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広島県立肢体不自由特別支援学校 自立活動実践事例集 第3版 平成 28 年3月 広島特別支援学校 自立活動部 福山特別支援学校 教育研究部 西条特別支援学校 自立活動部

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広島県立肢体不自由特別支援学校

自立活動実践事例集

第3版

平成 28 年3月

広島特別支援学校 自立活動部

福山特別支援学校 教育研究部

西条特別支援学校 自立活動部

はじめに

平成27年8月24日(月)に県立リハビリテーションセンターを会場として,広島県内特別支援学校の肢体不

自由教育を推進している教職員を対象とした,第3回となる自立活動実践報告研究会を開催しました。その目

的は,広島特別支援学校,西条特別支援学校,福山特別支援学校等で取り組んでいる自立活動について,

各校の具体的な実践を共有し,専門性を向上することで,広島県全域における特別支援教育の充実を図るこ

とです。

当日は,「自立活動の指導を究める~広島モデルを全国へ~」というテーマで広島大学 教育学研究科

特別支援教育学講座 船橋篤彦様に御講話いただきました。その後3校から各々2例ずつ実践報告があり,

それをもとに熱心な研究協議が展開されました。今年度からの新たな取組である3校学校企画では,3校がそ

れぞれ2ブースずつ設置し,各校の研究や授業実践,教材等について発表しました。その発表を通し,各校

の取組等について活発な意見交流を行いました。その後,広島県教育委員会特別支援教育課の下山指導

主事様から貴重な指導や助言をしていただき,非常に有意義な研究会となりました。

いうまでもなく,肢体不自由特別支援学校においては,特に児童生徒の障害の重度・重複・多様化に対応

した魅力ある教育内容の創造は緊急の課題です。児童生徒の学習時の姿勢や認知の特性等に応じて,効

果的な学習を進めることができるように指導内容の工夫をすることや,意思の表出や事物の理解が困難な児

童生徒に対して適切な補助用具や手段等を工夫して,指導の効果を高めることが非常に重要です。

この度発刊いたしました3校合同による事例集第3版は,昨年度の第2版に引き続き,新たな事例を 32 例

紹介しています。実践報告会で発表された6例の他,これまで各校で取り組まれた 26 例を追加して編集した

ものです。取組内容も様々で,取組が半ばという事例もございますが,各校における自立活動の発展深化に

少しでも貢献できれば幸いです。

今後も,更に充実した研究や実践を進めていく所存です。皆様から忌憚のない御意見や御指導を賜ります

ようお願いいたします。

平成 28年3月

広島県立福山特別支援学校

校 長 我 妻 享

目 次 第1章 自立活動 実践事例 1

1 覚醒して勉強しよう!~「覚醒リズムの安定」・「刺激の受容」・「姿勢」の3つの視点から~

2 たくさん触れて,「なんだろう?」の気持ちを感じよう!

3 手の動きに意識を向けよう

4 好きな活動を期待しよう

5 めざせ!メインキャスター

6 身体を支えて座ってみよう

7 いろいろな姿勢をとろう~教師との関わりを通して~

8 手の平でいろいろな物を触ろう

9 一緒に遊ぼう

10 栄養をしっかり摂ろう

11 いっぱい動きたい(立位・歩行)をサポート

12 いろいろな人と話そう!

13 手で触って遊ぼう

14 何をするのか分かったよ!

15 ボディイメージをもとう

16 手を使って遊ぼう

17 抜いてみよう! 入れてみよう!

18 できることを増やし,認められる学校生活

19 聞いてお願いしよう

20 座ってリラックスしよう

21 やりたいことを伝えよう

22 掴んでみよう

23 伝えてみよう

24 気持ちを伝えよう

25 言葉を聞いて,表情で応じよう!

26 良い姿勢を意識して生活しよう

27 いろいろな人にプレゼントしよう

28 なにかあるかな?手で探索しよう

29 身体のことを把握しよう

30 演奏できる部分を増やそう

31 声を出して応えよう

32 右半身を意識しよう

33 見よう,手を伸ばそう,つまんで入れよう ~野菜の収穫を通して~

第2章 自立活動実践報告研究会 報告 68

実践報告研究会当日のポスター 69

平成 27年度 3校合同 自立活動実践報告研究会 次第 70

当日の概要 71

第3章 参考資料 86

自立活動実践の記入様式(平成 27年度版) 87

1

中学部実践例 18 できることを増やし,認められる学校生活 【広島 中1】

19 聞いてお願いしよう 【福山 中1】

20 座ってリラックスしよう 【福山 中2】

21 やりたいことを伝えよう 【広島 中2】

22 掴んでみよう 【福山 中3】

23 伝えてみよう 【福山 中3】

高等部実践例 24 気持ちを伝えよう 【福山 高1】

25 言葉を聞いて,表情で応じよう! 【福山 高1】

26 良い姿勢を意識して生活しよう 【西条 高1】

27 いろいろな人にプレゼントしよう 【福山 高2】

28 なにかあるかな?手で探索しよう 【福山 高2】

29 身体のことを把握しよう 【西条 高2】

30 演奏できる部分を増やそう 【西条 高2】

31 声を出して応えよう 【福山 高2】

32 右半身を意識しよう 【広島 高2】

33 見よう,手を伸ばそう,つまんで入れよう ~野菜の収穫を通して~ 【広島 高3】

小学部実践例 1 覚醒して勉強しよう!~「覚醒リズムの安定」・「刺激の受容」・「姿勢」の3つの視点から~ 【福山 小1】

2 たくさん触れて,「なんだろう?」の気持ちを感じよう! 【福山 小1】

3 手の動きに意識を向けよう 【福山 小1】

4 好きな活動を期待しよう 【福山 小1】

5 めざせ!メインキャスター 【福山 小1】

6 身体を支えて座ってみよう 【西条 小2】

7 いろいろな姿勢をとろう~教師との関わりを通して~ 【西条 小2】

8 手の平でいろいろな物を触ろう 【福山 小2】

9 一緒に遊ぼう 【西条 小2】

10 栄養をしっかり摂ろう 【福山 小3】

11 いっぱい動きたい(立位・歩行)をサポート 【西条 小3】

12 いろいろな人と話そう! 【福山 小4】

13 手で触って遊ぼう 【福山 小5】

14 何をするのか分かったよ! 【西条 小5】

15 ボディーイメージをもとう 【福山 小6】

16 手を使って遊ぼう 【福山 小6】

17 抜いてみよう! 入れてみよう! 【広島 小6】

ここでは広島県内の肢体不自由特別支援学校で取り組まれてきた自立活動の実

践を学部別に区分し掲載しています。

※太字・罫線は平成 27年度自立活動実践報告研究会にて各校より報告された実践例です。

第1章 自立活動 実践事例

2

実 践 名 覚醒して勉強しよう!

~「覚醒リズムの安定」・「刺激の受容」・「姿勢」の3つの視点から~

小学部1年 (キーワード) 中途障害 知的障害 視覚障害(光覚) 外界への気付き 姿勢保持

児童生徒の状況

・1日の覚醒が安定しておらず,11:00すぎまで寝ていることが多い。学校で安定して覚醒が

続く時間帯は 14:00~14:30が多く,それ以外の時間は覚醒が不安定である。(健)

・1日多いときは 10回以上,時間は 30秒~10分以上続く発作がある。発作により覚醒が低

くなることも多い。(健)

・声への好反応等はなく,特定の教員を意識できている様子はほとんど見られない。(人)

・低緊張で首は未定頸。仰臥位,側臥位,腹臥位(うつ伏せ)が可能である。側臥位の時寝

返りを打ち,うつ伏せになってしまうことがあったが自分で起きることはできない。教員と座位

を一緒に行うことができる。(身)

・視覚は色覚程度で,視覚の活用は困難である。(環)

・聴覚は音や人の声に対しての反応はするが,注意を持続することが難しい。音の変化は

意識できており,電子音等への反応がよいことがある(環)

・触覚は鈍磨気味であり,氷等刺激の強い刺激に触れると5秒程度経ち手を動かすことがあ

る。(環)

・前庭感覚への刺激(揺さぶり遊びやトランポリンの小さな揺れ等)への反応が良い。(環)

・快・不快は表情や声で表すことができる。抱っこでの揺さぶり遊びが好きで,快の状態にな

り表情の筋肉が緩んだり,笑顔を表出したりする。急な姿勢変換等により不快になり,声や

表情で不快であることを伝えることができる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・覚醒が不安定で,安定して活動できる時間が短い。

・受容,認知できる刺激が,限定的である。(前庭感覚,固有覚,触覚等)

・自力で姿勢変換ができず,同じ姿勢が続くと覚醒が低くなる。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・様々な姿勢を取ったり,他者や外界からの働き掛けを受容したりすることで,活動時に

安定して覚醒することができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本技能に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①学校の覚醒リズムを安定さ

せる。

②刺激を受容し,刺激に対して

注意を向ける。

③姿勢保持力を向上させる。

3

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①学校の覚醒リズムを安定させるため,発作・睡眠時間を表に記録し,客観的に把握。活動時間を設

定する。

②刺激を受容し,意識を向ける。

(1)揺さぶり遊び(前庭感覚への刺激)…刺激を受容しやすい安楽な姿勢で揺さぶる。

快反応が安定して出るまで揺さぶり,笑顔が出たら止まる。そして再度揺さぶる…を繰り返す。きまっ

たフレーズ・声掛けで活動を始め,終わる。

(2)音遊び(聴覚への刺激)…タブレット端末から,単音の音や

反応の良い音を継続して聞かせ,音へ注意できる時間を伸ばす。

(3)感覚遊び(触覚への刺激)→詳細は 11ページの実践報告へ記載。

・刺激を安楽な受容しやすい姿勢(側臥位)で,始めに手に意識を向けるようマッサージをする。

・音がならない触刺激に集中できる教材(とげとげボール,ぐにゃぐにゃのおもちゃ 等)に触れる。

※複数の刺激を一度に受容できないため,活動以外に入力する刺激はできるだけ少なくする。

③姿勢保持力の向上。

肘位・座位・立位台での立位等による抗重力姿勢を取り,頭を挙上させようとする動作を引きだす。

※ベンチ椅子座位・立位等はその姿勢を取ることで様々な健康の促進を図る意図もある。

指導の状況

①てんかん薬の血中濃度が下がる 13:30~14:30 なら安定して覚醒し,刺激が受容できる様子が見ら

れた。その時間に毎日継続した取り組みを設定した。

②活動の活動姿勢,時間を決定し,毎日同じように繰り返し取り組みを継続した。

③立位台での立位を行い,乗る時間を伸ばし,立位台の角度を伸ばす。肘を机

につかせるよう支援することで頭を挙上しようとする動きを引きだすようにした。

成果

①13:30~14:30の時間に安定して覚醒し,活動に取り組めることが9割程度

あった。

②以下3点の刺激の受容・表出が徐々に安定してきた。

・揺さぶり遊びでの快反応の安定することが多くなった。

・音刺激への約 15秒の注意の持続できるようになってきた。

・触刺激への反応(手の動き)がでてきた。

③腹臥位,肘位,立位等の抗重力姿勢において,頭を挙上させようとする動きが増加した。

今後の

展望

・現在の活動に継続して取り組んでいく中で,活動での目標を安定してできるようにし,活動における

目標を徐々に高めていく。(→①覚醒時間を伸ばすこと,②注意の持続できる時間を伸ばすこと,③頭

を挙上できる時間を伸ばすこと)

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

【発作表】 【睡眠・覚醒表】 発作リズム表(10月)

日 曜日 9時 10時 11時 12時 13時 14時 合計1 木 0 2 2 1 1 0 62 金 2 2 2 1 3 0 105 月 1 2 2 3 0 0 86 火 0 2 1 2 0 2 77 水 0 3 2 3 2 1 118 木 1 1 1 1 2 1 79 金 2 3 2 3 2 0 1213 火 0 1 0 0 3 2 614 水 0 0 1 2 2 0 515 木 1 0 0 3 2 1 716 金 0 0 1 3 1 1 619 月 1 2 0 2 2 1 820 火 1 1 0 0 1 0 321 水 1 1 1 3 0 0 622 木 0 3 1 3 2 0 923 金 0 2 3 3 2 2 1226 月 0 3 1 2 3 0 927 火 0 0 2 1 2 0 528 水 1 0 0 3 2 1 729 木 1 0 3 1 1 1 730 金 1 1 1 1 1 0 5

13 29 26 41 34 130.619 1.381 1.2381 1.9524 1.619 0.619

合計平均

0

0.5

1

1.5

2

2.5

9時 10時 11時 12時 13時 14時

線なし 覚醒   ━━━━ 睡眠   ━ ━ ━ 寝たり起きたり 日付 曜日

日付 曜日

日付 曜日

日付 曜日 特記事項159 10 11 12 13 14

29 日

27 金

30 月

28 土

24 火

25 水

26 木

特記事項

21 土

11 12

22 日

23 月

20 金

9 10 13 14 15

19 木

16 月

17 火

18 水

14 土

15 日

13 金

特記事項

11 水

14 15

12 木

9 10 11 12

8 日

9 月

7 土

13

10 火

6 金

4 水

5 木

11月 睡眠表9 10 特記事項

1 日

11 12 13 14 15

2 月

3 火

4

実 践 名 たくさん触れて,「なんだろう?」の気持ちを感じよう!

小学部1年 (キーワード) 中途障害 知的障害 視覚障害(光覚) 外界への気付き

児童生徒の状況

・1日の覚醒が安定しておらず,11:00すぎまで寝ていることが多い。学校で安定して覚醒が

続く時間帯は 14:00~14:30が多く,それ以外の時間は覚醒が不安定である。(健)

・1日多いときは 10回以上,時間は 30秒~10分以上続く発作がある。発作により覚醒が低

くなることも多い。(健)

・声への好反応等はなく,特定の教員を意識できている様子はほとんど見られない。(人)

・低緊張で未定頸。仰臥位,側臥位,腹臥位が可能であるが,自力での寝返りは困難であ

る。教員と座位を一緒に行うことができる。手の動きは反射が多く,発作時以外に自分で手

を動かすことはほとんどない。(身)

・視覚は色覚程度で視覚の活用は困難である。(環)

・聴覚は音や人の声に対しての反応はするが,注意を持続することが難しい。音の変化は

意識できており,電子音等への反応がよいことがある(環)

・触覚は鈍磨気味であり,自分から物を握る等の操作・探索行動は難しいが,お湯や水,ア

ルミホイル等の強い刺激の物に対して反射的に左手を動かすことがある。(環)

・前庭感覚への刺激(揺さぶり遊びやトランポリンの小さな揺れ等)への反応が良い。(環)

・快・不快は表情や声で表すことができる。抱っこでの揺さぶり遊びが好きで,快の状態にな

り表情の筋肉が緩んだり,笑顔を表出したりする。急な姿勢変換等により不快になり,声や

表情で不快であることを伝えることができる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・学校における覚醒時間が短く,睡眠時間が長い。

・他者や外界からの働きかけに対しての反応が低い。

・快を表出する場面が限定的である。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・触れたことに気付き,表情,動き等で反応することができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本技能に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①覚醒を安定した状態で,活動

に取り組む。

②刺激を受け入れやすい姿

勢,環境を設定する。

③さまざまなものに触れる体験

を繰り返し,同じパターンで行

う。

5

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①覚醒を安定した状態で,活動に取り組む。

・午前中は覚醒が不安定で発作が多い。覚醒が安定する 13:30~を本活動の時間と設定し,毎日行う。

②刺激を受け入れやすい姿勢,環境を設定する。(以下児童にとっての活動姿勢のまとめ表)

姿勢 メリット デメリット

仰臥位 安定した姿勢で,刺激を受け入れやすい 呼吸状態が悪化しやすく,覚醒が落ちやすい

側臥位 安楽な状態で,刺激を受け入れやすい 安楽な状態で,覚醒が落ちやすい

腹臥位 呼吸状態が安定する 苦手な姿勢で,刺激に意識が向きにくい

座位保持 安楽な状態で,刺激を受け入れやすい 安楽な状態で覚醒が落ちやすく,姿勢変換が困難

ベ ン チ 椅

子・胡座位

一時的に覚醒が上がりやすい

教員の接触に意識が向き,物に注意が向けにくい

不慣れな姿勢で,姿勢保持に意識が向きやすい

→以下のことを踏まえ,側臥位を中心に活動を行う。姿勢のメリット・デメリットを考慮し,活動の前に身体全体

を揺さぶり,覚醒を向上させる。

③触れる活動を,同じパターンで繰り返し行う。

(触れるものの例)

とげとげボール ゴルフボール ふにゃふにゃの感触のおもちゃ

【留意事項】

・音刺激等の他の刺激に意識が向かないように,触れるときは声掛けをできるだけ少なくし,タッピング等はせ

ず,手の平への触刺激以外の刺激をできるだけ少なくする。

指導の状況

①②安定した覚醒状態にある時間に,毎日 10分間継続して

取り組んでいる。指導の際は側臥位で,動きが出やすい左手を

使用できるよう左側を上にして行う。

③触れるときは,感じる感覚が温度覚・圧覚等にならないよう,

初めに教員が児童の手を動かし,児童の手を触れるものの上に

置くようにした。触れているということは感じられ,表情の変化は

あったが,反射ではない自発の手の動きはほとんど見られない

状況から始まった。

成果

反射ではない自発の手の動きはほとんど見られない状況から始まり,3か月継続して行う中で自発の

手の動きが活動 10分間に複数回程度見られるようになってきた。冷たい保冷剤等に触れた後の反射の

手の動きではなく,手の平にある感触を受容するということができており,触れた 10 秒後ぐらいに,自分

から腕全体を動かす動きがでてきた。感触を受容した上で手を動かしていると考えられる。

今後の

展望

・様々な感触に触れることで,左手の随意的な動きを増やしていく。

・現段階意識ができていない右手の触刺激の受容を高めていく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

①身体全体を

揺さぶり,覚

醒を促す。

②手のマッサ

ージで手の意

識を高める。

③触れる。

→一定時間,反

応を待つ。

④反応があれば,繰り

返す。なくても,何度

か再度試してみる。

触れた時,音が出

ないものにする。

6

実 践 名 手の動きに意識を向けよう。

小学部1年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 視覚障害(光覚) 外界への気付き

児童生徒の状況

・1日2,3回の,5分程度続く発作がある。(健)

・筋緊張が強く,右側の側彎があるため,姿勢保持が困難である。(身)

・手指や上肢は関節各部の拘縮や変形で可動域制限がある。(身)

・触る時は右手を後ろに引きやすく,左手優位である。(身)

・冷たい物等に触れると反射的に手を引っ込めるが,それ以外の自発的な手の動きや触感

に気付いている様子はほとんど見られない。(環)

・聴覚は聞こえており,人の声や音楽等に反応をすることがある。(環)

・視力はTACにより 0.01。蛍光色で反応をすることがある。(環)

・前庭感覚(抱っこでの揺さぶりやバランスボール等)への反応が良い。(環)

・大きな音を聞いたり,急に触れたりすると過敏反応を示すことがある。(心)

・声掛けに応じる等,特定の教員を意識している様子はほとんど見られない。(人)

・快・不快は概ね表出できる。前庭感覚刺激は笑顔等で快を,腹臥位等の姿勢により声や嫌

な表情で不快を表出することが多い。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・ 手を動かすことが困難である。

・ 対象物や刺激に注意を向けることが困難である。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・手の動きに意識を向けることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること。

(1)情緒の安定に

関すること。

(2)他者の意図や

感情の理解に関

すること。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーションの

基礎的能力に関

すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①手の運動をする。 ②手を口に運ばせ

る。

③手に物を握って口

に運ばせる。

④手遊びをさせる。

7

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

・手を意識させる。・・・手を目の前で見せたり(視覚),「手」と声掛けをしたり(聴覚),圧を掛けたり

する等(固有覚),様々な感覚を活用して手を意識できるようにする。

・手の平を解す。・・・手の平,指の付け根,指先等の順番に,手の中心からマッサージを行い,徐々に

解すことができるようにする。

・腕を動かす。・・・擬態語や決まったフレーズを使用し,手の動きをわかりやすくする。

・口は児童にとって最も受容しやすい感覚器であるため,口で手を感じられるようにしっかり反応を待

つ。

・②の手を歯ブラシに替え,外界を捉えさせる。口で歯ブラシを感じられるように反応を待つ。

・教員と一緒に手を動かした後に反応を待ち,自発的な手の動きを引き出せるようにする。児童の様子

を観察し,動きがあった場合は「手 動いたね」等と共感的な声掛けをする。

指導の状況

①手の動き具合を確認しながら徐々に大きな動きへとつなげることで,無理なく上肢の緊張を緩めてリ

ラックスしている様子があった。

②手を口に運ぶと反射的に口をモグモグ動かし,口で手を感じている様子があった。

③電動歯ブラシに歯固めを付けたおもちゃの活動で笑顔になることが多かった。おもちゃの振動が頬

に当たると,頭をゆっくり左右に動かしながら振動刺激を感じている様子があった。

④楽器遊び・・・教員と一緒に手を動かした後に反応を待つと,はっとした表情になったり,わずかに手

が動いたりする様子があった。

④感触遊び・・・楽器遊びよりも自発的な手の動きが出て,感触を感じている様子があった。

成果

・電動歯ブラシに歯固めを付けたおもちゃの活動では笑顔になったり,顔を動かして振動を感じたりす

る様子が多く見られ,好きなおもちゃの一つになった。

・楽器や感触遊びで,わずかな手の動きが見られるようになってきた。

今後の展望

・今後も日常的に手の動きに意識を向ける取り組みを行い,自発的な手の動きを引き出す。

・様々な感触の物に触れさせ,感触の変化への気付きや,自発的な探索運動につなげていく。

・楽器やタブレット端末等を使用して,手を動かすと音が鳴る等の因果関係の理解につなげていく。

・スイッチ等を使用し,手の動かし方や力加減等の動作の調整につなげていく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

・手の存在に気づく。 ・緊張,拘縮を緩める。 ① 手の運動をする。

② 手を口に運ばせる。 口で手を感じる。

③ 手に物を握って口に運ばせる。

④ 手遊びをする。(楽器遊び,感触遊び) ・手を使って遊ぶ経験を増やす。 ・手遊びから自発的な手の動きへ移行する。

・口の快経験を増やす。 ・外界を捉える。

8

実 践 名 好きな活動を期待しよう

小学部1年 (キーワード) 脳性麻痺 視覚障害(光覚) 知的障害

児童生徒の状況

・発作が起きたり,睡眠のサイクルが安定しなかったりするため,眠たくなったり,疲労がたまった

りしやすい。(健)

・眠たいとき,疲れたとき,見通しがもてなくなったときは泣き,その後気持ちが切り替えにくくなる

ことが多い。(心)

・人の声がすると,声のした方向に視線を向けたり,笑顔になったり,声を出したりする。(人)

・好きな音や好きな遊びがあり,その音や歌を聴くと笑顔になる。(環)

・バランスボールや毛布ブランコなどで揺れる刺激で笑顔になる。(環)

・頭を自分で動かすことができるが,位置が安定せず,姿勢を崩しやすい。頸部が後方に伸展

しがちである。(身)

・繰り返し歌った手遊び歌を歌うと,笑顔が見られる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・発作や睡眠のサイクルが不定期であることが体調や疲労に影響しやすい。

・言葉掛けや音で笑顔になるが,期待反応であるかどうか明確ではない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・期待反応を表す

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関する

こと。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)コミュニケーションの

基礎的能力に関す

ること。

選定された項目

を関連付け具体

的な指導内容を

設定

具体的な

指導内容

①「ピーナッツボールするよ」の言葉掛け

や,ピーナッツボールの音を聴いて,期待

反応をあらわす。

②好きな遊びの後,「もう一回する?」と教員が言

葉掛けをすると,発声や動きで応答する。

9

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①「ピーナッツボールするよ」の言葉掛けや,ピーナッツボールの音を聴いて,期待反応をあらわす。

・名前を呼んで,「ピーナッツボールするよ」と言葉掛けをし,その後ピーナッツボールを叩いて音を鳴

らす。

・児童が音に集中しやすいように,静かな環境で行う。

②好きな遊びの後,「もう一回する?」と教員が言葉掛けをすると,発声や動きで応答する。

・ピーナッツボールで揺れる。揺れが収まってから,「もう一回する?」と尋ねる。

・活動の始まりと終わりを意識するために,「おうまはみんな」を

歌って揺れる。

・「もう一回する?」と言葉掛けをした後,発声,視線を向ける,

体を動かす,といった児童の反応があるまで待つようにする。

・座位で乗り,安定した姿勢で揺れを感じられるようにする。

「せーの」で合図をする

ピーナッツボールを揺らす

「もう一回する?」の言葉掛けの

後,発声・視線の動き・身体の

動きの反応を待つ

指導の状況

①「ピーナッツボールするよ」の言葉掛けや,ピーナッツボールの音を聴いて,期待反応をあらわす。

・静かな環境で,ピーナッツボールを叩く音に気づくような様子が見られた。徐々に視線を向けたり,笑

顔で笑い声を出したりする反応が見られるようになってきた。

・言葉掛けのみで反応を伺ったが,反応の良いときとそうではないときがあった。

②好きな遊びの後,「もう一回する?」と教員が言葉掛けをすると,発声や動きで応答する。

・「もう一回する?」の言葉掛けに対しては,初めは支援者の声に注意が向いていない様子で,揺れの

余韻に対して笑顔を見せている様子だった。

・揺れの刺激の余韻を楽しんでいる最中には,声をかけても反応が見られなかった。刺激が止まって

笑みが消え,落ち着いた状態の時に声をかけると,支援者の声に気付く様子があり,次第に反応を返

すようになってきた。

・繰り返し活動を行っていくうちに,「もう一回する?」という言葉掛けをすると,支援者の方に視線を向

けたり,腕や足を動かしたりする様子が見られるようになってきた。

成果

①「ピーナッツボールするよ」の言葉掛けや,ピーナッツボールの音を聴いて,期待反応をあらわす。

・ピーナッツボールの音を聴くと,ほぼ確実に笑顔が見られるようになった。言葉掛けのみでは,反応が

安定しなかった。

②好きな遊びの後,「もう一回する?」と教員が言葉掛けをすると,発声や動きで応答する。

・繰り返して活動を続けるうちに,揺れが止まった後で教員の声に視線や声で反応することが多くなっ

てきた。

今後の展望

・ピーナッツボール以外の好きな遊びの音でも,繰り返し聞くことで期待反応を表せるようにする。

・「もう一回する?」の問いかけに対して,本人が意思表示しやすいサインをこちらが見つけ,YESの表

出に繋がるようにする。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

10

実 践 名 めざせ!メインキャスター

小学部1年 (キーワード) 脳性麻痺による体幹機能障害 てんかん 知的障害 朝の会

児童生徒の状況

・体調は,安定しており,ほぼ休むことなく登校できている。

・移動方法は,寝返りやずり這いで数メートル移動することができる。好きなものを提示される

と意欲的に移動することができる。

・胡坐座位は,10秒程度身体を支えて座ることができる。(身)

