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3GPP LTE: SC-FDMA の 概要

3GPP LTE: SC-FDMAの 概要literature.cdn.keysight.com/litweb/pdf/5989-7898JAJP.pdfCPは、無線チャネルで予想される最大の遅延拡散よりも 少し長く設定されています。セルラLTEシステムでは標

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3GPP LTE:SC-FDMAの 概要

CIEEE の新しい 802.16e 規格(Mobile WiMAXTM とも呼ばれ る )に 続 い て、3GPP か ら も LTE(Long-Term Evolution)プロジェクトとしての回答が出されました。WiMAXTM については、『Agilent Measurement Journal』の第 3 号で取り上げています。この記事では、LTE が移動体通信のエコシステムに何をもたらそうとしているのかを取り上げます。最初に、LTE の各側面を概観した後、SC-FDMA(Single-Carrier Frequency-Division Multiple Access)と呼ばれる新しい変調方式を採用したアップリンクについて詳しく説明します。通信業界が新しい変調方式を導入するのは珍しいので、現在は興味深い時期と言えます。

SC-FDMA が LTE にもたらす機能や利点について、技術的観点からも、実用的観点からも、理解し、検討し、評価すべき点が多くあります。SC-FDMA は、GSM などのPAR(ピークツーアベレージ比)の低い従来のシングル・キャリア方式と、マルチパス耐性がありチャネル内周波数スケジューリングの柔軟性を持った OFDM(直交周波数分割多重化)とを組み合わせたハイブリッドの変調方式です。

LTEの歴史と背景

LTE のスタディ・フェーズは 2004 年に開始されました。そ の 目 標 は、3GPP の UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)を次の 10 年にわたって移動体通信の最前線に置くことでした。プロジェクトの主要な目標として、ピーク・データ・スループット、スペクトラム効率、チャネル帯域幅の柔軟性、遅延、デバイスの複雑さ、全体のシステム・コストなどが設定されました。最大の決定事項は、これらの目標を追求するのに既存の(HSPA* を内蔵した)W-CDMA エア・インタフェースを発展させるのか、それとも OFDM をベースにした新しいエア・インタフェースを採用するのかという点でした。スタディ・フェーズの結果として 3GPP が結論付けたのは、HSPA を発展させたのでは目標のすべてが達成されないということです。その結果、LTE evolved RAN(無線アクセス・ネットワーク)は完全に新しいOFDM インタフェースに基づいたものになりました。

ただし、これは 3GPP が GSM や W-CDMA に興味を失ったということではありません。むしろ、これらの方式への投資(と、それらが持つ未開発の可能性)は、LTE が3GPP Release 8 で開発されている唯一の方式ではないことを意味します。例えば、EDGE Evolution プロジェクトは新たなレベルの GSM を追求し、HSPA+ プロジェクトは W-CDMA、HSDPA、HSUPA 方式の開発を継続しています。これらの方式の相互関係については、『Agilent Measurement Journal』第 3 号の“What Next for Mobile Telephony?”を参照してください。

OFDM を使用することにより、LTE は 3GPP2 の UMB(Ultra-Mobile Broadband)や IEEE 802.16 の WiMAX の決定と歩調を合わせています。OFDM 方式の概要については、『Agilent Measurement Journal』第2号の“Understanding the Use of OFDM in IEEE 802.16(WiMAX)”を参照してください。この記事では WiMAX に関する OFDM の基本を説明していますが、一般的な原理は LTE や UMB にも同様に適用されます。

公式の 3GPP 仕様では、LTE evolved RAN は移動機の部分 を 規 定 し た E-UTRA(Evolved UMTS Terrestrial Radio Access)と基地局の部分を規定した E-UTRAN

(Evolved UMTS Terrestrial Radio Access Network)とに分かれています。この記事では便宜上、この新しいエア・インタフェースをそのプロジェクト名である「LTE」と呼ぶことにします。1999 年以来 W-CDMA の同義語として使われているプロジェクト名 UMTS と同様に、LTEも一般的な呼称となりつつあります。3GPP は LTE の他にも、LTE と EPC(Evolved Packet Core)の境目を定義する SAE(System Architecture Evolution)という補完的なプロジェクトの開発を行っています。EPC とは、LTEにより可能になる高スループット、低コスト、低レイテンシを提供する、よりフラットなパケットのみのコア・ネットワークのことです。EPC は、3GPP と非 3GPP 方式間のシームレスな相互接続も提供します。

