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17 札幌市おける 生物多様性の現状と課題 自然環境 社会環境 課題のまとめ ダミー

第3章「札幌市における生物多様性の現状と課題」(前半:P17~32

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第3章 札幌市における

生物多様性の現状と課題

1 自然環境

2 社会環境

3 課題のまとめ

ダミー

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(1)概要 札幌市は、明治2年の開拓使設置からわずか 140 年の間に、北海道開拓の拠点として都市化が進み、現在では、全道の約 1.3%にすぎない面積に全道人口の3割以上(190 万人)が暮らす全国でも有数の大都市となっていますが、人口密度は約 1,700 人/km2と、政令指定都市の中では比較的低く、豊かな自然に恵まれています。 地理的には、冷温帯と亜寒帯の移行部分に位置しており、その気候は、日本海型気候に属し、冬季の積雪寒冷を特徴としていますが、対馬海流の分流が石狩湾を流れるため、比較的穏やかで、鮮明な四季の移り変わりを見る事ができます。

図 7 札幌市の人口

自然環境

全道人口の3割以上190 万人

資料:札幌市統計書(2011 年)(札幌市)

50

100

150

200

1860 1880 1900 1920 1940 1960 1980 2000 2020

(万人)

0

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第1章

はじめに

第2章

ビジョン策定にあたって

第3章

札幌市における生物多様性の現状と課題

第4章

推進する施策

また、地勢的には(図 8)、北海道の地形・地質の境目となっている石狩平野の南西部に位置し、南は支笏洞爺国立公園を含む山地が広がり、北に広がる市街地に接する藻岩山・円山は国の天然記念物に指定されています。政令指定都市においては市域に国立公園と天然記念物を同時に有する唯一の都市です。 その市域は、総面積 1,121 ㎢(東西 42.3km、南北 45.4km)、最高地点高度 1,488m(余市岳)、最低地点高度 1.6m(旧発寒川付近)と広大な面積と大きな標高差を有するとともに、地形的変化に富んでおり、大きく4つの地勢に区分される中に、上流・中流・下流の全ての条件がある大小の河川や湖沼、渓谷などが見られます。

図 8 札幌市の地勢図と都市計画区域

市街化区域

市街化調整区域

都市計画区域外

河川

山地

丘陵

台地

扇状地

低地

北東部に広がる第四紀以降の海進海退(形成25 万年前~)や縄文海進以降の植物遺体の堆積(形成5千年前~)でできた泥炭地が分布する「低地」(形成 150 万年前~)

中央部を縦貫する豊平川や琴似発寒川によって形成され、早くに市街地が広がった「扇状地」(形成4万年前、1万年前)

支笏火砕流の「台地」(形成4万年前~)

南東部で波状に連なる 「丘陵」(形成150万年前~)

南西部一帯に広がる、主に新第三紀の火山活動で形成された「山地」(形成 1500 万年前~、400 万年前~)

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図 9 札幌市の土地利用の変化

Q 札幌の土地利用は どう変化してきたんですか?

開拓の時代からの変化を

みてみるッコ~ 教えてカッコウ先生⑦

明治 2 年(1869 年)に開拓使が置かれてから、本格的な開拓が始まり、扇状地に市街地が設けられ、北部の低地には、「荒地」や「広葉樹林」が広がっていきました。 大正期には、北海道帝国大学が設置され、人口的には道内3番目の都市に発展しました。原野や樹林地が急激に減少し、市街地以外の扇状地では水田開発が行われました。 昭和初期には人口が 20 万人を超え、函館市を上回り、水田として開発された扇状地が果樹園に置き換わり、「水田」は市街地北部の低地に分布するようになりました。 その後、昭和中期(昭和 30 年ごろ)までは大きな変化はみられませんが、簾舞周辺や

中ノ沢、川沿周辺など、昭和初期に回復した樹林地の一部で伐採が目立ちます。 高度成長期は、エネルギー革命を背景とした道内産炭地からの人口流入や札幌オリンピックに向けた開発などにより、人口 100 万人を超え、昭和 47 年(1972 年)に政令指定都市に移行しました。市街地の拡大や豊平川の河道切り替えに伴って、低地部の荒地や草地はほとんどなくなり、畑地や水田にとって代わりました。 バブル経済が崩壊し景気低迷が始まった平成期は、人口増加規模が縮小しながらも、平成 4年(1992 年)には 170 万人を超え、現在では 190 万人となっています。市街地は、北部の低地をはじめ、豊平川沿いの山麓斜面、丘陵地、谷底平野に拡大し、畑地や水田が大きく消失しました。また、屯田周辺にあった樹林地も消失しています。

