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はじめに 今回我々AH- アミロイドシスの一例経験しましたので報告致します症  例 症 例:71 歳女性 主 訴:下肢の浮腫・全身倦怠感 既往歴:特記すべきことなし 家族歴:特記すべきことなし 現病歴: 1997 6 月 貧血精査にて M- 蛋白IgG λ 陽性指摘 1999 1 腎機能障害出現 2002 1 UN 29mg/dLCr 1.09mg/dL 2002 7 UN 35mg/dLCr 1.62mg/dL 2002 8 UN 31mg/dLCr 2.68mg/dL 当院第二内科入院腎生検施 糸球体のメサンギウム領域にア ミロイド沈着めた amyloid-Aβ 2-MGTTRA λA κ抗体染色陰性 2003 1 全身性アミロイドシスの精査 目的当科入院 入院時身体所見:身長 147cm体重 46.5kg血圧 106/74mmHg脈拍 96/ 体温 36.9眼球結膜 貧血),眼瞼結膜 黄疸), 腹部には特記すべき所見なし両下腿 浮腫軽度認める症例71 女性です1997 貧血査目的入院したIgG ラムダM- 蛋白陽 指摘されました1999 1 より腎機能障 出現ししばらくは Cr 1 前後推移してい ましたが2002 になって徐々腎機能してきたため2002 8 第一回目腎生 施行されました腎生検では糸球体のメサ ンギウム領域にアミロイド沈着められまし 免疫染色ではアミロイド Aβ 2- ミクロ グロブリントランスサイレチンA λA κ 抗体のいずれも陰性でありアミロイドの原因 蛋白検索目的当科入院しました入院時検査所見では貧血腎機能障害があり1 日尿蛋白130mg でした血清尿免疫電 気泳動では IgG λM 蛋白陽性でした骨髄 穿刺形質細胞4.4% でしたが表面マーカー をフローサイトメトリーで解析すると CD38 CD19 陰性 CD56 陽性細胞 0.8% めら plasma cell dyscrasia パターンをしました腎生検ではこのように糸球体のメサンギウ 領域diffuse global なアミロイド沈着められましたPAM 染色ではスピクラ形成なく電顕像では基底膜はこのようにたれて おりまたメサンギウム領域へのアミロイド著明められましたM- 蛋白陽性あることから当初 AL- アミロイドシスがれましたがA ラムダA カッパー抗体染色 陰性であることまた糸球体へのアミロイド AH-amyloidosis の一例 伏 見 智 久 1 矢 崎 正 英 1 徳 田 隆 彦 1 池 田 修 一 1 信州大学医学部第三内科 1 Key WordAH- アミロイドシスM- 蛋白形質細胞異常慢性腎不全 - 16 - 腎炎症例研究 21 巻 2005 年

AH-amyloidosisの一例 - boehringer-ingelheim.jp...れ,plasma cell dyscrasiaパターンを示しました。腎生検では,このように糸球体のメサンギウ ム領域にdiffuse/globalなアミロイド沈着が認

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はじめに今回,我々はAH-アミロイド―シスの一例を

経験しましたので,報告致します。

症  例症 例:71歳女性主 訴:下肢の浮腫・全身倦怠感既往歴:特記すべきことなし家族歴:特記すべきことなし現病歴:1997年6月 貧血の精査にてM-蛋白(IgGλ

