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腎薬ニュース第 7 号(22012 年 1 月) 熊本大学薬学部臨床薬理学分野 平田純生
アセトアミノフェンの腎不全における薬物動態について考えてみよ
う
1. アセトアミノフェンの薬物動態
NSAIDsは最も腎障害の頻度が高く、COX-2 選択阻害薬でも腎障害は軽減できないため、筆者
らはアセトアミノフェンの使用を推奨してきましたが、末期腎不全患者に対してアセトアミノフェンを
連用する場合には注意が必要です。活性のない代謝物がいくら蓄積しても中毒性副作用をお
こすことはないと考えるのが一般的ですが、アセトアミノフェンを末期腎不全患者に連用
する場合は例外的な薬物動態を示します。アセトアミノフェンの尿中未変化体排泄率は 3
~5%と低いものの末期腎不全患者に連続投与すると血清アセトアミノフェン濃度は健常
者の約 3 倍に上昇し、半減期も 2 倍以上に延長します。これは非常に水溶性の高いグルク
ロン酸抱合体・硫酸抱合体が健常者であれば尿中に排泄されるはずですが(図 1)、末期腎不
全では蓄積し血中濃度はそれぞれ三十数倍、十数倍に上昇します 1)。
2. アセトアミノフェンは肝代謝型薬物でありながら透析患者では減量が必要か?
蓄積した抱合体は胆汁排泄されますが、グルクロン酸抱合体はMRP2、硫酸抱合体はBCRP
という胆管に存在する排泄トランスポータによって能動的に高濃度で胆汁中に排泄される
可能性があります。十二指腸から小腸、結腸に移行する過程で腸内細菌によって脱抱合さ
れ、アセトアミノフェンとして再吸収されるために腎不全患者の血清アセトアミノフェン
のトラフ濃度は健常者の約 3 倍に上昇し、最終相半減期も 2 倍以上に延長すると考えられ
ます。つまり腸肝循環によって血清アセトアミノフェンのトラフ濃度が上昇するものと考
えられます(図 2)1)。
しかし Martin と同じグループ
の Prescottら 2)は服用後 8時間
までの半減期は健常者と透析
患者の間に差がなく、最終相半
減期が 2 倍以上に延長しており、
連用してもピーク濃度は上昇
しないことが明らかになって
います 1)。
したがって、末期腎不全患者
にアセトアミノフェンを連用
する場合でも 1/3 に減量、あるいは投与間隔を 2~3 倍に延長する必要はありません。2011
年 1 月よりわが国の添付文書の用量が、1,500mg/日から国際標準である 4g/日になりました
が、体格の小さな日本人に 4g/日はやや多く、末期腎不全患者では連用すればトラフ濃度高
値が持続するため、1 回 600mg を 1 日 3~4 回、頓服では 1 回 600~1000mg の投与で、十分
鎮痛効果(有効治療濃度 5~15μg/mL)を発揮してくれるものと考えます(図 4)。解熱剤
としてはこの半量で効くと思われます。
健常者に1g単回投与
透析患者に1g単回投与
アセトアミノフェン単回投与時の血中濃度推移Prescott LF, et al: Eur J Clin Pharmacol 36: 291-297, 1989より引用
t1/2: 2.3hr t1/2: 2.1hr
t1/2: 4.9hr t1/2: 12.7hr
図 3.
25
15
10
5
0
μg/mL
F: 100%
Vd: 1.0L/kg
図4.透析患者のアセトアミノフェンの投与設計
ライフスタイルに合わせて600mgを1日3回
7 時
20
7 13 1915朝食 昼食 夕食
透析日は透析後に補充
連続投与時のt1/2β: 2.8hr
最終相t1/2: 13.9hr
連続投与時のt1/2β: 2.8hr
引用文献
1)Martin U, et al:The disposition of paracetamol and the accumulation of its glucuronide and
sulphate conjugates during multiple dosing in patients with chronic renal failure. Eur J Clin
Pharmacol 41: 43-46, 1991
2)Prescott LF, et al: Paracetamol disposition and metabolite kinetics in patients with
chronic renal failure. Eur J Clin Pharmacol 36: 291-297, 1989