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2007年8月24日改訂
7.原子間力の計算方法(1) Method to calculate interatomic forces (1)
安定な構造は,すべての原子間の結合エネルギーを足し合わせた全エネルギーが最小になるような構造とみなすことができます。また,個々の原子が受ける力は他のすべての原子が作るポテンシャルを合わせたポテンシャルから計算できると考えられます。しかし,現実の物質は多くの原子からできているので,すべての原子間ポテンシャルを本当に計算するのには膨大な計算回数を必要とします。ここでは計算回数を節約するための工夫,周期的境界条件とエバルトの方法について紹介します。 コンピュータを使った実数の計算には必ず誤差が伴います。小さい誤差でも計算の回数が多ければどんどんそれが積み重なってしまいます。 特に周期的境界条件とエバルトの方法は重要であり,これらを使わないと単に「計算に余計な時間がかかる」というよりも,むしろ「計算誤差が積み重なってわけがわからない結果になる」という方が現実に近いようです。
7-1 周期的境界条件 Periodic boundary condition
例えばたかだか 1000 個の原子からなる系
€
(N =1000) を対象にする場合でも,原子間ポテンシャルをすべて評価するには約 50万回 (
€
N(N −1) / 2 = 499500) の計算が必要です。現実の物質はたとえば 1 μm 角のグラファイト(密度 2.25 g cm-3)粒子であっても
€
2.25g⋅ cm−3× 10−6µm( )3/ 12g⋅mol−1( ) × 6.022 ×1023mol−1( ) =1.13×1011
一千億個くらいの原子を含んでいますので,このすべての原子の間のポテンシャルを計算するためには,
€
1011 ×1011 / 2 = 5×1021 回の計算が必要だということになります。2006年に理化学研究所に導入された分子動力学用のスーパーコンピュータは専用チップを24個搭載したユニット 201台とデュアルコアプロセッサを 256 個搭載したサーバ64台,3.2GHz プロセッサを74個搭載したサーバ37台を接続した構成で 1 P(ペタ)=1015 FLOPS (1秒間に1000兆回の実数演算)の計算速度を持つそうです。クーロン力1対の計算をするのに浮動小数点演算が36演算必要だとして,1秒に28兆=2.8×1013対の計算ができます。それでも 5×1021対の計算をするためには,約 2×108秒=6年くらいの時間がかかります。分子動力学シミュレーションでは,最低でも 1000 回くらいのポテンシャル計算は必要なので, 1 μm 角のグラファイト粒子のシミュレーションを完了するには 6000 年くらいかかることになるでしょう。現実の物質のシミュレーションをするには何か工夫をしないといけません。 構造シミュレーションや分子動力学計算には周期的境界条件という境界条件を用いるこ
とが普通です。この方法では,物質の一部分の原子(
€
102 から
€
105 個くらい)を取り出して基本セルと呼ばれる箱の中に配置します。基本セルの周囲には,基本セルとまったく同じもの(レプリカ)が周期的に配置されているとします。基本セルの形状としてはたとえば平行六面体を使うことができます。
基本セル レプリカ
レプリカ
レプリカレプリカレプリカ
レプリカ
レプリカ レプリカ
図 7.1 周期的境界条件の考え方
原子間ポテンシャルの計算は,基本セル内の原子と基本セル内の原子,基本セル内の原子とレプリカ内の原子についておこないます。 周期性からレプリカ内原子どうしの原子間ポテンシャルの計算は,それが異なるレプリカに属する原子であったとしても,省略できることに注意してください。レプリカの中にある原子が他のレプリカの中にある原子から受けるポテンシャルは,全体を平行移動すれば基本セルの中にある原子がレプリカの中にある原子から受けるポテンシャルと同じことです。例えば,百万 (
€
106) 個の原子の間の相互作用をまともに計算するためには
€
106 × 106 −1( ) ~ 1012 回の計算が必要ですが,1000 個ごとに周期的な位置にあると仮定すれば
€
1000× 106 −1( ) ~ 109 回の計算で済むのです。 ただし,周期的境界条件の導入はどちらかというと計算の便宜のためであり,実際のシ
ミュレーションでは,それが問題になりうるかもしれないということには十分に注意してください。純物質の安定相は結晶の状態であり,原子の平均位置は本質的に周期的な構造を取ると考えても良いのですが,それでも原子の熱振動には一般的に周期性は期待できません。例えば,基本セルを大きくしていって(そうすると計算に必要な時間もどんどん長くなるのですが)シミュレーションの結果を比較することが重要です。
7-2 エバルトの方法 Ewald method
7-2-1 エバルト法の基本的な考え方 Key concept of Ewald method イオンの間にはクーロン力による相互作用が働きます。
€
i 番目のイオンが電荷
€
qi を持ち位置
€
r R i にあり,他のイオンがそれぞれ電荷
€
q j を持ち位置
€
r R j にあるとすると,
€
i 番目のイオンが他のイオンから受けるクーロン力によるエネルギーは
€
Ei =qi
4πε0
q jr R i −
r R jj≠ i
∑ (7.2.1)
で表されます。すべてのイオン間に働くクーロンエネルギーを足し合わせると,
€
E =12 i=1
N
∑ Ei =14πε0
qii=1
N−1
∑q jr
R i −r R jj= i+1
N
∑
と表されます。このエネルギーはマーデルング・エネルギー Madelung energy と呼ばれます。 電荷を持ったイオンの間に働くクーロンエネルギーは距離の逆数に比例するので,エネルギーが距離の -6 乗に比例する分散力(ファンデルワールス力)などと比較すると,かなり遠くのイオンであっても影響が無視できません。さらに,この級数は収束が遅いので実際に計算をするためには収束を早くするための工夫が必要です。 このタイプの級数の例として,