型)陽性を指摘1999年1月 腎機能障害が出現2002年1月 UN 29mg/dL,Cr 1.09mg/dL

2002年7月 UN 35mg/dL,Cr 1.62mg/dL

2002年8月 UN 31mg/dL,Cr 2.68mg/dL

当院第二内科へ入院し腎生検施行

糸球体のメサンギウム領域にアミロイド沈着を認めた

抗amyloid-A, β2-MG,TTR, Aλ,Aκ抗体染色陰性

2003年1月 全身性アミロイド―シスの精査目的に当科入院

入院時身体所見:身長147cm,体重46.5kg,血圧106/74mmHg,脈拍96/分,体温 36.9℃眼球結膜:貧血(+),眼瞼結膜:黄疸(-),

頸・胸・腹部には特記すべき所見なし。両下腿

に浮腫を軽度認める。症例は71歳の女性です。1997年に貧血の精

査目的に入院した際に IgGラムダ型M-蛋白陽性を指摘されました。1999年1月より腎機能障害が出現ししばらくはCrが1前後で推移していましたが,2002年になって徐々に腎機能が増悪してきたため,2002年8月に第一回目の腎生検を施行されました。腎生検では糸球体のメサンギウム領域にアミロイド沈着が認められました。免疫染色では抗アミロイドA,β2-ミクログロブリン,トランスサイレチン,Aλ,Aκ抗体のいずれも陰性であり,アミロイドの原因蛋白の検索目的に当科へ入院しました。入院時検査所見では貧血,腎機能障害があり,

1日尿蛋白は130mgでした。血清・尿の免疫電気泳動では IgGλ型M蛋白が陽性でした。骨髄穿刺で形質細胞は4.4%でしたが,表面マーカーをフローサイトメトリーで解析するとCD38陽性CD19陰性CD56陽性細胞が約0.8%認められ,plasma cell dyscrasiaパターンを示しました。腎生検では,このように糸球体のメサンギウ

ム領域にdiffuse/ globalなアミロイド沈着が認められました。PAM染色ではスピクラ形成はなく,電顕像では基底膜はこのように保たれており,またメサンギウム領域へのアミロイド沈着が著明に認められました。M-蛋白が陽性であることから当初AL-アミロイド―シスが疑われましたが,抗Aラムダ,Aカッパー抗体染色が陰性であること,また糸球体へのアミロイド

AH-amyloidosisの一例

伏 見 智 久1  矢 崎 正 英1  徳 田 隆 彦1

池 田 修 一1                   

信州大学医学部第三内科1 Key Word:AH-アミロイド―シス,M-蛋白,形質細胞異常,慢性腎不全

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の沈着様式がAL-アミロイド―シスとは異なる印象があり,アミロイドの原因蛋白を詳細に解析することにしました。腎臓にアミロイド沈着をきたす疾患をまとめ

ました。腎アミロイド―シスの診療にあたってはアミロイドの原因蛋白を正確に同定することが重要です。この中で,AH-アミロイド―シスとOstertag型ともいわれる遺伝性腎アミロイド―シスの診断には,腎生検検体から抽出したアミロイド蛋白のアミノ酸配列を解析する必要があります。当科入院後に再度腎生検を施行し,ここに示

しますように腎生検検体からアミロイドを抽出して電気泳動にかけ,メインのアミロイド蛋白と考えられる部分を切り出してアミノ酸シークエンス解析を行いました。 これがその解析結果ですが,アミロイド蛋白

の最も強いバンドは分子量11kDaの部分に認められました。アミノ酸シークエンス解析では

γ -heavy chainのvariable regionのN末端に相当する部分のアミノ酸配列を同定することができました 以上の結果から本症例をAH-アミロイド―シスと診断しました。今回検出されたのはヘビーチェーンのこの部

分に相当すると考えられます。AH-アミロイド―シス症例はこれまでに4例

が報告されています。臨床像については4例中3例で腎不全もしくはネフローゼ症候群を呈しました。ネフローゼ症候群は1日の尿蛋白が10

~ 20gと高度なものだったようです。また同定されたアミロイド蛋白は本症例と同様にいずれも分子量22kDa以下のヘビーチェーンの断片でした。腎アミロイド―シスで,特異なアミロイド沈着パターンを示したり免疫染色等で原因蛋白が不明な場合には,腎生検検体を用いて原因蛋白を検索することが重要と考えられます。一般に腎臓へのアミロイドの沈着様式につ

いては,ALではmesangiocapillary typeであり,AA型ではmesangial nodular typeをとるといわれております。病理学の先生にお伺いしたいのですが,AH-アミロイド―シスのアミロイドの沈着様式は如何でしょうか?本例でのアミロイド沈着はメサンギウム領域にdiffuse/globalに認められましたが,AH-アミロイド―シスの病理像についてはこれまでに1例記載があり,本例と同様にメサンギウム領域へアミロイド沈着が認められたようです。