* HSPA(ハイスピード・パケット・アクセス)はHSDPA(ハイスピード・ダウンリンク・パケット・アクセス)とHSUPA(ハイスピード・アップリンク・パケット・アクセス)を総称したもので、後者は以前に E-DCH(Enhanced Dedicated Channel)と呼ばれていました。

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LTE:目標とスケジュール

8 ページの囲み記事「LTE のまとめ」は、LTE プロジェクトの主要な目標とシステム特性を示したものです。また、図 1 では LTE プロジェクトのスケジュールを示しています。UMTS に比べると、スムーズな仕様化プロセスのために、スケジュールが短くなっています。UMTS Release 99 では、仕様がフリーズされた後、最終的に 4年間で 8000 以上の変更要請が加えられましたが、LTEの開発ではそのような事態は避けられることになるでしょう。この UMTS 規格の不安定さとそれによる遅れのために、日本では国際規格が実現する前に独自規格が商業展開されてしまいました。LTE では UMTS のような意外性や遅れは回避されることが期待されていて、LTEの導入は予測が可能で独自展開を避けられるものになるでしょう。図 1 の予定は積極的であり遅れるかもしれませんが、進展は着実であり、UMTS が証明したように、プロセスを急がせることは逆効果を招きやすくなります。

OFDM:次世代無線の選択

LTE はベースの変調方式として OFDM を選択したことにより UMB と WiMAX の仲間入りをし、今ではこれらのセルラ・システムに大して差がないと言えるかもしれません。新しい 5 つの主要セルラ・システムの内、OFDM を使っていないのは HSPA+ と EDGE Evolutionだけです。その違いは明らかに、各々のインストール・ベースと下位互換性の必要性という、実際的な理由に起因しています。

OFDM の登場は 1960 年代半ばにさかのぼり、今ではDVB(デジタル・ビデオ放送)、DAB(デジタル・オーディオ放送)、ADSL(非同期デジタル加入者ライン)、いくつかの 802.11 ファミリの Wi-Fi 規格など、多くの非セルラ無線システムで採用されています。これに対して、セルラ規格では OFDM の採用は長く見送られてきました。1980 年代後半に GSM の初期段階で少し検討され、再び10 年後には UMTS の候補となりましたが、どちらの場合も採用されませんでした。第1の問題は、OFDM のコア部分での、高速フーリエ変換(FFT)の処理能力でした。80 ~ 90 年代では適切なプロセッサの価格が高く、移動機に対しては消費電力が大きすぎました。その後、ムーアの法則により、まず WiMAX に採用され、次に UMB、今回は LTE に採用されました。

OFDMの利点

OFDM の第1の利点は、無線チャネルでのマルチパス遅延拡散による障害(フェージング)に強いことです。マルチパスからの保護がないと受信信号内のシンボルが時間軸上で重なることがあり、シンボル間干渉(ISI)が発生します。マルチパス環境用にデザインされた OFDM システムでは、データ・シンボル間に CP(Cyclic Prefix)と呼ばれるガード区間を挿入することにより、ISI を防ぐことができます。CPはシンボルの終りの部分のコピーを、シンボルの始めに挿入したものです。受信した信号を最適な時間でサンプリングすることにより、最大で CP の長さまで、遅延拡散に起因するISIを防ぐことができます。

2005 2006 2007 2008 2009 2010

コア仕様のドラフト

最初のテスト仕様

最初のUE認証?

最初の商用サービス

リリース7スタディ・フェーズ

リリース8ワーク・フェーズ

テスト仕様

図1. LTEの開発スケジュール

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CP は、無線チャネルで予想される最大の遅延拡散よりも少し長く設定されています。セルラ LTE システムでは標準の CP 長は 4.69 μ s であり、これで約 1.4 km までのパス遅延に対応できます。この数字は反射に起因するパス長の差を表すもので、セルのサイズではないことに注意してください *。各シンボル間に CP を挿入すると、シンボル長に対する CP の割合だけシステムのデータ処理容量が減少します。LTE のシンボル長は 66.7 μs なので、標準の CP を使用すると 7 % という小さいが侮れない大きさの容量ロスが発生します。

