16
78 (5) スペイン 基礎データ 1) 農地の状況(国土面積、農用地面積、平均経営面積、等) 図表 57 スペイン地図 出所:外務省「国・地域 スペイン王国」 スペインは日本の 1.3 倍の国土面積を有する。国土の中央の大部分がメセタ(meseta)と呼ばれ る高原台地である 56 。スペイン農業漁業食料環境省(MAPAMA: Ministerio de Agricultura y Pesca, Alimentación y Medio Ambiente)によると、国土面積の内訳は、50%が農用地、38%が森林、12%その他となっており、うち農用地の利用内訳は、耕種作物が 47%、放牧地が 33%、果実等の永年作 物が 20%となっている。EUの主要農業国の一つで、農用地面積はEU第二位の 2,658 ha、農業生 産額はフランス、ドイツ、イタリアに次ぐ第四位となっている(2014 年)。 図表 58 スペインの農地の状況(2014 年。単位:万ヘクタール、%出所:農林水産省「スペインの農林水産業概況」2017 年、2 北部は比較的雨が多く、夏は涼しく冬は温暖な海洋性気候であり、麦類や酪農を含む畜産物の生 産が多い。中央部では麦類、ぶどう、畜産物等の生産が多く、東部は柑橘類やコメ、南部はオリー ブやぶどう、野菜、コメ等の生産が盛んである。北部や北西部以外の地域では、夏の乾燥による干 ばつの農業被害が見られる。スペインでは天水地(secano)の生産性が灌漑地(regano)に比べて 著しく低く、灌漑インフラが重要な役割を果たしている。灌漑地では、穀物(トウモロコシやコメ を除く)、オリーブ、トウモロコシが多く生産されている。 56 スペインの農業状況については、農林水産省「スペインの農林水産業概況」< http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_gaikyo/esp.html>、および農林中金総合研究所『平成 27 年海外農業・ 貿易事情調査分析事業報告書(農業所得構造分析)』(農林水産省委託事業)、2016 年、第Ⅱ部 82-84 < http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/h27-20.pdf>を参照。

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78

(5) スペイン

① 基礎データ

1) 農地の状況(国土面積、農用地面積、平均経営面積、等)

図表 57 スペイン地図

出所:外務省「国・地域 スペイン王国」

スペインは日本の 1.3 倍の国土面積を有する。国土の中央の大部分がメセタ(meseta)と呼ばれ

る高原台地である 56。スペイン農業漁業食料環境省(MAPAMA: Ministerio de Agricultura y Pesca, Alimentación y Medio Ambiente)によると、国土面積の内訳は、50%が農用地、38%が森林、12%が

その他となっており、うち農用地の利用内訳は、耕種作物が 47%、放牧地が 33%、果実等の永年作

物が 20%となっている。EUの主要農業国の一つで、農用地面積はEU第二位の 2,658 万ha、農業生

産額はフランス、ドイツ、イタリアに次ぐ第四位となっている(2014 年)。

図表 58 スペインの農地の状況(2014 年。単位:万ヘクタール、%)

出所:農林水産省「スペインの農林水産業概況」2017 年、2 頁

北部は比較的雨が多く、夏は涼しく冬は温暖な海洋性気候であり、麦類や酪農を含む畜産物の生

産が多い。中央部では麦類、ぶどう、畜産物等の生産が多く、東部は柑橘類やコメ、南部はオリー

ブやぶどう、野菜、コメ等の生産が盛んである。北部や北西部以外の地域では、夏の乾燥による干

ばつの農業被害が見られる。スペインでは天水地(secano)の生産性が灌漑地(regano)に比べて

著しく低く、灌漑インフラが重要な役割を果たしている。灌漑地では、穀物(トウモロコシやコメ

を除く)、オリーブ、トウモロコシが多く生産されている。

56 スペインの農業状況については、農林水産省「スペインの農林水産業概況」< http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_gaikyo/esp.html>、および農林中金総合研究所『平成 27 年海外農業・

貿易事情調査分析事業報告書(農業所得構造分析)』(農林水産省委託事業)、2016 年、第Ⅱ部 82-84 頁< http://www.maff.go.jp/j/kokusai/kokusei/kaigai_nogyo/k_syokuryo/attach/pdf/h27-20.pdf>を参照。

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有機農業が盛んで、有機農業面積は 197 万ヘクタールで 2015 年は EU 内で第一位、世界でも第

四位であった。主要な有機農産物は、オリーブや穀物、ぶどう等である。 農業経営体の状況を見ると、2013 年の 1 経営体あたりの平均経営面積は 24.1 ヘクタールであった。

ただし、スペインの土地所有は、19 世紀の農地改革の失敗による大規模化と零細化の二極分化が激

しく、著しい経営格差が生じている。北部(ガリシア、アストゥリアス、カンタブリア、カスティ

ーリャ、レオン)、地中海内陸部(カタルーニャ、バレンシア)、カナリア諸島では、10 ヘクタール

未満の小規模土地所有者とミニフンディオ(minifundio)と呼ばれる零細農家が中心となっている。

他方で、アンダルシア、エストレマドゥーラ、マドリッド、バレアレス諸島、アラゴン等では 100ヘクタール以上のラティフンディオ(latifundio)と呼ばれる大規模土地所有者が存在する。

図表 59 スペインの経営規模別経営数割合(2010 年)

