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市販ICレコーダーを用いた 地震波形データ収録実験 勝俣 啓・岡山宗夫(北海道大学・地震火山研究観測センター) An experiment of seismic waveform recording by using ready-made IC recorders Kei KATSUMATA and Muneo OKAYAMA (Institute of Seismology and Volcanology, Hokkaido University) 限られた予算の中で地震観測点密度を大幅に高めるためには、できるだけ低価格の地震観測装置を 開発する必要がある。本研究ではP波初動の押し引きによる震源メカニズム解の決定やコーダ波解析 を想定し、機能および性能を最小限に抑えたシステムを提案する。地震計本体は上下動1成分として、 地震探査用の安価な地震計を用いる。データロガーは市販されているICレコーダーを利用し、 GPS時計等による時刻校正は行わない。市販のICレコーダーは音声録音専用なので実際に地震波形を 記録できるのか周波数特性や消費電力を調査するための試験観測を行った。オリンパス社製 Voice-Trek V-75とSONY社製ICD-UX512の2種類のICレコーダーを比較した。上下動地震計(CDJ-Z10)は、 固有周波数10Hz、感度2.8V/cm/s、1台約1万円の中国製品で、ICレコーダーのマイク端子に簡単な ローパスフィルターを通してから接続した。ICD-UX512は、電源電圧1.5V、長時間記録モードでの サンプリング周波数8000Hz、内部メモリ2GBに約536時間の連続録音が可能である。音声波形はMP3形式 で保存されるので、フリーソフトmpg123を用いてWAV形式に変換および400Hzでリサンプリングした後、 フリーソフトsoxを用いて数値テキストデータを得た。ICD-UX512の仕様書には、記録可能周波数は 60~3400Hzと記載されているが、10Hz程度の近地地震の波形も十分記録可能であることを確認した。 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 X1 0 50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000 -0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 X1 80000 81000 82000 83000 84000 85000 86000 87000 88000 0.15 0.16 0.17 0.18 0.19 0.20 X10 240000 241000 242000 243000 244000 245000 246000 247000 248000 0.173 0.174 0.175 0.176 0.177 0.178 X100 320000 321000 322000 323000 324000 325000 326000 327000 328000 図1.本研究で考案した地震波記録システム. オレンジ色が地震計で固有周波数10Hz,感度2.8V/cm/s, 青色がICレコーダ(SONY製),単1乾電池1個で約2週間 連続記録が可能である. 図2.記録テストの結果. 10Hzのサイン波をICレコーダーの マイク端子に入力して記録テスト を行った.入力電圧を変えて記録 波形の変化を観察した.ICレコー ダーはAD変換後にMP3形式でデータ を圧縮して記録するので,その 影響がどの程度か評価する必要が ある.結果を見ると,入力電圧が 大きい場合は波形の歪みは見られ ないが,電圧が小さい場合は 波形の歪みが大きくなることが 分かる. 141˚ 18' 141˚ 24' 43˚ 00' 43˚ 06' 5 km MSK SONY M2.9 Sapporo City 図3.実際に記録された地震の震央(★)と 観測点(+).MSKは北大の定常地震観測点で 固有周波数0.2Hz,深さ約700mのボアホール に設置されている.SONYは本研究で考案した 記録システムを設置した位置である. 地震は,2012年4月19日に札幌市直下の 深さ9.6kmで発生し,M2.9である(気象庁). 図4.図3の地震前後の連続波形の モニター記録.線1本で10分間である. 赤丸を付けた箇所が図3の地震である. 発震時は6時20分10秒なので,10分ほど 早く記録されている.これは4月7日の 観測開始から約12日間経過し,内部時計 のずれが累積したためだと考えられる. 2012/04/19 10min/line 00:00 1018034 1018634 1019234 1019834 1020434 1021034 01:00 1021634 1022234 1022834 1023434 1024034 1024634 02:00 1025234 1025834 1026434 1027034 1027634 1028234 03:00 1028834 1029434 1030034 1030634 1031234 1031834 04:00 1032434 1033034 1033634 1034234 1034834 1035434 05:00 1036034 1036634 1037234 1037834 1038434 1039034 06:00 1039634 1040234 1040834 1041434 1042034 1042634 07:00 1043234 1043834 1044434 1045034 1045634 1046234 08:00 1046834 1047434 1048034 1048634 1049234 1049834 09:00 図5.図3の地震の波形記録.MSKは8-16Hzのバンド パスフィルターをかけてある.初動がUP(押し)で あることが明瞭に判別できる.また,初動付近の波形 自体も両者非常によく一致していることが分かる. 0 1.5 2.0 2.5 0 1.5 2.0 2.5 MSK SONY sec sec 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 0 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 sec sec MSK SONY 図6.図3の地震の波形記録. MSKは8-16Hzのバンドパスフィルターをかけてある. 後続波を含め波形全体が両者よく似ていることが 分かる.

