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誌 57 (3): 103~110, 1995 103 ウ リ科 野菜 用 接 ぎ木 装 置 の 開発(第2報)* -機 械接 ぎ木 の可能性 の検討- 鈴 木正肚**・小林 研**・猪 之奥康 治***・ 三 浦 恭 志 郎**** 第1報 で開発した要素技術か らなる機能確認機を製作し,キ ュウリ接ぎ木作業を行って機械に よる接 ぎ木 の可 能 性 を検 討 した 。 接 ぎ木 法 の片 葉 切 断 接 ぎ,苗 を子 葉 展 開 基 部 で 吊 り下 げ て供 給 す る方 法,ウ レ タン ゴム付 フ ィン ガ に よる苗 把 持 法,カ ミソ リに よる切 断 法 そ して ク リップ に よ る接 着 法 は有 効 に機 能 した 。 機 能 確 認 機 は7秒 で1株 の接 ぎ木 作 業 を行 い,作 業 精 度 は接 着 率83 %,活 着 率65%,成苗 率60%であ った 。 これ らの 結 果 か ら接 着 や 切 断 の 精 度 向 上 は 必 要 で あ るが, 機 械 接 ぎ木 の成 否 を 決 め る接 ぎ木 法,切 断 位 置 決 めそ して把 持 法 は 目的 どお り機 能 した こ とか ら 機械接ぎ木は可能であると判断した。 〔キーワード〕 接ぎ木,苗,苗生産,野菜,果菜,ウリ科,キュウリ,ロボット Development of Grafting Robot for Cucurbitaceous Vegetables (Part 2)* Masato SUZUKI**, Ken KOBAYASHI**, Koji INOOKU***, Kyoshirou MIURA**** Abstract A function check model, in which the elemental techniques necessary for mech- anical grafting were combined, was manufactured, and the possibility of mechanical graf tting was examined through cucumber grafting. 'Cutting-a-Cotyledon-off-Gra- fting'as a grafting method, seedling feeding method by hunging on a hanger at the joint of the cotyledons and hypocotyl, urethane rubber finger, cutting by razor and gluing by clip were all performed successfully. Grafting times of 7 seconds per stock was possible. The efficiency of the function check model was as low as 83% for fixing 65% for agglutination and 60% for union. The clip fixing method and improvement in the cutting performance of stock were the remaining problems. As a result of the grafting test, we judged that mechanical grafting is possible. •k Keywords•l grafting, seedling, nursery production, vegetables, fruits vegetables, cucumber, robot, robot hand Ⅰ 緒 第1報1)で開発 した要 素技 術を組 み合わせて接 ぎ木 装 置 を 製 作 し,片 葉 切 断 接 ぎに よ る機 械接 ぎ 木 の可 能 性 を 検 討 した 。 この 装 置 は,苗 供給,把 持,搬 送,切 断,接 着,排 出の動作を行 う機構 を 備えた機能確認用接ぎ木装置(機 能確認機)で あ *1989年10月 第25回農業機械学会関東支部年 次大会 (栃木 県 勤 労 者 休 養 セ ン タ ー)に て 講演 **生 物系特定産業技術研究推進機構 基礎技術研究部 (●331 大宮市 日進 町1-40-2 ●048-663-39 01) BRAIN-Institute of Agricultural Machi- nery, 1-40-2 Nisshincho, Omiya-shi, 331 Japan ***同上 ,現 在:農 林 水 産 省 四 国農 業 試 験 場 ****同上 ,現 在:農 林 水 産 省 北 陸農 業 試験 場

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農 業 機 械 学 会 誌 57 (3): 103~110, 1995 103

