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SMBCマネジメント+ 2018 December 5 2018 December SMBCマネジメント+ 4 写真/amanaimages Case2 配管部品の管理にARを活用 工事期間の短縮を目指す 福岡造船株式会社 Case3 保守技術者の研修にARを導入 疑似体験で理解度がアップ 東京地下鉄株式会社 Interview 清川 清 奈良先端科学技術大学院大学教授 に聞く 技術開発が急進展したAR 情報のデータベース構築が課題 Case1 製造設備の保守作業にARを活用 稼働状況や修理方法の確認が容易に カリモク家具株式会社 AR 技術で 生産性向上 特 集 現実の世界にデジタル情報を重ねて 映し出す、AR(拡張現実)技術の実用 化が進んでいる。生産装置の操作・修 理情報や、部品の設計・作業情報を実 際の機器・部品と同時に表示すること で、生産現場の効率向上を図るのが目 的だ。熟練技術者のノウハウを見える 化するとともに、それを後進に分かり やすく教育・研修するためのツールと してもARは役立つ。本特集では、生 産現場や教育・研修現場にARを取り 入れ、生産性向上につなげた事例を 紹介する。

AR技術で 生産性向上 - SMBCコンサルティング€¦ · 技術開発が急進展したAR 情報のデータベース構築が課題 Case1 製造設備の保守作業にARを活用

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Page 1: AR技術で 生産性向上 - SMBCコンサルティング€¦ · 技術開発が急進展したAR 情報のデータベース構築が課題 Case1 製造設備の保守作業にARを活用

SMBCマネジメント+ 2018 December5 2018 December SMBCマネジメント+ 4写真/amanaimages

Case2

配管部品の管理にARを活用工事期間の短縮を目指す福岡造船株式会社

Case3

保守技術者の研修にARを導入疑似体験で理解度がアップ東京地下鉄株式会社

I n terv iew

清川 清 奈良先端科学技術大学院大学教授 に聞く技術開発が急進展したAR情報のデータベース構築が課題

Case1

製造設備の保守作業にARを活用稼働状況や修理方法の確認が容易にカリモク家具株式会社

AR技術で生産性向上

特 集

現実の世界にデジタル情報を重ねて映し出す、AR(拡張現実)技術の実用化が進んでいる。生産装置の操作・修理情報や、部品の設計・作業情報を実際の機器・部品と同時に表示することで、生産現場の効率向上を図るのが目的だ。熟練技術者のノウハウを見える化するとともに、それを後進に分かりやすく教育・研修するためのツールとしてもARは役立つ。本特集では、生産現場や教育・研修現場にARを取り入れ、生産性向上につなげた事例を紹介する。

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2018 December SMBCマネジメント+ 6SMBCマネジメント+ 2018 December7 取材・文/田北みずほ 写真/水野浩志