€
−1+12−13
+14−15
+L = −ln2 = −0.693147L
は項の数を 1 つずつ増やすにつれて和が
€
−1,−0.5,−0.8333333,−0.583333,−0.783333,L となりますが,100項まで計算しても
€
−1+12−13
+14−15
+L +1100
= −0.688172L
1000項まで計算しても
€
−1+12−13
+14−15
+L +1
1000= −0.692647L
などとなり,なかなか正解に近づきません。この例は1次元の級数の計算ですが,物質の中のクーロン力を計算するには3次元の級数を計算しなければならず,もっと収束しにくいものになります。 エバルト法の考え方は,点電荷 (a) がつくるポテンシャルをそのまま足し合わせる代わりに,同じ電荷を空間的にぼやけさせた仮想的な電荷分布 (b) が作るポテンシャルと,点
電荷とこの仮想的な電荷分布の差の電荷分布 (c) が作るポテンシャルとを足し合わせたものとして計算するものです。この考え方を図示すると下図のようになります。
(a) (b) (c)
図 7.2 エバルト法の考え方。(a) 正電荷と負電荷を持つ点電荷が周期的に配列した電荷密度,(b) 同じ電荷を空間にぼやかして分布させたもの,(c) は (a) と (b) の差。
(b) の電荷分布が作るポテンシャルは,フーリエ展開を使って逆空間で計算します。関数が滑らかであれば次数の低い(周期の長い)フーリエ項だけで良く近似することができます。 (c) の電荷分布が作るポテンシャルの和は実空間で計算しますが,プラスの電荷とマイナスの電荷がキャンセルするので,少し離れた位置にあれば急速に小さい値になり,やはり収束が速くなります。 基本セルの中に,
€
M 個の電荷
€
q j (
€
j =1,2,L,M ) を持ったイオンが位置
€
r R j (
€
j =1,2,L,M ) にあるとすると,基本セル内のイオンによる電荷分布は
€
ρCellr r ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q jδ3 r
r −r R j( ) (7.2.2)
と書けます。ここで,
€
δ3r r ( ) は3次元のデルタ関数で,1次元のデルタ関数の積
€
δ3r r ( )
€
= δ x( )δ y( )δ z( ) で表されます。以下の関係
€
δ x( ) f x( )dx = f 0( )−∞
∞
∫ (7.2.3)
が任意の関数
€
f x( ) に対して成立します。 基本並進ベクトル
€
r a ,
€
r b ,
€
r c で表されるような周期性が存在する場合に,すべてのセル
について足し合わせた全電荷分布は
€
ρr r ( )
€
=
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
ρCellr r −
r l ξης( )
€
=ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q jδ3 r
r −r l ξης −
r R j( ) (7.2.4)
と書けます。ただし,
€
r l ξης は格子ベクトルで,
€
r l ξης = ξ
r a +η
r b + ζ
r c (7.2.5)
で与えられます。 各点電荷分布
€
δ3r r −
r l ξης −
r R j( ) に対して,「パラメータ
€
σ で表されるような空間的な広
がり」を持つ球対称な電荷分布を表す関数
€
wr r −
r R j −
r l ξης ,σ( ) を引いて加える操作をし
て,
€
ρr r ( ) を二つの電荷分布の和で表します。
エバルトの方法では,点電荷を空間的にぼやかせるための関数
€
w r,σ( ) として,広がり
の幅が
€
σ で表されるような球対称の三次元ガウス型関数
€
wG r,σ( ) =1
2π( )3/2σ 3exp − r2
2σ 2
(7.2.6)
を使います。つまり,
€
ρr r ( )
€
= ′ ρ Gr r ,σ( ) + ′ ′ ρ G
r r ,σ( ) (7.2.7)
€
′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q j
€
wGr r −
r R j −
r l ξης ,σ( ) (7.2.8)
€
′ ′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q j δ3 r
r −r R j −
r l ξης( ) − wG
r r −
r R j −
r l ξης ,σ( )[ ]
(7.2.9)とします。
7-2-2 逆空間での計算 Calculation in reciprocal space
式 (8) で表される「ぼやかされた電荷密度分布」から受けるポテンシャルについて考えます。特定のイオンが受けるポテンシャルを計算するためには,自分自身が作る電荷分布の分は除外しなければならないのですが,この分は後から補正することにして,ここでは,自分自身が作るポテンシャルの分も含めた周期的な電荷密度から受けるポテンシャルを計算します。 真空の誘電率を
€
ε0 とすれば,電荷分布
€
′ ρ Gr r ,σ( ) による静電ポテンシャル
€
′ V Gr r ,σ( ) は,
次式で与えられます。
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
′ ρ Gr ′ r ,σ( )
4πε0r r −
r ′ r
€
d ′ x d ′ y d ′ z
€
=
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
′ ρ Gr r +
r ′ ′ r ( )
4πε0 ′ ′ r
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z (7.2.10)
ただし,
€
′ r r = ′ x , ′ y , ′ z ( ) ,
€
′ r = ′ r r = ′ x 2+ ′ y 2 + ′ z 2 ,
