクマタカペアに

ついては、両方の条件を満たす範囲が、更に少ない可能性が考えられる。一方、全国的

には、営巣木として様々な樹種(人工林のスギやカラマツも含む)を利用していること

が知られており、大径木ではない例も見られる(日本自然保護協会 2009)。 ・クマタカは、繁殖期には営巣場所の周囲に一定のテリトリーを形成し(新谷 2000)、隣

接ペアと一定の距離を保って分布していることが知られている。茂倉ペア(2008年)と

合瀬ペア(2006年)は、台風などの気象現象により既存の巣が落下しても、同じ営巣林

や営巣木を使用し繁殖に成功した。このことは、プロジェクトエリアのクマタカの営巣

場所が、架巣できる大径木の存在と、隣接ペアとの距離に制約を受けていることによる

ものとも考えられる。

[獲物となる動物を生産する環境] ・5ペアのクマタカについて確認された獲物の種類は以下の通りであり、森林に生息する

中小動物を幅広く捕食していることが明らかになった(2008 日本自然保護協会)。 ヘビ類(アオダイショウ、シマヘビ) 鳥類(キジ、ヤマドリ、ドバト、クロツグミ、カケス、カラス sp.) 哺乳類(モグラ類、ネズミ類、モモンガ、ムササビ、ホンドリス、ノウサギ、ニホン

ザル、イタチの仲間) ・5ペアは比較的人里に近い、人工林も多いエリアに生息しており、営巣木から半径 1.5km

内の植生タイプ構成はペア間で異なっているが、繁殖成績に大きな違いは認められてい

ない(日本自然保護協会 2008)。 ・5ペアの繁殖成績は比較的良好であり、各ペアとも現時点において 低限の獲物は確保

できていると考えられる。 [分布および行動圏] ・これまでの調査から、プロジェクトエリアと隣接地域を含めて、5ペアのクマタカの繁

殖ペアの分布が明らかになった。また、クマタカの繁殖ペアが分布していないエリアが

あることも判明した。 既知の5ペアのクマタカは多様な植生タイプの森林に分布してお

り、比較的人里に近いエリアに分布している。一方、クマタカの繁殖ペアの分布してい

ないエリアは、比較的自然林の割合が高い上流部に位置している。このことから、植生

タイプ以外のなんらかの要因により、クマタカの繁殖ペアの分布が制限されている可能

性のあることが示唆された。

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イヌワシは、ハンティング場所を防衛するために他種に対して排他的な行動を行うこ

とがあることから、イヌワシ AK ペアの行動がクマタカの分布を制限する要因であるこ

とも考えられるエリアもあるが、そのことがクマタカの繁殖ペアの分布制限要因になっ

ているのかどうかについては、AK ペアの行動についてさらにデータを蓄積した上で判断

する必要がある。 3-2.森林施業と猛禽類の生息環境 今年度、赤谷プロジェクトエリアにおいて「赤谷の森・管理経営計画」(案)が策定され

た。猛禽類モニタリングWGでは、これまでに明らかになったことから現状評価を行い、

イヌワシ・クマタカの生息する森林において、どのような森林管理を行うべきであるかに

ついて検討し、「赤谷の森・管理経営計画書」(案)として以下の文章を提案した。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 赤谷の森 管理経営計画 文章案

2010.9.29 猛禽類モニタリング WG 事務局

イヌワシ・クマタカは、絶滅危惧種であるとともに、森林生態系の食物連鎖の上位に位

置する生物であることから、イヌワシ・クマタカの生息場所(ハビタット)を保全するこ

とは、食物連鎖の下位に位置する動植物を保全することにつながります。このことから、

その生息場所の質を、営巣環境、ハンティング環境(狩場環境)、獲物となる動物を生産す

る環境の3つの観点から科学的に評価し、それらの機能を向上させる森林管理を行なうこ

とによって、森林の生物多様性を保全します。 赤谷の森では、このような先進的な取り組みを進めるとともに、全国の国有林ならびに

民有林において、イヌワシ・クマタカを指標生物とした森林の生物多様性の保全が推進さ

れるよう、的確に情報発信を行ないます。 1)イヌワシ 赤谷の森に営巣地をもつイヌワシ赤谷ペアは、過去 5 年間(2005~2009 年)で、3回繁

殖に成功しています。代替地のない1箇所の営巣地を中心として、高標高地から低標高地

までを広く利用することにより、周年にわたって獲物を捕食し、繁殖していると考えられ

ます。このことから、イヌワシの生息場所の質を向上させるために以下の森林管理を行な

います。

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a.営巣環境 イヌワシ赤谷ペアは、エリア1(228 林班の一部~240 林班)に営巣テリトリー(複数の営

巣場所を含み、営巣期に防衛される範囲)をもち、このエリアは赤谷ペアにとって代替地

のない不可欠な営巣環境であることから、厳正に保全する必要があります。 従って、エリア1における森林整備等の人的活動については、猛禽類モニタリングWGと

相談しながら、適切な対応を行ないます。 b.ハンティング環境 イヌワシ赤谷ペアのハンティング場所は、夏緑広葉樹の展葉期は高標高地のオープンエ

リア、落葉期は壮齢な夏緑広葉樹林を利用している傾向が確認されています。また、1993年~1995 年には若齢の人工林をハンティング場所としていた可能性がありますが、現時点

では人工林でのハンティング行動はみられていません。 従って、イヌワシのハンティング環境の質を向上させる観点から、赤谷ペアの営巣テリ

トリーを含むエリア1の人工林を、本来の壮齢な夏緑広葉樹林に復元するための森林管理

に長期的に取り組むこととします。 c.獲物となる動物を持続的に生産する環境 イヌワシ赤谷ペアで確認された獲物の種類は、ノウサギ、ヘビ類です。様々な先行研究

においても、イヌワシの獲物としては、ノウサギ、ヤマドリ、ヘビ類が重要であるとされ

ています。 従って、これらの獲物となる動物が持続的に生産される環境の質を向上させる観点から、

赤谷の森の自然林を自然の遷移にゆだねるとともに、一定量の人工林を本来の自然林へ復

元していきます。 2)クマタカ 赤谷の森およびその周囲に生息するクマタカ5ペアの繁殖成績は概ね2年に1回と良好

であり、 低限の生息場所の質は確保されていると考えられます。さらに、ペア毎の営巣

木から半径 1.5km 内の植生タイプ構成はそれぞれかなり異なっていますが、繁殖成績に大

きな違いは見られません。このことから、クマタカは植生タイプにかかわらず生息場所の

質が確保されれば、人工林においても生息・繁殖することが明らかとなりました。従って、

人工林において、定期的な間伐等の適正な森林管理を行なうことが生息場所の質の向上に

つながります。 クマタカのペアは、同規模の行動圏をもって連続的に分布し、一定の内部構造を有して

いることから、ペア毎に行動圏の内部構造の機能に応じた森林管理を行ないます。

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クマタカの行動圏内部構造とその機能 名称 機能 幼鳥の行動範囲 巣立ちの後の幼鳥が独立して生活できるようになるまでに必要

な範囲(概ね、営巣木から 1km 以内の範囲) 繁殖テリトリー 繁殖期に設定・防衛される縄張り(概ね、営巣地を含む 3k ㎡) コアエリア 1年を通じてよく利用するエリアで、主なハンティング場所が含

まれる。(概ね、営巣木から半径 1.5km 以内において地形に応じ

て形成される 7~8k ㎡) (2000.クマタカ生態研究グループ) a.営巣環境 ①良好な営巣環境の確保 コアエリアにおける森林整備等の人的活動については、猛禽類モニタリングWGと相談

