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Agilent Technologies 4294Aによる MOSキャパシタのゲート酸化膜の C-V特性評価 プロダクト・ノート 4294-3 1. はじめに MOS FETを用いたロジックLSIの微細 化により、ゲート長が0.1μmを切る デバイスの開発が盛んに行われていま す。それに伴い、ゲート絶縁膜の厚 みも薄膜化の一途をたどっています。 従来、4284Aを用いた1 MHzまでのC-V 測定が行われてきましたが、ゲート 酸化膜厚が2 nmを切るような場合に おいてはトンネル効果によるリーク 電流がかなり流れるため、これまで の方法でC-V測定を行っても、真の容 量値が求まらないという問題が発生 しています。ここで紹介する4294Aプ レシジョン・インピーダンス・アナ ライザは、4284Aで定評のある4端子 対ケーブル接続法と自動平衡ブリッ ジ法を用いた高確度インピーダンス 測定を、110 MHzの周波数範囲まで拡 張した製品です。さらに、4294Aと、 カスケード・マイクロテック社製の プローブ・ステーションを組み合わ せることで、ゲート酸化膜が薄い場 合においても、高精度で再現性の高 い測定が可能になります。 本プロダクト・ノートでは、Agilent 4294Aで採用されている革新的な測定 技術について説明し、ゲート酸化膜 の評価を行うための具体的なシステ ムの構築方法、そして実際の測定に おける問題点について指摘し、それ ぞれの問題点に対するソリューショ ンの詳細について解説していきます。

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Agilent Technologies 4294AによるMOSキャパシタのゲート酸化膜のC-V特性評価プロダクト・ノート 4294-3

1. はじめにMOS FETを用いたロジックLSIの微細化により、ゲート長が0.1μmを切るデバイスの開発が盛んに行われています。それに伴い、ゲート絶縁膜の厚みも薄膜化の一途をたどっています。従来、4284Aを用いた1 MHzまでのC-V測定が行われてきましたが、ゲート酸化膜厚が2 nmを切るような場合においてはトンネル効果によるリーク電流がかなり流れるため、これまでの方法でC-V測定を行っても、真の容量値が求まらないという問題が発生

しています。ここで紹介する4294Aプレシジョン・インピーダンス・アナライザは、4284Aで定評のある4端子対ケーブル接続法と自動平衡ブリッジ法を用いた高確度インピーダンス測定を、110 MHzの周波数範囲まで拡張した製品です。さらに、4294Aと、カスケード・マイクロテック社製のプローブ・ステーションを組み合わせることで、ゲート酸化膜が薄い場合においても、高精度で再現性の高い測定が可能になります。

本プロダクト・ノートでは、Agilent4294Aで採用されている革新的な測定技術について説明し、ゲート酸化膜の評価を行うための具体的なシステムの構築方法、そして実際の測定における問題点について指摘し、それぞれの問題点に対するソリューションの詳細について解説していきます。

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2. 4284Aと4294Aの違いについて

この章では、4294Aと4284Aの比較について説明します。表2-1に、4284Aと4294Aの機能的な違いについて簡単にまとめました。

この表からもわかるように、4294Aは4284Aと比較し、幅広い周波数範囲をカバーするだけではなく、ゲート酸化膜の評価において有用な数多くの解析機能を搭載しています。

3. 4294Aで採用されているブレークスルー・テクノロジー(その1)

4294Aは、自動平衡ブリッジを使用したインピーダンス・アナライザで、4端子対測定法との組み合わせにより、広いインピーダンス測定範囲を、高周波数域にわたり実現しています。さらに、42941A(インピーダンス・プローブ)と併用することで、その特徴を保ったまま片線接地測定を実現します。この章では、インピーダンス・プローブ(42941A)の測定原理およびプローブ・ステーションとの接続について説明します。42941Aを併用することにより、プローブ・ステーションへの接続が容易になるだけでなく、高周波において非常に安定した測定結果を得ることができます。

3.1 インピーダンス・プローブの測定原理

42941Aは、従来のI-V法とは異なる新しい技術により、周波数範囲の拡大とインピーダンス測定範囲の拡大を行いました。従来型のプローブでは、

主として2つの技術的課題がありました。第一にカレント・トランスの使用周波数範囲が測定器の周波数範囲を制限すること。第二にカレント・トランスで電流を検出する従来の方法では、等価的に内部抵抗が存在する電流測定回路となり、理想的な電流検出ができないため、インピーダンス測定範囲が制限されるという問題がありました。これに対して42941Aのプローブ法は、Advanced-I-V法と呼

ばれる新しい方式を用いています。図3-2に、回路構成の概念図を示します。従来型との違いとして、第一にカレント・トランスを使わないことによる周波数範囲の拡大があります。第二に電流測定回路として内部抵抗が限りなくゼロに近い理想的な電流計を実現し、インピーダンス測定範囲を大幅に拡大しています。

図3-3は、42941Aと、従来タイプの

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図3-1 42941Aインピーダンス・プローブ 図3-2 42941Aの回路構成図

機 能 4284A 4294A

周波数範囲 20 Hz ~ 1 MHz 40 Hz ~ 110 MHz

パラメータ掃引機能 無し:ポイント測定のみ 有り:

周波数(リニア掃引/ログ掃引)

DCバイアス(電流/電圧)

AC信号レベル(電流/電圧)

定電圧/定電流DCバイアス機能 無し 有り

リスト掃引機能 有り(ポイント測定のみ) 有り(掃引測定可能)

表示機能 数値表示 グラフィック表示

内蔵プログラミング機能 なし(外部PCが必要) 有り:内蔵IBASICプログラミン

グ機能(標準)

