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事例中のマークについて 「みなさんへの問い」を示すときに使用します 「みなさんへの問いに対する考え方」を示すときに使用します 「みなさんへの問いに対する答え」を示すときに使用します 「確認すべき内容」を示すときに使用します 「重要である用語の説明」を示すときに使用します 「対応の基本的な考え方」の中で数種の様式を紹介していますが、それは全て巻末 にありますので実際にご活用ください。 1 高齢者虐待対応を具体的な事例から考える 高齢者虐待対応の具体的な事例を通して、市町村、地域包括支援センター等の役割や業務 を進める上でのポイントを示しながら、「①相談・通報の受付」から「⑦虐待対応の終結」ま での支援展開を紹介しています。 各支援過程において、まず事例経過を示し、次に対応についての基本的な考え方、最後に 事例に当てはめた対応について説明します。 虐待対応の実際の支援展開をイメージできるような形で進めていきますので、どのような 考え方のもとで事例の支援を行なったのか確認しながら読み進めてください。 本マニュアルでは、「コアメンバー会議」と「個別ケース会議」の役割を明確にするために、 構成員(厚生労働省マニュアル参考)と会議の目的から両者を次のように位置づけました。 したがって、初動期以降の対応において、緊急性の判断を要する場合には、再び「④コア メンバー会議」に戻る形で、その後の対応が進められています。 【構成】 コアメンバー会議 個別ケース会議 虐待の有無・緊急性の判断とそれに伴う支 援方針を決定する会議 虐待の有無・緊急性の判断以外の個別対応 における支援方針を決定する会議 高齢者虐待対応の具体的な事例 対応の基本的 本事例にあてはめた 考え方 キーワード 3

Ⅲ 高齢者虐待対応の具体的な事例 · 1 高齢者虐待対応を具体的な事例から考える . 高齢者虐待対応の具体的な事例を通して、市町村、地域包括支援センター等の役割や業務

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事例中のマークについて

「みなさんへの問い」を示すときに使用します

「みなさんへの問いに対する考え方」を示すときに使用します

「みなさんへの問いに対する答え」を示すときに使用します

「確認すべき内容」を示すときに使用します

「重要である用語の説明」を示すときに使用します

※「対応の基本的な考え方」の中で数種の様式を紹介していますが、それは全て巻末

にありますので実際にご活用ください。

1 高齢者虐待対応を具体的な事例から考える

高齢者虐待対応の具体的な事例を通して、市町村、地域包括支援センター等の役割や業務

を進める上でのポイントを示しながら、「①相談・通報の受付」から「⑦虐待対応の終結」ま

での支援展開を紹介しています。

各支援過程において、まず事例経過を示し、次に対応についての基本的な考え方、最後に

事例に当てはめた対応について説明します。

虐待対応の実際の支援展開をイメージできるような形で進めていきますので、どのような

考え方のもとで事例の支援を行なったのか確認しながら読み進めてください。

本マニュアルでは、「コアメンバー会議」と「個別ケース会議」の役割を明確にするために、

構成員(厚生労働省マニュアル参考)と会議の目的から両者を次のように位置づけました。

したがって、初動期以降の対応において、緊急性の判断を要する場合には、再び「④コア

メンバー会議」に戻る形で、その後の対応が進められています。

【構成】

コアメンバー会議 個別ケース会議

虐待の有無・緊急性の判断とそれに伴う支

援方針を決定する会議

虐待の有無・緊急性の判断以外の個別対応

における支援方針を決定する会議

Ⅲ 高齢者虐待対応の具体的な事例

事 例 経 過 紹 介

対 応 の 基 本 的 な 考 え 方

本事例にあてはめた 対 応 と 解 説

考え方

キーワード

3

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2 初動期対応 初動期対応とは、相談・通報を受け付けてから事実確認、情報収集を行い、虐待の有無

と緊急性の判断を行うコアメンバー会議を実施し、その結果による当面の支援計画立案ま

でのながれを指します。初動期対応で重要なことは、各支援過程において市町村が責任を

持ち実施することと、緊急性をもち、速やかに高齢者本人の安全な生活の確保を中心に対

応を図ることです。

ポイント

・市町村が責任をもち、各支援過程を実施する

・緊急性をもって、速やかに高齢者本人の安全な生活の確保を中心に対応を図ること

【支援過程】

⑤コアメンバー会議の決定に基づく対応 当面の支援方針に基づき、期限までに適切な支援を実施し、必要に応じ

で市町村はやむを得ない事由による措置等の対応を図る

④コアメンバー会議 市町村がその責任において虐待の有無と緊急性の判断を行い、

その判断に基づいて当面の支援方針(支援計画)を決定する

③コアメンバー会議に向けた事実確認

通報された情報について高齢者の安全やその状況の確認を行う

②相談内容の共有 組織内で検討し、市町村と地域包括支援センターの両者で事実確

認に向けた段取りの調整を行う

①相談・通報の受付

虐待を確実にキャッチし、緊急対応の必要性を予測しながら相談・

通報内容の聞き取りを行う

初動期対応

⑦虐待対応の終結 虐待の現状及び将来の予測のもと、終結ができるか組織決定し、包括的

継続的ケアマネジメントへの移行についても併せて確認する

⑥個別ケース会議、その後の支援 虐待の要因を捉え、高齢者や養護者、地域等それぞれの支援課題に対して関係機関が

関与し、虐待の解消、高齢者の権利擁護を目指す支援計画を立て、支援を進める

高齢者虐待防止ネットワークの構築と運用

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事例紹介

初動期対応

① 相談・通報の受付 P6~P8

地域包括支援センター(以下、包括と略す)に、介護支援専門員から利用者のことで相談

がありました。

相談内容

介護支援専門員が利用者宅を訪問すると、母親は台所の床に布団1枚で寝かされており、

布団は多量の尿で汚れている状態でした。

母親が右大腿部に痛みを訴えたため、何があったのかを尋ねましたが、はっきりした答え

は返ってきませんでした。介護支援専門員は母親に病院受診を勧めましたが、同席していた

長男も母親も頑なに拒否するだけでした。

② 相談内容の共有 P9~P11

包括内で打ち合わせを行い、虐待の疑いがあるのではないかと考えました。 包括から市高齢者担当課に連絡し、コアメンバー会議を開催することになりました。

③ コアメンバー会議に向けた事実確認 P12~P15

コアメンバー会議に向けて、包括は事実確認のため、介護支援専門員と自宅を訪問しました。母親が台所に寝かされている状態は前日と変わらず、右大腿部の腫れが見過ごせない状態であるため病院受診を勧めましたが、母親も長男も頑なに拒否しました。 市高齢者担当課は、市役所の担当部署から必要な情報を収集しました。

④ コアメンバー会議 P16~P20

事実確認を終え、市高齢者担当課が中心となりコアメンバー会議を開催しました。

会議の結果、母親の早期受診に向けて支援を開始することになりました。

長男には、市障害者担当課及び障害者相談支援センターによる相談支援を開始することに

なりました。

⑤ コアメンバー会議の決定に基づく対応 P21~P22

コアメンバー会議開催の翌日、包括、市高齢者担当課、市障害者担当課は、母親、長男に受診の必要性を訴え、母親を病院に搬送しました。 病院で診察を受けた結果、母親は右大腿骨骨折のため約 1 ヶ月間入院することになりまし

た。 しかし、翌日より、長男から母親を早く帰すよう何度も電話で要求が続きました。 入院から 1週間後、手術も終わり、母親の状態も安定してきました。 病院の相談員が母親と面談し、母親の今後の意向について確認しましたが、気持ちの揺れ

が見られました。

※ 本事例の初動期以降の対応「⑥個別ケース会議、その後の支援」「⑦虐待対応の終結」

については、P24 をご覧ください。

事例1 やむを得ない事由による措置を行った事例

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事例1 やむを得ない事由による措置を行った事例

◆相談者:介護支援専門員

◇相談先:地域包括支援センター(以下、包括と略す)受付者は社会福祉士

地域包括支援センターに介護支援専門員から「実は、私が担当する利用者さんのことなん

ですが・・・」と電話が入りました。

① 相談・通報の受付

包括による相談の受付

以下が介護支援専門員からの相談内容です。

母親の訪問介護サービス利用にあたり、契約のため、訪問介護員とともに介護支援専門員が

自宅を訪問しました。

訪問すると、台所の床に布団が1枚敷かれそこで母親は寝かされており、布団が多量の尿で

汚れている状態でした。

母親が右大腿部に痛みを訴えたため、何があったのかを尋ねましたが、はっきりした答えは

返ってきませんでした。介護支援専門員は母親に病院受診を勧めましたが、同席していた息子

は「お母さん、別に行かなくてもいいよね?」と病院受診を頑なに拒否し、母親も「お兄ちゃ

んが、そう言うなら行かない。」と拒否するだけでした。

この後、あなたは介護支援専門員に対し、何を聞けばよいのでしょうか?

考 え 方 まず、問題を整理することから始めます。

① この相談内容の中に、あなたが気になる情報はありましたか?

② それはどんな情報でしたか?

③ その情報がなぜ気になったのですか?