しながら、適切な対応を行ないます。

②潜在的営巣適地の保全 赤谷の森におけるクマタカの営巣木は大径木(胸高直径の平均は 95cm)に限られており、

その樹種は7本中5本をモミが占めています。赤谷の森全域で、地形的条件(傾斜と相対

的な標高)から推定したクマタカの営巣適地(以下、「地形的営巣適地」と呼ぶ)は広く分

布していますが、過去の森林伐採の影響によって、営巣可能な大径木の分布は限られてい

ます。また、既存の営巣木は気象等の自然現象によって消滅することも考えられます。こ

のことから、地形的営巣適地の人工林管理においては、営巣可能な大径木を保残、育成す

ることにより、クマタカの営巣環境を長期的に保全し、現状よりも 適な営巣場所を選択

できる可能性を高めることとします。

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クマタカ5ペアの繁殖テリトリー内または、営巣木から半径 1km 以内でかつ、地形的営

巣適地に分類される場所については、“クマタカの潜在的営巣適地”として、以下のような

森林管理を行います。 自然林は、自然の推移に委ねるものとします。人工林において、林内にモミが生育して

いる場合は、モミを積極的に保残することに努めます。さらに、この範囲内の人工林にお

いて、既にスギ等の植栽木が大きく成長している場合は、将来的に植栽木がクマタカの営

巣木にもなりうることが想定されることから、枝張りのよい植栽木を保残、育成します。 b.ハンティング環境 クマタカは、自然林に限らず、林内空間のある森林をハンティング場所として利用する

傾向が確認されています。このため、コアエリア内における人工林管理においては、積極

的に林内空間を確保することによって、ハンティング環境としての質の向上をめざします。 c.獲物となる動物を持続的に生産する環境 クマタカは森林に生息する様々な中小動物を獲物としていることから、コアエリア内に

多様な森林環境が存在していることが重要であると考えられます。このため、現在の自然

林を適切に保全するとともに、人工林においては、多様な森林環境を創出する観点から適

切な森林管理を行ないます。 以上 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 4.今後の課題 4-1.イヌワシ ・今年度は、夏緑広葉樹林の展葉期(今年度は非繁殖年)のハンティング場所に関する情

報を得る事ができたが、1年を通じた季節別のハンティング場所を明らかにするために

は、夏緑広葉樹の落葉期および積雪期におけるハンティング場所についても情報収集を

行なう必要がある。晩秋から早春にかけてのこの時期は、赤谷プロジェクトエリア内に

おける比較的標高の低い森林帯もハンティング場所として利用している可能性が高いも

のと考えられ、森林管理の面において不可欠な情報を得ることが期待されるからである。 ・また、繁殖年における繁殖期(抱卵・巣内育雛期・巣外育雛期)のハンティング場所を

明らかにすることは、イヌワシが繁殖を成功させるために必要なハンティング環境の解

明に不可欠であることから、その情報収集を行う必要がある。 ・赤谷プロジェクトエリアにおける生息場所利用を明らかにするためには、赤谷プロジェ

クト開始以前に得られた観察記録を含め、行動に関するすべてのデータをとりまとめ、

旋廻上昇地点と飛翔移動に関する解析を行ない、行動圏内の移動ルートおよびパターン

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を解明する必要がある。 ・赤谷プロジェクトエリアにおけるイヌワシとクマタカの繁殖ペアの分布を規定している

要因を解明するためには、クマタカの繁殖ペアの生息が確認されていないエリアについ

て、イヌワシの出現状況および行動を明らかにする必要がある。 ・AK ペアに隣接して生息するイヌワシの繁殖ペアの分布状況を明らかにし、AK ペアを含

めた地域個体群の生息状況に関する情報収集を行う必要もある。 4-2.クマタカ ・クマタカは、植生タイプにかかわらず、充分な林内空間が存在する森林(主に老齢林)

および林縁部等をハンティング場所として利用する傾向があることが分かってきている

(日本自然保護協会 2009)。しかし、人工林に関しては、具体的にどのような森林がハ

ンティング場所として利用されているかについての情報が不十分であるため、さらに情

報収集を行い、ハンティング場所として利用される人工林の特徴を明らかにする必要が

ある。

・また、人工林におけるクマタカを指標とした生物多様性の保全・復元に必要な森林管理

の方法を明らかにするため、コアエリア内に人工林が多く分布するクマタカ繁殖ペアに

ついて、行動圏の内部構造を明らかにする。

・なお、コアエリア内の人工林において間伐等の森林施業が実施された場合には、優先的

にその場所においてクマタカの行動観察を行い、施業方法とクマタカのハンティング場

所利用との関係について出来る限りの情報収集を行う。

以上 引用文献

環境省(1996).猛禽類保護の進め方

日本自然保護協会(1999).日本自然保護協会報告書第86号イヌワシ・クマタカの子育てが続く自然を守る.

クマタカ生態研究グループ(2000).クマタカ・その保護管理の考え方

環境省(2004).希少猛禽類調査(イヌワシ・クマタカ)の生態等に関する結果

関東森林管理局,日本自然保護協会(2008).三国山地/赤谷川・生物多様性復元計画推進事業報告書

関東森林管理局,日本自然保護協会(2009).三国山地/赤谷川・生物多様性復元計画推進事業報告書

山家英視 (2009). "クマタカ成鳥雌雄の環境利用特性及びラジオテレメと目視調査との比較." 2009 年日

本鳥学会自由集会(札幌).

財団法人日本鳥類保護連盟(2002) 平成13年度希少猛禽類生息環境調査(植生調査)報告書.

名波義昭, 田悟和巳, 鳥居由季子,柏原聡. (2006). "クマタカ Spizaetus nipalensis の狩り場環境の推

定." 応用生態工学 9(1): 21-30.

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(4)ほ乳類モニタリング

a.ホンドテンの食性を通じた生息環境の把握

1.はじめに

本調査は、群馬県みなかみ町を南下する赤谷川の源流部地域一帯の国有林約1万ヘクタールを範囲

とする生物多様性復元のための活動の一環として実施された調査活動の一つである。調査の目的は、

調査対象種として中型哺乳類であるホンドテン(Martes melampus 以下テン)を設定し、現地でのフ

ィールド調査でサンプリングした糞の内容物を分析し、その結果から食性傾向を明らかにすると同時

に、

◇テンが生息する環境の解析

◇テンから見た赤谷の地域的特徴

◇同一ニッチ利用の他動物との関係

◇調査展開のための基礎データの蓄積

などの解明や実施に努め、本種が生息する赤谷地域の自然環境の状態を把握することを目指すもので

ある。また、上記の調査結果から自然環境の変動をモニタリングするインデックスを抽出し、本プロ

ジェクトが目標とする自然再生の状態を判断することと、それに近づくための指針づくりのための材

料を得ることである。さらに、本調査は学術的な側面も有してはいるが、上記の調査を通じ、その成

果が応用、運用され、具体的に活用できるものであることを目指し、現場に反映させることを中心課

題とした。

2.調査の方法及び調査期日

調査地域内に設定した雨見林道、無多子沢林道、赤谷林道、小出俣林道の4地域のメイン調査ルー

トを中心に、いきもの村、赤沢林道などのランダム調査地点を加え、中型哺乳類の糞のサンプリング

調査を実施した。なお、本年度は雨見林道と赤沢林道で連続サンプリングを夏季と秋季の2 回実施。

これらデータも全体のデータに加えた。

2-1.サンプリング

調査対象地域内の調査ルートを踏査し、中型動物類の糞を目視にて確認し、ビニール袋に入れ回収

した。この際、サンプリング場所を地図上に記録すると同時に、GPSを用いて位置を記録した。また、

糞の分散状況や雨による洗脱状況などを記録し、さらに写真撮影も行った。

2-2.調査期日

2010年 1/9.10.30.31

2/14.20.23

3/6.7.13

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4/3.13.24.25

5/1.2.3.16

6/6.13.26

7/3.4.21.22.23.24.25.26.31

8/1.17.21

9/4.5.11

10/10.16

11/6.13.19.20.21.22.23.24.25

12/4.19

以上、延べ49日サンプリング調査を実施した。

2-3.分析

サンプリングした糞サンプルは冷凍庫で保管(いきもの村)され、8月末及び12月末

数量が一定量集まった段階で冷凍状態のまま〔応用生態技術研究所〕に送付され、解凍、一部殺菌、

乾燥処理された後に、乾式方式で内容物の同定作業を実施した。

2-4.データ整理

内容物のデータ整理を行い、分析・解析作業を行った。

現地でのサンプリングから、その後の冷凍保管、発送までは当プロジェクトのサポーターの方 (々通

称:テンモニ隊)、関東森林管理局赤谷センターの職員の方々およびNacs-Jの協力で実施されたもの

であり。ここに厚くお礼を申し上げる次第である。

3.調査結果

3-1.サンプル数

今年度のサンプル総数は877(昨年度+134)サンプル。内有効サンプル数841(昨年度+152)サンプル

であった。そして、この中からイタチやキツネなどを除いたテンだけのサンプル数は758(昨年度+135)