出所:農林中金総合研究所『平成 27 年海外農業・貿易事情調査分析事業報告書(農業所得構造分析)』

(農林水産省委託事業)、2016 年、第Ⅱ部 82-84 頁

2) スペインの地方自治制度

スペインの地方自治制度は、1978 年の新憲法によって固まった。地方自治行政単位として、自治

州(Comunidad Autónoma)と地方団体(Entidades Locales)が設けられ、さらに地方団体は広域単

位の県(Provincia)および島嶼(Islas)と、基礎単位のムニシピオ(Municipio)の 2 層制から構成

される。スペインの地方団体には、憲法で明記されている県、島嶼、ムニシピオのほか、ムニシピ

オ共同体(Mancomunidades de Municipios)、広域区(Comarca)、大都市圏(Área Metropolitana)、草

の根住民自治組織(Entidades Locales Menores)が存在する 57。自治州は国と県の間に位置する地方

自治単位である。自治単位数は、自治州が 17、県と島嶼がそれぞれ 50 と 11、ムニシピオが 8125となっている。自治州間で差異はあるものの、自治州には広範な権限が認められており、さらにバ

スク自治州の 3 県とナバーラ自治州には特別の財政制度が適用され、すべての徴税権限を有する 58。

57 松田恵里「スペインの地方自治制度―自治州国家体制の新しい在り方とカタルーニャ独立運動を問う―」『レファレン

ス』平成 28 年 3 月号、2016 年、132 頁、http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9914641_po_078208.pdf?contentNo=1。 58 松田恵里「スペインの地方自治制度―自治州国家体制の新しい在り方とカタルーニャ独立運動を問う―」『レファレン

ス』平成 28 年 3 月号、2016 年、136 頁、http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9914641_po_078208.pdf?contentNo=1。

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3) 農家等の状況(総人口、農家数、青年農業者数、等)

2016 年の総人口は約 4,640 万人、農業者数(16 歳以上)は約 71 万人であり、全人口の 1.5%であ

る。2009 年から 2015 年にかけて農業者数は減少傾向にあったが、2016 年は 2011 年以降はじめて

70 万人を上回った。

図表 60 スペインの農業者数と全人口に占める割合(単位:人) 全人口 農業者数 割合

2009 年 45,828,172 712,875 1.6% 2010 年 46,017,560 724,350 1.6% 2011 年 46,143,904 695,175 1.5% 2012 年 46,196,278 688,600 1.5% 2013 年 46,096,871 676,000 1.5% 2014 年 46,507,760 677,575 1.5% 2015 年 46,436,797 678,725 1.5% 2016 年 46,438,422 711,900 1.5%

出所:MAPAMA の「2016 年版統計年報」に基づき作成。 MAPAMA, ANUARIO DE ESTADÍSTICA 2016

スペインの農業者の年齢構成を見ると、2016 年は 40 代の 28%が最大で、50 代が 25%、30 代が

24%で続く。2002 年は 30 代が 26%で最大で、40 代が 24%、50 代は 20%であった。30 代以下と 40代以上の農業従事者の割合を 2002 年と 2016 年で比較すると、2002 年はそれぞれ 46.8%と 53.2%、

2016 年は 40.3%と 59.7%となっており、スペインでは緩やかに農業者の高年齢化が進んでいること

が読み取れる。なお、後述する青年農業者支払の対象は、スペインでは基礎支払を申請する最初の

年において 40 歳を超えない農業者となっている(勅令 1075 第 25 条)。

図表 61 年齢別農業者の割合 2002 年 2016 年

出所:MAPAMA の「2016 年版統計年報」に基づき作成。

MAPAMA, ANUARIO DE ESTADÍSTICA 2016, http://www.mapama.gob.es/en/estadistica/temas/publicaciones/anuario-de-estadistica/2016/d

efault.aspx

4) 農業所得(農業所得、直接支払額、農業所得に占める直接支払の割合、等)

図表 62 は 2013 年のスペイン農業部門別純所得と補助金、および純所得に占める補助金の割合を

示している。全農家の農家所得は 21,920 ユーロ、狭義の直接支払であるデカップル支払は 6,697 ユ

ーロで 31%を占める。全農家の所得に占める補助金全体の割合は 42%である。営農タイプ別に補助

16-193%

20代17%

30代26%

40代24%

50代20%

60-648%

65以上2%

16-191%

20代15%

30代24%

40代28%

50代25%

60-646%

65以上1%

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81

金の割合をみると、耕種作物が 64%と最大で、その他草食家畜、混合農業がそれに続く。反対に最

も補助金の割合が小さいのは 9%の園芸である。

図表 62 スペイン農業部門別純所得および補助金(1 農家当り平均、2013 年)(単位:ユーロ)

コー

ド 科目

営農タイプ

全農家 耕種作

物 園芸 ワイン その他

永年作

物 酪農

その他

草食家

穀食家

畜 混合農

SE420 農家純所

得 21,920 20,588 32,041 22,002 15,904 38,492 23,782 52,346 22,061

SE605

補助金計

【投資補

助金を除

く】

9,313 13,101 2,996 3,086 6,526 14,282 13,675 6,022 12,304

SE630 デカップ

ル支払 6,697 10,623 1,413 2,542 4,760 9,587 7,720 4,893 9,069

SE624 農村振興 1,039 998 258 434 841 1,394 2,133 622 1,116

補助金計

/純所得 42% 64% 9% 14% 41% 37% 58% 12% 56%

出所:European Commission, “Farm Economy Focus: Spain,” 2015,

5) 主要農作物

スペインの主要農産物は、大麦、小麦、ぶどう、オリーブ、トマト、柑橘類、豚肉等で、主要輸

出品目は、オリーブオイル、ワイン、トマト、豚肉、オレンジ、マンダリン等となっている。

図表 63 主要農産物の生産状況(単位:万トン)

