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東京成徳大学臨床心理学研究12号,2012,95-111 人間のパフォーマンス向上のための心理学 -マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー ABookReview:Gardner,F.L.&Moor, ThePsychologyofEnhancingHuman TheMindfulness-Acceptance-Com Approach.Springer,NewYork,200 市村 操一 (東京成徳大学) 5mkhhtZutE(TokyoSeitokuUniversity) 本稿は人間のパフォーマンス向上の心理学に関 する本を紹介し、若干の解説を加えるものである。 この本の表題にはカタカナ表記の言葉があふれ ている。無理に訳すとなると、あまりなじみのな い言葉になったり、一つの日本語では対応できな いことになったりする。まず、それらの言葉の説 明から始めたい。 【パフォーマンス(performance)】この言葉 が心理学の文献で使われる場合には文脈によって 2つ意味がある。「行うこと」「実行」「遂行」な ど(thefactoractionofdoingtask)の意味で 使われる場合と、「達成」「成績」「手際」など (accomplishment)の意味で使われる場合がある。 本稿では区別する必要がない場合、つまり、両方 の意味を含めて使われている文脈では「パフォー マンス」とし、区別が必要な文脈では「実行」と 「成績」という訳語を使用した。 【マインドフルネス(mindfulness)】英和辞典 には「注意深さ」「留意」という意味がでているが、 最近の心理学文献に用いられているこの言葉の意 味は、それでは十分ではない。実は、この言葉は 英語のなかでの外来語である。古代インドの文学・ 宗教用語であるサンスクリット語(smrti)の英 語への翻訳である。日本の仏教用語では「念」「憶 撃里 念」と訳され、心にたるみがなく生き生きとした 注意をいきわたらせる状態を意味している。1970 年代以降の心理学では、この言葉は、刻々と変化 する現在の経験への意識の集中という意味で使わ れるようになり、現時点での思考・情動・感覚か ら生ずる意識に善悪や正誤の判断・評価を加えず に、あるがままに受け入れるという意味も含んで いる。 【アクセプタンス(acceptance)】本書では心 の状態を意図的に変化させようとせずに、そのま ま受け入れる態度を意味する。「受容」と訳した。 【コミットメント(Commitment)】本書では 自分が価値を置いた目標に向かって積極的に関わ る態度を意味し、回避や逃避とは対極の意味を与 えられている。「積極的関与」と訳した。 【アプローチ(approach)】「接近」「取り組み 方」「研究方法」などの意味があるが、本稿では カタカナのままにするか「方法」という訳語を用 いた。 本書の主題は、人間の実行成績向上のための心 理学であり、そのための方法の一つである「非判 断的注意集中一心の状態の受容一目的への積極的 関与」という方法の理論と訓練法と適用事例を示 -95-

ABookReview:Gardner,F.L.&Moor,Z.E ......東京成徳大学臨床心理学研究12号,2012,95-111 人間のパフォーマンス向上のための心理学 -マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

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  • 東京成徳大学臨床心理学研究12号,2012,95-111

    人間のパフォーマンス向上のための心理学

    -マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    ABookReview:Gardner,F.L.&Moor,Z.E.

    ThePsychologyofEnhancingHumanPerH)rmanCe:TheMindfulness-Acceptance-Commitment

    Approach.Springer,NewYork,2007.

    市村 操一

    (東京成徳大学)

    5mkhhtZutE(TokyoSeitokuUniversity)

    本稿は人間のパフォーマンス向上の心理学に関

    する本を紹介し、若干の解説を加えるものである。

    この本の表題にはカタカナ表記の言葉があふれ

    ている。無理に訳すとなると、あまりなじみのな

    い言葉になったり、一つの日本語では対応できな

    いことになったりする。まず、それらの言葉の説

    明から始めたい。

    【パフォーマンス(performance)】この言葉

    が心理学の文献で使われる場合には文脈によって

    2つ意味がある。「行うこと」「実行」「遂行」な

    ど(thefactoractionofdoingtask)の意味で

    使われる場合と、「達成」「成績」「手際」など

    (accomplishment)の意味で使われる場合がある。

    本稿では区別する必要がない場合、つまり、両方

    の意味を含めて使われている文脈では「パフォー

    マンス」とし、区別が必要な文脈では「実行」と

    「成績」という訳語を使用した。

    【マインドフルネス(mindfulness)】英和辞典

    には「注意深さ」「留意」という意味がでているが、

    最近の心理学文献に用いられているこの言葉の意

    味は、それでは十分ではない。実は、この言葉は

    英語のなかでの外来語である。古代インドの文学・

    宗教用語であるサンスクリット語(smrti)の英

    語への翻訳である。日本の仏教用語では「念」「憶

    撃里

    念」と訳され、心にたるみがなく生き生きとした

    注意をいきわたらせる状態を意味している。1970

    年代以降の心理学では、この言葉は、刻々と変化

    する現在の経験への意識の集中という意味で使わ

    れるようになり、現時点での思考・情動・感覚か

    ら生ずる意識に善悪や正誤の判断・評価を加えず

    に、あるがままに受け入れるという意味も含んで

    いる。

    【アクセプタンス(acceptance)】本書では心

    の状態を意図的に変化させようとせずに、そのま

    ま受け入れる態度を意味する。「受容」と訳した。

    【コミットメント(Commitment)】本書では

    自分が価値を置いた目標に向かって積極的に関わ

    る態度を意味し、回避や逃避とは対極の意味を与

    えられている。「積極的関与」と訳した。

    【アプローチ(approach)】「接近」「取り組み

    方」「研究方法」などの意味があるが、本稿では

    カタカナのままにするか「方法」という訳語を用

    いた。

    本書の主題は、人間の実行成績向上のための心

    理学であり、そのための方法の一つである「非判

    断的注意集中一心の状態の受容一目的への積極的

    関与」という方法の理論と訓練法と適用事例を示

    -95-

  • 市村操一

    すことである。

    本書が扱っている実行成績向上の領域は主とし

    てスポーツの領域である。従来、スポーツの領域

    ではメンタル・スキルズ・トレーニング(MST)

    として、積極的思考やイメージ法やセルフトーク

    などが応用されてきた。それらは不安の低減には

    役立っても、パフォーマンスの向上につながると

    いう証拠を示す実証的データは十分ではなかっ

    た。本書の著者のGardner と Mooreはなぜ従

    来のMSTが十分に有効ではないのかを検討し、

    新たな理論の提案と同時に、新たな心理介入技法

    を提案してきた(Gardner&Moore,2004;2006;

    2007)。本稿は、彼らの新しい介入法を、若干の

    解説を交えて紹介しようとするものである。本稿

    の冒頭にも示したように、本書で使われている心

    理学の用語は心理学辞典にも集録されていないも

    のもあるので、スポーツの選手やコーチ、スポー

    ツ心理学を学ぶ学生・院生、あるいはスポーツ心

    理学の教員などにも読みやすいように、訳者の注

    を文中に加えた。また、原著を参照しながら読む

    読者のために原著でのページ数、行数を、つぎの

    記号で示した。(50:13)は50ページ、13行を現わ

    している。

    本書は13章289ページからなっており、つぎの

    3つのパートに分かれている。パート1:理論的・

    実証的基礎。パート2:成績向上のためのマイン

    ドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・

    アプローチ(MAC法)の構成と技法。パート3:

