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動き始めた創薬のオープン・イノベーション ADVERTISEMENT FEATURE 記事広告 創薬オープンイノベーションを語る AK(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日 早乙女:今日は AK 創薬拠点(次世代免疫制御を目指す創薬医 学融合拠点)から、拠点執行責任者の成宮教授、特別顧問の竹 中アステラス製薬前会長、疋田、椛島の両主任研究者(PI)に お集まりいただきました。初めに AK の立ち上げの経緯をお聞 きしたいと思います。 成宮:立ち上げ時、私は医学部長でした。私は、創薬は医学の 使命の一つであり、現在の医学は直接、創薬に貢献できる段階 に来ていると考えていました。しかし、大学だけで薬はできま せん。そこで、大学と企業の研究者が一緒になって働ける場所 を作りたいと思いました。また、この場で、若手研究者を独立 させて生き生きと研究させ、創薬医学者を養成したいと考えま した。そこで、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」 の公募が平成 17 年暮れに出た時に、旧知であった竹中社長(当 時)に「一緒にやりませんか」とお電話しました。 早乙女:電話で竹中先生は即 YES と答えられたと聞いています。 何故そのように即決されたのですか。 竹中:私は入社以来創薬一筋で経験を積ん できました。日本の製薬企業は、外国の薬 を製造・販売する時代から、60 年代に資金 的な余裕を得て、自ら中央研究所を作り創薬 を始めました。初めの創薬は、酵素、受容体、 イオンチャネルを標的とし、片端から薬を 作りました。90 年前後にこの手の創薬はや り尽くされ、新しい戦略が必要となりまし た。その頃、疾患関連遺伝子が評価できる ようになり、当時研究所長の私は、自分達 で病気を研究して創薬標的を見つけようと 考えました。しかし、企業は患者さんに直 接アクセスはできません。そこで大学と組 もうとしましたが、当時の日本は、病院の 意識も、患者さんのご協力も、薬を作ろうという医師も満足で きる状況ではありませんでした。その落差は大きく、私たちは 海外と共同研究をやらざるを得ませんでした。そんな不満が溜 まっているところに、成宮先生からお誘いを頂き、その場でお 返事しました。 早乙女:思いが一致して始まったユニークな共同研究だと思い ますが、AK が従来の共同研究と違う所はどこですか。 成宮:これまでは、属人的にあるトピックに限って研究するも ので、期間も、だいたい2~3年です。AK はアステラス製薬と 京都大学が 10 年間一緒になってやる組織間連携です。また、協 働研究を一人の研究者がやるのではなく、若い研究者を多数集 めて、彼等の様々な発想を基に標的探索を展開しています。特に、 臨床研究者を PI として雇用するほか、臨床グラントという研究 費を出して京大病院の医師にも参加してもらっています。AK で は、“Best Drugs on Best Science” の精神の下、基礎、臨床、 企業の研究者が融合して一つ屋根の下(AK 融合ラボ)で活動を しています。 竹中:そうですね。創薬にはある程度の規模が必要で、中に様々 な要素がある点が大事です。創薬には最低 10 年はかかると思っ ていましたので、仮に私達の提案が文科省に採択されなくても 10 年間コミットするという決意で臨みました。幸い、そういう 決意も分かっていただいて、現在まで来ています。 早乙女:AK のメリットをどうお考えですか。 竹中:メリットは、創薬に思い入れがある免疫分野の3人の著 名な先生が京大におられ、領域のベストサイエンスと組めたこ とです。また、京都大学に知財や探索医 療センターなど医薬品開発に必要な部門 がちょうど整備され、米国のMGHや MIT と同じ感覚で話せました。 早乙女:丁度良いタイミングで京都大学 を選んでいただいたのですね。このよう にして始まった AK ですが、運営上どう いった工夫をされていますか。 成宮:一番大事なのは、企業と大学が情報 をオンタイムでシェアすることです。その ために融合ラボにはアステラス側のリー ダーが常駐し、全ての研究の進展を把握し、 融合ラボとアステラスの連携を促進してい ます。創薬への芽が見つかれば合同研究開 発会議をもって段階ごとに研究戦略を練っ ています。毎週の研究進捗報告会ではアステラスの研究者も出席 して議論に加わります。これらはサイエンスと創薬を両立させる のに大事だと考えています。 早乙女:情報の共有ということが出ましたが、竹中先生は、AK に アステラスの研究者が常駐されていることをどうお考えですか? 竹中:AK では、本当に face-to-face で臨床の先生方と疾患に ついてお話ができ、ここで勉強した者が帰ると、その知見が社 内に繋がっていきます。製薬企業が一番欲しており、また弱い と思っている疾患・病態の見方や研究について社員を教育して 頂いていると思っています。 竹中登一(前左):アステラス製薬(株) 前会長、AK プロジェクト特別顧問 成宮周 (前右):京都大学教授、AKプロジェ クト執行責任者 疋田正喜(後左):AKグループリーダー 早乙女周子 (後中):AK知財マネージャー 椛島健治(後右):AKグループリーダー

