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熱物性論 2019 (松本充弘): p. 58
8 界面の統計熱力学概論界面の熱力学を詳細に取り扱った教科書として,A.W. Adamson & A.P. Gast:Physical Chemistry of Surfaces,6th ed. (Wiley, 1997).を挙げておく.授業では詳しくは触れる余裕がない「混合物系の界面張力と界面吸着」などのトピックスも,この教科書では詳細に解説されている.
初等熱力学では,主として物質の「バルク」な性質が取り上げられるため,相界面を熱
力学でどう取り扱うかについては触れる機会が少ないと思われる.この章では,熱力学に
おける「界面系」の取り扱い方を簡単に紹介する.特に,界面張力 interfacial tension(あ
るいは 表面張力 surface tension)の物理的な意味を明らかにする.
以下に見るように,界面 interfaceと表面 surface は熱力学的には同じものである.習慣的に,片方が気相または真空の場合に表面と呼ぶことが多い.
8.1 界面系の熱力学入門
話を簡単にするため,まずは図 8–19のように,厚さゼロ,曲率ゼロ (つまり数学的平
面)の界面をはさんで,系1と系2が接して平衡状態にある状況に話を限定する.以下の
厳密に言えば,界面熱力学量は曲率依存性があることが知られている.しかし,曲率が非常に大きい(=ミクロスケールの曲率半径をもつ)場合を除くと,平面として取り扱っても差し支えないことが多い.表面張力の曲率依存性については,例えば小野周:「表面張力」(物理学OnePointシリーズ,共立出版,1980)に詳細な議論がなされている.表面張力を理論的に研究する人は必読の書である.
議論は混合物系にも容易に拡張できるが,ここでは話を簡単にするために,1成分系のみ
を考える.例えば,気液界面(液体表面)を考えるとわかりやすいだろう.
System 1 (T, P) n1,N1,V1
System 2 (T, P) n2,N2,V2
Interface
図 8–19: 1成分系のフラットな界面.
平衡状態においては,両系(両相)の温度と圧力はそれぞれ等しい.温度が与えられる
と,この相共存条件により,各相の数密度 n1 と n2 は,一意的に定まる.
全体の粒子数Nと体積V が与えられているとき(統計力学的に言えば正準集団 canonical
ensemble で考えるということである),それぞれの系の大きさ(粒子数と体積)について,
以下の式が成り立つはずである(界面の厚さはゼロと仮定していることに注意):V = V1 + V2
N = N1 +N2 = n1 · V1 + n2 · V2
(92)
未知数が V1と V2の2つ,方程式が2つ,であるから,この連立方程式を解くことができ
て,各相の体積 V1, V2 を次のように一意的に決定することができる:
V1 =n2V −N
n2 − n1(93)
V2 =n1V −N
n1 − n2(94)
すなわち,バルク相の物性(n1 と n2)さえわかっていれば,界面の構造などの詳細な知
識無しに,界面の位置は単なる算数により一意的に決定される.このようにして決めた界
面を Gibbsの分割面 Gibbs’ dividing surface とよんでいる.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 59
図 8–20: 表面過剰量の考え方.
さて,この手続きは,体積 と 粒子数 という示量性物理量 extensive properties が,各相
の和になることを利用したものであるが,他の示量変数もこのように各相の単純な和とし
て表現できるとは限らず,一般には余分(過剰)な項が表れる.例えば,内部エネルギー
E や Helmholtz自由エネルギー F については,
E = e1 · V1 + e2 · V2 + Es (95)
F = f1 · V1 + f2 · V2 + Fs (96)
ここで,eiや fiは各バルク相のエネルギー密度や自由エネルギー密度であり,やはり共存
条件により一意的に定まっている.物理的な考察から,余分な項 Esや Fs は界面の面積A ここでは,“surface” の意味で s の添え字をつけた.“過剰 excess” の意味で e を使う教科書もある.に比例するはずである.従って,次のように表すことができる:
E = e1 · V1 + e2 · V2 + es ·A (97)
F = f1 · V1 + f2 · V2 + fs ·A (98)
単位面積当たりの余分な物理量 es や fs は一般に,表面過剰量 surface excess と呼ばれて
いる(図 8–20).