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推進する施策

(2)生物多様性 札幌市の生物多様性の現状を「3つの多様性(生態系、種、遺伝子)」からみてみましょう。

図 10 3 つの多様性

遺伝子の多様性

種の多様性

生態系の多様性

色・形・模様、

たくさんの個性があります

動物・植物・昆虫、

たくさんの生きものがいます

山・川・海・まち、

たくさんの種類の自然環境があります

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ア 生態系の多様性

札幌市は、18~19 ページに述べた地勢、地形、気候やその成り立ちなどの諸条件から、元来、多様な生態系や生物相が成立する条件を備えています。また、本州の都市に比べて、開拓当初から計画的に開発が進められてきたため、南西部の山地や円山・藻岩山などの原生的な生態系から、公園や農地などの人為的な生態系まで、質的・量的に多種多様な生態系がみられます。これらの生態系は、図 12 のとおり概ねゾーンに沿って分布しており、その概要は 24~27 ページに記載のとおりです。

図 11 ゾーン

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推進する施策

図 12 ゾーンと生態系の分布状況

(注1)市内を 1km四方のメッシュで区切り、各メッシュ内で最も面積が大きいなど、代表的な生態系を示した。

(注2)図中のその他とは、緑の少ない住宅密集地やゴルフ場など凡例に分類できないメッシュを示す。

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自然林・自然草原(湿原)

札幌市南西部の比較的標高の高い地域では、過去の森林伐採の影響が少なく、現在でも自然性の高い樹林地(針葉樹林、針広混交林、広葉樹林)や草地が維持されている生態系です。そこには、ヒグマやクマタカ、クマゲラなどの動物やエゾコザクラ、ジンヨウキスミレなどの希少な高山植物、カオジロトンボ、ムツアカネなどの高山性の昆虫などが生息しています。

観音岩山(八剣山) 円山原始林

無意根山大蛇ヶ原

二次林

市街地周辺や山麓、丘陵では、明治後半から大正期にかけて盛んに自然林が伐採されてきましたが、高度経済成長期以降そこにエゾイタヤ、ミズナラなどを主体とする二次林が形成されています。こうした環境では、適度に管理された明るい林の林床にカタクリなどの春植物や多様な草本がみられ、そこに集まるマルハナバチやチョウなどの昆虫、それを食べる鳥類や哺乳類が生息しています。

宮丘公園 平岡公園 滝野すずらん丘陵公園

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推進する施策

人工林

明治以降の伐採後にトドマツやカラマツなどが植林された場所です。これらは樹種が単一で、多くは林床植物が少なくなるため、生態系の構成種が単純になります。札幌市における人工林の分布は、広範な自然林や二次林の中に介在しています。

白旗山(カラマツ林) 白旗山(トドマツ林)

公園緑地等

市内には、開拓当時から維持されてきた緑地や、近年に畑地や造成地等から計画的に整備された公園緑地、私有地の庭などさまざまな緑地が存在し、身近な生き物が生息しています。人為的につくられた環境ですが、都市生活にうるおいをもたらすものとして利用されています。

モエレ沼公園 前田森林公園

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畑地・雑草地・湿地

札幌市北東部の平野部を中心に、畑地、牧草地のほか、耕作がされず雑草が繁茂した土地がみられます。開拓前の低地には湿地が分布していましたが、明治期に開発が始まり大正期には市街地周辺の各所で畑地が拡大した結果、湿地は極めて少なくなりました。このような低地の草地・湿地には、ノビタキなどの草原性鳥類やエゾヤチネズミなどの哺乳類、ルリボシヤンマなどの昆虫類が生息しています。平成期以降は、宅地化などにより畑地なども急速に縮小しています。

篠路福移湿地周辺

石狩川河畔草原

札幌市東区

西岡水源地

防風林

明治の開拓時に、強風から農作物を守るため自然林の一部を残置したことから始まったとされ、大正期にセイヨウハコヤナギやヤチダモがさかんに植林されました。昭和期以降も周辺住民の植樹や間伐等手入れが多く入り、厳しい季節風から家屋や農作物を守るなど生活の安全を支えるとともに、人と自然との共存を考える場として生物多様性に貢献しています。