AK(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日 · 2017-09-29 · ak(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日 早乙女:今日はak創薬拠点(次世代免疫制御を目指す創薬医

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動き始めた創薬のオープン・イノベーション

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創薬オープンイノベーションを語る

AK(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日

早乙女:今日は AK 創薬拠点(次世代免疫制御を目指す創薬医

学融合拠点)から、拠点執行責任者の成宮教授、特別顧問の竹

中アステラス製薬前会長、疋田、椛島の両主任研究者(PI)に

お集まりいただきました。初めに AK の立ち上げの経緯をお聞

きしたいと思います。

成宮:立ち上げ時、私は医学部長でした。私は、創薬は医学の

使命の一つであり、現在の医学は直接、創薬に貢献できる段階

に来ていると考えていました。しかし、大学だけで薬はできま

せん。そこで、大学と企業の研究者が一緒になって働ける場所

を作りたいと思いました。また、この場で、若手研究者を独立

させて生き生きと研究させ、創薬医学者を養成したいと考えま

した。そこで、「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」

の公募が平成 17 年暮れに出た時に、旧知であった竹中社長(当

時)に「一緒にやりませんか」とお電話しました。

早乙女:電話で竹中先生は即 YES と答えられたと聞いています。

何故そのように即決されたのですか。

竹中:私は入社以来創薬一筋で経験を積ん

できました。日本の製薬企業は、外国の薬

を製造・販売する時代から、60 年代に資金

的な余裕を得て、自ら中央研究所を作り創薬

を始めました。初めの創薬は、酵素、受容体、

イオンチャネルを標的とし、片端から薬を

作りました。90 年前後にこの手の創薬はや

り尽くされ、新しい戦略が必要となりまし

た。その頃、疾患関連遺伝子が評価できる

ようになり、当時研究所長の私は、自分達

で病気を研究して創薬標的を見つけようと

考えました。しかし、企業は患者さんに直

接アクセスはできません。そこで大学と組

もうとしましたが、当時の日本は、病院の

意識も、患者さんのご協力も、薬を作ろうという医師も満足で

きる状況ではありませんでした。その落差は大きく、私たちは

海外と共同研究をやらざるを得ませんでした。そんな不満が溜

まっているところに、成宮先生からお誘いを頂き、その場でお

返事しました。

早乙女:思いが一致して始まったユニークな共同研究だと思い

ますが、AK が従来の共同研究と違う所はどこですか。

成宮:これまでは、属人的にあるトピックに限って研究するも

ので、期間も、だいたい2~3年です。AK はアステラス製薬と

京都大学が 10 年間一緒になってやる組織間連携です。また、協

働研究を一人の研究者がやるのではなく、若い研究者を多数集

めて、彼等の様々な発想を基に標的探索を展開しています。特に、

臨床研究者を PI として雇用するほか、臨床グラントという研究

費を出して京大病院の医師にも参加してもらっています。AK で

は、“Best Drugs on Best Science” の精神の下、基礎、臨床、

企業の研究者が融合して一つ屋根の下(AK 融合ラボ)で活動を

しています。

竹中:そうですね。創薬にはある程度の規模が必要で、中に様々

な要素がある点が大事です。創薬には最低 10 年はかかると思っ

ていましたので、仮に私達の提案が文科省に採択されなくても

10 年間コミットするという決意で臨みました。幸い、そういう

決意も分かっていただいて、現在まで来ています。