延長ケーブル 1 m / 2 m / 4 m 1 m / 2 m

(位相補正機能付き)

片線接地測定 不可 可能:42941A(インピーダン

ス・プローブ)との併用により

可能

データ転送用インタフェース GPIB GPIB、LAN

その他 Touchstoneフォーマットを

サポート(Rev.1.1以降)

表2-1 4284Aと4294Aの機能比較

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41941A(インピーダンス・プローブ)の10 %測定確度範囲を示しています。42941Aでは41941Aと比較して、特に低周波領域でのインピーダンス測定範囲が拡大され、I-V法が利用可能な周波数-インピーダンス測定範囲が大幅に拡大されています。

4. 4294Aで採用されているブレークスルー・テクノロジー(その2)

この章では、自動平衡ブリッジ法による4端子対測定に関する基本原理および周波数拡張に伴う測定技術のブレーク・スルーについて説明します。これらの点をきちんと理解することにより、次の章で説明する4294Aとプローブ・ステーションとの接続についての理解が深まります。

4.1 基本測定原理4294Aでは、自動平衡ブリッジ法による4端子対測定により、広範囲なインピーダンスを高確度で測定することが可能です。図4-1に、自動平衡ブリッジ法を示します。この回路では、仮想接地点の電位をほぼ0 Vに保ち、DUTを流れる電流(I1)が、そのままレンジ抵抗(Rr)を流れるように動作します。DUTのインピーダンス値(Z)はHigh側端子の電圧測定値(V1)と、レンジ抵抗両端の電圧値(V2)として得られる電流測定値(I2)から計算されます。

4294Aでは、測定確度の向上のため、図4-2に示される4端子対ケーブル接続法が採用されています。4端子対ケーブル接続では、電流と電圧を別の端子で測定することで、ケーブルに依存する直列残留インピーダンスの影響を軽減することに加え、ケーブルのシールドによるケーブル間浮遊容量の低減も実現しています。また、図4-2に示すように、HcとLcの端子は測定ケーブルの内部導体を流れる電流と、シールド導体を流れる電流が同じ大きさで、しかも逆向きに流れるため、内部導体の電流により発生する磁界をシールド導体の電流による磁界で打ち消します。また、HpとLp端子は内部導体とシールド導体の差分のみを検知するため、外部の磁界により内部導体とシールド導体に

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図3-3 42941Aの測定範囲

図4-1 自動平衡ブリッジ法

図4-2 4端子対ケーブル接続法

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発生する起電力の影響を排除できます。このように、測定ケーブルの外への磁界の発生と、外部の磁界に対する感度を著しく低減でき、測定経路の影響を受けることなく広範囲なインピーダンスを高確度で測定することが可能になります。

重要なポイントとしては、上記の性能を実現するために、シールド導体をグランドに接地してはいけないということです。つまり、測定系のケーブルは全て大地グランドから浮かせる必要があります。また、自動平衡ブリッジ法の仮想接地点が、大地グランドに接地しているとブリッジ回路が正しく動作しません。この点は、

後程説明するプローブ・ステーションとのケーブル接続において大事な考え方となります。

さらに詳しい測定原理に関する解説は、「インピーダンス測定ハンドブック、第2版」(P/N 5950-3000JA)をご参照下さい。

4.2 自動平衡ブリッジ法の高周波への拡張4294Aでは、これまで数10 MHzに限定されていた測定周波数範囲を110 MHzまで拡張しています。4294Aの周波数範囲を拡張するために、以下に示すようないくつかのブレークスルー・テクノロジーが採用されています。

1)ケーブル整合型自動平衡ブリッジ法4294Aでは、ケーブル整合型自動平衡ブリッジ法と呼ばれる技術を採用しています。図4-3のように、高周波領域において測定経路の送電端や受電端を50 Ω(R0)の特性インピーダンスで終端します。これにより、周波数や測定経路長にかかわらず信号の反射による定在波の発生を抑えることができ、測定信号を送電端から受電端へ正確に伝えることが可能になります。この方法をケーブル整合型自動平衡ブリッジ法と呼び、高周波においても高確度な測定を実現することができます。なお、この機能はケーブル延長をしない場合は15 MHz以上の周波数で有効となり、ケーブル延長(1 m/2 m)をする場合は5 MHz以上で有効となります。この、ケーブル整合型自動平衡ブリッジ法による測定周波数の拡張は、42941A(インピーダンス・プローブ)を用いた場合にも同様な効果を発揮します。

2)位相補正によるブリッジ安定性の向上高周波領域におけるブリッジの安定性を向上させるために、4294Aではもう1つのブレークスルー・テクノロジーとして、周波数やケーブル延長に応じて変化するヌル・ループの特性を最適化する回路を搭載しています。ヌル・ループ回路とは、図4-1に示した自動平衡ブリッジ回路のLow端子側にある回路のことで、仮想接地点を0 Vに保つためのフィードバック・ループを構成しています。図4-4にその回路の概要を示します。ベクトル・ジェネレータの前段に信号源Eφ、そして積分回路の後段に電圧測定回路Vφが設置されています。LpとLc端子を短絡することで、Eφから出力した信号が図に示した矢印の向きに流れ、それをVφで測定することにより、ヌル・ループ回路の特性を測定します。4294Aでは、位相補正を測定周波数範囲やケーブル延長状態で行うことにより、各状態でのヌル・ループ回路特性を把握し、実際の測定においてブリッジ回路の安定なバランス状態を得ることができます。

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図4-3 ケーブル整合型自動平衡ブリッジ法

図4-4 位相補正によるブリッジ安定性の向上

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5. 測定システムの構築(ウェハ上面からのコンタクト)