ポプラ通 北区屯田町の防風林

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河川

札幌市には、大小約 590 本もの河川があり、上流から下流にかけて、流域の様々な生態系と相互に関わりあいながら、多くの生物を育み、陸と海をつなぐ重要な役割を担っています。これらは水道水、農業用水などの供給源であるとともに、サケ、イバラトミヨなどの魚類をはじめとする水生生物やカワセミ、ダイサギなど鳥類等の生息・生育環境となっています。また、物質循環や水質の浄化、人の憩いの場の提供など、様々な機能を持っています。

豊平川(中流:豊平橋周辺)

河畔林

ヤナギ類やケヤマハンノキなどにより河畔に形成される樹林地で、チゴハヤブサやオシドリなどの野鳥が繁殖のために利用するほか、木立の下の水辺には魚類など生き物が多く生息しています。昭和中期以降の市街地の拡大や河川整備などにより、河畔林の面積は小さくなってきましたが、連続した樹林地として河川の上流と下流をつなぎ動物の移動路となるなど、生態系のネットワーク機能を持っています。

東屯田遊水地

豊平川の上流

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イ 種の多様性

札幌市域には南方系の生物と北方系の生物が多様に生息・生育し、これまで、およそ 6,000種もの生物種が記録されています(表 2)。その中には、昆虫ではサッポロフキバッタ、ジョウザンシジミ、モイワサナエなど、植物ではモイワラン、モイワナズナ、モイワシャジンなど札幌の地名がついた生き物もいます。

表 3 札幌市の動植物の種数

※希少種の選定基準は以下のとおりである。 「文化財保護法」(昭和 25年法律第 214 号):特別天然記念物、天然記念物 「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(平成 4年法律第 75 号):国内希少野生動植物種、緊急指定種 「北海道文化財保護条例」(昭和 30年北海道条例第 83 号) 「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」(平成 13年北海道条例第 4号) 環境省(2006)「鳥類、爬虫類、両生類及びその他無脊椎動物のレッドリストの見直しについて」及び、 環境省(2007)「哺乳類、汽水・淡水魚類、昆虫類、貝類、植物 I 及び植物 II のレッドリストの見直しについて」 :絶滅、野生絶滅、絶滅危惧 IA 類、絶滅危惧 IB 類、絶滅危惧 II 類、準絶滅危惧、情報不足、絶滅のおそれのある地域個体群 北海道(2001)「北海道の希少野生生物 北海道レッドデータブック 2001」 :絶滅種、絶滅危機種、絶滅危惧種、絶滅危急種、希少種、留意種、地域個体群

※外来種の選定基準は以下のとおりである。 北海道(2010)「北海道の外来種リスト ‒北海道ブルーリスト 2010-」:A1、A2、A3、B、C、D、E、h、K

種類 全確認種数 希少種※数 外来種※数 哺乳類 34 14 41% 10 29% 鳥類 324 76 23% 4 1% 両生類・爬虫類 13 1 8% 4 31% 魚類 59 22 37% 14 24% 昆虫類 3,868 97 3% 18 0.4% 植物 1,820 193 11% 315 17%

合計 6,118 403 7% 365 6%

サッポロフキバッタ

モイワサナエ

モイワラン

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希少種

札幌市内で確認された動植物のうち、約 400 種は絶滅のおそれのある種として、環境省のレッドリストや北海道レッドデータブックなどに掲載されています。 森林に生息・生育する種では、ヤマコウモリ(哺乳類)やクマタカ(鳥類)、エゾサンシ

ョウウオ(両生類)、ムカシトンボ(昆虫類)、サルメンエビネ(植物)、フクジュソウ(植物)などがあげられます。草地に生息・生育する種では、カラフトアカネズミ(哺乳類)、チュウヒ、シマアオジ(鳥類)、カラカネイトトンボ(昆虫類)、ミクリ、ヒメガマ(植物)などがあげられます。河川の上流に生息する種では、オショロコマ、ハナカジカ(魚類)などが、下流に生息する種では、エゾホトケドジョウ、イシカリワカサギ(魚類)などがあげられます。 また、希少種に指定されていない生き物であっても、生息環境などが悪化すれば、市内で姿が見られなくなる可能性があり、例えば、札幌市の鳥であるカッコウをはじめとする草原性の鳥類については、近年の草地環境の減少による生息地の縮小が懸念されています。 また、過去の例では、豊平川のサケが一時姿を消しましたが、カムバックサーモン運動による稚魚の放流や水質の回復などにより再びその姿が見られるようになり、今では、自然産卵による野生のサケも安定的に見られます。

