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Ⅳ.最近の電気事故の事例 中国四国産業保安監督部 1.人身事故 1-1.年次点検中における作業者の感電負傷事故及び波及事故 (1)事故の発生状況 被災者(電気管理技術者)は年次点検を実施するために高圧交流負荷開閉器(LBS)を開放 し、2次側が無電圧であることを確認した。この後、柱上気中負荷開閉器(PAS)を開放し全 停電する予定であったが、その前にLBSの汚れが気になり清掃作業を開始し、さらに屋内キュ ービクル内に入ろうとして、高圧ケーブル立ち上がり付近の高圧電線接続箇所に右手をかけたと き感電し、地絡した(右手、左手、左頬に電撃傷。入院加療54日)。接触と同時に、電力会社 配電線がDGR動作により自動遮断した。LBSを開放しており、地絡保護継電器の電源がなか ったためPASを開放できず、さらに、自動的に再閉路が成功しなかったため、波及事故に至っ た。 (2)事故の原因 感電負傷事故: <感電(作業者) 被害者の過失> 波及事故 : <故意・過失(作業者の過失)> 被災者(電気管理技術者)はLBSを開放した後、PASを開放し全停電する前に、清掃作業 を開始し集中してしまった。また、当該事業場では、キュービクルは屋内にあり、キュービクル からはPASが視野に入らない環境であった。これらの理由により、被災者は全停電したと思い 込んでしまい、清掃作業を継続しようとした(停電作業手順については被災者の記憶に頼ってお り、チェックリスト等を活用していなかった)。さらに、キュービクル扉の前には看板等の荷物 が置いてあり、扉を全開できず入りづらい状況であったため、高圧ケーブル立ち上がり付近の高 圧電線接続箇所(経年により絶縁テープが劣化していた)に右手をかけ自分の体を引いて入ろう としたとき、感電負傷し、地絡した。LBSを開放しており、地絡保護継電器の電源がなかった ためPASを開放できず、また、自動的に再閉路が成功しなかったため、波及事故に至った。 (3)防止対策 ① 新たに当該事業場用の安全作業手順書を作成し、また、今まで活用していなかった、「高圧 停電作業計画書・実施票」停電・復電チェックリストを使用することにより、確実に全停電 を確認した後に年次点検を行うこととした。 ② キュービクル扉を全開できるようにするため、電気室に荷物を置かないこととした。

Ⅳ.最近の電気事故の事例 · ② 断路器のロック機構(押さえプレート)の施錠にかかる明確なルールがなく、施錠され ていなかったため、容易に操作ロックを解除できた。

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Page 1: Ⅳ.最近の電気事故の事例 · ② 断路器のロック機構(押さえプレート)の施錠にかかる明確なルールがなく、施錠され ていなかったため、容易に操作ロックを解除できた。