であった。

表1。2010年度のサンプル数の概要

サンプル総数 有効サンプル数 テンのサンプル数

877 841 758

全体のサンプル数は 2006 年度からの経年データと例年するとほぼ 100 サンプル近く多くなってい

る。例年11月はサンプル数の多い月であるが、2010年は特出して多くなっていた。

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図1.サンプル数の経年変化(2005年度は予備調査なので除外) 図2.月別サンプル数(2010)

3-2.採餌動・植物の比率と傾向

図3に各月ごとのサンプルを動物食と植物食の出現数を算出し%で示した。基本的なテンの採餌傾

向では、例年3 月~8 月期は動物類が優占。または、やや動物が多い状態が続き、9 月~10 月期にな

って植物がやや多くなり、11月~12月には植物が優占するという形になる。

2010年度も、ほぼ例年並みの推移を示しているが、7~8月植物類の方が動物類より多くなっており

特徴的な状況を示している。例年だとこの時期の採餌動・植物としては昆虫類が優占するが、2010年

度は、ヤマグワと、ワミズザクラなどの出現が目立っている。

基本的にこうした採餌動・植物の比率は植物の豊凶(実成り)に影響される傾向が強く、それを補

うように動物が採餌されていると考えられる。したがって、テンの採餌傾向は地域の餌植物種の豊凶

を示すインデックスとなっていると考えられる。

図3.月別動物食と植物食の比率(%)2010年度

図4.月別動物食と植物食の比率2009年度 図5.月別動物食と植物食の比率2008年度

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3-3.採餌動物類に関して

採餌された動物類に注目し、採餌動物の傾向をみてみると、図6より、哺乳類(54.0%)と昆虫類

(27.1%)に集中し、両種群で 80%を越える。哺乳類では、例年どおりネズミ類が最も多い。しかし、

ネズミ類のうち、ノネズミ類(ヒメネズミ、アカネズミなど)とヤチネズミ類(ハタネズミ、ヤチネ

ズミ類)を比較すると、ノネズミ類は年を追うごとに次第に減少傾向に向かい、ヤチネズミ類では増

減傾向はあるもののまあ安定した出現状況にある。両種群は重なった生息環境も有するが、ある程度

棲み分けをしている。しかし、ノネズミ類がこれ程減少するほどの理由が、主たる生息環境である森

林に発生しているとは思えず、その理由は全く不明である。

その他の哺乳類では、イノシシが急激に採餌対象動物として増加する傾向を見せている点が注目さ

れる。定性的ではあるが冬季の足跡トラッキング、秋季のあせり跡トラッキングでもイノシシの生息

痕跡が年々増えているように思われる。雪深い地域ではイノシシは生息できないとされてきたが、数

年前ムタコ沢で雪の中を自由に歩き回っている個体を確認している。ただし、雪の中での餌の確保は

厳しいらしく、土を掘り樹木の根の皮をかじっていた。狩猟をはじめとする人為圧が減少すれば、畑

の作物などに被害を与える危険性が増すものと予測される。

図6.採餌動物類とその出現数(2010) 図7.ノネズミ類とヤチネズミ類の出現回数の経年

変動

3-4.採餌植物類に関して

2010年採餌植物として確認された種は、ヤマグワ、ウワミズザクラ、サルナシ、ツルウメモドキな

ど23種であり、例年とほぼ同様な種数あった。特出するサルナシは植物種全体の47.5%、ツルウメモ

ドキは22.1%でこの2種で全体の約70%近くに達している。 図9にサルナシとツルウメモドキの出現

回数の経年変化を示したが、サルナシは右肩上がりの傾向を示しているのに対して、ツルウメモドキ

は隔年の豊凶を示している。

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図8.採餌植物類とその出現数(2010) 図9.サルナシとツルウメモドキの出現回数の

経年変動

一方、2010年度の特徴は、ヤマグワとウワミズザクラの2種が多かったことで、夏季の雨見林道地

点ではヤマグワの木の下でヤマグワを採餌した糞が複数個サンプリングされた。また、同林道の始点

付近ではウワミズザクラの木にクマが登り枝折りを行っていた。両種共に2010年度は結実が表年にあ

たったと思われる。しかし、図10によると前掲の2種とは違い、やや不安定な豊凶状況を示してい

る。特に、ウワミズザクラは北部九州では夏季の主要な採餌植物なっているが、あまり強い豊凶傾向

は示さない樹種である。赤谷地域では2005年度から2007年度まで全く確認されていなく、2008年度

8サンプル、2009年度1サンプル、そして本年度急激に41サンプルとなっている。第1に、ヤマグワ

もそうであるが、赤谷地域では液果類植物の豊凶の揺れ幅がかなり大きいのではないかと推察される。

同時に、ヤマグワやウワミズザクラなどは生育個体数が限られており、その個体の豊凶に大きく左右

されるということが起こっているのではないかと推察される。

図10.ヤマグワとウワミズザクラの出現回数の経年変動

3-5.各調査地域の状況

本年度の各地域のサンプル数を図11に示す。これによると、最も多いムタコ沢林道地域と最も少な

いいきもの村地域とでは約13倍もの差があることになる。糞の数がそのまま個体数にはならないし(「テ

ン糞のDNA解析による個体数推定」2008荒井・足立ほか未発表)、調査日の天候、調査頻度、調査対象距

離の長短などがあり、比較するにはこれらを補正する必要がある。しかし、これらを考慮しても各調査

地域におけるテンの生息密度には大きな開きがあることが推察される。

ニッチが共通する他の哺乳動物種との関係や天敵関係などが関与するのは当然であるが、それ以上に

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自然の中で生活していく動物達にとって、食物の存在は生死に直結する欠くべからざる必要条件である。

したがって、赤谷の各地域の食物のあり方の違いが図11の違いとして表出した結果であると考えられ

る。しかしながら、餌となる動物類は移動や生息密度の変動。植物類では豊凶などを繰り返しており、

これらを原因としてサンプルの数や内容物に調査地域ごと、調査年次ごとの変動をみせているものと考

えられる。

図11.各地点のサンプル数

図12.各地域のサンプル数の経年変化

図12は各調査地域のサンプル数の経年変化を示したものである。以下に調査地域ごとの概況を

見ていく。

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ムタコ沢林道

月別サンプル数の推移(ムタコ2010)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月10

月 11月

12

15 7 11 22 7 14 6 12 21 20 64 54

図13.糞に含まれる動・植物の出現数の月別推移(ムタコ2010)

