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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

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地の境界決定に関して UNAIDS の意見を述べるものではありません。

特定の会社名や製造業者の製品に関する記述は、UNAIDS が他の記述されていない同様な製品に比べて、それらを推奨するものではありません。誤りや脱落しているものを除いて、特許薬品の名前はイニシャルで区別してあります。

UNAIDS はこの出版物のなかに含まれている情報が完全であり、正しいということを保証してはいませんので、この利用の結果として発生した損害に対しては責任を問われません。この翻訳は仮のものです。原文は英語で書かれています。

英語原本出版番号 : UNAIDS/05.12 J (2005年6月発行)

著作権:国連合同エイズ計画 (UNAIDS) 2005

無断複写・複製・転載を禁じます。国連合同エイズ計画 (UNAIDS) による出版物はUNAIDS広報センターから入手することができます。営利であれ、非営利目的であれ、UNAIDS の出版物を複製または翻訳する際には、下記の UNAIDS 広報センターにファックスかメールで許可を申請してください。Fax(+41 22 791 4187) または電子メール ([email protected]) でも申請可能です。

この出版物中に表記された地名や情報はいかなる国、領土、市、地域、政府機関の法的地位、または境界線や辺

UNAIDS Regional Support Team for Asia and the Pacific Ninth Floor, A Block, United Nations Building,

Rajadamnern Nok Avenue, Bangkok, Thailand 10200 Telephone: (+66 2) 288-2497/8 – Fax: (+66 2) 288-1092 – E-mail: [email protected]

UNAIDS – 20 avenue Appia – 1211 Geneva 27 – Switzerland Telephone: (+41) 22 791 36 66 – Fax: (+41) 22 791 41 87

E-mail: [email protected] – Internet: http://www.unaids.org

表紙の写真Palani Chandramohan

UNAIDS/Shehzad Noorani UNAIDS/WHO/G.Diez

WHO Library Cataloguing-in-Publication Data

UNAIDS.A scaled-up response to AIDS in Asia and the Pacific

1.Acquired immunodeficiency syndrome - prevention and control 2.HIV infections - prevention and control 3.Delivery of health care 4.Interinstitutional relations 5.Strategic planning 6.Asia 7.Pacific area I.Title.

ISBN 92 9173 428 4 (NLM classification: WC 503.6 )

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アジア太平洋地域における

エイズ対策の拡大に向けて

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はじめに 5

多様かつ拡大する流行 7

HIV陽性率の上昇 8

エイズと貧困 10

ヴァルネラブルな人口集団 10

重大な局面 15

予防と治療:包括的な対応の重要性 15

経済的な利益 16

予防の効果を最大限に 17

包括的な対応を阻むもの 19

プログラムの届く範囲が小さい  19

制度的な障害 22

予防プログラムの必要性への無頓着? 26

スティグマと差別 27

機会をとらえる 29

政治的コミットメント 29

財源 31

提言 33

引用文献 35

目次

UNAIDS

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図表のリスト

図表 1. アジア太平洋地域におけるHIV流行の継続的進行(1988-2003) 7

図表 2. アジア地域は陽性率が低くても感染者数は多い 9

図表 3. 国のHIV陽性率と州または県のHIV陽性率との比較 10

図表 4. エイズが貧困に与える影響:ミレニアム開発目標の遅れ 11

図表 5. リスク行動はどんな国にも存在する:過去1年間でセックスワーカーとの 接触があった者の割合 13

図表 6. 現在のHIV予防対策を実施した場合と、その規模を拡大して実施した場合の、 年間の新規HIV感染者推計値の比較(2005-2010) 15

図表 7. 現在の対策と包括的な対策を行った場合の、2010年における新たなHIV感染者、 累積のHIV感染者、エイズによる死亡者の推計値の比較 16

図表 8. 経済的負担の比較(2010-2015):アジア太平洋地域におけるエイズ対策の3つの選択肢 17

図表 9. 現在のプログラムが行われた場合と行われなかった場合の、 セックスワーカーとその客のHIV陽性率の比較(バングラデシュ) 18

図表 10. 最もリスクの高い人口集団に予防プログラムがどれくらい届いているか: アジア太平洋地域16ヶ国における2004年の調査 20

図表 11. アジア太平洋諸国で抗レトロウイルス療法を受けることのできる 進行HIV感染者の割合(2004年) 22

図表 12. 包括的なエイズ対策のために必要なリソースと確保できる資金の予測(2005-2007) 24

図表 13. 政策とアクションプラン:アジア太平洋地域15ヶ国における最もリ スクの高い人口集団への予防介入(2004年) 25

図表 14. フィリピンにおけるエイズ関連予算の減少 26

図表 15. アジア太平洋地域におけるリソースの入手可能性(2003-2007) 31

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5

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

はじめに

アジア太平洋諸国は今、岐路に立っている。未来に続く道は2つある。ひとつは『これまでどおり』の道。始めは楽で安上がりだが、その先にはHIV感染レベルの上昇という結果が待っている。それはこの地域の2004年のエイズによる死亡者50万人という数字をはるかに超えるものである。もうひとつの道は断固として予防とケアを推進することである。始めは厳しく費用もかかるが、結果的にはHIVの流行拡大を食い止め、人的・経済的コストを最小限にする道である。

すでにとるべき道を決めて有効なエイズプログラムの規模を拡大し始めている国もある。しかし、まだためらっている国もある。分かれ道で立ち尽くしていることはもうできない。どちらかの道を選ばなければならないのである。

本書ではアジア太平洋諸国がエイズに関して直面している課題をまとめている。手に入る最も確実なエビデンスを用いて、なぜ重要なサービスが一握りの人々にしか届かないのかを考察していく。また、今というチャンスを逃さないようにアジア太平洋地域がとるべきアクションの概要を示す。

そして最後に、世界、地域および国の指導者、国際的な援助機関、国連システム、市民社会、そしてアジア太平洋地域の関係者全てが、迅速にとるべき戦略を提案する。

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7

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

多様かつ拡大する流行

アジア太平洋地域では現在、急速にHIV感染が拡大している。2004年時点でHIVに感染している大人と子どもの数は820万人にのぼり、約54万人がエイズによって命を失った。

中国、インド、インドネシア、マレーシア、ネパール、パキスタン、シンガポール、ベトナムなどの多様な国々でHIV感染はセックスワーカーとその客、薬物使用者、MSM、出稼ぎ労働者、移動人口などといったヴァルネラブルな人口集団に集中している。しかし、今、断固としたアクションをとらなければHIV感染が一般人口に広がる危険は高い。

アジア太平洋地域におけるHIV流行の継続的進行(1988-2003)

図表 1:

(出典:UNAIDS, 2004. Report on the Global AIDS Epidemic 2004.)本書の中に用いた表示記号や資料の提示は、特定の国、領土、市、地域またはその所轄機関の法的地位や、協会や国境に関して、UNAIDSの見解を表明するものではない。

2003

19931988

2 – 5%1 – 2% 0.5 – 1%0.1 – 0.5%0 – 0.1%trend data unavailableoutside region

1998

図表 1

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8

UNAIDS

HIV陽性率の上昇

アジア太平洋地域における1988年以降の流行の拡大は図表1の通りである。タイで1980年代後半HIV感染が急増し、その後、カンボジアが同じような感染拡大を経験した。しかし、サハラ以南のアフリカや リブ海地域で流行が急激に広がっていた頃には、アジア太平洋地域のほとんどはエイズの流行とは無縁だった。今日、アジア太平洋地域はHIV感染者数が世界第2位であるだけでなくその数はますます増加している。2004年、アジア太平洋地域のHIV感染者は全世界の感染者の21%、新たにHIV感染した人々の数は全世界の新たな感染者の24%を占めている。東アジアはHIVの流行が世界中で最も急速に拡大している地域で、昨年1年間だけでHIV陽性率は24%も上昇した。