OFDM システムの理想シンボル長はサブキャリア間隔の逆数により定義され、予想される遅延拡散よりも長い値が選択されます。LTE のサブキャリア間隔として 15 kHzが選択され、シンボル長は 66.7 μ s になります。シングルキャリア・システムでは、シンボル長は占有帯域幅と密接に関係しています。例えば、GSM ではチャネル間隔が 200 kHz、シンボル・レートが 270.833 ksps なのでシンボル長は3.69 μsとなり、これはLTEの18分の1です。また、W-CDMA ではチャネル間隔が 5 MHz、シンボル・レートが 3.84 Msps なのでシンボル長は 0.26 μs となり、これは LTE の 256 分の 1 という短さです。これらの短いシンボル長に 4.69 μ s の CP を挿入することは現実的には不可能で、容量は GSM では半分以下に、W-CDMA では 20 分の 1 になります。遅延拡散に比べて短いシンボル長を採用するシステムでは、元の信号を回復するのにレシーバ側のチャネル・イコライザに依存せざるを得なくなります。

チャネル帯域幅とシンボル長の関係から、チャネル帯域幅が広くなってもシングルキャリア・システムは OFDMと比べて欠点を持つようになります。例えば、1 μs の遅延拡散を持つ無線チャネルを考えてみましょう。5 MHz のシングルキャリア信号は約 5 シンボルの ISI にさらされ、20 MHz のシングルキャリア信号は約 20 シンボルの ISI にさらされることになります。ISI の大きさによりイコライザの処理量が決まりますが、実質的な上限はだいたい 5 MHz であり、それ以上ではイコライザのコストが上昇し性能が低下します。

LTE の 15 kHz のサブキャリアは 15 ksps を伝送できるので、20 MHz のシステム帯域幅での LTE の生データ・レートは 18 Msps になります(1200 個のサブキャリア、18 MHz)。LTE の変調方式で最も複雑な 64QAM を使用すると、1 シンボルで 6 ビットを表わせ、生の容量は108 Mbps となります。ただし、囲み記事で示している実際のピーク・レートは、符号化や制御のためのオーバヘッドを差し引き、空間多重化などの機能による利得を加えたものになっています。

シングルキャリアと比較した場合の OFDM の主な利点は、トランスミッタや無線チャネルの障害に起因する、受信信号の周波数/位相歪みに対応しやすい点です。送信/受信信号は、サブキャリアの位相と振幅により周波数ドメインで表されています。送信信号を、定義された

振幅/位相を持つ多くの基準信号(RS:他のシステムではパイロットと呼ばれる)を使用して周波数ドメイン上に分布させることにより、レシーバは周波数依存の信号歪みを容易に補正して復調することができます。特に高次の変調方式(16QAM、64QAM など)では、小さな位相/振幅エラーでもシンボル復調エラーを起こしやすいため、このような補正が必要になります。

位相/周波数を容易に操作できるため、空間多重化やビームフォーミングなどの、MIMO(Multiple-Input/Multiple-Output)アンテナで必要な処理にも適しています。必要な信号の位相/振幅の操作は、信号をタイム・ドメインで表現するシングルキャリア・システムに比べて、OFDM システムではずっと容易に行うことができます。

OFDM システムの利点をまとめると、OFDM はマルチパス耐性を持つ低レートのサブキャリアを多数送信することにより、真にスケーラブルなシステム帯域幅(すなわち、データ・レート)を実現できます。さらに、信号を周波数ドメインで表現するのでレシーバでの信号エラーの補正が簡単で、MIMO の実装の複雑さも低減できます。これに対して、シングルキャリア・システムは帯域幅のスケーリングが容易でなく、パス遅延差が大きい場合には 5 MHz を超えると実用的でなくなります。

* 大きなセルやマルチセル・ブロードキャストでは、より大きなCP長も使用できます。これにより最大で10 kmまでの遅延拡散に対応できますが、得られるデータ・レートはそれに比例して低下します。

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OFDMの欠点

シングルキャリア・システムと比べると、OFDM には大きな欠点が 2 つあります。その 1 つは、サブキャリアの数が増えるとその複合タイム・ドメイン信号がガウシアン雑音に似てきて、ピークツーアベレージ比(PAR)が高くなり、増幅器に問題が生じることです。高い PAR は、隣接チャネルでスペクトラム・リグロースを発生させるので許容できません。増幅器の歪みを防止するためには、そのコスト、サイズ、消費電力が増加します。ピークを制限する手法(クリッピングやトーン制限 * など)もありますが、そのすべてに限度があり、チャネル内の信号品質が低下し、大きな処理パワーが必要になります。