特に,表面過剰自由エネルギー fs は重要な意味を持つ.等温・等圧・等積のままで,こ
の系の表面積を∆Aだけ増やすという思考実験をしてみよう(右図).各相の体積を決め 1相系だと等圧変化と等積変化は両立しないが,2相共存状態なので「等圧かつ等積」の変化が可能である.る条件,式 (92),は同じであるから各相の体積は不変,従って界面の位置も変わらない.
このとき自由エネルギーは明らかに
∆F = fs∆A (99)
だけ変化するが,これは,等温・等圧・等積の条件下でこの系に対してなされた仕事 ∆W
に等しいはずである.表面張力 surface tension を γ とすると,この仕事は
∆W = γ∆A (100)
と表現される (これは γ の定義であるとも言える). これにより,
fs = γ (101)
すなわち,表面過剰 Helmholtz自由エネルギーは表面張力に等しいことがわかる.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 60
もう1つ,重要な界面熱力学量として,表面過剰エントロピー ss を挙げておく.定義
通り
S = s1 · V1 + s2 · V2 + ss ·A (102)
によって ss は与えられるが,これは,式 (98)を温度で微分して得られる関係式 右辺の温度微分が偏微分でなく常微分になっているのは,相共存条件下での単成分物質の変化の自由度は1つしかないからである.Gibbsの相律
f = c− p+ 2
を思い出そう.(f :自由度の数,c:成分の数,p:相の数)
(∂F
∂T
)V
=df1dT
V1 +df2dT
V2 +dfsdT
A (103)
からも導ける.表面過剰自由エネルギーが表面張力に等しいことより,
ss = − dγ
dT(104)
という関係式が得られる.すなわち,表面張力の温度依存性を測定すると,表面が余分に
もっているエントロピーを知ることができる.さらに,熱力学の関係式から
es = fs + Tss = γ − Tdγ
dT(105)
が得られるので,表面張力の温度依存性に関する精度のよいデータがあれば,表面過剰エ
ネルギー es も求めることができる.
純液体の表面張力の温度依存性の例を図 8–21に示す.こうしたデータから,一般的に次
のようなことが言える:
• すべての液体について,γは温度の減少関数である.これは,式 (104)から,ss > 0
であることを意味している.すなわち,界面は余分にエントロピーを持っている.
• 多くの液体について,臨界点近傍などを除いて γ が温度の一次関数でよく近似され
る.このことは,ss や es の温度依存性が小さいことを意味している.
なぜなら,一次関数 fs = at+ b に対して,
es ≡ fs − tdfs
dt= b
となるから.
図 8–21: 各種液体の表面張力の例.出典:化学工学便覧 改訂五版.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 61
図 8–22: 水の表面張力.化学便覧基礎編 (丸善,改訂5版)の数値データと,ss =
− dγdT , es = γ + Tss の関係式を用いて es と ss をグラフ化したもの.
0.0
20.0
40.0
60.0
80.0
0 50 100 150 200 250 300 350 400
Su
rfa
ce T
en
sio
n (
mN
/m)
Temperature (C)
0.00
0.10
0.20
0.30
0 50 100 150 200 250 300 350 400Su
rfa
ce E
ntr
op
y (m
J/K
m )
Temperature (C)
0.0
50.0
100.0
150.0
0 50 100 150 200 250 300 350 400
Su
rfa
ce E
ne
rgy
(mJ/
m )
Temperature (C)
22
なお,水はやや特異的である.表面張力データ(図 8–22)のように,低温での γの傾き
がやや小さくなっているので,低温側での表面過剰エントロピーは少し小さい.これは水
やアルコールなど水素結合性(会合性)液体によく見られる特徴と言われており,低温に
おいて表面で水素結合ネットワークが発達することで表面近傍のエントロピーを小さくし
ている,といった議論がなされることがある.
気液臨界温度 Tc(水は Tc=374.15℃=647.30K)に近づくにつれて,再び γの傾きは小
さくなる.臨界現象 critical phenomena の理論では,γ ∝ (Tc − T )β (β > 1) といったべき
法則 power law が成り立つことが予想されている.このとき,ss ∝ (Tc − T )β−1 となり,
やはり T → T でゼロに近づく.同じく,es = γ + Tss ∝ (Tc − T )β−1 となることが予想
される.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 62
8.2 (参考) 液体の表面張力測定法
液体の表面張力は,その定義から,表面を単位面積だけ広げるのに必要な仕事を求める
か,あるいは 表面を広げようとするときの単位長さあたりの力を求める かのいずれかで
測定することができる.前者なら J/m2 の単位,後者なら N/m の単位になるが,もちろ
んこれらは等しい.多くの液体では,10−2 N/m のオーダーの値になるので,データ集に
は 10−3N/m=mN/m (=dyn/cm) の単位で記載されていることが多い.