アジアの人口規模を考えると成人人口の0.4%と比較的HIV陽性率が低くても、実際の感染者数は何百万人という数字になる。図表2はインドの成人の陽性率は1%未満であるにもかかわらず、感染者数は陽性率が20%を超えている南アフリカと同じくらい多いことを示している。中国のHIV陽性率はブラジルの7分の1だが、感染者数はブラジルを超えている。

アジア太平洋地域28ヶ国のうち、HIV陽性率が1%を超えているのは3ヶ国である。最も高いのはカンボジアで、国立HIV/AIDS、皮膚科学、性感染症センター (National Center for HIV/AIDS, Dermatology and STD (NCHADS))による最新の推計では、2003年現在、成人人口の陽性率は1.9%である。ミャンマーもそのひとつで感染はいまだに拡大を続けている。残る1ヶ国はタイだが新たにHIVに感染する人々の数はここ10年以上減り続けている。一方で、パプア・ニューギニアでは現在、HIVの感染が拡大しており最近のナショナルレポートによると2004年の成人の陽性率は1.7%である。

現在は非常に低いHIV陽性率にとどまっている国でさえ、HIV感染が急速に広がる可能性があることはインドネシアの例を見れば明らかである。1998年の調査では、女性セックスワーカーのHIV陽性率は0.1%以下だった。しかし、1999年から陽性率は急激に上昇し、セックスワーカーの陽性率が6%というセンチネル・サイトもあった。また、IDUの陽性率も大幅に上昇し、ジャカルタでは48%になっている。セックスワーカーとIDUがそれぞれのセックスの相手を通して他の人口集団との『橋渡し役』になっているため、インドネシアは数年前にはほぼ存在しないに等しかったHIVの流行拡大の危機に直面している。

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9

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

地方レベルの流行

地域と国の陽性率だけでは現実を知ることはできないばかりか特定の州や県に広がるアジア地域の流行の深10刻さを見えにくくする可能性もある(図表3)。例えば、インドの成人の陽性率は1%に満たないがナマカッラ地区やガントゥール地区といった特定の地域では、成人の陽性率は5%以上である。カンボジア、ミャンマー、タイでも同じような現象が見られ、特定の県の感染率は国の平均よりもかなり高くなっている。

陽性率が高い州や県では、平均余命の点から見ると、既にアフリカ中央部と同じくらいの犠牲を強いられている。インド南部のアンドラ・プラデシュ州では流行がピークに達すると平均余命が3.8年縮まると予測されている。インド全体では0.2年である。カンボジアとタイでも同様に平均余命の減少が報告されており、HIVの感染拡大が深刻なチェンマイでは平均余命への影響は国全体と比べて非常に深刻である。

アジア地域は陽性率が低くても感染者数は多い

(出典:UNAIDS 2004. AIDS Epidemic Update 2004)

図表 2:

0

1

2

3

4

5

6

アジア諸国

ブラジル コートジボアール ウクライナ インド 中国 タイ ミャンマー

HIV感染者数(単位・百万人)

21.5 0.7 7 1.4 0.9 0.1 1.5 1.2HIV陽性率

アジア地域以外の国々

南アフリカ

図表 2

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10

UNAIDS

エイズと貧困

地域全体の陽性率が比較的低いにもかかわらず、HIVの流行は地域経済に大きな打撃を与えている。アジア開発銀行によれば、現在のように流行が拡大していなかった2001年、HIVはすでに73億ドルの経済的損失をもたらしていた。

エイズがもたらす負担の大半を背負うのは貧しい世帯であり、毎年、エイズによって何百万もの世帯がらに貧困に陥っている。2015年までに飢餓に苦しむ人々あるいは1日1ドル未満で生活している人々を半減させることを掲げたミレニアム開発目標(MDGs)のもとで行われている世界的な努力が、HIVの流行によって損なわれている。図表4が示すように、現在のような傾向が続き包括的な対応がとられなければ、HIVがこの目標に及ぼす影響は特定の国々でますます深刻になるだろう。

ヴァルネラブルな人口集団

HIVは誰にも平等に襲いかかるわけではない。とくに感染しやすい人口集団がある。リスク行動を行う割合が高いことや、働くあるいは生活する環境によるものである。

8

7

6

5

4

3

2

1

0

HIV陽性率 (%)

全国平均

Phan

gnga

Phay

aoR

ayon

gC

hian

g R

aiC

hai N

atKa

ncha

nabu

riPh

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abur

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全国平均

Nam

akka

lC

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Belg

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tur

Cha

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全国平均

Hpa

-an

Pyay

Pako

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Mus

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Ran

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全国平均

Pailin

Batta

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hey

Rat

tana

kiri

Siem

Rea

pSi

hano

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Pen

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h Ko

ng

タイ インド ミャンマー カンボジア

国のHIV陽性率と州または県のHIV陽性率との比較

図表 3:

(出典:National HIV sero-surveillance data for Cambosia (2002), India and Myanmar (2003), and Thailand (2004))

図表 3

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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

注射による薬物使用者

アジア太平洋地域の多くの国で薬物注射は広まっており、消毒していない針の使い回しは一般的になっている。HIVが注射による薬物使用者(IDU)のネットワークの中に入ればHIV感染は急速に広まることになる。多くのIDUがセックスワークに従事しており、またIDUはセックスワーカーの客であることが多いという事実を考えれば、このようなネットワークの外に感染が広がる危険があるのは明らかである。

セックスワーカーとその客

アジア太平洋地域では、毎年かなりの数の男性がセックスワーカーを訪れていることが調査によって明らかになっている。そして、その際のコンドームの使用率は危険なほど低いことも分かっている。図表 5が示すように、職種によっては40%以上の男性がセックスワーカーと接触を持っていた。また、アジア5ヶ国で最近行われた調査によれば、初めてのセックスの相手がセックスワーカーであったと答えた若い男性は17%から50%だった。。

セックスワーカーのなかで、最もHIV感染しやすいのは違法に人身売買で国境を越えて取引された女性や少女である。南アジアでは、16歳未満の少女たちがバングラデシュとネパールから、インドやパキスタンに売られることが多い。人身売買によって売春を強要されるセックスワーカーは初めの6ヶ月間でHIVに感染する可能性が非常に高いことが、調査によって明らかになっている。

35.0%

30.0%

25.0%

20.0%

インドにおける貧困の削減(2003-2005)

(出典:UNAIDS & ADB (2004). Asia Pacific's Opportunity: Investing to Avert and HIV/AIDS Crisis. Bangkok and Manila.)

エイズが貧困に与える影響:ミレニアム開発目標の遅れ

カンボジアにおける貧困の削減(2003-2005)

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

30.0%

25.0%

20.0%

15.0%

2003

2004

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012

2013

2014

2015

*ミレニアム開発(MDG)目標:2015年までに貧困を半減する

図表 4:

10.0%

エイズの影響がない場合の削減率

エイズの影響がある場合の削減率

エイズの影響がない場合の削減率

エイズの影響がある場合の削減率

貧困に暮らす人々の割合

貧困に暮らす人々の割合

図表 4

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12

UNAIDS

若者

世界の他の地域と同じように、若者の感染のリスクは高い。若者のなかには性の取引や薬物注射に関わる者もいる。ミャンマーは、ハイリスク・グループを年代別に分けてHIV陽性率を報告している数少ない国の一つだが、2003年、最も陽性率が高かったグループは25歳以下のセックスワーカーとIDUだった。売春宿などのハイリスクな環境で働く25歳以下の女性のHIV陽性率は、インドネシアで最も低く41%、ラオスが最も高く76%だった。