    事例研究。

    本稿はパート1を取り上げて、紙幅の許す限り

    で本書の原文の訳文と解説を行う。この部分で著

    者たちは従来のMSTにたいしてMACを主張する

    理論的根拠と実証的証拠を明確に提示している。

    第1葦の概要と注釈

    第1章の標題は、「人間の機能的パフォーマンス

    と非機能的パフォーマンスの理解:その統合モデ

    ル」(UnderstandingFunctionalandDysfuncdonal

    Human Performance:TheIntegrative Modelof

    HumanPerformance)である。この事の導入部で、

    人間のパフォーマンスには機能的(効率的)なも

    のも非機能的なものもあるが、それらの決定要因

    はつぎのようにまとめられている(4:1)(4ペー

    ジ、l行)。①技能・能力。②環境・課題の要求。

    ③実行者の人格特性。(D行動の自己調整。

    (4:28)『ェリートレベルのパフォーマンスの基

    礎には、自動的で、課題指向的で、目標指向的行

    動を促進し持続させる最適な生理一心理一社会的

    状態が存在する、と考えられている。

    本章の目的は、上記のような状態がどのように

    して生起し、最適なパフォーマンスがどのような

    プロセスで作られるのかに焦点をあてることと同

    時に、パフォーマンスを阻害するプロセスについ

    ても論ずることである。ここで述べられる機能的

    一非機能的パフォーマンスに関する理論的モデル

    はパフォーマンスの統合モデル(IMHP=Integrative

    ModelofHumanPerformance)とよばれる。こ

    のモデルには、パフォーマンスの3つの段階が含

    まれている。それらは「実行前」(preperformance

    phase)、「実行中」(performancephase)、「実行

    後」(postperformancephase)である』

    つぎに、それぞれの段階で機能的および非機能

    的パフォーマンスの原因とそれらのプロセスの内

    容が述べられる。

    【実行前の問題】

    パフォーマンスに影響をあたえる実行前の条件

    には、身体技能や能力に加えて、人格特性、環境

    の刺激、外界からの要求などが挙げられているが、

    本稿では人格特性の項を紹介したい。

    (5:22)『人格特性」(DispositionalCharacteris-

    tics):個人は、繰り返される経験を通して、自

    己と他者の間の相互作用パタンのメンタルスキー

    マ(内的習慣システム)を形成する。これは自己

    ー96-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    および自己と世界の関係についての認知的表象で

    もある(Safran&Segel,1990)。]

    ある個人は過去の学習歴を通して、強固で問題

    のあるスキーマを発展させることがある。(6:6)

    『そのような個人においては、行動は外界の現実

    や出来事によって決定されるよりも柔軟性のない

    言語的組織によって決定される頻度が高い。たと

    えば、不快な感情を低減させることを目指して行

    動を選択し、個人の最も関心のある目標に近づく

    ためのより機能的な行動をおろそかにするような

    個人のケースがある。

    (6:20)上記のような内的プロセスと結びつい

    た硬直した行動パタンは習慣的規則支配行動(rule-

    governed behavior)とよばれる。このような行

    動は自己破滅的反応(self-defeatingresponse)

    を引き起こすことがある。たとえば、情動的不快

    を避けようとする心理的自己防衛的機能が、個人

    の目標や価値に向かって進む行為を犠牲にして生

    起することがある。

    その例:他者と親密な人間関係を結びたいのだ

    が、人間関係で苦労した経歴のある人が、人間関

    係が結局は苦痛で終わるというような規則システ

    ム(rulesystem)を作り上げていた場合を考え

    てみよう。その人は人間関係回避の行動パタンを

    発展させてしまっており、実りある関係を作ると

    いう価値ある目標を容易には達成できないことに

    なる』

    このような現象は、競争場面では、ゲームの前

    半に失敗をすると、はやばやと勝負をあきらめて

    しまうような行動パタンにも現れるであろう。

    【実行中の問題】

    MACでは、実行中の問題として、緊張や不安

    や動機づけの問題よりは、認知活動(ものの見方

    や考え方)やパフォーマンスの評価の仕方が重要

    視されている。それらの問題の中から、MACに

    開通する認知の問題についての記述を紹介する。

    (8:7)『実行者は自身の行動の適切なポイント

    にメタ認知的に(自動的に)注意を向け、目標と

    する標準に行動を合わせるように行動の重要ポイ

    ントを評価し調整する。このプロセスはズレの調

    整(discrepancyadjustment)とよばれる(Carver

    &Scheier,1988;Wells,2000)』

    (8:18)『実行課題の実行中にズレの調整を行う

    ためには、実行者は自分の行動があらかじめ定め

    た基準に合っているかどうかを自己監視しなけれ

    ばならない。この調整は自動的に、メタ認知的に

    行われる(Carver&Scheier,1988)。そこでは、

    自己監視や、自己評価や、修正行動などのメタ認

    知的プロセスが効果的な自己制御と課題の実行に

    とって重要となる。ほとんどの人は、このような

    プロセスで行動を行っている』

    (8:36)『しかし、非合理的な目標の設定や無理

    な技能の修正などはこのプロセスを混乱させるこ

    とがある。たとえば、厳しい達成基準をもってい

    る完盤主義者は現実の達成を非現実的で達成不可

    能な基準と比較し、適応的なズレの調整ができな

    くなってしまう。自己制御の崩壊にともなって、

    微妙なメタ認知と自動化されたプロセスに基づい

    ていた効果的を行動の調整は、言語的認知過程を

    利用する努力を必要とする調整にとって代わら

    れ、効果的な実行はしばしば妨害されることにな

    る。制御プロセスが自動的に行われているときに

    は、実行者は課題指向的でいられるが、制御プロ

    セスが過度に認知的になると自己指向的な注意が

    増大してくる』(9:11)。

    (9:15)『機能的な実行を行っている実行者は、

    非判断的でメタ認知的で課題に対して、マインド

    フルな没頭・集中を経験し、非機能的な実行を行っ

    ている者は柔軟性を欠く規則システム(たとえば、

    何ができるか、できないか。何をやるべきか、やっ

    てほならないか)や、知覚された弱点や、自己不

    信や、思考や情動のコントロールや、失敗への懸

    念などに心を奪われる。このときには、注意は環

    ー97-

  • 市村操一

    境に向けられるよりも、内的過程に向けられる。

    ここで使われるメタ認知という概念はマインド

    フルネスの定義と一致する。マインドフルネスは、

    この本の中心的概念であるが、それは、「特殊な

    注意の働かせ方であり、憲図的であり、現在の時

    点への集中であり、非判断的な注意である」(Kabat-

    Zinn,1994,P.4)』(9:32)。

    このマインドフルネスの概念(現時点への非判

    断的注憲)はフローやピークパフォーマンスの概

    念とも似ていると指摘されている。マインドフル

    な意識は自己ではなく課題に向けられたものであ

    り、パフォーマンスにもよい影響を及ぼすことを

    実証した研究が出始めているようである。

    (9:39)『競技の成績ついての研究では、体性的

    変化(身体内に感じられる変化:たとえば動悸が

    速くなる)をポジテイヴに解釈した競技者は、課

    題に関連した注意を持続し成績の水準も維持した

    が、身体内の活性化をネガティヴに解釈した競技

    者は自己の内部のプロセス(不安や懸念など)に

    注憲を向け成績を低下させた(Jones,Hanton,&

    Swain,1994;Jones.Swain,&Hardy,1993;

