12
670 7 - 2 修士課程・博士課程の教育内容・方法等 A群・大学院研究科の教育課程と各大学院研究科の理念・目的並びに学校教育法第65条、大学院 設置基準第3条第1項、同第4条第1項との関連 B群・「広い視野に立って清深な学識を授け、専攻分野における研究能力又は高度の専門性を要す る職業等に必要な高度の能力を養う」という修士課程の目的への適合性 B群・「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な 業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養う」という博 士課程の目的への適合性 A群・学部に基礎を置く大学院研究科における教育内容と、当該学部の学士課程における教育内 容の適切性及び両者の関係 A群・修士課程における教育内容と、博士(後期)課程における教育内容の適切性及び両者の関 A群・課程制博士課程における、入学から学位授与までの教育システム・プロセスの適切性 A群・社会人、外国人留学生に対する教育課程編成、教育研究指導への配慮 (外国人留学生については、「外国人留学生の受け入れ状況」と併せて後述する) A群・教育課程の展開並びに学位論文の作成等を通じた教育・研究指導の適切性 A群・学生に対する履修指導の適切性 B群・指導教員による個別的な研究指導の充実度 1)本大学院の教育課程の目的 本学大学院学則は学校教育法65条の規定を受けて本大学院の目的を定め(「青山学院大学大学院学 則」1条)、その下に博士前期課程(修士課程)及び博士後期課程(博士課程)を設置することとし(「同 学則」2条2項)、また、「同学則」3条は、大学院設置基準第3条1項(修士課程)及び4条1項(博 士課程)を受けて、修士課程と博士課程の目的についてそれぞれ、修士課程の目的として「広い視野 に立って深遠な学識を授け、専攻分野における研究能力又は高度の専門性を要する職業等に必要な高 度能力を養うことを目的とする」と定め(「同学則」3条2項)、また、博士課程の目的として「専攻 分野について研究者として自立して研究活動を行い、またはその他の高度に専門的な業務に従事する に必要な研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」(「同学則」3条1項)と 定めている。本研究科の教育課程も、こうした本学大学院学則1条及び3条に基づいて設置されてい

7-2 修士課程・博士課程の教育内容・方法等 · A群・大学院研究科の教育課程と各大学院研究科の理念・目的並びに学校教育法第65条、大学院

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

670

化し、あらゆる面で透明で公正な処理が強く求められる社会経済体制においては、妥当なものといえ

るであろう。本研究科の理念目的に基づいた人材育成の目的達成状況をみるための直接的な資料とし

ては、その修了者の進路や社会的活動分野等の追跡的・累積的な調査が必要であるが、これまでこう

した調査が継続的になされて調査資料がとくに作成されたことはないので、この点について、現段階

では、これ以上、具体的な数値等で客観的に示すことは困難である。ここでは本研究科が、その改革

努力にみられるように、社会的要請に応える取組や努力を真摯に継続してきたことを述べるにとどめ

る。

なお、こうした本研究科の目標や取組については、本学のホームページや『大学院パンフレット〔法

学研究科〕ビジネス法務専攻』で周知するよう努めている。

7-2 修士課程・博士課程の教育内容・方法等

A群・大学院研究科の教育課程と各大学院研究科の理念・目的並びに学校教育法第65条、大学院

設置基準第3条第1項、同第4条第1項との関連

B群・「広い視野に立って清深な学識を授け、専攻分野における研究能力又は高度の専門性を要す

る職業等に必要な高度の能力を養う」という修士課程の目的への適合性

B群・「専攻分野について、研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門的な

業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養う」という博

士課程の目的への適合性

A群・学部に基礎を置く大学院研究科における教育内容と、当該学部の学士課程における教育内

容の適切性及び両者の関係

A群・修士課程における教育内容と、博士(後期)課程における教育内容の適切性及び両者の関

A群・課程制博士課程における、入学から学位授与までの教育システム・プロセスの適切性

A群・社会人、外国人留学生に対する教育課程編成、教育研究指導への配慮

(外国人留学生については、「外国人留学生の受け入れ状況」と併せて後述する)