次に、具体的に今回の相談内容を①~③のプロセスを通してアセスメントをします。

考 え 方

① 気になる状況(情報) → 右大腿部の痛みを訴えた

② なぜ気になるのか(理由) → けがをしているかもしれない

→ 治療が必要かもしれない

③ 推測される問題 → けがの放置 → けがの悪化

虐待対応は、虐待かどうかを疑うことから始まります。

『高齢者への虐待発見チェックリスト』をご活用ください。(P102)

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相談受付時に相談者に確認すべきことは主に次の6点です。

※ここでは、総合相談の窓口として包括に相談が寄せられた場合を想定しています。

① 高齢者本人の状況

・氏名、年齢、性別、住所、連絡先(もしくは、個人が特定できる情報)、心身の状況(要

介護状態)、生活状況、意思表示能力、養護者及び家族の状況 等

② 養護者の状況

・氏名、続柄、同居の有無、心身の状況、介護(世話)の状況 等

③ 高齢者と養護者や家族の関係

・現時点での家族関係、今までの家族関係や家族の歴史

④ 介護サービスなどの利用状況や関係者の有無

・関わっている人は誰か、どのような人が出入りしているのか 等

⑤ 相談者・通報者の情報

・氏名、住所、連絡先、高齢者やその家族とどのような関係にあるのか 等

⑥ 虐待の状況(虐待の疑いがある場合)

・だれが、いつ、どこで、誰に、どのように、どうしたのか

・虐待を疑う事実(身体に虐待によると思われるあざやけがが見られる等)があれば、

その事実が、いつから、どれくらいの頻度で発生しているのか

・どのように把握したのか(見た、本人から聞いた、養護者から聞いた、第三者から聞

いた場合は、どこのだれから聞いたのか確認する)

・虐待の有無の判断の根拠となる情報があるか(相談者が虐待を疑って相談してきてい

る場合、相談者が虐待を疑った根拠、理由は何かを確認する)

※客観的な事実をより具体的に聞き出すことが重要です。

※相談者が根拠を持っていなければならないことはありませんが、相談者からの情報を整理

することにより根拠を見出すことができます。また、相談者には、今後の対応において支援

協力をお願いすることもありますので、丁寧に対応し、信頼関係を築くようにします。

包括は、高齢者虐待の通報窓口というだけでなく、地域の総合相談の機能を有し

ているため、高齢者虐待についての第一報が明らかに「虐待」とわかるようなもの

ばかりではありません。

相談を受けた者それぞれが、相談内容の一つ一つの情報から、本人・家族・世帯

全体に権利侵害の疑いがあるかどうかを察知する目が必要です。

また、「虐待の可能性」や「虐待の予防としての権利擁護の支援の必要性」を感

じるアンテナをもつことが重要です。

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「気になる状況(情報)」が「なぜ気になるのか」考え、推測される問題を整理し、相談者

である介護支援専門員に、高齢者本人の生活状況や養護者である息子に関する情報をさらに

詳しく聞き取りをしました。

気になる状況 なぜ気になるのか(理由) 推測される問題

台所の床に布団が1枚敷かれ

そこで母親は寝かされており

・普通、床には寝かせない ・養護者から大切にされていない

のではないか

布団が多量の尿で汚れている

状態

・排泄ケアが不十分らしい ・不衛生、尿路感染

・介護放棄

母親が右大腿部に痛みを訴え

・けがをしているかもしれない

・治療が必要かもしれない

・けがの放置、悪化

母親に何があったのかを尋ね

たが、はっきりした答えは返

ってこなかった

・認知症で憶えていないのか

・何かを隠そうとしているのか

・長男へ気遣っているのか

・おびえているのではないか?

介護支援専門員は母親に病院

受診を勧めたが、同席してい

た息子は病院受診を頑なに拒

否した

・なぜ拒否するのか

・母親を受診させると何か不都

合なことでもあるのか

・足の痛みは息子による暴力によ

るものかもしれない

・息子は正常な判断ができない人

かもしれない

母親も「お兄ちゃんが、そう

言うなら行かない。」と拒否

した

・息子の顔色を窺っているので

はないか

・母親は自分の意思を言うことが

できない

・息子に脅されているかもしれな

聞き取った内容

高齢者:母親 70 歳代(要介護 2)

認知症日常生活自立度Ⅰ

高血圧、年金 7 万円/月

※生活費の足りない部分は、母親の貯金でやりくりしている。

養護者 :長男 40 歳代

○家庭状況

(母親) ・介護支援専門員が 2 日前に訪問したときには、自分で立ち上がり、歩くことができていた。

・家事全般は今まで母親が行っていたが、調理中に、なべに火をかけたまま忘れてしまうことが

数回ありその度に長男からひどく注意を受けているとのこと。

・最近では、買い物に出て迷子になり、警察から長男が呼び出され、迎えに来てもらったがひどく

怒られたと話している。

・お金は長男が管理しているため、買い物に必要なお金だけ長男から受け取っている様子。

(長男) ・大学を卒業してから、20 年余り引きこもり状態であり、無職の様子。

・母親の年金は長男が管理をしている。自分の欲しい物を買いに行くことはできている。

(その他家族)・父親は、2 年前に死亡。長女は、関わりを拒否。

本事例に当てはめた対応と解説

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市町村と包括の相談内容の共有

追加情報を含め、包括は、職場内で検討を行い、「長男に十分な介護力がなく、虐待の疑いがあ

るのではないか」と判断しました。

そこで、包括は市高齢者担当課に連絡し、また、包括からの情報より市高齢者担当課も同様に虐

待の疑いがあると判断し、虐待の有無と緊急性の判断をするため、コアメンバー会議を開催すること

にしました。

② 相談内容の共有

相談の受付後、包括と市町村は具体的に

どのような対応を行っていけばよいのでしょうか?

相談の受付後、虐待の疑いがあるかどうかについては、

必ず組織的判断をします。 考 え 方

・ 相談の受付後、虐待の疑いがあるかどうかについて、相談を受け付けた担当者一人

で判断せず、組織として判断をします。

・ 虐待対応は市町村に第一義的な責任があります。

・ 包括においては、虐待の疑いがあると判断した場合は、緊急性が高い低いに関係な

く、必ず、速やかに市町村に報告します。

相談の受付後、市町村と包括は、事実確認に向けた段取りを

調整します。

虐待相談を受け付けた市町村が第一に行うべきことは、虐待のおそれのある高齢者の安

全確認を行い、「生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあるかないか」を見極

めることです。これを『緊急性の判断』と言い、コアメンバー会議(P16 参照)で決定し

ます。

この『緊急性の判断』を行うためには根拠材料となるものが必要になるため、そのため

の情報を収集することを『事実確認』と言います。

したがって、市町村と包括は、まず『事実確認』に向けた段取りを調整していくことに

なります。

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事実確認の事前準備

① 市町村が把握している個人情報のうち、必要な情報の確認

② 事実確認の方法と手順の検討

③ 事実確認の役割分担

④ 通報段階での緊急性の予測に基づき、コアメンバー会議開催日時を決定

※コアメンバー会議は、できるだけ通報から 48 時間を目安に開催します。

事実確認の方法

次の 2 つの手法が考えられます。

① 高齢者、養護者への面接(訪問・来所)

② 関係機関からの情報収集

事実確認における市町村と包括の役割分担について

【市町村の役割】関係機関や庁内の担当部署等に協力を求め、世帯の状況、介護保険情報、

福祉サービスの利用状況、経済状況、医療情報等を高齢者本人中心に把握・

確認します。

① 介護保険担当課:認定の有無、サービスの利用状況、担当介護支援専門員

介護保険料所得段階や介護保険料収納状況

② 高 齢 者 担 当 課:市町村独自の福祉サービスの利用状況

③ 障 害 者 担 当 課:障害者手帳の有無、障害者サービスの利用状況

④ 生活保護担当課:生活保護受給の有無と支援内容、担当ケースワーカー

⑤ 住 民 課:世帯状況(住民票等)

⑥ 税 務 課:税の滞納の有無、収入状況

⑦ 保険年金担当課:年金の有無、国民健康保険・後期高齢者医療の加入状況、医療機関の受診状況

⑧ 保 健 セ ン タ ー:特定健康診査・後期高齢者健康診査等の受診の有無や対象者であれば介護予防教

室への参加状況等

※各市町村で定められている個人情報保護条例の規定に基づき、高齢者虐待対応のために庁舎内

の個人情報の目的外使用申請を年度当初に行っておく等の対応により、迅速に情報を得ること

ができます。

【包括の役割】包括は、高齢者や養護者への面接、関係者への聞き取りを行います。

① 担当の介護支援専門員:本人、家族の情報

② 介護保険サービス事業所:各担当者からの情報収集

③ 民 生 ・ 児 童 委 員:地域での問題の発生状況(近所のトラブルやゴミ出し、回覧板等)

④ 医 療 機 関:主治医や医療機関の相談員からの情報

⑤ 警 察:「パトカーを何回も呼ぶ」などはなかったか等、生活安全課及び地域課が把握している情報

⑥ 自治会や老人クラブ:地域での関わりの有無。地域性もあるが同年者や友人からの情報

⑦ 近 隣:家族の最近の様子や生活状況、近隣トラブルの有無

≪協力を求める関係機関や庁内担当部署の把握している情報の例≫

≪聞き取りをする関係機関と内容の例≫ はなく、必要な情報をいかに迅速に得られるかを考慮し、両者で協力することが重要です。

※基本的には上記のような役割分担で事実確認を行いますが、双方の役割を完全に分けるので

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本事例に当てはめた対応と解説

市高齢者担当課と包括の打ち合わせにより、事実確認の期限、担当者と役割分担を決めま

した。

【事実確認期限】

○年△月□日 13 時まで(相談受付の翌日 13 時まで)

【役割分担】

11

※打ち合わせ結果はその内容を次のシートに記載すると明確になります。

●市が把握している必要な個人情報の収集をする

・介護保険料収納状況の確認(介護保険担当課)

・世帯状況の確認(住民課)

・税の滞納状況、世帯の収入状況の確認(税務課)

・年金の有無、後期高齢者医療の加入状況、医療

機関の受診状況の確認(保険年金担当課)

(医療機関に受診しているのであれば、医療機関

名、主治医の確認をする)

包 括(保健師、社会福祉士)

●訪問により家族との面接を行う

・保健師は、母親の足のけがの状態を含め身

体状況について確認

・社会福祉士は、権利擁護の視点から母親の

意向や精神的状況の確認と長男との関係性

の把握

※警戒心を持たせないように担当介護支援専

門員とともに訪問する。

市高齢者担当課(担当者)

*本シートは P104 にありますのでご活用ください。

事実確認のための打ち合わせシート

 シート作成者  ( 包括:社会福祉士 )

 打ち合わせ日時 シート作成日

  :  ○年  △月   ○日  :  ○年  △月   ○日

①≪市町村の庁内関係部署からの情報収集項目≫

世帯構成

介護保険

福祉サービス等

経済状況

関係機関等

その他 ※養護者の長男に障害の可能性あり。手帳保持・サービス利用・障害年金の受給の有無について要確認。 

②≪事実確認の方法と役割分担≫

事実確認の方法 面接調査

聞き取り □ケース会議等 (担当:         )

(担当:         )

□関係機関 (担当:         )

(担当:         )

(担当:         )

(担当:         )

□その他関係者 (担当:         )

事実確認中に予測されるリスクと対応法

事実確認期限 ○ 年 △ 月 □ 日 13時まで

立入調査の必要性

■住民票 □その他(                  )

   高齢者氏名 : 母親 様

■訪問  □来所面接者( 包括の社会福祉士 ・ 保健師 )

■不要  □要検討 (理由 :

□介護認定の有無  □担当居宅介護支援事業所■介護保険料所得段階  ■介護保険料収納状況□その他(                         )

■収入状況  ■国民年金  ■遺族年金■国民健康保険収納状況□その他(                         )

■主治医・医療機関  □保健所・保健センターの関与□他機関(                         )の関与

□生活保護の利用 ■障害者手帳の有無( 身 ・ 知 ・精 )■障害福祉サービス利用状況

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

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包括による事実確認

相談受付の翌日、包括の社会福祉士、保健師は事実確認のため介護支援専門員と訪問をしまし

た。

室内は、尿臭がひどい状態で、母親は、前日と変わらず台所に布団1枚で寝かされていました。

母親が「太ももが痛くて歩くことができない。」と右大腿部を擦るので、保健師がさりげなく確認した

ところ、右大腿部が大きく腫れており、骨折が疑われました。驚いた保健師が、長男に対し「このまま

お母さんを放っておくことはできないので、今すぐに病院に行って診てもらいましょう。」と話しました

が、長男は母親に向かって「別に病院に行かなくてもいいよね。お母さん。」と言い、母親は長男の顔

色を窺うように「お兄ちゃんがそうやって言うならいいよ。」と答えました。

長男が少し席を外した際に、母親に再度何があったか尋ねたところ「息子に押されて転んだ。時々

そういうことがあって怖い。」と小さな声で返ってきました。

病院受診を説得しましたが、長男、母親双方から拒否をされました。長男からは、「今一番困って

いるのは家事全般だ。これまでは母親がやっていたので自分は全くできない。支援をしてほしい。」と

いう発言がありました。

市町村による事実確認

市高齢者担当課は、住民票、収入状況、介護保険、医療保険、医療機関利用等について情報収

集を行いました。

③ コアメンバー会議に向けた事実確認

事実確認のための情報収集では、どのようなことに

留意しなければならないのでしょうか?