ウ リ科 野菜 用 接 ぎ木 装 置 の 開発(第2報)*

-機 械接ぎ木の可能性の検討-

鈴 木正肚**・ 小林 研**・ 猪 之奥康 治***・ 三浦恭志郎****

要 旨

第1報 で開発した要素技術か らなる機能確認機を製作し,キ ュウリ接ぎ木作業を行って機械に

よる接ぎ木の可能性を検討した。接ぎ木法の片葉切断接ぎ,苗 を子葉展開基部で吊り下げて供給

す る方法,ウ レタンゴム付 フィンガによる苗把持法,カ ミソリによる切断法そしてクリップによ

る接着法は有効に機能した。機能確認機は7秒 で1株 の接 ぎ木作業を行い,作 業精度は接着率83

%,活 着率65%,成 苗率60%で あった。これらの結果から接着や切断の精度向上は必要であるが,

機械接ぎ木の成否を決める接ぎ木法,切 断位置決めそ して把持法は目的 どおり機能した ことか ら

機械接ぎ木は可能であると判断した。

〔キーワード〕接ぎ木,苗,苗生産,野菜,果菜,ウリ科,キュウリ,ロボット

Development of Grafting Robot for Cucurbitaceous Vegetables (Part 2)*

Masato SUZUKI**, Ken KOBAYASHI**, Koji INOOKU***,

Kyoshirou MIURA****

Abstract

A function check model, in which the elemental techniques necessary for mech-

anical grafting were combined, was manufactured, and the possibility of mechanical

graf tting was examined through cucumber grafting. 'Cutting-a-Cotyledon-off-Gra-

fting'as a grafting method, seedling feeding method by hunging on a hanger at the

joint of the cotyledons and hypocotyl, urethane rubber finger, cutting by razor and

gluing by clip were all performed successfully. Grafting times of 7 seconds per stock

was possible. The efficiency of the function check model was as low as 83% for

fixing 65% for agglutination and 60% for union. The clip fixing method and

improvement in the cutting performance of stock were the remaining problems. As

a result of the grafting test, we judged that mechanical grafting is possible.

•k Keywords•l grafting, seedling, nursery production, vegetables, fruits vegetables, cucumber, robot, robot

hand

Ⅰ 緒 言

第1報1)で 開発 した要素技術を組み合わせて接

ぎ木装置を製作し,片 葉切断接ぎによる機械接 ぎ

木の可能性を検討した。この装置は,苗 供給,把

持,搬 送,切 断,接 着,排 出の動作を行 う機構を

備えた機能確認用接ぎ木装置(機 能確認機)で あ

*1989年10月 第25回 農業機械学会関東支部年 次大会

(栃 木県勤労者休養 センター)に て講演**生 物系特定産業技術研究推進機構 基礎技術研究部

(●331 大宮市 日進町1-40-2 ●048-663-39

01) BRAIN-Institute of Agricultural Machi-

nery, 1-40-2 Nisshincho, Omiya-shi, 331

Japan***同 上 ,現 在:農 林水産省 四国農業試験場

****同 上 ,現 在:農 林水産省北 陸農業 試験場

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104 農 業 機 械 学 会 誌 第57巻 第3号(1995)

る2)。

本報では機能確認機の設計 ・製作 と接 ぎ木試験

から得られた知見をもとに,接 ぎ木装置を構成す

る機構が具備すべ き機能を明らかにし,機 械によ

る接 ぎ木の可能性について検討する。

Ⅱ 機 能確認 用接 ぎ木装置 の製作

1. 機能確認機の開発目標

機械接 ぎ木の可能性を検討す るために,各 機構

は動作速度や範囲を調節可能とす るとともに,独

立 して駆動できるようにした。また,装 置の性能

として次の3点 を開発 目標 とした。

(a) 装置は個人農家あるいは数戸の農家が共同で

利用できる大きさ,機 能 とす る。

(b) 作業能率は手接 ぎ木の5倍 以上,活 着率は80

%以 上 とす る。

(c) 対象作物はウリ科野菜 とし,主 にキュウリと

する。台木はカボチャとする。

2. 機能確認機の仕様3)