A群・教育課程の展開並びに学位論文の作成等を通じた教育・研究指導の適切性

A群・学生に対する履修指導の適切性

B群・指導教員による個別的な研究指導の充実度

1)本大学院の教育課程の目的

本学大学院学則は学校教育法65条の規定を受けて本大学院の目的を定め(「青山学院大学大学院学

則」1条)、その下に博士前期課程(修士課程)及び博士後期課程(博士課程)を設置することとし(「同

学則」2条2項)、また、「同学則」3条は、大学院設置基準第3条1項(修士課程)及び4条1項(博

士課程)を受けて、修士課程と博士課程の目的についてそれぞれ、修士課程の目的として「広い視野

に立って深遠な学識を授け、専攻分野における研究能力又は高度の専門性を要する職業等に必要な高

度能力を養うことを目的とする」と定め(「同学則」3条2項)、また、博士課程の目的として「専攻

分野について研究者として自立して研究活動を行い、またはその他の高度に専門的な業務に従事する

に必要な研究能力及びその基礎となる豊かな学識を養うことを目的とする」(「同学則」3条1項)と

定めている。本研究科の教育課程も、こうした本学大学院学則1条及び3条に基づいて設置されてい

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7.法学研究科

671

る。したがって、本研究科の教育課程は、そうした一般的な学則所定の目的について、法学分野にお

ける教育研究を通して実現することを目的にする。

2)各専攻の特色

私法専攻・公法専攻

私法専攻と公法専攻は、昼間開講の大学院で、主としては学部卒の学生を対象とする法学系大学院

であり、その特色としては、その院生に対して、学部での法学教育を踏まえて私法・公法に関する特

定の研究課題をより深く掘り下げて教育研究を行うための大学院の専攻であるという点にある。それ

らの専攻は、主としては伝統的に研究者養成に比重を置いた教育研究目的の大学院の専攻としての特

色を有する。

こうした特色は、そのカリキュラムにも反映している。すなわち、そのカリキュラムは、担当教員

による研究指導を中心に、私法・公法のそれぞれの法分野における基本的な研究科目と演習科目が配

置されるという構成となっている。具体的な科目構成の点では、私法専攻の授業科目としては民法・

商法・民事手続法を中心に、経済法、労働法、国際私法といった科目、及び知的財産法や著作権法を

加えた科目からなっている。また公法専攻の授業科目としては憲法、行政法といった本来の公法分野

の科目と刑事法分野の科目を中心に、法哲学、国際法関係の科目、及び一定の政治学分野の科目を含

むものとなっている。さらに、これら両専攻にまたがる授業科目として、経済法分野、社会法分野、

基礎法分野、外国法分野の科目、及び現代法の特定テーマを扱う現代法がおかれている。こうしたカ

リキュラムは現有本研究科の教員の専門科目を中心に、一部、兼任教員による専門科目を加えて広く

法分野をバランスよくカバーする科目構成となっており、伝統的に研究者養成に比重を置いた教育目

的の大学院の専攻としてのカリキュラムの特色を有しており、同様の教育目的を有する多くの他大学

の大学院法学研究科のものとそれほど異ならないであろう。

ビジネス法務専攻

ビジネス法務専攻の特色として次の点があげられる。

① 社会的ニーズの高い人事労務法務、知財法務、税法務の3プログラムからなる。

② ビジネスローリテラシーを有した職業人育成を実践するための教育プログラムとして、特色ある

4層のカリキュラムコンテンツを提供している。

③ ビジネスローの理論研究のために併せて博士後期課程を設置している。

④ 夜間、職業人教育のための大学院として、それに対応した事務組織・教学支援組織を構築してい

る。

⑤ 大学院法学研究科ビジネスロー・センターを設置してビジネス界と密接な連携を図りつつ大学院

の研究教育を進める。

ビジネス法務専攻の場合には、このような特色を持った研究教育を実現するためにそのカリキュラ

ムは極めて特色あるものとなっている。すなわち、人事労務法務、知財法務、税法務の3プログラム

について、それらに共通するコアコンテンツをベースに、プログラムごとに発展・展開科目としての

プログラムコンテンツ、応用科目としてのイシューコンテンツ、そして総合的科目としてのプログラ

ムワークコンテンツといった4層からなっている。

これを敷衍して説明すると、コアコンテンツは各プログラムに共通する基礎的科目群からなり、基