出所:農林水産省「スペインの農林水産業概況」2017 年、2 頁

② 第一の柱における直接支払の実施状況

1) 総論

CAPの運用に関するスペインの基本法令は、勅令 1075/201459と勅令 1076/201460、勅令 1078/201461

59 MAPAMA, Real Decreto 1075/2014, de 19 de diciembre, sobre la aplicación a partir de 2015 de los pagos directos a la agricultura y a la ganadería y otros regímenes de ayuda, así como sobre la gestión y control de los pagos directos y de los pagos al desarrollo

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等である。勅令 1075/2014 が活動的農家の定義等の直接支払の受給資格を定め、①基礎支払、②グ

リーニング支払、③青年農業者支払、④カップル支払、⑤綿花特別支払、⑥小規模農家向けの手続

きの簡素化が、本勅令で規定されている。勅令 1076/2014 は基礎支払の配分、勅令 1078/2014 は直

接支払や一部の農村振興補助、ワイン部門における補助プログラムの受給条件(適切な農業慣行と

環境要件等)について定めている。 2017 年 3 月に開催された「将来のCAPを構築する」(Construyendo la PAC del futuro)と題された

カンファレンスにおける農業セクターや自治州等の意見を取りまとめたMAPAMA(スペイン農業

漁業食料環境省)の公表文書をもとにCAPに対するスペインの基本的態度を整理すると、加盟国の

農業環境は多様であり、その多様性に対応するためにCAPは柔軟でなければならないというもので

ある。特に山岳地域や地中海農業、遠隔地といった自然環境が不利な地域に合わせた制度が必要で

あるとする 62。 ワイン 63や果物、野菜、養蜂 64を支援するプログラムは地中海農業において重要な役割を果たし

ている。そのため、これらの特別なプログラムは新たなCAPのもとでも維持されなければならない

とする 65。また、生産者団体は農業セクターの根幹をなし、生産者や農業セクターの競争力強化や

危機への効果的対処に寄与しており、そのためCAPの下でこうした団体が強化されるべきであると

する 66。 農村振興においては、農村地域の高齢化および人口減少が大きな問題であり、スペインの農村の

人口密度はヨーロッパで最も低いとする。スペインの農村地域の農家の 30%は 65 歳以上で、35 歳

未満は 4%に過ぎず、農村地域の高齢化への対応はCAPの範囲を超えるものの、青年農業者や女性

農家への農業機会の不足が高齢化や人口減少の主因の一つである。現行CAPでは青年農業者や女性

農家の参入を促進するプログラムがあるが十分ではなく、将来のCAPでは新規参入促進への取組を

強化すべきとしている 67。

2) 直接支払の予算配分

2014 年から 2020 年までのスペインの直接支払の予算は 345 億 8,000 万ユーロであり、単年平均

では約 50 億ユーロである 68。スペインは、制度的、農学的、経済的な差を考慮して地域レベルで

基礎払いを適用することを決定している。また、直接支払の 12.1%をカップル支払に充てている。

カップル支払の対象は、牛肥育、乳牛、羊・山羊飼育、雌成牛、ビート、コメ、加工用トマト、ナ

rural, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/legislacion/Legislacion-pagos-directos.aspx. 60 MAPAMA, Real Decreto 1076/2014, de 19 de diciembre, sobre asignación de derechos de régimen de pago básico de la Política Agrícola Común, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/legislacion/Legislacion-pagos-directos.aspx. 61 MAPAMA, Real Decreto 1078/2014, de 19 de diciembre, por el que se establecen las normas de la condicionalidad que deben cumplir los beneficiarios que reciban pagos directos, determinadas primas anuales de desarrollo rural, o pagos en virtud de determinados programas de apoyo al sector vitivinícola, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/legislacion/Legislacion-pagos-directos.aspx. 62 MAPA, Posición común sobre la Modernización y Simplificación de la Política Agrícola Común, p.2, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/temas/pac/postura-reforma-pac/. 63 ワイン産業への補助として、2014 年から 2018 年を対象にしたワイン産業への投資支援(根拠法:勅令 548/2013(Real Decreto 548/2013, de 19 de julio, para la aplicación del programa de apoyo 2014-2018 al sector vitivinícola español)および勅令

1079/2014(Real Decreto 1079/2014 de 19 dediciembre, para la aplicación del programa de apoyo 2014-2018 al sector vitivinícola))と、ワイン製品のマーケティングおよび競争力強化支援がある(根拠法:勅令 597/2016(Real Decreto 597/2016, de 5 de diciembre, para la aplicación de las medidas del programa de apoyo 2014-2018 al sector vitivinícola))。MAPAMA, Ayudas a la industria agroalimentaria, http://www.mapama.gob.es/en/alimentacion/temas/industria-agroalimentaria/ayudas-a-la-industria-agroalimentaria/default.aspx. 64 EU 規則 No. 1234/2007 の枠組みのもと「国家養蜂計画」(Planes Nacionales de Apicultura)で養蜂家への技術支援、バロ

ア病対策、蜂蜜の物理化学的分析を行う研究所への支援、地域の養蜂小屋の再増加のための支援、養蜂産業・製品の応用

研究を行う特別機関との協力といった支援がなされる。MAPAMA, Planes Nacionales de Apicultura, http://www.mapama.gob.es/en/ganaderia/temas/produccion-y-mercados-ganaderos/planes_nac_apicultura.aspx. 65 MAPAMA, Posición común sobre la Modernización y Simplificación de la Política Agrícola Común, p.4, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/temas/pac/postura-reforma-pac/. 66 MAPAMA, Posición común sobre la Modernización y Simplificación de la Política Agrícola Común, p.6, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/temas/pac/postura-reforma-pac/. 67 MAPAMA, Posición común sobre la Modernización y Simplificación de la Política Agrícola Común, p.6, http://www.mapama.gob.es/es/agricultura/temas/pac/postura-reforma-pac/. 68 European Commission, ”CAP In Your Country: Spain,” p.2, https://ec.europa.eu/agriculture/sites/agriculture/files/cap-in-your-country/pdf/es_en.pdf.