エゾサンショウウオ サルメンエビネ チュウヒ

外来種

外来種とは、もともとその地域にいなかった生き物が、人間の活動によって他の地域から導入されたものをいい、外国から持ち込まれたものだけではなく、国内の他地域から持ち込まれたものも含まれます。 特に、北海道は、津軽海峡(ブラキストン線)を境界にして動物相が区分されるなど、本州とは異なる生物相が見られます。植物では本州原産のカラマツやフジなど、動物でもサクラマス(アマゴ)、カブトムシなどが、北海道においては外来種ということになります。 外来種は、私たちの生活に普通に見られるものとなっており、日本の野外に生息する外国

起源の生物の数はわかっているだけでも約 2,000 種になります。 また、北海道の外来種リスト(北海道ブルーリスト 2010)では、道内にいる外来種につ

いて、国内移入種も含めて 860 種を挙げています。札幌市では、そのうち 365 種が確認されています。このうち、外来生物法で指定されている特定外来生物としては、動物ではアライグマ、ミンク、セイヨウオオマルハナバチなど、植物ではオオハンゴンソウ、オオキンケイギク、オオフサモがあげられます。

セイヨウオオマルハナバチ アライグマ オオハンゴンソウ

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図 13 札幌市内のサケマップ

Q カムバックサーモン運動 ってどんな活動?

豊平川にサケを呼び戻そうと

市民の呼びかけで

始まったんだッコ~ 教えてカッコウ先生⑧

出典:札幌市豊平川さけ科学館ホームページ

札幌の中心を流れる豊平川では、戦後の人口急増による水質の悪化によって、長い間サケの回帰が途絶えていました。その後、1960 年代の本格的な下水道の整備によって、次第に水質は回復しました。 そして 1978 年、豊平川に再びサケを戻そうと「カムバックサーモン運動」が起こり、1979 年春には、30 年ぶりに豊平川へのサケ稚魚の放流が再開されました.その稚魚たちは、1981 年秋以降、親ザケとして豊平川に帰って来ました。 サケの姿を見た市民からは 「サケのふ化・放流を続けるための市民のふ化場を」、また「サケについて学習するための施設を」といった声が高まりました。 その市民の声を受けて、1984 年 10 月に札幌市豊平川さけ科学館が開館しました。現在では、ふ化放流事業以外にも、サケの仲間や豊平川の淡水魚などを飼育展示し、サケや豊平川に関するさまざまな情報を発信しています。 札幌市内には、サケが遡上する水系が豊平川水系を含めて 3つあります。このうち新川水系と星置川水系は、カムバックサーモン運動などで稚魚の放流をしておりませんが、都市において自然産卵する環境が残されている貴重な河川です。 稚魚の放流によりサケの遡上が回復した豊平川においても、将来的には自然産卵によってサケの回帰が維持されることが理想です。近年の調査では、回帰魚に占める自然産卵魚の割合が高まっており、今後、その定着状況を踏まえて、議論を深めていく必要があります。

札幌を代表する川、豊平川には、1981 年のカムバックサーモン運動による遡上の復活以来、毎年多くのサケが帰ってきます。サケの産卵は、市街中心部から近い豊平橋や東橋付近で特に多く見られます。近年の遡上数は、1000~2000尾ほどです。

豊平川水系

新川支流の琴似発寒川では、毎年 300~500 尾程度のサケが遡上し、農試公園の横付近を中心に産卵しています。 小さい川なのでサケの姿を見つけやすく、とても観察しやすい川です。