€
′ ′ r r = ′
r r −
r r などとします。電荷分布
€
′ ρ Gr r ,σ( )
は周期的な関数なので,フーリエ級数で展開することができます。関数
€
′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q j
€
wGr r −
r R j −
r l ξης ,σ( )
のフーリエ展開は
€
′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( ) (7.2.11)
と表されます。ここで,
€
r K hkl は,基本並進ベクトル
€
r a ,
€
r b ,
€
r c に対して以下の関係
€
r a ⋅
r a * =1,
€
r a ⋅
r b * = 0 ,
€
r a ⋅
r c * = 0
€
r b ⋅
r a * = 0 ,
€
r b ⋅
r b * =1,
€
r b ⋅
r c * = 0
€
r c ⋅
r a * = 0 ,
€
r c ⋅
r b * = 0 ,
€
r c ⋅
r c * =1
を満たす「逆格子ベクトル」から,
€
r K hkl
€
=
€
hr a * + k
r b * + l
r c *
により定義されるベクトルです。なお,逆格子ベクトルの意味がわからなくても,以下の関係を使えば基本並進ベクトルから計算できます。
€
r a * =
ax*
ay*
az*
=
r b ×
r c
Vcell
,
€
r b * =
bx*
by*
bz*
=r c ×
r a
Vcell
,
€
r c * =
cx*
cy*
cz*
=r a ×
r b
Vcell
€
r b ×
r c =
bycz − bzcy
bzcx − bxcz
bxcy − bycx
,
€
r c ×
r a =
cyaz − czay
czax − cxaz
cxay − cyax
,
€
r a ×
r b =
aybz − azby
azbx − axbz
axby − aybx
€
Vcell =r a ⋅
r b ×
r c ( ) =
r b ⋅
r c ×
r a ( ) =
r c ⋅
r a ×
r b ( )
式 (7.2.11) の右辺の
€
′ F G,hkl σ( ) はフーリエ係数であり,
€
r r = x,y,z( )とすれば
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
1Vcell
€
∫cell∫∫
€
′ ρ Gr r ,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz (7.2.12)
の関係があります。ここで
€
Vcell は単位セルの体積であり,積分は単位セル全体にわたって行うことを意味します。フーリエ係数のさらに具体的な計算方法については後述します。 式 (7.2.10) に式 (7.2.11) を代入して
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
1′ ′ r
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r +
r ′ ′ r ( )[ ]
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
1′ ′ r
€
exp 2πir K hkl ⋅
r ′ ′ r ( )
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z
と変形できますが,ここで,
€
1′ ′ r
€
=
€
2π
exp − ′ ′ r 2t 2( )0
∞
∫ dt (7.2.13)
の関係を使えば
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
×
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
2π
€
0
∞
∫
€
exp − ′ ′ r 2t 2( )
€
dt
€
exp 2πir K hkl ⋅
r ′ ′ r ( )
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
×
€
2π
€
0
∞
∫
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
exp − ′ ′ r 2t 2( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r ′ ′ r ( )
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z
€
dt
となります。一般的に
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
exp − r2
2σ 2
€
exp 2πir k ⋅
r r ( )
€
dxdydz
€
= exp − x 2 + y 2 + z2
2σ 2
exp 2πi
r k ⋅
r r ( )dxdydz
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
=
€
2π( )3 2
€
σ 3 exp −2π2k 2σ 2( ) (7.2.14)の関係が成立するので,
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
2π
€
0
∞
∫
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
exp − ′ ′ r 2
2 1 / 2t( )2
€
×
€
exp 2πir K hkl ⋅
r ′ ′ r ( )
€
d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z
€
dt
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
×
€
2π
€
0
∞