図 13 によるとムタコ沢地域のサンプリング数の推移は、2008 年度を底にしたV字型の線形を示

しており、サンプル数としては2006年度のレベルに戻ってきた。サンプル数を押し上げたのは11月

と12月のサルナシとツルウメモドキである。特に、サルナシは特出しており、11月と12月のサンプ

ル合計118個に対して109個。約92.4%に含まれていたことになる。一方、ツルウメモドキは12月

期が中心となるが118個に対して23個。約19。5%であるが、この数字も赤谷地域では多い方である。

この地域は林道沿いにサルナシが高い密度で生育しており、各調査地域の中でもサルナシの現存量

は一番多い地域と思われる。しかし、2008年にはV字型の底を打つように低下しており、単にサルナ

シの豊凶と言うよりも、別の要因が存在し、テン自身の生息密度が低下したのではないかと考えられ

る地域である。サンプル数の増減幅が大きく、今後とも注目すべき地域であろう。

赤谷林道

月別サンプル数の推移(赤谷2010)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月10

11

12

- - 25 21 50 11 4 0 10 12 42 14

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図14.糞に含まれる動・植物の出現数の月別推移(赤谷2010)

図14より、この地域は冬季の1月と2月は雪のため調査が出来ないところであるにもかかわらず

2008年度から右肩上がりにサンプル数が増えている地域である。11月期のサルナシは前出のムタコ沢

地域と同様であるが、5月期が特徴的で、この時期のサンプル数は赤谷林道地域全体(220サンプル)

の22.7%である50サンプルに達している。赤谷全体で5月にサンプリングされた数は69サンプルで

あり、赤谷林道はその 72.5%を占めており、内容物ではネズミ類への偏向が特徴的で、赤谷林道の

40.0%に上っている。5 月期に限って、何故この地域に限ってサンプル数が多いのか、また、何故内

容物がネズミ類に偏向しているのか。理由はわからない。

雨見林道

月別サンプル数の推移(雨見林道2010)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月10

月 11月

12

3 5 5 8 6 8 40 4 3 4 24 15

図15.糞に含まれる動・植物の出現数の月別推移(雨見2010)

雨見地域の特徴は7月期のサンプリング数の多さ(2010 年度全体の 32.0%)と内容物が植物に偏向

(7月期のサンプルの83.8%)している点である。7月期は動物食と植物食がほぼ同程度になる時期で

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あるが植物が多くなっている。サンプル数が多い理由は。7月21日~7月26日まで行った連続サンプ

リング調査の影響で、この調査で37サンプルが収集されている。また、植物種が多く採餌されてい

るのはヤマグワが実るシーズンに当たったためと考えられる。ヤマグワの出現率は 67.6%に達してい

る。この地域は、野犬の影響を受けていた地域であるが、2010年度はいったん落ち着いていた。にも

かかわらず、7 月、11 月、12 月を除くといずれの月も10 サンプル以下とかなり少ない状況が続いて

いる。

小出俣林道

月別サンプル数の推移(小出俣2010)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10

11

月 12月

7 4 0 8 3 19 0 1 1 0 2 10

図16.糞に含まれる動・植物の出現数の月別推移(小出俣2010)

採餌動植物種で目立つのは、植物類では1月期のツルウメモドキ(100%)、6月期のソメイヨシノと

ヤマザクラの2 種(89.5%)、12 月期のツルウメモドキ(90%)などある。一方、動物類では4 月期の

ノウサギ(50%)、ネズミ類(37.5%)。6月期の昆虫類(31.6%)などである。しかし年間を通じて全サ

ンプル数は55個と少ない地域である。3月、7月、10月はサンプリング数0になっている。

なぜこの地域のサンプル数がこれ程少ないのかは、採餌できる動植物の状況だけでは説明できない。

テンが生息を嫌う要因が存在するとか、別の空間、例えば沢沿いで糞をしている可能性などが考えら

れるものの推測の域を出ない。

いきもの村

月別サンプル数の推移(いきのも村2010)

1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月10

月 11月

12

- 1 1 4 3 0 5 3 3 0 1 0

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-133-

図17.糞に含まれる動・植物の出現数の月別推移(いきもの村2010)

サンプル数が少なく、周辺域を含めて数個体が生息するに過ぎない状況だと思われる。しかし、図

12を見ると2006年度23、2007年度100、2008年度12、2009年度54、010年度21となっており、【多

い・少ない】を繰り返している。2007年度の100サンプルと2008年度の12サンプルが一番極端であ

り、2008年度はほとんどいない状態であったと思う。植物類の豊凶などの影響も考えられるが、全調

査地域の中では最も人家域に近く、この影響によって不安定な状況を示しているものと思われる。

3-6.雨見林道と赤沢林道の連続サンプリング調査の結果

サンプル数を比較すると

【夏季】 雨見 32 赤沢 23

【秋季】 雨見 24 赤沢 91

夏季の雨見林道の採餌動・植物種の中心的な物は植物類でヤマグワ(68.8%)、動物類の昆虫類は

(25.0%)。同様に赤沢林道ではカスミザクラ(26.1%)、動物類では昆虫類(82.6%)となっており依存

傾向が動物食と植物食が逆転している。

秋季は雨見林道では植物のサルナシ(83.3%)が目立ち、動物類には集中が見られない。

赤沢林道ではサルナシ(92.3%)、動物類では鳥類(14.3%)がこの種群としては目立つ。

ここではいずれの地域もサルナシに集中的で、赤谷地域全体の傾向を示している。

一方、連続サンプリングにおいて採取された糞の内24時間以内の新しい糞のサンプリング状況に注

目してみる。

【夏季】

雨見林道7月23日の8個(ヤマグワ)は調査ラインの終点に近い峠にあるヤマグワの木の下で確認さ

れたもので、このヤマグワに誘引されて集まったと思われる状況で、これを除くと新しい糞は極めて

少なく数個体が生息するに過ぎないと考えられる。

赤沢林道は7月24日が0であるが、2~4個と安定しており、少なくとも2~3個体は生息していると

考えられる。

【秋季】

雨見林道では11月21日の0を除き1~3と少ないながらも安定しているが、夏季とほぼ変わらない生

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-134-

息数ではないかと考えられる。赤沢林道は、11 月 19 日サンプル数は0であったがその他の日では 3

~11個で平均5.5個。少なく見積もっても4個体以上は生息しているのではないかと考えられる。

※夏季、雨見林道ではヤマグワ、赤沢林道ではカスミザクラがキー植物種となり、秋季はサルナシに

集中的である。

生息個体数では雨見林道の定住型個体は1~2個体で不安定。赤沢林道では夏季2~秋季4個体程

度であり安定している。

雨見林道と赤沢林道とでは果実を付けるサクラ類などのフロラに違いがあることに加え、人為圧

(野犬などの影響も含む)が大きなインパクトになっているのではないかと考えられる。

雨見林道 動物 植物 サンプル数 新サンプル

7月21日 5 10 12 0

7月22日 2 1 3 0

7月23日 4 9 11 8

7月24日 1 3 3 1

7月25日 1 1 1 0

7月26日 0 2 2 1

11月19日 4 5 6 1

11月20日 2 5 5 3

11月21日 0 1 1 0

11月22日 1 3 3 3

11月23日 0 4 4 1

11月24日 1 3 4 3

11月25日 1 1 1 1

新サンプル:全日のサンプリング以後にしたと思われる糞

赤沢林道 動物 植物 サンプル数 新サンプル

7月21日 5 2 5 4

7月22日 7 1 7 3

7月23日 3 2 3 2

7月24日 1 0 1 0

7月25日 4 2 4 4

7月26日 2 2 3 3

11月19日 6 21 22 0

11月20日 7 22 22 4

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11月21日 8 19 19 11

11月22日 2 6 7 7

11月23日 2 9 9 4

11月24日 0 5 5 3

11月25日 2 7 7 4

新サンプル:全日のサンプリング以後にしたと思われる糞

3-7.テンの食性からみた森林施業への反映方法の検討

森林施業が具体的にテンの生息にどのように関係しているかについては、現在までの調査では定量

的に言及できる段階ではないが、赤谷地域に生息するテンが赤谷の自然環境に多大な影響を受けてい

ることは確かである。

以下に2005~2010年のテンの糞内容物の経年的な調査結果を概観しながら特徴を見ていく。

図18. 2005年~2010年のテン糞サンプル数の経年変化(n=3225)