もう 1 つの大きな欠点は、サブキャリアのきつい配置に起因します。CP の挿入による効率ロスを最小限にするために、非常に長いシンボルが必要になり、サブキャリア間の間隔が狭くなります。しかし、必要な処理の増加を別にしても、サブキャリアの密度が増すと周波数エラーにより直交性(相互の独立性)が失われていきます。サブキャリアの密度が関係した、性能低下を招く主要な問題には 3 つがあります。1 つは、レシーバ内に周波数エラーがあると、あるサブキャリアのシンボルからのエネルギーが次のシンボルと干渉することになります。もう 1 つは、受信信号内の位相雑音がサブキャリアの両側に同様の ISIを発生させます。最後に、ドップラー・シフトにより、大きな問題が発生することがあります。固定のドップッラー・シフトは簡単に除去できますが、マルチパスが関係していて、レシーバに信号が前後から到着する場合にはそうはいきません。受信信号は周波数の高い側と低い側にシフトしていて、元の信号を回復するには相当な処理パワーが必要になります。長いシンボルの必要性と、密接なサブキャリア間隔が起こす問題とのバランスをとって、LTE は 15 kHz のサブキャリア間隔を採用しまし た。 ま た、eMBMS(evolved Multimedia Broadcast Multicast Service)1 を利用した Mobile TV には、より狭い 7.5 kHz が採用されています。

SC-FDMAの概要

OFDM の高い PAR が望ましくないため、3GPP は LTEのアップリンクでは別の変調方式を採用しました。この違いのために、韓国の標準化団体である TTA は LTE とWiMAX を合体させるという 3GPP への働きかけを成功できませんでした(2006 年)。WiMAX のアップリンクは純粋な OFDM を採用していますが、LTE は SC-FDMAの採用を変更しませんでした。SC-FDMA は新しいハイブリッド変調方式で、シングルキャリア・システムの低い PAR と、OFDM のマルチパス耐性および柔軟なサブキャリア周波数の配置とを巧みに組み合わせたものです。

新しい変調のコンセプト(例えば、OFDM や CDMA)が登場すると、その意味が分かり始めるのに長い時間がかかることがあります。しかし、誰もがその意味を理解した後は、以前には理解不能に思えていた説明を振り返って、いったいあの騒ぎは何だったんだと考えます。SC-FDMA の場合もそうでしょう。3GPP Release 8 は、このコンセプトの説明をほとんどしていません。信号処理の学習者は、SC-FDMA の公式の定義については TS 36.211 を見れば分かります。この規格書では、SC-FDMAシンボルのタイム・ドメインについて数学的に説明しています 2。しかし、フォーマルな数学的アプローチには付いて行きにくいと感じる大多数のために、OFDM と SC-FDMA をグラフィカルに比較してみます。

OFDMとSC-FDMAの比較

図 2 は、一連の QPSK シンボルが時間軸と周波数軸にどのようにマッピングされるかを、2 種類の変調方式に対して示したものです。ここからは、OFDM ではなくOFDMA(直交周波数分割多元接続)という用語を使用します。LTE などのシステムが採用する OFDMA はOFDM をより緻密にした方式で、同一のサブキャリア上に複数のユーザを多元化することによりシステムの柔軟性を拡張しています。このため、低レートの多くのユーザを共有チャネル上で効率的にトランキングすると同時に、ユーザごとの周波数ホッピングを可能にして狭帯域フェージングの影響を緩和することができます。分かりやすくするために、図では 4(N)人の加入者、2 個のシンボル区間、QPSK 変調によるペイロード・データの例を示しています。実際の LTE 信号は、リソース・ブロックと呼ばれる、隣接した 12 個のサブキャリア(180 kHz)を単位として割り当てられます。継続時間が 0.5 ms のこのブロックは、通常は QPSK、16QAM、64QAM の変調方式の 7 個のシンボルから構成されています。