虐待対応の責任主体である市町村がまず行うべきことは、虐待のおそ

れのある高齢者の安全確認を行い、「生命又は身体に重大な危険が生じ

ているおそれがあるかないか」の緊急性の判断を行うことです。

考 え 方

事実確認のための情報収集で留意することは、

緊急性の判断に必要な情報を優先して収集することです。

事実確認は、①身体の状態・けが等、②生活の状況、③話の内容、④表情・態度、⑤適切

な支援、⑥養護者の態度等の 6 つの視点で行います。

○確認項目

外傷等 衣服・寝具の清潔さ 恐怖や不安の訴え おびえ、不安 適切な医療の受診 支援者への発言

全身状態・意識レベル 身体の清潔さ 保護の訴え 無気力さ 適切な服薬の管理 保護の訴え

脱水症状 適切な食事 強い自殺念慮 態度の変化 入退院の状況 暴力、脅し等

栄養状態等 適切な睡眠 あざや傷の説明 その他 適切な介護等サ ヒー゙ス 高齢者に対する態度

あざや傷 行為の制限 金銭の訴え 支援のためらい・拒否 高齢者への発言

体重の増減 不自然な状況 性的事柄の訴え 費用負担 支援者に対する態度

出血や傷の有無 住環境の適切さ 話のためらい その他 精神状態・判断能力

その他 その他 その他 その他

身体の状態・けが等

適切な支援

表情・態度

生活の状況

養護者の態度等

話の内容

表情・態度

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事実確認のための情報収集で留意すること

① 包括と市町村は、高齢者虐待防止法第9条に基づき訪問介護員や介護支援専門員等に任

せず、責任を持って事実確認を行う。

② 初動期段階における事実確認では、緊急性の判断に必要な高齢者の生命の安全に関する

情報を優先する。

③ 情報については、いつの時点の情報なのかを把握し(過去の情報で判断することは正確

性に欠けるため)、できる限り直近の本人、養護者の情報を得る。

④ 訪問するときは、必ず 2 人以上で行く。

(高齢者本人と養護者の話を別々の人が確認する必要がある)

⑤ 面接時には、高齢者が高齢者本人の思いを冷静に話すことができる環境を整える。

(高齢者は養護者が傍にいると養護者を恐れ、態度が変わる可能性があるため、養護者の同

席について配慮する)

⑥ 信頼関係を築きやすい形で訪問する。別の名目で訪問するなどの配慮も必要となる。

別の名目による訪問の例

・「○歳以上の高齢者のお宅に健診のご案内のため訪問しています。」

・「介護サービスのご案内や、ご相談に乗るために介護者の方々のお宅を訪問しています。」

・「この地域の介護保険利用者のお宅を調査のため訪問しています。お父様(お母様)にお会い

したいのですが。」

※担当の介護支援専門員、民生委員、自治会長など、家族と顔馴染みの人や、すでに友好

的な関係が築けている人に同行してもらうことも有効です。

事実確認により得た情報を整理するために、事実確認チェックシート(P105)の活用が有効です。

事実確認チェックシートのメリット ① どのような事実があるのかを把握し、漏れがなく事実確認すると同時に、リスクアセス

メントを行うことができる。

② 把握した事実をもとに、虐待の有無や緊急性の判断の根拠材料とすることができる。

次の場合には、特に緊急性の高い状況と捉えてください。

身体の状態・けが等 話の内容 養護者の態度等

・頭部外傷(血腫、骨折等の疑い)、

腹部外傷、重度の褥そう

・全身衰弱、意識混濁

・重い脱水症状、脱水症状の繰り

返し

・栄養失調

・「怖い」「痛い」「怒られる」「殴られる」

などの発言、「殺される」「○○が怖い」

「何も食べていない」「家にいたくな

い」「帰りたくない」等の発言

・「死にたい」などの発言、自分を否定

的に話す

・「何をするかわからない」「殺してし

まうかもしれない」等の訴えがある

・虐待者が高齢者の保護を求めている、

刃物、ビンなど凶器を使った暴力や

脅しがある

・上記 3 項目のうち、どれか一つでも確認された場合は、緊急性が高いと判断し、緊急保護の

検討が必要と考えます。

・ただし、これ以外の場合でも、高齢者や養護者の心身の状況と生活状況、虐待の頻度や程度

などを総合的に検討し、その事例、その場面ごとに緊急性の判断を行う必要があります。

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●包括の社会福祉士と保健師は、訪問調査で母親、長男、世帯の生活状況についての情報を

得ました。

●市高齢者担当課は、市役所内の関係部署から情報を収集しました。

本事例に当てはめた対応と解説

母親

○身体の状態・けが等

・尿で汚れた布団に寝かされている。

・右大腿部が大きく腫れており、骨折が疑われる。

痛みを訴えている。

・歩くことができない。

○生活の状況

・1週間程度お風呂に入っておらず、髪は少しべた

ついており、尿で汚れた寝巻きと下着を身に着け

たままの状態である。

○話の内容(言動・思い)

・長男が母親に「別に病院に行かなくてもいいよ

ね。お母さん。」と話しかけると、長男の顔色を窺

うように「お兄ちゃんがそうやって言うならいい

よ。」と答えた。しかし、長男がいないところでは

「息子に押されて転んだ。時々そういうことがあっ

て怖い。」と小さな声で話した。

○表情・態度

・常に、長男の様子を窺い、長男の意見に反する

発言はしない。

長男

お母さん。」と何の躊躇もなく淡々とした態度で

話しかけた。

世帯の生活状況 ・食事については、母親が動けなくなってから今日までの 4 日間は出前を取っている。

・長男は、1 年前から精神科受診はしておらず、持病のヘルニアのため、月 1 回A病院の整形外科に通院

しており、そこで抗うつ剤を処方してもらっている。病識はあり、服薬管理もできている。

母親

・A病院に高血圧のため月 1 回通院している。 ・精神疾患あり(うつ病)

・障害年金(2 級) 6 万 5 千円/月

・精神障害者保健福祉手帳 2 級

世帯の生活状況 ・国民健康保険料、介護保険料等の滞納はない。

長男

・「今一番困っているのは家事全般だ。これまで

母親がやっていたので自分は全くできない。支

援をしてほしい。」

○態度

・母親の健康状態等に関して無関心である。

・自分自身のことについては、抵抗なく話す。

・母親に対し「別に病院に行かなくてもいいよね。

○言動・思い

・家事全般を行う能力がない。母親は自分の世

話をする人と捉えており、母親を自分が介護す

るという理解が全くない。

○介護力

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事実確認のための訪問等面接時に確認するポイント

医療情報や数量化できる項目、言葉や行為など、誰からも確認できる項目以外の「おびえている」

「ひどい汚れ」など、確認者側の認識が影響するものについては、日常から市町村、包括など関係者

間において、どのような状況であれば「おびえている」「ひどい汚れ」とするかなど、基準を設けてお

くと判断する際の混乱が少なくなります。他にも、虐待の発生時期や頻度、発生するきっかけ、発生

しやすい時間帯についても可能であれば把握します。

また、高齢者・養護者に会えない状況でも、高齢者・養護者の情報が得られた場合はその状況につ

いて記録しておくことが必要です(例えば、「養護者に電話をするが、興奮して切られた。」など)

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本事例に当てはめた対応と解説

包括は、緊急性の判断に向け、訪問調査結果を事実確認チェックシートに記載しました。 事実確認チェックシート

※ 1:「相談」:相談・通報があった内容に○をつける。「確認日」:市町村および地域包括支援センター職員が確認した日付を記入

2:太字

。←今回は日付の設定がないので○印を記入。

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の項目が確認された場合は、『緊急保護の検討』が必要。

相談 確認日 確認項目 サイン:当てはまるものがあれば○で囲み、他に気になる点があれば(  )に簡単に記入 確認方法

頭部外傷(血腫、骨折等の疑い)、腹部外傷、重度の褥そう、その他(骨折の疑い)

部位:左大腿部        大きさ:大きく腫れている。              

全身状態・意識レベル 全身衰弱、意識混濁、その他(           )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

脱水症状 重い脱水症状、脱水症状の繰り返し、軽い脱水症状、その他(       )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

栄養状態等 栄養失調、低栄養・低血糖の疑い、その他(           )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

身体に複数のあざ、頻繁なあざ、やけど、刺し傷、打撲痕・腫張、床ずれ、その他(     )

部位:           大きさ:        色:        

体重の増減 急な体重の減少、やせすぎ、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

出血や傷の有無 生殖器等の傷、出血、かゆみの訴え、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

その他1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 衣服・寝具の清潔さ 着の身着のまま、濡れたままの下着、汚れたままのシーツ、その他(多量な尿で汚れたシーツ)1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 身体の清潔さ 身体の異臭、汚れのひどい髪、皮膚の潰瘍、のび放題の爪、その他(       )1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(  ) 5.その他(  )

適切な食事菓子パンのみの食事、余所ではガツガツ食べる、拒食や過食が見られる、

その他(            )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

適切な睡眠 不眠の訴え、不規則な睡眠、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

行為の制限自由に外出できない、自由に家族以外の人と話すことができない、

長時間家の外に出されている、その他(    )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

不自然な状況資産と日常生活の大きな落差、食べる物にも困っている、

年金通帳・預貯金通帳がない、その他(      )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 住環境の適切さ 異臭がする、極度に乱雑、ベタベタした感じ、暖房の欠如、その他(         )1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(  ) 5.その他(  )