ただし、2005年は予備調査的に行っており1~3月及び5月調査は行われていない。

6年間でサンプリングしたテンの糞サンプル数は3225サンプルであった。サンプル数の経年推移を

図18に示した。2008年サンプル数が低いのは雨による影響を多大に受けた結果であり、テンの生息

個体数が極端に減少したものではないと考えられている(2008 年報告書参照)。サンプル数は年平均

615.4サンプル(2005年度は除く)。調査地域や採餌動植物など内容的には変動が見られるが全体的な

サンプル数には大きな出入りはないと考えられる。以下、採餌内容の変動を見ていく。

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図19. 採餌動物類の経年変化(n=3225)

図20. 採餌植物類の経年変化(n=3225)

図21. テンの模式食物カレンダー(赤谷と北部九州の比較)

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赤谷地域のテンの食性の特徴は、

◆第一 採餌動・植物種のメニューのバラエティーが乏しいこと

◆第二 植物ではサルナシとツルウメモドキの2種に極端に偏っていること

◆第三 動物類では哺乳類。中でもネズミ類に極端に偏っていること

などが挙げられる。

これらのことがらからテンと赤谷の自然環境との関わりを見ていくと、赤谷ではテンの餌となる液

果類の種類が元々少ないが、大好物のサルナシだけは担保されている。図19~21から判るとおり

絶大な依存傾向を示している。ここでは、サルナシを含めテンが採餌する30種を越える植物種の種子

散布者として評価される。

一方、サルナシが餌となる時期は9月から12月の始めであり、その他の季節は主に動物類、中でも

ネズミ類に依存するしかない。推測ではあるが、赤谷の森を代表するブナやミズナラなどの堅果類は、

ネズミ類に食べられ、それで育ったネズミをテンが食べるという食物連鎖が成立している可能性があ

り、サルナシが無い季節はネズミを主な食物としているのではないかと考えられる。ネズミ類は種子

分散を行う一方で、ヤチネズミ類(ハタネズミを含む)は、草食性で緑葉、茎、地下茎などを食べ、

冬にカラマツなどの幼木の樹皮や根を食害する。したがって、結果的にテンはネズミ類の天敵として

機能し、森を守っていると考えられる。もちろん、冬季の木の芽を食害するノウサギの天敵としても

同様の効果を発揮している。ただし、ニホンジカなどの大型獣には効果はない。

また、中心的な食物であるサルナシやツルウメモドキは、蔓性植物で樹木に絡みつき、伐採作業で

は危険を伴い嫌われ者として扱われる。しかし、サルナシはスギ、ヒノキ、カラマツなどの植林木へ

の絡みつきは少なく、渓流沿いや林縁などの自然林での生育が中心である。したがって、こうしたエ

リアのサルナシの蔓切り作業を控えれば、サルナシの大部分が保全できると考えられる。

森林施業による自然林への移行作業に伴う、いわゆる森林のギャップの出現がテンの食性の質や量

にどのような影響を与えるかについては現在までのデータからは言及できる段階にない。今後は、こ

れまで調査を行った林道筋に加え、サルナシが最も多く提供されるであろう渓流筋のデータを加える

こと。各林道エリアの食性の違いから各林道筋の植生の詳細な把握とテンとの関係を解明して行くこ

とに努める必要がある。

参考

【サルナシ】

野生動物ではニホンザルやツキノワグマ、ヒグマなどが好んで大量に摂食して種子散布に貢献し、

クマ類がこればかりを大量に食べた後の糞の外見はキウィフルーツのジャムに酷似する。ヒトを含む

哺乳類の味覚の嗜好に適する点、鳥類による種子散布に頼る植物の果実の多くの色が赤色か黒色であ

る点、哺乳類に発達した嗅覚を刺激する芳香を持つ点から、主として哺乳類の果実摂食による種子散

布に頼る進化を遂げた植物であると考えられる。

また、ビタミンCなどの栄養価がたいへん高く、タンパク質分解酵素を大量に含み、疲労回復、強

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壮、整腸、補血などの効能があるといわれている。

・サルや熊はサルナシが大好き。サルがわれを忘れて食べることから「サルナシ」と名付けられたと

言われている。サルがサルナシを集めて洞穴にためて醗酵させたのが「さる酒」といわれている。つ

るは丈夫で、谷川のつり橋を架けるのに用いられた。つる性落葉樹で、茎は太く10cmぐらいにも

なり他の樹木に絡み付いて自生する。

【ツルウメモドキ】

ニシキギ科の落葉藤本(とうほん)(つる植物)。枝は褐色を帯びる。葉は互生し、楕円(だえん)

形で長さ5~10センチメートル。雌雄異株。5~6月、腋生(えきせい)の集散花序をつくり、5数性

の淡緑色花を開く。果実は球形で橙(だいだい)色、3 裂する。北海道から沖縄、および朝鮮半島、

中国、南千島に広く分布し、変異に富む。変種テリハツルウメモドキは葉は小さく光沢があり、山口

県、九州に分布する。別の変種イヌツルウメモドキ(オニツルウメモドキ)は葉裏の脈上に突起があ

り、北海道、本州、および朝鮮半島に分布する。果実をつけた枝をいけ花に用いる。鳥も良く食べる。

4.謝辞

この報告書作成にあたり、サンプリング調査に関しまして赤谷プロジェクトのサポーターのみなさ

ま。中でもテンモニ隊のみなさま。赤谷森林環境保全ふれあいセンターの職員のみなさま。赤谷プロ

ジェクト地域協議会のみなさま。日本自然保護協会の赤谷プロジェクト担当者のみなさま。その他多

くの方々に協力、アドバイスをいただきました。ここにお礼を申し上げますと共に深く感謝をいたし

ます。

毎年テンのデータが蓄積され、しだいに赤谷地域のテンの生息状況が明らかになろうとしています。

これもひとえに上記の方々の御協力があってのことに他ならず、感謝の念に堪えません。今後とも、

ご協力の程何卒よろしくお願い申し上げます。

5.参考文献

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出版会、東京、195pp.

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会講演要旨集

足立高行・荒井秋晴・桑原佳子.2007.夏緑林におけるテンの食性の地域差—北部九州と関東周辺—.

日本動物学会・日本植物学会・日本生態学会九州支部(地区)合同大会講演要旨集.

荒井秋晴・足立高行・桑原佳子・吉田希代子(2003)久住高原におけるMartes melampusの食性.

哺乳類科学 第43巻 第1号 pp.19-28.

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鈴木茂忠・宮尾巌雄・西沢寿晃・志田義治・高田靖司.1976.木曾駒ヶ岳の哺乳類に関する研究第Ⅱ

報 木曾駒ヶ岳東斜面低山帯上部におけるホンドテンの秋季ならびに冬季の食性—特に糞の内

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-139-

容の分析を中心として—.信州大学農学部紀要、13:21-42.

鈴木茂忠・宮尾巌雄・西沢寿晃・高田靖司.1977.木曾駒ヶ岳の哺乳類に関する研究第Ⅲ報 木曾駒

ヶ岳東斜面低山帯上部および亜高山帯におけるホンドテンの食性.信州大学農学部紀要、14:

147-177.

Tatara、 M. 1994a.Notes on the breeding ecology and behavior of Japanese martens on Tsushima

Islands、 Japan. J. Mamm. Soc.Japan、 19: 67-74.

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A. S. Harestad、 M. G. Raphael and R. Powell、 eds.) Martens、 sables、 and fishers:

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Tatara、 M. and T. Doi.1991.The present ecological status of the Tsushima marten. In (N.

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Wildlife Conservation. pp. 144-147、 Japan Wildlife Research Center、 Tokyo.

Tatara、 M. and T. Doi. 1994. Comparative analyses on food habits of Japanese marten、 Siberian

weasel and leopard cat in the Tsushima islands、 Japan. Ecol. Res.、 9: 99-107.

