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802.11Gの送信機試験 Application Note 1380-4 802.11gは、無線コンピュータ・ネットワーキングの最新の標準です。この標準は、 802.11aや802.11bの開発に続くもので、802.11aの速度と802.11bのコストとインスト ール・ベースを生かした標準です。802.11gの狙いは、802.11bとの相互運用性を確 保し、許容可能な性能、コスト、設計時間を実現することにあるため、独自の測定 上の問題が生じています。 ここ数年、802.11b準拠の無線ネットワークは大きな成果を上げており、四半期ご とに約10%の売上の伸びを示しています。こうした売上の伸びは、オフィスはもち ろん、家庭においても手頃な価格での高速インターネット接続が大幅に増加してい ることに後押しされています。802.11bは、インターネット接続用の優れた無線チ ャネルを提供していますが、イントラネット内でのファイル転送やその他の大きな データセット・ネットワーキング・タスクを実行するのに必要な速度が得られない ことがよくあります。802.11gでは、従来の11Mbps 802.11bデバイスやネットワーク との互換性を維持しながら、54Mbpsの高いデータ・レートを提供することによっ て、この課題を解決しようとしています。 802.11gでは、802.11bのタイミングや周波数の取り決めを維持する一方で、802.11a で用いられている直交周波数分割多重化(OFDM)変調方式を採用することによって、 データ転送速度の向上が図られます。このアプリケーション・ノートでは、 802.11gに不可欠なトランスミッタ測定について説明すると同時に、それらの測定 が802.11aや802.11bのテストに必要な測定とどのような関係があるのかを調べます。

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802.11Gの送信機試験

Application Note 1380-4

802.11gは、無線コンピュータ・ネットワーキングの最新の標準です。この標準は、802.11aや802.11bの開発に続くもので、802.11aの速度と802.11bのコストとインストール・ベースを生かした標準です。802.11gの狙いは、802.11bとの相互運用性を確保し、許容可能な性能、コスト、設計時間を実現することにあるため、独自の測定上の問題が生じています。

ここ数年、802.11b準拠の無線ネットワークは大きな成果を上げており、四半期ごとに約10%の売上の伸びを示しています。こうした売上の伸びは、オフィスはもちろん、家庭においても手頃な価格での高速インターネット接続が大幅に増加していることに後押しされています。802.11bは、インターネット接続用の優れた無線チャネルを提供していますが、イントラネット内でのファイル転送やその他の大きなデータセット・ネットワーキング・タスクを実行するのに必要な速度が得られないことがよくあります。802.11gでは、従来の11Mbps 802.11bデバイスやネットワークとの互換性を維持しながら、54Mbpsの高いデータ・レートを提供することによって、この課題を解決しようとしています。

802.11gでは、802.11bのタイミングや周波数の取り決めを維持する一方で、802.11aで用いられている直交周波数分割多重化(OFDM)変調方式を採用することによって、データ転送速度の向上が図られます。このアプリケーション・ノートでは、802.11gに不可欠なトランスミッタ測定について説明すると同時に、それらの測定が802.11aや802.11bのテストに必要な測定とどのような関係があるのかを調べます。

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802.11gは、802.11aおよび802.11bの既存の2種類の802.11無線ネットワーク標準を合わせたものとしてよく知られています。802.11gでは、802.11b標準の現行の周波数である2.4GHzでaとbの2種類のシステムの変調方式を採用する予定です。このため、802.11a標準のデータ・レートを用いながら、802.11bシステムとの相互運用性が得られます。

802.11gを理解するために、802.11aおよび802.11bで用いられている変調方式の概要を簡単に復習します。

802.11aは、直交周波数分割多重化(OFDM)マルチキャリア信号を使用します。従来の周波数分割多重化(FDM)システムでは、スペクトラムが重なり合わないように、チャネル間の間隔がシンボル・レートより大きくなっています。しかし、OFDMでは、帯域幅を節約するため、搬送波が重なり合います。このため、各搬送波を互いに直交に保つことにより、副搬送波の干渉を制御します。直交とは、副搬送波間に数学的な関係があることを意味します。802.11aの副搬送波は、バースト状に送出されるため、sinX/Xのスペクトラムになります(図1を参照)。各副搬送波がsinX/X形状のヌル点にある限り、副搬送波やそのサイドローブが他の副搬送波と干渉することはありません。