多くの国で、急速な社会変化は性感染症の増加を伴っている。そして、これはセックスによるHIV感染の可能性を大幅に高める。最近の調査は、若者、大人ともに複数の相手とその場限りのセックスをする割合が高くなってきていることを示唆している。

アジアの女性の二重苦

アジア諸国のHIV感染者の大部分は今のところ男性だが、女性が占める割合も着実に大きくなっている。女性差別が国の政策で制度化されていることも多く、これが女性や少女のヴァルネラビリティを高め、HIV感染の拡大に寄与している。社会経済的な地位が低く、教育を受ける機会が限られているため、女性や少女はHIVに関する基本的な情報を十分に持たない。セックスについて話すことや、知識を示すことがタブーになっているため、年長者や仲間からの情報が得にくくなっている。

結婚したからといって、HIVに感染しないと保証されるわけではない。カンボジア、インド、タイでは、女性のHIV感染経路で最も多いのは、夫だという調査結果が出ている。さらに、女性差別が広く根付いているため、女性はHIVに感染すると家族から見放され、拒否される可能性が非常に高い。

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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

人口移動

人口の移動は、HIV感染へのヴァルネラビリティが高まることと複雑に関連していることが証明されている。これは、5年間でおよそ5%から10%の人々がおもに国内を移動しているアジア地域には特にあてはまることである。地域の経済発展が急激に進むと、貧富の差が拡大し、多くの国々で地方から都市への大規模な人口移動が起こる。近年、中国では1億2000万人以上の人々が仕事を求めて、地方から都市部へと移住している。インド、ネパール、カンボジアでも、国内で頻繁に移動している人口集団があり、州から州へと移動を続けている。家族、コミュニティ、そしてそれらに伴う社会的制約から離れた多くの出稼ぎ労働者は、危険な行為を行う機会が増えることになる。

行き先や労働条件などによって、とくにヴァルネラネラブルなHIVに感染しやすい状況におかれる移動労働者もいる。例えば、国外で働く家政婦は雇い主に性行為を強要されるリスクがより高い。頻繁に移動を繰り返す職業の人々(商人、船員、契約労働者、トラック運転手など)も、危険な行為が増えることによって、ヴァルネラビリティが高まる。例えば、インド南部で2002年に行われたある調査では、特定ルートのトラック運転手のHIV陽性率は16%だった。最大の原因は、トラック運転手がセックスワーカーと接触する割合が高いことにある。調査データによれば、セックスワーカーとの接触を持った運転手の割合は、バングラデシュで54%、ラオスでは31%だった。

リスク行動はどんな国にも存在する:過去1年間でセックスワーカーとの接触があった者の割合

図表 5:

05101520253035404550

インドネシア(船員および漁師)2000-03

ネパール(運輸労働者)2000

ラオス(トラック運転手)2000-01

カンボジア(警察官) 2001

インド・タミール・ナドゥ州(トラック運転手)

2000

カンボジア (バイクタクシー運転手) 2001

(%)

(出典:UNAIDS (2004) Act Now.)

図表 5

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14

UNAIDS

緊急事態

アジア太平洋地域は定期的に洪水や地震など自然災害にさらされている。ネパールやスリランカのように武力紛争が発生している国もある。このような状況によって、大量の難民が発生することになる。従来の情報やサービスの経路が分断されるだけでなく、このような混乱によって生き残るためにセックスをせざるを得なくなり、性的暴力のリスクが増大し、HIV感染のリスクが大幅に増える。

パプア・ニューギニアは一般人口にHIV感染が広がっているのか?

アジア太平洋地域のほとんどの国々で、HIVが特定のハイリスク・グループに集中しているのに対し、パプア・ニューギニアだけは例外である。ここでは、HIV感染は一般人口への広がりを見せている。最近のナショナルレポートによると、2004年に成人のHIV感染率は1.7%であり、女性と男性の割合はほぼ同じである。成人男性の50%以上がセックスの相手を複数持っている。また、HIV感染は農村部でとくに急増している。

パプア・ニューギニアで有効なエイズ対策を実施するのは容易なことではない。多くの異なった民族が暮らしており、言語も多様で、通信インフラも整備されていない。しかし、問題の複雑さに阻まれてはならない。国や地域の指導者は、新規HIV感染率を下げると証明されている予防アプローチを実施していかなければならないのである。

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15

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

重大な局面

HIVの流行が急激に拡大する可能性はあるものの、現在、地域全体のHIV陽性率が低いことは、各国が比較的低いコストで有効な対応を実施する機会があることを意味している。しかし、これは今すぐに行動すれば、という条件つきである。エビデンスに基づいた持続的な予防をケアと治療の推進と並行して行えば、エイズに影響を受けた世帯やコミュニティの影響を緩和するとともに、HIVのさらなる流行の拡大を食い止めることができる。

予防と治療:包括的な対応の重要性

アジア太平洋地域では、各国の対策が現在のままならば、2005年から2010年のあいだに少なくとも1200万人が新たにHIVに感染すると予測されている。これに対して、予防が最適水準の人々に届けば予測される新たな感染者の半数、つまり600万人の感染を防ぐことができる。図表6が示すように、予防プログラムの規模を拡大することによって、アジア太平洋地域の新たな感染者数を2010年には4分の3ほどにまで下げることが可能になる。

現状の介入を続けた場合

規模を拡大した包括的な介入を行った場合

(出典 : Adapted from Stover J. et al. (2002). Can We Reverse the HIV Pandemic? Updated through 2005)

2005-

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

2006 2007 2008 2009 2010

Figure 6:

新たな感染者数 ( 単位・百万人)

現在のHIV予防対策を実施した場合と、その規模を拡大して実施した場合の、年間の新規HIV感染者推計値の比較(2005-2010)

図表 6

HIV感染者の抗レトロウイルス療法(ART)やその他の治療へのアクセスを推進するのと並行して予防対策を行えば、規模を拡大した予防対策の効果はさらに高まるだろう。図表7は、予防と治療の規模を同時に拡大することにより、現在の各国の対応を実施し続けた場合と比べると、2010年までにエイズによる年間死亡率を40%近く、陽性率を40%以上下げられることを示している。

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16

UNAIDS

経済的な利益

包括的な対応をとれば、多くの命が救えるだけではなく、何十億ドルもの支出を抑えることが可能である。莫大な医療支出を回避・先送りし、生産性を維持し、各世帯の経済社会的な負担を減らすことができるからだ。過去に有効な予防対策をとり、陽性率の低下に成功したタイでさえ、5年間は最小限の処方でのARTに年間1億ドル以上が必要だとされる。

図表8は、UNAIDSとアジア開発銀行の予測したHIVによる経済的な損失の予測である。現在のような感傾向が続けば(『ベースライン』予測)、経済的損失は2010年には187億ドル、2015年には269億ドルになるとされる。しかし、予防と治療の規模を同時に拡大した対策を実施すれば(『包括的な対応』)、経済的損失を2010年には年間40億ドル以上、2015年には100億ドル以上、それぞれ抑えることができる。(中央のグラフは、『ベースライン』とARTを行ったと仮定したもので、予防対策が強化・拡大されなければARTのコストが拡大するため、2015年には経済的損失額は292億ドルになると予測されている。)

現在の対策と包括的な対策を行った場合の、2010年における新たなHIV感染者、累積のHIV感染者、エイズによる死亡者の推計値の比較

単位・百万人

2.2

17.8

1.00.6

10.2

0.6

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

ベースライン

包括的な対策がとられた場合

図表 7:

ベースライン:現在(2004年)のレベルの予防とケアを続ける。法核的な対応:抗レトロウイルス療法を拡大し、予防の規模も拡大する。

(出典:Adopted from Stover J. et al. (2004). Updated through 2005)

エイズによる死亡者 HIV/AIDS感染者新たな感染者

図表 7

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17

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

予防の効果を最大限に

HIVが流行し始めてから20年以上が過ぎた今、有効な予防戦略がHIV感染のリスク低下に非常に効果的であるということは明確になっている1。実際、アジアには、世界的に高い評価を得ている、国レベルの効果的な予防対策がいくつかある。タイは1980年代にHIV感染の急増に直面し、売春宿での100%コンドーム使用プログラム、広範囲の普及啓発活動、国の指導者の圧倒的な支持など、多面的な予防活動を精力的に行い、国全体の流行を食い止めた。さらに最近では、カンボジアでも、売春宿を対象としたプログラムやマスメディアを使ったHIV予防プログラムなどを通して、HIV陽性率および感染率を大幅に下げることに成功した。

経済的負担の比較(2010‑2015):

アジア太平洋地域におけるエイズ対策の3つの選択肢

(出典 : UNAIDS and ADB 2004. Updated through 2005.)