本的リテラシーや経営戦略法務的発想を修得させるための科目群からなる。具体的にはビジネス法務

の基礎的法学科目となる私法・公法の科目のほかに、リーガルコンサルティング論とともにリーガル

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

672

コンプライアンス論、企業倫理と法、キリスト教学といったビジネス法務におけるコンプライアンス

や倫理に関する授業科目を設けて、ビジネス界の現状に高度な専門教育を通して応えていこうとする

姿勢を打ち出している。

つぎに、プログラムコンテンツは、3プログラムの各専門科目を配置して、各プログラムの専門性

を磨き、それを修得するための科目群からなる。具体的には、人事労務法務では雇用・労働関係法、

社会保障法、紛争処理手続法の基礎的科目に、労務管理や労働政策等の科目が配置され、知財法務で

は特許法・著作権法の基礎的科目に、知財会計や不正競争防止といった科目が配置され、税法務では

主要な実体税法の科目や国際税法に、税手続法、税争訟法の科目を加えた科目が配置されている。

イシューコンテンツは応用科目であり、3プログラムに特有または共通のホットイシューに関する

科目をおいて各プログラムの院生が学際的にアプローチすることを求めるものである。

プログラムワークコンテンツは3プログラムごとの判例や事例研究の演習とリサーチペーパーまた

は修士論文指導からなる。

このようなカリキュラム編成の下で、3プログラムにおける実際の教育研究指導は研究者系教員と

実務系教員とが共同して行われるが、ビジネス法務専攻における「ビジネスローリテラシーを有した

職業人育成」という教育目的からして、そうしたカリキュラム編成、及び教員と実務家とが共同して

行う教育研究指導は妥当であり、具体的運用も適切に行われている。

3)博士前期課程(私法専攻・公法専攻)、修士課程(ビジネス法務専攻)の教育課程等

私法専攻・公法専攻

本研究科に私法専攻・公法専攻は、前述のように、これまでわが国の大学の研究科で一般的に掲げ

られてきた研究者養成をその教育目標とし、そのための教育の内容・方法等がとられている。

具体的には博士前期課程における修了要件としては、①標準2年以上の在学、②講義・演習を含め

て合計30単位以上の修得、及び③必要な研究指導を受けたうえで修士論文を提出してその審査及び

終試験の合格が必要とされている。これらのほかに、④修士論文提出の際に1外国語の認定による合

格が付加的な要件として求められている。これらの専攻の修了者には「修士(法学)」の学位が授与さ

れる。

その教育の内容・方法として、各専門的な法分野等についてそれに関する講義と演習を毎年交互に

専任教員が指導することによって、専門的法分野等の特定問題について深く検討し、特定領域の判例・

事例研究を行い、あるいは外国法の専門書を講読するといった伝統的な教育の内容・方法が採用され

ている。これらの専攻としては、研究者養成という従来の目標を維持することが近年の研究科教授会

で承認されているため、基本的にはこうした指導方式を今後とも踏襲することとしている。

しかし、これらの専攻の博士前期課程の在籍学生の実態は、必ずしも研究者をめざす学生が中心と

なっているとはいいがたく、むしろ一定の資格試験や公務員試験等をめざす学生や、より専門的知識

を身につけて民間の専門的職業に就くことを希望する学生等、多様な学生集団となっている。そのた

め、こうした学生の要求にも応えるために、近年では現代法研究と現代法演習Ⅰ~Ⅵを活用して、例

えば外国人労働者問題、リーガルリスクマネジメント論、現代ビジネスローの現状と課題といった科

目を提供し、私法・公法専攻のカリキュラム内における補充的措置がとられている。また、私法専攻、

公法専攻の各授業科目の相互履修やビジネス法務専攻の授業科目の履修を認め、さらに本研究科にな

い他研究科の授業科目も10単位以内で履修を認める措置がとられている。こうした措置は実際の在学

学生の実態からすれば適正なものといえる。

ところで、本研究科は、その設立以来、法学部の私法学科と公法学科の2学科制に対応して私法と

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7.法学研究科

673

公法の2専攻制をとってきた。しかし、学部は2001年度に従来の2学科制から法学科1学科に統合さ

れ、さらに2003年度には教育内容としては3コース制(「総合法律」「外国法・渉外法」「行政・司法」)