 VR(バーチャル・リアリティー=仮想

現実)はヘッドマウントディスプレイなど

を装着して、映像が創り出す仮想世界に入

り込んだかのような疑似体験ができる技術

です。それに対し、AR(オーギュメンテッ

ド・リアリティー=

拡張現実)とは、現

実の風景にデジタル

情報を重ねて映し出

すことで、実際には

存在しないものを、

そこにあるかのよう

に表示する技術です。

 1999年頃、情

報が表示できる場所

を指定するARマー

カーを読み取る技術が開発されたことを

きっかけに、ARの本格的な研究が進みま

した。その後、空間情報を認識してAR

コンテンツを表示できるマーカーレスAR

の技術が開発されました。

 ARは自分が動き回ったときに位置情報

を計測する技術の確立が難しかったのです

が、頭の動きに表示が追従する技術が組み

込まれたAR眼鏡が開発され、さらにス

マートフォンでも同様の技術が使えるよう

になって、急激に応用が広がりました。現

在は位置と回転を高い精度で計測する技術

が開発されています。ARの利用でよく知

られているのはゲームアプリの「ポケモン

GO」ですが、これはGPS(全地球測位

システム)を用いた、もっと簡単な位置計

測技術を利用しています。

 MR(ミックスド・リアリティー=複合

現実)という表現もあります。VR、AR

との関係は上の図のようになります。

ARを効果的に活用するには

ひも付ける情報の管理が必要

 AR技術の活用の可能性も幅広くなって

います。例えば、自動車レースのピットク

ルーが、順位や燃料残量などの情報をウェ

アラブルディスプレイで見るという情報参

照。また、誰かに会ったときに相手の名前

ややりとりしたメール一覧が表示されると

いうように、顔という画像情報を分析して、

即時に必要なデータを引き出す。こうした

シンプルなARは少し前から実現されつ

つありました。現在、生産現場などで実用

化されているARの多くは、これらと同

様に、ARマーカーや画像情報をスマホや

タブレットなどで読み取って、何らかの情

報を引き出す基本的なARだと思います。

 今後、さらに技術開発が進み、高度な

ARになると、本当はそこにないものがあ

るかように表示されます。

 例えば、現実の手術室でメスを持ち、仮

想の人体に手術のシミュレーションをした

り、AR眼鏡をかければ、自分の部屋の椅

子に座って話し相手になってくれる「AR

友達」が現れたり、といった技術が開発で

きるでしょう。

 このように活用が広がるには、まだ課題

もあります。例えば、現在のAR眼鏡は

視野が狭いので、普段見ているような広い

視野に置き換えられるディスプレイの開発

が必要です。現実の画像を解析して動画な

どの情報を返すためには高速・大容量の通

信技術が必要で、5G通信時代になっても

まだ足りません。ソフト開発に関しても、

ARは目の前の情報に合致したコンテンツ

を制作しないといけないので、一点ものに

なりがちだというデメリットがあります。

 生産現場でのAR技術の導入を考える

際に、大きな課題となるのはデータベース

の管理です。例えば、ある生産工程の効率

化にARを活用しようという場合、その

工程の図面だけではなく、使用する機械や

部品の一つひとつについて、情報がきちん

とデジタル管理されていなければARシ

ステムは機能しません。

 データベースから、何をどんな順序で表

示していくかという、ARにひも付ける情

報の管理ができて初めて、活用できるので

す。データを収集・整理する時間と労力が

ネックではありますが、それさえ厭わなけ

れば、AR技術による生産性向上は実現で

きます。

特 集 AR技術で生産性向上I n terv iew

(きよかわ・きよし)1998年、奈良先端科学技術大学院大学博士後期課程修了。1999年通信総合研究所研究員、2001年ワシントン大学ヒューマンインターフェーステクノロジ研究所研究員、2002年大阪大学サイバーメディアセンター准教授。2017年より現職。日本バーチャルリアリティ学会理事も務める。

位置情報の計測技術の発達で、ARは急速に開発が進んだ。

現実の風景に有用な情報を上乗せ表示することで、利便性が向上する。

活用への課題は、ARにひも付けるデータベースを構築・管理することだと言う。

清川

奈良先端科学技術大学院大学教授

に聞く

技術開発が急進展したAR

情報のデータベース構築が課題

Profile

ARの技術開発の進展

ARオンラインショッピング

現実と仮想空間が混在したすべての領域 をMR(Mixed Reality:複合現実)という

AV(Augmented Virtuality:拡張仮想感)バーチャルな空間に、現実の情報を

重ね合わせる

AR(Augmented Reality:拡張現実)現実をベースに、バーチャルな情報を

重ね合わせる

←50:50のポイント

リアルタイム照明シミュレーション

リアルタイムの人物入替

ARユーザーズマニュアル

現実物体の複製・再配置

状況依存の高度な組立支援

静止物体へのタグ付け

位置推定

新着メール リアルタイム測量・採寸

形状認識など

現実世界のセンシング低

現実世界と調和した写実性 静止画やCG

文字情報

高度なCG

スポーツの採点・演出

物体認識・動作認識

現実と仮想空間 を分ける定義

100%現実(Reality)

100%仮想空間(Virtual Reality)

ARとVR、MRの区分。バーチャルな空間に現実の情報を重ね合わせた領域は拡張仮想感=AVと呼ぶ

現実の把握は形状認識から、物体認識、動作認識へと技術開発が進み(横軸)、表示する情報は文字や静止画から高度なCGへとより複雑な情報が表示できるようになる(縦軸)(清川教授提供)