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83

ッツ、蛋白質作物、野菜、資格はあるが適用面積のない牛肉・羊・生乳生産者である(targeting beef fattening, suckler cows, sheep and goat breeding, dairy cows, sugarbeet, rice, tomatoes for processing, nuts, protein crops, vegetables, as well as beef, sheep and milk producers with entitlements but no eligible hectares)。

また、スペインでは第一の柱で小規模農業者支払を導入している一方で、自然制約地域支払は採

用されていない 69。スペインは、基礎支払の受給額の 15 万ユーロ超過部分に対しては 5%を削減し

ており、これはCAPで要求される最低要件である。青年農業者者支払の受給者は最初の 5 年間に基

礎支払の受給額の 25%相当が増額される。なお現行CAPにおいては、スペインは柱間の財源移転を

行っていない。

図表 64 CAP2014-2020 予算(EU 予算、単位:10 億ユーロ) 第一の柱 第二の柱

29 8.3 出所:Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.299 に基づき

作成

図表 65 第一の柱向けの自国予算(単位:ユーロ) 2015 2016 2017 2018 2019 2020

4,902,300,000 4,911,300,000 4,926,300,000 4,939,700,000 4,953,100,000 4,954,400,000 出所:Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.299 に基づき

作成

図表 66 スペインにおける第一の柱の予算の割合(単位:%)

出所:Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.299 に基づき作成

69 European Commission, ”CAP In Your Country: Spain,” p.2, https://ec.europa.eu/agriculture/sites/agriculture/files/cap-in-your-country/pdf/es_en.pdf.

55.9230

2

12.08

基礎支払 グリーニング支払 青年農業者支払 カップル支払

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84

図表 67 第一の柱の目的別支払における年間予算上限(単位:千ユーロ) 2015 年 2016 年 2017 年 2018 年 2019 年 基礎支払 2,809,784 2,816,110 2,826,613 2,835,995 2,845,377 グリーニング支払 1,452,797 1,455,505 1,460,000 1,464,015 1,468,030 青年農業者支払 96,853 97,034 97,333 97,601 97,869

カップル支払

同じ農場で肥育され

た子牛(半島) 12,488 12,488 12,488 12,488 12,488

同じ農場で肥育され

た子牛(島嶼) 93 93 93 93 93

異なる農場で肥育さ

れた子牛(半島) 25,913 25,913 25,913 25,913 25,913

異なる農場で肥育さ

れた子牛(島嶼) 193 193 193 193 193

母牛(半島) 187,294 187,294 187,294 187,294 187,294 母牛(島嶼) 451 451 451 451 451 ヒツジ(半島) 124,475 124,475 124,475 124,475 124,475 ヒツジ(島嶼) 3,428 3,428 3,428 3,428 3,428 ヤギ(半島) 5,386 5,386 5,386 5,386 5,386 ヤギ(島嶼および山岳

地域) 5,093 5,093 5,093 5,093 5,093

酪農場における最初

の 75 頭の牛(半島) 51,861 51,861 51,861 51,861 51,861

酪農場における最初

の 75 頭の牛(島嶼お

よび山岳地域)

26,986 26,986 26,986 26,986 26,986

酪農場における最初

の 75 頭以外の牛(半

島)

9,853 9,853 9,853 9,853 9,853

酪農場における最初

の 75 頭以外の牛(島

嶼および山岳地域)

2,652 2,652 2,652 2,652 2,652

特例措置を受ける乳

牛* 2,227 2,227 2,227 2,227 2,227

特例措置を受ける肉

牛 1,440 1,440 1,440 1,440 1,440

特例措置を受けるヒ

ツジとヤギ 30,155 30,155 30,155 30,155 30,155

春作付のテンサイ 14,470 14,470 14,470 14,470 14,470 秋作付のテンサイ 2,366 2,366 2,366 2,366 2,366 コメ 12,206 12,206 12,206 12,206 12,206 産業用トマト 6,352 6,352 6,352 6,352 6,352 豆類・イナゴ豆(半島) 12,956 12,956 12,956 12,956 12,956 豆類・イナゴ豆(島嶼) 1,044 1,044 1,044 1,044 1,044 蛋白質作物(豆類) 21,646 21,646 21,646 21,646 21,646 蛋白質作物(油糧種

子) 22,891 22,891 22,891 22,891 22,891

野菜 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 綿花特別支払** 60,841 60,841 60,841 60,841 60,841

* 2014 年当時、特例措置を受けており、基礎支払を受給するための適格農地を有さない農家。 **綿花特別支払はカップル支払の一種。勅令の予算上限の表では行が分けられているため、本図表でも

行を分けて掲載している。綿花特別支払については、8)で後述。 出所:Real Decreto 1075/014, ANEXO II.