から6コース制(「総合法律」「企業法務」「公共政策」「法曹」「隣接法曹」「国際渉外」)へ変更され、

法学教育における専門性重視の方向を打ち出しているが、本研究科は依然として2専攻制を維持して

いる(近年、本研究科の私法・公法専攻の改革の1つとしてこれら2専攻の統合案がでていたが、こ

の改革は今後の検討課題となっている)。学部に基礎をおく大学院研究科としては一見すればそれにあ

わせた形で大学院の教育内容を再編すべきであるようにみえるが、もともと、私法・公法専攻の場合

には学部のコース制の教育内容を通して教育を受けた学生から、さらに特定の法分野を選んで専門的

に研究を希望する学生を受け入れて、研究者養成のための教育を行ってきた。大学院での教育内容は

希望する法分野の専門教員による研究指導を中心に編成されることになり、その意味での学部教育と

の関連性が認められる。しかし、他方では、大学院教育には相対的な独自性がありうるので、学部の

編成にあわせなければならないという必然性はないといえる。この点、近年の私法・公法専攻の統合

問題は学部に基礎をおく大学院としての側面をより重視する方向をとるか、本研究科の相対的独立性

をより重視する方向をとるかで異なった見方ができるので、実質的には私法・公法専攻の将来的整備

計画による。しかし、形式的には学部との関連では私法・公法の2専攻をおく積極的な意義があまり

なくなったともいえる。私法・公法専攻についてはすでに研究者養成の教育の目的を堅持することが

確認されているので、これを中心に、学部に基礎をおく大学院の教員組織、入学学生の実態といった

諸要素を考慮して、そうした目的にもっとも相応しい形で私法・公法専攻の改革が進められる必要が

ある。

ビジネス法務専攻

ビジネス法務専攻の場合には、前述のように、近時のビジネス分野におけるビジネスと法の高度な

専門的知識を身につけた社会人教育の要請に応えるという、ビジネスと法の融合をめざした教育目標

をたてられている。

この専攻の場合の修了要件としては①標準2年以上の在学(ただし、短期修了は標準1年以上、長

期修了は3年以上)、②所定の履修方法に従い合計30単位以上の修得、及び③必要な研究指導を受けた

うえで修士論文または特定課題研究論文を提出してその審査及び 終試験の合格が必要とされている。

また、④修士論文の選択者には1外国語の認定による合格が求められている。このビジネス法務専攻

の修了者には「修士(ビジネスロー)」の学位が授与される。

このようなビジネス法務専攻の修了要件については、私法・公法専攻の場合と比べて、その主要な

対象学生が社会人であり、しかも夜間開講の大学院であるという特性に基づいて、在学要件について

は標準2年以上のほかに、標準1年以上在学の短期修了と標準3年以上在学の長期修了を設けて選択

制としたこと、及び修士論文に代えて特定課題研究論文(リサーチペーパー)の提出を認めたことが、

大きな特徴となっている。

また、ビジネス法務専攻の教育の内容・方法等についても、本専攻の教育目標に応えるカリキュラ

ム内容となっており、法学の理論と実務を融合する教育をめざすものとなっている。教育の方法につ

いても、各専門プログラムの対象となるビジネスシーンで必要な法学の基礎理論の科目と先端的な実

務法学の科目とをカリキュラムの中に配置して研究者系の教員と実務家系の教員が協力して教育し研

究指導に当たるという方法がとられている。これらは、そもそもビジネス法務専攻の、法学とビジネ

スの架橋を図るという理念から来るものといえる。

このようにビジネス法務専攻の場合にはビジネス法領域における特定の法分野についての新しい高

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

674

度な専門的法学教育の大学院として設置されているので、そのカリキュラムや研究指導方法が各プロ

グラムの対象とするビジネス法務の実際の場面での要請に応えるものでなければならないことから、

ビジネス界の動向を見極めて、それに相応しいカリキュラムや研究指導方法を模索する必要がある。

現段階では、可能な限りさまざまなビジネスの場面を想定してカリキュラムがたてられ、研究指導方

法がとられているが、これらについて今後試行錯誤的に実施される中で、絶えず見直しが行われ、改

善がなされることが求められる。

ところで、ビジネス法務専攻の場合は、学部教育との関連性という点からいえば、直接的には、学

部の「企業法務コース」や「隣接法曹コース」との関係が認められるといえる。しかし、ビジネス法

務専攻は設立当初から弁護士、社会保険労務士、弁理士、税理士などの専門家を含む社会人を主たる

対象とした高度な法学の専門的な職業人教育をめざして設置されているので、学部との関連性の点で

は、相対的に大学院としての独立性が強いといえる。本専攻としては学部卒業生にも門戸を開いてい

るが、学部卒業生にたいしそれらの社会人に匹敵するようなかなり高度の専門的知識や経験を要求す

るので、現在の入学者は社会人学生のみとなっている。ちなみに入学者に占めるおもな専門家は2005

年度では税理士3名、国税庁職員1名等であり、2006年度では社会保険労務士3名、税理士3名等で

あった。このようにビジネス法務専攻は学部との関連性の点では相対的に独立性がより強いといえる

が、とくに学部のビジネス法関連コースの学生にはおおきな教育効果が期待できるし、それらのコー

スの教育内容にも刺激や影響を与えることが期待できる。

4)博士後期課程の教育課程等

本研究科における私法専攻、公法専攻及びビジネス法務専攻の各博士後期課程の修了要件は、現段

階ではすべて次のような共通なものとなっている。すなわち①標準3年の修業年限の在学(ただし、

所定の条件を満たせば3年以内の在学年限でも修了は可能。「青山学院大学大学院学則」10条)、②研

究指導教員を定めて特定の研究主題について研究指導を受け、③学位申請論文を提出してその審査及

び 終試験に合格し、④ほかに2外国語の認定に合格することが求められている。この課程の修了者

には私法・公法専攻の場合には「博士(法学)」、ビジネス法務専攻の場合には「博士(ビジネスロー)」

の学位が授与される。