測定システムの構築には、表5-1に示すような方法があり、各方法にそれぞれ特徴があります。

この章では、ウェハ上面からのコンタクトによるゲート酸化膜の評価を実施するために必要なプローブ・ステーション・システム製品を紹介し、ゲート酸化膜の薄膜測定において問題となっているプローブ・ステーションとの接続方法、測定器の補正、そして実際の測定における注意点について解説します。ウェハ上面からのコンタクトによる測定方法は、ウェハ上面とチャック間のコンタクトによる方法と比較して、接続方法やガードの取り方がシンプルなため、測定周波数を比較的容易に拡張することが可能です。特に、42941A(インピーダンス・プローブ)を用いた測定は現時点でご紹介できる最高のソリューションになります。これに対して、ウェハ上面とチャック間のコンタクトによる方法では、10 MHz程度注1)に測定周波数範囲が制限されます。したがって、ゲート酸化膜の評価にはウェハ上面からのコンタクトによる方法を推奨します。

注1)測定周波数範囲は、測定環境や使用するケーブルおよびプローブ・ステーションによっても変化するため注意が必要です。

5.1 42941A(インピーダンス・プローブ)を使用したシステム構成

5.1.1 42941Aを用いた測定システム構築に必要な製品

42941Aによるシステム構築には、以下の製品が必要です。

1) 4294A プレシジョン・インピーダン

ス・アナライザおよび42941Aインピーダンス・プローブ(表5-2参照)

接続ケーブルおよび42941Aを固定する製品は、現時点では製品化されておりませんので、ご用意して頂く必要があります。特に接続ケーブルについては、最短距離でプローブと接続可能な特性の良いセミリジッド・ケーブルをご使用下さい。

2)カスケード・マイクロテック社製プローブ・ステーション、ACPプローブ、インピーダンス基準基板(ISS)(表5-3参照)

カスケード・マイクロテック社の製品に関しては、直接カスケード・マ

イクロテック社よりご購入下さい。

5.1.2 プローブ・ステーションとの接続における注意点

図5-1に、42941Aを使用した場合の接続概念図を示します。

1)ケーブルの接続について図5-1に示すように、42941Aとプローブとの接続に用いるケーブルは、高周波特性が良く、できる限り短いセミ・リジッド・ケーブルをご使用下さい。長いケーブルを使用すると、高周波の測定においてケーブル内部のインダクタンス成分が測定に影響を与えるためです。

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コンタクト方法 推奨 必要な測定器 測定方法 特徴

ウェハ上面 4294A+42941A Advanced I-V法 ・セットアップが容易

(5.1.1章参照) ・高周波まで安定した測定が可能

4294A 4端子対法 ・比較的高周波まで測定が可能

(5.2.1章参照) ・セットアップが複雑

ウェハ上面とチャック間 4294A 3端子法 ・セットアップが比較的容易

(6.1章参照) ・測定周波数が10 MHz程度に制限される

表5-1 測定システム

製品名 内容 備考

4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザ

42941A インピーダンス・プローブ

SMA (m) - SMA (m)ケーブル (1ea.) 別途ご用意下さい

表5-2 42941Aシステムに必要なアジレント社製品

項目 製品名 備考

プローブ・ サミット11000/12000シリーズ

ステーション S300シリーズ

プローブ APCシリーズ 周波数範囲:DC~40 GHz

表5-3 42941Aシステムに必要なカスケード・マイクロテック社製品

図5-1 42941Aを使用した場合のケーブル接続概念図

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5.1.3 測定器の補正高確度測定を実現するためには、測定器の補正をきちんと行うことが非常に重要になります。

1) 位相補正の実施図4-4に示すような、位相補正機能が4294Aには搭載されています。・4 2 9 4 Aの [ C a l ] キーを押し、[Adapter]メニューで[PROBE]を選択し、[SETUP]メニューから[PHASE COMP]を実行します。この時に、42941Aの先端部には何も接続しない状態にしておきます。位相補正が終了するとソフトキー・ラベルがPHAS E

COMP [ DONE ]になります。4294Aのオペレーション・マニュアルのアダプタ・セットアップには、Open/Short/Load補正も行うことが記述されていますが、今回のようなプローブ・ステーション接続時には必要ありません。以下に述べるように、ACPプローブ先端でOpen/Short/Load補正を実施するためです。

2) Open/Short/Load補正の実施図5-2 (a)に、Open/Short補正だけの場合と比較したOpen/Short/Load補正 の 効 果 を 、 図 5-2 (b)に は 、Open/Short/Load補正のモデルおよ

び計算式を示します。図5-2 (a)より、1 MHzを超えるような測定周波数では、Open/Short/Load補正を用いた方が、はるかに良い測定確度が得られていることが分かります。測定器とDUT間に測定器のケーブル長補正では補正できない延長ケーブルを使用した場合や、スキャナなどの回路が入った場合は、Open/Short/Load補正を実施することで測定の再現性を向上させることが可能になります。

42941Aとカスケード・マイクロテック社のACPプローブと組み合わせて使用する場合や、4端子対測定法でウェハ上面からコンタクトする場合は、図5-3に示したカスケード・マイクロテック社製ISS(インピーダンス基準基板)を使用することで、Open/Short/Load補正が行えます。4294Aには、2つの補正測定点モードがあります。1つは、「固定周波数モード(FIXED)」と呼ばれ、補正データはあらかじめ測定器に記憶された特定の周波数点で測定されます。もう1つは、「ユーザ定義点モード(USER)」と呼ばれ、補正データはユーザが指定した周波数点でのみ測定されます。「固定周波数点モード」は、測定パラメータが変化しても自動的に測定点が補間されますが、「ユーザ定義点モード」ではされません。「ユーザ定義点モード」を使用した場合は、指定した周波数点および信号レベルで補正されるので、最も精度良く測定を行うことができます。パラメータを色々と変化させて測定したい場合は「固定周波数モード」