    Swain&Jones,1996)』(10:2)。

    【実行後の反応】

    (11:2)『実行後の反応はつぎの3つのうちのい

    ずれがになる。(1)競争的パフォーマンスへの

    関与の継続、(2)短期間の非機能的時期の後の

    再関与、(3)活動からの内的な撤退(懸念や集

    中の欠如による精神的撤退)あるいはあからさま

    な撤退(仮病、サポリ、引退)』

    (11:8)『人間のパフォーマンスが進歩している

    ときには、実行者の現在および将来のパフォーマ

    ンスは実行者の求める価値に積極的に関与し続け

    ていく。つまり、実行者は短期間の悪い成績の不

    快さに耐え、適切な準備と訓練をして、課題の手

    掛かりと要求に心をつなぎ続ける』

    しかし、失敗がネガティヴな影響を残す競技者

    もおり、その心理的原因について述べられる。

    (12:2)『ある実行者にとっては、(目標と実行

    結果の)ズレの調整の困難はその後のパフォーマ

    ンスにネガティヴな影響を与えるが、ある実行者

    は適応的な性格特性のために迅速にズレを修正す

    る。そのような人格特性には高度の「経験受容」

    (experientialacceptance)(内的な出来事を進ん

    で経験すること)が含まれる。また、一時的な機

    能不全を、状況によるものと考え、脅威としない

    こと、耐えることなどによって、常態とは考えず

    にポジテイヴな成果を期待し続ける傾向なども含

    まれている。しかし、他のタイプの実行者では高

    度な競争や新奇性のある状況(慣れない状況)で

    は、旧来の習慣的行動に頼ることや、不適応的な

    経験回避の傾向(ネガティヴな思考や感情や感覚

    などを経験することの回遊)や、技能の混乱をき

    たすることがある。このような選手はしばしば(ス

    ランプのような)持続的な機能不全を引き起こす』

    (12:16)『Klingeretal.(1981)は、バスケッ

    トボール選手の思考内容の調査を行った。そこで

    発見したことは、選手たちはチームの成績の低下

    や対戦相手の強さの増大に伴って、彼らの注意を

    ゲームに関連する外的な対象や手がかりから内的

    な自己の行動や経験にその焦点を移していくこと

    であった。この事実についてつぎの仮説が立てら

    れる。ポジテイヴな結果を期待している競技者は

    成績不振になっても積極的関与と接近指向の対処

    スタイルをとり続け、効果的な問題解決あるいは

    コーチの指導によって機能的なパフォーマンスに

    立ち戻る道を発見する』

    (12:30)『慢性的な機能不全は回避的対処スタ

    イルと結びついていることが多い。このスタイル

    は子どものときからの過剰学習によって形成され

    たり、実行の成功へ向けでの努力が上手くいかな

    かった結果として徐々に形成されたりする。この

    ような回避の原因となるのは、ネガティヴな思考

    や感情や生理的変化を避けようとするために生起

    ー98-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    する早すぎるあきらめや、実行を止めてしまうな

    どの回遊行動である。動機づけと目標追及行動の

    社会認知理論(Carver&Scheier,1988)に従え

    ば成功の望みがあると信じている場合には個人

    は課題関与的(task-engaged)であるが、失敗

    が確実に予測されるときには課題に関与しなくな

    る。この観点からすれば慢性的な機能不全を経

    験している個人は(課題が困難な状況で)行動

    的回避と認知的回避を含む反応をする傾向を示す

    ことになろう』(13:2)

    行動回遊および認知回避という概念は本書で

    はつぎのように説明されている。

    『行動回避という言葉は、必要な行動を不快な

    経験を避けるために回避してしまうことを意味し

    ている』(13:3)(13:36)『認知的回避行動は懸念

    (worry)や思いめぐらし・熟慮(rumination)

    のかたちをとることがある。病的ではない場合に

    は問題解決に役立ち、困難や脅威に対して準備す

    る働きがある。しかし、過剰な場合には、これら

    の認知プロセスは不安や達成行動への悪影響につ

    ながる(13:36)。Borkovec(1994)は懸念の機

    能をつぎのように理論化している。それによれば

    懸念は内在的言語活動(covertverba1-1inguistic

    activity)であり、ネガティヴな感情や感情が引

    き起こす刺激を完全に経験することを回避させる

    ことを可能にする。Barlow(2002)はつぎのよ

    うに述べている。覚醒の最初の信号に触発されて、

    懸念の言語的プロセスが注意の焦点を占拠してし

    まい、不安や悲しみや怒りなどの感情的反応を十

    分に経験することを抑制してしまう』(14:10)

    MACでは実行者(競技者)がこのような回避行

    動に落ちいることなく、自分が定めた目標に対し

    て積極的関与を続けることが目的とされる。つぎ

    の節で「受容」という考え方を基本にしたパフォー

    マンス向上のための心理技法の理論の概略が説明

    される。

    【受容を基本とする方法の紹介】

    ネガティヴな情動や思考がパフォーマンスを阻

    害する主たる原因とする考え方は、人間のパ

    フォーマンスにっての「伝統的モデル」とよばれ

    ている(16:15)。本書で扱う心理技法は伝統的モ

    デルとは異なることが強調されている。

    (16:18)『近年、理論家、研究者、実践家は実行

    の困難(注:重要な場面で実力が発揮できない、

    など)のような心理的現象の理解のために、現代

    の「受容を基本とする方法」(acceptance-based

    approach)に関心を寄せている(Gardner&

    Moor,2004;Hayes,Strosahl,&Wilson,1999;

    Orsillo&Roemer,2005)。伝統的な理論に代っ

    て、われわれはより現代的な「受容に基本とする

    方法」を採用する。この理論はつぎのことを主張

    している。実行段階では自己調整のプロセスが働

    き、自己に向けられた注意(selifocusedattention)