・家庭と連携し,食事量は調整しているが,太り気味である。

・睡眠時間が短かったり週末が近づいたりすると疲れやすく,目の下にくまができる。疲れに

よりてんかんが起こりやすいので,給食前か給食後に,30 分程度の午睡を確保している。そ

うすることによって,午後の活動に意欲的に取り組むことができる。(健)

・目に見える物や親しい人に対して積極的に関わることができるが,注意がそれやすい。

・話をするのは好きだが,筋緊張が高くなり,体幹・下肢が伸展する。(身)

・食べ物や給食に興味があり,朝学校に来ると「給食食べる。」「給食見る。」と言うことがある。

食べることは好きだが,お皿が空になったり途中で減らしたりしても怒ることはない。

・自分のする活動が分からなくなると「絵本読む。」「給食食べる。」「ごはん食べる。」と言うこと

がある。(心)

・自分が聞いたことについて,違う答えが返ってきても返事が返ってくることに満足している。

・給食前のトイレは,排尿があっても行きたがらないことがある。

・見えたものを「持ちたい」と言うが,持ちたいものが分からないことが多い。

・語彙が少なく,限られた語彙で生活している。(コ)

・視覚からの情報より聴覚からの情報の方が入りやすい。(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・ 話がしたいのか要求しているのかがわからないことがある。

・ 活動に見通しがもてないと,「絵本読む。」「給食(ごはん)食べる。」等と言ってしまうことがある。

・ 注意を持続することが難しい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・朝の会の流れに見通しをもつ。

・自分の言葉で話ができるように生活の中で使える語彙を増やす。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関する

こと。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーショ

ンの基礎的能力に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①毎日同じ流れで,朝の会の司会をする。 ②絵本の読み聞かせを通して,言葉と絵が繋がるよ

うにする。

11

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①毎日同じ流れで,朝の会の司会をする。

朝の会の司会をする。

・朝の会のカードを使い,カードを 1 枚ずつホワイトボードに提示し,カードを読んだ後,箱に入れるようにす

る。司会をするということが分かるように,向かい合う。

今日の給食をビックマックに録音する。

・のびのびの時間にお茶を飲みながら,録音する。

・「今日の給食を発表します。」を言い,録音する。

・ビックマックに録音する前に給食の写真を見ながら,練習し,録音する。

・言いにくい給食のメニューは簡単な言葉に直したり一緒に言ったりする。

・ビックマックは,友だちに朝の会で押してもらう。

名前呼びの仕事をする。

・写真カードの中から写真を選び,「○○さんを呼んでください。」と

言った後,名前を呼ぶ。返事が聞こえたら,「元気ですか?」と聞く。

②人とのやりとりができるように生活の中で使える語彙を増やす。

・朝の会の中で絵本を読む時間を設定し,絵本を読む。毎月1~2冊

ともはと号から借りてきた絵本から選び,同じ絵本を読む。

(5月:ぱっぱ らっぱ ぷー! 6月:がまんのケーキ 7月:うめぼしくんのおうち)

・ページをめくるときには,そのページが読み終わってからめくるようにし,待つ時間も作る。

指導の状況

①最初は,大きな朝の会のカードを使用していたが,手元で見える小さいカードが見通しをもちやすいと考

え,小さいカードを使うことにした。朝の会の流れの1から8までの小さいカードを全て並べたが,どれを取っ

たらいいのか分からない様子だったため,1 枚ずつ取ることにした。箱に入れられるようになってきたが,箱の

中から出してしまうことが多い。これまでに食べたことや見たことがある食べ物は,写真を見ると答えられるよう

になってきた。忘れてしまったメニューは,知っている食べ物の言葉を使って何とかしようとする場面も見られ

た。給食を発表する場面では,「○○さんお願いします。」と言った後に,「やりたい」と言うこともあった。

名前呼びでは,写真と名前が一致するように取り組んだ。自分以外の人を呼ぶ時に返事をしたり自分が呼

ばれても違う言葉を言い,返事をしなかったりした。名前を呼ばれて返事をしなかった時には,もう 1回呼び,

返事をする場面が分かるように,手を挙げる動作を見せた。

②簡単な絵本は,ページの終わりが分かり,めくるのを待っている様子が

見られたが,ページの終わりが長い本は途中でめくろうとする場面も

あった。毎日読むことで,ページの終わりがわかるようになってきている。

成果

①「1番。」「2番。」等と数字を言うと,「朝のあいさつ」と言えるようになってきた。今日の給食の録音では,

「今日の給食を発表します。」「ごはん,牛乳。」等の決まった言葉は,ビックマックを見せると言うようになって

きた。給食を発表する場面では,「○○さんお願いします。」と言い,友だちがスイッチを押すのを待つことが

できるようになってきた。名前呼びでは,名前を呼んだ後,友だちが返事をするのを待つことができるようにな

ってきた。自分が返事をする場面では,手を挙げる動作を見せることで,返事ができるようになってきている。

②入学当初から絵本は好きだったが,何度も繰り返し読むことで,会話の内容を一部覚え,朝の会で一緒に

読める場面も増えてきた。

今後の展望

・朝の会の流れのカードを並べ,一人で司会に取り組めるようにしていきたい。

・ページの終わりが分かりやすい簡単な絵本を選び,意味の理解にもつなげたりしていきたい。

(平成 27 年度 広島県立広島特別支援学校)

12

実 践 名 身体を支えて座ってみよう

小学部2年 (キーワード) 18 トリソミー 呼吸障害 姿勢保持 ベンチ椅子

児童生徒の状況

・気管切開,喉頭気管分離術をしていて,感染症に弱い。(健)

・自力排痰が可能だが,乾燥して痰が出しにくい時や多い時は吸引や吸入を必要とする。そ

れでも血中酸素濃度が上がらないときは酸素吸入をすることがある。(健)

・胸郭右凸,腰椎左凸の S字側弯がある。(健)

・特定の人からの働き掛けに笑顔を見せる。言葉掛けや身体接触に快を表出する。(人)

・ひも状やチューブ状のものに興味を持ち,手を伸ばしてつかみ,引っ張ったり,振ったり,

打ち付けたりする。また,親指と人差し指でつまんで持つことができる。(身)

・ブランコなどの揺れに笑顔を見せる。揺れの変化に気づいて表情を変える。(環)

・興味のあるものは目を向けたり,ゆっくりとした動きを目で追ったりすることができる。(環)

・体調の良い時や機嫌の良い時に喉を鳴らすことが多い。

・首や眼球を上に向けていることが多いが,手元に目を向けることも増えてきている。(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・側彎があり,座位で骨盤が後傾しやすく,姿勢が崩れやすい。

・低緊張で身体を支持する力が弱い。

・自力排痰は可能だが,痰が多く呼吸状態が安定しない場合,酸素吸入を必要とすることがある。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・足裏で踏んだり,手をついたりして腰を支えた座位を 30秒程度保持することができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①足裏等への荷重により体幹の伸展や立ち

直りを促す。

②腰を支えた座位で自分で身体を支える感覚をつ

かませる。

13

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①足裏や肩への荷重により体幹の伸展や立ち直りを促す。

ピーナッツボールにまたがって座り,上下左右の揺れ遊び

・左右の揺れでは,自分で身体を戻せる範囲の大きさで揺らし,重心の移動を感じ取る。

上下の揺れでは,体幹の伸びを促すように揺らす。

肘立て姿勢や寝返り運動

・うつぶせの肘立て姿勢でおもちゃを両手を使って遊ぶ。

・左右への寝返り運動を行い,肩への荷重や腰のひねり,頭の位置の変化を経験する。

立位

教師が後方または前方からの支援で立位を取り,足裏への荷重と体幹の伸展を促す。

②腰を支えた座位で自分で身体を支える感覚をつかませる。

あぐら座位

・マット上であぐら座位や左右の横座りを教師が後ろから支えながら行う。

・マット上に手のひらを突き,姿勢が安定してきたら安全に留意しながら徐々に支援を減らしていく。

ベンチ椅子座位

・ベンチ椅子で教師が後ろから支援し,足裏をつけて姿勢を保つ。

・足裏に体重を掛けて踏ん張れるように,足首や膝をサポートしながら前傾姿勢を取る。

・足裏をつけることに慣れてきたら,少しずつ体重を掛けて踏ん張る動きを引き出す。

指導の状況

①足裏等への荷重により体幹の伸展や立ち直りを促す。

・肘立て位での安定感が増し,姿勢を維持したままで上体を浮かせ,前後に

揺らす動きや手足を動かして体の向きを変える動きが見られるようになった。

・教師が支援をすると,足で踏んで立とうとする様子が見られるようになった。

②腰を支えた座位で自分で身体を支える感覚をつかませる。

あぐら座位

・あぐら座位で肩→胸→腰と徐々に支援を減らしても

自分で姿勢を保てることが増えてきている。支えなしでも

一人で姿勢を保てるようになってきた。

ベンチ椅子座位

・足裏をつけようとすると,関節や足裏に力が入り,

足が浮いてしまって踏むことが難しく,教師がしっかり

支持しないと姿勢を保つことが難しかった。(4月~)

→足裏をつけても足を浮かせることが少なくなってきた。(7月頃~)

→座位姿勢を数秒保てるようになってきた。(9月中旬頃~)

成果

・身体を支える感覚が持てるようになってきて,姿勢を保とうとする様子が見られるようになった。

今後の展望

・腹臥位,座位や立位等色々な姿勢を取ったり,身体の動きを促したりする取り組みを通して,身体を

支持する力をさらに高めていく。

・立位や座位の際に体幹装具を着用し,側彎の進行へのケアを同時に行うようにする。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

14

実 践 名 いろいろな姿勢をとろう~教師との関わりを通して~

小学部2年 (キーワード) 知的障害 こだわり 接触過敏 姿勢保持 見通し

児童生徒の状況

・4歳7か月に定坐位。自力移動は座位でのずり這いであり,四つ這いは難しい。移動は自

走式の車椅子を使用している。(身)

・手つなぎや肘を支持されての歩行が可能であるが,安定はしていない。(身)

・目の前に手の平を近づけて振る常同行動や両足をフットサポートに打ち付ける自己刺激が

ある。全身の過敏さがあり,特に手の平と下肢に対する過敏が強い。(心)

・他者との身体接触を嫌がるが,興味はあり,自分から挨拶をしたり注意を引こうと声を掛けた

りする。(人)

・特定の単語や擬音を発することで意思を表出している。(コ)

・日常生活では,パターン化された一つながりの活動において自分から取り組

むことができる。(環)

・聴覚が敏感で,大きな音を聞いてパニックになることがある。(心)

・思いどおりにならない時に頭を叩く自傷行為や他害が見られる。少し距離をおいて待つこと

で気持ちを落ち着かせることができる時もある。(心)

・弱視の可能性があるが,見慣れた絵本や数名の友だちの顔写真の見分けができる。(環)

・一時間に数回,短い発作が起こる。(健)

・学習到達度チェックリストのスコアは,国語(12か月),算数(8か月),生活(18か月),運

動・動作(8か月)。

(徳永 豊:「障害の重い子どもの目標設定ガイド」,2014年)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・興味の範囲が狭く,受け入れることができる遊びや刺激が少ない。

・接触過敏のため,日常生活での姿勢に偏りがある。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・特定の教師とのやり取りを通して,いくつかの姿勢をとることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(2 )状況の理解と

変化への対応に

関すること。

(1)他者との関わり

の基礎に関するこ

と。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①特定の教師との身体接触を

受け入れられるようにする。

②特定の場所で特定の教師の

指示に従って姿勢を変えるよう

にする。

③特定の教師に支援されなが

ら,マット上でいくつかの姿勢を

とることができるようにする。

15

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

① 特定の教師との身体接触を受け入れることができる。

身体接触のあるかかわり遊びや手遊びを繰り返し行い,触れられる見通しをもつことで刺激を受け入

れたり,特定の教師との関わりを快として感じたりすることができるようにした。

② 特定の場所で特定の教師の指示に従って姿勢を変える。

児童が好きなトランポリン上で活動を行うことで,心理的にリラックスした

状態で姿勢を変えることができるようにした。また,指示の方法を擬音にし,

毎回統一したことで,児童が確実に教師の指示を理解して行動できるようにした。

③ 特定の教師に支援されながら,マット上でいくつかの姿勢をとることができる。

後方から児童の腰を引き上げる支援を行い,支持性を高めたり,手の平や下肢への刺激のかかり方

を調整したりした。活動や動きに合わせた擬音を決めたり,“10 だけ”“マットの端まで”と活動内容や時

間を提示したりすることで学習の見通しをもつことができるようにした。

指導の状況

① 特定の教師との身体接触を受け入れることができる。

→初めは,教師が体に触れようとしたら避けたり,教師の手を払いのけたりする動作がみられた。次第

に,同じ手遊びを通して受けた特定の教師からの腕・太腿・背中に対する触覚刺激を数秒程度受け入

れることができるようになった。(小1,1学期)

→手遊びを通して教師が顔・肩・手の平・膝等に触れることに対して笑顔を見せたり,一緒になって歌

ったりすることができた。児童の方から教師との手遊びを要求することができるようになった。(小1,2学

期)

② 特定の場所で特定の教師の指示に従って姿勢を変える。

→トランポリンの上で臥位になって揺れを感じ,楽しい場所であるという認識をもたせた。(入学当初)

→トランポリンの床の上に付いた両手の甲や,胡坐座りをした下肢に教師がゆっくりと加えた圧刺激を

受け入れることができた。(小1,1学期)

→「足」・「ごろん」・「だらん」という教師の指示を聞き,胡坐座位・仰臥位・伏臥位をとることができた。教

師と“いないいないばぁ”をするために肘立て伏臥位で5秒程度頭を持ち上げることも数回できた。

(小1,2学期)

③ 特定の教師に支援されながらマット上でいくつかの姿勢をとることができる。

→マット上では,胡坐座位で教師の話を聞くことを徹底して指導した。(小1,1学期)

→教師に腰を引き上げられる支援を受け,一緒に数を数えることで 10 秒程度,四つ這い位でからだを

支えることができた。(小1,3学期)

→教師に腰を支えられながら,下肢への刺激の少ない手押し車で 10歩程度進むことができた。

(小1,3学期)

→教師からの支援を受けずに,10秒程度四つ這い位で身体を支えることができた。(小2,1学期)

成果

上記の経験を繰り返し積んだことで,活動に対する見通しがもて,活動中は特定の教師の指示を受

け入れ,数種類の姿勢をとることができた。また,触覚過敏も少しずつ軽減されてきており,日常生活に

おいて自分から机に手をついて少しの間立位を保ったり,手すりを握って歩行したりすることもある。

今後の展望

・手首を使った遊びを取り入れたり,腹筋や腰回りの筋肉を使う動きを促したりして手首を正面の位置

に着きながら背中を伸ばして四つ這い位を保持できるようにする。

・トランポリン上でピーナッツボールやロールを使いながら四つ這い位をとる活動を行い,感触や圧刺

激に慣れていく。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

16

実 践 名 手の平でいろいろな物を触ろう

小学部2年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 視覚障害(光覚) 聴覚障害 外界への気付き

児童生徒の状況

・全身の筋緊張が高く,可動域の制限がある。過度な刺激によって姿勢反射を起こしやす

い。(身)

・視覚障害,聴覚障害(両耳 70dB 程度)があり,外部に注意を向けにくいが,声掛けに対し

ては傾聴するように目を大きく開いたり,口元をゆるませたりすることがある。(環)(人)

・抱きかかえての横揺れやピーナッツボールでの縦揺れ等,前庭覚刺激によって目を大きく

開いたり,口元をゆるませたりすることがある。(環)

・触覚過敏があり,身体に触れられると筋緊張を高めたり,口をとがらせたりして不快を示す。

(環)

・刺激に対して表情や視線,筋緊張で表出するが,快が表情にあらわれにくい。(コ)

・刺激が少ない,または多すぎると覚醒が低くなる。外界からの刺激を閉ざしている表情でい

ることが多い。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・全身の筋緊張が強く,可動域の制限がある。

・快が表情に表れにくく,感情を表出する手段に乏しい。

・外界からの刺激を閉ざしている状態が多く,関わりへの気付きが少ない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・過敏さを軽減して触覚刺激を受容する。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①抱きかかえの姿勢で教員と

触れ合う。

②教員と手の握り合いをする。 ③児童と教員の手の間に物を

はさんで握り合いをする。

17

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①抱きかかえの姿勢で教員と触れ合う。

・児童との接触面積を広くとり,児童を包み込むように抱きかかえる。

・抱きかかえた状態で揺れたり優しく声掛けをしたりする。

・抱きかかえた状態で過敏な手の平や指,顔等過敏に感じる場所を避けて

児童の身体に触れる。その際,手の平全体で圧をかけながら触れる。

②教員と手の握り合いをする。

・指導の初期段階では握る,離すをそれぞれ 10秒ずつ行い,過敏さが減ってきたら時間を短くする。

③児童と教員の手の間に物をはさんで握り合いをする。

・側臥位で握る・離すを繰り返している途中で素材をはさむ。

・握り合いをしている途中で児童に声掛けをしたり触れたりはせず,触ることのみに注意を向けさせる。

・物をはさんでの握り合いと物をなくしての握り合いを繰り返す。

指導の状況

①②特定の教員からの抱きかかえに安楽な様子を見せた状態であっても,手に触ると始めは身体の筋

緊張が高まり,不快な表情をみせた。指導の初期段階では触り続けると目を閉じて外界からの刺激を

閉ざしているような状態になった。揺れたり声掛けをしたりしながら日数をかけてじっくり触り続けると次

第に筋緊張,表情がゆるむようになっていった。指導を進めるにつれ,筋緊張や表情がゆるむまでにか

かる時間が短くなった。

③指導の初期段階では手の握り合いの途中に素材を入れると筋緊張が高まり,不快な表情をみせた。

触った感触の少ない花紙や和紙,綿等から触り,触ることで筋緊張の高まりが少なくなってきたところで

画用紙やビー玉等の,以前より触った感触を感じられるものを挟み込んで握った。

成果

①②特定の教員と接触がなくても手の握り合いに不快を示すことがなくなった。特定の教員以外の教

員に触れられたときも,不快を示すことが減った。

③触る活動において始めから側臥位で手の握り合い,素材をはさんでの握り合いを行っても不快を示

すことが減った。画用紙やビー玉等,硬い物を触った際にも受容を閉ざすことなく,目を大きくあけて左

右に動かす等,考えている表情をするようになった。握り合いの中ではなく,物のみにふれたときにも不

快を示さず,触覚刺激を受容し,考えている表情をするようになった。

今後の展望

・タワシやマッサージボール等,触刺激としてこれまでよりさらに強く感じるものを触り,感触を受容する。

・側臥位の状態で感触の違いが分かりやすいものを交互に触り,感触の違いに気付いて表情や身体の

動きで表出する。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

握る

離す

<触った感触が弱い物>

花紙,和紙,綿等

<触った感触が強い物> 画用紙,ビー玉, 小豆の入ったお手玉等

1,揺れたり声掛けをしたりしながら行う。

2,揺れや声掛けはせずに行う。

3,手以外の場所(肩やおなか等)に

触れたり声掛けをしたりしながら行う。

4,触れることや声掛けはせずに行う。

抱きかかえ

側臥位

触ることのみに

注意を向けさせる

18

実 践 名 一緒に遊ぼう

小学部2年 (キーワード) 18トリソミー 知的障害 応答 表出

児童生徒の状況

・気管切開,喉頭気管分離術をしていて,感染症に弱い。(健)

・自力排痰が可能だが,乾燥して痰が出しにくい時や多い時は吸引や吸入を必要とする。そ

れでも血中酸素濃度が上がらないときは酸素吸入をすることがある。(健)

・胸郭右凸,腰椎左凸の S字側弯がある。(健)

・特定の人からの働き掛けに笑顔を見せる。言葉掛けや身体接触に快を表出する。(人)

・ひも状やチューブ状のものに興味を持ち,手を伸ばしてつかみ,引っ張ったり,振ったり,

打ち付けたりする。また,親指と人差し指でつまんで持つことができる。(身)

・ブランコなどの揺れに笑顔を見せる。揺れの変化に気づいて表情を変える。(環)

・興味のあるものは目を向けたり,ゆっくりとした動きを目で追ったりすることができる。(環)

・体調の良い時や機嫌の良い時に喉を鳴らすことが多い。

・首や眼球を上に向けていることが多いが,手元に目を向けることも増えてきている。(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・人からの働き掛けに注意を向けたり,応じたりする力。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・身近な教師からの働き掛けを受けて,教師の手を握ったり,喉を鳴らしたりして表出す

ることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①簡単な言葉や働き掛けによる合図で活動

や遊びの始まりを伝える。

②教師の働き掛けに対して児童から手を出したり,

喉を鳴らしたりといった表出を促す。

19

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①簡単な言葉や働き掛けによる合図で活動や遊びの始まりを伝える。

教師の働き掛けに気づき,注目する

・児童の前方正面からかかわり,目線を合わせる。

・短い言葉掛けや必要に応じた身体接触で注意を促す。

活動や遊びの始まりを意識する

・教師に注目を促し,遊びの始まりを短い掛け声や動作,もの等で伝える。

・手遊びで決まった歌い掛けをして,遊びの見通しを持てるようにする。

・音を鳴らしたり,歌を歌ったりする前に「聞こえるよ」と言葉を掛けたり,動作を見せたりして伝える。

②教師の働き掛けに対して児童から手を出したり,喉を鳴らしたりといった表出を促す。

児童から表出する

・言葉掛けに合わせて手を差し出したり,目線を合わせたりする。

・手遊びの決まった部分で止めたり,「せーの」などの決まった

言葉掛けをしたりして予測を促す。

・児童からの表出があったときには教師がすぐに反応を返し,繰り返し行おうとする意欲を高める。

指導の状況

手遊びの場面

・手遊びの前に手袋人形を提示しながら言葉を掛けると,頭を起こして見ようとしたり,笑顔になって

自分から手を出して人形をつかんだりするようになった。

・手遊び「一本橋こちょこちょ」で,歌い掛けると,歌を聴いて笑顔を見せたり手元を見たりするように

なった。

・くすぐりの前で歌を止めて待つと,のどを鳴らしたりして期待したような様子を見せるようになった。

朝の会

・朝の会で名前を呼びながら教師が手を出すと,教師の手を見て,つかむことが増えてきた。

・名前を呼ばれると喉を鳴らすこともあるが,まだ安定して表出することは難しい。

授業や活動の始まり

・授業の初めにエナジーチャイムを鳴らす際,エナジーチャイムを提示しながら

「聞こえるよ」と言葉を掛けると,表情を変えたり,身構えたりする様子が見られるようになった。

・歌い掛ける前に,手を広げたしぐさを見せ,「せーの」と声を掛けると,笑顔になったり,教師を見たり

するようになった。

成果

①簡単な言葉や働き掛けによる合図で活動や遊びの始まりを伝える。

・決まった言葉や動作,音等の合図によって次を予測したり,期待感を持ったりする様子が表情や動作

で見られるようになってきた。

②教師の働き掛けに対して児童から手を出したり,喉を鳴らしたりといった表出を促す。

・特定の教師の働き掛けを注視したり,追視したりする様子が多く見られるようになった。

・教師が手を差しだしながら言葉を掛けると,その手をつかんだり,喉を鳴らしたりして反応することがで

きるようになった。

今後の展望

・要求手段はまだ確立できていない。好きなものを見たり手を伸ばしたりして,まずは2択で選ぶ力を養

っていく。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

20

実 践 名 栄養をしっかり摂ろう

小学部3年 (キーワード) 栄養摂取 体力向上 口腔内過敏 聴覚優位 体温調節

児童生徒の状況

・てんかん薬により眠気が強く出て,覚醒レベルが低いことがある。生活リズムが安定していな

い。(健)

・食べることが進まない。痩せている。BMI=11(健)

・寝起きに眼球が上に行ってしまう発作,音などに反応して硬直する発作がある。(健・環)

・体温が外気温に左右されやすい。(健)

・食事形態はペースト。甘いものが好きで,冷たいもの,酸っぱいものは苦手。(心)