【血算】WBC 3700/μL

RBC 252万 /μL

Hgb 8.1g/dL

Hct 23.9%

Plt 19.1万 /μL

【生化学】TP 7.3g/dL

Alb 4.0g/dL

UN 39mg/dL

Cr 1.82mg/dL

Na 141mEq/L

K 5.2mEq/L

Cl 109mEq/L

Ca 8.8mg/dL

P 4.2mg/dL

【血清】IgG 1689mg/dL

IgA 118mg/dL

IgM 55mg/dL

免疫電気泳動: IgGλ型M蛋白陽性

【血液ガス】pH 7.413

PO2 78.4mmHg

PCO2 35.7mmHg

HCO3- 22.4

BE -1.4

【尿・尿沈渣】特記すべき異常所見なし

【尿化学】総蛋白 130mg/日β -2 MG 170μg/L

免疫電気泳動: IgGλ型M蛋白陽性

【腎機能】CCr 29.0mL/分

【骨髄穿刺】形質細胞 4.4%

【胃・十二指腸生検】粘膜下にアミロイド沈着(+)

【心エコー・ピロリン酸心筋シンチ】心臓へのアミロイド沈着を示唆する所見なし

表1.検査所見

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���������������� �����

図1 flow cytometry

図2 Congo red染色

図3 Congo red染色

図4 PAS染色

図5 PAM染色

図6 E:電顕メサンギウム領域(Ms)にアミロイド沈着が著明である 

Cp:係蹄腔

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病型 原因蛋白

��免疫細胞性�� �鎖(�����)�� ���� ���

��反応性�� ���

��家族性��� ���� ��� ��� ゲルゾリン家族性地中海熱 ���������������型 �����������型 ��������

��� ������������ � ����� �����

図7 腎アミロイド―シスの分類

��腎生検組織片のホモジナイズ・洗浄

��塩酸グアニジンでアミロイド線維を可溶化

��透析

���������� ⇒�������������������� �������������������

��アミノ酸配列解析

・プロテアーゼ処理・ゲルより抽出・�����高速液体クロマトグラフィー�

切�出�

アミノ酸シークエンス

��

�����

図8 腎生検検体の解析

��アミロイドの��������解析(図�)アミロイドの最も強いバンドは������にみられた(矢印)

��アミノ酸シークエンス解析(図�)γ��鎖の�������� ������の��末端側のアミノ酸配列が認められた

図1 図2

�������������������������������������������������

���������������������������������������������������

������

��������������������������

��不明アミノ酸

���

����

�������

���

�� ��

�� ��

���

��������������

��

図9 解析結果

����� �����(�����)

����� �����(�����)

��� ��� ���

�末端 �末端

���:��������������� ����������� ������

��:��������� ������

�������� ������ ���� �������� ������ ����

� � �

� � ������

��� ��� ���

図10 免疫グロブリンの構造

年齢・性

�� ��歳・女

�� ��歳・男

�� ��歳・男

�� ��歳・男

��歳・女(本例)

臨床症状

腎不全・肝不全

ネ症・腎不全

ネ症

眼球突出

腎不全

血清�蛋白

���κ

���κ

���λ

���

���λ

アミロイド蛋白

����� ����� �������� � �����

����� ����� ������ � ���

����� ����� ����� � ����

����� �����

����� ����� ���� � �����

ネ症:ネフローゼ症候群

�� ���� ���� ���� ��� ��� ���� �� �� � ������� ���� �� �� � ���� ������ ���� ������ ��� ����

図11 AH-アミロイドーシス報告例のまとめと本例との比較

��型 メサンギウム領域にびまん性に沈着糸球体基底膜にも沈着することが多い・・・����������������� ������������������ ����は��に特異的

��型 主に血管極を含めたメサンギウム領域に沈着沈着量が多くなると結節性病変を呈することが多い・・・��������� ������� ����

図12 アミロイドの沈着部位, 沈着様式

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結  語1.慢性腎不全を呈した71歳女性。 腎生検ではメサギウム領域にdiffuse・globalなアミロイド沈着が認められた。