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図5-2(a)Open/Short/Load補正の効果

図5-3 カスケード・マイクロテック社製ISS(インピーダンス基準基板)図5-2(b)Open/Short/Load補正

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を選択し、高確度な測定を行う場合は「ユーザ定義点モード」を選択して下さい。

ACPプローブ先端でOpen/Short/Load補正を、カスケード・マイクロテック社のISSを用いて実施します。補正を実施する前に、キャリブレーション・キットの値を4294Aに入力する必要があります。これを行うことで、より精度の高い補正が可能になります。・4 2 9 4 Aの [ C a l ] キーを押し、[COMPO I N T ]メニュー内で[FIXED]または[USER]を選択します。・再度[Cal]キーを押し、[FIXTURECOMPEN]キーを押して、フィクスチャの補正メニューを表示させます。・[DEFINE VALUE]キーを押して、キャリブレーション・キットのデータ定義メニューを表示させます。・ACPプローブの場合、キャリブレーション・キットの値は、プローブ・ヘッドの箱に記載されています。プローブ・ピッチに応じた[OPEN CAP(C)]、[SHORTI NDUCT ( L ) ]そして[ LOADINDUCT(L)]の値を入力します。・[FIXTURE COMPEN]メニュー内で[OPEN]、[SHORT]、[LOAD]の各補正を選択し、カスケード・マイクロテック社製ISS(インピーダンス基準基板)を使用して実施します。・Open補正は、プローブをチャックから浮かせた状態で行って下さい。・Short補正は、ISSのショートにACPプローブを接触させた状態で行って下さい。・Load補正は、ISSのロードにACPプローブを接触させた状態で行って下さい。

5.2 4端子対測定法によるシステム構成

5.2.1 4端子対測定法による測定システム構築に必要な製品

4端子対測定法を用いてウェハ上面からコンタクトする測定システムの構築には、以下の製品が必要です。

1) 4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザ(16048G/H テスト・リード付き)(表5-4参照)

2) カスケード・マイクロテック社製プローブ・ステーション、プローブ・ヘッド、インピーダンス基準基板(ISS)(表5-5参照)

カスケード・マイクロテック社の製品に関しては、直接カスケード・マイクロテック社よりご購入下さい。

5.2.2 プローブ・ステーションとの接続における注意点

図5-4に、ウェハ上面からコンタクトする場合におけるケーブル接続の概念図を示します。図5-5には、4294Aとプローブ・ステーションの接続例を示します。

実際の接続における注意点としては、以下の点があげられます。

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製品名 内容 備考

4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザ

16048G/H テスト・リード、BNC(1m / 2 m) カスケード・マイクロテッ

BNC(m) - BNC(m) 変換アダプタ(4ea.) ク社製のBNC-SSMC

P/N:1250-0216 ケーブル(P/N:105-540)

トライアキシャルBNC(m) - BNC(f) 変換 を使用する場合は不要

アダプタ(4ea.)P/N:1250-2650

項目 製品名 備考

プローブ・ サミット11000/12000シリーズ

ステーション S300シリーズ

プローブ DCP-100シリーズ/DCP-HTRシリーズ  周波数範囲:DC~100 MHz

プローブタイプ:

Kelvin / non-Kelvin

ケーブル トライアキシャル・ケーブル(4ea.) BNC-SSMCケーブル(P/N:

P/N:104-330-LC 105-540)を使用する場合は不要

BNC-SSMCケーブル P/N:105-540 DCPプローブに直接接続可

ガード用ケーブル P/N:123-625

補正用 インピーダンス基準基板(ISS) 使用するブローブに応じて選択

スタンダード して下さい。

表5-4 4294Aシステムに必要なアジレント社製品

表5-5 4294Aシステムに必要なカスケード・マイクロテック社製品

図5-4 ウェハ上面からのコンタクトによるケーブル接続概念図

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1) 接続ケーブルと変換コネクタについてプローブ・ステーションへの接続ケーブルには、カスケード・マイクロテック社のBNC-SSMCケーブル(P/N:105-540)の使用を推奨します。このケーブルを使用することで、4294Aからカスケード・マイクロテック社のDCPシリーズのプローブに直接接続できるようになります。さらに、カスケード・マイクロテック社製のC-V測定用プローブ・アーム内部では、アウター・シールドとインナー・シールドが接続されてしまうため、4端子対が終端されてしまい、そこから先に存在する残留インピーダンスの影響を受けますが、BNC-SSMC

ケーブルを用いることで、プローブ先端の近くまで4端子対を維持することが可能になります。プローブ・ステーションのコネクション・プレートを通じて接続したい場合には、アジレント社製16048G/H(1 m/2 m)ケーブルを推奨します。このケーブルは、当社が特性を評価し、延長端での測定確度を規定しています。このケーブルを使用する場合は、プローブ・ステーションとの接続部分において、BNCコネクタからトライアキシャル・コネクタへの変換コネクタ(P/N:1250-2650)が必要になります。この変換コネクタは、アウター・シールドとインナー・シールドが接続されていないため、図

5-5に示すように4端子対ケーブル構成がそのまま維持されます。但し、この構成で測定する場合には、変換コネクタの影響により測定周波数範囲が60 MHz程度注2)となります。