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2018 December SMBCマネジメント+ 8SMBCマネジメント+ 2018 December9 取材・文/田北みずほ 右、上の写真/上野英和

 家具メーカーのカリモク家具株式会社は、

2016年2月から総張*加工を担う工場

の製造設備の保守作業にAR技術を活用

したシステムを導入している。そのきっか

けは、設備のメンテナンスに関する情報を

データベース化したいという思いだったと

いう。「製造設備の種類が多く、それぞれ

クセがある。設備の保守や修理は属人的で、

熟練した修理技術者頼みの部分があった。

これを、必要な情報を誰でもすぐに取り出

せるデータベースにしたかった」と常務取

締役の林博行氏は語る。

 そんなとき、設備のメンテナンスにAR

使用の事例を持つ仏シュナイダーエレクト

リック社から、ARを活用した工場管理シ

ステムの導入提案があった。同社は製造ラ

インの制御技術に強く、稼働データなどを

ARで現場に投影するシステムを開発して

いた。もともとカリモク家具は工場でシュ

ナイダーの制御装置を使っていたこともあ

り、導入に踏み切った。「AR導入はデー

タベース構築の入口という考え。熟練者で

なくても、多くの人が保守作業をできるよ

うにするのが目標だった」(林常務)。

 まず導入したのはウレタンの製造棟。同

社はソファに使うウレタン部品を自社生産

している。材料となる原液を入れる複数の

貯蔵タンクと製造装置をつなぐ配管は複雑

で、それぞれのタンクに何がどのくらい

入っていて、液体の流れがどういう状況な

のかを理解するには熟練が必要だった。ま

た、仕上がりに影響するため、温度管理が

関連づけるべきかを判断する必要があった

ため、整理には非常に時間を要した」(技術

課の中根範貴氏)。苦労の甲斐あって、活

用されずに保存されていた過去のデータも、

ARシステムで必要なときにすぐに引き出

せる状態にできた。

修理時間の短縮と

若手のスキルアップに効果

 モノづくりにおいて、設備の故障があっ

たときはまず過去の修理履歴を見る、とい

うのが定石だという。履歴を手がかりにす

れば、早く解決できることが多いからだ。

実際にAR活用の管理システムを導入し、

故障や不具合の対処にかかる時間を短縮で

きた。また、熟練技術者のノウハウを若手

社員に継承することもできた。「故障した

らまずタブレットの情報を見るという手順

を踏むことで、熟練技術者に問い合わせな

くても解決できる事例が増え、それが若手

社員のスキルを高めることにもつながっ

た」と、IE課の黒田大輔氏は言う。

 現在は、メンテナンスの頻度が高いソ

ファの革を自動裁断する設備にも同様の

ARシステムを導入している。今後は、家

具の組み立て工程にも取り入れる予定だ。

 「当社はお客様にソファの色や生地を選ん

でいただいてから製造する、といった受注

生産が多い。1点1点、仕様が異なるため、

製造の手順も出荷前検査の項目も異なる。

製品を映し出せば、製造手順や検査項目が

分かるようなシステムがあれば理想的」と

林常務は言う。今後も段階的にAR技術

の導入を進めていく。

欠かせない。これもベテランにしか分から

ない部分が多かった。

 このウレタン製造ラインにAR技術を

活用した保守システムを導入。製造設備に

貼り付けたARマーカーに専用アプリが

入ったタブレット端末をかざすと、設備の

スペックやマニュアル、センサーが測定し

た稼働状況を確認できるようになっている。

修理履歴や作業手順の動画などにアクセス

することも可能だ。異常が起きたときには、

修理履歴を参照しながら対処できる。

 ARシステムを導入するにあたって最も

大変だったのは、設備に関するデータベー

スをまとめ、専用アプリにひも付ける作業

だったという。「修理履歴データは存在す

るものの、パソコンにバラバラの状態で保

存されていた。どのデータとどのデータを

特 集 AR技術で生産性向上Case 1

カリモク家具株式会社