2.本例のアミロイド蛋白はγ -H鎖の可変領域の一部より構成されていた。

3.アミロイドの原因蛋白の検索に微小腎生検組織を用いたアミノ酸シークエンス解析が非常に有用であった。

討  論 佐藤 ありがとうございました。大変珍しい症例で経験された方と言われても,おそらくどなたもおられないのではないかと思うのですが,何か,ご質問はありますか。遠藤先生,どうぞ。遠藤 東海大学の遠藤です。まず,腎臓のκ,λ染色は酵素抗体ですか,それとも蛍光抗体ですか。伏見 酵素抗体です。遠藤 そうすると,東海大学でも同じアミロイドでλが一番多いのですが。酵素抗体を病理にお願いしてやってもらうのですが,バックグラウンドが強くて,ほとんど判定できないのですね。蛍光抗体だと,λと出てくるのです。ですから,酵素抗体でκ,λの判定はかなり難しいと思います。 それとアミロイドを抽出されたのですが,腎臓全体のhomogenerateですか。それとも糸球体だけを取り出したのですか。伏見 腎臓全体です。遠藤 そうすると,その中にたくさん血清成分がありますから,IgG,λ,IgGそのものが来ますね。その辺はどうやって鑑別されたのでしょうか。これが糸球体そのものをシーケンスできたという証拠は,どうやって示すのですか。伏見 最初の処理で,溜まっているアミロイドだけを抽出するわけです。遠藤 アミロイドだけが採れるようになっているのですか。

伏見 はい。アミロイドを最初に分離して,その蛋白を分析します。遠藤 わかりました,どうも。佐藤 森田先生,どうぞ。森田 藤が丘の森田です。遠藤先生の2番目と同じ質問ですが,塩酸グアニジンで抽出していますね。あれは非特異的に蛋白全部を抽出しますから,普通のアミロイドの生成法は不溶性の画分で溶けないところを持ってきて,そこをアミロイド画分として分析すると思うのですが,その辺のアミロイド蛋白の抽出の仕方がよくわからなかったのですが。その質問の延長として,得られたものがたしかに糸球体の沈着に間違いないことをさらに確認するためには,酵素抗体法なり,蛍光抗体法を使って,AHに特異的な部分を証明すると非常にたしかなものだと思うのですが,そういうご検討はいかがでしょうか。伏見 最初の抽出法は,私も詳しいことは知らないのですが。本当は証明された免疫抗体で組織を染めて,存在を示さなければいけないのですが,定常領域に対する抗体では染まらなかったのですね。今回,抽出されたのがvariable

regionだったので,そのせいで染まらなかったのではないかと考えています。佐藤 ほかにございますか。はい。乳原 虎の門病院腎センターの乳原ですが,この症例を見ましたときに,本来,AL-アミロイド―シスの場合には,通常はネフローゼ症候群を呈して発見され診断されることが多いわけですが,AH-アミロイド-シスを呈するこの症例はタンパク尿が少なく0.1gというのが異なる点です。それはどこかに秘密があるのではないかと私は考えました。その観点から検討していただければと思います。佐藤 ありがとうございました。ほかにございますか。先生,スライドに胃の粘膜にもアミロイドがあったと,それもやはりAHですか。伏見 そちらを解析して,まずAHということが。佐藤 そちらが先だったのですか。