802.11aでは、すべての副搬送波は312.5kHz離れています。この間隔は、高速フーリエ変換のサンプリング・レート(20MHz)をFFTに必要な全ビン数(64ポイント)で割ることにより決定されます。1つの802.11aシンボルは、48個のデータ副搬送波、4個のパイロット副搬送波、1個のヌル副搬送波(ゼロ副搬送波)によって構成されています。残りの11個の副搬送波は破棄されます。したがって、占有帯域幅は、53個の副搬送波に312.5kHzの間隔を乗算した、16.56MHzになります。802.11a標準では、占有帯域幅を16.6MHzと規定しています。

データ・レートの高いOFDM信号は、48個のデータを運ぶ搬送波に均等に分割されます。このため、データ・レートが減少し、副搬送波のシンボル周期が長くなるため、マルチパス遅延拡散に起因する相対的な分散量が減少します。位相雑音や非線形歪みは、直交性を損なう最大の要因であり、結果として搬送波間干渉(ICI)を引き起こします。シンボル間干渉(ISI)はもちろんICIも防ぐために、ガード間隔が追加されています。ICIによりISIが生じることはありますが、ISIによりICIが生じることはありません。データ・レートの低い信号の方が、マルチパス・フェーディングや干渉の影響を受けません。

802.11gの基本

802.11aとOFDM

図1:OFDM搬送波と相互変調成分が重なり合わない

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802.11bは、物理層による5.5Mbpsと11Mbpsの2種類の速度のサポートを追加することにより、一般的な802.11標準を拡張しています。直接シーケンス・スペクトラム拡散(DSSS)信号はサポートされていますが、周波数ホッピング(FHSS)信号は、FCC規制に違反することなく、より高いデータ・レートをサポートすることができなかったため、サポートされていません。すなわち、802.11bシステムはDSSSシステムと相互運用されますが、従来の1Mbpsや2Mbpsの802.11 FHSSシステムでは動作しません。

元の802.11 DSSS標準は、無線で送られる全データを符号化するための11ビット・チップ・シーケンス(Barkerシーケンスと呼ばれる)を規定しています。各11チップ・シーケンスは、単一のデータ・ビット(1または0)をカバーし、無線で送ることのできるシンボルと呼ばれる波形に変換されます。これらのシンボルは、2値位相シフト・キーイング(BPSK)変調方式を使って、1MSps(100万シンボル/秒)で送信されます。BPSKは、単に搬送波の位相を2種類の位相の間でスイッチングして、1または0の2値を表します。この方式では、送信シンボル当たり1ビットになります。

2Mbpsの場合は、4値位相シフト・キーイング(QPSK)が使用されるため、BPSKの2倍のデータ・レートでの送信が可能です。QPSKも、信号の位相を変化させますが、2つではなく、4つの位相を使用します。このため、シンボル当たり2ビット送信されるため、使用されるスペクトラムの効率が高まりますが、ノイズやその他の干渉に対するシステムの耐性は低下します。多くの情報がシンボルとして配置されるため、シンボルが近接した状態になり、ノイズやその他の干渉によるビット・エラーの可能性が高くなります。

802.11b標準のデータ・レートを2Mbps以上に上げるために、高度なコーディング手法が採用されています。802.11bでは、11ビットBarkerシーケンスではなく、5.5Mbpsと11Mbpsのデータ・レート用の64個の8チップ・コードワードによって構成される相補コード・シフト(CCK)を規定しています。1組としてのこれらのコードワードは、かなりのノイズや干渉(例えば、建物内で多重反射した場合に生じる干渉)が見られる場合でも、レシーバがそれぞれのコードワードを正確に区別できるように、固有の数学的な性質を持っています。5.5Mbpsレートでは、CCKを使ってシンボル当たり4ビットが符号化され、11Mbpsレートでは、シンボル当たり8ビットが符号化されます。いずれの速度でも、QPSK変調方式と1.375MSpsの信号が用いられます。このため、より高いデータ・レートが得られます。