その他1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 恐怖や不安の訴え 「怖い」「痛い」「怒られる」「殴られる」などの発言、その他(         )1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

保護の訴え「殺される」「○○が怖い」「何も食べていない」「家にいたくない」「帰りたくない」

などの発言、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

強い自殺念慮 「死にたい」などの発言、自分を否定的に話す、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ あざや傷の説明 つじつまが合わない、求めても説明しない、隠そうとする、その他(はっきりした答えがない)1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

金銭の訴え「お金をとられた」「年金が入ってこない」「貯金がなくなった」などの発言、

その他(       )

1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

性的事柄の訴え 「生殖器の写真を撮られた」などの発言、その他(          )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 話のためらい 関係者に話すことをためらう、話す内容が変化、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(ケアマネ) 5.その他( )

その他1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ おびえ、不安 おびえた表情、急に不安がる、怖がる、人目を避けたがる、その他(長男の顔色をうかがう)1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

無気力さ 無気力な表情、問いかけに無反応、その他(         )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 態度の変化家族のいる場面いない場面で態度が異なる、なげやりな態度、急な態度の変化、その他(        )

1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ その他 長男の意に反する発言はしない1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 適切な医療の受診 家族が受診を拒否、受診を勧めても行った気配がない、その他(本人も同意)1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

適切な服薬の管理本人が処方されていない薬を服用、処方された薬を適切に服薬できていない、

その他(            )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

入退院の状況 入退院の繰り返し、救急搬送の繰り返し、その他(           )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

適切な介護等サービス必要であるが未利用、勧めても無視あるいは拒否、必要量が極端に不足、

その他(            )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

支援のためらい・拒否 援助を受けたがらない、新たなサービスは拒否、その他(          )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

費用負担 サービス利用負担が突然払えなくなる、サービス利用をためらう、その他(       )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

その他1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

支援者への発言「何をするかわからない」「殺してしまうかもしれない」等の訴えがある、

その他(          )

1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

保護の訴え 虐待者が高齢者の保護を求めている、その他(             )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

暴力、脅し等 刃物、ビンなど凶器を使った暴力や脅しがある、その他(               )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 高齢者に対する態度 冷淡、横柄、無関心、支配的、攻撃的、拒否的、その他(母親の健康状態に無関心)1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

高齢者への発言「早く死んでしまえ」など否定的な発言、コミュニケーションをとろうとしない、

その他(            )1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

支援者に対する態度援助の専門家と会うのを避ける、話したがらない、拒否的、専門家に責任転嫁、

その他(         )

1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

○ 精神状態・判断能力 虐待者の精神的不安定・判断力低下、非現実的な認識、その他(          )1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

その他1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

※確認方法の(   )には、確認した人を記入します。

1.写真 2.目視(包括) 3.記録(  )

4.聴き取り(ケアマネ) 5.その他( )

1.写真 2.目視(  ) 3.記録(  )

4.聴き取り(   ) 5.その他( )

外傷等

出典:社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

身体の状態・けが等

あざや傷

○○

養護者の態度等

適切な支援

話の内容

表情・態度

生活の状況

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

*本シートは P105 にありますのでご活用ください。

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市町村と包括によるコアメンバー会議

市高齢者担当課と包括は事実確認を終え、市高齢者担当課が中心となりコアメンバー会議を開

催しました。

出席者は、市高齢者担当課(課長、係長、担当者)、包括(社会福祉士、保健師)の計 5 名です。

役割分担にしたがって、それぞれが得た事実確認情報を共有し、協議をしました。

④ コアメンバー会議

コアメンバー会議とは

虐待の有無と緊急性の判断を行い、その判断に基づいて当面の支援方針(支援内容と役割

分担)を決定するための市町村と包括との話し合いの場です。

つまり、コアメンバー会議は、迅速な判断を行う会議と言えます。

しかし、会議といっても、形式に捉われる必要はありません。あくまでも、上記の目的を

実施するためにコアメンバーである市町村と包括が、チームとして検討するための話し合い

の場を設けることが重要です。

また、通報を受けてから、できるだけ 48 時間以内の開催が目安です。

コアメンバー会議のメンバー

高齢者虐待防止事務を担当する市町村職員及び担当部局管理職と、包括の担当職員です。

特に、事例対応において措置や立入調査といった緊急対応の判断が求められることがあるの

で、市町村担当部局管理職は必須です。

※緊急性の判断をするために必要な場合、専門家(医師、弁護士等)の参加を求めること

もあります。

コアメンバー会議で検討・決定する内容

① 虐待の有無と緊急性の判断

② ①に基づく当面の支援方針と具体的な支援計画

③ 役割分担

④ 具体的な支援の期限(評価日)

コアメンバー会議で支援計画を立てる際、最も重要なこと

は何でしょうか?

考 え 方 コアメンバー会議の目的は、虐待の有無及び緊急性の判断をし、高齢者の保護や支援を行うことです。

市町村は、「生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一

時的に保護しなければならない」と高齢者虐待防止法第 9 条の 2 項に規定されているため、

その必要性があるかないかを判断しなければなりません。それが、虐待の有無及び緊急性の

判断であり、市町村と包括はその判断に基づき支援計画を策定し、必要な支援を行います

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コアメンバー会議で支援計画を立てる際、「高齢者個人の生命

や身体の安全の確保」を最優先します。

虐待事例は一般の困難事例と違い、家族内の関係修復や介護関係者との信頼関係よりも、

高齢者への支援(高齢者個人の生命や身体の安全の確保、救済、人権の擁護等)が最優先さ

れます。

そのために、まずは虐待の有無・緊急性の判断を行います。

虐待の有無を判断するポイント

虐待の有無は、「高齢者本人が地域で安心して暮らす権利」の侵害があるかどうか、それ

を守るために保護や支援の必要性があるかどうかという観点から判断することが基本です。

(参考:社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」)

緊急性が高いと判断できる状況

重大な危険が生じていることに対し、養護者に危機意識がない場合

・虐待が恒常的に行われているが、養護者の自覚や改善意欲がみられない

・養護者の人格や生活態度の偏りや社会不適応行動が強く、介入そのものが困難であ

ったり改善が望めそうにない

(4)高齢者が明確に保護を求めている場合

(5)虐待につながる家庭状況・リスク要因がある

・介護負担やストレスは高いが、介護や現状に対する意識や知識・技術が低く、かつ

サービスや介入を拒否するため改善が見込めない場合や他の家族等の支援が得られ

ず孤立している場合などが想定される。

高齢者の生命の危険性、医療の必要性、養護者との分離の必要性、虐待の程度と高齢者の

健康状態、介護者の心身の状態等から総合的に判断することとなる。

たとえば、

(1)現に、高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている状況が確認される、もしくは

予測される場合

・骨折、頭蓋内出血、重傷のやけどなどの深刻な身体的外傷

・極端な栄養失調、脱水症状、衰弱状況等

・「うめき声が聞こえる」などの深刻な状況が予測される情報

・刃物、食器などを使った暴力もしくは脅しがあり、エスカレートすると生命の危険

性が予測される

(2)高齢者や家族の人格、精神状況に歪みを生じさせているもしくはその恐れがある場合

・虐待が原因で、高齢者の人格や精神状況に著しい歪みが生じている

(3)虐待が恒常化しており、改善の見込みが立たない、もしくは高齢者の生命又は身体に

緊急性が高いと判断した場合には、緊急保護に向けた支援計画を立てます。

緊急性が高いと判断した場合、早急に介入する必要があるので、可能な手段から適切なも

のを選択して介入します。いずれにしても高齢者の安全の確認、保護を優先します。

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虐待を受けた高齢者を保護・分離する手段

高齢者の心身の状況や地域の社会資源の実情に応じて、保護・分離する手段を検討します。

① 契約による介護保険サービスの利用(短期入所、施設入所等)

② やむを得ない事由等による措置(特養、養護、短期入所等)

③ 市町村独自事業による緊急一時保護(緊急ショートステイ)

などの方法や、心身の状況によっては医療機関への入院もあり得ます。

事実確認ができず虐待の有無、緊急性の判断を行えない場合

事実確認ができず情報が得られない場合の方法についても支援計画に組み込みます。

虐待対応の初動期は、確認できないこと、不明なことが多いと考えられます。

初動期のコアメンバー会議では、確認できた事実に基づいて必要な支援が何かを協議する

だけでなく、不明な点の確認方法についても話し合う必要があります。例えば、高齢者や

養護者が訪問の際に入室を拒み事実確認ができないときには、必要があれば立入調査につ

いても検討し、支援計画に組み込みます。

平成 22 年度の高齢者虐待対応研修会で、講師が受講者のみなさんに、

「コアメンバー会議を経験したことがない人は挙手してください。」と質

問したところ、7割の方が挙手し「ない」との回答でした。緊急な対応

が求められる事案が少ないからなのでしょうか?