早乙女:AK のメリットをどうお考えですか。

竹中:メリットは、創薬に思い入れがある免疫分野の3人の著

名な先生が京大におられ、領域のベストサイエンスと組めたこ

とです。また、京都大学に知財や探索医

療センターなど医薬品開発に必要な部門

がちょうど整備され、米国の MGH や

MIT と同じ感覚で話せました。

早乙女:丁度良いタイミングで京都大学

を選んでいただいたのですね。このよう

にして始まった AK ですが、運営上どう

いった工夫をされていますか。

成宮:一番大事なのは、企業と大学が情報

をオンタイムでシェアすることです。その

ために融合ラボにはアステラス側のリー

ダーが常駐し、全ての研究の進展を把握し、

融合ラボとアステラスの連携を促進してい

ます。創薬への芽が見つかれば合同研究開

発会議をもって段階ごとに研究戦略を練っ

ています。毎週の研究進捗報告会ではアステラスの研究者も出席

して議論に加わります。これらはサイエンスと創薬を両立させる

のに大事だと考えています。

早乙女:情報の共有ということが出ましたが、竹中先生は、AK に

アステラスの研究者が常駐されていることをどうお考えですか?

竹中:AK では、本当に face-to-face で臨床の先生方と疾患に

ついてお話ができ、ここで勉強した者が帰ると、その知見が社

内に繋がっていきます。製薬企業が一番欲しており、また弱い

と思っている疾患・病態の見方や研究について社員を教育して

頂いていると思っています。

竹中登一(前左):アステラス製薬(株)前会長、AK プロジェクト特別顧問成宮周(前右):京都大学教授、AK プロジェクト執行責任者疋田正喜(後左):AK グループリーダー早乙女周子(後中):AK知財マネージャー椛島健治(後右):AK グループリーダー

Page 2: AK(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日 · 2017-09-29 · ak(アステラス製薬–京都大学)プロジェクトの今と明日 早乙女:今日はak創薬拠点(次世代免疫制御を目指す創薬医

動き始めた創薬のオープン・イノベーション

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早乙女:では、椛島先生、疋田先生が、AK の PI に応募された

理由をお聞きしたいと思います。

椛島:僕は、これまで基本的には臨床中心で、大学院と留学中

にトップサイエンスに触れたのですが、サイエンスと臨床をど

う繋げたら薬になるのか全く分かりませんでした。五里霧中の

状態だったので、この話を成宮先生から伺ったときに、これは

飛び込んでみるしかないと思いました。また、30 代で独立した

ポジションを得られるのも魅力でした。

疋田:私は 10 年以上マウスで免疫研究をしてきて、自分の研究

が病気を治すことに役立てばと思っていました。そう思ってい

た所に、アステラスの方も臨床の方もいるという AK の話を伺

い、両者を積極的に知った上で基礎研究をやるのが大事と考え

て、参加したわけです。

早乙女:実際に参加されてみた感想はどうですか。

椛島:チャンスを与えて貰って好きに研究させてくれたことに

感謝しています。また、今までの企業との共同研究は、結局お

金だけ貰って、論文を書いて終わりでした。AK の研究開発会議

では、お互いが本音を言い合い、その経験から、研究がどうやっ

たら薬に繋がるのかという道筋が見えてきたと思っています。

疋田:私も充分なお金と適切なアドバイスを頂きながら、Best

Science を目指す研究を自由に思う存分でき、来てよかったと

思っています。創薬の面からは、最初は現場同士が分かり合え

ないことが多々ありましたが、打合せを何回かやっていくうち

に、薬作りの考え方を体験し、スムーズにやりとりができるよ

うになりました。

成宮:AK では研究者としての活動と創薬活動を両立させる知財

管理が重要ですね。早乙女さんはAK の知財マネージャーですが、

どういった点を大切に知財管理をしておられるのですか?