802.11bのデータ・レート仕様

データ・レート コード長 変調 シンボル・レート ビット/シンボル

1 Mbps 11(Barkerシーケンス) BPSK 1MSps 1

2 Mbps 11(Barkerシーケンス) QPSK 1MSps 2

5.5 Mbps 8(CCK) QPSK 1.375MSps 4

11 Mbps 8(CCK) QPSK 1.375MSps 8

図2:802.11bのデータ・レート対変調方式

802.11bとBPSK、QPSK、CCK、Barkerコード

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ビット入力� 11複素チップ出力�

変調:BPSK/QPSK

Barkerシーケンス�+1, -1, +1, +1, -1, +1, +1, +1, -1, -1, -1, -1

マッピ�ング�

1組の4/64の�8チップ・シーケンス・�

セレクタ�

DQPSK�回転�

8複素�チップ�出力�

d2~d7

d0、d1

4/8ビット�d0~d3/d7

802.11gのLONGプリアンブル・パケット�

プリアンブル/ヘッダ�(Barkerワード:802.11互換)�

OFDM�同期�

6、9、12、18、36、48または�54MbpsのPSDUが選択可能な�

OFDMシンボル�

信号の�拡張部分�

192µs(long)�96µs(short)�

12µs 6µs

OFDM変調方式を使用�

図3:802.11bのBarker変調器のブロック図

図4:802.11bのCCK変調器のブロック・ダイアグラム

図5:802.11gのバースト・プロファイルの例

802.11aの高いデータ・レートを実現しながら、802.11bシステムとの互換性を維持するためには、802.11gシステムは、アクティブであること、そのチャネルを使用していることを、従来の802.11bシステムに知らせる必要があります。802.11gは、標準のBarkerコード変調方式で802.11b互換ヘッダを送信することによってこれを実現します。これにより、隣接するすべての802.11bシステムは、デバイスが送信中であり、802.11bデバイスが一定期間停止した状態であることを知ります。802.11gシステムは次に、パケットのデータ部を送信しますが、これが802.11bシステムと互換性がない場合もあります。802.11bシステムは、この信号を受け取ることはできないので、この信号に干渉することはありません。この方式を用いれば、802.11gシステムと802.11bシステムは、干渉することなく、共存することができます。また、802.11gシステムは、OFDMやPBCCが提供できる以上の高いデータ・レートを利用できます。

802.11bと802.11aをマージした802.11g

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図7:802.11gの変調方式の例(左から:BPSK、QPSK、8PSK、64QAM)

802.11gで許可されている最後の変調/符号化方式は、パケット・バイナリ・コンボリューショナル・コーディング(PBCC)です。この方式は、最近では、802.11bシステムで、データ・レートを11Mbpsから22Mbpsに高めるために用いられました。PBCCは、基本的には、CCKをより複雑にしたもので、2倍のデータを与えられた帯域幅で符号化できます。通常は、与えられた帯域幅内のデータ・レートを2倍にするためには、チャネルのS/N比を3dB上げる必要があります。PBCCを用いれば、0.5dB上げるだけで、このデータ・レートの向上が得られます。PBCCでは、変調方式をQPSKから8PSKに移行することによって実際のデータ・レートが上がり、CCKより優れたPBCCを使用することによって必要なS/N比が低下します。

802.11gでは、PBCCはオプションのモードです。この標準では、PBCCを許可していますが、PBCCの実装については規定していません。実装すれば、802.11gのOFDM方式と全く同様に機能し、802.11b互換ヘッダが送信されてから、PBCC部が送信されます。

