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1 シイタケ栽培廃液を利用した 環境浄化技術の開発 北見工業大学 工学部 バイオ環境化学科 准教授 佐藤 利次 前(財)岩手生物工学研究センター 生物資源研究部 主席研究員 共同研究機関 岩手大学工学部、岩手県環境保健研究センター、 岩手県林業技術センター、岩手県農業研究センター (株)北研

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シイタケ栽培廃液を利用した環境浄化技術の開発

北見工業大学 工学部 バイオ環境化学科

准教授 佐藤 利次

前(財)岩手生物工学研究センター

生物資源研究部 主席研究員

共同研究機関岩手大学工学部、岩手県環境保健研究センター、岩手県林業技術センター、岩手県農業研究センター(株)北研

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・岩手のシイタケ栽培:菌床栽培が全国第2〜3位・岩手の環境問題 :青森県境(二戸地区)の産廃不法投棄現場の存在

・従来技術:食用担子菌栽培物の利用 → 再現性が取れない精製ラッカーゼによる分解 → コストが高い

ラッカーゼを含む栽培廃棄物を利用して、環境汚染物質を分解できないか?

目的:シイタケ栽培廃物を利用した環境汚染物質分解系の開発シイタケ栽培廃物に付加価値を見出すことによるシイタケ栽培の振興

何故、シイタケ栽培廃液と環境浄化なのか?

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・平成16年の実績乾シイタケ: 203トン(全国7位/15年は3位)生シイタケ:4,575トン(全国3位)菌床栽培:4,053トン(全国2位)約90%が菌床栽培

原木栽培: 522トン

通常栽培(全面発生)

上面栽培(上面発生)

岩手県のシイタケ生産の現状

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・青森県境の産廃不法投棄問題

日本最大規模の汚染サイト

産廃除去後の環境修復未定

・残留農薬

まれに過去の農薬が検出

・環境ホルモン、ダイオキシンは全国的問題

低コスト処理法が求められている

岩手県における環境問題

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きのこ

リグニン分解酵素

リグニンは、木材の構成成分で、天然物質として最も分解されにくい物質である

↓シイタケなどの食用木材腐朽菌は、リグニンを分解できる

↓シイタケはリグニン分解酵素として主にラッカーゼ(Lcc)を分泌している

木材

菌糸

シイタケ

リグニンの模式図

ラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)O2を電子受容体として種々のフェノール化合物を酸化する酵素

(Lcc等)

シイタケ・リグニン分解酵素

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白色腐朽菌のリグニン分解酵素によるフェノール性環境汚染物質の分解例   

PCB 分解

ダイオキシン 分解

アントラセン 分解

ビスフェノール A 分解

カワラタケ

フルイカワラタケ

Phanerochœte chrysosporium

Phanerochœte sordia

カワラタケヒラタケ

Phanerochœte chrysosporium

色素(染料) 脱色

ヒラタケ

シワタケPhanerochœte chrysosporium

カワラタケ

リグニン分解酵素

ラッカーゼ(Lcc)

リグニンペルオキシダーゼ

マンガンペルオキシダーゼ

シュタケ

カワラタケ

ペンタクロロフェノール 分解

カワラタケ

Trametes versicolor (和名:カワラタケ)

Lentinula edodes(和名:シイタケ)

非食用

食用

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ラッカーゼ(Lcc1)

精製

シイタケ培養液中のラッカーゼ活性の上昇

16141210864200.0

0.5

1.0

1.5

Cultivation days

Lcc

act

ivity

(U/m

l)

培養日数

精製タンパク質の電気泳動図(SDS-PAGE/CBBで染色)

Nagai et al. (2002)Appl. Microbiol. Biotech. 60: 327-335

シイタケ培養液中のリグニン分解酵素活性

Enzyme Activity (U/ml)

Laccase 0.0104

Lignin peroxidase n.d.

Mn-peroxidase n.d.

Aryl alcohol oxidase n.d.

シイタケは液体培養液中にラッカーゼを分泌する

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シイタケ・ラッカーゼの作用により色素が脱色・変色される

RBBR Poly R-478

未処理 Lcc1未処理 Lcc1+ビオルル酸

RBBRとPoly R-478の脱色は、環境汚染物質の分解性と相関関係がある

すなわち、上記色素を脱色できれば、環境汚染物質を分解できる

O

NH

SO2C2H4OSO3H

N-

NH

CH3

NH

Ac

SO3NaO

O

ラッカーゼはデニム生地を脱色できる

ラッカーゼは色素を脱色できる

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通常の菌床栽培では、シイタケ発生前に Lcc活性が最大(2,500〜4,500 U/2.5kg菌床、150 U/廃菌床)になり、発生後は急速に減少する

発生前の菌床からの抽出は手間がかかり、シイタケが収穫できない

液体培養は、設備とコストがかかる(2段階培養で1,500〜2,400U/L)

