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498-03784 50 各波形の意味と表示ルール ─心電図の世界の“お約束”を知る─ 5 実際の波形を眺めよう 心電図とは心臓内電気シグナルがわっていくことでじる各所収縮活動表現したもの だと前回学びましたが,話内容としてはまだ抽象的でした.“習うよりれろをモットーに している,早速実際心電図使って波形をはじめたいといます図 5︲1 さいこれが一般的12 誘導心電図記録です.12 個もあると複雑にもえますが,実目立きなきに注目して分類した場合,次のようなきく 2 つのパターンがあるこ とがわかるといます図 5︲2). A B とで上向きか下向きかがいますが,両方とも基本的には 3 つのから V 1 V 2 V 3 V 4 V 5 V 6 aVR aVL aVF 図 5-1 一般的な 12 誘導心電図 05_心電図の診かた.indd 50 13/03/06 21:01

5 各波形の意味と表示ルール - icrip.jp · 498-03784 第 5章 各波形 の 意味 と 表示 ルール │心電図 の 世界 の 〝 お 約束〞 を 知 る │ 51

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各波形の意味と表示ルール─心電図の世界の“お約束”を知る─

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実際の波形を眺めよう心電図とは心臓内を電気シグナルが伝わっていくことで生じる各所の収縮活動を表現したもの

だと前回学びましたが,話の内容としてはまだ抽象的でした.“習うより慣れろ”をモットーにしている私は,早速実際の心電図を使って波形の話をはじめたいと思います.図 5︲1を見て下さい.これが最も一般的な 12 誘導心電図の記録です.12個もあると複雑にも見えますが,実は最

も目立つ大きな波の向きに注目して分類した場合,次のような大きく 2つのパターンがあることがわかると思います(図 5︲2).Aと Bとで真ん中の波が上向きか下向きかが違いますが,両方とも基本的には 3つの波から

V1

V2

V3

V4

V5

V6

aVR

aVL

aVF

図5-1 一般的な12誘導心電図

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5.各波形の意味と表示ルール ─心電図の世界の“お約束”を知る─

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ますが,「再分極」はエキサイトした心室筋が元の状態に戻る回復過程のことなんです.“熱冷まし期間”とでも言えるでしょうか.フムフム,なるほど.T波はQRS 波の“残り香

”というイメージですね.ところで質問なんですが……心房には再分極はないのですか? 脱分極は P 波なんですよね.良く気づきましたね.心室同様,心房にも再分極過程は存在するはずで,それに相当する波形

も出現するとされます.この波も一種の T 波であり,名称は“atrium”(心房)という意味の“a”をつけて「Ta波」と呼ばれています.へー,ティーエーハなんて初めて聞いちゃいました.ただ,一般的には Ta 波の大半は巨大なQRS 波の中に埋もれてしまって,はっきり見えない

ことが多いんですよ.時たま Ta 波の影響が心電図上に現れる病態があるとされますが,標準レベルの知識を超えるので覚えなくて結構ですよ.最初から無理するのはやめておきましょう.

T波は忠実な家来分極のお話をしたので,ついでの話を少し扱っておきます.最初に P 波→QRS 波→ T波の順

番になるのが普通だと説明しましたが,実は不整脈の一部ではこうした関係が崩れます.その多くでは P 波の数が増えたり減ったりするか,“定位置”以外の場所に P 波が移動してしまったりするためです.P波は気ままというか移り気なんですね.ですから,自分の見ている波がどれなのかを普段から明確にしておくことは大切です.3つの

波の中でQRS 波は鋭くとんがった波ですので,どれがQRS 波なのかは一目瞭然のことが多いです.では,問題となるのは「T波なのか P 波なのか?」になるんですね.後で詳しく扱いますが,その際のポイントになるのが次の事実です.

T 波は必ずQRS波の直後に“お供とも

”する

しかも必ずQRS 波→ T波の順番になります.T 波はQRS 波に非常に“忠実”といえるのです.なぜかといえば,心室の脱分極と再分極は必ず一対で起きるため,順序が逆になることも片方がなくなることもないからです.当然と言えば当然ですよね.いったん脱分極したら必ず再分極する必要がありますからね.このことを意識しておくと,前後数拍の心電図波形を見渡せば T 波も比較的簡単にマーキン

グできるようになります.あとは“QRS 波でも T 波でもない”波として,残った P 波をうまく見つけ出すことができるのです(☞スクリーニング編『13章 波形の配列チェック①』参照).最後の話は少し難しそうでしたが,それまではわかりやすい説明だったのでスーッと話が理解

できました.何よりアレルギー的に嫌いだった心電図波形を見ても,愛着すら感じられる気もしました.ありがとうございます.

T 波は必ずQRS波の直後に“お供とも

”するPoint!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!

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第5章

各波形の意味と表示ルール

 │心電図の世界の〝お約束〞を知る│

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洞結節や房室結節は?刺激伝導系を電気シグナルが伝わっていく過程が心電図に表示されるとすると,洞結節や房室

結節などの活動はどこにあるんだと思いませんか?たしかに P 波,QRS 波,T波以外に波はないようですね.原理的には P 波の手前に洞結節,P

波とQRS 波との間に房室結節の活動を示すナミがあっても良さそうですが…….まさにその通りです.図 5︲3を見て下さい.刺激伝導系と心電図の波との関係がわかりやすいですね.実は,洞結節や房室結節は心房や心室などと比べるとほんの小さな組織なため,その電気活動

は体表面からの心電図ではとらえることができないのです.ただ,通常は心電図を見るときに洞結節そのものを意識する必要はなく,“P波の直前”というより,洞結節≒ P波のように考えてほぼ間違いないと思います.房室結節の方はどうでしょうか?房室結節についても,やはり心電図波形としては描かれないですが,次のことが大切です.