・側弯,左股関節の脱臼があるが,普通の活動では痛みはなさそう。利き手は左手。(身)

・初めての活動は,固まってしまうことが多い。(環)

・周囲の友だちや教員を意識して見ることがある。(人)

・調子が良いとき,甘いものを食べたとき等に,笑ったり,声をだしたりする。(心・コ)

・聴覚は敏感。視覚支援にはあまり興味を示さないことが多い。(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・強直発作が多く,体力が低い。

・日中の覚醒レベルが安定していない。

・興味のあるものが分からないために,主体的な意欲が引き出しにくい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・しっかり食べて,体力を高める。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

① 朝,経口栄養剤を摂取さ

せて,体力を高める。

②体の各部位をしっかり動か

す。

③摂食指導を工夫し,給食をし

っかり食べることができるように

する。

21

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①登校後,経口栄養剤を摂取する。

・冬場は足湯をしながら,経口栄養剤などを飲むようにし,体温を上げ,覚醒させる。

・夏場は,保冷剤で適宜体温調節をする。

②色々な姿勢,ストレッチやマッサージをおこない,体の各部位をしっかり動かす。

・身体の各部位を動かすことで,覚醒レベルを上げたり,嚥下機能を高めたりする。

③給食をしっかり食べる。

・覚醒レベルが落ちたときはしっかり眠らせ,給食をしっかり起きた状態で食べさせる。

・給食前には,給食ルーティーンとしてピーナッツボールで揺れを感じさせ,覚醒レベルを上げる。

・唾液マッサージ,シリコンスプーンで口腔内マッサージをしてから,食べ始めさせる。(冷たさには過敏

なので,氷は使用しない。)

・食べ物を口に入れた後,時々スプーンで舌を刺激し,食べていることを意識させる。

・摂食時の姿勢のズレを直し,食物の温度に配慮して食べさせる。

・粘度の違いに対応できずにむせることがあるので,粘度を揃える。

指導の状況

①初めは 30mlから試して徐々に増やしていき,飲めることが分かり,処方してもらった。朝,125mlを摂

取するようにし,嬉しそうに飲むことがあった。

また。経口栄養剤以外の味も試しながら,味覚を拡げて,食べることへの意欲を高めるようにしていっ

た。

②色々な姿勢をとることや,ストレッチ,マッサージは受け入れるようになったが,そのまま眠ってしまうこ

とも多かった。発作につながりそうなときは,起こさずに,安静にして休息を取らせるようにした。

③日によって,食べる意欲や粘度の好みがあるので,様子を見ながら変える必要があった。冷めやす

いので,適温が持続するよう配慮した。

摂食時,顎が上がりやすいので,気を付けた。

※薬を変更して合わせていっている途中ということもあり,

様子を見ながら取り組みをする必要があった。

成果

①登校時眠っていても,飲み始めると目覚めて,笑顔になったり,声を出したりすることがあった。その

調子で覚醒したままでの活動は 30 分程度。日によって,違うことが多い。冬場の体温が 35度を下回る

ことはなくなり,だいたい 36度台になった。

②ストレッチ,マッサージをおこなっていても,眠りが深くなったときは,安静にして睡眠をとらせるように

した。

③様子を見ながら,適温と粘度を調整し,給食はほぼ全部食べることができるようになった。しかし,ま

だ,途中休憩が必要だったり,40 分で完食することもあったりとリズムは確定していない。便秘が改善さ

れてきた。発熱,風邪などの体調を崩しての欠席が減った。

※薬を変更して合わせていっている途中ということもあり,安定しなかった。

今後の展望

・長い摂取時間による疲れを軽減するために,栄養剤やお茶,牛乳を飲むとき,ストローボトルやカット

コップで飲むことを練習している。今後,とろみ剤の使用も考えながら,効率良く,安全に水分摂取させ

ることで,水分補給にかかる時間を他の活動に充て,体験,経験を増やしていく。

・覚醒レベルが上がってきたら,触る,聞く活動を取り入れ,感覚を高めていく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

電気保温プレート

22

実 践 名 いっぱい動きたい(立位・歩行)をサポート

小学部3年 (キーワード) 脳性麻痺 姿勢保持 歩行 PCウォーカー

児童生徒の状況

・自力と立位姿勢をとった場合,両ひざとも反張ぎみ,腰は後傾ぎみ,背骨も反りぎみになり

って保持しようとするので,全身に力が入る。また体幹のバランスコントロールがうまくできな

いため,転倒しやすい。(身)

・安全確保のため,ほぼ常時ヘッドギアを着け,車いすでの移動場面が多いため,下肢の

筋力が弱い。(身)

・とても活動的で自我意識が高く,興味を持ったことは何でも「自分でする」と挑戦している。

その反面,できないとすぐにやめてしまう面もある。(人)

・大人や年上など自分を受け入れてくれる関係性を求める傾向があるが,社交的で,自分

から積極的に声を掛けたり話しかけたりできる。しかし,話しかけられても気づかないふりや

関心のない様子になったりする。(人・コ)

・日常会話は十分成り立ち,言葉による意思疎通ができる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・立位及び歩行時の姿勢の保持が困難で転倒しやすい。

・転倒による怪我を防ぐため移動は車いすが主となり下肢の運動量が不足。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・下肢の筋力をつけ,体幹のバランスと歩き方への意識を高める。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(3)身体各部の状

態の理解と養護に

関すること。

(2)状況の理解と

変化への対応に

関すこと。

(4)感覚を統合的

に活用した周囲の

状況の把握に関

すること。

(4)身体の移動能

力に関すること。

(3)言語の形成と

活用に関するこ

と。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①立位や階段の昇降時の支

援。膝の屈伸運動と体幹バラン

ス。

②車いすや歩行器(PCW)を

使った,歩行と運動。

③人による片手介助歩行や,

手すりを使った歩行から独歩ま

で。

23

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①・立位の支援:後方からの腰の支援や,体をまっすぐにして足裏に体重がしっかりかか

るイメージでの支援で,自分で体幹のバランスを意識できるようにする。

・膝の屈伸運動:階段を使っての運動(ポイントは,体が正面を向く。膝の屈伸は,体重を

しっかり残しながらゆっくりと足先の向きを意識させる)。

・体育の準備体操は,児童の好きな「アンパンマン体操」をオリジナルに内容を作り,下

肢の屈伸や体幹のひねりなどを入れている。またストレッチも取り入れ,ゆっくり体幹をひねるなどの体幹を

自分で意識できるような動き取り入れている。

②・車いすを押して歩く:グリップを持って手を伸ばし,体をまっすぐにして押しながら歩くよう誘っている。し

かし,腕を持ち上げて歩く形は不自然で,疲れるし長続きしない。

・歩行器(PCW)で歩く:地面に対してまっすぐに立って,腕も下げた形なので自然な姿勢に近い。自分で自

由に動けることが児童の自分で動きたいという思いにマッチし,積極的に体を動かせる。下肢のスムーズな

動きと運動量の増加,その姿勢から自然と自発的な立位での活動を誘うことにつながる。

③・歩行支援:足裏全体を地面に着けて,自分で体重を支えていると感じられるようにすることを基本に,歩

く時は,児童の視界を塞がないような位置で支援することをポイントにした。具体的には○後方から腰を支

援,○後方から体を密着させて両手で胸を支えるようにバランスを補助する。○片手で,児童の肩より低い

位置で手をつないで,○片手で手すりなどを支えに歩く,○独歩の場合は,歩幅や足先の向き(足首が内

返しになりがちなので,意識として「外向き」と言葉をかけている)を意識するよう言葉かけする。

指導の状況

①・後方支持の支援の必要は減ってきている。止まった状態で転倒する時は,少し膝を曲げながら転倒でき

るようになってきた。

・階段では,上りは片手で手すりを持ち,上ることができる。降りるときは,片手で教員が支える必要がある

が,ゆっくり足を前方に出し膝を曲げて下の段に足を置くように意識しながら行っている。足の向きを「外向

き」にするよう話しかけ,バランスが取れるよう意識づけしている。

・しゃがんだ状態から立つ場合は,出来るだけ後方から両方の手で膝を支え,しっかり体重が足裏全体にか

かるようにして立ち上がるようにしている。

②教室移動等は進んで歩行器を活用している。速く自由に移動できることで,とても生き生きと活動してい

る。足の動きや足先への意識なども言葉かけで意識させるようにしている。

③教室内の活動は,机や棚を使って体を支えてとにかく自分で立って歩くようにしている。活動の場所や状

況によって,膝と肘にサポーターを付けて出来るだけ自由に活動できるようにしている。

成果

①立位の安定性は増し,転倒しないでTボールでバットを振ったり,両手のオーバーハンドでバスケットボー

ルを投げたりすることが出来るようになってきた。

②運動量の増加が体力への自信につながり,③の歩行への意欲につながっている。また,自分で動けること

が主体的な活動意欲と心理的安定につながっている。

③独歩で歩ける距離が延びるとともに,両手が使えることでの活動の広がりが意欲につながっている。歩行

時の転倒も少し膝を曲げながらダメージの少ないこけ方が出来てきている。

今後の展望

自力歩行の力が伸びていくとともに,立位姿勢が安定し,様々な運動に挑戦していける。体幹も柔軟で力

強くなってできることが増えると,運動への意欲だけでなく他の学習場面でも意欲と集中力を高めていけると

期待している。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

24

実 践 名 いろいろな人と話そう!

小学部4年 (キーワード) 筋ジストロフィー 知的障害 発語 場面緘黙

児童生徒の状況

・生活リズムは安定しているが,日中に休息時間(1時間程度)が必要である。(健)

・何かが見えたり聴こえたりすると,そちらに注意が向きやすい。

・自力座位をとることができ,いざり這いで移動をすることができる。(身)

・家族や担任以外の人の前で,声を出すことが難しい。(人,コ)

・母親がそばにいるときや車の中等の狭い空間にいるときは,声が出やすい。(コ)

・自分から声で要求することや意思を表出することが少ない。(コ)

・家庭では3語文で話すことがある。(コ)

・学校では時々2語文程度喋ることもあるが,単語や表情で伝えることがかなり多い。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・注意散漫であり,集中力が持続しない。

・声でやりとりのできる人や場所が限られている。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・声でやりとりできる人や場所を増やす。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(2)状況の理解と

変化への対応に

関すること。

(3)自己の理解と

行動の調整に関

すること。

(5)認知や行動の

手掛かりとなる概

念の形成に関する

こと。

(5)状況に応じたコミュニケーションに関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①担任以外の教員と声でやりとりをする。 ②いろいろな場所で,声でやりとりをする。

25

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①担任以外の教員と声でやりとりをする。

・児童が声を発しやすい環境を作る。

例)狭い空間(秘密基地)

決まった言葉でのやりとり

児童の気持ちを盛り上げる

・担任以外の教員と児童が一緒に秘密基地の中に入り,外にいる

担任に向かってやりとりをする。

・児童と秘密基地の中でやりとりをする。

・やりとりを徐々に複雑化し,秘密基地の外と中で役割を交代する。

②いろいろな場所で,声でやりとりをする。

・秘密基地でのやりとりに慣れたら教室,他学年の教室等で取組①のようなやりとりをする。

・声を発することに抵抗感等がある場合は,カーテンを用いて狭い空間を教室内に作ったり,抱っこし

たりして児童に安心感をもたせる。

指導の状況

①担任以外の教員と声でやりとりをする。

②いろいろな場所で,声でやりとりをする。

・担任以外の教員と秘密基地でのやりとりを楽しめるようになってきた。

・友達の名前だけではなく,教員の名前をよく呼ぶようになってきた。

・秘密基地で遊んだ後は,声で伝える回数が多い。

・担任と一緒に声で伝える回数が増えた。

・よく教員の言葉を真似したり,他の児童の発した声の真似をしたりするようになった。

・担任に抱かれた状態で,大きな声で挨拶をするようになってきており,挨拶も児童から「せーの」と言う

ようになった。

成果

①担任以外の教員と声でやりとりをする。

②いろいろな場所で,声でやりとりをする。

・声で気持ちや思いを伝えられる人が増え,場所が広がり,秘密基地で使用する語彙を別の場面でも

活用するようになった。

・「行かない」「しない」等とはっきりと思いを伝えたり,「○○して」と声で要求をしたりするようになった。

・分からないことがあると「何?」「何で?」等と担任に質問するようになり,質問回数も多くなった。

・児童から声を発する合図「せーの」と言うことが増え,日常的に大きな声を出すようになった。

・学校でも2語文で伝えることが増え,やりとりの回数も増えた。

・いたずらが増えたり,冗談を言うようになったりしてきた。

今後の展望

・声でやりとりのできる人や場所の幅を広げる。

・語彙を増やす。

・2語文を定着させて,3語文を増やす。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

○担任(秘密基地の外)に向けたやりとり

「(ドアを)トントン」→「誰ですか?」→「○○です」→「どうぞ」等

○秘密基地内のやりとり

「(ドアをノックされて)どうぞって言う?」→「うん」→「せーの」→「どうぞ」等

ダンボールで作った秘密基地

26

実 践 名 手で触って遊ぼう

小学部5年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 探索 上肢操作

児童生徒の状況

・体調は安定しており,ほとんど休むことなく登校することができている。(健)

・情緒が安定しておらず,急に泣き出すことがある。(心)

・人を意識しているようで,人に対して声を出したり人がそばを離れると不快感を示したりする

ことがある。(人)

・光を見ると反応はあるが,物を見せても反応は無い。視覚情報を得ることが難しく,主に聴

覚や触覚から情報を取り入れている。(環)

・左手をスイッチに触れさせると押すことができるが,押している最中にスイッチが動くとそれ

を探して押すことは難しい。(環・身)

・言葉掛けをすると,応じるように声を出すことがある。(コ)

・好きな活動をした後,要求するように声を出すことがある。(コ)

・口に手を入れたり指で頭を押さえたりする自己刺激様の情動行動が多い。

・これまでの指導では,机にスイッチを固定して押させていた。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・探索して玩具等を探し,継続して遊ぶ。

・口に手を入れたり指で頭を押さえたりする自己刺激様の情動行動が多い。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・車椅子の机上にある玩具を探索して遊び続けることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①探索しながらスイッチを押

す。

②音の鳴るボールで遊ぶ。 ③つりさげたバーチャイムで遊

ぶ。

27

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①探索しながらスイッチを押す

・スイッチを机に固定せずに置き,手を導き押させる。

・押している過程でスイッチが動くので,手が届かない場所に動いた場合,

もしくはスイッチが見つからず注意が別のものに向いてしまった場合のみス

イッチを元の位置に戻す。

②音の鳴るボールで遊ぶ

・①と同様に行う。

・スイッチと比べると動きやすいので,スイッチを探索して押すことができ

るようになってから取り組む。

③吊り下げたバーチャイムで遊ぶ

・写真のようにバーチャイムを吊り下げる。

・最初は低い位置に固定し,手が当たりやすいようにする。その後,

徐々に高さを上げていく。

・できるだけ長い時間設置しておき,手が当たりやすくする。

指導の状況

①探索しながらスイッチを押す

・最初は狭い範囲の探索だったが,スイッチを追って机の端の方まで手が伸びるようになっていった。

②音の鳴るボールで遊ぶ

・①と同時に取り組んだが,最初はボールを手で追うことができなかった。①が十分できるようになって

から徐々にできるようになっていった。

③吊り下げたバーチャイムで遊ぶ

・頭を触ろうと手を上げた時に偶然バーチャイムに手が当たり,しばらくバーチャイムに触れたことがあっ

た。

成果

①探索しながらスイッチを押す

・一度スイッチに触れさせると,スイッチが動いても5分程度探索しながら押し続けることができた。

・スイッチの音が聞こえると手が伸びるようになったが,机の中心付近でないと探して押すことは難しい。

②音の鳴るボールで遊ぶ

・ボールを見つけられなくなることが多いが,遊ぶ時間が増えてきている。

・ボールを机から偶然落とすことがあり,継続するとその動きを学ぶことができると思われる。

③吊り下げたバーチャイムで遊ぶ

・机から離れた位置に設置すると,意図的にバーチャイムに触れようとすることは少ない。しかし,一度

触れると長時間遊ぶことができるようになってきている。

今後の展望

・左手を使うことがほとんどで,右手を使うことがあまりないので,右手も使うことができるように指導して

いく。

・押す,引く,握るなど様々なバリエーションの動きがでるよう,様々な教材を使用して指導していく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

28

実 践 名 何をするのか分かったよ!

小学部5年 (キーワード) 脳性麻痺 視覚障害(光覚) 知的障害 期待 要求

児童生徒の状況

・吸引を必要するが,姿勢を整えると自力排痰可能である。(健)

・睡眠時や喘鳴が強くなると,血中酸素濃度が下がり,酸素吸入を必要とすることがある。

(健)

・筋緊張が強く,反り返ったり,手足を突っ張ったりする。逆に,力が入らない時もある。(身)

・後ろから支えての座位や座位保持椅子での学習ができる。(身)

・好きな音楽を聴く,バランスボール等で揺れを感じると笑顔になる。(人,環)

・不快な気持ちを泣いて表現するが,歌い掛けると泣き止むことが多い。(心,人)

・因果関係の理解には時間がかかるが,自ら腕を動かしスイッチを操作することができる。

(環)

・持ち手のあるものをもったり,スイッチを操作したりする際には,腕を円弧上に動かすことが

できる。(身)

・自分で腕を動かして学習すると,時折笑顔がみられる。(心)

・「3,2,1」の言葉掛けには目を見開いて期待している表情をする。(人,コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・快状態を維持する力。

・適度な緊張で,意図的に腕を動かす力。

・働き掛けに対して,応えようとする力。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・働き掛けに対して,表情や声,腕の動き等で応えようとする。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1 )保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的な技

能に関すること。

(1)コミュニケーショ

ンの基礎的能力に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①言葉掛けに対して,自ら腕を動かすことが

できるようにする。

②次の活動を予測し,期待していることを表現する

ことができるようにする。

29

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①言葉掛けに対して,自ら腕を動かすことができるようにする。

・言葉の抑揚を変えずに,同じ言葉掛けをする。

・言葉掛けと合わせて,その活動に合った感触を感じ取らせる。

・児童の可動域で動かしやすいところに姿勢を整える。

・一人では難しい場合,肘を支えることで自らの動きを引き出す。

②次の活動を予測し,期待していることを表現することができるようにする。

・目が見えにくいため,触った感触が分かりやすいシンボルマークを用意する。

・活動と結び付けたいシンボルマークを触る時間と,触りながら言葉掛けをする時間を設ける。

・言葉や抑揚を変えずに,同じ言葉掛けをする。

・児童の応答を待って,快の活動をすることで,活動とシンボルマークが結び付くようにする。

・2回は繰り返すようにし,定着を図る。

指導の状況

①言葉掛けに対して,自ら腕を動かすことができるようにする。

・自ら腕を動かして学習すると笑顔がみられるようになった。

・4年生から上記の具体的手立てを実施し,言葉掛けや感触を受け止めて目を見開くようになった。

・肘の支援なしで,自ら腕を動かすことができる時もあった。

②次の活動を予測し,期待していることを表現することができるようにする。

・バランスボールのシンボルマークを触ると,目を見開くだけだったのが,考えている時の表情になり,

右足を少し上げるようになる。

・「いくよー」の言葉掛けで目を見開くようになってきた。

・2回目にシンボルマークを触ると,笑ったり,口を開けて応えようとしたりするようになってきた。

成果

①「ぺったん,ぺったん,しゅ~,するよ」の言葉掛けや感触を感じ取ると目を見開き,「せーの」の言葉

掛けで,肘の支援なしでも自ら腕を動かすことができるようになった。

②バランスボールのシンボルを触り,「バランスボール,する?」と聞くと,口を開ける,声を出す,右足を

少し上げる,笑顔になる等で応える様子がみられた。「いくよー」の言葉掛けには確実に少し身体を伸

展させながら目を見開き,期待していることを表現することができるようになった。

今後の展望

目標達成には,楽な呼吸状態を保ち,適度な緊張で過ごせる身体づくりが欠かせない。その上で…

①自ら腕を動かしにくい時もあるため,覚醒を高め,腕のストレッチ等とも合わせて指導しながら,継続

して取り組む必要がある。

②期待,要求の確かな表現手段となるよう継続して取り組む必要がある。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

<両面テープの持ち手をもち,腕を動かす>

言葉掛け→「ぺったん,ぺったん,しゅ~,するよ」「せーの」

感触→ガムテープの持ち手,テープのべたべた感

<バランスボール遊び>

シンボルマーク→マジックテープの素材

言葉掛け→「バランスボール,する?」「いくよー」

快の活動→好きな曲に合わせて抱っこでバランスボールを揺らす。

30

実 践 名 ボディイメージをもとう

小学部6年 (キーワード) 脳性麻痺 視覚障害 疾病による体幹機能障害

児童生徒の状況

・手足がよく動き,周囲にぶつけて打撲・骨折をする恐れがある。(身)

・仰向けから寝返りをして,うつ伏せになることができる。支えがあれば,割り座や正座,体操

座りで座位がとれる。(身)

・自分の教室等、慣れた場所では仰向けやうつ伏せになり、静かに気持ちを落ち着けるこが

できる。また抱っこで身体を叩きカウントをすることで、気持ちを落ち着けることができるように

なってきている。(身)(心)(環)

・問いかけや呼びかけをよく聴いており,笑顔を返したり手足を動かしたりすることができる。

自分に問いかけられていることがわかると、緊張し黙ってしまう様子が見られる。(人・環)

・ざわついた場所では不安感や不快感から涙することがある。 (環)

・慣れない場所(校外や教室以外の場所など)では,不安や緊張があるのか,表情がなく静

かにしていることがある。(環)

・トランポリンやピーナツボール・毛布ブランコ等が好きで,声を出して喜ぶ様子が見られる。

(身)(心)(環)

・声で人を判別している。(人)(環)

・活動内容を歌で覚えており、期待することができる。(人)(コ)

・歌を聴くことが大好きで,いろいろな曲を聴く中でお気に入りの曲があると笑顔になって喜

ぶ。繰り返しのフレーズがある曲を好む傾向がある。(心)(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・視覚障害からくる環境の把握に課題があり,身体(手足)をバタバタと動かす。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・ボディイメージを持ち,リラックスできる時間や姿勢を増やす。

・リラックスした状態で,手の活動を行う。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズムや

生活習慣の形成

に関すること。

(1)情緒の安定に

関すること。 (2)他者の意図や

感情の理解に関

すること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーションの

基礎的能力に関

すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①リラックスできる姿勢を見つ

け,いろいろな姿勢に慣れる。

②ボディイメージが持たせる。

③手の活動(握る・触るなど)を

行う。

31

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①リラックスできる姿勢を見つけ,いろいろな姿勢に慣れる。

・仰向け,側臥位,腹臥位,座位,クッションチェアに座る等の姿勢を取らせる。

・うつ伏せ時などは呼吸状態をしっかりチェックして行う。

・状況に応じて,圧迫刺激を行なったり,数字のカウントを行なったりし,見通しを持たせ,安心感を与

えるようにする。

②ボディイメージが持たせる。

・PT,OTより指導していただいた,マッサージを行う。

・身体の付け根から指先に向けて,身体が意識しやすいようにマッサージを行う。

・三角座りをして足裏をしっかりつける。

③手の活動(握る・触る等)を行う。

・リラックスできる姿勢が取れたら,その姿勢で,いろいろな素材を触る活動を行う。

・人の手や柔らかいものから始め,徐々に硬いものや握りにくいものなどに移行していく。

指導の状況

①いろいろな姿勢をしていく中で,側臥位,腹臥位が落ち着いて過ごしている様子が多かった。

安心すると,体の動きは収まっていく。

補助しての座位では,手足が自分の身体に近い分,落ち着けていた。

②身体の付け根から指先に向けてマッサージをすることで,児童は体の動きを止め気持ちよさそうに過

ごすことが多くなった。三角座りで足裏をつけることは,まだ抵抗があった。

③落ち着いた状態で,手やものを触らせると,握り返してきたり,長い時間触り続ける様子が見られた。

成果

①側臥位,腹臥位,補助しての座位がリラックスして過ごせる姿勢になった。その他の姿勢にも以前に

比べ抵抗感なくすごせるようになってきた。

②足裏を地面につけることはまだ抵抗感がある。座位を取らせて,補助を少なくしても,自分で顔をあ

げ,背筋を伸ばし,しばらく姿勢保持できる時間が増えてきたことから,少しはボディイメージが持て

てきたように考えている。

③以前に比べ,硬いもの長細いものも触り続ける時間が伸びた。

今後の展望

・周りの環境に慣れれば,落ち着けるようになってきたことから,まずは安心できる環境設定を行い,リラ

ックスできる姿勢で,手で何かをする活動の時間を増やしていければと考えている。自分の手を動かせ

ば,音が鳴らせたり,物が持てたりすることが理解できるようになってほしい。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

32

実 践 名 手を使って遊ぼう

小学部6年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 上肢操作 スイッチ

児童生徒の状況

・視覚は光覚程度。聴覚は良好で,音による状況把握が中心となる。(環)

・自力排痰をすることができるが,排痰の介助をする必要がある時もある。(健)

・嫌な音(大きな音や金属音)等による驚愕や生理的不快感(痰が絡むなど)により,筋緊張

を起こし,自分での制御が難しくなる。(環)

・担任の声の方が他の教員よりも反応が良い。(環)

・未定頸。(身)

・手を動かしやすい姿勢になれば,少しずつ手を動かすことができるようになってきた。(身)

・繰り返しの言葉や,始まりの合図の言葉,合図となる数唱に期待感を持つことができるよう

になり,聴こえてくると笑顔になったり,声を出して応えようとしたりすることが増えてきた。

(環)(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・驚愕や不快感により,筋緊張を起こす。

・意図的な手の動きが少ない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・手を動かしてスイッチを押したり,楽器を鳴らしたりする。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズム

や生活習慣の形

成に関すること。

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーションの基礎的能力に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①手を動かしやすい姿勢を考

えるとともに,好きな音をスイッ

チに録音し押させる。

②いろいろな楽器を用いて,手

を動かすことのできる活動を増

やす。

③スイッチを押して音を出して

いるときに,スイッチの電源を

切る。

33

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①アセスメントチェックリスト(触覚 26・音を鳴らそうとスイッチを押す)

・偶然の手の動きを,少しずつ必然に変えていく。

・児童の手を動かしやすい姿勢を把握する。本児の場合は座位保持車

椅子に座り,左手でテーブルを持つことで,右手が動かしやすくなるよう

であった。初めのころは,手を下す位置がいつも決まっていたため,その

場所にスイッチを置いておいた。

・スイッチに児童の好きな音を録音し,手を動かすことを支援しながら,

「手を動かす→スイッチに手が当たる→好きな音が鳴る」を繰返した。

②アセスメントチェックリスト(触覚 20・手に触れたものを叩いたり触ったりして,音を出し続ける)

・スイッチを押して音を出すことができるようになってきたら,キーボードやウ

ィンドチャイム,カスタネット,タンバリンなどの楽器を使い,手を動かして遊

ぶことのできるものを増やしていくようにした。

③アセスメントチェックリスト(触覚 30・遊びが途切れたときなどに,再度続けようと行動する。)

・スイッチを押して遊ぶことに慣れてきたら,スイッチの場所を少しずつ変えながら探索的な動きを引き

出したり,スイッチの電源を途中でOFFにしてどのような反応をするのかを確認したりした。

指導の状況

①スイッチを押しての活動を始めた当初は,手が数回しか動かなかったり,なかなか手が動かなかった

りするということが多かった。しかし繰り返していくうちに,姿勢を整え,手をスイッチに触れさせて音を出

せば,すぐに自分で手を動かしてスイッチを押すことができるようになった。自分から物に触れることで,

驚愕の緊張を起こしにくかった。

②初めのうちは,スイッチのように押したことが分かりやすいものは何度も手を動かして触ろうとする様子

が見られたが,押した感覚の少ないものに対しては継続して触ろうとしない様子が見られることが多かっ

た。

③スイッチを押して音を出して遊んでいるところに急に電源をOFFにすると,電源が切れてすぐはスイ

ッチを押し続けていたが,音が鳴らないことが分かると手の動きを止めていた。触っている物の位置を

変えていくと,手の動かし方を少しずつ変えていく様子が見られた。

成果

①アセスメントチェックリスト(触覚 26・音を鳴らそうとスイッチを押す)

1年間で「できない→できる」に変わった。

②アセスメントチェックリスト(触覚 20・手に触れたものを叩いたり触ったりして,音を出し続ける)

1年間で「できない→できる」に変わった。

③アセスメントチェックリスト(触覚 30・遊びが途切れたときなどに,再度続けようと行動する。)

1年間で「できない→おおよそできる」に変わった。また,常時ではないが,手を動かして探索のよう

な動きが見られるようになったり,スイッチを押しても音が鳴らないと考えるような表情をしたりするように

なってきた。

今後の展望

・手を使うことによる活動を継続していくことで,探索の力を向上させ,興味や関心を向上させる必要が

ある。

・「~したら~になった」等の自分の行動と結果との因果関係がわかるようにつなげていく必要がある。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

34

実 践 名 抜いてみよう! 入れてみよう!