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85

図表 68 各加盟国の 1ha当たりの直接支払の支払単価(2015 年)70

出所:European Commission “Direct payments 2015-2020 Decisions taken by Member States”, June 2016, p.7.

3) 活動的農家(active farmer)の定義

スペインは活動的農家(active farmer)のネガティブリストを設けていない。 EU 規則(直接支払規則)No.1307/2013 の 9.3 条の適用のため、スペインにおける活動的農家の

定義として、勅令 1075/2014 のタイトルⅡ(Agricultor activo y actividad agraria)の第 8 条 1 の a)で直接支払以外の農業所得が総農業所得の少なくとも 20%以上あることという要件を定めている。

4) 基礎支払(pago básico)(勅令 1075/2014 タイトル III 第 1 章)

基礎支払の予算配分の上限は第一の柱の予算の 56%とされている。スペインでは基礎支払の運用

方式は地域方式が採用されている。スペインの基礎支払での地域方式の運用は勅令 1076/2014 の付

属書 2 で規定される 50 の異なる地域に基づき実施される(勅令 1075/2014 第 13 条 3)。受給権を有

する適格農地の最低面積基準は 0.2 ヘクタールである(勅令 1075/2014 第 13 条 4)。2017 年 12 月に

実施したスペイン現地調査で聴取した地域方式に基づく単価設定の考え方は次の通りである。

(スペイン現地調査でのヒアリングより) スペインにおける基礎支払の単価の決定では、スペイン国内を 52 の地域 71に分けて調整が行わ

れる。基本的な考え方として、基礎支払の単価は基準額に過去実績を加味したものであり、例えば

2015 年の 1ha当たりの受給額単価は 2014 年の受給実績を 2015 年時点の対象農家が有する農地面積

で除したものとなる。そのため、2015 年時点で農地面積が減っていれば 1haあたりの単価は上昇す

ることになる。 過去実績方式は、国土を 52 の「地域区分」で分け、そこから各「農業者」ごとに受給額を決定

70 国名の略語は報告書末尾に参考資料1として別添。 71 現地調査のヒアリングでは面積単価の算出は 52 の異なる地域で行うと聞き取りをした。地域単位のカウント方法に違

いがある可能性がある。

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86

されることになる(この方法はスペインの国内法でのみ規定される)。まず、国内を 52 の地域に分

割した後に地域内の平均単価を割り出す。制度では、面積単価が地域平均額の 90%を下回る農家に

対しては差額の 3 分の 2 を補填し、逆に平均を上回る農家は平均額まで引き下げる。地域平均を下

回る農家に対する差額の 3 分の 2 までの補填は 2020 年までに毎年 5 分の 1 ずつ実施を行う。 52 の地域の策定方法は、第一に樹木(永年作物)、耕地、放牧地の三区分に分けられる。次に農

地の生産性に応じてさらに細かい区分に分けられる(生産量を経済指標に応じて換算)。地理的区

分ではないため、マドリード州とアンダルシア州の特定地域が同じグループに入ることもある。つ

まり、元々の受給単価が近い地域同士をグルーピングしたわけである。現在の区分単位は 1992 年

CAP 改革の直接支払のための地域区画計画で作成された地域区分に基づく。当時の地域区分はマド

リード州で 6 区分、スペイン全体で恐らく 400 区分はあったと考えられるが、それを 52 の地域に

再分類している。 スペインがこうした地域方式を行っている理由は、各農家の既往受給額の維持を重視したためで

ある。スペイン農業は多様であるため、地域によって農業品目や気候が違い、(全国で)均一の支

払単価の導入は難しい。そうした差を維持するために地域区分を導入している。そのため、面積単

価の支払水準の差は非常に大きくなる。欧州全体では直接支払の支払単価は均一化されていく方向

性にあるが、スペインは多様性を維持したいと考えている。 基礎支払は受給額が 15 万ユーロ以上の場合には超過部分の 5%が減額される(勅令 1075/2014 第

7 条)。また、基礎支払の受給上限額は 30 万ユーロである 72。スペインでは再分配支払は行われな

い 73。

5) グリーニング支払(Pago verde)(勅令 1075/2014 タイトル III 第 2 章)

グリーニング支払については、勅令 1075/2014 の第 2 章第 17 条から第 24 条で定められている。 グリーニング支払は全国レベルで実施され 74、3 つの環境要件(作付品目の多様化、環境重点用

地の設定、永年草地維持)の遵守が義務づけられることになる。スペインではEU規則(直接支払

規則)No.1307/2013 により取組要件の免除が認められる「同等措置」は行われない。永年草地維持

が義務付けられる農地は全国で 19,142,675.44 ヘクタールである。この面積全体が「環境的に影響を

受ける永年草地」(ESPG: environmentally sensitive permanent grassland)としてNatura2000 対象地域と

して指定されている。ESPGが永年草地全体を占めるため、Natura2000 以外にESPGは指定されてい

ない。 スペインは、環境重点用地(EFA: Ecological Focus Area)として、以下の 4 類型を定めている(勅

令 1075/2014 第 24 条)。 休閑地(Las tierras en barbecho) 窒素固定作物用地(Las superficies dedicadas a los cultivos fijadores de nitrógeno que se enumeran) 林地(Las superficies forestadas de conformidad con el artículo 31 del Reglamento (CE)) 農林複合経営助成の受給農地(Las superficies dedicadas a agrosilvicultura que reciban)

6) 青年農業者支払(Pago para jóvenes agricultores)(勅令 1075/2014 タイトルⅢ 第 3 章)

青年農業者支払の予算割り当て上限は第一の柱の 2%となっている。勅令 1075/2014 の第 27 条で

は毎年 8 月に配分割合を変更可能であるとされているが、その場合も 2%を超えてはならないと定

めている。また、青年農業者支払を受給するには、基礎支払の最初の申請時に 40 歳を超えていて

はならない(勅令 1075/2014 第 25 条)。支払対象期間は受給開始から最大で 5 年間で、期間中は基

礎支払の受給額の 25%相当が増額される(勅令 1075/2014 第 26 条)。支払対象面積は、一経営体あ

たり最大 90 ヘクタールである(同条)。

72 Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.300. 73 Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.300. 74 Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.301.

