13
3.1 はじめに 小西哲之 あらかじめ注意を喚起する必要があると筆者が考えるの は,ブランケット材は,通常機能材料と呼ばれるものとは 極めて異なる特性が要求され,それゆえにこれまでとは異 なる考え方が必要とされるということである.(狭義の)機 能材料はたとえば電気的な特性(電導度,誘電率等)を利 用した導電体,半導体,絶縁体,あるいはセンサー材料や 核的な材料など様々であり,それはそれで,極限に近い性 能が要求される核融合炉環境は厳しい条件である.そのた め最先端の性能が求められ,開発が進んできたことはここ までに見てきたとおりである.これらの機能材料は,その 特性たる機能の性能に加え,実用機器として使用可能であ るために必要な最低限の材料としての強度などの成立性, 加工性,量産性,あるいは対環境性が要求される.しかし ながら,第1章で指摘されているように,核分裂炉で燃料 集合体の構成材料を機能材料と呼ばない慣習に従っていて は,核融合開発に関わる材料の真の問題の困難を捉えるこ とはできないので,本特集では敢えて「ブランケット機能 材料」という概念を導入している.まだ明確な定義がない ため,著者間にも統一した理解はなく,また一部読者にも 違和感があるかもしれないが,核融合炉においては,ブラ ンケット材のすべては(おそらく他の炉構成機器のかなり 多くも)特殊機能材料として捉える視点が必要である. ブランケット構造の代表的な例を図1に示す.要求され る機能は多岐にわたり,機能材料,構造材料という呼称は 実はいずれも適切ではない.増殖材,増倍材は核的特性の 求められる機能材料ではあるが要求されるのはその機能だ けではないし,一方,構造材にも多くの機能が必要とされ る.核分裂炉で構造材料は主として圧力容器材であるが, 「核融合炉構造材料」と一般には安易にほとんど誤解して呼 ばれているものはブランケットの筐体と冷却配管の材料で あって,真空容器のそれではない.もちろん,構造材とし て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて 多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料 は,きわめて多くの機械的物理的化学的核的特性が要求さ れるのである.構造材で考慮すべき応力についても,熱応 力や電磁力が極めて大きいことがあるため,通常の構造材 料とは考え方のプロセスが違う.それぞれについて,熱伝 小特集 核融合炉環境に耐える機能材料の開発 3.ブランケット機能材料 小 西 哲 之,星 野 1) ,柴 山 環 樹 2) ,中 道 1) ,檜 木 達 也,鈴 木 晶 大 3) 京都大学エネルギー理工学研究所, 1) 日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門 2) 北海道大学エネルギー変換マテリアル研究センター, 3) 東京大学大学院工学系研究科 (原稿受付:2008年7月25日) 「ブランケット機能材料」は一般的に機能材料と呼ばれるものとは大きく異なり,過酷な電磁気,熱,中性 子・放射線,化学環境の中で,きわめて多くの機械的,物理的,化学的,核的な機能,特性を維持することが求 められる.本章では,ブランケット内環境とそこで生じる様々な現象,材料に求められる特性,研究開発におけ る課題について概説するとともに,特に,固体セラミックストリチウム増殖材料,中性子増倍材,トリチウム透 過低減皮膜,液体ブランケット用 Flow Channel Insert,液体ブランケット用電気絶縁被覆について研究開発状況 を紹介する. Keywords: fusion blanket, blanket environment, ceramic tritium breeder, neutron multiplier, tritium permeation barrier, flow channel insert, electrical insulating coating 3. Functional Materials for Blankets KONISHI Satoshi, HOSHINO Tsuyoshi, SHIBAYAMA Tamaki, NAKAMICHI Masaru, HINOKI Tatsuya and SUZUKI Akihiro corresponding author’s e-mail: [email protected] J.PlasmaFusionRes.Vol.84,No.10(2008)646‐658 図1 ITER のブランケット構造. !2008 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 646

3.ブランケット機能材料 - jspf.or.jp · て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて 多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料

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Page 1: 3.ブランケット機能材料 - jspf.or.jp · て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて 多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料

3.1 はじめに小西哲之

あらかじめ注意を喚起する必要があると筆者が考えるの

は,ブランケット材は,通常機能材料と呼ばれるものとは

極めて異なる特性が要求され,それゆえにこれまでとは異

なる考え方が必要とされるということである.(狭義の)機

能材料はたとえば電気的な特性(電導度,誘電率等)を利

用した導電体,半導体,絶縁体,あるいはセンサー材料や

核的な材料など様々であり,それはそれで,極限に近い性

能が要求される核融合炉環境は厳しい条件である.そのた

め最先端の性能が求められ,開発が進んできたことはここ

までに見てきたとおりである.これらの機能材料は,その

特性たる機能の性能に加え,実用機器として使用可能であ

るために必要な最低限の材料としての強度などの成立性,

加工性,量産性,あるいは対環境性が要求される.しかし

ながら,第1章で指摘されているように,核分裂炉で燃料

集合体の構成材料を機能材料と呼ばない慣習に従っていて

は,核融合開発に関わる材料の真の問題の困難を捉えるこ

とはできないので,本特集では敢えて「ブランケット機能

材料」という概念を導入している.まだ明確な定義がない

ため,著者間にも統一した理解はなく,また一部読者にも

違和感があるかもしれないが,核融合炉においては,ブラ

ンケット材のすべては(おそらく他の炉構成機器のかなり

多くも)特殊機能材料として捉える視点が必要である.

ブランケット構造の代表的な例を図1に示す.要求され

る機能は多岐にわたり,機能材料,構造材料という呼称は

実はいずれも適切ではない.増殖材,増倍材は核的特性の

求められる機能材料ではあるが要求されるのはその機能だ

けではないし,一方,構造材にも多くの機能が必要とされ

る.核分裂炉で構造材料は主として圧力容器材であるが,

「核融合炉構造材料」と一般には安易にほとんど誤解して呼

ばれているものはブランケットの筐体と冷却配管の材料で

あって,真空容器のそれではない.もちろん,構造材とし

て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて

多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料

は,きわめて多くの機械的物理的化学的核的特性が要求さ

れるのである.構造材で考慮すべき応力についても,熱応

力や電磁力が極めて大きいことがあるため,通常の構造材

料とは考え方のプロセスが違う.それぞれについて,熱伝

小特集 核融合炉環境に耐える機能材料の開発

3.ブランケット機能材料

小西哲之,星野 毅1),柴山環樹2),中道 勝1),檜木達也,鈴木晶大3)

京都大学エネルギー理工学研究所,1)日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門2)北海道大学エネルギー変換マテリアル研究センター,3)東京大学大学院工学系研究科

(原稿受付:2008年7月25日)

「ブランケット機能材料」は一般的に機能材料と呼ばれるものとは大きく異なり,過酷な電磁気,熱,中性子・放射線,化学環境の中で,きわめて多くの機械的,物理的,化学的,核的な機能,特性を維持することが求められる.本章では,ブランケット内環境とそこで生じる様々な現象,材料に求められる特性,研究開発における課題について概説するとともに,特に,固体セラミックストリチウム増殖材料,中性子増倍材,トリチウム透過低減皮膜,液体ブランケット用Flow Channel Insert,液体ブランケット用電気絶縁被覆について研究開発状況を紹介する.