    が増大する。その自己への注意には、生理的興奮

    や、実行そのものや、その評価や、それに伴う情

    動反応、そしてそれらの変化への気づき(seIl

    awarenessofthese changes)などが含まれる。

    そのような状況で最高の成績を生み出すために重

    要なことは実行者による経験の受容(experiential

    acceptance)の程度であることを、「受容を基本

    とする方法」に基づいて説明する。

    このことを説明するとつぎのようなる。実行の

    成績はつぎのような状態がどの程度保たれている

    かによって決定される。実行者がその内的経験を

    自然なものとして受け入れる程度。ネガティヴを

    感情や思考を経験していても、課題に注意を持続

    させている程度。成績を左右するのはネガティヴ

    な思考や生理的興奮が存在するか否かではなく、

    実行者がそのような経験を受容して注意と行動を

    課題に向け続ける種度などにかかっている。その

    とき、実行者は認知や感情や生理的覚醒を意識は

    しているが、それらをコントロールしたり避けた

    り、それらから逃避しようとしたりはしない。

    ー99-

  • 市村操一

    経験的受容の低い状態を経験的回避(experiential

    avoidance)という(Hayeseta1..1999)。この状

    態では、実行者は内的経験の内容と強度と、生起

    する頻度を変えようとして、さまざまな制御方略

    を試みる。このために用いられる一般的な方略は

    セルフトーク(selitalk)、思考停止(thought

    suppression)、気晴らし(distraction)、努力の

    停止(terminationofperfdrmancee鮪ort)、など

    である。このような方略は一時的には不快感を減

    少させるが、成績の低下や、失敗や、興奮の上昇

    に結びつきやすい。ここで生起する一つの悪循環

    がある。それは、興奮の上昇→自己憲誠の上昇→

    コントロールの努力の増強→行動の混乱→コント

    ロール→課題への注憲の低下→行動の混乱→・‥

    というような悪循環である』(17:21)。

    ここで、伝統的に行われているメンタル・スキ

    ルズ・トレーニングは、全否定でないにしても不

    十分であるという理論的根拠が示されたことにな

    る。それに代わる心理介入の理論は「経験の受容」

    であり、それは不安を感じている自分を「不安に

    感じているな」と一歩下がったところから不安を

    感じている自分を受け入れるという、日本語で言

    う「自然体」の態度に近いものと解釈される。こ

    の態度の詳細は本書の中で繰り返しさまざまに説

    明されることになる。一つのキーワードである。

    第2章の概要と注釈

    第2章の標題は「変化から受容へ:パフォーマ

    ンス向上のためのマインドフルネスーアクセプタ

    ンスーコミットメント(MAC)アプローチ」で

    ある。この事では本書であつかうテーマに関する

    中心的理論の説明が行われる。その要点は「変化

    から受容へ」という言葉のなかに表現されている。

    つまり、不安や懸念にとらわれていた心を平常心

    に変化させて競技を行うのではなく、不安や懸念

    を抱いている心をそのままで受容して競技を行う

    ことのほうが、パフォーマンスの向上につながる

    という理論が、この章で説明される。まず、従来

    からのメンタル・スキルズ・トレーニングの反省

    から始められる。

    (21:2)『過去30年の間よく使われてきたパ

    フォーマンス向上のための心理的手法は、認知一

    行動療法の伝統(Meichenbaum,1977)から派

    生してきた技能トレーニングとみることができ

    る。この方法は思考や情動や身体感覚などの内的

    状態を自己コントロールできるようにすることを

    主眼としていた。そのような方法は一般的に心理

    的技能トレーニング(PST=pSyChologicalskills

    training)とよばれていた。この方法を支えてい

    た考えは、理想的なパフォーマンス状態は精神的

    面をコントロールする技能を開発しそれを利用す

    ることで可能になるということであった。

    自己調整によるPSTでば 目標設定(goal-

    setting)、イメージあるいはメンタルリハーサル、

    興奮のコントロール、セルフトーク(自己への語

    り掛け)、競技前のルーチン(precompetitive

    routines)、さらにそれらの組み合わせであった』

    (21:20)。

    第2章2節では伝統的なPST技法の有効性に

    対する疑問が提示される。Moore(2003)による

    PSTに関する多数の先行研究の効果分析の結果

    は、効果を実証的に確かめた研究は少ないことを

    示した。実証的効果があったかどうかを結論づげ

    ろ評価基準には、アメリガ心理学会第12部門(臨

    床心理学会)の基準が用いられた。この検証研究

    の結果はGardner&Moore(2006,pp.63-96)に

    示されている。本書ではスポーツ心理学における

    メンタルトレーニングの研究と実践の現状につい

    てつぎのように述べて2節が結ばれる。

    (28:3)『要するに、われわれがここで言いたい

    ことは、30年以上にわたって蓄積された知見があ

    るにも関わらず、伝統的なメンタル・スキルズ・

    トレーニングがパフォーマンスの向上に効果があ

    るという証拠を、われわれは手にしていないとい

    ー100-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    うことだ。われわれは新しい研究誌が出版される

    たびに示される、効果がないという報告を見過ご

    し続けるべきなのか?あるいは新しい科学の発展

    を目指して、過去の心地よい居場所を抜け出して

    いくべきをのか?』

    こう述べた後に、新しい道の説明に入っていく。

    【マインドフルネスーアクセプタンスーコミット

    メント(MAC)アプローチ】(p.30)

    まずMACの基本的原理がつぎのように説明さ

    れる。

    (30:l)『パフォーマンス向上を目指すMACは

    「受容を基本とする方法」(acceptance-based

    approach)に基づいた介入法である。われわれ

    はこの方法を臨床的場面での成功に基づいて開発

    した。その理由の一つは伝統的なメンタル・スキ

    ル技能が成績の向上に役立つということを支持す

    る客観的なデータが十分には示されていこなかっ

    たということである。「受容を基本とする方法」

    はHayes,Follette,etal.(2004)によって臨床患

    者を対象として成功裏に実施された。Carson et

    al.(2004)は、人間関係改善に利用した。職場の

    ストレス低減には、Bond&Bunce(2000)が応

    用した。競技者の成績向上にはGardner&

    Moore(2004.2006)やWolanin(2005)が応用し

    ている』

    (30:16)肝受容を基本とする方法」はHayes,

    Strosahl,&Watson(1999)によって開発された

    ものであり、理論的には、重要なプレゼンテーショ

    ンや試合などで不安を経験し、それを後になって

    思い出すとき、人は経験したことについての思考

    に対して不安を経験するという考えに基づいてい

    る。実際の課題(外的課題)のみならず、課題の

    内的経験(課題に関する思考)も情動を引き起こ

    す、と考えられる。このことによって、人の内的

    経験(思考や情動)をコントロールしようとする

    過度な努力や、そのような経験を避けようとする

    努力が引き起こされると考えられる。つまり、思

    考や情動は束の間の主観的状態であるが、個人は

    しばしばそれが、善し悪しや、正誤や、可不可を

    もって判断すべきリアリティー(現実)であるが

    のように、その思考や情動に反応してしまう。こ

    のような判断は人の選択と行為に影響をあたえ、

    ネガティヴ、不快、受け入れられないと判断され

    る経験を避けたり逃げたりするような傾向を生み

    出す』

    (30:31)『バスケットボール選手の例を考える

    と、不安やネガティヴな考えに反応して、攻撃的

    なプレーが鈍ったり、シュートのチャンスを見逃

    したり、試合に出たがらなくなったりする。先に

    述べたように、このような心理過程をHayes et

    al.(1996)は「経験回避」(experientialavoidance)

    と呼んだ。

    重要な会議や試合の前に経験される不安や怒り

    や欲求不満は「今日は強いストレスを感じるか

    ら○○ができない」というような言葉に結びつき、

    さらに重要な会議や試合を避ける結果につながる

    こともある。この例のように、個人の内的経験に

    よって直接引き出される行動の反応は、「法則支

    配的行動」(rule-gOVernedbehavior)の一つの

    例である。この例の場合は、回避的行動は個人的

    法則(「私は気分が乗らない会議では、会議を上

    手に運営できない」、というような法則性)によっ

    て直接支配されており、経験された情動や思考へ

    の直接的反応である。回遊的行動は、価値ある目

    標への専心(Commitment)や自分の好きな仕事

    への参画の楽しみがある場合などには、選択され

    る行動ではない』(31:6)