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87

図表 69 直接支払受給者に占める青年農業者支払の受給権を有する農業者の割合 75

図表 70 加盟国の 1ha当りの青年農業者支払額 76

75 European Commission " REPORT on the Implementation of direct payments [outside greening] Claim year 2015" Nov. 2017, p.23. 76 同上、p.24.

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88

図表 71 青年農業者支払額と想定支払額 77

スペインでは青年農業者支払の予算割り当て上限を最大値である 2%に設定しているが、実際に

2015 年に割り当てられたのは 0.2%程であった。

7) カップル支払(Ayuda asociada)(勅令 1075/2014 タイトルⅣ)

カップル支払に充てる予算としては、直接支払の 13%を上限としている。 EU 規則(直接支払規則)1307/2013 の第 52 条に従って、特定の作物の生産者にはカップル支払

を受給することができる。カップル支払を受給するには活動的農業者の要件を満たしていなければ

ならない。 カップル支払を受給できる最低経営面積は、乾燥した土地で 1 ヘクタール、灌漑地域で 0.5 ヘク

タールである(勅令 1075/2014 第 28 条)。カップル支払予算の年間予算上限は図表 67 のとおりで

ある。以下、カップル支払の対象品目と交付対象面積上限、および補助金額の上限を記す。カップ

ル支払の一種である綿花特別支払は、次項で取り上げる。

a) 対象品目および交付対象面積上限

コメ:122,060 ヘクタール(第 30 条) 蛋白質作物(豆類、油糧種子):360,759 ヘクタール(蛋白質作物、豆類)、572,287 ヘクター

ル(油糧種子)(第 34 条) 豆類・イナゴ豆(los frutos de cáscara y las algarrobas):390,500 ヘクタール(本土)、27,500 ヘ

クタール(島嶼)(第 38 条) 高品質野菜(las legumbres de calidad):10,000 ヘクタール(第 41 条) テンサイ:32,500 ヘクタール(春作付)、7,600 ヘクタール(秋作付)(第 45 条) トマト:25,000 ヘクタール(第 48 条) 母牛:2,100,000 頭(本土)、3,000 頭(島嶼)(60 条) 子牛:

同じ農場で肥育された子牛(半島):370,996 頭 同じ農場で肥育された子牛(島嶼):1,627 頭 異なる農場で肥育された子牛(半島):2,458,879 頭 異なる農場で肥育された子牛(島嶼):14,469 頭(以上、第 65 条)

77 同上、p.24.

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89

酪農場: 酪農場における最初の 75 頭の牛(半島):436,146 頭 酪農場における最初の 75 頭の牛(島嶼および山岳地域):206,215 頭 酪農場における最初の 75 頭以外の牛(半島):162,789 頭 酪農場における最初の 75 頭以外の牛(島嶼および山岳地域):39,023 頭(以上、第 69 条)

ヒツジ:15,831,764 頭(半島)、254,854 頭(島嶼)(第 70 条) ヤギ:801,881(半島)、860,571 頭(第 73 条) 2014 年において特例を受けている酪農家:15,650 頭(第 77 条) 2014 年において特例を受けている肉牛農家:19,220 頭(第 80 条) 2014 年において特例を受けているヒツジとヤギ農家:1,073,000 頭(第 83 条)

b) 対象品目および助成額上限

コメ:1 ヘクタール当たり 400 ユーロ(第 33 条) 蛋白質作物:1 ヘクタール当たり 250 ユーロ(第 37 条) 豆類・イナゴ豆:1 ヘクタール当たり 105 ユーロ(第 40 条) 高品質野菜:1 ヘクタール当たり 400 ユーロ(第 44 条) テンサイ:1 ヘクタール当たり 1,600 ユーロ(第 47 条) トマト:1 ヘクタール当たり 1,016 ユーロ(第 52 条) 乳牛:1 単位当たり 400 ユーロ(第 62 条) 子牛:1 頭当たり 125 ユーロ(第 65 条) 酪農場:1 頭当たり 430 ユーロ(第 69 条) ヒツジ:1 頭当たり 60 ユーロ(第 72 条) ヤギ:1 頭当たり 30 ユーロ(第 76 条) 2014 年において特例を受けている酪農家:1 頭当たり 210 ユーロ(第 79 条) 2014 年において特例を受けている肉牛農家:1 頭当たり 112 ユーロ(第 82 条) 2014 年において特例を受けているヒツジとヤギ農家:1 頭当たり 45 ユーロ(第 85 条)

図表 72 コメへのカップル支払の内容

総作付面積

平均支払単価(ユーロ/ha) 支払総額(1000 ユーロ)

2015 2016 2017 2018 2019 2020 2015 2016 2017 2018 2019 2020

EU 合計 447,431 127 126 125 125 124 124 56,670 56,402 56,133 55,897 55,660 55,614

ス ペ イ

ン 122,060 100 100 100 100 100 100 12,206 12,206 12,206 12,206 12,206 12,206

出所:European Commission, Voluntary coupled support – Other Sectors supported, 2015, p.6.