∫
€
2π( )3 2
€
12t
3
€
exp −2π2Khkl2 1
2t
2
€
dt
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
2π( )
€
0
∞
∫
€
1t 3
€
exp −π2Khkl
2
t2
€
dt
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
2π( )
€
12π2Khkl
2 exp −π2Khkl
2
t 2
0
∞
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
2π( )
€
12π 2Khkl
2
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
1πKhkl
2
€
⋅
€
′ F G,hkl σ( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( ) (7.2.15)
という関係が得られます。
ここで,フーリエ係数
€
′ F G,hkl σ( ) の具体的な計算方法について考えます。式 (7.2.12) に式 (7.2.8) を代入すれば,
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
1Vcell
€
∫cell∫∫
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q j
€
wGr r −
r R j −
r l ξης ,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
和と積分の順序を入れ替えて
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
∫cell∫∫
€
wGr r −
r R j −
r l ξης ,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
さらに,
€
exp −2πir K hkl ⋅
r l ξης( ) =1 の関係が常に成立することを用いれば,
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
∫cell∫∫
€
wGr r −
r R j −
r n ξης ,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r −
r l ξης( )[ ]
€
dx
€
dy
€
dz
と変形できて,個々の積分を接続すれば,全空間にわたる積分
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
wGr r −
r R j ,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
と同じです。さらに積分変数の
€
r r = x,y,z( ) を
€
r r +
r R j に置換して,
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
wG r,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r +
r R j( )[ ]
€
dx
€
dy
€
dz
と書け,
€
r r を含んでいない部分は積分の外に出せるので,
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
wG r,σ( )
€
exp −2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
(7.2.16)という形式が導かれます。 球対称なガウス型関数
€
wG r,σ( ) の3次元の逆フーリエ変換
€
ΩG K,σ( ) は以下の式
€
ΩG K,σ( )
€
=
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
wG r,σ( )
€
exp −2πir K ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
€
=
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
12π( )3/2σ 3
exp − r2
2σ 2
€
exp −2πir K ⋅
r r ( )
€
dx
€
dy
€
dz
€
=
€
−∞
∞
∫
€
12πσ
€
exp − x 2
2σ 2
€
exp −2πiKx x( )
€
dx
€
−∞
∞
∫
€
12πσ
€
exp − x 2
2σ 2
€
exp −2πiKy y( )
€
dy
€
×
€
−∞
∞
∫
€
12πσ
€
exp − x 2
2σ 2
€
exp −2πiKzz( )
€
dz
€
=
€
exp −2π2Kx2σ 2( )
€
exp −2π2Ky2σ 2( )
€
exp −2π2Kz2σ 2( )
€
=
€
exp −2π2K 2σ 2( ) (7.2.17)で与えられます。式 (7.2.16), (7.2.17) から,
€
′ F G,hkl σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
€
ΩG K,σ( )
€
=
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
€
exp −2π2Khkl2 σ 2( ) (7.2.18)
と表されます。 式 (7.2.15), (7.2.18) から,
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
l=−∞
∞
∑k=−∞
∞
∑h=−∞
∞
∑
€
1πKhkl
2
€
exp −2π2Khkl2 σ 2( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
と書けます。各項に
€