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馬天然記念物緊急調査報告書)pp.105-126、長崎県、長崎.

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-140-

b.カメラトラップデータを用いたホンドテンの生息地選択と餌植物分布との関係

1.はじめに

赤谷プロジェクトにおいて、ホンドテンの食性は、自然環境の変動をモニタリングするための指標

として扱われている。テンの食性を指標として利用する際に、テンの資源選択の要因、例えば、餌資

源の多い場所を選択して行動圏としているのか、それとも身を隠す環境や他個体との関係性によって

決定した行動圏の中で餌を確保しているかを明らかにすれば、テンの食性の指し示すことがより深く

理解できる。しかし、生息地選択と餌資源の分布の関係に関する研究は行われていない。そこで、本

研究では、ホンドテンの生息地選択と、その重要な要素となりうる餌資源の分布を比較し、その関係

性を明らかにすることを目的とする。

2.方法

2−1.カメラトラップによるテンの生息調査

プロジェクトで行われているカメラトラップを

用いた全域調査(51地点)の中から、テンを撮影

したデータを抽出して利用した。塚田ら(2006)

にならい、30分以内に同じ地点で同一種が撮影さ

れた場合は同一個体のダブルカウントであるとし、

解析には2回目以降の写真は除去したデータを用

いた。

2−2.生息地選択

自動撮影の結果をもとに、ホンドテンの生息地

選択のモデル解析をおこなった。解析は、調査地

点のポイントデータ、100m バッファ、500m バ

ッファ、1000mバッファの4段階のスケールを

用いておこなった。

調査地点のポイントデータでの生息地選択

についての解析には一般化線形モデル(GLM)を用い、目的変数をテンの撮影数(モデルa)およびテン

の撮影の有無(モデル b)とした。モデル a では、誤差分布はポアソン分布として対数結合を用い、

尤度推定をしない項として調査日数をモデルに入れることで1CN あたりの撮影回数に対する各変数の

効果を調べた。モデルb では誤差分布は二項分布とし、対数結合を用いた。説明変数はどちらのモデ

ルも、その地点の植生(プラスなら広葉樹林、マイナスなら針葉樹を選択)、標高、林冠閉鎖率、樹高

の四つとした。

100m、500m、1000m バッファでの解析では、各バッファ内の土地利用割合(広葉樹林、針葉樹林、

集落・農地、開放域)を説明変数として一般化加法モデル(GAM)による解析をおこなった。

図1.図中の星印はカメラ設置箇所、うち黒い星はホンドテン

が撮影された地点、白抜きはホンドテンの撮影のなかった

地点。太線は餌植物の調査ルート

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全てのモデルにおいてAIC (Akaike 1973)によって選択を行い、AICが 小のモデルを 適モデルと

した。モデルa,bにおいては説明変数の重要度をrelative Importance Of Variable(IOV)(Burnham

and Anderson 2002)で比較した。IOV は、その説明変数が採用された全てのモデルのAkaike weight

を合計した値で、0から1までの値をとり、値が大きいほど重要性が高いことを示す。

2−3.餌植物調査

ホンドテンモニタリングで出現数が上位に入っている果実のうち、出現数が突出して多いサルナシ、

サルナシと同じくツル植物であるツルウメモドキとヤマブドウを対象種とした。調査ルートは図1に

示した通りで、標高 650mから 1700m にわたって調査を行った。自動撮影カメラを設置した地点付近

の林道、登山道沿いを踏査し、道の両側10m 以内にある対象種の種名、位置を記録した。各餌植物の

生育が特定の植生タイプ(広葉樹林、針葉樹林)に偏っているかどうかを把握するために、Jacobs(1974)

によるIvlevの選択指数を用いた。この指数は-1から1までの値をとり、-1に近いほど忌避、1に近

いほど選好したことを表す。

3.結果

3−1.カメラトラップによるテンの生息調査

調査日数の総計は5424カメラナイト(CN)だった。地点ごとでは29CNから163CN(106±30.7)と

大きなばらつきがあったため、十分な日数調査できた33地点のみを解析の対象とした。ホンドテン

は33地点中21地点で撮影された。

3−2.生息地選択

モデルaでは、樹高、植生が 適モデルで選択された(表1)。両変数で係数が正だったため、ホン

ドテンの撮影は、樹高が高く、植生は針葉樹林よりも広葉樹林であるほど多いという結果だった。

モデルbでは、 適モデルで選択されたのは植生のみで、NullモデルとのAICの差は2.313だった

(表1)。植生の係数は正だったため、広葉樹林でより多く撮影されたという結果だった。

次にバッファ解析の結果を述べる。半径 100mスケールでの解析では、 適モデルでは針葉樹林と

農地・集落の割合が選択され(表2)、ホンドテンの撮影数は針葉樹林割合が多いほど減り、農地・集

落の割合が20%までは増加するが、それ以上では減少するという結果となった(図2)。半径500mス

ケールでの解析における 適モデルでは、針葉樹林と開放域が選択され(表2)、ホンドテンの撮影数

は針葉樹林割合が増えるほど減少し、開放域割合が 5%までは増加、それ以上では減少した(図2)。

半径 1000mスケールでの解析における 適モデルでは、農地・集落が選択され(表2)、農地・集落

の割合が増えるとホンドテンの撮影数は減少するという結果となった。(図2)。

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表1.地点データを用いたテンの生息地選択(a)はホンドテンの撮影数、(b)はホンドテンの撮影の有

無を目的変数とした一般化線形モデル

(a)ホンドテンの撮影数

標高 樹高 林冠閉鎖率 植生 AIC ⊿AIC Wi0.06427 + 132.50 0.000 0.253

+ 133.80 0.879 0.1630.06583 134.70 1.794 0.1030.06392 0.003362 + 134.40 2.495 0.073

2.27E-06 0.06431 + 134.50 2.601 0.069136.00 2.756 0.064 ←Null モデル

0.235 0.592 0.235 0.704 ←IOV

(b)ホンドテン撮影の有無+ 42.68 0.000 0.328

-0.05578 + 44.42 2.167 0.1110.000826 + 44.55 2.300 0.104

45.26 2.313 0.103 ←Null モデル0.245 0.247 0.232 0.745 ←IOV

表2. 100m (a)、500m (b)、1000m(c)バッファを目的変数とした一般化加法モデル

(d) 100m buffer広葉樹林 針葉樹林 集落・農地 開放域 AIC ⊿AIC Wi

+ + 46.93 0 0.114+ 47.11 0.1858 0.104

+ 47.22 0.296 0.098+ + 47.25 0.3278 0.097+ + + + 47.54 0.6161 0.084+ + + 47.54 0.6161 0.084

+ + + 47.57 0.6406 0.083+ + 48.43 1.5 0.054

+ + + 48.6 1.671 0.049+ + 48.62 1.696 0.049

+ 48.96 2.03 0.041+ + 49 2.072 0.04

49.35 2.425 0.034 ←Null モデル(e) 500m buffer

+ + 45.41 0 0.161+ + + 45.77 0.3572 0.135+ + 46.13 0.7247 0.112

+ + + 46.92 1.51 0.076+ + + + 46.92 1.51 0.076+ + + 46.92 1.51 0.076+ + + 46.97 1.562 0.074+ 47.32 1.91 0.062

+ 47.44 2.03 0.059+ + 47.77 2.358 0.05

+ + 48.36 2.952 0.037+ + 49.3 3.895 0.023

49.35 3.943 0.022 ←Null モデル(f) 1000m buffer

+ 49.1 0 0.125+ 49.24 0.1333 0.117

49.35 0.2473 0.11 ←Null モデル

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-143-

図2.100m、500m、1000mバッファの土地利用割合がテンの撮影頻度に与える影響(一般化加法

モデルを用いた単変量解析結果)