    上記の引用の最後から3行目からの『経験され

    た情動や思考への直接的反応』という部分は、

    MACで問題にする回避的行動の原因となる心理

    的メカニズムが述べられている。『会議』という

    現実に対する反応として行動が起こるのではな

    く、『会議』の予定が引き起こす不安(情動)や

    ー101-

  • 市村操一

    心配ごと(思考)に対する反応として行動が起こ

    ることを意味している。このような反応はパ

    フォーマンスの向上を阻害するものであるという

    説明が続く。

    (31:7)『さらに説明するならば、「こんなヤツ

    のために働いていられないよ。ヤツはまったくダ

    メな男だ」とか、「自信がないからショットはし

    ない」というような言葉で人は自分の行動を説明

    するために内的なプロセスを使っている。内的な

    “法則‘’によって支配されている行動は、欲求不

    満や怒りや不安のような内的経験を低減させるこ

    と(経験回避)を目指している。このような情動

    軽減機能を目的とした行動は、価値の高い目標に

    適応的に集中した行動とは対照的である。適応的

    な行動とは、上記の例の場合には、会議にいやな

    相手がいたとしてもその場に適切な行動をとるこ

    とであり、怪我のリハビリの場合には痛さと退屈

    に耐えることである。

    すべての実行者は、その技能レベルに関わらず、

    目先の満足を犠牲にして遠くの目標へ向かって規

    則的に行動を管理していかなければならないとい

    う事実を考慮するならば法則支配的行動(rule-

    governedbehavior)と価値指向的行動(values-

    directed behavior)を区別することは、極めて

    重要である。成績向上のためのMAC技法は現時

    点での競争的行動を促進させるだけでなく、練習

    や個人の成長や高度の技能の発展に必要な価値指

    向的行動をも促進することが期待されている。

    MACアプローチは、個人の内的経験をそれが

    どのようなものであろうとも受容することを促進

    すると同時に、たえず変化する生活の状況のなか

    で、個人にとって価値ある活動と目標に導いてい

    くこのような、適切な反応に個人が集中すること

    を促す』(31:31)。

    (MACの目的)

    MACは単一の心理技法ではなく、複合的な技

    法である。この技法を実践するためにはその技法

    の練習を行わなくてはならない。練習すべき課題

    は少なくとも3つある。それらはマインドフルな

    注意であり、経験の受容の仕方であり、コミット

    メントである。それらの練習法については本書の

    第2部で詳細に説明されるが、ここではまず、

    MACの目標が示される。

    (32:1)『本書の後半では、MACの詳細な技法

    が示されるが、その日的はつぎのようなものであ

    る。(1)注憲深く、非判断的な、現時点への注

    意の集中。(マインドフルネスとして後に議論さ

    れる)。(2)思考・情動・身体感覚などの内的プ

    ロセスを受容すること。(人間の経験にたいして

    自然であること=aSnaturaltothehumanexpe-

    rience)。(3)内的な経験を回避しないで感じ続

    けること。(4)個人の成績の向上や価値の実現

    のために、実行に関連する手がかりや、関連する

    刺激や、状況に相応しい行為に注意を集中するこ

    と。(コミットメント)』(32:9)。

    成績向上のための新しい方法であるMACは、

    精神の状態を変化させることが目的ではなく、精

    神の状態への気づきを高め、精神の状態を受容し、

    価値ある日標に柔軟に適応した行動を発達させる

    ことである、とう主張が繰り返し述べられること

    になる。その要点が(33:3-7)の枠の中に示され

    ている。『内的を経験をコントロールしたり弱め

    たりすることを理想的なパフォーマンスの状態を

    作り出すために必要な方法だと考える代わりに、

    MACの方法は、時々刻々と変化する認知(思考)・

    感情・感覚の経験に対する行きとどいた注意と非

    判断的意識と受容を強調する』

    (33:30)『Lynchet al.(2001)は、病人の場合

    も正常者の場合も、情動を抑制しまうとすること

    が情動の強さが心理的ストレスに結びつくのを助

    ける効果があることを示している。情動の強さそ

    のものがストレスを生み出すのではなく、むしろ

    情動経験を抑制したり回避し、たりしようとする個

    -102-

  • 人間のパフォーマンス向上のためのl彊理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    人の試みがストレスの原因となっている』

    つぎにMACの目標としてあげられた4番目の

    目標である積極的関与(Commitment)について

    の説明が行われる。

    (34:25)『MACにおいては、受容を基本とする

    方法に関連した2つの概念に焦点があてられる。

    それらは意欲(willingness)と積極的関与の2

    つである(Hayesetal.工999)。

    ここで定義される(意欲)ば 思考・情動・感

    覚を、それらが快であるかどうかに関わらず十分

    に経験しようと決心することを意味している。生

    活・人生をそれが生じたままに十全に経験しよう

    とする(意欲)は、人間であるかぎりは避けるこ

    とのできない不快な瞬間を避けようとするのでは

    なく、人生のすべての面を受容することを可能に

    する。このような意欲は行動の選択を、不快な感

    情からの即座の解放のために行うのではなく、本

    当に価値をおいた目標のために行うことを可能に

    する。

    積極的関与(コミットメント)は、個人が価値

    を認めた目標を追求することに役立つ行動を積極

    的に選んでいく過程として定義することができ

    る』

    (マインドフルネスの説明)

    MACの説明をする中で、mindfulawareness

    というような言葉が頻繁に使われる。この章の

    34-38ページにわたって、マインドフルネスとい

    う概念の説明と、MACとマインドフルネスの関

    連の説明がなされる。

    (34:40)『マインドフルネスは、内的経験の注

    意深い意識化と、個人の思考・情動・身体感覚を

    反応すべき「現実」として一体化して意識するこ

    とを促進する過種とみることができる。一つの過

    程として、マインドフルネスは 現時点への高め

    られた意識の焦点づけの一つの形式とも見ること

    ができる。KabaLZinn(1994,p.4)は「意図的な

    注憲の向け方の一つの方法であり、現時点への価

    値判断を行わない注意」と述べている』(35:l)。

    (35:11)『成績向上を目的としたMAC技法にお

    いでは、当面する現実に対する非判断的、非評価

    的注意が強調される。そこでは、個人の意識に入っ

    てくる内的そして外的の出来事は、善し悪し、正

    誤、有益無益の判断を下すことなく意識される。

    つまり、個人は経験を判断したりコントロールし

    たりすることとは反対の仕方で、その経験を観察

    し記述することを教えられる』

    マインドフルネスの意識をどのように育てる

    か、あるいは訓練するかについては、本書の第2

    部で詳しく説明される。この章では、さまざまな

    瞑想法を基礎にした注意の自己調整が行われると

    いう記述があり、参考文献としてKabat-Zinn et

    al(1992)が示されている。

    この節の最後に、マインドフルネスがMACの

    中で効果を発揮すると考えられる4つの基本的な

    プロセスについての説明がなされている。

    (36:16)『マインドフルネスは成績向上にとっ

    て、4つの基本的プロセスをとおして効果を発揮

    すると考えられる。

    (1)高められたマインドフルな注意は、受容

    を基本とした介入法としてのMACの目的に貢献

    する。その目的とは、思考・情動・身体感覚など

    の個人の内的経験をコントロールする努力を少な

    くするということである。(2)高められたマイ

    ンドフルな注意は、情動の経験にポジテイヴな影

    響を与える。近年の研究は マインドフルネスの

    介入は左半球前頭野を強く活性化することを示し

    ている。この部位は快の感情と関係のある部分で

    ある。さらに言うならば、マインドフルネスはあ

    る情動に対して個人が習慣的に自動的に反応して

    きた行動を変更する可能性を示している。ある種

    の情動を喜んで受け入れるように情動経験を変化

    させることによって、それまでにその情動に自動

    的に示してきた行動的反応を修正できるようにな

    -103-

  • 市村操一

    るということである。特にある情動に基づく回避

    的を反応を修正することによって、状況に適応し

    た柔軟を行動を選べるようになっていくと考えら

    れる。(3)マインドフルネスは、個人に個人の

    思考の内容をそれに対して反応すべき絶対的な現

    実ではないことを教えることによって機能するよ

    うになる(Teasdale,Segel,&Williams,1995;