主な仕様は次のようにした。

(a) 穂木,台 木は子葉展開基部で吊 り下げ,1株

ずつ供給する。

(b) 苗把持は市販の空気圧ハンドを利用す る。

(c) 切断部は両刃のカ ミソリを用いた回転円盤型

とし,切 断角度は穂木10°,台 木30° とす る。

(d) 接着はクリップを一株毎供給 して行 う。

(e) 穂木 と台木の子葉展開方向を直交させて接着

し,子 葉の重な りを防 ぐ。

(f) 各部の駆動は切断部のモータ以外は,空 気圧

方式とする。

(g) 各部の制御は,プ ログラマブルコントローラ

を使用したシーケンス制御 とし,苗 の把持か ら

苗排出までの1サ イクルを連続 して行 う。

本機を設計する上で留意 した点は,苗 の把持,

切断,接 着の部位は供給した時点で決めてしまう

点であ り,一 旦把持した苗は接着終了まで解放 し

ない方式とした。従って,把 持後は切断位置,接

着位置の調整は一切行わない。

3. 機能確認機の構造

機能確認機の全体を図1に 示す。この装置は,

苗供給部,把 持部(ハ ンド),搬 送部,切 断部,

クリップ供給部,接 着部,排 出部,制 御部,動 力

部か ら構成されている。また,各 部の動作は,穂

図1 機能確認機

Fig. 1 Function check model grafting robot

a:台 木 b:ス リッ ト c:台 木 ハ ン ド

図2 台 木 供 給 部

Fig. 2 Feeding device for stock

図3 台木 の供給 と把 持,切 断位置 決め

Fig. 3 Decision of location for stock cuttin

木 と台木はそれぞれ別経路で処理 し,切 断面を接

着部で向かい合わせてクリップ掛けして排出する

ようにしている。

(1) 苗供給部 と切断位置決め

図2に 台木の供給部を示す。苗供給部は穂木用

と台木用を備えている。苗吊 り下げ部は平板のス

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鈴木 ・小林 ・猪之奥 ・三浦:ウ リ科野菜用接 ぎ木装置 の開発(第2報) 105

リ ッ トとし,苗 は子 葉 展 開 基 部 で 懸 架 され る 。 ス

リッ ト間隔 は胚 軸 径 に応 じて調 節 で き る よ うに し

た 。苗 把 持 部(ハ ン ド)は,ス リッ トの下 で胚 軸

を 把 持 す る よ うに な って お り,把 持 した 時点 で 苗

と他機 構 の相 対 位 置 が定 まる よ うに した 。 苗 の 供

給 と把 持,切 断 の位 置 関 係 を 図3に 示 した 。

(2) 苗把 持 部(ハ ン ド)