博士後期課程の教育内容は、その有資格の担当教員、とくに教授・助教授の資格を有する教員がそ

の専攻の法分野について博士後期課程の指導教員となって研究指導を行うことになっていることから

(「同学則」59条)、原則として指導担当教員の専攻する法分野が対象となり、さらにその関連する法

分野についても指導が行われる。その教育方法は、指導教員による、個別的なきめの細かい研究指導

による方法を中心として行われる。私法・公法専攻では従来からこうした研究指導の方法でより高度

な法学研究教育を行ってきた。

しかし、ビジネス法務専攻では、2007年度から新しい博士後期課程プログラムを実施することを決

定した。その新しい博士後期課程の概要は、以下の通りである。

① 博士後期課程ビジネス法務専攻内に、知財クリニックドクター養成プログラム(企業の知的財

産に関係するリスクを発見・対処する専門的能力の育成コース)、リーガルリスクマネジメントド

クター養成プログラム(ビジネスロー分野のリーガルリスクを発見・対処する専門的能力の育成

コース)、及びビジネスロードクター養成プログラム(ビジネス法務修士課程の3プログラムの発

展コース)を設置する。

② 対象者は原則として修士号取得者とするが、修士号の非取得者でも個別審査により対象者とす

ることができる。

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7.法学研究科

675

③ 博士後期課程ビジネス法務専攻は1年次から3年次までそれぞれインターンシップI~Ⅱと研

究指導I~Ⅲの単位制とし、2年次末で所定単位を得たうえで3年次の研究指導Ⅲにて博士論文

執筆を行う。

修士課程ビジネス法務専攻の教育内容・教育方法の独自性に照らせば、こうした博士後期課程ビ

ジネス法務専攻の改変はより妥当なものと評価しうる。

5)研究指導等

本研究科の教育方法は、授業科目の授業と研究指導(学位論文の作成等に対する指導)によって行

われる(「青山学院大学大学院学則」25条)、とされていることから、とくに研究指導が重要な教育方

法とされている。具体的には、特定の研究主題についての担当指導教員による個別的な研究指導によ

って行われる。

しかし、今日の複雑化した法律問題においては、複数の関係教員による研究指導体制が重要になっ

てきている。この点、本研究科の私法・公法専攻では、原則として私法・公法専攻の全学生及び関係

教員が出席する判例・事例または書評報告会を行い、全学生に必ず1回そこでの報告を求めている。

また、同専攻の2年次の学生で修士論文を作成中の学生については、私法専攻・公法専攻に分かれて

その専攻に属する教員の前で論文について報告させる中間報告会を開催している。これらは今のとこ

ろ、正式のカリキュラム上の科目とはなっていない任意のものであるが、前者については学生全員が

報告を行っており、後者の中間報告については希望する学生のみが行っている。ビジネス法務専攻の

場合には、論文執筆者に対し、任意ではあるが、全学生及び全教員が出席した中で、事実上中間報告

を行うよう指導しており、実行されている。

こうした研究指導の方法は現代の法分野の複雑化を考えれば、本来、カリキュラムにおいて措置す

べきものといえる。また、そもそも1名の指導教員体制自体も、そうした観点を踏まえて検討してみ

る必要があるといえる。なお、私法・公法専攻では、判例・事例または書評報告会での報告は後述の

ようにその改革の一環として単位化されることになっている。

6)私法専攻・公法専攻の改革課題

私法専攻・公法専攻については、本研究科教授会で、従来からの研究者養成というその教育目標を

変えることなく維持することが合意されている。そのため、そうした目標に応えるためにどのような

教育体制とカリキュラムが適当かに関してここ数年間にわたってビジネス法務専攻の開設構想ととも

に、引き続き検討が続けられてきた。

こうした中で、本研究科改革プロジェクトチームは2006年5月24日の研究科教授会に「私法、公法

専攻カリキュラム改革提案」を行った。この提案は旧改革推進室の報告を受けて検討を行い、研究科

教授会の議論を踏まえて提案に及んだものである。

この提案によると、私法・公法の2専攻の統合案についてはさらに検討を続ける必要があるとされ

たものの、カリキュラムの改革については次のような5点にわたる提案が行われた。

① この改革では基本的姿勢として従来型のカリキュラムの維持を確認している。

② 従来の研究・演習を交互に行うという体制を廃止し、研究科所属教員が各自の専門分野の科目

を担当・開講することとする。

③ 研究指導体制を強化するために私法研究指導・公法研究指導という科目を設置し、判例研究会・

書評会を科目として設置する等の措置をとる。

④ 研究者養成を目標に掲げることから、比較法科目を充実させる。

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

676

⑤ 現代法研究・演習等を廃止して現代的課題に対応した総合的科目を設置する。

以上の提案を受けて研究科教授会で議論され、そうした改革の方向性が基本的に承認された。こう

した改革は、従来からの研究者養成というその教育目標に応えるとともに、それ以外の目的を持った

学生にも応えるものと評価しうる。

B群・教育・研究指導の効果を測定するための方法の適切性

C群・修士課程、博士課程修了者(修業年限満期退学者を含む)の進路状況

大学院の教育効果の測定は、直接的には成績評価によるが、それ以外に各課程及び各専攻の教育目

標の達成についての評価という点では、その修了者の進路状況の把握が重要である。修了時における

進路状況については、大学院事務室や進路・就職センターで把握している。しかし、数年を経た状況

については、定かでない実情がある。

私法・公法専攻の博士前期課程修了者については非公式的な大体の進路状況は研究者、法曹、公務

員、民間企業への就職者など多様であり、その博士後期課程の修了者は人数が少ないこともあってそ

のほとんどが教育研究職についているといえる。これに対し、ビジネス法務専攻における教育効果に