18.717.4

29.2

14.6

16.9

26.9

0

5

10

15

20

25

30

35

2010 2015

ベースライン:現在(2004年)レベルの予防とケアを続けた場合

ベースライン(2004年レベル)の予防でARTを拡大した場合

包括的な対策:ARTを拡大し、予防の規模も拡大した場合

Figure 8:

単位・10億US㌦

図表 8

1有効な予防対策とは、母子感染予防サービス、行動変容プログラム(禁欲、性的パートナー数の減少、コンドームの促進)、薬物注射によるHIV感染予防(ハームリダクションを含む)、安全な血液の供給、医療機関における感染防止対策、HIVテストとカウンセリングへのアクセスの向上、若年者への重点的なHIV感染予防、HIV感染に関する知識の提供と教育を推進し、感染防止を可能とすること、HIV感染に伴う差別や偏見をなくすことを推進することなどである。

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18

UNAIDS

有効な予防ツールの効果を最大限にするために、各国は自国の状況にあわせ、根拠のある介入の優先順位をつけるべきである。ほとんどの国々は、セックスワーカーとその客、IDU、MSM、若者、そして国ごとに特有の行動リスクのレベルが高い集団といった鍵となるヴァルネラブルな集団に注意深く焦点を絞ったプログラムの推進に、予防資源の大半を投入すべきである。

バングラデシュでは、HIV感染のリスクが高いヴァルネラブルな集団に対するNGO主導の介入を、政府が政治的に支援している。その結果、局所的ではあるが低いHIV陽性率を維持することに成功しており、これらの集団の感染を減らし、一般人口へのHIV感染の拡大を防ぐことができている。バングラデシュでは、このような介入が行われなかったら、2005年のセックスワーカーとその客のHIV陽性率はそれぞれ10%と2%弱になっていたと推定され、1%以下という実際の数字よりもかなり高くなっていた可能性があったことがわかる。(図表 9)

現在のプログラムが行われた場合と行われなかった場合の、セックスワーカーとその客のHIV陽性率の比較(バングラデシュ)

2000

HIV 陽性率

0

2

4

6

8

10

12

14

16

現在のプログラムを行わなかった場合のセックスワーカーの陽性率

現在のプログラムを行った場合のセックスワーカーの陽性率

現在のプログラムを行わなかった場合の客の陽性率

現在のプログラムを行った場合の客の陽性率

2001 2002 2003 2004 2005 2006

図表 9:

(出典:Guinness L et al. (2002))

図表 9

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19

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

包括的な対応を阻むもの

個別の国でみるといくつかの進歩があるものの(次の章を参照)、アジア太平洋地域全体ではまだ、またHIV流行の流れを変えるような対応ができていない。予防対策が全人口をカバーするのは現実的でもなければ、必要でもない。有効な介入が重要な人口集団をカバーし、公衆衛生戦略が流行の経路に影響を与えられることが最低限、必要なのである。。

プログラムの届く範囲が小さい

プログラムの届く範囲(カバレージ)が予防対策には重要な問題となる。モデリングによれば、セックスワーカーとその客、IDU、MSMといった鍵となる集団の60%が安全な行動をとることができれば、これらの集団内のHIV感染は抑えられる。

残念なことに、アジア太平洋地地域では、HIV対策が届いている範囲は、最低限必要な範囲には到底及んでいない。現在の能力で最低限必要な範囲がカバーできるはずなのに、できていないのである。

ヴァルネラブルな集団にサービスは十分に届いていない

アジア太平洋地域では、最もヴァルネラブルな集団のために作られた大規模な予防プログラムがない国が多い。このような人口集団にどのくらい予防プログラムが届いているかを図表10に示す。例えば、2003年に予防プログラムがカバーできたのは、南アジアと東南アジアのセックスワーカーの19%、西太平洋地域ではその11%に過ぎなかった。予防プログラムにアクセスできるMSMはせいぜい2%である。注射による薬物使用がアジア太平洋地域におけるHIV感染拡大の重要な原動力であるにもかかわらず、有効だとされる予防対策は南アジアと東南アジアの5.4%、西太平洋地域の2.9%にしか届いていない。

コンドーム使用の促進とアクセスが不適切である

多くの国では、ソーシャル・マーケティング・キャンペーンによって、コンドームがかなり手に入りやすくなったにもかかわらず、南アジアと東南アジアで、危険な性行為におけるコンドーム使用率は2003年、わずか8%だった。タイで始まった100%コンドーム使用のような戦略を採用していない国々では、セックスワークの場でのコンドーム使用は恐ろしく低いままである。アジア太平洋地域のコンドームの生産は増えており、ネパールとベトナムでは国全体で必要とされるコンドームの半分以上が国内で生産されている。しかし、品質管理が国際的な基準に合っているかは不明であり、これはコンドーム推進活動に対する人々の信用を獲得するためには重要な問題である。

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20

UNAIDS

リスクにさらされている人々のほとんどが自分のHIV感染の有無を知らない

アジア太平洋地域では、自分のHIV感染の有無を知っている人々は非常に少なく、検査率も世界的な平均と比べるとかなり低い。UNAIDSと共同研究者たちによる2003年の利用率調査によれば、アジア太平洋地域でHIV検査を受ける人はほとんどなく、統計的に利用率を測定することはできなかった。インドネシアでは、これまでにHIV検査を受けたことがある女性はわずか1%であり、カンボジアでは3%である。

カンボジア、タイ、フィリピンの都市部では、検査率が地域全体よりも高く、成人の5%がHIV検査を受けている。中国、インド、タイなどでは、国がカウンセリングと検査を政策として強く奨励しており ARVの拡大を図っている。しかし、最もヴァルネラブルなリスクの高い人口集団のHIV検査率は一般人口と同じく、最低レベルである。特に、差別に対する恐怖があり、また文化的に適切なサービスがないことが、多くのヴァルネラブルな集団の無料の検査とカウンセリングサービスへのアクセスを阻んでいる。

最もリスクの高い人口集団に予防プログラムがどれくらい届いているか:アジア太平洋地域16ヶ国における2004年の調査

(出典:WHO (2004). Coverage of Selected Services for HIV/AIDS Prevention, Care and Support in Low and Middle Income Countries in 2003.)