Keywords:fusion blanket, blanket environment, ceramic tritium breeder, neutron multiplier, tritium permeation barrier,

flow channel insert, electrical insulating coating

3. Functional Materials for Blankets

KONISHI Satoshi, HOSHINO Tsuyoshi, SHIBAYAMA Tamaki, NAKAMICHI Masaru, HINOKI Tatsuya and SUZUKI Akihiro

corresponding author’s e-mail: [email protected]

J. Plasma Fusion Res. Vol.84, No.10 (2008)646‐658

図1 ITERのブランケット構造.

�2008 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

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Page 2: 3.ブランケット機能材料 - jspf.or.jp · て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて 多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料

導度,電気伝導度を考慮しなければ十分な強度が確保でき

ないのである.

ブランケットは,プラズマに面する第一壁から,真空容

器に至るまでの位置を占める.特に放射線遮蔽や支持,交

換のための機能を分割してバックプレートや遮蔽を別にす

ることもあるし,動力炉設計においては,高フルエンス部

分と低フルエンス部分を分けて,交換ブランケット,永久

ブランケットとわけることもある.これらは,全体として

達成すべき機能があり,そのためによく知られたトリチウ

ム増殖,中性子エネルギーの取り出し,遮蔽,に加え,様々

な要求性能がある.電導度,透磁率,低放射化,トリチウ

ム拡散溶解特性,化学的特性,照射健全性,などである.設

計により機能を分散できることもあれば,すべての構成材

料に要求されるものもある.たとえば,プラズマの着火に

際してはトーラス構造全体のワンターン抵抗は問題になる

し,またプラズマの安定化のためにはプラズマになるべく

近い部分での導電性が要求される.急激にプラズマ電流の

消滅するディスラプションに対しては,ブランケットに生

じる電流を考慮しなければ必要な強度を設定することがで

きない.全体の磁性もトーラス磁場構成,特に磁場の不均

一であるリップルに影響がある.ITERではブランケット

中TBM(テストブランケットモジュール)だけが磁性体で

あるため問題を厄介にしている.このような電磁気的な特

性はブランケット全体に要求されるのであり,増殖材,増

倍材でも考慮すべき要素である.機械的特性も同様であ

り,固体,液体を問わず,ブランケットはたとえばディス

ラプション時の電磁力分布とそのときの挙動を考慮しなけ

ればならない.

一方,構造材といっても,強度だけではなく,中性子吸

収断面積の小ささや,トリチウム透過,溶解が小さいこと

などの要求が課せられている.これらの条件は,増殖材,

増倍材の核的性能との兼ね合いでその厳しさが決まる.ブ

ランケットのプラズマに面する表面の問題ではあるが,第

一壁での高エネルギーの照射に対する損耗耐性と,逆にプ

ラズマを高 Zイオンで汚染しないことも重要である.

これらの複合的な要求にこたえること,すなわち,基本

的に多機能であること,構造材が構造だけでなく,機能材

が機能だけでないことは予測された既知の問題であるが,

それを実際に試験することができないことがブランケット

の最大の困難の一つである.これまでに作られたプラズマ

装置でブランケットを装備したものは一つもないし,

ITERでさえ水平ポートの6個のTBMで,限られた中性子

フラックス,フルエンスで試験を行うに限られる.ブラン

ケットは,プラズマを作るのに必要がなかったため,プラ

ズマとともに試験を行う機会はなく,現実的な条件での試

験はきわめて重要であるにもかかわらず決定的に不足して

いる.国際核融合材料照射施設 IFMIF は,14 MeV中性子

をかなり高いフラックスで発生する計画であるが,ブラン

ケット試験は中フラックス領域で考えられる.しかし,電

磁気,熱,中性子・放射線,化学環境を総合的に模擬する

能力はITERでもIFMIFでもまだ限定されるであろう.こ

れらの複合的な効果にはまだまだ予想もつかないものがあ

りうる.たとえば一例を挙げれば,酸化物増殖材で発生し

たトリトンが酸素と反応して19F をつくり,それがブラン

ケットスイープ中の水素と結合してHF(フッ化水素)が構

造材を電磁応力下で腐食する,などというシナリオは,実

際の装置でなければ模擬は難しい.ブランケット構成材料

に要求される複合機能は,他の構成材料の持つ複合機能と

の整合性において要求レベルが決まる.FLIBEブランケッ

トの概念では,増倍材ベリリウムは,溶融塩環境の化学的

制御の役割も持っている.固体増殖材では,バーンナップ

に従う元素組成の変化に伴う化学挙動が重要な課題とな

る.しかし照射下での化学挙動は高照射下でスイープが長

期間行えなければ試験できない.

前述のように,ブランケットでは設計により機能を複数

機器に分散することも行われるので,これら複合的要求性

能はかなり設計依存性が強い.たとえば,プラズマの抵抗

性壁モード(RWM)安定化に不可欠なブランケットの電導

度の機能は,ブランケットに作りうる電流の配置とプラズ

マとの距離により要求は大きく異なるが,一方別途安定化

のためのコイルをブランケット中に効果的に配置すること

でブランケット本体への要求ではなくなる.プラズマ対向

壁の問題は,多くは 1 mm以下の表面での問題であり,ブ

ランケット第一壁への密着性や冷却のみがブランケットの

機能としての要求となる.ブランケット本体ではなく,そ

れを取り付ける後壁に転倒力に対する強度の多くを依存す

るのが ITERの考えである.TBR(トリチウム増殖比)や

遮蔽は総合性能であり,中性子吸収の多い物質がブラン

ケット中にあればTBRの増殖材増倍材への要求は厳しく

なる.低放射化フェライト鋼中のタングステンと,第一壁

スパッタリング防止のためのタングステン被覆はニュート

ロニクス上合計して考える.ブランケットの総合遮蔽性能

が足りなければ,ブランケット後ろの遮蔽を増強する必要

が生ずる.超伝導コイル保護の観点ばかりでなく,運転後

の廃棄物クリアランスの観点では遮蔽要求は一層厳しくな

る.

ブランケットの性能は得られる熱媒体の出口温度で評価

される.その上限は「構造材」-つまり冷却材配管材で制

限されるが,断熱材として SiC を用いることで低放射化

フェライト鋼の上限より高温を得ようとするのが LiPb ブ

ランケットで用いられる二重冷却材(Dual Coolant)概念で

ある.この場合 SiC は未来の構造材というより近未来の機

能材であるが,出口温度も設計依存性が大きく,設計構造

により低放射化フェライト鋼と SiC一体となった総合性能

が重要であり,これらの材料は耐熱性よりもむしろ,伝熱

上の特性でブランケット総合性能を決定する役割を担って

いる.

最後に,ブランケット材について忘れてはならないの

は,核融合炉のほかの部分と異なり,これが消耗性の部品

であって,燃料に準じた扱いを受けるということである.

これは機能とは必ずしもいえないかもしれないが,資源制

約はブランケットについて考慮されることは必然である.

特に原型炉以降を考えれば,リチウム6やベリリウムの供

給,入手可能性は厳しく要求され,それなくしてはエネル

Special Topic Article 3. Functional Materials for Blankets S. Konishi et al.

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ギーとしての成立はおぼつかないことは銘記すべきであろ

う.