Ⅳ. 近の電気事故の事例

中国四国産業保安監督部

電 力 安 全 課

1.人身事故

1-1.年次点検中における作業者の感電負傷事故及び波及事故

(1)事故の発生状況

被災者(電気管理技術者)は年次点検を実施するために高圧交流負荷開閉器(LBS)を開放

し、2次側が無電圧であることを確認した。この後、柱上気中負荷開閉器(PAS)を開放し全

停電する予定であったが、その前にLBSの汚れが気になり清掃作業を開始し、さらに屋内キュ

ービクル内に入ろうとして、高圧ケーブル立ち上がり付近の高圧電線接続箇所に右手をかけたと

き感電し、地絡した(右手、左手、左頬に電撃傷。入院加療54日)。接触と同時に、電力会社

配電線がDGR動作により自動遮断した。LBSを開放しており、地絡保護継電器の電源がなか

ったためPASを開放できず、さらに、自動的に再閉路が成功しなかったため、波及事故に至っ

た。

(2)事故の原因

感電負傷事故: <感電(作業者) 被害者の過失>

波及事故 : <故意・過失(作業者の過失)>

被災者(電気管理技術者)はLBSを開放した後、PASを開放し全停電する前に、清掃作業

を開始し集中してしまった。また、当該事業場では、キュービクルは屋内にあり、キュービクル

からはPASが視野に入らない環境であった。これらの理由により、被災者は全停電したと思い

込んでしまい、清掃作業を継続しようとした(停電作業手順については被災者の記憶に頼ってお

り、チェックリスト等を活用していなかった)。さらに、キュービクル扉の前には看板等の荷物

が置いてあり、扉を全開できず入りづらい状況であったため、高圧ケーブル立ち上がり付近の高

圧電線接続箇所(経年により絶縁テープが劣化していた)に右手をかけ自分の体を引いて入ろう

としたとき、感電負傷し、地絡した。LBSを開放しており、地絡保護継電器の電源がなかった

ためPASを開放できず、また、自動的に再閉路が成功しなかったため、波及事故に至った。

(3)防止対策

① 新たに当該事業場用の安全作業手順書を作成し、また、今まで活用していなかった、「高圧

停電作業計画書・実施票」停電・復電チェックリストを使用することにより、確実に全停電

を確認した後に年次点検を行うこととした。

② キュービクル扉を全開できるようにするため、電気室に荷物を置かないこととした。

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店舗平面図

被災時の状況(再現)

右手をケーブルに引っかけて

キュービクル内に入ろうとした

屋内キュービクル

PAS(SOG 付)

屋上構内柱 責任分界点→

左手接触部

事故当日は、ここに看板等の

荷物が置いてあり、キュービ

クルの扉は上記の状態まで

しか開かず、入りにくい状況

であった

事故箇所

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1-2.設置者及び作業者の短絡アークによる火傷負傷事故

(1)事故の発生状況

被災者A(浄化槽管理会社の従業員)が浄化槽タンクを点検した際、主ポンプが動作しなかっ

た。切れていた浄化槽制御盤の主ブレーカーを投入しても主ポンプが動作しないため、浄化槽制

御盤用の電源ブレーカーが切れていると判断した。その場所を連絡責任者に尋ねようとしたが出

張で不在であったため、被災者B(事業場の従業員)とともに2名で調査することにした。

キュービクルにおいて当該電源ブレーカー(漏電遮断器)を確認し、切れていないと誤判断し

た(実際には切れていた)。被災者Bは他にも電源ブレーカーがあるのではと考え連絡責任者に

電話で尋ねたが、連絡責任者から保安業務担当者の回答を待つように伝えられた。しかし、それ

を待たずに被災者A及びBは高圧引込用中継盤内を調査しようとした。保安業務担当者は連絡責

任者に中継盤は高電圧であることを伝え、直接、現場にいる被災者Bと連絡をとりたい旨を伝え

た。

被災者Bは、中継盤の危険表示から高圧であることを認識していたが、以前、カードテスタに

より低圧の電圧測定をしたことがあり、また、中継盤内の高圧ケーブルが細かったことからカー

ドテスタで測定できると判断し、被災者Aの左手にカードテスタ本体を持たせ、被災者Bは2本

のリード線をそれぞれ両手で持ちR相・T相に接触させた。この瞬間、相間短絡により発生した

アークによって両手を火傷し(入院11日)、また、被災者Aも左手を火傷した(通院治療)。

(2)事故の原因

<電気工作物の操作>

① 連絡責任者以外の従業員に対する保安教育が結果として不足していたことから、被災者Bは、

実際には切れている漏電遮断器を切れていないと誤判断し、また、高圧の危険性について知

識がなく、カードテスタで高圧を測定できると考えた。

② 連絡責任者が不在であったため、従業員に対する安全指導・監視が直接できなかった。また、

保安規程では連絡責任者に事故がある場合には連絡責任者の代務者を定めることになって

いたが、今回のように出張で不在にする場合は代務者を定めることになっていなかった。

③ 中継盤等の高圧設備と浄化槽制御盤等の低圧設備の鍵が同一であったため、被災者Aが所有

する鍵で開けることができる状態であり、また、設置者として、鍵の所有者の管理が不十分

であった。

(3)防止対策

① 保安業務担当者や連絡責任者が講師となり、事業場の全従業員に対して、漏電遮断器の取扱

い、電気の危険性、高圧設備の場所や同設備への接近禁止等について保安教育を実施した。

② 連絡責任者の代務者を2名定め、連絡責任者が不在のときには、不在理由に関係なく代務者

に連絡責任者の業務を代行させることとした。

③ 連絡責任者が電気設備の鍵を直接管理し、連絡責任者及び保安業務担当者以外の者による鍵

の使用を禁止し、その旨を全従業員に周知した。また、高圧受電設備と浄化槽管理会社が扱

うポンプ制御盤等の鍵を区別する対策を行うこととした。

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単線結線図

浄化槽制御盤用の 電源ブレーカー

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 浄化槽制御盤用の電源ブレーカー(写真は「入」の状態)    ↓       「入」の状態