機能 仕様 注記

搬送波周波数 2.400~2.4835GHz 25MHzのチャネル間隔

(ISM無線バンド) 3つのオーバラップのないチャネル

変調方式 OFDM:直交周波数分割多重化 PBCCはオプション

分割多重化

CCK:相補コード・シフト

PBCC:パケット・バイナリ・コンボリューショナル・コーディング

データ・レート 1、2、5.5、6、9、11、12、18、 11Mbps CCKと24Mbps 24、36、54Mbps OFDMは必須

出力パワー 通常最大100MW、1Wが可能 パワーレベルは使用する変調方式に依存

図6:802.11g WLAN標準の仕様

802.11gとPBCC

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このセクションでは、802.11gのトランスミッタと変調器を設計/製造する場合に用いられる一般的なテストについて説明します。802.11gは、低コスト、高データ・レートの実現を目的として設計されたシステムなので、設計する際には他の802.11g/802.11b機器との相互運用性を確保すると同時に、部品のコストや数を最小限に抑えるように注意する必要があります。802.11gシステムの複雑さのほとんどは変調と増幅にあるため、このセクションではこうした特性のテスト方法について説明します。

こうした側面を考慮すると、ベクトル・シグナル・アナライザ(VSA)が802.11gトランスミッタに最適な測定機器になります。VSAは、タイム・ドメインの信号を処理し、信号のタイミングや振幅を測定できます。VSAはまた、高速フーリエ変換(FFT)を用いて周波数ドメインの信号を解析し、高度なディジタル信号処理(DSP)技術を用いた変調解析機能を提供します。タイム・ドメイン、周波数ドメイン、変調ドメインの802.11g信号を解析することにより、期待通りの設計になっていることを確認できます。

トランスミッタの測定

バースト状のディジタル変調信号であるため、802.11gには対処すべきさまざまなタイミング上の問題があります。これらの問題は、トランスミッタのターンオン時間からシンボルのタイミングにまで及びます。

トランスミッタのターンオン・トランジェントターンオン・トランジェントの測定は、802.11gのような高速なバースト状の信号には極めて重要です。ここでは、増幅器の直線性、電圧制御発振器(VCO)の安定度、システム全体のスルーレート、変調器のタイミング調整などの設計上の問題が生じます。802.11gバーストのターンオン・トランジェントを観察すれば、これらをすべて調べることができます。

バーストがノイズ・フロアから規定のパワーレベルまたは最終出力パワーの%へ遷移するまでの時間も、VSAのマーカ機能を使って簡単に測定できます。このテストではまた、バーストのパワー対時間曲線を視覚的に表示することにより、システム内のオーバシュート、アンダーシュート、リンギングをすばやく検出できます。さらに、VSAは、ターンオン時の信号の位相も測定できます。これは、OFDMシステムの直交性を維持するために極めて重要です。トランスミッタがバーストのプリアンブル部や同期部を開始する前に安定するのを待つことによる効率の悪さを回避しながら、データ効率を高めるためには、過渡時間が短くなければならないため、802.11gでは、ターンオン・トランジェント時間が重要となります。

ターンオン中の信号の周波数スペクトラムもまた重要です。中程度のオーバシュートでも、パワーアンプの非線形性を助長し、スプリアス・エミッションを引き起こしたり、送信信号のスペクトラム全体を広げる可能性もあります。

タイム・ドメインのテスト

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ベクトル・シグナル・アナライザのFFT解析機能とタイム・ゲーティング機能の組み合わせは、信号バーストのパワーオン/オフの評価用に設計されています。信号の特定の時間を選択して周波数ドメインで解析し、その特定の時間のスペクトラムを表示することが可能です。この機能を用いれば、バースト内の発生場所を特定することが簡単にできます。図8のWLAN信号のタイム・ゲーティングの例を参照してください。