ついては、それ自体開設されて間もないこともあり、それを明確に評価することは困難であるが、今

後、数年後において一定規模のまとまった人数の本専攻の修了者を社会へ送り出した段階で、これら

の修了者が社会の専門分野でどのようなかたちで活躍するかを注意深く分析する必要がある。なお、

これとは別に、ビジネス法務専攻の教育内容・方法の評価については、現在のところ本専攻の入学試

験への応募者や本専攻の在籍学生からは好意的な評価が寄せられている。

B群・学生の資質向上の状況を検証する成績評価法の適切性

A群・シラバスの適切性

教育・研究指導の効果の測定は直接的には成績評価によって行われるが、その方法については筆記

試験または口述試験、あるいはこれらに代わる論文またはレポートの提出その他の方法によることが

できることが定められている(「青山学院大学大学院学則」33条1項)。またそれらに対する成績評価

基準としては「成績は、100点を満点とし、60点以上を合格とする」と定められている(「同学則」35

条)。本研究科ではこれに基づいて各教員が適切な教育・研究指導等の効果の測定方法を任意に選択し、

学則所定の成績評価基準に従って評価を行っている。具体的には、通常の評価基準として採用されて

いるAA(90点以上)、A(80~89点)、B(70~79点)、C(60~69点)を前提に各教員が『大学院要

覧〔文・経済・法・経営・国際政治経済学研究科〕』にある「講義内容」等で示した成績評価要素を考

慮して素点による成績報告を行い、学生にはAA~C、不合格で通知される。

こうした評価基準の具体的な適用は基本的に担当教員に委ねられており、その具体的評価は、実態

としては適用上一定の比率等の明確な指針に基づくいわゆる相対評価ではなく絶対評価によって行わ

れている。一般に公平で適切な成績評価制度という点からすれば、必ずしも十分適切なものとはいえ

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7.法学研究科

677

ないかもしれない。しかし、前述のように本研究科の学生数が多くないといった事情等を踏まえれば、

それが直ちに不公正であり不適正であるとはいえない。さらに、それを急いで改善しなければならな

いと事情も見当たらない。したがって現状では一応適切であるとみることができよう。しかし、今後、

徐々に大学院の学生数が増大した場合にはこうした成績評価の適用基準の明確化等について検討を要

する場合がでてくるであろう。

また、『大学院要覧〔文・経済・法・経営・国際政治経済学研究科〕』にある「講義内容」や成績評

価等は、事前に印刷されたものであり、ごく簡単な授業の概要や成績評価の記述になっている。しか

し、その不足を補うために、各教員は、初回の授業でそれらに関するより詳しいシラバスを配付する

場合が多いので、必ずしも問題とはいえない。さらに、ビジネス法務専攻の場合には、研究指導科目

のほかに多くの法理論系や実務系の講義科目が設けられていることもあり、学期を前期と後期に分け

て各期に配置された講義科目について、とくに受講希望学生の便宜を図るため、各期の授業開始の第

1週を各担当教員による講義内容や成績評価方法等の説明に充てている。ビジネス法務専攻の場合の

幅広い法理論や法実務の学識を基礎にして個別の研究主題に関する研究を進めるという趣旨にしたが

って、各コースの学生に対し自分の専門コースの関連科目以外の講義科目も積極的に受講するよう推

奨していることから、こうした措置は適切である。

B群・学生による授業評価の導入状況

教育効果の測定は直接的には伝統的な成績評価によって行われることになるが、教育効果は本来的

にはその教育・指導のあり方と不可分に関係している面がある。この点からすると、大学院において

もその教育・指導の仕方が適切であるかどうかについて受講者による評価が必要になるが、こうした

授業評価制度は本研究科ではまだ導入されていない。それは本研究科の場合にはそもそも学生数が少

ないこともあって各授業の受講者の人数が少人数であること、またそのために個別的指導にならざる

を得ないところから、一定の受講者数を前提とする授業評価制度は必ずしも適切なものとはいえない

ことによる。そのかわり、本研究科の場合には、学生全体や個々の学生との意見交換を密に行うこと

によって、いわばモニタリングのようなかたちで本研究科の教育・研究指導についてその意見や評価

を率直に述べてもらう機会をもつ工夫がなされている。こうしたかたちの学生による授業評価の方法

は、本研究科の現状からすれば、さしあたり妥当なものといえるであろう。ただし、ビジネス法務専

攻のように学生の入学者が多くなり、授業受講者数が多くなった段階においては、それに相応しい学

生による授業評価制度またはそれに代替する制度の導入を検討することが求められるであろう。

A群・教員の教育・研究指導方法の改善を促進するための組織的な取り組み状況

本研究科に所属する教員の教育・研究指導方法の改善促進のために、学部におけるFD活動のような

組織的対応のための仕組みは、大学院にはとくにない。これは学部に基礎をおく大学院の教員組織の

形態や、本研究科における学生の人数が少数にとどまっていたといった状況によるものと思われる。

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

678

しかし、本研究科の理念・目的達成のための教育の内容や教育の方法については、本研究科に常設さ

れている大学院教務委員会でひろく検討され、必要に応じて法学研究科教授会へ報告され、そこで検

討されることになっている。教員の教育・研究指導方法に関する改善促進のための組織的取組みが、

そのように大学院教務委員会で行われることについては、本研究科の組織的限界や学生数の状況から

してやむを得ないものと評価できる。

B群・国際化への対応と国際交流の推進に関する基本方針の明確化の状況

B群・国際レベルでの教育研究交流を緊密化させるための措置の適切性

B群・学内外の大学院と学部、研究所等の教育研究組織間の人的交流の状況とその適切性

C群・外国人留学生の受け入れ状況

(「外国人留学生に対する教育課程編成、教育研究指導への配慮」を併せて記述する)