図表 73 穀実用マメ科作物へのカップル支払の内容

総作付面積

平均支払単価(ユーロ/ha) 支払総額(1000 ユーロ)

2015 2016 2017 2018 2019 2020 2015 2016 2017 2018 2019 2020

EU 合計 252,983 72 71 70 70 69 69 18,164 17,970 17,776 17,598 17,421 17,431

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90

ス ペ イ

ン 10,000 100 100 100 100 100 100 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000 1,000

出所:European Commission, Voluntary coupled support – Other Sectors supported, 2015, p.7

図表 74 豆類へのカップル支払の内容

総作付面積

平均支払単価(ユーロ/ha) 支払総額(1000 ユーロ)

2015 2016 2017 2018 2019 2020 2015 2016 2017 2018 2019 2020

EU 合計 418,000 33 33 33 33 33 33 14,000 14,000 14,000 14,000 14,000 14,000

ス ペ イ

ン ( 本

土) 390,500 33 33 33 33 33 33 12,956 12,956 12,956 12,956 12,956 12,956

ス ペ イ

ン ( 島

嶼) 27,500 38 38 38 38 38 38 1,044 1,044 1,044 1,044 1,044 1,044

出所:European Commission, Voluntary coupled support – Other Sectors supported, 2015, p.9

8) 綿花特別支払(pago específico al cultivo del algodón)(勅令 1075/2014 タイトルⅣ)

勅令 1075/2014 の第 53 条以下で、綿花特別支払について規定されている。同プログラムでは、

EU 内で生産が認められている品種の綿花を生産する農家に対して支払がなされる。 本支払の受給基準は、綿花生産が重要な地域の農業経済、その地域の土壌気候、灌漑の管理、環

境のための輪作・培養技術といった要素に基づき決定される。補助金額は、全国の基礎的な地域に

おいて 48,000 ヘクタールを対象に 1,267,525 ユーロとなっている(第 57 条)。 現在、EU加盟国内で綿花を生産するのは、ギリシャとスペイン、ブルガリアの三か国のみであ

る。EUの綿花助成のほとんどはデカップリングされているが、特定作物の生産が農業経済上重要

な土地においてその作物の生産が放棄されないよう、一部品目について作物別の支払が認められて

おり、綿花もその一つに含まれる。EU全体で 302,000 ヘクタールが綿花助成の対象となり、ギリシ

ャが 250,000 ヘクタール、スペインに 48,000 ヘクタールが配分されている 78。

9) 小規模農業者支払(勅令 1075/2014 タイトル V)

スペインでは小規模農業者支払が採用されている。該当する農業者はこの制度に任意で参加する

ことができ、グリーニングの環境要件やクロスコンプライアンスの遵守が免除される。1 農業者当

たりの年間支払額は最大 1,250 ユーロである。スペインの農村地域では兼業農家(part-time farmer)が重要であるため、このスキームが導入されている 79。

③ 第二の柱の内、直接支払に関係する施策の実施状況(※条番号は農村振興規則 No. 1305/2013 のも

の)

農村振興には 2014 年-2020 年までに 83 億ユーロが配分され、コファイナンスによりさらなる増

額が想定されている 80。スペイン政府は 18 の農村振興プログラム(一つが全国的プログラムで残

78 European Commission, Cotton, https://ec.europa.eu/agriculture/cotton_en. 79 Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.302. 80 European Commission, ”CAP In Your Country: Spain,” p.3,

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91

りの 17 が地域レベルのプログラム)を設けている。スペインの地方開発プログラムは以下の項目

に重点が置かれている。 農業競争力の強化 持続的な天然資源管理および気候変動対策の確保 地方経済の均衡のとれた開発

図表 75 第二の柱の予算(EU 予算。単位:ユーロ) 2015 年 2016 年 2017 年 2018 年 2019 年 2020 年

1,780,169,908 1,780,403 1,185,553,005 1,184,419,678 1,183,448,718 1,183,394,067 出所:Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.302 に基づき

作成。

第二の柱の施策別予算額の内訳をみると、設備投資(physical investment)の割合が 34.11%で最も

大きく、森林、農業環境・気候対応がそれに続く。本稿の対象 81である、農業および事業開発(Farm and business development)は 8 億 2700 万ユーロで全体の 6.68%、農業環境・気候対応が 13 億 2600万ユーロで全体の 10.71%、有機農業が 7 億 100 万ユーロで 5.67%、自然ないしその他制約のある地

域が 8 億 3400 万ユーロで 6.73%、協同が 2 億 7200 万ユーロで 2.2%となっている。

図表 76 第二の柱施策別予算額 分野 予算(単位:100 万ユーロ 割合

M01 Knowledge(知識移転と情報活動) 145 1.17% M02 Advisory services(助言サービス) 158 1.28% M03 Quality schemes(品質制度) 89 0.72% M04 Physical Investment(物理的資産への

投資) 4,222 34.11%

M05 Restoring agricultural potential(農業

生産能力の回復) 17 0.14%

M06 Farm and business development(農業

および事業開発) 827 6.68%

M07 Basic services(基礎的サービス) 329 2.66% M08 Forest(森林造成) 1,984 16.03% M09 Producer groups / organisations(生産