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伏見 ええ。それで,腎臓も変だからということで,さらに解析をしたわけですが。佐藤 そうですか,わかりました。臨床的にほかにございますか。なければ,初めて見る組織だと思うのですが,重松先生,共同演者に入っていないですから,いいですね。よろしくお願いします。重松 実は私どもの教室に腎生検の診断が依頼されて,結局,アミロイド―シスという診断はついたけれども,確定診断がつかないという敗北で,病理ではどうしようもないということですね。それでも,やります。【スライド01】ご覧のように,ほとんどの糸球体がamorphous materialでうめられ,ここでは弱拡大でわかりませんけれども,ほとんど糸球体の中に何もないよう見えるのですね。血管成分とか,細胞があまり見えない,すごい状態になっています。【スライド02】係蹄壁は案外,きれいですね。これがこの症例の特徴です。尿中にあまり蛋白が出ていない。ネフローゼになっていないということの説明がかくされています。【スライド03】アミロイド染色をコンゴレッドでしますと,糸球体,血管壁,間質,尿細管の基底膜など,あらゆるところに沈着するけれども,何と言っても糸球体のメサンギウム領域にすごい沈着が見られます。【スライド04】ここに2つの糸球体と血管を入れました。血管は平滑筋のまわりに少しついているだけで,大部分が糸球体に集中しています。しかも,メサンギウム領域に強く沈着して,mesangial expansionが起こっています。【スライド05】PAM染色を行うと,普通はネフローゼを起こすような症例ではアミロイドがこれだけあると,係蹄壁にスピクラという突起物ができアミロイドが基底膜を壊して,隙間がたくさんできるわけですが,そういうものがこの症例ではないのですね。きれいにメサンギウムに収まっているという特徴があります。これがあまり蛋白が出なかった理由だと思います。こ

こに基底膜のそり切りのところがありますが,点刻像もはっきりしていない状態です。【スライド06】本当は IFでやればいいのでしょうけれど,マテリアルがないということで,全部パラフィン切片でやったのですが,これはAAアミロイドを染めたもので陰性です。【スライド07】次がトランスサイレチンです。これも陰性です。【スライド08,09】問題のκはマイナスです。λもマイナスですね。【スライド10】それから,これは IgGの染色ですが,heavy chainに specificな抗体は持っていないものですから調べようがない。IgGが染まったら,何か,そういうものも考えようかというところで,とにかくいろいろ染色をしたけれども,きちんと染まるアミロイドの原因になる物質は同定できないということで,第三内科の先生がさらなる検討をなさいました。【スライド11】電顕ですね。これは演者がお出しになったものと同じところです。ご覧のように係蹄壁には内皮下浮腫がありますけれども,壊れてないのですね。アミロイド成分はメサンギウム内に収まっています。これだけmesangialにexpansionがあると,腎機能に障害がきますけれども,paramesangium areaが保持されているので,蛋白尿という形では出てこない。こういう点が,この症例のamyloidosisの形態学的な1つの特徴だと言えると思います。【スライド12】ここに係蹄壁がきれいに出ています。上皮細胞も載っています。普通,スピクラなどがありますと,上皮細胞がはげて落ちていることもあるのですが,そういうところは全然ない。【スライド13】これは最後のスライドです。

amyloid fibrilは細胞膜に比較して,細胞膜は10nmの直径を持っていますから,それよりも普通は細いfibrilですね。いろいろな方向に走るフィブリルを見ると,これは一番amyloid fibril

にコンパティブルなものです。immunotactoid

nephropathyのfibrilはだいたいamyloid fibrilよ

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りも太いものが多いのです。そういう点で,これは細胞膜より小さいので,amyloid fibrilとしてコンパティブルであるということだと思います。それぐらいのコメントしか,つけられませんでした。佐藤 ありがとうございました。では,山口先生,お願いします。山口 私もアミロイド―シスであることは間違いないので,AHかどうかは,うまく抽出されて,そのとおりであると証明されれば,そうなのだろうと思います。重松先生のところの染色を云々するのは言いたくないのですが,κ,λは先ほど遠藤先生が言われたとおり,我々もずいぶん苦労をして,なかなか出ないのです。κ,λはなかなか難しいので信用できないだろうと思います。【スライド01】糸球体が大きく育っている。メサンギウムにdiffuseな沈着が起きて,それに伴って毛細血管腔ができている。これでよく濾過ができるなと思い,mesangial cellが埋没した状態にあるわけで,糸球体機能がどうなのかと不思議に思う組織像です。【スライド02】PASに弱陽性に染まって完全に潰れているものもあります。細動脈の壁,あるいはperitubular capillary壁の周囲,固有間質にも硝子沈着が見られます。【スライド03】一部に上皮細胞が剥離し癒着病変も形成しています。【スライド04】アミロイドの染色です。糸球体を始め,間質にも,細動脈にも出ています。【スライド05】髄質部の直血管あるいはその周囲の間質ですね。ここもよく沈着し,ALでも,AAでもありますが,ALのほうが多いでしょうか。【スライド06】銀を見ますと毛細血管腔が一部残っていますが,ほとんどが沈着で置き換わって,内皮がなくなっていまして,濾過する場所が減っている。【スライド07】場所によっては癒着病変もできて上皮の障害も少しある。