平成 18 年から毎年、高齢者虐待についての相談・通報件数は、1,000

件を超え、平成 21 年度は 1,498 件であることを考えると、「コアメン

バー会議」の開催が少ないのでは・・・との印象を持ちました。

「会議」と聞くと、堅苦しいイメージを持ってしまうかもしれません

が、コアメンバー会議は、高齢者の命を守るために「緊急性の判断」を

する大変重要な会議です。そして、虐待対応の中核的な支援機関である

市町村と包括とがチームで同じ方向性を目指すための話し合いの場でも

あります。

また、コアメンバー会議の参加が必須となっている市町村の管理職に、

会議参加を促すことが難しいとみなさんからよくお聞きしますが、その

ようなときには、本マニュアルを説明資料としてご活用いただけると幸

いです。

キーワード

立入調査

「養護者による高齢者虐待により高齢者の生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認め

られる場合」には、市町村がその権限によって高齢者の居所に立ち入り、調査や質問を行うことができま

す。このことを立入調査と言います。(高齢者虐待防止法第 11 条) (P65 参照

キーワード

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①身体の状態:右大腿部骨折の疑い。 ②話の内容:母親は長男に押されて転倒した。時々そういうことがあって怖いと話す。

本事例では、前節「③コアメンバー会議に向けた事実確認」で示した『事実確認チェック

シート』(P15 参照)を活用したところ、緊急保護検討が必要な 2 項目に該当事項がありまし

た。

これは、母親の「生命又は身体に重大な危険が生じている状況が確認された」「虐待につな

がる家庭状況・リスク要因がある」にあたり、母親が安心して暮らす権利が侵害され、尊厳

が傷つけられている状況と考えられます。そのため、最優先課題は、母親本人の心身の安全

の確保となります。

本事例に当てはめた対応と解説

このことを踏まえて行われた虐待の有無・緊急性の判断は、下表の『虐待の有無・緊急性の判

断シート』に示す通りであり、それに基づき、次ページの『高齢者虐待対応支援計画書』を作成

しました。

会議日時シート作成日

 :    ○年   △月   □日 :    ○年   △月   □日

会議の目的 緊急性の判断と支援方針市高齢者担当課(課長、係長、担当者)包括(社会福祉士、保健師)

虐待事実の判断

緊急性の判断

■緊急保護の検討

□防止のための保護検討

□事実確認を継続

緊急性の判断根拠

□なし: ( 理由 :                    )

□あり    □訪問介護  □通所介護  □短期入所生活介護 □認知症対応型共同生活介護        □小規模多機能型居宅介護  □養護老人ホーム  □特別養護老人ホーム

□保護の検討、集中的援助

□継続的、総合的援助

シート作成者  ( 包括:社会福祉士 )

高齢者氏名 : 母親              様

虐待の有無・緊急性の判断シート

出席者

虐待の事実 :□なし■あり ( 身体的 ・ 心理的 ・ 放棄放任 ・ 経済的 ・ 性的 ・その他(                 ))

■入院や通院が必要(重篤な外傷、脱水、栄養失調、衰弱等による検査、治療)

□高齢者本人・養護者が保護を求めている

■暴力や脅しが日常的に行われている

■今後重大な結果が生じる、繰り返されるおそれが高い状態

■虐待につながる家庭状況・リスク要因がある

□その他(                                                       )

措置の適用 ■検討中 ( 理由 : まずは、医療につなぐことを最優先するが、治療後すぐに在宅に戻る可能性もあるため              保護・分離が必要になれば特別養護老人ホームへの措置についても考える。)

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

*本シートは P106 にありますのでご活用ください。

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本事例に当てはめた対応と解説

出席者

長男に入院が必要と理解させる

日常生活に必要なサービスの導入を図る

具体的な役割分担

何を・どのように 支援機関・担当者等 期限

医療関係者が「病院に行かねばならないのでご協力ください。」と指示的に関わる

1週間後

対象 課題 目標

1痛みを訴えている右大腿部の治療

適切な治療を受ける

高齢者

(母親

4

3

①意思決定は長男の 顔色を見ながらなされ る②長男の前で助けてと  言えない

長男がいない場所で落ち着いて意思決定できる環境を整える

翌日

①母親に受診の必要性を訴え、 病院に連れていく②病院への搬送手段を確保する

市高齢者担当課包括:保健師

市高齢者担当課包括:社会福祉士病院の相談員

長男のいない場所で母親と話ができるように調整

5長男の不安の要因について確認し、それに対するサポート体制をつくる

市障害者担当課障害者相談支援センター

1週間後

1市高齢者担当課包括:保健師

翌日

2受診を妨害する恐れがある

長男自身が「母親は病院に行くべきなのだ」と悟る

総合的な

支援方針

1週間後精神科への定期受診未受診理由を確認し、受診に向けた支援を行う

市障害者担当課障害者相談支援センター

養護者

(長男

6精神科受診ができていない

母親の治療の必要性を理解する

医学的な観点から医療の必要性、緊急性を伝える。

緊急性の判断と支援方針

翌日

2 身の安全の確保 病院受診、入院病院の相談員がいれば連携し、入院の協力をあおぐ(入院の調整)

市高齢者担当課包括:社会福祉士病院医師病院の相談員

翌日精神的に不安定

母親自身が保護を求めることができるように促す

母親が今後の生活について自らの希望を語る

①入院の合意、その後の行き場 の確保②必要に応じて措置入所の準備③在宅に戻る場合は在宅サービ スの段取り調整

市高齢者担当課包括:社会福祉士介護支援専門員病院の相談員

翌日

見守り

市障害者担当課障害者相談支援センター

母親の病状より長男自身の生活の不安を優先している

1 母親は右大腿部に痛みを訴えており、歩くことができない状態であるため早急に医療につなぐ必要がある2 母親は治療後すぐの在宅生活は困難と思われるため、必要に応じて保護・分離のため、転院や契約によるショート  ステイ利用、やむを得ない事由による措置についても準備する3 長男の精神的な援助と生活支援の必要がある

計画書作成者 ( 包括:社会福祉士  )会議日時     :     ○年     △月     □日計画作成日   :     ○年     △月     □日計画評価予定日:     ○年     △月    ●日

会議目的

※支援の必要性: ■あり   □なし  □不明

母親に対し「別に病院に行かなくてもいいよね。お母さん。」と言い、母親が病院に行くことを拒む。家事全般が全くできないので、自分の支援もしてほしいと話す。

※話の内容:□ 一貫している ■ 変化する □ 不明

長男の前では、長男の言う通り、病院には行かないと言う。しかし、長男がいないところでは「息子に押されて転んだ。時々そういうことがあって怖い。」と話す。

市高齢者担当課(課長、係長、担当者)包括(社会福祉士、保健師)

養護者の状況

(意見・希望)

高齢者本人の状況

(意見・希望)

治療後、母親をすぐ家に連れて帰ろうとする可能性がある

翌日

翌日市障害者担当課障害者相談支援センター

病院医師病院の相談員

3

4

母親が安全な場所で落ち着いて意思決定できるまで、長男の元に帰さない

今まで家事はほとんど母親がやってきたため長男は全くできない

生活支援

高齢者氏名: 母親 様

高齢者虐待対応支援計画書

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

*本シートはP107にありますのでご活用ください。

支援計画で決定された役割分担に基づき、関係者が具体的にどのように動けばよいのか事前にシュ

ミレーションをしておくことが大切です。例えば,支援方針の 1 つに位置づけられている

「母親を早急に医療につなぐ」ことについて、確認しておきます。

担当者

包括の保健師、社会福祉士、市高齢者担当課

事前準備

① 市高齢者担当課及び包括の保健師が病院の相談員や医師に母親の状況を伝え、入院の調整をする。

② 包括保健師が病院受診時の救急車等の搬送手段を確保する。

③ 病院に搬送する際、母親には包括の社会福祉士と保健師が付き添う。

④ 長男が母親の受診を妨害する場合には、市高齢者担当課及び市障害者担当課が自宅に残り長男を

落ち着かせ、説得する。

訪問当日

① 市高齢者担当課と包括の保健師が母親と長男に病院受診の必要性を伝え、病院に付き添ってもらえるか確認する。また、医療費の支払いについても協力を求める。長男が付き添わない、行かないと言っても医療の必要性を訴え、受診させる。

② 病院に搬送された後、入院の必要性について医師及び相談員から母親(長男)に対し説明してもらう。※どのように説明するのかを、事前に医師・病院の相談員と調整しておくことが重要です。

20

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⑤ コアメンバー会議の決定に基づく対応

市町村と包括のコアメンバー会議後の支援内容

コアメンバー会議開催の翌日、包括の社会福祉士と保健師、市高齢者担当課と市障害者担

当課は、母親に受診の必要性を訴え、病院に連れていくために自宅を訪問しました。

包括の保健師の説明に対し母親は「病院には行きたくない。」と拒みました。長男は精神的

に不安定な様子が見受けられ、家から外に出ようとしない状態でした。そこで、包括の保健

師から長男に母親の症状が医学的に診て受診が必要であることを伝え、救急車を呼び、あら

かじめ打ち合わせておいた病院に母親を搬送しました。

また、市高齢者担当課と市障害者担当課が長男と共に自宅に残りました。

病院で診察を受けた結果、右大腿骨骨折のため約 1 ヶ月間入院することになりました。

翌日より、病院に長男から「早く母親を家に帰せ。」「いつになったら退院できるのか。」と

何度も電話で要求が続きました。

市障害者担当課及び障害者相談支援センターが長男と面談をする等支援を開始し、母親の

病状と入院の必要を説明したところ、長男はしぶしぶ了解しました。同時に長男が困ってい

る家事についても自立支援法の訪問介護員による家事支援を週 2 回導入し始めました。

入院から 1週間後、手術も終わり、母親の状態も安定してきました。

病院の相談員が母親と面談し、今後の生活について意向を確認したところ、母親は「息子

が時々怒るので怖い。息子と一緒にいるとまた怒られるかもしれないので不安・・・でも、

息子は家のことが何もできないから、早く家に帰りたい。」と話し、気持ちの揺れが見られま

した。

病院の相談員と包括の社会福祉士は母親に退院後の行き先として、自宅以外にも施設入所

など選択肢があることを提案しましたが「家に帰ったほうがいいのかなー」と言ったつぶや

きで結論までには至りませんでした。しばらくは、長男との信頼関係を築きつつ状況を見守

り、母親本人の健康状態及び生活能力、そして長男との同居等今後の生活についての意向を

把握していくことになりました。

21

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思うようにできない場合は、どうしたらよいでしょうか?