    Wolanin,2005)。このような機能はメタ認知的意

    識とよばれる。その機能を育てることは、思考や

    情動を単に思考や情動にすぎないとみることがで

    きるようにすることを学ぶことである(Teasdale

    et a1.,1995)。そこでは、思考や情動は個人に変

    化を求めることのない、単なる一過性の出来事に

    すぎないと考えられる。そうではなく、思考や情

    動を即座の反応を必要とする絶対的な現実である

    と考えるならば法則支配的行動(ruleで0Verned

    behavior)が生起しやすくなる。この法則支配的

    行動は、状況の変化に適切に反応する行動ではな

    く、個人の内部に強く形成された法則に基づいた、

    過度に一般化された行動である。また、法則支配

    的行動は行為とその結果をつなぐ個人の言語的法

    則に基づいた特有の行動によって影響を受ける

    (00したら、×Xとなるだろう、というような

    行為と結果の個人の信じている法則性差

    法則支配的行動は、環擬の中の現実的手掛かり

    や偶発的事態に対して効果的に反応する感受性と

    対応能力を低めることに在るとHayesetal,

    (1989)の研究は指摘している。そのような観点

    からすると、マインドフルネスを高めることは苦

    しい思考の生起する頻度を少なくすることでもな

    く、それを目指しているわけでもない。むしろ、

    マインドフルネスは個人の思考と内的法則を文字

    通りに信じることをやめさせることを狙ってい

    る。そうすることによって、「マインドフルネス

    は環境の与える手がかりとその変化に対する個人

    の感受性を高め、行動の柔軟性を促進する」

    さらには、内的法則を崩すことはネガティヴな

    自己判断から個人を自由にすることにもつなが

    る。

    (4)マインドフルネスは、注意の焦点を、情

    動を引き起こす刺激や個人の内的プロセスに向け

    させるのではなく、実行に関連する手がかりとそ

    の付随事態に向けさせることによって成績の向上

    に役に立つ。課題指向的な注意を可能にするため

    に、マインドフルネスは注意を個人が注憲を向け

    ている対象に向けさせるだけではなく、注意のプ

    ロセスに向けさせることを助ける。そのことによ

    り、個人の注意の焦点は、状況の変化に従ってよ

    りよく変化することができる。

    簡単に言うならば マインドフルネスの技法の

    発展は、必要とされるものの上に注意を当て、不

    必要なものには注意を当てないことを可能にす

    る。この点に関して言えば、最近の研究は、マイ

    ンドフルネスは現時点での要求と関係のない思考

    の反努を停止させることに特に効果があることを

    報告している(Teasdaleeta1.,1995)。

    注意プロセスの自己制御を高めることに関連し

    た問題点をKlingeretal.,(1981)やEdwardset

    al.,(2002)の研究の中に見ることができる。両方

    の研究において、ゲームに関連した外的な刺激へ

    の注意から成績の内的自己評価への注意の移行

    は、試合の最中の破滅的な成績の低下につながっ

    ていることを示している。しかも、高レベルの競

    技者においてである。

    さらに最近の研究では(Bogelseta1.,2006)、

    マインドフルネスを応用した課題への集中の手続

    は、自己への焦点づけちれた注意を減らし、課題

    への焦点づけられた注意を増し、社会的状況での

    実行不安(これは機能不全の一つの形態である。

    注:たとえば「あがり」)を低減する効果がある

    ことが報告されている』(38:22)。

    つぎの節ではMAC法のスポーツの場での効果

    の実証的研究についての討論が行われる。

    -104-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    【MACプロトコルの研究】(p.38)

    (protocol:医学用語では、科学的研究や患者の

    治療を実行するための計画を意味するが、本稿で

    は「プロトコル」「プログラム」と表記する)

    この節では、従来のメンタルトレーニング

    (MST)の効果を示す実証的研究の数の少なさに

    たいして、MACの効果を示す実証的研究の数が

    増大していることが示されている。代表的な研究

    としてつぎのような研究が紹介されている。それ

    らは、(Gardner&Moore,2004a,2006;Gardner

    et a1.,2005;Lutkenhouse et a1.,2007;Wolanin,

    2005)などの研究である。

    (38:36)『wolanin(2005)は、11人のDivision

    I(米大学一部リーグ)の陸上競技者を対象に

    MACプログラムを実施した。その結果、MACを

    練習した群は成績の自己評価とコーチの評価で統

    制難よりよい結果を示した。集中力や攻撃性でも

    統制韓より良い評価を得た。

    Lutkenhouseetal.(2007)は、MACと伝統的

    な心理技能トレーニングの成績向上への効果の比

    較を118名の競技者を対象に行った。DivisionI

    の3つのチーム(男子サッカー26名、女子サッカー

    17名、女子ホッケー17、計60名)が、週1回の

    MACプロトコルを7セッション行った。MACの

    介入を受けた群は、アメリカオリンピック協会

    (USOC;1999)の心理技能トレーニング(PST)

    を7セッション行った群(男子レスリング30名、

    男子ボート14名、女子ボート14名、計58名)と

    比較された。USOC辞は目標設定、イメージ、リ

    ラクセーション・ストレス・マネジメント、ポジ

    テイヴ・セルフ・トーク、覚醒コントロール技法

    をどを練習した。2つの群は介入前に競技者と

    コーチによる成績の評定を受けたが、差はなかっ

    た。介入前から介入後へかけての変化のコーチに

    よる競技者の評定では、MAC群は32%が向上し、

    PSTを行ったUSOC群は10%が向上を示した。

    MAC辞の向上者の割合は有意に優れていた。

    また、MAC韓は積極性の増加、経験回避傾向

    の低減、フロースコアの向上の点でUSOCの心理

    技能訓練を受けた群より優れていた。これらの心

    理的変化はつぎのような尺度で測定された。経験

    回避:Acceptance and Action Questionnaire、

    課題への没頭:FlowScale、マインドフルな意識・

    注意:CognitiveadA拓ectiveMindfulnessScale

    (Feldmaneta1.,2007)。

    上記のような研究は、マインドフルネス技法と

    アクセプタンスに基づく行動の方法の統合は最高

    のレベルの成績を目指す競技者に効果的に応用さ

    れうるという仮説を支持している。MACの効果

    は客観的なデータとコーチの評定によって確かめ

    られたが、そのほかにもつぎのような効果が観察

    された。(1)集中と非回遊性の評価の増大。(2)

    マインドフルを意識と注意の増強。(3)ネガティ

    ヴ思考を信じなくなり、回避行動を行わなくなる。

    (4)課題の実行中のフロー感覚の向上』(40:8)。

    なお、MACを競技者に適用した事例研究は本

    書の第3部で紹介される。

    第3章「MACの準備」の概要と注釈

    従来のメンタル・スキルズ・トレーニングにお

    いては、競技者の個性や状態に関わらずに、同じ

    ような技法が実行される傾向があった。本書の著

    者たちは、医師が患者の病状に合わせて薬を処方

    するように、適切な心理的介入を行うためには、

    競技者の診断が必要だと考える。

    (41:5)『ここで示される介入計画のモデルは、

    スポーツ心理学のためのcase formulation

    method(査定・見立て;Gardner&Moore,2005)