上面栽培はシイタケも収穫でき、ラッカーゼも回収できる

上面栽培は、大型で形のよいシイタケが収穫できる→栽培量が増加している

上面栽培に注目

シイタケラッカーゼは上面栽培液に溶出される

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ラッカーゼの作用によりBPAが減少したと推定される

環境ホルモン類の1種であるビスフェノールA (BPA)と反応

上面水

約80%減少

シイタケ栽培廃液の上面水はビスフェノールAを減少できる

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上面水のラッカーゼ活性は栽培初期の3-4週間目に高い

上面栽培で生じる廃液の上面水に注目↓

経時的に活性を測定

上面水

実栽培の上面水のラッカーゼ活性は初期に高い

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・凍結乾燥による粉末化とラッカーゼ活性の回収率上面水の直接凍結乾燥による回収率:89〜96%(ラッカーゼ活性)

・スプレードライによる粉末化とラッカーゼ活性の回収率無添加:10〜15%糖添加:20〜30%

・限外ろ過(VIVAFLOW200/Sartorius社)による濃縮とラッカーゼの回収率限外ろ過による濃縮 :50倍以上( 4℃ )濃縮液の凍結乾燥による回収率:95%以上(ラッカーゼ活性)

限外ろ過濃縮、凍結乾燥がもっとも有効な方法

濃縮上面水は、4℃以下の保存では、100日目でもLcc活性が約80%維持される

上面水の粉末化・濃縮条件と保存性

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濃縮上面水とビスフェノールAを反応させ、物質の減少とホルモン活性を測定↓濃縮上面水は、市販ラッカーゼよりもBPA減少効果が高く精製酵素よりも濃縮上面水のBPA減少効果が高かった

・青森県境産廃地区汚染水に対する濃縮上面水の効果

汚染水で環境ホルモン類としてで特にBPAが高濃度で検出されているため、濃縮上面水と反応後、BPA濃度を測定↓汚染水のBPAは、反応後98%以上減少した

・環境ホルモンに対する濃縮上面水の効果

実用化に期待が持たれる

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従来技術とその問題点

・既に報告されているキノコの菌床あるいは廃菌床を利用した環境浄化については、再現性が得られないことなどから実用化に至っていない。

・担子菌培養液を現地に持ち込んで土壌処理等を行う方法も開発されているが、コストが高い。

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 従来技術の菌床や廃菌床利用では、再現性が得られないという問題点があったが、本技術は酵素剤としての利用であることから、再現性が期待できる。

• 従来の酵素剤はタンク培養で得られていたが、本技術では、栽培廃液を利用することから、コスト削減が期待でき、ゼロエミッションの点でも有利である。

• 本技術の適用により、シイタケ栽培廃液に価値を見出せることから、さらなるシイタケ栽培の振興が期待できる。

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想定される用途

• 染料廃水処理への利用が期待される

• 新規色素造成への利用が考えられる

• 現状ではまだコストが高い汚染土壌処理や廃水処理に適用することで、コスト削減が期待される

• ラッカーゼという酵素活性に着目すると、遅緩性漆の速乾性漆への展開も考えられる

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想定される業界

• 想定されるユーザー

廃水浄化、土壌浄化技術などを有する環境修復産業関連企業

• 想定される市場規模

環境修復産業規模:5兆円以上と想定される

→市場規模は、その中の一部

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シイタケ上面栽培

上面水(廃液) 濃縮→製品化(粉末) 環境汚染サイトの浄化汚染土壌・廃液の浄化(産廃撤去後の現場浄化等)

染料の脱色新規色素造成木質バイオマスへの利用漆への利用その他

シイタケ栽培の高付加価値化→ シイタケ栽培の振興

生産者企業

(環境浄化関連企業等)企業

(種菌メーカー等)

回収

企業(酵素剤メーカー等)

余剰分

濃縮上面水 粉末化上面水

目標とする製品・事業・技術等

(濃縮液)

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実用化に向けた課題

• 現在、フェノール性内分泌撹乱物質(環境ホルモン)類について、水溶液中で減少させるところまで開発済み。しかし、その他の環境汚染物質に対する影響や汚染土壌に対する効果について未解決。

• 今後、ダイオキシンやPCBについて実験データを取得

し、汚染土壌浄化などに適用していく場合の条件設定を検討する必要あり。

• 実用化に向けて、汚染土壌に対する効果まで向上できるよう技術確立する必要もあり。

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企業への期待

• 未解決の環境ホルモン以外の環境汚染物質に対する効果について、一緒に検討していただける共同研究先を希望。

• PCBやダイオキシン等の土壌浄化、廃水浄化

の技術を持ち、土壌浄化等のコスト削減技術を考えている企業との共同研究を希望。

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本技術に関する知的財産権

• 発明の名称:シイタケ栽培廃液によるフェノール性環境

汚染物質の分解法および栽培廃液の利用法

• 出願番号 :特願2004-166062

• 出願人 :岩手県

• 発明者 :永井勝、佐藤利次、日向康吉

• 発明の名称:シイタケラッカーゼの調製法とフェノール性環境汚染物質の分解

• 出願番号 :特願2003-57599

• 出願人 :岩手県

• 発明者 :永井勝、佐藤利次、渡辺久敬、平野達也、江井仁

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お問い合わせ先

• 北見工業大学 工学部 バイオ環境化学科准教授 佐藤 利次

TEL :0157 - 26 - 9411FAX :0157 - 24 - 7719e-mail: tosisato@mail.kitami-it.ac.jp

• 科学技術振興機構(JST) 技術移転促進部シーズ展開課 鷲田 弘

TEL : 03 - 5214 - 7519FAX : 03 - 5214 - 8454e-mail: h2washit@jst.go.jp