exp −2π2Khkl2 σ 2( ) がかかっているので,
€
Khkl が大きくなると急速に小さい値になり,
€
Khkl の小さい項だけでも正確な値が得られることが期待できます。また,
€
h,k, l( ) = 0,0,0( ) のとき,形式的に
€
Khkl = 0 となりますが,単位格子内で電気的な中性
€
j=1
M
∑
€
q j
€
= 0
が成立するので,
€
h,k, l( ) = 0,0,0( ) の項は和から除外できるとします。結局,
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
(h ,k,l )≠(0,0,0)∑∑∑
€
1πKhkl
2
€
exp −2π2Khkl2 σ 2( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
(7.2.19)という形式を用いれば,図 7.2(b) で示されるような「ぼやかした周期的な電荷分布」から受けるポテンシャルが計算できます。
7-2-3 自己ポテンシャル Self-potential
前節で扱った「ぼやかした電荷分布」のうち,位置
€
r R i にある電荷
€
qi が自分自身で持つ電荷分布に対応する分は
€
′ ρ G,selfr r ,σ( ) = qiwG
r r −
r R i ,σ( ) (7.2.20)
であり,これに対応するポテンシャルは次式で与えられます。
€
′ V G,selfr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
ρG,selfr ′ r ,σ( )
′ r
€
d ′ x d ′ y d ′ z
€
=
€
qi
4πε0
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
wG ′ r ,σ( )′ r
€
d ′ x d ′ y d ′ z
€
=
€
qi
4πε0
€
0
∞
∫0
π
∫0
2π
∫
€
1′ r
€
wG r,σ( )
€
′ r 2d ′ r sinθdθdϕ
€
=
€
qi
4πε0
€
0
2π
∫
€
dϕ
€
0
π
∫
€
sinθdθ
€
0
∞
∫
€
′ r
€
wG r,σ( )
€
d ′ r
€
=
€
qi
4πε0
€
⋅
€
2π
€
−cosθ[ ]0π
€
0
∞
∫
€
′ r
€
wG r,σ( )
€
d ′ r
€
=
€
qi
ε0
€
0
∞
∫
€
′ r
€
wG r,σ( )
€
d ′ r
€
=
€
qi
ε0
€
⋅
€
123/2π3/2σ 3
€
0
∞
∫
€
′ r
€
exp − ′ r 2
2σ 2
€
d ′ r
€
=
€
qi
ε0
€
⋅
€
123/2π3/2σ 3
€
−σ 2 exp − ′ r 2
2σ 2
0
∞
€
=
€
qi
ε0
€
⋅
€
123/2π3/2σ 3
€
⋅
€
σ 2
€
=
€
qi
4πε0
€
⋅
€
2π1/2σ
(7.2.21)
逆空間での和から,この分を差し引きます。 結局,実際の計算のしかたは,下のような図で表されます。
(a)
=
(b)
+
(c)
+
(d)
図 7.3 エバルト法の計算のしかた。(a) 自分以外の点電荷の配列による電荷密度,(b) 自分自身も含めて空間にぼやかして分布した周期的な電荷密度,(c) 自分自身の電荷をぼやかしてマイナス符号をつけた電荷密度,(d) は (a) から (b) と (c) を差し引いた電荷密
度。
7-2-4 実空間での和 Sum in real space
図 7.3(d) および式 (7.2.9) で表される「全電荷分布とぼやかされた電荷分布の差電荷分布」から受けるポテンシャルを計算します。ここでは自分自身が作る電荷分布の分ははじめから除外して考えます。つまり,式 (7.2.9) で
€
′ ′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
ζ =−∞
∞
∑η=−∞
∞
∑ξ =−∞
∞
∑
€
j=1
M
∑
€
q j δ3 r
r −r R j −
r l ξης( ) − wG
r r −
r R j −
r l ξης ,σ( )[ ]
と表した差電荷分布のうち,自分自身以外の差電荷分布の分のみを考えて,
€
′ ′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
j≠i∑
€
q j δ3 r
r −r R j( ) − wG
r r −
r R j ,σ( )[ ]
€
+
€
ξ ,η ,ζ( )≠ 0,0,0( )∑∑∑
€
j=1
M
∑
€
q j δ3 r
r −r R j −
r l ξης( ) − wG
r r −
r R j −
r l ξης ,σ( )[ ]
あるいは
€
′ ′ ρ Gr r ,σ( )
€
=
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j δ3 r
r −r R j −
r l ξης( ) − wG
r r −
r R j −
r l ξης ,σ( )[ ] (7.2.22)
と書きなおします。 この差電荷分布から受けるポテンシャルは
€
′ ′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
′ ′ ρ Gr ′ r ,σ( )
r r −
r ′ r
€
d ′ x d ′ y d ′ z
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
1r r −
r ′ r
€
δ3r ′ r −
r R j −
r l ξης( ) − wG
r ′ r −
r R j −
r l ξης ,σ( )[ ]
€
d ′ x d ′ y d ′ z
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j1
r r −
r R j −
r l ξης