注2)測定周波数範囲は、測定環境や使用するケーブルおよびプローブ・ステーションによっても変化するため注意が必要です。

2) ガードの接続について4端子対のLow側端子とHigh側端子のガード(外皮)をカスケード・マイクロテック社製のケーブル(P/N:123-625)を使用してお互いに接続します(図5-5を参照)。測定精度向上のためには、4端子対をできるだけプローブ先端近くまで保つことが望ましく、そのためにはこのガードの接続を、プローブ先端近くで行う必要があります。ここをきちんと接続しないと、上記で説明した内部導体と外部シールドを流れる電流経路ができないため、測定確度が悪くなり、ブリッジ回路がバランスしないといった問題が発生します。さらに、測定環境や測定周波数によっては、このケーブルを用いても、共振周波数の関係で上手く測定できない場合があります。このような場合は、プローブ先端のギリギリの点で、可能な限り短いケーブルを用いてガードを接続することで測定周波数を拡張することができます。図5-6に、Open/Short/Load補正を実施しない状態で、ISS上のショートを測定した例を示します。ここでは、ガード・ケーブルにカスケード・マイクロテック社製のケーブルと、自作の短いケーブル(2 cm程度)を用いた場合で比較を行っています。

この測定結果からも分かるように、高周波の測定においてはガード・ケーブルが持つインダクタンス成分が無視できなくなることが分かります。通常この様な残留インダクタンスは、補正を行うことである程度は取り除くことができます。しかしながら、図のように残留インダクタンスが大きい場合は、補正値が大きくなるため、残留インダクタンスの変動により補正が上手く働かなくなります。そのため、

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図5-5 4294Aとプローブ・ステーションの接続例

図5-6 ガード・ケーブルの測定への影響

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高周波での測定確度が落ちるだけでなく、安定した測定ができなくなります。さらに、このインダクタンス成分と、チャックの浮遊容量により並列共振が発生し、測定結果にも影響を与える場合があるため、ガード・ケーブルの長さには十分に注意する必要があります。

3) 4端子対からの変換についてカスケード・マイクロテック社製品を使用する場合は問題になりませんが、他メーカの製品を使用する場合には、4端子対の終端からプローブ先端までは10 cm以下で行うようにして下さい。この距離が長くなると、ブリッジが回路バランスしないといった問題が生じます。特に、非4端子対での延長は、残留インピーダンスや相互インダクタンスの影響が顕著に現れるため注意が必要です。

5.2.3 測定器の補正高確度測定を実現するためには、測定器の補正をきちんと行うことが非常に重要になります。特に、プローブ・ステーションの接続に延長ケーブルや変換コネクタ等を使用する場合は、補正に関して十分に注意を払う必要があります。

1) 位相補正の実施図4-4に示すような、位相補正機能が4294Aには搭載されています。全てのケーブル接続が終了した時点で、位相補正を実施します。

・4 2 9 4 Aの [ C a l ] キーを押し、[Adapter]メニュー内で延長ケーブルの長さ[4TP 1M]または[4TP2M](全体の長さに近い方)を選択します。・4294AのLp端子とLc端子を図4-4に示すように短絡します。カスケード・マイクロテック社のDCPプローブ(non-Kelvinタイプ)を使用する場合は、プローブ内部で両端子が短絡されているので、プローブをチャックから浮かせた状態にします。Kelvinタイプのプローブを使用する場合は、インピーダンス基準基板(ISS)のショートを使用してLp端子とLc端子を短絡します。・[SETUP]メニューから[PHASECOMP]を実行します。終了したら[DONE]を押せば位相補正は終了です。4294Aのオペレーション・マニュアルのアダプタ・セットアップには、Load補正も行うことが記述されていますが、今回のようなプローブ・ステーション接続時には必要ありません。以下に述べるプローブ先端でのOpen/Short/Load補正において、Load補正を実施するためです。

2) Open/Short/Load補正の実施ウェハ上面からコンタクトする場合は、図5-3に示したカスケード・マイクロテック社製ISS(インピーダンス基準基板)を使用することで、Open/Short/Load補正が行えます。・4 2 9 4 Aの [ C a l ] キーを押し、

[COMPO I N T ]メニュー内で[FIXED]または[USER]を選択します。・[FIXTURE COMPEN]メニュー内で[OPEN]、[SHORT]、[LOAD]の各補正を選択し、カスケード・マイクロテック社製ISS(インピーダンス基準基板)を使用して実施します。ここでの注意点としては、Open補正を実施する場合のプローブ間隔は、DUTの電極間隔と同じ幅で行うことです。特にDUTの容量値が小さい(数pF程度)場合は、測定値への影響が増大します。・Open補正は、プローブをチャックから浮かせた状態で行って下さい。Kelvinプローブを使用する場合は、両プローブをISSのショートにそれぞれ接触させた状態で行って下さい。・Short補正は、ISSのショートにプローブを接触させた状態で行って下さい。・Load補正は、ISSのロードにプローブを接触させた状態で行って下さい。・各補正で使用する標準DUTの値は、[DEFINE VALUE]メニューで設定することが可能です。

6. 測定システムの構築(ウェハ上面とチャック間でのコンタクト)

この章では、ウェハ上面とチャック間でのコンタクトによる測定で必要となるプローブ・ステーション・システム製品、プローブ・ステーションとの接続方法、測定器の補正、そして実際の測定における注意点について解説します。

6.1 システム構成ウェハ上面とチャック間のコンタクトによる測定システムの構築には、以下の製品が必要です。

1) 4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザおよびBNCケーブル(表6-1参照)

2)カスケード・マイクロテック社製プローブ・ステーション、プロー

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図5-7 測定に影響を与える各種要因

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ブ、インピーダンス基準基板(ISS)(表6-2参照)