3.2 固体セラミックストリチウム増殖材料星野 毅

核融合炉の燃料となるトリチウムを生産する材料として

は,ブランケット内のトリチウム増殖材料と中性子増倍材

料が挙げられる.ブランケットでは,トリチウム増殖材料

の中に含まれるリチウム(Li)と中性子増倍材料にて増やさ

れた中性子との反応によりトリチウムが生成・回収される

構造になっている.

トリチウム増殖材料としては,Li 濃度が高く,生じたト

リチウムが容易に放出でき,かつ,化学的安定性の高い特

性を持つ Li セラミックスであるリチウムタイタネート

(Li2TiO3)が日本における第一候補材料となっている.ト

リチウム増殖材料は中性子が照射されることにより体積が

変化するため,割れにくい形状が要求される.また,効率

よくトリチウムを生産するため,ブランケット内のトリチ

ウム増殖材料の充填率はできる限り高くする必要があり,

直径の小さい粒状のトリチウム増殖材料が望まれる(表

1).そこで Li2TiO3 は直径 1 mm程度の小さな球状の粒

(微小球)に成型されたものを使用する(図2).微小球の

製造方法は,大量製造性,製造コスト等の観点から湿式造

粒法または転動造粒法による製造に実績がある.

日本の ITERにおけるトリチウム増殖材料の試験は,プ

ラズマを覆うITERテストブランケットモジュール(ITER-

TBM)にトリチウム増殖材料微小球を装荷し,中性子照射

により実際にトリチウムを生産し,様々な特性評価を行

う.ITER-TBM内においてトリチウム増殖材料の第一候補

材料Li2TiO3は水素雰囲気中にて300~900 ℃の熱サイクル

環境に置かれるため,高温および水素雰囲気中における結

晶構造等に変化が生じてはならない.また,炉内において

燃料として使用するトリチウム量に対し,ブランケットで

生産されるトリチウム量の割合をトリチウム増殖比(Trit-

ium Breeding Ratio(TBR))と呼ぶが,原型炉においては

高いTBRが要求されるため,ITERより高温(1000 ℃以上)

にて使用でき,必要なトリチウム量が確保可能な先進固体

増殖材料の開発が必要となる.

ITER運転条件および原型炉運転条件にて,30%6Li 濃縮

Li2TiO3 が 900 ℃中(水素添加ガス中)2年間運転した際の

Li2TiO31 mol あたりの Li 損失量の計算結果を表2に示

す.ITER条件では Li の核的燃焼度は約1%と小さいだけ

でなく,最高温度(900 ℃)での保持時間も原型炉条件より

短いことから,高温におけるLi蒸発量と併せたLiの損失量

を原型炉条件と比較するとはるかに少ない.さらに,Li2TiO3は少量のLi減少であればLi2-xTiO3-yの化学式で示され

る非化学量論的化合物であることがこれまでの研究成果か

ら解明されており,ITER条件においては安定にトリチウ

ムを放出することが可能な固体トリチウム増殖材料であ

る.しかしながら,原型炉条件では核的燃焼や高温蒸発に

よる Li 損失量が大きいため,運転後の試料組成は Li2-xTiO3-y,Li4Ti5O12,LiTiO2 の三相混合物となるだけでなく,

水素添加ガス雰囲気中では Li2TiO3 中の Ti が還元されO

が欠損するという結晶構造変化も生じるため,高温・長時

間使用に対する各種特性への懸念がある.

星野らを中心とする日本原子力研究開発機構,東京大学

および�化研の研究チームは,高温・長時間の使用の際でも水素雰囲気中にて還元されにくく,Li の核的燃焼および

蒸発に対する耐久性が高い等,材料特性が向上した先進リ

チウム増殖材料の開発に産学官連携の研究体制で着手し

た.Li2TiO3のLi2O/TiO2比は1.00であるが,Li添加量の多

くした試料(Li2O/TiO2 比>1.00)である Li2+xTiO3+yまたは

Li4TiO4 と Li2TiO3 との二相混合物では,1.00 以下の Li2O

ITER条件 原型炉条件

燃焼によるLi 損失量(mol)

0.01 0.20

蒸発によるLi 損失量(mol)

0.07 未満 0.07

Li 損失量の合計(mol)

0.08 未満 0.27

運転後のLi2O/TiO2 比

0.960 0.865

運転後の試料組成

Li1.92TiO2.96Li2‐xTiO3‐y,Li4Ti5O12,LiTiO2

表1 トリチウム増殖材料の形状と特徴.

図2 トリチウム増殖材料 Li2TiO3微小球.

表2 30%6Li濃縮 Li2TiO3を 900℃(水素添加ガス中)にて2年間使用した際の試料 1 molあたりの Li損失量.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.10 October 2008

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/TiO2 比を有する試料と比較し水素還元によるO欠損量が

極めて少なく(図3),水素還元されにくいことから,

Li2TiO3 を還元した際に報告されている試料色の変化もな

いという利点が明らかになった(図4).さらに,Li2TiO3より Li 量が多いことから,核的燃焼や高温蒸発による Li

損失量も予め補うことができ,Li2O/TiO2 比を 1.00 より大

きくしたLi添加型Li2TiO3は,高温・長時間使用時における

試料の結晶構造の変化が小さく化学的に安定性が向上した

材料であり,原型炉へ向けた先進トリチウム増殖材料の研

究開発が大きく前進した.

先進トリチウム増殖材料である Li 添加型 Li2TiO3 を ITER-

TBMに装荷する際の課題は,安価で大量に微小球製造の

ための粉末と微小球を製造する技術の確立である.Li2O/

TiO2 比が 1.00 である Li2TiO3 は安価な始発粉末である

Li2CO3とTiO2の固相反応により粉末製造が可能であるが,

Li2O/TiO2 比が 1.00 より大きくなるにつれ固相反応での合

成は困難となり,合成過程が複雑で高価なアルコキシド等

を用いた液相反応による合成となってしまう.ITER-TBM

の仕様決定が2010年であるため,本課題の克服のための研

究は最重要である.また,原型炉用の先進トリチウム増殖

材料としては,高温・長時間使用時における更なる安定性

が求められる.

ITER-TBM,原型炉に向けたトリチウム増殖材料に関す

るもう一つの最重要課題は,トリチウムを生産する際に必

要なリチウム同位体である6Li の確保である.トリチウム

は主に,

6Li+n→4He+3H (1)7Li+n→4He+3H +n'(En>2.8 MeV) (2)

の核反応によって生成する.式(1)と式(2)の反応は,そ

れぞれ熱中性子および高速中性子によるが,前者の反応断

面積は後者に比べて3桁大きい.実際の核融合炉における

中性子スペクトルを考慮すると,リチウム生成に対する6Li

の寄与は7Li より約2桁大きくなる.しかしながら,天然の

Li には6Li が約 7.6%しか存在せず,核融合炉の定常運転に

必要なトリチウム量を確保するためには Li の同位体(6Li

と7Li)比が天然より高い30~90%濃縮6Li が必要となる.

日本では海外からの6Li の調達を考えていたが,ITER

の建設決定に伴い世界的に核融合研究の競争が激しくな

り,調達が不可能となった.1970年代には Li 同位体分離の

様々な原理に基づく研究が盛んに行われたが,それらのほ

とんどが同位体の分離効率が低く,工業化や大量製造への

スケールアップが困難であったため,実用化されず現在に

至っており,自国生産による6Li 調達も不可能である(表

3).よって,6Li 同位体分離濃縮技術に関する研究開発は

最も重要な研究テーマの一つと言える.