小学部6年 (キーワード) ダウン症 右耳難聴 目と手の協応 手先の巧緻性

児童生徒の状況

・学校では便座に座って排便が可能である。(健)

・童謡を聞いたり,バロンテープ等ひらひらしたものを揺らしたりすることが好き。

・場所や人などの環境の変化で,その場を動かないことがある。

・好きな音楽を聞くと,気持ちを切り替えやすくなる。(心)

・教師や友だちを見て,様子を伺っていることがある。

・視線が逸れやすく,手元の作業が難しい。(環)

・持った物を投げようとするが,自分から人に手渡すことがある。

・教師が左手を持ち,左足内転・内旋方向に動かして歩行している。(身)

・教師が児童の左手を握って援助することで歩行ができる。

・手先を使った操作が苦手である。(身)

・要求はクレーン現象であることが多い。(コ)

・教師の「ちょうだい」の言葉やサインを見て、おもちゃを渡すことができる。(コ)

・学習到達度チェックリスト(出典:「学習到達度チェックリスト 2014」徳永 豊編)では,読む

こと:6(スコア)~生活:18(スコア)と得意,不得意の差が見られる。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・視線がそれやすく,手元の作業が難しい。

・持ったものを投げようとする。

・手先を使った操作が苦手である。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・手元を見ながら,「抜く」「入れる」の操作をすることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する

感覚の活用に

か ん す る こ

と。

(3)日常生活に必

要な基本操作に関

すること。

(2 )言語の受容と表

出に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①棒を抜く,入れる。

穴にはめた棒を抜き,容器に入れる。

②輪を抜く,入れる。

棒に通した輪を抜いて,容器に入れる。

35

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①棒を抜く,入れる

2本の棒を軽く穴にさして抜きやすいようにし,1本目は教員が支援しながら2本目では自力で行うように設定した。抜

いた棒を入れる容器を横に用意し,「抜く」と「入れる」の活動を連動させて終わりが分かりやすいようにした。また,容器

は入れる範囲を徐々に狭めて課題の難易度を上げていった。容器の範囲が分かりやすいように黄色く縁取りをした。

②輪を抜く,入れる

初回では,木製のしっかりした輪を使用していたが,児童の手にフィットしにくく,指先を

かける隙間がなかったため,輪はビニールテープの素材を使用することにした。すると,

指先で輪を引っかけられるだけでなく,通している棒をたどる際,適度にスライドするため,

抜きやすく方向性が分かりやすくなった。課題を始めた当初は、興味付けにバロンテープを

裂いたもの(ひらひらしていて大好き)を筒に取り付け,抜く活動の動機づけを図った(図1)。

また,輪を底上げしてより抜きやすくし,徐々に輪のみで課題を行っていった。 図1

指導の状況

指導の経過

第Ⅰ期(~5月上旬) 第Ⅱ期(~6月上旬) 第Ⅲ期(~6月中旬)

棒を抜く

入れる

教材を見るなり手に取っ

て投げる。

抜いた棒を容器の穴に注目

して入れようとする。

容器の穴に注目し,腕の使い方

(回内方向の動き)を工夫して棒を

入れることができた。

第Ⅰ期(~5月下旬) 第Ⅱ期(~6月上旬) 第Ⅲ期(~6月下旬)

輪を抜く

入れる

棒に執着してしまい,輪

に注目できていない。

底上げをすることで輪に注目

し,抜くことができた。

支援を無くし,棒をたどって輪を

抜くことができた。輪を抜いて容器

に置くまでの動作を目で追うことが

できた。

※第Ⅰ期(課題に向き合えていない時期),第Ⅱ期(入れる場所や目標物に注目するようになった時期),

第Ⅲ期(手元を見て操作し,課題が達成できた時期)

成果

①棒を抜く,入れる…棒の先端や穴に注目し,棒の底面程の穴に入れることができるようなった。6月末頃から,抜いた

棒を穴に注目して挿そうとするようになった。

②輪を抜く,入れる…輪を目で追い,下から上へ方向性を確かめながら抜くことができるようになった。自分から抜いた

輪をもう一度棒にくぐらせようと,試行錯誤する姿が見られるようになった。

課題全体…評価時の動作を教員の様子を見て模倣しようとする姿が見られた。指さしたところを見ることが増えてきた。

今後の展望

・触覚や運動での理解を広げつつ,視覚認知への移行課題として型はめ等の課題を進めていき,形の弁別や大小比較

等の認知面を促していきたい。

・今回はかだいの時間で行ってきたが,より日常生活や遊びの中でも「入れる」などの手元を見て操作する活動を増や

し,注視の力を伸ばしていきたい。

・評価時に使用した「で・き・た」のリズムから,バリエーションを広げて模倣へ繋げていきたい。

(平成 27 年度 広島県立広島特別支援学校)

36

実 践 名 できることを増やし,認められる学校生活

中学部1年 (キーワード)先天性による体幹機能障害 知的障害 5P-(マイナス)症候群 目と手の協応

児童生徒の状況

・明確な診断はないが,ADHDの混合型のような感じである。

・学習中などにおいて,いきなり部屋を飛び出すことがあるが,無目的ではない。ある人に会

いたい,何かがしたい,どこかに行きたいなどの目的があったり,その場にいるのに苦痛を感

じていたりすることが大半である。(心)

・普段いるはずの人がいないなど,生徒の思いと違うことが起こると,その人と会うまでなかな

か落ち着かない。説得しても納得することは少ない。(心)

・一度精神的に不安定になると,部屋からの飛び出し,失禁や寝転ぶなど退避,退行現象を

示すことがある。そうなった原因が根本的に解決するか,何か別のことに思いが切り替わる

か,一定時間がたつかしないと元に戻らない。(心)

・友だちに話しかけることもあるが,双方向的なやりとりを身に付けることは,これからの課題で

ある。(人)

・上肢を使う作業時などに,手元を見ていないことが多い。(環)

・かぶるタイプの服は,前後を間違えなければ一人で着ることができる。ボタンでとめたり,チ

ャックを上げ下げしたりする服などは支援が必要である。(身)

・生徒に促すことで,机を拭いたり,床のごみを拾ったりできる。(身)

・元気の良い挨拶が誰にでもできる。(コ)

・音声で意思表示をする。何度も同じことを言ってこだわったり,聞いたことをオウム返しに

言ったりする(エコラリア)ことがある。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・新しい生活に慣れ,見通しを持ち,身体的情緒的に安定した生活を送ることができる。

・身辺自立を目指し,基本的な生活動作について,一人でできることを増やす。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・荷物の整理や衣服の脱ぎ着など,生活の基本的な動作について,一人でできることを

増やす。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(2 )他者の意図や

感情の理解に関す

ること。

(3 )日常生活に必

要な基本動作に関

すること

(3 )言語の形成と活

用に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①かぶるタイプの服を一人で着る。 ②他の部屋の机を拭いて,職員に感謝される

経験を積む。

37

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①かぶるタイプの服を一人で着る。

・服をつまむところに目印を付け,そこを両手でつまんで服を着るようにする。

②他の部屋の机を拭いて,職員に感謝される経験を積む。

・朝の散歩時に雑巾とバインダー(シールなどが入っている)を持ち歩き,拭きたいところを拭いて,職

員に報告し,シールを貼ってもらう。拭き方については,まずは大雑把でもよいので腕をぐるぐる回して

拭くようにする。

指導の状況

①かぶるタイプの服を一人で着る。

・生徒は登校後及び下校前に着替えをするので,その時間を利用して行っている。最初はいきなりか

ぶろうとすることがあったが,手元を見ようとすることは増えつつある。ただ,生徒は様々な刺激に敏感

であり,扉が開いたり,隣の部屋の音楽や声が聞こえたりすると,集中が途切れることも時々ある。教師

が確認のために近くにいることで,教師にちょっかいを出そうとするなど余計な刺激になっていることも

ある。その時々での精神状態の見極めが重要である。

②他の部屋の机を拭いて,職員に感謝される経験を積む。

・拭き方は手立てのとおり,ぐるぐる拭くようにはなってきた。ごみなどをみつけて拭くことはまだできてい

ない。

成果

①かぶるタイプの服を一人で着る。

・生徒の実態把握や,生徒の不要な刺激とならないための距離感(物理的,心理的)をつかむのに時

間がかかったが,徐々に前後を間違えずに着ることができるようになってきている。

②他の部屋の机を拭いて,職員に感謝される経験を積む。

・職員とあいさつを含めたやりとりをしながら,腕をぐるぐる回して拭くことができるようになった。ごみを残

さずきれいに拭くことは,これからの課題である。

今後の展望

・生徒の得意なところを活かしながら,不得意なところに挑戦する勇気を持たせ,周囲から認められるこ

とで,生徒の自己肯定感を高める取り組みをこれからも進めていく。

(平成 27 年度 広島県立広島特別支援学校)

38

実 践 名 聞いてお願いしよう

中学部1年 (キーワード) 言語理解

児童生徒の状況

・医療的ケア,気管切開部の衛生管理,経鼻経管栄養,吸引,吸入,坐薬がある。(健)

・独歩が可能であるが,不安定である。指先は器用で物を持つことができる。(身)

・興味関心が移りやすく集中して取り組むことが難しい。(環)

・好きな物を取ってほしいときは,近くにいる大人を物がある場所まで連れて行き,指さしを

して知らせる。(人)(身)(コ)

・自分の思うようにいかないと,額や頬を叩き自傷してしまうことがある。(心)(環)

・人と関わろうとする気持ちは多いにあるが,人を抓るなど他害する場合がある。(人)(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・友だち,教員に対して適切なコミュニケーションをとる手段が確立していない。

・活動に対して集中を持続することが難しい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・コミュニケーションをとる手段を確立する。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(5)認知や行動の

手掛かりとなる概

念の形成に関する

こと。

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

に関すること。

(2)言語の受容と

表出に関するこ

と。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①教員の指示が聞ける。 ②場面に応じて,簡単なサインで要求する。

39

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①教員の指示を聞いて,行動できるようにする。

日常生活において,○○さん「ちょうだい」,

○○さん「座って」,○○さん「取って」を教員の

言葉掛けを聴いて行動できるようにする。決まった

言語を統一して使用して言葉を意識付けさせる。

難しいようなら一緒に行動したいことや,指さしと一緒に

言葉掛けをしたりし,繰り返し行い,言葉と行動を結び

つけられるようにする。

②簡単なサインを覚え,場面に応じて使用できるようにする

決まった場面で,一緒に場面に応じた身振りサインを行う。

(例1) 好きな物を取ってほしいとき,「ちょうだい」のサインをしてから物を渡す。

(例2) 好きなことを行いたいときに,「お願い」のサインを出してから行う。

サインを自分から出せるようになるまでは,「ちょうだいは?」「お願いは?」と言葉掛けを行う。

指導の状況

①教員の指示を聞いて行動できるようにする。

日常生活での「ちょうだい」「座って」「取って」等の言葉掛けは理解している様子が見られるようにな

った。指さしと言葉掛けで行動できるようになっているため,徐々に指さしを減らして言葉だけで行動で

きるようにしていきたい。

②簡単なサインを覚え場面に応じて行えるようにする。

興味関心がある物には,「ちょうだいは?」「お願いは?」と言葉掛けをするとサインを出せるようにな

ってきている。徐々に言葉掛けを減らしていき,自分からサインを出し気持ちを表現するようにしていき

たい。

成果

①教員の指示を聞いて行動できるようにする。

「ちょうだい」「座って」「取って」等は指さし,言葉掛けをすることによってある程度行動できるようにな

ってきた。また言葉掛けだけで行動できる場面も増えてきている。

②簡単なサインを覚え場面に応じて行えるようにする。

欲しい物,行いたい遊びは言葉掛けをすると自分からサインを出せるようになってきている。言葉掛

け行わなくてもサインを出せることも増えてきている。

今後の展望

・理解できる言語を増やしていき,言語指示と行動を結び付けせていきたい。

・さらに日常生活で使えるサインを増やしていきたい。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

40

実 践 名 やりたいことを伝えよう

中学部2年 (キーワード)脳性麻痺による体幹機能障害 知的障害 身振り サイン 発語

児童生徒の状況

・側彎(前彎,右凸)がある。左足股関節亜脱臼。全介助を必要とする。(身)

・左手の麻痺が強く,活動は主に右手で行う。(身)

・斜視があり右側よりに視線がいきやすく,手元を見ながらの作業は苦手。(環)

・興味の幅が狭く,特定の活動以外はすぐにやめてしまう。(心)

・中一の秋から食形態がかわり水分はとろみをつけ,ご飯はおかゆ食,おかずは一口大にカット

して食べている。(健)

・理解言語は多いが表出言語は少ない。(コ)

・人と関わることが好きで,簡単な身振りやサインで,コミュニケーションをとることができる。(コ)

・周りにいる教員に対しては自分から関わろうとするが,生徒に対しては自分から関わっていく

ことが苦手である。(人)

・簡単な単語「ばあば」「はい」「オッケー」は発語で伝えることができる。他にも教員の真似をし

て言うことができるが,発音が明瞭なときと,聞き取りにくいときがあり,まだ確実に伝えることは

難しい。(コ)

・やりたい気持ちが強いと筋緊張が強くなり,言葉もただ興奮して叫ぶだけになってしまう。

(コ)

不足している力,学力上生活上の困難さ

・側彎が進行してきており,自分の体の状態の理解も難しく,姿勢保持する力をつけにくい。

・興味の幅が狭く,一つの活動に集中して取り組むことが難しい。

・コミュニケーションの場面で表出言語が少なく,一つのサインに意味が複数ある場合があり,伝え

たいことが伝わりにくい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 身振りやサインと発語を組み合わせて二語文で伝える。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項

目 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1 )他者との関わり

の基礎に関するこ

と。

(4)感覚を総合的

に活用した周囲

の状況の把握に

関すること。

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂

行に関すること。

(2)言語の受容と

表出に関するこ

と。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①伝えたい気持ちを育む。 ②身振りやサインと発語で一

つの意味になるように行う。

③二語文にして身振りサ

インと発語で伝える。

41

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①伝えたい気持ちを育む。

・様々な人とサインや発語で伝えられるように意識して活動し,生徒と他の教員がやりとりをしているときは口をはさまず,見

守る。どうしても伝わらずに困ったら,間に入り,生徒が伝えたいことを確認し,身振りサインと発語を一緒に行う。

・好きな絵本の読み聞かせで日常よく使う簡単な言葉は,一緒に身振りサインと発語で行い,身振りサインと発語は一緒に

行うことを意識させる。

・お話し会を開催し,いろいろな人に聞いてもらう。

②身振りやサインと発語で一つの意味になるように行う。

・1つのサインに2つの意味があるサインを出してきたら,どちらの言葉を言いたいか聞き,YES NOで確認。今回は「本」と

「ブタ」,教室の「トイレ」と廊下の「トイレ」の2つを特に意識して行った。

・言葉をサインと一緒に言うように促す。そのとき,教員は口元とサインを生徒に見えるようにし,ゆっくり一緒に行う。

③二語文にして身振りサインと発語で伝える。

・単語で要求を知らせてくると,サインと言葉を一緒に行うように促し,教員も生徒が見える位置でゆっくり一緒に行う。次

に,単語をつなげて文にしてできるように,教員も一緒に行うようにする。今回は「絵本をお願いします」「ブタを探しに行き

たい」「トイレに行きたい」の要求に限定して行った。

指導の状況

①伝えたい気持ちを育む。

・サインと一緒に言ってみようと促すと,声を出して伝えようとすることができた。回数を重ねるごとに言葉が聞き取れること

も増えてきた。

・7月に居住地交流で「さるかに合戦」を披露した。緊張していたが,教員の言葉に合わせて身振りサインや発語でセリフ

を伝えることができた。今後も継続して,学年や学部でも行っていく予定である。

②身振りやサインと発語で一つの意味になるように行う。

・「本」と「ブタ」が同じサインのため,「本」は「ほん」,「ブタ」は「ブーブー」と言いながら,身振りサインが出来るように行って

きた。「ん」は口を閉じることを理解しているので,「ブタ」サインの後で手で口を押さえ、「ん」と言う回数が増えた。「ブーブ

ー」の発音は難しく,なかなか相手に聞き取れる発音にならず,繰り返しやらせることで,意欲をなくすこともあった。しかし,

伝えたい気持ちが強いときは,「ブーブー」と言おうと自分で声の出し方を探る様子もみられた。

・廊下のトイレの時は,トイレの身振りサインの後,廊下側を指さし「すわる」,教室のトイレの時は,教室のトイレを指さしなが

ら「きょうしつ」と言って伝えることは理解できた様子である。

③二語文にして身振りサインと発語で伝える。

「本」「トイレ」のサインをしてきたら,「教員,絵本をお願いします。」「トイレに行きたい。」をつなげてするように促し,一緒

に行った。出来そうな時は,教員は身振りサインはせず,音声のみにし,それに合わせて生徒は身振りサインと発語を行っ

た。

成果

・「本」+「お願いします」や「本」+「聞きたい」+「お願いします」のように,単語をつなげて身振りサインができるようにな

ってきた。また,発語も聴き取れることが増えてきた。

・いろいろな人に話しを聞いてもらうことで,自信に繋がり,表情も豊かになり身振りサインや発語が増えた。

今後の展望

・発語に関しては,口を閉じる,唇の振動を感じる等の活動を楽しみながらできるように取り組んでいきたい。

・日常的によく使う言葉は,身振りサインや言葉で伝えられるようにしていきたい。また,確実な内言語を増やし感情面で

の表出ができるよう,カードや iPadなども使っていきたい。

(平成 27 年度 広島県立広島特別支援学校)

42

実 践 名 座ってリラックスしよう

中学部2年 (キーワード) 脳性麻痺 発声 呼吸障害 姿勢保持 姿勢ケア 呼吸介助

児童生徒の状況

・経鼻経管からの注入,鼻腔・口腔内吸引,坐薬等の医療的ケアが必要である。(健)

・左側凸状に側彎が進行しており,筋緊張が強く,同じ姿勢を長時間保つことが困難

である。(身)

・両肩周りが特に固く,右肩が右耳側に接近している。また,左側の肋骨と骨盤が重

なり合うように屈曲しており,左腕が身体の下方に落ち込んでいる。左腕は自分で動

かすことが困難であり,左側の肺が広がりにくい。(身)

・四肢の関節は,手術を受けているが,曲げたり動かしたりすることは難しい。(身)

・過緊張からくる身体の痛みや,注入後など体温が高くなったときに不快感を表す声

を出す。(コ)

・抱きかかえると,表情が穏やかになる,気持ちよさそうな声が出るなど,快を表す。

(人)(コ)

・近くで話しかけると声に気づき,注視したり笑顔になったりする。 (環)(コ)

・右手を口の辺りまで持ち上げる,両足をわずかに動かす,首を左右に若干動かすな

どは自分でできる。しかし,寝返りなどの大きな動きは難しい。(身)

・大きな音には敏感で,眠っていてもびっくりして起きることがある。(環)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・筋緊張が強く,側彎がかなり進行しており,同じ姿勢を長時間取ることが難しい。

・胸筋が広がらず,呼吸が浅くなりがちである。

・周囲からの刺激が少ないと,覚醒が落ちる。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・リラックスして,笑顔や気持ちよさそうな声が出る。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズム

や生活習慣の形

成に関すること。

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーションの基礎的能力に

関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①指導者が抱きかかえ,ボー

ルポジションにする。

②指導者が抱きかかえ,うつ伏

せ姿勢にする。

③ベンチ椅子を活用して座位を

とらせ,胸や左腰を広げる。

④両肩や腰の過緊張を緩ま

せ,リラックスさせる。

43

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①~④を行う際には注入時を避け,顔色や発作の状況等を確認してから行う。また,行った後には

覚醒することが多いので,発作の誘発とならないよう,生徒の健康状態を確認しながら無理のない程度

で行う。

①指導者が抱きかかえ,ボールポジションにする。

・抱きかかえる際には,ベッドの端やベンチ椅子等,座位が広く安定した場所で行う。

・上体が後ろへ反り返らないように,首の後ろを教員が腕や指で支えて座位に近い姿勢にする。

・内側へ向かって丸くなるようなイメージで,胸を上から下へなでる。

・呼吸の状態を確認しながら,生徒の呼吸のリズムに合わせてなでる。

②指導者が抱きかかえ,うつ伏せ姿勢にする。

・うつ伏せ姿勢を行う際は,痰や鼻水が出やすくなるので,体調に応じて行う。また抱きかかえた感触

で,身体の緊張状態を把握する。

・股関節が脱臼しているので,左足が右足の下へ落ち込まないように注意する。

・痰や鼻汁でむせることのないように,注意する。

③ベンチ椅子を活用して座位をとらせ,胸や左腰を広げる。

・ベンチ椅子を活用して自分で座位をとらせ,教員が後ろから支えるように抱きかかえる。上体を立てる

ときには,左腰に負担がかからない程度にする。また,両腕が前方に出るようにして,なるべく正面に向

くように座らせる。

・両脇の下へ教員の手を入れ,両腕を広げるようにして,胸を広げる。また,上体を上へ引き上げるイメ

ージで,左腰の屈曲を伸ばす。

・生徒の呼吸の状態や顔色,表情などを確認しながら行う。

④両肩や腰の過緊張が緩み,リラックスする。

・緊張が強い時には,緩むまでに少し時間が必要なので,抱えている感触で生徒の状態をつかみ,無

理のない程度で行う。

指導の状況

①緊張が強いときには,両肩がほとんど動かないため,マッサージやストレッチを行っても肩の拘縮を

和らげる効果はみられなかった。しかし,抱きかかえてボールポジションを取ると,身体の緊張が緩ん

で,肩が少し広がることが多かった。

②ニーリングアクションで行う腹臥位よりも,抱きかかえて行う腹臥位姿勢は,胸が圧迫されないため,

生徒にとって楽な姿勢のようだった。

③ベンチ椅子を活用して,自分で座位をとるようにすると,覚醒することが多かった。

④過緊張が緩んでくるまでには,20分~25分程度の時間が必要だった。

成果

①肩の緊張が少し緩み,若干広がることがあった。気持ちが落ち着き,深呼吸することがあった。

②痰や鼻汁が自然に出ることが多いので,吸引する回数が減少した。また,身体の負担が少ないため

か,穏やかな表情になることが多かった。

③呼吸が深く,ゆっくりになることが見て取れた。また,左腰が少し伸びて,全身の緊張が少し緩んだ。

④生徒と教員の顔が向き合う姿勢になるので,ゆっくりと話しかけると笑顔がみられたり,笑い声が出た

りする等,コミュニケーションをとることができた。

今後の

展望

仰臥位で過ごすことが多い本生徒にとって,ベンチ椅子を活用したうつ伏せや座位は,姿勢変

換を行う際には有効である。上体を立て,正面を向くことで視野も広がり,視覚によりいろい

ろな刺激を受けることができる。また,覚醒することが多いため,今後も取組を継続していく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