* トーン制限はクリッピングを発展させたバージョンで、エラー・エネルギーが特定の予約されたチャネル内周波数に落ちるようにして、信号の必要な部分はできるだけ歪まないようにタイム・ドメイン信号を整形します。

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LTE のダウンリンクでは従来の OFDMA を使用していますが、OFDM の詳細(サブキャリア間隔、シンボル長、帯域幅など)だけが UMB や WiMAX などの他システムと違っています。図 2 の右側では、N 個の隣接する 15 kHz のサブキャリア(チャネル帯域幅内の必要な位置にすでに配置されている)がそれぞれ 1 個の QPSK データ・シンボルにより66.7 μsのOFDMAシンボル区間にわたって変調されています。この単純化した 4 つのサブキャリアの例では、4 つのシンボルがパラレルに送信されます。これらは QPSK データ・シンボルであり、各サブキャリアの位相のみが変調されて、サブキャリア・パワーは各シンボル間で一定です。1 OFDMA シンボル区間が過ぎると CP が挿入され、次の 4 つのシンボルがパラレルに送信されます。図を分かりやすくするためにCPはギャップのように表していますが、実際には次のシンボルの終わりの部分がコピーされます。このため、伝送パワーは連続していますが、シンボル境界には位相の不連続があります。送信信号を作成するには、各サブキャリアに対して逆 FFT を行って N 個のタイム・ドメイン信号を作成し、そのベクトル和により送信のための最終的なタイム・ドメイン波形を作成します。

SC-FDMA 信号の作成は特殊なプリコーディング・プロセスから始まりますが、その後は OFDMA に似ています。作成プロセスの概要を説明する前に、まず図 2 の右側の作成結果を見れば分かりやすいでしょう。2 つの方式の違いで最も明らかなのは、OFDMA は 4 個の QPSK デー

タ・シンボルをサブキャリアあたり 1 個、パラレルに送信している点です。これに対して SC-FDMA は、4 個のQPSK データ・シンボルをシリアルにレートの 4 倍で送信していて、各データ・シンボルは N × 15 kHz の帯域幅を占有しています。図から分るように OFDMA 信号は明らかにマルチキャリアであり、SC-FDMA はシングルキャリアに似ていて、これが名前の“SC”を意味するものとなっています。OFDMA も SC-FDMA もシンボル長は66.7 μs ですが、SC-FDMA シンボルは変調データを表すN 個の「サブシンボル」から構成されています。

不要な高い PAR が OFDMA で発生するのは、複数のシンボルのパラレル送信が原因です。N 個のデータ・シンボルをレートの N 倍でシリーズ送信することにより、SC-FDMA の占有帯域幅はマルチキャリアの OFDMA と同じですが、(重要な点として)PAR は元のデータ・シンボルのものと変わりません。これにより、数学的に深く考えないでも経験則で以下が分かるはずです。つまり、OFDMA で多くの狭帯域の QPSK 波形を加算すると、SC-FDMA のより広帯域のシングルキャリア QPSK 波形に比べて、常に高いピークが発生します。サブキャリアの数 N が増えるに従って、ランダムな変調データを持つOFDMA の PAR はガウシアン雑音の統計値に近づきます。これに対して、N の値にかかわらず、SC-FDMA のPAR は元のデータ・シンボルのものと変りません。

図2. OFDMAとSC-FDMAの比較:QPSKデータ・シンボル・シーケンスの送信

fc 15 kHz 周波数

OFDMA1 OFDMAシンボル区間に対するデータ・シンボルの占有は15 kHz

OFDM

A

シンボル

SC-FDMA1/N SC-FDMAシンボル区間に対するデータ・シンボルの占有はN×15 kHz

60 kHz

CP

時間

OFDM

A

シンボル

V

SC-FDM

A

シンボル

時間

SC-FDM

A

シンボル

V

周波数fc

1, 1 -1, -1 -1, 1 1, -1 1, 1 -1, -1 -1, 1 1, -11, 1

-1, -1

-1, 1

1, -1

Q

I

QPSK変調データ・シンボル

送信するQPSKデータ・シンボルのシーケンス

CP

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SC-FDMA の概要を説明したので、これを実現するためのプリコーディング・プロセスについて説明します。図3 は、QPSK データ・サブシンボルのタイム・ドメイン波形を作成するステップを示しています。図 2 で示した4 色の QPSK データ・シンボルを使って説明すると、このプロセスでは、1 つの QPSK データ・シンボルから次のシンボルへ移動する軌跡を計算することにより、タイム・ドメインの 1 個の SC-FDMA シンボルが作成されます。1 個の SC-FDMA シンボルが N 個の連続した QPSKデータ・シンボルを含むように、SC-FDMA シンボル・レートの N 倍で処理されます。簡単のために、タイム・ドメイン・フィルタリングはここで示していませんが、実際のプロセスでは行われます。