原型炉においては必要なTBR値を得るためには,

方法 原理 特徴 問題点

アマルガム法 リチウムアマルガムとリチウム化合物水溶液との間の同位体交換平衡を利用

・分離係数 1.02~1.07・スケールアップが容易

・水銀を使用する・分離技術が非公開

分子蒸留法 同位体間の蒸気圧の差を利用 ・分離係数 1.05~1.08 ・エネルギー消費大・スケールアップが困難

イオン交換膜法 イオン交換体と溶液の間の同位体交換平衡を利用

・分離係数 1.001~1.01・スケールアップが容易

・分離係数が小さい

電気泳動法 電場による泳動速度の差を利用 ・陰極に6Li が濃縮 ・エネルギー消費大・高温の溶融塩の利用

溶媒抽出法 クラウンエーテルと水溶液間の同位体交換平衡を利用

・分離係数 1.01~1.06 ・還流操作が困難・薬剤が高価

図3 水素雰囲気中における O欠損量の Li2O/TiO2比依存性.

図4 先進トリチウム増殖材料(Li添加型 Li2TiO3)の水素中での様子.

表3 6Li同位体分離濃縮技術開発の現状.

Special Topic Article 3. Functional Materials for Blankets S. Konishi et al.

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① 高温・長時間使用時において化学的に安定

② 必要なトリチウム量が生産可能な6Li 濃縮度

を満たす先進トリチウム増殖材料が必要であり,ITER-

TBMに装荷する先進トリチウム増殖材料をステップとし,

核融合炉の実現に向けた研究を着実に遂行しなければなら

ない.

3.3 固体ベリリウム中性子増倍材柴山環樹

発電に用いられている軽水炉の燃料は,ある一定期間継

続して運転できる量を予め軽水炉内の中心に装荷しその後

交換する方式を採用しているのに対し核融合炉では,プラ

ズマを閉じ込めている容器の内側に配置したブランケット

と呼ばれる核融合炉特有の機器にて核熱利用のための熱交

換を行うと同時に燃料の三重水素(トリチウム)を運転中

に必要な量を逐次生産し回収しながら供給しておりブラン

ケットを構成する構造材料とともにトリチウムを生産する

ための機能材料の開発がDEMO炉実現の成否を担う鍵の

一つである.一般的に,6Li と核融合反応による中性子と

の反応によりトリチウムを生産するので,燃料として消費

する以上に生産する必要がありトリチウム増殖比が1以上

であることが要求される.そのため,効率良くトリチウム

を生産するためには核融合反応による中性子を(n, 2n)反応

等によって増倍させる必要がありそのために中性子増倍材

がトリチウム増殖材とともにブランケットの中に充填され

ている.このブランケットにはいくつかの概念が検討され

ており,ITERにおいても各国がそれぞれ特徴のある方式

を提案している[1].ブランケットでの熱交換の媒体とし

て気体あるいは液体を用いることが一般的で前者はHeガ

ス,後者はトリチウム増殖材や中性子増倍材も兼ねたLiPb

や FLiBe を使用することが検討されている.この章で

は,ブランケットで使用される機能材料の中でもHeガス

冷却や水冷却のブランケットでLiセラミックス固体増殖材

とともに使用される固体ベリリウム中性子増倍材に焦点を

置き概説するとともに特に照射効果に関する研究開発の現

状と今後の展望について紹介する.

現在,固体ベリリウム中性子増倍材には ITERでは純ベ

リリウム,発電をめざしたDEMO炉以降では純ベリリウム

に変わる新しい機能材料の開発が期待されている.ベリリ

ウムは,原子番号が4で他の金属元素に比較して非常に軽

くベリリウム単体あるいはCu-Be合金として航空機のラッ

ク骨材や携帯通信機器の電極やスピーカー部品として一般

に使用されている.原子力分野では,研究炉や加速器型中

性子源の中性子反射体等として使用されており,科学機器

ではX線装置のウインドウ材料として幅広く利用されてい

る.ベリリウムは,酸化物(BeO)として鉱石中に存在し,

水酸化ベリリウム,フッ化ベリリウムを経てMg還元によ

り金属ベリリウムを得る方法が一般的である.Beは酸化し

やすいため表面に形成する酸化被膜だけでなく粒界あるい

は粒内にもBeOが存在しこれらがトリチウムの吸放出特

性と密接な関係があることから,Mg還元とホットプレス

によるBeOが多い従来の材料から真空溶解しBeOだけで

なく揮発性の不純物や他の微量金属元素を低減した高純度

材料が開発されている.

日米欧の各国は,主たるブランケットの設計概念として

フェライト鋼製の容器にHeガスを熱媒体とし熱交換とBe

による中性子増倍とLi系酸化物セラミックスによるトリチ

ウム生産および回収を行うことを検討しており,固体ベリ

リウム中性子増倍材には,1)高い安全性と高効率なトリ

チウム回収のためにトリチウム自身のインベントリーが少

ないこと,2)トリチウム増殖材である Li 系酸化物セラ

ミックスおよびブランケット構造材のフェライト鋼との反

応性が少ないことすなわち化学的安定であること(両立性

に優れること),3)熱媒体であるHeガスあるいは水との

反応性が少ないこと,4)中性子照射後の高い寸法安定性

や機械的特性に優れること(優れた耐中性子照射特性)が

求められている.ITERの TBMでは使用温度が 300~400

℃で He 生成量が 3,000 appmHe,中性子照射量は10~30

dpaが想定されており,径が異なる微小球を充填率80%で

トリチウム増殖材とともにブランケットに装荷することが

検討されている.微小球の作製方法には,Mg還元時の副

産物として得られる方法と原子力研究所(現(独)日本原子

力研究開発機構)が開発した回転電極法があり,いずれも

工業的に大量生産する方法が確立されている.後者は不純

物が少なく真球度も高いことから ITERの TBMで使用さ

れることが検討されている[2‐6].