図 8–23に示すように,液体表面を支えるのに必要な力を測定する原理に基づいて,さま
ざまな表面張力測定装置が開発され,市販されている.
図 8–23: 参考資料:界面ハンドブック(エヌ・ティー・エス, 2001)より.
参考資料:市販の表面張力測定装置の例(協和界面科学 自動表面張力計 DY-300).以下,同装置のカタログ説明より(プレート法)測定子(白金プレート)が液体の表面に触れると、液体が測定子に対してぬれ上がります。このとき、測定子の周辺に沿って表面張力がはたらき、測定子を液中に引き込もうとします。この引き込む力を読み取り、表面張力を測定します。
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 63
8.3 (発展) 界面張力についてのいくつかの話題
8.3.1 混合物の界面
例えば,「アルコール水溶液の表面」のような混合物系の界面について,近似的な取り扱
いを紹介する.多くの場合,多量にある成分を 溶媒 solvent と見なし,そこに 溶質 solute
が溶けていると考える.このとき,溶媒に対してGibbs分割面を定義し,溶質濃度から 溶質–溶媒系ではなく,混合物の各成分を対等に扱おうとすると,数学的には美しいが,熱力学の表式がもう少し複雑になる.詳しくは,適当な教科書等(例えば p. 58 で挙げたAdamson et al., Physical Chem-istry of Surfaces)を参照されたい.
溶質の界面過剰量,すなわち界面吸着量 interfacial adsorption を定義することになる.
混合物界面系の Gibbs自由エネルギーの微小変化を考える:
dG(T, P,Ni) = SdT − V dP +∑i
µidNi + γdA (106)
となる.ただし,Aは表面積,µi と Ni はそれぞれ分子種 iの化学ポテンシャルと分子数
である.一方,1分子あたりのGibbs自由エネルギーが化学ポテンシャルであることを使
うと
dG = d
[∑i
µiNi + γA
]=
∑i
[Nidµi + µidNi] +Adγ + γdA (107)
なので,界面系についての Gibbs-Duhemの式を得る: Pierre Maurice Marie Duhem (1861–1916) フランスの物理学者.
SdT − V dP −∑i
Nidµi −Adγ = 0 (108)
2元混合物系について,片方を溶媒と考えて Gibbs分割面を定義し,(単位面積当たりの)
界面過剰量だけを取り出すと
ssdT − Γudµu − dγ = 0 (109)
が得られる.ただし,Γu ≡ Nu
A は単位面積当たりの溶質の過剰分子数,つまり界面吸着量
である.特に,等温変化 (dT = 0)を考えると
∂γ
∂µu= −Γu (110)
が得られる.
さらに,低濃度極限で,化学ポテンシャルが濃度 cu の関数として,理想気体と類似の
表式
µu(cu) = µ0u + kBT ln cu (111)
のように表されることを使うと,表面張力の濃度依存性から,界面吸着量を次のように見
積もることができる:
界面吸着量を mol/m2 の単位で求めるには,式 (112)の両辺をアボガドロ数で割って
Γu = −cu
RT
∂γ
∂cu
とすればよい.もちろん,Rはモル気体定数である.
Γu = − 1
kBT
∂γ
∂ ln cu= − cu
kBT
∂γ
∂cu(112)
吸着量 Γu は正にも負にもなり得ることに注意しよう.負の吸着 negative adsorption とい
うのは,界面付近には溶質が存在しにくいということであり(図 8–24),溶質濃度を上げ
るにつれて表面張力が増加することを意味する.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 64
図 8–24: 水溶液の気液界面の模式図.
図 8–25: 水溶液の表面張力の濃度依存性の例.化
学工学便覧 改訂7版(丸善, 2011)より.