カスケード・マイクロテック社の製品に関しては、直接カスケード・マイクロテック社よりご購入下さい。

6.2 プローブ・ステーションとの接続における注意点

図6-1に、ウェハ上面とチャック間からのコンタクトが可能な場合のケーブル接続の概念図を示します。

1)ケーブルの接続についてウェハ上面とチャック間で接続する場合は、接続端子間隔が開いてしまうため、16048G/Hケーブルが使用できませんので、4294Aとプローブ・ステーションとの接続には汎用のBNCケーブルを使用して下さい。

2)ガードの接続について接続ケーブルと変換コネクタについては、基本的にはウェハ上面からコンタクトする場合と同様な接続ケーブル、および変換コネクタを使用します。チャックを使用する場合の接続法としては、図6-1に示すような3端子接続法を推奨します。

3)チャックとの接続についてチャックとグランド間の容量が、測定に影響を与える可能性があります。この影響を抑えるためには、図5-2に示すように4端子対のHigh側端子をチャックに接続し、Low側端子をプローブに接続します。これにより、チャックとグランド間にリーク電流が発生しても、DUTを流れた電流がそのまま測定されるため、測定値に影響を与えません。

6.3 測定器の補正ウェハ上面とチャック間でのコンタクトにおいても、測定器の補正をきちんと行うことが非常に重要になります。プローブとチャック間でOpen/Short/Load補正を適切に行うことは困難ですが、簡単に行うことができる方法をご紹介します。

1) 位相補正の実施位相補正は、ウェハ上面でコンタクトする場合と同じように実施しま

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製品名 内容 備考4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザ

BNC(m) - BNC(m)ケーブル(4ea.)P/N:8120-1839 / 8120-1840 (61 cm/122 cm)

表6-1 4294Aシステムに必要なアジレント社製品

項目 製品名 備考プローブ・ サミット11000/12000シリーズステーションプローブ DCP-100シリーズ/ 周波数範囲:DC~100 MHzプロー

DCP-HTRシリーズ ブタイプ:Kelvin / non-Kelvin

ケーブル トライアキシャル・ケーブル(2ea.) プローブ用P/N:104-330-LC

補正用 インピーダンス基準基板(ISS) 使用するブローブに応じて選択してスタンダード 下さい。変換コネクタ トライアキシャルBNC(m) - BNC(f)

変換アダプタ(4ea.)P/N:1250-2650

表6-2 4294Aシステムに必要なカスケード・マイクロテック社製品

図6-1 ウェハ上面とチャック間でコンタクトした場合のケーブル接続概念図

図6-2 チャックとの接続における注意点

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す。Low側端子がプローブに接続されているので、カスケード・マイクロテック社のDCPプローブ(non-Kelvinタイプ)を使用する場合は、プローブをチャックから浮かせた状態にします。Kelvinタイプを使用する場合は、インピーダンス基準基板(ISS)のショートを使用してLp端子とLc端子を短絡します。

2) Open/Short/Load補正の実施プローブとチャック間Open/Short/Load補正を行う場合は、以下のような手順で行います(補正測定点モードの選択および補正の操作については、ウェハ上面でコンタクトする場合を参照にして下さい)。ウェハ上面とチャック間の補正では、インピーダンス基準基板(ISS)を使用することができないため、ウェハ上面からコンタクトする場合と比較して正確な補正を実施することは困難になります。・Open補正は、プローブをチャックから浮かせた状態で行って下さい。・Short補正は、プローブをチャックに直接接触させた状態で行って下さい。・Load補正を簡単に実施する方法としては、標準DUTとしてSMD(表面実装部品)の50 Ω抵抗等を用いて行うことができます。この時に、SMDの電極が両方ともチャックに触れない様に、電極の片側の下面に絶縁体を入れる必要があります。また、Load補正で使用する標準DUTの値は、[DEFINE VALUE]メニューで設定することが可能です。

7. 実際の測定についてこの章では、実際のゲート酸化膜測定および測定に伴う注意点について解説します。

7.1 2周波数測定法を用いた解析と問題点

ゲート酸化膜が薄膜化し、リーク電流が増加すると、従来の2素子モデルの等価回路では、特性を十分に表わせなくなります。既に、論文で発表されているように、図7-1に示す3素子モデルより求めた等価回路パラメータが一般的に用いられています(P15「参考文献」の7)、8)をご参照ください)。

3素子モデルのパラメータ抽出には、2周波数測定法を用いることができます(P15「参考文献」の6)をご参照ください)。これは、任意の2点の周波数ポイントにおける周波数、Cp値、およびD値から以下の計算式を用いて3素子モデルの容量値(C)を求める方法です。

f1, f2 :各周波数D1, D2 :各周波数での損失係数値Cp1,Cp2 :各周波数での容量値

この方法では任意の2点間におけるインピーダンスの変化が大きい場合は、良い結果が得られますが、インピーダンスの変化が少ない場合には精度が悪くなります。従って、どの周波数ポイントを選択するかがこの方法に