DEMO炉以降では ITERより高い使用温度でかつHe

生成量が 20000 appmと過酷な条件が想定されていること

から,DEMO炉以降では純ベリリウムに代わり過酷な環境

に耐え得る機能材料の開発が重要な課題である.次世代の

中性子増倍材に求められる性能はトリチウム増殖材との充

填形態や熱媒体等ブランケットの設計に強く依存するが,

先に述べたように高温でかつ高線量の中性子照射後も核変

換Heによる体積膨張の少ないことや機械的特性の変化の

少ないことが重要である.そこで,純ベリリウムより融点

が高い遷移金属とのベリリウム金属間化合物に研究開発の

ターゲットを定め平成14年頃から日本原子力研究所を中心

に国内の大学と企業からなるベリリウム金属間化合物に関

する研究グループが発足した[7‐10].ベリリウムは,国内

では特定化学物質に指定されその取り扱いに十分な注意や

管理が必要なことから各研究機関単独で研究開発を実施す

ることが難しいため,(独)日本原子力研究開発機構を主幹

とし企業において材料の調整を行い各研究機関においてそ

の得意とする分野および手法にて評価を実施している.紙

面の制約のため,全てを網羅することはできないが固体ベ

リリウム中性子増倍材に求められる性能の内1)~3)に関

する研究開発の現状についてはその研究グループによって

まとめられた他の文献を参考にされたい[11‐13].十分な

安全思想に基づいてブランケットの設計を行うことは当然

であるがシビアアクシデント時の高温水あるいは水蒸気と

の接触を想定した場合,ベリリウム金属間化合物は純ベリ

リウムに比較して高温水との反応性も低いことから各国の

TBM研究グループから注目されている.そこで国内では,

(独)日本原子力研究開発機構の材料試験炉(JMTR)を利用

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.10 October 2008

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したベリリウム金属間化合物の中性子照射研究が進められ

ているが,国内の材料試験用研究炉ではDEMO炉で想定さ

れる中性子照射量と核変換Heの生成量を短期間で達成す

るのが困難なためIEA国際エネルギー機関の核融合材料国

際協力プログラムとして「High dose Beryllium, effect of

He-bubbles on tritium-inventory and pebble-bed behavior

(HIDOBE)」[14‐16]が計画されオランダの Petten にある

The Netherlands Energy Research FoundationNuclear Re-

search and consultancy Group(NRG)のHigh Flux Reactor

(HFR)にて照射温度は 425 ℃,525 ℃,650 ℃,750 ℃の

4条件,He生成量と中性子照射量は 3000 appmHe / 17.9

dpa と 6000 appmHe / 35.8 dpa の2条件を目標に現在中性

子照射が実施されており今後の照射後試験の結果が期待さ

れている.

核融合中性子による材料性能の確証試験あるいはライセ

ンシングに必要なデータベースの整備は,今後の核融合中

性子源の完成を待たねばならないが,材料開発のスクリー

ニングや基礎研究は核融合環境を模擬できる実験装置に

よって進められている.最初に先進ブランケット中性子増

倍材用のベリリウム金属間化合物の概要と続いてイオン加

速器と超高圧電子顕微鏡を連結しイオン照射によりDT

反応によるHeの生成と材料を構成する元素の核変換なら

びに中性子によるはじき出しを高エネルギー電子線によっ

て核融合環境を模擬した照射実験を行うことができる北海

道大学エネルギー変換マテリアル研究センターのマルチ

ビーム超高圧電子顕微鏡[17]を使用したベリリウム金属間

化合物(Be12Ti)の He/電子線同時照射効果の結果について

紹介する.

遷移金属の IVa 族(Ti, Zr)およびVa族(V, Nb)ならび

にVIa 族(Mo)の元素とベリリウムの金属間化合物が検討

されており,純ベリリウムに比較して約 300~400 ℃高融

点であるだけでなく金属間化合物化しても比較的軽量であ

り低放射化の観点からTiとVとの金属間化合物化が有望視

されている.中でもBe12Ti が最も多く研究がなされてい

る.Be12Ti は,TBR向上に重要なベリリウムリッチ側の最

初のラインコンパウンドであり,研究開発初期は粉末冶金

法により得られていたが不純物の低減や密度向上のため現

在は真空溶解法により作製している.何れの作製方法でも

Be12Ti 単相を得ることが難しく,結晶構造も複雑で加工性

に難があることから現在は�-Be 相を混在させることに

よって加工性改善が図られている.図5は,(独)日本原子

力研究開発機構が開発に成功した先進ブランケット中性子

増倍用ベリリウムチタン金属間化合物微小球の光学顕微鏡

図5 先進ブランケット中性子増倍用ベリリウムチタン金属間化合物微小球の光学顕微鏡写真(真空溶解鋳造した Be-7at%

Ti合金を用いた回転電極法により作製).本写真の提供は(独)日本原子力研究開発機構の好意による.

図6 マルチビーム超高圧電子顕微鏡により室温ならびに 773 Kで電子線/He同時照射した純 Beと Be12Tiの微細組織.

Special Topic Article 3. Functional Materials for Blankets S. Konishi et al.

651

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写真であり,真空溶解鋳造したBe-7 at%Ti合金を用いた回

転電極法により作製されている.

供試材は,メタノール:イソブチルアルコール:過塩素

酸を14:1:1の割合に調整した電解研磨溶液を寒剤で約

-10℃に冷却しテヌポール5ツインジェット電解研磨装

置を使用してTEM薄膜化し,マルチビーム超高圧電子顕

微鏡により核融合環境を模擬したHe同時照射実験を室温

から773 Kまで行った.He同時照射実験による点欠陥の形

成やHeキャビティ形成に関してその場観察を行った結果

を図6に示す.純ベリリウムは,室温での照射実験では既

に不定形のキャビティの形成が組織全面に観察できるが

Be12Ti には,析出物の周りに極小さなキャビティの形成以

外はマトリクスには観察できなかった.また,純ベリリウ

ムに含まれるFe不純物の量に依存しキャビティの形成が

促進される傾向にあることがわかった.773 Kでの照射実

験では,室温と同様にマトリックスにはキャビティの形成

は観察できなかったが,図6の(e)および(f)に示すように

サブグレインバウンダリーを周辺に数 nmのキャビティが

形成しその後数 10 nmまで成長していく様子が観察でき

た.現在継続して核融合環境を模擬した同時照射実験を実

施しているが,オーステナイト系ステンレス鋼に見られた

ような照射温度に依存してキャビティ形成のピークや成長

の飽和などはブランケットの設計温度の範囲では観察でき

ていないが,今後詳細な検討を継続して行いデータベース

の整備が必要であると思われる.紙面の関係で十分に紹介

できていない項目もあるが,先進ブランケット中性子増倍

材として期待されているベリリウム金属間化合物の研究開

発の現状と今後の展望について概説した.現在,米国,日

本,カザフスタンがベリリウム製品を生産することができ

る国際基準の工業基盤を有しており,今後国際的な協力に

よってDEMO炉に向けて大量に安価で高品質の固体ベリ

リウム中性子増倍材の供給体制の確立が望まれる.

3.4 透過低減皮膜中道 勝

核融合発電炉の発電用ブランケットや国際熱核融合実験

炉(ITER)のテストブランケットモジュール(TBM)など

の発電やトリチウム増殖を目的としたブランケットには,

核融合炉用燃料であるトリチウムを生成するトリチウム増

殖材の微小球と,中性子を増やすための中性子増倍材の微

小球が層状に装荷され,その中に冷却用配管が配置された

設計となっている.そして,それらブランケットにおいて

は,核融合反応により発生した中性子を利用して,トリチ

ウム増殖材からトリチウムを生成し,そのトリチウムを回

収して再び核融合炉燃料として使用する.しかしながら,

ブランケットの容器や冷却用の配管には鉄鋼材料が使用さ

れるためにトリチウムは容易に透過してしまい,冷却水中

へ漏洩してしまう(図7参照).核融合炉用の燃料としての

供給,トリチウムの安全取り扱いなどの観点から,いかに

してこのトリチウムの透過を低く抑えるかが重要な開発課

題となっている.このトリチウムの透過低減対策として,

ブランケットの容器や冷却用の配管上に緻密なセラミック

を成膜する表面改質技術を適用した機能材料を使用するこ

とによってトリチウムの透過の低減を図ることが考えられ

ている[18].

