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数字は語る HACCP 的にみた新型コロナウイルス感染拡大と食中毒 正しく恐れる 「新型コロナウイルス感染拡大を防止する」としてゼロリスクを求めるかのような混乱は、未だ収まってい ません。感染症の専門家ではありませんので、全くの私見ですが、このウイルスは接触感染が殆どなく飛沫感 染が主要ではないのかと考えます。接触感染があるのであれば、もう少しクラスター発生の場にバリエーショ ンがあっても良いのではと思います。プラスティックに付着したウイルスは何日間も生きる、飛沫中のウイル スは何時間も生きている等の科学的情報が何回となくTVで報じられますが、その科学的情報には、「ただし、 時間とともに等比級数的に減少」が付け加えられており、科学的情報を切り刻んで国民に脅しを掛けているの ではと思わざるをえません。HACCP の原則1危害要因分析はリスクベースで行うことが要求されます。リス クベース視点では、新型コロナウイルスの挙動でラボワークと実際の違いを確認、リスク増減因子を考慮、発 症推定ウイルス数などの因子を加えて、「正しく恐れる」ための正確な情報とします。 これを誠実に丁寧に提供するのが感染症専門家の責務ではないかと考えますが、誘導尋問的に「可能性はあ りますか」の問に「可能性は否定できません」としたゼロリスク視点の回答をしてしまいます。「可能性があ りますか」の問には、「可能性の有無を論じるのは意味がありません。リスクは相当低いので必要以上の心配 は無用です」式の解説を願う次第です。 まあ、飲食店での過剰な消毒などは安心を得るもの で安全対策ではないと割り切れば、理解できなくもあ りませんが、三密代表の満員電車・バスには一切、言 及しない行政や報道の在り方にも大いに疑問を持た ざるを得ません。 手洗いと消毒の副産物 新型コロナウイルス対策は三密を避ける事、マスク着 用と手洗・手の消毒が基本とされますが、手洗いと消 毒が徹底、思わぬ副産物が食中毒発生数の激減です。 原因物質別の統計も特徴的です。例年では 100 件/月 前後ですが 2020 年 5 月の発生件数は 35 と低く、原 因も二次汚染や交差汚染ではない原材料由来の食中 毒(寄生虫や自然毒)が主です。手洗いや消毒など食 中毒予防の三原則「つけない・増やさない」が効果的 に機能して細菌性食中毒の減少に繋がっている事が 示唆されます。 食中毒以外でも、季節性の感冒・インフルエンザ の感染数も激減しています。これらのウイルスは新型 コロナウイルスと同属で、ウイルス感染には競合が発 生する場合があるとされますが、フィジカルディスタ ンス・換気・マスク着用・手洗い・消毒の徹底が功を 奏したと仮説を立てることはできそうです。

AKR共栄会 公式サイト - 数字は語る HACCP的にみた新型コロ …...AKR版HACCP適合認定委員 NPO近畿HACCP実践研究会理事長 戸ヶ崎恵一 令和2年8月20日

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Page 1: AKR共栄会 公式サイト - 数字は語る HACCP的にみた新型コロ …...AKR版HACCP適合認定委員 NPO近畿HACCP実践研究会理事長 戸ヶ崎恵一 令和2年8月20日