ハ ン ドは 回転 開 閉 型 ハ ン ドに フ ィ ン ガを 取 り付

け た もの で あ る。 フ ィン ガの 把 持 面 に は ウ レ タ ン

ゴ ムを 貼 り つ け,胚 軸 に 傷 を つ け な い よ うに し

た 。把 持 面 は台 木 用 が 幅8mm,長 さ15mm,穂

木 用 は幅4mm,長 さ15mmと した 。厚 さ は両 者

4mmと した 。

(3) 苗 搬 送 部

台木 搬 送 部 は直 動 型 空 気圧 シ リン ダで,ロ ッ ド

先端 に ハ ン ドを取 り付 け た 。 ハ ン ドは 苗供 給部,

接 着 部 の 間 を 往 復す る。

穂 木 搬 送 部 は 空 気 圧 ロー タ リア クチ ュエ ー タ

で,ア ー ム先 端 に ハ ン ドを取 り付 け た 。 苗 を 把 持

す る と切 断 部 を 通過 して 接着 部 まで 半 径300mm

で 回 動 す る。

(4) 切 断 部

台木 切 断 部 は,直 径106mmの 円盤 外 周 に両 刃

の カ ミソ リ1枚 を 薄 板 で 挾 ん で 取 り 付 け,刃 先

回 転 直 径150mmの 回 転 刃 と した 。駆 動 は 回転 速

度 可 変 の直 流 モ ー タ と した 。 モ ー タ は 切断 角度 を

30° に設 定 し架 台 に据 え付 け た 。切 断 部 は 苗供 給

部 と接 着 部 の間 に設 け,苗 搬 送 を停 止 せ ず に切 断

す る 。

穂 木 切 断 部 の構 造 は 台木 用 と同一 で あ り,切 断

角 度 を10° と した 。

(5) 接 着 部

ク リッ プ掛 け は ロー タ リア クチ ュエ ー タで ク リ

ッ プア ー ム先 端 に取 り付 け た 回 転 開 閉 型 ハ ン ド

(ク リッ プハ ン ド)を 回 動 させ て 行 った 。 回 転 半

径 は100mmで あ る。 ク リ ップハ ン ドに は 開 口 し

た ク リッ プを 一 株 毎 に 把 持 させ た 。 図4に ク リ ッ

プ 掛 け の 状 態 を 示 す 。

(6) 排 出 部

接 ぎ木 苗 の 取 り出 しは,直 動 型 空 気 圧 シ リ ンダ

の先 端 に 苗 押 出 し板 を 取 り付 け て 行 った 。接 着 終

了 時 点 で 台 木,穂 木 の 両 ハ ン ドが 苗 を 解 放 す る

と,苗 押 出 し板 が 接 着 部(ク リ ップ)を 押 し て接

a:台 木 ハ ン ド b:穂 木 ハ ン ド c:ク リ ップ ハ

ン ド d:苗 押 出 し板 e:ク リッ プ

図4 接 着 部

Fig. 4 Clipping device

図5 タ イ ム チ ャー ト

Fig. 5 Time chart of function check model

ぎ木 苗 を 機 外 に 排 出 す る。

(7) 制 御 部

制 御 部 は,オ ム ロン社 製 プ ログ ラ マ ブル コ ン ト

ロー ラC-28Pを 用 い た シー ケ ンス制 御 と し た 。

タ イ ムチ ャ ー トを 図5に 示 す 。 制 御 プ ログ ラ ム は

ラ ダ ー言 語 で記 述 し,ス テ ップ数 は134ス テ ップ

で あ る 。作 業 モ ー ドは各 部 を 個 別 駆 動 で き る 「マ

ニ ュア ル モ ー ド」 と,一 株 分 の動 作 を 連 続 して行

う 「自動 モ ー ド」 の2モ ー ドと した 。

(8) 動 力部

動 力 は別 置 き の エ ア コ ンプ レ ッサ の空 気 圧 に よ

り把 持,搬 送 部 な どの空 気 圧 ア クチ ュエ ー タ を駆

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106 農 業 機 械 学 会 誌 第57巻 第3号(1995)

動し,切 断はモータを使用した。これらは商用電

源AC100Vで 駆動するようにした。

4. 機能確認機の接ぎ木動作

各機構は苗把持から接ぎ木苗の排出までの動作

を連続的に行う。動作は次の通 りである。

まず,台 木 と穂木を一株ずつ子葉展開基部で苗

供給部のス リッ トに吊 り下げる。クリップは開 口

状態にしてクリップハン ドに把持させる。ここで

は作業モー ドを 「自動モー ド」とする。

この状態でスター トスイッチを入れると,台 木

搬送部の直動型エアシリンダが前進し,ハ ン ドが

台木胚軸を把持する。同 じく穂木搬送部の ロータ

リアクチュエータが回動し,先 端のハン ドが穂木

胚軸を把持する。

次に,台 木ハン ドが後退し,経 路上にある切断

刃が子葉1枚 と生長点を切除する。台木ハンドは

さらに後退し接着部で停止する。一方,穂 木ハン

ドも回動し,途 中の切断刃が胚軸下部を切 り落 と

す。穂木ハ ンドは接着部で停止する。

接着部では,台 木と穂木の切断面は向い合 った

状態となる。そこにクリップアームが回動 し,ク

リップが切断面を挾むと,ク リップハン ドを開い

てクリップ掛けを行 う。クリップ掛けが終わると

台木,穂 木の両ハン ドが苗を解放し,苗 押出し板

は接ぎ木苗の接着部分を押して機外に排出する。

Ⅲ 接 ぎ木装置 の機能確認 と機械接 ぎ

木の可能性 の検討

機能確認機を用いてキ ュウリ接ぎ木 作 業 を 行

い,各 部の機構が目的どお り機能するかを確認 し

た。また,試 験結果及び作動状況の観 察 結 果 か

ら,接 ぎ木装置が備えるべき機能を明らかにし,

機械接ぎ木の可能性について検討した。

1. キュウリ接ぎ木試験4)