44

実 践 名 掴んでみよう

中学部3年 (キーワード) 視覚障害(光覚) 水頭症による体幹機能障害

児童生徒の状況

・身体全体に低緊張であり,姿勢,特に頭部を支えることが難しい。(身)

・両下肢は過敏がある。(身)

・両上肢は自分で動かすことができる。(身)

・重さのあるものは持ち上げることが難しい。(身)

・物を掴んで振ることや物を掴んで放すことができる。(環)

・視覚障害があるが,スイッチを押すこと,目が合うと微笑む等ができる。(環)(人)

・嫌な時や自分の世界に入っている時は,手の指を口の中に入れる。(情)

・突然の拍手や笑い声などに驚き,大きな声を出すことがある。(心)(人)

・自分にかけられた声だと感じた言葉掛けに対して,声による応答ができる。(人)(コ)

・動いている時など,機嫌が良い時は,自分からよく声を出す。(コ)

・言葉にはならないが,反応を期待してやり取りを楽しむことができる。(人)(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・周りの物事への興味関心はあるが,予期せぬ出来事に合うと,固まって泣き出してしまう。

・周囲の人に自分の思いをわかりやすく伝えることが難しい。

・身体全体は低緊張であるが,両下肢は緊張と過敏があるため,頭が下がりやすい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・両手でいろいろな感触,大きさ,硬さの物を触ったり,つかんだり,振ったりして,周りの

物事への興味関心と遊びの幅を広げる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①音の出るおもちゃを利用し,

自ら物に触れる機会を増やす。

②掴んで放す動作を繰り返す

ことで,手の操作性を高める。

③物のやり取りを通して,コミュ

ニケーションの力を高める。

45

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①ペットボトルのマラカスを掴んで振る。

・提示物を目の前で確認したり,音を出したりして確認させる。

・触ったり,動かしたりしたときに,音が出るものをより多く提示する。

・ペットボトルのマラカスは,中に大きめのビーズ等を入れることで,

しっかりと音を出して伝える。

②お手玉を掴んで放す。

・提示物を目の前で確認したり,音を出したりして確認させる。

・大きさの違うお手玉を用意する。

・中身にはプラスチックビーズ,梱包材など,軽くてつかみやすい素材

を入れる。

・中に鈴を入れることで,動かすと音が出るように工夫する。

・ゴミ袋にお手玉を複数いれて,大きなお手玉を作る。

座布団型お手玉の良さ

・中身の素材を工夫できる。 ・角ができることで掴みやすい。

・布の素材を工夫できる。 ・大きさ等を工夫できる。

・やりとりの工夫ができる。

③お手玉を利用し,「ください」の合図を決めて,やり取りをする。

「ください」の合図 ・手を2回たたく。

・両手を前に出して,「ください」の動作をする。

・「ください」と言葉掛けをする。

指導の状況

① 持ち手の棒が太くしっかりしているので,自分で持って振ることができていた。

音がしっかりとするので,継続して振ることができた。

② お手玉は,4枚の長方形の布を縫い合わせた形のものだと,角ができるため,ボールの形より,掴み

やすいようだった。音がするので,1人でお手玉を持って遊ぶことができた。ゴミ袋にいくつかお手玉

を入れて,大きなものを作った。ゴミ袋の音が良くするので,よく持って動かすことができた。

③ 目が合うと,「お手玉」を差し出そうとするしぐさがみられた。「ください」の合図や言葉掛けをすること

で,働き掛けを意識することや笑顔が出た。

成果

① 自ら何度も掴んで振り,音を出すことができた。他の同じような玩具でも,自ら振ることができた。

② お手玉はそれぞれの大きさのものを掴むことができた。繰り返しすることで,大きさの違うものや,お

手玉の数を増やして,掴んで放す練習ができた。大きなお手玉も腕を動かして掴み,動かそうとして

いた。おなかの上に置くと,掴んで床に降ろす動作ができた。

③ 手をたたき,両手を前に出す動作,「ください」の言葉掛けを聞くことで,教員に注目することができ

た。働き掛けを意識し,お手玉を差し出そうとする動作がみられた。

今後の展望

目の前に提示したり,音を出したりして知らせることで,自ら手を伸ばしたり,握ろうとする動きが,さら

にみられるようになった。継続して取り組むことで,他者を意識して,人に物を渡す動作につなげていき

たい。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

ペットボトルマラカス

大きさの違うお手玉

ゴミ袋に入れた

大きなお手玉

46

実 践 名 伝えてみよう

中学部3年 (キーワード) 低酸素脳症後遺症 視覚障害(光覚) 応答

児童生徒の状況

・視覚認知に困難があり,聴覚が優位である。(環)

・音や音楽を聴くことを好み,周囲の状況を掴むことや音楽を集中して聴くことができる。

・健康状態は良好であり,毎日一定のリズムで生活ができる。(健)

・左手は拘縮しているが,それ以外の上肢,両下肢は自分で動かすことができる。(身)

・右手は過敏があり,触れると手を引き上げる動作がある。(環)

・物を保持することが困難である。(身)

・暑さに弱く,熱が体内にこもりやすい。(健)

・身体の左側に麻痺があり,身体全体が左側に傾きがちになる。(身)

・感情表現が豊かであり,好きな音楽を聴くことや好きな活動をすると笑顔がみられる。気分の良

いときは「あー,うー」など声を出すことがある。(コ)

・泣くことや声を出すこと,口に手を入れることで拒否の感情を表す。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・活動の見通しが持ちにくい場合は,情緒を安定させることがやや難しい。

・自分から気持ちを切り替えて活動をすることがやや難しい。

・働き掛けに対して,的確に表現することがやや難しい。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・外部からの働き掛けを受け止め,表情や声等で落ち着いて思いを表出する。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。 (1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

に関すること。 (1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーションの

基礎 的能 力に関

すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①音を聴き,音の変化に気付く。 ②「動き」を取り入れたやり取りを通して,思いを伝

える。

47

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①取組 スイッチを活用する。(例:聴きなれた曲と静かなピアノ曲を交互にスイッチに入れる。)

【留意点】 始める前に生徒の手を持って,一緒にスイッチを押し,スイッチの位置を確認する。

②取組 ピーナツボールを活用する。

【留意点】

・生徒がやり取りに集中できる様に始まりや終わりの言葉掛けを決める。

・言葉掛けだけでは伝わりにくい場合は,身体に触れることで気付きを促す。

例:始まりは「せーの」と言葉掛けをして,お腹に「トントン」と手を2回触れる。

「せーの」と「トントン」を順序立てて行い,少しずつ間をあける。

・表情や動作を確認できるように,鏡等を置く。

指導の状況

①スイッチを押して,音を聴く。

1学期当初,スイッチには手が当たって音楽が鳴ることもあれば,自分から意図的に手で触れて鳴ら

していることもあった。2学期当初,好きな音楽は集中して聴いていたが,静かな音楽では,何度も手を

動かしてスイッチをたたいている場面もあった。曲を変えるとハッとした表情があり,変化に気付いた。歌

を耳元で歌うと静かにじっと聞き入った。2学期後半,距離を置いて歌うことや小さな声も集中して聞い

た。

②1学期当初は,「止まる」と「アー」と怒ったように感情を伴って声を出していた。声を出すタイミングも

早く,何度も声を出すことが多かった。2学期から,言葉掛けだけでは伝わりにくい様子があったので,

お腹に触れるようにした。お腹に触れることでより意図が伝わりやすい様子だった。

成果

①音の変化に気付き,音が止まるともう一度聞こうとスイッチに手で触れ,繰り返し音楽を聴くことができ

た。曲を変えると表情に変化がみられ,繰り返しスイッチに手で触れて確認するように聴いた。音楽の好

みはあるが,クラッシックの曲や歌声も集中して聴くことができた。

②初めは動きが止まるたびに怒っているような様子が見られた。繰り返し継続して取り組んだことで,動

き始める意図が伝わり,落ち着いて教員の声や動作を確認して,声を出すようになった。

今後の展望

・特定の教員だけでなく,他者との関わりを広げていく。

・手を伸ばして物に触れる等,スイッチ以外の方法で手を動かす活動を探り,興味や周囲の状況の理

解を広げていく。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

① スイッチを押して,次の音を聴く。

② 「うた」と言葉掛けをする。

③ 自らスイッチに手を触れて,音を聴く。

④ 最初の音が止まったことに気付かせる。 「止まったね」

⑤ 次の音を聞こうとする動作を待つ。

繰り返し,継続し

て取り組む

①ピーナツボールに乗り,上下に揺らす。

②ピーナツボールの動きを止める。

③生徒が「アー」と声を出す。

④再び動かす。

4月 9月~ 1月~3月末

・好きな歌 ・聞きなれた曲とピアノ曲を交互,呼名の呼びかけと歌 ・行事に合わせた歌,歌声

48

実 践 名 気持ちを伝えよう

高等部1年 (キーワード) 末梢神経変性疾患 知的障害 AAC VOCA タブレット端末

児童生徒の状況

・体温を自分で調節することが難しい。特に身体が冷えすぎると,体調が悪くなることがあ

る。(健)

・環境の変化や周りの視線によってプレッシャーを感じてしまい,本来の持てる力を発揮で

きなくなることがある。(心)

・初対面の人や,普段あまり接していない人から声を掛けられると,緊張して聞こえないふり

をする。(人)

・年齢を重ねるごとに筋力の低下が見られる。中学部に入ってからは,車椅子を自力で走

行するのが困難となった。(身)

・発語は見られないが,会話はほとんど理解することができる。(コ)

・表情や視線によって,意思表示や選択をすることができるが,伝わりにくい。(コ)

・6月に移動手段が自走式の車椅子から電動車椅子となった。中学部の頃から練習してい

たこともあり,周りの状況をよく見て,安全に走行が可能である。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・自分の意思を伝えることが苦手である。

・主体的にコミュニケーションを取ることが苦手である。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・主体的にあいさつをしたり,自分の意思を明確に伝えたりすることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(5)認知や行動の

手掛かりとなる概

念の形成に関する

こと。

(4)コミュニケーシ

ョン手段の選択と

活用に関するこ

と。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①要求や選択が明確に伝わる

ようなサインを獲得する。

②AAC(補助・代替コミュニケー

ション)を用いて,他者とあいさ

つを交わす習慣をつける。

③AAC(補助・代替コミュニケー

ション)を用いて,自分の気持

ちを表現し,他者とのやりとりを

広げる。

49

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①要求や選択が明確に伝わるようなサインを獲得する。

・指さし棒や○×札を用いて,本人の要求や選択を引き出し,主体的な行動を促すようにした。やり取り

の方法を大きく変えず,継続して指導した。

②AAC(補助・代替コミュニケーション)を用いて,他者とあいさつを交わす習慣をつける。

・スーパートーカーを活用した。「おはようございます」「いただきます」「ごちそうさまでした」「さようなら」

等の基本的なあいさつを習慣付けさせた。画像は視覚的に認知しやすいドロップシンボルを使用した。

③AAC(補助・代替コミュニケーション)を用いて,自分の気持ちを表現し,他者とのやりとりを広げる。

・タブレット端末(iPad)を活用した。アプリ「ねえ、きいて」を端末にインストールし,音声シンボルによる

コミュニケーションを図った。あいさつや感情等,よく使用するカテゴリを整理し,オリジナルページを作

成することで扱いやすくした。

指導の状況

①要求や選択が明確に伝わるようなサインを獲得する。

・指さし棒や○×札を提示すると,笑顔になり,興味・関心を持っている様子だった。

・登下校の際,指さし棒を持たせて進行方向を示すように言葉掛けをすると,笑顔を見せ,積極的に自

分の行きたい方向を示した。また,○×札を用いて選択させると,普段に比べ視線の動きが大きくなり,

本人の意思が読み取りやすくなった。

②AAC(補助・代替コミュニケーション)を用いて,他者とあいさつを交わす習慣をつける。

・シンボルとあいさつを対応させ,場面に応じたあいさつの練習をした。

・登下校や給食の際に,あいさつをするように促した。

③AAC(補助・代替コミュニケーション)を用いて,自分の気持ちを表現し,他者とのやりとりを広げる。

・タブレット端末のロック解除,オリジナルページへの移動等,難しい操作については,教員が支援を行

うが,あいさつの選択については,本人に考えさせた。

成果

①指さし等で,要求を明確に伝えることができるようにする。

・視線や表情による意思の表出が大きくなり,わかりやすく伝えられるようになった。

②補助・代替コミュニケーションを用いて,他者とあいさつを交わすことができるようにする。

・シンボルを見て機器のボタンを押し,場面に応じたあいさつをすることができるようになった。

・笑顔で,コミュニケーションを楽しむ姿が見られた。

③AAC(補助・代替コミュニケーション)を用いて,自分の気持ちを表現し,他者とのやりとりを広げる。

・自分の気持ちが相手に伝わる実感を得た様子で,笑顔が見られた。

・他者とのやりとりの幅が広がり,タブレット端末によるコミュニケーションだけではなく,身振りや表情に

よる表出も多く見られるようになった。

今後の展望

・タブレット端末を使用している際,フリック操作が難しそうなので,使用時の姿勢について,見直す必

要がある。車椅子にスタンドをつけて,端末を固定する等工夫していきたい。

・将来,常にタブレット端末を持つとは限らない。タブレット端末をコミュニケーション手段の「一つ」とし

て,他の様々なコミュニケーション手段(表情,身振り等)が育っていけばと願っている。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

50

実 践 名 言葉を聞いて,表情で応じよう!

高等部1年 (キーワード) 脳性麻痺 視覚障害(光覚) 知的障害 要求 言語理解

児童生徒の状況

・体調は安定しており,高等部入学以降体調不良での欠席はない。しかし,体温調節が苦

手で,熱がこもりやすく手先足先は冷えやすい。(健)

・視覚は光を感じる程度。太陽の強い光や暗い部屋での光を眩しそうにする。目の前で画

用紙や絵カード,iPadの動画等を提示した際は反応なし。(環)

・聴覚は問題なし。ひそひそ声で話す教員の声に笑顔になる等,よく聴こえている。(環)

・身体は左凸の側彎,腰椎の前彎,上肢・手指の拘縮や変形がある。また,気持ちが高ぶっ

たときに,全身に強く緊張が入りやすく,身体的制限が多い。(身)

・鈴や太鼓等の楽器,歌,トランポリン,絵本の読み聞かせ等,好きな活動が多くあり,表情

豊かに気持ちを表出する。特に人と関わる活動が好きで,同じ活動でも人が体に触れてい

たり,近くで言葉掛けしていたりすると笑顔や発声等で嬉しい気持ちを表出する。(心)

・人は好き。常にというわけではないが,大人の声に対して表情で反応することができる。

時々だが声を出して反応することもある。家族や慣れた教員,声をよく聞く友人等の声には

特に笑顔で反応することから,周囲の環境を意識している様子が伺える。(環)(コ)

・暗闇での強い光や1人きりで周囲に人がいないときが苦手で,眉間に皺を寄せたり泣いた

りして嫌だ,寂しいという気持ちを表出する。周囲に人がいないときに,「あー」と人を呼ぶよ

うな声を出すことがある。(心)(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・身体に緊張が強く入ってしまい,学習や食事等の活動に集中できない。

・言葉掛け(問いかけ)に対してどれも「はい」(笑顔)で応えてしまう。特定の言葉を理解しているわ

けではなく,聴きなれている声や音に反応しているだけなので,選択や要求ができない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・わかる言葉を増やす。

・言葉に表情で応じる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①身体の力を抜き,リラック

スして過ごすことで,教員の

言葉掛けに集中する。

②言葉掛けの後の行動を繰り

返し,決まった言葉と物・行動を

結び付ける。

③決まった言葉掛けに対して表情

で応答する。

51

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①身体の力を抜き,リラックスして過ごすことで,教員の言葉掛けに集中する。

・側臥位や腹臥位等の比較的楽な姿勢を取り,「ゆるゆる」「はあ~」「力抜いて」等言葉掛けをしながら

マッサージやストレッチをする。姿勢変換の時間に注意する。

②言葉と物,行動を結び付ける。

・意識させたい言葉を選定する。条件としては,学校で毎日繰り返しの機会があること,卒業しても活用

できる言葉であること,子供にとってメリットがあり,印象付けがしやすいことである。 その条件に合わせ

て「お茶」,「牛乳」,「もう一回」,「終わり」,「トランポリン」,「歌」,「絵本」を選定した。活動前(飲む前,

終わる前)に必ず「お茶」,「牛乳」」,「トランポリン」,「歌」,「絵本」,「もう一回」,「終わり」と言葉掛けを

する。言葉を入りやすくするために,「お茶」,「牛乳」の時はストローボトルを口に当てる,「トランポリン」

のときはトランポリンに乗る等合図を決める。

・「言葉掛けしてから行動」,出来るだけ毎日繰り返し,言葉と行動を結び付けさせる。

③決まった言葉掛けに対して表情で応答する。

・笑顔の表出が「YES」の意思表示だと捉えられることを子供に意識させる。子供にとって絶対好きな活

動(トランポリン)の際,「もう一回する?」と言葉掛けし,笑顔の表出が見られたときだけもう一回する。活

動を終わりにするときは「終わりにする?」と聞き,笑顔が見られたときは終わりにする。

指導の状況

①「お茶」,「牛乳」,「トランポリン」,「歌」,「絵本」

・決まった言葉掛けの後,言葉掛け通りの行動をすると笑顔。

決まった言葉掛けの後,違う行動をすると不思議そうな顔,

その後正解の行動をすると笑顔になった。

(例) 「お茶」と言いながら牛乳を飲ませると(あれ?)という顔をし,

その後「牛乳」と言いながら牛乳を飲ませると笑顔になった。

子供(あ~やっぱり牛乳だよね,合ってた。)

②トランポリン,歌での「もう一回する?」 「終わりにする?」

・「もう一回する?」には笑顔や発声で「YES」の意志を

伝えることが出来た。「終わりにする?」の時は言葉掛けには

気が付いている様子だが,表情を変えず,反応が薄かった。

「もう一回」は好きな遊びが繰り返される合図,「終わり」は

遊びが終わってしまう合図だと理解している様子だった。

③「する?」「しない?」

・トランポリンする?」「トランポリンしない?」や

「本読む?」「絵本読まない?」にはどちらにも笑顔

になった。動詞の理解はやはり難しいようだった。

成果

① 「お茶」,「牛乳」,「トランポリン」,「歌」,「絵本」という言葉と物が結びついた。

②「もう一回」と「終わり」の合図を理解し,好きな遊びがしたいという気持ちを伝えることができた。

今後の展望

・学習に集中する時間を増やすためにも,体の緊張を緩め,リラックスして過ごす時間を増やす。

・「もう一回する?」「終わりにする?」をもっといろんな場面で使う。(食事,遊び)

・反応を返せる(理解して応答できる)言葉を増やす。 「着る」,「脱ぐ」,「(車椅子)乗る」,「降りる」,

「食べる」,「食べない」,「いる」,「いらない」等。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

「トランポリンする

よ」

トランポリンをする

子供の表出:笑顔

「もう一回

する?」

「終わりに

する?」

トランポリ

ンをする

トランポリ

ンをしない

②の活動の例

子供:

笑顔

子供:笑顔

YES

!

子供:

無反応

NO

!

52

実 践 名 良い姿勢を意識して生活しよう

高等部1年 (キーワード) 脳性麻痺 姿勢保持

児童生徒の状況

・学校での移動は,車いすでの自走。自宅での移動は,手すりでの伝い歩きが主。(健・身)

・排泄は自立している。 (立位等の維持のため,体重コントロールに配慮する必要がある。)

・学校では両短下肢装具をしている。(健)

・両股・膝関節リリースにより,下肢が伸展しやすくフットステップから下肢が落ちることが多

い。また,その下肢を直そうとする意欲があまり見られない。(健・心)

・授業中は,本人に任せながら椅子に座り替えている。

・授業中等,継続して姿勢を保持することが難しい。(健)

・体育や身体を動かすこと,スポーツが好きである。

・漢字を読むことやアルファベットの理解が苦手。

・授業中等,集中力の維持が難しい。

・身の回りの整理整頓や,次の活動へ向けての段取りや見通しを持つことが難しい。

・指示を理解することが難しい。また理解していても,行動に移すことや自分の考えを言うこ

とにためらいがあり,周りに合わせる行動がよく見られる。(人)

・興味のある話題等は,意欲的に参加し,会話を楽しむことができる。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・学習や生活の中での困難を改善・克服する意欲。

・立位等,基本的な運動能力や筋力。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 自分自身の身体のことを知り,自ら姿勢を直そうとすることができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(2)病気の状態の

理解と生活管理に

関すること。

(3)障害による学

習又は生活上の

困難を改善・克服

する意欲に関する

こと。

(3)自己の理解と

行動の調整に関

すること。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①日常生活において,正しい姿

勢等,言葉掛け等を通して指導

する。

②決められたメニューで体幹を

中心に身体を指導者と動か

す。

③ビデオや写真で,自身の姿

勢等を振り返る。

53

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①日常生活において,正しい姿勢等,言葉掛け等を通して指導する。

授業中 車いすと机の距離,両下肢がフットステップに乗っていること,椅子に座り替えた際の両下肢,姿

勢を変えた後や何か作業に取り組んでいる時等を中心に言葉掛けを継続して行う。

また,授業の始め,終わりの号令時に姿勢の確認を行う。

移動中 移動時やフットステップから下肢が落ちた際を中心に,車いすに座る位置,下肢を戻す等の継続

した言葉掛けを行う。

車いすへの乗降前後 車いすに座る位置を「自分が思っているよりもあと一回深く座ってみて。」と継続的

に言葉掛けを行う。また,フットステップの上げ下げも留意する。

②決められたメニューで体幹を中心に身体を指導者と動かす。

・写真や留意点が書いてあるメニュー表を作成し,そのメニュー表に

従いながら指導者と体を動かす。

・体幹を意識するメニューでは後方から身体を支え,「この位置まで

身体を戻そう。」等と言葉掛けを行う。

③ビデオや写真で,自身の姿勢等を振り返る。

①の指導⇒ 日常生活での姿勢を写真に撮り,良い時の姿勢と比較する。

②の指導⇒ 活動中をビデオに記録し,生徒と振り返りを行う。

指導の状況

①日常生活において,正しい姿勢等,言葉掛け等を通して指導する。

授業中 言葉掛けがあることで,直すことはできているが長い時間の維持は難しい。また,個人名を挙げな

くても姿勢を直そうとするようになってきた。椅子に座り替えた後に椅子をまっすぐにすることが難し

く,「直してください。」と教員に支援を求める行動は見られない。

⇒支援を求めない際は,机を身体に引くよう促している。

移動中 気温が下がるにつれ,下肢が伸びやすくフットステップから落ちることが増えてきた。それに対し

て,自ら直そうとする意識は低い。移動開始時や止まった際に言葉掛けを継続して行っている。

車いすへの乗降前後 「自分が思っているよりもあと一回深く座ってみて。」と継続的に言葉掛けを行うこと

で,意識できるようになってきた。乗降の際のフットステップを下げることも習慣になり

つつある。⇒継続的な言葉掛けが必要である。

②決められたメニューで体幹を中心に身体を指導者と動かす。

メニュー表があることで,やらなくてはいけないことは理解ができているが,

細かな秒数や回数について,指導者が別の生徒の支援をしていると怠って

いる部分が見られた。

体幹を後方から支え,「この位置まで身体を戻そう。」と言葉掛けをするこ

とで,指定した位置まで戻そうと努力する姿勢が見られた。

③ビデオや写真で,自身の姿勢等を振り返る。

①の指導⇒一度車いすに深く腰掛けている写真を撮り,見せることで深く座るように意識できるようになっ

た。

②の指導⇒ビデオで自分自身の身体の動きを見ることで,もう少し腕を上げる等,自ら課題を上げることは

難しいが,指導者が言うことについて理解が進んできている。

成果

・少しずつ姿勢を意識する行動(授業の号令時に,椅子を机に近づけることや机を体に寄せること,移動時

にフットステップからずれた下肢を戻す行動)が見られるようになってきて,自身の身体に対する関心が少し

ずつついてきた。

・正座の状態から手を付き,身体を戻す経験を積み重ねたことで,徐々に戻す位置や身体の動かし方の理

解が進んできた。

今後の展望

・生活する中で,姿勢についての意識や関心を高めていき,自身の体重コントロールの必要性や将来の自身の姿を意識して,生活できるよう指導していく。 ・自立活動メニュー表を使う活動の中で,支援がなくても意識して活動できるように指導していく。 一つ一つのメニューの意味や意識してほしいところをより明確にわかりやすく提示する。また,身体を動かす中で,下肢により意識がいくようなメニューを取り入れ,より興味を持てるような活動内容も考えていく。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