3-3.餌植物調査

餌植物の調査は2010年の8月~10月

にかけて、総距離約38kmにわたって実

施し、サルナシ 515 個体、ツルウメモ

ドキ276 個体、ヤマブドウ257 個体を

記録した。調査は標高約 650mから

1700mにわたって行った。各餌植物の生

育地点の植生タイプと標高分布につい

て、踏査距離あたりの発見個体数を図

に表した(図3、4)。サルナシとツル

ウメモドキはやや針葉樹林に多く、ヤマブドウは広葉樹林に多い(図3)という結果となったがJacobs

(1974)による Ivlev の選択指数を算出したところ、広葉樹林、針葉樹林ともに全ての餌植物の指数

が-0.26 と 0.31 の間の値を取ったため、特に選択性はないことが分かった(図5)。標高分布に関す

る特徴としては、標高800m以下では餌植物が少なく、1300m以上ではどの餌植物種も確認されなかっ

た(図4)。

広葉樹林 針葉樹林 農地・集落 開放域

100m

バッ

ファ

500m

バッ

ファ

1000

mバ

ッフ

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

広葉樹林 針葉樹林

1km

あた

りの

餌植

物個

体数

サルナシ

ツルウメモドキ

ヤマブドウ

図3.各植生における踏査距離1kmあたりの餌植物の発見数

Page 52: 3cm 10m 1 3cm 10m 5m 1 9...10m×10m の方形区を“241 た”24 個、“241 る1”9 個、総計33 個設置する(図8)。 【高木性樹種】 10m×10m の方形区あたり

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0

5

10

15

20

25

30

600   800   1000 1200 1400 1600 標高(m)

1km

あた

りの

餌植

物個

体数

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

踏査

距離

(km

)

サルナシツルウメモドキヤマブドウ踏査距離

-0.11

0.16

-0.26

0.310.17

-0.11

-1.00

-0.50

0.00

0.50

1.00広葉樹林 針葉樹林

サルナシ

ツルウメモドキ

ヤマブドウ

4.考察

4-1.生息地選択

解析の結果、ホンドテンは針葉樹林と比較して広葉樹林を選択することが判明した。広葉樹林の選

好は、対馬、富士北麓、栃木県矢板での先行研究(Tatara 1994;倉島1998;中村2001a)の結果を支

持しており、本研究はテンの広葉樹林に対する選好性が一般的な性質であることの裏付けとなった。

モデルaでは樹高も選択されている。先行研究で、テンが若齢林を忌避し、成熟した森林を好む(Tatara

1994;中村 2001b)ことが知られているため、本調査地でも若くて樹高の低い森林を避けていた可能

性が考えられる。しかし、この変数はIOV も比較的小さく、モデルによって係数の符号が異なること

から、あまり重要ではないと考えられる。

バッファ解析の解析の結果、100mバッファでの農地・集落、500mバッファでの開放域は、ある割合

(20%、5%)まではホンドテンの撮影数が増加し、それ以上の割合では減少するという傾向だった。

これは、ホンドテンが一様な森林よりも様々な環境がモザイク状になった生息地を好む可能性を示唆

している。半径1000mでの解析は、農地・集落を忌避する傾向だったが、モデルの改善度が小さいた

め、選択性は強くないと考えられる。本調査地では、ホンドテンが全域に分布しているために、小さ

なスケールでの生息地選択がより強く現れた可能性がある。

4-2.餌植物の分布

調査対象とした全てのツル植物が、標高1300m 以上では全く確認されなかった。長野県中部での先

行研究では、サルナシは標高770~1400m(荒瀬・内田 2009)、ヤマブドウは標高1100~1600m(荒瀬

ら 2008)に分布することが報告されているが、本調査地が多雪であるため生育できる標高が異なる可

能性がある。

生育地点に、植生タイプの偏りが見られなかったのは、調査箇所が林道沿いであったために広葉樹

林、針葉樹林に関係なくツル植物の生育しやすいギャップが形成されており、林道自体が選好された

ことが理由だと考えられる。森林内で餌植物の調査を行うと本研究とは異なる結果が得られる可能性

があり、今後の課題といえる。

図5.各餌植物の生育地の植生に対するIvlevの選択指数 図4.各標高における踏査距離1kmあたりの餌植物の発見数

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4-3.ホンドテンの生息地選択と餌植物の分布の関係

ホンドテンは生息地として広葉樹林を選択し、針葉樹林を忌避した。一方、餌植物であるサルナシ、

ツルウメモドキ、ヤマブドウは標高1300m 以下に分布すること以外に顕著な生育地選択の傾向は見ら

れなかった。秋の主要な餌資源であるツル植物が分布しない1300m 以上の地点をホンドテンが忌避し

なかった理由は、1300m以上の地域にはツル植物の代替となる餌資源が存在するためだと考えられる。

現在行われているホンドテンモニタリングでは、調査ルートが比較的低標高に限られていたため高標

高の餌食物を反映していない。今後、高標高域でのホンドテンの食性調査が求められる。

また、ホンドテンが選択した広葉樹林に餌となるツル植物が特に多くなかったことから、ホンドテ

ンの生息地選択には餌資源以外の要因、例えば身を隠す場所や他個体との関係がかかわっている可能

性がある。餌資源以外の要因で生息地を選択しているとすれば、ホンドテンの食性は森林環境の変動

をより反映する、つまり指標として有用であるといえる。ただし、本研究では情報の不足も否めない。

今後、標高の高い地域でのホンドテンの食性調査や、ツル植物以外の餌資源の分布調査を補うことで、

ホンドテンの食性の指標としての利用が実現性を持つと考えられる。

5.引用文献

Akaike, H. (1973) Information theory and an extension of the maximum likelihood principle.

2nd International Symposium on Information Theory, B. N. Petrov and F. Caski, eds.,

Akademiai Kiado, Budapest, pp. 267-281.

荒瀬輝夫・加納譲治・熊谷真由子・内田泰三. (2008) 標高によるヤマブドウ(Vitis coignetiae

Pulliat)の果房の形態的変異. 信州大学農学部AFC報告 6: 61-67.

荒瀬輝夫・内田泰三. (2009) 長野県中南部に自生するサルナシ(Actinidia arguta(Sieb.et Zucc.)

Planch.ex Miq.)の果実形態と収量の系統間差異. 信州大学農学部AFC報告, 7: 11-19

Burnham, K. P. and Anderson, D. R. (2002) Model selection and inference: a practi1cal

information-theoretic approach. Springer Verlag, New York.

Jacobs, J. (1974) Quantitative Measurement of Food Selection - A Modification of the Forage

Ratio and Ivlev’s Electivity Index -, Oecologia, 14:413-417.

倉島治. (1998) ラジオテレメトリー法によるホンドテンの土地利用分析. 東京大学修士論文, 29pp.

中村俊彦. (2001a) 東京都日の出町, あきる野市におけるニホンテンの食性の季節的変化. 野生

動物保護: Wildlife conservation Japan, 6(1), 15-24.

中村俊彦. (2001b) 富士北麓におけるニホンテンの食性および行動圏. 東京農工大学修士論文, 東

京19pp.

Tatara, M. (1994) Social System and Habitat Ecology of the Japanise Marten Martes melampus

tuensis (Canivora; Mustelidae) on the Islands of Tsushima. Ph.D. thesis, Kyushu

University, Fukuoka, 79pp.

塚田英晴・深澤充・小迫孝実・須藤まどか・井村毅・平川浩文. (2006) 放牧地の哺乳類相調査へ

の自動撮影装置の応用. 哺乳類科学, 46: 5-19.