リスク・リダクション、IE&C、NEP、

薬物代替治療などのサービスを受けているIDU

5.4%

公的に配布されたコンドームによっ

て守られた危険な性行為

8%

アウトリーチ予防プログラムが届いているセックスワーカー

19%

予防プログラムが届いているストリート・チルドレン

22%

図表 10

予防プログラムが届いているMSM

1%

図表 10

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21

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

HIV感染予防のスキルを持たない若者たち

アジア太平洋地域では、エイズに関する基礎的な教育を中等教育に組み込んでおり、南アジアと東南アジアの64%、西太平洋地域の33%の中学校がこれを実践しているが、行動変容につながっているかどうかはわからない。ほとんどの国に若者が利用しやすいサービスや、リプロダクティブ・ヘルスあるいはセクシャル・ヘルスのプログラムがないからである。とくにヴァルネラブルな子どもたちに関して、これは重大な問題である。図表 10でわかるように、HIV予防プログラムが届いているのは、地域全体のストリート・チルドレンの5人に1人であり、南アジアと東南アジアではその22%、西太平洋地域では20%に過ぎない。

母子感染の予防もまだ進んでいない

2003年、HIV検査や新生児へのHIV感染のリスクを低減するサービスを受けた妊婦は、南アジアと東南アジアで8%、西太平洋地域でわずか3%だった。これはUNAIDSとその他の専門家たちが推奨するレベルをかなり下回っている。

薬価は低下してもアクセスはまだわずか

過過去5年間で低・中所得国におけるARVの薬価は劇的に下がり、予防と治療を関連づける包括的なエイズ対策を創り出すことがどんな国にも可能となった。インドネシア、ネパール、スリランカなどはエイズ治療プログラムの規模を拡大する取り組みに着手した。2003年半ばから2005年にかけて、カンボジアでのARTの使用は10倍になり、現在は治療を必要としている人のおよそ32%のカバレージである。タイでは、国が治療へのアクセスを全ての保健地区に拡大したことを受けて、新たにARTを始める患者が毎月3000人ずつ増えている。政府と世界エイズ・結核・マラリア対策基金の支援を受け、中国は2005年半ばまでに1万5千人の患者にARTを提供しようとしている。

しかし、東南アジア全体では、ARVを必要としているHIV感染者のうち、5‐6%しか投薬治療を受けられておらず、西太平洋地域でもその割合は12%と少し高いだけである。インドには大規模な製薬産業があり、HIV感染者の数は世界第2位だが、現在ARTを受けられているのは必要としている人々のせいぜい5%である。2004年末現在、アジア太平洋諸国のARTへのアクセスは、タイを除き、2005年末の世界的な目標となっている50%には程遠いものであることが図表 11から分かる。

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22

UNAIDS

ケアと治療

ART以外のケアと治療もまた不十分である。2003年には、一般的な日和見感染症の予防薬は、南アジアと東南アジアではほとんどなく、西太平洋地域ではまれにしか利用できなかった。同年、南アジアと東南アジアで、カウンセリング、診療、食糧や衣服の支援、家事の援助、学費援助、その他の財政的・法的サービスなど、在宅サービスを受けることができた世帯は4%に過ぎなかった。

制度的な障害

地域全体にわたって、各国の対策は規模の小さいプロジェクトにとどまり、HIVの流行に効果を及ぼすことができるような大規模なプログラムはほとんどない。これは、以下で述べるような要因によるものだと思われる。

アジア太平洋諸国で抗レトロウイルス療法を受けることのできる進行HIV感染者の割合(2004年)

図表 11

(出典:WHO (2004))

フィリピン

(%

)

バングラデシュ

ネパール

ベトナム

ミャンマー

インド

中国

スリランカ

カンボジア

インドネシア

タイ

0

10

20

30

40

50

60

0.1 1 1 13

4

7 7

23 24

44

2005年までにアジア太平洋地域で抗レトロウイルス療法を受けられる感染者を50%にするというWHOの目標

図表 11

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23

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

指導力を生かす仕組み

国のエイズ対策を指揮・統合する制度的な仕組みが確立されていても、政治的な影響力や行政のリソースが十分でないことが多い。国家元首あるいは首相が議長を務める、エイズ委員会または協議会があるのは、アジア太平洋地域ではインドとタイだけである。国のプログラムの成功には国家元首や首相が指導力を発揮することが不可欠な要素であるのは、これまでの世界的な流れから明らかであり、それが欠落していることは致命的な欠点である。

保健セクター以外のセクターの参画が限られている

マルチセクターの対応を成功させるためには、保健セクターだけがエイズに対応する責任があるのではないことを明確にすべきである。アジア太平洋諸国の対策には、教育制度、企業、輸送機関などさまざまなセクターの参画と指導力を必要とする。しかし、まだ各国の対応は保健省中心で行われている。9ヶ国がさまざまな省庁にわたるエイズ対策を作っているが、保健省以外で独自にエイズに関する予算やプログラムを持っている省庁がある国は4ヶ国だけである。

国軍からのアクション

国のエイズ対策をすべてのセクターで実施しようという動きは、対策を強化するうえで非保健セクターが重要であることを示す一例である。フィリピン、ラオス、カンボジア、そしてタイは、エイズを国の軍事教育のなかに取り入れた先駆者であり、バングラデシュの軍隊は2004年にHIV/AIDSに関する作業委員会を作り、ベトナム人民軍はUNAIDSと協同で新兵のためのHIVピア教育を行っている。今年の初めには、UNAIDSとインドの国防相が、250万人の軍関係者にHIV教育と予防サービスを提供するという覚書を交わした。サービスを受けた軍関係者は、さらにそれぞれの家庭や地域の何百万人もの人々に変化を促す役割を果たすことができる。パプア・ニューギニアでも同じような取り決めがなされようとしている。

市民社会への支援の欠如

国のHIV対策の成功には、予防とケアの分野で国の対策を支援する市民社会の存在が欠かせない。NGOは、セックスワーカーやIDU、MSM、移動労働者など社会から取り残され、リスクにさらされている、ときには『見えにくい』集団や、若者と接触するために、なくてはならない存在である。しかし、アジア太平洋地域の多くの国々では、政治制度の性質や社会の伝統的な構造のため、強力なNGOセクターがない。HIV/AIDSとともに生きる人々の組織なども含めて、市民社会の持つ潜在能力を100%引き出す必要がある。

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24

UNAIDS

多くの国々で、NGO活動のインパクトは小さな規模に限られており、より規模の大きい国の対策との統一性に欠けている。ヴァルネラブルなコミュニティで活動するマレーシアのNGOは資金不足に陥っており、タイではNGOへの国の支援が過去のエイズとの闘いで大きな役割を果したにもかかわらず、その支援が継続的に行われていない。NGOに財政的支援を行っているところでも、対象が特定の活動に限定されており、基本的な組織能力の構築はその対象外である。

不十分な財源の不適切な配分

近年、政府やドナーのエイズ・プログラムへの支出は増えているが、治療とケアにかかるコストの大半はエイズに影響を受けた貧しい世帯の個人負担になっている(タイだけは例外である)。予防対策も資金が不足している。あるナショナルプログラムの調査によれば、2003年に公共セクターが予防と治療に確保したと推計される2億ドルは、必要な資金の20%にしか過ぎない。

全ての財源(個人負担分も含む)を考慮に入れたとしても、あるいは、各国の戦略的なニーズに従い、確保できるリソースを全てエビデンスに基づいたエイズ対策に投入したとしても、効果的な対策をとるのに必要な金額にはとうてい足りないことは明らかである(図表 12参照)。予防やケアと治療の遅れを考えると、包括的な対策を展開するために必要なリソースのレベルは年々高くなると予測され、地域全体で今後は2003年の10億ドルをはるかに超えるだろう。

包括的なエイズ対策のために必要なリソースと確保できる資金の予測(2005-2007)

1.3 1.41.6

3.0

3.9

5.1

0

1

2

3

4

5

6

2005 2006 2007

単位・10億US㌦

確保できるリソース 必要となるリソース

図表 12

(出典:UNAIDS and ADB (2004): Financing the Expanded Response to AIDS.)引用文献中の図表12の脚注も参照のこと。

図表 12

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25

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

リソースが確保できても、その配分が適切でなければ、国のエイズ対策の戦略的なインパクトは損なわれてしまう。多くの場合、最もヴァルネラブルな集団への集中的な予防サービスの実施が、効果的な国の対策の最優先事項であるにもかかわらず、HIVの流行が局所的な国のなかには、そのような集団へのプログラムを最優先させることなく、少ないリソースを一般人口向けの費用効率の低い対策に回してしまう国もある。カギとなる人口集団(若者、MSM、IDU、セックスワーカーなど)向けの政策枠組みを謳っている国は多いが、そのような集団向けの総合的なアウトリーチ活動などの計画を実施している国はほとんどない。(図表 13)

政策とアクションプラン:アジア太平洋地域15ヶ国における最もリスクの高い人口集団への予防介入(2004年)

11

67

10

4 43

5

1

3

5

7

9

11

13

15

MSM IDU セックスワーカー

国の数(15ヶ国中)

最もリスクの高い人口集団を扱う政策を持つ国包括的なアウトリーチ・プログラムの実行計画を持つ国

図表 13

(出典:UNAIDS 2004. Act Now.)