1 つの SC-FDMA シンボルのタイム・ドメインの IQ 波形が作成されたら、次のステップは離散フーリエ変換

(DFT、図 4)を使用してそれを周波数ドメインに変換します。1 つの SC-FDMA シンボルのタイム・ドメイン波形が 15 kHz 間隔の N 個の DFT ビンで十分に表せるように、DFT のサンプリング周波数を設定します。ここで、各ビンは振幅と位相が66.7 μsにわたって一定の1つのサブキャリアを表しています。1 SC-FDMA シンボル区間で送信されるデータ・シンボルの数と、作成される DFTビンの数には常に 1 対 1 の関係があり、これが占有サブキャリアの数になります。そのため次のことが直観的に

分るはずです。すなわち、1 SC-FDMA 区間で送信するデータ・シンボルの数が増えるとタイム・ドメイン波形が高速に変化して広帯域になり、周波数ドメインで信号を十分に表すために、より多くの DFT ビンが必要になるということです。

図 4 から分ることは、個々の DFT ビンと元の QPSK データ・シンボルの振幅/位相との間には、もはや直接的な関係がないことです。これは、データ・シンボルが直接サブキャリアを変調する OFDMA の場合と全く異なっています。

次のステップは、タイム・ドメインの SC-FDMA シンボルのベースバンド DFT を、チャネル帯域幅全体の必要な部分へシフトすることです。信号は DFT で表されているため、周波数シフトは N 個のビンをより広い DFT空間へとコピーする、きわめて簡単なプロセスとなります。この DFT 空間はシステムのチャネル帯域幅まで可能であり、LTE では 1.4 MHz ~ 20 MHz の 6 種類から選択できます。DFT の利点により信号をチャネル帯域幅のどこにでも置けるので、アップリンクを複数のユーザで共有するために不可欠な周波数分割多元接続(FDMA)を実現できます *。これが、“SC-FDMA”という名称の後半部分の由来となっています。

1, 1

-1, -1

-1, 1

1, -1

Q

I

+1

-1

+1

-1

1 SC-FDMAシンボル区間

V(I) V(Q)

1 SC-FDMAシンボル区間

図3. SC-FDMAシンボルの タイム・ドメイン波形の作成

図4. SC-FDMAシンボルの ベースバンドと、 シフトした周波数

ドメイン

周波数周波数

* 3GPPはアップリンクについて、狭帯域フェージングの影響を緩和する可能性のある分散型の加入者配置を検討しましたが、スロット・レベル(0.5 ms)での周波数ホッピングが伴う隣接配置を採用しました。

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変調方式 OFDMA SC-FDMA

解析帯域幅 15 kHz 信号帯域幅 15 kHz 信号帯域幅(N× 15 kHz) (N× 15 kHz)

ピークツー データ・ 高 PAR 意味を持たない データ・アベレージ比 シンボルと同じ (ガウシアン)(<データ・シンボル)シンボルと同じ

IQコンスタ 66.7μsレート 意味を持たない 意味を持たない N×66.7μsレーション でのデータ・ (ガウシアン)(<データ・シンボル) レートでの

シンボルと同じ データ・シンボルと同じ

SC-FDMA 信号作成の最後の段階では、OFDMA と同じプロセスが行われます。周波数シフトされた信号を逆FFT によりタイム・ドメインへ変換し、OFDMA の基本的なマルチパスに対する信頼性を高める CP を挿入します。

ここで OFDMA と SC-FDMA を比較した図 2 に戻り、それぞれが解析帯域幅に依存してどのように見えるかを考えることができます。表 1 に、これらの変調方式間の違いを示しています。