PR部分(またはPQ部分)は房室結節を通過している時間帯に相当する

P 波とQRS 波の間とは,正確に言えば「P波のおわり」から「QRS波のはじまり」までの間で,この部分を PR 部分または PQ部分と呼びます(☞スクリーニング編『20章 間隔を調べよう』参照).ここは通常はフラットに見えますが,頭の中では「あー,房室結節を電気興奮が通過しているんだな」と思って下さいね.

PR部分(またはPQ部分)は房室結節を通過している時間帯に相当するPoint!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!

PR PRP T

QRS

P T

QRS

心房から心室へ(房室結節付近を通過)

心室収縮

洞結節(波形としては見えない)

心房収縮

心電図

等電位線(T-P ライン)

図5-3 刺激伝導系と心電図の関係

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5.各波形の意味と表示ルール ─心電図の世界の“お約束”を知る─

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波形表示ルール①それぞれの波が何を示しているのかわかったところで,次は少し視点を変えて心電図波形の表示ルールを学びましょう.1つ目のルールを図 5︲4にまとめました.出たっ! 宇宙人ですね.4つの方向からカメラを向けています.1つずつが誘導に相当する

と思えば良いですね.それで,真ん中にある棒みたいなものが心臓ですか?中央にあるのが心筋 1カケラだと思って下さい.今,向かって左側から右側へ向かって電気

シグナルが流れていっている様子を考えましょう.単純なモデルで心電図の表示のルールを学んでもらいます.まず最も基本となるのは,図中の Aや Bなどの電気シグナルが進んでいく方向と平行な地点の宇宙人から眺めた場合です.“観測地点”という言葉は誘導と読み替えてもらって結構です.まず,心電図波形を表示する際の約束として,次の大前提があります.

約束① 心筋内を伝わる電気シグナルが観測地点(誘導)に向かってくるときには

陽性波(上向きの波),離れていくときには陰性波(下向きの波)として表示する

各誘導が「どこの方から見ているのか?」と関連づけたイミが少しわかってきたような.陽性とか陰性の基準は“ゼロ点”ともいうべき基準線で,そのうち勉強するので今は多少あい

まいでもかまいません(☞イントロ編『7章 QRS 波の命名法』参照).この原則に従うと,Bから眺める宇宙人は,心筋内を伝わる電気シグナルは常に自分に対して近づいて来るように見えるはずですね.約束①に従えば,これは完全な「陽性波」の心電図として表示しなくてはいけません.では,Aの宇宙人はどうでしょうか?Bの真逆ですね.ここの宇宙人にとっては,電気がズーッと自分から離れていくように感じる

A B

DC

DC

CD

心筋片

電気シグナル

図5-4 心電図描画の約束①観測地点(誘導)に電気シグナルが向かってくるときには陽性(上向き)の波,離れていくときには陰性(下向き)の波として表示する.

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第5章

各波形の意味と表示ルール

 │心電図の世界の〝お約束〞を知る│

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できているんですね.左から順に小さい波,大きい波,そして中くらいの波です.それぞれ P 波,QRS 波,そして T 波と呼ばれるのですね.しかし,なんでアルファベットの中途半端な“PQRST”を使った名称なんですかね?鋭いですね.心電計の開発同様,これらの心電図波形の名付け親もアイントーベン自身とされ

ますが,実はなぜ“PQRST”という文字を使ったのかについては文献的な記載はないようです.つまり不明なのです.実はこの話に関しては諸説あるようですので,興味がある方は課外授業 4『心電図はなぜ P 波から?』をどうぞ.

3つの波が意味するもの正常な心電図では必ずこの“小→大→中”の 3つの波の繰り返しになりますが,それぞれ何を意味するかを考えましょう.これは刺激伝導系と対応させれば理解しやすいのですが,流れは覚えていますか?はい.電気シグナルは洞結節からはじまって,心房各所に伝わります.その後は房室結節にいったん集合してから心室各所に散っていくのでした.そうですね.まず基本的なこととして,

P波は心房収縮に対応しており,QRS波は心室収縮に対応する

ということです.はじめの小さい波が「心房」で,次の大きな波が「心室」を表すのですね.ナルホド電気が伝

わる順番に対応していますね.それでは最後の中くらいの波は何を表しているのですか?3つ目の波は T 波と呼ばれますが,心室の再

さい

分ぶん

極きょく

という現象を表しているとされます.心室がドキンっと収縮ができるのは電気的な興奮状態になった結果であり,これを「脱

だつ

分ぶん

極きょく

」といい

P波は心房収縮に対応しており,QRS波は心室収縮に対応するPoint!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!Point!

P波 …心房の収縮QRS波 …心室の収縮(脱分極)T波 …心室の再分極

T波 T波P波 P波

QRS波

QRS波

B

A

図5-2 各波形の名称と意味するもの

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