(1) 試験方法

供試苗は,穂 木キ ュウリは試験番号1が'夏 秋

節成 り2号',試 験番号2は'わ かたけ'で,育 苗

時期が異なる2種 類とした。台木カボチャはとも

に'改 良新土佐一号'で ある。 作物条件を表1に

示す。

測定,観 察項 目は次のとお りである。

a 接ぎ木性能

(a) 接着率

表1 キ ュウ リ接 ぎ木試験供試作物条件

Table 1 Seedling conditions of cucumber

grafting test

( )の数字は標準偏差

(b) 活着率

(c) 成苗率

b 作動状態

接着率は次式で求めた。

接着率(%)=接着株数/供試株数

×100

ここに,

供試株数:接 ぎ木装置に供給した穂木

(台木)苗 の数

接 着 株:穂 木と台木の切断面が外見

的に合っている接ぎ木苗。

物理的に穂木と台木がつな

がっていて も切断面が合っ

ていなければこれに含めな

い。接ぎ木作業直後に調査

した。

養生は接ぎ木苗をポット(3号 ポット)に 植え

てプラスチ ック製の箱に入れ,シ リンジ後に透明

のビニールシー トで覆った。箱は自然光の入らな

い室内に置き,上 部から蛍光灯で照明した。環境

条件は光量60μmol・m-2・s-1,日 長12時 間,平 均

気温24℃,平 均相対湿度95%以 上とした。接ぎ木

後およそ8日 間はこの条件で養生し,そ の後ガラ

ス室で2~3日 間寒冷紗で遮光して順化した。養

生から順化,順 化から一般育苗への移行時期は,

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鈴木 ・小林 ・猪之奥 ・三浦:ウ リ科野菜用接 ぎ木装置 の開発(第2報) 107

表2 機能確認機の接ぎ木性能

Table 2 Performances of function check model

1)活 着率a=K/N×100, 2)活 着率b=K/S×100

図6 接 ぎ木 され た苗(左:機 械接 ぎ木 苗

右:手 接 ぎ木苗)

Fig. 6 Grafted cucumber plants (left: robot,

right: manual)