C群・留学生の本国での大学教育、大学院教育の内容・質の認定に立った学生受け入れ・単位認

定の適切性

本研究科は法務研究科とともに2003年11月にアメリカセントルイスのワシントン大学ロースクール

と包括的な国際協力協定を締結し、学生交換や教員交換、教育研究交流等の幅広い協力交流を実施す

ることになった。この交流協定に基づいて、すでに毎年、ワシントン大学のロースクールから2名の

教員を招聘し、本研究科としてアメリカ法関係の講義を法務研究科と合同授業として開講している。

講義が英語で行われるため、受講者はそれほど多くはないが、本研究科の学生にアメリカのロースク

ールと同様のアメリカ法の学修の機会を提供している。また、これらの教員に本学教員に対する研究

報告を依頼したり、時には本研究科の学生や学部学生に対する特別講演や特別講義等を依頼して、教

育研究の交流に努めている。

また、このほかに、2005年度には本学法学部とともに中国上海の華東政法大学とも交流協定を締結

し教員の教育研究交流を行っている。具体的には本学側から3~4名の教員が華東政法大学へ出向き

講演・特別講義を行い、華東政法大学側からも5~6名の教員が来日して、本研究科で講演・特別講

義を行っている。

とくに今日のグローバル化した経済社会における法律問題に対する教育研究のうえでも、本大学院

における比較法的視点を重視した研究教育の目的からしても、こうした教員・研究者の交流は重要で

ある。現在はその交流対象が限られているが、今後、それを多様化し活発化することが必要である。

本学研究科は従来から国内のみならず国外からの入学希望者にも広く開放され、留学生を受け入れ

てきた。私法・公法専攻が、これまで受け入れてきた留学生の状況は次の通りである。なお、ビジネ

ス法務専攻にはまだ留学生の在学者はいない。

法学研究科(国費・私費)留学生受入れ状況

2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度

博士前期課程 0 2 2 0 0 0

博士後期課程 0 0 1* 0 1* 0

*:本研究科博士前期課程から、一般入試による合格者

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7.法学研究科

679

これとは別に、本研究科は、ワシントン大学ロースクールから交換学生として、2004年度以降、毎

年1名ずつの学生を後期に本研究科へ正規の留学生として受け入れている(2006年度においても1名

受け入れることが決定している)。これらの交換学生は本研究科または法務研究科の後期開講科目の中

から数科目を受講し単位を修得している。これらの交換学生はまた、本学で勉強すると同時に、国会

議員の事務所等に所属して国会でのインターンシップのプログラムも並行して行っている。このプロ

グラムはワシントン大学ロースクールのプログラムであり、同ロースクールの担当教員が指導・監督

することになっているが、具体的には本研究科の教員が協力しその実際の指導・監督を行うことにな

っている。なお、中国の華東政法大学とも交流協定を締結したが、教員の交流に留まり本研究科の学

生の交換には至っていない。今後、こうした点も含めて協議される予定である。

これらの本研究科への留学生には、かなり高い日本語能力を要求していることもあって、原則とし

て本研究科学生と同じ扱いをしている。したがって、今のところは留学生の人数が少数にとどまるた

め、外国人留学生に対する特別の教育課程編成などをとくに行っていない。また、これらの留学生に

対する教育研究指導上の具体的対応は指導教員を中心に行われ、日本人学生による留学生に対する援

助もボランティアの形で事実上行われている。このような本研究科における留学生の実状に鑑み、留

学生の受入、研究教育、生活上の諸問題に組織的に対応するために、近年、法学部と共同で、法学部

国際交流委員会を設置し問題の検討と具体的対応に当ることとしている。なお、本研究科の留学生も

本大学の国際交流センターによるさまざまなサポートやサービスを等しく受けることができる。

こうした海外からの留学生に対して、本研究科または法務研究科の学生も、例えば前述のワシント

ン大学ロースクールとの交流協定の下で所定のTOEFLの点数の条件さえ充たせば同大学ロースクール

へ留学してそこでの講義を受講し単位を修得できる。しかし、これまで、本研究科(または法務研究

科)からワシントン大学ロースクールへ留学した者はまだいない。しかし、そうした機会を積極的に

利用するように学生には働きかけている。ほかに、自費による留学はもちろん可能であるが、これま

で利用実態はほとんどない。

こうした交換交流においては、学期の違いや、本研究科の授業科目のほとんどがビジネス法務専攻

のものを除き通年開講制をとっているという制約、本学側の学生受入の際の宿泊施設の貧困さ、学生

の外国語能力といったさまざまな問題を抱えているが、海外の大学からの学生を受け入れることによ

り本研究科の学生にも大きな刺激を与える等の効果がみられることから、これからの問題を乗り越え

ながら発展させていく必要がある。

また、本学全体としては国際交流センターを通して多数の海外の大学や研究機関と国際交流を活発

に行い、学生交換や教員の交流等を行っている。本研究科の学生ももちろんそのプログラムに参加可

能である。しかし、外国語能力等の条件から、本研究科からそのプログラムに参加する学生はあまり

いないのが現状である。

こうした海外からの留学生の受け入れや海外への留学生の送り出しはすべて研究科教授会の承認手

続きの下で進められることになっている。

本研究科ではわが国の法学教育が中心になるとはいえ、グローバル化が進む国際的環境の中で、本

研究科における国際的要素を強めていくことは、大学院教育において教育を受け研究を行う学生の比

較法的視点の確立や世界的な法制度と理論の動向を踏まえた観点の確立という点から必要であり、適

切でもある。今後もこうした取組を実質を伴うかたちで発展させていく必要がある。