54

実 践 名 いろいろな人にプレゼントしよう

高等部2年 (キーワード) 二分脊椎による両下肢障害 膀胱・直腸機能障害 知的障害

児童生徒の状況

・褥瘡の手術を中学の時に行った。痛みを感じることができないので再発しないよう注意が

必要である。20 分ごとのプッシュアップや車いすから降りて休息する時間を設けている。

(健)

・何事にもまじめにコツコツと取り組むことができる。(心)

・手先が器用で手芸などの作業学習が得意である。(身)

・ネックレスや指輪等の小物やファッションに興味がある。(人)

・大きな音が苦手だが,耳をふさぐ等自分で対応を考えることができる。(健)

・人と話をするのが好きだが,自分からはなかなか積極的になれない。しかし,特定の人に

はとても積極的に声をかけ,会話を楽しむことができる。(コ)

・楽しく話をすることができるが,授業等で自分の意見や気持ちを聞かれるとうまく表現でき

ないことや声が小さくなり自信のない様子が見られる。(コ)

・友だちやまわりのことを気にかけることができる。周りの雰囲気を感じとることもできるが,遠

慮がちなところがある。(人)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・特定の人とは自分から積極的にコミニュケーションがとれるが,それ以外の人と話す際には顔が上

がらないことが多い。

・自分の気持ちや要求を相手に伝えることに苦手意識をもっている。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・いろいろな人と関わり,コミニュケーションの幅を広げる

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(3)自己の理解と

行動の調整に関

すること。

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

に関すること。

(5)状況に応じた

コミュニケーション

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①自分の興味関心や得意なこ

とを伝え,それをいかしてゴム

ブレスレット作りに取り組む。

②友だちや教員へのプレゼント

用にブレスレットを作ることで自

信をつける。

③プレゼントを渡したり,依頼を

受けるたりすることを通して

様々な人とかかわる。

55

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①自分の興味・関心のあることや得意なことを伝え,それをいかしてゴムブレスレット作りに取り組む。

・かわいい小物やファッションに興味があることから,生徒と話をしながら流行のゴムのブレスレット作りを

行うことに決めた。また,1年生の時にはビーズのブレスレットを作ったことがあり,スムーズに行うことが

できると考えた。

②友だちや教員へのプレゼント用にブレスレットを作ることで自信をつける。

・はじめは自分のものを作り,クラスの友だち,学年の友だち,教員と広げていく。

・無理にではなく,生徒自身の作りたいという気持ちを引出し,大切にする。

③プレゼントを渡したり,依頼を受けたりすることを通して様々な人とかかわる。

・「いつ」「どうやって」渡すのか完成した後のことも一緒に考え見通しと安心感を持たせる。

指導の状況

①自分の興味関心のあることや得意なことを伝え,それをいかしてゴムブレスレット作りに取り組む。

・はじめは,好きなこと興味があることについて本人から具体的な提案はなかったが,話をしていくうち

に生徒から自分のやりたいことを伝えることができるようになってきた。

・ゴムブレスレットについてタブレッット等で調べることによってさらに意欲が増してきた。

②友だちや教員へのプレゼント用にブレスレットを作ることで自信をつける。

・誰に作ってプレゼントしたいか最初は教員と一緒に考えたが,徐々に自分から提案できるようになって

きた。

・自分の特技をいかしたプレゼントを作り,もらった人が喜んでくれるのでさらに意欲が増した。

③プレゼントを渡したり,依頼を受けたりすることを通して様々な人と関わる。

・たくさんの人から依頼があったときは,不安な様子が見られたので,一緒に順番を整理することで安心

し落ち着いて取り組むことができた。

・はじめは依頼者と話すのが恥ずかしく,担任の顔を見ることが多かったが,聞くことを決めておくとスム

ーズにやりとりができるようになり,徐々に決めていなくても自然にやり取りができるようになってきた。

成果

①自分の興味関心のあることや得意なことを伝え,それをいかしてゴムブレスレット作りに取り組む。

・自分で作りたいものを伝えることができるようになってきた。また,自分で決めたということもあり,とても

意欲的に作ることができた。

②友だちや教員へのプレゼント用にブレスレットを作ることで自信をつける。

・プレゼントすることで相手が喜んでくれることが自分の喜びになっていった。そして,そのことが自信へ

とつながっていった。

③プレゼントを渡したり,依頼を受けたりすることを通して様々な人とかかわる。

・たくさんの人から依頼があり,今まではあまりかかわる機会がなかった友だちや教員と話ができる機会

が増えた。顔をあげて話をできることも増えた。また,担任との話のなかで「○○さん喜んでくれたかな」

や「○○教員つけてないなぁ」などプレゼントした相手のことを気にかけるようになった。

今後の展望

・卒業後をイメージし,生徒が様々な経験を通し,自信を持ってできる作業等を増やしたい。

・学部を超えてたくさんの人と話をしながら,コミュニケーションの取り方を身につけていけるようにしてい

く。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

56

実 践 名 なにかあるかな?手で探索しよう

高等部2年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 視覚障害(光覚) 外界への気付き 空間認知 探索

児童生徒の状況

・睡眠のリズムか崩れやすく,日中でも覚醒が下がることがある(健)

・両下肢は脱臼しており,右上肢は麻痺し硬縮している。座位保持椅子を使用し,移動・食

事・排泄は介助を要する。(健)

・左手におもちゃを持たせると,噛んだり,振って鳴らしたりして遊ぶことができる。(心)(身)

・床で座位姿勢を自分でとることができる。左手を床について,左方向に回転するように摺り這

いをするが,移動方向に意図はあまり見られず,這う動きによって全身で感じる振動を求めた

自己刺激的な行動となっている。(身)

・床で座位姿勢をとっているときに,遊んでいるおもちゃを落とすと,時々左手で床を探索す

る様子が見られるが,ほとんどは落としたらあきらめてしまう。(心)(環)(身)

・物を掴むと口に持っていき,噛んだり歯にあてたりして感覚を確かめる。(環)

・視覚障害があり,視力は強い光を感じる程度であると思われる。聴覚と触覚を使い,環境を

把握している。音のした方向に顔を向ける。(環)

・快不快は表情や発声の声色,身振りで表出し,周囲の人が読み取ることができる。揺れ刺激

や音刺激に対して快表情を表出しやすい。(心)(コ)

・言葉掛けに対して安定して声を返すことができる。前触れの言葉に対しては一定の反応を

みせることがあるが,言葉の理解はほとんどないと思われる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・視覚障害(光覚)ゆえに空間認知力が弱く,自分から周囲の環境に手を伸ばすことが少ない。

・自己刺激的行為に集中してしまい,外界に注意を向けられないことがある。

・前触れとして言葉を理解でき始めているが,言葉の意味理解はできていない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・左手での探索活動を増やす。空間認知力を高める。(左側平面→上方)

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(2)状況の理解と

変化への対応に

関すること。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①おもちゃを提示する位置を固

定する。(平面)

②おもちゃを落とした時に,お

もちゃに手を導いて触らせる。

(平面)

③三角マットを立て,床平面か

らマットをたどらせ上方への手

の探索を促す。(上方)

57

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

① おもちゃを提示する位置を固定する。(平面)

座位を取ったときに,本人が左手を伸ばしやすい左膝の横の床におもちゃを置く。

② おもちゃを落としたときに,おもちゃに手を導いて触らせる。(平面)

おもちゃを落としたり投げてしまったりして手から離れたら,教員がおもちゃを手の届く

位置まで持ってきて,再び手を導いて「あるよ」と言って触らせる。

③ 三角マットを立て,床からマットをたどらせ上方への手の探索を促す。(上方)

摺り這いをしたときに身体に当たって気付くように,本人の左側に三角マットで壁を作

る。視覚障害があるため,支援なしで吊るされたおもちゃに気付くことは難しい。

マットは手を上方向に伸ばす為のガイドとする。マットに手を導いて触らせる。

壁におもちゃをたらし,おもちゃを鳴らす等,本人が興味を向けて手を伸ばそう

と思うような場面を作る。

指導の状況

① 活動の始めに手のマッサージや,手をつないでの遊びなどを行い,手に触られることに慣れさせてか

ら,本人の手を導いておもちゃに触らせるようにした。おもちゃを常に同じ位置に置き,手を導いて触らせる

ことを繰り返していくうちに,おもちゃを提示する位置に自分から手を伸ばし,床を触ることが増えてきた。

② 最初はおもちゃを落としたり,投げたりして手から離れると,おもちゃに対する注意や興味が逸れてしま

いがちだった。おもちゃを落とす→教員が手の届く位置に戻す→再び手に触れておもちゃに気付く→遊ぶ

という流れを繰り返していくと,おもちゃを落としてしまったときに,「あれ?どこにいったの?」と本人が左手で

床を触っておもちゃを探す様子が多く見られるようになった。

③ 生徒は吊るされたおもちゃに手で触って気付くのではなく,顔に当たったおもちゃに気付き,顔の位置

に手を伸すことでおもちゃを掴めることがわかった。

身体を揺らしている時に,マットが顔に当たる(何かあるぞ?)

→何度も口でマットを確かめる(何だろう・・・)

→おもちゃが顔にあたる(あれ?何か口のあたりにある)

→教員:おもちゃを鳴らす(こっちから音がするぞ?)

→手が伸びる(あ!なんかあった!!)

繰り返していくうちに,おもちゃに手が触れて音がすると何度も手を伸ばして触ってみたり,掴んでひっぱ

ってみたりするようになった。快の表情も見られ,本人の中で活動が楽しい遊びに代わっていった。

成果

①② おもちゃを提示しなくても,本人から見て左前方や左側面の床に自分で手を伸ばし「なにかあるか

も?」と探索活動をすることが増えてきた。手を伸ばして探索している時に,その探索しているあたりに教員

がおもちゃを提示し,本人にとって「偶然おもちゃを見つける」体験を積ませることで,さらに手での探索活動

が強化されていった。

③ おもちゃが顔に当たって,おもちゃの存在に気付けることがわかった。一度顔におもちゃが当たると,お

もちゃに気付き,上方に手を伸ばして何度もおもちゃを触って遊ぶことができるようになってきた。

⇒手での探索活動が増え,探索できる範囲も広がってきた。(空間認知の高まり)

今後の展望

・本人の意識できる空間を広めるために,遊びの中で様々な方向からおもちゃを提示してみる。

・卒業に向けて,自己刺激的な行為だけで満足するのではなく,近くにある好きなおもちゃを自分で探

して掴み,遊べるようになって欲しい。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

③吊るすおもちゃ 音やトゲトゲで聴覚や触覚で楽しめるようにしています。また口に持っていきやすいので,素材や大きさなど安全面に配慮して作っています。

あった!!

58

実 践 名 身体のことを把握しよう

高等部2年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 姿勢保持 歩行 ベンチ椅子

児童生徒の状況

・気温の変化に弱く,寒冷蕁麻疹がある。(健)

・便秘しやすい(定期的に浣腸している)。(健)

・水分補給が不足すると,体調不良になり活動が停止する。(健)

・今後の進路について不安になることもあるが,自分が自立し将来家族と暮らしたい気持ち

が強い。

・自分の好きなことをして過ごす時間を持つことで,落ち着いて活動することができる。(心)

・友だちの気持ちを考えることができるが,不用意に発言して相手を不快にしてしまうことも

ある。(人,コ)

・未体験の事柄は,できないという思いが先行して尻込みするが,慣れるとできるようになる

ことが多い。(環)

・身長が伸び緊張が強まる事で,体幹の維持が困難になる。(健,身)

・移動については車椅子自走で行うことが多い。スロープや,登下校送迎時,荷物を持って

いる時は介助を必要とする。

・発音が不明瞭になることもあるが,ことばで表現することができる。(コ)

・場に応じて丁寧なことば遣いをすることができるが,日常生活ではまだ十分に活用できて

いない。(人,コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・ 水分補給が不足すると,体調不良になり活動が停止する。

・ 身体の緊張が強く,体幹の維持が難しいことがある。

・ 場に応じて丁寧なことば遣いをすることができるが,日常生活ではまだ十分に活用できていな

い。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・自分の体の状態を把握し,座位の姿勢・体の動かし方を意識する。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)生活のリズム

や生活習慣の形

成に関すること。

(2)姿勢保持と運

動・動作の補助的

手段の活用に関

すること。

(2)言語の受容と

表出に関するこ

と。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①自分の体の状態を把握す

る。

②ストレッチを行い,体の硬い

ところや動かしにくいところをほ

ぐす。

③体幹を維持するために,姿

勢に気を付ける。

59

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①自分の体の状態を把握する。

・水分チェック表を作成し,記録を付けさせて水分が不足しないように意識させる。

・姿勢が固定化しているので,マットに降りたりベンチ椅子に座ったりして姿勢を変えることで,肩や腰

等固まっているところに気付かせるようにする。

②ストレッチを行い,体の硬いところや動かしにくいところをほぐす。

・マットに降りて,リラックスした姿勢で横になる。

・四つ這いで,背中のストレッチをする。

・ベンチ椅子で,肩甲骨のストレッチをする。

③体幹を維持するために,姿勢に気を付ける。

・左側に傾くので,まっすぐになるように意識させる。

・トランポリンでは,倒れないことを意識させる。

・ベンチ椅子で座位姿勢をとる。

指導の状況

水分補給

・水分補給は好きではないが徐々に自分から水分をとるようになってきている。(9月~)

姿勢保持

・言葉かけをしなくても自分で座り直しをすることがある。また,自分から肩や腰が痛いなどと伝えてくる

ようになった。(7月~)

ベンチ椅子

・肩甲骨を意識させながら,ゆっくりと腕を上下させている。腕を支えてあげることで,10回数えてやろう

と促しながら行った。また,座位姿勢をとらせ,上体が傾かないように意識させている。

・姿勢が安定しないと「怖い」と言い,指導者の足を掴んだり,体に寄り掛かったりする。足をしっかり踏

んばらせて,上体を起こし安定性を図った。

ストレッチ

・時間を決めてマットで横になって,リラックスした姿勢をとるようにしている。(6月~)

・体の硬いところや動かしにくいところをほぐす。

・背中や腰を伸ばしてリラックスすることで,意欲的に活動に取り組めている。

トランポリン

・揺れを感じながら自分で体を支える取り組みを行っている。

・不安定だからいつも手を持ってほしいと訴える。なるべく一人で体を支えるようにし,一人で行うときに

は揺れはゆっくりにする。安定しているときには強めにするときもある。

成果

①水分補給では,決まった時間に水分を取ることが出来るようになった。自分から水分を「飲む」と言える

ことが増えてきた。

②好きな活動には意欲的であるが,苦手意識がある活動には全く取り組もうとしなかったが,本人のペー

スで進めていくことで少しではあるが出来ることが増えた。

③トランポリンでの活動では,安定して体を支えることが出来る時間が増えた。

今後の展望

・体重が増加してきているので,体重の管理と本人への意識付けが必要。

・苦手意識のある活動にも,時間をかけて取り組んで,身体を自分で管理する癖をつける。

・苦手な活動の時に「いや」や「おしまい」だけではなく,苦手な理由などを相手に伝えられるように指導

していく。

(平成27年度 広島県立西条特別支援学校)

60

実 践 名 演奏できる部分を増やそう

高等部2年 (キーワード) 脳性まひ 両上肢運動機能障害 楽器の演奏 学習課題への取り組み

児童生徒の状況

・座位保持椅子を使用している。

・自分にはできないことが多いが,いろいろな勉強を自分の力でやりたいと思っている。

・日常生活などで自分の気持ちを吐き出せず,その蓄積が情緒や身体に不定愁訴として表

れやすい。(健)

・身体介助について,自分で細かいことまで説明することができる。(環)

・右利きである。握り幅は小さい。文字を書くときには,鉛筆や細いペンを使用している。(環)

・授業や作業に集中して取り組むことができるが,頑張りすぎて右手首の痛みにつながること

がある。そのため,ペース配分に配慮が必要である。(身)

・音楽を聴いたり歌を歌ったりすることが好きである。音楽の授業に意欲的に取り組むことが

できる。

・CDや教員の歌に合わせて歌唱したり楽器を操作したりすることを理解している。

・器楽に関しては,卓上キーボードの演奏を好む。練習も真面目に取り組む。右手の人差し

指のみで打鍵する。手の可動域は狭く,指を動かすはやさ速さもゆっくりである。

・昨年度より楽器演奏では音の名前と音の長さが視覚的にわかるような図形楽譜を使用し

ている。

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・うまくいかない時に気分が落ち込むことがある。

・楽器を演奏する時に,困っていることを伝えられない時がある。

・楽器演奏に関して,利き手の可動域や運指の速さに制限がある。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 個人目標を達成する経験を重ねながら,意欲的に課題に取り組むことができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(3)障害による学

習又は生活上の

困難を改善・克服

する意欲に関する

こと。

(3)感覚の補助及

び代行手段の活

用に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①演奏しやすい方法を考えさせたり,選択さ

せたりする。

②目標や見通しをもって練習に取り組む。

61

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①演奏しやすい方法を考えさせたり,選択させたりする。

・演奏しやすい楽譜上の工夫,楽器の位置や角度等について考える。

・自分の思いや気持ちなどを授業者や周囲に伝えることができるように言葉かけをする。

②目標や見通しをもって練習に取り組む。

・毎時間の個人目標を設定させ振り返らせることで,自信をもって演奏できる部分を増やす。

・授業やコンサートの後に楽器演奏の記録をつける。

・演奏できている部分や練習の態度などを授業者が肯定的に評価する。

指導の状況

① 演奏しやすい方法を考えさせたり,選択させたりする。

・1 つ 1 つの音の色を決め楽譜に色を塗る,同じ色のシールをキーボードに貼る,キーボードの端の片

方を少し上げる等,演奏しやすい方法を授業者と相談して決めた。新しい題材では演奏の前の楽譜や

楽器の準備がスムーズになってきた。

・安定しているわけではないが,自分に合った支援の方法,困っていること等を授業者や周囲の人に伝

えられるようになってきている。

←鍵盤には楽譜の音と同じ色

のシールを貼っている。座位

保持椅子に机を付けて楽器を

置いている。スポンジを使って

右上を上げる。

↑演奏練習の前に,各音の色を決めて塗る。

② 目標や見通しをもって練習に取り組む。

・毎時間目標を設定することは難しかった。可能な限り,器楽を

扱う授業では個人目標を立てさせ,目標・チェックシートに記入

させたり,口頭により確認したりした。そして,授業の終わりに振

り返らせた。

・その時の状態を授業者がうまく把握できず,ちょうど良い目標

設定ができないことがあり,結果として気分が落ち込む場面が

見られた。しかし,目標が達成できた時は満足できた様子であ

り,次の時間も意欲的に取り組むことができた。

成果

・演奏しやすい楽譜の工夫,楽器の置き方が決まったため,練習前に必要な準備ができるようになっ

た。それによりスムーズに楽器の練習に入れるようになった。

・毎回実施できているわけではないが,その時間の個人目標が達成でき,演奏ができる部分を増やす

ことがでると,次の学習の意欲へとつなげることができた。

・毎時間目標が達成できないこともあるが,キーボードを演奏し曲を仕上げることが生徒の自信につな

がっている。

今後の展望

・楽譜や楽器の工夫や目標設定の時に,授業者が提案する場面が多かった。生徒本人が考え判断す

る時間を十分確保する必要がある。

・個人目標の設定とチェックに関しては口頭で行うことが多かった。毎時間の学習の成果を記録してい

くことで,できるようになったことを振り返って確認することができる。自己目標・チェックシートを書く取り

組みを継続したい。

(平成 27 年度 広島県立西条特別支援学校)

62

実 践 名 声を出して応えよう

高等部2年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 視覚障害(光覚) 要求 発声 タブレット端末

児童生徒の状況

・両下肢は脱臼しており,右上肢は麻痺し硬縮している。座位保持椅子を使用し,移動・食

事・排泄は介助を要する。左上肢は随意に動かすことができ,左手で物を掴む等の操作がで

きる。左手を床につき,身体を支えて仰臥位から座位への姿勢変換をすることができる。(身)

・視覚障害があり,視力は強い光を感じる程度であると思われる。聴覚と触覚を使い,環境を

把握している。(環)

・快不快は表情や発声の声色,身振りで表出し,周囲の人が読み取ることができる。揺れ刺

激や音刺激に対して快表情を表出しやすい。(心・コ)

・言葉掛けに対して声を返すことは時々あるが,安定して返すことはできない。言葉の理解は

ほとんどないと思われる。(コ)

《課題関連図》

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・人,物,音や環境に注意を向けないことが多い。 ・人に対する志向性(愛着)が薄い。 ・発声はできるが,他者へのコミュニケーションツールとなっていない。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

言葉掛けに対して,声を出して応える ・人に対して興味を向ける。 ・人を意識して声を出すことが,相手に思いを伝える手段であると気付く。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に関すること。 (2)状況の理解と変化への対応に関すること。

(1)他者とのかかわりの基礎関すること。

(2)感覚や認知の特性への対応に関すること。

(1)コミュニケーションの基礎的能力に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な 指導内容

①やりとりのある活動 ②音に対して注意を向ける活

③言葉かけに対して,声を出し

て応える活動

《人》人に対する志向性(愛着)が薄い。

《環》音に対して注意を向けられないことがある。

《コ》発声はできるが,他者へのコミュニケーションツールとなっていない。

《身》座位は自力で取れるが,円背で崩れやすい。

《環》左手に物が触れれば握ろうとするが,探索活動をすることが少ない。

《心》人・物・音や環境に注意を向けないことが多い。

《健》睡眠のリズムか崩れやすく,日中でも覚醒が下がる

《心》外の世界への興味が少なく,自己刺激や常同行為を行いがち。

《心》安定した定位反応ができない

63

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①やりとりのある活動(平成 26 年4月~)

→言葉掛けされていることに気付く,人に気付く,人に向かって意図をもって声を出す

本人の出した声を真似する遊びや,呼名(抑揚やリズムを面白く)→声を出す→呼名→声を出す・・・等やりとりの遊び。

②音に注意を向ける活動(平成 26 年5月~)

→音を選択して受容する力をつける,教員の言葉掛けに安定して注意を向けられるようになる

タブレット端末の効果音のアプリで快表情の見られる音を見つける。「聴くよ」の前触れの後に音を流す。「聴くよ」という

前触れで音が出ることに気付いてきたら,前触れから音を流すまでの間を5秒ほどあけ,注意を持続できるようにする。

③言葉かけに対して,声を出して応える活動(平成 26 年5月~)

→自分が問われていることに気付く,“声を出す”ことで,次の活動が変化する経験を重ねる

タブレット端末の効果音アプリやピーナッツボールの活動等で,遊びを中断した時に「もう一回?」と問いかける→声での

応答があったら活動を繰り返す。応答がなければ活動を終わる。

指導の状況

①やりとりのある活動

・「あー」「ガーッ」「ちちちー」等本人の発声を真似して耳元で返すと声に気付き,こちらに顔を向けた。高等部入学後に

初めて担任(声)を意識できた関わりだった。1ヵ月後には,こちらが声を返すのを途中でやめると,もう一度同じ声を出し

て声が返ってくるのを待つ様子が見られた。ひっぱりっこやピーナッツボールの活動も合わせて行い,一緒にスキンシッ

プをとりながら活動する時間を増やし,担任教員を意識させた。

②音に注意を向ける活動 ③言葉掛けに対して,声を出して応える活動

H26 年 5-9月 10 月 12 月 H27 年 3月 7月

《音への注

意》

・音への注意は安定しない。 ・「聴くよ」という前 触 れ に 気 付かない。

・音がすると「はっ」とした表情をして動きが止まることがある。

・「聴くよ」の前触れをすると自己刺激をやめる。 ・他の前触れも理解し始める。

・他の音のする環境の中でも,言葉掛けや呼名に気付き注意を向ける。

・「聴くよ」の前触れの後に 10 秒程度注意を持続できる。(他の前触れも)

《 「 も う 一

回?」への

応答》

・反応はなくても,本人の表情や様子から繰り返した。

・楽し くて声が出 た 時 に 教 員が 返 事 と 読 み取り,繰り返した。

・手を握り返す。 ・顔を向ける。 ・時々声を出す。

・「もう一回?」に対して声を出すことを7回繰り返す。

・「もう一回?」という言葉を聞いてから,安定して声を出す。

《好きな音》

・人の吐息 ・トランペットの短いメロディ ・音階

・チャイム ・不気味な笑い声 ・和音(2・3 音)

・ 二 部 合 唱 の 曲の一部で快表情が見られるようになる。

・オルゴールのメロディ

・曲 ・単音の繰り返しにはあまり興味を向けなくなる。

・②③の取組が進むと,声の真似に対してだけでなく,呼

名・言葉掛けにも声を出して返すようになった。

・「聞くよ」と耳元で言葉掛けをすると,自己刺激や身体

の動きを止め,音に注意を向けるようになった。

成果

・担任教員を意識した動きや,言葉掛けに対して声を返すことが増えた。

・遊びを中断したときに,「もう一回?」という言葉掛けをすると,声で応答することがおおよそできている。

・教員からの呼名や,言葉掛けをよく聴くことができるようにになった。また,聴いてから返事をするように声を出すことが

多くなった。会話のようなやりとりができるようになってきた。

今後の展望

・声での応答を安定させ,より明確な要求の表出,YES/NOの表出につなげてく。

・音に対して安定して注意を向けられるようになってきたので,前触れや名称の言葉かけから,言葉の理解を増やしてい

く。

(平成 27 年度 広島県立福山特別支援学校)

動物の音 Arpie ピタゴラうた

アプリ

活動に使用したアプリ(一部)