図 8–25に,室温近傍での水溶液の表面張力の例を示す.アルコールやアセトンなどの有
機物を加えると正吸着によって表面張力が低下するのに対して,無機塩の多くは負吸着に
溶質が界面に吸着して界面張力を低下させることを,“界面活性がある(surface active)” と言い,そのような物質を界面活性剤 surface activeagent (略して surfactant) とよぶ.石鹸や洗剤など多くの界面活性剤が身の回りに使われている.基本的には,水分子との相互作用が強い極性部分(親水基 hydrophililc part)と相互作用が弱い非極性部分(疎水基hydrophobic part)の両方をもつような分子構造をしており,強く界面に吸着する.
よって表面張力がわずかに増加することが知られている.
8.3.2 曲率をもつ界面
Microfluidicsの発展にともなって,マイクロメートルスケールの液滴や気泡の性質が重
要となっている.その分野でよく話題になるのが,Young-Laplaceの関係式である.これ Thomas Young (1773–1829) イギリスの科学者.光学 (Youngの干渉実験)・弾性論 (Young 率)・液体科学 (Young の式) など多方面で業績を残したほか,言語学にも長け,エジプトのヒエログリフの解読にも功績があったらしい.
Pierre-Simon Laplace (1749–1827)フランスの数理物理学者,天文学者.Laplacian ∆ や Laplace 変換でおなじみだろう.
は,半径 Rの球状液滴(あるいは気泡)が熱平衡状態にあるとき,その内部圧力 Pi と周
囲圧力 Pa (aは ambient をあらわす) の間に成り立つ関係式
回転楕円体など,球形以外の曲面については
∆P = γ
(1
R1+
1
R2
)のように一般化できる.ここで,R1
と R2 は接平面に対して定義される曲率半径の2つの主値 principalvalue である.ただし,純液体のように γ が一定の場合,熱平衡状態は言うまでもなく球形である.上の式は界面吸着や局所温度分布などによる Marangoni 効果を議論する出発点となる.
Pi = Pa +2γ
R(113)
のことである.この式は,「液滴(あるいは気泡)の内部圧は周囲の圧力よりも高い」こと
を主張している.この圧力差 ∆P ≡ 2γR は,Laplace圧と呼ばれることもある.表 8–2に
は,室温の水(γ ≃ 72mN/m)について,いろいろな半径での ∆P を見積もったもので
ある.典型的なマイクロバブル である 100µmの気泡ならこれは高々0.015気圧程度の圧
力差にしかならないが,最近話題となっているナノバブル(R ∼100 nm程度と言われてい
る)では,10気圧以上の圧力差が生じる計算になり,その安定性(何が気泡の崩壊を防い
でいるか)について議論が続いている.
半径 R (m) ∆P (Pa)
10−3 1.44× 102
100× 10−6 1.44× 103
10× 10−6 1.44× 104
10−6 1.44× 105
100× 10−9 1.44× 106
10× 10−9 1.44× 107
10−9 1.44× 108表 8–2: 表面張力 γ ≃ 72mN/m (室温での水の値)のときのLaplace
圧の見積もり.1気圧 ≃ 105 Pa であることに注意.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 65
(補足) Young-Laplace式の導出
曲面内外の力のつり合いから直接に導くこともできるが,簡単な導出として,仮想仕事
の原理 principle of virtual work を使う方法を紹介する.右図のように,半径 Rの「球面」
が力のつり合い状態にあるとする.半径R → R+ δRの変化に対する仮想仕事 δW は,体
積項(圧力差に逆らってする仕事)と表面積項(表面積を増やすための仕事)からなり,次
式のように表される:
R
Pa
Pi
R+δR
δW = (Pa − Pi) ·(4π
3(R+ δR)3 −R3
)+ γ ·
(4π(R+ δR)2 −R2
)=
[(Pa − Pi) · 4πR2 + γ · 8πR
]δR+O
((δR)2
)(114)
仮想仕事の原理により,つり合い状態では δW = 0が成り立つはずだから,ただちに式 (113)
が得られる.
8.3.3 原子スケールで見た界面構造と界面張力
一般向けの解説書には,界面張力(「なぜ表面積は小さくなろうとするか?」)について,
よく右図のような説明がされている.この力学的説明 (?)で納得できるのであればいいが,
界面張力の力学的説明によく使われる模式図.