本研究科における国際的な教育・研究交流体制はそれを担当する教員が中心となって大学院事務室

の法学研究科担当職員の協力を得てその受け入れ事務を負担しているのが現状である。これらの事務

は法学部(場合によっては法務研究科)と協力または合同で行う場合がほとんどであり、こうした受

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本章 Ⅲ.各学部・研究科の取組

680

け入れ態勢は必ずしも適切とはいえないが、留学生の人数が少数にとどまる現状ではやむを得ないも

のといえる。その意味では、今後こうした本研究科の国際的な教育・研究交流体制がさらに拡充・発

展した段階ではその事務体制を含む体制の見直しが必要になるであろう。

また、本研究科が独自に海外の大学と交流協定を締結して、学生の交換留学をしたり、教員・研究

者間の教育研究交流を行う場合には、本研究科独自の事務となり、本学の国際交流センターとは別の

二重の事務体制となるのが現状である。今後、この様な交流が活発になった場合にはこうした事務体

制のあり方も検討されるべきであろう。

A群・修士 博士の各々の学位の授与状況と学位の授与方針・基準の適切性

B群・学位審査の透明性・客観性を高める措置の導入状況とその適切性

B群・標準修業年限未満で修了することを認めている大学院における、そうした措置の適切性、

妥当性

修士・博士の学位の授与については、博士前期課程または修士課程の場合には、原則として、一定

の修業年限以上在学し本研究科所定の修了要件単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、

修士論文の審査及び 終試験に合格すること、ならびに、1外国語の認定に合格することが要件とさ

れている(「青山学院大学大学院学則」39条)。博士後期課程の場合では、原則として、当該課程に3

年以上在学し、必要な研究指導を受けた上、博士論文の審査及び 終試験に合格すること、ならびに、

2外国語の認定に合格することが要件として定められている(「同学則」40条)。なお、ビジネス法務

専攻修士課程の場合には、修士論文に代えて特定課題研究論文を選択することができ、1外国語の認

定を免除されている(「同学則」39条2項)。また、博士後期課程の場合にも当該研究科の定めにより

1外国語の認定にすることができる旨が定められている(「同学則」40条3項)。

修士・博士の学位論文の合格基準(「同学則」36条1項、2項)については、修士論文の合格基準と

して「広い視野に立って精深な学識を修め、専攻分野における研究能力又は高度の専門性を要する職

業等に必要な高度の能力を有することを証示するに足るもの」と規定されている。また、博士論文の

合格基準として「専攻分野について研究者として自立して研究活動を行い、又はその他の高度に専門

的な業務に従事するに必要な高度の研究能力及びその基礎となる豊かな学識を有することを証示する

に足るもの」と定められている。

これらの修士・博士の学位授与基準は基準としては妥当であるといえるが、その具体的運用におい

てどのようにして透明性・客観性を確保するかが問題となる。この点、修士論文や博士論文の審査は

1名の主査と2名以上の副査によって行われる。とくに博士論文の審査の場合には、前述の3名に他

大学教員を加えて4名以上の審査員による審査のうえ、さらに審査報告書の提出を求めてその透明

性・客観性を確保するとともに、口述試問を実施している。口述試問には論文審査委員に加え、関係

法分野の教員が列席することもできる。なお、博士前期課程の私法専攻は5、6年前まで、公法専攻

は2003年度までは各専攻の構成教員全員が出席して口述試問を行っていた。現在は、原則として論文

審査教員3名を中心に行うこととしている。

ビジネス法務専攻の修了要件及び学位授与基準については、修士論文に代えて特定課題研究論文と

の選択を認め、その選択者は1外国語の認定を要しないこととした。こうした扱いは、私法・公法専

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7.法学研究科

681

攻の場合と異なるが、それは、その課程が主として社会人を対象とし、人事労務法務、知財法務、税

法務という特定の3法分野について、それにふさわしい高度な実務的・専門的な授業科目群のなかか

ら所定の単位を履修することを修了要件として求めていることからして合理的であり、実際的でもあ

るといえる。なお、各専攻の修士論文の審査及び口述試問は主査・副査3名以上の関係法領域の教員

が審査に当たることになっており、私法専攻・公法専攻の場合と異ならない。

なお、ビジネス法務専攻修士課程では、1年での修了を認めている。その詳細は、前述しているが、

こうした措置については、適切と判断している。

「大学基礎データ」表7によると、私法専攻・公法専攻の修士号の授与者数は次の通りである。

2000年度 2001年度 2002年度 2003年度 2004年度 2005年度

私 法 専 攻 2 6 9 9 5 8

公 法 専 攻 3 8 6 5 9 7

ビジネス法務専攻 ― ― ― ― ― 3

(1年制コース)

また、私法専攻・公法専攻における博士号の授与者は2000年度と2005年度に公法専攻で論文博士各

1名、2004年度に私法専攻で論文博士が1名いる。なお、ビジネス法務専攻は2005年度に開設された

ので、博士号の授与者はまだいない。

こうした学位授与は、本研究科における学生の定員充足問題と表裏の関係にあるといえる。とくに

博士号の授与件数の低さは進学者自体がそもそも少ないことに加えて、進学者についても博士号を未

取得のまま研究職に就く者がいることなどがその原因としてあげられる。これに対してはいろいろ議

論や検討がなされているが有効な措置が講じられないのが実状であろう。したがって、この問題は修

士の学位の取得者を増やすといったやや迂遠な方法を根気強く行い、結果として博士後期課程への進

学者数を増大させるところから始めるしかないのかもしれない。それは長期的な観点で取り組むべき

課題といえるであろう。