802.11gのバーストの立上がり部分のもう1つのテストは、変調が実際に始まった時点を特定することです。802.11gでは、バーストの一番最初の部分を使って、レシーバをトランスミッタの周波数とシンボル・タイミングに調整します。VCOが安定する前に搬送波の変調が始まっている場合は、レシーバは誤った周波数と同期したり、完全に同期できなくなり、パケットが欠落してしまう可能性があります。変調の開始が遅すぎた場合は、時間が損失し、周波数スペクトラムが無駄になり、システムの効率が低下します。

A: Ch1 Gate Spectrum

B: Ch1 Main Time

10dBm

LogMag

10dB

/div

-90

dBm

0dBVpk

LogMag

10dB

/div

-100

dBVpk

Center: 2.412 GHzRBW: 811.845 kHz

Start: 0 sec

Range: -5dBm

Span: 34.375 MHzGateLen: 4.704545 uSec

Range: 177.8279 mV

Stop: 23.25 uSec

時間ゲート�

図8:802.11gのバースト、スペクトラム(上側)とゲーティングされた時間(下側)

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802.11gのようなバースト・システムでは、搬送波のオン/オフの影響や搬送波の周波数との時間的な関係も扱う必要があります。スペクトログラムは、信号周波数の経時的な変化を観察するためのユニークな方法です。スペクトログラムは、周波数、時間、振幅を1つの画像で表示します。周波数は、スペクトラム・アナライザの場合とほとんど同様に、水平軸上に表示されます。振幅は、カラーまたはグレーの陰影で符号化されます。スペクトログラムでは、経過時間が垂直軸上に表示され、時間の経過とともに画面が上にスクロールします。下図のように、このプロットからは、ターンオン時の発振器の安定度が簡単に分かります。

802.11gシステムで使用されているOFDMなどの変調方式には非常に安定した周波数の搬送波が必要なため、この測定は非常に重要になります。OFDM変調方式の個々の搬送波は互いに312.5kHzしか離れていないため、2.4GHzの搬送波にわずかなずれがあると、無線リンクに深刻な問題が生じるおそれがあります。特に802.11システムがワンチップ・ソリューションに移行するのに伴って、同一チップ上のパワーアンプとVCOがピーク-平均電力比の高い信号を生成するため、トランスミッタの熱や電力の供給の問題に慎重に対処する必要があります。

周波数対時間のテスト

図9:VCOのターンオン・トランジェントのスペクトログラム表示

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802.11g標準には、複数の変調方式やシグナリング・タイプが含まれているため、性能を正しく評価するためには、広範な変調テストが必要です。

EVMディジタル変調信号には、様々な問題が生じる可能性があります。まず始めに行うべき測定は、エラー・ベクトル振幅(EVM)です。EVMは、実際の送信信号を理論上の完全な信号と比較して測定する方法です。この測定では、信号の変調品質を全体的に確認することができるので、レシーバの信号の受信/解釈能力が分かります。一般に、低EVMと低ビット・エラー・レート(BER)には密接な相関関係があります。

多くの変調上の問題が、信号のEVMにマイナスの影響を及ぼします。OFDMやQPSKなどのI/Q変調信号の振幅や位相に影響を与えるものは、EVMを増加させます。EVMの増加の一般的な原因のいくつかとして、パワーアンプの非線形性、変調器全体の品質、信号に適用するフィルタリング、VCOの位相雑音があります。

OFDM信号全体が大きなコンポジット信号なので、この信号に何らかの劣化が見られると、全体的な複合EVMが増加します。このため、各副搬送波のEVMを単独に調べるのではなく、信号全体のEVMを調べる必要があります。劣化の原因を迅速に突き止めるためには、VSAのEVM対シンボルまたはEVM対副搬送波の表示能力が極めて重要です。

変調ドメインのテスト

図10:劣化が見られるOFDMのコンスタレーションとEVM

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コンスタレーション・ダイアグラム変調器内の問題は、多くの場合、コンスタレーション・ダイアグラムを使用することによってすばやく突き止めることができます。この画面からすべてのシンボルの発生場所がすぐに分かるだけでなく、信号の品質を画像で確認することができます。