    に基づいており、選手たちがカウンセリングルー

    ムに持ち込んでくるさまざまな問題を理解するた

    めの枠組みを与える。(case formulation=査定

    プロセスで組織的に集められ7日青報を基にして、

    競技者の抱えている問題を概念化し、理論的に理

    解すること)このcaseformulationによって、個々

    ー105-

  • 市村操一

    の選手に適したMACの介入法が準備されること

    になる』

    【競技者の査定】(p.42)

    Case formulationの作業の開始にあたっては

    心理面の査定にとどまらないで、生理・行動の側

    面についても調べられる。

    (42:6)『コンサルタントはcase formulationの

    作業をクライアントの生理・心理・社会的側面の

    包括的な査定から始める。つぎのような問題に答

    えることが含まれる。

    ・現時点での問題は何か?この間題はどのように

    発展したのか?きっかけは何なのか?なぜ、その

    問題は持続しているのか?

    ・状況はどのような成績を要求しているか?

    ・競技者の現在の技能レベルは?

    ・競技者のパフォーマンスに関するスキーマはど

    のようなものか?パフォーマンスに対する態度、

    期待、成功・失敗の基準などについてどのような

    スキーマを持っているか?

    ・競技者の思考・情動・行動などが成績の変動と

    どのように関係しているか?

    ・競技者はパフォーマンスの手がかりや関連する

    刺激にどの程度注意を向けているのか?また、実

    際のパフォーマンスの際に、自己とパフォーマン

    スの結果にどの程度注意を向けているのか?

    ・クライアントは成績の低下にどのように反応し

    ているか?

    ・クライアントは「気に病む」「くよくよと考え

    を反鋸する」「先延ばしにする」など、経験回避

    の傾向を示していないか?

    ・仕事やスポーツに関してこれまでに現在の問題

    に関係するような個人的経験をしていをいか?

    ・現在の問題の原因となっていると考えられるス

    トレスの原因はなにか?

    ・現在の問題に対してどのような認知的行動的対

    処を行っているか?また、その間題は自己・他者・

    将来についてのパースペクティブにどのような影

    響をあたえているか?

    上記の問題がつぎに示すような査定プロセスで

    調べられなければならない』(43:5)。

    この査定の方法には半構造化インタヴュー、行

    動観察、心理テストなどが使われる(pp.43-47)。

    【クライアントの状態の見立て(Caseformulation)】

    インタヴュー、行動観察、心理テストなどで得

    られだ情報は統合されて、クライアントの個別の

    状態の見立てが行われる。この見立ての段階では、

    クライアントの状態を特徴づけるための10項目

    の基本的特徴が指定されており、それらに従って

    査定の段階で得られ刺青報がまとめられていく。

    Formulationという言葉には「系統的論述;整理」

    という意味があるが、この場合のcaseformulation

    もまさに競技者の事例を系統的に整理しようとし

    ている。原著にはつぎのように書かれている。

    (48:1)『包括的なcaseformulationのためには、

    競技者の当面する問題を明らかにした後に、つぎ

    の10の基本的要素に関する情報の慎重な考察が

    必要である(Gardner&Moore,2005)。1 あ

    たえられた状況で要求されるパフォーマンス。2

    要求されたパフォーマンスを行うための技能の

    現状。3 状況が要求するもの(パフォーマンス

    に関連したものと、関連しないもの)。4 移行

    経過的問題と発達的問題。5 独自の人格的特徴

    (パフォーマンスに関連する特徴、関連しないもの)。

    6 注意の方向づけ(selfvs.taskorientation)。

    7 認知的反応。8 感情的反応。9 行動的反

    応。10 変化の可能性と抵抗のレベル』

    (48:18)『最初の3つの要素には「競技者の置

    かれた状況で要求される成績」が含まれている。

    この要素は個人の技能のレベルと組み合わされて

    成績にさまざまな影響を与える。その影響は高度

    に個別化されている。(注:このような考察を行

    うことが、CaSeformulationと言われているよう

    -106-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    である)』

    (49:11)『4番目の要素は、移行経過的問題と

    発達的問題である。これらは、人生の自然の段階

    としてすべての人間に経験される発達的問題であ

    り、一里塚である。移行経過的問題(transitional

    issues)の例は学校の入学・卒業、職業坐活、引退、

    怪我、経済などでのストレスなどを含む他に、病

    気、結婚、家族関係、人間関係などに原因のある

    ストレスも含まれる。

    (49:31)5番目の要素は競技者の心理的特性で

    ある。心理的特性はパフォーマンスに関連するス

    キーマも開通しないスキーマも含まれる。ここで

    言うスキーマとは内的な規則システム(internal

    rulessystems)を指す。このスキーマは個人が

    世界を評価し解釈するテンプレート(型板)であ

    り、長年にわたって個人の中で発達してきたもの

    である(Gardner&Moore,2006;Youllg,Klosko,

    &Weisheer,2003)。パフォーマンスの領域で一

    般的に見られるスキーマは極端な完壁主義や、自

    己不全感や、他者を喜ばすことへの圧力や、失敗

    の恐怖などの形をとる。心理的特性の査定の中に

    は懸念、思考反復(rumination)、経験回避など

    も含められるだろう。

    質問紙法によるパフォーマンスに関連する心理

    的特性の査走法の例としてはつぎのようなものが

    ある。 YoungSchemaQuestionnaire(Young,

    1999,2002):これは、パフォーマンスおよび生

    活全体での機能に影響をあたえる非適応的スキー

    マを測定するために開発された。Frost Multidi一

    mensional Professional Scale(Frosat,et a1.,

    1990):完壁主義の多面的測定。PennStateWorry

    Questionnaire(Meyer,Miller,Metzger,&Bork

    ovec,1990):懸念、とり越し苦労などの測定。

    Action and Acceptance Questionnaire-Revised

    (Hayes,Strosahl,Wilson,Bisset,eta1..2004):

    このテストは経験回避傾向を測定している。

    (51:5)コンサルタントはクライアントの心理

    的特性を確認したならば、CaSe formulationのな

    かで6番目の要素を確かめることができる。つま

    り、それは注意の方向づけ(自己 対 課題)で

    ある。その評価のためにはコンサルタントはつぎ

    のような疑問を明らかにする必要がある。

    競技者の思考は自己言及的(self-referenced)か

    課題関連的(taskappropriate)か?・競技者

    の意識の焦点は競技の現時点に集中しているか、

    失敗の可能性や、個人的関心事や、試合とは無関

    係なことがらに向けられてはいないか?・競

    技者は怒りや不安や欲求不満を抱いていないか、

    もし抱いているとすれば、それらの情動を問題だ

    と思っているか?・思考や情動などの内的な経

    験をモニターしたりコントロールしたりするよう

    な努力が、パフォーマンスに関連する外的な手掛

    かりや事態の成り行きへの注意に支配的な影響を

    あたえていないか?