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Page 1: An experiment of seismic waveform recording by using ready ...kkatsu/ronbun/Paper2PDF/...An experiment of seismic waveform recording by using ready-made IC recorders Kei KATSUMATA

市販ICレコーダーを用いた地震波形データ収録実験

勝俣 啓・岡山宗夫(北海道大学・地震火山研究観測センター)

An experiment of seismic waveform recordingby using ready-made IC recorders

Kei KATSUMATA and Muneo OKAYAMA(Institute of Seismology and Volcanology, Hokkaido University)

 限られた予算の中で地震観測点密度を大幅に高めるためには、できるだけ低価格の地震観測装置を開発する必要がある。本研究ではP波初動の押し引きによる震源メカニズム解の決定やコーダ波解析を想定し、機能および性能を最小限に抑えたシステムを提案する。地震計本体は上下動1成分として、地震探査用の安価な地震計を用いる。データロガーは市販されているICレコーダーを利用し、GPS時計等による時刻校正は行わない。市販のICレコーダーは音声録音専用なので実際に地震波形を記録できるのか周波数特性や消費電力を調査するための試験観測を行った。オリンパス社製Voice-Trek V-75とSONY社製ICD-UX512の2種類のICレコーダーを比較した。上下動地震計(CDJ-Z10)は、固有周波数10Hz、感度2.8V/cm/s、1台約1万円の中国製品で、ICレコーダーのマイク端子に簡単なローパスフィルターを通してから接続した。ICD-UX512は、電源電圧1.5V、長時間記録モードでのサンプリング周波数8000Hz、内部メモリ2GBに約536時間の連続録音が可能である。音声波形はMP3形式で保存されるので、フリーソフトmpg123を用いてWAV形式に変換および400Hzでリサンプリングした後、フリーソフトsoxを用いて数値テキストデータを得た。ICD-UX512の仕様書には、記録可能周波数は60~3400Hzと記載されているが、10Hz程度の近地地震の波形も十分記録可能であることを確認した。

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図2.記録テストの結果.10Hzのサイン波をICレコーダーのマイク端子に入力して記録テストを行った.入力電圧を変えて記録波形の変化を観察した.ICレコーダーはAD変換後にMP3形式でデータを圧縮して記録するので,その影響がどの程度か評価する必要がある.結果を見ると,入力電圧が大きい場合は波形の歪みは見られないが,電圧が小さい場合は波形の歪みが大きくなることが分かる.

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図3.実際に記録された地震の震央(★)と観測点(+).MSKは北大の定常地震観測点で固有周波数0.2Hz,深さ約700mのボアホールに設置されている.SONYは本研究で考案した記録システムを設置した位置である.地震は,2012年4月19日に札幌市直下の深さ9.6kmで発生し,M2.9である(気象庁).

図4.図3の地震前後の連続波形のモニター記録.線1本で10分間である.赤丸を付けた箇所が図3の地震である.発震時は6時20分10秒なので,10分ほど早く記録されている.これは4月7日の観測開始から約12日間経過し,内部時計のずれが累積したためだと考えられる.

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図5.図3の地震の波形記録.MSKは8-16Hzのバンドパスフィルターをかけてある.初動がUP(押し)であることが明瞭に判別できる.また,初動付近の波形自体も両者非常によく一致していることが分かる.

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図6.図3の地震の波形記録.MSKは8-16Hzのバンドパスフィルターをかけてある.後続波を含め波形全体が両者よく似ていることが分かる.

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