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c. ニホンザル・モニタリング調査

c-1. ラジオトラッキング法によるニホンザル・ナガイ群の遊動域の把握

1.目的

赤谷プロジェクト・エリア内の個体群の長期的な動態、行動圏の変化を明らかにするこ

とを目的として、09 年度に引き続き、エリア 3・4 に遊動域が広がるニホンザル・ナガ

イ群の生息状況の調査を行った。

2.方法 ラジオトラッキング法によりナガイ群の位置を同定し、目視によって群れの生息状況

を調査した。調査方法は 2006 年度調査報告書と同様の方法である。2010 年度はニホン

ザルナガイ群について、4/4・4/10・7/10・7/19・8/15・11/7・12/11・12/26 の 8 日間調査

を行った。 3.結果および考察

2010 年 6 月 17 日に利根郡みなかみ町吹路のレジャーランド跡地で捕獲されたメス成獣

(推定年齢 8 歳、体重 10kg、左眼球損傷)に、新たに電波発信器を装着した。新たな発

信器を装着した時点ですでに以前に装着した発信器からは信号が受信できなくなっていた

ため、このメスの所属がナガイ群であるか、は不明であった。しかしその後の追跡調査で

は、既知のナガイ群遊動域内に重複する遊動を見せているので、ナガイ 2 群とした。 ナガイ 2 群は、7/10 に袖沢の両斜面でヘビイチゴ等を採食しているのが観察された。ま

た 8/15 には、合瀬から猿沢まで移動していた事が電波追跡で位置同定できた。 一方で、12/26 に永井吹路集落間の耕作地に 38 頭以上のニホンザル群を発見したが、こ

の群からは電波信号が発信されていなかった。また、以前の調査でナガイ群の中で個体識

別した左前肢前腕部が欠損した個体が含まれていた事から、この群はナガイ 1 群とした。 ナガイ 2 群は、赤谷川を渡渉している(若澤、私信)ので、今まで不明であった分裂後

のナガイ群の遊動実態の一部が判明した、と思われた。

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図.1 2010 年ニホンザルナガイ群の位置情報

c-2. 糞便数計測によるニホンザルの道路横断状況推定の試み 1.目的

2010 年に分収育林「223 は 1」が皆伐された。分収育林「223 は 1」は国道 17 号線に

接しており、ニホンザルナガイ群はこの付近で国道 17 号線を横断し、耕作地へ侵入して

いた(安田、2007)。 今回、皆伐により出来た、明るく開けた伐開地がニホンザルの遊動に及ぼす影響を明ら

かにするために、路肩に落とされたニホンザルの糞便数を計測することで、ニホンザルの

道路横断状況を推定し、横断した位置の道路と隣接する環境との関係について考察を試み

た。 2.方法 伐開地「223 は 1」を中心に国道 17 号線をその隣接環境によって区画分けした。区画は 区画 1(カーブ 4/55 県道法師線交差点からカーブ 6/55「223 は 1」まで)、区画 2(カーブ

6/55「223 は 1」からカーブ 8/55 まで)、区画 3(カーブ 8/55 から送電線下伐開地まで)、

区画 4(送電線下伐開地)、区画 5(送電線下伐開地からカーブ 10/55 まで)、区画 6(カー

ブ 10/55 からカーブ 11/55 まで)、区画 7(カーブ 11/55 からカーブ 12/55 まで)、区画 8(カーブ 12/55 からカーブ 14/55 永井橋まで)、区画 9(カーブ 15/55 永井橋からカーブ

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18/55 永井入口まで)、区画 10(カーブ 18/55 永井入口からカーブ 20/55 まで)、とした。 各区画において道路沿いに相向かう環境は、(伐開地側―その向かい側)で記述すると、

区画 1(耕作地―二次林)、区画 2(伐開地―耕作地)、区画 3(伐開地を背後に控えたスギ

植林―耕作地)、区画 4(送電線下の小規模伐開地―耕作地)、区画 5(スギ植林地―耕作

地)、区画 6(パーキングエリア―耕作地)、区画 7(パーキングエリア―二次林)、区画 8(コンクリート法面・二次林―二次林)、区画 9(スギ植林地―二次林)、区画 10(スギ植

林地―集落を背後に控えたスギ植林地)である。 毎月 1 回区画 1 から区画 10 までの路肩(伐開地と反対側のみ)に落ちているニホンザ

ルの糞便を回収しその数を計測した。次いで翌週に再度同様の作業を行い 1 週間にニホン

ザルが道路を横断する状況を推定した。推定に際しては、糞便の個数と1頭のニホンザル

が道路を横断する回数は比例すると仮定した。 3.結果および考察 2010 年 12 月 26 日に全区画のニホンザル糞便を回収した。12 月 31 日に再び全区画のニ

ホンザル糞便数を計測した。 その結果、区画 3 に 2 個、区画 4 に 1 個、区画 5 に 1 個のニホンザル糞便が確認できた。 調査期間中にニホンザルが調査区画 2~6 に隣接する耕作地を利用する際に、区画 3 で 2回、区画 4 で 1 回、区画 5 で 1 回国道 17 号線を横断した、と推定した。 考察) 今回の調査では、国道 17 号線を横断して耕作地に出入りする際に、その反対側はスギ

植林地である場合が 3 回、小規模伐開地である場合が 1 回であった。大規模伐開地(「223は 1」)およびパーキングエリア(人工環境)では、横断しなかった、と推定した。

図.1 国道17号線沿いに設定したニホンザル糞便数計測区画(区画1から区画 10 を赤色

と緑色に色分けし①から⑩の番号で表示した)。

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d. ニホンツキノワグマ・モニタリング調査

1.目的

ニホンツキノワグマUrsus thibetanus japonicus(以下、ツキノワグマと呼ぶ)は、生息密度や繁

殖率が低いことから、生息環境の減少や捕獲などの影響を受けやすく、絶滅の危機に瀕している個体

群がある一方で、人間への危害や農林業被害のため、補殺を含めた個体数調整が行われている(環境庁

自然保護局野生生物課, 1991)。しかし、このような個体除去は対処療法であり、ツキノワグマを含め

た地域生態系を保全するための保護管理は行われていない。野生動物の適正な保護・管理を行うには、

地域個体群の生息分布・行動圏・食性・個体群動態などの基礎的なデータの蓄積が必要である。

ツキノワグマは森林生態系における食物連鎖の最高位に位置する種のひとつであり、本種が生活で

きる生態系の中ではピラミッドの傘下の多くの生物種が生存しているため、生態系の保全、生物多様

性の指標となる(アンブレラ種)。プロジェクト・エリアにおけるツキノワグマの個体群動態を把握

することができれば、赤谷プロジェクトで進める生物多様性復元事業の効果を客観的に評価する素材

の一つとなる。

本年度は、上記に挙げた課題に取り組むための基礎調査として、ツキノワグマの地域個体群の生息

分布把握に資する情報を収集した。

2.方法

ツキノワグマを直接観察するため、2010年4月24日、25日の2日間の踏査を行った。踏査したのは、

雨見林道、赤谷林道、小出俣林道である。上記の調査に加え、2010年度の目撃情報の整理、2008年か

ら設置したカメラトラップによる撮影データも加え、プロジェクト・エリア内のニホンツキノワグマ

の生息確認地点を整理した。また、補足調査として、秋に一部地域でクマ棚の分布調査も実施した。

なお、本調査は、赤谷サポーターの全面的な協力の下で行われた。

3.結果

2010年4月24日、25日の現地調査では天気が悪かったこともあり、ツキノワグマを直接観察するこ

とはできなかった。目撃情報を整理すると、赤谷エリアにおいては秋に集中しており、人里で3 回、

山中で1回確認された(図1)。また、クマ棚は全体的に例年に比べると多い傾向があったが、クマ棚

の分布調査を行った地域では、必ずしもそのような傾向は認められなかった。クマ棚に利用された木

は、クリ、コナラであった。2008年~2010年の3年間のカメラトラップ調査から、出現地点数、出現

頻度ともに10月よりも8月に増加する傾向が3年間共通して認められた。

2008 年 10/29~12/5 に設置したカメラトラップ調査から、小出俣および合瀬エリアにおいて確認さ

れた。