ソファなどに使うウレタンの製造ラインにAR技術を活用した

管理システムを導入。設備の状況や修理履歴などが瞬時に分かる。

熟練技術者頼みだった保守作業を若手社員でもできるようにした。

製造設備の保守作業にARを活用

稼働状況や修理方法の確認が容易に

「ARの活用によって、熟練技術者のノウハウをデータベース化できた」と話す林博行常務取締役

ARマーカーをタブレット端末で読み取ると、操作方法や修理履歴など、ひも付けされた情報がその場で確認できる

皮革の自動裁断機にもARを導入した。修理方法の動画などを確認できるため、熟練技術者に頼る機会が減った

ウレタン製造ラインの原液タンク(右)。設備の各所にARマーカー(上)を付けている

代表取締役社長 加藤正俊本社 愛知県知多郡東浦町大字藤江

字皆栄町108設立 1947年2月5日売上高 263億円(2018年3月期)従業員数 625名(2018年3月現在)事業内容 木製家具・インテリアの製造・販売http://www.karimoku.co.jp

Corporate Profi le

*総張:布や皮などで家具全体を包み込むように張り込む加工のこと。

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003-ABC002-ABC

001-ABC

001-ABC

001-ABC

001-ABC

001-ABC

001-ABC

移動元受入倉庫移動先パレット2

移動

001-ABC

002-ABC

003-ABC001002003

取付

U-4

サーバ

福岡造船 外注先

設 計

受 取

製 作

取 付

納 品

発 注

保 管

検 品

2018 December SMBCマネジメント+ 10SMBCマネジメント+ 2018 December11 取材・文/菅野 武 写真/菅 敏一

 

福岡市の中心部に近い港湾部に造船所を

持つ福岡造船株式会社は、複数の化学薬品

を搭載して運ぶ、ケミカルタンカーの建造

を得意としている。多数のタンクと配管を

備えるケミカルタンカーは、数十㎝から数

メートルほどの配管部品を、1隻当たり約

1万点使う。

 

配管部品は取引先の工場からパレットに

乗せて造船所に運ばれてくるが、パレット

ごとに管理していても「どの配管がどこに

あるか、探すだけでひと手間かかっていた」

と、取締役設計部長の次山篤氏は言う。紙

の設計図と突き合わせながら確認し、広大

な造船所で配管の山をひっくり返しながら、

その日の組み立てに必要な配管を集めると

いう作業の繰り返し。これを効率化するた

めに導入したのが、ARによる船舶部品の

管理システムだ。国土交通省が推進する海

事生産性革命(i-Shipping

)プロジェクト

の一つとして、、富士通株式会社と共同開

発した「ARマーカーを用いた船舶部品情

報の活用技術の開発」が採択された。

 

同システムは、配管部品を製造する、愛

媛県の株式会社小川工業所と協力して構築

している。上の図のように、福岡造船が配

管部品の設計情報を、ARマーカーととも

にサーバーに登録し、小川工業所に発注す

る。同社は設計図上のARマーカーを読

み取って工程を管理しながら配管部品を製

造し、ARマーカーのシールを貼り付けて

出荷する。

 

配管部品を受けとった福岡造船は、造船

所内を細かなゾーンに分けて置き場所を登

録し、探し出しやすいようにして保管する。

作業員は専用のタブレット端末で置き場所

を検索して、目的の配管部品を探す。取り

付け作業を終えたら配管部品からARマー

カーをはがして、作業終了の情報をタブ

レット端末で登録する。

ペーパーレスで取り違えを防止

半年間、作業工数の削減を検証

 

従来は紙の設計図をもとに部品を探し、

取り付けていたため、取り違えや取り付け

場所の間違いなどが発生していた。今回の

部品管理システムの導入でこうしたミスを

減らすことができたほか、製造中、保管中、

取り付け済など、どの部品がどの工程にあ

るかが一括して管理できるので、次の部品

を発注するタイミングも適切に計ることが

できるようになった。

 