以下,Wikipedia の「表面張力」の項から抜粋
分子間力(液体の分子間に作用する力)により、分子がお互いを引き合って凝縮しようとする。液体中の特定の分子は、それ以外の分子全てに引き寄せられるため、その合力は(まるで地球の重力のように)液体中心部へ向く。その結果、液体は表面積が少ない球形になろうとする。水滴やシャボン玉が丸くなるのも、この原理によるものであると言える。
界面法線方向の力のつり合いはどうなっているのか,固体–固体界面の場合はどうなるの
か,など,あまりわかった気がしないのではないだろうか.界面では,一般に “構造がゆ
るんでいる (the structure is relaxed.)” ために自由エネルギー的に不利な状態にある,す
なわち余分な自由エネルギーをもっている,というのが熱力学的な説明である.前章で述
べた TDGLモデルでの自由エネルギー関数もそれを反映している.
実際の界面において,どのように「構造がゆるんでいる」かは,系によってさまざまで
ある.密度や原子配置などが2つのバルク相の中間的な性質を示すことが多いが,水の気
液界面のように,特異な配向性を示す例も報告されている.分子シミュレーションを使う
と,原子スケールでの界面の構造を調べることができる.図 8–26に,その一例を示す.
図 8–26: 分子動力学計算により原子スケールで眺めた界面の例:(左)水の表面,(右)Si/SiO2 界面.いずれも
我々の研究室で行われた分子シミュレーションの例.
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 66
8.4 2元合金モデルのMC計算で2相界面を調べる
モデル系を使って,界面の性質を具体的に調べてみよう.ここでは,簡単な例として,第
3章で扱った2元合金系のMonte Carlo計算を再び取り上げよう:
隣り合う原子間のエネルギー =
−ϵ 同じ原子種が隣り合う場合
+ϵ 異なる原子種が隣り合う場合
(115)
ただし,ϵ > 0と仮定する.
リスト 8.1 に,2次元2元合金モデルの川崎ダイナミクス Monte Carloプログラムの
例を示す.初期条件として,左半分にA原子を,右半分にB原子を配置する.ちょうど中 つまり,MC計算で格子点をランダムに選ぶ際に,最左端と最右端の格子点は選択対象外とする,ということである.
央位置に界面位置を固定するため,左端の一列は常にA粒子で,右端の一列は常にB原子
で占有されている状態という境界条件を設けている.いくつかの温度における粒子配置の
例を図 8–27に示す.温度上昇にともなって,界面が次第にぼやけてくる様子が見える.
// Kawasaki Dynamics MC Simulation for Two-Dimensional Binary Alloy System#include <stdio.h>#include <stdlib.h>#include <math.h>
#define NX_SITE 50 // X 方向のサイトの数#define NY_SITE 10 // Y 方向のサイトの数#define NS_SITE 10000 // 1 サイトあたりの平均試行回数#define N_STEP (N_STEP*NX_SITE*NY_SITE) // 計算ステップ数
int state[NY_SITE][NX_SITE];double estate[NY_SITE][NX_SITE];int nprof[NX_SITE];double eprof[NX_SITE];
double frand( ){
return rand()/(RAND_MAX+1.0);}
double energy( );
int main( ){int step;int xsite0,ysite0,state0;int xsite1,ysite1,state1;int counter;double temperature,energy0,energy1;double esum;FILE *fout;
printf("Input Temperature: ");scanf("%lf",&temperature);
for (ysite0=0;ysite0<NY_SITE ;ysite0++) { /* Initial Condition */for (xsite0=0;xsite0<NX_SITE/2;xsite0++) state[ysite0][xsite0]=1; /* Left Region */for (xsite0=NX_SITE/2;xsite0<NX_SITE;xsite0++) state[ysite0][xsite0]=0; /* =0 for Right Region */
}
for (xsite0=0;xsite0<NX_SITE;xsite0++) { /* Initialize Profile Data */nprof[xsite0]=0;eprof[xsite0]=0.0;
}counter=0;esum=0;energy0=energy( );
for (step=0;step<N_STEP;step++) {CHOICE0: /* End Site shoud not be Chosen */
xsite0=NX_SITE*frand();if ((xsite0==0) || (xsite0==NX_SITE-1)) goto CHOICE0;
ysite0=NY_SITE*frand();state0=state[ysite0][xsite0];
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 67
CHOICE1:xsite1=NX_SITE*frand();
if ((xsite1==0) || (xsite1==NX_SITE-1)) goto CHOICE1;ysite1=NY_SITE*frand();if ((xsite0==xsite1) && (ysite0==ysite1)) goto CHOICE1;state1=state[ysite1][xsite1];if (state0==state1) goto CHOICE1;
state[ysite0][xsite0]=state1;state[ysite1][xsite1]=state0;