現在,各種表面改質技術を用いてAl2O3[19‐21],TiN/

TiC[22],Cr2O3-SiO2-CrPO4[23‐25],Er2O3[26]などの材

料を用いたセラミック皮膜の成膜および特性評価について

研究開発が進められている.実験室規模での試験結果で

は,透過量を 1/10 から 1/10000 程度まで低減(透過低減率

PRF= 10~10,000)できる結果が得られている.各種表面

改質技術とその一般的な適用例を図8に示す.

トリチウム透過低減対策のためのセラミックの成膜法と

しては,Al2O3 の成膜には溶射法や拡散浸透法を用いてお

り,TiN/TiC の成膜には蒸着法を適用している.溶射法

図7 核融合ブランケットにおけるトリチウム透過低減対策.

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は,高温のプラズマ状態にあるガスに原料となるセラミッ

クの原料粉末を注入,溶融して基材に吹きつけて皮膜を形

成するものである.そのために溶射法では溶射ノズルの形

状の影響,さらに適当な吹きつけ距離が必要なために配管

や容器の内面への成膜が困難である.拡散浸透法は,高温

塩浴中に基材を浸漬させ,セラミック化させる元となる金

属元素を拡散浸透させて基材表面に皮膜を形成するもので

ある.本法では,基材が 800~1000 ℃程度まで加熱される

ため,基材への熱影響が危惧される.蒸着法には,物理蒸

着法と化学蒸着法があり,緻密な皮膜形成が可能である.

しかしながら,物理蒸着法は真空漕内部に目的成分を原子

状或は分子状の形で飛散させて基材上に析出させるため,

基材の大きさ,成膜領域に制限がある.そして,化学蒸着

法は,化学反応により金属および化合物皮膜の析出を行う

ものであり,成膜速度が遅く,またその反応温度から基材

への熱影響の危惧がある.

これら成膜技術に関する知見・経験を踏まえ,原子力機

構では湿式法の内,無電解法である化学緻密化法の適用性

を調べた.化学緻密化法は,基材寸法に制限がなく,容器

内面や狭隘部への成膜が可能で,かつ,成膜温度が約 450

℃と比較的低いなどの利点を有している[27,28].本法は,

まずセラミックの元となる液体であるセラミックスラリー

を塗布して焼成する.本スラリーは固体粉末粒子を懸濁し

た水溶液であり,固体粉末粒子として骨材となる酸化ケイ

素(SiO2)粒子を用いて,クロム酸(CrO3)水溶液に懸濁

しており,焼成によってセラミックになる.この段階で,

皮膜は,SiO2粒子の廻りをCr2O3で埋めた構造ではあるが,

スラリーの焼成のみでは,スポンジ状で緻密ではない.こ

の皮膜内の隙間にCr2O3 を充填して緻密にするため,含浸

材としてクロム酸水溶液を用いて,含浸して焼成する緻密

化処理を行う.さらに皮膜内の貫通欠陥を低減するため

に,ガラス化材であるクロム-リン酸水溶液(CrPO4)を添

加することによって一層の緻密化を図った.本皮膜の緻密

化処理による成膜概略図を図9に示す.

この化学緻密化法により成膜したCrPO4 を添加した

Cr2O3-SiO2 皮膜(図10参照)は,温度 600 ℃,高速中性子照

射量(��1 MeV)で 2×1021 m-2 と低照射量ではあるが中

性子照射下においてトリチウムの透過を約 1/300(透過低

減率 PRF�300)に低減できることが明らかになった[25].

その他,蒸着法によって成膜したEr2O3 皮膜が優れた透過

低減特性を有していることが示されている[26].最近で

は,成膜領域に制限を受けない湿式法の内,無電解法であ

るゾルゲル法によって成膜したEr2O3皮膜の特性評価も実

施されている[29].

今後の課題としては,より多くの中性子を照射した場合

における皮膜の性能評価,実機規模の大型構造物への成膜

図8 各種表面改質技術とその適用例.

図9 緻密化処理による成膜概略図.

図10 化学緻密化法により成膜した Cr2O3‐SiO2‐CrPO4皮膜断面[23].

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性の評価,そしてその非破壊検査技術の開発が必要であ

る.特に,セラミック皮膜の非破壊検査技術については,

系統的に研究されておらず,その欠陥評価手法は未だ確立

されていない.したがって,セラミック皮膜の健全性につ

いて証明・保証することができないのが現状である.検査

手法が確立されてその健全性が証明され,セラミック皮膜

を含めた表面改質技術を規格化することができれば,核融

合を含めた原子力分野への適用として許認可対応が可能と

なることから,実用化に向け早期に研究開発を進める必要

がある.

3.5 液体ブランケット用 Flow Chanel Insert檜木達也

Flow Chanel Insert(FCI)を用いる概念は,構造材料と

して工業的に信頼性の高い鉄鋼材料を用いながらも,その

内側に高温で使用可能な炭化珪素(SiC)等のインサート材

を入れることにより,鉄鋼材料の使用可能温度を超えるよ

うな温度域での液体金属を用いることができるため,近年

様々なリチウム鉛を用いる液体ブランケット概念で取り入

れられている.EUにおいてはthedual-coolant (DC)blanket

[30],米国においては,ARIES-ST[31]である.また,

ITERのテストブランケットモジュール(TBM)において

は,米国がUS dual-cooled lead-lithium(DCLL)[32],中国

がChina dual functional lithium-lead(DFLL)[33]を提案し

ている.図11にEUが提案している dual-coolant (DC) blan-

ket の構造を示す[30].

具体的に,FCI に期待される機能から求められる材料特

性は以下のようになる.

‐ MHD圧損を低減させるための低い電気伝導度

‐ 高温の液体金属の熱を外側の鉄鋼材料の耐えられる

温度に下げるための低い熱伝導度

‐ ヘリウム冷却システムへのトリチウム透過を減らす

ための低いトリチウム透過性

‐ 液体金属が入り込んで電気伝導度等の特性の変化を

避けるための緻密性

‐ 高温の液体金属に対する耐腐食性

‐ 核融合中性子照射環境下で上記の健全性を維持でき

る耐照射特性

実際に作製されるFCI は,いわゆる,「箱」の形状である

ので,基本的には加工技術や接合技術も重要な課題であ

る.

FCI の材料として,第一の候補に挙げられているのは

SiC/SiC複合材料である.SiC自身の高温での優れた強度特

性,化学的安定性,耐照射特性が主な理由である.SiCセラ

ミックス自身は非常に脆いため,近年,第一壁への適用で

開発が進められてきた SiC セラミックスを SiC繊維で強化

したSiC/SiC複合材料がFCIの材料として求められるよう

になった.