者集団の設立) 59 0.47%

M10 Agri-environment-climate ( 農 業 環

境・気候対応) 1,326 10.71%

M11 Organic Farming(有機農業) 701 5.67% M113 Early retirement(早期退職) 94 0.76% M12 NAT 2000 & WFD(Natura2000 およ

び水枠組み指令支払) 30 0.24%

M13 Areas with natural constraints(自然な

いしその他制約のある地域) 834 6.73%

https://ec.europa.eu/agriculture/sites/agriculture/files/cap-in-your-country/pdf/es_en.pdf. 81 本報告書では第二の柱の施策の内、日本型直接支払の比較対象となり得る「直接支払」を含むと考えられる施策、か

つ複数国が取り組んでいる施策(EU の農村振興予算に占める構成比が一定以上)について横串で検討することを目的に

農業および事業開発(19条)、農業環境、気候対応(28条)、有機農業(29条)、自然ないしその他制約のある地域

(31~32条)、協同(35条)の 5 つの施策を調査対象としている(条番号は農村振興規則 No. 1305/2013 に基づく)。

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92

分野 予算(単位:100 万ユーロ 割合 M131 Meeting standards (基準達成) 0 0.00% M14 Animal welfare(動物福祉) 25 0.20% M15 Forest-environment(森林環境・気候

サービスおよ森林保全) 28 0.23%

M16 Cooperation(協同) 272 2.20% M17 Risk management(リスク管理) 14 0.11% M18 National payments Croatia(クロアチ

アへの補完的な直接支払の資金提

供) 0 0.00%

M19 LEADER and CLLD(LEADER と地

元主導の小地域振興(CLLD) 1,037 8.38%

M20 TA(技術支援) 188 1.52% M341 Skills-acquisition and animation(技術

獲得と活力) 0 0.00%

総計 12,379 出所:European Commission European Structural & Investment Funds Data

全国および 17 の自治州の農村振興政策の各措置への支出割合をみると、M6 への支出割合が最も

大きいのはバレンシア州(Comunidad Valenciana)で 12.8%、バレアレス諸島(Islas Baleares)が 11.6%でそれにつづく。M10 への支出割合が大きいのはバレンシア州の 21.6%、ムルシア州(Murcia)の

15.9%、カタルーニャ州(Cataluña)の 15.4%となっている。M10 に予算の 10%以上を配分する州が

8 州存在する。 M11 をみると、カスティーリャ・ラ・マンチャ州(Castilla-La Mancha)が 14.5%で最も大きく、

10%以上の予算を配分する唯一の州となっている。M12 は全ての州で予算配分が少なく、最大のカ

スティーリャ・ラ・マンチャ州でも 1.6%の配分にとどまる。M13 では、カンタブリア州(Cantabria)が 30.6%の予算配分で最も大きく、バレアレス諸島が 20.5%、アストゥリアス州(Asturias)が 13.6%でつづいている。M16 に対する予算配分はすべての州で少なく、スペインの全国枠で 0.9%の配分

が最大となっている。

図表 77 農村振興政策の各措置に対する公的支出の割合 M6(農業およ

び事業開発 M10(農業環

境、気候対応) M11(有機農

業) M12(自然) M13(制約のあ

る地域) M16(協同) National 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0% 0.9% Andalucía 5.7% 13.4% 8.3% 0.0% 2.9% 0.5% Aragón 6.4% 10.2% 1.8% 0.1% 6.9% 0.2% Asturias 3.8% 5.5% 2.7% 0.0% 13.6% 0.0% Islas Baleares 11.6% 6.9% 3.0% 0.0% 20.5% 0.0% Canarias 8.0% 8.5% 1.0% 0.0% 0.0% 0.0% Cantabria 9.9% 5.1% 2.5% 0.0% 30.6% 0.0% Castilla-La Mancha 4.4% 6.3% 14.5% 1.6% 4.4% 0.3%

Castilla y León 7.8% 13.6% 1.8% 0.0% 10.9% 0.0% Cataluña 9.9% 15.4% 4.7% 0.0% 8.4% 0.0% Extremadura 6.9% 14.5% 5.0% 0.0% 6.8% 0.3% Galicia 9.1% 5.5% 1.1% 0.0% 9.8% 0.4% Madrid 2.8% 3.1% 4.9% 0.0% 3.3% 0.1% Murcia 7.9% 15.9% 7.9% 0.3% 3.9% 0.0% Navarra 6.8% 6.6% 3.8% 1.1% 8.8% 0.0% País Vasco 3.0% 7.5% 1.0% 0.0% 9.9% 0.2% La Rioja 9.3% 10.7% 1.7% 0.0% 2.9% 0.0% Comunidad Valenciana 12.8% 21.6% 6.1% 0.0% 2.7% 0.0%

出所:Mapping and analysis of the implementation of the CAP, Annex 3: Mapping report, p.314 に基づき

作成。

Page 16: (5) スペイン ① 基礎データ - maff.go.jp...78 (5) スペイン ① 基礎データ 1) 農地の状況(国土面積、農用地面積、平均経営面積、等) 図表

93

④ その他 【参考:現地農家訪問写真】

写真1:マドリード州近郊大規模農家。農地面積は約

1,200haで、生産品目はひよこ豆、カルソッツネギ、玉

ねぎ、紫ニンニク等(撮影:筆者)

写真2:写真1の農業内で使用されているトラクター

(撮影:筆者)

写真3:2種類のオリーブ種。上がマンサニージャ、下がコ

ルニカブラ(撮影:筆者) 写真4:精製されたオリーブオイル(撮影:筆者)