energy1=energy( );
if (energy1<energy0) {energy0=energy1; }
else {if (frand( ) < exp((-energy1+energy0)/temperature)) {
energy0=energy1; }else {
state[ysite0][xsite0]=state0;state[ysite1][xsite1]=state1;energy( ); /* estate[][] を正しくするためにもう一度 energy() を call する */
}}
if (step>=0.25*N_STEP) { /* 最初の 1/4 のデータは捨てるesum+=energy0;for (ysite0=0;ysite0<NY_SITE;ysite0++) {for (xsite0=0;xsite0<NX_SITE;xsite0++) {
nprof[xsite0] +=state[ysite0][xsite0];eprof[xsite0] +=estate[ysite0][xsite0]*0.5; /* ボンドエネルギーの半分を各サイトに割り当てる */
} }counter++;
}}
esum /=counter;printf("%6.2f %10.6f\n", temperature,esum/((NX_SITE-1)*NY_SITE));
fout=fopen("alloy-energy.dat","w"); /* 平均エネルギーを出力 */fprintf(fout,"%6.2f %10.6f\n", temperature,esum/((NX_SITE-1)*NY_SITE));
fclose(fout);fout=fopen("alloy-prof.dat","w"); /* プロファイルを出力 */for (xsite0=0;xsite0<NX_SITE;xsite0++) {
fprintf(fout,"%3d %8.5f %8.5f\n",xsite0,nprof[xsite0]/(double)(counter*NY_SITE),eprof[xsite0]/(counter*NY_SITE));}fclose(fout);
return 0;}
double energy( ) /********* Energy Calculation *********/{
double eaa=-1.0e0; // A-Adouble ebb=-1.0e0; // B-Bdouble eab= 1.0e0; // A-Bdouble eng;int xs,xn,ys,yn,s,n;
eng=0.0;for (ys=0;ys<NY_SITE;ys++) {for (xs=0;xs<NX_SITE;xs++) {
estate[ys][xs]=0.0; /* energy of each site */} }
for (ys=0;ys<NY_SITE;ys++) {for (xs=0;xs<NX_SITE;xs++) {
s=state[ys][xs];
xn=xs+1; // Note: No-Periodic along X Directionif (xn==NX_SITE) goto YN;yn=ys;n=state[yn][xn];if (s==1) {
if (n==1) {eng+=eaa;estate[ys][xs]+=eaa;estate[yn][xn]+=eaa; }
else {eng+=eab;estate[ys][xs]+=eab;estate[yn][xn]+=eab; }
}
熱物性論 2019 (松本充弘): p. 68
else {if (n==1) {
eng+=eab;estate[ys][xs]+=eab;estate[yn][xn]+=eab; }
else {eng+=ebb;estate[ys][xs]+=ebb;estate[yn][xn]+=ebb; }
}
YN:xn=xs;yn=ys+1; if (yn==NY_SITE) yn=0; // Periodic Boundary Cond.n=state[yn][xn];if (s==1) {
if (n==1) {eng+=eaa;estate[ys][xs]+=eaa;estate[yn][xn]+=eaa; }
else {eng+=eab;estate[ys][xs]+=eab;estate[yn][xn]+=eab; }
}else {
if (n==1) {eng+=eab;estate[ys][xs]+=eab;estate[yn][xn]+=eab; }
else {eng+=ebb;estate[ys][xs]+=ebb;estate[yn][xn]+=ebb; }
}
} }return eng;
}
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
0 10 20 30 40 50
Nu
mb
er
De
nsity
Position x
T=1.0T=1.5T=2.0T=2.2
-2.0
-1.8
-1.6
-1.4
-1.2
-1.0
-0.8
0 10 20 30 40 50
En
erg
y D
en
sity
Position x
T=1.0T=1.5T=2.0T=2.2
List 8.1: 2次元2元合金モデルモデルのMCプログラムと局所組成プロファイルおよび
エネルギー密度プロファイルの例.
0
2
4
6
8
10
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
T=1.0
0
2
4
6
8
10
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
T=1.5
0
2
4
6
8
10
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
T=2.1
0
2
4
6
8
10
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
T=2.5
図 8–27: 2次元2元合金モデルのMC計算結果の粒子配置の例.