SiC の電気伝導度は含まれる不純物や作製方法により,

非常に大きな幅がある.図12は市販されている常圧焼結で

作製されたHexoloy SA SiCと液相焼結法で作製されたSiC

[34],Hexoloy SAを液相焼結法で接合したHexoloy SA/

液相焼結 SiC/Hexoloy SAのサンドイッチ材(全体の厚み

1mmに対して,接合層 0.1 mm)の室温での電気伝導度を

示 し た も の で あ る.Hexoloy-SA で は 0.9-1.1×10-6

S/m,液相焼結SiCでは2.2-3.2×10-2 S/m,サンドイッチ

材では0.8-1.3×10-6 S/mであり,オーダで値が異なる.い

ずれにしても米国のDCLLで求められる値(~100 S/m)

[35]に比べて十分低いようにも思えるが,SiC の電気伝導

度は温度に非常に大きく影響を受け,CVD法で作製された

SiC は室温から実用温度で想定される 800 ℃にかけて,二

桁程増加することも報告されており[36],必ずしも十分に

余裕があるとは言えない.照射した材料に関しては,高温

で照射した材料ほど照射後の電気伝導度が低下することも

報告されているが[37],実際の照射下での挙動に関して

は,明らかになっていない.また,複合材料の場合は,炭

素等の繊維/マトリックス界面要素が影響を及ぼすため,

さらに複雑な挙動を示す.しかしながら,実環境下におけ

る電気伝導度を決める要素の特定さえすれば,複合材料に

図12 Hexoloy SA,液相焼結 SiC,サンドイッチ材(Hexoloy SA/

液相焼結 SiC/Hexoloy SA)の電気伝導特性.図11 EUが提案している dual-coolant (DC) blanketの構造[30].

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.10 October 2008

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関しては,繊維,マトリックス,界面のテイラリングが可

能であり,図12に示したように電気伝導度の異なる SiC

を接合や被覆等で組み合わせることにより制御できる幅が

大きいため,実環境下における~100 S/mという条件のみ

に関しては,比較的容易に達成できるのではないかと考え

られる.

これまでの SiC/SiC 複合材料の開発は,第一壁を目的と

したため,高強度,高熱伝導度をめざしていた.しかしな

がらFCI ではできるだけ低い熱伝導度が求められ,米国の

DCLLの例では,~2W/mK[35]が求められている.単純

には気孔率を上げれば,熱伝導度は下がるが,同時に低い

トリチウム透過性や液体金属が入り込んで電気伝導度の上

昇等の特性の変化を避けるための気密性も要求されるた

め,別の手法が必要となる.CVI 法で作製した SiC/SiC

複合材料の場合,基本的に気孔率が高いため,800 ℃の照

射環境下では,比較的熱伝導度の高いものでも 10 W/mK

以下程度と考えられている[38]ため,さらに気孔率を上げ

れば熱伝導度は下がると思われるが,気密性が問題となっ

てしまう.CVI 材の場合は,緻密なものでも気密性は問題

となるので,いずれにしても表面被覆は必要と考えられ

る.CVI材に限られたものではないが,一つの手段として,

気孔率の高い SiC/SiC 複合材料にSiCの表面被覆を施すこ

とにより,低熱伝導度と高気密性を維持する方法が考えら

れる.

SiC のリチウム鉛に対する耐腐食性に関しては,1000

℃を超えるデータも出始めているが[39],基本的には非常

に安定した特性を示している.SiC/SiC 複合材料に関して

は,気孔や炭素の繊維/マトリックス界面の影響が懸念さ

れるが,図13に示されているように非常に緻密なNITE

法で作製した SiC/SiC 複合材料[40]に関しては,600 ℃で

のリチウム鉛との共存性試験後において,反応層や SiC/

SiC 複合材料へのリチウム鉛の侵食等は見られなかった.

高結晶性の SiC に関しては,200 ℃程度以上,1100 ℃程

度以下の範囲で,基本的に 1 dpa 以下で照射によるスウェ

リングは一定になり,強度特性の劣化も見られない.高結

晶性の SiC 繊維とマトリックスで構成されたSiC/SiC複合

材料に関しても,同様に強度特性の劣化は見られない

[41].強度特性や気密性等に関しては,少なくともFCI

で考えられている環境下では照射の影響が懸念されるとい

うことはない.しかしながら,電気伝導度や熱伝導度に関

しては,先に述べたように照射の影響を大きく受けるた

め,これらを考慮した材料開発が必要である.

実用化のためには,最終的には加工性,接合性が鍵と

なってくるが,最近の非常に緻密な材料では,図14に示す

ようにねじ加工をできるほどの加工性も得られている

[42].接合に関しては,高温,高圧をかけることが許され

れば,SiC のマトリックス形成技術を応用した非常に強固

な接合技術が得られており[43],その場補修にも適用でき

るようなポリマーを用いた接合技術開発も現在行われてい

る[44].

FCI に要するそれぞれの条件を満たす材料を作製するこ

とは,現時点でも可能であると考えられる.しかしながら,

それぞれの条件には相反する材料特性も含まれている.例

えば,低い電気伝導度と熱伝導度であれば,空孔率の高い

方が有利であるのに対して,液体金属が材料に入り込まな

いことやトリチウム透過の低減を考慮すれば,緻密な材料

が有利である.これらの条件をすべて満たす材料は未だ得

られていない.照射環境下で使用することを考えると,繊

維は高結晶性繊維に限られるため,液体金属の侵入やトリ

チウムの透過を抑えることができるような緻密でありなが

ら,電気伝導度,熱伝導度を抑えるような,繊維/マト

リックス界面,マトリックスの改質を行うような材料開発

か,空孔率の低い電気伝導度や熱伝導度を抑えることがで

きる材料と,液体金属の侵入やトリチウムの透過を防ぐこ

とができる緻密な材料を表面被覆や接合等で組み合わせる

ことにより,必要な特性を得るかの,いずれかの研究開発

が今後必要である.

3.6 液体のブランケット用電気絶縁被覆鈴木晶大

D-T核融合実用炉の経済性や安全性といった実用上の問

題がクローズアップされている現在,核融合炉ブランケッ

トには,より高温での使用,コンパクト化,保守管理の低

減などが求められている.このような先進ブランケット概

念におけるトリチウム増殖材料として,固体増殖材料と比

較して技術的検討課題を多く残しているものの,照射によ

る影響が少なく,連続処理が可能であり,冷却材としても

兼用できる液体増殖材料が注目を集めている.特に,液体

図13 NITE-SiC/SiC複合材料とリチウム鉛の600℃での共存性試験後の SiC/SiC複合材料と残留リチウム鉛の界面.

図14 NITE-SiC/SiC複合材料で作製したパイプのねじ加工例.

Special Topic Article 3. Functional Materials for Blankets S. Konishi et al.

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金属リチウムを増殖材兼冷却材として用いた液体ブラン

ケット概念は,トリチウム増殖比が大きいことから中性子

増倍材を必要しないブランケット設計が可能であり,ま

た,バナジウム合金への不純物進入を防ぎ劣化を和らげる

性質を持つことから低放射化バナジウム合金を長期間劣化

させずに配管材料として使用することが期待されている.

このため,液体リチウム/バナジウム合金ブランケット概

念は,シンプルかつ長寿命の核融合炉ブランケット設計へ

の期待が高く,ITER用のTBM開発に向けてロシアや日本

などから注目されているところである.

このブランケット概念における重要な技術的検討課題の

一つとして,ブランケットを貫く磁力線と冷却材との磁場

電磁流体力学(MHD)相互作用による冷却システムポンプ

圧の大きな損失が挙げられる.磁場中で液体金属を金属配

管中に流す場合,静止している配管と液体金属の間に渦電

流が流れ,液体金属は流路と逆向きの力を受ける.この力

によって引き起こされる冷却材ポンプの圧力損失(MHD

圧損)は許容できないほど大きく,いわば冷却システムの

機能を失うことを意味する.このMHD圧損への対策とし

て,液体金属と配管の間に電気絶縁性セラミックコーティ

ング(MHDコーティング)を設置することが考えられてい

る.MHD圧損は冷却材中に発生する渦電流によっても発

生するが,冷却材と配管の絶縁が確保されれば大幅に低減

させることが可能である.