支援者の説得にも高齢者本人が応じず、予定していた支援が

高齢者本人の生命や身体の安全の確保を最優先します。

○ 高齢者は、養護者が傍にいると、養護者を恐れたり、気遣う感情が働き意思が揺らぎま

す。そのため、本当は高齢者本人も支援を望んでいたとしても、それを拒否することが考

えられます。ただし、その拒否をそのまま受け入れてはなりません。高齢者自らが落ち着

いて冷静に判断できる環境や条件を整えたなかで、何度も本人の意思を確認し、それに合

わせた支援を行っていくことが必要です。

ここで重要なのは高齢者本人の意思よりも、高齢者個人の生命や身体の安全の確保を最優

先することです。したがって、たとえ高齢者の意思が揺らいでいたとしても、コアメンバー

会議で決定した支援計画に基づき必要な支援を行うべきです。

そして、ここで行う支援は個人が責任を負うことのないよう、組織的判断により決定され

たものでなければなりません。

母親は病院への受診勧奨に対し「病院に行きたくない」と拒み続け、そして長男も病院受

診を拒否していました。しかし、コアメンバー会議で判断した緊急対応を行うことが必要で

あるとの決定を受け、その支援計画どおり、病院に母親を救急搬送しました。

つまり、コアメンバー会議という組織で行った判断により、高齢者本人の意思よりも高齢

者個人の生命や身体の安全の確保を優先したことになります。

そして、当然ですが半ば強引に母親を病院に連れていく形になるので、長男からの反発も

ありました。

しかし、支援計画を立てる際、母親も長男も病院受診に対しては拒否するであろうことは

想定内のことであったため、誰がどう説明するかなど、そのことを考慮した対応についても

支援計画には盛り込まれていました。

支援計画に基づき、母親が病院に救急搬送された後も、長男に対するフォローを市高齢者

担当課及び市障害者担当課が行うことで、当面の虐待解消に向けた両者への支援につなげて

いきました。

本事例に当てはめた対応と解説

虐待対応の初動期は、緊急性の判断に基づき、高齢者本人の意思より

も、生命や身体の安全の確保を優先します。保護・分離の対応では、高

齢者の意思が揺れることも多くみられます。

慣れ親しんだ自分の家を離れ、大きく環境が変わることに不安を抱く

のは誰しも同じではないでしょうか。しかし、高齢者の生命や、安心・

安全な暮しを守ることは、何よりも優先されるべきことです。

したがって、支援者は、高齢者の思いを無視するのではなく、その思

いを受け止め、寄り添う形で支援の必要性を伝えていく姿勢が重要です。

それが、初動期以降の対応を円滑に進めることにつながります。

22

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3 初動期以降の対応~安心・安全な暮らしの再構築~

初動期以降の対応とは、個別ケース会議から虐待対応の終結までの流れを指します。

例えていうと「初動期」は救急対応、「初動期以降の対応」は原因を把握し、適切な治療

及びもとの生活に近づける対応となります。初動期以降の対応で重要なことは、関係者が協

力し、虐待解消に向けた高齢者及び養護者の支援を実施することです。

ポイント ・虐待解消に向けた高齢者及び養護者の支援を行う

【支援過程】

①相談・通報の受付

虐待を確実にキャッチし、緊急対応の必要性を予測しながら相談・

通報内容の聞き取りを行う

②相談内容の共有 組織内で検討し、市町村と地域包括支援センターの両者で事実確認

に向けた段取りの調整を行う

③コアメンバー会議に向けた事実確認

通報された情報について高齢者の安全やその状況の確認を行う

初動期以降の対応

~安心・安全な暮らしの再構築~

④コアメンバー会議 市町村がその責任において虐待の有無と緊急性の判断を行い、

その判断に基づいて当面の支援方針(支援計画)を決定する

緊急対応が必要な状況が発生

した場合は、「④コアメンバー

会議」を開催し、緊急対応に

関する支援方針を決定する

⑤コアメンバー会議の決定に基づく対応 当面の支援方針に基づき、期限までに適切に支援を実施し、必要に応じて

市町村はやむを得ない事由による措置等の対応を図る

⑥個別ケース会議、その後の支援 虐待の要因を捉え、高齢者や養護者、地域等それぞれの支援課題に対して関係

機関が関与し、虐待解消、高齢者の権利擁護を目指す支援計画を立て、支援を進める

⑦虐待対応の終結 虐待の現状及び将来の予測のもと、終結ができるか組織決定し、包括的

継続的ケアマネジメントへの移行についても併せて確認する

高齢者虐待防止ネットワークの構築と運用

23

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事例紹介(P5)の続き

初動期以降の対応~安心・安全な暮らしの再構築~

⑥ 個別ケース会議、その後の支援 P25~P31

母親の入院から 10 日後、コアメンバー会議で決定した対応方針の確認を含め個別ケース会議が開催され、退院後の在宅生活の可能性について検討していくという方針を決定し、関係者による支援が開始されました。 入院から 3週間後、長男が母親を病院から無理やり連れて帰ろうとしたため、緊急にコア

メンバー会議を開催し、会議翌日、やむを得ない事由による措置により母親は特別養護老人ホームに入所しました。 その後、関係者で個別ケース会議を重ね、母親と長男は定期的に市役所で面会をするよう

になりました。

⑦ 虐待対応の終結 P32~P33

母親も長男も、それぞれ安定した生活を送ることができており、また、面会場所を施設に切り替えてからも、問題なく面会が行われていました。 それを踏まえ、市高齢者担当課は個別ケース会議を開催し、措置から契約入所に切り替え、

虐待対応を終結することを決定しました。

24

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⑥ 個別ケース会議、その後の支援

関係者を集めた個別ケース会議

入院から 10 日後、市高齢者担当課は関係者を集め個別ケース会議を開催しました。

出席者は、市高齢者担当課(課長、係長、担当者)、包括(社会福祉士、保健師)、市障害者担当

課、障害者相談支援センター、担当医、病院の相談員の 9 名です。

母親の状態も安定し、長男も市障害者担当課及び障害者相談支援センターの支援により落ち着き

を取り戻しつつありました。また、母親は、迷っているけれども、長男のために家に帰りたいと話し、長

男も在宅で母親と一緒に生活することを望んでいることを踏まえ、退院後の在宅生活の可能性につ

いて検討するという方針決定がされました。ただし、母親が長男との在宅生活に不安を抱いているこ

とは否めないため、退院後の施設入所等も視野に入れながら、慎重に支援を進めていくことが関係

者間で確認されました。

個別ケース会議とは

コアメンバー会議で決められた支援の実施後、それを評価し、新たに集まってきた情報を踏

まえ、虐待対応の終結に向けて、虐待の要因解消を行っていくための支援方針(支援内容と役

割分担)を決定する会議です。市町村が中心となり開催します。

※この会議は、コアメンバー会議で虐待と判断されたケースに対する支援方針を検討するので

あり、虐待の有無について再度議論する場ではありません。

個別ケース会議のメンバー

コアメンバーに加え、虐待の事例に応じて、必要な支援が提供できる各機関等の実務担当者

(事例対応の際に協力を得たい保健医療福祉関係者)や、アドバイスを求める専門職等(精神

科医や、弁護士、虐待対応専門職チーム等)を集めます。

※虐待の解消に向けた支援は、コアメンバーのみで行うことは不可能です。

虐待の要因は複雑に絡み合っていることが多いため、必要な支援のできる関係機関との連携協力

が必要です。

個別ケース会議で支援計画を立てる際に、最も重要な視点は何でしょうか?

個別ケース会議では、高齢者及び養護者双方に対し、虐待対応の終結に向

けて必要な支援計画を立案します。 考 え 方

コアメンバー会議では緊急性を判断するために客観的情報を重視した支援計画を立案しま

す。それに対し、個別ケース会議では、客観的情報に加え、高齢者や養護者が今の状況をどの

ように捉えているのか、また、これからどうしたいのかとういう意向や、家族の歴史及び現在

の家族関係といった情報を収集してアセスメントを行い、高齢者と養護者に対し、虐待解消に

向けて必要な生活全般に渡った支援計画を立案していきます。

25

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○高齢者が本人らしく生きる権利を尊重し、安定した生活の確保を目指します。

高齢者本人が、今後どのような生活やどのような家族関係を望んでいるのかという意思

を尊重しながら、高齢者が本人らしく生きる権利と安定した生活の確保を目指した支援

計画を作成します。

○虐待の再発防止のために必要な養護者への支援も計画に組み込みます。

養護者の介護力や経済、医療状況、高齢者との関係等を再度把握し、高齢者の権利擁護・

虐待解消に向け、養護者に対し、どのような支援が必要かどうかを検討します。そして、

再び家族として生活していくことができるのか等の可能性について分析、課題抽出し、そ

の対応策を支援計画に組み込みます。

AA 26

個別ケース会議で支援計画を立てる際に最も重要な視点は、 「高齢者が本人らしく生きる権利を尊重し、安定した生活の 確保、そして養護者からの虐待の再発防止」を目指すことです。

本事例に当てはめた対応と解説

今回の個別ケース会議で作成した高齢者虐待対応支援計画です。

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

*本シートは P107 にありますのでご活用ください。

出席者

具体的な役割分担

何を・どのように 支援機関・担当者等 期限対象 課題 目標

1自宅に戻るかどうかの意向が揺れている

自らの希望する生活を落ち着いて考えられ、周りに伝えられる

3退院後の安定した生活の確保

①母親の不安や今後の 生活への希望を確認す る②在宅生活となる場合に は、介護サービス等を 調整する

1週間後

安心できる場所で、落ち着いて判断できる環境を整える

包括:社会福祉士病院の相談員

包括:社会福祉士介護支援専門員

母親の希望を尊重したケアプランを検討する

3

①日常生活に必要なサービ スの利用を継続する②自分で家事ができるよう にサポートしていく

市障害者担当課障害者相談支援センター

1週間後

1市障害者担当課障害者相談支援センター

1ヶ月後

2 精神的に不安定長男の思いや悩みの把握、受け止め

継続的に相談支援を行う

総合的な

支援方針

養護者

(長男

4

精神科への定期受診 継続的な病院受診支援を行う

高齢者

(

母親

4

在宅生活の可能性について

2週間後

2ADLの低下に伴い在宅生活ができるか不安

ADLや生活能力の点から、在宅生活か、施設等か、最もふさわしい生活場所を母親とともに決めていく

①入院中に生活能力の判 断をする②医師や看護師に回復の 可能性を確認してもらう③その結果を逐次、母親に 伝える

包括:保健師病院の相談員

1カ月後家事全般ができない

1ヶ月後

長男の生活支援を主眼としたケアプランの構築

市障害者担当課障害者相談支援センター

精神科受診ができていない

長男の生活も落ち着きを取り戻しつつあり、母親は、迷ってはいるが長男のために、家に帰りたいと話していることや、長男も母親と在宅で一緒に生活することを望んでいることを踏まえ、退院後の在宅生活の可能性について検討していく。ただし、母親が長男との在宅生活に不安を抱いていることは否めないため、退院後の施設入所等も視野に入れながら、慎重に支援を進めていく。

計画書作成者 ( 包括:社会福祉士  )会議日時     :     ○年     △月     ●日計画作成日   :     ○年     △月     ●日計画評価予定日:     ○年     △月    △日

会議目的

※支援の必要性: ■あり   □なし  □不明

生活は、訪問介護員の協力でできているが、早く母親が自宅に帰ってきてほしい

※話の内容:□ 一貫している ■ 変化する □ 不明

息子が時々怒るので怖い、息子と一緒にいるとまた怒られるかもしれないので不安・・・でも、息子は家のことを何もできないから、早く家に帰りたい

市高齢者担当課(課長、係長、担当者)、包括(社会福祉士、保健師)、市障害者担当課、障害者相談支援センター、 病院(医師、相談員)、介護支援専門員

養護者の状況

(意見・希望)

高齢者本人の状況

(意見・希望)