また、船舶部品は建造中の設計変更も少

なくない。変更があった場合、変更後の部

品発注と共に、変更前の部品を使用しない

という指示もサーバー上に書き込むので、

作業員がARマーカーを読み込めば、そ

の配管部品が使用しないようになったこと

が分かる。タブレット端末上では変更前・

後の設計図を同時に見ることができるので、

変更点の把握も容易だ。

 「取り付けてしまった後で設計変更が分か

り、取り外して新しいものを付ける〝工程

の後戻り〟が、造船所としては一番困る。

これをなくすことができるのが大きい」と

次山取締役は言う。

 

これまでは、配管部品の一部にARマー

カーを導入して有効性を検証してきた。め

どがついたことから、今秋から配管部品の

納入が始まったケミカルタンカーの建造で、

すべての部品にAR管理を導入し、今後

約半年をかけて、1隻当たりの作業工数の

削減について検証する。

 

課題は「メッキをしたり、酸洗いをした

りという、後加工が必要な配管部品の管理」

と次山取締役は言う。例えば、メッキは小

川工業所から、酸洗いは福岡造船からそれ

ぞれ外注先に委託するという違いがあり、

どこでARマーカーを貼るのかが問題に

なる。後加工は小川工業所が一括して外注

するなど、配管部品製造のフローを見直す

必要がありそうだ。

 「設計図データの入力や、ARマーカーの

発行など設計部門の負担は増えるが、現場

でものを探したり、後戻りをしたりといっ

た無駄を省けるのは大きなメリット」と次

山取締役。検証結果が良ければ、バルブ部

品など、ほかの部品にもAR管理の適用

を考えていくつもりだ。

特 集 AR技術で生産性向上Case2

福岡造船株式会社

約1万点もある船の配管部品の生産・在庫管理にARを導入。

配管部品を製造する取引先と連携し、設計変更なども反映する。

現場での取り違えをなくし、工事期間の短縮を目指す。

配管部品の管理にARを活用

工事期間の短縮を目指す

代表取締役社長 田中敬二本社 福岡県福岡市中央区港3-3-14設立 1947年11月売上高 351億円(2018年3月期)従業員数 150人(2018年3月現在)事業内容 船舶製造・修理業http://www.fukuzo.co.jp/

Corporate Profi le

「作業員が取り付けに集中できるように、配管を探したり、確認したりといった手間を極力省きたい」と語る次山篤取締役設計部長

ARマーカーを用いた船舶部品管理

設計時に部品情報を登録する

タブレットのカメラ機能でARマーカーを読取

該当する部品設計図を表示

移動先の実績を登録

ARマーカーをシール印刷して貼付

図面のARマーカーを読み取り製作実績を登録

取付済み実績を登録配管部品一つひとつに貼り付けたARマーカーを読み込むことで、設計図をはじめ、どこに取り付けるかまで各種情報が表示される

配管部品製造会社と設計データを共有し、一貫した生産・在庫管理を行っている

Page 5: AR技術で 生産性向上 - SMBCコンサルティング€¦ · 技術開発が急進展したAR 情報のデータベース構築が課題 Case1 製造設備の保守作業にARを活用