MHDコーティングの開発は液体リチウム/バナジウム

ブランケット概念の成否の鍵を握る技術課題であり,日米

露の大学や研究所における基礎研究のみならず,平成13年

度から平成18年度に実施された JUPITER-2 事業の中心課

題の一つとして強力に推進されてきた.MHDコーティン

グの満たすべき項目は以下に示すように多岐にわたってい

るが,特に近年さまざまな基礎試験が実施されて良好な結

果が得られており,高性能コーティング実現への可能性が

実証されつつある.

� 高温液体リチウムとの長期の化学共存性を有すること

� バナジウム合金への密着性が高く,高温まで安定であること

� 高温照射下で高絶縁性を保持すること� 配管内面に作成可能な手法で作成可能なこと� クラックや腐食孔を通しての短絡を抑え,修復可能なこと

など

高温液体リチウムは最も還元性の強い物質の一つであ

り,液体リチウムに還元されないセラミックスはわずかし

か存在しない.その中で,中性子との核反応が大きいセラ

ミックス,絶縁性の低いセラミックスを除外し,酸化カル

シウム,酸化イットリウム,酸化エルビウム,ジルコン酸

カルシウム,および窒化アルミニウムの焼結体について,

図15 液体リチウムとの共存性試験結果[45].液体金属リチウムに1000時間浸した後の各候補材料試験片の重量減少量. 図16 自然対流液体リチウム共存性試験装置.

図17 各種セラミックス試験片表面の高温液体リチウム腐食試験前後における電子顕微鏡観察像.

Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.10 October 2008

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最大 800 ℃,1000 時間までの液体金属リチウムとの共存性

試験を行った.その結果,図15に示されるように[45],酸

化イットリウム,酸化エルビウムおよび窒化アルミニウム

が候補材料となることがわかった.

これら焼結体の流動リチウム下での共存性試験も実施し

ている.図16に示すような高温部 500 ℃,低温部 400 ℃低

温度,流速(1 cm/sec 以下)の自然対流ループを設計・製

作し,250時間の腐食試験を実施した.図17に示すように

AlNについては,析出物が観察されXPS(X-Ray Photoelec-

tron Spectroscopy; X線光電子分光法)スペクトル測定によ

りAl-N-O 系化合物だと判明し,Y2O3 についても析出物が

観察され,XRD(X-Ray Diffraction;X線回折)スペクト

ルより LiYO2 と同定されたが,Er2O3 については洗浄中に

発生した亀裂,およびLiErO3と考えられる若干の腐食生成

物以外大きな変化は見られなかった.この若干の腐食生成

物の生成はセラミックスの還元によって発生しておらず,

酸素濃度に依存して上昇することが確認されており,以下

のような反応式であらわされると考えられる.

Er2O3 + 2Li + O(Li)→ 2LiErO2

このわずかのLiErO3によって発生するXRDピークのうち

22度のピークを指標とし,質量移行試験(高温部600 ℃,低

温部 380 ℃,流速 1.2 cm/sec)を実施した結果を図18示す.

セラミック試験片の重量変化は極めて小さかったものの,

XRDの22度のピーク強度には高温部と低温部における依

存性が見られた.また,流速を 2.5 cm/sec に増大させると

この腐食生成物の剥れによる若干の重量減少が発生した.

以上のように酸化エルビウムの腐食は温度勾配下において

も極めて小さく,また,寿命評価につながるデータも得ら

れつつある.

酸化エルビウムの薄膜化の努力も実施している.物理蒸

着法の一種であるアークソースプラズマ蒸着法のパラメー

タを制御することによってリチウム耐食性を保持したコー

ティングの作成[46]に成功しており,大面積および配管内

面への適用が容易なスピンコーティングによる酸化エルビ

ウム薄膜の作成を進めている.この酸化エルビウム薄膜は

高い絶縁性(図19)を示すとともに,トリチウム透過抑制

膜としても機能することが図20のように示されており,ブ

ランケットにおけるトリチウムの移動を抑制する効果も期

待することができる.

薄膜化を行った際,コーティング作成時に導入されるポ

アや亀裂,あるいは,腐食や劣化によって発生するポアや

亀裂が発生すると,その中に導電性の液体リチウムが入り

込み絶縁性を損なうことが考えられる.この対策として2

つのアプローチを実施している.一つは,基盤中に酸素を

液体リチウム中に若干のエルビウムを導入することによっ

て,亀裂部分に酸化エルビウムを生成させる試みであり,

小さなポアの内部での生成が確認されている.また,若干

の渦電流の通り道となるものの,酸化エルビウム上に非常

に薄い鉄,あるいは純バナジウムによる耐食用金属コー

ティングを張る方法が考えられ,液体金属リチウム中での

絶縁性の保持および耐食性についてデモンストレーション

図18 温度勾配下共存性.温度勾配を持つ液体リチウム中における Er2O3セラミック被覆の質量移行試験結果.Er2O3セラミック被覆表面に観測される LiEr2O3に対応した X線回折の 22°のピーク強度とリチウム温度との関係を示す.

図19 酸化エルビウム薄膜の電気絶縁性.316ss:ステンレス316鋼.

図20 酸化エルビウム薄膜による水素透過抑制.bare 316ss:被覆なし,Er2O3/316ss(a):316ss上に約 1 μmの結晶化不十分のEr2O3セラミック被覆(アニール条件,700℃,真空中),Er2O3/316ss(b):316ss上に約 1 μmの高結晶化Er2O3セラミック被覆(アニール条件,700℃,6N-Ar中),F82H:核融合炉用低放射化フェライト鋼(被覆なし).

Special Topic Article 3. Functional Materials for Blankets S. Konishi et al.

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Page 13: 3.ブランケット機能材料 - jspf.or.jp · て必要な強度は重要であるが,この「構造材」には極めて 多くの他の機能も要求されている.ブランケットの材料

を行っている.

参 考 文 献[1]L.Giancarli,V.Chuyanov,M.Abdou,M.Akiba,B.G.Hong,

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[8]平成15年度九州大学共同利用研究集会「先進核融合機能材料としてのベリリウム金属間化合物に関する研究集会」資料集,平成16年3月,九州大学応用力学研究所

[9]平成16年度九州大学共同利用研究集会「先進核融合機能材料としてのベリリウム金属間化合物に関する研究集会」資料集,平成17年3月,九州大学応用力学研究所

[10]平成17年度九州大学共同利用研究集会「先進核融合機能材料としてのベリリウム金属間化合物に関する研究集会」資料集,平成18年3月,九州大学応用力学研究所

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[13]Y.Mishima, N. Yoshida, H. Takahashi K. Ishida, H. Kawa-mura, T. Iwadachi, T. Shibayama, I. Ohnuma, Y. Sato, K.Munakata, H. Iwakiri and M. Uchida, Fusion Eng. Des.82, 91 (2007).

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Journal of Plasma and Fusion Research Vol.84, No.10 October 2008

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