64

実 践 名 右半身を意識しよう

高等部2年 (キーワード) 脳性麻痺 知的障害 麻痺側への注意 身体の動き

児童生徒の状況

・ 食事や排せつ,着替えなど身辺自立が一人でできる。

・ 校内での移動は車椅子の自走が主である。

・ スポーツや球技が好きである。(特にバスケットボールと野球)

・ 自分の好きなこと,興味のあるものについては積極的に話をしたり,取り組んだりすること

ができる。

・ 左利きということもあり,右手をあまり使えておらず,作業など左手に頼って活動することが

ある。(身)

・ 右側への不注意が多く,行動に時間がかかる。(環)

・ 座位で活動すると左半身に力が入り,傾き,ねじれたような姿勢になることがある。(身)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・ 右側への不注意が多く,行動に時間がかかる。

・ 座位の姿勢が悪く,集中力が切れてしまう。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標

・右側を使う活動を増やし,右側を意識させる。

・正しい姿勢で活動する時間を増やす。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(4)健康状態の維

持,改善に関する

こと。

(3)障害による学

習上又は生活上

の困難を改善・克

服する意欲に関す

ること。

(3)自己の理解と

行動の調整に関

すること。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能

に関すること。

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

に関すること。

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①右側を意識させる活動 ②基礎体力の保持,増進

腹筋,背筋,体幹トレーニングを行う

65

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

①右手を使ったキャッチボール

クラスでの自立活動で高等部1年次から全員でキャッチボールに取り組んでいる。生徒と教員で円を作

って行う。本人から見て,右側にいる友達には右手で,左側にいる友達には左手で投げることをルール

にする。

②右側に注意を払うキーワード集め

車椅子を自走しながらキーワードの書かれたカードを集めていくゲーム。

キーワードを全て集めた答えは生徒の好きなスポーツに関するものになっている。(プロ野球選手の名

前やNBAのチーム名など)あらかじめ,右回りコースを

決めておく。コース右側にキーワードの書かれたカード

を壁に貼っておき右手でカードをとるようにする。

③筋力トレーニング・体幹トレーニング

目標回数や秒数を決め,取り組ませる。今どこに力が入

っているか確認させながら取り組ませる。

指導の状況

①右手を使ったキャッチボール

本人の好きな活動ということもあり,意欲的に取り組んでいる。左手でのキャッチボールでは距離感やコ

ントロールが定まらず,うまく投げられないことが多かったが,回数を重ねるうちに友達が捕りやすいとこ

ろに投げる回数が増えた。

②右側に注意を払うキーワード集め

5枚のキーワードを集めるようにしている。活動の回数はまだ十分ではないが5枚中1枚~2枚カードを

見落とすことがある。タイムを意識すると見落とすことが多いがタイムは少しずつ短くなっている。

③筋力トレーニング・体幹トレーニング

自分で目標回数や秒数を高く設定し,取り組むことができている。

成果

①右手を使ったキャッチボール

右手でのキャッチボールでは投げる距離も伸び,回数を増やしてもコントロール良く投げることができる

ようになってきた。

②右側に注意を払うキーワード集め

タイムを意識しながら取り組むことができている。今後はタイムだけにこだわらず,できるだけ見落としを

少なくすることも目標に設定しながら取り組んでいく。

③筋力トレーニング・体幹トレーニング

自分に合った目標を設定し,取り組めている。

手立て全体を通してまだまだ実践回数が少ないので,引き続き取り組んでいく。

今後の展望

・OT連携で長年の習慣で身についた左側優位の身体の使い方を崩していくのは,本人の精神的な負

担が大きいので,負担になり過ぎないようにと指導をいただいた。本人の様子を見ながら今後も取り組

んでいきたい。

(平成 27 年度 広島県立広島特別支援学校)

66

実 践 名 見よう,手を伸ばそう,つまんで入れよう ~野菜の収穫を通して~

高等部3年 (キーワード) 脳性麻痺 小脳萎縮 知的障害 提示物への注視 指先の動き

児童生徒の状況

・体調は安定しており,ほとんど休むことなく登校することができている。(健)

・興味があるものには一定時間注視することができる。

・人や物を注視することもあり,人の動きにも興味をもって追視できることもあるが,視線を合

わせると目を背ける場合が多い。(環)

・興味があるものに対してなんとなく手を伸ばして掴もうとする様子がみられる。

・不適切な筋緊張はなく,肘を手前に曲げ,両腕を上げるしぐさがよく見られる。(身)

・ゆっくりではあるが,手を伸ばして親指でスイッチを押す動きや,筆などの活動に必要な用

具を握ることができる。(身)

・好きな音楽や映像を観て快の表情を表出することはあるが,何かを成し遂げたときなどの

達成感や成功体験を味わう経験が少ない。

・新しい場所や活動場面で不安な時は,友達の様子を見ることで安心したり見通しを持った

りしている。(心)

・気分が高揚すると,手足を緊張させて喜んだり,特定の言葉を発声して感情を表現する場

面がよく見られる。(コ)

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・教師が提示したものを続けることは難しい。

・物を見ながら手を伸ばして,指先で作業することが不十分。

・自分の身体を支えられるような基礎体力の維持・増進が必要。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・教師が提示したものを見て,手を伸ばしてつまむことができる。

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

保有する感覚の活用に関すること

姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること 作業に必要な動作と円滑な遂行

選定された項目を関連付け具体的な指導内容を設定

具体的な

指導内容

①トマトをつまみ,トレ

ーに入れる。

②トマトをつまみ,支援

器具へ落とす。

③トマトの袋詰めを行

う。

④収穫から袋詰めまで

を一連の流れで行う。

67

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

① トマトをつまみ,トレーに入れる。

・ブラックボードを苗の後ろに差し込む。

・ベンチ椅子を利用し生徒の目線に合わせる。

② トマトをつまみ,支援器具へ落とす。

・支援器具は腕を移動しなければ届かない場所へ設置する。

・トレーを机の上に乗せ,トマトをつまむ時に注視できるようにする。

③ トマトの袋詰めを行う。

・体の正中線を越えて入れることができるよう生徒の左側へ袋を置く。

・トマトを一つずつ確実につまむことができるよう,教員の手のひらの上にトマトを置き生徒に提示する。

④ 収穫から袋詰めまでを一連の流れで行う。

指導の状況

① トマトをつまみ,トレーに入れる。

・ブラックボードなどの視覚的な支援を行うことで,目的物を注視する場面が増えてきた。言葉かけと身

体を誘導することによりスムーズにトマトへ手を伸ばすことができている。

・様々な学習活動を通して目的物へ手を伸ばすことができてきた。

② トマトをつまみ,支援器具へ落とす。

・自立活動で取り組むボッチャでは,ボールを持ち自分の右側に設置してあるランプスへ落とすことで

きた。この動作を活用し,支援器具を生徒の右側へ設置してそこへトマトを落とすことにより袋詰めをす

ることを目標とした。トマトをつまみ支援器具まで運ぶことができる場合もあるが,失敗する場合もある。

③ トマトの袋詰めを行う。

・以前までは体の正中線を越えて物を運ぶことはできなかった。しかし,継続して取り組むことにより,少

し正中線を越えて運ぶことができるようになった。この身体の動きを活用して袋詰めを行った。

④ 収穫から袋詰めまでを一連の流れで行う。

・目的物の注視や手元の注視をすることはできなかった。作業中の注視については今後の課題となる。

しかし,トマトをつまむ・引っ張る・正中線を越え落とすなどの一連の流れで取り組むことができた。

成果

・視覚的な支援を行うことで目的物を注視する場面が増えてきた。

・トマトをつまむ・引っ張る・正中線を越えてトマトを袋に落とすなど,身に付けた動作を活用して野菜の

収穫に取り組むことができた。学習の最後には,教員の言葉かけに対して表情が緩むなど達成感を感

じている様子がみられた。

今後の展望

・チェックリストの課題については今後も継続して取り組んでいく。特に4環境の把握①保有する感覚の

活用に関すること・人や物を注視するでは,視覚的な支援や適切な言葉かけなどを行うことにより,注

視しながら作業に取り組むことができるようにする。

・身に付けた動作を表現活動など様々な学習場面へ活用する。

(平成27年度 広島県立広島特別支援学校)

68

平成 27年夏,広島県立リハビリテーションセンターを会場として,広島県内の特別支援教育を推

進している教職員を対象とした,第3回となる自立活動実践報告研究会を開催しました。

その目的は,広島県内の肢体不自由特別支援学校3校(広島特別支援学校,西条特別支援学

校,福山特別支援学校)等で取り組んでいる自立活動について,各校の具体的な実践を共有し,

専門性を向上することで,広島県全域における特別支援教育の充実を図ることです。

以下は,平成 27年8月 24日に開催した報告研究会の記録です。

第2章 自立活動実践報告研究会 報告

69

平成 27年度

第3回 自立活動 実践報告研究会

【目的】

広島県内の肢体不自由特別支援学校3校(広島特別支援学校,

西条特別支援学校,福山特別支援学校)等で取り組んでいる自

立活動について,各校の具体的な実践を共有し,専門性を向上

することで,広島県全域における特別支援教育の充実を図る。

平成 27年 8月 24日

10:00~16:30

広島県立西条特別支援学校

広島県東広島市西条町田口 314

℡ 082-425-1377

日程及び内容

9:30 10:00 10:20 11:20 12:20 13:20 14:20 15:20 15:30 16:10 16:30

受付

開会行事

講話

実践報告Ⅰ

2例

広島特別

支援学校

休憩・昼食

実践報告Ⅱ

2例

西条特別

支援学校

実践報告Ⅲ

2例

福山特別

支援学校

休憩

3校

学校企画

閉会行事

70

1 開会行事

(1) 開式の辞 司会

(2) 事務局校校長挨拶 広島県立福山特別支援学校 校長 我妻 享

(3) 来賓紹介・挨拶

来賓 広島大学 教育学研究科 特別支援教育学講座

専任講師 船橋 篤彦 様

広島県教育委員会事務局 教育部特別支援教育課

指導主事 下山 真弓 様

(5) 閉式の辞 司会

2 講 話 「自立活動の指導を究める~広島モデルを全国へ~」

広島大学 教育学研究科 特別支援教育学講座

専任講師 船橋 篤彦 様

3 実践報告

実践報告Ⅰ 広島特別支援学校

・抜いてみよう! 入れてみよう!

・やりたいことを伝えよう

実践報告Ⅱ 西条特別支援学校

・いろいろな姿勢をとろう~教師との関わりを通して~

・いっぱい動きたい(立位・歩行)をサポート

実践報告Ⅲ 福山特別支援学校

・伝えてみよう

・声を出して応えよう

4 3校学校企画

次ページに詳細

5 閉会行事

(1) 開式の辞

(2) 講評 広島県教育委員会事務局 教育部特別支援教育課

指導主事 下山 真弓様

(3) 開催校校長挨拶 広島県立西条特別支援学校 校長 立石 均

(4) 閉式の辞 司会

日程及び内容

9:30 10:00 10:20 11:20 12:20 13:20 14:20 15:20 15:30 16:10 16:30

受付

開会行事

講話

実践報告Ⅰ

2例

広島特別

支援学校

休憩・昼食

実践報告Ⅱ

2例

西条特別

支援学校

実践報告Ⅲ

2例

福山特別

支援学校

休憩

3校

学校企画

閉会行事

平成 27 年度 第3回 自立活動実践報告研究会 次第

71

概要報告

1 開会行事

○事務局校校長挨拶 広島県立福山特別支援学校 校長 我妻 享

【挨拶要旨】

皆様,おはようございます。本日は夏休みの後半で非常に御多用の中,約 90 名の皆様が県内からこの第3回

自立活動実践報告研究会に御参加いただきました。本研究会は広島県の肢体不自由3校が自立活動の取組を

実践共有することによって,専門性の向上を目指し,始めたところです。今年度から県内の小中学校全てに御案

内致しまして,本会に御参加をいただいております。この研究会が,充実した時間になりますように祈念しておりま

す。

この研究会は,年々実践のレベルが少しずつ上がってきていると感じております。私も昨年度から参加して,や

はり実践を共有することによってお互いの実践が各校に行きわたって,お互いがお互い同士広島県全体をレベル

アップしているということで,非常に意義がある会だと思います。実は先週,全国特別支援教育学校 PTA 校長会

の研修会が行われました。そこで,文部科学省の調査官,分藤調査官がこの3校の取組に非常に興味をもたれて

おりまして,3校の取組が充実するように,また,(非常に興味をもっておられて)是非参加したいとお伺いしました。

たくさんの広島県の実践が全国に広まっていくというようなことも,今後考えなければというように思っております。

本日は充実した研修になりますように祈念致します。本日はどうぞ,よろしくお願い致します。

○来賓挨拶 広島県教育委員会 特別支援教育課 山下 睦子 様

代読 広島県教育委員会事務局教育部特別支援教育課 指導主事 下山真弓 様

【挨拶要旨】

肢体不自由特別支援学校合同の,自立活動実践報告研究会が,盛大に開催されますことを,心からお慶び申

し上げます。また,本日御参会の皆様方には,日頃から特別支援教育の推進のために御尽力いただいておりま

すことに対し,深く敬意を表します。

本研究会は,平成 25 年にスタートを切り,今年は第3回目の開催となります。この間,参加者は年々参加し,今

年度は 82 名の申込があったとお聞きしました。この数は,本研究会への期待の高さを示すとともに,その期待に

応え続けている成果と考えます。

さて,本県では,「広島で学んでよかったと思える日本一の教育県の創造」を目指して,現状に満足することなく,

さらにステップアップしていこうと取り組んでいるところです。また,昨年 12 月には,広島版「学びの変革」アクショ

ン・プランを作成致しました。変化の激しい 21 世紀の社会の中で,子供たちが生涯にわたって主体的に学び続け,

他者と協調して新しいものを創造することができるよう,全県で取組を推進しているところです。お集まりの皆様に

は,障害のある幼児児童生徒の自立活動における主体的な学びについて実践交流され,研究協議を深められる

ことは誠に意義深く,今後も活発かつ具体的な取組がなされ,それが県全体で大きな動きになることを期待してお

ります。

最後になりましたが,本研究会が,教育研究と人材育成における大きな役割を果たされるとともに,広島県全体

の特別支援教育のますますの発展と充実を期待しております。

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2 講話 「自立活動の指導を究める~広島モデルを全国へ~」

広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座 船橋 篤彦 様

【講話要旨】

自立活動実践報告研究会は,広島県立の肢体不自由特別支援学校が「3校しかない」ことを最大限に活用し,

3校が一緒にやってみる,互いに活用していくといった取り組みです。また,当研究会は自立活動に特化した教員

の学びの場です。自立活動の指導スキルの向上は,教育活動全体の指導スキルの向上に繋がりやすくなります。

昨年度の川口 辰之進教員の講話の中に,「欲求の高い子ども」が印象的なフレーズとしてありました。初期の

子どもは欲求を要求手段に変える難しさがあります。「欲深い子ども」になるためには,「何度も要求する」「どこでも

要求する」ことや,新たな表出手段を学習する機会が必要です。

「自立活動の時間における指導」(時間割に自立活動の時間を設けて指導)は高い専門性が必要とされるイメー

ジがあり,経験の浅い教師が手をつけにくい印象を与えます。一方,「自立活動の指導」(学校の教育活動全体を

通じて指導)は参考になる活動が多いため,経験の浅い教師も手をつけやすいのですが,「自立活動の時間にお

ける指導」に繋げていくことに難しさがあります。一つ一つの場面を見るとそれなりに子供も成長していて,教師も

色々な手立てが浮かんできますが,指導間で繋がる手ごたえが薄くなります。また,難しさの背景には障害の重い

子供が般化しにくいことがあります。自立活動の時間に姿勢やコミュニケーションの指導を繰り返し行っても,なか

なか生活場面に般化しにくい実態があります。般化は「いつでも」「どこでも」「誰とでも」子供達が反応することを目

指すものではなく,「学びの繋がり」に変換することが求められています。子供達の「今なら,わかる」「今なら,でき

そう」を様々な場面で引き出すことが大切です。引き出すのに長い時間がかかる子供もいますし,長い時間の中

で教師が支援を変えすぎてしまうと繋がりにくい子供もいます。

「究める」は,今現状でここまでは考え切った,達したということだと思います。自立活動を究めるためには,自分

も手ごたえのある教育がしたいという強い欲求を持ち,「執念深い」教師になることが大切です。子供達の「変化」

(成長)が教師を成長させるという信念から離れ,教師も貪欲に成功体験を求めることが子供に大きな恩恵をもたら

します。また,いい実践を見て,自分の実践で難しいと感じている点はどこなのだろうか等を照らし合わせながら考

えることが,究める上で必要なポイントになります。

3校を束ねていくことは広島県の肢体不自由教育を束ねていくことに繋がります。各校の強みを上手く生か

しながら広島県の肢体不自由教育を束ね,ハイジプロジェクト(Hiroshima Jiritsu Katsudo Project)を中国地方

へ,そして全国へ発信していきましょう。

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3 実践報告

肢体不自由特別支援学校である広島特別支援学校,福山特別支援学校,西条特別支援学校の3校から2名

ずつ実践報告を行いました。実践報告後には6名程度のグループで意見交流をし,それぞれのグループで様々な

意見を出し合いました。その後,全体で意見交流をし,様々な意見を全体で共有しました。以下に実践報告のまとめ

や発表に対する意見等を示します。

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なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・学習到達度チェックリストを活用し,客観的に実態把握

を行い,評価につなげている。

・5段階のスモールステップで目標設定を行い,ゴールへ

の見通しを持って,指導に繋げることができていた。

・「どこに注目していいのか分からない→方向性の確認」

「物をどうしていいか分からない→終わりを理解する,

操作経験を積む」等の実態把握から,具体的な目標設定

に結びつけることができていた。

・発達段階や興味関心等,子供の実態把握に基づく指導の

手立て(スモールステップ)がなされている。

・一貫して課題を継続し取り組み,目標が達成できるよう

になっていった。

・方向性を把握するという目標に対して,棒を入れたり抜

いたりする活動が効果的だった。

・最後に好きな活動をすることで,課題に対して意欲的に

取り組むことができていた。

・子供の学びの経過に合わせて,段階的に教材に変化をつ

けていた。

・活動の終点が分かりやすい教材で,見通しを持つことが

できていた。

・視線がそれやすく,手元の作業が難しいという実態から,

子供の好きな物を取り入れた教材を作成し,それにより

意欲が向上していた。

・子供が課題を達成した時,常に同じ方法で即時に評価を

していたことで,子供自身もできたことを認識でき,意

欲につながっていた。

・ビデオでの記録により,子供の変化が客観的に評価でき

ていた。

・「学習上,生活上の困難さ」,日頃の観察と手がかり⇒発

達の意義⇒取組(目標,手立て,評価)のプロセスが適

確で指導の方向性の根拠となっていた。

・第一期~第二期~第三期の期間が短い中で,子供の実態

に適切な教材が作られ,それに対して結果が出ていた。

・指導過程を期で分けており,子供の変化について整理で

きていて,発表としてとても分かりやすかった。

○もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・学習到達度チェックリストの段階・意義との関連につい

て。

・たくさんある課題の中で目標設定をどのように行ったの

か。

・指さし以外の指示について。

・指導の経過で,変化がおきた要因が詳しく知りたい。

・課題を対象児が理解したのはいつ頃か。

・操作経験の支援をどのくらいしたか。(量,質の変化)

・この課題をやり続けるよう,どう子供に動機付けをして

きたか。

・今後の取り組みとしてどのような活動を増やして学びの

つながりを作るのか。

・教材の提示,固定等の配慮点について知りたい。

・子供の変化がおきた要因がもう少し詳しく知りたい。

・学習到達度チェックリストのスコアのアップとこの課題

との関係の分析を知りたい。

・今後の日常生活の中で,どのように生かしていくのか,

生かされているのか。

・取組以外の場面での変化はあったのか。

・取り組んだ時間・回数(1日のうち何分くらい,総回数)

・この支援を行っていた時の子供の姿勢の支援について。

・指導の経過でうまくいかなかったところをどう改善した

のか。

実践名:抜いてみよう!入れてみよう!

②輪を抜く,入れる

棒に通した輪を抜いて,容器に入れる。

指導目標:手元を見ながら,「抜く」「入れる」の操作をすることができる。

②輪を筒から引き抜き,容器に入れる。

輪をビニールテープで作成することで,児童が指先にひ

っかけて操作することができるようにした。また,輪を底上げ

することで抜きやすくした。

活動を始めた当初は,児童の意欲を高めるため,児童の

好きなバロンテープを割いたものを筒に取り付けた。

①棒を抜く,入れる

穴にはめた棒を抜き,容器に入れる。

①穴に刺した2本の棒を抜き,抜いた棒を容器に入れる。1

本目は教員が支援しながら,2本目は自力で行う。

「抜く」と「入れる」の活動を連動させて終わりが分かりやす

いよう,抜いた棒を入れる容器を隣に用意した。容器の範囲

が分かりやすいよう黄色く縁取りし,棒を入れる範囲を徐々に

狭めて難易度を上げた。

具体的な指導内容

78

なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・子供の実態把握が適切にされており,子供が行動を起こして,

その後,達成案を味わうことができているように感じた。

・目標を2つに絞って取り組んでいた。

・身振りと発語を組み合わせて自らの思いを表現することがで

きるようになる取り組みで,子供が自発的にコミュニケーション

をしようとする意欲につながっていた。

・表出を細かく整理し,子供の伝えたい気持ち,やりやすいサ

インを大切にしていることで,能動的なコミュニケーションにつ

ながっている。

・一つのサインに複数の場合を一つにしていく丁寧な指導,身

振りと発語,意味をその都度教員が意味づけし,理解に結び

付けていく取り組みが参考になった。

・子供が大好きな活動をしたいという要求から,身振りサインで

伝えようと意欲的に取り組ませたことで,子供の達成感を強く

持たせることができたのではと思う。

・伝えたい気持ちを育むために,子供が役割を持ってお話会

で披露する場面を設けていた点。

・表出手段が子供の中で明確に相手に伝えられるようになって

本人の自信がつき,主体的な動きが促せるのではないかと思

った。

・サインをつなげることで発語以外のコミュニケーションが増え

たこと,発語そのものも増えている。

・取組を継続することにより,発語面での成果が見られたことな

ど,子供に変化があった。

・中学部の段階できちんと卒業後の生活が意識されている。子

供の将来像を考え,卒業後に目指す姿を念頭に置かれた指

導がとても良いと思った。

・サインをイラストにして,できたら描き足していく,教室に掲示

して担任間で共有するというプロセスが参考になった。

・「サインの活用→補助具の使用へ」のように,将来を見据えて,

指導されていた。

○もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・理解言語の実態把握の方法について知りたい。

・なぜ,一つのサインを複数の意味で使っていたのか。

・単語から二語文への理解の段階まで,ステップアップに

つながったが,工夫された点や難しかった点を知りたい。

・サインや発語の種類を増やす取り組み,発語の明瞭化,

日常生活で伝えたい気持ちを引き出す取り組みについ

て知りたい。

・サインを出す人の幅は広がったのか。

・サインは教員の方から提示し,教えていったのか。新し

いものを獲得させる時どうやっていったのか。

・初期の段階の指導(動機付け)はどうだったのか

・生きていくために必要な言葉(痛い,お腹すいた)にも

結び付けることができているのか。

・一般的に伝わりやすいサインやタブレット端末等の支援

機器の活用とつなげていくことはできているのか。

・補助的手段の活用として今後卒業後に向けてどのように

取り組むか。

・絵カードの使い方について知りたい。

・緊張の強い子供であるが,発語などしやすい姿勢などあ

るか。

具体的な指導内容

実践名:やりたいことを伝えよう

①伝えたい気持ちを育む。

②身振りやサインと発語で一つの意味になるようにする。

③二語文にして身振りサインと発語で伝える。

指導目標:身振りやサインと発語を組み合わせて二語文で伝える。

①生徒と担任以外の教

員がサインや発語でや

りとりをする。

よく使う簡単な言葉

は,教員と一緒にサイン

と発語を合わせて行う。

②1つのサインに2つの意味があるサインを出

してきたら,どちらの言葉を言いたいか聞き,

YES NOで確認する。

言葉をサインと一緒に言うように促す。その

とき,教員は口元とサインを生徒に見えるように

し,ゆっくり一緒に行う。

③2つの単語とサインを用いて要求を表す。

単語で要求を知らせてくると,サインと言

葉を一緒に行うように促し,教員もゆっくり一

緒に行う。

教員と一緒に2つの単語とサインを表す。

79

なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・「いろいろな姿勢」の目標に対して,触覚過敏,心理的な安定

など身体の動き以外でも実態把握していたのが良かった。よ

く実態把握がされているからこそ手立てが的確,修正もうまく

いけたと思う。

・児童の実態から目標設定し,目標に「特定の教師」という文言

を設定したことがなるほどと思った。次の目標へのステップア

ップを予測できる

・目標が具体的なので評価がしやすい。

・「過敏」についての支援で,児童が好きなトランポリン等を活

用し,教師とのやりとりの中で手の平や足への圧迫刺激を受

け入れたり姿勢変換をしたりする力を育む視点はすごいなあ

と感じた。

・繰り返しの活動や同じ声掛けによって児童に見通しをもたせ

ることで,自信を持って取り組めていた。

・身体接触のあるかかわり遊びや手遊びを繰り返し行うこと,児

童の動きや表出を待つこと,意欲を引き出させる言葉掛けを

すること等の手立てによって,教師とのかかわりが快になり,

児童が主体的に活動できるようになっていた。

・教師の手にタッチ, 10 まで,○○の端までと頑張る目標が明

確に記されており,児童が安心して取り組めていた。こだわり

が強い児童に対して活動を数(秒数)で区切るのがよく,10 秒

という短さが実態に合っていた。

・下肢に過敏のある場合に,四つ這い位に進むためのステップ

として手押し車が有効であることを初めて知った。しっかり手

に体重をかけさせることが過敏の除去につながっていた。

・運動の発達段階に即した系統性のある指導,方針のぶれな

い指導を行っていた。身体接触を受け入れられなかったとき

は,まず見本をみせる→タオルを利用する→直接触れるとい

うようにスローペースで段階的に行っていた。

・指導にメリハリがあってよかった。

・対象児の表情が楽しそうなのが印象的。特定の教員と遊ぶこ

とを通して接触過敏が弱まり,かかわりを喜ぶようになっており,

好きな活動から無理なく次のステップに移行できていた。

もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・認知発達はどのくらいか。(言葉の理解,数の概念(10まで),

指差し理解など)

・保護者等の信頼関係のある人や子ども同士でも身体接触を

受け入れられないのか。受け入れられるとしたらどんなことな

ら可能か。

・姿勢にどのような偏りがあったのか。

・手を回内右向きに向けているのはなぜか。

・視覚障害の度合い。

・触覚過敏の度合い。(衣服等は大丈夫なのか。机上での上肢

の過敏性はどうなのか。←弱視の傾向が疑われるということな

ので,残存視力を有効に学習に活かすためには,机上での

学習活動ができることが大切になるかなと思ったので)

・弱視や聴覚過敏の面での教材提示の方法。

・マットの端まで頑張ったり,意識的に姿勢を変えたりするには

どのくらいの期間がかかったか,初期段階での様子はどうだ

ったのか,これまでの指導の経過を知りたい。

・他の教員へのかかわりにはどうやって広げていくのか。

・活動への見通しや目的意識の持たせ方。

・①,②,③の取組はどのくらいの時期からどの程度指導した

のか。段階的に行ったのか?同時並行か?