苗を観察 しながら決めた。

(2) 試験結果

a接 ぎ木性能 試験結果を表2に 示 した。図6に

成苗になった苗を示す。

苗を供給後,接 ぎ木に要する時間は約7秒 であ

った。接着率は2回 の試験 とも80%以 上であ り,

接ぎ木失敗の原因も同様の傾向を示した。

活着率は62%,69%で 接着株の約80%が 活着 し

た。成苗率は58%,67%で あった。一方,手 接ぎ

木株は活着率95%以 上,成 苗率90%で あった。機

能確認機は,穂 木の品種や育苗時期にあまり影響

を受けないことを確認したが,活 着率は 目標とし

た80%に は達しなかった。

b作 動状態 主要部の作動状態,改 良点は次のと

お りであった。

(a)苗供給部 ス リットへの苗供給は容易であ り,

子葉展開基部で懸架できた。ただ し,胚 軸の曲が

りが大きい苗にも適応できるようス リット下に十

分な空間を確保する必要があった。

(b)苗把持部 ウレタンゴムを貼付 した フ ィ ン ガ

は,胚 軸に損傷を与えることなく,ま た,苗 搬送

時にフィンガ内を苗が移動す ることもなか った。

ハンドが原因の接ぎ木失敗はなかった。

(c)苗搬送部 台木には直動型,穂 木には回転型の

エアシリンダを用いたが作動に問題なかった。し

か し,他 機構 との配置の関係でス トロークが長 く

な り,そ の結果作動時間も長 く,さ らに機体 も大

形になるので見直しが必要であった。

(d)切断部 穂木切断部は根部側が自由端となった

ため,胚 軸の曲が り,根 の付着土量などの影響を

受けた。台木切断部は子葉側が自由端とな り,ま

た,切 断刃の取 り付け角度が固定のため,子 葉の

大きさ,葉 柄展開角の影響を受けた。

両切断機構とも苗形状の影響を受け,切 断精度

は大きく変化した。

(e)接着部 穂木,台 木 とも切断が良好に行われ,

切断面が向かい合 うように接着部に搬 送 され る

と,ク リップは両胚軸を挾む ようにクリップ掛け

し,接 着は成功 した。

しか し,台 木子葉が垂れる状態に切 断 され る

と,ク リップが葉柄に触れるようになって胚軸を

挾めず,穂 木 と台木が全 く接着されない失敗(不

接着)と なった。逆に台木の生長点が大 きく残 る

ように切断 されると,穂 木切断面 と台木切断面が

干渉 し合ってずれてしまい,接 ぎ木 されているも

のの接着面が不一 致 の 失 敗(不 良接着)と なっ

た。

穂木の胚軸が大きく曲がっているときにも切断

面が不一致の失敗が発生 した。

(f)排出部 接 ぎ木苗の接着部を押 し出す ようにし

た。接 ぎ木が成功した株では押し出し作用は良好

であった。しかし,ク リップ掛けに失敗した苗で

は,押 し出すだけでは性能は不安定であった。

2. 切断部性能試験5)

キュウリ接ぎ木試験では,台 木と穂木の切断を

ハン ドで把持した状態で行ったが,切 断部位側が

自由端となるため,切 断精度は苗形状の影響を受

けた。切断面の状態は接ぎ木作業の成功,不 成功

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108 農 業 機 械 学 会 誌 第57巻 第3号(1995)

に大きく影響 した。その結果,接 着率は目標を達

成できなかった。そこで,切 断装置の性能を明確

にし,切 断精度を向上させる対策を検討 した。

(1) 試験方法

a穂 木,台 木切断部の改造 穂木は,切 断時に根

部側が自由端となるため切断精度が低 くなった。

そのため切断時に胚軸の動きを規制するガイ ドを

設けた。

台木切断部は,子 葉の動きを規制するガイ ドを

設けた。このガイ ドは,搬 送中に葉柄展開部を分

ける位置に設け,切 断刃はこのガイ ドに沿 って動

くようにした。

b切 断条件 穂木切断試験は,ガ イドを穂木搬送

経路の片側にのみ設けた場合,胚 軸を挾むように

両側に設けた場合について,切断速度を6.5m/sと

13.0m/sに 変えて切 断 高 さ,切 断面等を調査 し

た。供試株数は1試 験区当た り20株とした。併せ

て切断精度が活着に及ぼす影響を見るため,機 械

切断した穂木を手切断した台木に接ぎ木 し,活 着

率,成 苗率を調査 した。供試品種は播種後7日 か

ら31日 のキュウリ'わ かたけ'で ある。

台木の切断試験は,ガ イドの効果を見るため,

胚軸径,葉 柄展開角の異なる台木 カボチャ'改 良

新土佐一号'を 供試 して切断面の形状について検

討 した。葉柄展開角の範囲を広く取 るため,播 種

後13~30日 の苗を計100株 供試した。切断速度は,

5m/sと した。また,機 械切断した台木に手切断

した穂木を接 ぎ木 し,活 着率,成 苗率を調 査 し

た。

両試験 とも接 ぎ木後の養生条件は,キ ュウリ接

ぎ木試験 と同じとした。

(2) 試験結果

試験結果を図7に 示す。

a穂 木切断 片側ガイドでは,胚 軸を完全に切断

できずに根を残す場合が多かったが,両 側ガイ ド

での切断状態は良好であった。ただし,ど ちらも

切断面が複数できる2度 切 りが観察 された。切断

高さは,切 断機構,切 断速度などの諸要因によっ

て,設 計値に対 し-1~+4mmの 範囲にばらつ

いた。

両側ガイドでは,胚 軸径1.5~2mmの 範囲では

90%以 上を良好に切断す ることができた。切断速

度は,設 計切断高さと実切断高さとの差及びばら

(a)穂木の切断性能(両 ガイ ド付き)