−−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫ wG ′ ′ r ,σ( ) d ′ ′ x d ′ ′ y d ′ ′ z r r −
r R j −
r ′ ′ r −
r l ξης
と書き換えられます。ここで
€
−∞
∞
∫−∞
∞
∫−∞
∞
∫
€
δ3r r ( ) f
r r ( )
€
dxdydz
€
=
€
f 0( )
の関係を使いました。 さらに,球対称の電荷分布
€
ρ r( ) から距離
€
R 離れた位置で受ける静電的なポテンシャルが一般的に
€
V R( )
€
=
€
1ε0R
€
0
R
∫
€
r2
€
ρ r( )
€
dr
€
+
€
1ε0
€
R
∞
∫
€
r
€
ρ r( )
€
dr
と表されることから,
€
′ ′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−4π
r r −
r R j −
r l ξης 0
r r −
r R j −
r l ξης
∫ u2wG u,σ( )du
€
−4πr r −
r R j −
r n ξης
∞
∫ uwG u,σ( )du
€
と書きなおせます。 さらに,ガウス型分布の形式
€
wG r,σ( ) =
€
12π( )3/2σ 3
exp − r2
2σ 2
を代入して,
€
′ ′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−4π
r r −
r R j −
r l ξης
€
0
r r −
r R j −
r l ξης
∫ u2
€
12π( )3/2σ 3
exp − u2
2σ 2
du
€
−4πr r −
r R j −
r l ξης
∞
∫ u 12π( )3/2σ 3
exp − u2
2σ 2
du
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−4π
r r −
r R j −
r l ξης
€
⋅
€
12π( )3/2σ 3
€
0
r r −
r R j −
r l ξης
∫ u2
€
exp − u2
2σ 2
du
€
−4π ⋅ 12π( )3/2σ 3 r
r −r R j −
r l ξης
∞
∫ uexp − u2
2σ 2
du
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−21/ 2
π1/2σ 3 r r −
r R j −
r l ξης
€
⋅
€
0
r r −
r R j −
r l ξης
∫ u2
€
exp − u2
2σ 2
du
€
−21/ 2
π1/ 2σ 3
€
r r −
r R j −
r l ξης
∞
∫ uexp − u2
2σ 2
du
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−21/ 2
π1/2σ 3 r r −
r R j −
r l ξης
€
€
−σ 2uexp − u2
2σ 2
0
r r −
r R j −
r l ξης
+σ 2
0
r r −
r R j −
r l ξης
∫ exp − u2
2σ 2
du
€
€
−21/ 2
π1/ 2σ 3
€
−σ 2 exp − u2
2σ 2
r r −
r R j −
r n ξης
∞
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
−21/ 2
π1/ 2σ 3 r r −
r R j −
r l ξης
€
€
−r r −
r R j −
r l ξης σ
2 exp −r r −
r R j −
r l ξης
2
2σ 2
+πσ 3
21/2 erfr r −
r R j −
r l ξης
2σ
€
€
−21/2
π1/2σ 3
€
−σ 2 exp − u2
2σ 2
r r −
r R j −
r n ξης
∞
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
+21/ 2
π1/ 2σ
€
exp −r r −
r R j −
r l ξης
2
2σ 2
€
−1
r r −
r R j −
r l ξης
€
erfr r −
r R j −
r l ξης
2σ
€
−21/ 2
π1/2σ
€
exp −r r −
r R j −
r l ξης
2
2σ 2
€
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
€
1r r −
r R j −
r l ξης
€
erfcr r −
r R j −
r l ξης
2σ
€
+21/ 2
π1/ 2σ
€
exp −r r −
r R j −
r l ξης
2
2σ 2
€
−21/ 2
π1/2σ
€
exp −r r −
r R j −
r l ξης
2
2σ 2
€
€
′ ′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q j
€
q jr r −
r R j −
r l ξης
€
erfcr r −
r R j −
r l ξης
2σ
(7.2.23)
と書けます。ここでは以下の式で定義される誤差関数
€
erf x( ) と誤差補関数
€
erfc x( ) を用いています。
€
erf x( ) ≡ 2π 0
x
∫ exp −t2( )dt
€
erfc x( ) ≡1− erf x( ) =2π x
∞
∫ exp −t 2( )dt
誤差補関数
€
erfc x( ) は,
€
x が大きくなると急激に減衰する関数なので(図 7.4),式 (7.2.23) の2番目の和の各項も
€
r n ξης が大きくなると急激に小さい値になります。
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
3.02.52.01.51.00.50.0
0.010
0.008
0.006
0.004
0.002
0.0003.02.52.01.5
図 7.4 誤差補関数
€
erfc x( ) のグラフ