若者

図表 13

乏しいサーベイランス(動向調査)システム

最も高いリスクの人口集団にリソースを配分できないのは、国のサーベイランス(動向調査)および情報システムが弱いことにも原因がある。国のエイズ政策が強力であるかどうかは、その基盤となっているエビデンスがどれくらい確実であるかに比例する。ニーズは必然的に確保できるリソースを上回るので、限られたリソースをできるだけ有効に戦略的に使うには、的確でタイムリーな情報が不可欠である。

しかし、現在のところ、多くの国の情報システムは弱く、適切で有効な対策を支援する能力がない。第2世代のサーベイランス(介入の評価のみならず、カギとなる最もリスクの高い人口集団の行動、STI、HIVの動向調査も含むもの)を定期的に行っている国は多くない。例外は産科診療所の通う妊婦を対象としたサーベイランスである。セックスワーカーなど、ハイリスク行動を伴う陽性率の高い集団から、重要な情報を積極的に収集している国はほとんどない。アジア太平洋地域19ヶ国で行われた最近の調査では、セックスワーカーに第2世代のサーベイランスを行っているのは6ヶ国、IDUに対しては3ヶ国、MSMに対しては2カ国であった。

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UNAIDS

予防プログラムの必要性への無頓着?

HIV予防は、変化していくニーズとリスク行動に対応し、さらに効果的な実施を模索する必要がある。 残念なことに、HIVの拡大を防いだ国々のなかには、国としてのエイズ対策、とくに予防計画への支援を減らしている国がある。図表 14 に示されるように、フィリピンのエイズ関連予算は1998年から急激に減少している。

早期に予防へのコミットメントを実行したことにより、世界でも有数のエイズ対策の成功例を示したタイでも、予防対策が削られたためにHIVが再び猛威を振るう可能性がでてきた。たとえば、注射による薬物使用がHIVの流行の悪化につながっているにもかかわらず、IDU向けの予防プログラムへの政府の財政支援は限られている。また、MSMの感染率が上昇しているにもかかわらず、政府はMSM向けの予防プログラムにも限られた財政支援しかしていない。

フィリピンにおけるエイズ関連予算の減少

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

単位・1000ペソ

図表 14:

(出典:Ministry of Health, the Philippines (2005))

図表 14

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27

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

スティグマと差別

エイズ対策の成功の最大の障害はおそらく、アジア諸国の多くにはHIV/AIDSとともに生きる人々へのスティグマと差別がいまだに存在するということだろう。HIVに関するスティグマと差別が広くはびこっていれば、多くの人々が必要なサービスにアクセスできなくなってしまう。インド、インドネシア、フィリピン、タイでの調査によると、HIVとともに生きる人々の4人に1人以上(フィリピンではほぼ2人に1人)が、保健医療の場でHIVに関連する差別を経験している。3分の1以上の人々が自分の健康状態に関して守秘義務が守られなかったと回答しており、15%の人々がHIV陽性であるということを理由に治療を拒否されていた。

2003年に全地域で行われた国のエイズ対策へのアセスメント調査によれば、アジア諸国は人権に関する分野で最も点数が低くなっている(その他の分野には予防、ケア、影響の緩和対策などがある)。紙に書いたコミットメントだけでは、HIV感染者を守ることはできない。調査が行われたアジア太平洋地域諸国の約半数が、HIVに関連する差別を防ぐ法的枠組みを取り入れているが、差別を禁止する法的手段を持つ国はその3分の1に過ぎない。そのうえ、差別を禁止する法律を持つ国のほとんどは、違反を見つけ、国の関係機関に報告できるような、制度化された人権のモニタリング・システムを持っていないのである。

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29

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

機会をとらえる

ARTへのアクセスなどケアと治療の規模を拡大すると同時に、予防の成功を限られた国々から地域全体に広げることが、2005年のアジア太平洋地域の課題である。明るい兆候としては、政治的なコミットメントの拡大、財源の増加、市民社会の積極的な参画などが挙げられる。

政治的コミットメント

ここ数年、政治的指導者の多くがアジア太平洋地域におけるエイズの脅威について声を大にし始めている。中国政府はARVへのアクセス拡大に国を挙げて取り組みはじめており、UNAIDS事務局および共同スポンサーとともに国の対策のアセスメントを行っている。インドでは、首相を議長として国立エイズ協議会が設立されており、パプア・ニューギニアは国立エイズ協議会の所属を首相府に移し、HIV/AIDSに関する議会の特別委員会は国としての強力な対策の実施を重点的に行っている。バングラデシュとベトナムは近年、国としてのエイズ戦略を開始した。また、フィリピンは、2005‐2010年の中期開発計画にHIV/AIDSを盛り込んでいる。スピーチでHIV/AIDSの脅威を直接語る大統領も現れた。

ミャンマー:国連主導のエイズ対策の合同運用

ミャンマーは、難しい政治的環境にあっても、国としてより強力な対策を打ち出すことができるということを立証した。2003年、エイズに関する国連テーマグループは、政府、市民社会、国際的なNGO、ドナーとの話し合いのあと、ミャンマーにおけるエイズ合同計画(2003‐2005)を作成した。共同イニシアチブは、計画策定への協力、リソースの動員、“The Three Ones Principles” 2の促進のための枠組みを、共通の指標を通して提供するものである。国連は、英国国際開発省(DFID)、スウェーデン国際開発協力庁(SIDA)、その他のドナーからエイズのプログラムのために2400万ドルを確保した。また、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバル・ファンド)の助成金を展開するためのミャンマーの基本方針作りにも貢献した。過去5年間でSTI治療率が65%増え、コンドームが3倍も入手しやすくなり、注射針の交換プログラムも拡大されるなどの成功例も多い。だが、流行の規模はまだ拡大しており、国としての対策を大幅に強化する必要がある。

2 “The Three Ones Principles”とは、各国が最も有効で効率の良いリソースの利用と、迅速なアクション、成果重視の運営を達成するのを支援するために作られた。有効なエイズ対策のために、『全てのパートナーの業務を調整する基盤を提供するHIV/AIDSアクションの枠組み』『広範囲で全てのセクターに権限を持つ国のエイズ計画調整機関』『国レベルのモニタリングと評価システム』という3つの『One』(統一機関)を持つことを意味する。

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30

UNAIDS

指導力は地域レベルでも示されている。2004年、南アジア地域協力連合(SAARC)は、HIV/AIDSとその他の感染症の治療に重点的に取り組むことを公式に宣言した。東南アジア諸国連合(ASEAN)はその影響力を発揮して、同地域の財源をインフラの開発という分野でエイズ対策に集中させることに成功し、現在、東南アジアのエイズ抑制対策を指導・強化するための新しい作業計画を作成している。アジア最大の金融機関であるアジア開発銀行は、UNAIDSとの覚書を調印し、政治的指導者とさまざまなセクターをエイズ対策に参画させ、国の能力を強化し、地域全体でさらに必要な資金を生み出すことを目指している。