(b)台 木の切断性能

図7 円盤型切断部の切断性能

Fig. 7 Cutting performance of disc type cutter

つきを考慮すると両ガイド付 きで13m/sが 最 も良

かった。

切断機構は,苗 搬送 と同期 していないため泥付

きの根部を切断することがあ り,切 断面の汚れが

問題であった。

活着率,成 苗率は対照区の手接ぎ木苗で,100

%,95%,良 好切断で100%,96%,2度 切断で

97%,93%で あ り,切 断面状態による差は見 られ

なかった。

b台 木切断 切断面の状態は,不 完全切断(片 子

葉が切除されているが生長点が大きく残っている

もの),良 好切断(片 子葉,生 長点とも切除 され

ているもの),過 剰切断(片 子葉,生 長点 とも切

除されているが,胚 軸の髄腔が表れ,子 葉が垂れ

ているもの),両 子葉切除 されたものは過剰切断

とし3種 類に分類 した。

切断面状態は,葉 柄展開角に大 きく影 響 され

た。葉柄展開角が55° 未満では不完全切断が増加

し,75° 以上では過剰切断が増加する傾向があっ

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鈴木 ・小林 ・猪 之奥 ・三浦:ウ リ科 野菜用接 ぎ木装置 の開発(第2報) 109

た。

苗姿勢は子葉がガイ ドに接触すると乱れること

が多かった。この場合,残 した子葉が損傷を受け

ることがあったが活着には影響 しなかった。

切断面が不完全切断のときの活着率,成 苗率は

87%,83%,過 剰切断のときが88%,82%で,良

好切断の97%,94%に 較べいずれ も劣った。

3. 主要部の機能と機械接ぎ木の可能性の検討

機能確認機の試験結果か ら,主 要機構の機能と

機械接 ぎ木の可能性について検討する。

まず,接 ぎ木性能については,接 ぎ木所要時間

は約7秒 で手接 ぎ木の約4分 の1で あったが,作

業精度 を表す接着率,活 着率,成 苗率とも手接ぎ

木に較べ約20~30%低 い値となった。

作業精度の うち接着率が低 くなった原因は,ク

リップ掛け機構と切断機構にあった。 クリップ掛

けはクリップアーム(長 さ100mm)を 回動させ

て行なったためクリップは円弧を描いて接着部に

供給される。そのため接着部分に僅かなずれがあ

るとクリップ先端が台木葉柄に接触 して接 ぎ木に

失敗 した。

切断機構が原因 となったのは,不 完全切断ある

いは過剰切断の苗である。前者は接着部位がクリ

ップ開 口幅より広 くなってクリップが 挾 み 込 め

ず,後 者では子葉が垂れ下がると葉柄がクリップ

と干渉しクリップ掛けに失敗 した。

また,活 着率,成 苗率が低 くなった原因として

は,接 着 した株のうち活着 したのは(表2の 活着

率b)76%,81%と2回 の試験とも低い値となっ

たことが示 しているように,外 見上は切断面 どう

しが接着しているように見えても,癒 合に必要な

切断面積が確保されていなかったことなどが考え

られる。両機構を改良すれば作業精度の向上は可

能であると思われた。

子葉展開基部を基準に把持,切 断,接 着の部位

を決める方法は,苗 の生育ステージや倒伏による

胚軸曲が りな ど苗形状の影響を最小限に押さえる

ことができた。この方法は片葉切断接 ぎによる機

械接 ぎ木にとって有効な方法であると判 断 され

た。

次に,主 要機構の機能について検討する。

苗供給部は,穂 木用,台 木用 とも子葉展開基部

で吊 り下げるス リット方式は構造が簡単で供給も

容易であった。しかも把持部位をできるだけ子葉

展開基部に近い ところに設定すれば,胚 軸曲が り

の影響 も小さく,把 持部位が正確に決まる供給方

法であった。

ハンドは,空 気圧ハンドのフィンガにウレタン

ゴムを貼付した簡単な構造であったが,胚 軸を損

傷す ることもなく確実に把持できた。苗把持につ

いては,第1報 で述べた把持力制御は不要である

ことを再確認した。

切断部は穂木用,台 木用とも苗の動きを規制す

るガイ ドを設けることによって切断作用は向上し

たが,作 業精度 は苗の形状によって大きく変わ り

不安定であった。また,穂 木切断では切断刃に培

養土が付着することがあ り切断面の汚れが問題で