数字は語る HACCP的にみた新型コロナウイルス感染拡大と食中毒

正しく恐れる

「新型コロナウイルス感染拡大を防止する」としてゼロリスクを求めるかのような混乱は、未だ収まってい

ません。感染症の専門家ではありませんので、全くの私見ですが、このウイルスは接触感染が殆どなく飛沫感

染が主要ではないのかと考えます。接触感染があるのであれば、もう少しクラスター発生の場にバリエーショ

ンがあっても良いのではと思います。プラスティックに付着したウイルスは何日間も生きる、飛沫中のウイル

スは何時間も生きている等の科学的情報が何回となく TV で報じられますが、その科学的情報には、「ただし、

時間とともに等比級数的に減少」が付け加えられており、科学的情報を切り刻んで国民に脅しを掛けているの

ではと思わざるをえません。HACCP の原則1危害要因分析はリスクベースで行うことが要求されます。リス

クベース視点では、新型コロナウイルスの挙動でラボワークと実際の違いを確認、リスク増減因子を考慮、発

症推定ウイルス数などの因子を加えて、「正しく恐れる」ための正確な情報とします。

これを誠実に丁寧に提供するのが感染症専門家の責務ではないかと考えますが、誘導尋問的に「可能性はあ

りますか」の問に「可能性は否定できません」としたゼロリスク視点の回答をしてしまいます。「可能性があ

りますか」の問には、「可能性の有無を論じるのは意味がありません。リスクは相当低いので必要以上の心配

は無用です」式の解説を願う次第です。

まあ、飲食店での過剰な消毒などは安心を得るもの

で安全対策ではないと割り切れば、理解できなくもあ

りませんが、三密代表の満員電車・バスには一切、言

及しない行政や報道の在り方にも大いに疑問を持た

ざるを得ません。

手洗いと消毒の副産物

新型コロナウイルス対策は三密を避ける事、マスク着

用と手洗・手の消毒が基本とされますが、手洗いと消

毒が徹底、思わぬ副産物が食中毒発生数の激減です。

原因物質別の統計も特徴的です。例年では 100 件/月

前後ですが 2020 年 5 月の発生件数は 35 と低く、原

因も二次汚染や交差汚染ではない原材料由来の食中

毒(寄生虫や自然毒)が主です。手洗いや消毒など食

中毒予防の三原則「つけない・増やさない」が効果的

に機能して細菌性食中毒の減少に繋がっている事が

示唆されます。

食中毒以外でも、季節性の感冒・インフルエンザ

の感染数も激減しています。これらのウイルスは新型

コロナウイルスと同属で、ウイルス感染には競合が発

生する場合があるとされますが、フィジカルディスタ

ンス・換気・マスク着用・手洗い・消毒の徹底が功を

奏したと仮説を立てることはできそうです。

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新型コロナウイルス第2波

関西医科大学の竹林先生は、World meter (https://www.worldometers.info/coronavirus/)が示す日本とドイツのグ

ラフの新型コロナウイルスの新規感染者数(Daily New Cases)と死亡者数(Daily Deaths)の 2 つを比べ、

8 月1日現在の日本の現状を分析してい

ます。ドイツでは 4 月に明確な新規感染

者数のピークがあり、死亡者数からもピ

ークにずれがありません。PCR 検査数が

日本より多く、新規感染者数の時系列的

トレンドがわかりやすいとしています。

一方、日本では、第 2 波到来と騒がれてい

ますが、竹林先生は、死者数の推移からも、

日本でのこの 2 ヶ月間の感染者数の増加

は単に PCR 検査件数の増加によるものに

過ぎないということがよくわかりますと

述べています。なお、死亡者の定義が 6 月

18 日から変更となり、PCR 陽性で死亡原

因に関係なく、亡くなった方全て(旧来は

PCR 陽性で死亡原因が肺炎の場合を死亡

者)としますので、死亡者数は少し多くな

るかも知れません。

この指摘からすると第2波と呼ぶべき

(ウイルス型でみると緊急事態時のそれ

が第 2 波なので実際は第3波らし)は、こ

の冬にインフルエンザと一緒に再来する

感染と言えます。未知が故に、慌て恐れた

過剰な対応を検証して是正し、より充実

した対応が必要なものには一層の充実に

是正する科学的措置が私たちの不安の解

消に繋がると考えます。

収束はいつ?

3 月当時、感染症の専門家は「収束は何時

になりますでしょうか?」と言う問いに

「集団免疫が形成されて終息(収束では

ありません)に向かいます」と回答してい

ます。一体、感染を受けないで収束、感染

を積極的に受けて終息する のいずれを

狙っているのかが私の中のモヤモヤです。

急激な爆発的な感染数の増加をオーバ

ーシュートと呼び、それを抑えるため=ゆ

ドイツ

日本

ドイツ

日本

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っくりと感染者数を増加させる方法をとったのでは? と理解していたのですが、報道は新規陽性者数の増加

に一喜一憂で、相変わらず専門家へは誘導尋問式に答えを求めています。いささか「うんざり」ですね。

上久保康彦氏(京都大学大学院医学研究科特定教授)は「私達日本人の多くは、既にコロナに感染していて、

既に免疫を獲得している。だからもし感染しても重症化しにくい。免疫は病原体に触れることで強化されるた

め、むしろ自粛などしないで病原体に曝露される機会を増やそう。」と、いささか乱暴に聞こえますが、科学

とは仮説と検証の繰り返しです。自然科学であれ、社会科学であれ、仮説に先入観は無用です。

新型コロナウイルス感染予防の措置と食中毒事故件数の激減の二つの現象の関係性はまだ仮説の域をでま

せん。急ぎ、検証が必要です。HACCP に沿った衛生管理の義務化の究極の目的は、食品衛生に関わる国家予

算の軽減と言えます。義務化により「食中毒事故が減り、予算が削減できたか」を検証して初めて施策の良否

が判明できますが、この手洗い・消毒が新しいライフスタイルとして定着したらと期待しています。

数字は語る

不見識ですが、新型コロナウイルスにより亡くなられた方の数を単純に年換算すると約 2,000 人と見積もれ

ます。厚生労働省編平成 30 年人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、結核で亡くなった方の数は約 2,200

人、インフルエンザで約 3,200 人、肺炎では約 95,000 です。新型コロナウイルス感染症の怖さをインフルエン

ザと比べるものではありませんが、新型コロナウイルス感染問題が、大きな社会的衝撃となって不安を掻き立

てられている面は否定できません。交通事故では約 4,600 人の方が亡くなっていますが、車の運転を規制・自

粛せよとの世論は生まれないと思われます。「交通事故で亡くなる」という危害の要因は自動車とその運転と

見做せますので、「自動車がなければ交通事故で亡くなる方はいなくなる。よって、自動車をなくせ、バイク

の運転はけしからん」式の論がリスクゼロ(ハザードベース)視点では成立します。この論理思考が行政施策

を含め、新型コロナウイルス関連で多く見られます。「万が一を考えて対策する」は健全な考えですが、この

「万が一」は観念的なものであってはならず、この観念的「万が一」が、新型コロナウイルを正しく恐れるこ

とを妨げていると思われます。

今更ながら、HACCP のリスクベースでの安全と NRLTO(Not Reasonably Likely To Occur)視点での対策

を望む次第です。英語・英字まみれで恐縮ですが、後2つの付け加える言葉はトレードオフとトリアージです。

トレードオフな部分を正しく見積もりませんと、台風での避難場所にフィジカルディスタンスを確保する必要

があるので避難した方の入室を断る なんてことが起きかねません。トリアージは「大事故・災害などで同時

に多数の患者が出た時に、手当ての緊急度に従って優先順をつけること」と説明されますが、災害に限らず、

優先順位を決めて事に当たるは全ての活動の原点と思われます。

ご意見・ご批判を頂きたく

AKR 版 HACCP 適合認定委員

NPO 近畿 HACCP 実践研究会理事長

戸ヶ崎恵一 令和 2 年 8 月 20 日 記す