高齢者氏名: 母親 様

高齢者虐待対応支援計画書

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緊急対応(やむを得ない事由による措置)の実施

入院 3週間後、日が経つにつれ、母親は「ここの生活はいい、息子と 2人きりになることはやはり不安、本当は息子と離れて暮らしたい。」と言うようになりました。 その矢先、長男がいきなり病院に押しかけ、嫌がる母親を無理やりベッドから引きずり降ろそ

うとした事件が発生しました。止めに入った看護師に対し、長男は「入院してからもう 1か月も経つ。今日こそ母親を連れて帰る。」と訴え、激高しました。 長男は、母親がなかなか家に戻ってこないことに苛立ち、不満が積り、その結果今回の行動に

出てしまったようでした。 主治医から長男に病状の説明をし、何とかその場を収めることができました。 市高齢者担当課は、このままでは母親の身の安全の確保が十分できないと判断し、緊急にコア

メンバー会議を開催しました。その結果、次の理由により、やむを得ない事由による措置を行うことが決定されました。

措置を行うにあたって、母親本人と長男それぞれに対し、市高齢者担当課が責任を持って次のように説明をしました。 そして、支援計画に基づき、特別養護老人ホームへ入所措置を行いました。

措置理由

① 母親は、長男からの暴力により、同居に対して、不安を抱いている。

② 長男は、現在も精神的に不安定。

③ 長男は、母親に対して依存的で、2人だけの生活に戻せば、心理的、身体的虐待が再発することが

予測される。

④ 長男が、今後も母親を取り戻す行動にいつ出てくるかわからない。その際には、本人、関係者に

も危害を及ぼす可能性もあることから、面会制限も必要となる。

母親に対する説明

「息子さんとの生活も大切ですが、今は、安全な生活環境の下、自らの病気の治療や健康状態の回復

を優先することが大切な時期です。今は施設で生活していくことが大切ですが、ずっとということで

はありません。あなたの健康状態の回復や息子さんの生活状況が落ち着けば、その時点でもう一度、

自宅に戻り息子さんとの生活をやり直せるのか、それとも、施設での生活を継続していくのか、それ

以外の方法も含めて一緒に考えていきます。」と伝えました。

長男に対する説明

「このままの生活を続けていくことは、お母さんと、あなたの両者の生活が崩壊してしまう可能性が

高く、特に高齢のお母さんには健康や生活面にも大きな影響があるので、一時的にも保護・分離をす

ることが行政機関として、 善の方法と判断しました。これを、お母さんとの生活を見つめなおして

もらう機会として考えており、当面はお互いの生活に触れないようにしたいので、お母さんの居場所

に関しては教えることはできません。

しかし、お母さんの状況についてはお伝えする機会を定期的に持つので安心して、あなたの健康状

態や生活を立て直してください。

あなたの生活が落ち着き、お母さんの健康状態が回復し、お互いに以前のように同居を希望するよ

うであれば、面会制限や措置解除に向け、市役所等での面会の機会を設けることを考えています。お

母さんには介護サービス等の計画的な活用を行い、安定した在宅生活ができるよう一緒に考え、取り

組んでいきます。」と伝えました。

キーワード 面会制限

虐待を受けた高齢者が養護者と会うことで、更に精神的苦痛などのダメージを受けることが予測されたり、

養護者が高齢者と接触をして高齢者を自宅に連れ戻すことで虐待が再開される可能性がある場合、それを

避けるためのやむを得ない事由による措置の付随的な処分です。(P67 参照)

キーワード

27

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本事例に当てはめた対応と解説

今回のコアメンバー会議の虐待の有無・緊急性の判断の結果です。

会議日時

シート作成日

 :    ○年   △月   ■日

 :    ○年   △月   ■日

会議の目的 緊急性の判断と支援方針市高齢者担当課(課長、係長、担当者)包括(社会福祉士、保健師)

虐待事実の判断

緊急性の判断

■緊急保護の検討

□防止のための保護検討

□事実確認を継続

緊急性の判断根拠

□なし: ( 理由 :                    )

□検討中 ( 理由 :                                             )

■あり    □訪問介護  □通所介護  □短期入所生活介護 □認知症対応型共同生活介護        □小規模多機能型居宅介護  □養護老人ホーム  ■特別養護老人ホーム

□保護の検討、集中的援助

□継続的、総合的援助

シート作成者( 包括:社会福祉士 )

高齢者氏名 : 母親                様

虐待の有無・緊急性の判断シート

出席者

虐待の事実 :□なし■あり ( 身体的 ・ 心理的 ・ 放棄放任 ・ 経済的 ・ 性的 ・その他(                 ))

□入院や通院が必要(重篤な外傷、脱水、栄養失調、衰弱等による検査、治療)

■高齢者本人・養護者が保護を求めている

□暴力や脅しが日常的に行われている

■今後重大な結果が生じる、繰り返されるおそれが高い状態

■虐待につながる家庭状況・リスク要因がある

□その他(                                                       )

措置の適用

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

*本シートは P106 にありますのでご活用ください。

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Page 27: Ⅲ 高齢者虐待対応の具体的な事例 · 1 高齢者虐待対応を具体的な事例から考える . 高齢者虐待対応の具体的な事例を通して、市町村、地域包括支援センター等の役割や業務

出席者

計画書作成者 ( 包括:社会福祉士  )会議日時     :     ○年     △月     ■日計画作成日   :     ○年     △月     ■日計画評価予定日:     ○年     △月    ▲日

1 母親は、長男からの暴力により、在宅に戻ることに不安を抱いているにもかかわらず、長男がいつまた連れ戻  そうとするのかわからないので、早急にやむを得ない事由による措置の準備をする2 長男が母親の年金・貯金を管理しているため、措置費の自己負担分が支払われない場合には、今後、成年後  見制度の市町村長申立てについても検討していく3 長男も精神的に不安定な状態にあるため、長男に対しても生活、医療、精神面への支援が必要である

会議目的

※支援の必要性: ■あり   □なし  □不明

母親を連れて帰りたい

※話の内容:□ 一貫している ■ 変化する □ 不明

病院の生活はいい、息子と2人きりになることはやはり不安、本当は息子と離れて暮らしたい

市高齢者担当課(課長、係長、担当者)包括(社会福祉士、保健師)

養護者の状況

(意見・希望)

高齢者本人の状況

(意見・希望)

1カ月後精神科受診ができていない

1カ月後

精神科への定期受診

市障害者担当課障害者相談支援センター

入所先から母親を連れて帰る可能性がある

高齢者

(母親

4

緊急性の判断と支援方針

翌日

2精神的な動揺やストレスを抱えている

精神的に安定した生活を送ることができる

相談支援を通して今後の生活について話し合う

市高齢者担当課包括:社会福祉士

総合的な

支援方針

1週間後見守り、精神的な支援①継続的に相談・支援を行う②より専門的に相談に乗れ る機関につなぐ

市障害者担当課障害者相談支援センター保健所

養護者

(長男

4 精神的に不安定

母親を、しばらくは別々に生活する必要があることを理解してもらう

措置と面会制限について長男に説明する

市高齢者担当課 翌日

2 家事全般ができない 生活支援

①日常生活に必要なサービ スの利用を継続する②自分で家事ができるよ う にサポートを継続する

1週間後

①保護・分離、面会制限につ いて母親に説明する②施設の確保、措置手続き を実施する

市高齢者担当課

3 継続的な病院受診支援を行う市障害者担当課障害者相談支援センター

1

1 身の安全の確保

退院後そのまま緊急一時保護又はやむを得ない事由による措置を実施し、同時に面会制限を行う

3

具体的な役割分担

何を・どのように 支援機関・担当者等 期限対象 課題 目標

高齢者氏名: 母親 様

高齢者虐待対応支援計画書

今回のコアメンバー会議で作成した高齢者虐待対応支援計画です。

本事例に当てはめた対応と解説

*本シートは P107 にありますのでご活用ください。

社団法人日本社会福祉士会「高齢者虐待対応ソーシャルワークモデル実践ガイド」を参考に作成

29

Page 28: Ⅲ 高齢者虐待対応の具体的な事例 · 1 高齢者虐待対応を具体的な事例から考える . 高齢者虐待対応の具体的な事例を通して、市町村、地域包括支援センター等の役割や業務

措置後の支援

3 週間が経過し、長男は障害者相談支援センターに自分の思いを話すことができるようになり、

精神科受診も可能となりました。

また、長男は、自立支援法の訪問介護員による週 2 回の家事支援にも慣れ、自宅での生活も安

定してきました。母親の措置費の自己負担については、長男から定期的な支払いが行われていま

す。母親のことは今も気になっているようで、「一度どのような生活をしているのか、会って話し

てみたい。」と口にしますが、表情は落ち着いており、強く要求することはありませんでした。

また、長男は「今は、母親と自宅で一緒に暮らすためにも、自分の身の回りのことは自分でで

きなければならない。」とも話すようになりました。

母親も精神的に落ち着き、身の回りのことは指示があればできるようになりました。そして、

時々「息子はどうしているか、一度会いたい。」と話すようになりました。

それぞれの状態変化を踏まえ、市高齢者担当課は、再度個別ケース会議を開催し、現在、母親

と長男は、2週間に一度、市役所で時間を決め面会を行っています。

この後、どのように支援を行っていけばよいのでしょうか?