2018 December SMBCマネジメント+ 12SMBCマネジメント+ 2018 December13 取材・文/原 武雄左上の写真/柚木裕司

 東京の都心を中心に9路線、総営業キロ

数195キロメートルの地下鉄網を運営す

る東京地下鉄株式会社(東京メトロ)は、

トンネルや橋梁・高架橋などの土木構造物

の保守業務を行う技術者の教育用に、AR

技術を活用したiPad専用アプリを開発。

2017年5月から使用を開始した。

 ARアプリは、15年4月から運用してい

る土木構造物の検査業務用iPad専用ア

プリを拡張して開発したもの。検査業務用

アプリはトンネル内のひび割れや漏水、橋

梁・高架橋のサビなど、過去に撮りためた

膨大な写真やデータをインプットし、さら

に現在の写真、データを加え、それらの発

生位置などの確認、記録などの業務を高精

度で、効率的に行っている。

 研修用のARアプリは、同社総合研修

訓練センター(江東区新木場)内の模擬ト

ンネル、模擬橋梁・高架橋で使う。研修を

受けるのは、土木構造物の保守管理を行う

鉄道本部工務部及びグループ会社の新入社

員と2、3年目の若手社員。iPadを特

定の場所にかざすと、健全な状態から変化

した、修繕が必要な可能性のある「変状」

を再現して画面に映し出す。さらに変状が

数年後、数十年後にどう変化していくかを

iPad上に仮想現実として映し出すこと

もできる。それを見て、修繕が必要かどう

かの判断や、どう修繕するかを学ぶ。

変状の可能性を話し合うことで

研修が深い学びにつながる

 変状として現れるひび割れや漏水、サビ

などは、見た目が同程度だとしても、日々

悪化するものもあれば、何十年たっても変

わらないところもあり、補修方法もそれぞ

れ異なる。写真やテキストなどを見て勉強

する座学では、それをなかなか理解しにく

い。以前、新入社員に研修についてアンケー

トをとったところ、「なかなかイメージが

つかめない」「実感が湧かない」という意見

もあった。

 現場に連れて行って実際の変状を見せて

研修をすればいいとも思えるが、それは簡

 研修では、ARによる変状を見て、原因

や対策を話し合うことを大切にしている。

「正解、不正解を競うことが目的ではない」

と今泉課長補佐は言う。研修生全員で、自

分の判断に対する評価や、他の人の判断を

聞き、変状の奥に何があるかという可能性

について議論することが、変状について広

く、深く学ぶことにつながる。

 橋梁・高架橋では変状ポイント数カ所に

一般的なARマーカーを貼り付けたが、ト

ンネルでは壁面全体の構造そのものをマー

カーとして認識する画像解析技術を開発し

た。土木課の榎谷祐輝氏は、「トンネルの

単ではない。研修対象は毎年30人ほどで、

地下鉄の運行が終わった夜間のトンネルや

橋梁・高架橋に全員を連れて行くのは安全

上問題がある。また、程度が悪い変状であ

れば、すぐに補修が必要で、研修に適した

変状が生で見られることはほとんどない。

 鉄道本部工務部土木課課長補佐の今泉直

也氏は、「実在するトンネルにバーチャル

の視覚情報を重ね、実際には何十年も掛か

る変化の様子を短期間で再現すれば、実体

験に近い理解が得られる。変状に対してど

ういう原因が考えられ、対策をどうするべ

きかなどを類推する目を養うことができ

る」と、ARアプリの効能を語る。

壁面は映し出す対象が広範囲であるため、

対象から離れる必要がある。一方で、対象

から離れるほどARマーカーを大きくす

る必要がある。しかし、この技術を活用し

たことで、設備の制約等によりARマー

カーの貼り付けが困難であり、かつ映し出

す対象が広範囲な環境でもARの利用を

広げることができるようになった」と話す。

 導入して1年。今泉課長補佐は、「第1

に安全性を保ったまま現場を疑似体験でき

ること。第2は同じ変状を研修生全員が見

ることで、議論が深まり理解度が高まった

こと」とそのメリットを語る。

特 集 AR技術で生産性向上Case3

東京地下鉄株式会社

橋梁やトンネルに現れる〝変状〞をARで研修施設に再現。

経年変化を疑似体験して、その原因や修繕の必要性を話し合う。

座学では難しかった、研修生の理解度の向上につながった。

保守技術者の研修にARを導入

疑似体験で理解度がアップ

代表取締役社長 山村明義本社 東京都台東区東上野3-19-6設立 2004年4月売上高 3,916億円(2018年3月期)従業員数 9,574人(2018年3月現在)事業内容 旅客鉄道事業の運営、関連事業の運営(流通事業、

不動産事業、情報通信事業など)https://www.tokyometro.jp/

Corporate Profi le

「安全を保ったまま、深い研修ができるのがARアプリの利点」と話す鉄道本部工務部土木課の今泉直也課長補佐

「壁面の構造をマーカーとして認識する技術を開発したことで、応用範囲が広がった」と話す鉄道本部工務部土木課の榎谷祐輝氏

トンネル内の構造をARマーカーとして認識して、漏水などの変状を再現する

橋梁の例。すぐに修繕が必要で、現場で見るのが難しい変状も、ARアプリで再現させることで疑似体験できる

タブレットをかざすと

タブレットをかざすと

修繕が必要な箇所の様子をビジュアルで再現

修繕が必要な箇所の様子をビジュアルで再現