コンスタレーション・ダイアグラムから簡単に確認できる問題の例として、増幅器のクリッピングがあります。単一搬送波変調方式では、クリッピングは、理論上正しいポイントに達しない最も外側のシンボルにより特徴付けられます。これにより、出力部に変調器の要求を満たすだけのレンジがないことが分かります。OFDMでは、シンボルは多数の搬送波に拡散されます。個々の搬送波は互いに独立していますが、すべての搬送波が足し合わされる可能性もあるので、パワーアンプからの出力レベルが極めて高い必要があります。こうように短いピークが十分に高い場合には、増幅器がクリップして、一度に多くの搬送波に影響を与えます。コンスタレーションの大きなトランジェント誤差は、ほとんどの場合、OFDMシステム上で増幅器のクリッピングが発生していることを示しています。図11に示されているように、この誤差は、EVM対時間(すなわち、シンボル)測定では、ランダムな高いEVMポイントとして、また不完全なCCDF曲線として表れます。

QPSK変調システムでは、通常、コンスタレーションのオーバシュートを抑えるための幅広いフィルタが使用されるため、クリッピングはあまり生じませんが、QPSKコンスタレーションでは、位相雑音や不正確なフィルタリングなどの問題があることがすぐに明らかになります。QPSK信号の位相雑音は、コンスタレーション・ポイントをターゲットの近傍に拡散し、単一ポイントではなく、複数のポイントが生じます。フィルタリングの問題は、多くの場合、ターゲット・ポイントの周囲の複数の安定したポイントとして表れます。これらの安定したポイントは、誤ったフィルタリング係数が原因で存在する可能性のあるISIに起因します。これらのポイントは、以前に送信されたビットに起因するデターミニスティック誤差が原因で、安定しています。

図11:クリッピングが発生したOFDMのEVMとCCDF

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誤差対周波数/時間測定後の最大の問題は、なぜ、期待通りに動作しないかを見つけ出すことです。特に問題が信号にスプリアスとなって表れるか、特定の時間周期でのみ表れる問題である場合に、その原因を見つけ出すのが困難です。このような問題は、従来のスペクトラム・アナライザで検出することは極めて困難です。

VSAは、こうした周波数や時間に関連する問題を見つけ出すのに最適なツールです。誤差対時間を表示するか誤差対周波数を表示するかを選択できるようにすることにより、問題とその原因が簡単に識別できます。信号の中央に見られるスプリアス・エミッションは、周波数掃引測定の信号のピークよりはるかに上に出現することはないかもしれませんが、誤差対周波数では、信号の誤差のほとんどがある特定の周波数に起因していることがすぐに分かります。このことから、他の機器では検出できないこうした問題に焦点を当てることができます。

特に検出が難しい問題として、誤差対時間があります。これらの問題は、非常に深刻でビット・エラー・レートが高くなる可能性もありますが、何らかの本格的な方法でスペクトラムを修正しなければならないほど頻繁には発生しないかもしれません。誤差対時間を観察することにより、誤差の発生時点や誤差が何らかの周期性を持つかどうかを簡単に判断できます。したがって、これらの時間内に誤差を発生させる可能性のある回路内の問題点を探し、その部分に焦点を当てることができます。多くの場合、これらの問題の原因をたどると、システム内の電源ノイズやフィードバックであることが分かります。

捕捉とポスト解析VSAでのほとんどすべての測定と同様に、上述の変調ドメイン測定は、バーストの特定のセグメント上で実行することが可能です。VSAには信号を捕捉してメモリに入れてからポスト解析するという機能があるため、捕捉したデータのサブセットを解析することができます。802.11gデバイスの解析では、パケットのターンオン・トランジェント、プリアンブルまたはデータ部分だけに注目することが極めて有用であることがよくあります。802.11gでは、プリアンブルのデータ・バーストにさまざまな変調方式が用いられることもあるので、これらの部分を個別に調べることが重要です。