おいて重要なポイント注3)となります。

注3)周波数ポイントの選択については、参考文献8)を参考にして下さい。

7.2 最小位相検出法による解決策周波数掃引による|Z|-θの測定から3素子モデルの各パラメータを簡便に求める方法として最小位相検出法があります。図7-2に示すように、周波数掃引による|Z|-θの測定結果から、位相が最小になる点の周波数f0、θ0値、そして|Z0|値を用いて容量値(C)を求めます。この時、DC電圧バイアスは固定電圧で印加しておきます。容量測定を精度良く行うためには、損失(D)が最小になる周波数で測定を行うことが望ましく、位相最小点ではデバイスの損失が最小となるため、容量値を正確に求めるには最適なポイントであるといえます。そして、DC電圧バイアスを変化させて測定した各|Z|-θの結果から、上記の方法で各DCバイアス点における容量値を求めることにより、C-V特性が得られます。最小位相検出法の計算式は、以下の通りです。

f0 :位相最小点における周波数|Z0|:位相最小点におけるインピーダ

ンス値θ0 :位相最小点における位相値

4294Aは、標準でIBASICプログラミング機能を内蔵しているため、上記のような計算を4294Aの内部で行うこ

C=4πf Z0 0

1sinθ 0

sin –1θ 0( )C=

f –f12

22

f C (1+D )–f C (1+D )1 p12

12

2 p22

22

11

図7-2 最小位相検出法図7-1 3素子モデル

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とができます。これにより、4284Aのように各パラメータの計算を外部PCで行う必要がなくなります。図7-3は、IBASICで最小位相検出法を計算し、各パラメータを求めた結果を4294Aのディスプレイ上に表示した例です。ゲート酸化膜の膜厚が薄くなるとリーク電流が増加するため、C-V特性が図7-4に示すような形となり、容量値の精度が悪くなりますが、最小位相検出用で求めた容量値を、図7-4に示すようにプロットすることで、精度の高い測定結果が得られます。

7.3 周波数測定法の応用による解決策

測定周波数の制限により位相最小点が測定できない場合は、最小位相検出法で容量値を求めることはできません。このような場合は、先ほどの2周波数測定法か、それを応用した以下の計算式により、|Z|-θの結果から容量値を求めることができます。但し、上記のように損失(D)が大きい状態では、以下の方法では正確に容量が求まらない場合がありますので注意が必要です。

ここで、f1, f2 :各周波数|Z1|,|Z2|:各周波数でのインピーダン

ス値θ1, θ2 :各周波数での位相値

2つの周波数の選択については、図7-5に示すようにインピーダンスが変化している2点を使用することで容量値を求めることができます。

7.4 測定上の注意点

1) DC電圧バイアスをDUTに印加する場合に注意しなくてはならないのが、リーク電流によるDCバイアス

C =

A = Z

2πA A ( f – f )1

1

2 1 2

2 2

1

A f – A f

sinθ 1 A = Z2 2 sinθ

θ

2

1 2 2 1

R =f f (A f –A f )(A f –A f )1 1 1 1 12 2 2 2 2

p

A A ( f –f )1 12 2

22

R =A f –A f 1 2 12

S

A A (B f –B f )1 112

B =tan 1

1

B =tan 2

2

1

2 2

12

図7-4 ゲート酸化膜のC-V特性

図7-5 2周波数測定法の周波数選択(|Z|-θ 測定)

図7-3 IBASICによる各種パラメータの計算

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電圧の低下です。4284Aの場合はDC電圧バイアスの出力インピーダンスが100 Ωあり、仮に1 mAのリーク電流が生じたとすると、DC電圧バイアスが100 mV低下し、DUTに印加されるDC電圧が設定値と異なってきます。これに対して、4294Aではフィードバックにより、正確にDC電圧バイアスをDUTに印加できる定電圧DCバイアス・モードが用意されています。この機能により、リーク電流による電圧降下の影響を受けずに、DUTに定レベルDC電圧バイアスを印加することが可能です。

2) リーク電流の増加による測定器のオーバー・ロードを防ぐために、DC電流測定レンジ(1 mA/10 mA/100 mA)を適切な値に設定して下さい。

3)|Z|-θの測定を行う場合に、DC電圧バイアスを変化させて何回か掃引する必要がありますが、このような測定にはリスト掃引機能が便利です(図7-6参照)。リスト掃引機能を使用すると、1つの掃引をいくつかの区間(セグメント)に分けて、各セグメントごとにアベレージ、バンド幅、信号レベル、そしてDCバイアスレベルなどを個別に設定することが可能です。これにより、1回の掃引で複数のDC電圧バイアス・レベルにおける|Z|-θの測定を行うことができるため、測定時間を大幅に短縮することが可能になります。

7.5 110MHzを超える測定について

ゲート酸化膜が薄くなりリーク電流が増加すると、位相最小点が高周波側に移動するため、110 MHzの測定周波数では位相最小点が測定できなくなる場合があります。3素子モデルの等価回路を考えた場合に、位相最小となるω0の計算式は以下のような形で表現できます。

リーク電流は膜厚に対して指数的に増加するため、並列抵抗(Rp)は膜厚が半分になると、抵抗値が一桁程度下がります。仮に、リーク電流が大きくなりRpが直列抵抗(Rs)よりも小さくなるような場合(Rp << Rs)、この式は以下のようになります。

この式より、リーク電流が増加するとRpの減少が支配的となり(ゲート酸化膜の容量(C)は、膜厚半分になっても2倍程度しか変化がないため影響は少ない)、位相最小となるω0の値は、膜厚が薄くなるにつれ急激に高周波側に移動することがわかります。このような場合には、Agilent E4991ARFインピーダンス/マテリアル・アナライザとカスケード・マイクロテック社のACPプローブを使用することで、最高3 GHzまでのインピーダンス特性を測定することができます。

(詳細情報については、Agilent E4991A

アプリケーション・ノート1369-3, "カスケード・マイクロテック社プローブ・ステーションを用いた高確度インピーダンス測定" (P/N 5988-3279JA)を参照して下さい。)しかしながら、単純に測定周波数を上げるだけでは、こうしたデバイスの測定を精度良く行うことはできません。なぜならば、Rpの値がRsの値と等しくなる、あるいは小さくなるような場合は、微小な位相の変化しか生じなくなるためです。つまり非常に損失の大きなデバイスを測定しているような状態になるため、容量値を正確に測定することが困難になります。こうした問題を解決するためには、デバイス自身の構造を見直す必要があります。薄膜であってもリーク電流が少ないデバイスを開発することはもちろんですが、Rsの値をできるだけ小さく抑えたデバイスの設計を行うことが重要になります。Rsの値をできるだけ小さく抑えることで、最小位相検出法による測定が実現できるようになります。