7-2-5 エバルト法のまとめ Summary of Ewald method イオン性結晶の中で,単位セルの中の位置
€
r R i にあるイオンが他のすべてのイオンから
受けるクーロンポテンシャルは,式 (7.2.19), (7.2.21), (7.2.23) から,
€
Vr R i( )
€
=
€
′ V Gr R i,σ( )
€
−
€
′ V G,self
r R i,σ( )
€
+
€
′ ′ V Gr R i,σ( )
€
′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
(h ,k,l )≠(0,0,0)∑∑∑
€
1πKhkl
2
€
exp −2π2Khkl2 σ 2( )
€
exp 2πir K hkl ⋅
r r ( )
€
j=1
M
∑
€
q j
€
exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
€
′ V G,selfr r ,σ( )
€
=
€
qi
4πε0
€
⋅
€
2π1/2σ
€
′ ′ V Gr r ,σ( )
€
=
€
14πε0
€
ξ ,η ,ζ , j( )≠ 0,0,0,i( )∑∑∑∑
€
q jr r −
r R j −
r l ξης
€
erfcr r −
r R j −
r l ξης
2σ
と表されます。
€
erfc
x ()
€
x
7-2-6 エバルト法によるマーデルング計算(1)岩塩型構造 Madelung calculation by Ewald method (1) rock-salt structure
試しに塩化ナトリウム結晶など岩塩型構造をとるイオン結晶中の一つのイオンがクーロン力により安定化するエネルギーを調べてみます。
a
図 7.4 岩塩 (NaCl) 型構造
単位格子内には4個ずつカチオンとアニオンがあり,それぞれ
€
r R 0 = 0,
€
r R 1 = 0.5
r b + 0.5r
c ,
€
r R 2 = 0.5r
a + 0.5r c ,
€
r R 3 = 0.5r
a + 0.5r b
€
r R 4 = 0.5r
a ,
€
r R 5 = 0.5
r b ,
€
r R 6 = 0.5r
c ,
€
r R 7 = 0.5r
a + 0.5r b + 0.5r
c の位置にあります。
€
r R 0 = 0 の位置にある原子が受けるポテンシャルを,
€
14πε0a
を単位として表すことにし
ます。まず,単位格子内のイオンから受けるポテンシャルは
€
V0
€
=q j
R jj=1
7∑
€
= 3× −10.5
+ 3× 10.5 2
+1× −10.5 3
€
= −2.91206
単位格子と面を接して隣り合う6つの格子(
€
ξ +η + ς =1)の中のイオンから受けるポテンシャルまで足し合わせると,
€
V1
€
=
€
q jr R jj=1
7
∑
€
+
€
ξ =−1
1
∑
€
η=−1+ ξ
1−ξ
∑
€
ς =−1+ξ + η
ξ ,η ,ς( )≠ 0,0,0( )
1−ξ − η
∑
€
q jr R j + ξ
r a +η
r b + ς
r c j= 0
7
∑
€
= −3.80795さらに単位格子と辺を共有して隣り合う 12 個の格子を含む
€
ξ +η + ς = 2 の格子内のイオンから受けるポテンシャルを加えると
€
V2
€
=
€
q jr R jj=1
7
∑
€
+
€
ξ =−2
2
∑
€
η=−2+ ξ
2−ξ
∑
€
ς =−2+ ξ + η
ξ ,η ,ς( )≠ 0,0,0( )
2−ξ − η
∑
€
q jr R j + ξ
r a +η
r b + ς
r c j= 0
7
∑
€
= −3.40234同じように
€
ξ +η + ς = 3 の格子の分を足し合わせるなどを繰り返すと
€
V3
€
= −3.49612,
€
V4
€
= −3.49472,
€
V5
€
= −3.49516,
€
V6
€
= −3.49518,
€
V7
€
= −3.49517,
€
V8
€
= −3.49516,
€
V9 = −3.49515,
€
V10 = −3.49515,
€
L
となります。
次に,これをエバルト法を使って計算してみます。ここでも
€
r R 0 = 0 の位置にある原子
が受けるポテンシャルを,
€
14πε0a
を単位として表すことにします。以下の式:
€
Vi
€
=
€
1πKhkl
2l=−N + h + k
N− h − k
∑k=−N + h
N− h
∑h=−N
N
∑ exp −2π2Khkl2 σ 2( ) q j
j= 0
7
∑ exp −2πir K hkl ⋅
r R j( )
€
−
€
2πσ
€
+q jr R jj=1
7
∑ erfc
r R j2σ
€
+
€
ξ =−n
n
∑
€
η=−n+ ξ
n− ξ
∑
€
ς =−n+ ξ + η
ξ ,η ,ς( )≠ 0,0,0( )
n−ξ − η
∑
€
q jr R j +
r l ξηςj= 0
7
∑ erfc
r R j +
r l ξης2σ
ただし,
€
r K hkl = h
r a * + k
r b * + l
r c *,
€
r l ξης = ξ
r a +η
r b + ς
r c
を使って,逆格子空間と実空間での和をとってみます。パラメータ
€
σ の値は任意にとれますが,一般的には基本セルの体積を
€
vCell =r a ×
r b ( ) ⋅ r c
として,
€
σ =Vcell1/3
2π と取れば良いと言われています。
単純な和で求めた結果と,エバルト法で計算した結果を下の表に示します。
€
max ξ + η + ς{ }または
€
max h + k + l{ }
単純な格子和
Ewald 法
合計
-3.4951316-3.4951315-3.4951314-3.4951413-3.4951412-3.4951411