操作ハンドル

「入」表示白ラインが見える

「自動 切」の状態    「手動 切」の状態

操作ハンドルが少し下がる

操作ハンドルが最下部

白ラインが見えなくなる

事故当日の状況(被災者A・Bともに上記の状態を見て 「入」であると勘違いした。)

高圧引込用中継盤

被災時の状況→

B A

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断路器 接点部分

断路器 操作棒

火花発生

盤前面パネル

1-3.作業者の短絡アークによる火傷負傷事故

(1)事故の発生状況

被災者(班長職従業員)は、事業場の排水ポンプが自動停止水位を検知したにもかかわらず

運転継続していたため、当該排水ポンプの磁気遮断器の手動開放操作を行ったが開放できなか

った。当該遮断器から若干の発煙があり、できるだけ早く電源遮断する必要があると考え焦っ

た。このため、無負荷の状態で断路器を操作しなければならないことは知っていたが、系統上

位にある断路器を開放することを決め、操作棒を用いて断路器を開放したところ、発生したア

ークによって気道、角膜、顔面頸部及び両手首を熱傷負傷した(入院加療10日)。

(2)事故の原因

<電気工作物の操作>

被災者は以下の理由により、無負荷の状態で断路器を操作しなければならないことは知って

いたが、負荷電流が流れている状態で断路器を開放してしまった。

① 負荷電流が流れている状態で断路器を開放した場合に発生するアークのリスクを過小

評価し、開放操作で発生するアークで短絡事故になるとは思わなかった。

② 断路器のロック機構(押さえプレート)の施錠にかかる明確なルールがなく、施錠され

ていなかったため、容易に操作ロックを解除できた。

③ 断路器上位の遮断器の開放操作担当部署への連絡先が現場ですぐに分からず、遮断器開

放依頼をすると開放までに時間を要すると考え焦った。

(3)防止対策

① 班長以上の役職者が講師となり、関係社員全員に対して、負荷電流が流れている状態での

断路器の操作禁止について保安教育を実施した。また、保安教育内容をより浸透させるた

め、アーク短絡の恐ろしさにかかる保安教育を実施することとし、さらに、今後毎年1回

以上、同内容を含めた教育を実施することとした。

② 「一般安全ルールブック」(全社員に配布)を改正し、断路器のロック機構(押さえプレ

ート)又は断路器盤等を施錠し、容易に操作できないようにし、また、設備担当責任者の

許可がなければロック機構(押さえプレート)を解錠できないようにすることとした。

③ 断路器設置場所に遮断器の開放操作担当部署の連絡先表示を掲示した。また、遮断器の開

放操作担当部署とともに異常対応訓練を年に1回実施することとした。

被災時の状況(再現) 被災時の状況

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2.電気事業者へ波及した事故

2-1.故意・過失(作業者の過失)による波及事故

(1)事故の発生状況

電力会社配電線がDGR動作により自動遮断した。事業場より連絡があり、電気管理技術者が

現場にて調査したところ、屋上外壁を高圧洗浄機にて洗浄していた清掃作業員が誤ってキュービ

クル外面にも高圧洗浄水を当て洗浄したとき、キュービクル上部の空気穴(金網)から洗浄水が

浸入したことが判明し、高圧交流負荷開閉器(LBS)2次側において相間短絡した放電痕を発

見した。

(供給支障電力100kW、供給支障時間69分)