・「刺激を受け入れる」「姿勢をとる」ための支援方法の細かいと

ころについて。

・他に過敏を取り除く支援について。タオルの過敏さをとるため

にはどのような工夫をしたのか。

・手首を正面につかせる具体的な方法。

・四つ這いをどう捉えるか。リラックスのための手段か,将来的

に移動手段として考えているか。

・姿勢変換から四つ這いまでの段階について,それぞれの姿

勢をとらせる具体的な方法。

・苦手な活動を組み込む時に授業で工夫していることはどんな

ことか。

・隣接施設の訓練内容との兼ね合いはどうなるか。

実践名:いろいろな姿勢をとろう~教師との関わりを通して~

①特定の教師との身体接触を受け入れる。

②特定の場所で特定の教師の指示に従って姿勢を変える。

③特定の教師に支援されながら,マット上でいくつかの姿勢をとる。

指導目標:特定の教師とのやり取りを通して,いくつかの姿勢をとることができる。

①身体接触のあるかかわり遊

びや手遊びを行う。

特定の教師と楽しく関わった

り触れられる見通しをもったり

することで,刺激を受け入れや

すくする。

②トランポリン上で活動を行うことで,心理的

にリラックスして姿勢を変えることができるよう

にする。

擬音語で統一した指示を行うことで,指示

の意味を理解して行動できるようにする。

③後方から児童の腰を引き上げる支

援を行い,支持性を高めたり,手の平

や下肢への刺激のかかり方を調整し

たりした。

活動のゴールを設定し,見通し持た

せる。

具体的な指導内容

80

なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・子どもの姿勢について生活面で不足している力と実態と指導

目標がよくリンクしていてわかりやすかったです。

・将来像を踏まえて指導の方向性がたてられていた。

・補助具のメリット,デメリットをしっかり理解されてバリエーショ

ンをもって取組を進めているところ。

・自立で立ったり,歩いたりしたいという気持ちを上手にくみ,

本人がやりたいことを取り入れて支援されていたため,主体的

に動いている様子が伺えた。その達成感からもっと自分で動

きたいという気持ちを引き出すことができていた。

・足の向きやバランスなど,児童がイメージしやすい言葉を用

いた言葉掛けによって,バランスや体重の乗せ方を児童が自

分で意識しているように感じた。足底に体重がかかる感覚を

教える大事さを感じた。

・正しく評価されることで児童生徒が自信をつけていくとろこが

よいと思った。

・手のつなぎ方,支え方などの支援によって上肢や下肢の動き

や力の入れ具合が変わるといったポイントを押さえて目的に

応じてひとつひとつ指導されているところ。

・片手支援や手すりを用いた支援,「危ない」と止めるのではな

く安全に動けるような働きかけ等,過度な支援をひかえること

で,児童の主体性を引き出していた。

・階段の昇降時の支援,膝の屈伸運動と体幹バランス,車椅子

や歩行器を使った歩行と運動,片手介助歩行や手すりを使っ

た歩行,床から立つ方法など,具体的な取り組みの様子がよ

く分かった。

・子どもの今の姿勢から支援方法を考えていてよかった。また

視界も意識した支援を考えていた点もすごくいい配慮だなと

思った。

・学校生活全般を通して取組が行われていた。姿勢や歩行に

関することは継続して取り組むことが大切だと思った。

・体幹を強化するためにいろいろな姿勢をとるようにしていた。

・運動の広がりがよく分かる指導だった。

もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・ひざ立ちはどのくらいできるのか。

・スロープなどの坂道での歩行はどんな感じか。

・座って学習する時と立って学習する時の意欲や集中力につ

いて。

・立つ,歩くことで集中できるとあるが,どんなことができるの

か。

・立つ,歩く活動の力の基盤が,学習面や生活面など他の場

面でできることが増えたりや意欲が広がったりしたところをたく

さん見たい。

・将来的に車椅子生活なのか,歩行できるようになるのかをどう

思っているのか。

・認知,自我意識が高いので,立位・体幹を保つという課題設

定でもよいのでは。

・歩行器やウォーカーを用いた練習を,日常の中でいつどのよ

うな時間でどのくらい行っているか。

・安全への配慮,けがをしないための支援。

・安全なこけ方の指導について。

・階段ののぼりおりでは,段階的な指導があったのか。

・体幹のバランスをとるために,歩行以外で取り組んでいること

はあるか。

・しゃがんだ状態から体重をかけながら立ち上がる際の後方支

援の仕方等,具体的な支援方法と立ち上がりの時の身体を

みるポイント

・下肢の筋力をつけるために行っていること

・立位の姿勢をとって授業をするのは1日何時間程度か。

・言葉掛け以外の援助は他にあるか。

・歩行指導等をする際の前後の支援はあるか。

・言葉掛けに際して,特に注意しているところ。

・自信をどうやってつけるか。

・指導の手立てをかかわる教員集団がどう共有しているか。

・PT,OT との連携ではどのようなことに気を付けているのか,

連携内容をどう指導に活かしているのか.

実践名:いっぱい動きたい(立位・歩行)をサポート

①立位や階段の昇降時の支援。膝の屈伸運動と体幹バランス。

②車いすや歩行器(PCW)を使った,歩行と運動を行う。

③人による片手介助歩行や,手すりを使った歩行,独歩を行う。

指導目標:下肢の筋力をつけ,体幹のバランスと歩き方への意識を高める。

①立位:体をまっすぐにして足裏に体重

がしっかりかかるようにし,自分で体幹の

バランスを意識できるようにする。

膝の屈伸運動:足先の向きを意識させ

ながら階段を昇降りする。

②体が真っ直ぐ向くように意識さ

せながら,車椅子を押して歩か

せる。

下肢のスムーズな動きと筋力ア

ップのため,歩行器(PCW)で歩

かせる。

③自分の脚で体重を感じながら立ったり

歩いたりできるようにする。

立位:後方から腰を支援する。

歩行:1.児童の方より低い位置で手をつ

ないで歩く 2.片手で手すりを使って歩く

3.独歩する

具体的な指導内容

81

なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・きちっと評価できる指導内容を構成されている。

・本人の要求動作を教師が理解している。

・実態把握がしっかりされている。

・アセスメントの活用をしっかりされていること。

・チェックリストと目標設定のつながりがわかりました。

・客観的な視点で実態が把握できていた。

・児童の細かい動きを教師がよく知っている。

・ステップバイステップの特性を効果的に利用し,子供の欲求

に合っていたと思う。

・スイッチの取組例が参考になりました。

・音(聴覚刺激)に特化してわかりやすかった。

・サインを理解して出すようになりつつあること。

・子供がコミュニケーションをとりやすい。

・自分の気持ちを相手に伝えようとすることは大切であり,それ

を感情のままでなく,落ち着いて要求できたのは,繰り返して

指導されたからと感じた。

・ピーナッツボール,楽しそうでした。もう一度したい時,声を出

したり,教員の方に力を入れて伝えていました。

・視覚的な困難からの「音の聞き分け」という目標。

・校内のアセスメント表を活用した評価・目標設定。

・音の変化に気付くことに対して,段階的に目標を立てている

→歌の変化を加える,自ら手を動かす。

・生徒からの意志の表出を確実なものにすることで,やりたい意

欲が高めていけるという。

・意思表示を出すために根気強くされていた。

・本人に考えさせる取り組みがよかった。

・始めの合図を確立することで活動の開始を強調している。

・生徒の表出をしっかり待っていた。

・2つの活動に取り組み授業の中に変化を入れていた。

・明確なルールを作られている。

もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・わかりやすい刺激の場合にどんな反応があるのか。

・「アー」の他にも生徒が発する「やって欲しい」という意思表示

はあるのか。

・「アー」と言うのは,他の場面(なんでもないとき等)もあるのか,

またそれはどのような場面でどのようなとき(気持ち)なのか。

・他の授業でも声を出したり,物にさわることがあったか。

・スイッチの提示の仕方(視覚的に見えていないため)

・ピーナッツボールを揺らす時,擬音語なしなのは意図がある

のか。

・一回当たりの取組み時間。

・どの位の期間をかけて指導していたのか。

・ピーナッツボールの取り組みでお腹を「トントン」と2回触れる

という刺激を選ばれたのは何故か?

・言葉の理解を助けるトントンがないとどうなるのか?(「はじめ

ます」→ピーナッツボールだと。)もう一回(要求)という表出が

現れにくいなどはあるか?

・「せーの」と「トントン」の間をあけた理由

・スイッチをたたきやすくする,意識しやすくする工夫。

・ピーナッツボールの活動で,後方から支援されているときは,

表情を確認できるようにされているのか知りたい。

・終わりの合図があれば知りたい

・トントン,おなかを叩くときに期待の表情はあったか。

・周囲や状況の理解→理解したことをどのようにして見取るの

・「外部からの働き掛けに応答する」ことが目標なら,ピーナツ

ボールを止めたときに「首を動かしてやりたいことを示す」姿は

どうとらえていますか?

・サインをした後,動かさなかったのはなぜ?本人に,もっと,と

いう欲求のサインを出して欲しいからか。この場合信頼関係を

どう築くのか。

実践名:伝えてみよう

①音を聞き,音の変化に気付く。 ②「動き」を取り入れたやり取りを通して,思いを伝える。

指導目標:外部からの働きかけを受け止め,表情や声などで落ち着いて応答する。

①以下の活動を繰り返し継続して行う。

1.「歌」と言葉掛けする。

2.自らスイッチに手を触れて,音を聞く。

3.最初の音が止まったことに気付かせる。

「止まったね」

4.次の音を聞こうとする動作を待つ。

5.スイッチを押して,次の音を聞く。

②以下の活動を繰り返し継続して行う。

1.ピーナッツボールに乗り, 上下に揺らす。

2.ピーナツボールの動きを 止める

3.生徒が「アー」と声を出す。

4.合図(「せーの」→お腹をトントンと軽くたたく)の後に再び動かす

言葉掛けだけで伝わりにくい場合,体に触れることで気付きを促す。

具体的な指導内容

82

なるほど!よく分かった!参考になる!と思ったこと

・継続的な指導で子供が確実に成長しているのがよく分かっ

た。

・卒業後のイメージがしっかりされていた

・細かく評価していて参考になった。

・課題の設定,実態の整理方法が参考になった。

・きちんと積み重ね,検証がなされている。

・チェックリスト等の客観的な実態把握や関連図等,根拠のあ

る実践報告,目標指導内容の設定でわかりやすかった。

・活動の記録を長期にわたって丁寧にしているところがすばら

しい。客観的にふり返ることができる。

・仮説検証により指導内容・方法の確立

・好きな音楽の幅が広がったのも素晴らしいと思った。

・自分の要求を他者へ伝えたい気持ちを高める指導であった。

・聴くよという声掛けのルーティーン化

・生徒の発語を教師が真似をすることで注意を向ける。

・「もう一回」に対して言葉が出たり,「聴くよ」に対して注意を向

けられる。

・「好き」「やりたい」等,表情で表現できていた。

・言葉かけに対して,声を出し,応える活動がよく分かった。

・音のアプリを活用して,生徒の要求「もう一回」の意思を引き

出せるようになった具体的な取り組みが参考になりました。

・生徒とのやり取りを具体的に書かれている。その後,こちらの

声に気付き顔を向けるという成果も見られている。

・返事から音を出すまでの時間を延ばすことで,集中力を伸ば

す。

・やりとりのある活動から,待つ様子が見られるようになる。

・要求の表出を引き出している(発声)

・活動する前には言葉掛けをしてから活動に入るところ

・ステップバイステップの特性を効果的に利用し,子供の欲求

に合っていたと思う。

もっと,詳しく知りたい!と思ったこと

・短い音から長い曲になるまでに子供にどんな変化があったの

か知りたい。

・「もう一回?」に対する彼女が一番出しやすい表現は何か。

・声を安定して出せる方法?他の方法は試されたのか?

・指導者が変わった場合の生徒の様子。

・好きな音はどのようにして分かったのでしょうか。

・好きな音楽が変わっているが,どのように気づき,判断したの

か。

・YES/NOをどのように判断するのか。つなげていくためには

声だけではなく,動作も必要となるのでは?

・言葉はどの程度理解しているのか。

・はじめはどの程度相手を意識した発語があったのか。

・指導時間。

・もう一度のサインのどの配分が採用されているのか分かりにく

かった。返事のように声が出るまではだめなのでしょうか。

・小中での取り組みについても知りたいと思った。小中段階で

このような指導はされてなかったのでしょうか。

・動きのところの引き出し方についても聞いてみたかった。

・子どもの左側から声をかけていたが右から言ったらどうなの

か?

・中学部段階のアセスメントとの比較は?

・もう一回?問われていると思っているのか,反応しているだけ

ではないか。

・指導目標を導くための関連図から,関連課題の導き出し方。

・指導者が生徒によく触れることへの意図

・重点課題と関連課題について,詳しく聞きたい。

・音への関心がついたことで,他に興味がある活動への要求に

結び付いたことがあるか,知りたい。

・「もう一回?」という言葉の意味がわかっているのだろうか?

「問われている」ということに気づいているのでしょうか。

・生徒の声の大きさに変化は見られるのか。

実践名:声を出して応えよう

①やりとりのある活動をする。

②音に対して注意を向ける活動をする。

③言葉掛けに対して,声を出して応える活動をする。

指導目標:人や音に対して興味を向ける。 人を意識して声を出すことが,相手に思いを伝える手段であると気付く。

①言葉掛けや人に気付き,人

に向かって意図をもって声を出

すよう促す。

生徒の出した声を真似する

遊びをする。

呼名→声を出すというやりとり

を繰り返す。

②音を選択して受容する力をつける。教

員の言葉掛けに安定して注意を向けられ

るようにする。

快反応の見られる音を見つけ,「聴くよ」

の前触れの後に音を流す。前触れから音

を流すまでの間をあけ,注意を持続できる

ようにする。

③自分が問われていることに気付かせ

る。声を出すことが,自分の意思を伝える

手段であることに気付かせる。

生徒の好きな活動を中断した時に「もう

一回?」と問いかける→声での応答があ

れば活動を繰り返し,無ければ終わる。

具体的な指導内容

83

4 3校学校企画

肢体不自由3校及び県内の特別支援学校等の取組を共有することを目的とし,3校学校企画を行いました。広島特

別支援学校,福山特別支援学校,西条特別支援学校がそれぞれ2ブースずつ設置し,各校の研究や授業実践,教材

等について発表しました。その発表の中で,各校の取組などについて意見交流をしました。各校のブースの内容は以

下の通りです。

○広島特別支援学校

テーマ 内容

発達段階に応じた教材教具

「教材」を「言葉となる土台の力」ととらえ,子どもの感覚的な経験が,因果関係の理

解や言葉の理解につながること,教材を通した大人との関わりからコミュニケーション

力が高まることを報告した。また,良い教材教具の条件として①何も言わなくても課題

が分かる(見てどうしたらよいかが分かる)②提示されればやりたくなる③達成感を人と

共有したくなる④「できた」ことが自分でわかる,の 4 点を,具体例を用いながら示し

た。

SRCWでの取組について

高等部生徒のSRCWでの歩行の取組を報告した。外界への興味関心が薄い,注

意の集中を持続するのが難しい,随意的な動きが難しいという課題のある生徒に対

し,生徒の好きな活動であるSRCWを用いて課題の克服を目指した。この取組につ

いて,実態からの課題設定,具体的手立て,支援上の配慮,成果,今後に向けての

課題等を発表した。

84

○西条特別支援学校

テーマ 内容

自立活動と各教科を合わせた指

導の実践

~小学部表現活動の授業より~

西条特別支援学校では,自立活動主の教育課程において,自立活動と各教科

等を合わせた指導として,「生活活動」と「表現活動」を実施している。発表では,

小学部における表現活動での授業実践を紹介した。その中で,「音楽や造形,お

話などを題材にして触れる,聞く,見る,操作するなど直接的な体験学習を通し,

外界への気付きや身体の動きを引き出す,人や物への関わりを広げる,表出を豊

かにする」といった表現活動の目的,指導内容,手立て等を報告した。

スヌーズレンについて

西条特別支援学校では,光,音,におい,触覚の素材等,様々なものを組み合

わせて整えられた環境で,自ら好きな感覚を楽しみながらリラックスして自由な時

間を過ごすことを目的とし,スヌーズレンの活動を行っている。このブースでは,テ

ントを暗幕で覆って作られた空間の中に電飾やミラーボール,オルゴールの音

楽,水等を用意し,参加者が実際にスヌーズレンを体験した。

○福山特別支援学校

テーマ 内容

アセスメントチェックリスト及

び対応する手引について

福山特別支援学校が作成した「アセスメントチェックリスト」について,作成までの経

緯や活用の目的,活用方法や目標設定までの手順等について説明した。また,アセ

スメントチェックリストの中の項目を達成するために必要な指導や手立て,留意事項

等の一例が示された「認知・コミュニケーション指導の手引」について,活用までの流

れや方法等を解説した。

授業実践について

2つの実践事例について映像を用いて報告した。

①小学部1年生の「自立活動(からだ)」と,合わせた指導である「生活活動」における

取組を報告した。また,報告の中で使われた教材や,その他の授業の中で用いてい

る教材を展示し,実際に教材を体験した。

②小学部5年生の「自立活動(個別)」における取組を報告した。「スイッチを押し,音

を鳴らして遊ぶ。」という目標のもと,手への気付き,手を使っての探索,触れると音が

出る玩具での取組といった段階に分けて指導について説明した。

85

5 閉会行事

○ 講評 広島県教育委員会事務局 教育部特別支援教育課 指導主事 下山真弓 様

【講評要旨】

本日は各学校 2事例ずつ,計 6事例の実践報告がありました。児童生徒に対する指導を工夫され,実態把握を

深めなが目標を明確にして,具体的な取組を考え,それを実践して評価していくという流れで,誠意取り組まれて

いるというということが,この報告の中で伝わってきました。

午前中に主体的な学び,児童生徒起点の学習という話をしました。子供たち自身が試行錯誤しながら活動して

いく中で学んでいくこと,児童生徒が中心となって学習していくということを踏まえて学習内容を設定することが大

切だと思います。また,児童生徒の意欲を大切にし,自分自身でできることを活用しながらしっかりその力を引き出

すことも大切です。一方,間違った動きや対応を積み重ねないということも大切になります。児童生徒の学習の過

程を見極めながら指導していくことが必要です。

学習を深めるということについて話をしたいと思います。今回の実践報告の中でも,今後の視点として「生活や

遊びの中に広げていく」ということが挙げられていました。自立活動の時間に学習したことが,他の学習場面や日

常生活の中でもさらにそれが使えるようになっていくということがより深い学びと言えるのではないかと思います。

今回の実践報告研究会では,一つ一つの実践について意見交換をしました。それを参考とし,自分がこう取り

組んでみたいという思いになったのではないかと思います。

この実践報告研究会の取り組み事例が昨年度,本年度,来年度と蓄積されていき事例集となることを期待して

います。

○ 開催校挨拶 広島県立西条特別支援学校 校長 立石 均 様

【挨拶要旨】

本日は,3校合同自立活動実践報告研究会にあたり,広島大学 教育学部 特別支援教育 教育学講座 船橋

篤彦教員,広島県 教育委員会 特別支援教育課 指導主事 下山 真弓様に御指導,御支援賜りました。心から

厚く御礼を申し上げます。

船橋教員の御講話の中で,全国的に見て魅力のある取組,自立活動に特化した教員の学びの場といった2つ

のポイントで,自立活動実践報告研究会は全国のモデルとなりうるという御言葉をいただきました。決意を新たにさ

れた教員方もいらっしゃるのではないでしょうか。

3校合同自立活動実践報告研究会に参加された教員方は,それぞれ様々なキャリアをおもちのことと思います。

これまでの御自身の経験等に照らして,それぞれのステージに応じた目的をもってこの研究会に参加されている

ことと思いますが,本日の内容は初期の目標を達成することができたでしょうか。このような経験は,我々肢体不自

由特別支援学校に勤務する教職員にとっての,お互い切磋琢磨できる良い刺激の場になっているかと思います。

今日一日が教員方にとって有意義で充実したものであることを祈念致します。

86

ここでは,現在,広島県の肢体不自由特別支援学校で活用されている,自立活動実践の記入様

式(平成 27 年度版)を掲載しています。

本様式の作成にあたっては,文部科学省の特別支援学校学習指導要領解説 自立活動編 第

2章 自立活動の意義と指導の基本 を参考にしています。

参 考 資 料

自立活動実践事例 記入様式 (平成 27 年度版)

87

実 践 名

○学部○年 (キーワード)脳性麻痺,視覚障害(弱視),知的障害,発声,姿勢ケア

児童生徒の状況

・動物の鳴き声に関心がある。

・体温調整が難しく,夏は 37℃台,冬は 35℃台になる(健)

・大人からの言葉掛けを好み,応じるようにタイミングよく声を出す(人,コ)

・これまでの学習では,児童が声を出したら指導者が声を返すということを繰り返し行ってきた

不足している力,学習上生活上の困難さ ↓

・ 注意が持続しにくい

・ 気持ちが盛り上がると筋緊張が高まり,声を出したり体を動かしたりすることが難しくなる。

・ 周囲からの刺激が無いと,覚醒が落ちる。

幾つかの指導目標の中で優先する目標として ↓

指導

目標 ・指導者と声でのやりとりを繰り返し行う

指導目標を達成するために必要な項目の選定 ↓

選定された項目

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)~

選定された項目

を関連付け具体

的な指導内容を

設定

具体的な

指導内容

・ ・ ・

関連の深い項目を関連付け,不要な線を除去

指導目標達成のためのステップ化を図る

6区分 26項目からコピーする。

○○する能力を育成する,○○により

できるように,といった能力の向上,困

難さを主体的に改善できるようになる

指導目標設定とするⒸ

自立活動の項目と関

連付けた具体的な指

導内容(教育内容)

を設定するⒹ

そこで

障害によって,基本的な行動を遂行す

る○○能力が不足している,発達が阻

害されている,あるいは○○といった学

習上生活上の困難さが発生している

(実態把握)ⒶⒷ

そのためには

Ⓒ 複数のⒷの項目から一つの具体的な目標を導く。

・基本的な行動を遂行するため 学習上・生活上の困難を改善・克服するための二つの要素がある(解説編参照)

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,生活環境や学習状況などについて情報収集。 自立活動の6区分に関連する内容は,行末に区分名を(健),(心)等と記入する。

ⒶⒷはⒸに至るまでの プロセスを明らかにするもの

実態把握では基本的な行動を遂行するために不足している力と,学習上・生活上の困難さを複数明らかにする。

88

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

指導の状況

成果

今後の展望

(平成○○年 ○○特別支援学校)

具体的指導内容を,「○○の教材教具を活

用,○○のように指導していく」のように記す。

指導の際にはスモールステップ的な展開が行

われることが多い。手立てを明確にする。Ⓔ

それぞれの指導の場面では児

童生徒はどのような様子であっ

たのか,理解や進捗状況,課

題等も含めて記す。Ⓑ

取り組みの成果はⒹの

指導目標に対して,ど

のように達成できたか。

Ⓗ→今後の展望へ

89

90

広島県立肢体不自由特別支援学校

自立活動実践事例集

平成 28 年3月 第3版 発行

編集・発行

広島特別支援学校 自立活動部

http://www.hiroshima-sh.hiroshima-c.ed.jp/

福山特別支援学校 教育研究部

http://www.fukuyama-sh.hiroshima-c.ed.jp/

西条特別支援学校 自立活動部

http://www.saijyo-sh.hiroshima-c.ed.jp/