    課題に焦点づけられた注意は機能的なパフォー

    マンスにとって極めて重要であり、逆に、過度に

    自己に焦点づけられた注意は、スポーツや性行動

    や学業の領域でのパフォーマンスにとってネガ

    ティヴな影響を与える(Barlow,2002;Gardner

    &Moore,2004a,2006;Harvey,eta1.,2004)。

    (51:31)『case formulationの7、8、9番目

    の要素は認知、感情、行動面での反応である。そ

    れぞれは別のものだが相互に関連している。認知

    的反応は運動の実行の際に経験される特殊な認知

    の内容、あるいは自動思考を意味する。この変数

    は、クライアントがパフォーマンスを行う状況で、

    自分自身に対して語りかけていることをどのよう

    に報告するかということを示す。ここで重要なこ

    とは実行者が彼らの認知(思考)が現実を正確に

    反映している絶対的な事実と考えるか、去来する

    観念であり、必要なときには反応するがあるとき

    にはまったく無視したり、単に無作為に過ぎ去っ

    ていく経験とみたりすることができる観念である

    と考えるかである。近年の研究は、心理的・行動

    -107-

  • 市村採一

    的困難に関係しているのは、積極的思考か否定的

    思考かというような思考の内容ではをく、むしろ、

    彼らの思考を行動の困難を予測する現実や事実そ

    のものと思い込む強さであることを示している

    (Hayeseta1.,1999)。要訳して言うをらば実行

    者が彼らのネガティヴな思考を絶対的な、事実を

    現わしていると信ずるほど彼らの思考は実行に

    悪い影響を与える傾向が大きい。

    感情反応に関してはつぎの疑問が応えられなけ

    ればをらない。・仕事や競技の場で実行者は

    しばしば不安や、欲求不満や、怒りを経験してい

    るか。・実行者はこのような情動がパフォー

    マンスにネガティヴあるいはポジテイヴに関係し

    ていると信じているか?  情動の処理のスタ

    イルは健康的か、不健康か?(状況の脈絡に適

    切な簡潔な表現をしているか? ネガティヴな感

    情を過度に調整しようとしたり、表現を避けよう

    としたりするか?)(52:20)

    (53:14)Caseformulationにおける10番目の要

    素は、実行者の変化へのレディネスと抵抗のレベ

    ルである。変化へのレディネスという概念は

    Prochaska et al.(1992)による行動変化のモデ

    ルの中心的概念であり、それは、行動の変化の必

    要性や関心を現わす態度や行動を指している。

    積極的で組織的な介入を開始する前に、実行者

    の変化へのレディネスを高めておく必要があるか

    どうかをコンサルタントは考慮する必要がある。

    この心理的変数を測定するために、Readiness

    for Change Questionnaire(Forsberg,et a1.,

    2003)がある』(53:27)。

    この10番目の要素は、これまでのスポーツ・メ

    ンタル・トレーニングの本ではほとんど取り上げ

    られてこなかった。すべての競技者はメンタル・

    トレーニングを必要としているはずである、とい

    う前提のもとに心理的介入法のやり方が説明され

    てきた。しかし、現実的にはコーチが準備したメ

    ンタルトレーング法の講習会などに進んで、しか

    も長期にわたって参加する競技者の数は多くはな

    かった。本書では、心理的介入にたいする反作用

    的抵抗(reactance)の研究が紹介されている

    (Beutler,etal.工995)。(54:4)。

    【パフォーマンスについての問題の分類】

    第3章「MACの準備」の最終章は、コンサル

    タントのサポートを求めるクライアント(この場

    合は競技者の来談者)の抱えている問題点や心配

    ごとを分類する考え方に充てられている。

    (54:6)『コンサルタントはクライアントのパ

    フォーマンスの問題点と懸念を正しく分類するこ

    とができなければならない。この目的のために、

    Multilevel Classification System for Sport

    Psychology(MCS-SP)(Gardner&Moore,

    2004b)を利用することができる。MCS-SPによ

    る適切な分類があって初めて、MACのプログラ

    ムは開始されるべきである。その利用はMCS-SP

    による異なる分類に属する個人はMACのさまざ

    まなプロトコル(プログラム内容)に異なった反

    応を示すことがあるからである』

    (54:32)MCS-SPは競技者の当面する問題をつぎ

    の4つのカテゴリーに分類している。①パフォー

    マンスの向上の問題(performaIICedevelopment:

    PD)、パフォーマンスの機能不全に関する問題

    (performance dysfunction:Pdy)、パフォーマ

    ンス障害(performanceimpairment:PI)、パ

    フォーマンス停止(performancetermination

    =PT)。

    (パフォーマンスの向上の問題:PD)に分類さ

    れる人の問題はつぎのような問題に代表される。

    “コンサルテーションを求める主たる理由はパ

    フォーマンス向上であること。・パフォーマンス

    を阻害するような個人内および対人的心理的要因

    がなく、心理技能を発展させることがパフォーマ

    ンスの向上につながると思われるとき。

    (パフォーマンスの機能不全に関する問題:

    ー108-

  • 人間のパフォーマンス向上のための心理学-マインドフルネスーアクセプタンスーコミットメント・アプローチー

    Psy)に分類される人の問題はつぎのような問題

    である。・ 過去のパフォーマンスはつねに、現

    在のパフォーマンスレベルよりは優れていた。そ

    して現在のパフォーマンスの進歩は停滞してい

    る。・実行者の一般的精神状態は健康であるが、

    パフォーマンスを妨げている障害がある。それら

    は、移行的、対人関係的、発達的、スキーマ的問

    題である。

    (58:18)本書の4-10章にわたって示されるMAC

    プロトコル(プログラム)はPDとPdyタイプのク

    ライアントに対して柔軟に応用できるようにデザ

    インされている。PDとPTタイプの困難を抱えた

    クライアントに対するMACプログラムはGardner

    &Moore(2006)に詳しく述べられている。

    (パフォーマンス障害:PI)は、クライアント

    に臨床的な問題があることが診断され、その間題

    が強い情動的背痛や行動の機能不全の原因となっ

    ていて、パフォーマンスの低下あるいは、まった

    くスポーツができなくをる可能性があるような状

    態である。(パフォーマンスの停止:PT)は、ク

    ライアントの懸念はキャリアの終結に結びつく多

    くのストレスや困難と関係しており、そこにはカ

    ムバックの現実的可能性はほとんどないような場

    合である。

    【MACの準備の章の結論】

    この章では、各競技者の状態を理解したうえで

    心理的援助・介入を行おうとする目的の下に、競

    技者の心理的・社会的・行動的状態を理解する方

    法が示された。この節の説明だけでは具体的な方

    法を実行するには十分ではをいところがあるが、

    文中に示された引用文献を参照することで具体的

    な方法が明らかになるだろう。最後に本文から結

    論の部分を訳出しておく。

    (60:24)『MACプログラムの開始に先立って、

    コンサルタントはクライアントの提示する問題を

    全体的な心理・社会的脈絡で理解するための情報

    を集めておく必要がある。この情報収集の目的は

    提示された問題とクライアント個人の持っている

    多くの変数の関係を理解することである。この事

    に示されたcase formulation法は、クライアント

    の理解と、介入のためにMACの適切なプログラ

    ムを選ぶためのMCS-SPによるクライアントの

    ケースの分類を含んでいる』

    『実行者の機能の好調・不調を理解するための

    モデルの基本ができたならば、我々はMACプロ

    グラムの具体的を方法を学ぶ準備ができたことに

    なる』

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