一度に 1 個のサブキャリアで解析すると、OFDMA は元のデータ・シンボルに似ています。しかし、帯域幅全体では、信号は PAR 統計とコンスタレーションからはガウシアン雑音に似ています。SC-FDMA ではその逆で、信号帯域幅全体を解析すると元のデータ・シンボルとの関係は明らかです。この場合、元のデータ・シンボルのコンスタレーション(低 PAR)は SC-FDMA シンボル・レートの 4 倍で回転するのが分ります(CP の追加による 7 %の減速は無視)。サブキャリア帯域幅を解析すると、これらはデータ・シンボルの情報帯域幅よりも N 分の 1 狭いために、SC-FDMA の PAR およびコンスタレーションの意味がなくなります。

表1. 異なる帯域幅でのOFDMAとSC-FDMAの解析

LET のまとめ2004年 11月の LTE/SAEの 上位レベルの要件● ビットあたりのコストの削減● サービスの低価格化とユーザ体感の向上● 新規/既存の周波数バンドの柔軟な利用● オープン・インタフェースの、簡素化された低コ

ストのネットワーク● 端末の複雑さの低減と妥当な消費電力

速度ダウンリンクのピーク・データ・レート(64QAM)アンテナ構成 SISO 2× 2 MIMO 4×4 MIMOピーク・データ・ 100 172.8 326.4レート(Mbps)

アップリンクのピーク・データ・レート(シングル・アンテナ)変調方式 QPSK 16QAM 64QAMピーク・データ・ 50 57.6 86.4レート(Mbps)

柔軟なチャネル帯域幅帯域幅(MHz) アクセス・モード

1.4 FDDと TDD

3 FDDと TDD

5 FDDと TDD

10 FDDと TDD

15 FDDと TDD

20 FDDと TDD

1.6 MHz と 3.2 MHz の TDD帯域幅は最近削除され、他の6種類は FDDとTDDの両方に適用。

移動性最適:0 ~ 15 km/h高い性能:15 ~ 120 km/h動作可能:120 ~ 350 km/h検討中:350 ~ 500 km/h

スペクトラム効率リリース 6 HSDPA の 3 ~ 4倍(ダウンリンク)リリース 6 HSUPA の 2 ~ 3倍(アップリンク)

遅延アイドルからアクティブ < 100 msスモール・パケット < 5 ms

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サービスパケット交換音声/データ。回線交換サービスはサポートしない。

短いデータ・シンボルでの マルチパス耐性

ここで、「SC-FDMA ではデータ・シンボルが短いのに、どうしてマルチパス耐性を持つのか?」という疑問があってもおかしくありません。OFDMAでは、変調するデータ・シンボルは 66.7 μs の OFDMA シンボル区間にわたって一定ですが、SC-FDMA シンボルにはずっと短い N 個のサブシンボルが含まれているので、時間軸上で一定ではありません。OFDMA 復調プロセスのマルチパス耐性は、サブキャリアに直接マッピングされる長いデータ・シンボルに依存しているように思えます。しかし、遅延拡散に対する耐性が得られる理由は、データ・シンボルではなく各サブキャリアが一定であるという性質からです。前述のように、時間変動する SC-FDMA シンボルの DFTにより、一連のビンが作成されました。変調するデータ・シンボルが SC-FDMA シンボル区間で変動しても、このDFT ビンは同じシンボル区間にわたって一定です。時間変動する(N 個のシリアル・データ・シンボルが含まれている)SC-FDMA シンボルが、周波数ドメインで時間変動のない N 個のサブキャリアで表されるのは、DFT 固有の性質です。このため、短いデータ・シンボルを持つSC-FDMA でもマルチパス耐性が得られます。

時間変動する信号を、時間変動しない N 個の DFT で十分に表わせるということは、直観的に分り難いかもしれません。しかし、DFT の原理は、周波数の異なる 2 つの固定正弦波の和を考えると簡単に説明できます。すなわち、非正弦波の時間変動する信号は、2 つの固定正弦波で十分に表わせるということです。