あった。

接着部では,台 木が不完全切断や過剰切断の状

態ではクリップ掛けの失敗が発生した。接着資材

として選択 したクリップは接着が確実で,そ の後

の苗ハンドリング等で接着部位が外れることはな

かった。

排出部は,接 ぎ木失敗時に作用が不 安 定 とな

り,失 敗苗の持ち回 り対策が必要であった。

以上のように,切 断部,接 着部は改良が必要で

あったが,他 の主要機構は仕様のとお り機 能 し

た。また,子 葉展開基部を基準とした位置決め法

は苗形状の影響を最小限にし,さ らに,片 葉切断

接ぎは機械で行って も活着率が低下することはな

いことか ら,機 械接ぎ木は可能であると判 断 し

た。

Ⅳ 摘 要

苗供給,把 持,切 断,接 着,苗 排出の動作を順

に行い,片 葉切断接 ぎにより接 ぎ木を行う機能確

認用接 ぎ木装置を製作した。これを供試し,台 木

にカボチャを用いてキュウリ接ぎ木試験を実施し

て機能確認と機械による接ぎ木の可能性について

検討した。

1) 主要部の機能確認

機能確認機は苗供給部,把 持部,搬 送部,切 断

部,ク リップ供給部,接 着部,排 出部,動 力部,

制御部で構成されている。本機の接ぎ木性能は,

苗供給後接ぎ木に要する時間は約7秒,接 着率は

80%以 上,活 着率は約66%で あった。主要部の機

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110 農 業 機 械 学 会 誌 第57巻 第3号(1995)

能は次のようであった。

(1) 苗供給部はス リット方式 とした。子葉展開

基部で苗をス リットに吊 り下げる方法であ り,構

造が簡単で供給 も容易であ り有効であった。

(2) ハンドは,把 持面にウレタンゴムを貼付し

た もので胚軸を損傷することはなか った。

搬送に用いた直動型や回転型のエアシリンダは

機体を大形にし,ま た作動時間も長 くな り検討が

必要であった。

(3) 切断部の作業精度が全体の性能を低下 させ

る原因 となった。特に台木の子葉1枚 と生長点の

切除は正確かつ切断面積が大 きくなるように行 う

ことが課題 として残った。

(4) 接着部では,ク リップ先端が葉柄に接触 し

クリップ掛けに失敗することがあった。また,不

完全切断,過 剰切断でも接 ぎ木失敗が発生 し,台

木切断精度が性能に影響を与えた。

接着資材として選んだ クリップは機械によるク

リップ掛けでも問題なかった。

(5) 排出部は,接 着部を押 し出す機 構 と した

が,作 用の安定性向上が必要であった。

(6) 動力部,制 御部は特に問題はなかった。

2)機 械による接 ぎ木の可能性

子 葉 展 開 基 部 を 基 準 に,把 持,切 断,接 着 の部

位 を 決 め る方 法 は,苗 の大 き さ,胚 軸 の 曲 が りな

ど苗 形 状 の 影 響 を 最 小 限 に押 さ え,片 葉 切 断 接 ぎ

に よ る機 械 接 ぎ木 に とっ て有 効 な方 法 で あ る と判

断 され た 。 さ ら に,片 葉 切 断 接 ぎは機 械 で行 っ て

も活 着 率 が 特 に低 下 す る こ とは なか った 。

以 上 の よ うに,切 断 部,接 着 部 の作 業 精 度 向上

は 課 題 で あ るが,他 の 機 構 に は機 能 上 大 き な 問題

は な く,か つ,片 葉 切 断 接 ぎが 機 械 で実 行 で き る

こ とが 実 証 で きた こ とか ら,機 械 接 ぎ木 は可 能 で

あ る と判 断 した 。

参 考 文 献

1) 鈴木正肚,小 林 研,三 浦恭志郎,猪 之奥康治,平 田孝

三:ウ リ科野菜用接ぎ木装置の開発(第1報),農 機誌,

57 (2),100-108,1995

2) 特許庁:接 ぎ木苗製造装置,特 開平2-107125

3) 生研機構 編:生 研機構 農業機械化研究所昭和62年度事

業報告,133-134,1988

4) 鈴木正肚,小林 研:接 木作業の機械化に関する研究(第

4報),平 成元年度農機学会関東支部講演要旨,24-25,

1989

5) 生研機構編:生 研機構 農業機械化研究所昭和63年度事

業報告,17-20,1989

(原稿受理平成6年8月2日 ・質問期限平成7年7月31日)