新川水系

小樽市との境界付近を流れる星置川にも、毎年 100 尾程度のサケが遡上します。 産卵場所は、国道 5 号線(星置橋)から下流、星観緑地横付近までの一帯です。

星置川水系

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ウ 遺伝子の多様性

遺伝子の多様性が減少した生物種は、絶滅の危険性が高まります。種が絶滅した場合、生態系の縮小や崩壊を引き起こす可能性があるため、遺伝子の多様性の減少は生物多様性のすべてのレベルに影響が及びます。 具体的には、遺伝子の多様性が低い集団では、環境の変化や疫病の流行に対して、絶滅する危険性が高まりますが、遺伝子の多様性が高い集団の場合、環境変化や疫病に対応できる個体が存在する確率が高くなり、集団を存続できる可能性が高まります。種の多様性を維持するためには、遺伝子の多様性も保全する必要があります。 また、近年では、遺伝子工学の発展に伴い、新薬の開発や農作物の改良などに多くの遺伝子が実用的な価値を持つようになりました。現時点では重要性が認められていない遺伝子でも、将来的には有効な資源となる可能性を秘めており、このような点でも、遺伝子の多様性を保全する必要があります。 一般に、生息地の分断や個体数の減少によって、遺伝子の多様性が低下するおそれがあると言われています。 また、遺伝子の多様性の保全は、野生生物だけでなく、農作物や家畜などについても重要な視点であり、経済性や生産性などが優先されて栽培品種の単一化が進みすぎると、新しい病気が発生した場合に、その被害が極めて大きくなるおそれがあります。札幌市には、札幌黄(タマネギ)や札幌大球キャベツなど、札幌特産の伝統品種がありますが、このような伝統品種を守り育てることも遺伝子の多様性の保全に欠かせない要素です。

札幌黄

さつおう

「札幌黄」は、一般に流通しているものよりも肉厚で柔らかく、加熱後の甘みが強いたまねぎです。その特徴的な味と、入手のしにくさが相まって「幻のたまねぎ」と言われており、平成 19 年(2007 年)には、「食の世界遺産」と言われる、スローフード協会国際本部(イタリア)の「味の箱舟」に認定されています。 また、平成 24 年 8月には生産者・事業者・消費者が中心となって「札幌黄ふぁんくらぶ」が発足し、「札幌黄」を介して新たなコミュニティが生まれています。 ※「味の箱舟」は、地方の伝統的かつ固有な在来品種のうち、消えてしまう可能性のある希少な食材を世界的な基準の下で認定し、地域における食の多様性を守ろうというプロジェクトです。

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Q カルタヘナ法って なんですか?

遺伝子の多様性を守る

大切な世界の決まりッコ~ 教えてカッコウ先生⑨

正式名称は、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」です。 日本国内において、遺伝子組換え生物の使用等について規制をし、生物多様性条約カルタヘナ議定書を適切に運用するための法律で、遺伝子組換え生物が生物多様性へ影響を及ぼさないかどうか事前に審査することや、適切な使用方法について定められています。 カルタヘナ法では、遺伝子組換え生物の使用形態を二種類に分け、それぞれのアプローチで生物多様性への影響を防止しています。 そのほか、未承認の遺伝子組換え生物の輸入の有無を検査する仕組みや輸出の際の相手国への情報提供の方法等について定められています。

開放系での使用(第 1種使用)食料や飼料としての運搬、農地での栽培などでは。生物多様性への影響が生じるおそれがないと承認されたものが使用できます。

閉鎖系での使用(第 2種使用)実験室・工場内などでは。環境中への拡散を防止するために定められた方法で使用できます。

出典:環境省ホームページ

遺伝的撹乱

人為的に移入された他の地域の生き物との交雑により、遺伝的撹乱が生じ、その地域に固有の遺伝的形質が損なわれる可能性があります。 この場合、各地域の生き物は、長い年月をかけて、その地域の環境に適応しながら周りの生き物と共に進化してきたため、新たな遺伝的形質の発現状況によっては、その種自身の存続、又はその種とつながりのある他の種の存続に作用し、生物多様性に影響を及ぼす可能性も考えられます。 なお、札幌市において遺伝的撹乱の影響が顕在化した事例の有無は不明です。 また、遺伝子組換え生物についても、自然界には存在しないものであるため、野生化した場合の生態系の撹乱や、野生生物と交雑した場合の遺伝子汚染の可能性が懸念されています。 札幌市では、これまで遺伝子組換え作物の栽培事例はありませんが、国においては、平成15 年(2003 年)に「遺伝子組換え作物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」が制定され、輸入や栽培が規制されています。 さらに北海道においても、平成 17 年(2005 年)に「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」が制定され、一般栽培の許可制度、栽培時の隔離距離や管理方法など、具体的基準により交雑・混入の防止が図られています。