【スライド08】髄質側の間質に沈着があちこち起きて,アミロイド―シスであることは間違いないです。以上です。佐藤 ありがとうございました。大変貴重な組織を見せてもらいました。伏見先生,皆さんに教えてもらいたいのですが,過去の4例の報告も糸球体はほとんど同じような組織像でしょうか。伏見 4例中1例は,目だけの局所性アミロイド―シスで,残りの3例は腎臓にきたのですが,組織の記載のあるものは1例だけですが,メサンギウム領域を中心に沈着していたのですが,残りの3例中2例はかなりネフローゼが強かった例で,もう1例は肝不全と腎不全を合併したような症例です。佐藤 そうですか。伏見 はい。佐藤 この方は今,腎機能はどれぐらいですか。伏見 クレアチニンが1から2ぐらいのあいだで。佐藤 悪くならないのですか。伏見 悪くならないで,一応,plasma cell

dyscrasiaがあるものですから,化学療法の適応も説明をしたのですが,そのまま見たいということで。佐藤 そうですか,ありがとうございます。はい,前田先生,どうぞ。前田 はじめにお願いがありまして,重松先生のところの電気を少し下に向けていただきたいと思います。ちょっと下を向けていただくと,スライドが拝見しやすくなるので。 それは別として,今,臨床的に私は非常におもしろいと思ったのですが,間質の変化がたくさんありますね。血中のクレアチニンがそれほど上がっていないとすると,濃縮力はどのぐらい落ちているのですか。Fishbergの濃縮試験でも,何でもいいです。濃縮力のテストは。あるいは尿の浸透圧でもけっこうですが,非常に低いのですか,それともかなり濃縮力があるのですか。

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伏見 濃縮力のほうはちょっと評価していなくて,すいません,わからないのですが。前田 あまり高度だと,濃縮力試験をやるのは臨床的に具合が悪いのですが,あのぐらいだったら,たぶんできそうだと思うのですね。ですから,それはもしやっていただけたら大変参考になります。というのは,私が昔,経験した例で,そのころはまだ医局に入ってまもなくですから,そうたくさんのあれではなかったのですが,たぶんこれと同じ症例だったと思うのですが,まったくほかの見分け(?)の検査などできない時代だったのですが。あのときはFishbergが濃縮試験で尿の,まだosmolality測定ができないときで比重だけだったのですが,非常に濃縮力の悪い症例を覚えているのです。ですから,たぶんこういうものも濃縮力が非常に悪いのだろうと。そのわりにクレアチニンがいいのだろうということが1つです。 それから,最初に貧血で来たのでしたか。伏見 はい,そうです。前田 それはどれぐらいですか。伏見 ヘモグロビンで8から9g / dlぐらいです。前田 その後の貧血の状態はどうですか。伏見 その後は,この方はけっこうひどいです。逆流性食道炎とかあって,そこから出血したりがあるのですが,エポジンを打って,だいたい9から10前後で経過しています。前田 鉄の状態はどうですか。伏見 鉄は特に問題がないです。前田 フェリチンは上がってきませんか。伏見 フェリチンは上がってこないです。前田 わかりました。ありがとうございます。佐藤 木村先生,どうぞ。木村 聖マリアンナ医科大学の木村です。大変この症例の勉強になるところは,これだけ強い糸球体障害があっても尿蛋白が0.1gしか出ていない点です。アミロイドの沈着がメサンギウム領域に限定していて,capillaryに出ていないということで理解しやすいですね。先生のご覧になった,先ほど報告のあった2例で,ネフロー