保護したことで虐待対応が終結するわけではありません。

やむを得ない事由による措置は、あくまでも高齢者の生命や身体

の安全及び財産の確保を行うための一時的なものであり、 終的

なゴールではないのです。

考え方 1

○家族関係の修復に向けて継続的な支援が必要です。

やむを得ない事由による措置は、高齢者と養護者の間に強制的に距離を置く方法である

ため、養護者等家族の理解や協力が得られず、家族を取り巻く環境は大きく変化します。

家族関係を再度見直し、関係調整や修復に向けた支援を本人、養護者それぞれの支援チー

ムで計画的に行っていく必要があります。

○受け入れる施設も大きなリスクを抱えています。

受け入れた施設は、養護者が暴力や脅迫等により、保護した高齢者を取り戻そうとする

場合など、施設で生活するすべての人の安全が脅かされることになるのではないかと危惧

しています。施設に入所したことにより支援を終了し、施設にすべての支援を任せてしま

うようでは、その関係は悪化し、次回から協力を得られないことにもなりかねません。

※高齢者が退所に至るまで、措置を決定した市町村は責任が継続しているということを認

識する必要があります。

高齢者も養護者も自立した個人として生きていけるように、それ

ぞれの支援者が同じ方向性を目指した支援を行っていくことが

重要です。

考え方2

支援者は、虐待がみられた家族等が、今後どのような生活やどのような家族関係を望んで

いるかという意思を丁寧に聞き取り、その家族にとって もよい生活の形を模索していきま

す。支援者間では、支援方針・支援計画を共有し、家族関係の再構築について同じ方向性を

目指して支援を行っていくことが重要です。

30

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措置による保護・分離後、主に次の 4 点に留意した支援が必要です。

① 高齢者に対しては、保護している間の精神的なケアとともに、健康状態、生活能力を

把握し措置の解消に向けた対応が必要です。

・急な環境変化や状況変化に対する高齢者の精神的な動揺やストレスは大変大きなもの

であり、身体的精神的ケアを総合的に行なっていかなければなりません。また、今後、

高齢者がどのように生活を再建させていくのか、本人の生活能力の見定めを行うこと

も必要です。

② 養護者に対しても必要に応じて精神的な支援や生活支援を行うことが必要です。

・虐待事例には共依存のケースも多く、養護者にも専門的な精神的ケアが必要です。

③ 認知症等により判断能力が低下している高齢者にも、尊厳が守られるような支援が必

要です。

・高齢者本人の意思を常に確認しながら、その意思を代弁するなどの権利擁護の視点を

持った支援を行うことが重要です。また、高齢者が財産管理できない場合や、契約に

よるサービス利用ができない場合には、必要に応じて、成年後見制度の申立を行うこ

とも検討する必要があります。

④ 養護者、家族との再統合の可能性について判断していきます。

・養護者や家族の生活状況が改善しているのか、どのような方法であれば高齢者が自宅

や自宅以外で生活が可能かなどを検討します。

キーワード キーワード

自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存している状態。

ある人間関係に囚われ逃れられない状態。(P34 参照)

「自分を犠牲にして誰かのために尽くす」「お互いに傷つけつつも離れられない」というような、

共依存

本事例に当てはめた対応と解説

本事例でも、母親が病院へ入院することにより、一時的な保護・分離が行われた後、施設

入所に至っていますが、このような措置が 終目的とは考えられてはいません。母親の精神

的なケアをしながら、長男の自立に向けた支援も同時に進められ、双方の支援が継続して行

われています。このような取り組みにより、定期的な面会も行えるようになり、それぞれの

生活が落ち着きつつあります。

今後、母親本人がどのような生活を望むのかにより、その後の生活も変化していきますが、

そのために支援の早い段階から将来を予測し、支援者を増やしていく(地域の見守りネット

ワークづくり)の取り組みも必要です。

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終結に向けて

長男は、市役所で母親と面接を重ねるうち、「お母さんがいなくても、簡単な料理と洗濯は

自分できるようになった。」と自慢げに話すようになってきました。

また、長男は訪問介護員による家事支援にも慣れ、困ったことがあれば、すぐに障害者相談

支援センターに相談するようになり、長男への見守り体制が確立されてきました。

一方、母親は、長男の話に対し、「息子とは離れてよかったと思う。でも、もっと自由に会

いたい・・・」と離れて暮らす長男の成長に喜びを感じつつも、寂しさを感じているようでし

た。

この状況を踏まえ、面会場所を施設に切り替え、面会を重ねてきましたが、長男は落ち着い

た様子で施設とのトラブルも見られませんでした。そこで、市高齢者担当課と包括は、個別ケ

ース会議を開催し、虐待対応は終結とすることを決定しました。同時に、施設の了解を得て、

措置解除を行い介護保険による入所契約に切り替えました。

引き続き、包括による母親への定期的な面談や、長男への障害者相談支援センターの支援に

よる見守りは行われています。

⑦ 虐待対応の終結

虐待対応の終結は、どのように判断したらよいのでしょうか?

考 え 方 終結とは、高齢者虐待が解消し高齢者の生活が安定

した状態と考えます。

○虐待の解消だけをもって終結と判断してはいけません。

虐待の解消のみが目的であるとすれば、高齢者の保護・分離をもって虐待対応が終結し

たことになってしまいます。重要なのは、保護・分離した後、再び虐待を受けないような

安全安心な生活場所を確保することです。家に戻って虐待が再発するようでは、適切な虐

待対応とは言えません。虐待再発のおそれはないか、また新たな権利侵害の発生やそのお

それがないかという点についても、よく検討しておく必要があります。

定期的に虐待事例のモニタリングを行い、支援計画の目標

が達成された場合に、虐待対応の終結と判断します。

○虐待事例への支援は、あくまでも虐待解消のための介入であり、虐待が解消し、生活が

安定した時点で終結すべきものです。

したがって、モニタリングにおいて支援計画の目標が達成されたかどうかを確認し、

達成が確認された場合、市町村の確認を得て支援を終結します。ただし、虐待が再発した

場合には、再度、虐待ケースとしての支援を開始することになります。

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虐待対応の終結のながれ

・虐待対応の継続

・状態の安定についての確認

・支援目標達成の確認

・通常の見守り等の役割分担

・定期的な面接等による確認 ・支援計画の達成度評価 ・支援内容の見直し

支援計画に基づく支援の実施

虐待対応の終結

高齢者虐待防止ネットワークの構築と運用

支援計画のモニタリング・評価

○虐待対応の終結と判断できるのは、次のような状態が考えられます。

保護・分離を行った場合

・介護サービスや必要な社会資源を活用し、虐待の要因が解消されることで、安定した

在宅生活を送るための体制が整い、高齢者が養護者のいる元の家庭に戻ることができ

た状態

・定期的な面会も問題なく行われており、高齢者本人と養護者の同意のもと、契約によ

る入所に切り替えることができた状態

在宅での継続的な支援を行ってきた場合

・介護サービスや必要な社会資源を活用し、虐待の要因が解消されることで、安定した

在宅生活が確保できた状態

○虐待対応の終結を判断しても、必要があれば包括的・継続的ケアマネジメント支援に移行

して関わる必要があります。

虐待対応が終結してもすべてが終了ではありません。重層的な生活課題があるケースと

判断した場合には、包括として、介護支援専門員や介護サービス事業者、民生委員等と連携

し、その高齢者が地域で生活している限り関わりは続きます。すなわち、被虐待者としてで

はなく、地域で生活する一人の高齢者への支援という形での関わりとなります。

本事例に当てはめた対応と解説

施設での定期的な面会が問題なく行われており、母親は、介護保険による入所契約に切り

替えることが可能な状態になりました。また、母親と長男はそれぞれにストレスのない新た

な生活をスタートさせています。

以上の理由により、『高齢者虐待が解消し高齢者の生活が安定した状態』であると考えら

れ、虐待の終結の判断がなされました。

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この家族には、「共依存」の関係が見られます。

共依存の場合、養護者はともかく、高齢者も支援を拒み、養護者をかばいます。養護

者も、高齢者も支援を求めていません。

そうなると、支援者には迷いが生じます。

…長男と母親の仲がよい、そもそもこれのどこがいけないのでしょうか。

福祉の支援で重要な原則の一つが「自己決定」です。…母親が長男のところに帰る、と言

っているのに、なぜ、そうしないよう説得しなければならないのか、と思えてきませんか。

(多くの場合、ここで迷いが生じ、「息子のところに帰したらどうか」「見守ろう」という

判断が出てきます。…この判断、いったい、誰の立場にたっているのでしょうか。)

まず、支援者として高齢者が暴力を受け続けることを容認してはいけません。

暴力を受け続ける結果を選択する人に、「それはやめるべきだ」と言うのは行うべき支援

です。このような場合、支援の仕方は指示的になります。

「あなたが息子さんから暴力を振るわれるのをそのまま見過ごすことはできません。」

そして、「あなたが今、息子さんから離れることで、あなた自身が安心した場所で身体を休

めることができるでしょう。そうすることによって、あなたの息子さんも変わる可能性が

出てくるのです。」ときっぱり母親に言いましょう。

そもそも、長男はなぜ支援を拒むことができるのでしょうか。それは、いつも傍に自分

を助けてくれる母親がいるからです。長男は 40 代になった今も、母親を頼りにしていま

す。母親が傍にいる限り、面倒を看てくれる限り、長男に変わらなければならない理由は

ありません。

長男を変えようと思ったら、まず母親から離すこと、そして長男が困って、支援者(長

男の自立のために必要な支援を提供する役割を担う)を頼るように促していくことが必

要です。

ただし、これには母親にも痛みを伴います。それは長男に必要とされる甘い感覚を失う

からです。そして、母親も不安になるでしょう。そのため、母親に対し、長男と離れて暮

らす生活が心地よいものであること、そして母親に「このままだと息子は一生何も変わら

ないままです。」と常に語っていくことが求められます。

この先、長男側に立って支援する人、母親側に立って支援する人をきちんと分け、それ

ぞれが関わる目的と役割を明確にし、連携をとって支援を進めていくことが必要となり

ます。

コ ラ ム 『共依存』の家族への支援について

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近年、児童虐待や高齢者虐待、独居高齢者の孤独死などの事

件が報道され、住民の生活と健康を守る地方行政がこれらの事

件とどう関わっていたか、公文書であるケース記録などを開示

するよう求められるようになってきました。

高齢者虐待対応は、養護者や虐待対応に疑問を抱いた他の親

族、関係者から情報開示請求や、対応の正当性についての訴訟を起こされる可能性の高

い業務です。

特に、市町村は、高齢者虐待対応の責任主体であることを自覚し、虐待対応に関わる

支援者誰もがその当事者となる可能性を秘めていることを認識する必要があります。

たとえ、あなたが適切な判断のもと、責任ある対応をしたのだとしても、結果として、

予期せぬ事態に見舞われてしまった場合には、あなたを守ってくれるのが、記録です。

記録は、行政対応の適正実施を証明する重要な証拠となる可能性があります。

また、何も記録が残されていなければ、行政として組織として、何もして

いないと判断されてしまう可能性もあります。

つまり、記録を残すということは、組織としての危機管理に他ならない

のです。

しかし、どんなものでも残せばいいというものではありません。

次に示すことを踏まえ、相談受付から虐待の終結まで一貫した記録を残すことのできる

共通の様式(帳票等)をコアメンバー間で整備しましょう。

参考:『こう書けばわかる!保健師記録』(著者)長江弘子/柳沢尚代

コ ラ ム

①事実を客観的に書くこと。主観的な考えや解釈は書かない。 ②事実と支援行為、その結果に一貫性を持たせる。

・どのような判断のもと、いつ、誰が、どこで、誰に、どのような支援を行ったのか ③記録の作成者、作成日を必ず残す。

※このようなことを意識することで記録は、公的機関としての法的根拠と公平性に基づ

いたサービス提供など、これらの経緯や要件を証明し、行政措置や緊急介入、調停や

裁判の際の証拠文書となり得ます。

これがあなたを守る記録作成のポイント!

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