早乙女:私も研究者だったので、なるべく研究者にストレスを

感じさせないようにと思っています。大事なのはやはり情報の

共有です。アステラスも大学の PI も、突然に公表とか特許出願

と言われると大変なので、日々、アステラスと京大の間に立って、

アステラスが特許出願をどう考えているかを PI に伝え、PI の考

えや計画についてアステラスへ伝えて調整しています。椛島先

生や疋田先生は AK の知財管理をどう思っていますか。

椛島:最初は、早く論文にするのが仕事だと思っていたので、

なかなか発表できないもどかしさがありました。しかし本来時

間がかかることが、AK だと実は圧倒的に速くやって頂いている

ことがわかって、今は感謝しています。

疋田:私は、特に海外からマウス等の移転にお世話になりました。

研究をスムーズに進められ非常に助かっています。

成宮:AK の知財マネージャーが、研究者の思いを会社の知財部

に仲介し理解を促進して下さっているのは、AK の成功の上で大

きな貢献だと感じています。

早乙女:今日そういうことが聞けて本当に心強く、また明日か

ら頑張ろうかなと思えます。成宮先生は若い研究者にどういっ

た思いを持って AK を作られたのですか。

成宮:皆、人生一度しかないので、挑戦したいと思うんです。

私たちは、才能のある若い人に挑戦の場を与えて、思う存分力

を発揮してもらい、それを薬作りに生かしたいと思っています。

早乙女:AK プロジェクトも今ちょ

うど5年目ということで、アステラ

スとして何が成果だと思われていま

すか。

竹中:既にかなりの数が AK から創

薬プログラムに移行し、段階が進ん

でいるものもあります。進捗が速く、私としては満足しています。

また、一般的に創薬が難しくなり、色んな会社が創薬ストラテ

ジーを模索している中で、中央集権的に縛っていくやり方が横

行し始めているんですね。しかし私は逆に AK のようなボトム

アップの動きがないと前に進まないと思います。私は明るい闇

研究というのをいつも言っています。私は循環器薬をやってま

したが、論文を書きたかったので、闇研究でふと前立腺や尿道

に対象を変えたらそれが排尿障害の薬になりました。自分の研

究を科学的興味に沿って変えれば、薬も出てきます。

早乙女:そのようなご理解があったから、AK では研究者が自由

に研究を展開しているなと思います。では、AK が今後どんな方

向に力を入れていくのかをお聞きしたいと思います。

成宮:やっぱり、大学で本当に薬が作れることを示すことがま

ず大事だと思います。また、病める人のために、日常、患者さ

んに接している医師が感じているアンメットメディカルニーズ

を一つ一つ丁寧に拾い上げて薬を作っていきたいと思います。

それから、製薬企業の薬作りは下手をすると作業になってしま

うので、大学と企業が一緒になって薬作りにサイエンスを入れ

た創薬の成功モデルを是非作りたいです。

竹中:AK から臨床を目指すプロジェクトも出てきて、今後は、

見つけた化合物や創薬標的が本当に患者さんで働いているかを

評価することが必要ですね。京都大学には探索医療センターが

あり、臨床への展開を期待しています。治験も大切ですね。我々

自身の薬の開発を必死になってやることで、日本で良い治験シ

ステムが出来上がるんじゃないかと思います。あと 5 年でほと

んどいけるぞってものが出てきますよね。

早乙女:そうですね、私たちも AK 拠点で患者さんを救う医薬

を作り出すようこれからも頑張りたいと思います。本日はどう

も有り難うございました。

京都大学医学研究科次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点〒 606-8501 京都市左京区吉田近衛町TEL: 075-753-9501E-mail: [email protected]://www.ak.med.kyoto-u.ac.jp/

京大アステラス融合ラボ