(2)事故の原因

屋上外壁を高圧洗浄機にて洗浄していた清掃作業員が、誤ってキュービクル外面も高圧洗浄水

にて洗浄してしまい、キュービクル上部の空気穴(金網)から洗浄水が浸入し、LBS2次側に

おいて相間短絡及び地絡した。相間短絡によりヒューズは溶断したが、LBSの地絡保護継電器

電源をLBS2次側から供給していたため地絡保護継電器は動作しなかった。また、LBSは製

造後数十年経過しており、バネが経年劣化していたためストライカ機能が動作せず、LBSを開

放できなかったため波及事故に至った。

(3)防止対策

① 電気設備周辺で高圧洗浄機による洗浄作業を行う際には、必ず電気管理技術者に連絡し指

示を仰ぎ、養生して行うこととした。

② 更新推奨時期を過ぎた高圧機器については取替えを検討することとした。

キュービクル扉 高圧洗浄水侵入口

高圧洗浄水侵入口

洗浄水の溶剤の跡 (白い水滴)

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2-2.保守不備(自然劣化)による波及事故

(1)事故の発生状況

電力会社配電線がDGR動作により自動遮断した。事業場から連絡があり、電気管理技術者が

現場にて調査したところ、高圧引込ケーブルの絶縁抵抗が低下している(白相0MΩ、赤・青相

4MΩ)ことが判明した。

数ヶ月前の年次点検において、当該引込ケーブルの絶縁抵抗(10,000V印加)は1,0

00MΩであったが(一般社団法人日本電気協会が発行する「高圧受電設備規程

(JEAC8011-2014)」では、測定電圧が10,000Vの場合、絶縁抵抗値が1,000MΩ以上

~10,000MΩ未満のとき、高圧ケーブル絶縁抵抗の判定目安は「要注意」とされている)、

年次点検当日の朝方まで降った雨の影響であると考え「良」と判定し、また、直流高圧漏れ電流

試験では、印加の数分後漏れ電流が急激に上昇したが、同じく雨の影響と考え参考扱いとしてい

た。

(供給支障電力183kW、供給支障時間70分)

(2)事故の原因

当該高圧引込ケーブルは経年劣化により(更新推奨時期を超過していた)絶縁低下が進行し、

地絡に至った。構内に柱上気中負荷開閉器(PAS)及び地絡保護継電器がなかったため、当該

事業場を切り離せず、波及事故に至った。

(3)防止対策

① 年次点検時には、高圧機器の耐用年数を考慮して、更新を検討することとした。

② 構内に受電柱を建て、PAS及び地絡保護継電器を設置した。

③ 直流高圧漏れ電流試験において漏れ電流値に急激な上昇が見られる場合及び、10,00

0Vで高圧ケーブル絶縁抵抗測定をしたとき、絶縁抵抗値が1,000~10,000M

Ωとなった場合は要注意と判定し、ケーブル劣化の可能性を考慮し、早めの対応を行うこ

ととした。

④ 月次点検は、晴天時だけではなく、雨天時(湿気の高い日等)にも点検を行い、キュービ

クル内のケーブルヘッドを含む電気設備の雨天時の状況を把握することとした。

平面図

地中引込みケーブル (100mm2 160m)

電気室

建物

責任分界点

電力会社 の電柱

事故箇所

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2-3.他物接触(樹木接触)による波及事故

(1)事故の発生状況

電力会社配電線がOCR動作により自動遮断した。事業場より連絡があり、電気管理技術者が

現場にて確認したところ、構内の高圧架空電線2本が断線したこと及び柱上ガス負荷開閉器(P

GS)の保護継電器にSO動作表示は出ていたが配電線が無電圧になったときにPGSは開放し

ていなかったことが判明した。

(供給支障電力600kW、供給支障時間111分)

(2)事故の原因

事故前、長期間に渡り、構内の高圧架空電線に樹木が接触して、絶縁被覆が損傷していたと推

測される。暴風雨により樹木の枝が当該損傷箇所に接触して相間短絡し、高圧架空電線2本が溶

断した。電線が断線して地絡したが、経年劣化(製造後、二十数年経過)により地絡保護継電器

が動作せず、PGSを開放できなかったため波及事故に至った。

(3)防止対策

① 高圧架空電線に近接する樹木を早めに伐採することとした。

② 外観点検の際には、見えにくい電線への他物接触について双眼鏡を使用して、より詳しく

確認することとした。

架空電線

溶断した架空電線

この辺りまで樹木

が伸びて接触して

いた (写真は伐採後)