2004年にバンコクで開かれた第15回国際エイズ会議では、タイ王国政府がエイズ対策に関する政府間協力を話し合う首脳会議を主催し、アジア太平洋地域38ヶ国の閣僚による強い合同コミットメントが生み出された。フィジーの大酋長会議では、太平洋島嶼諸国 16 ヶ国の指導者が、エイズに対する地域協力とコミットメントを強化するために、合同アドボカシー戦略を創り出した。

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31

アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

財源

アジアは、エイズに関連する財源が世界的に増加したことによって恩恵をこうむってきたが、流行が加速しているにもかかわらず、エイズへの支出額の伸びは世界の他の国々よりも小さい。さらに、図表 15が示すように、2003年から2007年にアジア太平洋地域におけるエイズプログラムのために確保できるリソースは、およそ6億8100万ドルから16億ドル以上に増えることが予想される。

このような資金の大半は、二カ国間援助や、財団、国際機関などから来ることが期待されている。アジア開発銀行は2004年、アジア太平洋諸国のエイズとその他の保健プログラムの実施と継続のために、1億4000万ドルの助成金を貸し出すことを決めた。アメリカ政府のイニシアチブである、大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、ベトナムでの治療の拡大を支援しており、インドではビル・メリンダ・ゲイツ基金が6つの州での数年間にわたるHIV予防推進の支援に2億ドルを提供することを約束している。DFIDもインドネシアに4500万ドルを追加提供することを決めたばかりである。2002年以来、世界エイズ・結核・マラリア対策基金は、アジア太平洋諸国18ヶ国にその大部分はエイズ対策に当てられるおよそ6億ドルの提供を承認した。

アジア太平洋地域におけるリソースの入手可能性(2003-2007)

国内で確保できる(と予測される)リソース確保できる(と予測される)リソース

20030.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1.6

1.8

2004 2005 2006 2007

単位・10億US㌦

図表 15:

(出典:UNAIDS (2004). Financing the Expanded Response to AIDS.)

Year

図表 15

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UNAIDS

ベトナム:拡大するコミットメントの兆し

ベトナムはHIV感染の急増に直面している。しかし、エイズ対策に対する国のコミットメントが拡大しているという力強い兆しが見られる。これには、2005年を『HIV対策実施年』と宣言したこと、前年のエイズプログラムへの支出が75%増加したこと、国外からの援助金が2003年の700-800万ドルから2005年には5000万ドル(PEPFARも含む)になると予測されることなどが挙げられる。会員数1200万人のベトナム女性連合が、HIVに関連するスティグマや差別と闘うための国民運動を指揮し、女性と少女へのHIVの影響を認識する啓発活動を促進している。また、薬物使用やセックスワークへのいわゆる“社会悪”的なアプローチは、適切な公衆衛生の原則に基づいた予防プログラムに取って代わりつつある。

市民社会

エイズ対策への政治的・財政的支援の拡大にともない、あるいはそれに先んじるかたちで、市民社会のより積極的な関与が増えている。アジア太平洋地域全体で、HIV/AIDSとともに生きる人々が治療とケアへのアクセスを主張し、HIVに関わるスティグマをなくそうと活動を続けている。

カンボジアでは、市民団体とHIV感染者が、政府と国際的なドナーとともに、国のエイズ治療計画を作り上げた。元薬物使用者のNGOがインドで代替治療プログラムを始め、東南アジアではハーム・リダクション・サービスを行っている。セックスワーカーのアドボカシー・グループが作られ、そのプログラムはバングラデシュ、インド、カンボジア、タイへと拡大しており、MSMによるMSMのためのプログラムも、パキスタン、ネパール、フィリピン、タイで行われている。法律家グループがHIV感染者の差別に関する訴訟を引き受けている国もある。

民間セクターも重要な役割を担い始めている。インドネシアの主要メディアは、国のエイズ・メディア・イニシアチブを設立し、2004年、インドではエイズに関する話題がメディアに登場する頻度が増えた。中国とパキスタンでは企業のリーダーが集い、エイズに関する全国企業連盟を結成した。民間セクターの行うソーシャル・マーケティング・キャンペーンによって、コンドームの使用率が上がっている国もいくつかある。

インドネシアにおけるサーベイランスの強化

インドネシアは、政府が最もリスクの高い集団から生物学的・行動学的データを集め、州ごとにその人口規模を統計的に予測することによって、HIV/AIDSサーベイランスシステムから確保する戦略的な情報の質を向上させることに成功した。インドネシアは現在、HIVと行動に関するサーベイランスを、IDU、産前クリニックに通う女性、セックスワーカーの客、男性セックスワーカー、MSMなど特定の人口集団に対して行っている。全ての情報源からのデータを分析し、地域レベルでこれらの集団に対する重点的な予防対策の優先順位を明確化している。

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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

提言

世界の人口の半分が暮らすアジア太平洋諸国は、多くの点で世界におけるエイズの流行の未来を決定することになるだろう。HIV感染の拡大を防ぐ機会は急速に失われつつある。この機会を逃さないために、国、地域、そして世界の指導者たちに、以下のことを提言する。

1. アジア太平洋諸国の政府はコミットメントをアクションに移すべきである。

政治的指導者はエイズの脅威とその感染の拡大を招く行動について、公式の場で繰り返し語るべきである。とくにスティグマと差別、性差別などを克服する対策を先頭に立って進めるべきである。

エイズに対する政治的な優先度が高くなっているのは明らかである。アジア太平洋諸国は今こそ、HIVの流行に対して『緊急事態レベルの対応』をとるべきである。これによって資金のスムーズな流れと、国レベルでの先見性とリーダーシップが確保され、国際的な支援を動員するのに役立つ。

各国は、HIV/AIDSプログラム への財政支出を増やすことによって、コミットメントを後押しすべきである。

各国は、HIVとともに生きる人々に対するスティグマと差別と戦うための法律の制定と、法律、規制の実施を進めるべきである。

国のエイズ計画は、国の対策への貢献のため、それぞれの比較優位に応じ、全ての省庁やセクターに役割を与えるべきである。すべての主要省庁は、期限や指標を明確にした実施計画を作るとともに、エイズに関する独自予算を組むべきである。

各国は『Three Ones Principles』を採用し、国として、ひとつのエイズ対策の枠組み、ひとつの調整機関、ひとつのモニタリング・評価システムに基づいて、HIV/AIDS対策を行わなければならない。

2. 各国のエイズ計画は国の対策に包括的なアプローチを取り入れるべきである。これには各国の状況に合わせてHIV予防、ケアと治療のバランス、影響緩和のための方策をとることも含まれる。

すべての予防サービスに対して、期限を明確にしたカバレージ(到達範囲)の目標をもうけるべきである。おもなサービスには、禁欲、セックスパートナーの数を減らすこと、貞節、コンドームの使用促進、性感染症の治療、無料の検査とカウンセリング、IDUへのハームリダクション、母子感染の予防、血液の安全、保健医療の場での適切な感染管理などがあるが、それらのみに限定されるものではない。

ヴァルネラブルな人口集団または陽性率が高い地域に的を絞った対策を行うべきである。移動人口、セックスワーカーとその客、IDU、MSMなど最もリスクの高い人口集団をカバーしなければならない。各国は若者の予防へのニーズに特に注意を払うべきである。

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UNAIDS

『治療ギャップ』(治療へのアクセスが欠如していること)を埋めることを最優先事項とする。これには、明確なカバレージの数値目標を設定しなければならない。ARV価格が低下し、エイズ治療に関する専門情報普及のための国際的な仕組みが開発されたことにより、ARVを導入することはアジア太平洋地域の全ての国々で実現可能になっている。