8. ADSを使用した等価回路モデリング

この章では、3素子モデルよりもさらに複雑なモデルを用いた解析を行いたい場合に、Agilent EEsofアドバンスド・デザイン・システム(ADS)を使用した解析方法について簡単にご紹介します。

1) 4294AからADSにデータを受け渡す場合は、測定データを1ポートのSパラメータとしてCITIFILEやTouchstoneフォーマットに変換し、データアイテム・コンポーネントとしてADSにインポートします。

2) 今回シミュレーションで使用したADSによるパラメータ抽出回路を、図8-1に示します。この回路は3素子モデルによる特性が、データアイテム・コンポーネントの特性に一致するように、3素子モデルのパラメータを調整します。位相が180°ずれた2つの同じ周波数/振幅の信号を印加し、等価回路モデルとデータアイテム・コンポーネントの間のノード電圧がゼロに近づくようにパラメータを最適化させます。

3) 等価回路の各パラメータは、必要

ω =C Rp

0

1~

ω =RSC Rp

0

R +Rp S

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図7-6 リスト掃引による|Z|-θ測定

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に応じて最適化の対象となるように設定する必要があります。また、上記の自動最適化では、パラメータが十分正確に求まらない場合は、最適化後にADSのチューニング機能を利用して、等価回路の周波数特性を手動でチューニングを行い、インピーダンス測定データにできるだけ近づくようにします。

4) 図8-1では、3素子のモデルによるシミュレーションを行っていますが、より複雑なモデルの場合でも同様に行うことが可能です。図8-2には、3素子モデルによるシミュレーション結果を示します。429 4Aと、ADSのようなシミュレーション・ツールを有効に活用することで、複雑なデバイスのパラメータ抽出が短期間で行えるようになります。

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図8-2 3素子モデルによるシミュレーション結果

図8-1 パラメータ抽出回路

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まとめこのプロダクト・ノートでは、インピーダンス・アナライザと、プローブ・ステーションを用いて薄膜化が進むゲート酸化膜の容量測定をする方法について解説しました。プローブ・ステーションに接続するには、ケーブルの延長などの作業が必要となるものの、適切なケーブル接続と補正を実施することで、リークの多いデバイスにおいても精度の高い測定が行えることがわかりました。このプロダクト・ノートを参考にして、カスケード・マイクロテック社のプローブ・ステーションとAgilent 4294Aによる薄膜の容量測定システムの構築にお役に立てれば幸いです。

参考文献1)"インピーダンス測定ハンドブック、第2版" (P/N 5950-3000JA)

2)Agilent E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ、製品カタログ(P/N 5980-1234JA)

3)Agilent E4991A プロダクト・ノートE4991A-2, "E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザを用いて実現する設計時間の短縮" (P/N5988-3029JA)

4)Agilent E4991A アプリケーション・ノート1369-3, "カスケード・マイクロテック社プローブ・ステーションを用いた高確度インピーダンス測定" (P/N 5988-3279JA)

5)Agilent 4294A プレシジョン・インピーダンス・アナライザ、製品カタログ(P/N 5968-3808JA)

6)Agilent 4294A プロダクト・ノート4294-2, "LFインピーダンス測定の技術限界を超えるAgilent 4294Aの新技術" (P/N 5968-4506JA)

7)Kevin J. Yang and Chenming Hu"MOS Capacitance Meaurements forHigh-Leakage Thin Dielectrics",IEEETRANSACTIONS ON ELECT-RON DEVICES, VOL.46, NO 7 JULY1999

8)Akiko Nara, Naoki Yasuda, HidekiSatake, and Akira Toriumi "A Guide-line for Accurate Two-FrequencyCapacitance Measurement for Ultra-Thin Gate Oxides," Extend Abstractsof the 2000 International Conferenceon Solid State Devices and Materials,Sendai, 2000, pp. 452-453

カスケード・マイクロテック社製の製品に関しては、直接カスケード・マイクロテック社にお問い合わせ下さい。

カスケード・マイクロテック株式会社153-0042 東京都目黒区青葉台4-7-7住友青葉台ヒルズ1FTel: 03-5478-6100Fax: 03-5478-6105E-mail: [email protected]: http://www.cmj.co.jp

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4284Aからのトレードアップ・プログラム*1を利用すれば、少額の負担*2で4294Aを導入できます。

4294A 110 MHz インピーダンス・アナライザ

5988-5102JA0000-02H

June 25, 2003

4284A 1 MHz LCRメータ

110 MHzまでの高周波C-V測定を実現- カスケード・マイクロテック社製プロービング・システムと組合わせて高周波C-V測定システムの構築が可能

グラフィック・ディスプレイを装備- C-V曲線等を直接画面上に表示させることが可能

BASICプログラミング機能を標準搭載- ゲート酸化膜容量値計算が4294Aの内部で可能

Touchstoneフォーマットをサポート- EDAツールへの測定データの受渡しが容易に可能

*1. トレードアップ・プログラムは、製品ご購入時にお手持ちの古い測定器をアジレントが下取りするプログラムです。*2. 下取り評価額は、下取り時期、為替、オプション構成等々によっても異なりますので、必ず弊社担当営業、もしくは計測お客様窓口(電話番号0120-421-345)へご確認ください。

*3. 下取りは、使用上支障となる部品もしくはソフトウェア等の不足、故障又は損傷がなく、更にいかなる改造も施されていない製品に限らせていただきます。