いくつかのVSAには大容量メモリとPCとの接続機能があり、一度に多数のバーストを捕捉し、後で解析/比較することもできます。また、DSPにより、必要な解析に合わせて、中心周波数をシフトし、捕捉データのスパンを狭くすることも可能です。初めに必要以上のデータを捕捉しておいて、後でデータを減らせば、解析に必要な信号が確実に得られるだけでなく、必要な解析だけを行うことも可能になります。

図12:スプリアスのあるOFDMのEVM対周波数

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将来、無線LANシステムのデータ・レートはさらに高くなり、帯域幅は拡大し、変調方式は一層複雑なものになる可能性があります。WLAN標準は発展し続けているため、測定システムを選択する際には、WLANの今後の発展を考慮に入れる必要があります。80 2 . 1 1 gは既に、802.11a標準と802.11b標準を発展させたものであり、承認も受けています。これまでの標準はすでに更新され、最新の標準が急速に展開され、将来の標準はさらに高度な測定技術が必要になります。したがって、柔軟性の高い、アップグレード可能なプラットフォームを選択することにより、今後も、簡単、高速、正確、かつ有益なWLAN測定を行うことができます。

最後の解析

February 27, 20035988-7813JA

0000-00DEP

電子計測UPDATE

www.agilent.com/find/emailupdates-Japan

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Agilent電子計測ソフトウェアおよびコネクティビティ

Agilentの電子計測ソフトウェアおよびコネクティビティ製品、ソリューション、デベロッパ・ネットワークは、PC標準に基づくツールによって測定器とコンピュータとの接続時間を短縮し、本来の仕事に集中することを可能に し ま す 。 詳 細 に つ い て はwww.agilent.com/find/connectivityを参照してください。

サポート、サービス、およびアシスタンス

アジレント・テクノロジーが、サービスおよびサポートにおいてお約束できることは明確です。リスクを最小限に抑え、さまざまな問題の解決を図りながら、お客様の利益を最大限に高めることにあります。アジレント・テクノロジーは、お客様が納得できる計測機能の提供、お客様のニーズに応じたサポート体制の確立に努めています。アジレント・テクノロジーの多種多様なサポート・リソースとサービスを利用すれば、用途に合ったアジレント・テクノロジーの製品を選択し、製品を十分に活用することができます。アジレント・テクノロジーのすべての測定器およびシステムには、グローバル保証が付いています。製品の製造終了後、最低5年間はサポートを提供します。アジレント・テクノロジーのサポート政策全体を貫く2つの理念が、「アジレント・テクノロジーのプロミス」と「お客様のアドバンテージ」です。

アジレント・テクノロジーのプロミス

お客様が新たに製品の購入をお考えの時、アジレント・テクノロジーの経験豊富なテスト・エンジニアが現実的な性能や実用的な製品の推奨を含む製品情報をお届けします。お客様がアジレント・テクノロジーの製品をお使いになる時、アジレント・テクノロジーは製品が約束どおりの性能を発揮することを保証します。それらは以下のようなことです。● 機器が正しく動作するか動作確認を行います。● 機器操作のサポートを行います。● データシートに載っている基本的な測定に係わるアシストを提供します。

● セルフヘルプ・ツールの提供。● 世界中のアジレント・テクノロジー・サービス・センタでサービスが受けられるグローバル保証。

お客様のアドバンテージ

お客様は、アジレント・テクノロジーが提供する多様な専門的テストおよび測定サービスを利用することができます。こうしたサービスは、お客様それぞれの技術的ニーズおよびビジネス・ニーズに応じて購入することが可能です。お客様は、設計、システム統合、プロジェクト管理、その他の専門的なサービスのほか、校正、追加料金によるアップグレード、保証期間終了後の修理、オンサイトの教育およびトレーニングなどのサービスを購入することにより、問題を効率良く解決して、市場のきびしい競争に勝ち抜くことができます。世界各地の経験豊富なアジレント・テクノロジーのエンジニアが、お客様の生産性の向上、設備投資の回収率の最大化、製品の測定確度の維持をお手伝いします。