ゼ症候群の症例は,電顕像の記載はないのでしょうか。伏見 あまり記載がなくてですね。腎臓の組織をきちんと評価した,書いてあるのが1例だけですが,それは先ほども申しあげたようにメサンギウム領域を中心にということで,電顕像まであまりはっきり書いてないです。木村 ないですか。そうですか。病理の山口先生,重松先生にお伺いしたいのですが,アミロイド―シスで,これだけ強いメサンギウム病変があって,尿蛋白が0.1gという症例は,私は経験がないのですが,やはりこういう場合にはメサンギウムに沈着が限定しているからだということで説明はつくのですが,こういう症例はけっこうあるものでしょうか。重松 私たちはけっこうアミロイド―シスの症例を見る機会があるのですが,ネフローゼになっている症例は末梢のparamesangium,係蹄壁にアミロイドが析出して,上皮を障害するパターンをとるのが多いです。骨髄線維症などに合併して起こってくる場合には,内皮下に貯留したり,メサンギウムだけに溜まるという場合には,腎機能の障害はあるけれども,蛋白尿のうえではあまり顕著なものが出てこないのです。木村 そうですか。これだけメサンギウムに強い変化があっても,そういう症例はあるんですか。重松 そうですね。係蹄壁はきれいですね,上皮側のほうはよく保たれています。木村 ありがとうございます。それから,腎機能が少し悪いのですが,先ほど山口先生に出していただきましたけれども,血管病変は全体にいかがだったのでしょうか。特に血管。山口 閉塞を起こすほどの動脈病変はないです。進行すれば内腔を含め壁全層がアミロイドに置き換わりますけれども,この症例はまだそこまでいってないようです。ただし,末梢のperitubular capillaryの周囲に沈着が多いようです。

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木村 どうもありがとうございます。佐藤 何か,ありますか。長濱 横浜市大の長濱と申しますが,SDS-

PAGEであれだけバンドが見えるほど単一のvariable regionが出ているというのは,ほとんど腫瘍だと思うのですが,これは臨床的にどうやって解釈をするのかというのと,ほかの4例の報告でそのようなvariable regionが出ているのかどうか。あるいは何か,全身の基礎疾患として何かあるのか,もしご存じでしたら教えてください。伏見 骨髄穿刺で形質細胞のmonoclonalityを評価しましたら,plasma cell dyscrasia pattern

で,monoclonalなcellがかなりいるということで,そちらのほうからきているのではないかと思います。ほかの症例では,variable region

のものもありますし, variable regionとconstant

regionがくっついたような,少し変な蛋白が出たり,そういった症例があるようです。いずれも22kDa以下の断片のようですが。長濱 ありがとうございました。佐藤 はい,原先生,どうぞ。原 先生のところでは,primaryなアミロイド―シスを,かなりの症例でたくさん見ていらっしゃると思うのですが,例えばこういったAH-

アミロイドとほかのタイプのアミロイドですね。この症例などで,例えば臓器病変をきたしやすい,例えば腎をきたしやすいものと心が主体であるもの,肝臓が非常にdominantに強いものと,例えばアミロイドの蛋白の種類によって臓器病変に差異があるとか,そういったことは何か,先生はお考えがありますでしょうか。もしあったら,教えていただきたいのですが。 この症例は,心臓のことをあまり先生はおっしゃらなかったのですが,先生のところではかなり心エコーを,あるいはいろいろな心臓のMRIだとか,そういったものから心アミロイド―シスのきわめて初期像も診断されていると思うのですね。この症例は,ほかの臓器はどうだったのかということを教えていただければ。

伏見 この症例では心臓を検索しましたけれど,どうもなさそうだということです。消化管は胃,十二指腸粘膜下に沈着がありました。AHでどのようにアミロイドが溜まりやすいかというのは,症例が少なくてわからないのですが,腎臓もけっこう,4例中3例にはあったようです。佐藤 ほかはよろしいですか。では,伏見先生,本当に貴重な症例をどうもありがとうございました。伏見 どうもありがとうございました。

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腎炎症例研究 21巻 2005年

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第41回神奈川腎炎研究会

Page 10: AH-amyloidosisの一例 - boehringer-ingelheim.jp...れ,plasma cell dyscrasiaパターンを示しました。腎生検では,このように糸球体のメサンギウ ム領域にdiffuse/globalなアミロイド沈着が認

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