実際のSC-FDMAの特性評価

図 5 は、一般的な SC-FDMA 信号に対する、いくつかの測定を示しています。トレース A(左上)のコンスタレーションは、これが 16QAM の信号であることを示しています。単位円は RS(7 個毎のシンボル)を示し、これはSC-FDMA を使用しませんが直交 Zadoff-Chu シーケンスで位相変調されています 3。トレース B(左下)は、信号パワーと周波数を示したグラフです。周波数スケールは- 600 から 599 まで番号付けられた 15 kHz のサブキャリア単位であり、18 MHz の帯域幅を表しています。したがって、これは 20 MHz のチャネルであり、割り当てられた信号帯域幅は低い方に向かって 5 MHz であることが分かります。茶色のドットは瞬時サブキャリア振幅を示し、白のドットは 10 ms にわたるアベレージングを示しています。真中のトレース上のスパイクは、この信号の LO リーケージ(IQ オフセット)を示しています。グラフの右にある大きな像は、信号の 0.5 dB の IQ 利得不平衡により意図的に作り出した OFDM のエラー成分です。未割当てのサブキャリア内の LO リーケージとパワーは両方とも、3GPP 仕様で制限されることになります。

図5. 16QAM SC-FDMA信号の解析

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トレース C(上中央)は測定された障害のサマリで、エラー・ベクトル振幅(EVM)、周波数エラー、IQ オフセットなどが示されています。データ EVM の 1.15 % は、RS EVM の 0.114 % よりもかなり大きな値です。これは、トレース E のレポートのようにデータ・パワーの+ 0.1 dBのブーストに起因したもので、データ固有の EVM を作成するために(図示のために)レシーバによって無視されています。RS パワー・ブーストは+ 1 dB とレポートされていて、単位円が 8 個の 16QAM ポイント上を通過していないので IQ コンスタレーションでも見ることができます。トレース D(下中央)は、サブキャリアによるEVM の分布を示しています。割り当てられた信号のEVM は、その平均とピークがトレース C の数値と一致しています。割り当てられないサブキャリアの EVM はずっと大きく示されていますが、このチャネル内障害の仕様は必要な信号と必要でない信号とのパワー比として仕様化されることになり、トレース B に示すように約 30 dB になっています。トレース D の青いドットは RS のEVM を示していて、非常に小さな値になっています。

トレース E(右上)は、1 回の捕捉で変調方式別の EVMを測定できる機能を示しています。この信号の変調は RS位相変調と 16QAM のみなので、QPSK と 64QAM の結果はブランクになっています。最後に、トレース F(左下)は、SC-FDMA の根幹である PAR を相補累積分布関数

(CCDF)測定で示しています。OFDMA に比べた、PARに関する SC-FDMA の優位性は、データ・レートに依存するので、1 つの指標で表すのは困難です。狭い周波数の割り当てでも、OFDMA の PAR は常に SC-FDMA よりも大きくなりますが、データ・レートが上がって周波数割り当てが広がると、SC-FDMA の PAR が一定であるのに対して、OFDMA の PAR はさらに悪化してガウシアン雑音に近づきます。5 MHz の OFDMA 16QAM 信号は、ガウシアン雑音とほとんど同じに見えます。白いトレースからは、0.01 % の確率で SC-FDMA 信号はガウシアン基準トレースよりも 3 dB 向上することが分かります。増幅器のデザイナなら誰でも知っているように、ピーク・パワー・バジェットから 1/10 dB 削るだけで安全になります。

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まとめ

簡単に説明すると、SC-FDMA とは、「シングルキャリア波形を作成して周波数ドメインの必要な部分にシフトする」ことです。OFDMA と新しい SC-FDMA の特性を慎重に検討した結果、SC-FDMA は OFDMA の利点、特に信頼性の高いマルチパス耐性を高 PAR の問題なしに提供できると結論付けることができます。しかし、タイム・ドメインの処理が増えると、動的なマルチユーザを処理する必要がある基地局に大きな負担がかかるため、LTE でのSC-FDMA の使用はアップリンクのみになっています。

3 種類の OFDMA セルラの最新規格である LTE が、アップリンクのための優れたソリューションを本当に見つけたのか、また、すべての要素を考慮した結果、WiMAXが採用する純粋な OFDMA、あるいは UMB が採用するOFDMA/CDMA の組み合わせが成功したと証明されるのか、これは興味深い問題です。現在のところ専門家の意見は分かれているため、確実な結果が分かるまでには、さらに時間が必要と考えられます。

参考文献1. 3GPP TS 36.201 v8.0.0 section 4.2.12. 3GPP TS 36.211 v8.0.0 subclause 5.63. 3GPP TS 36.211 v8.0.0 subclause 5.5

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March 21, 2008

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