各国はモニタリング評価システムを強化し、流行の経過を観察するとともに、介入の選択、優先順位の決定、目標設定の指針とすべきである。

3. 各国は国の対策への市民団体の関与をさらに支援していくべきである。

国のエイズ委員会には、民間セクター、国内および国際的なNGO、コミュニティを基盤とした組織、ケア提供者、宗教団体、HIVとともに生きる人々などが関わらなければならない。とくに、HIVとともに生きる人々の完全な参加は最も重要である。

各国は、資金調達や市民社会の組織の能力構築と連携促進のための、実行可能で有効なしくみを明確にして、実施すべきである。これには、法律上の認知、税制上の優遇措置、契約規定の簡素化、有効で信頼できるコミュニティに根付いた機関の設立のための財政支援などが含まれる。

4. アジア太平洋地域のエイズ対策を国際社会においても優先事項にすべきである。

アジア太平洋地域の広域組織は、期限を決めたアクションプランを策定し、政府間の協力、地域としての対応を強化する戦略的計画の開発と実施、財源と技術的リソースの動員などを促すべきである。

世界の指導者たちは、2006年に“HIV/AIDSに関するコミットメント宣言”の進捗状況評価のために開かれるハイレベル会合などの国際会議で、アジア太平洋地域のエイズ対策の強化を主要議題にすべきである。

国際的なドナーは財政支援を大幅に増やし、アジア太平洋地域の各国が規模を拡大したHIV予防、治療とケア、影響の緩和対策を同時に実施できるように支援しなければならない。

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アジア太平洋地域における エイズ対策の拡大に向けて

引用文献

『2004年アジア地域におけるエイズの流行に関する総合分析』バンコク、MAP、2004

アジア開発銀行(2005)ホームページからの引用。URL: www.adb.org

Brown AD, Jejeebhoy J, Shah I, and Yount KM.『発展途上国の若者の性的関係:WHOのケーススタディからのエビデンス』ジュネーヴ、WHO RHR、2001

Brown T: 私信、2005

インドネシア13州における行動サーベイランス調査(2002-2003);ネパールラウンド No.3 (2001);ラオス(2000-2001); カンボジアの行動調査(2001);『アジアにおけるHIVの原動力』ジャカルタ、Family Health International、2001

インドネシアにおける行動サーベイランス調査、ジャカルタ、Family Health International、2001

『エイズ・結核・マラリア対策基金の助成金:経過の概要(2005)』URL: www.theglobalfund.org から入手可能

『HIV予防を世界に:アクションのための青写真』ニューヨーク、Global HIV Prevention Working Group、2002

Guiness L, Foss A, et al. 『ケアの効果と費用効率のモデリング―SHAKTI:バングラデシュにおけるIDUとセックスワーカーのためのHIV予防プログラム』ロンドン、ダッカ大学保健経済研究所・衛生学・熱帯医学学科、ICDDR、CARE Bangladesh、2002

『タイにおけるHIV血液動向調査:2004年6月の22ラウンドの結果』バンコク、タイ公衆衛生省疾病管理局疫学部、2004

HIV血液動向調査、2004年12月のプノンペン・サンウェイホテルでのプレゼンテーション、国立HIV/AIDSセンター、皮膚病学および性感染症(NCHADS)、2004

Manjunath J, Thappa D, and Jaisankar T. 『長距離トラック運転手の性感染症とせいに関するライフスタイル:南アジアにおける臨床疫学調査』International Journal of STD & AIDS、2002、13:612-617

HIV/AIDS・皮膚病学・STDセンター(NCHADS)(2004)、URL: www.nchads.org

Stover J, et al 『規模を拡大した対応によってHIVの感染爆発は止められるか』Lancet, 2002, 350: 73-77. (注:著者によって発行後に2005年の数字が追加された)

『エイズ最新情報』ジュネーヴ、UNAIDS、2004

『今すぐ行動を:アジア太平洋地域の指導者たちのHIV/AIDSへの対応』UNAIDSとアジア太平洋地域のリーダーシップ・フォーラム、2004

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UNAIDS

『疫学最新データ2004』ジュネーヴ、UNAIDS/WHO/UNICEF、2004

『規模を拡大したエイズ対策の資金調達』ジュネーヴ、UNAIDSとGlobal Resource Tracking Consortium、2004

『AIDSに関する国の支出調査』ジュネーヴ、UNAIDS、2004

『アジア太平洋地域の機会:HIV/AIDS危機を防ぐための投資』バンコクおよびマニラ、UNAIDSとADB、2004

『タイのHIV/AIDS対策:進歩と課題2004』バンコク、UNDP、2004

『低・中所得国におけるHIV予防、ケアと治療サービスのカバレージ(2003)』ジュネーヴ、WHO、2004

注記

図表 12に関して:ここで使われている必要となるリソースの予測額は、2003 年9月にニューデリーで開かれた、UNAIDSと Futures group、アジア開発銀行が主催した研修会で、19ヶ国の代表が同意したものである。また、確保できるリソースの額は『規模を拡大したエイズ対策のための資金調達』(UNAIDS、2004)から引用した。さまざまな機関が参加しているタスクチームは現在、必要となるリソースを地域レベルも含めて世界レベルで推計しなおす作業を行っている。報告書は2005年末に出来上がる予定である。

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本書は環境に優しい素材で作られています。

国連合同エイズ計画 (UNAIDS) には、以下の10の国連機関が参加しています:国連難民高等弁務官事務所 (UNHCR)、国連児童基金 (UNICEF)、世界食糧計画( WFP)、国連開発計画(UNDP)、国連人口基金 (UNFPA)、国連薬物犯罪事務所 (UNODC)、国際労働機関 (ILO)、国連教育科学文化機関 (UNESCO) 、世界保健機関 (WHO)、世界銀行。

UNAIDS は、共同スポンサーのプログラムとして、10 の共同スポンサー機関とその関係機関の HIV/AIDS 対策を調整する役割を果しています。UNAIDS の目的は、あらゆる分野における国際社会の HIV/AIDS 対策の拡大を指揮し、支援することです。UNAIDS は、政府あるいは非政府の組織、企業、医学界、一般の人々などさまざまな分野のパートナーと、知識やスキル、ベスト・プラクティスを分かち合うために協働しています。

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Joint United Nations Programme on HIV/AIDS (UNAIDS)

Regional Support Team for Asia and the Pacific – Ninth Floor, A Block, UN Building – Rajadamnern Nok Avenue, Bangkok 10200, Thailand Telephone: (+66 2) 288-2497/8 – Fax: (+66 2) 288-1092 – E-mail: [email protected]

UNAIDS Headquarters – 20 avenue Appia – 1211 Geneva 27 – Switzerland Telephone: (+41) 22 791 36 66 – Fax: (+41) 22 791 41 87 E-mail: [email protected]

Internet: http://www.unaids.org

アジア太平洋地域は今、岐路に立っている。国の平均HIV陽性率は比較的低いままだが、人的・経済的な代価は高い。2004年だけでも、エイズによって50万人以上の命が奪われ、何十億ドルもの生産性の損失がもたらされている。

この地域の99%以上がまだHIVに感染していないことを考えると、流行の大規模な拡大を防ぐことはまだ可能である。しかし、そのためには迅速で並外れた規模のアクションを起こさなければならない。とくに予防の規模を大幅に拡大しなければ、2005年から2010年までに、少なくとも1200万人が新たにHIVに感染するだろう。

本書では、エイズがアジア太平洋諸国に投げかける課題をまとめている。手に入るもっとも良いエビデンスを用いて、なぜ重要なサービスが一握りの人々にしか届かないのかを考察していく。また、今というチャンスを逃さないように、アジア太平洋地域がとるべきアクションを示す。

最後に、世界、地域そして国の政治的指導者や国際的なドナー、国連システム、市民社会、そしてこの地域の関係者全てが、有効な戦略を緊急に実施するための提言を行う。

アジア太平洋地域における

エイズ対策の拡大に向けて