-3.49513-1.49568-1.99945-3.4951510-3.49513-1.49568-1.99945-3.495159-3.49513-1.49568-1.99945-3.495168-3.49513-1.49568-1.99945-3.495177-3.49513-1.49568-1.99945-3.495186-3.49513-1.49568-1.99945-3.495165-3.49513-1.49568-1.99945-3.494724-3.49509-1.49563-1.99945-3.496123-3.47035-1.47035-2.00000-3.402342-3.65895-1.65895-2.00000-3.807951-2.97133-0.97133-2.00000-2.912060
実空間での和逆空間での和
単純な格子和では
€
max ξ + η + ς{ } =14 でやっと小数点以下5桁目まで正しい結果が得られていますが,エバルト法では逆格子については
€
max h + k + l{ } = 3,実格子では
€
max ξ + η + ς{ } = 4 で小数点以下5桁目まで正しい結果が得られています。
€
max ξ + η + ς{ } =14 を満たす格子の数は
€
2× 1+ 32 + 52 +L+ 2×13+1( )2[ ] + 2×14 +1( )2 = 8149個ですが,
€
max h + k + l{ } = 3と
€
max ξ + η + ς{ } = 4を満たす逆格子と格子の数はそれぞれ
€
2× 1+ 32 + 52( ) + 72 =119個
€
2× 1+ 32 + 52 + 72( ) + 92 = 249個です。エバルト法では,確かに少ない計算量で正確な値が求められていることがわかります。
7-2-7 エバルト法によるマーデルング計算(2)CsCl 型構造 Madelung calculation by Ewald method (2) CsCl-type structure
つぎに塩化セシウム結晶の一つのイオンがクーロン力により安定化するエネルギーを調べます。
a
図 7.5 塩化セシウム (CsCl) 型構造
単位格子内には1個ずつカチオンとアニオンがあり,それぞれ
€
r R 0 = 0
€
r R 1 = 0.5r
a + 0.5r b + 0.5r
c ,の位置にあります。
単位格子の中心の原子が受けるポテンシャルを,
€
14πε0a
を単位として表すと,単位格
子内のイオンから受けるポテンシャルは
€
V0 =−1
0.52 + 0.52 + 0.52
€
= −1.1547
単位格子と面を接して隣り合う6つの格子(
€
na + nb + nc =1)の中のイオンから受けるポテンシャルまで足し合わせると,
€
V1
€
=
€
q1r R 1
€
+
€
ξ =−1
1
∑
€
η=−1+ ξ
1−ξ
∑
€
ς =−1+ξ + η
ξ ,η ,ς( )≠ 0,0,0( )
1−ξ − η
∑
€
q jr R j + ξ
r a +η
r b + ς
r c j= 0
1
∑
€
= −0.42787さらに単位格子と辺を共有して隣り合う 12 個の格子を含む
€
na + nb + nc = 2 の格子内のイオンから受けるポテンシャルを加えると
€
V2
€
=
€
q1r R 1
€
+
€
ξ =−2
2
∑
€
η=−2+ ξ
2−ξ
∑
€
ς =−2+ ξ + η
ξ ,η ,ς( )≠ 0,0,0( )
2−ξ − η
∑
€
q jr R j + ξ
r a +η
r b + ς
r c j= 0
1
∑
€
= −0.36509同じように
€
na + nb + nc = 3 の格子の分を足し合わせるなどを繰り返すと
€
V3
€
= −0.44209,
€
V4
€
= −0.45100,
€
V5
€
= −0.45575,
€
V6
€
= −0.45838,
€
V7
€
= −0.45997,
€
V8
€
= −0.46101,
€
V9 = −0.46174,
€
V10 = −0.46226,
€
L
となります。 単純な和で求めた結果と,エバルト法で計算した結果を下の表に示します。
-0.46396820-0.46390519-0.46383118-0.46374417-0.46364116
€
max na + nb + nc{ }または
€
max h + k + l{ }
単純な格子和
Ewald 法
逆空間での和 実空間での和 合計
-0.46402221
-0.46351715-0.46336614-0.46317913-0.46294612-0.46264811
-2.03536-0.20056-1.83480-0.46225910-2.03536-0.20056-1.83480-0.4617379-2.03536-0.20056-1.83480-0.4610148-2.03536-0.20056-1.83480-0.4599697-2.03536-0.20056-1.83480-0.4583766-2.03536-0.20056-1.83480-0.4557545-2.03536-0.20056-1.83480-0.4510034-2.0353-0.20051-1.83480-0.4420893-2.00075-0.16582-1.83493-0.365092-1.90017-0.06524-1.83493-0.427871-2.03458-0.03458-2.00000-1.15470
エバルト法では逆格子については
€
max h + k + l{ } = 3,実格子では
€
max ξ + η + ς{ } = 4 で小数点以下5桁目まで正しい結果が得られているのですが, 単純な格子和では
€
max ξ + η + ς{ } = 21 まで計算しても,収束していないというだけでなく,正解からかけはなれた結果となっています。
€
max ξ + η + ς{ } = 21 を満たす格子の数は
€
2× 1+ 32 + 52 +L+ 2× 20+1( )2[ ] + 2× 21+1( )2 = 26531個です。 NaCl 型の構造では単純な計算の方法でもマーデルング・エネルギーを計算できたのですが,CsCl 型の構造ではエバルト法を使わないと近似的な値すら求められません。 実は NaCl 型の構造は,普通の計算方法でもマーデルング・エネルギーが計算できるごく稀な例のようです。